特許第5990555号(P5990555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5990555酸性ガス分離膜の製造方法および酸性ガス分離膜巻回物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990555
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】酸性ガス分離膜の製造方法および酸性ガス分離膜巻回物
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/00 20060101AFI20160901BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20160901BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20160901BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   B01D69/00 500
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/70 500
【請求項の数】18
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-139674(P2014-139674)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2015-37782(P2015-37782A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2015年10月5日
(31)【優先権主張番号】特願2013-148336(P2013-148336)
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】平木 大介
(72)【発明者】
【氏名】油屋 吉宏
(72)【発明者】
【氏名】澤田 真
(72)【発明者】
【氏名】米山 聡
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−080403(JP,A)
【文献】 特開2012−052170(JP,A)
【文献】 特開2006−206632(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/096114(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0014454(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 − 71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺な多孔質支持体を長手方向に搬送しつつ、多孔質支持体の表面に、酸性ガスと反応するキャリア、および、該キャリアを担持するための親水性化合物を含有する塗布組成物を塗布する工程、
前記多孔質支持体の表面に塗布した塗布組成物を乾燥することにより促進輸送膜を形成する工程、
前記促進輸送膜の上に、長尺な離型フィルムを積層する工程、ならびに、
前記多孔質支持体および促進ガス分離膜と離型フィルムとの積層体を巻き取る工程、を行うことを特徴とする酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記塗布組成物の厚さが0.05〜10mmとなるように、前記多孔質支持体の上に塗布組成物を塗布する請求項1に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記促進輸送膜の膜強度が0.005MPa以上である請求項1または2に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項4】
前記離型フィルムの1面もしくは両面が疎水性であり、前記疎水性の面を前記促進輸送膜に向けて、前記促進輸送膜の上に離型フィルムを積層する請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記多孔質支持体および促進ガス分離膜と離型フィルムとの積層体の巻回物から、前記積層体を送り出して、長手方向に搬送しつつ、前記離型フィルムを剥離して、前記促進輸送膜の表面に、酸性ガスと反応するキャリア、および、前記キャリアを担持するための親水性化合物を含有する塗布組成物を塗布する工程、ならびに、
前記促進輸送膜の表面に塗布した塗布組成物を乾燥することにより、多層構成の促進輸送膜を形成する工程を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質支持体の表面に促進輸送膜を形成した積層物の温度、および、前記離型フィルムの温度を10〜70℃として、前記促進輸送膜の上に、長尺な離型フィルムを積層する請求項1〜5のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記キャリアが、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物塩から選択される少なくとも1種である請求項1〜6のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記塗布組成物の乾燥を、風速0.5〜200m/分、膜面温度1〜120℃の温風乾燥で行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項9】
前記塗布組成物を塗布する工程に先立ち、
前記長尺な多孔質支持体を長手方向に搬送しつつ、多孔質支持体の表面に、ガス透過性を有する疎水性の中間層となる成分を含む第2塗布組成物を塗布する工程、および、
前記第2塗布組成物を硬化して中間層を形成する工程を行う請求項1〜8のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項10】
前記中間層となる成分が、シリコーンである請求項9に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項11】
前記第2塗布組成物の硬化を、前記第2塗布組成物を塗布した後、7秒以内に開始する請求項9または10に記載の酸性ガス分離膜の製造方法。
【請求項12】
