特許第5988813号(P5988813)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988813
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】顔料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20160825BHJP
   C09D 5/06 20060101ALI20160825BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09D5/06
   B32B9/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-220803(P2012-220803)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-74089(P2014-74089A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】平山 浩喜
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
(72)【発明者】
【氏名】藤本 正
【審査官】 吉田 邦久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/001965(WO,A1)
【文献】 特開2010−201356(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0070586(US,A1)
【文献】 特開2010−275540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
B32B 9/00
C09D 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機顔料、水及び水酸化カルシウム微細粒子を含んでなる顔料組成物であって、
該水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径は0.1μm〜1.0μmであり、
該無機顔料の平均粒子径は0.05μm〜2.0μmであり、
該無機顔料の平均粒子径と該水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径の比(無機顔料/水酸化カルシウム微細粒子)は0.5〜20であり、
前記水酸化カルシウム微細粒子は、無機顔料100質量部あたり、5〜40質量部の量で含まれていることを特徴とする顔料組成物。
【請求項2】
更に、平均粒子径が0.01〜0.2μmであり、屈折率が1.4〜1.7であるアルミナ、炭酸カルシウム、又は二酸化ケイ素を含むことを特徴とする、請求項1に記載の顔料組成物。
【請求項3】
前記無機顔料100質量部あたり、水の配合量が25〜500質量部であることを特徴とする請求項1または2に記載の顔料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の顔料組成物からなることを特徴とする水彩絵の具。
【請求項5】
接触角60度以下の下地材の上に、請求項1〜3の何れか1項に記載の顔料組成物を塗布・乾燥して画像が形成されたことを特徴とする意匠構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水彩絵の具として有用な顔料組成物に関するものであり、詳しくは、フレスコ画の作画に好適な顔料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、壁画に用いられる画法として、フレスコと呼ばれる技法が知られている。フレスコは、漆喰を壁に塗って乾ききらないうちに、水彩絵の具で絵画を描くというものであり、下記式;

Ca(OH) + CO → CaCO + H

の化学反応により漆喰層(炭酸カルシウム層)の中に絵の具が滲み込んで定着するため、堅牢で耐久性に富む画像が形成されるという利点がある。
漆喰は、消石灰(水酸化カルシウム)の粒状物を含むペーストが大気中の炭酸ガスと反応することにより、炭酸化して固化することにより形成されるものである。従って、水酸化カルシウムを多く含んだ、未硬化漆喰層上に水彩絵の具で絵画を描くと、絵の具内の顔料が該未硬化漆喰層に浸透する。その後、未硬化漆喰層の表面側から徐々に、水酸化カルシウムが空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなることで、漆喰層中では、顔料が炭酸カルシウムの結晶であるカルサイト中に封じ込められていく。
【0003】
上述の水酸化カルシウムの炭酸化は、空気中の炭酸ガスの浸透により表面から進行し、ある程度の厚み部分まで炭酸化が進行した状態で炭酸ガスの浸透が抑制される。その結果、該漆喰層においては、表面側には緻密で強固な炭酸カルシウムの層が形成され、漆喰層内部には水酸化カルシウムが存在することとなる。そして、内部の水酸化カルシウムがアルカリ性を保つ一方、表面側に存在する炭酸カルシウム層が酸素等の酸化性物質の透過を防止し、漆喰層中に分散している顔料成分の酸化劣化を効果的に抑制することとなる。
