【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成23年10月20日に社団法人日本金属学会が発行の日本金属学会講演概要(2011年秋期(第149回)大会)DVDの公表番号44にて発表 平成23年11月8日に社団法人日本金属学会の2011年秋期(第149回)大会にて発表 平成24年3月15日に社団法人日本金属学会が発行した日本金属学会講演概要(2012年春期(第150回)大会)DVDの公表番号2にて発表 平成24年3月30日に社団法人日本金属学会の2012年春期(第150回)大会にて発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記粉末冶金法、反応ガス浸透法、反応焼結法、溶融撹拌法、鋳造法を用いた複合材料の製造方法には、それぞれ以下のような問題があることから、実用化には至っていないのが現状である。
【0008】
すなわち、粉末冶金法は、アルミニウム粉末とセラミックス粉末とを混合したものを、型押し等で整形した後、構成材料の融点以下の温度で焼成する製造法であることから、分散率という点では問題がないが、複合材料を複雑形状に形成することが困難であるとともに、小さな複合材料しか製造できないためコスト高になるという問題がある。
【0009】
また、反応ガス浸透法は、Al−Ti合金溶湯中にCH
4ガスを吹き込んで、TiC粒子を生成させる方法であることから、複合材料を複雑形状に形成することが可能であり且つ分散率という点でも問題はないが、製造された複合材料は、緻密性が低いため強度に劣り、また、大規模な設備を要するためコスト高になるという問題がある。
【0010】
さらに、反応焼結法は、焼結促進剤を使用しないことから、セラミックスの高温性能が劣化しないという利点はあるものの、複合材料を複雑形状に形成することが困難であるとともに、低コスト化が望めない上、製造された複合材料は機械的強度が高くないという問題がある。
【0011】
また、溶融攪拌法は、半溶融あるいは溶融状態に加熱したアルミニウムを機械的に攪拌しながらセラミックス粒子を添加する方法であるが、複合材料を複雑形状に形成することが困難であるとともに、製造された複合材料は、セラミックス粒子の分散率が悪く、強度に劣るという問題がある。
【0012】
さらに、鋳造法は、緻密性が高く、低コストであり、且つ、複合材料を複雑形状に形成することが可能であるという利点はあるものの、製造された複合材料は、セラミックス粒子の分散率が悪く、強度に劣るという問題がある。
【0013】
一方、上記各特許文献のものにも、以下のような問題がある。すなわち、上記特許文献1のものでは、硬度および耐摩耗性を向上させるために、非常に高価な炭化ケイ素を用いることから、複合材料の製造コストが上昇するという問題がある。また、特許文献1のものでは、その
図2及び
図7に示すように、ニッケルとアルミニウムとの反応により形成される金属間化合物の層は、ニッケル合金の外層がアルミ合金溶湯と接触する界面部分にしか形成されていないことから、製造された複合材料に硬さのばらつきが生じるおそれがある。
【0014】
さらに、上記特許文献2のものでは、その
図2〜
図4に示すように、ステンレス鋳鋼、耐熱鋳鋼および高クロム鋳鋼中に、セラミックスがまばらにしか存在していないことから、特許文献1のものと同様に、製造された複合材料に硬さのばらつきが生じるおそれがある。
【0015】
以上のように、粉末冶金法、反応ガス浸透法、反応焼結法、溶融撹拌法、鋳造法、及び、多孔体を溶融金属で鋳込む従来の方法には、形状の自由度、製造コスト、分散率、並びに、強度および耐摩耗性の少なくともいずれか1つにおいて改善すべき問題がある。
【0016】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、アルミニウム合金を母材とする強化複合材料において、アルミニウム合金中に金属間化合物が均一に分散した、強度および耐摩耗性に優れる強化複合材料を、形状の自由度を確保しつつ低コストで製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属間化合物強化複合材料及びその製造方法では、微細な金属間化合物をアルミニウム合金マトリックスに均一に分散させるべく、アルミニウム合金溶湯と金属多孔体との接触面積が大きくなり且つセル間の距離が短くなるように、比表面積が大きい金属多孔体を採用するとともに、多孔体を構成する金属とアルミニウム合金溶湯との反応が促進されるように、温度及び保持時間を積極的に管理するようにしている。
