特許第5989137号(P5989137)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989137水中油型エマルション組成物及びその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989137
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】水中油型エマルション組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/63 20060101AFI20160825BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20160825BHJP
   A61K 8/55 20060101ALI20160825BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20160825BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20160825BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   A61K8/63
   A61K8/44
   A61K8/55
   A61K8/06
   A61K8/37
   A61Q19/00
【請求項の数】14
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-557333(P2014-557333)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2013080591
(87)【国際公開番号】WO2014112192
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2015年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-8700(P2013-8700)
(32)【優先日】2013年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】荒河 純
(72)【発明者】
【氏名】森 幹永
(72)【発明者】
【氏名】田代 朋子
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−163766(JP,A)
【文献】 特開2008−115112(JP,A)
【文献】 特開2008−184431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/63
A61K 8/06
A61K 8/37
A61K 8/44
A61K 8/55
A61Q 19/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)5環性トリテルペン、(b)N−アシルアミノ酸モノエステル、及び(c)レシチンを含む油相と、HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水相とを含有し、
(b)N−アシルアミノ酸モノエステルは、中性アミノ酸の残基と、中性アミノ酸の残基のN位に結合しているアルキルアシル基と、アルキルエステル部位からなる化合物であり、
アルキルアシル基が、炭素数6〜22の直鎖又は分岐鎖を有する、飽和又は不飽和のアルキルアシル基であり、
アルキルエステル部位が、炭素数1〜40の直鎖若しくは分岐鎖、又は、炭素数3〜30の環状のアルキル基を含むエステル部位である、水中油型エマルション組成物。
【請求項2】
中性アミノ酸が、グリシン、アラニン、βアラニン、アミノ酪酸、アミノプロピオン酸、サルコシン、N−メチル−β−アラニンからなる群より選ばれる中性アミノ酸である、請求項1に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項3】
(a)5環性トリテルペンがカルボキシル基を有する5環性トリテルペンである請求項1又は請求項2に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項4】
(a)5環性トリテルペンが、グリチルレチン酸である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項5】
(b)N−アシルアミノ酸モノエステルが、N−アシルアミノ酸モノアルキルエステルであり、サルコシン、アラニン、グリシン及びN−メチル−β−アラニンからなる群より選ばれるアミノ酸を、N−カプロイル化、N−ラウロイル化、N−ミリスチル化、N−パルミトイル化、N−ステアロイル化、N−ベヘノイル化、またはN−ココイル化した部分構造と、エステルのアルキル部分に該当する分岐鎖又は直鎖であり炭素数2〜8のアルキル鎖長を有するアルキル部分構造とを有するものである請求項1から請求項のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項6】
(b)N−アシルアミノ酸モノエステルが、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルである請求項1から請求項のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項7】
(c)レシチンが大豆レシチンである請求項1から請求項のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項8】
(c)レシチンの含有量が、(a)5環性トリテルペン及び(b)N−アシルアミノ酸モノエステルの合計質量に対して、2質量%〜50質量%である請求項1から請求項のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項9】
HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリンモノオレイン酸エステル、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルおよびポリグリセリンモノイソステアリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項10】
平均粒子径20nm〜150nmのエマルション粒子を含む請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の水中油型エマルション組成物を含有する皮膚外用組成物。
【請求項12】
油相成分の総量が、皮膚外用組成物の全質量に対して、5質量%以下である請求項11に記載の皮膚外用組成物。
【請求項13】
エタノールの含有量が、皮膚外用組成物の全質量に対して、10質量%以下である請求項11又は請求項12に記載の皮膚外用組成物。
【請求項14】
請求項11〜請求項13のいずれか1項に記載の皮膚外用組成物を含有する頭皮用化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型エマルション組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
スクアレンを出発物質として生合成されるC30の化合物をトリテルペンという。トリテルペン化合物は環の結合様式により、ダンマラン系、ホパン系、オノセラン系、ラノスタン系又はシクロアルタン系の4種に大別される。
【0003】
このうち、ダンマラン系は、ダンマラン、オイファンなどの4環性、ルパン、オレアナンなどの5環性といった、最も多くの種類の化合物を含むグループである。また、ダンマラン系に分類される化合物の中には、薬理作用又は生理活性を有するものが多く知られている。
特に化粧料に用いることで、抗炎症、保湿、美白、抗シワ、抗菌などの機能を発揮する植物エキスの主成分として多くのダンマラン系の化合物が知られている。中でも、5環性で且つ置換基にカルボン酸を有するトリテルペン化合物が化粧料として特に有用な機能を有していることが知られている(田中信壽、トリテルペン及びトリテルペン系サポニン、天然物化学改訂第6版、南江堂(1985)、p130−p140)。
【0004】
これらのトリテルペン化合物は機能性に優れているものの、一般には水に難溶性で、油への溶解性も低いため化粧料等に配合する際の大きな制約となっていた。特に、ローション、エッセンス等の透明化粧料に配合すると透明性を損なうため、配合量はきわめて少量に限定されていた。そのため、透明性を維持し、且つ十分なトリテルペンの配合量を達成することが強く望まれていた。
また、この種のトリテルペンを透明化のためにナノ分散物とすると、保存中に経時による粒子成長が大きいという傾向があり、保存中に濁りが上昇して透明性が著しく損なわれることが問題となる。また、粒子成長が起こると粒子の凝集や沈降も起こり、極端な場合、有効成分が相分離してしまうという問題があり、これらの問題を根本的に解消することが望まれていた。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、例えば200nm以下の油滴を有する水中油滴型エマルションを形成すると共にラメラ状の液晶被膜を形成し、これを安定化させる方法が提案されている(特開平8−127526号公報)。
【0006】
N−アシルアミノ酸モノエステルは、従来より、有機紫外線吸収剤の良溶媒として知られている。例えば特開平11−246841号公報には、N−アシルアミノ酸モノエステルに有機紫外線吸収剤を溶解した、油状、W/O(油中水型)クリーム状、O/W(水中油型)クリーム状、ローションが示されている。
【0007】
