(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(a)3価以上のアルコールと、(b)二塩基酸又はその無水物と、(c)2価のアルコールと、を反応させる第一工程、及び第一工程後にさらに(d)脂環式二塩基酸又はその無水物を反応させる第二工程を有する、防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記防汚塗料用ポリエステル樹脂の固形分の酸価が80〜250mgKOH/gである、製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1等の従来の防汚塗料の場合、塗装に適した粘度にするために多量の溶剤を使用する必要がある。そのため、実用化に供し得るには塗料中のVOC量が多くなり、環境に好ましい塗料とはいえない。
また、低VOCを実現した防汚塗料組成物も開発されているが、従来の防汚塗料と比較し、硬化が遅く、盤木に接触した場合、塗膜に窪み等が生じるため、盤木接触が必須の新造船塗装には難があり、十分な硬度が出ない状態で進水させるとタグボートで押したときや接岸時の埠頭との接触等で窪みやヨレ、剥がれ等が生じる問題があった。
上述の特許文献2には、反応性ポリエステル樹脂を使用した2液反応型加水分解型防汚塗料組成物の記載があるが、2液反応型は環境温度が反応性/乾燥性に与える影響が大きく、環境温度が低温の場合には反応性が低下する、あるいは、2液反応型組成物は塗装時の工数(開缶作業、攪拌作業の手間)が増え、1液型塗料と比較し塗装作業に時間/労力がかかる等といった点について改善の余地がある。
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低VOCを維持したまま貯蔵安定性を改善することで1液化が可能となり、かつ硬化性を向上でき、長期に渡って良好な防汚性、塗膜物性を供給することが可能な防汚塗料用ポリエステル樹脂及びその製造方法、並びに防汚塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下に関する。
[1] (a)3価以上のアルコールと、(b)二塩基酸又はその無水物と、(c)2価のアルコールと、を反応させた後、さらに(d)脂環式二塩基酸又はその無水物を反応させて得られる防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[2] (d)脂環式二塩基酸又はその無水物は、脂環式二塩基酸無水物である、[1]記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[3] (d)脂環式二塩基酸又はその無水物は、ヘキサヒドロフタル酸無水物を含む、[1]又は[2]記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[4] (a)3価以上のアルコールは、グリセリン及びトリメチロールプロパンのいずれか1以上を含む、[1]〜[3]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[5] (b)二塩基酸又はその無水物として、脂環式二塩基酸無水物及び芳香族二塩基酸無水物のいずれか1以上を含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[6] (c)2価のアルコールが、分岐状アルキレングリコールである、[1]〜[4]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[7] 一般式(1)に示す構造を有する化合物を含む、防汚塗料用ポリエステル樹脂。
【化1】
[式(1)中、R
1は炭素数3〜24の3価又は4価の炭化水素基から選ばれ、R
2及びR
3は炭素数2〜34の2価の炭化水素基から選ばれ、R
4は炭素数3〜24の2価の脂環式炭化水素基から選ばれ、nは3又は4の整数を示す。]
[8] 固形分の酸価が50〜250mgKOH/gである、[1]〜[7]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂。
[9] (a)3価以上のアルコールと、(b)二塩基酸又はその無水物と、(c)2価のアルコールと、を反応させる第一工程、及び第一工程後にさらに(d)脂環式二塩基酸又はその無水物を反応させる第二工程を有する、防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法。
[10] (d)脂環式二塩基酸又はその無水物は、脂環式二塩基酸無水物である、[9]記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法。
[11] (d)脂環式二塩基酸又はその無水物は、ヘキサヒドロフタル酸無水物を含有する、[9]又は[10]記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法。
[12] (a)3価以上のアルコールは、グリセリン及びトリメチロールプロパンのいずれか1以上を含む、[9]〜[11]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法。
[13] (b)二塩基酸又はその無水物として、脂環式二塩基酸無水物及び芳香族二塩基酸無水物のいずれか1以上を含む、[9]〜[12]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法。
[14] (c)2価のアルコールが、分岐状アルキレングリコールである、[9]〜[13]のいずれかに記載の防汚塗料用ポリエステル樹脂の製造方法。
[15] [1]〜[8]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含有する塗料組成物。
[16] [1]〜[8]のいずれかに記載のポリエステル樹脂を含有する防汚塗料組成物。
[17] 多価金属化合物をさらに含有する、[16]に記載の防汚塗料組成物。
[18] 前記多価金属化合物が、2価または3価の金属の、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物である、[17]に記載の防汚塗料組成物。
[19] 前記多価金属化合物が酸化亜鉛である、[17]又は[18]に記載の防汚塗料組成物。
