(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。本明細書において、「スラリー」及び「研磨液」とは、研磨時に被研磨材料に触れる組成物であり、水及び砥粒を少なくとも含んでいる。また、砥粒の含有量を所定量に調整した「水分散液」とは、所定量の砥粒と水とを含む液を意味する。
【0045】
<砥粒の造粒>
本実施形態に係る砥粒は、4価金属元素の水酸化物を含む。このような砥粒を得るための製造方法は、4価金属元素の塩を含む金属塩溶液(第一の液。例えば金属塩水溶液)と、アルカリ源(塩基)を含むアルカリ液(第二の液。例えばアルカリ水溶液)とを混合して4価金属元素の塩とアルカリ源とを反応させることにより、4価金属元素の水酸化物を含む粒子(以下、「4価金属元素の水酸化物粒子」という)を得る砥粒製造工程を備える。当該製造方法により、粒子径が極めて細かい粒子を得ることができ、研磨傷の低減効果に優れた砥粒を得ることができる。
【0046】
なお、金属塩溶液とアルカリ液とを混合して得られる混合液を撹拌する手段は限定されるものではなく、回転軸回りに回転する棒状、板状又はプロペラ状の撹拌子又は撹拌羽根を用いて混合液を撹拌する方法;回転する磁界で容器の外部から動力を伝達するマグネチックスターラーを用いて撹拌子を回転させて混合液を撹拌する方法;槽外に設置したポンプで混合液を撹拌する方法;外気を加圧して槽内に勢いよく吹き込むことで混合液を撹拌する方法等が挙げられる。
【0047】
前記砥粒製造工程において、金属塩溶液とアルカリ液とを混合して得られる混合液の温度T(以下、場合により「反応温度T」という。)は、30℃以上である。このような温度条件により得られる4価金属元素の水酸化物粒子を砥粒として用いることにより、研磨速度を向上させることができると共に、保管安定性を向上させることができる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。
【0048】
すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて、4価の金属(M
4+)、1〜3個の水酸化物イオン(OH
−)及び1〜3個の陰イオン(X
c−)からなるM(OH)
aX
b(式中、a+b×c=4である)を含む粒子が砥粒の一部として生成するものと考えられる(なお、このような粒子も「4価金属元素の水酸化物を含む砥粒」である)。M(OH)
aX
bでは、電子吸引性の陰イオン(X
c−)が作用して水酸化物イオンの反応性が向上しており、M(OH)
aX
bの存在量が増加するに伴い研磨速度が向上するものと考えられる。
【0049】
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、M(OH)
aX
bだけでなく、M(OH)
4、MO
2等も含み得ると考えられる。陰イオン(X
c−)としては、NO
3−、SO
42−等が挙げられる。
【0050】
なお、砥粒がM(OH)
aX
bを含むことは、砥粒を純水でよく洗浄した後にFT−IR ATR法(Fourier transform Infra Red Spectrometer Attenuated Total Reflection法、フーリエ変換赤外分光光度計全反射測定法)で陰イオン(X
c−)に該当するピークを検出する方法により確認できる。XPS法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、X線光電子分光法)により、陰イオン(X
c−)の存在を確認することもできる。
【0051】
一方で、M(OH)
aX
b(例えばM(OH)
3X)を含む粒子等の4価金属元素の水酸化物粒子の構造安定性を計算すると、陰イオン(X
c−)の存在量が増加するに伴い粒子の構造安定性が低下する結果が得られている。陰イオン(X
c−)を含む4価金属元素の水酸化物粒子では、時間の経過に伴い陰イオン(X
c−)の一部が粒子から脱離することにより保管安定性が低下する場合があると考えられる。これに対し、特定の温度条件において4価金属元素の水酸化物粒子を造粒することにより、粒子から脱離し得る陰イオン(X
c−)が予め粒子から脱離することとなり、優れた研磨速度を維持しつつ保管安定性を高めることができると考えられる。
【0052】
反応温度Tは、例えば、混合液内に温度計を設置して測定することができる。また、反応温度Tは、恒温水槽の水の温度の設定により制御してもよい。反応温度Tは、溶媒である水等が沸騰することを抑制する観点、及び、粒子の酸化を抑制する観点で、100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、55℃以下が更に好ましく、50℃以下が特に好ましく、45℃以下が極めて好ましい。反応温度Tは、優れた研磨速度を維持しつつ保管安定性を更に高めやすくなる観点で、35℃以上がより好ましい。
【0053】
4価金属元素の塩としては、金属をMとして示すと、M(NO
3)
4、M(SO
4)
2、M(NH
4)
2(NO
3)
6、M(NH
4)
4(SO
4)
4等が挙げられる。これらの塩は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
金属塩溶液における4価金属元素の塩の濃度(金属塩濃度)C
aの上限は、優れた研磨速度と優れた砥粒の安定性とを両立しやすくなる点、及び、取り扱いが容易になる点で、金属塩溶液の全体を基準として1.000mol/L以下が好ましく、0.500mol/L以下がより好ましく、0.300mol/L以下が更に好ましく、0.200mol/L以下が特に好ましい。金属塩濃度C
aの下限は、急激に反応が起こることを抑制しやすくなる(pHの上昇を穏やかにしやすくなる)点で、金属塩溶液の全体を基準として0.010mol/L以上が好ましく、0.020mol/L以上がより好ましく、0.030mol/L以上が更に好ましい。
【0055】
アルカリ液のアルカリ源としては、特に制限はないが、有機塩基、無機塩基等が挙げられる。有機塩基としては、グアニジン、トリエチルアミン、キトサン等の含窒素有機塩基;ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、イミダゾール等の含窒素複素環有機塩基;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム等のアンモニウム塩などが挙げられる。無機塩基としては、アンモニア、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の無機塩などが挙げられる。アルカリ源は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0056】
アルカリ源は、急激な反応を抑制しやすくなる観点から、弱い塩基性を示すことが好ましい。アルカリ源の中でも、含窒素複素環有機塩基が好ましく、中でも、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン及びイミダゾールがより好ましく、ピリジン及びイミダゾールが更に好ましく、イミダゾールが特に好ましい。
【0057】
アルカリ液におけるアルカリ濃度(塩基の濃度、アルカリ源の濃度)C
bの上限は、pHの上昇を緩やかにする観点から、アルカリ液の全体を基準として、15.0mol/L以下が好ましく、12.0mol/L以下がより好ましく、10.0mol/L以下が更に好ましく、5.0mol/L以下が特に好ましい。アルカリ濃度C
bの下限は特に限定されないが、生産性の観点から、アルカリ液の全体を基準として、0.001mol/L以上が好ましい。
【0058】
アルカリ液におけるアルカリ濃度は、選択されるアルカリ源により適宜調整されることが好ましい。例えば、アルカリ源の共役酸のpKaが20以上であるアルカリ源の場合、アルカリ濃度の上限は、pHの上昇を緩やかにする観点から、アルカリ液の全体を基準として0.10mol/L以下が好ましく、0.05mol/L以下がより好ましく、0.01mol/L以下が更に好ましい。アルカリ濃度の下限は特に限定されないが、生産性の観点から、アルカリ液の全体を基準として、0.001mol/L以上が好ましい。
【0059】
アルカリ源の共役酸のpKaが12以上20未満であるアルカリ源の場合、アルカリ濃度の上限は、pHの上昇を緩やかにする観点から、アルカリ液の全体を基準として1.0mol/L以下が好ましく、0.50mol/L以下がより好ましく、0.10mol/L以下が更に好ましい。アルカリ濃度の下限は特に限定されないが、生産性の観点から、アルカリ液の全体を基準として、0.01mol/L以上が好ましい。
【0060】
アルカリ源の共役酸のpKaが12未満であるアルカリ源の場合、アルカリ濃度の上限は、pHの上昇を緩やかにする観点から、アルカリ液の全体を基準として15.0mol/L以下が好ましく、10.0mol/L以下がより好ましく、5.0mol/L以下が更に好ましい。アルカリ濃度の下限は特に限定されないが、生産性の観点から、アルカリ液の全体を基準として、0.1mol/L以上が好ましい。
【0061】
具体的なアルカリ源について、アルカリ源の共役酸のpKaが20以上であるアルカリ源としては、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(pKa:25)等が挙げられる。アルカリ源の共役酸のpKaが12以上20未満であるアルカリ源としては、水酸化カリウム(pKa:16)、水酸化ナトリウム(pKa:13)等が挙げられる。アルカリ源の共役酸のpKaが12未満であるアルカリ源としては、アンモニア(pKa:9)、イミダゾール(pKa:7)等が挙げられる。使用するアルカリ源の共役酸のpKa値は、アルカリ濃度が適切に調整される限り、特に限定されるものではないが、アルカリ源の共役酸のpKaは、20未満であることが好ましく、12未満であることがより好ましく、10未満であることが更に好ましく、8未満であることが特に好ましい。
【0062】
金属塩溶液とアルカリ液とを混合して得られる混合液のpHは、金属塩溶液及びアルカリ液の混合後の安定状態において、混合液の安定性の観点から、1.5以上が好ましく、1.8以上がより好ましく、2.0以上が更に好ましい。混合液のpHは、混合液の安定性の観点から、7.0以下が好ましく、6.0以下がより好ましく、5.5以下が更に好ましい。
【0063】
混合液のpHは、pHメータ(例えば、横河電機株式会社製の型番PH81)で測定することができる。pHとしては、例えば、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液:pH4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液:pH6.86(25℃))を用いて、2点校正した後、測定対象の液体に電極を入れて、2分以上経過して安定した後の値を採用する。
【0064】
(濃度比:C
r)
C
rは、金属塩溶液とアルカリ液とを混合する際の指標である。C
rは、例えば、下記式(1)で示されるものであり、アルカリ液のアルカリ濃度に対する金属塩溶液の金属塩濃度の比率(濃度比:金属塩濃度/アルカリ濃度)である。
C
r=100×C
a/C
b ・・・(1)
[式(1)中、C
aは、金属塩溶液における金属塩濃度(mol/L)を示し、C
bは、アルカリ液におけるアルカリ濃度(mol/L)を示す。]