また、特表2008−540670号公報には、パーソナルケア用の活性物質として、N−アシルアミノ酸化合物とグリチルレチン酸とを併用してパーソナルケア組成物に配合することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特開平8−127526号公報に記載の方法では、エマルション粒子を100nm以下の粒径に出来ず、十分な透明化には至っていない。
また、特開平11−246841号公報には、トリテルペンとN−アシルアミノ酸モノエステルとを組み合わせたエマルション組成物の具体例は開示されていない。
特表2008−540670号公報には、N−アシルアミノ酸化合物とグリチルレチン酸とを、パーソナルケア用の活性物質として組み合わせた例は記載されているものの、実施例には処方しか開示されておらず、具体的に、どのような形態で配合するのかについては開示されていない。また、特表2008−540670号公報には、レチシンという特定の成分をさらに組み合わせることについては開示されていない。そのため、特表2008−540670号公報に記載の処方に従い水中油型のエマルション組成物を調製したとしても、該エマルション組成物の透明性及び保存安定性を維持することはできないと考えられる。
【0009】
このような状況において、エマルション組成物の透明性及び保存安定性を維持し得る水中油型エマルション組成物の開発が待ち望まれている。
【0010】
本発明は、保存安定性と透明性とを維持し得る、5環性トリテルペン含有の水中油型エマルション組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、保存安定性と透明性とを維持し得る皮膚外用組成物及び頭皮用化粧料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
<1> 5環性トリテルペン、(b)N−アシルアミノ酸モノエステル、及び(c)レシチンを含む油相と、HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルを含む水相とを含有し、(b)N−アシルアミノ酸モノエステルは、中性アミノ酸の残基と、中性アミノ酸の残基のN位に結合しているアルキルアシル基と、アルキルエステル部位からなる化合物であり、アルキルアシル基が、炭素数6〜22の直鎖又は分岐鎖を有する、飽和又は不飽和のアルキルアシル基であり、アルキルエステル部位が、炭素数1〜40の直鎖若しくは分岐鎖、又は、炭素数3〜30の環状のアルキル基を含むエステル部位である、水中油型エマルション組成物。
<2> 中性アミノ酸が、グリシン、アラニン、βアラニン、アミノ酪酸、アミノプロピオン酸、サルコシン、N−メチル−β−アラニンからなる群より選ばれる中性アミノ酸である、<1>に記載の水中油型エマルション組成物。
> (a)5環性トリテルペンがカルボキシル基を有する5環性トリテルペンである<1>又は<2>に記載の水中油型エマルション組成物。
> (a)5環性トリテルペンが、グリチルレチン酸である<1>から<3>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物。
> (b)N−アシルアミノ酸モノエステルが、N−アシルアミノ酸モノアルキルエステルであり、サルコシン、アラニン、グリシン及びN−メチル−β−アラニンからなる群より選ばれるアミノ酸を、N−カプロイル化、N−ラウロイル化、N−ミリスチル化、N−パルミトイル化、N−ステアロイル化、N−ベヘノイル化、またはN−ココイル化した部分構造と、エステルのアルキル部分に該当する分岐鎖又は直鎖であり炭素数2〜8のアルキル鎖長を有するアルキル部分構造とを有するものであるとを有するものである<1>から<>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物。
> (b)N−アシルアミノ酸モノエステルが、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルである<1>から<>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物。
> (c)レシチンが大豆レシチンである<1>から<>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物。
> (c)レシチンの含有量が、(a)5環性トリテルペン及び(b)N−アシルアミノ酸モノエステルの合計質量に対して、2質量%〜50質量%である<1>から<>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物
9> HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルが、ポリグリセリンモノオレイン酸エステル、ポリグリセリンモノステアリン酸エステルおよびポリグリセリンモノイソステアリン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である<1>から<8>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物。
<10> 平均粒子径20nm〜150nmのエマルション粒子を含む<1>から<9>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物。
<11> <1>〜<10>のいずれか1つに記載の水中油型エマルション組成物を含有する皮膚外用組成物。
<12> 油相成分の総量が、皮膚外用組成物の全質量に対して、5質量%以下である<11>に記載の皮膚外用組成物。
<13> エタノールの含有量が、皮膚外用組成物の全質量に対して、10質量%以下である<11>又は<12>に記載の皮膚外用組成物。
<14> <11>〜<13>のいずれか1つに記載の皮膚外用組成物を含有する頭皮用化粧料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、保存安定性と透明性とを維持し得る、5環性トリテルペン含有の水中油型エマルション組成物を提供することが可能となる。また、本発明によれば、保存安定性と透明性とを維持し得る皮膚外用組成物及び頭皮用化粧料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<水中油型エマルション組成物>
本発明の水中油型エマルション組成物(以下、「本発明のエマルション組成物」と称する場合がある。)は、(a)5環性トリテルペン、(b)N−アシルアミノ酸モノエステル、及び(c)レシチンを含む油相と、水相とを含有する水中油型エマルション組成物である。
【0014】
本発明のエマルション組成物は、上記の構成を有することにより、5環性トリテルペンの油相への溶解性を向上させ、且つ優れた保存安定性及び透明性を発揮させ得る。
【0015】
N−アシルアミノ酸モノエステルは、親水性の高い成分である。そのためエマルション組成物中の油相成分にN−アシルアミノ酸モノエステルが含まれる場合には、N−アシルアミノ酸モノエステルが含まれない場合に比べて水相と油相との界面における界面張力が低くなる傾向にある。その結果、乳化剤の界面への吸着によるエマルション粒子安定化の効果が小さくなると推測され、エマルション組成物の長期間に亘る保存安定性及び透明性を維持することが困難になると推測される。
一方、本発明のエマルション組成物においては、油相が、N−アシルアミノ酸モノエステルとレシチンとを含有するため、5環性トリテルペンの油相への溶解性を向上でき、且つエマルション組成物の長期間に亘る保存安定性及び透明性を維持できるものである。
【0016】
本発明のエマルション組成物は、水中油型のエマルション組成物であり、水相成分から構成された水相組成物と、油相成分から構成された油相組成物とを含む。
【0017】
本発明のエマルション組成物は、後述する如く、水相成分からなる水相組成物と、油相成分から構成された油相組成物とを乳化混合して得られることが好ましい。
【0018】
本発明において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本発明において「水相」とは、溶媒の種類にかかわらず「油相」に対する語として使用する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「ポリグリセリン脂肪酸エステル」とは、複数のグリセリン単位と、少なくとも1以上の脂肪酸単位とを含むエステルを意味する。
また、本発明において「保存安定性」とは、エマルション組成物を調製した後、経時のエマルション粒子の凝集や合一等を抑制でき、乳化状態の安定性が損なわれずに持続することを意味する。
以下、本発明における各構成要素について詳細に説明する。
【0019】
((a)5環性トリテルペン)
本発明の水中油型エマルション組成物に含有されるエマルション粒子(油相)は、5環性トリテルペンを含む。
【0020】
5環性トリテルペンは、水にも油にも溶けにくい難溶性の化合物であることから、水や油に均一に分散することが難しく、さらに水中での結晶化が著しいことから、分散させたとしても、分散状態を安定に保つことが極めて困難であった。このため、従来、所期の機能を発揮させるのに充分な濃度の5環性トリテルペンを含む組成物を得ることは困難であった。
一方、本発明のエマルション組成物は、N−アシルアミノ酸モノエステルと、レシチンとを含むため、所期の機能を発揮させるのに充分な高濃度にて5環性トリテルペンを配合することでき、且つ、保存安定性及び透明性にも優れた水中油型エマルション組成物を得ることが可能となる。
【0021】
5環性トリテルペンは、天然物、合成品のいずれであってもよいが、主に植物エキスから得ることができる。具体的には、5環性のトリテルペンは、例えば植物エキスからエタノール等の溶媒を用いて抽出することができる。
【0022】