フレスコ技法は上記の利点を有する一方、漆喰層が乾いて水酸化カルシウムの炭酸化が進んだ後には、絵画を描くことができなくなるという欠点を有する。それ故、フレスコにより絵画を描くに当たっては、漆喰層が乾く前に絵画を完成させなくてはならず時間的制約がある。更に、重ね描きができない、完成した絵画は修復することができないなどの問題がある。
【0004】
上記の欠点を解消する技法として、フレスコ・セッコが知られている(非特許文献1)。フレスコ・セッコは、硬化後の漆喰層表面に対しても水彩絵の具で絵画を描くことができる技法であり、具体的には、カゼイン、膠、卵等の媒剤に顔料を混ぜて彩色する方法、あるいは、消石灰や消石灰モルタルに顔料を混ぜて彩色する方法が一般的である。この技法によれば、媒剤と顔料を混ぜて描く場合は、アルカリに弱い顔料や金箔を使うことが可能であり、消石灰と顔料を混ぜて描く場合は、顔料の粒子が大きすぎて乾燥前の漆喰層に定着しない場合などに有効で、且つ、描く過程で絵の具に含まれる水酸化カルシウムが顔料と顔料の間に存在し、表面から炭酸化が進行するので、カルサイトの結晶に顔料が閉じ込められる構造が形成され、これにより、顔料の劣化が有効に防止される。
【0005】
ところが、フレスコ・セッコにも欠点がある。媒剤と顔料を混ぜて描いた場合は、媒剤が顔料粒子の周囲に存在するため、顔料自体が持つ鮮やかな発色性が損なわれたり、完全に乾燥した漆喰表面に描くため、長時間経つと媒剤の劣化により、当初の色調から明白色化したり、下地の漆喰層表面から剥落が起きやすくなる。また、消石灰と顔料を混ぜて描いた場合は、描画層の強度を保つ目的で消石灰の割合を一定以上保つ必要があるため、通常のフレスコによる顔料そのもののきれいな発色が望めず、色調が白味を帯びるなどの問題がある。さらに、下地となる漆喰層表面との接着力が強固でないために振動やその他の影響で剥離するといった欠点を有する。
【0006】
一方、本出願人は先に、耐候性に優れ、長期にわたって安定に黄色の色調を保持することが可能な黄色インキとして、黄色有機顔料等の黄色着色剤、及び粒子径が1μm以下の少量の水酸化カルシウム粒子を配合した黄色インキについて出願をした(特許文献2)。上記インキは、媒剤が存在しなくとも、十分な強度を得ることが可能である。
しかしながら、出願人の検討によれば、この有機顔料を用いた黄色インキは、塗膜の乾燥とともに該塗膜の表面が炭酸カルシウムに起因して白濁し、画像の色調の鮮やかさが損なわれることが判明したが、その原因は定かではなかった。更に、黄色以外の明度の低い色、例えば、黒色や紺色等の有機顔料を用いると、この問題が特に顕著に生じていた。
【0007】
また、特許文献1には、超微粒子水酸化カルシウムスラリーが開示されている。該スラリーの用途の一つとして水性インキが記載されているが、これは単なる例示であって、水性インキを構成する成分や配合量についての開示はない。ましてや、フレスコとの関係での説明はなく、上記課題すら示すものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−31212号
【特許文献2】WO2010/001965A1号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「フレスコ画の技法」(三野哲二著、株式会社日貿出版社発行、1998年初版発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、未硬化の漆喰層はもちろん、硬化後の漆喰層、紙、布地等の下地材上にも絵画を描く際に使用することができる顔料組成物であって、このような下地材に対して強固に固定され、発色性も良く、且つ耐久性に優れた塗膜を形成することができる顔料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、顔料と水を含む顔料組成物に、添加材として、微細な水酸化カルシウム粒子を少量加えるだけで、カゼイン等の媒剤を使用しなくても、上記の目的を達成することができる旨を見出し、更に、顔料の粒子径を微細な水酸化カルシウム粒子の粒子径に対して特定の範囲に調整することにより、塗膜の乾燥とともに該塗膜の表面が炭酸カルシウムに由来して白濁し、画像の色調の鮮やかさが損なわれる現象が効果的に防止でき、顔料の鮮明度を常に良好に保つことができ、更に、上記顔料として無機顔料を使用することにより、形成される塗膜に優れた耐久性を与えることができるということを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、無機顔料、水及び水酸化カルシウム微細粒子を含んでなる顔料組成物であって、該水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径は0.1〜1.0μmであり、該無機顔料の平均粒子径は0.05μm〜2.0μmであり、該無機顔料の平均粒子径と該水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径の比(無機顔料/水酸化カルシウム微細粒子)は0.5〜20であり、且つ、前記水酸化カルシウム微細粒子は、無機顔料100質量部あたり、5〜40質量部の量で含まれていることを特徴とする顔料組成物が提供される。
