(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988265
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】金属材の接合方法及び金属材の接合装置
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
B23K20/12 310
B23K20/12 340
B23K20/12 344
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-209546(P2012-209546)
(22)【出願日】2012年9月24日
(65)【公開番号】特開2014-61542(P2014-61542A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年9月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、経済産業省、第3次補正予算戦略的基盤技術高度化支援事業「摩擦攪拌接合を適用した航空機構造部品の製作」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133064
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 新
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢二
【審査官】
篠原 将之
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−537325(JP,A)
【文献】
特開平10−071477(JP,A)
【文献】
特開2003−181654(JP,A)
【文献】
特開2002−045981(JP,A)
【文献】
特開2013−123745(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0326392(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金属材の端面同士が突き合わされた接合部に、前記接合部周辺の前記金属材それぞれの一方の面から他方の面へと伸びる攪拌軸を挿入する攪拌軸挿入工程と、
前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記他方の面に前記攪拌軸の先端の回転部材を当接させる回転部材当接工程と、
前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面に固定部材を当接させる固定部材当接工程と、
前記回転部材当接工程で前記金属材に当接させた前記回転部材と前記固定部材当接工程で前記金属材に当接させた前記固定部材との間に前記接合部周辺の前記金属材それぞれを挟み込む挟持工程と、
前記回転部材及び前記攪拌軸を回転させつつ前記接合部に沿って移動させることにより前記金属材同士を接合する接合工程と、
を含み、
前記接合工程において、前記攪拌軸は、前記回転部材の前記他方の面と当接する面が前記回転部材及び前記攪拌軸の移動方向の側に傾くように、前記他方の面の法線に対して傾斜させられる、金属材の接合方法。
【請求項2】
前記固定部材当接工程では、前記攪拌軸周辺で前記回転部材の側に突出した凸部を有する前記固定部材を前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面に当接させ、
前記接合工程では、前記回転部材及び前記攪拌軸の移動に対応させて前記固定部材を前記接合部に沿って移動させる、請求項1に記載の金属材の接合方法。
【請求項3】
前記固定部材当接工程では、前記攪拌軸周辺で前記回転部材とは反対の側に窪んだ凹部を有する前記固定部材を前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面に当接させ、
前記接合工程では、前記回転部材及び前記攪拌軸の移動に対応させて前記固定部材を前記接合部に沿って移動させる、請求項1に記載の金属材の接合方法。
【請求項4】
前記固定部材当接工程では、前記攪拌軸が前記接合部に沿って移動可能なように前記接合部に沿って分割された前記固定部材を当接させ、
前記接合工程では、前記固定部材を前記金属材に対して固定させたままの状態で、前記回転部材及び前記攪拌軸を回転させつつ前記接合部に沿って移動させることにより前記金属材同士を接合する、請求項1に記載の金属材の接合方法。
【請求項5】
前記固定部材当接工程では、前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面の形状に沿った形状を有する前記固定部材を前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面に当接させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属材の接合方法。
