(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方でナイロン4には、融点と熱分解温度が接近しているため、成形や紡糸が困難であるという問題がある。その解決策として、上記のように共重合体化やポリマー鎖の修飾により融点を低下させ、より低い温度で成形加工することにより熱分解を避けるといった工夫が考えられている。
【0009】
しかしながら、樹脂そのものの修飾や改質はコスト高になる上、特徴である高融点を犠牲にするものである。
【0010】
そこで、本発明は、修飾及び改質することなく融点を低下させた2−ピロリドンの重合体又は共重合体を溶融成形して製造されるナイロン4樹脂組成物成形体を提供することを目的とする。また、本発明は、修飾及び改質することなく融点を低下させた2−ピロリドンの重合体又は共重合体を溶融成形する工程を含むナイロン4樹脂組成物成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ポリアミド樹脂の欠点の一つに塩(塩化カルシウム)との接触では、ポリアミド樹脂成形品にクラックを生じ、成形品の劣化を引き起こすことが知られている(特開平9-124800号公報参照)。このように、ポリアミド樹脂と塩とは相性が良いものではなく、通常、ポリアミド樹脂に塩を配合することは行われていない。一方で、高い溶着強度を有するポリアミド樹脂を得るという特殊な用途で、ポリアミド樹脂に塩を配合することはあるが(特開2009-203409号公報参照)、成形のためにポリアミド樹脂に塩を配合することは通常行われていない。
【0012】
ところが、本発明者らは、意外にも塩化リチウムなどの塩をナイロン4樹脂に添加することによって、上記目的を達成することができるという知見を得た。本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のナイロン4樹脂組成物成形体、ナイロン4樹脂組成物成形体の製造方法等を提供するものである。
【0013】
(I) ナイロン4樹脂組成物成形体
(I-1) 以下の工程を含む方法により製造されるナイロン4樹脂組成物成形体:
(1) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩を添加する工程、及び
(2) 工程(1)で得られた2−ピロリドンの重合体又は共重合体を溶融成形する工程。
(I-2) 工程(2)における成形温度が180〜260℃である、(I-1)に記載の成形体。
(I-3) 更に、以下の工程を含む方法により製造される、(I-1)又は(I-2)に記載の成形体:
(3) 工程(2)で得られた成形体を脱塩する工程。
(I-4) 前記塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、アンモニウム、及びアミンから選択される少なくとも1種の塩である、(I-1)〜(I-3)のいずれかに記載の成形体。
(I-5) 前記塩が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種の塩である、(I-1)〜(I-4)のいずれかに記載の成形体。
(I-6) 前記2−ピロリドンの共重合体がラクタム類又はラクトン類との共重合体である、(I-1)〜(I-5)のいずれかに記載の成形体。
【0014】
(II) ナイロン4樹脂組成物成形体の製造方法
(II-1) 以下の工程を含むナイロン4樹脂組成物成形体の製造方法:
(1) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩を添加する工程、及び
(2) 工程(1)で得られた2−ピロリドンの重合体又は共重合体を溶融成形する工程。
(II-2) 工程(2)における成形温度が180〜260℃である、(II-1)に記載の製造方法。
(II-3) 更に、以下の工程を含む、(II-1)又は(II-2)に記載の製造方法:
(3) 工程(2)で得られた成形体を脱塩する工程。
(II-4) 前記塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、アンモニウム、及びアミンから選択される少なくとも1種の塩である、(II-1)〜(II-3)のいずれかに記載の製造方法。
(II-5) 前記塩が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種の塩である、(II-1)〜(II-4)のいずれかに記載の製造方法。
(II-6) 前記2−ピロリドンの共重合体がラクタム類又はラクトン類との共重合体である、(II-1)〜(II-5)のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
