(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記印刷層は、パッド印刷方式、オフセット印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、ドライオフセット印刷方式又はグラビア印刷方式により形成される請求項1又は2に記載の構造体の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、環状オレフィン系樹脂成形体の表面の印刷性を向上させ、且つ変色等の透明性を阻害する問題がほとんど起こらない、環状オレフィン系樹脂成形体の表面処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、少なくとも一部が表面処理された環状オレフィン系樹脂成形体と、上記成形体の処理面上に形成される印刷層と、を備える構造体であって、上記表面処理が、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒を用いて行なわれることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 環状オレフィン系樹脂組成物からなり、少なくとも一部が表面処理された環状オレフィン系樹脂成形体と、前記環状オレフィン系樹脂成形体の処理面上に形成される印刷層と、を備え、前記表面処理は、前記環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒を用いた処理である構造体。
【0012】
(2) 下記膨潤試験において導出される、浸漬後質量が浸漬前質量を超え、乾燥後質量が浸漬前質量以上である(1)に記載の構造体。
<膨潤試験>
前記環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる、4mm×10mm×80mm(ISO178曲げ試験片)の膨潤試験片の質量である浸漬前質量を測定し、前記膨潤試験片を、前記溶媒に24時間浸漬した後、引き上げて表面に付着した前記溶媒をアセトンで洗い流し、さらに表面に付着したアセトンを拭き取り、前記膨潤試験片の浸漬後質量を測定し、浸漬後質量測定後の膨潤試験片を、100℃、100時間、1000Paの乾燥条件で乾燥させた後、前記膨潤試験片の乾燥後質量を測定する。
【0013】
(3) 前記溶媒は、溶解度パラメーターが20J
l/2/cm
3/2以下の溶媒を含む(1)又は(2)に記載の構造体。
【0014】
(4) 前記溶媒は、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、及び流動パラフィンからなる群より選択される少なくとも一種の溶媒を含む(1)から(3)のいずれかに記載の構造体。
【0015】
(5) 前記溶媒が2種以上の溶媒を混合した混合溶媒である(1)から(4)のいずれかに記載の構造体。
【0016】
(6) 前記混合溶媒は、アセトンと、シクロヘキサンとを含み、アセトン100質量部に対して、シクロヘキサンを20質量部以上60質量部以下含む(5)に記載の構造体。
【0017】
(7) 前記印刷層は、パッド印刷方式、オフセット印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、ドライオフセット印刷方式又はグラビア印刷方式により形成される(1)から(6)のいずれかに記載の構造体。
【0018】
(8) 前記構造体が曲面を有し、前記曲面の少なくとも一部が前記表面処理された曲面構造体である(1)から(7)のいずれかに記載の構造体。
【0019】
(9) 環状オレフィン系樹脂組成物からなる環状オレフィン系樹脂成形体であって、前記環状オレフィン系樹脂成形体は前記環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒で表面処理され、前記溶媒は、下記膨潤試験において導出される、浸漬後質量が浸漬前質量を超え、乾燥後質量が浸漬前質量以上になる溶媒である環状オレフィン系樹脂成形体。
<膨潤試験>
前記環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる、4mm×10mm×80mm(ISO曲げ試験片)の膨潤試験片の質量である浸漬前質量を測定し、
前記膨潤試験片を、前記溶媒に24時間浸漬した後、引き上げて表面に付着した前記溶媒をアセトンで洗い流し、さらに表面に付着したアセトンを拭き取り、前記膨潤試験片の浸漬後質量を測定し、
浸漬後質量測定後の膨潤試験片を、100℃、100時間、1000Paの乾燥条件で乾燥させた後、前記膨潤試験片の乾燥後質量を測定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、環状オレフィン系樹脂成形体の表面の印刷性を充分に向上させることができ、且つ透明性を阻害する変色等の問題がほとんど生じない。
【0021】
特に、環状オレフィン系樹脂成形体が曲面を有し、曲面に印刷層を形成する場合であっても、印刷層が充分に成形体表面に密着し、且つインクが付着していない処理面の透明性も高い。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する、なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0023】
<構造体>
本発明の構造体は、少なくとも一部が表面処理された環状オレフィン系樹脂成形体と、前記成形体の処理面上に形成される印刷層と、を備える。以下、環状オレフィン系樹脂成形体、印刷層の順で本発明について説明する。
【0024】
[環状オレフィン系樹脂成形体]
環状オレフィン系樹脂成形体は、環状オレフィン系樹脂組成物からなる。環状オレフィン系樹脂組成物とは、環状オレフィン系樹脂を含む樹脂組成物である。
【0025】
環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン成分を共重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン系樹脂であれば、特に限定されるものではない。例えば、環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物等を挙げることができる。