[20] 前記多価金属化合物の含有量が、前記ポリエステル樹脂100質量部に対して、10〜700質量部である、[17]〜[19]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[21] ロジン及び/又はロジン誘導体をさらに含有する、[16]〜[20]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[22] 防汚剤をさらに含有する、[16]〜[21]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[23] 可塑剤をさらに含有する、[16]〜[22]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[24] 体質顔料(但し、前記多価金属化合物を除く。)をさらに含有する、[16]〜[23]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[25] 顔料分散剤をさらに含有する、[16]〜[24]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[26] 着色顔料をさらに含有する、[16]〜[25]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[27] 脱水剤をさらに含有する、[16]〜[26]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[28] 揮発性有機化合物をさらに含有し、該揮発性有機化合物の含有量が400g/L以下である、[16]〜[27]のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
[29] [16]〜[28]のいずれかに記載の防汚塗料組成物を硬化させてなる防汚塗膜。
[30] [16]〜[28]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を、基材に塗布するか、または含浸させ、基材に塗布または含浸させた塗料組成物を硬化させて、基材上に防汚塗膜を形成してなる防汚基材。
[31] [16]〜[28]のいずれか一項に記載の防汚塗料組成物を、基材に塗布するか、または含浸させ、基材に塗布された塗料組成物または含浸した塗料組成物を硬化させて、基材上に防汚塗膜を形成する防汚基材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、硬化性向上、低VOC化が要求される防汚塗料に使用される、保存安定性、硬化性に優れた、防汚塗料用ポリエステル樹脂及びその製造方法を提供することが可能となった。
また、本発明により、環境への負荷や人体への影響を少なく抑えつつ、低VOCでありながら各種性能面でバランスのとれた低VOCハイソリッド型加水分解型防汚塗料組成物を提供することができる。
また、本発明により、長期防汚性に優れ、機械的強度に優れる防汚塗膜を提供することができる。
また、本発明により、水中構造物、船舶外板、漁網、漁具基材等の基材表面を、長期間防汚することが可能な防汚基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<(A)ポリエステル樹脂>
本実施形態の防汚塗料用ポリエステル樹脂(以下、「(A)ポリエステル樹脂」という。)は、下記一般式(1)に示す構造の化合物を含有する。
【0013】
【化2】
[式(1)中、R
1は炭素数3〜24の3価又は4価の炭化水素基から選ばれ、R
2及びR
3は炭素数2〜34の2価の炭化水素基から選ばれ、R
4は炭素数3〜24の2価の脂環式炭化水素基から選ばれ、nは3又は4の整数を示す。]
【0014】
R
1は、3価又は4価の多価の炭化水素基であることが特徴である。炭素数は特に制限はないが、合成のし易さや原料の入手等を考慮すると3〜24が好ましく、3〜8がより好ましい。また、スルホン酸基等の置換基を有することもできる。
R
2及びR
3は、特に制限はないが、合成のし易さや原料の入手等を考慮すると炭素数2〜34の2価の炭化水素基が好ましく、炭素数は2〜8がより好ましい。なお、スルホン酸基等の置換基を有することもできる。また、n個のR
2、n個のR
3は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
R
4は、2価の脂環式炭化水素基であることが特徴である。炭素数は特に制限はないが、合成のし易さや原料の入手等を考慮すると3〜24が好ましく、3〜12がより好ましく、6〜7がさらに好ましい。また、スルホン酸基等の置換基を有することもできる。なお、n個のR
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
nは、3又は4のいずれかであり、樹脂粘度の観点からは3であることが好ましい。
【0015】
また、本実施形態のポリエステル樹脂は、(a)3価以上のアルコール(以下、「(a)成分」ともいう。)と、(b)二塩基酸又はその無水物(以下、「(b)成分」ともいう。)と、(c)2価のアルコール(以下、「(c)成分」ともいう。)とを反応させた後、さらに(d)脂環式二塩基酸又はその無水物(以下、「(d)成分」ともいう。)を反応させて得られるものである。これにより、上記一般式(1)に示す構造の化合物を含むポリエステル樹脂が得られる。
なお、上記一般式(1)のR
1は(a)成分、R
2は(b)成分、R
3は(c)成分、R
4は(d)成分にそれぞれ由来する。また、1段階目に(a)〜(c)成分を反応させた後に、(d)成分を反応させることにより、末端に(d)成分由来の脂環構造を有するポリエステル樹脂が得られ、この構造がロジン相溶性を向上させていると推測される。
1段階目(第一工程)の(a)〜(c)成分を用いた合成に当たっては、(c)2価のアルコールは、所望のポリエステルポリオール構造を作るにあたって必要となる量よりも多く配合し、この構造から導き出される理論固形分水酸基価の±12mgKOH/gの範囲で工程管理を実施し、酸価が1mgKOH/g以下まで反応を行うことが好ましい。水酸基価を、この範囲内にすることで、高分子量体となるのを防ぎ、樹脂粘度の上昇を抑えられるため低VOCハイソリッド型加水分解型防汚塗料組成物に適したポリエステル樹脂が得られやすくなる。また、酸価が1mgKOH/g以下とすることで、未反応の(b)成分が少なくなり、樹脂溶液の濁りを生じにくくできる。また、2段階目で(d)成分との付加反応がしやすく、ロジン相溶性が得られやすい。
