特許第5988075号(P5988075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988075
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】炭素材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 31/02 20060101AFI20160825BHJP
   C01B 37/00 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
   C01B31/02 101B
   !C01B37/00
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-21627(P2012-21627)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-159515(P2013-159515A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年1月30日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】向井 紳
(72)【発明者】
【氏名】三浦 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】荻野 勲
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−314223(JP,A)
【文献】 特開2006−319321(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/030151(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/135389(WO,A2)
【文献】 特開2009−040646(JP,A)
【文献】 特表2011−526634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 31/00−31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類化合物とアルデヒド類化合物を水‐有機溶剤混合溶液(但し、前記有機溶剤は水親和性有機溶媒であり、かつ前記混合溶液は界面活性剤を含有する場合を除く)中で重合させて有機ヒドロキシゲルを得る工程、
得られた有機ヒドロキシゲルを乾燥後に炭素化させて炭素材料を得る工程を含む、三次元的ネットワークを有し、かつBET表面積が500〜1000 m2/gであり、平均メソ細孔直径が2〜50nmであり、メソ細孔容積が0.5〜2ml/gである炭素材料の製造方法であって、
前記水−有機溶媒混合溶液中における有機溶媒の割合が25〜55質量%であり、
前記重合時の触媒を弱塩基性触媒とし、
前記重合の温度を60 〜120℃の範囲とし、
フェノール類化合物(P)に対するアルデヒド類化合物(F)のモル比(F/P)を1.5〜2.5の範囲とすることを特徴とする炭素材料の製造方法。
【請求項2】
フェノール類化合物がフェノール、アルデヒド類化合物がホルムアルデヒドである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記炭素材料は密度が0.5〜2g/cm3の請求項1〜2のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理、廃液処理、電気二重層キャパシタ用電極、ガスセンサー電極、及び排ガス処理等に用いられる吸着材料、触媒担体、及びカーボンゲルの原料などとして用いられる有機高分子ゲルの製造方法並びにその炭素化物であるカーボンゲルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性炭などの炭素材料は、微細孔が発達し細孔表面積が大きいため、上下水処理、排ガス処理に用いられる吸着剤や各種電極材料等として好ましく用いられている。炭素材料は、その微細孔をより高度に発達させるために、通常では、炭素化処理で生成した微細孔を有する多孔質炭素材料に対して、さらに、酸化性ガス雰囲気下で加熱したり、アルカリ金属水酸化物等と混合した後に非酸化性ガス雰囲気下で加熱などを行ったりする賦活処理が行われている。
【0003】
しかし、近年、環境への関心が高まると同時により高度に微細孔が発達した炭素材料に関心が高まっており、賦活処理を行わないで製造することができる多孔質炭素材料、あるいは高度に細孔が制御された多孔質炭素材料が求められており、このような多孔質炭素材料としてカーボンゲルが注目されている。カーボンゲルは、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物とを水溶媒中でゾル−ゲル反応により重合して得られる有機ヒドロキシゲルを乾燥して有機ドライゲルを得、該有機ドライゲルを炭素化処理することにより製造することができる多孔質炭素材料であり、賦活処理を行わなくても高い細孔表面積を得ることができる。さらにこのカーボンゲルには、比較的大きな微細孔が高度に発達しているため、上下水処理で用いられる吸着剤や電極材料として高い性能を得ることができる。ここで有機ヒドロキシゲルとは、三次元網目構造の有機ドライゲルと該有機ドライゲルに蓄えられる水とから構成されるものであり、該三次元網目を形成する有機ドライゲルとしては、例えば、ヘリックス形成によるゼラチン、アルカリ土類金属イオンとの配位結合より架橋を形成するポリアクリル酸、水素結合で架橋する完全けん化ポリビニルアルコール、フェノール性OH基を複数有する芳香族化合物(以下多価フェノール類化合物という)とアルデヒド類化合物を架橋させ形成する多価フェノール樹脂などが知られている。