【0065】
濃度比C
rを制御することにより、混合液のpH変化量ΔpHを制御することができる。また、後述するパラメータYを制御することができる。ここで、pH変化量ΔpHとは、金属塩溶液とアルカリ液との混合開始時から、混合液のpHが一定のpHに達して安定するまでの間における単位時間(1分間)当たりのpHの変化量の平均値である。濃度比C
rの上限は、粒子から脱離し得る陰イオン(X
c−)を予め粒子から脱離させることによって保管安定性が高い4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすくなる観点から、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が更に好ましく、18以下が特に好ましい。濃度比C
rの下限は、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすくなる観点から、0.2以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.5以上が更に好ましく、2.0以上が特に好ましく、2.5以上が極めて好ましい。
【0066】
前記式(1)の各パラメータを制御することで濃度比C
rが所定の値となるように調整することができる。以下、濃度比C
rを調整する際に用いる各パラメータについて更に詳細に説明する。
【0067】
(金属塩濃度:C
a)
金属塩溶液における金属塩濃度C
aを制御することにより、後述するパラメータYを制御することができる。具体的には、金属塩濃度C
aを小さくすることによりパラメータYの値が小さくなり、金属塩濃度C
aを大きくすることによりパラメータYの値が大きくなる傾向がある。金属塩濃度C
aの好ましい範囲は前記のとおりである。
【0068】
(アルカリ濃度:C
b)
アルカリ液のアルカリ濃度C
bを制御することにより、後述するパラメータYを制御することができる。具体的には、アルカリ濃度C
bを小さくすることによりパラメータYの値が大きくなり、アルカリ濃度C
bを小さくすることによりパラメータYの値が小さくなる傾向がある。アルカリ濃度C
bの好ましい範囲は前記のとおりである。
【0069】
(パラメータY)
4価金属元素の水酸化物粒子は、下記式(2a)で示されるパラメータYが18以上である条件で金属塩溶液とアルカリ液とを混合して、4価金属元素の塩とアルカリ源とを反応させることにより得ることが好ましい。
Y=k
α×(t/60)
β×C
rγ×N
δ ・・・(2a)
[式(2a)中、kは、反応温度係数を示し、tは、反応時間(min)を示し、C
rは、金属塩溶液における金属塩濃度とアルカリ液におけるアルカリ濃度との比率を示し、Nは、混合液の撹拌効率を示し、α,β,γ,δは、構成要素の各パラメータの重み付け係数を示す。]
【0070】
前記式(2a)においてα,β,γ,δは、構成要素の各パラメータの重み付け係数である。α,β,γ,δは、それぞれα=1.5、β=0.15、γ=0.02、δ=0.2であり、これにより上記式(2)が与えられる。α,β,γ,δがこれらの値である理由は後述する。パラメータYが18以上である条件を満たす製造方法により得られる砥粒は、下記条件(a)を満たしやすいと共に、条件(b)及び条件(c)の少なくとも一方を満たしやすく、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨しやすい。
条件(a):砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与える。
条件(b):砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与える。
条件(c):砥粒の含有量を0.0065質量%(65ppm)に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与える。なお、「ppm」は、質量ppm、すなわち「parts per million mass」を意味するものとする。
【0071】
本発明者は、前記混合液を30℃以上に調整して得られる砥粒が条件(a)を満たす場合に、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨しやすくなると共に、保管安定性を向上させやすくなることを見出した。また、前記砥粒が条件(b)及び条件(c)の少なくとも一方を更に満たす場合に、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨しやすくなると共に、保管安定性を向上させやすくなることを見出した。また、本発明者は、前記条件を満たす砥粒を含む研磨液及びスラリーが目視で若干黄色味を帯びており、研磨液及びスラリーの黄色味が濃くなるほど研磨速度が向上することを見出した。
【0072】
本発明者は、検討の結果、4価金属元素の水酸化物粒子の製造に際して、4価金属元素の塩とアルカリ源との反応を穏やかに且つ均一に進行させることで、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨可能な4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすくなることを見出した。そして、そのような反応条件で作製した4価金属元素の水酸化物粒子は、金属塩溶液とアルカリ液との混合液の温度が30℃以上であることによる安定性向上効果が、より効果的に得られることがわかった。このような知見に基づき、本発明者は、式(2)のパラメータYを制御することにより、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨可能であり且つ保管安定性が高い4価金属元素の水酸化物粒子を製造しやすくなることを見出した。具体的には、式(2)の各パラメータをパラメータYが18以上になるように調整することで前記4価金属元素の水酸化物粒子を製造しやすくなる。
【0073】
前記パラメータYの値が18以上であることによって、被研磨材料の研磨速度に優れた砥粒が得られやすくなる傾向があり、前記反応温度Tが30℃以上であることによる安定性向上効果をより効果的に得ることができる。前記金属塩溶液と前記アルカリ液との混合液の温度が30℃以上である場合には、パラメータYの値は過度に大きくしなくてもよい。また、反応温度Tが高くなるほど、研磨速度は若干低下する場合があるため、この場合はパラメータYの値をできるだけ大きくすることが好ましい。パラメータYの下限は、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすくなる観点から、18以上が好ましく、20以上がより好ましい。パラメータYの上限は、特に制限はないが、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすくなる観点、及び、生産性(生産の容易性、生産に必要な時間等)に優れる観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下が更に好ましい。
【0074】
前記式(2)の各パラメータを制御することでパラメータYが所定の値となるように調整することができる。以下、パラメータYを調整する際に用いる各パラメータについて、式(2)を与える式(2a)に基づき更に詳細に説明する。
【0075】
本発明者は前記知見に基づき、式(2a)のパラメータYを設定した。式(2a)について説明するために、式(2a)を以下の2つの要素に分解して考える。
要素A:k
α×(t/60)
β×C
rγ
要素B:N
δ
【0076】
要素Aは、主に本合成での反応性に関する指標として設定される。各パラメータに関して、検討の結果、反応温度係数kは、例えば下記式(3)で示されるものである。
k=1/[ln(273+T)−5.52] ・・・(3)
[式(3)中、lnは、自然対数を示し、Tは、混合液の温度(反応温度)を示す。]
【0077】
本発明者は、反応温度T(℃)を高くすることにより粒子の安定性が高まる傾向にある一方で、反応温度係数kが大きい場合には反応がゆっくり進行しすぎるために研磨速度は速いものの保管安定性が低下する傾向があることを見出した。そして、検討の結果、研磨速度及び保管安定性を両立しやすくなる観点では、反応温度係数kは一定の範囲にあることが好ましいと推察される。また、温度係数kは他のパラメータと比較して研磨速度及び保管安定性に与える影響が大きいため、重み付け係数αを1.5と設定した。
【0078】
前記要素Aにおけるtは、反応時間(min)を示すものである。検討の結果、研磨速度及び保管安定性を両立しやすくする観点では、反応時間tは長いことが好ましく、反応時間tが長いほど、アルカリ源が少しずつ供給され、反応が穏やかに進行すると推察される。また、反応時間tの研磨速度及び保管安定性に与える影響を考慮し、重み付け係数βを0.15と設定した。
【0079】
前記要素AにおけるC
rは、上述した濃度比C
rである。
【0080】
本発明者は、検討の結果、4価金属元素の水酸化物粒子の製造に際して、4価金属元素の塩とアルカリ源との反応を穏やかに進行させることで、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨可能である4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすいことを見出した。一方、4価金属元素の塩とアルカリ源との反応を激しく進行させることで、保管安定性が高い4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすいことを見出した。このような知見に基づき、本発明者は、式(1)の濃度比C
rを制御することにより、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨可能であり且つ保管安定性が高い4価金属元素の水酸化物粒子を製造しやすいことを見出した。具体的には、式(1)の各パラメータを一定の範囲に調整することで4価金属元素の水酸化物粒子を製造しやすくなる。
【0081】
これらのパラメータは、4価金属元素の塩とアルカリ源との混合状態に対して単なる相加ではなく相乗で効くと考えられるため、式(1)においてC
aと1/C
bとの積を設定し、式(1)を見出すに至った。また、濃度比C
rの研磨速度及び保管安定性に与える影響を考慮し、重み付け係数γを0.02と設定した。
【0082】
一方、要素Bは、主に本合成での溶液の拡散性に関する指標として設定した。撹拌効率Nは、混合液を撹拌混合するときの拡散の速さの度合いを示す指標である。検討の結果、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨可能な4価金属元素の水酸化物粒子を得る観点では、撹拌効率Nは大きいことが好ましく、撹拌効率Nが大きいほど、金属塩溶液とアルカリ液とが均一に混合されるため、反応が均一に進行すると推察される。しかし、保管安定性が高い4価金属元素の水酸化物粒子を得る観点では、撹拌効率Nは、小さいことが好ましく、撹拌効率Nが小さいほど、金属塩溶液とアルカリ液との混合がゆっくり進むため局所的に反応が進行しやすくなることで、後述する陰イオン(X