多孔質支持体の上に、酸性ガスと反応するキャリア、および、前記キャリアを担持する親水性化合物を有する促進輸送膜を形成してなる酸性ガス分離膜と、前記促進輸送膜の上に積層された離型フィルムとを有する長尺な積層体を、長手方向に巻回してなることを特徴とする酸性ガス分離膜巻回物。
【請求項13】
前記促進輸送膜の膜強度が0.005MPa以上である請求項12に記載の酸性ガス分離膜巻回物。
【請求項14】
前記離型フィルムの1面もしくは両面が疎水性であり、前記疎水性の面を前記促進輸送膜に向けて、前記離型フィルムが積層される請求項12または13に記載の酸性ガス分離膜巻回物。
【請求項15】
前記促進輸送膜の厚さが0.01〜3mmである請求項12〜14のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜巻回物。
【請求項16】
前記キャリアが、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物塩から選択される少なくとも1種である請求項12〜15のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜巻回物。
【請求項17】
前記多孔質支持体と酸性ガス分離膜との間に、ガス透過性を有する疎水性の中間層を有する請求項12〜16のいずれか1項に記載の酸性ガス分離膜巻回物。
【請求項18】
前記中間層がシリコーン樹脂からなるものである請求項17に記載の酸性ガス分離膜巻回物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料ガスから酸性ガスを選択的に分離する酸性ガス分離膜の製造方法、および、この製造方法による酸性ガス分離膜の巻回物に関する。詳しくは、促進輸送膜の欠陥が無い酸性ガス分離膜を、高い生産効率で製造できる酸性ガス分離膜の製造方法、および、この製造方法による酸性ガス分離膜の巻回物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原料ガス(被処理ガス)から、酸性ガスを選択的に分離する技術の開発が進んでいる。例えば、酸性ガスを選択的に透過する酸性ガス分離膜を用いて、原料ガスから酸性ガスを分離する酸性ガス分離膜が開発されている。
【0003】
一例として、特許文献1には、原料ガスから炭酸ガス(二酸化炭素)を分離する酸性ガス分離膜(二酸化炭素分離ゲル膜)として、二酸化炭素透過性の支持体の上に、二酸化炭素キャリアを含む水溶液を、架橋構造を有するビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体に吸収させて形成したハイドロゲル膜を形成した酸性ガス分離膜が開示されている。
また、特許文献1には、この酸性ガス分離膜の製造方法として、未架橋のビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体水溶液を、二酸化炭素透過性の支持体上へ膜状に塗布した後、この水溶液を加熱し架橋させて水不溶化し、この水不溶化物に二酸化炭素キャリア水溶液を吸収させてゲル化する、酸性ガス分離膜の製造方法も開示されている。
【0004】
特許文献1に示される酸性ガス分離膜は、いわゆる促進輸送膜を用いる酸性ガス分離膜である。促進輸送膜は、前述の二酸化炭素キャリアのような酸性ガスと反応するキャリアを膜中に有し、このキャリアによって酸性ガスを膜の反対側に輸送することで、原料ガスから酸性ガスを分離する。
【0005】
ところで、酸性ガス分離膜など、各種の機能性膜(機能性フィルム)を高い生産性で製造できる方法として、いわゆる、ロール・トゥ・ロール(Roll to Roll 以下、RtoRとも言う)が知られている。
周知のように、RtoRとは、長尺な支持体を巻回してなるロールから支持体を送り出して、この支持体を長手方向に搬送しつつ、成膜や表面処理等の所定の処理を行い、処理済の支持体を、再度、ロール状に巻回する製造方法である。
【0006】
各種の機能性膜と同様、酸性ガス分離膜も、このRtoRを利用することで、高い生産性で製造することができる。
例えば、特許文献2には、長尺(帯状)な支持体を長手方向に搬送しつつ、吸水性ポリマと、二酸化炭素キャリアと、ゲル化剤とを含み、かつ、50℃以上で調製した塗布液を支持体に塗布し、支持体上に形成した塗膜を12℃以下で冷却してゲル膜とし、このゲル膜を温風で乾燥して促進輸送膜(二酸化炭素分離膜)とする、酸性ガス分離膜の製造装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平7−102310号公報
【特許文献2】特開2012−143711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように、RtoRを利用することにより、酸性ガス分離膜を高い生産効率で製造することができる。
ところが、本発明者の検討によれば、促進輸送膜を用いる酸性ガス分離膜の製造にRtoRを用いると、適正な製品を安定して製造できない場合が有る。
【0009】
促進輸送膜を用いる酸性ガス分離膜は、水蒸気分圧を有するガス環境下で使用される場合が多い。また、一般的に、促進輸送膜を有する酸性ガス分離膜は、促進輸送膜の吸湿性が高いほど、酸性ガスの分離速度(透過速度)が高くなる傾向にある。
そのため、促進輸送膜は、超吸水性樹脂などの親水性化合物をバインダとして用い、このバインダにキャリアを分散してなる構成を有する。また、キャリアも吸湿性が高いもの多い。さらに、促進輸送膜に、必要に応じて添加される添加剤も、吸湿性の高いものを用いるのが一般的である。
その結果、促進輸送膜を有する酸性ガス分離膜は、例えば、相対湿度50%RHの環境下に放置するだけで、促進輸送膜が空気中の水蒸気を吸収して、膨潤する場合が有る。
【0010】
本発明者の検討によれば、このような酸性ガス分離膜を、RtoRを利用して製造すると、促進輸送膜の組成、雰囲気などの生産環境等によっては、パスローラ等に促進輸送膜が付着して、酸性ガス分離膜から剥離してしまう場合が有る。
このような促進輸送膜の膜剥がれが生じると、酸性ガス分離膜に欠陥部分ができてしまう。また、パスローラ等に付着した促進輸送膜が、その後に製造される酸性ガス分離膜等に付着して、汚染してしまうという問題も生じる。
【0011】
搬送経路の設計等によって、促進輸送膜を形成した後、促進輸送膜に接触することなく、酸性ガス分離膜を巻き取ることも可能である。