本発明における5環性トリテルペンの例としては、酸型、配糖体型、又は脂肪酸エステル型の5環性トリテルペンなど、基本骨格に1つ以上のカルボキシル基又はその誘導体を置換基として有する5環性トリテルペンが挙げられ、本発明においてはこれらのトリテルペンのいずれについても適用することができる。
【0023】
本発明のエマルション組成物における5環性トリテルペンは、エマルション粒子中に1種のみが単独で含まれていてもよく、2種以上が併用されていてもよい。
【0024】
ここで、酸型の5環性トリテルペンとは、カルボキシル基を置換基として基本骨格に有する5環性トリテルペンである。
また、配糖体型の5環性トリテルペン及び脂肪酸エステル型の5環性トリテルペンは、カルボキシル基の誘導体を置換基として基本骨格に有する5環性トリテルペンである。配糖体型の5環性トリテルペンは、基本骨格が有するカルボキシル基が糖変性されたものであり、脂肪酸エステル型の5環性トリテルペンは、基本骨格が有するカルボキシル基が、脂肪酸エステル型変性されたものである。
【0025】
配糖体型の5環性トリテルペンにおいて、配糖体の構成成分である糖としては、単糖、2糖、又はオリゴ糖が好ましい。その例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース(以上単糖)、マルトース、スクロース、ラクトース(以上2糖)、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、ラフィノース、スタキオース(以上オリゴ糖)などが挙げられる。
脂肪酸エステル型において、5環性トリテルペンのカルボキシル基とエステル化させるアルコールの例としては、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の全てのアルコール等が挙げられる。
【0026】
薬理活性の観点からは、5環性トリテルペンとしては、酸型の5環性トリテルペンであることが好ましい。
【0027】
植物エキスから得ることができる酸型の5環性トリテルペンの例としては、ツボクサエキスに含まれるアジアチン酸、マデカシン酸;ローズマリーエキスに含まれるウルソール酸、オレアノール酸、ベツリン酸;シソ葉エキスに含まれるオレアノール酸、ウルソール酸、トルメント酸;甘草エキスに含まれるグリチルレチン酸;バナバエキスに含まれるマスリン酸、コロソリン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
また、植物エキスから得ることができる5環性トリテルペンとしては、上記の如き酸型の5環性トリテルペンの他に、糖と結合した配糖体型の5環性トリテルペンが挙げられる。該配糖体型の5環性トリテルペンは、植物体内における貯蔵形態(ヘテロサイドという)として多く存在する形態であり、加水分解や酵素分解により容易に酸型トリテルペン(サポゲニン又はアグリコン)を生成することが知られている。
【0029】
これらの5環性のトリテルペンの中でも、抗炎症効果、抗酸化効果、抗老化作用効果等の観点から、グリチルレチン酸が好ましい。グリチルレチン酸は、甘草から得られるグリチルリチン酸の加水分解によって得られるβ-アミリン(オレアナン)系のペンタサイクリックテルペノイド誘導体の一つである。グリチルレチン酸は、化粧品分野では抗炎症作用、抗酸化作用、抗老化作用を期待して、アンチエイジングケアなどを目的とする化粧品や医薬部外品などに配合することが可能である。
また、グリチルレチン酸は急性または慢性の皮膚炎に対し著しい効果があるといわれ、抗炎症効果、抗アレルギー作用、細菌(黄色ブドウ球菌、ジフテリア菌、サルモネラ菌など)発育阻止作用を有することが知られている。また、グリチルレチン酸は、皮膚の炎症緩和、ニキビなどにおける皮脂の分泌抑制、及び消炎効果に優れており、多くの皮膚ケア製品や口紅に用いられる。その他、頭皮ケア製品にも、脱毛予防効果、フケやかゆみ抑制などの効果があるため、多く使用されている。
【0030】
本発明における5環性トリテルペンとしては、例えば植物エキスから抽出された抽出物の形態で用いることができる。この場合、植物エキス中では、通常、構造の異なるトリテルペンが複数種混ざって含まれていることから、エマルション粒子には複数種の5環性トリテルペンが混在することとなる。
【0031】
また、本発明における5環性トリテルペンは、公知の合成方法に準じて合成できるβグリチルレチン酸、アジアチン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、ベツリン酸、コロソリン酸などを用いてもよい。
また、本発明における5環性トリテルペンは市販品を用いてもよい。市販品の例としては、バイエルヘルスケア社製のTECA(商品名);丸善製薬(株)製のツボクサエキス、セキセツソウエキス、βグリチルレチン酸;バイエルヘルスケア製のアジアチン酸;サビンサジャパン製のウルソール酸;東京化成製のオレアノール酸などが挙げられる。
【0032】
本発明のエマルション組成物における5環性トリテルペンの含有量は、エマルション組成物の全質量に対し、0.01質量%〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは、高濃度化と安定性との観点から0.1質量%〜2質量%である。
【0033】
また、本発明のエマルション粒子全体(油相)における5環性トリテルペンの含有量は、エマルション粒子全体(油相)の全質量に対し、0.5質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0034】
((b)N−アシルアミノ酸モノエステル)
本発明の水中油型エマルション組成物に含有されるエマルション粒子(油相)は、N−アシルアミノ酸モノエステルを含む。
【0035】
5環性トリテルペンは、水にも油にも溶けにくい難溶性の化合物であり、所期の機能を発揮させるのに充分な濃度の5環性トリテルペンを含む組成物を得ることは困難であった。
一方、本発明の水中油型エマルション組成物は、N−アシルアミノ酸モノエステルを含むため、所期の機能を発揮させるのに充分な高濃度にて5環性トリテルペンを配合することが可能になる。
【0036】
N−アシルアミノ酸モノエステルは、アシル基と、中性アミノ酸と、エステル部位をつくるアルコール類との化学反応によって合成されるものであればよい。なお、N−アシルアミノ酸モノエステルの合成方法としては、例えば特開平11−246841号公報の段落番号[0047]〜[0053]に述べられている方法を挙げることができる。
【0037】
アシル基としては、例えば、炭素数6〜22の直鎖又は分岐鎖を有する、飽和又は不飽和のカルボン酸から水酸基を抜いたアシル基が挙げられ、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、2−エチルへキサン酸、ヤシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸等から誘導できるアシル基が挙げられる。
好ましいアシル基としては、カプロイル基、ラウロイル基、ミリスチル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ベヘノイル基、ココイル基等が挙げられる。
【0038】
中性アミノ酸の例としては、グリシン、アラニン、βアラニン、アミノ酪酸、アミノプロピオン酸、サルコシン、N−メチル−β−アラニン等が挙げられるが、好ましくは、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、プロリン、βアラニン、アミノ酪酸、サルコシン、N−メチル−β−アラニンであり、特に好ましくはサルコシン、アラニン、グリシン及びN−メチル−β−アラニンである。なお、これらのアミノ酸は光学活性体でもラセミ体でもいずれでもよい。
【0039】
エステル部位を構成するアルコール類の例としては、炭素数1〜40の直鎖又は分岐鎖、炭素数3〜30の環状アルコールなどが挙げられる。
炭素数1〜40の直鎖又は分岐鎖アルコールの例としては、例えば、炭素数1〜5の低級アルコール、炭素数6〜20の高級アルコール等が挙げられる。
5環性トリテルペンの油相への溶解性の観点から、炭素数が1〜10の分岐鎖又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基を分子内に有するアルコール類が好ましく、炭素数が1〜10の分岐鎖又は直鎖のアルキル基を分子内に有するアルコール類がより好ましい。
炭素数3〜30の環状アルコールの例としては、例えば、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。
また、上記の他に、エステル部位を構成するアルコール類の例としては、コレステロール、ジヒドロコレステロール、フィトステロールなどのステロール類なども挙げられる。
エステル部位を構成するアルコール類の例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−メチル−1−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、2−エチル−ヘキサノール、デカノール、フーゼル油などである。
中でも炭素数2〜8の分岐鎖又は直鎖のアルキル基を分子内に有するアルコール類が好ましく、最も好ましいのはイソプロパノールである。
【0040】
N−アシルアミノ酸モノエステルを合成する際に用いる、アシル基、中性アミノ酸及び、エステル部位をつくるアルコール類との組み合わせの例としては、「ラウロイル基、サルコシン及びイソプロパノール」、「ミリストイル基、βアラニン及びフィトステロール」、又は「カプロイル基、グリシン及びイソブタノール」等の組み合わせが挙げられる。
【0041】
