(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5986856
(24)【登録日】2016年8月12日
(45)【発行日】2016年9月6日
(54)【発明の名称】商用貨物船
(51)【国際特許分類】
B63B 1/06 20060101AFI20160823BHJP
B63B 1/40 20060101ALI20160823BHJP
【FI】
B63B1/06 Z
B63B1/40 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-199701(P2012-199701)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-54878(P2014-54878A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年2月6日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592245638
【氏名又は名称】四国ドック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 虎卓
(72)【発明者】
【氏名】秋林 秀聡
(72)【発明者】
【氏名】藤田 智
(72)【発明者】
【氏名】木村 校優
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛大
(72)【発明者】
【氏名】藤井 昭彦
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−291883(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/087717(WO,A2)
【文献】
特開昭57−066087(JP,A)
【文献】
特開平03−224889(JP,A)
【文献】
特開2012−017089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/06
B63B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の船長方向に関して、船首端と船首垂線から船体の垂線間長の3%後方の第1位置の間を含む第1領域において、船首方向に垂直な横断面の船首フレアの上方の形状を、計画満載喫水線より上で下方から上方に向けて外側に拡げた下方部分と、該下方部分より上で側方から上方にかけて内側に曲げた上方部分とを有する形状に形成すると共に、
前記上方部分の上部に接続するフレア天板を上甲板より上の位置に設けたことを特徴とする商用貨物船。
【請求項2】
側面視の前記船首フレアの船首プロファイルの上方の形状を、計画満載喫水線で浮かんだときに、計画満載喫水線より上で下方から上方に向けて前方上方に傾斜する下部傾斜線部と、該下部傾斜線部より上方で上方にかけて後方に曲げた上部曲がり部とを有する形状に形成したことを特徴とする請求項1に記載の商用貨物船。
【請求項3】
前記船首フレアの側面視の船首プロファイルの形状を、前記下部傾斜線部と前記上部曲がり部との間に、計画満載喫水線で浮かんだときに垂直線に対して上方の後方向への傾斜がプラス・マイナス10度以内の角度となる上部傾斜線部を設けて形成したことを特徴とする請求項2に記載の商用貨物船。
【請求項4】
前記船首フレアの横断面の形状を、船体の船長方向に関して、船首垂線から船体の垂線間長の2%後方の第2位置と前記第1位置との間を含む第2領域において、
前記下方部分と前記上方部分との間に、計画満載喫水線で浮かんだときに垂直線に対して上方の外側方向への傾斜がプラス・マイナス5度以内の角度となる側面の部分を設けて形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の商用貨物船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波浪中の抵抗増加を抑制できる船首フレアを備えた商用貨物船に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に示すように、従来の商用貨物船1Xの船首においては、上甲板に設けた係留装置等の保護のために、計画満載喫水線W.L.より上方に、波を下方に返したり横に逃がしたりするような形状の船首フレア3Xを設け、さらに、上甲板2にブルワーク8を設けて船首部の高さを高くして、船首方向から入射して来る波が上甲板2に打ち込まないようにしている。なお、
