特許第5987769号(P5987769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5987769銅製錬ダストの処理方法、並びに銅製錬の操業方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987769
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】銅製錬ダストの処理方法、並びに銅製錬の操業方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 15/00 20060101AFI20160825BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C22B15/00
   C22B7/02 A
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-86634(P2013-86634)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210944(P2014-210944A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100106781
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 稔也
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【弁理士】
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】菊田 直子
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵介
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽介
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−246546(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00,7/02,15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有する鉱石を製錬炉に投入して銅を製錬する際に発生したダスト(銅製錬ダスト)を、乾式分級手段及び乾式比重分離手段を用いて低比重側回収物と高比重側回収物とに分離する銅製錬ダストの処理方法であって、
上記鉱石は、銅のほかに、貴金属を含有するとともに、鉛、ビスマスのうちの1つ以上の元素も含有し、
乾式分級手段を用いて粒径2mm以上の粒子を除去し、
上記乾式比重分離手段では5μm未満を対象として分級し、分離点を9.0g/cm以上15.0g/cm以下の範囲に設定して、低比重側回収物と高比重側回収物とに分離し、
分離して得られた上記高比重側回収物を上記製錬炉に投入することを特徴とする銅製錬ダストの処理方法。
【請求項2】
銅を含有する鉱石を製錬炉に投入して銅を製錬する銅製錬の操業方法において、
上記鉱石は、銅のほかに、貴金属を含有するとともに、鉛、ビスマスのうちの1つ以上の元素含有し、
銅製錬において発生したダスト(銅製錬ダスト)を、
乾式分級手段を用いて粒径2mm以上の粒子を除去した後、
乾式比重分離手段では5μm未満を対象として分級し、分離点を9.0g/cm以上15.0g/cm以下の範囲に設定して低比重側回収物と高比重側回収物とに分離し
分離して得られた該高比重側回収物を上記製錬炉に繰り返すことを特徴とする銅製錬の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬ダストの処理方法、並びに銅製錬の操業方法に関し、より詳しくは、銅製錬炉から排出されるダストから、銅製錬に不要な鉛、ビスマス等の不純物成分を分離する処理方法、並びにその方法を適用した銅製錬の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅の製錬では銅鉱石を炉に入れて高温で熔解する。このとき、炉からは硫黄酸化物等の廃ガスと共にダスト(煙灰)が発生する。銅製錬で発生するダストは、例えば鉛、ビスマス等の鉱石に含有される不純物成分を含んでおり、集塵機で回収される。また、ダストには、微細な銅も含有されていることから、そのまま廃棄することは経済的に好ましくなく、ダストを再び製錬工程に繰り返して銅を回収する処理が行われることが一般である。