しかしながら、促進輸送膜の組成、生産や保管の雰囲気によっては、後の工程で酸性ガス分離膜をロールから送り出す際に、積層状態になっている酸性ガス分離膜の裏面に、促進輸送膜が付着して、膜剥がれしてしまう場合が有る。このような促進輸送膜の膜剥がれは、同様に、酸性ガス分離膜の汚染や、欠陥の発生につながる。
【0012】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、促進輸送膜を有する酸性ガス分離膜を、生産性の高いRtoRによって製造する製造方法であって、パスローラへの接触や、巻回によって積層された酸性ガス分離膜による促進輸送膜の膜剥がれを防止でき、欠陥の無い適正な酸性ガス分離膜を、生産設備等の汚染を生じることなく、高い生産性で安定して製造できる酸性ガス分離膜の製造方法、および、この製造方法で製造した酸性ガス分離膜の巻回物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的を達成するために、本発明の酸性ガス分離膜の製造方法は、長尺な多孔質支持体を長手方向に搬送しつつ、多孔質支持体の表面に、酸性ガスと反応するキャリア、および、キャリアを担持するための親水性化合物を含有する塗布組成物を塗布する工程、
多孔質支持体の表面に塗布した塗布組成物を乾燥することにより促進輸送膜を形成する工程、
促進輸送膜の上に、長尺な離型フィルムを積層する工程、ならびに、
多孔質支持体および促進ガス分離膜と離型フィルムとの積層体を巻き取る工程、を行うことを特徴とする酸性ガス分離膜の製造方法を提供する。
【0014】
このような本発明の酸性ガス分離膜の製造方法において、塗布組成物の厚さが0.05〜10mmとなるように、多孔質支持体の上に塗布組成物を塗布するのが好ましい。
また、離型フィルムの剥離力が0.07〜10N/mmであるのが好ましい。
また、促進輸送膜の膜強度が0.005MPa以上であるのが好ましい。
また、離型フィルムの1面もしくは両面が疎水性であり、疎水性の面を促進輸送膜に向けて、促進輸送膜の上に離型フィルムを積層するのが好ましい。
また、さらに、多孔質支持体および促進ガス分離膜と離型フィルムとの積層体の巻回物から、積層体を送り出して、長手方向に搬送しつつ、離型フィルムを剥離して、促進輸送膜の表面に、酸性ガスと反応するキャリア、および、キャリアを担持するための親水性化合物を含有する塗布組成物を塗布する工程、ならびに、促進輸送膜の表面に塗布した塗布組成物を乾燥することにより、多層構成の促進輸送膜を形成する工程を行うのが好ましい。
また、多孔質支持体の表面に促進輸送膜を形成した積層物の温度、および、離型フィルムの温度を10〜70℃として、促進輸送膜の上に、長尺な離型フィルムを積層するのが好ましい。
また、キャリアが、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物塩から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
また、塗布組成物の乾燥を、風速0.5〜200m/分、膜面温度1〜120℃の温風乾燥で行うのが好ましい。
また、塗布組成物を塗布する工程に先立ち、長尺な多孔質支持体を長手方向に搬送しつつ、多孔質支持体の表面に、ガス透過性を有する疎水性の中間層となる成分を含む第2塗布組成物を塗布する工程、および、第2塗布組成物を硬化して中間層を形成する工程を行うのが好ましい。
また、中間層となる成分が、シリコーンであるのが好ましい。
さらに、第2塗布組成物の硬化を、第2塗布組成物を塗布した後、7秒以内に開始するのが好ましい。
【0015】
また、本発明の酸性ガス分離膜巻回物は、多孔質支持体の上に、酸性ガスと反応するキャリア、および、キャリアを担持する親水性化合物を有する促進輸送膜を形成してなる酸性ガス分離膜と、促進輸送膜の上に積層された離型フィルムとを有する長尺な積層体を、長手方向に巻回してなることを特徴とする酸性ガス分離膜巻回物を提供する。
【0016】
このような本発明の酸性ガス分離膜巻回物において、離型フィルムの剥離力が0.07〜10N/mmであるのが好ましい。
また、促進輸送膜の膜強度が0.005MPa以上であるのが好ましい。
また、離型フィルムの1面もしくは両面が疎水性であり、疎水性の面を促進輸送膜に向けて、離型フィルムが積層されるのが好ましい。
また、促進輸送膜の厚さが0.01〜3mmであるのが好ましい。
また、キャリアが、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物塩から選択される少なくとも1種であるのが好ましい。
また、多孔質支持体と酸性ガス分離膜との間に、ガス透過性を有する疎水性の中間層を有するのが好ましい。
さらに、中間層がシリコーン樹脂からなるものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
このような本発明によれば、パスローラとの接触に起因する促進輸送膜の剥離を生じることなく、生産性が高いロール・トゥ・ロールによって、促進輸送膜を有する酸性ガス分離膜を製造できる。
そのため、本発明によれば、生産設備の汚染、酸性ガス分離膜の汚染等を防止しつつ、汚染や促進輸送膜の剥離に起因する欠陥の無い高品質な酸性ガス分離膜(その巻回物)を、高い生産性で安定して製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の酸性ガス分離膜の製造方法を実施する製造装置の一例を概念的に示す図である。
図2】本発明の酸性ガス分離膜の製造方法で製造される積層体の一例を概念的に示す図である。
図3】本発明の酸性ガス分離膜の製造方法を実施する製造装置の別の例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の酸性ガス分離膜の製造方法および酸性ガス分離膜巻回物について、添付の図面に示される好適実施例を基に、詳細に説明する。
【0020】
図1に、本発明の酸性ガス分離膜の製造方法を実施する、酸性ガス分離膜の製造装置の一例を概念的に示す。
【0021】
図1に示す製造装置10は、前述のロール・トゥ・ロール(以下、RtoRとも言う)によって酸性ガス分離膜を製造するものである。すなわち、製造装置10は、長尺(ウェブ状)な多孔質支持体12をロール状に巻回してなる支持体ロール12Rから多孔質支持体12を送り出し、多孔質支持体12を長手方向に搬送しつつ、多孔質支持体12の表面に促進輸送膜18を形成して酸性ガス分離膜14を作製し、作製した酸性ガス分離膜14をロール状に巻回する(巻き取る)。