【0004】
有機ヒドロキシゲルは、例えば、特許文献1に記載されている様に、水を溶媒に用い、多価フェノール類化合物の一種であるレゾルシノール(1,3−ジヒドロキシベンゼン)とホルムアルデヒドをゲル化させる事により得ることができる。該有機ヒドロキシゲルは、その後、超臨界二酸化炭素中若しくは超臨界水中で乾燥することで有機エアロゲルを得ることができる。しかしながら、レゾルシノールの価格が高く、また流体を臨界圧力で処理するため耐圧性に優れた高価な設備が必要であるなど、その製造コストが非常に高いという経済性の問題があった。
【0005】
一方、特許文献2には、多価フェノール類化合物よりも原料コストの低いフェノール(モノヒドロキシベンゼン)とホルムアルデヒドを水溶媒中で重合させる技術が開示されている。当該技術ではレゾルシノールより反応性の劣るフェノールをホルムアルデヒドと重合反応させるために、従来よりも触媒量を増やすことで有機ヒドロキシゲルを得ている。しかしながら、当該技術では、大量の触媒を常時必要とするため、安価なフェノールを用いているにもかかわらず原料費の削減効果は小さいという問題があった。
【0006】
他方、特許文献3では、フェノールとホルムアルデヒドを塩酸や水酸化ナトリウムなどの強酸、強塩基触媒下で重合させた湿式ゲルを対流乾燥させる炭素キセロゲルの製造法に関する技術が開示されている。この技術では始めの溶液調製時に有機溶剤を添加することで、乾燥時に必要不可欠な有機溶剤による溶媒置換工程を省略し、操作の簡略化を行っている。しかしながら、当該技術に開示された実施例では、酸触媒、強塩基触媒を用いているため、得られる炭素キセロゲルはミクロ多孔質でありメソ孔の発達度は低くなる。これに加えて、極めて高濃度の酸触媒を利用しており、耐腐食性の高い設備が必要不可欠であると同時に、溶媒置換をしないことで大量の触媒が残存し、本来のカーボンゲルの高純度性が損なわれる事、揮発性の高い塩酸が蒸発して環境、人に悪影響を及ぼす等の問題があった。さらに、本手法では、乾燥時の溶媒置換を省略する為に原料フェノールやホルムアルデヒド量に対し過剰の有機溶剤が重合反応において用いられており、その為そのような条件下、実施例に記載されている手法に従って酸触媒下重合反応を行い製造された炭素材料は、水溶媒を用いて得られるカーボンゲル本来の十分なメソ細孔容積・メソ細孔径・表面積・かさ密度を併せ持っているとは言えなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-3211
【特許文献2】特開2005-15649
【特許文献3】特表2011-526634
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来技術は、原料や設備投資に起因する製造コストが非常に高い、もしくは原料の反応性等の問題から効率的に細孔が発達した有機ヒドロキシゲルが製造できないなど、いずれも細孔が高度に発達した有機ヒドロキシゲルあるいはカーボンゲルを提供するものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物とを重合させ有機ヒドロキシゲルを得る工程において、重合時の触媒を弱塩基性触媒とし、水−有機溶媒中における有機溶媒の割合(質量パーセント)を調整して得られる有機ヒドロキシゲルを炭素化処理することによって得られる炭素材料が所望の微細孔を有する事を見出した。
【0010】
すなわち、本発明は下記(1)〜(6)である。
(1)フェノール類化合物とアルデヒド類化合物を水‐有機溶剤混合溶液中で重合させ乾燥後に炭素化させることにより得られる炭素材料であって、重合時の触媒を弱塩基性触媒とし、水−有機溶媒中における有機溶媒の割合が25 〜 55 質量%であり、60 〜 120℃で重合して得られる有機ヒドロキシゲルを炭素化することを特徴とした炭素材料。
(2)フェノール類化合物がフェノール、アルデヒド類化合物がホルムアルデヒドである請求項1記載の炭素材料。
(3)BET表面積が500 〜 1000 m2/gである上記(1)又は(2)の炭素材料。
(4)平均細孔直径が2 〜 50 nmである上記(1)〜(3)のいずれか1つの炭素材料。
(5)メソ細孔容積が0.5 〜 2 ml/gである上記(1)〜(4)のいずれか1つの炭素材料。
(6)密度が0.5 〜 2 g/cm3である上記(1)〜(5)のいずれか1つの炭素材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ミクロ孔とメソ孔がともに発達し、かつ高密度の有機ドライゲルあるいは炭素材料を安価に提供することができる。
【実施例】
【0012】
本発明の炭素材料は、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物とを水と親水性有機溶媒の複数混合溶媒を用いてゾル−ゲル反応により重合させて有機ヒドロキシゲルを合成するゲル化工程、有機ヒドロキシゲルの乾燥工程、及び、当該有機ヒドロキシゲルを炭素化させる工程により製造される。以下にそれぞれの工程について説明する。
【0013】
