(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱炉内冷却機構は、フィルムを2℃/s以上15℃/s以下の範囲内の冷却速度で冷却し、前記加熱炉の出口のフィルムの温度を、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下の範囲内で且つ(Tg−5)℃以下にする請求項3記載のフィルム延伸設備。
【背景技術】
【0002】
一般に、セルロースアシレートフィルムやノルボルネン系樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムの製造は大きく分けて、溶液製膜法と溶融製膜法とに分類される。溶液製膜法では、熱可塑性樹脂が溶剤に溶解されたドープをダイから支持体、例えば冷却ドラムや乾燥バンド上に流延した後に、剥がしてフィルムとする。また、溶融製膜法は、熱可塑性樹脂を溶融して押出機でダイから支持体、例えば冷却ドラム上に押し出した後に、剥がしてフィルムにする。
【0003】
これらの方法により製膜された熱可塑性フィルムは、縦方向(搬送方向)、横方向(幅方向)、さらには縦横方向に延伸することによって、所望の厚さにされる。また、延伸によって面内レタデーション(Re)や厚み方向のレタデーション(Rth)を発現させることができる。これにより、例えば液晶表示装置の位相差フィルムとして使用する際に、視野角を拡大することができる(特許文献1〜4)。
【0004】
特許文献1に記載の飽和ノルボルネンフィルムの製造方法では、縦延伸する工程と、1.05〜2.2倍の延伸倍率で横延伸する工程とを含み、ニップローラ表面との接着や粘着により発生する粘着跡を低減し、微細な面状むらの発生を抑えている。縦延伸する工程では、2対以上のニップローラを用い、ニップローラの芯間距離Lを縦延伸前のフィルムの幅Wで割った縦横比(L/W)が10以上20以下としている。縦延伸倍率は、1.1倍〜2.5倍であり、延伸温度はガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg+5)℃以上(Tg+30)℃以下の範囲である。
【0005】
特許文献2に記載の飽和ノルボルネンフィルムの製造方法では、微細な面状むらの発生を抑えるために、延伸ゾーンの外側に配置された2対以上のニップローラを用いて縦延伸している。縦延伸温度は、(Tg+5)℃以上(Tg+30)℃以下であり、ニップローラの温度は、入口側及び出口側のいずれも(Tg−150)℃以上(Tg)℃未満であり、縦延伸倍率は1.8倍〜3.0倍である。
【0006】
特許文献3に記載の位相差フィルムの製造方法では、ガラス転移温度Tg近辺の温度雰囲気下で縦延伸して、位相差フィルムの面内で遅相軸の方向を同一方向に揃えている。この縦延伸において、予熱、延伸、冷却の3つのゾーンに分け、この内の延伸ゾーンと冷却ゾーンの長さを調整して、幅が縮むネックインが95%終了後から100%終了するまでの距離L2をネックインが開始から95%終了するまでの距離L1以上の長さにしている。
【0007】
特許文献4に記載の延伸フィルムの製造方法では、予熱ローラによる予熱工程、フロート方式の加熱装置による加熱工程、除熱ローラによる除熱工程の順に、熱可塑性樹脂フィルムを通過させている。そして、予熱ローラと除熱ローラとの周速度の差を利用し、縦延伸している。加熱工程は、フィルムの流れ方向に3つ以上の区画に分けて行われる。各区画は下流に向かうに従い次第に昇温(T1,T2,・・・Tn)され、隣接する区間どうしの温度差は10℃以内で、T1は(Tg−5)℃以上(Tg+5)℃以下の温度範囲に制御される。これにより、高い遅相軸精度を有し平面性が良好な延伸フィルムを得ている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、最近の液晶表示装置は、軽量、薄型、高品質が求められるようになり、使用されるフィルムも、例えば25μm以上60μm以下程度の薄く高品質なものが求められている。このような薄型フィルムを縦延伸して製造する場合には、上記特許文献1〜4のような縦延伸方法によっても、フィルム表面に擦り傷や波形変形(ツレシワ)の面状むらが発生することがある。この面状むらは、フィルム幅方向に波形が連続しフィルム送り方向に長い。このため、擦り傷や波形変形の発生を抑えたいという要望がある。また、波形変形による面状むらによって、位相差や遅相軸の向き等の光学特性が不均一になる。