図9では、計画満載喫水線W.L.以下の船体形状を省略している。
【0003】
しかし、この商用貨物船が航行中に波を受けると、この波の一部を船首方向に反射したり、この波によって生じる船体運動により新たな波を発生したりするので、推進抵抗が波浪中においては平水中を航行する場合よりも増加し、波浪中抵抗増加が生じる。この波浪中抵抗増加により船速が低下したり、所定の航海速力を維持するための機関出力が増加したりするので、この波浪中抵抗増加を少なくすることが、商用貨物船の運航における省エネルギー対策の面で重要な課題となってきている。
【0004】
一方、従来の商用貨物船は、高速貨物船、中速貨物船、低速肥大貨物船等に分類できる。この高速貨物船は、コンテナ船や冷凍コンテナ船等の垂線間長Lppが100m〜250m程度で、方形係数Cbが0.50〜0.70程度の比較的痩せた船型で、フルード数Fnが0.20〜0.35程度の高速で航走する船舶であり、中速貨物船は、バルクキャリヤ等の垂線間長Lppが150m〜300m程度で、方形係数Cbが0.75〜0.90程度の中程度の船型で、フルード数Fnが0.14〜0.20程度の中速で運航する航走する船舶である。また、低速肥大貨物船は、タンカー等の垂線間長Lppが150m〜400m程度で、方形係数Cbが0.80〜0.90程度の比較的太った船型で、フルード数Fnが0.12〜0.18程度の低速で運航する船舶である。
【0005】
この内の中速貨物船に関連して、本発明者らは、波浪中抵抗増加の抑制や低減のために、鉛直線よりも船体中心側にくびれた凹部を形成した船舶(例えば、特許文献1参照)や、船首フレアの傾斜角を垂直方向に対して設定した船舶(例えば、特許文献2参照)や、船首フレアの立ち上がりでは傾斜角を略垂直にし、それより上方ではフレアの形状を徐々に広げた形状で形成した船舶(例えば、特許文献3参照)を提案してきている。
【0006】
また、本発明者らは関与していないが、波浪抵抗及び風圧抵抗の影響を同時に低減させることを目的に、船首部の船体長さ方向断面の外形を構成する船首プロファイルは、喫水線より下方の領域で最先端部を有する下部船首プロファイルと、喫水線より上方の全領域に渡って船尾方向に後傾する上部船首プロファイルとを有し、船首部の船体幅方向断面の外形を構成する船体横切面形状は、喫水線より上方の全領域に渡って内側に傾斜した負のフレア角を有する船首形状及び船舶が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
しかしながら、この船舶においては、水面上の形状が下方より後退及び幅が狭くなっており、停泊用の錨を船首部の水面上から降ろすことが困難となるという問題がある。また、この船首形状は水面上の船体形状と水面下の船体形状とが密接な関係を有しているため、この船舶の船首形状を採用しようとすると、船首フレアの形状の変更だけでは収まらず、水面下を含めた船体形状全体の大幅な形状変更が必要となるという問題がある。
【0008】
そして、高速貨物船の場合は、比較的痩せた船型のため、波高の小さい波では、波浪中抵抗増加は少ないが、波高が大きな波で、特に、船長と波長とが略同じ場合には、波浪による船体運動が大きくなり、船首フレアの部分が波に突っ込む場合が生じ、この場合に、従来技術の上方向に向かって拡大する船首フレアにおいては、船首フレアに衝突してくる波を下側に返してしまうために、波浪中抵抗増加が大きくなり、また、船首フレアも損傷し易くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4744329号公報
【特許文献2】特許第4722072号公報
【特許文献3】特許第4721836号公報
【特許文献4】特開2012−17089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、従来技術においては、上甲板上の係留装置等の保護のために、上甲板への波の打ち込みをできるだけ回避するために入射してくる波を下方に返すという技術的思想があったが、本発明者らは、数多くの水槽実験等により、船首フレアにおける波の衝撃の減少と波浪中抵抗増加の低減を図るためには、波を船首部の上部へ導いて波の力を逸らすことが有効であるとの知見に想到した。