【0018】
具体的には、第1の発明は、アルミニウム合金マトリックス中に、粒子状の金属間化合物が均一に分散した金属間化合物強化複合材料の製造方法を対象としている。
【0019】
そして、Ni又はNi−Cr合金からなる、比表面積が1250m
2/m
3以上の金属多孔体を用意し、電気炉内に設置された金型のキャビティ内に、当該キャビティと略同一形状の上記金属多孔体をセットする設置工程と、アルミニウム合金溶湯を当該金型のキャビティ内に注湯して、アルミニウム合金溶湯を当該金属多孔体に含浸させる含浸工程と、上記Ni又はNi−Cr合金と上記アルミニウム合金溶湯とが溶融反応して、粒子状のAl
3Ni、又は、粒子状のAl
3Ni及び粒子状のAl
7Crを生成するように、上記金型内で、当該アルミニウム合金溶湯を所定温度で所定時間保持する反応工程と、上記所定時間保持した後、少なくとも固液共存状態から固相状態までは炉冷する冷却工程と、を含
み、上記反応工程における上記所定温度が、700℃以上740℃以下であり、且つ、上記所定時間が、3分以上18分以下であることを特徴とするものである。
【0020】
第1の発明によれば、比表面積が1250m
2/m
3以上という極めて多くの気孔を含む金属多孔体を用いることから、含浸工程において、アルミニウム合金溶湯を金属多孔体に含浸させると、Ni又はNi−Cr合金(以下、Ni等ともいう)とアルミニウム合金溶湯との大きな接触面積が確保されるとともに、各気孔部に取り込まれたアルミニウム合金溶湯は、Ni等によって密に囲まれることになる。
【0021】
そうして、次の反応工程では、粒子状のAl
3Ni、又は、粒子状のAl
3Ni及び粒子状のAl
7Cr(以下、粒子状のAl
3Ni等ともいう)を生成するように、換言すると、アルミニウム合金とNi等とが反応しなかったり、生成したAl
3Ni等の粒子が成長し過ぎて粗大化したりしないように、アルミニウム合金溶湯を所定温度で所定時間保持する。このように、アルミニウム合金溶湯を所定温度に維持して所定時間保持することと、Ni等とアルミニウム合金溶湯との接触面積が大きいこととが相俟って両者の溶融反応が促進されることになる。
【0022】
具体的には、各気孔部を形成しているNi等と、各気孔部に取り込まれたアルミニウム合金溶湯との界面で、Al
3Ni等が生成されるとともに、生成の際の体積膨張により、Al
3Ni等が金属多孔体から剥離して、各気孔部に取り込まれたアルミニウム合金溶湯中に分散しながら晶出する。したがって、各気孔部において、アルミニウム合金中に、粒子状のAl
3Ni等が均一に分散した状態が実現される。そうして、金属多孔体はキャビティと略同一形状であることから、換言すると、金型に注湯されたアルミニウム合金溶湯中に金属多孔体が略均一に配置されていたことから、金属多孔体を構成していたNi等がほぼ全てアルミニウム合金と反応して、各気孔部を区画していた間仕切りが無くなると、アルミニウム合金マトリックス中に、粒子状のAl
3Ni等が均一に分散した金属間化合物強化複合材料が生成される。
【0023】
ここで、空冷や強制空冷のように冷却速度が速いと、反応のための時間が短くなり、金属多孔体を構成する金属とアルミニウム合金溶湯との反応が起こり難くなるおそれがあるが、第1の発明では、少なくとも固液共存状態から固相状態までは炉冷することから、換言すると、反応のための時間を長くとることから、アルミニウム合金マトリックス中に、未反応のNi等が大量に残ることを抑えることができる。
【0024】
加えて、上記説明から分かるように、第1の発明によれば、大規模な設備を要しないとともに、例えば従来から生産ライン等で用いられてきた既存の金型を用いることが可能であることから、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物が均一に分散した金属間化合物強化複合材料を低コストで得ることができる。
【0025】