また、本発明におけるN−アシルアミノ酸モノエステルは、上述した公知の合成方法に準じて合成できる他、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、味の素株式会社製のN−ラウロイルサルコシンイソプロピル(商品名 エルデュウSL−205)、N−ミリストイル−N−メチルβアラニンフィトステリル・デシルテトラデシル(商品名 エルデュウAPS307)、日本エマルション製のミリストイルメチルアミノプロピオン酸へキシルデシル(商品名 AMITER MA−HD)などが挙げられる。
これらのN−アシルアミノ酸モノエステルは、必要に応じて一種単独又は複数を混合して用いることができる。
【0042】
N−アシルアミノ酸モノエステルとしては、サルコシン、アラニン、グリシン及びN−メチル−β−アラニンからなる群より選ばれるアミノ酸を、N−カプロイル化、N−ラウロイル化、N−ミリスチル化、N−パルミトイル化、N−ステアロイル化、N−ベヘノイル化、またはN−ココイル化した部分構造と、アルキルエステル化して得られた分岐鎖又は直鎖であり炭素数2〜8のアルキル鎖長を有する部分構造とを有するもの(すなわち、N−アシルアミノ酸モノアルキルエステルであり、サルコシン、アラニン、グリシン及びN−メチル−β−アラニンからなる群より選ばれるアミノ酸を、N−カプロイル化、N−ラウロイル化、N−ミリスチル化、N−パルミトイル化、N−ステアロイル化、N−ベヘノイル化、またはN−ココイル化した部分構造と、エステルのアルキル部分に該当する分岐鎖又は直鎖であり炭素数2〜8のアルキル鎖長を有するアルキル部分構造とを有するもの)が好ましい。
N−アシルアミノ酸モノエステルとして特に好ましくは、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルである。
【0043】
本発明の水中油型エマルション組成物におけるN−アシルアミノ酸モノエステルの含有量は、水中油型エマルション組成物に含まれる5環性トリテルペンの全質量に対して、質量基準で2倍〜200倍が好ましく、5倍〜100倍がより好ましく、10倍〜50倍がより好ましい。水中油型エマルション組成物に含まれる5環性トリテルペンの全質量に対して、質量基準で2倍〜200倍の範囲内にある場合には、エマルション組成物の安定性が良好であり好ましい。
【0044】
((c)レシチン)
本発明の水中油型エマルション組成物は、油相組成物中にレシチンを含む。
【0045】
N−アシルアミノ酸モノエステルは、親水性の高い成分である。そのため、N−アシルアミノ酸モノエステルが油相成分の含まれる場合には、水相界面と油相界面との界面張力がN−アシルアミノ酸モノエステルが含まれない場合に比べて低くなる傾向にある。その結果、乳化剤の界面への吸着によるエマルション粒子安定化の効果が小さくなると推測され、経時保存により、エマルション組成物の保存安定性及び透明性を維持することが困難になると推測される。
一方、本発明のエマルション組成物は、レシチンを含有するため、油相にN−アシルアミノ酸モノエステルを含有するエマルション組成物の長期間に亘る保存安定性及び透明性を維持できるものである。
【0046】
本明細書において、レシチンとはフォスファチジルコリン(PC)に限定されず、各種リン脂質を主成分とする脂質混合物を意味する。脂質の例としては、例えばフォスファチジン酸、フォスファチジルグリセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルメチルエタノールアミン、フォスファチジルコリン、フォスファチジルセリン、ビスフォスファチジン酸、ジフォスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等が挙げられる。
【0047】
レシチンはその安全性と、油を水に分散させてエマルションを作る乳化力から、食品や化粧品用の乳化剤としてよく用いられる。また、医薬品においても、皮膚や粘膜から物質を透過吸収する浸透作用を利用して、医薬用リポソームの材料、静脈注射用脂肪乳剤、痔や皮膚病の治療薬などに利用されている。食品や化粧料用途には、主にコストの観点から大豆レシチンが多く用いられている。
【0048】
また、レシチンはグリセロリン脂質の一種で、自然界の動植物のすべての細胞中に存在しており、生体膜の主要構成成分である。
本発明に使用可能な自然物由来のレシチンの例としては、大豆由来のレシチン、卵黄由来のレシチンをはじめ、動植物由来のレシチン等が挙げられる。
【0049】
大豆レシチンは、大豆油精製工程で副生する油滓を乾燥し、精製することにより製造される。リン脂質含量70%以下のペースト状レシチンは、大豆粗油を30%程度含むため、安価であり、特に食品分野ではこのリン脂質含量70%以下のペースト状のレシチンが用いられる。
近年、リン脂質自体の生理活性や、より高度な乳化剤へのニーズから、高度精製、分別、改質などの技術が加えられ、性能、機能の異なる種々のレシチン群が作られている。
【0050】
高度精製レシチンは、上記ペースト状レシチンから、アセトン等の溶媒を用いて脱油し、粉末化したもので、一般にレシチン含量が90%以上となっている。
この高度精製レシチンの例としては、フォスフォリポン20(リポイド社)、レシオンP(理研ビタミン)、SLPホワイト(辻製油)、エマルメティック300(ルーカスマイヤーコスメティックス社)などが市販されている。
【0051】
通常の精製レシチンの他に、主にフォスファチジルコリン(PC)含量を高めた分別レシチンや、酵素分解により一本鎖化した酵素分解(リゾ)レシチンや水素添加処理を行った水素添加レシチンなどの改質レシチンも本発明で用いることができる。
【0052】
分別レシチンは、上記高度精製レシチンから、各種溶媒への溶解度差を利用したり、蒸留等の操作により特定のリン脂質の含有量を高めたもので、一般にはPC含量を高めたものが市販されている。
PC含量を高めた分別レシチンの例としては、フォスフォリポン50(PC45%)、フォスフォリポン85G(PC80%)、フォスフォリポン90G(PC94%)(以上、リポイド社)、エメルメティック900(PC50%)、エメルメティック930(PC95%)(以上、ルーカスマイヤーコスメティックス社)、SLP−PC70、SLP−PC90(以上、辻製油)などが市販されている。
【0053】
改質レシチンとしては、大別すると、水素添加レシチンと酵素分解レシチンがある。
このうち、水素添加レシチンは、レシチン構造中の脂肪酸ポリエン酸を酸化や光安定性向上のために、水素添加処理を行って飽和脂肪酸に変換したものである。このレシチンは化粧料や医薬品には好ましく用いることができる。
水素添加レシチンの例としては、エマルメティック320(ルーカスマイヤーコスメティックス社)、SLPホワイトH(辻製油)などがある。PC含量を高めた上に水素添加処理を行ったものの例としては、エマルメティック950(ルーカスマイヤーコスメティックス社)、SLP−PC92H(辻製油)、フォスフォリポン90H(リポイド社)などが市販されている。
【0054】
一方、酵素分解レシチンとは、通常グリセリンに結合している2位の脂肪酸のエステル結合を酵素によって選択的に分解したもので、通常のレシチンと区別するためにリゾレシチンと呼ばれる。リゾレシチンは元のレシチンと比較して、水溶性が向上し、一般に乳化力も向上する。この酵素分解処理は、最初のペースト状レシチンに対して行い、それを高度精製するのが通常であるが、分別レシチンに対して酵素分解処理を行うこともある。代表的なリゾレシチンとして、SLPホワイトリゾ(辻製油)が挙げられる。
【0055】
また、異なる酵素処理レシチンとして、リン酸と塩基の間のエステル結合を分解するものも作られている。この処理を行うことで、リン脂質から塩基が除かれ、ホスファチジン酸の形になることで強いアニオン性を示すようになる。このタイプの酵素処理レシチンの例としては、PAナガセ、リゾリン脂質ナガセHなどが市販されている。
【0056】
本発明には、上述したレシチンのうち、いずれのものを使用してもよいが、エマルション組成物の保存安定性及び透明性維持という観点から、大豆レシチンが好ましく、その中でも、高度精製レシチン、分別レシチンがより好ましい。
また、本発明で用いることができるこれらのレシチンは、一種単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
なかでもリン脂質の含有量が、レシチンの全質量に対して70質量%以上のものが好ましく、80質量%以上のものがより好ましく、90質量%以上のものがさらに好ましい。
また、リン脂質中には、フォスファチジルコリン(PC)を、質量基準で10質量%〜100質量%含むものが好ましく、20質量%〜90質量%含むものがより好ましく、30質量%〜80質量%含むものがさらに好ましい。
【0057】
また、レシチンとしては、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、SLP−ホワイト(辻製油製)、エメルメティック900(ルーカスマイヤー製)、フォスフォリポン50(リポイド製)、レシオンP(理研ビタミン製)などが挙げられる。
【0058】
本発明の水中油型エマルション組成物におけるレシチンの含有量は、(a)5環性トリテルペンと、(b)N−アシルアミノ酸モノエステルとの合計質量に対して、2質量%〜50質量%であることが好ましく、4質量%〜40質量%であることがより好ましく、6質量%〜30質量%が特に好ましい。
【0059】
(他の油相成分)
本発明の水中油型エマルション組成物は、5環性トリテルペン、N−アシルアミノ酸モノエステル及びレシチンの他に、種々の油相成分を含むことができる。
油相成分の例としては、例えば化粧品等に使用した際に有用な効果を示す油相成分が挙げられる。
油相成分の例として、具体的には、化学構造面から、油脂類、炭化水素類、ロウ類、エステル類、脂肪酸類、高級アルコール類、高分子類、油溶性色素類、油溶性蛋白質類などが挙げられる。