(III) 融点を低下させる方法
(III-1) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩を配合することを特徴とする2−ピロリドンの重合体又は共重合体の融点を低下させる方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、塩化リチウムなどの塩が2−ピロリドンの重合体又は共重合体に添加されているので、分子間水素結合の生成が阻害され、融点降下がもたらされる。その結果として、融点と熱分解温度とが分離し、2−ピロリドンの重合体又は共重合体の成形を容易に行うことができる。
【0017】
更に、成形後、水洗浄等による脱塩を行えば、元の高い融点を実現することができる。脱塩が水洗であるので、繊維製造工程における押し出し成形後の冷却工程が使用可能である。また、比表面積が大きい繊維及びフィルムでは塩の脱離が容易であるので、繊維及びフィルムへの適用が見込まれる。
【0018】
植物原料から製造可能となったナイロン4の溶融成形法を開発したことにより、ポリアミドの石油化学原料ベースからの脱却に向けて大きな前進が可能となる。ポリアミド4は唯一の生分解性ポリアミドと位置づけられているので、本発明は高付加価値特殊用途(釣り糸等)への適用が可能となる。
【0019】
以上のように、ナイロン4が知られて以来約50年を経て、ようやくナイロン4の溶融成形法が開発された意義は重要である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のナイロン4樹脂組成物成形体は、以下の工程を含む方法により製造されることを特徴とする:
(1) 2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩を添加する工程、及び
(2) 工程(1)で得られた2−ピロリドンの重合体又は共重合体を溶融成形する工程。
【0023】
本発明のナイロン4樹脂組成物成形体は、必要により、更に以下の工程を含む方法により製造される。
(3) 工程(2)で得られた成形体を脱塩する工程。
【0024】
本明細書において「ナイロン4樹脂」とは、2−ピロリドンの重合体及び共重合体を意味する。
【0025】
本発明のナイロン4樹脂組成物成形体には、塩、2−ピロリドンの重合体又は共重合体以外の成分が含まれていても良い。ナイロン4樹脂組成物成形体中の2−ピロリドンの重合体又は共重合体の含量(塩を除いたもの)は、特に限定されないが、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70〜100重量%である。
【0026】
本発明によれば、2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩が添加されていることにより融点が低下し、融点と熱分解温度とが分離しているので、成形を容易に行うことができる。また、塩を添加することで、ポリアミド4を修飾及び改質することなく融点を低下させることができる。
【0027】
・2−ピロリドンの重合体又は共重合体
本発明で使用する2−ピロリドンの重合体(ポリアミド4又はナイロン4)及び共重合体は、当業者に公知の方法により製造することが出来る。2−ピロリドンの共重合体としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限定されないが、例えばε−カプロラクタムなどのラクタム類、ε−カプロラクトンなどラクトン類との共重合体が挙げられる。
【0028】
2−ピロリドンとラクトン類との共重合体の合成は、2−ピロリドンとラクトンとの2種の原料モノマーに塩基性開始剤、例えばn−ブチルリチウムを両モノマーに対して0.2から2 mol%程度添加して室温から50℃程度で24時間から72時間程度反応させて合成できる。例えば2−ピロリドンとε−カプロラクトンとを90/10の比で重合させると90/10の組成の分子量1万以上のコポリマーが80%以上の収率で得られる。50/50の比込み比では44/56〜50/50の組成の分子量1万前後のコポリマーが65%の収率で得られる。
【0029】
また、本発明の2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、開始剤由来の2分岐以上、好ましくは3分岐以上の分岐構造を有していても良い。このような分岐構造が導入されることで物性(引張強度)が向上される。
【0030】
当該2分岐以上の分岐構造を有する開始剤としては、二個以上のカルボニル基を有する、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸エステル等のカルボン酸誘導体や広義の活性化されたカルボン酸誘導体類が挙げられ、特にカルボン酸ハロゲン化物及びカルボン酸エステルが好ましく、中でもカルボン酸塩化物が好ましい。