【0026】
また、環状オレフィン系樹脂としては、上記重合体に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したものも含む。
【0027】
極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0028】
環状オレフィン系樹脂としては、環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物が好ましい。
【0029】
また、本発明に用いられる環状オレフィン成分を共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、市販の樹脂を用いることも可能である。市販されている環状オレフィン系樹脂としては、例えば、TOPAS(登録商標)(Topas Advanced Polymers社製)、アペル(登録商標)(三井化学社製)、ゼオネックス(登録商標)(日本ゼオン社製)、ゼオノア(登録商標)(日本ゼオン社製)、アートン(登録商標)(JSR社製)等を挙げることができる。
【0030】
環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体として、特に好ましい例としては、〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕下記一般式(I)で示される環状オレフィン成分と、を含む共重合体を挙げることができる。
【化1】
(式中、R
1〜R
12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R
9とR
10、R
11とR
12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R
5〜R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0031】
〔〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分〕
炭素数2〜20のα−オレフィンは、特に限定されるものではない。例えば、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。また、これらのα−オレフィン成分は、1種単独でも2種以上を同時に使用してもよい。これらの中では、エチレンの単独使用が最も好ましい。
【0032】
〔〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分〕
一般式(I)で示される環状オレフィン成分について説明する。
【0033】
一般式(I)におけるR
1〜R
12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0034】
R
1〜R
8の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の低級アルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0035】
また、R
9〜R
12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ステアリル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0036】
R
9とR
10、又はR
11とR
12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0037】
R
9又はR
10と、R
11又はR
12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0038】
一般式(I)で示される環状オレフィン成分の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0039】
これらの環状オレフィン成分は、1種単独でも、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中では、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)を単独使用することが好ましい。特に、環状オレフィン系樹脂として、ノルボルネンとエチレンとの共重合体を使用すれば、腰砕けの問題が起こり難くなるため好ましい。
【0040】
〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と〔2〕一般式(I)で表される環状オレフィン成分との重合方法及び得られた重合体の水素添加方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法に従って行うことができる。ランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよいが、ランダム共重合であることが好ましい。
【0041】
また、用いられる重合触媒についても特に限定されるものではなく、チーグラー・ナッタ系、メタセシス系、メタロセン系触媒等の従来周知の触媒を用いて周知の方法により環状オレフィン系樹脂(B)を得ることができる。
【0042】
〔その他共重合成分〕
環状オレフィン系樹脂(A)は、上記の〔1〕炭素数2〜20のα−オレフィン成分と、〔2〕一般式(I)で示される環状オレフィン成分以外に、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。
【0043】
任意に共重合されていてもよい不飽和単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体等を挙げることができる。炭素−炭素二重結合を1分子内に2個以上含む炭化水素系単量体の具体例としては、特開2007−302722と同様のものを挙げることができる。
【0044】
環状オレフィン系樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で、その他の樹脂、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0045】