【請求項6】
前記接合工程では、前記接合部周辺の前記金属材それぞれに対する前記固定部材の位置と、前記接合部周辺の前記金属材それぞれに対する前記回転部材の位置、荷重及び回転のトルクのいずれかとを制御しつつ前記金属材同士を接合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属材の接合方法。
【請求項7】
一対の金属材の端面同士が突き合わされた接合部に挿入され、前記接合部周辺の前記金属材それぞれの一方の面から他方の面へと伸びる攪拌軸と、
前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記他方の面に当接される前記攪拌軸の先端の回転部材と、
前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面に当接される固定部材と、
を備え、
前記回転部材及び前記固定部材は、前記回転部材と前記固定部材との間に前記接合部周辺の前記金属材それぞれを挟み込み、
前記回転部材及び前記攪拌軸が回転しつつ前記接合部に沿って移動することにより前記金属材同士を接合し、
前記攪拌軸は、前記回転部材の前記他方の面と当接する面が前記回転部材及び前記攪拌軸の移動方向の側に傾くように、前記他方の面の法線に対して傾斜させられている、金属材の接合装置。
【請求項8】
前記固定部材は、前記攪拌軸周辺で前記回転部材の側に突出した凸部を有し、前記回転部材及び前記攪拌軸の移動に対応して前記接合部に沿って移動する、請求項7に記載の金属材の接合装置。
【請求項9】
前記固定部材は、前記攪拌軸周辺で前記回転部材とは反対の側に窪んだ凹部を有し、前記回転部材及び前記攪拌軸の移動に対応して前記接合部に沿って移動する、請求項7に記載の金属材の接合装置。
【請求項10】
前記固定部材は、前記攪拌軸が前記接合部に沿って移動可能なように前記接合部に沿って分割されており、
前記回転部材及び前記攪拌軸は、前記固定部材が前記金属材に対して固定されたままの状態で、回転しつつ前記接合部に沿って移動することにより前記金属材同士を接合する、請求項7に記載の金属材の接合装置。
【請求項11】
前記固定部材は、前記接合部周辺の前記金属材それぞれの前記一方の面の形状に沿った形状を有する、請求項7〜10のいずれか1項に記載の金属材の接合装置。
【請求項12】
前記金属材同士を接合するときに、前記固定部材は、前記接合部周辺の前記金属材それぞれに対する前記固定部材の位置を制御され、前記回転部材は、前記接合部周辺の前記金属材それぞれに対する前記回転部材の位置、荷重及び回転のトルクのいずれかを制御される、請求項7〜11のいずれか1項に記載の金属材の接合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の接合方法及び金属材の接合装置に関し、特に摩擦攪拌接合により金属材を接合する金属材の接合方法及び金属材の接合装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の接合方法においては、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)により金属材を接合する技術が知られている。摩擦攪拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させ、回転ツールの先端に設けられたプローブを接合部に挿入し、接合部の長手方向に沿って回転ツールを回転させつつ移動させて、摩擦熱により金属材を塑性流動させることによって2つの金属材を接合する。
【0003】
しかしながら、一般的な摩擦攪拌接合では、対向させた金属材の表面側からのみから回転ツールのプローブを接合部に挿入するため、金属材の裏面側に金属材同士の未接合部であるキッシングボンドが生じてしまう欠点がある。
【0004】
この欠点を改善するために、例えば、特許文献1に開示されているように、ボビンツールと呼ばれる回転ツールにより金属材の表面及び裏面の両方の側から摩擦攪拌接合を行う方法が提案されている。特許文献1に記載の装置では、接合する金属板1,2を表面側及び裏面側から挟持するようにして一定の間隔を設けた一対のショルダー部6a,6bが設けられている。上下一対のショルダー部6a,6b間には、ショルダー部6a,6bを互いに連結するプローブ5が設けられ、金属板1,2の間に挿入されている。ショルダー部6a,6b及びプローブ5が回転することにより、接合部の両面において摩擦により発熱させることができ、裏面側の接合不良が生じにくくされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−181654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているようなボビンツールを用いる技術では、接合後に、金属板の両面に摩擦攪拌による痕が残留してしまう欠点がある。