【0011】
本発明は、上述の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、船首フレアに衝突する波を船首フレアの形状に沿って上方に導くことができて、船首フレアへの波の衝撃と波浪中抵抗増加を減少できる船首フレア形状を備えた商用貨物船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の商用貨物船は、船体の船長方向に関して、船首端と船首垂線から船体の垂線間長の3%後方の第1位置の間を含む第1領域において、船首方向に垂直な横断面の
船首フレアの上方の形状を、計画満載喫水線より上で下方から上方に向けて外側に拡げた下方部分と、該下方部分より上で側方から上方にかけて内側に曲げた上方部分とを有する形状に形成すると共に、前記上方部分の上部に接続するフレア天板を上甲板より上の位置に設けて構成する。
なお、本発明の参考となる商用貨物船は、船体の船長方向に関して、船首端と船首垂線から船体の垂線間長の3%後方の第1位置の間を含む第1領域において、船首方向に垂直な横断面の前記船首フレアの上方の形状を、計画満載喫水線より上で下方から上方に向けて外側に拡げた下方部分と、該下方部分より上で側方から上方にかけて内側に曲げた上方部分とを有する形状に形成すると共に、前記下方部分と前記上方部分との間で前記第1領域の後方側に側面の部分を部分的に設けて構成する。
【0013】
従来技術の船首フレアが、上方が拡がって上甲板に接続する形状であって、船首フレアの下側に衝突した波が上方に拡がる船首フレアの形状に沿って下方又は側方に砕け散るのに対して、この構成によれば、航行時に波浪が小さく、上甲板への波の打ち込みの可能性が殆どなく、波浪中抵抗増加が少ない海象条件下では、船首フレアの下方部分で波を切り分けて航行することができる。また、波浪が大きい海象条件下では、船首フレアの上方部分に届く波を船首フレアの形状に沿って上方に円滑に導くことができるので、船首フレアへの波の衝撃を少なくすることができ、波浪中抵抗増加も減少することができる。なお、これらの効果は、波浪中の水槽実験により確認されている。
そして、上方部分の上部に接続するフレア天板を上甲板より上の位置に設けると、船首フレアの上部部分から上昇して来る波をフレア天板上に誘導してフレア天板上の後側で側方に落とすことができ、上甲板への波の打ち込みを避けることができる。
また、下方部分と上方部分との間に側面の部分を部分的に設けて構成すると、この側面の部分33により、船首フレア3の内部の容積を大きく確保することができるようになり、また、入射する波を上方に円滑に導いて、この側面の部分に沿って上昇して来る大きな波をその上の上方部分により船体の左右方向に散らすことなく、上方に円滑に導くことができる。
【0014】
上記の商用貨物船において、側面視の前記船首フレアの船首プロファイルの上方の形状を、計画満載喫水線で浮かんだときに、計画満載喫水線より上で下方から上方に向けて前方上方に傾斜する下部傾斜線部と、該下部傾斜線部より上方で上方にかけて後方に曲げた上部曲がり部とを有する形状に形成すると、船首フレアの前方から入射してくる波をこの上部曲がり部分で船首フレアの前方から上方に円滑に導くことができるので、船首フレアに対する波の衝撃が少なくなり、波浪中抵抗増加も減少する。
【0015】
また、前方から吹いてくる風に対する抵抗に関しても、上部曲がり部を設けたことにより、空気の流れが船首フレアの前方から上方に円滑に流れるので、船首フレアの前部の上方における渦流の発生を抑制でき、風圧抵抗を減少することができる。
【0016】
上記の商用貨物船において、前記船首フレアの横断面の形状を、船体の船長方向に関して、船首垂線から船体の垂線間長の2%後方の第2位置と前記第1位置との間を含む第2領域において、前記下方部分と前記上方部分との間に、計画満載喫水線で浮かんだときに垂直線に対して上方の外側方向への傾斜がプラス・マイナス5度、好ましくは3度以内の角度となる側面の部分を設けて形成すると、次のような効果が得られる。
【0017】
つまり、この側面の部分により、船首フレア内部の容積を大きく確保することができるようになり、この側面の部分により、入射する波を上方に円滑に導き易くなり、この側面の部分に沿って上昇して来る波をその上の上方部分により船体の左右方向に散らすことなく、上方に円滑に導くことができるので、船首フレアに対する波の衝撃を少なくでき、波浪中抵抗増加を減少できる。また、この側面の部分では、船体運動で船首部が波中に突っ込んだときでも、水線面積の変化が殆どないので、船首フレアに対する波の衝撃をより少なくできる。