c―)が予め粒子から脱離することとなると推察される。撹拌効率Nは、例えば下記式(4)で示されるものであり、式(4)における混合液を撹拌する撹拌羽根の回転数R、撹拌羽根の回転半径r、撹拌羽根の面積S、及び、混合液の液量Qに依存する。また、撹拌効率Nの研磨速度及び保管安定性に与える影響を考慮し、重み付け係数δを0.2と設定した。
N=(10×R×r
1.6×S
0.7)/Q ・・・(4)
[式(4)中、Rは、混合液を撹拌する撹拌羽根の回転数(min
−1)を示し、rは、撹拌羽根の回転半径(m)を示し、Sは、撹拌羽根の面積(m
2)を示し、Qは、混合液の液量(m
3)を示す。]
【0083】
また、攪拌羽根以外の攪拌手段(例えば、ポンプの循環、ガス吹き込み攪拌)を用いた場合では、前記式(4)の10×R×r
1.6×S
0.7の部分を循環流量F(m
3/min)に置換えることでNを算出することが可能である。すなわち、
N=F/Q ・・・(4′)
として求めることができる。
【0084】
そして、これら要素A、要素Bで設定したパラメータは、4価金属元素の水酸化物の生成反応における反応性及び反応物質の拡散性に対して、それぞれ単独に寄与するのではなく、互いに連動して寄与すると考えられる。そのため、単なる相加ではなく相乗で効くと考えられることから、式(2a)において要素A及び要素Bの積を設定し、パラメータYとして式(2a)及び式(2)を見出すに至った。
【0085】
なお、前記式(4)において、撹拌羽根の回転数R及び撹拌羽根の回転半径rは、撹拌羽根の線速度を決定づけるパラメータであり、所定の吸光度及び所定の光透過率を満たす砥粒を得るために特に重要な要素である。線速度とは、単位時間(1分間)及び単位面積(m
2)当たりの流体の流量を示すものであり、物質の拡散度合いを示す指標である。
【0086】
ここで、線速度uは、例えば下記式(5)で示されるものである。
u=ω×r=2π×R×r ・・・(5)
[式(5)中、Rは、前記撹拌羽根の回転数(min
−1)を示し、rは、前記撹拌羽根の回転半径(m)を示す。]
式(5)で示される線速度u(m/min)の下限は、物質がうまく拡散せず局在化してしまい反応が不均一になってしまうことを更に抑制する観点から、5.00m/min以上が好ましく、10.00m/min以上がより好ましく、20.00m/min以上が更に好ましく、50.00m/min以上が特に好ましく、70.00m/min以上が極めて好ましい。線速度uの上限は、特に制限されないが、製造時の液はねを抑制する観点から、3000.00m/min以下が好ましい。
【0087】
(反応温度:T)
合成時の反応温度(合成温度)Tを制御することにより、パラメータYを制御することができる。具体的には、反応温度Tを低くする、すなわち反応温度係数kを低くすることにより、パラメータYの値が高くなる傾向があり、反応温度係数kを高くすることにより、パラメータYの値が低くなる傾向がある。反応温度Tの好ましい範囲は前記のとおりである。
【0088】
金属塩溶液の4価金属元素の塩と、アルカリ液のアルカリ源とは、一定の反応温度T(例えば、反応温度T±3℃の温度範囲)において反応させることが好ましい。なお、反応温度の調整方法は、特に限定されないが、例えば、水を張った水槽に金属塩溶液又はアルカリ液の一方の液の入った容器を入れ、水槽の水温を外部循環装置クールニクスサーキュレータ(東京理化器械株式会社(EYELA)製、製品名クーリングサーモポンプ CTP101)で調整しながら、金属塩溶液とアルカリ液とを混合する方法がある。
【0089】
(反応時間:t)
合成時の反応時間tを制御することにより、パラメータYを制御することができる。反応時間tの上限は、生産性の観点から、5000min以下が好ましく、3000min以下がより好ましく、1000min以下が更に好ましい。反応時間tの下限は、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨できる4価金属元素の水酸化物粒子が得られやすくなる観点から、60min以上が好ましく、120min以上がより好ましく、240min以上が更に好ましく、360min以上が特に好ましい。
【0090】
(撹拌効率:N)
撹拌効率Nの下限は、局所における反応の偏りを更に抑制する観点から、10以上が好ましく、15以上がより好ましく、18以上が更に好ましく、20以上が特に好ましい。撹拌効率Nの上限は、局所における反応の偏りを抑制し過ぎることを防ぐと共に、製造中の液はねを抑制する観点から、500以下が好ましい。
【0091】
(撹拌羽根の回転数:R)
回転数Rを制御することによりパラメータYを制御することができる。具体的には、回転数Rを大きくすることにより、パラメータYの値が高くなる傾向がある。
【0092】
回転数Rは撹拌羽根の回転半径rに大きく依存するが、回転数Rの下限は、物質がうまく拡散せず局在化してしまい反応が不均一になってしまうことを更に抑制する観点から、30min
−1以上が好ましく、50min
−1以上がより好ましく、80min
−1以上が更に好ましい。回転数Rは撹拌羽根の大きさ、形状により適宜調整を要するが、回転数Rの上限は、局所における反応の偏りを抑制し過ぎることを防ぐと共に液はねを抑制する観点から、1000min
−1以下が好ましい。
【0093】
(撹拌羽根の回転半径:r)
回転半径rを制御することによりパラメータYを制御することができる。具体的には、回転半径rを大きくすることにより、パラメータYの値が高くなる傾向がある。
【0094】
回転半径rの下限は、撹拌効率の観点から、0.001m以上が好ましく、0.01m以上がより好ましい。回転半径rの上限は、局所における反応の偏りを抑制し過ぎることを防ぐと共に、取扱いの容易さの観点から、10m以下が好ましい。なお、撹拌羽根が複数存在する場合には、回転半径の平均値が前記範囲であることが好ましい。
【0095】
(撹拌羽根の面積:S)
混合液を撹拌する撹拌羽根の面積Sとは、撹拌羽根の一方面の表面積を意味しており、撹拌羽根が複数存在する場合には、各撹拌羽根の面積の合計を意味する。面積Sを制御することによりパラメータYを制御することができる。具体的には、面積Sを大きくすることにより、パラメータYの値が高くなる傾向がある。
【0096】
面積Sは、混合液の液量Qの大きさに応じて調整される。例えば、混合液の液量Qが0.0010〜0.0050m
3である場合には、面積Sは、0.0005〜0.0100m
2であることが好ましい。
【0097】
(混合液の液量:Q)
混合液の液量Qは、金属塩溶液の液量及びアルカリ液の液量(Q
b)の総液量である。例えば、原料として50質量%の金属塩溶液を用いる場合は、50質量%の金属塩溶液の液量(Q
a)と、それを希釈する水の液量(Q
w)と、アルカリ液の液量(Q
b)との総液量となる。混合液の液量は、特に制限されないが、例えば0.0010〜10.00m
3である。
【0098】
前記により作製された4価金属元素の水酸化物粒子は、不純物を含むことがあるが、当該不純物を除去してもよい。不純物を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、遠心分離、フィルタープレス、限外ろ過等の方法が挙げられる。これにより、後述する波長450〜600nmの光に対する吸光度を調整することができる。なお、金属塩溶液とアルカリ液とを混合して得られる混合液は、4価金属元素の水酸化物粒子を含んでおり、当該混合液を用いて被研磨材料を研磨してもよい。
【0099】
<スラリーの製造>
本実施形態に係るスラリーの製造方法は、前記砥粒の製造方法により砥粒を得る砥粒製造工程と、当該砥粒製造工程において得られた砥粒と、水とを混合してスラリーを得るスラリー製造工程と、を備える。スラリー製造工程では、前記砥粒を水に分散させる。前記砥粒を水に分散させる方法としては、特に制限はないが、撹拌による分散方法;ホモジナイザー、超音波分散機又は湿式ボールミル等による分散方法などが挙げられる。なお、砥粒製造工程において得られた砥粒と、他の種類の砥粒と、水とを混合してスラリーを得てもよい。
【0100】
<研磨液の製造>
研磨液の製造方法は、前記スラリーの製造方法によりスラリーを得るスラリー製造工程と、当該スラリーと添加剤とを混合して研磨液を得る研磨液調製工程と、を備える態様であってもよい。この場合、砥粒を含むスラリーと、添加剤を含む添加液とに分けた、いわゆる二液タイプの研磨液として各液を準備し、スラリーと添加液とを混合して研磨液を得てもよい。また、研磨液の製造方法は、前記砥粒製造工程と、当該砥粒製造工程において得られた砥粒と、添加剤と、水とを混合して研磨液を得る研磨液調製工程と、を備える態様であってもよい。この場合、砥粒製造工程において得られた砥粒と、他の種類の砥粒と、水とを混合してもよい。
【0101】
<研磨液>
本実施形態に係る研磨液は、砥粒と添加剤と水とを少なくとも含有する。以下、各構成成分について説明する。
【0102】
(砥粒)
砥粒は、4価金属元素の水酸化物を含むことを特徴とする。「4価金属元素の水酸化物」は、4価の金属(M
4+)と、少なくとも一つの水酸化物イオン(OH
−)とを含む化合物である。4価金属元素の水酸化物は、水酸化物イオン以外の陰イオン(例えば硝酸イオンNO
3−、硫酸イオンSO
42−)を含んでいてもよい。例えば、4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素に結合した陰イオン(例えば硝酸イオンNO
3−、硫酸イオンSO
42−)を含んでいてもよい。
【0103】
4価金属元素は、希土類元素及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。4価金属元素としては、研磨速度を更に向上させる観点から、希土類元素が好ましい。4価を取りうる希土類元素としては、セリウム、プラセオジム、テルビウム等のランタノイドなどが挙げられ、中でも、入手が容易であり且つ研磨速度に更に優れる観点から、セリウム(4価セリウム)が好ましい。希土類元素の水酸化物とジルコニウムの水酸化物とを併用してもよく、希土類元素の水酸化物から二種以上を選択して使用することもできる。
【0104】
本実施形態に係る研磨液は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の特性を損なわない範囲で他の種類の砥粒を併用することができる。具体的には、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の砥粒を使用することができる。
【0105】
砥粒中における4価金属元素の水酸化物の含有量は、砥粒全質量基準で50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が非常に好ましく、98質量%以上がより一層好ましく、99質量%以上が更に好ましい。砥粒は、実質的に4価金属元素の水酸化物からなる(砥粒の実質的に100質量%が4価金属元素の水酸化物の粒子である)ことが特に好ましい。
【0106】
砥粒中における4価セリウムの水酸化物の含有量は、砥粒全質量基準で50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、90質量%以上が極めて好ましく、95質量%以上が非常に好ましく、98質量%以上がより一層好ましく、99質量%以上が更に好ましい。砥粒は、化学的活性が高く研磨速度に更に優れる点で、実質的に4価セリウムの水酸化物からなる(砥粒の実質的に100質量%が4価セリウムの水酸化物の粒子である)ことが特に好ましい。
【0107】