また、キャビティと略同一形状の金属多孔体をセットするので、所望の形状のキャビティを有する金型を用いれば、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物が均一に分散した、所望の形状の金属間化合物強化複合材料が得られ、これにより、金属間化合物強化複合材料の形状の自由度を高めることができる。
【0026】
以上により、アルミニウム合金中に金属間化合物が均一に分散した、強度および耐摩耗性に優れる強化複合材料を、形状の自由度を確保しつつ低コストで製造することが可能となる。
【0027】
なお、本発明において、「粒子状」とは、アルミニウム合金マトリックス中の金属間化合物のアスペクト比(縦横比)が3未満であることを意味し、「粒子状の金属間化合物が均一に分散した」とは、そのようなアスペクト比が3未満である金属間化合物が、金属間化合物全体の40%以上を占め、且つ、一箇所に集まることなく、アルミニウム合金マトリックス中に点在していることを意味する。
【0029】
第
1の発明によれば、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物が均一に分散した金属間化合物強化複合材料を好適に製造することができる。
【0030】
第
2の発明は、上記第
1の発明において、上記含浸工程及び上記反応工程では、加圧力が
0.1MPaであることを特徴とすることを特徴とするものである。
【0031】
ところで、アルミニウム合金溶湯を金属多孔体に含浸させる際に、加圧力が低いと、アルミニウム合金溶湯を金属多孔体の孔内に押し込む力が不足し、アルミニウム合金溶湯が孔に充填されず、空孔が多くなる一方、加圧力が高いと、アルミニウム合金溶湯中で金属多孔体が変形して、分散率が区々になるおそれがある。
【0032】
ここで、第
2の発明によれば、
0.1MPaの加圧力で、アルミニウム合金溶湯を金属多孔体に含浸させることから、アルミニウム合金溶湯を孔に充填することができるとともに、金属多孔体の形状を維持して、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物を均一に分散させることができる。
【0033】
第
3の発明は、上記第1
又は第2の発明において、上記金属多孔体の比表面積が2800m
2/m
3以上であることを特徴とするものである。
【0034】
第
3の発明によれば、アルミニウム合金溶湯と金属多孔体との接触面積がより一層大きくなるとともに、セル間の距離がより一層短くなることから、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物をより確実に均一に分散させることができる。
【0035】
第
4の発明は、上記第1〜第
3のいずれか1つの発明を用いて製造される金属間化合物強化複合材料
の製造方法を対象としている。
【0036】
そして、
上記金属間化合物強化複合材料は、所定断面積中における、アルミニウム合金マトリックス中に分散している金属間化合物の
全個数に占める、アスペクト比が
1以上3未満である金属間化合物の
個数の割合が40%以上であることを特徴とするものである。
【0037】
第
4の発明によれば、アスペクト比が
1以上3未満である金属間化合物の割合が40%以上であることから、換言すると、金属間化合物強化複合材料は、大部分の金属間化合物粒子が方向性を有しないで分散した、粒子分散の形状を呈していることから、高い強度および耐摩耗性を有する強化複合材料を低コストで得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る金属間化合物強化複合材料及びその製造方法によれば、比表面積が1250m
2/m
3以上という極めて多くの気孔を含む金属多孔体を用いることから、Ni等とアルミニウム合金溶湯との大きな接触面積が確保されるとともに、各気孔部に取り込まれたアルミニウム合金溶湯は、Ni等によって密に囲まれるので、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物が均一に分散し易くなる。
【0039】
また、粒子状のAl
3Ni等を生成するように、アルミニウム合金溶湯を所定温度で所定時間保持することから、アルミニウム合金とNi等とが反応しなかったり、生成したAl
3Ni等の粒子が成長し過ぎて粗大化したりするのを抑えられるので、強度および耐摩耗性に優れる強化複合材料を製造することができる。