【0013】
本発明の顔料組成物においては、
(1)更に、平均粒子径が0.01〜0.2μmであり、屈折率が1.4〜1.7であるアルミナ、炭酸カルシウム、または二酸化ケイ素を含んでいること、
(2)前記無機顔料100質量部あたり、水の配合量が25〜500質量部であること、
が好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、水との接触角60度以下の下地材の上に、上記顔料組成物を塗布・乾燥して画像が形成されたことを特徴とする意匠構造体が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の顔料組成物は、カゼイン等の媒剤を使用していないにも関わらず、例えば、硬化後の漆喰層の上にもしっかりと固定された塗膜を形成することができ、該塗膜は耐久性にも優れている。さらに、本発明の顔料組成物には、基本的に、無機顔料と水の他、少量の微細な水酸化カルシウム粒子しか配合されないため、該塗膜には無機顔料本来の色が表れ、発色性に優れている。更にまた、本発明の顔料組成物においては、水酸化カルシウム微細粒子より粒子径の大きな無機顔料を使用し、この無機顔料の粒子径と水酸化カルシウム微細粒子の粒子径の比を一定の範囲に設定することで、用いる顔料に応じて色の鮮明度にばらつきが生じるという問題を解消し、安定的に鮮明な発色を付与することができる。
【0016】
本発明の顔料組成物が、上記のような優れた特性を有する塗膜を形成することは実験的に証明されている。その理由は明確に解明されているわけではないが、本発明者等は次のように推測している。
即ち、本発明の顔料組成物に含まれている水酸化カルシウムは、大気中の炭酸ガスを吸収して炭酸カルシウム(即ち漆喰)を生成することは既に知られている。しかるに、本発明においては、この水酸化カルシウムは、平均粒子径が0.1〜1.0μmの微細粒子であるため、該水酸化カルシウム微細粒子と無機顔料とが水に分散した顔料組成物を下地材の上に塗布すると、漆喰層表面のカルシウム成分と親和性が高く、且つ粒径の小さな該水酸化カルシウム微細粒子が、下地材の凹凸に入り込む。そして、この状態で乾燥と同時に水酸化カルシウムの炭酸化が進行し、無機顔料粒子同士を結合し、且つ、塗膜の表面をカルサイトが覆う状態となる。ゆえに、カゼイン等の媒剤を別途用いなくても下地材と塗膜とがしっかり接着される一方、塗膜内部の顔料粒子は生成した炭酸カルシウムによって効果的に閉じられており、結果として、強固な塗膜が形成されるものと推測される。
【0017】
従って、例えば、平均粒子径が1.0μmよりも大きな水酸化カルシウム粒子を用いる場合、別途カゼイン等の媒剤を用いない限り、強固な塗膜を形成することができない。そして、媒剤を配合すると、発色性が損なわれ、また、該媒剤に起因した塗膜の劣化も生じやすくなる。更に、媒剤を配合することなく、平均粒子径が1.0μmより大きな水酸化カルシウムを用いた場合は、下地材が乾燥する前の漆喰層はともかく、乾燥して硬化した後の漆喰層には堅固に固着しないので実質的に作画できず、絵の具として機能しない。
また、粒子径が1.0μm以下であったとしても、水酸化カルシウム以外の無機粒子を用いる場合も、漆喰層表面のカルシウム成分との親和性が高くないので、やはり、別途カゼイン等の媒剤を用いない限り、強固に密着した塗膜を形成することができない。そして、媒剤を配合すると、発色性が損なわれ、また、該媒剤に起因した塗膜の劣化も生じやすくなる。
また、本発明の顔料組成物には、発色の明白化の原因となる媒剤が用いられておらず、水酸化カルシウム微細粒子もわずかしか配合されていない。そのため、本発明の顔料組成物で形成される塗膜は、全体としていわゆる顔料リッチな状態であり、顔料の発色がきれいに現れる。
【0018】
更に、本発明の顔料組成物においては、無機顔料の色や種類を変えても、顔料の色が常に鮮明に表れる。これは、無機顔料として粒子径の大きなものを用い、且つ、該無機顔料の平均粒子径と水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径の比(無機顔料/微細粒子)を0.5〜20の範囲に設定したことによる。即ち、本発明者等が検討したところ、発色が損なわれる現象が生じるときは、無機顔料の平均粒子径と水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径の比(無機顔料/微細粒子)が0.5より小さい場合であることがわかった。即ち、無機顔料の平均粒子径と水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径の比(無機顔料/微細粒子)が0.5より小さい場合、顔料組成物を下地材に塗布したとき、下地材への水の浸透がある場合、水の移動に伴い無機顔料粒子も移動し、その結果、塗膜の表面付近の組成において、該無機顔料の成分比率が低下するためであると考えられる。一方、水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径に比して平均粒子径の大きな無機顔料であれば、下地材への水の浸透に伴わずに、該無機顔料粒子が優先的に水分とともに移動しにくく、即ち、無機顔料粒子が下地方向へ移動することなく表面付近にとどまるため、鮮明な画像の形成につながると推察される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の顔料組成物は、無機顔料、水及び水酸化カルシウム微細粒子を基本成分とするスラリーであり、このような基本組成に加えて、適宜、他の配合剤を含有している。
