特許第5987828号(P5987828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987828
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20160825BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20160825BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20160825BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20160825BHJP
   H01M 10/056 20100101ALI20160825BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20160825BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20160825BHJP
   H01B 1/10 20060101ALN20160825BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
   H01M10/0562
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M10/056
   H01M10/058
   !H01M10/052
   !H01B1/10
   !H01B1/06 A
【請求項の数】8
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-520546(P2013-520546)
(86)(22)【出願日】2012年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2012064914
(87)【国際公開番号】WO2012173089
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2011-135292(P2011-135292)
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕一郎
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−080999(JP,A)
【文献】 特開2005−166756(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/080259(WO,A1)
【文献】 特表2008−546135(JP,A)
【文献】 特表2008−537841(JP,A)
【文献】 特開2011−076981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01M 4/13−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層、負極活物質層、および固体電解質層を有する全固体二次電池であって、
前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層のうち少なくとも1つが、無機固体電解質および平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤を含み、
前記粒子状ポリマーは、コアシェル構造を有し、かつ、前記粒子状ポリマーのシェル部が、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有するポリマーから構成され、
前記粒子状ポリマーは、前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層内において、粒子状態を保持した状態で存在していることを特徴とする全固体二次電池。
【請求項2】
前記粒子状ポリマーのシェル部を構成するポリマー中における、前記エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が、30〜100重量%である請求項1に記載の全固体二次電池。
【請求項3】
前記粒子状ポリマーのコア部が、架橋性単量体単位を有するポリマーから構成されることを特徴とする請求項1または2に記載の全固体二次電池。
【請求項4】
前記粒子状ポリマーのコア部とシェル部との割合が、「コア部:シェル部」の重量比率で、70:30〜10:90であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項5】
前記粒子状ポリマーのコア部のガラス転移温度(Tg)と、シェル部のガラス転移温度(Tg)との差(Tg−Tg)が30℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記無機固体電解質が、Li、PおよびSを含有する硫化物ガラスおよび/またはLi、PおよびSを含有する硫化物ガラスセラミックスであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の全固体二次電池。
【請求項7】
無機固体電解質、および平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤を、沸点が100〜220℃である非極性溶媒に溶解または分散してなる全固体二次電池用スラリーであって、
前記粒子状ポリマーは、コアシェル構造を有し、かつ、前記粒子状ポリマーのシェル部が、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有するポリマーから構成される全固体二次電池用スラリー。
【請求項8】
前記非極性溶媒のSP値が14〜20MPa1/2である請求項に記載の全固体二次電池用スラリー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体リチウムイオン二次電池等の全固体二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途で需要が増加している。用途が広がるに伴い、二次電池のさらなる安全性の向上が要求されている。安全性を確保するために、液漏れを防止する方法や、引火性が高く漏洩時の発火危険性が非常に高い有機溶媒電解質に代えて、固体電解質を用いる方法が有効である。
【0003】
たとえば、特許文献1では、固体電解質として、LiSとPとからなる硫化物ガラスおよび/または硫化物ガラスセラミックスを用いてなる全固体二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−176484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1では、固体電解質を保持するための結着剤として、熱可塑性エラストマーまたはエチレンオキシド骨格を有する樹脂を用いるものであるため、結着剤が固体電解質を被覆してしまい、これにより電子伝導が阻害され、全固体二次電池とした場合に内部抵抗が高くなってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、レート特性および充放電サイクル特性に優れた全固体二次電池を提供することを目的とする。また、本発明は、このような全固体二次電池を製造するために用いられる全固体二次電池用スラリーを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、無機固体電解質と、平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤とを組み合わせて用い、かつ、全固体二次電池内において、粒子状ポリマーを、粒子状態を保持した状態で存在させることにより、レート特性および充放電サイクル特性に優れた全固体二次電池を得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、正極活物質層、負極活物質層、および固体電解質層を有する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層のうち少なくとも1つが、無機固体電解質および平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤を含み、前記粒子状ポリマーは、前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層内において、粒子状態を保持した状態で存在していることを特徴とする全固体二次電池が提供される。