【0040】
さらに、少なくとも固液共存状態から固相状態までは炉冷することにより、反応のための時間を長くとることから、アルミニウム合金マトリックス中に、未反応のNi等が大量に残ることを抑えることができる。
【0041】
加えて、大規模な設備を要しないとともに、既存の金型を用いることが可能であることから、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物が均一に分散した金属間化合物強化複合材料を低コストで得ることができる。
【0042】
また、キャビティと略同一形状の金属多孔体をセットするので、所望の形状のキャビティを有する金型を用いれば、アルミニウム合金マトリックス中に金属間化合物が均一に分散した、所望の形状の金属間化合物強化複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0045】
−金属間化合物強化複合材料−
図1は、本実施形態に係る金属間化合物強化複合材料の断面の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。この金属間化合物強化複合材料は、密度が小さく比強度の高いアルミニウム合金を母材とし、その強度および耐摩耗性を補うべく、例えばビッカース硬さが700Hvを超えるAl
3Ni(金属間化合物)を強化材とするアルミニウム合金基複合材料である。
【0046】
このアルミニウム合金基複合材料は、従来の粉末冶金法、反応ガス浸透法、反応焼結法、溶融撹拌法、鋳造法等とは異なり、金属多孔体にアルミニウム合金溶湯を含浸させるとともに、金属多孔体を構成する金属とアルミニウム合金との反応を制御しながら製造されるものである。具体的には、このアルミニウム合金基複合材料1は、
図2(a)に示すような金属多孔体3を用意し、
図2(b)に示すように、金属多孔体3にアルミニウム合金溶湯5を含浸させるとともに、金属多孔体3を構成する金属とアルミニウム合金との反応を制御することにより、
図2(c)に示すように、金属多孔体3とアルミニウム合金溶湯5との界面で金属間化合物7を生成させ、
図2(d)に示すように、生成した金属間化合物7をアルミニウム合金9中に分散させることにより製造されるものである。
【0047】
このため、本実施形態のアルミニウム合金基複合材料は、
図1に示すように、アルミニウム合金マトリックス中に、粒子状のAl
3Niが均一に分散しているとともに、未反応のNiや粗大化したAl
3Niやポロシティ(気孔)の極めて少ない金属組織を有しており、これにより、例えば、車両の内燃機関のピストン、船舶におけるピストンやプーリーや軸受け、航空機等のエンジン部品や油圧部品といった、軽量で且つ強度および耐摩耗性が要求される部材への適用が可能となっている。なお、
図1に示すアルミニウム合金基複合材料は、加圧力を0.1MPaとし、アルミニウム合金(AC8A)溶湯を溶湯温度700℃に維持して10分間保持した後、炉冷したものである。
【0048】
本実施形態のアルミニウム合金基複合材料において、アルミニウム合金に含まれるAl
3Niの体積率が、8vol%未満では十分な耐摩耗性が得られないが、20vol%を超えると、耐摩耗性の改善効果が飽和すると考えられる。従って、アルミニウム合金に含まれるAl
3Niの体積率は8〜20vol%とした。なお、アルミニウム合金に含まれるAl
3Niの体積率が8vol%以上でも、強度を向上させることはできるが、ピストンヘッド等のより高い強度が要求される部品に、本実施形態のアルミニウム合金基複合材料を用いる場合には、アルミニウム合金に含まれるAl
3Niの体積率は10〜20vol%が望ましい。
【0049】
母材であるアルミニウム合金としては、Mg、Si、Cu、Zn、Mnの少なくとも1種を含むものを採用でき、例えば、Al−Si系、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Mn−Mg系のものを用いることができる。より具体的には、耐熱性、耐摩耗性,低熱膨張率等を考慮して、JIS AC8A、AC8B、AC8C等で代表される亜共晶Al−Si合金や共晶Al−Si合金を用いることが望ましい。なお、本実施形態では、アルミニウム合金として、AC8A(Al−12%Si−1%Ni−1%Cu−1%Mg)を用いる。