【0020】
<無機顔料>
本発明の顔料組成物には、基本成分として無機顔料が使用される。該無機顔料としては、その平均粒子径が0.05μm〜2.0μmのものが使用される。平均粒子径が小さすぎると、下地への水の浸透に伴い、水酸化カルシウム微細粒子よりも多くの無機顔料が連動して下地材方向へ移動し、塗膜表面の組成において、該無機顔料の成分比率が低下するため、発色性が損なわれる。
また、下地材として硬化後の漆喰層を用いる場合には、該漆喰層表面の凹凸の中に無機顔料が多量に入り込んでしまい、下地材との結着力が低下する原因にもなる。
一方、平均粒子径が大きすぎると、塗膜から無機顔料粒子が剥がれやすくなり、耐久性に劣る。
【0021】
更に、本発明に用いられる無機顔料においては、該無機顔料の平均粒子径と水酸化カルシウム微細粒子の平均粒子径の比(無機顔料/微細粒子)は、0.5〜20の範囲にあり、好ましくは1〜10にあり、特に好ましくは、2〜5の範囲にある。水酸化カルシウム微細粒子に対する無機顔料の平均粒子径の比が上記範囲内であれば、下地材への水の浸透に伴い、無機顔料粒子あるいは水酸化カルシウムの微細粒子の一方のみが下地材方向に移動することがなく、描かれた塗膜の色の鮮明度に変化はない。
【0022】
本発明には、従来公知の無機顔料が使用される。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、鉄黒、カドミウムイエロー、クロムバーミリオン、カドミウムオレンジ、弁柄、ファーストスカイブルー、紺青、群青、コバルトブルー、ピグメントグリーンB、ビリジアン、シェンナー、アンバー、硫化亜鉛、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、黄色酸化鉄、銅クロマイトブラック、酸化クロムグリーン、クロムグリーン、バイオレット、クロムイエロー、クロムグリーン、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、チタン酸カドミウム、ニッケルチタンイエロー、ウルトラマリーンブルー、ビスマスバナデート、カドミウムレッドなどの無機顔料、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの体質無機顔料、マイカの表面を金属酸化物で被覆した無機パール顔料などが使用できる。
これらの無機顔料は、1種単独でもよく、2種以上を適宣選択して組み合わせて用いることもできる。
【0023】
本発明の顔料組成物を未硬化の或いは硬化後の漆喰層に塗布する場合、即ち、本発明の顔料組成物をフレスコ画の描画に用いる場合には、上記の無機顔料のうち、カドミウムイエロー等の黄色の無機顔料は他の色の無機顔料に比して耐侯性に劣ることから、黄色以外の無機顔料が特に好適に使用される。
【0024】
無機顔料の使用量は、無機顔料の種類や他の成分により異なるが、顔料組成物の固形分当たりの濃度として60〜95重量%が好ましく、70〜90重量%が特に好ましい。
【0025】
<水>
本発明においては、上記の無機顔料及び水酸化カルシウム微細粒子を均一に分散させるために、分散媒として水が使用される。
本発明の顔料組成物における水の配合量は、特に制限はないが、描画をする際の顔料組成物において、無機顔料粒子100質量部あたり25〜500質量部であることが好ましい。水の配合量が多すぎると、水酸化カルシウム微細粒子の濃度が薄くなるので、塗膜の密着性が損なわれたり、塗膜自体が脆くなったりするなど耐久性が劣ることとなる。一方、少なすぎると、相対的に顔料や水酸化カルシウム微細粒子の濃度が高くなるので顔料組成物の粘度が上がり、さらには流動性がなくなるなど、絵を描きづらくなる。
【0026】
<水酸化カルシウム微細粒子>
本発明においては、平均粒子径が0.1〜1.0μmの水酸化カルシウム微細粒子が使用される。このような水酸化カルシウム微細粒子を無機顔料とともに配合することで、顔料組成物を下地材に塗布したときに、該水酸化カルシウム微細粒子が下地材の凹凸に入り込み、この状態で水酸化カルシウムの炭酸化が起こり、強固で耐久性に優れた塗膜が形成される。更に、この生成した炭酸カルシウムの存在により、無機顔料粒子が固着され顔料の劣化も有効に防止される。
【0027】
上記のような水酸化カルシウム微細粒子は、特開2006−298732号公報に開示されている方法に準拠して製造することができる。具体的には、水酸化カルシウム或いは酸化カルシウム(生石灰)を、高分子分散剤を含む水性媒体中で、粒子径が1μm以下となるまで湿式粉砕することにより製造される。
上記製造方法において、水酸化カルシウムとしては、工業用消石灰、農業用消石灰、水酸化カルシウム試薬などを使用することができる。また、酸化カルシウムとしては、消化反応による凝集が少ないという観点から硬焼生石灰が好適である。これらの原料カルシウムの粒子径や粒度分布などは特に制限されず、例えば塊状物の形でも使用することができる。