【0009】
本発明の全固体二次電池において、好ましくは、前記粒子状ポリマーは、コアシェル構造を有する。
本発明の全固体二次電池において、好ましくは、前記粒子状ポリマーのシェル部が、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有するポリマーから構成されるものである。
本発明の全固体二次電池において、好ましくは、前記粒子状ポリマーのコア部が、架橋性単量体単位を有するポリマーから構成されるものである。
本発明の全固体二次電池において、好ましくは、前記粒子状ポリマーのコア部とシェル部との割合が、「コア部:シェル部」の重量比率で、70:30〜10:90である。
本発明の全固体二次電池において、好ましくは、前記粒子状ポリマーのコア部のガラス転移温度(Tg)と、シェル部のガラス転移温度(Tg)との差(Tg−Tg)が30℃以上である。
本発明の全固体二次電池において、好ましくは、前記無機固体電解質が、Li、PおよびSを含有する硫化物ガラスおよび/またはLi、PおよびSを含有する硫化物ガラスセラミックスである。
【0010】
また、本発明によれば、無機固体電解質、および平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤を、沸点が100〜220℃である非極性溶媒に溶解または分散してなる全固体二次電池用スラリーが提供される。
本発明の全固体二次電池用スラリーにおいて、好ましくは、前記非極性溶媒のSP値が14〜20MPa1/2である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、レート特性および充放電サイクル特性に優れた全固体二次電池、および、このような全固体二次電池を製造するための全固体二次電池用スラリーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の全固体二次電池は、正極活物質層、負極活物質層、および固体電解質層を有し、前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層のうち少なくとも1つが、無機固体電解質および平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーからなる結着剤を含み、かつ、前記粒子状ポリマーは、前記正極活物質層、前記負極活物質層、および前記固体電解質層内において、粒子状態を保持した状態で存在していることを特徴とする。
【0013】
(無機固体電解質)
まず、本発明で用いる無機固体電解質について説明する。
無機固体電解質としては、リチウムイオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず、Li、PおよびSを含有する硫化物ガラス、Li、PおよびSを含有する硫化物ガラスセラミックス、LiN、LISICON(Li14Zn(GeO、ペロブスカイト型Li0.5La0.5TiO、LIPON(Li3+yPO4-x)、Thio−LISICON(Li3.25Ge0.250.75)などの結晶性の無機リチウムイオン伝導体などが挙げられるが、これらのなかでも、Li、PおよびSを含有する硫化物ガラス、および/またはLi、PおよびSを含有する硫化物ガラスセラミックスが好ましい。
【0014】
Li、PおよびSを含有する硫化物ガラス(以下、適宜、「Li−P−S系ガラス」とする)は、LiSとPとを含有するガラスであり、LiSとPとを所定の比率で混合することにより製造することができる。また、Li、PおよびSを含有する硫化物ガラスセラミックス(以下、適宜、「Li−P−S系ガラスセラミックス」とする)は、LiSとPとを含有するガラスセラミックスであり、LiSとPとを所定の比率で混合することで得られたLi−P−S系ガラスを、150〜360℃で焼成することにより製造することができる。
【0015】
Li−P−S系ガラスおよびLi−P−S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは65:35〜75:25、より好ましくは68:32〜74:26である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10−4S/cm以上、より好ましくは1×10−3S/cm以上とすることができる。
【0016】
なお、Li−P−S系ガラスおよびLi−P−S系ガラスセラミックスには、イオン導電性の低下を引き起こさせない範囲において、Al、BおよびSiSからなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物、LiPO、LiSiO、LiGeO、LiBOおよびLiAlOからなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含有させてもよい。このような硫化物やオルトオキソ酸リチウムを含有させることにより、Li−P−S系ガラスおよびLi−P−S系ガラスセラミックス中のガラス成分を安定化させることができる。
【0017】
また、Li−P−S系ガラスおよびLi−P−S系ガラスセラミックスの平均粒径は、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは0.1〜20μmである。平均粒径が小さすぎると、取り扱いが困難となるおそれがあり、一方、平均粒径が大きすぎると、分散性が悪化するおそれがある。
【0018】
(結着剤)
次いで、本発明で用いる結着剤について説明する。
本発明で用いる結着剤は、平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーである。粒子状ポリマーとしては、全固体二次電池内において、粒子状態を保持した状態で存在可能なもの、すなわち、無機固体電解質粒子上、正極活物質粒子上、および/または負極活物質粒子上に、粒子状態を保持した状態で存在可能なものであればよいが、コアシェル構造を有するものが好ましい。
【0019】
なお、本発明において、“粒子状態を保持した状態”とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよく、たとえば、無機固体電解質粒子同士(あるいは、正極活物質粒子同士、負極活物質粒子同士)を結着した結果、これら粒子同士によりある程度押しつぶされたような形状となっていてもよい。
【0020】
本発明において、粒子状ポリマーをコアシェル構造を有するものとする場合、コア部は、架橋性単量体単位を有するポリマーから構成されるものとすることが好ましい。
【0021】
コア部を構成するポリマーを構成する架橋性単量体単位を形成する架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、およびこれらの誘導体などの芳香族ジビニル化合物;アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸エステル;N,N−ジビニルアニリン、ジビニルエーテルなどのジビニル化合物;3個以上のビニル基を有する化合物などが挙げられる。これらの架橋性単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、ジビニルベンゼン、アリルメタクリレートが好ましく、ジビニルベンゼンがより好ましい。コア部を構成するポリマー中における、架橋性単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1〜10重量%であり、より好ましくは0.3〜7重量%、さらに好ましくは0.5〜4重量%である。また、粒子状ポリマー中における、架橋性単量体単位の含有割合(コア部およびシェル部を含む粒子状ポリマー全体に対する含有割合)は、好ましくは0.01〜15重量%であり、より好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。架橋性単量体単位の含有割合が少なすぎると、粒子状ポリマーの強度が低下してしまうおそれがあり、一方、多すぎると、コアシェル構造を良好に形成できない場合がある。
