(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<油性組成物>
本発明の油性組成物は、
以下に詳述する、(a)N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと、(b)融点40℃以下であり、分子内に一つ以上の水素結合性基を有し、且つ直鎖又は分岐の炭素鎖を有する水に難溶性の油性成分(以下、「特定油性成分」と称する場合がある。)と、(c)油に難溶性の有効成分(以下、「有効成分」と称する場合がある。)とを含む
油性組成物の一態様であり、特定油性成分が、融点40℃以下であり、
水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ウレア基、オキソ基又はエーテル基である水素結合性基を分子内に一つ以上有し、且つ炭素数12〜24の直鎖又は分岐の炭素鎖を有する水に難溶性の油性成分であり、有効成分としてグリチルレチン酸を含む油性組成物である。
本発明の油性組成物は、上記の構成を有することにより、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化を抑制し、且つ有効成分を十分に溶解させ得る。
【0010】
N−ラウロイルサルコシンイソプロピルは、1℃〜6℃の融点(α相)と、18℃〜22℃の融点(β相)との二つの融点を有する。
α相は、結晶核の形成速度が速く、容易に形成される。また、α相からβ相への転移は容易に生じる。一方、β相は結晶核の形成速度が遅く、液体状態から直接β相が形成される頻度は少ない。ただし、条件によっては、液体状態から、直接β相が形成されることがある。例えば、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルを含む油性組成物を、エマルション組成物の油相に含ませると、界面において表面積が拡大し、且つエマルション組成物中の乳化剤が結晶核生成の鋳型になりうるため、結晶核の形成速度が上昇し、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの結晶化が促進し、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルが凝固する場合がある。
このようにN−ラウロイルサルコシンイソプロピルを含む油性組成物は、その保管時の温度履歴等により、凝固してしまう懸念がある。また、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの凝固点の範囲は、室温付近にまで至るため、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルを含む油性組成物は冷蔵保存が困難であり、取り扱いが容易ではない。
【0011】
N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの結晶化メカニズムは、明確ではないが以下のように推測している。
N−ラウロイルサルコシンイソプロピルは、分子内にアルキル鎖と親水性基とを有する。この分子内に含まれるアルキル鎖が、別のN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの分子内に含まれるアルキル鎖と平行に積み重なることによって、アルキル鎖間で疎水性相互作用を生じる。またN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの分子内に含まれる親水性基と、別のN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの分子内に含まれる親水性基とが、積み重なることによって、親水性基間で水素結合相互作用を生じる。このようにして生じる疎水性相互作用及び水素結合相互作用によって、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルは結晶構造を維持していると推測される。
一方、本発明の油性組成物は、特定油性成分を含有する。特定油性成分は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピル間の疎水性相互作用を阻害すると推測される炭素鎖と、水素結合相互作用を阻害すると推測される水素結合性基とを有しており、水に難溶性であり、且つ融点が40℃以下である。そのため、特定油性成分を含有することにより、本発明の油性組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化を抑制し得ると推測される。
【0012】
本発明において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本発明において「水相」とは、溶媒の種類にかかわらず「油相」に対する語として使用する。
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「ポリグリセリン脂肪酸エステル」との表現は、複数のグリセリン単位と、少なくとも1以上の脂肪酸単位とを含むエステルを意味する。
【0013】
本明細書において冷蔵とは、油性組成物、エマルション組成物、皮膚外用組成物等の組成物を0℃〜10℃の温度にすることを意味する。また、冷蔵保存とは、組成物を0℃〜10℃で1日以上保存することを意味する。
本明細書において「保存安定性」とは、エマルション組成物を調製した後、経時のエマルション粒子の凝集や合一等を抑制でき、乳化状態の安定性が損なわれずに持続することを意味する。
本明細書においてエマルション組成物は、特に断らない限り、水中油型のエマルション組成物及び油中水型のエマルション組成物のいずれであってもよい。また、エマルション組成物は、油性成分を含む油性組成物から構成された油相と、水性成分を含む水性組成物から構成された水相とを含む。なお、本発明のエマルション組成物は、後述する如く、水性成分からなる水性組成物と、油性成分からなる油性組成物とを乳化混合して得られることが好ましい。
以下、本発明における各構成要素について詳細に説明する。
【0014】
((a)N−ラウロイルサルコシンイソプロピル)
本発明の油性組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルを含む。
N−ラウロイルサルコシンイソプロピルは、N−ラウロイルサルコシンと、イソプロパノールとを用いて、公知の方法により合成することができる。合成方法の例としては、特開平11−246841号公報の段落番号[0051]に述べられている方法を挙げることができる。
【0015】