また、これらの混合物である、各種の植物油、動物油も、油相成分の例に含まれる。
【0060】
これらの油相成分の例としては、さらに具体的には、ヤシ油、オリーブ油、コーン油、ホホバ油などの油脂類;ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などの高級脂肪酸類;ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、デカノール、ドデカノール、テトラデカノール、へキシルデカノール、2−オクチルドデカノール、2−デシルテトラデカノールなどの高級アルコール類;コレステロール、フィトステロールなどのステロール類;パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチルドデシル)などのエステル類;スクワラン、水添ポリデセン、水添ポリイソブテンなどの炭化水素類等が挙げられる。
また、特徴のある機能を有する油相成分(機能性油相成分)として、βカロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、リコピン、ルテインなどのカロテノイド類;トコフェロール、トコトリエノールなどのビタミンE類;コエンザイムQ10などのユビキノン類;EPA、DHA、リノレン酸などのω−3油脂類なども含むことができる。
【0061】
更に、保湿機能を持った油相成分として高価ではあるが、セラミドI、セラミドII、セラミドIII、セラミドV、セラミドVIなどの活性セラミド類;グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミドなどのスフィンゴ糖脂質類;スフィンゴミエリン類、疑似セラミド類も含むことができる。
また、他の油相成分として、フェノール系酸化防止剤、紫外線吸収剤、エモリエント剤などを含有することもできる。
【0062】
本発明のエマルション組成物中の油相成分全質量に対する、5環性トリテルペン、N−アシルアミノ酸モノエステル及びレシチンの総質量は、30質量%〜100質量%が好ましく、50質量%〜100質量%がより好ましく、70質量%〜100質量%が特に好ましい。
【0063】
(エマルション粒子)
本発明のエマルション組成物に含有されるエマルション粒子は、平均粒子径が20nm〜150nmのエマルション粒子であることが好ましい。
【0064】
エマルション粒子の平均粒子径とは、エマルション組成物中に存在するエマルション粒子(油滴)の体積平均粒子径を意味する。
本発明におけるエマルション粒子の平均粒子径は、保存安定性及び組成物の透明性の観点から、20nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜100nmがより好ましく、20nm〜80nmが更に好ましい。
【0065】
本発明のエマルション組成物中に含まれるエマルション粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡、遠心沈降法、液体排除クロマト法、レーザー散乱回折法、動的光散乱法などの公知の方法で求めることができるが、精度と測定の簡便さから、動的光散乱法を用いて測定することが好ましい。
動的光散乱を用いた市販の測定装置の例としては、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))、ナノトラックUPA(日機装(株))、ナノサイザー(マルバーン社製)等が挙げられるが、本発明における粒子径は、ナノトラックUPAを用いて25℃で測定した値を採用する。
具体的には、エマルション組成物を希釈せず原液のまま測定し、メジアン径(d=50)として求める。
なお、エマルション粒子の平均粒子径は、組成物の成分以外に、製造方法における攪拌条件(せん断力・温度・圧力)や、油相と水相との比率、などの要因によって調整することができる。
【0066】
(水相成分)
本発明のエマルション組成物は、水相にポリグリセリン脂肪酸エステルやその他の水溶性の物質を適宜含有することができる。
【0067】
(ポリグリセリン脂肪酸エステル)
本発明の水中油型エマルション組成物は、エマルション粒子を微細化し、エマルション組成物の保存安定性をより向上させるという観点から、水相中に、HLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルを添加することが好ましい。
水中油型エマルション組成物に添加されたポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化剤として機能すると推定される。
【0068】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化力の観点から、HLB11〜15がより好ましい。
ここで、HLBは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えば川上式等が使用できる。川上式を次に示す。
HLB=7+11.7log(M/M
ここで、Mは親水基の分子量、Mは疎水基の分子量である。
また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
また、上記の式からも分かるように、HLBの加成性を利用して、任意のHLB値の乳化剤を得ることができる。
【0069】
ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、HLB10〜16のポリグリセリンモノオレイン酸エステル、HLB10〜16のポリグリセリンモノステアリン酸エステル又はHLB10〜16のポリグリセリンモノイソステアリン酸エステル等が好ましい。
ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい具体例としては、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノリノール酸エステル、デカグリセリンジイソステアリン酸エステル等が挙げられる。この中で、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルが好ましく、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステルが特に好ましい。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、イソステアリン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)、オレイン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)、ミリスチン酸ポリグリセリル−10(HLB=14)、ステアリン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)、ミリスチン酸ポリグリセリル−6(HLB=11)等が挙げられる。
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、一種単独又は複数種を混合して用いることができる。
【0070】
本発明の水中油型エマルション組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、エマルション組成物の全質量に対して、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜15質量%であることがより好ましく、1質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0071】
(他の水相成分)
本発明のエマルション組成物の水相成分として、ポリグリセリン脂肪酸エステルの他に、多価アルコール、ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤、水溶性の塩類、多糖類、タンパク質、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、香料等などを含有することもできる。
【0072】
本発明のエマルション組成物は、防腐性や粘度調節の目的で、多価アルコールを含有することができる。
本発明のエマルション組成物に使用可能な多価アルコールとしては、二価以上のアルコールであれば特に限定されず用いることができる。例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、マルチトール、還元水あめ、蔗糖、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、グルコース、ラクトース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、イノシトール、ペンタエリスリトール、マルトトリオース、ソルビタン、トレハロース、澱粉分解糖、澱粉分解糖還元アルコール等が挙げられる。
これらの二価以上の多価アルコールを、一種単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。また、これらの多価アルコールは、水相組成物の全質量に対して任意の割合で混合して用いることができる。
【0073】
ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の非イオン性界面活性剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エーテル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキエチレンステロール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)などが挙げられる。これらの中では、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンステロールが好ましい。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の好ましい例としては、PEG−60水添ヒマシ油、PEG−80水添ヒマシ油等が挙げられる。ポリオキシエチレンステロールの例としては、PEG−20ダイズステロール、PEG−30ダイズステロール等が挙げられる。