【0010】
例えば、特許文献1,2に記載の縦延伸方法では、加熱炉内の昇温条件や冷却条件が考慮されていない。このため、加熱炉内で延伸温度まで昇温する際に、加熱によるフィルムの収縮により、波形変形が発生して、面状むらとなる。冷却時も同様に、延伸温度から冷却する際に、長手方向のフィルム温度差により、波形変形が発生し、面状むらとなる。
【0011】
特許文献3に記載の縦延伸方法では、予熱、延伸、冷却の3つのゾーンに分けて温度を制御しているが、予熱時の昇温速度や、延伸装置に入ったときのフィルム温度から延伸温度までの昇温速度について考慮されていない。このため、波形変形が発生して、特許文献1,2に記載の縦延伸方法と同じように面状むらとなる。
【0012】
特許文献4に記載の縦延伸方法では、加熱装置内を区分けし、その温度を徐々に上げることが記載されているが、温度だけで昇温速度は決まらず、適正に昇温速度が制御されていない。このため、波形変形を確実に抑制することができないため、面状むらとなる。
【0013】
本発明はこのような課題を解決するものであり、フィルムに擦り傷や波形変形を発生させることのない延伸フィルムの製造方法及びフィルム延伸設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の延伸フィルムの製造方法は、帯状の熱可塑性樹脂からなるフィルムを搬送方向に延伸して延伸フィルムを製造する。本発明方法は、搬送工程と、加熱炉内昇温工程と、加熱炉内延伸温度保持工程と、加熱炉内冷却工程と、予熱工程とを含む。搬送工程では、搬送方向に離間して配置される上流側ローラ及び下流側ローラを回転駆動し上流側ローラ及び下流側ローラの周速度に差を設けて、上流側ローラ及び下流側ローラの間のフィルムに張力を付与する。加熱炉内昇温工程は、上流側ローラ及び下流側ローラの間のフィルムを覆う加熱炉が搬送方向に昇温ゾーン、延伸温度保持ゾーン、冷却ゾーンを有し、昇温ゾーンでフィルムを2℃/s以上20℃/s以下の範囲の昇温速度で昇温する。加熱炉内延伸温度保持工程は、フィルムのガラス転移温度
Tgを基準にして、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下の範囲内の延伸温度Teに、フィルムを延伸温度保持ゾーンで保持する。加熱炉内冷却工程では、冷却ゾーンでフィルムを冷却する。予熱工程は、加熱炉の入口のフィルムの温度を、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下の範囲内で且つ(Tg−5)℃以下にする。
昇温ゾーン、延伸温度保持ゾーン、冷却ゾーンのフィルム搬送方向長さL01,L02,L03は、延伸前のフィルムの幅W1を基準にして、以下の長さとする。昇温ゾーンのフィルム搬送方向長さL01は、(W1×0.5)≦L01≦(W1×3.0)の範囲内である。延伸温度保持ゾーンのフィルム搬送方向長さL02は、W1≦L02≦(W1×5.0)の範囲内である。冷却ゾーンのフィルム搬送方向長さL03は、(W1×0.5)≦L03≦(W1×3.0)の範囲内である。このように長さ範囲を規定することにより、擦り傷や波形変形の発生がより一層確実に抑えられる。
【0015】
なお、加熱炉内冷却工程は、フィルムを2℃/s以上15℃/s以下の範囲内の冷却速度で冷却し、加熱炉の出口のフィルムの温度を、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下で且つ(Tg−5)℃以下にすることが好ましい。この場合には、フィルムを冷却する際の急激な冷却が防止され、幅方向にフィルムが収縮する際のしわの発生が抑えられる。また、下流側ローラ上でのフィルム変形が防止され、波形変形の発生を抑えることができる。