【0031】
上記2分岐以上の分岐構造を有するカルボン酸塩化物等の具体例としては、フタロイルクロライド、イソフタロイルクロライド、テレフタロイルクロライド、フマリルクロライド、1,3,5−ベンゼントリカルボニルクロライド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボニルクロライド、1,2,3−プロパントリカルボニルクロライド、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸メチル、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸メチル、ポリアクリロイルクロライド、ポリエチレングリコールビスカルボニルクロライド等を挙げることができる。
【0032】
開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンの重合体は、塩基性重合触媒と2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を用いて2−ピロリドンを重合させることにより製造することができる。
【0033】
上記塩基性重合触媒としては、ラクタム類のアニオン重合法で一般的に用いられるアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水素化物(水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等)、塩基性の有機金属化合物(n−ブチルリチウム等)、アルコキシド化合物(ナトリウムメトキシド等)等を使用できる。これらの中ではナトリウムが扱い易さや収率の点で好ましい。
【0034】
塩基性重合触媒の使用量は、2−ピロリドン1 molに対して好ましくは1〜6 mo1%程度、より好ましくは2〜6 mo1%程度、更に好ましくは3〜6 mo1%程度である。2分岐以上の分岐構造を有する開始剤の使用量は、塩基性重合触媒1 molに対してカルボニル基濃度で好ましくは10〜90 mol%程度、より好ましくは10〜70 mol%程度、更に好ましくは10〜50 mol%程度である。
【0035】
反応に際しては、ヘキサンなどの溶媒を使用することもできる。しかし、無溶媒でバルク重合を行う場合には、溶媒の除去が不要で操作が簡便であり、また収率が高くなる。また、10〜50℃程度の消費エネルギの低い条件で重合を行うことができる。より好ましくは20〜50℃程度、更に好ましくは30〜50℃程度の温度である。発生する水素を除去するために、反応は減圧下で行うことが好ましい。
【0036】
このような条件で、2−ピロリドンに塩基性重合触媒を添加し、この塩基性重合触媒が反応して無くなった後、すなわち2〜4時間程度反応させた後、さらに2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を添加して、1〜24時間程度反応させれば良い。その後、生成した重合体を、常法に従い回収すれば良い。
【0037】
本発明の2−ピロリドンの共重合体は、開始剤由来の2分岐以上、好ましくは3分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンとε−カプロラクタムの共重合体であっても良い。このような共重合体とすることで、融点を低下させ、且つ柔軟性を付与することが出来る。
【0038】
開始剤由来の2分岐以上の分岐構造を有する2−ピロリドンとε−カプロラクタムの共重合体は、2−ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒と2分岐以上の分岐構造を有する開始剤を使用してε−カプロラクタムとの共重合を行うことにより製造することができる。
【0039】
上記2−ピロリドンとε−カプロラクタムの配合割合はモル比で(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(99/1)〜(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(1/99)まで任意の割合が可能であり、その割合により得られたポリアミド4共重合体の物性を制御することができる。好ましい2−ピロリドンとε−カプロラクタムの配合割合はモル比で(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(99/1)〜(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(51/49)、更に好ましくは(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(99/1)〜(2-ピロリドン/ε-カプロラクタム)=(71/29)である。