ここで、本発明の製造方法を実施する製造装置10では、多孔質支持体12の表面に促進輸送膜18を形成して酸性ガス分離膜14を作製した後、促進輸送膜18の表面に離型フィルム20を積層して貼着し、酸性ガス分離膜14と離型フィルム20との積層体24をロール状に巻回する。この積層体24を巻回してなる積層体ロール24Rが、本発明の酸性ガス分離膜巻回物である。
【0022】
すなわち、積層体24は、図2に概念的に示すように、多孔質支持体12の表面(後述する多孔質膜12aの表面)に促進輸送膜18を形成してなる、酸性ガス分離膜14の表面(促進輸送膜18の上)に、離型フィルム20を積層、貼着してなる構成を有し、積層体ロール24Rは、この積層体24を、ロール状に巻回してなるものである。
【0023】
製造装置10は、基本的に、供給部26と、塗布部28と、乾燥部30と、積層部32と、巻取部34とを有して構成される。
なお、製造装置10には、図示した部材以外にも、必要に応じて、パスローラ(ガイドローラ)、搬送ローラ対、搬送ガイド、各種のセンサ等、RtoRによって機能性膜(機能性フィルム)を製造する装置に設けられる、各種の部材を有してもよい。
【0024】
供給部26は、回転軸38に、長尺な多孔質支持体12をロール状に巻回してなる支持体ロール12Rを装填して、回転軸38すなわち支持体ロール12Rを回転することにより、多孔質支持体12を送り出す部位である。
なお、支持体ロール12Rからの多孔質支持体12の送り出しおよび搬送は、公知の方法で行えばよい。
【0025】
多孔質支持体12(以下、支持体12とも言う)は、炭酸ガス等の酸性ガスの透過性を有し、かつ、促進輸送膜18を形成するための塗布組成物40の塗布が可能(塗膜の支持が可能)であり、さらに、形成された促進輸送膜18を支持するものである。
支持体12の形成材料は、この機能を発現できる物であれば、公知の各種の物が利用可能である。
【0026】
ここで、本発明の製造方法において、支持体12は、単層であってもよいが、図2に示すように、多孔質膜12aと補助支持膜12bとからなる2層構成であるのが好ましい。このような2層構成を有することにより、支持体12は、上記の酸性ガス透過性、促進輸送膜18となる塗布組成物の塗布および促進輸送膜18の支持という機能を、より確実に発現する。
なお、支持体12が単層である場合には、形成材料としては、以下に多孔質膜12aおよび補助支持膜12bで例示する各種の材料が利用可能である。
【0027】
この2層構成の支持体12では、多孔質膜12aが促進輸送膜18側となる。
多孔質膜12aは、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない材料からなることが好ましい。このような多孔質膜12aとしては、具体的には、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレンおよびセルロースなどのメンブレンフィルター膜、ポリアミドやポリイミドの界面重合薄膜、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜等が例示される。
中でも、PTFEや高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜は、高い空隙率を有し、酸性ガス(特に炭酸ガス)の拡散阻害が小さく、さらに、強度、製造適性などの観点から好ましい。その中でも、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない等の点で、PTFEの延伸多孔膜が、好適に利用される。
【0028】
多孔質膜12aは、使用環境下において、水分を含有した促進輸送膜18が多孔部分に浸み込み易くなり、かつ、膜厚分布や経時での性能劣化を引き起こさないために、疎水性であるのが好ましい。この点に関しては、支持体が一層構成である場合も同様である。
多孔質膜12aは、孔の最大孔径が1μm以下であるのが好ましい。
多孔質膜12aの孔の平均孔径は、0.001〜10μmが好ましく、0.002〜5μmがより好ましく、0.005〜1μmが特に好ましい。多孔質膜12aの平均孔径をこの範囲とすることにより、後述する接着剤の塗布領域は接着剤を十分に染み込ませ、かつ、多孔質膜12aが酸性ガスの通過の妨げとなることを好適に防止できる。さらに、多孔質膜12aの平均孔径をこの範囲とすることにより、後述する塗布組成物40を塗布する際に、毛管現象などにより膜面が不均一になることを防げる。
【0029】
補助支持膜12bは、多孔質膜12aの補強として備えられるものである。
多孔質膜12aは、要求される強度、耐延伸性および気体透過性を満たすものであれば、各種の物が利用可能である。例えば、不織布、織布、ネット、および、平均孔径が0.001〜10μmのメッシュなどを、適宜、選択して用いることができる。
【0030】
補助支持膜12bも、前述の多孔質膜12aと同様、耐熱性を有し、また加水分解性の少ない素材からなることが好ましい。
この点を考慮すると、不織布、織布、編布を構成する繊維としては、耐久性や耐熱性に優れる、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン、アラミド(商品名)などの改質ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素含有樹脂などからなる繊維が好ましい。メッシュを構成する樹脂材料も同様の素材を用いるのが好ましい。これらの材料のうち、安価で力学的強度の強いPPからなる不織布は、特に好適に例示される。
【0031】
支持体12が補助支持膜12bを有することにより、力学的強度を向上させることができる。そのため、本発明のようにRtoRを利用する製造方法であっても、支持体12に皺がよることを防止でき、生産性を高めることもできる。
【0032】
支持体12は、薄すぎると強度に難がある。この点を考慮すると、多孔質膜12aの膜厚は5〜100μm、補助支持膜12bの膜厚は50〜300μmが好ましい。
なお、支持体12を単層にする場合には、支持体12の厚さは、30〜500μmが好ましい。
【0033】
図1に示される製造装置10では、支持体ロール12Rから送り出された支持体12は、長手方向に搬送されつつ、次いで、塗布部28に搬送され、促進輸送膜18となる塗布組成物40を塗布される。