【0007】
さらに、金属材の表面側のみから回転ツールのプローブを接合部に挿入する摩擦攪拌接合では、回転ツールの移動方向の側に回転ツールのプローブの先端が傾くように回転ツールを金属材の表面の法線に対して傾斜させることにより、良好な接合を得ることが行われる。しかし、上記特許文献1に記載されているようなボビンツールを用いる技術では、プローブで連結された上下一対のショルダー部を回転させる。この状態では上下片方のショルダー部を回転ツールの移動方向の側に傾けると、もう片方のショルダー部は回転ツールの移動方向とは反対方向の側に傾いてしまう。このため、ボビンツールを金属材に対していずれかの方向に傾斜させることができず、ボビンツールを金属材の表面の法線に対して垂直にすることが必要となる。そのため、ボビンツールを用いる摩擦攪拌接合では、良好な接合部を得るための接合条件の範囲が狭い欠点がある。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、接合部にキッシングボンドのような未接合部を生じさせずに、良好な接合部を得ることが可能な接合条件の範囲を拡大させた金属材の接合方法及び金属材の接合装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一対の金属材の端面同士が突き合わされた接合部に、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面から他方の面へと伸びる攪拌軸を挿入する攪拌軸挿入工程と、接合部周辺の金属材それぞれの他方の面に攪拌軸の先端の回転部材を当接させる回転部材当接工程と、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に固定部材を当接させる固定部材当接工程と、回転部材当接工程で金属材に当接させた回転部材と固定部材当接工程で金属材に当接させた固定部材との間に接合部周辺の金属材それぞれを挟み込む挟持工程と、回転部材及び攪拌軸を回転させつつ接合部に沿って移動させることにより金属材同士を接合する接合工程とを含み、接合工程において、攪拌軸は、回転部材の他方の面と当接する面が回転部材及び攪拌軸の移動方向の側に傾くように、他方の面の法線に対して傾斜させられる金属材の接合方法である。
【0010】
この構成によれば、従来のボビンツールによる摩擦攪拌接合のように、一対の金属材の端面同士が突き合わされた接合部に、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面から他方の面へと伸びる攪拌軸を挿入する攪拌軸挿入工程と、接合部周辺の金属材それぞれの他方の面に攪拌軸の先端の回転部材を当接させる回転部材当接工程とを含む。しかし、固定部材当接工程では、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に固定部材を当接させ、挟持工程では、回転部材と固定部材との間に接合部周辺の金属材それぞれを挟み込み、接合工程では、回転部材及び攪拌軸を回転させつつ接合部に沿って移動させることにより金属材同士を接合する。このため、接合部周辺の金属材の両面にキッシングボンドのような未接合部が生じない。また、従来のボビンツールのように接合部周辺の金属材の両面に回転する部材が当接されないため、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に摩擦攪拌接合後の痕を生じさせないことが可能となる。
【0011】
さらに、この構成によれば、接合工程において、攪拌軸は、回転部材の他方の面と当接する面が回転部材及び攪拌軸の移動方向の側に傾くように、他方の面の法線に対して傾斜させられる。このため、このような攪拌軸の傾斜角を設けられず、接合可能条件が制限される従来のボビンツールによる摩擦攪拌接合に対して、良好な接合部を得ることが可能な接合条件の範囲を拡大させることが可能となる。
【0012】
この場合、固定部材当接工程では、攪拌軸周辺で回転部材の側に突出した凸部を有する固定部材を接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に当接させ、接合工程では、回転部材及び攪拌軸の移動に対応させて固定部材を接合部に沿って移動させることが好適である。
【0013】
この構成によれば、攪拌軸及び回転部材の周辺の摩擦攪拌接合の中心において、固定部材が回転部材の側に突出した凸部を有し、回転部材及び攪拌軸の移動に対応して移動するため、金属材の歪み量と塑性加工とが増大し、金属材の組織がより微細化されるため、接合強度を向上させることができる。
【0014】