本発明におけるN−ラウロイルサルコシンイソプロピルは、上述した公知の合成方法に準じて合成できる他、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、味の素株式会社製のN−ラウロイルサルコシンイソプロピル(商品名 エルデュウSL−205)等が挙げられる。
【0016】
本発明の油性組成物におけるN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの含有量は、油性組成物の全質量に対して、30質量%〜90質量%であることが好ましい。N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの含有量が90質量%以下である場合には、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化が十分に抑制できる。また、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの含有量が30質量%以上である場合には、油に難溶性の有効成分を十分に溶解することができる。また、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの含有量は、50質量%〜80質量%であることがより好ましく、55質量%〜75質量%であることが更に好ましい。
【0017】
((b)融点40℃以下であり、分子内に一つ以上の水素結合性基を有し、且つ直鎖又は分岐の炭素鎖を有する水に難溶性の油性成分)
本発明の油性組成物は、融点40℃以下であり、分子内に一つ以上の水素結合性基を有し、且つ直鎖又は分岐の炭素鎖を有する水に難溶性の油性成分を含む。なお、特定油性成分は、本発明の効果を阻害しない範囲で、分子内にその他の任意の置換基をさらに有していてもよい。
【0018】
特定油性成分の分子内に含まれる水素結合性基としては、分極した水素原子を有する基及び孤立電子対を有する基が挙げられる。分極した水素原子を有する基の例としては水酸基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、ウレア基等が挙げられる。孤立電子対を有する基の例としてはオキソ基、エーテル基等が挙げられる。
水素結合性基としては、分極した水素原子を有する基が好ましく、中でも、水素結合の強度と、後述する有効成分の溶解性との観点より水酸基又はカルボキシル基がより好ましい。
【0019】
特定油性成分の分子内に含まれる直鎖又は分岐の炭素鎖の例としては、例えば炭素数8〜30の炭素鎖が挙げられる。また、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルのアルキル鎖間で生じる疎水性相互作用を、効率よく阻害しうるため、特定油性成分の分子内に含まれる直鎖又は分岐の炭素鎖は、炭素数12〜24の炭素鎖が好ましい。
炭素鎖は直鎖であっても分岐を有していてもよいが、特定油性成分の融点を低下させ、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと特定油性成分との親和性を高めるため、炭素鎖は一つ以上の分岐を有する方がより好ましい。
また、炭素鎖は、飽和でも不飽和でもよいが、特定油性成分の融点を低下させるため、炭素鎖は不飽和である方がより好ましく、一つ以上の二重結合を有することがより好ましい。なお、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと特定油性成分との親和性を高めるため、特定油性成分は芳香環又は脂環炭化水素基を有しないことが好ましい。
【0020】
特定油性成分の融点は40℃以下である。特定油性成分の融点が40℃よりも高い場合には、特定油性成分自体が冷蔵保存により凝固するため好ましくない。
特定油性成分の融点は、35℃以下であることが、冷蔵保存によるN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの結晶化を抑制する観点から好ましく、25℃以下であることがより好ましい。
【0021】
特定油性成分において、水に難溶性であるとは、20℃における水への溶解度が、3g/l以下であることを意味する。
また、水への溶解度が1g/l以下であると、エマルション組成物中に含まれるエマルション粒子の安定性が向上するためより好ましく、水への溶解度が0.5g/l以下であることが更に好ましい。
【0022】
特定油性成分は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵保存による結晶化を抑制する観点及び有効成分の溶解性の観点より、炭素数8〜30のアルコール、炭素数8〜30のポリオキシエチレンアルキルエーテル又は炭素数8〜30の脂肪酸が好ましい。また、特定油性成分は、炭素数10〜28のアルコール、炭素数10〜28のポリオキシエチレンアルキルエーテル又は炭素数10〜28の脂肪酸がより好ましく、特定油性成分は、炭素数12〜24のアルコール、炭素数12〜24のポリオキシエチレンアルキルエーテル又は炭素数12〜24の脂肪酸がさらに好ましい。
また、特定油性成分は、融点が40℃以下の炭素数8〜30の水に難溶性のアルコールが好ましい。また、別の態様として、特定油性成分は、融点が40℃以下で、水に難溶性であり、且つ炭素数8〜30の親油性のポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。さらに、別の態様として、特定油性成分は、融点が40℃以下で、水に難溶性の炭素数8〜30の脂肪酸が好ましい。
特定油性成分は、融点が35℃以下であり、分子内に一つ以上の水酸基を有し、且つ炭素数8〜30の分岐した不飽和炭素鎖を有し、水への溶解度が3g/l以下である成分が好ましい。
また、特定油性成分は、融点が35℃以下であり、分子内に一つ以上のカルボキシル基を有し、且つ炭素数8〜29の分岐した不飽和炭素鎖を有し、水への溶解度が3g/l以下である成分が好ましい。
【0023】
特定油性成分としては、具体的には、ラウリルアルコール、ヘキシルデカノール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、デシルテトラデカノール、オクチルドデカノール、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、カプリン酸、イソステアリン酸、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(PEO重
合度2)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(PEO重
合度2)、イソステアリン酸ソルビタン、オレイン酸ソルビタン等が好ましい。