【0050】
また、強化材としての金属間化合物は粒子状のAl
3Niに限られず、例えば粒子状のAl
3Ni及び粒子状のAl
7Crが混在していてもよい。
【0051】
ここで、「粒子状」とは、
図3に示すように、アルミニウム合金マトリックス中のAl
3Niの長さ(Length)と幅(Width)を規定した場合における、アスペクト比(長さ/幅)が3未満であることを意味し、「粒子状の金属間化合物が均一に分散した」とは、アルミニウム合金マトリックス中のAl
3Niのうち、アスペクト比が3未満である金属間化合物の割合が40%以上であり、且つ、そのような粒子状のAl
3Niが一箇所に集まることなく、アルミニウム合金マトリックス中に点在していることを意味する。
【0052】
このように、本実施形態のアルミニウム合金基複合材料は、アスペクト比が3未満であるAl
3Niの割合が40%以上であることから、換言すると、大部分のAl
3Ni粒子が方向性を有しないで分散した、粒子分散の形状を呈することから、高い強度および耐摩耗性を有するものとなっている。
【0053】
−金属間化合物強化複合材料の製造方法−
次に、
図4に示すフローチャートに基づいて、本実施形態のアルミニウム合金基複合材料の製造方法について詳細に説明する。
【0054】
アルミニウム合金基複合材料の製造に先立ち、先ず、Niからなる、比表面積が1250(m
2/m
3)以上の金属多孔体を用意する。このような金属多孔体としては、例えば、ニッケルセルメット(住友電工株式会社製)を用いることができる。
図5(a)は、セルサイズが0.73〜0.98(mm)、比表面積が1250(m
2/m
3)のニッケルセルメットであり、
図5(b)は、セルサイズが0.46〜0.58(mm)、比表面積が2800(m
2/m
3)のニッケルセルメットである。
【0055】
このニッケルセルメットは、発泡樹脂に導電処理を行った後に、ニッケルめっきを行い、その後、熱処理により発泡樹脂を除去することで製造することができる。このため、発泡樹脂を、製造したいアルミニウム合金基複合材料の形状に合わせることで、任意の形状のアルミニウム合金基複合材料を製造することが可能となる。また、ニッケルセルメットは、気孔率が最大98%であることから、任意の量のAl
3Niをアルミニウム合金マトリックス中に含ませることが可能となっている。なお、金属間化合物としてAl
3Ni及びAl
7Crをアルミニウム合金マトリックス中に含ませる場合には、例えば、ニッケル−クロムセルメット(住友電工株式会社製)を用いればよい。
【0056】
また、アルミニウム合金基複合材料の製造に先立ち、
図6に示す製造装置11を用意する。この製造装置11は、伝熱線13aを備える電気炉13と、金型15内の温度を測定する熱電対17と、金型15内の溶湯を加圧するための錘19と、錘19で圧力をかけた際の溶湯の変位を測定するリアゲージ21と、各種データを記憶するためのカウンター23及びレコーダー25とを備えており、電気炉13内に設置された金型15に注湯された金属溶湯を、錘19によって加圧しながら、電熱線13aによって所定の温度に保つことができるように構成されている。
【0057】
そうして、先ず、ステップS1では、電気炉13内に設置された金型15のキャビティ15a内に、当該キャビティ15aと略同一形状のニッケルセルメット(金属多孔体)3をセットする(設置工程)。このように、ニッケルセルメット3はキャビティ15aと略同一形状であることから、金型15に注湯されたアルミニウム合金溶湯5中にニッケルセルメット3が略均一に配置されることになる。それ故、例えば、円柱状のアルミニウム合金基複合材料を製造するのであれば、円柱状のキャビティを有する金型に、円柱状のニッケルセルメットをセットし、また、円筒状のアルミニウム合金基複合材料を製造するのであれば、円筒状のキャビティを有する金型に、円筒状のニッケルセルメットをセットすれば、アルミニウム合金マトリックス全体に粒子状のAl
3Niが均一に分散した、円柱状または円筒状のアルミニウム合金基複合材料を製造することができる。
【0058】