また、2段階目(第二工程)の(d)成分の反応温度は100〜140℃で行うことが好ましい。温度を140℃以下にすることで、(d)成分の付加反応だけでないエステル化反応が生じることによる一般式(1)以外の構造のポリエステルが生成されるのを抑制できる。一方、温度を100℃以上とすることで、(d)成分の反応が進みやすくなり、短時間での合成ができる。
【0016】
(a)3価以上のアルコールとは、1分子中に3個以上のヒドロキシル基を有するアルコールであって、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール等の多官能ポリヒドロキシ化合物等が挙げられる。炭素数は3〜24であることが好ましく、3〜8がより好ましい。原料価格の観点からグリセリン又はトリメチロールプロパンであることが好ましい。
【0017】
(b)二塩基酸又はその無水物とは、1分子中に2個の電離することのできる水素原子を有する酸又はその無水物であって、例えば、脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸やこれらの無水物が挙げられる。脂肪族二塩基酸又はその無水物の具体例としては、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバジン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸、1,11−ウンデカメチレンジカルボン酸、1,12−ドデカメチレンジカルボン酸やこれらの無水物が挙げられる。また脂環式二塩基酸又はその無水物の具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸やこれらの無水物が挙げられる。さらに芳香族系二塩基酸又はその無水物の具体例としてはオルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸もしくはフェナンスレンジカルボン酸等やこれらの無水物が挙げられる。これらは各種の誘導体(例えば、カルボン酸ジメチルエステルやナトリウム−5−スルホイソフタル酸)も使用できることは無論であり、これらは二種以上の混合物として用いてもよい。炭素数は2〜34であることが好ましく、2〜8がさらに好ましい。塗膜の硬化性の観点から環構造を持つ二塩基酸である脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸、及びこれらの無水物が好ましく、無水フタル酸がより好ましい。
【0018】
(c)2価のアルコールとは、1分子中に2個のヒドロキシル基を有するアルコールである。その具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオールが挙げられる。炭素数は2〜24であることが好ましく、2〜12がより好ましく、2〜8がさらに好ましい。合成されたポリステルの溶解性の観点からは、分岐状アルキレングリコールであることが好ましい。原料の入手等を考慮すると、プロピレングリコールが好ましい。
【0019】
(d)脂環式二塩基酸又はその無水物とは、1分子中に脂環構造及び2個の電離することのできる水素原子を有する酸又はその無水物である。その具体例としては、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸やこれらの酸無水物が挙げられる。炭素数は3〜24であることが好ましく、3〜12がより好ましく、3〜8がさらに好ましい。合成の容易さの観点からヘキサヒドロフタル酸無水物が好ましい。
【0020】
また、各成分の配合割合については、特に制限はないが、塗膜柔軟性を考慮するとモル比で(a)成分1に対し、(b)成分は、0.5〜8.0であることが好ましく、塗料粘度の観点からは、2〜4であることがより好ましい。また、(a)成分1に対し、(c)成分は、0.5〜8であることが好ましく、塗料粘度の観点からは、2〜4であることがより好ましい。また、(a)成分1に対し、(d)成分は、1〜5であることが好ましく、塗料の硬化性と顔料分散用に用いられるロジン樹脂との相溶性観点からは、2〜4であることがより好ましい。
【0021】
(A)ポリエステル樹脂の重量平均分子量は8000以下であることが好ましく、より好ましくは4000以下であり、さらに好ましくは2000以下である。重量平均分子量が2000以下とすることで、最終塗料の粘度が高くなりすぎるのを防ぎ、塗布できる粘度に溶剤で希釈するためのVOC量を低減できる。
【0022】
なお、(A)ポリエステル樹脂の重量平均分子量及び数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定され、標準ポリスチレン検量線を用いて求めた値である。分子量測定のGPC条件は以下のとおりである。
<GPC条件>
ポンプ:日立製L−6200
カラム:日立化成製ゲルパックGL−420,GL−430,GL−440
溶離液:テトラヒドロフラン
【0023】
(A)ポリエステル樹脂の固形分酸価は50〜250mgKOH/gであることが好ましく、80〜200mgKOH/gであることがより好ましく、100〜150mgKOH/gであることがさらに好ましい。固形分酸価が50mgKOH/g以上とすることで、多価金属化合物との反応が進みやすく乾燥性に優れ、250mgKOH/g以下とすることで、混合時に多価金属化合物と反応し塗料が高粘度になることを防ぎ、経日での増粘を防止できる。
なお、本実施形態におけるポリエステル樹脂の固形分酸価は、水酸化カリウム(KOH)による滴定により測定できる。
【0024】
(A)ポリエステル樹脂の固形分水酸基価は100mgKOH/g以下であることが好ましく、50mgKOH/g以下であることがより好ましく、20mgKOH/g以下であるとさらに好ましく、10mgKOH/g以下であることが最も好ましい。固形分水酸基価が100mgKOH/g以下に抑えることで、塗料時に使用するロジン、石油樹脂との相溶性が得られやすくなり、塗膜外観に優れ、塗膜における耐水性にも優れる。
【0025】