これらの非イオン性界面活性剤は、一種単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0074】
ポリグリセリン脂肪酸エステルも含めた非イオン性界面活性剤の総量は、エマルション組成物全質量に対して、0.1質量%〜20質量%であることが好ましく、0.5質量%〜15質量%であることがより好ましく、1質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0075】
イオン性界面活性剤の例としては、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、モノアルキルリン酸塩、脂肪酸塩が挙げられる。塩類としては、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が用いられる。また、多糖類の例としては、マルトデキストリン、オリゴ糖、イヌリン、アラビアガム、キトサン、シクロデキストリン、クラスターデキストリン等がある。タンパク質の例としては、各種アミノ酸類、オリゴペプチド、ゼラチン、水溶性コラーゲン、カゼイン等が挙げられる。
これらのイオン性界面活性剤は、一種単独又は複数を組み合わせて用いることができる。また、これらのイオン性界面活性剤は、水相組成物の全質量に対して任意の割合で混合して用いることができる。
【0076】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の塩基、塩酸等の酸、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液等の緩衝液を用いることができる。
酸化防止剤の例としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、クエン酸モノグリセリド等が挙げられる。
【0077】
本発明のエマルション組成物は、公知の方法に従い製造することが可能である。本発明のエマルション組成物の好ましい製造方法の例としては以下に述べる製造方法が挙げられる。
【0078】
<水中油型エマルション組成物の製造方法>
本発明の水中油型エマルション組成物は、(a)5環性トリテルペン、(b)N−アシルアミノ酸モノエステル、及び(c)レシチンを含む油相組成物と、水相組成物とを混合し、乳化すること等により製造することができる。以下に本発明の水中油型エマルション組成物の製造方法を示す。但し、本発明のエマルション組成物の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0079】
まず、上述した5環性トリテルペン、N−アシルアミノ酸モノエステル、及びレシチンを混合して、60℃〜90℃に加熱して均一な油相組成物を調製することが好ましい。該油相組成物は、必要に応じてその他の油相成分を含んでいてもよい。
次に、調製した油相組成物を、40℃〜90℃に加熱した所定の水相成分を含有する水相組成物中に撹拌しながら添加混合することができる。
【0080】
この際の油相組成物と水相組成物との混合比率(質量)は、特に限定されるものではないが、油相組成物/水相組成物比率(質量%)として0.1/99.9〜50/50が好ましく、0.5/99.5〜30/70がより好ましく、1/99〜20/80が更に好ましい。
油相組成物/水相組成物比率を0.1/99.9以上とすることにより、有効成分が低くならないためエマルション組成物の実用上の問題が生じない傾向となり好ましい。また、油相組成物/水相組成物比率を50/50以下とすることにより、乳化剤濃度が薄くなることがなく、エマルション組成物の安定性が悪化しない傾向となり好ましい。
【0081】
油相組成物と水相組成物とを混合し、乳化する際には、油相組成物と水相組成物とを混合して粗乳化物を得て、その後、微細乳化手段を用いて微細化することが好ましい。
油相組成物と水相組成物とを混合して粗乳化物を得る手段としては、市販のいずれの混合手段を用いてもよい。例えば、水性媒体をマグネチックスターラー、家庭用ミキサー、パドルミキサー、インペラーミキサーなどで混合撹拌することで、均一な粗乳化液を調製できる。
また、強い剪断力を有する撹拌手段、すなわち、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサーなどを用いて油相組成物と水相組成物とを混合する方がより好ましい。
さらに粗乳化の効果を高める目的で、これらの撹拌手段に加えて、超音波を利用することも好ましい。
超音波付与手段としては、超音波ホモジナイザーを用いることが好ましい。超音波ホモジナイザーの例としては、超音波ホモジナイザーUS−600、同US−1200T、同RUS−1200T、同MUS−1200T(以上、(株)日本精機製作所製)、超音波プロセッサーUIP2000,同UIP−4000、同UIP−8000、同UIP−16000(以上、ヒールッシャー社製)等が挙げられる。
これらの高出力超音波照射装置は25kHz以下、好ましくは15〜20kHzの周波数で使用することができる。
また、他の混合手段として、外部からの撹拌部を持たず、低エネルギーしか必要としない、スタチックミキサー、マイクロチャネル、マイクロミキサーなどを用いることもできる。
この粗乳化処理における温度は、20℃以上90℃以下の任意の温度で実施可能であるが、好ましくは40℃以上80℃以下の温度で処理することが挙げられる。
【0082】
次に、得られた粗乳化物を、微細乳化手段を用いて微細化することが好ましい。
微細化の手段としては、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。高圧ホモジナイザーは、攪拌方式と比べて大きな剪断力を与えることができるために、微細化が可能であり、種々の装置が市販されている。
高圧ホモジナイザーには大きく分けて、固定した絞り部を有するチャンバー型高圧ホモジナイザーと、絞りの開度を制御するタイプの均質バルブ型高圧ホモジナイザーがある。前者のチャンバー型高圧ホモジナイザーの例としては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、スターバースト((株)スギノマシン製)等が挙げられる。後者の均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0083】
高圧ホモジナイザーは、流路の中に非常に狭いチャンバー部や絞り部を備え、狭い流路にポンプを用いて強制的に液を送ることで、絞り部の前後で非常に大きな圧力差を生じ、この圧力差を駆動エネルギーとして、液は狭い管路を音速に匹敵する速度で移動するために、流路壁との間で大きな剪断力が発生し、これが分散力となる。
加える圧力と生成する剪断力は比例関係にあり、高圧を加えれば加えるほど、分散に使われる剪断エネルギーは高くなる。しかし、剪断力が全て分散に使われるわけではなく、高圧になればなるほど、エネルギー効率としては低下して熱に変換される割合が増える傾向にあることが知られており、高圧にも限界はある。
【0084】
本発明のエマルション組成物の製造においては、分散性(微細化)の観点から、圧力は100MPa以上とし、より好ましくは150MPa以上であることが好ましい。高圧側の限界は市販の装置では、温度上昇と耐圧性の観点から300MPa以下であることが好ましい。
【0085】
微細乳化手段を用いて微細化する場合の、高圧処理を行う回数は1回でもよいが、液全体の均一性を高めるためには、2回以上の高圧処理を行うことが好ましく、2回〜5回の高圧処理を行うことがより好ましい。
高圧分散処理前の温度は、20℃〜80℃に設定することが好ましいが、より好ましくは40℃〜70℃である。高圧分散処理直後に冷却手段を用いて迅速に冷却し、所定の温度に下げるのが好ましい。冷却装置としては、任意の市販の熱交換器を用いることができる。
【0086】
<皮膚外用組成物>
本発明の皮膚外用組成物は、(a)5環性トリテルペン、(b)N−アシルアミノ酸モノエステル、及び(c)レシチンを含む油相と、水相とを含有する水中油型エマルション組成物を含有する。
これにより、本発明の皮膚外用組成物は、保存安定性と透明性とを維持し得る。
【0087】
水中油型エマルション組成物の詳細については、前述した事項をそのまま適用する。
本発明の皮膚外用組成物は、水中油型エマルション組成物の項に記載された成分以外にも、食品、化粧品等の分野において通常用いられる添加成分(以下、「他の添加成分」ともいう。)を、その形態に応じて適宜含有させてもよい。
【0088】
他の添加成分は、その特性によって、油溶性又は水溶性の添加成分として、本発明の皮膚外用組成物に含有させることができる。