上記の環状オレフィン系樹脂組成物を成形して、成形体を製造する。成形体を製造する方法は、特に限定されず、従来公知の手法を採用することができる。例えば、射出成形法、ブロー成形法、押出成形法等の方法を挙げることができる。
【0046】
特に、本発明の表面処理は他の処理法に比較し曲面を有する成形体の表面処理も容易である。成形体が曲面を有する場合について説明すると、曲面を構成する曲線の曲率半径は特に限定されない。なお、曲面が曲率半径5mm以上100mm以下の曲線から構成される場合には、特に、フレーム処理等で均一に処理することは困難であるが、後述する処理方法で表面処理を行えば、従来のような処理ムラ等の問題は生じない。
【0047】
成形体の少なくとも一部には、表面処理が施されている。表面処理は、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒を用いて行なう。
【0048】
環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒とは、環状オレフィン系樹脂成形体に吸収され、環状オレフィン系樹脂成形体の体積を増加させることができるものであれば、特に限定されない。なお、本発明においては、成形体の表面付近における微小な体積増加も含まれるため、ほとんど体積が増加しない場合も含まれる。
【0049】
本発明では、上記成形体の少なくとも一部を溶媒で膨潤させた後、溶媒を除去して、インキ等を塗工して印刷層を形成することになる。溶媒の除去された部分にインキ等が入り込むため、印刷性が向上すると推測される。また、膨潤は溶解とは異なり、高分子の分子鎖の絡みを解くことがほとんど無く、絡み合う分子鎖間に溶媒が入り込むことで起こると考えられる。このように、膨潤は高分子の分子鎖間の相互作用にほとんど影響を与えないため、表面処理により透明性を損なうことはほとんど無い。
【0050】
膨潤の程度は特に限定されないが、溶媒は下記膨潤試験において導出される、浸漬後質量が浸漬前質量を超え、乾燥後質量が浸漬前質量以上になる溶媒であることが好ましい。膨潤の程度が上記の範囲になる溶媒を使用して、後述する表面処理を施した環状オレフィン系樹脂成形体が、本発明の環状オレフィン系樹脂成形体にあたる。より好ましくは、浸漬後質量が浸漬前質量を超え且つ浸漬前質量×3.0倍以下であり、乾燥後質量が浸漬前質量以上であり且つ浸漬前質量×1.2倍以下である。
【0051】
(膨潤試験)
環状オレフィン系樹脂組成物を成形してなる、4mm×10mm×80mm(ISO曲げ試験片)の膨潤試験片の質量である浸漬前質量を測定し、
上記膨潤試験片を、上記溶媒に24時間浸漬した後、引き上げて表面に付着した上記溶媒をアセトンで洗い流し、さらに表面に付着したアセトンを拭き取り、上記膨潤試験片の浸漬後質量を測定し、
浸漬後質量測定後の膨潤試験片を、100℃、100時間、1000Paの真空乾燥条件で乾燥させた後、上記膨潤試験片の乾燥後質量を測定する。
【0052】
膨潤の程度が、上記の範囲にあれば、印刷性を充分に向上させることができる。また、透明性等の良好な外観も維持することができる。
【0053】
溶媒の具体的な種類は、特に限定されないが、炭素数が4以上のアルキル基を有する溶媒が好ましく、例えば、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。また、流動パラフィン等の炭化水素化合物も使用可能である。これらの溶媒は単独で使用しても、環状オレフィン系樹脂成形体の表面を膨潤させることができる。なお、使用する溶媒の種類によっては、溶媒の温度に依存して、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒になる場合、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒になる場合がある。なお、環状オレフィン系樹脂を膨潤させる溶媒とは、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒であり、且つ環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒を指す。
【0054】
溶媒としては、2種以上の溶媒を組み合わせた混合溶媒を使用してもよい。混合溶媒が環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させることができるものであれば、どのような溶媒を組み合わせてもよい。本発明においては、例えば、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒と、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒とを含む混合溶媒を使用することが好ましい。
【0055】
環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒としては、一般に炭化水素溶媒が挙げられる。より具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油等の脂肪族炭化水素及びそのハロゲン誘導体、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環族炭化水素及びそのハロゲン誘導体、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素及びクロロベンゼン等のハロゲン誘導体等が挙げられる。また、環状オレフィン樹脂を溶解する溶媒とは、上記膨潤試験において導出される、乾燥後質量が浸漬前質量未満であることを指す。なお、溶媒の温度、2種以上の溶媒を組み合わせた場合の混合溶媒組成、環状オレフィン系樹脂の組成によっては、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒になる場合、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒になる場合がある。
【0056】