ここで、(A)ポリエステル樹脂の固形分酸価を上記範囲内にするためには、二塩基酸により末端にカルボキシル酸を導入する方法、多塩基酸により末端にカルボキシル酸を導入する方法等が適用可能である。より具体的には、第一工程の配合調整やエステル化反応度合いの調整、第一工程の後に多塩基酸無水物(無水トリメリット酸等)を付加することによっても固形分酸価を上記範囲内とすることができる。この多塩基酸無水物の付加反応については第一工程の後であれば、第二工程の前、第二工程中、第二工程の後でもよく、第二工程で用いる脂環式二塩基無水物との併用も可能である。第一工程より多塩基酸を導入する方法もあるが、ポリエステル合成後、付加により導入した方がゲル化、増粘等がすくなく反応が制御しやすい。
【0026】
なお、低粘度化のためポリエステルを低分子量化すると水酸基が増える傾向にあるが、その場合は、安息香酸等のモノカルボン酸等を第一工程の際に使用し、水酸基と反応させることにより水酸基価を調整することができる。
【0027】
(A)ポリエステル樹脂は、溶剤に溶解させて、溶液(以下、「(A)ポリエステル樹脂溶液」ともいう。)として用いてもよい。溶剤としては、例えば、後述する防汚塗料組成物における(F)溶剤として例示されているものと同様のものを用いることができる。
なお、(A)ポリエステル樹脂溶液は、未反応の原料が含んでいてもよい。
【0028】
(A)ポリエステル樹脂溶液の25℃における粘度は3000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2000mPa・s以下、さらに好ましくは1000mPa・s以下である。粘度を3000mPa・s以下とすることにより、揮発性有機化合物(VOC)含有量が400g/L以下であっても塗布が可能な防汚塗料組成物を調製しやすくなる。
【0029】
[防汚塗料組成物]
本実施形態の防汚塗料組成物は、上述の(A)ポリエステル樹脂を含有するものである。その他、防汚塗料組成物が含有していてもよい成分に関して、以下に説明する。
<(B)多価金属化合物>
本実施形態の防汚塗料組成物は多価金属化合物をさらに含有することができる。
多価金属化合物は(A)ポリエステル樹脂のカルボキシル基と反応することにより機能する。
【0030】
(A)ポリエステル樹脂と多価金属化合物との反応により、(A)ポリエステル樹脂のカルボキシル基から水素イオンが脱離した残基である−COO
−基、及び多価金属化合物の金属イオンであるM
x+(xは金属元素Mの価数である。)による金属塩架橋構造(例えば、−COO
−・・M
2+・・
−OOC−)が形成され得る。
当該金属塩架橋構造は加水分解しやすいものであり、安定した加水分解反応を呈することができる。本実施形態の(A)ポリエステル樹脂は多価金属化合物との反応性に優れ、また各種樹脂との相溶性にも優れる。本実施形態の(A)ポリエステル樹脂は多価金属化合物との反応性に優れるため、安定した金属塩を早期に形成する。また本実施形態の(A)ポリエステル樹脂は併用樹脂との相溶性にもすぐれるため、粘度上昇、沈殿物、粗粒子発生等の貯蔵安定性の問題が無く、長期にわたり塗膜の研掃性を発揮することが可能である。このため、本実施形態の(A)ポリエステル樹脂は長期防汚性能に優れ、また柔軟性にすぐれた塗膜を得ることができる。ポリエステル樹脂の分子量を適切にすれば(本実施形態の場合重量平均分子量10,000以下)VOC値を400g/L以下に設定しても実用性のある塗料粘度のものが可能となる。
多価金属としては、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ゲルマニウム、アルミニウム、コバルト、鉄、チタン等を挙げることができ、これらの中でも亜鉛、銅、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、コバルト、アルミニウムが好ましく、亜鉛が特に好ましい。
多価金属化合物としては、上記多価金属の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩などの無機酸塩、酢酸塩、サリチル酸塩等の有機酸塩を挙げることができ、酸化物、水酸化物、炭酸塩が好ましく、酸化物、水酸化物がより好ましい。
多価金属化合物としては、亜鉛、銅、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム及びコバルトからなる群より選ばれた少なくとも1種の多価金属の酸化物が好ましく、反応性が高い点から、酸化亜鉛(亜鉛華)が特に好ましい。
【0031】
酸化亜鉛としては、様々な粒径のものを用いることができる。微粒子酸化亜鉛を用いると、粒径の大きな酸化亜鉛を用いる場合よりも、(A)ポリエステル樹脂のカルボキシル基と酸化亜鉛との反応が促進され、短時間で塗膜硬度が向上し、塗膜の耐ダメージ性が早期に発現する等の点で好ましい。
【0032】
本実施形態の防汚塗料組成物において、多価金属化合物の含有量は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して好ましくは10〜700質量部、さらに好ましくは50〜500質量部の量である。10質量部未満であると硬化性不良、塗膜強度不良となる傾向にある。700質量部を超えると耐クラック性等塗膜物性が不良となる傾向にある。
【0033】
<(C)ロジン、ロジン誘導体>
本実施形態の防汚塗料組成物はロジン及び/又はロジン誘導体をさらに含有することができる。ロジンとしては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が挙げられる。また、ロジン誘導体としては、水添ロジン、重合ロジン、マレイン化ロジン、アルデヒド変性ロジン、ロジン金属塩、ロジンアミン等が挙げられる。ロジン及び/又はその誘導体は、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0034】
本実施形態の防汚塗料組成物において、ロジン及び/又はロジン誘導体の含有量は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.5〜300質量部であり、さらに好ましくは0.5〜250質量部であり、最も好ましくは0.5〜200質量部である。0.5質量部未満であると塗料粘度が上昇する傾向にあり、300質量部を超えるとクラックが発生する等物性面が低下する傾向にある。
【0035】
<(D)防汚剤>