中でも、有効成分の油性組成物中への溶解性の観点から、ラウリルアルコール、ヘキシルデカノール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、デシルテトラデカノール、オクチルドデカノール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル(PEO重
合度2)、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(PEO重
合度2)がより好ましい。また、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、ヘキシルデカノール、が更に好ましい。
特定油性成分は、必要に応じて一種単独又は複数種を混合して用いることができる。
【0024】
N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵保存による結晶化抑制の観点及び有効成分の溶解性の観点から、特定油性成分の含有量は、油性組成物の全質量に対し、2質量%〜90質量%であることが好ましく、5質量%〜65質量%であることがより好ましく、更に好ましくは20質量%〜65質量%であり、25質量%〜55質量%であることが最も好ましい。
また、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵保存による結晶化を抑制する観点及び有効成分の溶解性の観点から、特定油性成分の含有量は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと特定油性成分油性組成物の合計質量に対し、2.5質量%〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは10質量%〜60質量%である。
【0025】
((c)油に難溶性の有効成分)
本発明の油性組成物は、油に難溶性の有効成分を含む。
【0026】
有効成分としては、天然物及び合成品のいずれであってもよく、使用者に対して何らかの好ましい影響を及ぼす油に難溶性の成分であればよい。
なお、油に難溶性であるとは、例えば20℃におけるトリ(カプリル/カプリン)酸グリセリルへの溶解度が、100g/l以下であることを意味する。
【0027】
有効成分としては、例えば、カルボキシル基を有する5環性トリテルペン(以下、「5環性トリテルペン」と称する場合がある。)等が挙げられる。
以下に、有効成分について、5環性トリテルペンを例に挙げて説明するが、有効成分はこれに限定されるものではない。
【0028】
5環性トリテルペンは、天然物及び合成品のいずれであってもよく、主に植物エキスから得ることができる。具体的には、5環性のトリテルペンは、例えば、植物エキスからエタノール等の溶媒を用いて抽出することができる。
【0029】
5環性トリテルペンの例としては、酸型、配糖体型、又は脂肪酸エステル型の5環性トリテルペンなど、基本骨格に1つ以上のカルボキシル基又はその誘導体を置換基として有する5環性トリテルペンが挙げられ、本発明においてはこれらのトリテルペンのいずれについても適用することができる。
【0030】
ここで、酸型の5環性トリテルペンとは、カルボキシル基を置換基として基本骨格に有する5環性トリテルペンである。
また、配糖体型の5環性トリテルペン及び脂肪酸エステル型の5環性トリテルペンは、カルボキシル基の誘導体を置換基として基本骨格に有する5環性トリテルペンである。配糖体型の5環性トリテルペンは、基本骨格が有するカルボキシル基が糖変性されたものであり、脂肪酸エステル型の5環性トリテルペンは、基本骨格が有するカルボキシル基が、脂肪酸エステル型変性されたものである。
【0031】
配糖体型の5環性トリテルペンにおいて、配糖体の構成成分である糖の例としては、単糖、2糖、又はオリゴ糖が好ましい。その例としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アラビノース(以上単糖)、マルトース、スクロース、ラクトース(以上2糖)、マルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、ラフィノース、スタキオース(以上オリゴ糖)などが挙げられる。
脂肪酸エステル型において、5環性トリテルペンのカルボキシル基とエステル化させるアルコールとしては、炭素数1〜20の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐の全てのアルコール等が挙げられる。
【0032】
薬理活性の観点からは、5環性トリテルペンとしては、酸型の5環性トリテルペンであることが好ましい。
【0033】
植物エキスから得ることができる酸型の5環性トリテルペンの例としては、ツボクサエキスに含まれるアジアチン酸、マデカシン酸;ローズマリーエキスに含まれるウルソール酸、オレアノール酸、ベツリン酸;シソ葉エキスに含まれるオレアノール酸、ウルソール酸、トルメント酸;甘草エキスに含まれるグリチルレチン酸;バナバエキスに含まれるマスリン酸、コロソリン酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
また、植物エキスから得ることができる5環性トリテルペンとしては、上記の如き酸型の5環性トリテルペンの他に、糖と結合した配糖体型の5環性トリテルペンが挙げられる。該配糖体型の5環性トリテルペンは、植物体内における貯蔵形態(ヘテロサイドという)として多く存在する形態であり、加水分解や酵素分解により容易に酸型トリテルペン(サポゲニン又はアグリコン)を生成することが知られている。
【0035】
これらのカルボキシル基を有する5環性のトリテルペンの中でも、抗炎症効果、抗酸化効果、抗老化作用効果等の観点から、グリチルレチン酸が好ましい。
グリチルレチン酸は、甘草から得られるグリチルリチン酸の加水分解によって得られるβ-アミリン(オレアナン)系のペンタサイクリックテルペノイド誘導体の一つである。グリチルレチン酸は、化粧品分野では抗炎症作用、抗酸化作用、抗老化作用を期待して、アンチエイジングケアなどを目的とする化粧品や医薬部外品などに配合することが可能である。
また、グリチルレチン酸は急性または慢性の皮膚炎に対し著しい効果があるといわれ、抗炎症効果、抗アレルギー作用、細菌(黄色ブドウ球菌、ジフテリア菌、サルモネラ菌など)発育阻止を有することが知られている。また、グリチルレチン酸は、皮膚の炎症緩和、ニキビなどにおける皮脂の分泌抑制、及び消炎効果に優れており、多くの皮膚ケア製品や口紅に用いられる。その他、頭皮ケア製品にも、脱毛予防効果、フケやかゆみ抑制などの効果があるため、多く使用されている。