【0040】
上記塩基性重合触媒としては、前述するものと同じものを使用でき、塩基性触媒の使用量は2−ピロリドンとε−カプロラクタムの合計量1 molに対して好ましくは1.0〜18 mol%、より好ましくは1.5〜9 mol%、更に好ましくは3〜4.5 mol%である。上記開始剤としては、前述するものと同じものを使用でき、開始剤の使用量は2−ピロリドンとε−カプロラクタムの合計量1 molに対して好ましくは0.5〜16.5 mol%、より好ましくは0.5〜7.5 mol%、更に好ましくは0.5〜3 mol%である。
【0041】
反応に際しては、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒を使用することもできる。この場合、開始剤を選択することにより、分散重合が可能となり、粉状又はフレーク状のポリアミド4共重合体が得られる。一方、無溶媒でバルク重合を行う場合には、溶媒の除去が不要という利点があるが、塊状のポリアミド4共重合体が得られるので粉砕操作が必要となる。目的により、両手法を使い分ける必要がある。
【0042】
また、20〜180℃程度の条件で重合を行うことができる。より好ましくは50〜150℃程度、更に好ましくは75〜125℃程度の温度である。ただし、仕込みモノマーであるε−カプロラクタムの割合が高い場合はその融点以上にすることが必要である。発生する水素を除去するために、反応は減圧下で行うことが好ましい。
【0043】
このような条件で、2−ピロリドンに塩基性重合触媒を添加し、この塩基性重合触媒が反応して無くなった後、すなわち2〜4時間程度反応させた後、ε−カプロラクタムを加えて均一な反応混合物とする。なお、均一な反応混合物とするのに2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ナトリウムを同時に混合しても良い。さらに開始剤を添加して、12〜168時間程度反応させれば良い。その後、生成した重合体を、常法に従い回収すれば良い。
【0044】
・工程(1)
工程(1)では、2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩を添加する。
【0045】
本発明で使用する塩は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体の融点を低下できるものであれば特に限定されないが、好ましくはアルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、アンモニウム及びアミンから選択される少なくとも1種の塩であり、より好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される少なくとも1種の塩であり、更に好ましくはリチウム、ナトリウム、カリウム及びカルシウムから選択される少なくとも1種の塩である。そのような塩としては、具体的には、上記のものと塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、炭酸等の酸との塩が挙げられる。また、塩の具体例としては、LiCl、CaCl
2、LiBr、KI、NaBr、CH
3COONa、CaBr
2などが挙げられる。
【0046】
塩の添加量は、2−ピロリドンの重合体又は共重合体に対して、好ましくは1重量%以上、より好ましくは1〜10重量%、更に好ましくは5〜10重量%、特に好ましくは8〜10重量%である。
【0047】
2−ピロリドンの重合体又は共重合体は、塩を添加することにより融点が、好ましくは5℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは35℃以上、特に好ましくは45℃以上低下している。
【0048】
2−ピロリドンの重合体又は共重合体に塩を添加する方法としては、例えば、塩を適当な溶媒に溶解した溶液に2−ピロリドンの重合体若しくは共重合体を溶解又は浸漬する方法が挙げられる。ここで使用する溶媒としては、溶解してキャストフィルムとして塩添加ポリアミドを得る場合はトリフルオロエタノールが(試験例1)、浸漬法の場合はメタノール、エタノール、テトラヒドロフランなど塩を溶解する揮発性溶剤等が挙げられる(試験例2)が、好ましくはトリフルオロエタノール又はメタノールである。尚、より安全性を考慮した場合には、水を用いた浸漬法が好ましく挙げられる。試験例1に準ずる系の場合の溶液中の塩の濃度は、通常0.1〜30重量%、好ましくは1〜10重量%であり、試験例2に準ずる系の場合の溶液中の塩の濃度は、通常0.5〜20重量%、好ましくは1〜3重量%である。