本実施形態の防汚塗料組成物は、防汚剤(以下、場合により「(D)防汚剤」という。)をさらに含有することができる。(D)防汚剤としては、有機系、無機系のいずれの防汚剤であってもよく、亜酸化銅、銅ピリチオン(カッパーオマジン)、ジンクピリチオン(ジンクオマジン)等の金属ピリチオン類、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2−(p−パラクロロフェニル)−3−シアノ−4−ブロモ−5−トリフルオロメチルピロール、メデトミジン、N,N’−ジメチル−N’−トリル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、ピリジン−トリフェニルボラン等を用いることができる。
【0036】
本実施形態の防汚塗料組成物において、(D)防汚剤は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは10〜1000質量部、さらに好ましくは100〜800質量部の量で使用することが望ましい。
【0037】
また、亜酸化銅は、広範囲な生物に対する防汚性の観点から、安定した防汚性能を持ち、多様な海域で防汚塗膜の防汚性が発現される等の効果が発揮される。
【0038】
本実施形態の防汚塗料組成物において、亜酸化銅は、ポリエステル樹脂100質量部に対して好ましくは50〜1000質量部、さらに好ましくは50〜800質量部の量で使用する。
【0039】
<(E)その他の添加剤>
本実施形態の防汚塗料組成物は、可塑剤(e1)、体質顔料(但し、多価金属化合物を除く)(e2)、顔料分散剤(e3)、着色顔料(e4)、タレ止め剤(e5)、沈降防止剤(e6)、脱水剤(e7)からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加剤(以下、「添加剤(E)」と総称する。)を含有していてもよい。
【0040】
以下、可塑剤(e1)、体質顔料(e2)(但し、多価金属化合物を除く)、顔料分散剤(e3)、着色顔料(e4)、タレ止め剤(e5)、沈降防止剤(e6)、脱水剤(e7)について詳述する。
【0041】
(e1)可塑剤
可塑剤(e1)としては、塩化パラフィン、石油樹脂類、ケトン樹脂、TCP(トリクレジルフォスフェート)、ポリビニルエチルエーテル、ジアルキルフタレート等が挙げられる。本実施形態の防汚塗料組成物が可塑剤(e1)を含有していると、該防汚塗料組成物から形成される塗膜(防汚塗膜)の耐クラック性が向上する点で好ましい。
塩素化パラフィン(塩化パラフィン)としては、直鎖状でもよく分岐を有していていてもよく、室温で液状でも固体(粉体)でもよいが、その平均炭素数が通常8〜30、好ましくは10〜26のものが好ましく用いられ、その数平均分子量が通常200〜1200、好ましくは300〜1100であり、粘度が通常1以上(ポイズ/25℃)、好ましくは1.2以上(ポイズ/25℃)であり、その比重が1.05〜1.80/25℃、好ましくは1.10〜1.70/25℃のものが好ましく用いられる。このような炭素数の塩素化パラフィンを用いると、得られる防汚塗料組成物を用いて割れ(クラック)、剥がれの少ない塗膜を形成できる。なお、塩素化パラフィンの炭素数が8未満では、クラックの抑制効果が不足となることがあり、またその炭素数が30を超えると、得られる塗膜表面の消耗性(更新性)に劣り防汚性が劣ることがある。また、この塩素化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、通常35〜75%、好ましくは35〜65%であることが好ましい。このような塩素化率の塩素化パラフィンを用いると、得られる防汚塗料組成物を用いて割れ(クラック)、剥がれの少ない塗膜を形成できる。このような塩素化パラフィンとしては、東ソー(株)製の「トヨパラックス150」、「トヨパラックスA−70」等が挙げられる。また、石油樹脂類として具体的には、C5系、C9系、スチレン系、ジシクロペンタジエン系やそれらの水素添加物等を使用することができ、市販品としては、日本ゼオン製の「クイントン1500」、「クイントン1700」等が挙げられる。これらの中でも塩素化パラフィン(塩化パラフィン)、石油樹脂類、ケトン樹脂が好ましい。これらの可塑剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
可塑剤(e1)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.1〜300質量部であり、さらに好ましくは0.1〜200質量部、最も好ましくは0.1〜150質量部含まれることが望ましい。
【0043】
(e2)体質顔料
体質顔料(e2)(但し、多価金属化合物を除く。)としては、タルク(talc)、シリカ、マイカ、クレー、カリ長石、また沈降防止剤としても用いられる炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、艶消し剤としても用いられるホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム等が挙げられ、これらの中では、タルク、シリカ、マイカ、クレー、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、カリ長石からなる群から選ばれる体質顔料が好ましい。体質顔料は、屈折率が小さく、油やワニスと混練した場合に透明で被塗面を隠さないような顔料であり、本実施形態の防汚塗料組成物が体質顔料(e2)を含有していると、耐クラック性等の塗膜物性向上等の点で好ましい。
【0044】
体質顔料(e2)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.1〜500質量部、さらに好ましくは50〜300質量部含まれることが望ましい。
【0045】
(e3)顔料分散剤
顔料分散剤(e3)としては、従来公知の有機系、無機系の各種分散剤を用いることができる。有機系顔料分散剤としては、脂肪族アミン又は有機酸類(LION株式会社製「ヂュオミンTDO」、BYK CHEMIE製「DisperbykBKY101」)等が挙げられる。
【0046】
顔料分散剤(e3)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.01〜100質量部、さらに好ましくは0.01〜50質量部含まれることが望ましい。
【0047】
(e4)着色顔料