本実施形態に係る研磨液の構成成分中において、4価金属元素の水酸化物は研磨特性に与える影響が大きいものと考えられる。そのため、4価金属元素の水酸化物の含有量を調整することにより、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が向上し、研磨速度を更に向上させることができる。すなわち、4価金属元素の水酸化物の含有量は、4価金属元素の水酸化物の機能を充分に発現しやすくなる点で、研磨液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。4価金属元素の水酸化物の含有量は、砥粒の凝集を避けることが容易になると共に、被研磨面との化学的な相互作用が良好となり、砥粒の特性を有効に活用できる点で、研磨液全質量基準で8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。
【0108】
本実施形態に係る研磨液において、砥粒の含有量の下限は、特に制限はないが、所望の研磨速度が得られやすくなる点で、研磨液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。砥粒の含有量の上限は、特に制限はないが、砥粒の凝集を避けることが容易になると共に、砥粒が効果的に被研磨面に作用して研磨をスムーズに進行させることができる点で、研磨液全質量基準で10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.5質量%以下が極めて好ましく、0.3質量%以下が非常に好ましい。
【0109】
砥粒の平均二次粒子径(以下、特に断らない限り「平均粒子径」という)がある程度小さい場合、被研磨面に接する砥粒の比表面積が増大することにより研磨速度を更に向上させることができると共に、機械的作用が抑えられて研磨傷を更に低減できる。そのため、平均粒子径の上限は、更に優れた研磨速度が得られると共に研磨傷を更に低減できる点で、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下が更に好ましく、80nm以下が特に好ましく、60nm以下が極めて好ましく、40nm以下が非常に好ましい。平均粒子径の下限は、更に優れた研磨速度が得られると共に研磨傷を更に低減できる点で、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が更に好ましい。
【0110】
砥粒の平均粒子径は、光子相関法で測定でき、具体的には例えば、マルバーン社製の装置名:ゼータサイザー3000HS、ベックマンコールター社製の装置名:N5等で測定できる。N5を用いた測定方法は、具体的には例えば、砥粒の含有量を0.2質量%に調整した水分散液を調製し、この水分散液を1cm角のセルに約4mL入れ、装置内にセルを設置する。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに調整し、25℃において測定を行うことで得られる値を砥粒の平均粒子径として採用することができる。
【0111】
[吸光度]
前記混合液を30℃以上に調整して得られる砥粒が、該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対する吸光度1.00以上を与える場合に、研磨速度を向上させやすくなると共に、保管安定性を向上させやすくなる。この理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて生成するM(OH)
aX
bを含む粒子は、波長400nmの光を吸光するため、M(OH)
aX
bの存在量が増加して波長400nmの光に対する吸光度が高くなるに伴い、研磨速度が向上するものと考えられる。
【0112】
ここで、M(OH)
aX
b(例えばM(OH)
3X)の波長400nmの吸収ピークは、後述する波長290nmの吸収ピークよりもはるかに小さいことが確認されている。これに対し、本発明者は、砥粒含有量が比較的多く、吸光度が大きく検出されやすい砥粒含有量1.0質量%の水分散液を用いて吸光度の大きさを検討した結果、当該水分散液において波長400nmの光に対する吸光度1.00以上を与える砥粒を用いる場合に、研磨速度の向上効果と保管安定性に優れる傾向があることを見出した。なお、前記の通り波長400nmの光に対する吸光度は砥粒に由来するものと考えられるため、波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与える砥粒に代えて、波長400nmの光に対して1.00以上の吸光度を与える物質(例えば黄色を呈する色素成分)を含む研磨液では、保管安定性を維持しつつ優れた研磨速度で被研磨材料を研磨することができないことはいうまでもない。
【0113】
波長400nmの光に対する吸光度は、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨しやすくなる観点で、1.50以上が好ましく、1.55以上がより好ましく、1.60以上が更に好ましい。
【0114】
一方で、前記のとおりXの存在量が増加するに伴い4価金属元素の水酸化物粒子の構造安定性が低下する結果が得られている。これに対し、本発明者は、波長400nmの光に対する吸光度を指標としてM(OH)
aX
bの存在量を調整して、研磨速度と保管安定性とを両立することを見出した。そして、本発明者は、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長400nmの光に対して吸光度1.00以上1.50未満を与える砥粒を用いることにより、優れた研磨速度を維持しつつ、優れた保管安定性(例えば、60℃で72時間保管した際の研磨速度の安定性)が得られやすくなることを見出した。このような観点から、波長400nmの光に対する吸光度は、1.00以上が好ましく、1.05以上がより好ましく、1.10以上が更に好ましく、1.15以上が特に好ましく、1.20以上が極めて好ましい。
【0115】
本発明者は、前記砥粒が、砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与える場合に、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨することができることを見出した。
【0116】
砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長290nmの光に対する吸光度1.000以上を与える砥粒を用いることにより、研磨速度の向上効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて生成するM(OH)
aX
b(例えばM(OH)
3X)を含む粒子は、計算上、波長290nm付近に吸収のピークを有し、例えばCe
4+(OH
−)
3NO
3−からなる粒子は波長290nmに吸収のピークを有する。そのため、M(OH)
aX
bの存在量が増加して波長290nmの光に対する吸光度が高くなるに伴い、研磨速度が向上するものと考えられる。
【0117】
ここで、波長290nm付近の光に対する吸光度は、測定限界を超えるほど大きく検出される傾向がある。これに対し、本発明者は、砥粒の含有量が比較的少なく、吸光度が小さく検出されやすい砥粒含有量0.0065質量%の水分散液を用いて吸光度の大きさを検討した結果、当該水分散液において波長290nmの光に対する吸光度1.000以上を与える砥粒を用いる場合に、研磨速度の向上効果に優れることを見出した。また、本発明者は、吸光物質に吸収されると当該吸光物質が黄色を呈する傾向のある波長400nm付近の光とは別に、波長290nm付近の光に対する砥粒の吸光度が高いほど、このような砥粒を用いた研磨液及びスラリーの黄色味が濃くなることを見出し、研磨液及びスラリーの黄色味が濃くなるほど研磨速度が向上することを見出した。そして、本発明者は、砥粒含有量0.0065質量%の水分散液における波長290nmの光に対する吸光度と、砥粒含有量1.0質量%の水分散液における波長400nmの光に対する吸光度とが相関することを見出した。
【0118】
波長290nmの光に対する吸光度の下限は、更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨する観点で、1.000以上が好ましく、1.050以上がより好ましく、1.100以上が更に好ましく、1.130以上が特に好ましく、1.150以上が極めて好ましく、1.180以上が非常に好ましい。波長290nmの光に対する吸光度の上限は、特に制限はないが、10.000以下が好ましく、5.000以下がより好ましく、3.000以下が更に好ましい。
【0119】
4価金属元素の水酸化物(例えばM(OH)
aX
b)は、波長450nm以上、特に波長450〜600nmの光に対して吸光を有していない傾向がある。従って、不純物を含むことにより研磨に対して悪影響が生じることを抑制して更に優れた研磨速度で被研磨材料を研磨する観点で、砥粒は、該砥粒の含有量を0.0065質量%(65ppm)に調整した水分散液において波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものであることが好ましい。すなわち、砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において波長450〜600nmの範囲における全ての光に対する吸光度が0.010を超えないことが好ましい。波長450〜600nmの光に対する吸光度の上限は、0.005以下がより好ましく、0.001以下が更に好ましい。波長450〜600nmの光に対する吸光度の下限は、0が好ましい。
【0120】
水分散液における吸光度は、例えば、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)を用いて測定できる。具体的には例えば、砥粒の含有量を1.0質量%又は0.0065質量%に調整した水分散液を測定サンプルとして調製する。この測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、装置内にセルを設置する。次に、波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、得られたチャートから吸光度を判断する。
【0121】
砥粒の含有量が1.0質量%より少なくなるよう過度に希釈して波長400nmの光に対する吸光度を測定した場合に、吸光度が1.00以上を示すようであれば、砥粒の含有量を1.0質量%とした場合にも吸光度が1.00以上であるとして吸光度をスクリーニングしてもよい。砥粒の含有量が0.0065質量%より少なくなるよう過度に希釈して波長290nmの光に対する吸光度を測定した場合に、吸光度が1.000以上を示すようであれば、砥粒の含有量を0.0065質量%とした場合にも吸光度が1.000以上であるとして吸光度をスクリーニングしてもよい。砥粒の含有量が0.0065質量%より多くなるように希釈して波長450〜600nmの光に対する吸光度を測定した場合に、吸光度が0.010以下を示すようであれば、砥粒の含有量を0.0065質量%とした場合にも吸光度が0.010以下であるとして吸光度をスクリーニングしてもよい。
【0122】
[光透過率]