ここで、本発明の製造方法では、促進輸送膜18となる塗布組成物40の塗布に先立ち、支持体12の表面に中間層を形成してもよい。すなわち、本発明の酸性ガス分離膜巻回物において、酸性ガス分離膜14は、支持体12と促進輸送膜18との間に、中間層を有してもよい。
【0034】
中間層とは、より効果的に促進輸送材料(膜)の多孔質支持体(支持体12)への浸み込みを抑制するための層である。このような中間層は、ガス透過性を有する疎水性の層であれば、各種のものからなる層が利用可能であるが、通気性を有し、支持体12よりも密な層であることが好ましい。このような中間層を備えることにより、均一性の高い促進輸送膜を多孔質支持体中に入り込むことを防止して形成することができる。
【0035】
中間層は、支持体12の上に形成されていればよいが、支持体12中に浸み込んでいる浸み込み領域を有していてもよい。浸み込み領域は、支持体12と中間層との密着性が良好な範囲内で、少ないほど好ましい。
【0036】
中間層としては、繰り返し単位内にシロキサン結合を有するポリマー層が好ましい。
このようなポリマー層としては、オルガノポリシロキサン(シリコーン樹脂)やポリトリメチルシリルプロピンなどシリコーン含有ポリアセチレン等が挙げられる。オルガノポリシロキサンの具体例としては、下記の一般式で示されるものが例示される。
【化1】

なお、上記一般式中、nは1以上の整数を表す。ここで、入手容易性、揮発性、粘度等の観点から、nの平均値は10〜1,000,000の範囲が好ましく、100〜100,000の範囲がより好ましい。
また、R1n、R2n、R3、および、R4は、それぞれ、水素原子、アルキル基、ビニル基、アラルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、および、エポキシ基からなる群より選択されるいずれかを示す。なお、n個存在するR1nおよびR2nは、それぞれ、同じであっても異なっていても良い。また、アルキル基、アラルキル基、アリール基は環構造を有していても良い。さらに、前記アルキル基、ビニル基、アラルキル基、アリール基は置換基を有していても良く、アルキル基、ビニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基またはフッ素原子から選ばれる。これらの置換基は、可能であればさらに置換基を有することもできる。
1n、R2n、R3、および、R4に選択されるアルキル基、ビニル基、アラルキル基、および、アリール基は、入手容易性などの観点から、炭素数1〜20のアルキル基、ビニル基、炭素数7〜20のアラルキル基、炭素数6〜20のアリール基がより好ましい。
特に、R1n、R2n、R3、および、R4は、メチル基またはエポキシ置換アルキル基が好ましく、例えば、エポキシ変性のポリジメチルシロキサン(PDMS)などが好適に利用できる。
【0037】
中間層は、ガス透過性を有する膜であるが、厚すぎるとガス透過性を顕著に低下させる可能性がある。中間層は、支持体12の表面を抜けなく全面的に覆っていれば、薄くても構わない。
この点を考慮すると、中間層の膜厚は、0.01〜30μmが好ましく、0.1〜15μmがより好ましい。
【0038】
このような中間層は、塗布法によって形成されるのが好ましい。
中間層となる塗布組成物(第2塗布組成物)は、前述のPDMS誘導体などの中間層となる化合物のモノマー、ダイマー、トリマー、オリゴマー、プレポリマー、あるいは、これらの混合物等を含む、塗布法によって樹脂層(樹脂の膜)等を形成する際に用いられる、一般的な塗布組成物(塗布液/塗料)である。この塗布組成物は、モノマー等を有機溶剤に溶解(分散)してなるものであってもよく、さらに、硬化剤、硬化促進剤、架橋剤、増粘剤、補強剤、および、フィラー等を含んでいてもよい。
このような塗布組成物は、公知の方法で調製すればよい。
【0039】
また、中間層となる塗布組成物の塗布方法も、後述する塗布組成物40と同様、公知の方法が各種利用可能である。塗布組成物の塗膜厚は、中間層の厚さが前述の0.01〜30μmとなるような厚さを、形成する中間層の種類や塗布組成物の濃度等に応じて、適宜、設定すればよい。
さらに、塗布組成物の硬化方法も、UV照射、加熱硬化、電子線照射等、中間層となるモノマー等に応じた公知の方法が、各種、利用可能であり、中でもUV照射が好ましい。なお、塗布組成物の硬化に先立ち、必要に応じて、有機溶剤の蒸発等の塗布組成物の乾燥を行ってもよい。
【0040】
ここで、中間層の形成においては、中間層となる塗布組成物を塗布した後、7秒以内に塗布組成物(モノマー等)の硬化を開始して、中間層を形成するのが好ましい。
これにより、多孔質膜である支持体12への塗布組成物の染み込みを好適に抑制して、支持体12中の中間層成分が薄い、高品質な中間層を得ることができる。中間層となる塗布組成物の塗布から硬化を開始するまでの時間は、5秒以内が特に好ましい。
【0041】
前述のように、支持体ロール12Rから送り出された支持体12(あるいは、中間層を形成された支持体12)は、長手方向に搬送されつつ、次いで、塗布部28に搬送され、促進輸送膜18となる塗布組成物40を塗布される。
本発明の製造方法において、支持体12の搬送速度は、支持体12の種類や塗布組成物40の粘度等に応じて、適宜、設定すればよい。支持体12の搬送速度が速すぎると、塗布組成物40の塗膜の膜厚均一性が低下するおそれがあり、遅過ぎると生産性が低下する。この点を考慮すると、支持体12の搬送速度は、0.5m/分以上が好ましく、0.75〜200m/分がより好ましく、1〜200m/分が特に好ましい。
【0042】
促進輸送膜18は、親水性ポリマー等の親水性化合物、酸性ガスと反応するキャリアおよび水等を含有する。
従って、このような促進輸送膜18を形成するための塗布組成物40は、親水性化合物、キャリアおよび水(常温水または加温水)、あるいはさらに、架橋剤等の必要となる成分を含む組成物(塗料/塗布液)ものである。親水性化合物は、架橋、一部架橋および未架橋のいずれでも良く、これらが混合されたものでもよい。
【0043】
親水性化合物はバインダとして機能するものである。また、親水性化合物は、促進輸送膜18において、水分を保持して、キャリアによる二酸化炭素等のガスの分離機能を発揮させる。親水性化合物は、耐熱性の観点から、架橋構造を有するのが好ましい。
【0044】
親水性化合物は、水に溶けて塗布液を形成できると共に、促進輸送膜18が高い親水性(保湿性)を有するのが好ましいという観点から、親水性が高いものが好ましい。