【0018】
上記の商用貨物船において、前記船首フレアの側面視の船首プロファイルの形状を、前記下部傾斜線部と前記上部曲がり部との間に、計画満載喫水線で浮かんだときに垂直線に対して上方の後方向への傾斜がプラス・マイナス10度、好ましくは5度以内の角度となる上部傾斜線部を設けて形成すると、次のような効果が得られる。
【0019】
この構成により、下部傾斜線部の周辺で小さい波を左右に切り分けることができて、平水中での抵抗増加を防止できる。また、上部傾斜線部により、前方から入射して来る比較的小さな波は下方に導くことができ、比較的大きな波は上方に導くことができる。その上、船体運動で船首フレアが波中に突っ込んだときでも、水線面積の変化が少ないので、船首フレアへの衝撃を少なくすることができる。
【0021】
上記の商用貨物船において、前記フレア天板に打ち上げられた波を側方に排除するための波除部材を前記フレア天板に設けて構成すると、フレア天板に打ち上げられた波が貨物部分に到達する前に、この波をフレア天板上から船体の側方に排除できるので、貨物等がフレア天板に打ち上げられた波によって損傷することを防止できる。
【0022】
この上記の商用貨物船においては、特に、コンテナ船や冷凍コンテナ船等の方形係数Cbが0.50〜0.70程度の比較的痩せた船型で、フルード数Fnが0.20〜0.35程度の高速で運航する航走する高速貨物船において、その効果をより発揮できる。なお、これらのコンテナ船や冷凍コンテナ船等は、通常、垂線間長Lppが100m〜250m程度に形成される。
【発明の効果】
【0023】
本発明の商用貨物船によれば、波浪中で航行しているときに、船首フレアの下側に衝突する波を船首フレアの形状に沿って上方に円滑に導くことができるので、船首フレアへの波の衝撃と波浪中抵抗増加を減少することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る実施の形態の商用貨物船における船首フレアの形状を示す船首部の斜視図である。
【
図2】
図1の船首フレアの横断面の形状を示す正面図である。
【
図3】船首フレアの側面の部分の傾斜を示す正面図である。
【
図4】
図1の船首フレアの側面視の形状を示す側面図である。
【
図5】
図2に示す船首フレアの下方部分の下側部の水平断面形状を説明するための平面図である。
【
図6】
図2に示す船首フレアの下方部分の上側部の水平断面形状を説明するための平面図である。
【
図7】
図2に示す船首フレアの側面の部分の水平断面形状を説明するための平面図である。
【
図8】船首フレアの波除部材を示す船首フレアの斜視図である。
【
図9】従来技術の船舶の船首フレアの形状を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明に係る実施の形態の商用貨物船について説明する。
図1〜
図7に示すように、本発明に係る実施の形態の商用貨物船1は、船体の船長方向に関して、船首端Pfと船首垂線F.P.から船体の垂線間長Lppの3%(好ましくは4%、より好ましくは5%、以下同様)後方の第1位置Ps1の間R1を含む第1領域Ra(=Pf〜Pa)において、船首方向に垂直な横断面の船首フレア3の上方の形状を、計画満載喫水線W.L.より上で下方から上方に向けて外側に拡げた下方部分31、32と、該下方部分31、32より上で側方から上方にかけて内側に曲げた上方部分34とを有する形状に形成して構成する。更に、上方部分34と、部分的に設けた側面の部分33の上部に接続するフレア天板30を上甲板2より上の位置に設けて、船首フレア3の上を覆うように構成する。
【0026】
なお、この実施の形態の商用貨物船1では、
図1および
図4に示すように、下方部分31の下端の最先端を、船首プロファイルが船首垂線F.P.から前方かつ上方に離れ始める点とし、また、下方部分31の下端を計画満載喫水線W.L.と平行にしている。
【0027】
なお、
図1では、計画満載喫水線W.L.より下に、船首バルブ4が設けられているが、本発明においては、計画満載喫水線W.L.より下の船体形状に関しては特に限定はなく、船首バルブ4を有していても、有していなくてもよい。
【0028】
図2に船体の船首側の横断面を示す。この