【0017】
本発明のフィルム延伸設備は、帯状の熱可塑性樹脂からなるフィルムを搬送方向に延伸するフィルム延伸設備であって、フィルム搬送機構と、加熱炉と、加熱炉内昇温機構と、加熱炉内延伸温度保持機構と、加熱炉内冷却機構と、予熱機構とを備える。フィルム搬送機構は、搬送方向に離間して配置される上流側ローラ及び下流側ローラを有し、上流側ローラ及び下流側ローラの周速度に差を設けて、上流側ローラ及び下流側ローラの間のフィルムに張力を付与する。加熱炉は、上流側ローラ及び下流側ローラの間のフィルムを覆い、搬送方向に昇温ゾーン、延伸温度保持ゾーン、冷却ゾーンを有している。加熱炉内昇温機構は、昇温ゾーンでフィルムを2℃/s以上20℃/s以下の範囲内の昇温速度で昇温する。加熱炉内延伸温度保持機構は、フィルムのガラス転移温度
Tgを基準にして、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下の範囲内の延伸温度Teに、フィルムを延伸温度保持ゾーンで保持する。加熱炉内冷却機構は、冷却ゾーンでフィルムを冷却する。予熱機構は、加熱炉の入口のフィルムの温度を、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下の範囲内で且つ(Tg−5)℃以下に予熱する。
昇温ゾーン、延伸温度保持ゾーン、冷却ゾーンのフィルム搬送方向長さL01,L02,L03は、延伸前のフィルムの幅W1を基準にして、以下の長さとする。昇温ゾーンのフィルム搬送方向長さL01は、(W1×0.5)≦L01≦(W1×3.0)の範囲内である。延伸温度保持ゾーンのフィルム搬送方向長さL02は、W1≦L02≦(W1×5.0)の範囲内である。冷却ゾーンのフィルム搬送方向長さL03は、(W1×0.5)≦L03≦(W1×3.0)の範囲内である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、上流側ローラの表面上でのフィルムの変形が防止され、擦り傷の発生が抑えられる。また、延伸前のフィルムに対して急激に温度が上がることが防止され、波形変形の発生が抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(フィルム延伸設備)
図1に示すように、本発明のフィルム延伸設備10は、前工程装置11、予熱機構12、縦延伸装置13、冷却機構14、後工程装置15を備える。前工程装置11としては、図示しない製膜設備、フィルム送出装置などがある。製膜設備としては周知の溶液製膜設備、溶融製膜設備などが用いられる。フィルム送出装置は、製膜設備からフィルム16が直接送られる場合と異なり、製膜後にロール状に巻き取られたロールフィルムからフィルム16を引き出して、フィルム16を予熱機構12に供給する。後工程装置15としては、縦延伸の後に、横延伸する場合に用いられるクリップテンタや、フィルム巻取り装置などがある。縦延伸に続いて横延伸を連続して行わない場合には、クリップテンタが省略され、フィルム巻取り装置によりロール状にフィルム16が巻き取られる。冷却機構14は、縦延伸されたフィルム16を後工程装置15で処理可能な温度まで冷却する。
【0021】
延伸するフィルム16は帯状の熱可塑性樹脂フィルムであれば良く、例えば位相差フィルムなどの光学フィルムに用いるのに適しているセルロースアシレートやノルボルネン系樹脂、アクリル、ポリカーボネート製のフィルム16が好ましい。
【0022】