【0036】
5環性トリテルペンとしては、例えば植物エキスから抽出された抽出物の形態で用いることができる。この場合、植物エキス中では、通常、構造の異なるトリテルペンが複数種混ざって含まれていることから、エマルション粒子には複数種の5環性トリテルペンが混在することとなる。
【0037】
また、5環性トリテルペンは、公知の合成方法により準じて合成できるβグリチルレチン酸、アジアチン酸、ウルソール酸、オレアノール酸、ベツリン酸、コロソリン酸などを用いてもよい。中でも、ウルソール酸、オレアノール酸、グリチルレチン酸が好ましい。
また、5環性トリテルペンは市販品を用いてもよい。市販品の例としては、バイエルヘルスケア社製のTECA(商品名);丸善製薬(株)製のツボクサエキス、セキセツソウエキス、βグリチルレチン酸;バイエルヘルスケア製のアジアチン酸;サビンサジャパン製のウルソール酸;東京化成製のオレアノール酸などが挙げられる。
これらの5環性トリテルペンは、一種単独で用いてもよく複数を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本発明の油性組成物における有効成分の含有量は、油性組成物の全質量に対し、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以上30質量%以下であり、さらに好ましくは、1質量%以上30質量%以下である。
【0039】
(他の油性成分)
本発明の油性組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと、特定油性成分と、有効成分との他に、種々の油性成分を含むことができる。
油性成分としては、例えば化粧品等に使用した際に有用な効果を示す油性成分が挙げられる。
油性成分の例として、具体的には、化学構造面から、油脂類、炭化水素類、ロウ類、エステル類、脂肪酸類、高級アルコール類、高分子類、油溶性色素類、油溶性蛋白質類などが挙げられる。
また、これらの混合物である、各種の植物油、動物油も油性成分の例に含まれる。
【0040】
これらの油性成分の例としては、さらに具体的には、ヤシ油、オリーブ油、コーン油、ホホバ油などの油脂類;ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸などの高級脂肪酸類;ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール、デカノー
ルなどの高級アルコール類;コレステロール、フィトステロールなどのステロール類;パルミチン酸エチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル・2−オクチルドデシル)などのエステル類;スクワラン、水添ポリデセン、水添ポリイソブテンなどの炭化水素類等が挙げられる。
また、特徴のある機能を有する油性成分(機能性油性成分)として、βカロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、リコピン、ルテインなどのカロテノイド類;トコフェロール、トコトリエノールなどのビタミンE類;コエンザイムQ10などのユビキノン類;EPA、DHA、リノレン酸などのω−3油脂類なども含むことができる。
【0041】
更に、保湿機能を持った油性成分として高価ではあるが、セラミドI、セラミドII、セラミドIII、セラミドV、セラミドVIなどの活性セラミド類;グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミドなどのスフィンゴ糖脂質類;スフィンゴミエリン類、疑似セラミド類も含むことができる。
また、他の油性成分として、フェノール系酸化防止剤などを含有することもできる。
【0042】
本発明の油性組成物の全質量に対する、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと、特定油性成分と、有効成分との合計質量は、30質量%〜100質量%が好ましく、50質量%〜100質量%がより好ましく、70質量%〜100質量%が特に好ましい。
【0043】
<エマルション組成物>
本発明のエマルション組成物は、(a)N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと、(b)融点40℃以下であり、分子内に一つ以上の水素結合性基を有し、且つ直鎖又は分岐の炭素鎖を有する水に難溶性の油性成分と、(c)油に難溶性の有効成分とを含む油性組成物を含む油相と、水相とを含有する。
これにより、本発明のエマルション組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化を抑制し、且つ油に難溶性の有効成分を十分に溶解し得る。
【0044】
油性組成物の詳細については、前述した事項をそのまま適用する。
本発明のエマルション組成物は、水中油型のエマルション組成物及び油中水型のエマルション組成物のいずれであってもよいが、有効成分の溶解性の観点から、水中油型のエマルション組成物であることが好ましい。
以下、水中油型のエマルション組成物を例に挙げて説明する。
【0045】
(リン脂質)
本発明のエマルション組成物は、リン脂質を適宜含有することができる。これらのリン脂質は、油性組成物に添加することができる。
本発明のエマルション組成物は、油相中に、リン脂質を添加してもよい。
リン脂質の例としては、フォスファチジルコリン、フォスファチジン酸、フォスファチジルグリセリン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルメチルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、ビスフォスファチジン酸、ジフォスファチジルグリセリン(カルジオリピン)等のグリセロレシチン;スフィンゴミエリン等のスフィンゴレシチン等が挙げられる。
上記リン脂質の混合物であるようなレシチンを、エマルション組成物が含有することにより、エマルション組成物中のエマルション粒子の安定性が向上し、且つエマルション粒子の微細化が容易になる。そのため、エマルション組成物は、レシチンを含有することが好ましく、中でも大豆レシチン、卵黄レシチンがより好ましい。
リン脂質は、一種単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。
リン脂質の含有量は、エマルション組成物全質量に対して、0.01質量%〜30質量%であることが好ましく、0.1質量%〜20質量%であることがより好ましく、0.5質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0046】