また、水性媒体としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、工業用水など、特に制限がなく、種々のものを使用することができる。
【0028】
高分子分散剤が分散されている水性媒体中で上記のカルシウム原料を湿式粉砕することにより、カルシウム粒子の微粒化に伴う増粘を有効に回避し、粒子径が0.1μm〜1.0μmに微粒化された水酸化カルシウム粒子が分散した水性スラリーが得られる。例えば、高分子分散剤を用いずに湿式粉砕したときには、スラリー粘度が著しく向上してしまい、この結果、粉砕効率が低下してしまい、水酸化カルシウム粒子の平均粒子径が1μm以下の微粒の水酸化カルシウムが分散したスラリーは得られない。事実、現在、市販されている工業用消石灰の中で最も微粒のものは、その平均粒子径が5〜8μm程度のものである。
【0029】
本発明において、このような高分子分散剤としては、水酸化カルシウムを分散し得るものであれば特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。その代表的な例としては、リグニンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩等を挙げることができ、これらの中でもポリカルボン酸塩が好適である。
上記のポリカルボン酸塩としては、スチレン−無水マレイン酸共重合体もしくはその部分エステルの塩(特開平1−92212号参照)、アリルエーテル−無水マレイン酸共重合体もしくはその誘導体の塩(特開昭63−285140号参照)、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体もしくはその誘導体の塩(特開昭58−74552号、特開平1−226757号等参照)、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体もしくはその誘導体の塩(特開昭60−103062号参照)及びこれらのポリカルボン酸塩の側鎖にアルキレングリコール鎖がグラフト結合したもの(特開2007−332027号参照)などを例示することができる。また、塩の形態としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、低級アミン塩、低級アルカノールアミン塩などを例示することができる。本発明においては、これらポリカルボン酸類の中でもアルキレングリコール鎖を有するものが好適に使用され、さらに、その重量平均分子量は1000〜10万の範囲にあることが好適である。
【0030】
上記の高分子分散剤は、水酸化カルシウムの固形分当り0.5〜10重量%の量で使用することが好ましい。高分子分散剤を必要以上に多量に使用すると、水酸化カルシウムの水性スラリーの粘性が経時と共に大きく変化するようになり、物性が不安定となってしまうおそれがあり、高分子分散剤の使用量が少なすぎると、水酸化カルシウムを1μm以下の粒子径に粉砕することが困難となってしまうからである。
【0031】
用いる水性媒体の量は、最終的に得られる水性スラリー中の水酸化カルシウム濃度が20〜70重量%、特に30〜50重量%程度となる量とするのがよい。この固形分濃度が低いと、スラリーの固液分離傾向が著しくなってしまい、固形分濃度が高すぎると、粘性が高くなりすぎ、粉砕効率が低下してしまうからである。
【0032】
上記のようなカルシウム原料を含む水性スラリーの粉砕(即ち湿式粉砕)は、特に制限されるものではないが、一般に、ボールミル、遊星ミル、攪拌槽型ミル、スラリー循環式ミル等の公知の湿式粉砕可能な粉砕機を用いて行われる。特に、高分子分散剤の添加を容易に行うことができる攪拌槽型ミル、スラリー循環式ミルが好適である。
【0033】
このような粉砕機を用いての湿式粉砕は、具体的には、カルシウム原料、水及び高分子分散剤の所定量を粉砕機中に投入し、水酸化カルシウムの平均粒子径が1μm以下となるまで行われる。この場合、各原料を一括して粉砕機中に投入してもよいし、また、予めカルシウム原料を乾式下で粗粉砕した後、水及び高分子分散剤と共に粉砕機中に投入することもできるし、さらに生石灰の消化反応により得られた水酸化カルシウムの水性スラリー中に高分子分散剤を投入して粉砕を行うこともできる。さらにまた、高分子分散剤の一部のみをカルシウム原料及び水と共に投入して粉砕を開始し、粉砕の途中で残量の高分子分散剤を投入して粉砕を続行することも可能である。
【0034】
上記のようにして、平均粒子径が0.1μm〜1.0μmの水酸化カルシウム微細粒子が高分子分散剤の存在下で分散した水性スラリーが得られる。かかる水性スラリーは、前述した濃度で水酸化カルシウム及び高分子分散剤を含んでいるため、通常、B型粘度計で測定して、10〜5000cp(回転数;6ppm、温度;25℃)程度の粘度を有している。
【0035】
本発明において、上記のようにして得られる微細な水酸化カルシウム粒子は、ろ過等により上記の水性スラリーから分離して使用に供することもできるが、一般的には、水酸化カルシウム微細粒子が分散した水性スラリーのまま使用に供することが好ましい。即ち、かかる水性スラリーはpHがアルカリサイドにあり、このような水性スラリーの状態で無機顔料と混合することにより、無機顔料の周囲に優先的に分布せしめることができるからである。