着色顔料(e4)としては、従来公知の有機系、無機系の各種顔料を用いることができる。有機系顔料としては、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等が挙げられる。無機系顔料としては、例えば、ベンガラ(弁柄)、バライト粉、チタン白、黄色酸化鉄等が挙げられる。なお、染色等の各種着色剤も含まれていてもよい。本実施形態の防汚塗料組成物が着色顔料(e4)を含有していると、該組成物から得られる防汚塗膜の色相を任意に調節できる点で好ましい。
【0048】
着色顔料(e4)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.01〜100質量部、さらに好ましくは0.01〜10質量部含まれることが望ましい。
【0049】
(e5)タレ止め剤(「流れ止め剤」ともいう。)
タレ止め剤(e5)としては、アマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス系、ポリアマイドワックス系及び両者の混合物、合成微粉シリカが挙げられ、好ましくは、ポリアマイドワックス、合成微粉シリカが望ましい。市販品であれば、楠本化成(株)製の「ディスパロン(Disparlon)A630−20XC」、伊藤精油(株)製の「ASAT−250F」等が挙げられる。本実施形態の防汚塗料組成物がタレ止め剤(e5)を含有していると、塗装時のタレ止め性等を調整することができる点で好ましい。
【0050】
タレ止め剤(e5)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、さらに好ましくは0.1〜50質量部含まれることが望ましい。
【0051】
(e6)沈降防止剤
沈降防止剤(e6)としては、有機粘土系Al、Ca、Znのアミン塩、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレン系ワックス等が挙げられ、好ましくは、酸化ポリエチレン系ワックスが望ましい。市販品であれば、楠本化成(株)製の「ディスパロン(Disparlon)4200−20X」等が挙げられる。本実施形態の防汚塗料組成物が沈降防止剤(e6)を含有していると、溶剤不溶物の貯蔵期間中の沈殿を防止でき、攪拌性を向上させることができる点で好ましい。
【0052】
沈降防止剤(e6)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.1〜100質量部、さらに好ましくは0.1〜50質量部含まれることが望ましい。
【0053】
(e7)脱水剤
脱水剤(e7)としては、従来公知の石膏、エチルシリケート等を用いることができる。市販品であれば、(株)ノリタケカンパニーリミテド製の「Calcined Plaster FT−2」等の石膏、コルコート(株)製の「エチルシリケート28」等のエチルシリケートが挙げられる。
【0054】
脱水剤(e7)は、(A)ポリエステル樹脂溶液100質量部に対して、好ましくは0.01〜100質量部、さらに好ましくは0.01〜50質量部含まれることが望ましい。
【0055】
<(F)溶剤>
本実施形態の防汚塗料組成物は、溶剤(F)をさらに含有することができる。溶剤(F)としては、従来公知の広範な沸点の溶剤が使用でき、具体的にはターペン等の脂肪族系溶剤;トルエン、キシレン(xylene)等の芳香族系溶剤;イソプロピルアルコール、n一ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエーテル系又はエーテルエステル系等の溶剤が挙げられ、好ましくはキシレン、メチルイソブチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルを挙げることができる。これら溶剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
本実施形態の防汚塗料組成物において、揮発性有機化合物(VOC)含有量は400g/L以下であることが好ましく、より好ましくは100〜350g/Lである。VOC含有量を400g/L以下とすることにより、環境への負荷や人体への影響を少なくすることができる。なお、このVOCは、実施例の欄で説明する測定条件下での値である。
本実施形態の防汚塗料組成物において、粘度は5〜20dPa・sであることが塗装作業性(スプレー作業性、タレ止め性)において好ましく、8〜20dPa・sであることがより好ましく、10〜20dPa・sであることがさらに好ましい。
【0056】
本実施形態に係る防汚塗料組成物は、予め調製した上記成分を、撹拌・混合等することにより製造することができる。撹拌・混合の際には、ハイスピードディスパー、サンドグラインドミル、バスケットミル、ボールミル、三本ロール、ロスミキサー、プラネタリーミキサー、万能品川撹拌機等、従来公知の混合・撹拌装置が適宜用いられる。
【0057】
[防汚塗膜、防汚基材及び防汚基材の製造方法]
本実施形態に係る防汚塗膜は、上述の本実施形態に係る防汚塗料組成物を硬化させてなるものである。また、本実施形態に係る防汚基材は、上述の本実施形態に係る防汚塗料組成物を、基材に塗布するか、または含浸させ、基材に塗布または含浸させた塗料組成物を硬化させて、基材上に防汚塗膜を形成してなるものである。さらに、本実施形態に係る防汚基材の製造方法は、上述の本実施形態に係る防汚塗料組成物を、基材に塗布するか、または含浸させ、基材に塗布された塗料組成物または含浸した塗料組成物を硬化させて、基材上に防汚塗膜を形成することである。
【0058】
防汚方法の対象となる基材は特に制限されないが、水中構造物、船舶、漁網、漁具の何れかであることが好ましい。例えば、上述の防汚塗料組成物を、火力・原子力発電所の給排水口等の水中構造物、湾岸道路、海底トンネル、港湾設備、運河・水路等のような各種海洋土木工事の汚泥拡散防止膜、船舶、漁業資材(例:ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ)等の各種成形体の表面に、常法に従って1回〜複数回塗布すれば、防汚性に優れ、防汚剤成分が長期間に亘って徐放可能であり、厚塗りしても適度の可撓性を有し耐クラック性に優れた防汚塗膜被覆船舶又は水中構造物等が得られる。
【0059】
すなわち、本実施形態に係る防汚塗料組成物を各種成形体の表面に塗布硬化してなる防汚塗膜は、アオサ、フジツボ、アオノリ、セルプラ、カキ、フサコケムシ等の水棲生物の付着を長期間継続的に防止できる等防汚性に優れている。特に、船舶等の素材が、FRP、鋼鉄、木、アルミニウム合金等である場合にもこれらの素材表面に良好に付着する。また、例えば本実施形態に係る防汚塗料組成物を海中構造物表面に塗布することによって、海中生物の付着防止を図ることができ、該構造物の機能を長期間維持でき、漁網に塗布すれば、漁網の網目の閉塞を防止でき、しかも環境汚染のおそれが少ない。