本実施形態に係る研磨液は、可視光に対する透明度が高い(目視で透明又は透明に近い)ことが好ましい。具体的には、本実施形態に係る研磨液に含まれる砥粒は、該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものであることが好ましい。これにより、添加剤の添加に起因する研磨速度の低下を更に抑制することができるため、研磨速度を維持しつつ他の特性を得ることが容易になる。この観点で、前記光透過率の下限は、60%/cm以上がより好ましく、70%/cm以上が更に好ましく、80%/cm以上が特に好ましく、90%/cm以上が極めて好ましく、95%/cm以上が非常に好ましく、98%/cm以上がより一層好ましく、99%/cm以上が更に好ましい。光透過率の上限は100%/cmである。
【0123】
このように砥粒の光透過率を調整することで研磨速度の低下を抑制することが可能な理由は詳しくは分かっていないが、本発明者は以下のように考えている。4価金属元素(セリウム等)の水酸化物を含む砥粒がもつ砥粒としての作用は、機械的作用よりも化学的作用の方が支配的になると考えられる。そのため、砥粒の大きさよりも砥粒の数の方が、より研磨速度に寄与すると考えられる。
【0124】
砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において光透過率が低い場合、その水分散液に存在する砥粒は、粒子径の大きい粒子(以下「粗大粒子」という。)が相対的に多く存在すると考えられる。このような砥粒を含む研磨液に添加剤(例えばポリビニルアルコール(PVA))を添加すると、
図1に示すように、粗大粒子を核として他の粒子が凝集する。その結果として、単位面積当たりの被研磨面に作用する砥粒数(有効砥粒数)が減少し、被研磨面に接する砥粒の比表面積が減少するため、研磨速度の低下が引き起こされると考えられる。
【0125】
一方、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において光透過率が高い場合、その水分散液に存在する砥粒は、前記「粗大粒子」が少ない状態であると考えられる。このように粗大粒子の存在量が少ない場合は、
図2に示すように、研磨液に添加剤(例えばポリビニルアルコール)を添加しても、凝集の核になるような粗大粒子が少ないため、砥粒同士の凝集が抑えられるか、又は、凝集粒子の大きさが
図1に示す凝集粒子と比べて小さくなる。その結果として、単位面積当たりの被研磨面に作用する砥粒数(有効砥粒数)が維持され、被研磨面に接する砥粒の比表面積が維持されるため、研磨速度の低下が生じ難くなると考えられる。
【0126】
本発明者の検討では、一般的な粒径測定装置において測定される粒子径が同じ研磨液であっても、目視で透明である(光透過率の高い)もの、及び、目視で濁っている(光透過率の低い)ものがありえることがわかった。このことから、前記のような作用を起こしうる粗大粒子は、一般的な粒径測定装置で検知できないほどのごくわずかの量でも、研磨速度の低下に寄与すると考えられる。
【0127】
また、粗大粒子を減らすためにろ過を複数回繰り返しても、添加剤により研磨速度が低下する現象はさほど改善せず、前記吸光度に起因する研磨速度の向上効果が充分に発揮されない場合があることがわかった。そこで、本発明者は、砥粒の製造方法を工夫する等して、水分散液において光透過率の高い砥粒を使用することによって前記問題を解決できることを見出した。
【0128】
前記光透過率は、波長500nmの光に対する透過率である。前記光透過率は、分光光度計で測定されるものであり、具体的には例えば、株式会社日立製作所製の分光光度計U3310(装置名)で測定される。
【0129】
より具体的な測定方法としては、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を測定サンプルとして調製する。この測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、装置内にセルをセットし測定を行う。なお、砥粒の含有量が1.0質量%より大きい水分散液において50%/cm以上の光透過率を有する場合は、これを希釈して1.0質量%とした場合も光透過率は50%/cm以上となることが明らかである。そのため、砥粒の含有量が1.0質量%より大きい水分散液を用いることにより、簡便な方法で光透過率をスクリーニングすることができる。
【0130】
砥粒が水分散液において与える前記吸光度及び光透過率は、安定性に優れることが好ましい。例えば、水分散液を60℃で3日間(72時間)保持した後において、波長400nmの光に対する吸光度は1.00以上であることが好ましく、波長290nmの光に対する吸光度は1.000以上であることが好ましく、波長450〜600nmの光に対する吸光度は0.010以下であることが好ましく、波長500nmの光に対する光透過率は50%/cm以上であることが好ましい。これらの吸光度及び光透過率の更なる好ましい範囲は、砥粒について上述した範囲と同様である。
【0131】
研磨液に含まれる砥粒が水分散液において与える吸光度及び光透過率は、砥粒以外の固体成分、及び、水以外の液体成分を除去した後、所定の砥粒含有量の水分散液を調製し、当該水分散液を用いて測定することができる。固体成分又は液体成分の除去には、研磨液に含まれる成分によっても異なるが、数千G以下の重力加速度をかけられる遠心機を用いた遠心分離、数万G以上の重力加速度をかけられる超遠心機を用いた超遠心分離等の遠心分離法;分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法;自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、限外ろ過等のろ過法;減圧蒸留、常圧蒸留等の蒸留法などを用いることができ、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0132】
例えば、重量平均分子量が数万以上(例えば5万以上)の化合物を含む場合は、クロマトグラフィー法、ろ過法等が挙げられ、中でも、ゲル浸透クロマトグラフィー及び限外ろ過が好ましい。ろ過法を用いる場合、研磨液に含まれる砥粒は、適切な条件の設定により、フィルタを通過させることができる。重量平均分子量が数万以下(例えば5万未満)の化合物を含む場合は、クロマトグラフィー法、ろ過法、蒸留法等が挙げられ、ゲル浸透クロマトグラフィー、限外ろ過及び減圧蒸留が好ましい。他の種類の砥粒が含まれる場合、ろ過法、遠心分離法等が挙げられ、ろ過の場合はろ液に、遠心分離の場合は液相に、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒がより多く含まれる。
【0133】
クロマトグラフィー法で砥粒を分離する方法としては、例えば、下記条件によって、砥粒成分を分取する、及び/又は、他成分を分取することができる。
【0134】
試料溶液:研磨液100μL
検出器:株式会社日立製作所製UV−VISディテクター、商品名「L−4200」、波長:400nm
インテグレータ:株式会社日立製作所製GPCインテグレータ、商品名「D−2500」
ポンプ:株式会社日立製作所製、商品名「L−7100」
カラム:日立化成株式会社製水系HPLC用充填カラム、商品名「GL−W550S」
溶離液:脱イオン水
測定温度:23℃
流速:1mL/分(圧力は40〜50kg/cm
2程度)
測定時間:60分
【0135】
なお、クロマトグラフィーを行う前に、脱気装置を用いて溶離液の脱気処理を行うことが好ましい。脱気装置を使用できない場合は、溶離液を事前に超音波等で脱気処理することが好ましい。
【0136】
研磨液に含まれる成分によっては、上記条件でも砥粒成分を分取できない可能性があるが、その場合、試料溶液量、カラム種類、溶離液種類、測定温度、流速等を最適化することで分離することができる。また、研磨液のpHを調整することで、研磨液に含まれる成分の留出時間を調整し、砥粒と分離できる可能性がある。研磨液に不溶成分がある場合、必要に応じ、ろ過、遠心分離等で不溶成分を除去することが好ましい。
【0137】
(添加剤)
本実施形態に係る研磨液は、絶縁材料(例えば酸化ケイ素)に対して特に優れた研磨速度を得ることができるため、絶縁材料を有する基体を研磨する用途に特に適している。本実施形態に係る研磨液によれば、添加剤を適宜選択することにより、研磨速度と、研磨速度以外の研磨特性とを高度に両立させることができる。
【0138】
添加剤としては、例えば、砥粒の分散性を高める分散剤、研磨速度を向上させる研磨速度向上剤、平坦化剤(研磨後の被研磨面の凹凸を減らす平坦化剤、研磨後の基体のグローバル平坦性を向上させるグローバル平坦化剤)、窒化ケイ素又はポリシリコン等のストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択比を向上させる選択比向上剤などの公知の添加剤を特に制限なく使用することができる。
【0139】
分散剤としては、ビニルアルコール重合体及びその誘導体、ベタイン、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。研磨速度向上剤としては、β―アラニンベタイン、ステアリルベタイン等が挙げられる。被研磨面の凹凸を減らす平坦化剤としては、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられる。グローバル平坦化剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクロレイン等が挙げられる。選択比向上剤としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、キトサン等が挙げられる。これらは一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0140】
本実施形態に係る研磨液は、添加剤として、ビニルアルコール重合体及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。この場合、添加剤が砥粒表面を被覆することで、被研磨面に砥粒が付着することが抑制されることから、砥粒の分散性が向上し、砥粒の安定性を更に向上させることができる。また、被研磨面の洗浄性を向上させることもできる。しかしながら、一般に、ポリビニルアルコールのモノマーであるビニルアルコールは単体では安定な化合物として存在しない傾向がある。そのため、ポリビニルアルコールは、一般的に、酢酸ビニルモノマー等のカルボン酸ビニルモノマーを重合してポリカルボン酸ビニルを得た後、これをケン化(加水分解)して得られている。従って、例えば、原料として酢酸ビニルモノマーを使用して得られたビニルアルコール重合体は、−OCOCH
3と、加水分解された−OHとを分子中に官能基として有しており、−OHとなっている割合がケン化度として定義される。つまり、ケン化度が100%ではないビニルアルコール重合体は、実質的に酢酸ビニルとビニルアルコールとの共重合体のような構造を有している。また、ビニルアルコール重合体は、酢酸ビニルモノマー等のカルボン酸ビニルモノマーと、その他のビニル基含有モノマー(例えばエチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル)とを共重合させ、カルボン酸ビニルモノマーに由来する部分の全部又は一部をケン化したものであってもよい。本明細書では、これらを総称して「ビニルアルコール重合体」と定義するが、「ビニルアルコール重合体」とは、理想的には下記構造式を有する重合体である。