予熱機構12はテンション調節部及び予熱炉を備えている。テンション調節部は、例えばテンションローラ、1対のフリーローラ、及びシフト機構を有する。1対のフリーローラはフィルム16の搬送方向に離間して設けられ、テンションローラは1対のフリーローラの間に設けられている。シフト機構はテンションローラを昇降させて、予熱機構12内のフィルム16のテンションを一定に維持する。予熱炉は、フィルム16が加熱炉27のフィルム入口で、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下の範囲内で且つ(Tg−5)℃以下の範囲内の一定温度になるように、予熱する。なお、Teは延伸温度であり、フィルム16のガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下の範囲内の一定温度である。
【0023】
予熱炉は、フィルム16を(Te−20)℃以上に予熱することにより、縦延伸装置13の上流側ローラ25でのフィルム16への加熱時の温度上昇量が大きくなり過ぎることがなく、上流側ローラ25上で波板状のシワの発生が抑えられる。また、予熱炉で、フィルム16を(Te−5)℃以下で且つ(Tg−5)℃以下に予熱することにより、予熱炉内でフィルム16が延伸されることがなく、縦延伸装置13で均一に延伸することができる。なお、予熱炉による予熱に代えて、または加えて、後述する縦延伸装置13の上流側ローラ25によって予熱してもよい。
【0024】
予熱機構12を経て一定温度に予熱されたフィルム16は、縦延伸装置13に送られる。縦延伸装置13は、上流側ローラ25、下流側ローラ26、加熱炉27を備える。上流側ローラ25はガイドローラ25a,25bとニップローラ25cとを有し、モータ30によって回転駆動される。ニップローラ25cは上流側ローラ25との間でフィルム16を挟持する。ガイドローラ25aは上流側ローラ25へフィルム16を案内する。ガイドローラ25bは上流側ローラ25を通過したフィルム16を加熱炉27に案内する。モータ30は、ドライバ30aを介してコントローラ32に接続されている。コントローラ32は、モータ30を制御して、上流側ローラ25の回転速度を変更する。
【0025】
下流側ローラ26も、上流側ローラ25と同様に構成されており、入口ガイドローラ26a、ニップローラ26c、出口ガイドローラ26bを有し、モータ35によって回転駆動される。コントローラ32は、モータ35を制御して、下流側ローラ26の回転速度を変更する。
【0026】
上流側ローラ25と下流側ローラ26との間には、周速度差が設けられている。この周速度差によって各ローラ25,26間のフィルム16に搬送方向に張力が付与され、フィルム16は搬送方向に引き延ばされて縦延伸される。上流側ローラ25と下流側ローラ26の周速度差は延伸倍率によって適宜変更され、上流側ローラ25の周速度は例えば10m/min以上80m/min以下の範囲内で設定されることが好ましい。10m/min以上とすることにより製造効率が低下することがない。また、80m/min以下とすることにより、フィルム16と上流側ローラ25との接触時間を確保することができる。これら上流側ローラ25、下流側ローラ26、モータ30,35、コントローラ32によってフィルム搬送機構が構成される。フィルム搬送機構により、上流側ローラ25及び下流側ローラ26の間のフィルム16に張力を付与するフィルム搬送工程が行われる。
【0027】
加熱炉27は、上流側ローラ25と下流側ローラ26との間のフィルム16を覆い、フィルム16を昇温し、保持し、冷却する。加熱炉27は第1仕切り板27a及び第2仕切り板27bを備えている。第1仕切り板27aは昇温ゾーン40と延伸温度保持ゾーン41との間に配置され、これらゾーン40,41を仕切っている。第2仕切り板27bは、延伸温度保持ゾーン41と冷却ゾーン42との間に配置され、これらゾーン41,42を仕切っている。仕切り板27a,27bにはフィルム16を通過させるために開口が形成されている。
【0028】