【0060】
本実施形態に係る防汚塗料組成物は、直接漁網に塗布してもよく、また予め防錆剤、プライマー等の下地材が塗布された船舶又は水中構造物等の表面に塗布してもよい。さらには、既に従来の防汚塗料による塗装が行われ、あるいは本実施形態に係る防汚塗料組成物による塗装が行われている船舶、特にFRP船あるいは水中構造物等の表面に、補修用として本実施形態に係る防汚塗料組成物を上塗りしてもよい。このようにして船舶、水中構造物等の表面に形成された防汚塗膜の厚さは特に限定されないが、例えば、30〜250μm/回程度である。
【0061】
上記のようにして得られる本実施形態に係る防汚塗膜は、本実施形態に係る防汚塗料組成物を硬化させてなるものであるため、環境汚染の虞が少なく広汎な船舶・水中構造物付着生物に対して長期防汚性に優れている。
【0062】
以上の通り、本実施形態によれば、環境への負荷が少なく優れた防汚性を有し、かつ長期に亘り塗膜が一定の速度で均一に消耗し塗膜の均一消耗性に優れ、しかも長期間優れた防汚性能を維持でき塗膜の長期防汚性維持性能に優れ、外航船用として好適である防汚塗膜を形成しうるような低VOC加水分解型防汚塗料組成物、防汚塗膜、該防汚塗膜で被覆された船舶、水中構造物、漁具又は漁網を提供することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、「部」及び「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0064】
<(A)ポリエステル樹脂の製造>
(実施例1:ポリエステル樹脂溶液(a−1)の製造)
攪拌機、コンデンサー及び温度計を具備した反応容器に、(a)3価以上のアルコールとしてグリセリン92部、(b)二塩基酸又はその無水物として無水フタル酸444部、(c)2価のアルコールとしてプロピレングリコール228部、及び触媒としてテトラブチルチタネート0.05部を仕込み、140℃から190℃まで4時間かけてエステル化反応を行った。次いで系内を徐々に減圧していき、2時間かけて100mmHgまで減圧し、190℃にて20時間重縮合反応を行った。反応中、生成する水を還流脱水により除去し、KOH滴定法による酸価の測定及びアセチル化法による水酸基価の測定を行い、固形分酸価が1mgKOH/g以下となったときに120℃まで冷却し、(d)脂環式二塩基酸又はその無水物としてヘキサヒドロ無水フタル酸439部を仕込み2時間反応させた。反応液を冷却後、酢酸n−ブチルで希釈し、不揮発分65%、酸価88mgKOH/g(固形分換算135mgKOH/g)、水酸基価5mgKOH/g(固形分換算7.7mgKOH/g)、粘度1000mPa・s、重量平均分子量1,000のポリエステル樹脂溶液(a−1)を得た。
【0065】
(実施例2〜7、26〜31:ポリエステル樹脂溶液(a−2)〜(a−7)、(a−13)〜(a−18)の製造)
原料の種類及び使用量を表1に示す通りに変更した以外は製造例1と同様にしてポリエステル樹脂溶液(a−2)〜(a−7)、(a−13)〜(a−18)を得た。
【0066】
(比較例1〜5)
原料の種類及び使用量を表2に示す通りに変更した以外は製造例1と同様にしてポリエステル樹脂溶液(a−8)〜(a−12)を得た。
【0067】
(比較例6:ポリエステル樹脂溶液(b−1)の製造)
イソフタル酸280部、セバシン酸430部、トリメチロールプロパン12部、プロピレングリコール70部、ネオペンチルグリコール238部、エチレングリコール90部、安息香酸165部を2Lの4口フラスコに内で配合し、窒素ガスの存在下、220℃で6時間反応させた(エステル化反応)。生成する水を還流脱水により除去し、KOH滴定法による酸価の測定及びアセチル化法による水酸基価の測定を行い、固形分酸価43mgKOH/g、固形分水酸基価60mgKOH/gとなったときに反応を停止した。その後、170℃まで冷却し、無水トリメリット酸を178部加え、2時間保温し、付加反応を行い固形分酸価が108mgKOH/g、固形分水酸基価が10mgKOH/gであるところで反応を止めた。冷却後メチルイソブチルケトンで希釈し、加熱残分65.0%、酸価70mgKOH/g(固形分換算108mgKOH/g)、水酸基価7mgKOH/g(固形分換算10mgKOH/g)、粘度240mPa・s、重量平均分子量1,790のポリエステル樹脂溶液(b−1)を得た。
【0068】
<樹脂特性の評価>
実施例1〜7、26〜31で得られたポリエステル樹脂溶液(a−1)〜(a−7)、(a−13)〜(a−18)及び比較例1〜6で得られたポリエステル樹脂溶液(a−8)〜(a−12)、(b−1)について、以下の評価を実施した。得られた結果を表1〜3に示す。
(1)GPC;
以下の条件で、重量平均分子量及び数平均分子量をGPC法により、標準ポリスチレン検量線を用いて測定した。
(GPC測定条件)
装置:日立社製L−6200
カラム:日立化成社製ゲルパックGL−420,GL−430,GL−440
溶離液:THF
流速:2.0ml/min
(2)加熱残分(質量NV);
ポリエステル樹脂溶液1.5gを平底皿に量り取り、質量既知の針金を使って均一に広げ、135℃で1時間乾燥後、残渣及び針金の質量を量り、加熱残分(質量%)を算出した。
なお、「加熱残分」は前述した「不揮発分」と同義である。
(3)酸価;
ポリエステル樹脂(固形分または溶液)を三角フラスコに秤量し、溶剤(イソプロピルアルコール/トルエン=1/2(容量比))約30mlを加えて溶解した。次に指示薬(1%フェノールフタレイン・エチルアルコール溶液)約2〜3滴を加えて0.1mol/l水酸化カリウム溶液(アルコール性)で滴定し、薄紅色が消失しなくなった時を終点として、次式により算出した。
酸価(mgKOH/g)=F×V/S
F:0.1mol/l水酸化カリウム溶液の係数(試薬ファクター×5.61)
V:0.1mol/l水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)
S:試料採取量(g)
(4)水酸基価;