【0049】
浸漬法の別の実施形態としては、重合反応釜で重合完了後に、前記塩の水溶液を添加し、含水後、溶融ペレット化する方法があり、効率的なものである。
【0050】
・工程(2)
工程(2)では、工程(1)で得られた2−ピロリドンの重合体又は共重合体を溶融成形する。
【0051】
溶融成形とは、樹脂組成物を加熱溶融し成形する方法を意味し、成形方法としては溶融紡糸、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形等が挙げられる。当該溶融成形により得られる成形体としては、繊維、フィルム、シート、チューブ、容器、棒等が挙げられる。溶融成形の温度は、通常180〜260℃、好ましくは210〜250℃、更に好ましくは220〜240℃である。
【0052】
工程(2)で得られた成形体は、元の2−ピロリドンの重合体又は共重合体と比較して強度は低下しているが、弾性率が低下し柔軟になるという特徴を有している。
【0053】
・工程(3)
工程(3)では 工程(2)で得られた成形体を脱塩する。
【0054】
本発明によれば、ポリアミド4を修飾及び改質することなく融点を低下させることができるので、このような脱塩を行うことにより、成形後に容易にポリアミド4の高融点を回復できる。
【0055】
本発明において脱塩とは、工程(2)で得られた成形体から塩を取り除くことを意味する。脱塩を行う方法としては、塩を取り除くことができる方法であれば特に限定されないが、例えば、塩を含有する成形体を水等の液体に適当な時間(好ましくは0.5〜2時間)、撹拌しながら浸漬する方法が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0057】
試験例1.塩の種類と添加量について
種々の塩をトリフルオロエタノールに溶解し、これにポリアミド4を完全に溶解させた。これをガラスシャーレ内にキャストし、室温でそのまま24時間乾燥後、室温で真空乾燥し、塩添加ポリアミド4を得た。塩添加ポリアミド4の熱的性質を熱分析装置(ブルカー・エイエックスエス社製、DSC3100SA)により測定し、
図1のように塩の種類、添加量と融点との関係を決定した。
図1から塩としては塩化リチウムの他、塩化カルシウムなど多くのものが使用できることが分かった。また、
図2から添加量により融点を制御することができることが分かった。
【0058】
試験例2.ポリアミド4への塩化カルシウム/メタノール溶液の影響
試験例1の代わりに、塩化カルシウム/メタノール溶液を用いてポリアミド4樹脂に塩添加を行うこともできる。その手法は以下の通りである。ポリアミド4(1.0 g)の顆粒を塩化カルシウム/メタノール溶液(50 ml)中、室温で24時間、撹拌した。その後、ガラスフィルターでろ過し、ホットデシケーター中、100℃で4時間以上乾燥させた。得られたポリアミド4について示差走査熱量分析(ブルカー・エイエックスエス株式会社製、DSC3100S)の昇温過程での吸熱ピーク温度を融点とし、ピーク面積より融解熱を測定した。得られた結果を表1に示した。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から、0.5wt%塩化カルシウム/メタノール溶液にポリアミド4樹脂を浸漬するだけでも約15℃の融点降下が認められ、それ以上の濃度において融点降下をより効果的に行うことができることが分かった。しかしながら、塩化カルシウムの濃度が高い場合はポリアミド4が溶液に溶解するので(4.0、10.0wt%)、効率的な塩添加をするためには、1.0〜2.0wt%の塩化カルシウム/メタノール溶液にポリアミド4樹脂を浸漬させることが推奨される。
【0061】
試験例3.塩添加による成形性の向上について(溶融紡糸)
(1)試験例1の方法にて調製した塩化カルシウム10wt%添加のポリアミド4フィルムを細かく切断し(2 mm×2 mm程度)、紡糸機(オオバ機械製 スクリュー径15 mm)に投入し、235℃で押出した。押出した溶融物を室温で巻取り機(Trii Winding Machine Co. Ltd., TS.362)により高速で巻き取り、繊維とした。ホットプレスは2枚の230℃に加熱した熱板の間に塩化カルシウム10wt%添加ポリアミドを入れ、溶融圧縮後に冷却することによりフィルムとした。
【0062】
塩未添加のポリアミド4は、溶融紡糸に必要な温度は270〜280℃であり、この温度では熱分解が発生し、紡糸できなかった。しかしながら、上記の結果から、塩化カルシウムを10wt%添加したポリアミド4は235℃で紡糸可能であり(
図3及び4)、230℃のホットプレスでフィルム化もできることが分かった。