本発明のゲル化工程は、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物とを水と有機溶媒の混合溶媒中でゾルーゲル法により重合させて有機ヒドロキシゲルを合成する工程である。本発明で用いられるフェノール類化合物としては、いずれの価数のものも用いることができる。一価フェノール類化合物ではフェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、チモール、ナフトール、二価フェノール類化合物ではレゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ジヒドロキシナフタレン、三価フェノール類化合物ではピロガロール、フロログルシロール等があげられる。このうち、一価フェノール類化合物、より好ましくはフェノールの使用が生産性を高めるうえで好ましい。
【0014】
本発明で用いられるアルデヒド類化合物としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等などがあげられる。このうち、反応性の高さからホルムアルデヒドを用いることが好ましい。アルデヒド類は予め水溶媒等に溶解させた原料を使用してもかまわない。
【0015】
本発明で用いられる有機溶媒としては、水に混和できる親水性有機溶媒であれば好ましく、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ギ酸、1-ブタノール、酢酸、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド等があげられる。このうち、汎用性の高さや経済性の面で優れるエタノール、1-プロパノール、2-プロパノールなどの低級アルコールがゾル−ゲル反応を効率的に行う水‐有機溶剤混合溶液を調製しやすい。
【0016】
本発明では、上記原料溶液中、フェノール類化合物(以下Pともいう)とアルデヒド類化合物(以下Fともいう)との反応割合は特に限定されないが、フェノール類化合物(P)に対するアルデヒド類化合物(F)のモル比(F/P)が、通常1〜3、好ましくは1.5〜2.5、より好ましくは、1.75〜2.25である。モル比が1より小さいと三次元構造を構築する架橋の役割を果たすアルデヒド類化合物の量が少なくなるため目的とする微細構造をもつ有機ヒドロキシゲルを製造しにくくなる。また3より大きいと、アルデヒド類化合物の量が過剰となり目的とする付加・縮合反応を阻害しやすくなると同時に、微細構造内部に残存して不純物となりやすい。
【0017】
本発明では、全溶媒中における有機溶媒の割合が25〜55質量%である水‐有機溶剤混合溶液中でフェノール類化合物とアルデヒド類化合物を重合することを特徴とする。好ましくは有機溶剤の種類によってこの範囲において特定の割合に調整することになるが、エタノールの場合は40 〜 55質量%、1-プロパノールの場合は37 〜 53 質量%、2-プロパノールの場合は27 〜 37 質量%の範囲を挙げることができる。有機溶媒の割合が55質量%より高くなると、有機溶媒の割合が大きくなるためアルデヒド類化合物の反応性が低下し、所望の細孔が得にくい。またこの溶媒比率が規定している値よりも低くなると、水溶媒の割合が大きくなるためフェノール類化合物の反応性が低下し、所望の細孔が得にくい。この溶媒比率は用いるフェノール類化合物の種類、量によっても最適値が変化するため適宜調製条件は調節される。また、水と混合する有機溶媒の種類は1種類に限定されるものではない。
【0018】
本発明は、必要により、ゲル化工程においてフェノール類化合物とアルデヒド類化合物との反応時に上記原料溶液に弱塩基性触媒を配合すると、フェノール類化合物とアルデヒド類化合物との反応性を向上させ、3次元網目構造の形成を促進することができるため好ましい。本発明で用いられる弱塩基性触媒としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムなどがあげられる。このうち、安全性の高さや経済的な面から炭酸ナトリウムが好ましい。酸性触媒を使用する場合、フェノール類化合物に対して直鎖状に分子が結合するため三次元ネットワーク構造が構築されず、無細孔のノボラック樹脂となり、所望の細孔が得にくい。また水酸化ナトリウム等の強アルカリを使用する場合、弱塩基触媒よりも極めて反応性が高いため、三次元ネットワーク構造が形成される前に硬化し、所望の細孔を得にくい。
【0019】
弱塩基性触媒を用いる場合、その配合量は、弱塩基性触媒の種類や、該触媒の溶媒への溶解度などを考慮して適宜最適な範囲を選択することができるが、好ましくはフェノール類化合物と該触媒のモル比(P/C)が1〜200、より好ましくは30〜80である。触媒配合量が該範囲内にあるとコロイド粒子が短時間に数多く発生するため、所望の三次元構造が構築されやすくなるので好ましい。
【0020】
ゲル化工程において、ゾル−ゲル反応させる際の反応条件としては特に限定されないが、反応温度は、通常60〜120℃、好ましくは80〜100℃である。反応温度が60℃未満であると、ゾル−ゲル反応に時間がかかり過ぎて、生産性が大幅に低下しやすい。また反応温度が100℃を超えると、溶媒の沸点を超えるため反応容器内の圧力が急激に増加し、高価な圧力容器を利用する必要が生じるため経済的に好ましくない。また、反応時間は、通常7〜240時間、好ましくは24〜120時間である。反応時間が7時間未満であると、ゾル−ゲル反応の進行が不十分であるために有機ヒドロキシゲルの構造が不安定になりやすく強度の低下が生じやすい。また、反応時間が240時間を超えると、反応系中の溶媒の積算蒸発量が大きくなり、これに伴って有機ヒドロキシゲルが収縮して、有機ヒドロキシゲルの特異な構造が失われやすい。