図2では、船体の上側に上甲板2が設けられ、下側には船底5とその両側のビルジ部6と側方の船側外板7とから船体が構成されている。
【0029】
そして、
図2に示すように、船首方向に垂直な横断面(Y−Z面)の船首フレア3の上方の形状を、計画満載喫水線W.L.で浮かんだときに、計画満載喫水線W.L.より上において、下方から上方に向けて外側に拡げた下方部分31、32と、必要に応じて部分的に設けられる側面の部分33と、側方から上方にかけて内側に曲げてフレア天板30と接続させる上方部分34とを有する形状に形成する。なお、船首フレア3の横断面形状は、下方部分31、32の下側部31においては、外側に凹形状に、下方部分31、32の上側部32においては、直線状又は外側に凸形状に形成される。直線状に形成すると曲面で形成する場合に比べて工作性が向上する。
【0030】
この下方部分31,32により、比較的小波高での航行時において、波切りを良くして抵抗増加を防止し、また、その上の側面の部分33により、船首フレア3の内部の容積を大きく確保することができるようになり、また、入射する波を上方に円滑に導いて、この側面の部分に沿って上昇して来る大きな波をその上の上方部分により船体の左右方向に散らすことなく、上方に円滑に導くことができる。
【0031】
この側面の部分33は、船体の船長方向に関して、船首垂線から船体の垂線間長の2%、好ましくは1%、より好ましくは0.5%後方の第2位置Ps2と第1位置Ps1との間R2を含む第2領域Rb(=Pc〜Pb)において、下方部分31,32と上方部分34との間に設けられる。なお、
図1及び
図2では、第1領域Raの後端の点Paと第2領域Rbの後端の点Pbを一致させているが、別の点としてもよい。また、
図2では、図示している第1領域Raと第2領域Rbの範囲はフレア天井30に関して示している。
【0032】
また、この側面の部分33は、
図3に示すように、計画満載喫水線W.L.で浮かんだときに垂直線Lv1に対して上方の外側方向への傾斜がプラス・マイナス5度(degree)、好ましくは3度以内の角度αになるように形成することが好ましく、これにより、船首フレア3の内部の容積を容易により大きく確保することができるようになる。また、この略鉛直な側面の部分33では、船体運動で船首フレア3が波中に突っ込んだときでも、水線面積の変化が殆どないので、船首フレア3に対する波の衝撃をより少なくできる。
【0033】
更に、その上の上方部分34により、この側面の部分33に沿って上昇して来る波を船体の左右方向に散らすことなく、フレア天板30上に導くことができるので、船首フレア3に対する波の衝撃を少なくでき、波浪中抵抗増加を減少できる。このフレア天板30と上方部分34とは、横断面で見たときに、船首フレア3の前方部分では滑らかなカーブで角部がないように接続されるのが好ましいが、船首フレア3の後方部分では船首フレア3の内部の有効利用を考えてある程度角部が生じるように接続してもよい。
【0034】
また、
図3に示すように、上方部分34の曲り部分の形状は、船首フレア3の前方から後方に向かって漸次その曲り(半径等)が大きくなるように、即ち、曲がり具合が緩やかになるように形成するのが好ましく、これにより、船首フレア3の前方で受けた波はフレア天板30上に、船首フレア3の少し後方の側面で受ける波は船首フレア3の側面に沿わせて側方に逸らせるようにして、フレア天板30の後方に到達する波を少なくすることができる。
【0035】
この上方部分34の曲り部分は円形でも楕円形でもよく、必ずしも円形に限定するものではないが、この曲り部分を円形で形成する場合にはその半径R34は、その部分(前後方向位置が同じ)の横断面における最大幅Ba(
図1、
図2)の10%以上で且つ50%以下とすることが好ましい。つまり、R34max=0.5×Ba、R34min=0.10×Baとする。これにより、容易に、船首フレア3の内部容積の確保と波の逃がしの効果とをバランスよく達成することができる。なお、上方部分34の曲り部分が円形でない場合も、上記の半径R34maxの最大円と半径R34minの最小円との間に上方部分34の曲り部分が収まるようにすることが好ましい。
【0036】
そして、この船首フレア3の形状については、