各ゾーン40〜42内には、温調ノズル44〜46が配置されている。温調ノズル44は、昇温ゾーン40内でフィルム16を上下方向から挟むように配置されている。温調ノズル44には配管47を介して温度調節器50、送風機54が接続されている。送風機54からの風は温度調節器50で温度が一定範囲に調節された後に、温調ノズル44からフィルム16に向かって吹き出す。温調ノズル44、温度調節器50、送風機54によって、加熱炉内昇温機構が構成され、加熱炉内昇温工程が行われる。
【0029】
温調ノズル44は、フィルム16の全面に均一に風を送れるものであればよく、例えば、フィルム幅方向にスリット状に長く延びた吹き出し口を有し、これら吹き出し口はフィルム搬送方向に離間して複数個、例えば3個設けられている。これら温調ノズル44は、フィルム搬送方向に一定ピッチで配置されている。温調ノズル44から温度調節された風がフィルム16に向けて吹き付けられることにより、フィルム16は昇温ゾーン40内で所定の昇温速度で昇温され、昇温ゾーン40の出口では延伸温度Teにされる。昇温速度は、フィルム16の搬送速度に応じて調整される。昇温速度の調整は、温調ノズル44に供給する風の温度と風量を変化させることにより行われる。
【0030】
延伸温度保持ゾーン41も、昇温ゾーン40と同様に、温調ノズル45、配管48、温度調節器51、送風機55を有する。これら延伸温度保持ゾーン41をフィルム16が通過する際に、温調ノズル45からの風の吹き出しにより、フィルム16は一定温度に保持される。一定温度の保持は、温調ノズル45に供給する風の温度と風量を変化させることにより行われる。
【0031】
冷却ゾーン42も、昇温ゾーン40と同様に、温調ノズル46、配管49、温度調節器52、送風機56を有する。これら冷却ゾーン42をフィルム16が通過する際に、温調ノズル46からの風の吹き出しにより、フィルム16は冷却ゾーン42内で所定の冷却速度で冷却される。冷却速度は、フィルム16の搬送速度に応じて調整され、温調ノズル46に供給する風の温度と風量を変化させることにより行われる。
【0032】
なお、各ゾーン40〜42において、温調ノズル44〜46からの風の吹き出しによって、フィルム16を加熱しているが、単に各ゾーン40〜42内に温調された風を送ることで、フィルム16を加熱してもよい。
【0033】
昇温ゾーン40のフィルム搬送方向長さL01は、延伸前のフィルム16の幅をW1としたときに(W1×0.5)≦L01≦(W1×3.0)の範囲内に設定される。延伸温度保持ゾーン41のフィルム搬送方向長さL02は、W1≦L02≦(W1×5.0)の範囲内に設定される。冷却ゾーン42のフィルム搬送方向長さL03は、(W1×0.5)≦L03≦(W1×3.0)の範囲内に設定される。この場合には、擦り傷や波形変形の発生をより一層確実に抑えることができる。
【0034】
上流側ローラ25、下流側ローラ26には、図示しない温調媒体循環部から個別に温調媒体、例えばオイルや加圧蒸気が供給される。この温調媒体の循環供給によって、各ローラ25,26は所望の表面温度に設定される。例えば、上流側ローラ25の表面温度は予熱工程出口の温度以上Tg−5℃以下であり、下流側ローラ26の表面温度はTe−20℃以上冷却ゾーン出口温度以下である。これら各ローラ25,26にフィルム16が接触することにより、フィルム16は各ローラ25,26の表面温度と同じ温度に加熱、または冷却される。
【0035】
Tgは、以下の動的粘弾性測定装置を用いて求める。本発明のフィルム試料(未延伸)5mm×30mmを、動的粘弾性測定装置(バイブロン:DVA−225(アイティー計測制御(株)製))で、つかみ間距離20mm、昇温速度2℃/分、測定温度範囲30℃〜250℃、周波数1Hzで測定し、損失弾性率と貯蔵弾性率の比である損失正接(tanδ)のピーク温度をガラス転移温度Tgとする。乾燥済みのフィルムの場合は、25℃、相対湿度60%で2時間以上調湿した後に測定を行う。溶剤が含まれるフィルムを延伸する場合のTgは、以下の通りとする。溶剤を含むフィルムで上記の動的粘弾性測定を行い、Tgをもとめる。この時の測定開始と測定終了時の溶剤含有量の平均をそのフィルムの溶剤含有量とする。測定開始と終了時の溶剤含有量は、測定操作と同じ温度履歴を与えた別のフィルムの重量変化から算出する。溶剤含有量の異なるフィルムを複数測定して、横軸溶剤含有量、縦軸Tgのグラフを得る。延伸工程の溶剤含有量は、延伸操作を行う未延伸の状態で、延伸ゾーンの入口で測定したフィルム厚みと、加熱炉から出てきたフィルムを乾燥させたものの厚みから溶剤含有量を算出する。この溶剤量のときのTgを前述のグラフから読み取り、これを、延伸温度を決めるためのTgとする。