【0021】
前記有機ヒドロキシゲルを乾燥させ有機ドライゲルを得ることができる。当該有機ヒドロキシゲルを構成する微粒子の三次元的ネットワーク構造を保持したまま、三次元的ネットワーク構造中に残存する溶媒を除去できる乾燥方法を適宜選択することができる。本発明で用いられる乾燥方法には、温風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、超臨界乾燥、マイクロ波乾燥等があげられる。このうち、経済性の面から凍結乾燥、温風乾燥、マイクロ波乾燥が好ましい。
【0022】
本発明における凍結乾燥において、凍結温度としては特に限定されないが、通常-30〜-5℃、このましくは、-15〜-10℃である。凍結温度が該範囲内にあると、一般的に利用される凍結乾燥装置を用いる事ができ、乾燥速度も比較的大きくすることができるため好ましい。また、マイクロ波乾燥を行う場合、マイクロ波の出力としては特に限定されないが、通常0.1〜10 kW/kg、好ましくは0.5〜5 kW/kgである。マイクロ波の出力が該範囲内にあると、溶媒の急激な気化による有機ヒドロキシゲルの構造破壊を抑制することができると共に、乾燥速度も比較的大きくすることができるため好ましい。また、温風乾燥を行う場合、設定温度としては特に限定されないが、通常20〜150℃、好ましくは、30〜90℃である。設定温度が該範囲内にあると、一般的に利用される温風器、乾燥器を用いる事ができ、乾燥速度も比較的大きくすることができるため好ましい。
【0023】
本発明における炭素化工程は、上記の有機ドライゲルを非酸化性ガス雰囲気下で加熱することで、熱分解・炭素化させ微細孔を有する炭素材料を製造する工程である。本発明で用いられる炭素化温度としては特に限定されないが、通常200〜1200℃、好ましくは300〜1000℃である。炭素化温度が200℃より低すぎると該有機ドライゲルが十分に熱分解・炭素化されないため好ましくない。逆に炭素化温度が1200℃より高すぎると、熱分解が過度に進んで該有機ドライゲルの構造が崩れやすくなり、構造の破壊や強度の低下が起こりやすくなるため好ましくない。また処理時間としては特に限定されないが、通常1〜20時間、好ましくは、2〜10時間である。処理時間が1時間よりも少ないと、該有機ドライゲルが十分に熱分解・炭素化されないため好ましくない。逆に処理時間が20時間よりも多いと、熱分解が過度に進んで該有機ドライゲルの構造が崩れやすくなり、構造の破壊や強度の低下が起こりやすくなるため好ましくない。
【0024】
本発明は、以上の方法により、有機ヒドロキシゲルを構成する微粒子の三次元ネットワーク構造が実質的に保たれたまま三次元的ネットワーク構造中に残存する溶媒を除去することができ、乾燥時における構造の破壊が生じない有機ドライゲルが得られる。さらに該有機ドライゲルを炭素化することで三次元ネットワーク構造を保持したまま微細孔を発達させたカーボンゲルを得ることができる。本発明では、該有機ドライゲルあるいはカーボンゲルは、ミクロ孔、メソ孔の発達したものである。本発明で得られる有機ドライゲルあるいはカーボンゲルは、上下水処理、排ガス処理等に用いられる吸着剤および各種電極材料や触媒担体として使用することができる。
【0025】
本発明より得られる炭素材料は、BET表面積が500 〜 1000 m2/gの炭素材料であることが好ましい。また、メソ平均細孔直径が2 〜 50 nmであることが好ましい。さらに、メソ細孔容積が0.5 〜 2 ml/gである炭素材料であることが好ましい。さらに、その密度が0.5 〜 2 g/cm3の炭素材料であることが好ましい。このように、本発明の炭素材料は、メソ細孔容積が発達し、かつその平均細孔直径が小さく、高い表面積を有している多孔質材料である。したがって、本発明の炭素材料は吸着剤、電極材料、触媒担体の用途に好適である。
【0026】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水100質量部、有機溶媒としてエタノール334質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル950質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって本発明の炭素材料を得た。
【0028】
(実施例2)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水154質量部、有機溶媒として1-プロパノール298質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル950質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって本発明の炭素材料を得た。
【0029】
(実施例3)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水184質量部、有機溶媒として2-プロパノール289質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル950質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって本発明の炭素材料を得た。
【0030】