環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数が4以下のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数が4以下のケトン等を挙げることができる。なお、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒とは、上記膨潤試験において導出される、浸漬後質量と乾燥後質量が、浸漬前質量と同等以上であることを指す。なお、溶媒の温度、2種以上の溶媒を組み合わせた場合の混合溶媒組成、環状オレフィン系樹脂の組成によっては、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒になる場合、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒になる場合がある。
【0057】
環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒と、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒との混合比を調整することで、膨潤の程度を調整することができる。例えば、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒としてシクロヘキサンを使用し、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒としてアセトンを使用する場合には、アセトン100質量部に対して、シクロヘキサンを20質量部以上60質量部以下にすることが好ましい。20質量部以上であれば印刷性の向上が充分になる程度の膨潤になる。また、60質量部以下であれば、透明性をほとんど悪化させることがない。より好ましくは、20質量部以上40質量部以下である。上記より好ましい範囲であれば、透明性を充分に維持することができるため好ましい。
【0058】
なお、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒と、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒とを混合させる場合に、環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒を2種以上、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒を2種以上使用してもよい。
【0059】
次いで、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒の選定方法について説明する。溶媒の選定は、溶解度パラメーターを基準に行なうことができる。溶解度パラメーターが14J
l/2/cm
3/2以上20J
l/2/cm
3/2以下のものは、単独で環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させることができる可能性がある。
【0060】
ここで、溶解度パラメーター(δ)としては、モル蒸発熱ΔH(J/mol)とモル体積V(cm
3)、R(=8.314J/mol・K、気体定数)、T(K)により、下記式で定義される値を採用する。
【数1】
【0061】
溶解度パラメーターが上記の数値範囲にある溶媒を使用しても、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させずに溶解する場合、環状オレフィン系樹脂を膨潤させず溶解もさせない場合がある。
【0062】
選定した溶媒が、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させずに溶解する場合には、その溶媒と環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒とを混合した溶媒を使用することで、環状オレフィン系樹脂を膨潤させる溶媒にすることができる。具体的には、混合比を調整することで、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒にすることができる。なお、選定した溶媒が、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させずに溶解する場合に、上記の方法以外の方法で、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒にしてもよい。
【0063】
選定した溶媒が、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させず且つ溶解もしない場合には、表面処理を行なう際の溶媒の温度を高めることで、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒にすることができる。なお、選定した溶媒が環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させず且つ溶解もしない場合に、上記の方法以外の方法で、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒にしてもよい。
【0064】
溶媒の沸点は特に限定されないが、70℃以上150℃以下であることが好ましい。70℃以上であれば環状オレフィン系樹脂成形体の少なくとも一部を表面処理する際に、溶媒が揮発しにくいという理由で好ましく、150℃以下であれば環状オレフィン系樹脂成形体の少なくとも一部を表面処理した後、乾燥等で溶媒を除去する際に溶媒が残存しにくいという理由で好ましい。なお、沸点とは1atmでの沸点を指す。
【0065】
上述の溶媒を使用して、環状オレフィン系樹脂成形体の表面の少なくとも一部を表面処理する。表面処理の方法は特に限定されないが、溶媒を所望の部分に塗布して所定の時間放置する方法、環状オレフィン系樹脂成形体の一部又は全部を溶媒に浸漬する方法等が挙げられる。
【0066】
表面処理を行なう際の処理温度(溶媒の温度)は特に限定されず、環状オレフィン系樹脂成形体の膨潤の程度等から適宜好ましい処理温度を設定することができる。例えば、溶媒の温度は10℃以上60℃以下である。
【0067】
表面処理を行なう際の処理時間は特に限定されず、溶媒の種類、溶媒の温度、成形体の透明性、印刷性等に応じて、適宜調整することができる。