【0003】
しかしながら、発生したダスト全量を銅製錬の系内で繰返し処理すると、鉛、ビスマス等の不純物成分が系内に濃縮蓄積して、最後は製品の純度に影響を及ぼす懸念がある。そこで、一部のダストについては、系外で銅と分離処理した上で、銅のみを系内に返送し、有価金属は別途処理回収することが望ましい。
【0004】
例えば特許文献1には、ダストを水又は希硫酸で浸出処理して銅や亜鉛等の可溶性塩類を浸出液として回収し、一方で不溶性硫酸塩を形成する鉛やビスマス等は浸出残渣として固定して鉛製錬の原料とする技術が開示されている。この方法を用いることにより、鉛やビスマスを系外に払い出し、銅製錬系内の不純物負荷を低減させることができる。
【0005】
また、上述の浸出残渣に残留する未溶解銅量を更に低減させるために、例えば特許文献2及び特許文献3に開示されているように、浸出残渣を湿式分級処理して、未溶解銅粒の粗粒側回収を狙う処理が行われることもある。
【0006】
ところが、銅鉱石中には上述した不純物成分のほかに、金や銀、さらには白金やパラジウム等の白金族元素といった貴金属も含有されることが多く、その結果、銅製錬で発生するダスト中に貴金属も含有される場合がある。上述した先行技術のうち、浸出処理単独では、その貴金属は全て残渣側に分配されるため、鉛やビスマス等と共にその全量が製錬系外へ払い出されてしまうという問題がある。浸出残渣を湿式分級処理する技術であっても、粗粒側で回収できる浸出残渣中の未溶解銅粒に含まれる分だけの貴金属しか製錬系内に戻らず、鉛やビスマスと共に製錬系外へ払い出されてしまう貴金属の割合が多いという問題がある。
【0007】
このように、銅製錬系統で発生するダストについて、不純物成分である例えば鉛やビスマス等を製錬系外へ払い出して不純物負荷を低減させつつ、一方で貴金属は銅製錬系内に繰り返すことを可能にする方法は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−285136号公報
【特許文献2】特開2006−124828号公報
【特許文献3】特開2012−71283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、銅製錬において発生したダストに含まれる例えば鉛、ビスマス等の不純物成分を、ダスト中に含まれる貴金属等の混入を抑制しながら効率よく分離することができる銅製錬ダストの処理方法、並びにその処理方法を適用した銅製錬の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた。そして、銅製錬ダスト中に存在する金、白金、パラジウム等の貴金属の大半がメタルの形態であるのに対して、例えば製錬系外へ払い出す必要のある鉛は硫酸塩、ビスマスは酸化物の形態であるという知見を得た。この知見に基づき、例えば乾式の比重分離の手法を適用して、銅製錬ダストを所定の分離点で比重分離することによって、大半の貴金属の混入を抑制ながら不純物成分である鉛やビスマスを効率的に分離できることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明に係る銅製錬ダストの処理方法は、銅を含有する鉱石を製錬炉に投入して銅を製錬する際に発生したダスト(銅製錬ダスト)を、乾式分級手段及び乾式比重分離手段を用いて低比重側回収物と高比重側回収物とに分離する銅製錬ダストの処理方法であって、上記鉱石は、銅のほかに、貴金属を含有するとともに、鉛、ビスマスのうちの1つ以上の元素も含有し、乾式分級手段を用いて粒径2mm以上の粒子を除去し、上記乾式比重分離手段では5μm未満を対象として分級し、分離点を9.0g/cm以上15.0g/cm以下の範囲に設定して、低比重側回収物と高比重側回収物とに分離し、低比重側回収物と高比重側回収物とに分離し、分離して得られた上記高比重側回収物を上記製錬炉に投入することを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明に係る銅製錬の操業方法は、銅を含有する鉱石を製錬炉に投入して銅を製錬する銅製錬の操業方法において、上記鉱石は、銅のほかに、貴金属を含有するとともに、鉛、ビスマスのうちの1つ以上の元素も含有し、銅製錬において発生したダスト(銅製錬ダスト)を、乾式分級手段を用いて粒径2mm以上の粒子を除去した後、乾式比重分離手段では5μm未満を対象として分級し、分離点を9.0g/cm以上15.0g/cm以下の範囲に設定して、低比重側回収物と高比重側回収物とに分離し、低比重側回収物と高比重側回収物とに分離し、分離して得られた該高比重側回収物を上記製錬炉に繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、銅製錬ダストに含まれる例えば鉛、ビスマス等の銅製錬における不純物成分を、そのダスト中に含まれる貴金属等の混入を抑制しながら効率よく分離して回収することができる。