または、固定部材当接工程では、攪拌軸周辺で回転部材とは反対の側に窪んだ凹部を有する固定部材を接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に当接させ、接合工程では、回転部材及び攪拌軸の移動に対応させて固定部材を接合部に沿って移動させることが好適である。
【0015】
マグネシウム合金やチタン合金等のHCP構造(六方最密充填構造)を有する金属材においては、摩擦攪拌接合の攪拌により金属材の組織に配向性が与えられると接合部の強度が低下することがある。しかし、この構成によれば、攪拌軸及び回転部材の周辺の摩擦攪拌接合の中心において、固定部材が回転部材とは反対の側に窪んだ凹部を有し、回転部材及び攪拌軸の移動に対応して移動するため、接合部周辺の攪拌の流れを複雑にして、金属材の組織に配向性が与えられることを防ぎ、接合部の強度を向上させることができる。
【0016】
あるいは、固定部材当接工程では、攪拌軸が接合部に沿って移動可能なように接合部に沿って分割された固定部材を当接させ、接合工程では、固定部材を金属材に対して固定させたままの状態で、回転部材及び攪拌軸を回転させつつ接合部に沿って移動させることにより金属材同士を接合することが好適である。
【0017】
この構成によれば、固定部材当接工程では、攪拌軸が接合部に沿って移動可能なように接合部に沿って分割された固定部材を当接させ、接合工程では、固定部材を金属材に対して固定させたままの状態で、回転部材及び攪拌軸を回転させつつ接合部に沿って移動させることにより金属材同士を接合する。このため、固定部材を金属材に対して移動させない簡単な方法で金属材を接合することができる。
【0018】
また、固定部材当接工程では、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面の形状に沿った形状を有する固定部材を接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に当接させることが好適である。
【0019】
この構成によれば、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面の形状に沿った形状を有する固定部材を接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に当接させるため、金属材の一方の面が平坦な面でなくとも、接合を行うことができ、接合の自由度を向上させることができる。
【0020】
また、接合工程では、接合部周辺の金属材それぞれに対する固定部材の位置と、接合部周辺の金属材それぞれに対する回転部材の位置、荷重及び回転のトルクのいずれかとを制御しつつ金属材同士を接合することが好適である。
【0021】
この構成によれば、固定部材は金属材それぞれに対して位置制御を行い、回転部材は位置制御、荷重制御及びトルク制御のいずれかを行う。このため、主に金属材それぞれの一方の面の側からの作業によって、従来の金属材の表側から回転ツールを当接させ、裏側から裏当板を当接させる摩擦攪拌接合と同様の接合を行うことができる。
【0022】
また、本発明は、一対の金属材の端面同士が突き合わされた接合部に挿入され、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面から他方の面へと伸びる攪拌軸と、接合部周辺の金属材それぞれの他方の面に当接される攪拌軸の先端の回転部材と、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面に当接される固定部材とを備え、回転部材及び固定部材は、回転部材と固定部材との間に接合部周辺の金属材それぞれを挟み込み、回転部材及び攪拌軸が回転しつつ接合部に沿って移動することにより金属材同士を接合し、攪拌軸は、回転部材の他方の面と当接する面が回転部材及び攪拌軸の移動方向の側に傾くように、他方の面の法線に対して傾斜させられている金属材の接合装置である。
【0023】
この場合、固定部材は、攪拌軸周辺で回転部材の側に突出した凸部を有し、回転部材及び攪拌軸の移動に対応して接合部に沿って移動することが好適である。
【0024】
または、固定部材は、攪拌軸周辺で回転部材とは反対の側に窪んだ凹部を有し、回転部材及び攪拌軸の移動に対応して接合部に沿って移動することが好適である。
【0025】
あるいは、固定部材は、攪拌軸が接合部に沿って移動可能なように接合部に沿って分割されており、回転部材及び攪拌軸は、固定部材が金属材に対して固定されたままの状態で、回転しつつ接合部に沿って移動することにより金属材同士を接合することが好適である。
【0026】
また、固定部材は、接合部周辺の金属材それぞれの一方の面の形状に沿った形状を有することが好適である。
【0027】