【0068】
[印刷層]
表面処理が施された環状オレフィン系樹脂成形体は、上記のような表面処理を施すことで製造することができる。表面処理がされた部分の少なくとも一部に印刷層が形成される。印刷層の形成方法は特に限定されず、例えば、パッド印刷方式、オフセット印刷方式、スクリーン印刷方式、フレキソ印刷方式、ドライオフセット印刷方式又はグラビア印刷方式により形成することができる。
【0069】
印刷層の形成により本発明の構造体になる。構造体は、印刷層が充分に密着しており、且つ表面処理により透明性等が低下することはない。
【0070】
特に、環状オレフィン系樹脂成形体が曲面を有し、その曲面に表面処理を施して印刷層を形成する場合であっても、印刷層を充分に密着させることができるとともに、表面処理により環状オレフィン系樹脂成形体の透明性を低下させることもほとんどない。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0072】
<環状オレフィン系樹脂>
環状オレフィン系樹脂1:エチレンとノルボルネンとの共重合体(Topas Advanced Polymers社製、「TOPAS6013S−04」、ガラス転移点:138℃)
環状オレフィン系樹脂2:エチレンとノルボルネンとの共重合体(Topas Advanced Polymers社製、「TOPAS6015S−04」、ガラス転移点:158℃)
【0073】
<評価1>
環状オレフィン系樹脂1を原料として、射出成形機を用い、シリンダー温度280℃、金型温度110℃、射出速度100mm/s、保圧50MPaの条件で、ISO178曲げ試験片を製造した。この試験片を膨潤試験片とし、浸漬前質量を測定した。なお、この浸漬前質量を100%として、後述する浸漬後質量、乾燥後質量を算出した。
【0074】
次いで、表1に示す温度に保持した溶媒中に、膨潤試験片を浸漬させ、24時間放置した。24時間放置後アセトンで膨潤試験片の表面の溶媒を洗い流した後、軽くふき取り、浸漬後質量を測定した。
【0075】
次いで、溶媒に浸漬後の膨潤試験片を100℃、100時間、1000Paの条件で真空乾燥した後、乾燥後質量を測定した。
【0076】
表1の結果から、溶媒の温度が表1の条件であれば、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、アセトン100質量部とシクロヘキサン30質量部との混合溶媒、アセトン100質量部とシクロヘキサン50質量部との混合溶媒は、環状オレフィン系樹脂1を膨潤させる溶媒にあたる。
【0077】
続いて、膨潤試験片の製造と同様の方法で、曲率半径が90mmの試験片を製造した。表1に示す溶媒を試験片上に布で塗布し、5分間放置した。その後、乾いた布で溶媒を拭き取り、表面処理前後の表面状態を評価した。表面状態の評価は、以下の5段階で行なった。評価の結果は表1に示した。
5:変化無し
4:「5」と「3」の中間程度の白濁
3:僅かに白濁
2:やや白濁
1:白濁
【0078】
表面処理した試験片上にパッド(タンポ)印刷で5mmφのドットを10mm間隔に16個印刷した。インキはセイコーアドバンス製OP22を、セイコーアドバンス製T−900の希釈溶剤で希釈して使用した。印刷後60℃、10分の条件でインキを乾燥させた。
【0079】
乾燥後24時間、室温で放置した後、市販のセロハンテープを、ドット模様部分に貼り付け、その上から指で良くこすって試験片表面に密着させた。その後、セロハンテープの一端を指でつまんで一挙にテープを剥がし、成形品表面の剥離状況を観察した。成形品表層のテープ剥離状況から印刷性を評価した。具体的には以下の3段階で評価した。評価結果は表1に示した。
「◎」:ドットが1個も剥離せず
「○」:ドットの剥離個数が1個以上4個以下
「×」:ドットの剥離個数が5個以上
【0080】
【表1】
※1:アセトン100質量部とシクロヘキサ30質量部との混合溶媒
※2:アセトン100質量部とシクロヘキサン50質量部との混合溶媒
【0081】
<評価2>
環状オレフィン系樹脂1を環状オレフィン系樹脂2に変更し、成形条件をシリンダー温度310℃、金型温度130℃、射出速度150mm/s、保圧40MPaの条件に変更し、溶媒を表2に記載の溶媒に変更した以外は、評価1と同様にして、膨潤試験、表面状態の評価、印刷性の評価を行なった。結果を表2に示した。表2の結果から、溶媒の温度が表2の条件であれば、トルエン、キシレン、ヘプタンは、環状オレフィン系樹脂2を膨潤させる溶媒である。
【0082】
【表2】
【0083】
<評価3>
使用する溶媒の種類を表3に示すものに変更した以外は、評価1と同様にして、膨潤試験、表面状態の評価、印刷性の評価を行なった。結果を表3に示した。表3の結果から、溶媒の温度が表3の条件であれば、エタノール、アセトン、アセトン100質量部とエタノール100質量部との混合溶媒、アセトン100質量部とシクロヘキサン5質量部との混合溶媒、アセトン100質量部とシクロヘキサン10質量部との混合溶媒、メチルイソブチルケトンは環状オレフィン系樹脂1を溶解、且つ膨潤しない溶媒であり、シクロヘキサンは環状オレフィン系樹脂1を溶解する溶媒である。
【0084】
【表3】
※3:アセトン100質量部とエタノール100質量部との混合溶媒
※4:アセトン100質量部とシクロヘキサン5質量部との混合溶媒
※5:アセトン100質量部とシクロヘキサン10質量部との混合溶媒
【0085】
表1〜3の結果から、環状オレフィン系樹脂成形体を膨潤させる溶媒を使用すれば、印刷性に優れ、且つ表面処理後の表面状態も、表面処理前とほぼ同等であることが確認された。
【0086】
表1、2の結果から、環状オレフィン系樹脂の種類によらず、本発明の効果を奏することが確認された。
【0087】
実施例2、比較例7の結果から、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒であっても、溶媒の温度を調整することで、環状オレフィン系樹脂を膨潤させる溶媒になることが確認された。
【0088】
実施例3、4及び比較例5、6の結果から環状オレフィン系樹脂を溶解する溶媒と、環状オレフィン系樹脂を溶解しない溶媒との混合比を調整することで、混合溶媒が環状オレフィン系樹脂を膨潤させる溶媒になることが確認された。