ポリエステル樹脂(固形分または溶液)を三角フラスコに秤量し、アセチル化剤(無水酢酸20gにピリジンを加え100mlとしたもの)5mlを正確に加えて溶解した。約120℃に加熱したホットプレート上で30分間保温した後、純水1.2mlを加えて静かに振り、再度5分間保温した。室温まで冷却後、溶剤(イソプロピルアルコール/トルエン=1/2(容量比))約20mlと指示薬(1%フェノールフタレイン・エチルアルコール溶液)約2〜3滴を加えて0.5mol/l水酸化カリウム溶液(アルコール性)で滴定し、薄紅色が消失しなくなった時を終点とした。本試験に並行して空試験を行い、次式により算出した。
水酸基価(mgKOH/g)=(A−B)×F/S+C
A:空試験の0.5mol/l水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)
B:本試験の0.5mol/l水酸化カリウム溶液の滴定量(ml)
F:0.5mol/l水酸化カリウム溶液の係数(試薬ファクター×28.05)
S:試料の採取量(g)
C:同試料の酸価(mgKOH/g)
(5)粘度;
ポリエステル樹脂溶液の粘度を、25℃でB型粘度計を用いて測定した。
(粘度測定条件)
温度:25℃
コーン形状:2号ローター
試料量:約200ml
回転速度:30回転/分
回転開始から測定までの時間:3分間
(6)ロジン相溶性評価;
ポリエステル樹脂溶液と、WWロジン樹脂とを固形分比1:1で混合し、ガラス板にフィルムアプリケーター(スキマ0.3mm)で塗付し、23℃乾燥24時間後の外観を観察した。表1〜3中、「A」は相溶性あり、「B」は相溶性なし(分離)をそれぞれ意味する。
(7)塗膜硬化性;
ポリエステル樹脂溶液50部と、亜鉛華25部とからなる混合物を顔料分散機(ペイントシェイカー)を用いて30分間分散した。こうして得られた塗料を用いてドライ100μmになるようにガラス板に塗布し、25℃で24時間放置後の塗膜の硬化状態を指触で確認した。表1〜3中、「◎」はタック無く塗膜のヨレ無し、「○」はタック無く塗膜のヨレ有り、「×」はタック有り、をそれぞれ意味する。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
<防汚塗料組成物の調製>
(実施例8)
防汚塗料組成物を以下のようにして調製した。
まず、1000mlのポリ容器にキシレン(10.5部)、メチルイソブチルケトン(2部)、WWロジン(5.5部)、TCP(5部)、ポリエステル樹脂溶液(a−1)(8部)、BYK−101(0.3部)、エチルシリケート28(0.3部)を配合し、均一に溶解するまでペイントシェーカーで攪拌した。
次いで、TTKタルク(4部)、酸化亜鉛(6部)、ノバパームレッドF5RK(0.6部)、亜酸化銅NC−803(48部)、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン(2.5部)、弁柄404(2.3部)、チタン白R−5N(2部)、Calcined Plaster(1部)、Disperlon603−20X(2部)を配合し、ガラスビーズ(200部)を添加し、1時間分散した。
80メッシュのろ過網でろ過し、防汚塗料組成物を調製した。
【0073】
(実施例9〜25、比較例7〜23)
実施例9〜25及び比較例7〜23の防汚塗料組成物は、配合成分及び配合量を表4、5に示したように変更した以外は実施例8と同様にして調製した。
【0074】
<防汚塗料組成物の物性評価>
実施例8〜25及び比較例7〜23の防汚塗料組成物、並びにそれらを用いて形成した塗膜の物性は、以下のように評価した。得られた結果を表6、7に示す。
(1)揮発性有機化合物(VOC)質量測定;
揮発性有機化合物の質量は、上記の塗料比重及び質量NVの値を用いて下式から算出した。
VOC(g/L)=塗料比重×1000×(100−質量NV)/100
(2)比重;
25℃において、内容積が100mlの比重カップに充満した防汚塗料組成物の質量を量ることにより、比重(塗料比重)(g/cm
3)を測定した。
(3)加熱残分(質量NV);
防汚塗料組成物1gを平底皿に量り取り、質量既知の針金を使って均一に広げ、125℃で1時間乾燥後、残渣及び針金の質量を量り、加熱残分(質量%)を算出した。
(4)防汚塗料組成物の粘度測定;
防汚塗料組成物の粘度を、23℃で、リオン粘度計(RION CO.,LTD VISCOTESTER VT-04F高粘度用、1号ローター)を用い測定した。
(5)貯蔵安定性試験;
防汚塗料組成物を50℃の恒温装置に放置し、1ヶ月毎に塗料状態(粘度、膜張り有無、沈殿物、粗粒子有無)を確認し、調製直後からの状態変化を確認した。
なお、「膜張り」については、膜張りがない場合には「○」、膜張りがある場合には、「×」として評価した。また、「沈殿物、粗粒子有無」については、沈殿物、粗粒子が確認されなかった場合には「○」、沈殿物、粗粒子が確認された場合には「×」として評価した。
(6)防汚塗膜の消耗度試験;
50×50×1.5mmの硬質塩化ビニル板に、アプリケーターを用いて防汚塗料組成物を乾燥膜厚150μmになるように塗布し、これを室内で室温(約20℃)にて7日間乾燥させ、試験板を作成した。
25℃の海水を入れた恒温槽に設置した回転ドラムの側面にこの試験板を取り付け、周速15ノットで回転させ、1ヵ月毎の防汚塗膜の消耗度(膜厚減少)を測定した。
(7)防汚塗膜の静置防汚性試験;
100×300×3.2mmのサンドブラスト処理鋼板に、エポキシ系塗料(中国塗料製品“バンノー500”)を乾燥膜厚150μm、エポキシ系バインダー塗料(中国塗料製品“バンノー500N”)を乾燥膜厚100μmとなるように、この順序で間隔を1日空けて塗布した。さらに1日経過後、該エポキシ系バインダー塗料から形成された塗膜の表面に、防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が150μmとなるように塗付し、試験板を作成した。
上記試験板を23℃で7日間乾燥させ、長崎県長崎湾に静置浸漬し、1ヶ月毎の付着生物の付着面積を目視により計測し、下記評価基準に基づき評価を行った。
<評価基準>
0: 水生生物の付着無し
0.5: 水生生物の付着面積が0%を超え10%以下
1: 水生生物の付着面積が10%を超え20%以下
2: 水生生物の付着面積が20%を超え30%以下
3: 水生生物の付着面積が30%を超え40%以下
4: 水生生物の付着面積が40%を超え50%以下
5: 水生生物の付着面積が50%を超える
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
上記実施例及び比較例で用いた原料の一部について、その詳細を表8に示す。
【0080】
【表8】