また、金属材同士を接合するときに、固定部材は、接合部周辺の金属材それぞれに対する固定部材の位置を制御され、回転部材は、接合部周辺の金属材それぞれに対する回転部材の位置、荷重及び回転のトルクのいずれかを制御されることが好適である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の金属材の接合方法及び金属材の接合装置によれば、接合部にキッシングボンドのような未接合部を生じさせずに、良好な接合部を得ることが可能な接合条件の範囲を拡大させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】第1実施形態に係る金属材の接合方法を示す斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る金属材の接合方法を示す接合部の長手方向に沿った断面による断面図である。
【
図3】第2実施形態に係る金属材の接合方法を示す接合部の長手方向に沿った断面による断面図である。
【
図4】第3実施形態に係る金属材の接合方法を示す接合部の長手方向に沿った断面による断面図である。
【
図5】第4実施形態に係る金属材の接合方法を示す接合部の長手方向に垂直な断面による断面図である。
【
図6】第5実施形態に係る金属材の接合方法を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る金属材の接合方法及び金属材の接合装置について説明する。まず、本発明の第1実施形態について説明する。
図1及び
図2に示す本発明の第1実施形態に係る接合装置10aは、一対の板材である金属材1,2の端面同士が突き合わされた図中X方向に伸びる接合部3において金属材1,2を摩擦攪拌接合により接合するためのものである。
【0031】
図1及び
図2に示すように、本発明の第1実施形態の接合装置10aは、表側プレート12a、裏側ツール14、攪拌軸16及び制御部20を備えている。表側プレート12aは、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に当接させられる平滑な平面を有する四角形状の板材である。なお、以下、説明の便宜のため、金属材1,2の図中のZ軸のプラス側の面を表面とし、金属材1,2の図中のZ軸のマイナス側の面を裏面とする。表側プレート12aは、接合時の高温において、500〜5000kgの荷重に耐え得る十分な圧縮強度を有していることが好ましい。表側プレート12aの材質としては、例えば、金属を主成分とする合金や、セラミックス等を適用することもできる。
【0032】
表側プレート12aには、攪拌軸16を通すための貫通孔を有する貫通孔部16hが設けられている。後述するように、本実施形態では攪拌軸16は金属材1,2それぞれの裏面の法線Vに対して所定の角度θで傾斜させられるため、表側プレート12aの貫通孔部12hの貫通孔も、その中心軸が攪拌軸16の傾斜角に合わせて傾斜している。
図2に示すように、表側プレート12aは、金属材1,2の表面上で滑り易いように、金属材1,2に接する面の周縁に面取部12mが設けられている。なお、本実施形態では、表側プレート12aは、四角形状を成すが、状況に応じて円盤状、楕円形状、多角形状を成す表側プレート12aを適用することができる。
【0033】
裏側ツール14は、攪拌軸16の先端部に取り付けられた円盤状あるいは円筒状の部材である。裏側ツール14は、裏側ツール14の攪拌軸16側の面が金属材1,2それぞれの裏面に当接させられる。裏側ツール14は、金属材1,2それぞれに当接する面の法線が攪拌軸16の中心軸Aに平行となるように攪拌軸16の先端部に取り付けられている。裏側ツール14の材質は、例えば、日本工業規格に規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)を主成分とする超硬合金、またはSi
3N
4等のセラミックスからなるものとすることができる。
【0034】
攪拌軸16は、先端に裏側ツール14を有し、表側プレート12aの貫通孔部12hを通って金属材1,2それぞれの表面側から裏面側に伸びる円柱状の部材である。攪拌軸16の材質は、裏側ツール14と同様に、例えば、日本工業規格に規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)を主成分とする超硬合金、またはSi
3N
4等のセラミックスからなるものとすることができる。
【0035】
本実施形態では、攪拌軸16の中心軸Aは、裏側ツール14における接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面と当接する面が裏側ツール14及び攪拌軸16の移動方向(
図2中の矢印方向又はX軸のプラス方向)の側に傾くように、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面の法線Vに対して所定の角度θをなすように傾斜させられている。所定の角度θは、例えばθ=0.1°〜5°とすることができ、特にはθ=3°とすることができる。
【0036】
攪拌軸16の金属材1,2の接合部3に挿入される部位の外周面には、ネジ溝16aが形成されている。ネジ溝16aは、接合時の攪拌軸16の回転に伴ってネジ溝16aの周囲の金属材1,2が金属材1,2の裏面から表面に向かう方向d