次に、ステップS2では、約700℃に加熱されたアルミニウム合金溶湯(アルミニウム合金溶湯)5を金型15のキャビティ15a内に注湯して、アルミニウム合金溶湯5をニッケルセルメット3に含浸させる(含浸工程)。このとき、加圧力が0.05(MPa)の場合は、アルミニウム合金溶湯を押し込む力が不足するため、アルミニウム合金溶湯5がニッケルセルメット3の孔に十分に充填されず、
図7(a)に示すように、アルミニウム合金基複合材料に多数のポロシティ(図中のPoreで示す部分)が生じるおそれがある。一方、加圧力が0.15(MPa)の場合は、アルミニウム合金溶湯を押し込む力が大き過ぎるため、ニッケルセルメットの気孔が押し潰されて、アルミニウム合金溶湯中でニッケルが一部分に集まり、
図7(c)に示すように、アルミニウム合金マトリックス中に多数の粒子状のAl
3Niが分散されず、少数の粗大化したAl
3Niが生じるおそれがある。
【0059】
これらに対し、加圧力が0.1(MPa)すなわち大気圧近傍下の場合は、アルミニウム合金溶湯がニッケルセルメットの孔に十分に充填されるとともに、ニッケルセルメットの気孔が押し潰されることがないので、
図7(b)に示すように、アルミニウム合金マトリックス中に多数の粒子状のAl
3Niが分散することになる。したがって、含浸工程S2及び後述する反応工程S3は、大気圧近傍下で行われることが望ましい。
【0060】
なお、
図7(a)〜(c)に示すアルミニウム合金基複合材料は、セルサイズが0.73〜0.98mm、比表面積が1250m
2/m
3のニッケルセルメットを用い、且つ、アルミニウム合金溶湯を溶湯温度700℃(973K)に維持して10分間保持した条件で、それぞれ加圧力を変化させたものである。
【0061】
次のステップS3では、Niとアルミニウム合金溶湯5とが溶融反応して、粒子状のAl
3Niを生成するように、金型15内で、アルミニウム合金溶湯5を溶湯温度700℃以上740℃以下(所定温度)に維持して3分以上18分以下(所定時間)保持する(反応工程)。このように、ニッケルセルメットに含浸されたアルミニウム合金溶湯を溶湯温度700℃以上740℃以下に維持して3分以上18分以下保持すると、Niは全体が瞬時にAl
3Niに変化するのではなく、
図8(a)に示すように、Niの表面(Niとアルミニウム合金溶湯との界面)から徐々にAl
3Ni
2相が形成され、さらに反応が進むと、このAl
3Ni
2相を囲むようにAl
3Ni相が形成される。そうして、
図8(b)に示すように、Al
3Niが形成される際の体積膨張により、Al
3Niがニッケルセルメットから剥離して、ニッケルセルメットの各セルによって囲まれたアルミニウム合金溶湯中に均一に分散されることになる。以下、金型内におけるアルミニウム合金溶湯の温度と保持時間をこのような範囲に設定した理由を述べる。
【0062】
図9は、加圧力0.1MPa下で、溶湯温度を変化させた場合におけるアルミニウム合金マトリックス中の金属間化合物の状態を説明する電子顕微鏡写真であり、同図(a)は、溶湯温度を670℃に維持した場合であり、同図(b)は、溶湯温度を700℃に維持した場合であり、同図(c)は、溶湯温度を750℃に維持した場合であり、同図(d)は、溶湯温度を780℃に維持した場合である。なお、保持時間はいずれの場合も10分間とした。
【0063】
金型内におけるアルミニウム合金溶湯の温度を700℃未満である670℃(943K)に維持した場合には、
図9(a)から、アルミニウム合金マトリックス中にAl
3Niがあまり生成されず、未反応のNiが多数残ることが分かる。よって、この場合には、強度および耐摩耗性を効果的に向上させることが困難となる。
【0064】
一方、金型内におけるアルミニウム合金溶湯の温度を740℃を超える750℃(1023K)や780℃(1053K)に維持した場合には、
図9(c)及び(d)から、生成したAl
3Niの粒子が成長し過ぎて粗大化することが分かる。このような粗大な晶出物は、破壊の起点になり、アルミニウム合金材の強度、特に、疲労強度や破壊靭性値を低下させる原因にもなることから、この場合にも、強度および耐摩耗性を効果的に向上させることが困難となる。
【0065】
これらに対し、金型内におけるアルミニウム合金溶湯の温度を700℃(973K)に維持した場合には、
図9(b)から、アルミニウム合金マトリックス中に粒子状のAl
3Niが均一に分散していることが分かる。したがって、反応工程における金型内でのアルミニウム合金溶湯の温度は、700℃以上740℃以下とするのが望ましい。