【0022】
また、コア部を構成するポリマーには、架橋性単量体単位に加えて、架橋性単量体と共重合可能な他の単量体単位が含有されていてもよい。共重合可能な他の単量体としては、スチレン;ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;アクリル酸、メタクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド化合物;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン;等が挙げられる。これらの共重合可能な他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。コア部を構成するポリマー中における、共重合可能な他の単量体単位の含有割合は、好ましくは90〜99.9重量%であり、より好ましくは93〜99.7重量%、さらに好ましくは96〜99.5重量%である。
【0023】
さらに、粒子状ポリマーをコアシェル構造を有するものとする場合、シェル部は、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(アクリル酸エステル単量体単位および/またはメタクリル酸エステル単量体単位の意。以下、同様)を有するポリマーから構成されるものとすることが好ましい。シェル部に、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有させることで、リチウムイオン伝導度を向上させることができる。なお、エチレンオキシド骨格とは、エチレンオキシドの重合単位のことであり、オキシエチレン骨格と称することもある。エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成するエチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのエチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。シェル部を構成するポリマー中における、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体の含有割合は、好ましくは30〜100重量%であり、より好ましくは40〜100重量%である。エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が少なすぎると、リチウムイオン伝導性の向上効果が得難くなる。
【0024】
また、シェル部を構成するポリマーには、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位に加えて、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な他の単量体単位が含有されていてもよい。共重合可能な他の単量体としては、上述したコア部と同様なものを用いることができる。また、シェル部を構成するポリマー中における、共重合可能な他の単量体単位の含有割合は、好ましくは70重量%以下であり、より好ましくは60重量%以下である。
【0025】
本発明においては、粒子状ポリマーをコアシェル構造を有するものとし、かつ、コア部を、架橋性単量体単位を有するポリマーから構成されるものとし、シェル部を、エチレンオキシド骨格を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有するポリマーから構成されるものとすることで、強度を高く保ちながら、結着剤としての結着力を良好なものとすることができ、これにより、得られる全固体二次電池のレート特性および充放電サイクル特性をより向上させることができる。
【0026】
粒子状ポリマーをコアシェル構造を有するものとする場合における、コア部とシェル部の割合は、コア部:シェル部の重量比率で、好ましくは70:30〜10:90、より好ましくは60:40〜15:85、さらに好ましくは50:50〜20:80である。コア部の比率が低すぎると、強度が低下するおそれがあり、一方、シェル部の比率が低すぎると、結着剤としての結着力が低下するおそれがある。
【0027】
粒子状ポリマーをコアシェル構造を有するものとする場合における、コア部のガラス転移温度(Tg)と、シェル部のガラス転移温度(Tg)の差(Tg−Tg)は、好ましく30℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。また、コア部のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは30〜220℃であり、より好ましくは40〜210℃、さらに好ましくは50〜200℃である。ガラス転移温度の差(Tg−Tg)が小さすぎると、結着剤としての結着力が低下するおそれがある。なお、ガラス転移温度の差(Tg−Tg)の上限は特に限定されないが、通常、180℃である。
【0028】
また、粒子状ポリマーの平均粒径は、30〜300nmであり、好ましくは50〜250m、さらに好ましくは70〜200nmである。粒子状ポリマーの平均粒径が小さすぎると、スラリーとした場合における安定性が悪化するおそれがあり、一方、平均粒径が大きすぎると、無機固体電解質粒子同士(あるいは、正極活物質粒子同士、負極活物質粒子同士)を結着した際に、これらの粒子間の距離が大きくなってしまい、全固体二次電池とした際に、内部抵抗が高くなってしまうおそれがある。なお、粒子状ポリマーの平均粒径は、たとえば、乳化重合により粒子状ポリマーを製造する際に用いる乳化剤の種類や添加量を調整することにより、制御することができる。また、粒子状ポリマーの平均粒径は、たとえば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いた方法により測定することができる。
【0029】
粒子状ポリマーをコアシェル構造を有するものとする場合における、粒子状ポリマーの製造方法としては、まず、コア用の単量体を、水を分散媒とする乳化重合法等により重合し、得られた重合体をシード粒子として、シェル用の単量体を水を分散媒とする乳化重合法等により重合する方法が簡便であり好ましい。この場合、同一反応器において、コア用の単量体を重合した後に、シェル用の単量体を添加して重合し、コアシェル構造を形成してもよいし、あるいは、別の反応器にて形成したシード粒子をコアとして用いて、他の反応器にてシェル用の単量体を重合することで、コアシェル構造を形成してもよい。
【0030】
コア用の単量体の重合反応における重合転化率は、通常70重量%以上、好ましくは90重量%以上である。重合転化率が低すぎると、コアシェル構造を形成することが困難となる。なお、シェル用の単量体を添加する方法としては、全量一括で添加して重合する方法、単量体の一部を添加して重合し、その残りを連続的にあるいは断続的に添加する方法;あるいは、単量体をシェル部の重合反応開始時から連続的に添加する方法などが挙げられる。また、シェル用の単量体の重合反応における重合転化率は、通常70重量%以上、好ましくは90重量%以上である。重合温度は、コア部の重合、シェル部の重合のいずれも通常30〜90℃、好ましくは40〜80℃であり、重合時間は、いずれも通常0.5〜10時間、好ましくは1〜8時間である。
【0031】
なお、粒子状ポリマーを、水を分散媒とする乳化重合により重合し、水分散液として得た場合には、得られた粒子状ポリマーの水分散液について、沸点が100〜220℃である非極性溶媒にて溶媒置換を行い、沸点が100〜220℃である非極性溶媒の溶液または分散液とすることが好ましい。沸点が100〜220℃である非極性溶媒で溶媒置換を行なうことにより、製造工程において、加熱乾燥による水分の除去を効率的に行なうことができ、これにより、全固体二次電池とした際における水分量の低減を図ることができる。なお、溶媒置換に用いる非極性溶媒としては、沸点が100〜220℃のものが望ましく、好ましくは120〜210℃、より好ましくは140〜200℃である。沸点が低すぎる非極性溶媒を用いると、製造工程において水分の除去が困難となるおそれがあり、一方、沸点が高すぎる非極性溶媒を用いると、製造工程において、加熱乾燥に時間が掛かりすぎるおそれがある。