図4に示すように、側面視(Y方向)の船首フレア3の船首プロファイルの上方の形状を、計画満載喫水線W.L.で浮かんだときに、計画満載喫水線W.L.より上で下方から上方に向けて前方上方に傾斜する下部傾斜線部35と、この下部傾斜線部35より上方で上方にかけて後方に曲げた上部曲がり部37とを有する形状に形成する。この上部曲がり部37は、その上側でフレア天板30と接続する。これにより、船首フレア3の前方から入射してくる波をこの上部曲がり部37により上方のフレア天板30に円滑に導くことができるので、船首フレア3への波の衝撃が少なくなり、波浪中抵抗増加も減少する。
【0037】
また、
図4に示すように、船首フレア3の側面視の船首プロファイルの形状を、下部傾斜線部35と上部曲がり部37との間に、計画満載喫水線W.L.で浮かんだときに垂直線Lv2に対して上方の後方向への傾斜がプラス・マイナス10度、好ましくは5度以内の角度βである上部傾斜線部36を設けて形成する。これにより、前方から入射して来る比較的小さな波は
下部傾斜線部35により下方に導き、比較的大きな波は
上部傾斜線部36により上方に導くことができ、大きな船体運動で船首フレア3が波中に突っ込んだときでも、水線面積の変化が少ないので、船首フレア3への衝撃を少なくすることができる。
【0038】
また、
図4に示すように、計画満載喫水線W.L.で浮かんだときに、下部傾斜線部35の水平線(Lh1)に対する角度γを、前方が上方になる角度をプラスとして、プラス10度以上かつ30度以下、好ましくは10度以上25度以下にする。この10度以上にすることにより、下部傾斜線部35の周辺で波高が小さい波を効率よく左右に切り分けることができて、小波高中での抵抗増加を防止できる。また、この30度以下にすることにより、船首フレア3の内部容積に関して実用に適した容積を確保することができる。
【0039】
そして、上部曲がり部37の曲り部分は円形でも楕円形でもよく、必ずしも円形に限定するものではないが、この曲り部分を円形で形成する場合にはその半径R37は、計画満載喫水線W.L.とフレア天板30の最高位置との高さHaの10%以上かつ40%以下、好ましくは15%以上30%以下とすることが好ましい。つまりR37max=0.40×Ha、R37min=0.10×Haとする。これにより、容易に船首フレア3の内部容積の確保と波のフレア天板30への逃がしの効果とをバランスよく達成することができる。なお、上部曲がり部37が円形でない場合も、上記の半径R37maxの最大円と半径R37minの最小円との間に上部曲がり部37が収まるようにすることが好ましい。
【0040】
また、下部傾斜線部35と上部傾斜線部36とが交差する部分に円弧等の曲線で丸みを付けた下部曲がり部38を設けて滑らかに連続するように接続させることが好ましい。この下部曲がり部38の半径R38は、計画満載喫水線W.L.とフレア天板30の最高位置との高さHaの10%以上かつ40%以下、好ましくは10%以上30%以下とする。つまりR38max=0.40×Ha、R38min=0.10×Haとする。これにより、波切りを良くする。なお、下部曲がり部38が円形でない場合も、上記の半径R38maxの最大円と半径R38minの最小円との間に下部曲がり部38が収まるようにすることが好ましい。
【0041】
なお、
図2及び
図4に示す船体構造では、
図2の下方部分31、32の下側部31が
図4の第1傾斜線部35を含み、
図2の下方部分31、32の上側部32が
図4の上部傾斜線部36の下側を含み、
図2の上方部分34が
図4の上部曲がり部37を含むように形成されているが、必ずしも完全一致させる必要はない。
【0042】
そして、この船首フレア3の形状について、平面視の形状、即ち、水平断面形状では、以下のように構成する。
【0043】
図5に示すように、船首フレア3の横断面(
図2)で凹形状に形成される下方部分31,32の下側部31の水平断面形状(h2〜h4:
図5では、h3で例示)が、船体の船長方向(X方向)に関して、平面視で、船首垂線F.P.から船体の垂線間長Lppの3%後方の第1位置Ps1における船体の外側位置Qa31と下方部分31,32の下側部31の最先端位置Pf31とを結ぶ直線Lc31と船長方向(X方向)とがなす角度δf31を、5度以上かつ30度以内、より好ましくは10度以上かつ25度以内とする。
【0044】
これにより、船首フレア3の下側部31の形状を痩せた形状にすることにより、前方から船首フレア3に入射した波、特に比較的波高の小さい波をこの下側部31に沿わせて左右に流すことができ、波高が小さいときの抵抗増加量を小さくすることができる。
【0045】
また、