1に塑性流動するように形成されている。また、攪拌軸16の表側プレート12aの貫通孔部12hに挿入される部位の外周面には、ネジ溝16bが形成されている。ネジ溝16bは、ネジ溝16aとは反対に、接合時の攪拌軸16の回転に伴って、ネジ溝16aからネジ溝16bの周囲まで達した金属材1,2が金属材1,2の表面から裏面に向かう方向d
2に塑性流動するように形成されている。
【0037】
制御部20は、表側プレート12a、裏側ツール14及び攪拌軸16の動作を制御する。制御部20は、裏側ツール回転モータ21、裏側ツール移動モータ22、裏側ツール引張機構23、表側プレート移動モータ24及びコントローラ25を有している。
【0038】
裏側ツール回転モータ21は、裏側ツール14及び攪拌軸16を所定のトルクで回転させる。裏側ツール移動モータ22は、裏側ツール14及び攪拌軸16を任意の方向に移動させる。裏側ツール移動モータ22は、裏側ツール14及び攪拌軸16の金属材1,2に対する垂直方向(図中Z軸の方向)及び水平方向(図中X軸及びY軸の方向)への相対的な位置を制御する。裏側ツール引張機構23は、裏側ツール14及び攪拌軸16を金属材1,2の裏側から表側へと所定の力で引っ張る。このため、裏側ツール14は、接合部3周辺の金属材1,2それぞれに対して所定の荷重で当接させられる。
【0039】
コントローラ25は、裏側ツール回転モータ21、裏側ツール移動モータ22及び裏側ツール引張機構23の動作を制御する。コントローラ25は、裏側ツール回転モータ21の動作を制御することにより、裏側ツール14及び攪拌軸16の回転のトルクを制御するトルク制御を行うことができる。コントローラ25は、裏側ツール移動モータ22の動作を制御することにより、裏側ツール14及び攪拌軸16の位置を制御する位置制御を行うことができる。コントローラ25は、裏側ツール引張機構23の動作を制御することにより、接合部3周辺の金属材1,2それぞれに対する裏側ツール14の荷重を制御する荷重制御を行うことができる。コントローラ25は、裏側ツール14裏側ツール14及び攪拌軸16の動作をトルク制御、位置制御及び荷重制御のいずれかにより制御することができる。
【0040】
表側プレート移動モータ24は、裏側ツール14及び攪拌軸16の移動に対応させて表側プレート12aを任意の方向に移動させる。表側プレート移動モータ24は、表側プレート12aの金属材1,2に対する垂直方向及び水平方向への相対的な位置を制御する。コントローラ25は、表側プレート移動モータ24の動作を制御する。コントローラ25は、表側プレート移動モータ24の動作を制御することにより、表側プレート12aの位置を制御する位置制御を行うことができる。
【0041】
以下、本実施形態の接合装置10aの動作について説明する。
図1及び
図2に示すように、接合部3に攪拌軸16が挿入される。裏側ツール14が接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面に当接させられる。表側プレート12aが接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に当接させられる。表側プレート12aと裏側ツール14との間に接合部3周辺の金属材1,2それぞれは挟み込まれる。
【0042】
制御部20は、裏側ツール14及び攪拌軸16を所定の回転速度となるトルクで回転させつつ、裏側ツール14及び攪拌軸16を接合部3に沿って移動させることにより、金属材1,2は接合部3にて接合される。制御部20は、表側プレート12aを裏側ツール14及び攪拌軸16の移動に対応させて接合部3に沿って移動させる。このとき制御部20は、裏側ツール14及び攪拌軸16については、上述した位置制御、荷重制御及びトルク制御のいずれかを行い、表側プレート12aについては上述した位置制御を行う。また、攪拌軸16の中心軸Aは、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面の法線Vに対して所定の角度θをなしたまま、回転させられつつ接合部3に沿って移動させられる。
【0043】
図2に示すように、接合時の攪拌軸16の回転に伴ってネジ溝16aのネジ山それぞれが金属材1,2の裏面から表面に向かう方向d
1に進行する。これにより、接合部3における金属材1,2の塑性流動が促進され、良好な接合を得ることができる。また、接合時の攪拌軸16の回転に伴ってネジ溝16bのネジ山それぞれが金属材1,2の表面から裏面に向かう方向d
2に進行する。これにより、ネジ溝16aにより金属材1,2の表面に塑性流動させられた金属が表側プレート12aの貫通孔部12hの貫通孔に入ってしまうことを防止することができる。
【0044】