また、それら不純物成分を分離除去したダストを銅製錬炉に繰り返すことによって、その銅製錬ダスト中に含まれる貴金属等を有効に製錬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】銅製錬ダストの処理方法のフローの一例を示す図である。
図2】比較例1における処理方法のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る銅製錬ダスト(以下、単に「ダスト」ともいう。)の処理方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
本実施の形態に係る銅製錬ダストの処理方法は、銅を含有する鉱石を製錬炉に投入して銅を製錬する銅製錬にて発生したダスト(煙灰)の処理方法であって、そのダストに含まれる鉛、ビスマス等の銅製錬における不純物成分を分離する方法である。
【0020】
具体的には、この銅製錬ダストの処理方法は、銅製錬に際して発生したダストを、乾式比重分離手段を用いて低比重側回収物と高比重側回収物とに分離することを特徴とする。
【0021】
この処理方法は、銅のほかに、例えば鉛、ビスマスのうちの1つ以上の元素を含有する鉱石を用いて銅製錬を行った際に発生した銅製錬ダストに対して好適に用いることができる。したがって、その銅製錬ダストには、銅のほかに、それら鉛、ビスマス等の不純物元素が含まれるようになる。また、その銅鉱石中には、これら不純物元素のほかに、金や銀、白金やパラジウム等の白金族元素といった貴金属も含有されることが多く、そのため銅製錬で発生するダスト中には貴金属も含有される。
【0022】
なお、銅製錬ダストの組成としては、特に限定されるものではない。また、銅製錬ダスト中の不純物元素としては、上述した鉛やビスマスに限定されず、その他の不純物元素を主に分離することを目的としてもよい。
【0023】
ここで、例えば、鉛やビスマス等の不純物元素は、熔体中では一定以上の蒸気圧を持つ形態で存在する。そのため、揮発した後に、排ガス中で酸素や亜硫酸ガス(SO)と反応しつつ冷却されて微細粒化し、そのまま集塵機に送られてダストとして回収される。本発明者らは、このダスト中に一次粒径が1μm以下で存在する鉛は主に硫酸塩の形態を、ビスマスは酸化物の形態をとることを、X線回折分析装置による定性分析結果から見出した。そして、それらの形態においては、それぞれの密度が、硫酸鉛では6.2g/cm、酸化ビスマスでは8.9g/cmとなる。
【0024】
一方、貴金属の大半は、ダスト中での化学的形態としてはメタルとして存在すると原理的に考えられており、貴金属メタルの粒子として存在するものと、銅粒子の中に含まれて存在するものとがある。
【0025】
貴金属メタルの粒子として存在するものは、例えば金の密度は19.31g/cm、白金の密度は21.45g/cm、パラジウムの密度は12.02g/cmであることが知られている。このことから、これら貴金属メタルは、上述した不純物成分の硫酸鉛や酸化ビスマスの粒子と比重差を利用して分離することが可能となる。
【0026】
なお、貴金属の銀は、共存する塩素と当量分は塩化銀として、それを超える分はメタルとして存在すると考えられ、銀メタルの密度は10.49g/cm、塩化銀の密度は5.56g/cmである。そのため、銀メタルとして存在する粒子については、上述のように比重差を利用して硫酸鉛や酸化ビスマスの粒子と分離することが可能となる。
【0027】
そこで、本実施の形態においては、上述した銅製錬ダスト中の不純物成分の形態に基づき、そのダスト中に含まれる不純物成分以外の貴金属等との比重差を利用して、銅製錬ダストに対して乾式比重分離手段を用いた分離処理を施す。そして、この比重分離により、銅製錬ダストを低比重側回収物と高比重側回収物とに分離するようにする。