【化1】
(式中、nは正の整数を表す)
【0141】
ビニルアルコール重合体の「誘導体」は、ビニルアルコールの単独重合体(すなわちケン化度100%の重合体)の誘導体、及び、ビニルアルコールモノマーと他のビニル基含有モノマー(例えばエチレン、プロピレン、スチレン、塩化ビニル)との共重合体の誘導体を含むものとして定義される。
【0142】
ビニルアルコール重合体の誘導体としては、重合体の一部の水酸基をアミノ基、カルボキシル基、エステル基等で置換したもの、重合体の一部の水酸基を変性したもの等が挙げられる。このような誘導体としては、反応型ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、ゴーセファイマー(登録商標)Z)、カチオン化ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、ゴーセファイマー(登録商標)K)、アニオン化ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、ゴーセラン(登録商標)L、ゴーセナール(登録商標)T)、親水基変性ポリビニルアルコール(例えば、日本合成化学工業株式会社製、エコマティ)等が挙げられる。
【0143】
ビニルアルコール重合体及びその誘導体は、前記のとおり、砥粒の分散剤として機能し、研磨液の安定性を更に向上させる効果がある。ビニルアルコール重合体及びその誘導体の水酸基が、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と相互作用することにより、砥粒の凝集を抑制し、研磨液における砥粒の粒径変化を抑制して安定性を更に向上できるものと考えられる。
【0144】
ビニルアルコール重合体及びその誘導体は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と組み合わせて使用することで、ストッパ材料(例えば窒化ケイ素、ポリシリコン)に対する絶縁材料(例えば酸化ケイ素)の研磨選択比(絶縁材料の研磨速度/ストッパ材料の研磨速度)を高くすることもできる。さらに、ビニルアルコール重合体及びその誘導体は、研磨後の被研磨面の平坦性を向上させることができると共に、被研磨面への砥粒の付着を防止(洗浄性の向上)することもできる。
【0145】
ビニルアルコール重合体及びその誘導体のケン化度は、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択比が更に高められる点で、95mol%以下が好ましい。同様の観点から、ケン化度の上限は、90mol%以下がより好ましく、88mol%以下が更に好ましく、85mol%以下が特に好ましく、83mol%以下が極めて好ましく、80mol%以下が非常に好ましい。
【0146】
ケン化度の下限に特に制限はないが、水への溶解性に優れる観点から、50mol%以上が好ましく、60mol%以上がより好ましく、70mol%以上が更に好ましい。なお、ビニルアルコール重合体及びその誘導体のケン化度は、JIS K 6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して測定することができる。
【0147】
ビニルアルコール重合体及びその誘導体の平均重合度(重量平均分子量)の上限は、特に制限はないが、被研磨材料の研磨速度の低下を更に抑制する観点から、3000以下が好ましく、2000以下がより好ましく、1000以下が更に好ましい。
【0148】
ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択比が更に高められる観点から、平均重合度の下限は、50以上が好ましく、100以上がより好ましく、150以上が更に好ましい。なお、ビニルアルコール重合体及びその誘導体の平均重合度は、JIS K 6726(ポリビニルアルコール試験方法)に準拠して測定することができる。
【0149】
ビニルアルコール重合体及びその誘導体としては、ストッパ材料に対する絶縁材料の研磨選択比、及び、研磨後の基体の平坦性を調整する目的で、ケン化度又は平均重合度等が異なる複数の重合体を組み合わせて用いてもよい。この場合、少なくとも1種のビニルアルコール重合体及びその誘導体のケン化度が95mol%以下であることが好ましく、研磨選択比を更に向上させる観点から、それぞれのケン化度及び配合比から算出した平均のケン化度が95mol%以下であることがより好ましい。これらのケン化度の好ましい範囲については、前記した範囲と同様である。
【0150】
添加剤の含有量は、添加剤の効果がより効果的に得られる観点から、研磨液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.08質量%以上が更に好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。添加剤の含有量は、被研磨材料の研磨速度の低下を更に抑制する観点から、研磨液全質量基準で10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましく、1.0質量%以下が特に好ましい。
【0151】
(水)
本実施形態に係る研磨液における水は、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等が好ましい。水の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた研磨液の残部でよく、特に限定されない。
【0152】
砥粒を水に分散させる方法としては、特に制限はないが、具体的には例えば、撹拌による分散方法;ホモジナイザー、超音波分散機又は湿式ボールミル等による分散方法が挙げられる。
【0153】
[研磨液の特性]
研磨液のpH(25℃)は、更に優れた研磨速度が得られる点で、2.0〜9.0が好ましい。これは、被研磨面の表面電位に対する砥粒の表面電位が良好となり、砥粒が被研磨面に対して作用しやすくなるためと考えられる。研磨液のpHが安定して、砥粒の凝集等の問題が生じにくくなる点で、pHの下限は、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、4.0以上が更に好ましい。砥粒の分散性に優れ、更に優れた研磨速度が得られる点で、pHの上限は、9.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、7.5以下が更に好ましい。研磨液のpHは、前記混合液のpHと同様の方法で測定することができる。
【0154】
研磨液のpHの調整には、従来公知のpH調整剤を特に制限なく使用することができる。pH調整剤としては、具体的には例えば、リン酸、硫酸、硝酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フタル酸、クエン酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、乳酸、安息香酸等のカルボン酸などの有機酸;エチレンジアミン、トルイジン、ピペラジン、ヒスチジン、アニリン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、ピコリン酸、モルホリン、ピペリジン、ヒドロキシルアミン等のアミン類;ピリジン、イミダゾール、トリアゾール、ピラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール等の含窒素複素環化合物が挙げられる。なお、pH調整剤は、後述するスラリー(スラリー前駆体、スラリー用貯蔵液等を含む)、添加液などに含まれていてもよい。
【0155】
pH安定化剤とは、所定のpHに調整するための添加剤を指し、緩衝成分が好ましい。緩衝成分は、所定のpHに対してpKaが±1.5以内である化合物が好ましく、pKaが±1.0以内である化合物がより好ましい。このような化合物としては、グリシン、アルギニン、リシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸;前記カルボン酸と塩基との混合物;前記カルボン酸の塩などが挙げられる。
【0156】
<スラリー>
本実施形態に係るスラリーは、該スラリーをそのまま研磨に用いてもよく、研磨液の構成成分をスラリーと添加液とに分けた、いわゆる二液タイプの研磨液におけるスラリーとして用いてもよい。本実施形態において、研磨液とスラリーとは添加剤の有無の点で異なり、スラリーに添加剤を添加することで研磨液が得られる。
【0157】
本実施形態に係るスラリーは、本実施形態に係る研磨液と同様の砥粒、及び水を少なくとも含有する。例えば、砥粒は、4価金属元素の水酸化物を含むことを特徴とするものであり、砥粒の平均二次粒子径の好ましい範囲及び測定方法は、本実施形態に係る研磨液において用いられる砥粒と同様である。
【0158】
本実施形態に係るスラリーの構成成分中において、4価金属元素の水酸化物は研磨特性に与える影響が大きいものと考えられる。そのため、4価金属元素の水酸化物の含有量を調整することにより、砥粒と被研磨面との化学的な相互作用が向上し、研磨速度を更に向上させることができる。すなわち、4価金属元素の水酸化物の含有量は、4価金属元素の水酸化物の機能を充分に発現しやすくなる点で、スラリー全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。4価金属元素の水酸化物の含有量は、砥粒の凝集を避けることが容易になると共に、被研磨面との化学的な相互作用が良好となり、砥粒の特性(例えば研磨速度の向上作用)を有効に活用できる点で、スラリー全質量基準で8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.7質量%以下が極めて好ましく、0.5質量%以下が非常に好ましい。
【0159】
本実施形態に係るスラリーにおいて、砥粒の含有量の下限は、所望の研磨速度が得られやすくなる点で、スラリー全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましい。砥粒の含有量の上限は、特に制限はないが、砥粒の凝集を避けることが容易になる点で、スラリー全質量基準で10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、1質量%以下が特に好ましく、0.7質量%以下が極めて好ましく、0.5質量%以下が非常に好ましい。
【0160】
本実施形態に係るスラリーのpH(25℃)は、被研磨面の表面電位に対する砥粒の表面電位が良好となり、砥粒が被研磨面に対して作用しやすくなるため、更に優れた研磨速度が得られる点で、2.0〜9.0が好ましい。スラリーのpHが安定して、砥粒の凝集等の問題が生じにくくなる点で、pHの下限は、2.0以上が好ましく、2.2以上がより好ましく、2.5以上が更に好ましい。砥粒の分散性に優れ、更に優れた研磨速度が得られる点で、pHの上限は、9.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、7.0以下が更に好ましく、6.5以下が特に好ましく、6.0以下が極めて好ましい。スラリーのpHは、前記混合液のpHと同様の方法で測定することができる。
【0161】
<研磨液セット>