【0066】
次に、保持時間について説明する。
図10は、加圧力0.1MPa下で且つアルミニウム合金溶湯の温度を700℃に維持して、保持時間を変化させた場合のアルミニウム合金マトリックス中における金属間化合物の状態を説明する電子顕微鏡写真であり、同図(a)は、保持時間が1秒の場合であり、同図(b)は、保持時間が10分の場合であり、同図(c)は、保持時間が20分の場合である。
【0067】
金型内でのアルミニウム合金溶湯の保持時間を3分未満である1秒とした場合には、
図10(a)から、アルミニウム合金マトリックス中にAl
3Niがあまり生成されず、未反応のNiが多数残ることが分かる。よって、この場合には、強度および耐摩耗性を効果的に向上させることが困難となる。
【0068】
一方、金型内でのアルミニウム合金溶湯の保持時間を18分を超える20分とした場合には、
図10(c)から、生成したAl
3Niの粒子が成長し過ぎて粗大化することが分かる。よって、この場合にも、強度および耐摩耗性を効果的に向上させることが困難となる。
【0069】
これらに対し、金型内でのアルミニウム合金溶湯の保持時間を10分とした場合には、
図10(b)から、アルミニウム合金マトリックス中に粒子状のAl
3Niが均一に分散していることが分かる。したがって、金型内でのアルミニウム合金溶湯の保持時間は、3分以上18分以下とするのが望ましい。
【0070】
翻って、次のステップS4では、上記ステップS3で3分以上18分以下した後、少なくとも固液共存状態から固相状態まではアルミニウム合金溶湯5を電気炉13内で冷却(炉冷)する。このように、炉冷を行う理由を以下に述べる。
【0071】
図11は、加圧力0.1(MPa)下で且つアルミニウム合金溶湯の温度を700℃に維持して10分間保持した後、冷却方法を変えた場合のアルミニウム合金マトリックス中における金属間化合物の状態を説明する電子顕微鏡写真であり、同図(a)は、空冷の場合であり、同図(b)は、強制空冷の場合である。
【0072】
空冷した場合(冷却速度が約0.8K/sec)や、強制空冷した場合(冷却速度が約1.3K/sec)には、
図11(a)及び
図11(b)から、アルミニウム合金マトリックス中にAl
3Niがあまり生成されず、未反応のNiが多数残ることが分かる。これは、冷却速度が速すぎるため、反応のための時間が短くなり、アルミニウム合金溶湯とNiとの反応が起こり難くなったことに起因する。
【0073】
これらに対し、炉冷した場合(冷却速度が約0.08K/sec)には、上記
図1から、アルミニウム合金マトリックス中に粒子状のAl
3Niが均一に分散していることが分かる。したがって、冷却方法としては炉冷が望ましい。
【0074】
そうして、次のステップS5では、アルミニウム合金基複合材料1を金型15から脱型する。
【0075】
(実施例)
以下、本発明の効果を確認するために行なった実験結果について説明する。
【0076】
先ず、実施例1として、セルサイズが0.73〜0.98mm、比表面積が1250m
2/m
3のニッケルセルメットを用意した。そして、このニッケルセルメットを電気炉内に設置された金型にセットした後、700℃に加熱されたアルミニウム合金溶湯を、金型のキャビティ内に注湯してニッケルセルメットに含浸させた。次いで、加圧力を0.1MPa、アルミニウム合金溶湯の温度を700℃に維持し、保持時間を10分として、それぞれアルミニウム合金基複合材料を製造した。
【0077】
同様に、実施例2として、セルサイズが0.46〜0.58mm、比表面積が2800m
2/m
3のニッケルセルメットを用意し、このニッケルセルメットを電気炉内に設置された金型にセットした後、700℃に加熱されたアルミニウム合金溶湯を、金型のキャビティ内に注湯してニッケルセルメットに含浸させ、加圧力を0.1MPa、アルミニウム合金溶湯の温度を700℃に維持し、保持時間を10分として、それぞれアルミニウム合金基複合材料を製造した。
【0078】
図12(a)は、実施例1のアルミニウム合金基複合材料を、
図12(b)は、実施例2のアルミニウム合金基複合材料を示す電子顕微鏡写真である。
図12(a)及び(b)から分かるように、実施例1及び2のいずれの場合も、アルミニウム合金マトリックス中に粒子状のAl