本実施形態によれば、従来のボビンツールによる摩擦攪拌接合のように、一対の金属材1,2の端面同士が突き合わされた接合部3に、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面から裏面へと伸びる攪拌軸16を挿入し、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面に攪拌軸16の先端の裏側ツール14を当接させる。しかし、本実施形態では、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に表側プレート12aを当接させ、裏側ツール14と表側プレート12aとの間に接合部3周辺の金属材1,2それぞれを挟み込み、裏側ツール14及び攪拌軸16を回転させつつ接合部3に沿って移動させることにより金属材1,2同士を接合する。
【0045】
このため、接合部3周辺の金属材1,2の両面にキッシングボンドのような未接合部が生じない。また、従来のボビンツールのように接合部3周辺の金属材1,2の両面に回転する部材が当接されず、金属材1,2の表面には表側プレート12aの起伏が転写されるため、平滑な表面を有する表側プレート12aを当接させることにより、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に摩擦攪拌接合後の痕を生じさせず、良好な接合表面を得ることが可能となる。さらに、本実施形態では、金属材の表面側のみから回転ツールのプローブを接合部に挿入しつつ裏面側に裏当板を当接させる従来の摩擦攪拌接合方法のように、金属材の表面及び裏面の両方から作業を行う必要がなく、ほとんどの作業を金属材の表面側のみから行うことができる。したがって、機器や車両のシャーシ等の閉じた構造の構造物に対しても、外部からのみの作業で容易に金属材の接合を行うことができる。
【0046】
さらに、本実施形態によれば、攪拌軸16の中心軸Aは、裏側ツール14における接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面と当接する面が裏側ツール14及び攪拌軸16の移動方向の側に傾くように、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの裏面の法線Vに対して傾斜させられる。このため、このような攪拌軸16の傾斜角を設けられず、接合可能条件が制限される従来のボビンツールによる摩擦攪拌接合に対して、良好な接合部3を得ることが可能な接合条件の範囲を拡大させることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態によれば、表側プレート12aは金属材1,2それぞれに対して位置制御を行い、裏側ツール14は位置制御、荷重制御及びトルク制御のいずれかを行う。このため、主に金属材1,2それぞれの表面側からの作業によって、従来の金属材1,2の表側から回転ツールを当接させ、裏側から裏当板を当接させる摩擦攪拌接合と同様の接合を行うことができる。
【0048】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。
図3に示すように、本実施形態の接合装置10bは、攪拌軸16周辺で裏側ツール14の側に突出した凸部12pを有する表側プレート12bを接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に当接させる点が、上記第1実施形態と異なっている。裏側ツール14はその移動方向の側に金属材1,2と当接する面が傾くように傾斜している。そのため、
図3に示す裏側ツール14の移動方向とは反対側の端部周辺で最も荷重がかかる。そのため、凸部12pは裏側ツール14の移動方向とは反対側の端部周辺で裏側ツール14側に最も突出している。金属材1,2の表面に対して凸部12pが図中Z方向のマイナス側に突出する長さは、例えば1〜5mmとすることができる。
【0049】
本実施形態によれば、攪拌軸16及び裏側ツール14の周辺の摩擦攪拌接合の中心において、表側プレート12bが裏側ツール14の側に突出した凸部12pを有し、裏側ツール14及び攪拌軸16の移動に対応して移動するため、金属材1,2の歪み量と塑性加工とが増大し、金属材1,2の組織がより微細化されるため、接合強度を向上させることができる。さらに、本実施形態によれば、表側プレート12bの貫通孔部12h付近に凸部12pを有するため、金属が貫通孔部12hの貫通孔に入ってしまうことを防止することができる。
【0050】
以下、本発明の第3実施形態について説明する。
図4に示すように、本実施形態の接合装置10cは、攪拌軸16周辺で裏側ツール14とは反対の側に窪んだ凹部12qを有する表側プレート12cを接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に当接させる点が、上記第1実施形態と異なっている。裏側ツール14はその移動方向の側に金属材1,2と当接する面が傾くように傾斜している。そのため、