具体的には、親水性化合物は、生理食塩液の吸水量が0.5g/g以上の親水性を有することが好ましく、同1g/g以上の親水性を有することがより好ましく、同5g/g以上の親水性を有することがさらに好ましく、同10g/g以上の親水性を有することが特に好ましく、さらには、同20g/g以上の親水性を有することが最も好ましい。
【0045】
親水性化合物の重量平均分子量は、安定な膜を形成し得る範囲で、適宜、選択すればよい。具体的には、20,000〜2,000,000が好ましく、25,000〜2,000,000がより好ましく、30,000〜2,000,000が特に好ましい。
親水性化合物の重量平均分子量を20,000以上とすることで、安定して十分な膜強度を有する促進輸送膜18を得ることができる。
特に、親水性化合物は、架橋可能基として−OHを有する場合には、重量平均分子量が30,000以上であるのが好ましい。この際には、親水性化合物の重量平均分子量は更に好ましくは40,000以上であり、より好ましくは、50,000以上である。また、親水性化合物は、架橋可能基として−OHを有する場合には、製造適性の観点から、重量平均分子量が6,000,000以下であることが好ましい。
親水性化合物は、架橋可能基として−NH2を有する場合には、重量平均分子量が10,000以上であるものが好ましい。この際には、親水性化合物の重量平均分子量は、15,000以上であるのがより好ましく、20,000以上であるのが特に好ましい。また、親水性化合物は、架橋可能基として−NH2を有する場合には、製造適性の観点から、重量平均分子量が1,000,000以下であるのが好ましい。
なお、親水性化合物の重量平均分子量は、例えば、親水性化合物としてPVAを用いる場合には、JIS K 6726に準じて測定した値を用いればよい。また、市販品を用いる場合には、カタログ、仕様書などで公称される分子量を用いればよい。
【0046】
親水性化合物を形成する架橋可能基としては、耐加水分解性の架橋構造を形成し得るものが、好ましく選択される。
具体的には、ヒドロキシ基、アミノ基、塩素原子、シアノ基、カルボキシ基、および、エポキシ基等が例示される。これらの中でも、アミノ基およびヒドロキシ基が好ましく例示される。さらに、最も好ましくは、キャリアとの親和性およびキャリア担持効果の観点から、ヒドロキシ基が例示される。
【0047】
親水性化合物としては、具体的には、単一の架橋可能基を有するものとしては、ポリアリルアミン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリオルニチン、ポリリジン、ポリエチレンオキサイド、水溶性セルロース、デンプン、アルギン酸、キチン、ポリスルホン酸、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ−N−ビニルアセトアミドなどが例示される。最も好ましくはポリビニルアルコールである。親水性化合物としては、これらの共重合体も例示される。
【0048】
複数の架橋可能基を有する親水性化合物としては、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体が例示される。ポリビニルアルコール−ポリアクリル塩共重合体は、吸水能が高い上に、高吸水時においてもハイドロゲルの強度が大きいため好ましい。
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体におけるポリアクリル酸の含有率は、例えば1〜95モル%、好ましくは2〜70モル%、より好ましくは3〜60モル%、特に好ましくは5〜50モル%である。アクリル酸の含有率は、公知の合成方法で制御することができる。
なお、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体において、ポリアクリル酸は、塩であってもよい。この際におけるポリアクリル酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩の他、アンモニウム塩や有機アンモニウム塩等が例示される。
【0049】
ポリビニルアルコールは市販品としても入手可能である。具体的には、PVA117(クラレ社製)、ポバール(クラレ製)、ポリビニルアルコール(アルドリッチ社製)、J−ポバール(日本酢ビ・ポバール社製)等が例示される。分子量のグレードは種々存在するが、重量平均分子量が130,000〜300,000のものが好ましい。
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩)も、市販品として入手可能である。例えば、クラストマーAP20(クラレ社製)が例示される。
【0050】
本発明の製造方法の促進輸送膜18において、親水性化合物は、2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
塗布組成物40における親水性化合物の含有量は、形成した促進輸送膜18において、親水性化合物がバインダーとして機能し、かつ、水分を十分に保持できる量を、親水性組成物やキャリアの種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、促進輸送膜18における親水性化合物の含有量は、0.5〜50質量%となる量が好ましく、0.75〜30質量%となる量がより好ましく、1〜15質量%となる量が特に好ましい。親水性化合物の含有量を、この範囲とすることにより、上述のバインダとしての機能および水分保持機能を、安定して、好適に発現できる。
【0052】
親水性化合物の架橋構造は、熱架橋、紫外線架橋、電子線架橋、放射線架橋、光架橋等、公知の手法により形成できる。
好ましくは光架橋もしくは熱架橋であり、最も好ましくは熱架橋である。
【0053】
塗布組成物40は、架橋剤を含有するのが好ましい。
架橋剤としては、親水性化合物と反応し、熱架橋や光架橋等の架橋し得る官能基を2以上有する架橋剤を含むものが選択される。また、形成された架橋構造は、耐加水分解性の架橋構造となるのが好ましい。
このような観点から、塗布組成物40に添加される架橋剤としては、エポキシ架橋剤、多価グリシジルエーテル、多価アルコール、多価イソシアネート、多価アジリジン、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒド、多価アミン、有機金属系架橋剤などが好適に例示される。より好ましくは多価アルデヒド、有機金属系架橋剤およびエポキシ架橋剤であり、中でも、アルデヒド基を2以上有するグルタルアルデヒドやホルムアルデヒドなどの多価アルデヒドが好ましい。