【0032】
また、溶媒置換に用いる非極性溶媒は、SP値(溶解度パラメータ)が14〜20MPa1/2であることが好ましく、より好ましくは15〜19MPa1/2、さらに好ましくは16〜18MPa1/2である。SP値が低すぎる非極性溶媒を用いると、ポリマー粒子の分散性が低下するおそれがあり、一方、SP値が高すぎる非極性溶媒を用いると、非極性溶媒が無機固体電解質と反応しやすくなり、得られる全固体二次電池の特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0033】
このような溶媒置換に用いる非極性溶媒の具体例としては、n−オクタン(沸点125℃、SP値15.6)、イソオクタン(沸点117℃、SP値14.1)、トルエン(沸点111℃、SP値18.2)、o−キシレン(沸点144℃、SP値18.5)、m−キシレン(沸点139℃、SP値18.0)、p−キシレン(沸点138℃、SP値18.0)、スチレン(沸点145℃、SP値19.0)、エチルベンゼン(沸点136℃、SP値18.0)、デカリン(沸点185℃、SP値18.0)などが挙げられる。
【0034】
(固体電解質層)
本発明の全固体二次電池を構成する固体電解質層は、固体電解質を含有するものである。本発明においては、固体電解質層としては、上述した無機固体電解質と、上述した結着剤としての粒子状ポリマーとを含有するものであることが好ましく、このような構成とすることで、得られる全固体二次電池をレート特性および充放電サイクル特性に優れたものとすることができる。
【0035】
固体電解質層中における、粒子状ポリマーの含有量は、無機固体電解質100重量部に対して、好ましくは0.05〜8重量部であり、より好ましくは0.1〜6重量部、さらに好ましくは0.2〜4重量部である。粒子状ポリマーの含有量が少なすぎると、固体電解質層中における結着力が低下してしまい、充放電サイクル特性が低下するおそれがある。一方、含有量が多すぎると、得られる全固体二次電池の内部抵抗が高くなるおそれがある。
【0036】
固体電解質層の形成方法としては、無機固体電解質、粒子状ポリマー、および有機溶媒を含む固体電解質層スラリーを調製し、調製した固体電解質層スラリーを基材へ塗布し、乾燥する方法などが挙げられる。
【0037】
なお、粒子状ポリマーとしては、上述したように、沸点が100〜220℃である非極性溶媒に溶解または分散した溶液または分散液を用いることが好ましく、この場合には、固体電解質層スラリーに含有される有機溶媒としては、上述した沸点が100〜220℃である非極性溶媒を用いることが好ましい。すなわち、固体電解質層スラリーを、無機固体電解質、粒子状ポリマー、および沸点が100〜220℃である非極性溶媒を含有するものとすることが好ましい。
【0038】
固体電解質層スラリーを調製する際における、上述した各成分を混合する方法としては特に限定されないが、たとえば、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用する方法が挙げられ、無機固体電解質の凝集を抑制できるという観点からプラネタリーミキサー、ボールミルまたはビーズミルを使用する方法が好ましい。
【0039】
固体電解質層スラリー中における、沸点が100〜220℃である非極性溶媒の含有量は、無機固体電解質100重量部に対して、好ましくは5〜70重量部、より好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは20〜50重量部である。非極性溶媒の含有量が少なすぎると、所望の膜厚にて製膜することが困難となる場合があり、一方、含有量が多すぎると、溶媒の除去に時間が掛かるおそれがある。
【0040】
また、固体電解質層スラリーには、上記各成分のほかに、さらに分散剤、レベリング剤、消泡剤などの他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定はされない。
【0041】
分散剤としては、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物が例示される。固体電解質層スラリー中における、分散剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には、無機固体電解質100重量部に対して、10重量部以下とすることが好ましい。
【0042】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を含有させることにより、固体電解質層スラリーを、正極活物質層または負極活物質層の表面に塗工した際に、発生するはじきを防止できる。固体電解質層スラリー中における、レベリング剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には、無機固体電解質100重量部に対して、10重量部以下とすることが好ましい。
【0043】
消泡剤としては、ミネラルオイル系消泡剤、シリコーン系消泡剤、ポリマー系消泡剤などが挙げられる。固体電解質層スラリー中における、レベリング剤の含有量は、電池特性に影響が及ばない範囲が好ましく、具体的には、無機固体電解質100重量部に対して、10重量部以下とすることが好ましい。
【0044】
(正極活物質層)
本発明の全固体二次電池を構成する正極活物質層は、正極活物質を含有するものである。本発明においては、正極活物質層としては、正極活物質に加え、上述した無機固体電解質と、上述した結着剤としての粒子状ポリマーとを含有するものであることが好ましく、このような構成とすることで、得られる全固体二次電池をレート特性および充放電サイクル特性に優れたものとすることができる。
【0045】
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な化合物である。正極活物質は、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0046】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。遷移金属としては、たとえば、Fe、Co、Ni、Mn等が挙げられる。無機化合物からなる正極活物質の具体例としては、LiCoO、LiNiO、LiMnO、LiMn、LiFePO、LiFeVOなどのリチウム含有複合金属酸化物;TiS、TiS、非晶質MoS等の遷移金属硫化物;Cu、非晶質VO−P、MoO、V、V13などの遷移金属酸化物;などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0047】
有機化合物からなる正極活物質としては、たとえば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N−フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。また、正極活物質としては、上述した無機化合物と有機化合物との混合物であってもよい。
【0048】
正極活物質の平均粒径は、レート特性、充放電サイクル特性などの電池特性を向上させるという観点から、好ましくは0.1〜50μm、より好ましくは1〜20μmである。平均粒子径が上記範囲であると、得られる全固体二次電池の充放電容量を大きくすることができ、かつ、正極活物質層を製造する際の取扱いが容易となる。なお、正極活物質の平均粒径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0049】
正極活物質層中における無機固体電解質の含有量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは5〜95重量部であり、より好ましくは10〜90重量部、さらに好ましくは20〜80重量部である。無機固体電解質の含有量が少なすぎると、正極活物質層内におけるイオン伝導性が不十分となり、正極活物質が有効に利用されず、得られる全固体二次電池の容量が低下してしまうおそれがある。
【0050】
正極活物質層中における粒子状ポリマーの含有量は、正極活物質および無機固体電解質の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部であり、より好ましくは0.5〜8重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。粒子状ポリマーの含有量が少なすぎると、正極活物質層中における結着力が低下してしまい、得られる全固体二次電池の充放電サイクル特性が低下するおそれがある。一方、含有量が多すぎると、得られる全固体二次電池の内部抵抗が高くなるおそれがある。