例えば、その他の添加成分の例としては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;カッパーカラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピルグアガム、キサンタンガム、カラヤガム、タマリンド種子多糖、アラビアガム、アカシアガム、アルカリゲネス産生多糖体(「アルカシーラン」とも称される。)、トラガカントガム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストリン、イヌリン等の単糖類又は多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;カゼイン、アルブミン、メチル化コラーゲン、加水分解コラーゲン、水溶性コラーゲン、ゼラチン等の分子量5000超のタンパク質;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、シスチン、メチオニン、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アセチルヒドロキシプロリン等のアミノ酸及びそれらの誘導体;カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、酸化エチレン・酸化プロピレンブロック共重合体等の合成高分子;ヒドロキシエチルセルロース・メチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体;カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチンなどのフラボノイド類;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、L−アスコルビン酸リン酸エステル、リン酸アスコルビルマグネシウム、リン酸アスコルビルナトリウム、硫酸アスコルビル、硫酸アスコルビル2ナトリウム塩、及びアスコルビル−2−グルコシド等のアスコルビン酸又はその誘導体;トコトリエノール及びその誘導体;クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル、リグナン類、クルクミン類、クマリン類、プテロスチルベン、ヒドロキシスチルベン等のフェノール類;油脂類、脂肪酸類、高級アルコール類、油溶性色素類、鉱物油、ポリシリコン化合物などの機能性油相成分;を挙げることができる。
【0089】
その他、本発明の皮膚外用組成物は、例えば、pH調整剤、pH緩衝剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、着色剤、賦形剤、粘度調整剤、ラジカル捕捉剤など、通常その用途で使用される他の添加物を用いることができる。
また、その機能に基づいて各種成分を配合することができる。例えば、エモリエント剤、トリートメント剤、潤滑剤、保湿剤、育毛剤、養毛剤、発毛剤、抗白髪剤、アンチエイジング剤、抗酸化剤、香料、色素剤、制汗剤、冷感剤、清涼剤、温感剤などを挙げることができる。
また、医薬品用成分として、さらに、育毛剤、養毛剤、発毛剤、抗生剤、殺菌剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤などを含むことができる。
【0090】
なお、本発明の皮膚外用組成物は、油相成分の含有量を、皮膚外用組成物の全質量に対して、5質量%以下にすることが好ましい。
これにより、本発明の皮膚外用組成物は、調製直後から高い透明性を示し、且つ経時保存による透明性も維持することができるようになる。
また、保存安定性及び透明性の観点より、本発明の皮膚外用組成物は、油相成分の含有量が皮膚外用組成物の全質量に対して0.01〜3質量%にすることがより好ましく、0.1〜1質量%にすることが更に好ましい。
【0091】
また、本発明の皮膚外用組成物は、エタノールの含有量を、皮膚外用組成物の全質量に対して、10質量%以下にすることが好ましい。
これにより、本発明の皮膚外用組成物は、皮膚への刺激性を緩和することができるようになる。
また、皮膚への刺激性の緩和の観点より、本発明の皮膚外用組成物は、エタノールの含有量が皮膚外用組成物の全質量に対して0〜5質量%にすることがより好ましく、0〜3質量%にすることが更に好ましい。
【0092】
なお、本発明の皮膚外用組成物の透明性は、外観を目視することによって簡便に判断することができるが、濁度を測定し透明性を判断することがより好ましい。
濁度は、UV−VISIBLEスペクトルフォトメーターUV−2550(島津製作所製)を使用し、10mmセルにて、25℃における650nmの吸光度として測定する。
本発明において、皮膚外用組成物が透明であるということは、650nmの吸光度の測定値が0.1以下であることを意味する。また、650nmの吸光度の測定値が0.05以下である皮膚外用組成物がより好ましい。
【0093】
本発明の皮膚外用組成物は、上述した通り、保存安定性に優れているのが特徴の一つである。
一般的には、皮膚外用組成物の保存中に乳化油滴(エマルション粒子)が成長、及び/又は凝集することにより、測定されたエマルション粒子の平均粒子径が増大することにより、エマルション組成物を用いて調製した皮膚外用組成物の透明性が損なわれる。
そこで、上記濁度を皮膚外用組成物経時保存前後に測定することで、皮膚外用組成物の保存安定性を評価することができる。
【0094】
本発明の皮膚外用組成物は、効果発現に十分な量の5環性トリテルペンを含有しうるものであり、且つ透明性及び保存安定性にも優れることから、頭皮用化粧料、顔用化粧料、身体用化粧料として使用することができる。中でも頭皮用化粧料として用いることが好ましい。
化粧料の形態には特に制限はなく、化粧水(ローション)、美容液、育毛ローション等の頭皮用化粧料を例示することができる。化粧料の形態は、対象部位に均一に賦与できるという観点から、中でも化粧水、育毛ローションが好ましい。
【0095】
なお、本発明の皮膚外用組成物は、公知の方法に従い製造することが可能である。例えば、水中油型エマルション組成物を、皮膚外用組成物の全質量に対する、有効成分の含有濃度が0.001%〜1%等になるように精製水等を用いて2倍〜100倍に希釈すること等で得ることができる。
【実施例】
【0096】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0097】
<実施例(1)>
(水中油型エマルション組成物の調製)
βグリチルレチン酸(丸善製薬製)1.00g、N−ラウロイルサルコシンイソプロピル(味の素製;エルデュウSL−205)20.00g、高純度大豆レシチン(辻製油製;SLP−ホワイト)2.00gを混合し、70℃にて撹拌しながら溶解し、これを油相組成物とした。
一方、イソステアリン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)6.00gを、グリセリン(和光純薬製)100.00gと精製水の混合液中に70℃にて溶解させたものを水相組成物とした。精製水の使用量は、調製後のエマルション組成物の合計質量が200gとなるよう適宜調整した。
各々溶解した水相組成物と油相組成物を、TKホモミキサー(プライムミックス製)で60℃にて、500rpmの回転数で15分間粗乳化した。この粗乳化物を、超高圧分散装置であるスターバーストミニ機(スギノマシン製)で、60℃に保ちながら、圧力200MPaで2回通過させて微細乳化物(水中油型エマルション組成物)を調製した。これを、乳化物(1)とした。
(平均油滴サイズ測定)
上記の乳化物(1)を精製水で5倍に希釈したサンプルについて、ナノトラックUPA(日機装製)にて油滴(エマルション粒子)サイズ測定を行い、その体積平均径(Mv)を求めて、表1に示した。
(皮膚外用組成物の調製)
上記の乳化物(1)を精製水で50倍に希釈して、皮膚外用組成物(1)を調製した。
(濁度測定と濁度変化の評価)
上記、皮膚外用組成物(1)の650nmにおける濁度を、UV−VISIBLEスペクトルフォトメーターUV−2550(島津製作所製)を使用し、25℃における650nmの吸光度として測定した。初期濁度は0.08であった。
なお、この時のサンプルセルは石英ガラス製で光路長は10mmである。
また、皮膚外用組成物(1)を20mlガラスバイアル瓶にて、40℃で2ヶ月間静置保管後の濁度の値を上記と同様に測定した。この時の濁度は0.08であり濁度変化は0.00であった。
表1に初期濁度と、2ヶ月間静置保管後の濁度の変化(濁度変化)とを表1に示した。
【0098】
<実施例(2)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のβグリチルレチン酸量を2.00gに、N−ラウロイルサルコシンイソプロピル量を4.00gに、高純度大豆レシチン量を4.00gに、水相組成物中のイソステアリン酸ポリグリセリル−10量を9.00gとした以外は、実施例(1)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(2)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0099】
<実施例(3)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のβグリチルレチン酸量を2.00gに、N−ラウロイルサルコシンイソプロピル量を7.00gに、高純度大豆レシチン量を8.00gに、水相組成物中のイソステアリン酸ポリグリセリル−10量を9.00gとした以外は、実施例(1)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(3)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0100】
<実施例(4)>
上記、実施例(1)において、乳化物(1)200gを精製水744gとエタノール56gの混合溶媒で希釈して、皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(4)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0101】
<実施例(5)>