【0054】
エポキシ架橋剤としては、エポキシ基を2以上有する化合物であり、4以上有する化合物も好ましい。エポキシ架橋剤は市販品としても入手可能であり、例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄社化学株式会社製、エポライト100MF等)、ナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、日油株式会社製エピオールE400などが例示される。
また、エポキシ架橋剤に類似する化合物として、環状エーテルを有するオキセタン化合物も、好ましく使用される。オキセタン化合物としては、官能基を2以上有する多価グリシジルエーテルが好ましい。オキセタン化合物は、市販品も利用可能である。オキセタン化合物の市販品としては、例えばナガセケムテックス社製EX−411、EX−313、EX−614B、EX−810、EX−811、EX−821、EX−830、などが例示される。
【0055】
多価グリシジルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等が例示される。
【0056】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ポリオキシプロピル、オキシエチエンオキシプロピレンブロック共重合体、ペンタエリスリトール、ソビトール等が例示される。
【0057】
多価イソシアネートとしては、例えば、2,4−トルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が例示される。
多価アジリジンとしては、例えば、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アシリジニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサメチレンジエチレンウレア、ジフェニルメタン−ビス−4,4’−N,N’−ジエチレンウレア等が例示される。
【0058】
ハロエポキシ化合物としては、例えば、エピクロルヒドリン、α−メチルクロルヒドリン等が例示される。
多価アルデヒドとしては、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール等が例示される。
多価アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ポリエチレンイミン等が例示される。
さらに、有機金属系架橋剤としては、例えば、有機チタン架橋剤、有機ジルコニア架橋剤等が例示される。
【0059】
例えば、親水性化合物として、重量平均分子量が130,000以上のポリビニルアルコールを用いる場合には、この親水性化合物と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている架橋構造が形成可能である点から,エポキシ架橋剤やグルタルアルデヒドが好ましく利用される。
親水性化合物として、ポリビニールアルコール−ポリアクリル酸共重合体を用いる場合は、エポキシ架橋剤やグルタルアルデヒドが好ましく利用される。
親水性化合物として、重量平均分子量が10,000以上のポリアリルアミンを用いる場合には、この親水性化合物と反応性が良好で、加水分解耐性も優れている架橋構造が形成可能である点から、エポキシ架橋剤、グルタルアルデヒド、および、有機金属架橋剤が好ましく利用される。
親水性化合物として、ポリエチレンイミンやポリアリルアミンを用いる場合には、エポキシ架橋剤が好ましく利用される。
【0060】
架橋剤の量は、塗布組成物40に添加する親水性化合物や架橋剤の種類に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、親水性化合物が有する架橋可能基量100質量部に対して0.001〜80質量部が好ましく、0.01〜60質量部がより好ましく、0.1〜50質量部が特に好ましい。架橋剤の含有量を上記範囲とすることにより、架橋構造の形成性が良好であり、かつ、形状維持性に優れる促進輸送膜を得ることができる。
また、親水性化合物が有する架橋可能基に着目すれば、架橋構造は、親水性化合物が有する架橋可能基100molに対し、架橋剤0.001〜80molを反応させて形成されたものであるのが好ましい。
【0061】
促進輸送膜18において、キャリア(酸性ガスキャリア)は、酸性ガス(例えば、炭酸ガス(CO2))と反応して、酸性ガスを輸送するものである。
【0062】
キャリアは、酸性ガスと親和性を有し、かつ、塩基性を示す水溶性の化合物である。具体的には、アルカリ金属化合物、窒素含有化合物および硫黄化合物等が例示される。
なお、キャリアは、間接的に酸性ガスと反応するものでも、キャリア自体が、直接、酸性ガスと反応するものでもよい。
前者は、供給ガス中に含まれる他のガスと反応し、塩基性を示し、その塩基性化合物と酸性ガスが反応するものなどが例示される。より具体的には、スチーム(水分)と反応してOH-を放出し、そのOH-がCO2と反応することで、促進輸送膜18中に選択的にCO2を取り込むことができる化合物であり、例えば、アルカリ金属化合物である。
後者は、キャリア自体が塩基性であるようなもので、例えば、窒素含有化合物や硫黄化合物である。
【0063】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、および、アルカリ金属水酸化物等が例示される。アルカリ金属としては、セシウム、ルビジウム、カリウム、リチウム、および、ナトリウムから選ばれたアルカリ金属元素が好ましく用いられる。なお、本発明において、アルカリ金属化合物とは、アルカリ金属そのものの他、その塩およびそのイオンも、範囲に含む。
【0064】
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、および、炭酸セシウム等が例示される。
アルカリ金属重炭酸塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、および、炭酸水素セシウム等が例示される。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、および、水酸化セシウム等が例示される。
これらの中でも、アルカリ金属炭酸塩が好ましい。また、酸性ガスとの親和性が良いという観点から、水に対する溶解度の高いカリウム、ルビジウム、および、セシウムを含む化合物が好ましい。