(比較例1)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水329質量部、有機溶媒としてエタノール153質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル950質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0031】
(比較例2)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水58質量部、有機溶媒として1-プロパノール375質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル950質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0032】
(比較例3)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水54質量部、有機溶媒として2-プロパノール368質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル900質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0033】
(比較例4)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水522質量部、触媒として炭酸ナトリウム4質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル1000質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0034】
(比較例5)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水34質量部、有機溶媒としてエタノール323質量部、触媒として37質量%塩酸水溶液66質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル900質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0035】
(比較例6)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水87質量部、有機溶媒としてエタノール323質量部、触媒として37質量%塩酸水溶液3.9質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル900質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0036】
(比較例7)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水36質量部、有機溶媒としてエタノール323質量部、触媒として50w/v%水酸化ナトリウム水溶液27質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル850質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000℃で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0037】
(比較例8)フェノール類化合物としてフェノール(P)188質量部、アルデヒド類化合物(F)として37質量%ホルムアルデヒド水溶液325質量部(F/Pモル比 = 2)、溶媒として水90質量部、有機溶媒としてエタノール323質量部、触媒として50w/v%水酸化ナトリウム水溶液2質量部を20 mlのガラス瓶に入れ、適度に攪拌後、90℃にて72時間重合反応を行い、有機ヒドロキシゲル900質量部を得た。この有機ヒドロキシゲル中に残存する混合溶媒を、tert-ブチルアルコールで置換したあと、凍結温度-10℃で72時間凍結乾燥を行い、有機ドライゲルを得た。有機ドライゲルを、1000度で不活性ガス雰囲気下、4時間の熱分解によって炭素材料を得た。
【0038】
実施例および比較例で得られたカーボンゲルについて、BET表面積およびメソ細孔径容積を以下の方法により測定した。結果を表1に示す。
・BET表面積:全自動ガス吸着装置(77K)にてN2吸脱着等温線を測定し、BET法にて計算して求めた。
・メソ細孔容積:全自動ガス吸着装置(77K)にてN2吸脱着等温線を測定し、Dollimore-Heal法にて計算し求めた。
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1〜3で得られた炭素材料は、BET表面積、メソ孔細孔容積ともに優れた特性を示した。特に実施例1,3では溶媒組成が好ましい範囲にある条件下弱塩基触媒を用いて重合反応を行なっているため、疎水性のフェノールと親水性のホルムアルデヒドの反応が円滑に進行した結果三次元網目構造が形成され、最終的に得られた炭素材料は表面積・メソ孔容積・密度の観点から好ましい材料が得られた。3次元網目構造を有する一方、比較例1 〜
3は、溶媒組成が最適な範囲外であるため反応性が著しく低下し、ミクロ孔、メソ孔ともに発達した炭素材料の作製は困難だった。比較例4は溶媒が水のみで疎水性のフェノールの反応性が著しく低下したため望ましい炭素材料が得られなかった。また、比較例5 〜 8は、弱塩基触媒よりも反応性が高い高濃度塩酸、高濃度水酸化ナトリウムを触媒に用いているため、所望の構造が構築される前に硬化し無細孔となり、所望の構造が得られなかった。