(界面活性剤)
本発明のエマルション組成物は、界面活性剤を適宜含有することができる。
界面活性剤の例としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤等が挙げられる。
本発明のエマルション組成物は、ポリグリセリン脂肪酸エステルを含有していてもよい。特に、エマルション組成物がHLB10〜16のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することにより、エマルション組成物中のエマルション粒子の安定性が向上し、且つエマルション粒子の微細化が容易になる。これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、水性組成物に添加することができる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化剤として機能すると推定され、これにより、エマルション組成物の保存安定性が向上する。
【0047】
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、乳化力の観点から、HLBが10〜16であることが好ましい。
ここで、HLBは、通常界面活性剤の分野で使用される親水性−疎水性のバランスで、通常用いる計算式、例えば川上式等が使用できる。川上式を次に示す。
HLB=7+11.7log(M
w/M
0)
ここで、M
wは親水基の分子量、M
0は疎水基の分子量である。
また、カタログ等に記載されているHLBの数値を使用してもよい。
また、上記の式からも分かるように、HLBの加成性を利用して、任意のHLB値の乳化剤を得ることができる。
【0048】
ポリグリセリン脂肪酸エステルの好ましい例としては、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノリノール酸エステル、デカグリセリンジイソステアリン酸エステル等が挙げられる。この中で、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステル、デカグリセリンモノパルミチン酸エステル、デカグリセリンモノミリスチン酸エステルが好ましく、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノイソステアリン酸エステルが特に好ましい。
また、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、市販品を用いてもよい。市販品の例としては、イソステアリン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)、オレイン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)、ミリスチン酸ポリグリセリル−10(HLB=14)(日光ケミカル製)、ラウリン酸ポリグリセリル−10(HLB=15.5)(日光ケミカル製)、ステアリン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)、ミリスチン酸ポリグリセリル−6(HLB=11)(日光ケミカル製)等が挙げられる。
これらのポリグリセリン脂肪酸エステルは、一種単独又は複数種を混合して用いることができる。
【0049】
本発明のエマルション組成物におけるポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、水性成分の全質量に対して、0.1質量%〜40質量%であることが好ましく、0.5質量%〜30質量%であることがより好ましく、1質量%〜10質量%が特に好ましい。
【0050】
ポリグリセリン脂肪酸エステル以外の非イオン性界面活性剤の例としては、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エーテル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキエチレンステロール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)などが挙げられる。これらの中では、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油及びポリオキシエチレンステロールが好ましい。
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の好ましい例としては、PEG−60水添ヒマシ油、PEG−80水添ヒマシ油等が挙げられる。ポリオキシエチレンステロールの例としては、PEG−20ダイズステロール、PEG−30ダイズステロール等が挙げられる。
これらの非イオン性界面活性剤は、一種単独又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0051】
ポリグリセリン脂肪酸エステルも含めた非イオン性界面活性剤の総量は、エマルション組成物全質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは2質量%〜15質量%、更に好ましくは5質量%〜10質量%である。
【0052】
イオン性界面活性剤の例としては、アルキルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、モノアルキルリン酸塩、脂肪酸塩が挙げられる。塩類としては、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム等が用いられる。また、多糖類の例としては、マルトデキストリン、オリゴ糖、イヌリン、アラビアガム、キトサン、シクロデキストリン、クラスターデキストリン等がある。タンパク質の例としては、各種アミノ酸類、オリゴペプチド、ゼラチン、水溶性コラーゲン、カゼイン等が挙げられる。
これらのイオン性界面活性剤は、一種単独又は複数を組み合わせて用いることができる。また、これらのイオン性界面活性剤は、水性組成物の全質量に対して任意の割合で混合して用いることができる。
【0053】
(水性成分)
本発明のエマルション組成物の水性成分として、多価アルコール、水溶性の塩類、多糖類、タンパク質、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、色素、香料等などを含有することもできる。
【0054】
本発明のエマルション組成物は、防腐性や粘度調節の目的で、多価アルコールを含有することができる。