上記、実施例(1)において、水相組成物中のイソステアリン酸ポリグリセリル−10を同量のオレイン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)と置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物及び皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(5)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0102】
<実施例(6)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中の高純度大豆レシチンを、同量の水素添加大豆レシチン(辻製油製;SLP−ホワイトH)に置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(6)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0103】
<実施例(7)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のN−ラウロイルサルコシンイソプロピルを、N−ミリストイル−N−メチルβアラニンフィトステリル・デシルテトラデシル(味の素製;エルデュウAPS307)60.00gに置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(7)を調製した。この乳化物(7)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(7)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0104】
<実施例(8)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のβグリチルレチン酸を、同量のアジアチン酸(バイエルヘルスケア製)に置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(8)を調製した。この乳化物(8)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(8)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0105】
<実施例(9)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のβグリチルレチン酸を、同量のウルソール酸(サビンサジャパン製)に置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(9)を調製した。この乳化物(9)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(9)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0106】
<実施例(10)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のβグリチルレチン酸を、同量のオレアノール酸(東京化成製)に置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(10)を調製した。この乳化物(10)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(10)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0107】
<実施例(11)>
上記、実施例(1)において、乳化物(1)200gを、精製水695gとエタノール105gとの混合溶媒で希釈して、皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(11)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0108】
<実施例(12)>
上記、実施例(7)において、水相組成物中のイソステアリン酸ポリグリセリル−10量を3.00gとした以外は、実施例(7)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(12)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0109】
<実施例(13)>
上記、実施例(1)で用いた乳化物(1)200gに、下記、乳化物(13)300gを加え、この混合物を精製水500gに溶かして皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(13)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
(乳化物(13)の調製)
パルミチン酸エチルへキシル(日光ケミカル製)100.00gとポリソルベート40(日光ケミカル製)10.00gを70℃で混合溶解した油相組成物を190gの精製水と混合し、TKホモミキサーで粗分散した後、スターバーストミニ機で、60℃にて、200MPaで3回通過させることで、乳化物(13)が得られた。
<比較例(14)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のN−ラウロイルサルコシンプロピルを、ミリスチン酸イソプロピル(日光ケミカル製)70.00gで置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(14)を調製した。この乳化物(14)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(14)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0110】
<比較例(15)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のN−ラウロイルサルコシンプロピルを、中鎖脂肪酸トリグリセリド(日清オイリオ製;O.D.O)90.00gで置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(15)を調製した。この乳化物(15)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(15)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0111】
<比較例(16)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中のN−ラウロイルサルコシンプロピルを、N−ラウロイルグルタミン酸ジ(コレステリル・オクタデシル)(味の素製;エルデュウCL−202)90.00gで置き換えた以外は、実施例(1)と同様に乳化物(16)を調製した。この乳化物(16)を用いて、実施例(1)と同様に皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(16)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0112】
<比較例(17)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中の高純度大豆レシチンを除いた以外は、実施例(1)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(17)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0113】
<比較例(18)>
上記、実施例(1)において、油相組成物中の高純度大豆レシチンを除き、水相組成物中のイソステアリン酸ポリグリセリル−10量を9.00gとした以外は、実施例(1)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(18)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0114】
<比較例(19)>
上記、実施例(7)において、油相組成物中の高純度大豆レシチンを除き、水相組成物中のイソステアリン酸ポリグリセリル−10量を9.00gとした以外は、実施例(7)と同様に乳化物、そしてその後の皮膚外用組成物を調製し、これを皮膚外用組成物(19)とした。
また、油滴サイズ、濁度の評価も実施例(1)と全く同様に行った。
【0115】
こうして得られた、(初期の)油滴体積平均サイズ(表中、「油滴サイズ」と表記した。)、(初期の)皮膚外用組成物の650nmにおける濁度の値(表中、「初期濁度」と表記した。)、及び、40℃で2ヶ月静置保存による濁度の変化(表中、「濁度変化」と表記した。)を下記表1及び表2に示した。なお、表中、「(量)」は、皮膚外用組成物の全質量に対する各成分の含有割合(質量%)を示すものである。
【0116】
【表1】

【0117】
【表2】

【0118】
この結果から、本発明のエマルション組成物は初期の透明性が高いことが明らかになった。また、本発明のエマルション組成物を含有する皮膚外用組成物は保存時の濁度変化が小さいことも明らかになった。
なお、皮膚外用組成物を調製したとき、皮膚外用組成物中に含有されるエタノール濃度が高い場合には、保存時の濁度変化が顕著に表れる傾向にあることが明らかになった。また、皮膚外用組成物中に含有される油相成分の濃度が高い場合には、初期濁度の増加により皮膚外用組成物の透明性が低下する傾向にあることが明らかになった。
【0119】
2013年1月21日に出願された日本国特許出願2013−008700号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。