【0051】
また、正極活物質層には、上記成分のほかに、さらに導電性付与材、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液分解抑制等の他の成分が含まれていてもよい。
【0052】
導電性付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト等の導電性カーボンや、各種金属のファイバーや箔などが挙げられる。正極活物質層中に導電性付与材を含有させることにより、得られる全固体二次電池のレート特性を向上させることができる。正極活物質層中おける導電性付与材の含有量は、正極活物質100重量部に対して、好ましくは0.01〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部である。
【0053】
正極活物質層の形成方法としては、正極活物質、無機固体電解質、粒子状ポリマー、および有機溶媒、ならびに必要に応じて添加される導電性付与材などの他の成分を含む正極活物質層スラリーを調製し、調製した正極活物質層スラリーを集電体上に塗布し、乾燥する方法などが挙げられる。
【0054】
なお、粒子状ポリマーとしては、上述したように、沸点が100〜220℃である非極性溶媒に溶解または分散した溶液または分散液を用いることが好ましく、この場合には、正極活物質層スラリーに含有される有機溶媒としては、上述した沸点が100〜220℃である非極性溶媒を用いることが好ましい。すなわち、正極活物質層スラリーを、正極活物質、無機固体電解質、粒子状ポリマー、および沸点が100〜220℃である非極性溶媒、ならびに必要に応じて添加される導電性付与材などの他の成分を含有するものとすることが好ましい。
【0055】
正極活物質層スラリーを調製する際における、上述した各成分を混合する方法としては特に限定されないが、たとえば、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用する方法が挙げられ、正極活物質および無機固体電解質の凝集を抑制できるという観点からプラネタリーミキサー、ボールミルまたはビーズミルを使用する方法が好ましい。
【0056】
正極活物質層スラリー中における、沸点が100〜220℃である非極性溶媒の含有量は、正極活物質および無機固体電解質の合計100重量部に対して、好ましくは5〜70重量部、より好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは20〜50重量部である。非極性溶媒の含有量が少なすぎると、所望の膜厚にて製膜することが困難となる場合があり、一方、含有量が多すぎると、溶媒の除去に時間が掛かるおそれがある。
【0057】
また、正極活物質層スラリーには、上記各成分のほかに、上述した固体電解質層スラリーと同様に、分散剤、レベリング剤、消泡剤などの他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定はされない。
【0058】
(負極活物質層)
本発明の全固体二次電池を構成する負極活物質層は、負極活物質を含有するものである。本発明においては、負極活物質層としては、負極活物質に加え、上述した無機固体電解質と、上述した結着剤としての粒子状ポリマーとを含有するものであることが好ましく、このような構成とすることで、得られる全固体二次電池をレート特性および充放電サイクル特性に優れたものとすることができる。
【0059】
負極活物質は、アモルファスカーボン、グラファイト、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ピッチ系炭素繊維などの炭素質材料;ポリアセン等の導電性高分子;ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の金属やこれらの合金;前記金属又は合金の酸化物や硫酸塩;金属リチウム;Li−Al、Li−Bi−Cd、Li−Sn−Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコン;などを用いることができる。また、本発明においては、負極活物質として、機械的改質法により表面に導電性付与材を付着させたものも使用できる。
【0060】
負極活物質の平均粒径は、初期充放電効率、レート特性、充放電サイクル特性などの電池特性を向上させるという観点から、好ましくは1〜50μm、より好ましくは15〜30μmである。平均粒子径が上記範囲であると、得られる全固体二次電池の充放電容量を大きくすることができ、かつ、負極活物質層を製造する際の取扱いが容易となる。なお、負極活物質の平均粒径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求めることができる。
【0061】
負極活物質層中における無機固体電解質の含有量は、負極活物質100重量部に対して、好ましくは5〜95重量部であり、より好ましくは10〜90重量部、さらに好ましくは20〜80重量部である。無機固体電解質の含有量が少なすぎると、負極活物質層内におけるイオン伝導性が不十分となり、負極活物質が有効に利用されず、得られる全固体二次電池の容量が低下してしまうおそれがある。
【0062】
負極活物質層中における粒子状ポリマーの含有量は、負極活物質および無機固体電解質の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部であり、より好ましくは0.5〜8重量部、さらに好ましくは1〜5重量部である。粒子状ポリマーの含有量が少なすぎると、負極活物質層中における結着力が低下してしまい、得られる全固体二次電池の充放電サイクル特性が低下するおそれがある。一方、含有量が多すぎると、得られる全固体二次電池の内部抵抗が高くなるおそれがある。
【0063】
また、負極活物質層には、正極活物質層と同様に、上記成分のほかに、さらに導電性付与材、補強材、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、電解液分解抑制等の他の成分が含まれていてもよい。
【0064】
負極活物質層の形成方法としては、負極活物質、無機固体電解質、粒子状ポリマー、および有機溶媒、ならびに必要に応じて添加される導電性付与材などの他の成分を含む負極活物質層スラリーを調製し、調製した負極活物質層スラリーを負極用集電体上に塗布し、乾燥する方法などが挙げられる。
【0065】
なお、粒子状ポリマーとしては、上述したように、沸点が100〜220℃である非極性溶媒に溶解または分散した溶液または分散液を用いることが好ましく、この場合には、負極活物質層スラリーに含有される有機溶媒としては、上述した沸点が100〜220℃である非極性溶媒を用いることが好ましい。すなわち、負極活物質層スラリーを、負極活物質、無機固体電解質、粒子状ポリマー、および沸点が100〜220℃である非極性溶媒、ならびに必要に応じて添加される導電性付与材などの他の成分を含有するものとすることが好ましい。
【0066】
負極活物質層スラリーを調製する際における、上述した各成分を混合する方法としては特に限定されないが、たとえば、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用する方法が挙げられ、負極活物質層および無機固体電解質の凝集を抑制できるという観点からプラネタリーミキサー、ボールミルまたはビーズミルを使用する方法が好ましい。
【0067】
負極活物質層スラリー中における、沸点が100〜220℃である非極性溶媒の含有量は、負極活物質および無機固体電解質の合計100重量部に対して、好ましくは5〜70重量部、より好ましくは10〜60重量部、さらに好ましくは20〜50重量部である。非極性溶媒の含有量が少なすぎると、所望の膜厚にて製膜することが困難となる場合があり、一方、含有量が多すぎると、溶媒の除去に時間が掛かるおそれがある。
【0068】
また、負極活物質層スラリーには、上記各成分のほかに、上述した固体電解質層スラリーと同様に、分散剤、レベリング剤、消泡剤などの他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限定はされない。