本発明のエマルション組成物に使用可能な多価アルコールとしては、二価以上のアルコールであれば特に限定されず用いることができる。例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、マルチトール、還元水あめ、蔗糖、ラクチトール、パラチニット、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、キシロース、グルコース、ラクトース、マンノース、マルトース、ガラクトース、フルクトース、イノシトール、ペンタエリスリトール、マルトトリオース、ソルビタン、トレハロース、澱粉分解糖、澱粉分解糖還元アルコール等が挙げられる。
これらの二価以上の多価アルコールを、一種単独又は複数種の混合物の形態で用いることができる。また、これらの多価アルコールは、水性組成物の全質量に対して任意の割合で混合して用いることができる。
【0055】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム等の塩基、塩酸等の酸、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液等の緩衝液を用いることができる。
酸化防止剤の例としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、クエン酸モノグリセリド等が挙げられる。
【0056】
(エマルション粒子)
本発明のエマルション組成物に含有されるエマルション粒子は、平均粒子径が150nm以下のエマルション粒子であることが好ましい。これにより、エマルション組成物の外観としての透明性を向上することができる。さらに、エマルション粒子の平均粒子径が150nm以下であれば、皮膚や頭皮等にエマルション組成物を付与した際のエマルション粒子の浸透性を向上させることができ、より効果的に有効成分を皮膚や頭皮等に浸透させることができるため好ましい。
【0057】
エマルション粒子の平均粒子径とは、エマルション組成物中に存在するエマルション粒子の体積平均粒子径を意味する。なお、水中油型のエマルション組成物の場合エマルション粒子は油滴であり、油中水型のエマルション組成物の場合エマルション粒子は水滴を意味する。
本発明におけるエマルション粒子の平均粒子径は、150nm以下であることが好ましく、5nm〜150nmであることが好ましく、10nm〜100nmがより好ましく、10nnm〜90nmが更に好ましい。
【0058】
本発明のエマルション組成物中に含まれるエマルション粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡、遠心沈降法、液体排除クロマト法、レーザー散乱回折法、動的光散乱法などの公知の方法で求めることができるが、精度と測定の簡便さから、動的光散乱法を用いて測定することが好ましい。
動的光散乱を用いた市販の測定装置の例としては、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))、ナノトラックUPA(日機装(株))、ナノサイザー(マルバーン社製)等が挙げられるが、本発明における粒子径は、ナノトラックUPAを用いて25℃で測定した値を採用する。
具体的には、エマルション組成物を希釈せず原液のまま測定し、メジアン径(d=50)として求める。
なお、エマルション粒子の平均粒子径は、組成物の成分以外に、製造方法における攪拌条件(せん断力・温度・圧力)や、油相と水相との比率、などの要因によって調整することができる。
【0059】
本発明のエマルション組成物は、公知の方法に従い製造することが可能である。なお、以下に水中油型エマルション組成物の製造方法について詳述するが、以下と同様の方法を用いて油中水型エマルション組成物を調製することもできる。
【0060】
(水中油型エマルション組成物の製造方法)
水中油型エマルション組成物は、(a)N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと、(b)融点40℃以下であり、分子内に一つ以上の水素結合性基を有し、且つ直鎖又は分岐の炭素鎖を有する水に難溶性の油性成分と、(c)油に難溶性の有効成分とを含む油性組成物と、水性組成物とを混合し、乳化すること等により製造することができる。以下に水中油型エマルション組成物の製造方法を示す。但し、本発明のエマルション組成物の製造方法は、以下の方法に限定されるものではない。
【0061】
まず、上述したN−ラウロイルサルコシンイソプロピル、特定油性成分及び有効成分を混合して、60℃〜90℃に加熱して均一な油性組成物を調製することが好ましい。該油性組成物は、必要に応じてその他の油性成分を含んでいてもよい。
次に、調製した油性組成物を、40℃〜90℃に加熱した所定の水性成分を含有する水性組成物中に撹拌しながら添加混合することができる。
【0062】
この際の油性組成物と水性組成物との混合比率(質量)は、特に限定されるものではないが、油性組成物/水性組成物比率(質量%)として0.1/99.9〜50/50が好ましく、0.5/99.5〜30/70がより好ましく、1/99〜20/80が更に好ましい。
油性組成物/水性組成物比率を0.1/99.9以上とすることにより、有効成分が低くならないためエマルション組成物の実用上の問題が生じない傾向となり好ましい。また、油性組成物/水性組成物比率を50/50以下とすることにより、乳化剤濃度が薄くなることがなく、エマルション組成物の安定性が悪化しない傾向となり好ましい。
【0063】
油性組成物と水性組成物とを混合し、乳化する際には、油性組成物と水性組成物とを混合して粗乳化物を得て、その後、微細乳化手段を用いて微細化することが好ましい。
油性組成物と水性組成物とを混合して粗乳化物を得る手段としては、市販のいずれの混合手段を用いてもよい。例えば、水性媒体をマグネチックスターラー、家庭用ミキサー、パドルミキサー、インペラーミキサーなどで混合撹拌することで、均一な粗乳化液を調製できる。
また、強い剪断力を有する撹拌手段、すなわち、ホモミキサー、ディスパーミキサー、ウルトラミキサーなどを用いて油性組成物と水性組成物とを混合する方がより好ましい。
さらに粗乳化の効果を高める目的で、これらの撹拌手段に加えて、超音波を利用することも好ましい。
超音波付与手段としては、超音波ホモジナイザーを用いることが好ましい。超音波ホモジナイザーの例としては、超音波ホモジナイザーUS−600、同US−1200T、同RUS−1200T、同MUS−1200T(以上、(株)日本精機製作所製)、超音波プロセッサーUIP2000,同UIP−4000、同UIP−8000、同UIP−16000(以上、ヒールッシャー社製)等が挙げられる。
これらの高出力超音波照射装置は25kHz以下、好ましくは15kHz〜20kHzの周波数で使用することができる。