【0063】
(2)押出し温度を220℃に変更した以外は上記(1)と同様にして繊維を得た。
【0064】
(3)試験例1の方法に準じて調製した塩化カルシウム8wt%添加のポリアミド4フィルムを使用した以外は上記(1)と同様にして未延伸糸を得た(但し、押出し温度は240℃)。
【0065】
(4)試験例1の方法に準じて調製した塩化リチウム10wt%添加のポリアミド4フィルムを使用した以外は上記(1)と同様にして未延伸糸を得た(但し、押出し温度は250℃)。
【0066】
(5)試験例1の方法に準じて調製した臭化ナトリウム10wt%添加のポリアミド4フィルムを使用した以外は上記(1)と同様にして未延伸糸を得た(但し、押出し温度は250℃)。
【0067】
試験例4.成形前後の分子量変化について
試験例3の(1)の方法にて作成したポリアミド4繊維やフィルムの数平均分子量及び重量平均分子量を、高速GPCシステム(東ソー社製、HLC-8220GPCシステム、カラムTSKgel Super HM-NとH-RC)により、ポリメチルメタクリレートを標準物質として用いて測定した。表2に示されているように、溶融紡糸による繊維化、ホットプレスによるフィルム化ともに成形後の分子量に低下が認められた。しかし、樹脂による程度の差はあるものの、一般に成形すると分子量低下は認められる現象であり、ここでの分子量低下の程度は物性を損ねるほどのものではない。
【0068】
【表2】
【0069】
試験例5.成形後、脱塩処理した成形品の熱的性質について
試験例3の(3)で得たポリアミド4繊維を室温の蒸留水中に1時間浸漬し、撹拌するという水洗方法により脱塩を行い、室温で真空乾燥したところ、融点は元の高い融点に戻った(水洗前後の繊維のDSC昇温カーブを
図5に示す。尚、塩を添加しないポリアミド4繊維は熱分解のため紡糸できなかったため、繊維ではなくポリアミド4樹脂の昇温カーブを示した)。一方で、
図6において、塩含有試料では100℃付近からの重量減が大きいが、脱塩後は元の樹脂とほぼ同一の曲線を描いたことが示されており、ポリアミド4の熱安定性は塩添加により低下したが、脱塩により熱安定性は元の樹脂と同等レベルに回復した。他方、前記の100℃付近からの重量減は、付着水分が脱着されているとも考えられ、ポリアミド4の熱安定性は塩添加により低下したとも言えない。
【0070】
試験例6.塩添加・紡糸後の繊維の形状について
試験例3の(1)の方法にて作製したポリアミド4繊維を手廻し延伸機にて延伸した繊維のSEM写真(
図7、8)及びその繊維を試験例5と同様の脱塩処理を行った後のSEM写真(
図9、10)から、脱塩処理後にポリアミド4繊維表面がSEM観察レベルで多孔質化するようなこともなく、紡糸直後の形状を保っていることが分かった。
【0071】
試験例7.紡糸後の繊維の引っ張り強度について
(1)試験例3の(1)にて作製した未延伸繊維及びそれを1.5倍、2倍に延伸した繊維(以上は、
図11〜13のUnwashedで示す)、前記の未延伸繊維を水洗したもの及び前記の未延伸繊維を水洗したものを1.5倍、2倍に延伸した繊維(以上は、
図11〜13のWashed before drawingで示す)、更には前記の未延伸繊維を1.5倍、2倍に延伸した繊維を水洗したもの(以上は、
図11〜13のWashed after drawingで示す)の引っ張り強度を引張試験機(ORIENTEC Universal Testing Machine STA-1150)で測定した。延伸倍率1(即ち、未延伸)から2の範囲において、引っ張り強度は塩を含んでいるポリアミド4繊維では低く、脱塩すると強度は上がるが、脱塩のための水洗処理は延伸前でも延伸後でも強度回復に効果が認められた(
図11)。また、弾性率と破断時伸びのデータから、塩を含んだものでは脱塩試料に比べてやわらかく、伸びやすく、脱塩試料では弾性率、破断時伸びは本来のポリアミド4繊維に予想される物性であった。また、脱塩のための水洗処理は延伸前、延伸後のどちらでも良い(
図12、13)。この結果から、含塩試料は柔軟で強度が低下するが、脱塩すると引っ張り強度特性は元のポリアミド試料と同じ程度に戻ることが想定される。
【0072】
(2)試験例3の(2)及び(3)で得た未延伸繊維、それを1.5倍に延伸した繊維及び延伸した繊維を水洗したものそれぞれについて、引っ張り強度、弾性率、破断時伸びを測定したところ塩化カルシウム10wt%添加と同様な値を得た。
【0073】
(3)試験例3の(4)及び(5)で得た塩化リチウム10wt%添加及び臭化ナトリウム10wt%添加の未延伸繊維、それを1.5倍に延伸した繊維及び延伸した繊維を水洗したものそれぞれについて、引っ張り強度、弾性率、破断時伸びを測定したところ塩化カルシウム10wt%添加と同様な値を得た。