【0028】
具体的に図1に、本実施の形態に係る銅製錬ダストの処理方法のフローの一例を示す。図1に示すように、銅製錬ダストを処理対象として乾式比重分離手段により分離処理を施すと、銅製錬ダストに含まれ硫酸塩や酸化物の形態となっている鉛、ビスマス等の不純物成分が低比重側(不純物濃縮物)に、不純物成分以外の貴金属のメタル粒子等が高比重側(貴金属濃縮物)に分離されるようになる。これにより、貴金属の混入を抑制しながら効率よく、銅製錬における不純物成分である鉛やビスマス等を分離することができる。換言すると、不純物成分を効率的に分離しながら、貴金属を効果的に回収することができる。
【0029】
乾式比重分離手段としては、例えば、遠心力や慣性力等の分級方式を利用した乾式比重分離装置を用いることができる。なお、銅製錬ダスト中の微細粒の不純物成分を効果的に分離することができるものであれば、湿式の比重分離手段を用いてもよい。
【0030】
乾式比重分離手段の分離点としては、例えば9.0g/cm以上15.0g/cm以下の範囲に設定することができる。分離点が9.0g/cm未満であると、鉛の硫酸塩やビスマスの酸化物等の不純物成分の比重に近似してしまい、これらの不純物成分が高比重側に分離されて、不純物成分のみを効率よく分離することができない可能性がある。一方で、分離点が15.0g/cmを超えると、不純物成分が分離される低比重側回収物の中に貴金属が混入してしまう可能性がある。
【0031】
また、その乾式比重分離手段の分離点としては、9.5g/cm以上10.5g/cm以下の範囲に設定することがより好ましい。これにより、より効果的に且つ効率的に、鉛やビスマスの不純物成分を貴金属の混入を抑制ながら比重分離することができる。
【0032】
なお、鉛やビスマス以外の不純物成分を比重分離するに際しては、上述した鉛やビスマスの場合と同様に、銅製錬ダスト内におけるその不純物成分の存在形態の比重に基づいて分離点を設定して、比重分離処理を施すようにすればよい。
【0033】
銅製錬ダストは、吸湿すればするほど、搬送経路や乾式比重分離装置の内部の壁面付着が激しくなり、経路や装置内での閉塞現象を引き起こし易くなる。このため、乾式比重分離装置を用いて比重分離処理を施すに際しては、銅製錬ダストを吸湿させずに乾燥した状態のまま装置内に供給することが好ましく、水分率1.0%未満で供給することがさらに好ましい。また、乾式比重分離装置内に空気やガスを供給する場合には、比重分離中の銅製錬ダストが吸湿しないように、乾燥した空気やガスを供給することが好ましい。
【0034】
また、銅製錬ダストは、乾式比重分離手段に供給するに先立ち、乾式の振動篩等を用いて粒径2mm以上の粒子を除去しておくことが好ましく、粒径1mm以上の粒子を除去しておくことがさらに好ましい。
【0035】
ところで、銅製錬ダストに含まれる銅粒子は、その基質が銅メタル(密度8.96g/cm)や硫化銅(CuS、密度5.6g/cm)であるため、上述したような比重差では硫酸鉛や酸化ビスマスの粒子から分離することができない。しかしながら、本発明者らが顕微鏡を用いて観察したところ、銅粒子は、その大半が粒径5μm以上であって、鉛やビスマスの粒子より一桁以上大きいことが分かった。そのため、乾式比重分離手段では、5μm未満を対象として分級することで、比重による分配効果以上に粒子重量に基づく分配効果によって、銅粒子を高比重側(回収物)へ分配することができることを見出した。
【0036】
このことから、銅製錬ダストに含まれる貴金属のうちの大半の銅粒子中に含まれて存在する貴金属についても、乾式比重分離手段の比重分離点を、粒径5μm未満の粒子をターゲットとして設定することによって、その銅粒子を高比重側回収物へ分配させることができ、それによりその銅粒子に含まれる貴金属を回収することができる。
【0037】
以上のように、本実施の形態に係る銅製錬ダストの処理方法によれば、処理対象の銅製錬ダストから、銅製錬において不純物成分となる鉛、ビスマス等を、貴金属と効果的に且つ容易に分離することができる。
【0038】
そして、このようにして比重分離して得られた高比重側回収物、すなわち貴金属濃縮物を、銅製錬炉にそのまま無処理で投入する(銅製錬炉に繰り返す)ことができる。これにより、そのダストに含まれていた貴金属を有効に製錬して回収することができる。また、上述したように、高比重側回収物には、粒径の大きな銅粒子も含まれるようになるため、この高比重側回収物を銅製錬炉に繰り返し投入することによって、銅製錬ダストに含まれていた銅をも有効に製錬して回収することができる。