また、他の混合手段として、外部からの撹拌部を持たず、低エネルギーしか必要としない、スタチックミキサー、マイクロチャネル、マイクロミキサーなどを用いることもできる。
この粗乳化処理における温度は、20℃以上90℃以下の任意の温度で実施可能であるが、好ましくは40℃以上80℃以下の温度で処理することが挙げられる。
【0064】
次に、得られた粗乳化物を、微細乳化手段を用いて微細化することが好ましい。
微細化の手段としては、高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。高圧ホモジナイザーは、攪拌方式と比べて大きな剪断力を与えることができるために、微細化が可能であり、種々の装置が市販されている。
高圧ホモジナイザーには大きく分けて、固定した絞り部を有するチャンバー型高圧ホモジナイザーと、絞りの開度を制御するタイプの均質バルブ型高圧ホモジナイザーがある。前者のチャンバー型高圧ホモジナイザーの例としては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、スターバースト((株)スギノマシン製)等が挙げられる。後者の均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0065】
高圧ホモジナイザーは、流路の中に非常に狭いチャンバー部や絞り部を備え、狭い流路にポンプを用いて強制的に液を送ることで、絞り部の前後で非常に大きな圧力差を生じ、この圧力差を駆動エネルギーとして、液は狭い管路を音速に匹敵する速度で移動するために、流路壁との間で大きな剪断力が発生し、これが分散力となる。
加える圧力と生成する剪断力は比例関係にあり、高圧を加えれば加えるほど、分散に使われる剪断エネルギーは高くなる。しかし、剪断力が全て分散に使われるわけではなく、高圧になればなるほど、エネルギー効率としては低下して熱に変換される割合が増える傾向にあることが知られており、高圧にも限界はある。
【0066】
本発明のエマルション組成物の製造においては、分散性(微細化)の観点から、圧力は100MPa以上とし、より好ましくは150MPa以上であることが好ましい。高圧側の限界は市販の装置では、温度上昇と耐圧性の観点から300MPa以下であることが好ましい。
【0067】
微細乳化手段を用いて微細化する場合の、高圧処理を行う回数は1回でもよいが、液全体の均一性を高めるためには、2回以上の高圧処理を行うことが好ましく、2回〜5回の高圧処理を行うことがより好ましい。
高圧分散処理前の温度は、20℃〜80℃に設定することが好ましいが、より好ましくは40℃〜70℃である。高圧分散処理直後に冷却手段を用いて迅速に冷却し、所定の温度に下げるのが好ましい。冷却装置としては、任意の市販の熱交換器を用いることができる。
【0068】
<皮膚外用組成物>
本発明の皮膚外用組成物は、本発明の油性組成物を含有する。
これにより、本発明の皮膚外用組成物は、冷蔵による保存が可能となる。
【0069】
また、本発明の皮膚外用組成物は、前述したエマルション組成物の形態を採用してもよい。これにより、本発明の皮膚外用組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化を抑制し、且つ油に難溶性の有効成分を十分に溶解し得る。
油性組成物及びエマルション組成物の詳細については、前述した事項をそのまま適用する。
本発明の皮膚外用組成物は、油性組成物及びエマルション組成物の項に記載された成分以外にも、食品、化粧品等の分野において通常用いられる添加成分(以下、「他の添加成分」ともいう。)を、その形態に応じて適宜含有させてもよい。
【0070】
他の添加成分は、その特性によって、油溶性又は水溶性の添加成分として、本発明の皮膚外用組成物に含有させることができる。
例えば、その他の添加成分の例としては、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコール;カッパーカラギーナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ヒドロキシプロピルグアガム、キサンタンガム、カラヤガム、タマリンド種子多糖、アラビアガム、アカシアガム、アルカリゲネス産生多糖体(「アルカシーラン」とも称される。)、トラガカントガム、ジェランガム、ネイティブジェランガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、デキストリン、イヌリン等の単糖類又は多糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクトース、マルトトリイトール、キシリトールなどの糖アルコール;塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの無機塩;カゼイン、アルブミン、メチル化コラーゲン、加水分解コラーゲン、水溶性コラーゲン、ゼラチン等の分子量5000超のタンパク質;グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、シスチン、メチオニン、リジン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アセチルヒドロキシプロリン等のアミノ酸及びそれらの誘導体;カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、酸化エチレン・酸化プロピレンブロック共重合体等の合成高分子;ヒドロキシエチルセルロース・メチルセルロース等の水溶性セルロース誘導体;カテキン、アントシアニン、フラボン、イソフラボン、フラバン、フラバノン、ルチンなどのフラボノイド類;アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、L−アスコルビン酸リン酸エステル、リン酸アスコルビルマグネシウム、リン酸アスコルビルナトリウム、硫酸アスコルビル、硫酸アスコルビル2ナトリウム塩、及びアスコルビル−2−グルコシド等のアスコルビン酸又はその誘導体;トコトリエノール及びその誘導体;クロロゲン酸、エラグ酸、没食子酸、没食子酸プロピル、リグナン類、クルクミン類、クマリン類、プテロスチルベン、ヒドロキシスチルベン等のフェノール類を挙げることができる。
【0071】
その他、本発明の皮膚外用組成物は、例えば、pH調整剤、pH緩衝剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、着色剤、賦形剤、粘度調整剤、ラジカル捕捉剤など、通常その用途で使用される他の添加物を用いることができる。