図4に示す裏側ツール14の移動方向とは反対側の端部周辺で最も荷重がかかる。そのため、凹部12qは裏側ツール14の移動方向とは反対側の端部周辺で裏側ツール14とは反対側に最も深く窪んでいる。金属材1,2の表面に対して凹部12qが図中Z方向のプラス側に窪む深さは、例えば1〜5mmとすることができる。
【0051】
本実施形態によれば、マグネシウム合金やチタン合金等のHCP構造(六方最密充填構造)を有する金属材においては、摩擦攪拌接合の攪拌により金属材の組織に配向性が与えられると接合部の強度が低下することがある。しかし、本実施形態によれば、攪拌軸16及び裏側ツール14の周辺の摩擦攪拌接合の中心において、表側プレート12cが裏側ツール14とは反対の側に窪んだ凹部12qを有し、裏側ツール14及び攪拌軸16の移動に対応して移動するため、接合部3周辺の攪拌の流れを複雑にして、金属材1,2の組織に配向性が与えられることを防ぎ、接合部3の強度を向上させることができる。
【0052】
以下、本発明の第4実施形態について説明する。
図5に示すように、本実施形態の接合装置10dは、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの一方の面の形状に沿った形状を有する表側プレート12dを接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に当接させる点が、上記第1実施形態と異なっている。
図5に示すように、本実施形態では、金属材1,2は接合部3の長手方向に垂直な断面において裏面側に突出するように湾曲している。表側プレート12dは、湾曲した接合部3周辺の金属材1,2の表面に対応するように金属材1,2の裏面側に突出するように湾曲した形状を有する。本実施形態では、金属材1,2が接合部3の長手方向に垂直な断面において表面側に突出するように湾曲している場合には、表側プレート12dは、湾曲した接合部3周辺の金属材1,2の表面に対応するように金属材1,2の表面側に突出するように湾曲した形状を有するものとできる。
【0053】
本実施形態では、接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面の形状に沿った形状を有する表側プレート12dを接合部3周辺の金属材1,2それぞれの表面に当接させるため、金属材1,2の表面が平坦な面でなくとも、接合を行うことができ、接合の自由度を向上させることができる。特に、機器や車両のシャーシ等の閉じた構造の構造物に対して、主に構造物の外部あるいは内部からの一方向からの作業により接合を行うことができるため、極めて有用なものとなる。
【0054】
以下、本発明の第5実施形態について説明する。
図6に示すように、本実施形態の接合装置10eは、攪拌軸16が接合部3に沿って移動可能なように接合部3に沿って分割された一対の表側プレート12eを当接させ、表側プレート12eを金属材1,2に対して固定させたままの状態で、裏側ツール14及び攪拌軸16を回転させつつ接合部1,2に沿って移動させることにより金属材1,2同士を接合する点が、上記第1実施形態と異なっている。
図6に示すように、一対の表側プレート12eは、上記第1〜4実施形態の表側プレート12a〜12dと異なり貫通孔部12hを有しない。一対の表側プレート12eは、接合部3の長手方向に沿って接合部3の全長にわたって攪拌軸16の直径よりも僅かに大きい間隔を空けて金属材1,2の表面に当接される。制御部20は、裏側ツール14及び攪拌軸16を回転させつつ接合部1,2に沿って移動させているときに、一対の表側プレート12eを金属材1,2の表面上で固定させたままとする。
【0055】
本実施形態では、攪拌軸16が接合部3に沿って移動可能なように接合部3に沿って分割された表側プレート12eを当接させ、表側プレート12eを金属材1,2に対して固定させたままの状態で、裏側ツール14及び攪拌軸16を回転させつつ接合部3に沿って移動させることにより金属材1,2同士を接合する。このため、表側プレート12eを金属材1,2に対して移動させない簡単な方法で金属材1,2を接合することができる。
【0056】
なお、本実施形態の接合装置10eにおいては、一対の表側プレート12eの全長よりも接合部3の長さが長いような場合は、制御部20は、上記第1〜4実施形態のように、裏側ツール14及び攪拌軸16の移動に対応させて一対の表側プレート12eを接合部3に沿って移動させるようにしても良い。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1,2…金属材、3…接合部、10a〜10e…接合装置、12a〜12e…表側プレート、12m…面取部、12h…貫通孔部、12p…凸部、12q…凹部、14…裏側ツール、16…攪拌軸、16a,16b…ネジ溝、20…制御部、21…裏側ツール回転モータ、22…裏側ツール移動モータ、23…裏側ツール引張機構、24…表側プレート移動モータ、25…コントローラ。