【0069】
(全固体二次電池)
本発明の全固体二次電池は、上述した正極活物質層と、負極活物質層と、固体電解質層とを有する。
【0070】
本発明の全固体二次電池において、固体電解質層の厚さは、好ましくは1〜15μm、より好ましくは2〜13μm、さらに好ましくは3〜10μmである。固体電解質層の厚さを上記範囲とすることで、全固体二次電池の内部抵抗を小さくすることができる。固体電解質層の厚さが薄すぎると、短絡が発生するおそれがある。一方、固体電解質層の厚さが厚すぎると、全固体二次電池の内部抵抗が大きくなるおそれがある。
【0071】
本発明の全固体二次電池は、上述した正極活物質層スラリーおよび負極活物質層スラリーをそれぞれ別々に集電体上に塗布し、乾燥することで正極活物質層および負極活物質層を形成し、得られた正極活物質層および負極活物質層のいずれか一方の表面に、固体電解質層スラリーを塗布し、乾燥して固体電解質層を形成し、固体電解質層を形成した活物質層と、固体電解質層を形成しなかった活物質層とを固体電解質層を介して貼り合わせることで製造することができる。
【0072】
正極活物質層スラリーおよび負極活物質層スラリーを、集電体上へ塗布する方法としては特に限定されず、たとえば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどによって塗布される。また、正極活物質層スラリーおよび負極活物質層スラリーの塗布量は、特に限定されないが、溶媒を除去した後に形成される正極活物質層および負極活物質層の厚さが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜250μmになる程度の量とすればよい。乾燥方法としては、特に限定されないが、たとえば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥温度は、好ましくは50〜250℃、より好ましくは80〜200℃であり、乾燥時間は、好ましくは10〜60分の範囲である。さらに、乾燥後の正極活物質層および負極活物質層を、金型プレスやカレンダープレスなどの方法によりプレスしてもよい。
【0073】
集電体としては、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましく、特に、正極用としてはアルミニウムが、負極用としては銅が好適に用いられる。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、正極活物質層、負極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用することが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。
【0074】
また、固体電解質層を形成した活物質層と、固体電解質層を形成しなかった活物質層とを固体電解質層を介して貼り合わせる際には、これらを貼り合わせて得られる積層体を加圧してもよい。加圧方法としては特に限定されず、たとえば、平板プレス、ロールプレス、CIP(Cold Isostatic Press)などが挙げられる。加圧プレスする際の圧力としては、好ましくは5〜700MPa、より好ましくは7〜500MPaである。加圧プレスの圧力を上記範囲とすることにより、正極活物質層および負極活物質層と固体電解質層との各界面における抵抗、更には各層内の粒子間の接触抵抗が低くすることができ、これにより電池特性の向上が可能となる。
【0075】
なお、正極活物質層および負極活物質層のいずれか一方の表面に固体電解質層スラリーを塗布する際には、正極活物質層および負極活物質層のいずれに塗布してもよいが、使用する活物質の粒子径が大きい方の活物質層に、固体電解質層スラリーを塗布することが好ましい。活物質の粒子径が大きいと、活物質層表面に凹凸が形成されるため、スラリー組成物を塗布することで、活物質層表面の凹凸を緩和することができる。そのため、固体電解質層を形成した活物質層と固体電解質層を形成しなかった活物質層とを貼り合わせて積層する際に、固体電解質層と活物質層との接触面積が大きくなり、界面抵抗を抑制することができる。
【0076】
また、本発明の全固体二次電池は、所望の電池形状に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口された状態としてもよい。また、本発明の全固体二次電池は、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを取り付けてもよい。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【0077】
なお、本発明の全固体二次電池は、全固体二次電池内における水分量が300ppm以下であることが好ましく、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。水分量が高すぎると、水の作用により無機固体電解質が反応してしまい、電池特性が低下するおそれがある。なお、本発明においては、全固体二次電池を製造するために用いられる、正極活物質層スラリー、負極活物質層スラリーおよび固体電解質層スラリーの溶媒として、沸点が100〜220℃である非極性溶媒を用いることで、製造工程において水を適切に除去することができ、これにより、全固体二次電池内に含まれる水分量を低減することができる。
【0078】
また、本発明の全固体二次電池は、結着剤として、上述した平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーを含有するものであり、このような平均粒径30〜300nmの粒子状ポリマーは、全固体二次電池内(正極活物質層内、負極活物質層内、固体電解質層内)において、粒子状態を保持した状態で存在するものである。そして、粒子状態を保持した状態で存在することにより、全固体二次電池内におけるイオン伝導や電子伝導を阻害することなく、全固体二次電池を構成する各成分を良好に結着するものである。
【0079】
このようにして得られる本発明の全固体二次電池は、レート特性および充放電サイクル特性に優れたものである。そのため、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など様々な用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各例中の部および%は、特に断りのない限り、重量基準である。
なお、各特性の定義および評価方法は、以下のとおりである。
【0081】
<レート特性>
各実施例および比較例で得られた二次電池について、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.1Cにて、3.0Vまで放電することにより、0.1C放電時の電池容量を求めた。次いで、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート5Cにて、3.0Vまで放電することにより、5C放電時の電池容量を求めた。そして、同様の測定を10個のセルについて行い、10個のセルについて、0.1C放電時および5C放電時の電池容量の平均値を求め、0.1C放電時の平均電池容量Cap0.1Cと、5C放電時の平均電池容量Cap5Cとの比((Cap5C/Cap0.1C)×100%)である5C放電時容量維持率を求めた。そして、得られた5C放電時容量維持率に基づき、以下の基準にて、レート特性を評価した。なお、5C放電時容量維持率が高いほど、ハイレート(5C)放電時の放電容量が高く、レート特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:5C放電時容量維持率が80%以上
B:5C放電時容量維持率が70%以上、80%未満
C:5C放電時容量維持率が50%以上、70%未満
D:5C放電時容量維持率が30%以上、50%未満
E:5C放電時容量維持率が30%未満
【0082】
<充放電サイクル特性>