【0036】
(延伸フィルム製造方法)
次に、
図1に示すフィルム延伸設備10を用いて、延伸フィルムを製造する方法について説明する。前工程装置11から送られてくるフィルム16は、予熱機構12によって予熱工程が行われる。予熱工程では、フィルム16を予熱炉内に通過させ、加熱炉27の入口のフィルム16の温度を、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下の範囲内で且つ(Tg−5)℃以下に予熱する。
【0037】
予熱されたフィルム16は、上流側ローラ25及び下流側ローラ26によって、加熱炉27内を通過する。この通過中にフィルム16に対して、昇温ゾーン40で加熱炉内昇温機構によって、加熱炉内昇温工程が行われる。加熱炉内昇温工程では、温調ノズル44から温度調節された風がフィルム16に吹き付けられて、フィルム16が2℃/s以上20℃/s以下の範囲の昇温速度で昇温される。なお、昇温速度は好ましくは2℃/s以上15℃/s以下であり、より好ましくは2℃/s以上10℃/s以下である。昇温速度が2℃/s未満では、昇温ゾーン40の長さが長くなりすぎて生産性が低下する。また、20℃/sを超えると波形変形が生じる。昇温工程によって、昇温ゾーン40の出口におけるフィルム16の温度は、延伸温度Teにされる。
【0038】
昇温ゾーン40で昇温されたフィルム16は延伸温度保持ゾーン41で加熱炉内延伸温度保持機構によって加熱炉内延伸温度保持工程が行われる。加熱炉内延伸温度保持工程では、温調ノズル45から温度調節された風がフィルム16に吹き付けられて、フィルム16が延伸温度Teに保持される。延伸温度Teは、フィルム16のガラス転移温度をTgとしたときに、(Tg−30)℃以上(Tg+10)℃以下の範囲内の一定温度である。なお、延伸温度Teは好ましくはTg−25℃以上Tg+5℃以下であり、より好ましくはTg−20℃以上Tg+5℃以下である。延伸温度が(Tg−30)℃未満、または、Tg+10℃を超える場合には延伸ムラが発生して光学特性が不均一となる。
【0039】
上流側ローラ25と下流側ローラ26との間には、周速度差が設けられている。この周速度差によって各ローラ25,26間のフィルム16は、搬送方向に引き延ばされて縦延伸される。このとき、縦延伸倍率は、1.05倍以上2.00倍以下の範囲内であることが好ましい。縦延伸倍率が1.05以上2.00以下の範囲内の場合には、フィルム16に厚みムラが生じることを抑制でき、発現するレタデーションの変動を抑制することができる。なお、縦延伸倍率は、延伸後のフィルム長さを初期状態のフィルム長さで割った比である。
【0040】
延伸温度保持ゾーン41で加熱されたフィルム16は冷却ゾーン42で加熱炉内冷却機構によって加熱炉内冷却工程が行われる。加熱炉内冷却工程では、温調ノズル44から温度調節された風がフィルム16に吹き付けられて、フィルム16が2℃/s以上15℃/s以下の範囲の冷却速度で冷却される。なお、冷却速度は好ましくは2℃/s以上12℃/s以下であり、より好ましくは2℃/s以上10℃/s以下である。冷却速度が2℃/s未満では、冷却ゾーン42が長くなりすぎ生産性が劣り、15℃/sを超えると波形変形が生じる。冷却工程によって、冷却ゾーン42の出口(加熱炉27の出口)におけるフィルム16の温度は、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下で且つ(Tg−5)℃以下の範囲内の温度にされる。
【0041】