本実施形態に係る研磨液セットでは、スラリー(第一の液)と添加液(第二の液)とを混合して研磨液となるように、該研磨液の構成成分がスラリーと添加液とに分けて保存される。スラリーとしては、本実施形態に係るスラリーを用いることができる。添加液としては、添加剤を水に溶解させた液(添加剤と水とを含む液)を用いることができる。研磨液セットは、研磨時にスラリーと添加液とを混合することにより研磨液として使用される。このように、研磨液の構成成分を少なくとも二つの液に分けて保存することで、添加剤を混合した後に長時間保存される場合に懸念される砥粒の凝集、研磨特性の変化等の問題を回避することが可能であり、保存安定性に更に優れる研磨液とすることができる。なお、本実施形態に係る研磨液セットでは、三液以上に構成成分を分けてもよい。
【0162】
添加液に含まれる添加剤としては、前記研磨液において説明したものと同様の添加剤を用いることができる。添加液における添加剤の含有量は、添加液とスラリーとを混合して研磨液を調製したときに研磨速度が過度に低下することを抑制する観点から、添加液全質量基準で0.01質量%以上が好ましく、0.02質量%以上がより好ましい。添加液における添加剤の含有量は、添加液とスラリーとを混合して研磨液を調製したときに研磨速度が過度に低下することを抑制する観点から、添加液全質量基準で20質量%以下が好ましい。
【0163】
添加液における水としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等が好ましい。水の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた残部でよく、特に限定されない。
【0164】
<基体の研磨方法及び基体>
前記研磨液、スラリー又は研磨液セットを用いた基体の研磨方法、及び、これにより得られる基体について説明する。本実施形態に係る研磨方法は、前記研磨液又はスラリーを用いる場合、一液タイプの研磨液を用いた研磨方法であり、前記研磨液セットを用いる場合、二液タイプの研磨液又は三液以上のタイプの研磨液を用いた研磨方法である。これらの研磨方法によれば、優れた研磨速度で被研磨材料を研磨することができる。また、これらの研磨方法によれば、研磨傷の発生を抑制することができると共に、平坦性に優れた基体を得ることもできる。本実施形態に係る基体は、前記研磨方法により研磨されたものである。
【0165】
本実施形態に係る基体の研磨方法では、表面に被研磨材料を有する基体(例えば、半導体基板等の基板)を研磨する。本実施形態に係る基体の研磨方法では、被研磨材料の下に形成されたストッパを用いて被研磨材料を研磨してもよい。本実施形態に係る基体の研磨方法は、例えば、準備工程と基体配置工程と研磨工程とを少なくとも有している。準備工程では、表面に被研磨材料を有する基体を用意する。基体配置工程では、被研磨材料が研磨パッドに対向して配置されるように基体を配置する。研磨工程では、研磨液、スラリー又は研磨液セットを用いて、被研磨材料の少なくとも一部を除去する。研磨対象である被研磨材料の形状は特に限定されないが、例えば膜状(被研磨材料膜)である。
【0166】
被研磨材料としては、酸化ケイ素等の無機絶縁材料;オルガノシリケートグラス、全芳香環系Low−k材料等の有機絶縁材料;窒化ケイ素、ポリシリコン等のストッパ材料などが挙げられ、中でも、無機絶縁材料及び有機絶縁材料が好ましく、無機絶縁材料がより好ましい。酸化ケイ素の膜は、低圧CVD法、プラズマCVD法等により得ることができる。酸化ケイ素の膜には、リン、ホウ素等の元素がドープされていてもよい。被研磨材料の表面(被研磨面)は凹凸が形成されていることが好ましい。本実施形態に係る基体の研磨方法では、被研磨材料の凹凸の凸部が優先的に研磨されて、表面が平坦化された基体を得ることができる。
【0167】
一液タイプの研磨液又はスラリーを用いる場合、研磨工程では、基体の被研磨材料と研磨定盤の研磨パッドとの間に研磨液又はスラリーを供給して、被研磨材料の少なくとも一部を研磨する。例えば、被研磨材料を研磨パッドに押圧した状態で、研磨パッドと被研磨材料との間に研磨液又はスラリーを供給して、基体と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨材料の少なくとも一部を研磨する。このとき、研磨液及びスラリーは、所望の水分量の組成物としてそのまま研磨パッド上に供給されてもよい。
【0168】
本実施形態に係る研磨液及びスラリーは、貯蔵、運搬、保管等に係るコストを抑制する観点で、水等の液状媒体で液体成分を例えば2倍以上(質量基準)に希釈して使用される研磨液用貯蔵液又はスラリー用貯蔵液として保管することができる。前記各貯蔵液は、研磨の直前に液状媒体で希釈されてもよく、研磨パッド上に貯蔵液と液状媒体とを供給して研磨パッド上で希釈されてもよい。
【0169】
貯蔵液の希釈倍率(質量基準)の下限は、倍率が高いほど貯蔵、運搬、保管等に係るコストの抑制効果が高いため、2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、5倍以上が更に好ましく、10倍以上が特に好ましい。希釈倍率の上限としては特に制限はないが、倍率が高いほど貯蔵液に含まれる成分の量が多く(濃度が高く)なり、保管中の安定性が低下する傾向があるため、500倍以下が好ましく、200倍以下がより好ましく、100倍以下が更に好ましく、50倍以下が特に好ましい。なお、三液以上に構成成分を分けた研磨液についても同様である。
【0170】
前記貯蔵液において、砥粒の含有量は、特に制限はないが、砥粒の凝集を避けることが容易になる点で、貯蔵液全質量基準で20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。砥粒の含有量は、貯蔵、運搬、保管等に係るコストを抑制する観点で、貯蔵液全質量基準で0.02質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、1質量%以上が特に好ましい。
【0171】
二液タイプの研磨液を用いる場合、本実施形態に係る基体の研磨方法は、研磨工程の前にスラリーと添加液とを混合して研磨液を得る研磨液調製工程を有していてもよい。この場合、研磨工程では、研磨液調製工程において得られた研磨液を用いて被研磨材料を研磨する。このような研磨方法では、研磨液調製工程において、スラリーと添加液とを別々の配管で送液し、これらの配管を供給配管出口の直前で合流させて研磨液を得てもよい。研磨液は、所望の水分量の研磨液としてそのまま研磨パッド上に供給されてもよく、水分量の少ない貯蔵液として研磨パッド上に供給された後に研磨パッド上で希釈されてもよい。なお、三液以上に構成成分を分けた研磨液についても同様である。
【0172】
二液タイプの研磨液を用いる場合、研磨工程において、スラリーと添加液とをそれぞれ研磨パッドと被研磨材料との間に供給して、スラリーと添加液とが混合されて得られる研磨液により被研磨材料の少なくとも一部を研磨してもよい。このような研磨方法では、スラリーと添加液とを別々の送液システムで研磨パッド上へ供給することができる。スラリー及び/又は添加液は、所望の水分量の液としてそのまま研磨パッド上に供給されてもよく、水分量の少ない貯蔵液として研磨パッド上に供給された後に研磨パッド上で希釈されてもよい。なお、三液以上に構成成分を分けた研磨液についても同様である。
【0173】
本実施形態に係る研磨方法において使用する研磨装置としては、例えば、被研磨材料を有する基体を保持するためのホルダーと、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてあり且つ研磨パッドを貼り付け可能である研磨定盤とを有する、一般的な研磨装置を使用することができる。研磨装置としては、例えば、株式会社荏原製作所製の研磨装置(型番:EPO−111)、Applied Materials社製の研磨装置(商品名:Mirra3400、Reflexion研磨機)が挙げられる。
【0174】
研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、一般的な不織布、発泡ポリウレタン、多孔質フッ素樹脂を使用することができる。研磨パッドには、研磨液等が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0175】
研磨条件としては、特に制限はないが、基体が飛び出すことを抑制する見地から、研磨定盤の回転速度は200min
−1(rpm)以下の低回転が好ましい。基体にかける圧力(加工荷重)は、研磨傷が発生することを更に抑制する見地から、100kPa以下が好ましい。研磨している間、研磨パッドの表面には、研磨液又はスラリー等をポンプ等で連続的に供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨液又はスラリー等で覆われていることが好ましい。研磨終了後の基体は、流水中でよく洗浄後、基体に付着した水滴をスピンドライヤ等によって払い落としてから乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0176】
以下、本発明に関して実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0177】
(4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の作製)
下記の手順に従って、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を作製した。なお、下記説明中の符号A〜H、Nで示される値は、表1にそれぞれ示される値である。
【0178】
<実施例1〜14>
A[L]の水を容器に入れ、濃度50質量%の硝酸セリウムアンモニウム水溶液(一般式Ce(NH
4)
2(NO
3)
6、式量548.2g/mol、日本化学産業株式会社製、製品名50%CAN液)をB[L]加えて混合した。その後、液温をC[℃]に調整して金属塩水溶液を得た。金属塩水溶液の金属塩濃度は表1に示すとおりである。
【0179】
次に、表1に示されるアルカリ種を水に溶解させて濃度D[mol/L]の水溶液をE[L]用意した後に、液温を温度C[℃]に調整してアルカリ液を得た。
【0180】
前記金属塩水溶液の入った容器を、水を張った水槽に入れた。水槽の水温を外部循環装置クールニクスサーキュレータ(東京理化器械株式会社(EYELA)製、製品名クーリングサーモポンプ CTP101)で温度C[℃]に調整した。金属塩水溶液の温度をC[℃]に保持すると共に回転数F[min
−1]で金属塩水溶液を撹拌羽根により撹拌しながら、前記アルカリ液を混合速度G[m
3/min]で容器内に加え、線速度H[m/min]及び撹拌効率Nの条件で混合して、4価セリウムの水酸化物を含む砥粒を含有するスラリー前駆体1を得た。なお、撹拌羽根の面積、撹拌羽根の回転半径、拌羽根の回転数、反応時間(晶析時間)、温度係数、及び、金属塩水溶液とアルカリ液の濃度比等は表1に示すとおりである。スラリー前駆体1のpHは、表1に「終了pH」として示すとおりである。また、パラメータYについても表1に示すとおりである。
【0181】