【0036】
本発明において、上記の水酸化カルシウム微細粒子は、無機顔料100質量部あたり5〜40質量部、好ましくは、10〜40、特に好ましくは、15〜30質量部の量で使用される。該水酸化カルシウム微細粒子の量が少なすぎると、無機顔料と結合したり、カルサイトとなって塗膜表面を覆うための水酸化カルシウムの量が足りず、下地材の上に塗膜がしっかりと固定されなくなり、更に、無機顔料の劣化防止効果も損なわれる。一方、該水酸化カルシウム微細粒子の量が多すぎると、水酸化カルシウム粒子由来の白色が顔料組成物全体の色調に強く影響するため、無機顔料が本来有している鮮明で鮮やかな色調を発現すことが困難になる。
【0037】
<アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素>
本発明の顔料組成物においては、該顔料組成物で用いられる水酸化カルシウム微細粒子よりも更に小さな平均粒子径を有し、且つ、屈折率が1.4〜1.7である、アルミナ、炭酸カルシウム又は二酸化ケイ素を配合してもよい。
該アルミナ、炭酸カルシウム、又は二酸化ケイ素を配合することによって、塗膜表面に形成されるカルサイトの透明性が向上する。即ち、本発明の顔料組成物を下地材に塗布すると、上述の通り、水酸化カルシウム微細粒子が下地材の凹凸に入り込み、この状態で水酸化カルシウムの炭酸化が起き、無機顔料粒子同士を結合し、且つ、塗膜の表面をカルサイトが覆う状態となる。このカルサイトは、白色の半透明結晶であり、そのため、特に黒や群青などの濃い色の顔料組成物を用いて絵画を作成する場合には、表面の結晶に起因して、顔料の色がうっすらと霞がかったようになり、絵画全体としてぼやけた印象を与えることがある。そのような場合に、上述の屈折率を有するアルミナ、炭酸カルシウム又は二酸化ケイ素を本発明の顔料組成物に配合すると、水酸化カルシウムの炭酸化により生じたカルサイトに生じるごく微細な空気溜まり部分に入り込み、空気溜まりの発生による白化を防ぐことができる。その結果、カルサイト結晶中での光の進行方向を調整する結果、カルサイトの膜の透明性が増し、その下の画像の鮮明さがより向上されることになる。
更に、このアルミナ、炭酸カルシウム又は二酸化ケイ素は、平均粒子径が0.01〜0.2μmという、超微細粒子であるため、カルサイト中に存在させても、これらの粒子の大きさに起因して透明性が損なわれることもないし、また、カルサイト中に均一に存在させることができるのである。
【0038】
屈折率が上記の範囲以外の超微細粒子では、カルサイト自体の屈折率、1.5〜1.6より大きく外れるため、結晶中の光の反射方向や進行方向が屈折してしまい、透明性を付与することができないばかりか、配合しない場合より明らかに白化し、画像の鮮明さが低下することとなる。
【0039】
該アルミナ、炭酸カルシウム又は二酸化ケイ素の粒子径としては、0.01〜0.2μmが好ましく、特に、0.02〜0.1μmが好ましい。粒子径が大きすぎると、これらの粒子自体の大きさに起因して逆にカルサイトの透明性が損なわれ、また、カルサイト中の微細な空気溜まりに分散することもできない。
【0040】
前記アルミナ、炭酸カルシウム又は二酸化ケイ素の配合量は、本発明の顔料組成物の特徴を損なわない限りにおいて、特に制限はないが、一般には、顔料組成物全量に対して1〜20重量%の量、好ましくは2〜10重量%の量で用いられる。
【0041】
<他の配合剤>
本発明の顔料組成物には、それ自体公知の水性顔料用配合剤を添加混合してもよい。本発明における水性顔料用配合剤としては、これに限定されるものではないが、各種の界面活性剤、つや消し剤、無機細骨材などを挙げることができる。
【0042】
界面活性剤は、水性のものであればよく、イオン性、両性及びノニオン性のいずれの界面活性剤も使用できる。イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルなどのアニオン性界面活性剤;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルオクタデシルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤;ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなどの両性界面活性剤などが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。このような界面活性剤は1種単独でもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。その使用量は、顔料組成物の固形分当たりの濃度として0.1〜2重量%が好ましい。
【0043】
つや消し剤は、塗膜表面の光沢をなくし、重厚な高級感を現出するもので、例えば、シリカ、チタン酸カリウム、タルク、水酸化アルミニウム、マイカ、などが挙げられる。これらのつや消し剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組合せて使用してもよい。その使用量は、顔料組成物の固形分当たりの濃度として2〜10重量%が好ましい。2重量%未満では塗膜のつや消しという本来の目的が充分達せられず、10重量%を超えると塗膜の強度、特にスクラッチに弱くなる。