【0039】
一方、分離して得られた低比重側回収物、すなわち不純物濃縮物は、組成毎に別途処理することによって、例えば鉛製錬等の粗原料として利用することができる。
【0040】
なお、比重分離して得られた低比重側回収物(不純物濃縮物)に対しては、さらに水洗処理を施すようにしてもよい。これにより、不純物濃縮物中の混入してしまった銅粒子を水溶液中に溶解させることができ、鉛、ビスマス等は水洗残渣中に残留することとなるため、これを固液分離することで、さらに濃縮した不純物元素である鉛、ビスマス等を分離することができるとともに、水溶液中に銅を分離することができる。
【0041】
水洗処理の方法としては、特に限定されないが、不純物濃縮物と水洗用の水(純水)とを処理槽中に投入し、攪拌装置等を用いて攪拌しながら行うことが好ましい。また、水洗処理後の固液分離の方法についても、特に限定されるものではなく、吸引濾過などの濾過や遠心分離等によって行うことができる。
【0042】
なお、銅を溶解させた濾液(廃液)は、銅製錬工程の廃水と併せて既存の廃水処理工程に導入することで、中和や硫化等の公知の方法を用いて、その廃水から銅を含有する固形物として回収し、これを脱水・乾燥することで銅製錬に繰り返すことができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を適用した具体的な実施例と比較例について説明するが、本発明は、これらの実施例や比較例に限定されるものではない。
【0044】
ここで、実施例及び比較例で示す各元素の分配率とは、処理前のダストに含まれていた元素が処理によって得られた固形分や濾液に分配された割合を示し、その処理前のダストと処理によって得られた固形分及び濾液の化学分析値から算出した。なお、この元素分配率は、処理対象とした銅製錬転炉ダストAに含有される各元素の量を100%とした場合における分配を示す。また、その化学分析値は、分析用試料に必要な前処理を施した後に、ICP発光分析法により分析した。
【0045】
[実施例1]
10kgの銅製錬転炉ダストAを対象に、粒径3μmの粒子の比重分離点を14.0g/cmに設定した乾式比重分離機を用いて乾式比重分離処理を行った(図1の処理フローを参照。)。なお、ダストAは、ペルー産の銅精鉱を公知の自熔炉製錬法を用いて製錬した際に発生し回収したものを使用した。
【0046】
この乾式比重分離処理により、低比重側で6.3kgの不純物濃縮物Bが、高比重側で3.7kgの貴金属濃縮物Cが、それぞれ分離回収された。下記表1に、鉛、ビスマス、金、銀、パラジウムの、不純物濃縮物Bへの分配率を示す。
【0047】
表1に示されるように、銅製錬において不純物成分となる鉛、ビスマスが、貴金属ロス率が低い状態で、すなわち貴金属の混入割合が低い状態で、効果的に濃縮分離できていることが分かる。
【0048】
[実施例2]
粒径3μmの粒子の比重分離点を10.3g/cmに設定したこと以外は、実施例1と同様に、銅製錬転炉ダストAを処理対象として乾式比重分離機による乾式比重分離処理を行った。
【0049】
この乾式比重分離処理により、低比重側で5.9kgの不純物濃縮物Dが、高比重側で4.1kgの貴金属濃縮物Eが、それぞれ分離回収された。下記表1に、鉛、ビスマス、金、銀、パラジウムの、不純物濃縮物Dへの分配率を示す。
【0050】
表1に示されるように、銅製錬において不純物成分となる鉛とビスマスが、実施例1よりもさらに低い貴金属ロス率で、効果的に濃縮分離できていることが分かる。
【0051】
[比較例1]
1kgの銅製錬転炉ダストAを対象に、目開き10μmの試験用篩を用いた湿式分級試験を実施した。なお、図2に、比較例1における処理フローを示す。
【0052】
湿式分級処理の後、硬質濾紙(4A)を用いて篩下スラリーを吸引濾過して、8.4リットルの濾液Fを得て、また同時に得られた固形分を真空乾燥させて364gの不純物濃縮物Gを得た。なお、湿式分級処理の後、粗粒側(篩上)を粗粒側回収物Hとした。
【0053】
下記表1に、鉛、ビスマス、金、銀、パラジウムの、不純物濃縮物Gへの分配率を示す。
【0054】
表1に示されるように、比較例1では、不純物濃縮物Dへの貴金属の混入量(貴金属ロス量)が、上記実施例1での濃縮物Bよりも、金で5倍以上、パラジウムで7倍以上、銀でも2倍以上に高くなっていることが分かる。
【0055】
【表1】
図1
図2