各実施例および比較例で得られた二次電池について、温度25℃の条件にて、充電レート0.1Cとした定電流法により、4.2Vまで充電を行なった後、放電レート0.5Cにて、3.0Vまで放電する充放電試験を50回繰り返した。そして、1回目の充放電試験における放電容量Cap1stと、50回目の充放電試験における放電容量Cap50thとの比((Cap50th/Cap1st)×100%)である50サイクル時容量維持率を求めた。そして、得られた50サイクル時容量維持率に基づき、以下の基準にて、充放電サイクル特性を評価した。なお、50サイクル時容量維持率が高いほど、サイクル試験を行った際の50サイクル目における劣化が少なく、充放電サイクル特性に優れると判断できるため、好ましい。
A:50サイクル時容量維持率が60%以上
B:50サイクル時容量維持率が55%以上、60%未満
C:50サイクル時容量維持率が50%以上、55%未満
D:50サイクル時容量維持率が45%以上、50%未満
E:50サイクル時容量維持率が45%未満
【0083】
(実施例1)
コアシェル型ポリマー粒子Aの製造
攪拌機付き50kgf/cmの耐圧オートクレーブに、メタクリル酸メチル200部、スチレン50部、架橋性単量体としてのジビニルベンゼン5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム10部、イオン交換水400部、重合開始剤としてのアゾビスブチロニトリル10部を仕込み、十分攪拌した後、80℃に加温して重合を行なった。そして、重合開始後、モノマーの消費量が98%となった時点で、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート(日立化成工業社製、機能性アクリレートファンクリル「FA−314A」)400部、およびスチレン100部、イオン交換水800部、および重合開始剤としてのアゾビスブチロニトリル10部を添加し、十分に混合して、80℃にて重合を行なった。そして、重合開始後、モノマーの消費量が99.8%となった時点で、冷却して重合反応を停止することで、コアシェル型ポリマー粒子Aのラテックスを得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Aのラテックスの固形分濃度は39%であった。また、コアシェル型ポリマー粒子Aの平均粒径は120nmであった。表1に、コアシェル型ポリマー粒子Aのコア部のガラス転移温度(Tg)とシェル部のガラス転移温度(Tg)との差(Tg−Tg)、粒子中のコア部およびシェル部の割合、ならびに、架橋性単量体単位としてのジビニルベンゼン単位の粒子中における含有割合を示す。
【0084】
次いで、上記にて得られたコアシェル型ポリマー粒子Aのラテックスにデカリン15,000部加え、十分に分散した後、減圧乾燥により水分を除去することによって、コアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液を得た。得られた分散液の固形分濃度は5%であった。なお、得られたコアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液について、水分量を測定したところ72ppmであった。
【0085】
正極活物質層スラリーの調製
攪拌槽に、正極活物質としてのコバルト酸リチウム(平均粒径:11.5μm)100部、無機固体電解質粒子としてのLiSとPとからなる硫化物ガラス(LiS/P=70mol%/30mol%、平均粒径:5μm)150部、導電剤としてのアセチレンブラック13部、上記にて得られた結着剤としてのコアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液100部(固形分換算で5部)を添加し、ここに固形分濃度が78%となるようにデカリンを加え、プラネタリーミキサーで60分間混合し、次いで、固形分濃度が74%となるようにデカリンをさらに加えて、10分間混合することで、正極活物質層スラリーを得た。
【0086】
負極活物質層スラリーの調製
攪拌槽に、負極活物質としてのグラファイト(平均粒径:20μm)100部と、固体電解質粒子としてのLiSとPとからなる硫化物ガラス(LiS/P=70mol%/30mol%、平均粒径:5μm)50部と、上記にて得られた結着剤としてのコアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液60部(固形分換算で3部)を添加し、ここに固形分濃度が60%となるようにデカリンを加え、プラネタリーミキサーで60分間混合することで、負極活物質層スラリーを得た。
【0087】
固体電解質層スラリーの調製
攪拌槽に、固体電解質粒子としてのLiSとPとからなる硫化物ガラス(LiS/P=70mol%/30mol%、平均粒径:5μm)100部と、上記にて得られた結着剤としてのコアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液20部(固形分換算で1部)を添加し、ここに固形分濃度が30%となるようにデカリンを加え、プラネタリーミキサーで60分間混合することで、固体電解質層スラリーを得た。
【0088】
全固体二次電池の製造
アルミニウム集電体表面に、上記にて得られた正極活物質層スラリーを塗布し、120℃、20分間乾燥を行い、厚さ50μmの正極活物質層を有する正極を得た。また、これとは別に、銅集電体表面に、上記にて得られた負極活物質層スラリーを塗布し、120℃、20分間乾燥を行い、厚さ30μmの負極活物質層を有する負極を得た。
【0089】
次いで、上記にて得られた正極の正極活物質層の表面に、上記にて得られた固体電解質層スラリーを塗布し、120℃、20分間乾燥を行い、厚さ11μmの固体電解質層を得た。そして、正極活物質層の表面に形成された固体電解質層と、上記にて得られた負極の負極活物質層とを貼り合わせ、10MPaでプレスすることにより、全固体二次電池を得た。なお、プレス後の全固体二次電池の固体電解質層の厚さは9μmであった。そして、得られた全固体二次電池を用いて、上記した方法にしたがって、レート特性および充放電サイクル特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2)
重合を行なう際に使用するドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を10部から40部に変更した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Bのデカリン分散液を得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Bの平均粒径は60nmであった。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Bのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
重合を行なう際に使用するドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの添加量を10部から4部に変更した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Cのデカリン分散液を得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Cの平均粒径は250nmであった。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Cのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例4)
正極活物質層スラリーを調製する際に、コアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液の配合量を、100部(固形分換算で5部)から、350部(固形分換算で17.5部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例5)
負極活物質層スラリーを調製する際に、コアシェル型ポリマー粒子Aのデカリン分散液の配合量を、60部(固形分換算で3部)から、210部(固形分換算で10.5部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
参考例1