【0044】
無機細骨材としては、例えば、平均粒子径が0.01〜2mm程度の範囲内にある無機粒状物があり、具体的には、珪砂、寒水砂、マイカ、施釉珪砂、施釉マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、高炉水砕スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどを挙げることができる。その使用量は、他の成分により異なるが、顔料組成物の固形分当たりの濃度として0.5〜20重量%が好ましく、特に好ましくは2〜10重量%である。
【0045】
本発明において、上記のように各種の顔料用配合剤を添加する場合には、通常、B型粘度計で測定して、2〜50000cp(回転数;6ppm、温度;25℃)程度の粘度が保持されるように、水の量などを調整することが好ましい。粘度をこの範囲に調整することにより、優れた塗工性を確保し、垂れなどを生じることなく塗膜を形成することができるからである。
【0046】
本発明の顔料組成物は、基本成分である、無機顔料並びに水酸化カルシウム微細粒子を水に分散させてスラリーとすれば良く、その混合順序や混合方法は特に制限されない。しかし、上述したように、水酸化カルシウム微細粒子は通常水に分散されてスラリーの状態で製造、保存されるので、該水酸化カルシウム微細粒子のスラリーに、無機顔料、更には上記任意配合剤を、攪拌下に添加すればよい。この場合、水酸化カルシウム微細粒子のスラリー中の水が必然的に含まれてくるので、この水の量を勘案して本発明の顔料組成物中の水の配合量が決定される。混合は通常室温〜50℃で、0.1〜2.0時間実施される。
上記方法で得られた顔料組成物は、無機顔料並びに水酸化カルシウム微細粒子が水中に極めて均一に分散されたスラリーであって、長期間スラリー状態を保持することができる。
尚、本発明の顔料組成物は、水酸化カルシウムの炭酸化を防止するために、タンク容器等に保存し、炭酸化率が25%以下程度に保持しておくことが好ましい。
【0047】
本発明の顔料組成物を使用に供する際には、該顔料組成物を直接下地材の上に塗布すればよい。塗布手段としては、特に制限はなく、それ自体公知の手段、例えば刷毛塗り、ディッピング、スプレーコート、スクリーン印刷等の手段を挙げることができる。これらの手段により所定の下地材表面に本発明の顔料組成物を塗布し、常温乾燥或いは加熱乾燥することにより、塗膜を形成する。特に、形成される塗膜は、大気との接触により水酸化カルシウムが炭酸化して炭酸カルシウムが形成され、塗膜に分散している顔料成分の酸化劣化を有効に防止することとなる。特に、水酸化カルシウム微細粒子により強固に形成されたこの塗膜は、耐熱性や耐候性に優れ、長期間にわたって膜劣化が生じることなく、安定した特性を維持することができる。
【0048】
塗布にあたり、顔料組成物中の無機顔料濃度を調節したい場合、即ち、該顔料組成物を好みの色まで薄めたい場合には、専用希釈液で以って調節を行うことができる。この専用希釈液とは、本発明の顔料組成物と同様に、0.1〜1.0μmの平均粒子径を有する水酸化カルシウム微細粒子が水に分散した液であって、水酸化カルシウム微細粒子100質量部あたり100〜900質量部の水が配合された液である。専用希釈液以外の液で薄めると、水酸化カルシウム微細粒子と水との量のバランスが崩れ、強固で耐久性に優れた塗膜を形成することができなくなったり、沈殿が生じる傾向にある。
【0049】
本願発明の顔料組成物は、無機顔料および水酸化カルシウム微細粒子の各濃度が濃いスラリーと、上記専用希釈剤との別保存形態のキット構成とすることができる。この場合、使用時に両液を混合して、本願発明の前記好適な濃度のスラリー液とした後、作画に供される。
【0050】
本発明の顔料組成物を塗布する下地材としては、親水性のものであれば特に制限はなく、紙、布、漆喰層等公知のものを使用することができる。親水性の下地材とは、25℃で測定した水に対する接触角が60度以下のものをいう。接触角は、接触角計を用いて、液滴法(水、25℃)で測定する。
【0051】
上述の方法に従って、親水性下地材の上に、本発明の顔料組成物を塗布し、それを乾燥することによって画像を形成すると、本発明の積層構造体を得ることができる。
得られた意匠構造体においては、画像形成段階で、漆喰層表面のカルシウム成分と親和性が高く、且つ粒径の小さな該水酸化カルシウム微細粒子が下地材の凹凸に入り込む。そして、この状態で水酸化カルシウムの炭酸化が起き、塗膜の表面をカルサイトが覆う状態となる。この結果、カゼイン等の媒剤を別途用いなくても下地材と塗膜とがしっかり接着される一方、塗膜内部の無機顔料粒子は生成した炭酸カルシウムによって効果的に閉じられており、強固な塗膜が形成される。更に、本発明の水性顔料組成物には、発色の明白化の原因となる媒剤が用いられていないため、無機顔料の発色がきれいに表れた塗膜を有する。また、本発明において用いられる無機顔料は、消石灰微粒子との粒子径の比を調整することにより、その色や種類を変えたとしても、顔料が塗膜の下方に沈み込むことによって生じる発色性が損なわれる現象は、生じない。