得られたスラリー前駆体1を、分画分子量50000の中空子フィルタを用いて循環させながら限外ろ過して、導電率が50mS/m以下になるまでイオン分を除去することにより、スラリー前駆体2を得た。なお、前記限外ろ過は、液面センサを用いて、スラリー前駆体1の入ったタンクの水位を一定にするように水を添加しながら行った。得られたスラリー前駆体2を適量とり、乾燥前後の質量を量ることにより、スラリー前駆体2の不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)を算出した。なお、この段階で不揮発分含量が1.0質量%未満であった場合には、限外ろ過を更に行うことにより、1.1質量%を超える程度に濃縮した。
【0182】
<実施例15>
実施例6と同じ方法で得られたスラリー前駆体1を、分画分子量50000の中空子フィルタを用いて循環させながら限外ろ過して、導電率が50mS/m以下になるまでイオン分を除去した後、1.0質量%のイミダゾール水溶液をpHが5.0になるまで加えることで、スラリー前駆体2を得た。限外ろ過、及びスラリー前駆体2の不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)の算出は実施例1〜14と同様にして行った。
【0183】
<比較例1〜4>
A[L]の水を容器に入れ、濃度50質量%の硝酸セリウムアンモニウム水溶液(一般式Ce(NH
4)
2(NO
3)
6、式量548.2g/mol、日本化学産業株式会社製、製品名50%CAN液)をB[L]加えて混合した。その後、液温をC[℃]に調整して金属塩水溶液を得た。金属塩水溶液の金属塩濃度は表1に示すとおりである。
【0184】
次に、表1に示されるアルカリ種を水に溶解させて濃度D[mol/L]の水溶液をE[L]用意した後に、液温を温度C[℃]に調整してアルカリ液を得た。
【0185】
前記金属塩水溶液の入った容器を、水を張った水槽に入れた。水槽の水温を外部循環装置クールニクスサーキュレータ(東京理化器械株式会社(EYELA)製、製品名クーリングサーモポンプ CTP101)で温度C[℃]に調整した。金属塩水溶液の温度をC[℃]に保持すると共に回転数F[min
−1]で金属塩水溶液を撹拌羽根により撹拌しながら、前記アルカリ液を混合速度G[m
3/min]で容器内に加え、線速度H[m/min]及び撹拌効率Nの条件で混合して、4価セリウムの水酸化物を含む砥粒を含有するスラリー前駆体1を得た。なお、撹拌羽根の面積、撹拌羽根の回転半径、撹拌羽根の回転数、反応時間、温度係数、及び、金属塩水溶液とアルカリ液の濃度比等は表1に示すとおりである。スラリー前駆体1のpHは、表1に「終了pH」として示すとおりである。また、パラメータYについても表1に示すとおりである。
【0186】
スラリー前駆体1を3000Gで遠心分離し、デカンテーションにより固液分離を施して液体を除去した。得られた濾物に適量の水を加えてよく撹拌した後に遠心分離及びデカンテーションにより固液分離を施す作業を更に3回行った。
【0187】
得られた濾物に新たに水を加えて液量を1.0Lに調整した後、超音波分散処理を180分間行ってスラリー前駆体2を得た。得られたスラリー前駆体2を適量とり、乾燥前後の質量を量ることにより、スラリー前駆体2の不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)を算出した。
【0188】
【表1】
【0189】
(砥粒の構造分析)
スラリー前駆体2を適量採取し、真空乾燥して砥粒を単離した。純水で充分に洗浄して得られた試料について、FT−IR ATR法による測定を行ったところ、水酸化物イオンに基づくピークの他に、硝酸イオン(NO
3−)に基づくピークが観測された。また、同試料について、窒素に対するXPS(N−XPS)測定を行ったところ、NH
4+に基づくピークは観測されず、硝酸イオンに基づくピークが観測された。これらの結果より、スラリー前駆体2に含まれる砥粒は、セリウム元素に結合した硝酸イオンを有する粒子を少なくとも一部含有することが確認された。また、セリウム元素に結合した水酸化物イオンを有する粒子を少なくとも一部含有することから、砥粒がセリウムの水酸化物を含有することが確認された。これらの結果より、セリウムの水酸化物が、セリウム元素に結合した水酸化物イオンを含むことが確認された。
【0190】
(吸光度及び光透過率の測定)
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒含有量が0.0065質量%(65ppm)となるように水で希釈して測定サンプル(水分散液)を得た。測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内にセルを設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、波長290nmの光に対する吸光度と、波長450〜600nmの光に対する吸光度とを測定した。結果を表2に示す。
【0191】
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒含有量が1.0質量%となるように水で希釈して測定サンプル(水分散液)を得た。測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内にセルを設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、波長400nmの光に対する吸光度と、波長500nmの光に対する光透過率とを測定した。結果を表2に示す。
【0192】
(平均二次粒子径の測定)
スラリー前駆体2を適量採取し、砥粒含有量が0.2質量%となるように水で希釈して測定サンプル(水分散液)を得た。測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、ベックマンコールター社製の装置名:N5内にセルを設置した。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに調整して、25℃において測定を行い、表示された平均粒子径値を平均二次粒子径とした。結果を表2に示す。
【0193】
【表2】
【0194】
実施例1〜15における吸光度及び光透過率の測定に用いた測定サンプルと同様の測定サンプルを60℃/72時間保持した後に、同様に吸光度及び光透過率を測定した。波長400nmの光に対する吸光度は1.00以上であり、波長290nmの光に対する吸光度は1.000以上であり、波長450〜600nmの光に対する吸光度は0.010以下であり、波長500nmの光に対する光透過率は50%/cm以上であった。
【0195】
(スラリー用貯蔵液の外観評価)
スラリー前駆体2に水を加え、砥粒含有量を1.0質量%に調整してスラリー用貯蔵液1を得た。また、スラリー用貯蔵液1とは別に、スラリー用貯蔵液1を60℃/72時間保管してスラリー用貯蔵液2を作製した。スラリー用貯蔵液1、2の外観の観察結果を表3に示す。
【0196】
(スラリー用貯蔵液のpH測定)
スラリー用貯蔵液1及びスラリー用貯蔵液2のpH(25℃)を横河電機株式会社製の型番PH81を用いて測定した。結果を表3に示す。
【0197】
(スラリーの作製)
スラリー用貯蔵液1及び2各100gに純水を150g添加して、砥粒含有量0.4質量%のスラリー1及び2を得た。
【0198】
(研磨液の作製)
添加剤として5質量%のポリビニルアルコールと、X質量%のイミダゾールとを含む添加液1を準備した。100gの添加液1に水を150g加えて添加液2を得た。スラリー1と添加液2とを1:1(質量比)で混合することにより研磨液1(砥粒含有量:0.2質量%、ポリビニルアルコール含有量:1.0質量%)を得た。ここで、前記X質量%は、研磨液のpHが6.0となるように決定した。なお、ポリビニルアルコール水溶液中のポリビニルアルコールのケン化度は80mol%であり、平均重合度は300であった。
【0199】
同様にして、スラリー2(60℃/72時間保管したスラリー用貯蔵液から得られるスラリー)と添加液2とを混合して研磨液2を得た。
【0200】
(絶縁膜の研磨)
研磨装置における基体取り付け用の吸着パッドを貼り付けたホルダーに、絶縁膜として酸化ケイ素膜が形成されたφ200mmシリコンウエハをセットした。多孔質ウレタン樹脂製パッドを貼り付けた定盤上に、絶縁膜がパッドに対向するようにホルダーを載せた。前記で得られた研磨液を、供給量200mL/minでパッド上に供給しながら、研磨荷重20kPaで基体をパッドに押し当てた。このとき定盤を78min
−1、ホルダーを98min
−1で1分間回転させ研磨を行った。研磨後のウエハを純水でよく洗浄し乾燥させた。研磨液1、2のそれぞれについて、光干渉式膜厚測定装置を用いて研磨前後の膜厚変化を測定して研磨速度を求めた。また、研磨液1の研磨速度に対する研磨液1の研磨速度と研磨液2の研磨速度との差の割合(研磨速度の差/研磨液1の研磨速度×100)を研磨速度変化率として算出した。結果を表3に示す。
【0201】
【表3】
【0202】
表3から明らかなように、実施例の研磨液は、60℃/72時間保管後でも外観に変化が少なく、研磨速度の変化率も小さい。
【0203】
なお、研磨後の絶縁膜表面を、水を供給しながら回転数60min
−1で回転させたPVAブラシで1分洗浄した後に乾燥させた。テンコール製サーフスキャン6220を用いて絶縁膜表面を観測したところ、絶縁膜表面における0.2μm以上の研磨傷の個数は、実施例1〜15では5〜20(個/ウエハ)程度であり、充分抑制されていた。
【0204】
(ストッパ膜の研磨及び研磨速度比)
実施例1で得られた研磨液1についてポリシリコン膜(ストッパ膜)の研磨速度と、ポリシリコン膜に対する酸化ケイ素膜(絶縁膜)の研磨選択比とを求めた。
すなわち、研磨装置における基体取り付け用の吸着パッドを貼り付けたホルダーに、ポリシリコン膜が形成されたφ200mmシリコンウエハをセットした。多孔質ウレタン樹脂製パッドを貼り付けた定盤上に、ポリシリコン膜がパッドに対向するようにホルダーを載せた。実施例1で得られた研磨液1を、供給量200mL/minでパッド上に供給しながら、研磨荷重20kPaで基体をパッドに押し当てた。このとき定盤を78min
−1、ホルダーを98min
−1で1分間回転させ研磨を行った。研磨後のウエハを純水でよく洗浄し乾燥させた。次いで、光干渉式膜厚測定装置を用いて研磨前後の膜厚変化を測定してポリシリコン膜の研磨速度を求めたところ4nm/minであった。ポリシリコン膜に対する酸化ケイ素膜の研磨選択比(酸化ケイ素膜の研磨速度/ポリシリコン膜の研磨速度)は、70であった。
【0205】
(添加剤の効果及び研磨速度への影響)
ポリビニルアルコールを含まない研磨液について、酸化ケイ素膜の研磨速度及びポリシリコン膜の研磨速度と、ポリシリコン膜に対する酸化ケイ素膜の研磨選択比とを求めた。
すなわち、5質量%のポリビニルアルコールを含まず、同質量%の水を加えた以外は上記と同様にして添加液1及び添加液2を作製し、実施例1で用いたスラリー1と混合して、研磨液1Xを作製した。この研磨液1Xを用いて、上記と同様にして、酸化ケイ素膜の研磨速度、ポリシリコン膜の研磨速度、及び、ポリシリコン膜に対する酸化ケイ素膜の研磨速度比を求めたところ、酸化ケイ素膜の研磨速度は280nm/minであり、ポリシリコン膜の研磨速度は80nm/minであり、研磨選択比は3であった。
【0206】
この結果から、実施例1の研磨液1は、添加剤としてのポリビニルアルコールを含まない研磨液1Xと比較して、研磨選択比が向上する一方で、絶縁膜の研磨速度はほとんど変化しなかった。すなわち、実施例1の研磨液1は、添加剤の添加効果を維持しつつ優れた研磨速度で被研磨膜を研磨することが可能であることがわかった。