3Niが均一に分散したが、比表面積が大きいニッケルセルメットを用いた実施例2の方が、より微細でより多くの粒子状のAl
3Niが分散することが分かった。したがって、金属多孔体の比表面積は2800m
2/m
3以上が望ましい。
【0079】
また、実施例1及び2のそれぞれについて所定断面積(例えば104mm
2)中における、アスペクト比別のAl
3Niの個数をカウントした結果を
図13に示す。
図13から分かるように、実施例1ではアスペクト比が1以上3未満のAl
3Niの割合は42.4%であり、また、実施例2ではアスペクト比が1以上3未満のAl
3Niの割合は67.1%であった。これにより、本実施形態の製造方法によれば、アルミニウム合金マトリックス中に粒子状のAl
3Niが均一に分散したアルミニウム合金基複合材料が得られることが確認できた。
【0080】
さらに、実施例1について、Al
3Ni、母材(AC8A)及び複合材料のビッカース硬さを測定した。具体的には、実施例1の供試材から試験片を採取し、試験片の断面を鏡面研磨した後、正四角錐のダイヤモンド圧子を試験片に押し込み、荷重とくぼみの表面積との比から定義されるビッカース硬さを測定した。その結果を
図14に示す。
図14から分かるように、アルミニウム合金マトリックス中のAl
3Niはビッカース硬さが710(Hv)であり、良好なAl
3Niが生成されていることが確認できた。また、かかるAl
3Niが均一に分散したアルミニウム合金基複合材料は、母材に比して、ビッカース硬さが72%も向上していた。これにより、本実施形態の製造方法によれば、強度および耐摩耗性に優れる強化複合材料を、複雑な設備や工程を要することなく、形状の自由度を確保しつつ低コストで製造することが可能であることが確認できた。
【0081】
−効果−
本実施形態によれば、比表面積が1250m
2/m
3以上という極めて多くの気孔を含むニッケルセルメット3を用いることから、アルミニウム合金溶湯5をニッケルセルメット3に含浸させると、Niとアルミニウム合金溶湯5との大きな接触面積が確保されるとともに、各気孔部に取り込まれたアルミニウム合金溶湯5は、Niによって密に囲まれることになるので、アルミニウム合金マトリックス9中にAl
3Niが均一に分散し易くなる。
【0082】
また、反応工程では、アルミニウム合金とNiとが反応しなかったり、生成したAl
3Niの粒子が成長し過ぎて粗大化したりしないように、アルミニウム合金溶湯5を溶湯温度700℃以上740℃以下に維持して3分以上18分以下保持することから、Niとアルミニウム合金溶湯5との界面でAl
3Niが生成されるとともに、生成の際の体積膨張により、Al
3Niがニッケルセルメット3から剥離して、アルミニウム合金溶湯中5に分散しながら晶出することで、アルミニウム合金9中に粒子状のAl
3Niが均一に分散した状態が実現される。
【0083】
加えて、大規模な設備を要しないとともに、既存の金型を用いることが可能であることから、アルミニウム合金マトリックス9中にAl
3Niが均一に分散したアルミニウム合金基複合材料1を低コストで得ることができる。
【0084】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0085】
上記実施形態では、金型15内で、アルミニウム合金溶湯5を溶湯温度700℃以上740℃以下に維持して3分以上18分以下保持するようにしたが、溶湯温度と保持時間との関係は相対的なものであるから、アルミニウム合金とNiとが反応しなかったり、生成したAl
3Niの粒子が成長し過ぎて粗大化したりせず、粒子状のAl
3Niが生成されるのであれば、例えば、溶湯温度が700℃未満且つ保持時間が18分を超えるように設定したり、また、溶湯温度が740℃を超え且つ保持時間が3分未満となるように設定したりしてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、
図6に示す製造装置を用いてアルミニウム合金基複合材料を製造したが、金属溶湯を加圧しながら所定の温度に保つことができるのであれば、これに限らず、どのような装置を用いてもよい。
【0087】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。