縦延伸装置13で縦延伸されたフィルム16は冷却機構14に送られて、後工程装置15で処理可能な温度まで冷却される。後工程装置15がフィルム巻取り機の場合には、フィルム16はロール状に巻き取られる。また、後工程装置15がクリップテンタを備えている場合には、クリップテンタにより横延伸される。クリップテンタでは、周知のようにクリップによりフィルム16の両側縁部が把持され、フィルム16の搬送に伴いクリップがフィルム幅方向に移動し、フィルム16を横延伸する。横延伸後のフィルム16は、フィルム巻取り機によりロール状にフィルム16が巻き取られる。
【0042】
なお、予熱機構12は、予熱炉によりフィルム16を予熱しているが、これに代えて、または加えて上流側ローラ25で予熱してもよい。
【0043】
本実施形態では、予熱工程により、加熱炉27の入口でのフィルム16の温度を、(Te−20)℃以上(Te−5)℃以下の範囲内で且つ(Tg−5)℃以下に予熱している。これにより、上流側ローラ25の表面上でフィルム16の熱による変形が防止され、擦り傷の発生が抑えられる。また、加熱炉27を入口から出口までの間で、昇温ゾーン40、延伸温度保持ゾーン41、冷却ゾーン42の3つのゾーン40〜42に分けて、昇温ゾーン40で2℃/s以上20℃/s以下の範囲の昇温速度で徐々に昇温している。これにより、加熱炉27内に入ったフィルム16が急激に温度上昇することがなくなる。したがって、フィルム16に波形変形が発生することがなく、且つ光学特性の均一性も向上する。
【0044】
冷却ゾーン42で2℃/s以上15℃/s以下の範囲の冷却速度で徐々に冷却するため、延伸ゾーンで縦延伸されたフィルム16の温度が急激に下降することがなくなる。したがって、収縮によるシワの発生を抑えることができ、且つ光学特性の均一性も向上する。
【0045】
延伸前のフィルム16の幅をW1としたときに、昇温ゾーン40のフィルム搬送方向長さL01及び冷却ゾーン42のフィルム搬送方向長さL03を、(W1×0.5)以上(W1×3.0)以下とし、延伸温度保持ゾーン41のフィルム搬送方向長さL02をW1以上(W1×5.0)以下とすることにより、縦延伸時のフィルム16への擦り傷や波形変形の発生をより一層確実に抑えることができる。
【0046】
上記実施形態では、縦延伸装置13としてニップ方式の上流側ローラ25及び下流側ローラ26を用いたが、ニップ方式に限らず、溝付き加工ロールなどの高保持力ローラを用いてもよい。
【実施例】
【0047】
(実験1)
フィルム16として、厚みが55μm、幅が1000mmであり、Tgが165℃のセルロースアシレートフィルムを用い、
図1に示すフィルム延伸設備10にて、予熱、縦延伸、冷却を行った。前工程装置11としてフィルム送出機を用い、フィルムロールからフィルム16を引き出して予熱機構12に送出し、後工程装置15として、フィルム巻取り機を用い、フィルム16を巻き取ってフィルムロールとした。予熱機構12では、フィルム16を130℃に予熱した。加熱炉27では、入口温度を130℃とし、出口温度を138℃とし、昇温ゾーン40で8℃/sの昇温速度で昇温し、延伸温度保持ゾーン41では150℃の温度に保持し、冷却ゾーン42で4.8℃/sの冷却速度で冷却した。冷却機構14ではフィルム16を80℃に冷却した。延伸倍率を1.5倍とし、昇温ゾーン長さL01を1m、延伸温度保持ゾーン長さL02を3m、冷却ゾーン長さL03を1mとした。加熱炉入口の温度、昇温ゾーン40の昇温速度及び冷却ゾーン42の冷却速度(加熱風温度や風速、冷却風温度や風速の変更も含まれる)、昇温ゾーン長さL01、冷却ゾーン長さL03を下記表1のように変えて、それ以外の条件は実験1と同じにして、実験2〜実験6を行った。さらに、フィルムの種類をノルボルネン系樹脂(Tg:150℃)に変え且つ加熱炉入口の温度、昇温ゾーン40の昇温速度及び冷却ゾーン42の冷却速度(加熱風温度や風速、冷却風温度や風速の変更も含まれる)を下記表1のように変えて、それ以外の条件は実験1と同じにして、実験7〜実験9を行った。