【実施例】
【0052】
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
なお、以下に、実施例及び比較例で用いた各試験方法および材料を示す。
【0053】
(1)付着性の評価
各実施例及び比較例に示す条件で形成された意匠構造体において塗膜が下地材にしっかりと付着しているか否かを評価するため、JIS K 5600−5−6の規定に従って、その付着性を評価した。評価は、0を最良とした0〜5の6段階で行った。
0:下地材にかなり強固に付着している
1:下地材に強く付着している
2:下地材とよく付着している
3:下地材との付着がわずかに弱い
4:下地材との付着が少し弱い
5:下地材との接着が著しく弱い
【0054】
(2)発色性の評価
各実施例及び比較例に示す条件で形成された意匠構造体において顔料の色が鮮明に表れているか否かについて、目視で、5を最良として1〜5の5段階で評価した。
1:顔料自体の色より著しくくすんでいる
2:顔料自体の色よりかなりくすんでいる
3:顔料自体の色より少しくすんでいる
4:顔料自体の色よりわずかにくすんでいる
5:顔料自体の色と同様の鮮明度である
【0055】
実施例及び比較例で用いた材料は、以下の通りである。
(A)水酸化カルシウムスラリーA:トクヤマ製微粉粉砕消石灰(50重量%水性スラリー、平均粒子径:0.2μm、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤:1.5重量%)
(B)水酸化カルシウムスラリーB:宇部マテリアルズ製「消石灰CH」(50重量%水性スラリー、平均粒子径:7μm、ポリカルボン酸系高性能AE減水剤:1.5重量%)
(C)無機顔料A:LANXESS社製「BYFERROX Red 140M」(赤色酸化鉄、平均粒径0.3μm)
(D)有機顔料A:大日精化工業株式会社製、「PY−74(ピグメントイエロー74)」(平均粒径0.05μm、アゾ系有機顔料)
(E)炭酸カルシウムA:白石カルシウム製「白艶華O」(平均粒径0.04μm、屈折率1.55)
(F)下地材A:株式会社ミューズ製「バックボード」(厚さ1.0mm、液適法で測定した水との接触角30°)
【0056】
<実施例1>
無機顔料A 100質量部、
水酸化カルシウムスラリーA 20質量部、及び
水 30質量部
を混合し、該混合物をホモジナイザーで10分間混練して、顔料組成物を得た。該顔料組成物を下地材Aの上にバーコーターで50μmの厚さに塗布し、室温にて5時間乾燥させて、意匠構造体を形成した。得られた意匠構造体について、付着性の評価を行ったところ、1であった。また、発色性の評価を行ったところ、4であった。
【0057】
<実施例2>
無機顔料A 100質量部、
水酸化カルシウムスラリーA 30質量部、
水 30質量部、及び
炭酸カルシウムA 5質量部
を混合した以外は、実施例1と同様にして、意匠構造体を得た。得られた意匠構造体について、付着性の評価を行ったところ、1であった。また、発色性の評価を行ったところ、5であった。
【0058】
<実施例3>
無機顔料A 100質量部、
水酸化カルシウムスラリーA 15質量部、及び
水 40質量部、
炭酸カルシウムA 10質量部
を混合した以外は、実施例1と同様にして、意匠構造体を得た。得られた意匠構造体について、付着性の評価を行ったところ、0であった。また、発色性の評価を行ったところ、5であった。
【0059】
<比較例1>
無機顔料A 100質量部、
水酸化カルシウムスラリーB 20質量部、及び
水 30質量部、
を混合した以外は、実施例1と同様にして、意匠構造体を得た。得られた意匠構造体について、付着性の評価を行ったところ、3であった。また、発色性の評価を行ったところ、3であった。
【0060】
<比較例2>
有機顔料A 100質量部、
水酸化カルシウムスラリーA 20質量部、及び
水 40質量部、
を混合した以外は、実施例1と同様にして、意匠構造体を得た。得られた意匠構造体について、付着性の評価を行ったところ、3であった。また、発色性の評価を行ったところ、2であった。
【0061】
<比較例3>
有機顔料A 100質量部、
水酸化カルシウムスラリーA 500質量部、及び
水 250質量部
を混合した以外は、実施例1と同様にして、意匠構造体を得た。得られた意匠構造体について、付着性の評価を行ったところ、1であった。また、発色性の評価を行ったところ、2であった。
【0062】
比較例1の意匠構造体は、実施例1の意匠構造体に比べて、付着性に劣っていた。これは、比較例1では、平均粒子径の大きな水酸化カルシウムを使用したためと考えられる。
比較例2の意匠構造体は、実施例1の意匠構造体に比べて、発色性に劣っていた。これは、比較例2で用いられた顔料が、有機顔料、即ち、平均粒子径の小さなものであったため、該有機顔料が塗膜の下方に移動したためと考えられる。
比較例3の意匠構造体は、実施例1の意匠構造体に比べて、発色性に劣っていた。これは、比較例3で用いられた顔料組成物において、顔料の量に対して水酸化カルシウム微細粒子が多量に配合されていたため、表面に厚く炭酸カルシウムが析出したことによると考えられる。