また、その機能に基づいて各種成分を配合することができる。例えば、エモリエント剤、トリートメント剤、潤滑剤、保湿剤、育毛剤、養毛剤、発毛剤、抗白髪剤、アンチエイジング剤、抗酸化剤、香料、色素剤、制汗剤、冷感剤、清涼剤、温感剤などを挙げることができる。
また、医薬品用成分として、さらに、育毛剤、養毛剤、発毛剤、抗生剤、殺菌剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤などを含むことができる。
【0072】
なお、本発明の皮膚外用組成物は、エタノールの含有量を、皮膚外用組成物の全質量に対して、10質量%以下にすることが好ましい。
これにより、本発明の皮膚外用組成物は、皮膚への刺激性を緩和することができるようになる。
また、皮膚への刺激性の緩和の観点より、本発明の皮膚外用組成物は、エタノールの含有量が皮膚外用組成物の全質量に対して0〜1質量%にすることがより好ましく、0〜0.5質量%にすることが更に好ましく、0〜0.1質量%にすることが特に好ましい。
【0073】
本発明の皮膚外用組成物は、効果発現に十分な量の有効成分を含有しうるものであり、且つ冷蔵保存が可能であることから、化粧料、軟膏として使用することができる。中でも、顔用化粧料、頭皮用化粧料として用いることが好ましい。
化粧料の形態には特に制限はなく、化粧水(ローション)、美容液(エッセンス)、クリーム、乳液等の化粧料を例示することができる。化粧料の形態は、透明性の高い乳化物を好適に用いることができる観点から、中でも化粧水(ローション)、美容液(エッセンス)が好ましい。
【0074】
なお、本発明の皮膚外用組成物は、公知の方法に従い製造することが可能である。例えば、上述のエマルション組成物の製造方法により調製されたエマルション組成物を、皮膚外用組成物の全質量に対する、有効成分の含有濃度が0.00001%〜10%等になるように精製水等を用いて希釈すること等で得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
N−ラウロイルサルコシンイソプロピル(味の素製:エルデュウSL−205)を2gと、特定油性成分としてラウリルアルコールを2gとを混合して混合液を調製した。この混合液に対し、有効成分としてβグリチルレチン酸(丸善製薬製)が2.5質量%になるように添加し、70℃にて撹拌しながらβグリチルレチン酸を溶解し、これを油性組成物とした。
βグリチルレチン酸の溶解性は、調製直後の油性組成物を濾過し、溶解したβグリチルレチン酸の量を、液体クロマトグラフィーにより確認して、以下の基準に従い評価した。
また、油性組成物を20mlガラスバイアル瓶にて、0℃で2ヶ月間保管し、2ヶ月間保管後のN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの結晶成長の有無を目視にて確認して、以下の基準に従い評価した。
結果を下記表1に示す。
【0077】
(溶解性の評価基準)
A:残存したβグリチルレチン酸は検出できなかった。
B:1質量%以上が溶解した。
C:1質量%未満しか溶解できなかった。
【0078】
(結晶成長の評価基準)
A:結晶は認められなかった。
B:結晶の成長が認められるが、油性組成物の流動性は保たれていた。
C:油性組成物全体に結晶が認められ、油性組成物の流動性が著しく低減するか、もしくは油性組成物が完全に固化した。
【0079】
<実施例2〜15及び比較例1〜7>
特定油性成分を下記表1に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして、油性組成物を調製し、実施例1と同様に溶解性及び結晶成長を評価した。なお、比較例1では、特定油性成分の代わりに、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルを2g(油性組成物中、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルとして合計4g)添加した以外は、実施例1と同様にして油性組成物を調製し、実施例1と同様に溶解性及び結晶成長を評価した。
結果を下記表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
<実施例16>
βグリチルレチン酸(丸善製薬製)0.5g、高純度大豆レシチン(辻製油製;SLP−ホワイト)1.00g、N−ラウロイルサルコシンイソプロピル(味の素製;エルデュウSL−205)19.5g、オレイルアルコール0.5gを混合し、70℃にて撹拌しながら溶解し、これを油性組成物とした。
一方、イソステアリン酸ポリグリセリル−10(HLB=12)(日光ケミカル製)6.5gを、グリセリン(和光純薬製)47.0gと精製水25.0gとの混合液中に70℃にて溶解させたものを水性組成物とした。
各々溶解した水性組成物と油性組成物を、TKホモミキサー(プライムミックス製)で60℃にて、500rpmの回転数で15分間粗乳化した。この粗乳化物を、超高圧分散装置であるスターバーストミニ機(スギノマシン製)で、60℃に保ちながら、圧力200MPaで2回通過させて微細乳化物(水中油型エマルション組成物)を調製した。
【0082】
(平均粒子径測定)
上記の微細乳化物を精製水で50倍に希釈したサンプルについて、ナノトラックUPA(日機装製)にて微細乳化物調製直後の油滴(エマルション粒子)の体積平均粒子径の測定を行った。体積平均径(Mv)を下記表2に示した。
【0083】
(溶解性及び結晶成長の評価)
調製した微細乳化物中のβグリチルレチン酸の溶解性及びN−ラウロイルサルコシンイソプロピルの結晶成長を、実施例1と同様に評価した、結果を下記表2に示した。
【0084】
<実施例17〜22及び比較例8〜9>
N−ラウロイルサルコシンイソプロピルと、オレイルアルコールとの組成を下記表2に記載のものに変更した以外は、実施例16と同様にして、水中油型エマルション組成物を調製した。実施例16と同様に体積平均粒子径、溶解性及び結晶成長を評価した。
結果を下記表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
この結果から、本発明の油性組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化を抑制し、且つ油に難溶性の有効成分を十分に溶解しうることが明らかになった。
また、本発明のエマルション組成物は、N−ラウロイルサルコシンイソプロピルの冷蔵による結晶化を抑制し、且つ油に難溶性の有効成分を十分に溶解しうることが明らかになった。
【0087】
2013年1月21日に出願された日本国特許出願2013−008702号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。