【0048】
【表1】
【0049】
得られた延伸フィルムについて、外観(波形変形)と光学特性のムラを評価した。外観は、フィルムを平板上に静置し、そのフィルムの幅方向各位置(1mmピッチ)での、平板からの高さを、レーザー変位計((株)キーエンス製LK−G3000V)を用いて測定し、その高さの最大値を外観評価結果とした。高さが1mm以下の場合を実害無しとして評価Aとし、高さが1mmを超えて3mm以下の場合を評価Aよりも波形変形があるものの実害無しとして評価Bとした。高さが3mmを超える場合を、実害有りとして評価Cとした。
【0050】
光学特性のムラは、フィルムの幅方向各位置(1mmピッチ)の位相差(レタデーション)を、位相差測定装置(大塚電子RE−100)を用いて測定した結果の、波状のレタデーションの変動の個々の波の大きさを数値化して、その平均値を光学特性のムラの値とした。ムラの値が2nm以下の場合を実害無しとして評価Aとし、ムラの値が2nmを超えて5nm以下の場合を、評価Aよりも光学ムラがあるものの実害無しとして評価Bとし、ムラの値が5nmを超える場合を、実害有りとして評価Cとした。
【0051】
表1に示されるように、昇温速度を8℃/sとし、冷却速度を4.8℃/sとした実験1では、外観評価及び光学特性評価ともにAとなった。これに対して、冷却風温度を40℃とし、風速を25m/sとして冷却速度を16℃/sとした以外は実験1と同じ条件とした実験2では、外観評価及び光学特性評価ともにBとなった。また、予熱温度及び延伸温度を変えて昇温速度を2℃/sとし、冷却出口温度及び冷却風温度を変えて冷却速度を2m/sとした以外は実験1と同じ条件とした実験3では、外観評価及び光学特性評価ともにAとなった。また、予熱温度及び昇温ゾーン長さL01を変えて昇温速度を20℃/sとし、冷却ゾーン長さL03、冷却風温度、風速を変えて冷却速度を15m/sとした以外は実験1と同じ条件とした実験4では、外観評価及び光学特性評価ともにAとなった。
【0052】
これに対して、予熱温度及び加熱風温度を変えて昇温速度を22℃/sとした以外は実験1と同じ条件とした実験5では、外観評価及び光学特性評価ともにCとなった。また、予熱温度及び熱風温度を変えて昇温速度を22℃/sとし、冷却風温度及び風速を変えて冷却速度を16℃/sとした以外は実験1と同じ条件とした実験6では、外観評価及び光学特性評価ともにCとなった。以上のように、昇温速度を2℃/s以上20℃/s以下の範囲内とした実験1〜4では、外観評価及び光学特性評価が共にB以上であり、実用上問題のない評価となった。また、昇温速度が22℃/sとなり、20℃/sを超えた実験5及び実験6では、外観評価及び光学特性評価が共にCとなり、実用上問題があることが判った。さらに、冷却速度を2℃/s以上15℃/s以下の範囲とした実験1,2,4では外観評価及び光学特性評価が共にAであったのに対し、冷却速度を15℃/sを超えた16m/sとした実験2、実験6では外観評価がB,Cとなり、評価が下がることが判った。なお、実験6では、外観評価は実験3の評価Cと同じではあるが、実験3の評価Cよりも高さの最大値が大きく波形変形が大きいことが判った。
【0053】
フィルム種類をセルロースアシレートからノルボルネン系樹脂に変え、昇温速度を8℃/sとし、冷却速度を4.8℃/sとした実験7では、外観評価及び光学特性評価ともにAとなった。これに対して、昇温速度を8℃/sとし、冷却速度が15℃/sを超えた16℃/sとした実験6では、外観評価及び光学特性評価ともにBとなった。さらに、昇温速度が20℃/sを超え22℃/sとし、冷却速度が15℃を超え16℃/sとした実験7では、外観評価及び光学特性評価ともにCとなった。
【0054】
以上の実験結果から、昇温ゾーンにおける昇温速度は20℃/s以下が良いことが判る。また、冷却ゾーンにおける冷却速度は15℃/s以下が良いことが判る。なお、昇温速度や冷却速度の下限値は生産性の低下をどこまで許容できるかによって決定される。