図6に示すように、船首フレア3の横断面(
図2)で直線状又は凸形状に形成される下方部分31,32の上側部32の水平断面形状(h5〜h7:
図5では、h6で例示)が、船体の船長方向(X方向)に関して、平面視で、船首垂線F.P.から船体の垂線間長Lppの3%後方の第1位置Ps1における船体の外側位置Qa32と下方部分31,32の上側部32の最先端位置Pf32とを結ぶ直線Lc32と船長方向(X方向)とがなす角度δf32を、10度以上かつ40度以内、より好ましくは15度以上かつ35度以内とする。
【0046】
これにより、船首フレア3の上側部32の形状を比較的痩せた形状にすることにより、前方から船首フレア3に入射し、上側に上ってくる波、特に比較的波高の高い波をこの上側部32に沿わせて後方上側に流して、フレア天板30に導くことができ、比較的波高が高いときに船首フレア3への衝撃と波浪中抵抗増加量を小さくすることができる。
【0047】
また、
図7に示すように、側面の部分(h8、h9の後方部分)33を含む水平断面形状(
図7では、h8で例示)も、下方部分31,32と同様に、船体の船長方向(X方向)に関して、平面視で、船首垂線F.P.から船体の垂線間長Lppの3%後方の第1位置Ps1における船体の外側位置Qa33と側面の部分33の最先端位置Pf33とを結ぶ直線Lc33と船長方向(X方向)とがなす角度δf33を、20度以上かつ40度以内、より好ましくは25度以上かつ35度以内とする。
【0048】
これにより、船首フレア3の側面の部分33の形状を適度な形状にすることにより、前方から船首フレア3に入射した波、特に比較的波高が高い波をこの側面の部分33に沿わせて上方に流すことができ、波高が高いときの波浪中抵抗増加量を小さくすることができる。
【0049】
更に、
図8に示すように、フレア天板30上に打ち上げられた波を側方に排除するために波除部材30aをフレア天板30上に設けて構成する。これにより、フレア天板30に打ち上げられた波が貨物部分に到達する前に、側方に排除できるので、貨物がフレア天板30に打ち上げられた波によって損傷するのを防止することができる。
【0050】
この波除部材30aの形状は、フレア天板30の上を前方から流れてくる水を側方に流して船体側面に排出して、フレア天板30の後方に水が流入するのを防止できればよく、平面視で前方に凸の円弧や楕円弧やU字形状等の曲率を持った形状や、前方が尖ったV字形状や、横断的な一文字形状等の直線形状や、これらの組み合わせ等で形成する。また、フレア天板30に対して上側を前方傾斜に形成して、水がこの波除部材30aを乗り越え難くすることが好ましい。
【0051】
上記の構成の商用貨物船1によれば、入射して来て船首フレア3の下側に衝突する波を船首フレア3の形状に沿って上方のフレア天板30に導くことができるので、船首フレア3への波の衝撃を少なくすることができ、波浪中抵抗増加も減少することができる。
【0052】
特に、コンテナ船や冷凍コンテナ船等の垂線間長Lppが100m〜250m程度で、方形係数Cbが0.50〜0.70程度の比較的痩せた船型で、フルード数Fnが0.20〜0.35程度の高速で航走する高速船において、波長λが船長Lと略同じような(λ/L≒1)波に対して、波浪中抵抗増加量(係数Raw)が約5%程度減少し、その効果をより発揮できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の商用貨物船は、入射して来て船首フレアの下側に衝突する波を船首フレアの形状に沿って上方に導くことができるので、船首フレアへの波の衝撃を少なくすることができ、波浪中抵抗増加も減少することができるので、多くの商用貨物船として利用できる。
【符号の説明】
【0054】
1、1X 商用貨物船
2 上甲板
3 船首フレア
8 ブルワーク
30 フレア天板
31,32 下方部分
33 側面の部分
34 上方部分
35 下部傾斜線部
36 上部傾斜線部
37 上部曲がり部
38 下部曲がり部
Ba 横断面における最大幅
F.P. 船首垂線
Ha 計画満載喫水線とフレア天板の最高位置との間の高さ
Lpp 垂線間長
Lv1、Lv2 垂直線
Lh1 水平線
Pa 第1領域の後端
Pb 第2領域の後端
Pc 第2領域の前端
Pf 船首フレアの最先端
Ps1 第1位置
Ps2 第2位置
Ra 第1領域
Rb 第2領域
W.L. 計画満載喫水線
α、β、γ、δf31、δf32、δf33 角度