攪拌機付き50kgf/cmの耐圧オートクレーブに、メタクリル酸メチル200部、スチレン150部、架橋性単量体としてのジビニルベンゼン5部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム10部、イオン交換水1200部、重合開始剤としてのアゾビスブチロニトリル10部を仕込み、十分攪拌した後、80℃に加温して重合を行なった。そして、重合開始後、モノマーの消費量が99.8%となった時点で、冷却して重合反応を停止することで、ポリマー粒子Dのラテックスを得た。得られたポリマー粒子Dのラテックスの固形分濃度は39%であった。なお、ポリマー粒子Dは、コアシェル構造を有しない粒子である。また、得られたポリマー粒子Dの平均粒径は190nmであった。次いで、得られたポリマー粒子Dのラテックスにデカリン15,000部加え、十分に分散した後、減圧乾燥により水分を除去することによって、ポリマー粒子Dのデカリン分散液を得た。得られた分散液の固形分濃度は5%であった。
【0095】
そして、結着剤として、上記にて得られたコアシェル構造を有しないポリマー粒子Dのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例7)
シェル部を構成するモノマーとして、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート400部の代わりに、ポリエチレングリコールジメタクリレート(ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート(日立化成工業社製、機能性アクリレートファンクリル「FA−220M」))300部を使用した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Eのデカリン分散液を得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Eの平均粒径は150nmであった。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Eのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
参考例2
シェル部を構成するモノマーとして、ノニルフェノキシポリエチレングリコールアクリレート400部の代わりに、アクリル酸2−エチルヘキシル400部を使用した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Fのデカリン分散液を得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Fの平均粒径は130nmであった。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Fのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例9)
コア部を構成するモノマーとして、メタクリル酸メチル200部の代わりに、アクリル酸2−エチルヘキシル200部を使用した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Gのデカリン分散液を得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Gの平均粒径は170nmであった。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Gのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例10)
コア部を構成するモノマーとして、ジビニルベンゼンを使用せず、メタクリル酸メチル200部およびスチレン50部のみを使用した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Hのデカリン分散液を得た。得られたコアシェル型ポリマー粒子Hの平均粒径は120nmであった。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Hのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例11)
コアシェル型ポリマー粒子Aのラテックスの溶媒置換に用いる溶媒として、デカリン15,000部に代えて、キシレン15,000部を使用した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Aのキシレン分散液を得た。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Aのキシレン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例12)
コアシェル型ポリマー粒子Aのラテックスの溶媒置換に用いる溶媒として、デカリン15,000部に代えて、トルエン15,000部を使用した以外は、実施例1と同様にして、コアシェル型ポリマー粒子Aのトルエン分散液を得た。そして、結着剤として、得られたコアシェル型ポリマー粒子Aのトルエン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(比較例1)
攪拌機付き50kgf/cmの耐圧オートクレーブに、アクリル酸メチル100部、アクリル酸n−ブチル100部、アクリロニトリル30部、デカリン400部および重合開始剤としての過酸化ベンゾイル0.1部を仕込み、80℃で5時間保持し、溶液重合を行なうことで、アクリル酸メチル−アクリル酸n−ブチル−アクリロニトリル共重合体Iのデカリン溶液を得た。なお、得られたアクリル酸メチル−アクリル酸n−ブチル−アクリロニトリル共重合体Iはデカリンに溶解しており、粒子形状を有さないものであった。次いで、得られた溶液にデカリンを添加して、固形分濃度5%に調製し、モレキュラシーブにて脱水を行なった。
【0103】
そして、結着剤として、上記にて得られた脱水後のアクリル酸メチル−アクリル酸n−ブチル−アクリロニトリル共重合体Iのデカリン溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
重合を行なう際に、スチレンの配合量を150部から100部に変更するとともに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを使用しなかった以外は、参考例1と同様にして、コアシェル構造を有しないポリマー粒子Jのデカリン分散液を得た。得られたポリマー粒子Jの平均粒径は500nmであった。そして、得られたコアシェル構造を有しないポリマー粒子Jのデカリン分散液を用いた以外は、実施例1と同様にして、各スラリーを調製し、全固体二次電池を製造して、実施例1と同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
表1中、正極活物質層中の結着剤の含有量は、正極活物質と無機固体電解質粒子との合計を100部とした場合における含有量を示した。また、負極活物質層中の結着剤の含有量は、負極活物質と無機固体電解質粒子との合計を100部とした場合における含有量を示した。さらに、固体電解質層中の結着剤の含有量は、無機固体電解質粒子100部とした場合における含有量を示した。
【0106】
表1に示すように、結着剤として、平均粒径が30〜300nmの粒子状ポリマーを用いた場合には、得られる全固体二次電池は、レート特性および充放電サイクル特性に優れたものであった(実施例1〜5,7,9〜12)。また、結着剤として、平均粒径が30〜300nmの粒子状ポリマーを用いた場合には、これら粒子状ポリマーは、全固体二次電池内(正極活物質層内、負極活物質層内、および固体電解質層内)において、いずれも粒子状態を保持した状態で存在していた。
一方、結着剤として、粒子状でないポリマーを用いた場合には、結着剤が正極活物質粒子、負極活物質粒子、および固体電解質粒子を被覆してしまい、電子伝導性およびイオン導電性の阻害が起こり、得られる全固体二次電池は、レート特性および充放電サイクル特性に劣るものとなった(比較例1)。
同様に、結着剤として、平均粒径が500nmの粒子状ポリマーを用いた場合には、全固体二次電池を構成する、正極活物質粒子、負極活物質粒子、および固体電解質粒子において、粒子間の距離が大きくなってしまい、得られる全固体二次電池は、レート特性および充放電サイクル特性に劣るものとなった(比較例2)。