【0065】
また、キャリアとしてアルカリ金属化合物を用いる際には、2種以上のキャリアを併用してもよい。
促進輸送膜18中に2種以上のキャリアが存在することにより、膜中で異なるキャリアを距離的に離間させることができる。これにより、複数のキャリアの潮解性の違いによって、促進輸送膜18の吸湿性に起因して、製造時等に促進輸送膜18同士や、促進輸送膜18と他の部材とが貼着すること(ブロッキング)を、好適に抑制できる。
2種以上のアルカリ金属化合物をキャリアとして用いる場合には、潮解性を有する第1化合物と、第1化合物よりも潮解性が低く比重が小さい第2化合物を含むのが好ましい。このような第1化合物および第2化合物を含むことにより、ブロッキングの抑制効果を、より好適に得られる。一例として、第1化合物としては炭酸セシウムが、第2化合物としては炭酸カリウムが、例示される。
【0066】
窒素含有化合物としては、グリシン、アラニン、セリン、プロリン、ヒスチジン、タウリン、ジアミノプロピオン酸などのアミノ酸類、ピリジン、ヒスチジン、ピペラジン、イミダゾール、トリアジンなどのヘテロ化合物類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類、クリプタンド[2.1]、クリプタンド[2.2]などの環状ポリエーテルアミン類、クリプタンド[2.2.1]、クリプタンド[2.2.2]などの双環式ポリエーテルアミン類、ポルフィリン、フタロシアニン、エチレンジアミン四酢酸等が例示される。
さらに、硫黄化合物としては、シスチン、システインなどのアミノ酸類、ポリチオフェン、ドデシルチオール等が例示される。
【0067】
塗布組成物40におけるキャリアの含有量は、キャリアや親水性化合物の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、促進輸送膜18におけるキャリアの量が、0.3〜30質量%となる量が好ましく、0.5〜25質量%となる量がより好ましく、1〜20質量%となる量が特に好ましい。
塗布組成物40におけるキャリアの含有量を、上記範囲とすることにより、塗布前の塩析を好適に防ぐことができ、さらに、形成した促進輸送膜18が、酸性ガスの分離機能を確実に発揮できる。
また、塗布組成物40における親水性化合物とキャリアとの量比は、親水性化合物:キャリアの質量比で1:9〜2:3以下が好ましく、1:4〜2:3以下がより好ましく、3:7〜2:3が特に好ましい。
【0068】
塗布組成物40は、必要に応じて、増粘剤を含有してもよい。
増粘剤としては、例えば、寒天、カルボキシメチルセルロース、カラギナン、キタンサンガム、グァーガム、ペクチン等の増粘多糖類が好ましい。中でも、製膜性、入手の容易性、コストの点から、カルボキシメチセルロースが好ましい。
カルボキシメチルセルロースを用いることにより、少量の含有量で、所望粘度の塗布組成物40が容易に得られるうえ、塗布液に含まれる溶媒以外の成分の少なくとも一部が塗布液中で溶解できずに析出してしまう恐れも少ない。
【0069】
塗布組成物における増粘剤の含有量は、組成物(塗布液)中の増粘剤の含有量は、目的とする粘度に調整可能であれば、できるだけ少ないほうが好ましい。
一般的な指標としては、10質量%以下が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましく、0.1〜2質量%以下がより好ましい。
【0070】
塗布組成物40(促進輸送膜18)は、このような親水性化合物、架橋剤およびキャリア、あるいはさらに増粘剤に加え、必要に応じて、各種の成分を含有してもよい。
【0071】
このような成分としては、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)等の酸化防止剤、炭素数3〜20のアルキル基または炭素数3〜20のフッ化アルキル基と親水性基とを有する化合物やシロキサン構造を有する化合物等の特定化合物、オクタン酸ナトリウムや1−ヘキサスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤、ポリオレフィン粒子やポリメタクリル酸メチル粒子等のポリマー粒子等が例示される。
その他、必要に応じて、触媒、保湿(吸湿)剤、補助溶剤、膜強度調整剤、欠陥検出剤等を用いてもよい。
【0072】
塗布組成物40は、公知の方法で調製すればよい。すなわち、まず、親水性化合物、キャリア、および、必要に応じて添加するその他の成分を、それぞれ適量で水(常温水または加温水)に添加して、十分、攪拌することで、促進輸送膜18となる塗布組成物40を調製する。
この塗布組成物40の調製では、必要に応じて、攪拌しつつ加熱することで、各成分の溶解を促進させてもよい。また、親水性化合物を水に加えて溶解した後、キャリアを徐々に加えて攪拌することで、親水性化合物の析出(塩析)を効果的に防ぐことができる。
【0073】
塗布部28(塗布工程)は、長手方向に搬送される支持体12に、このような塗布組成物40を塗布する部位である。
図示例において、塗布部28は、公知のロールコータであり、塗布組成物40を充填する充填槽42、塗布ローラ46、メータリングローラ48およびバックアップローラ50を有して構成される。
支持体12は、バックアップローラ50によって所定の塗布位置に保たれつつ搬送され、充填槽42から塗布ローラ46に付着され、かつ、塗布ローラ46と逆回転するメータリングローラ48によって塗布量を調整された塗布組成物40を、塗布ローラ46によって塗布される。
【0074】
本発明の製造方法において、ロールコータは、図示例のもの以外にも、ダイレクトグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、一本ロールキスコーター、3本リバースロールコーター、正回転ロールコーターなどが利用可能である。
また、塗布組成物40の塗布は、ロールコータ以外にも、カーテンフローコーター、エクストルージョンダイコーター、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、バーコーター等の各種の塗布装置(塗布方法)が利用可能である。
【0075】
支持体12に塗布する塗布組成物40の厚さ(塗布厚/塗膜厚)は、塗布組成物40における親水性化合物やキャリア等の濃度、目的とする促進輸送膜18の膜厚等に応じて、適宜、決定すればよい。
具体的には、支持体12に塗布する塗布組成物40の厚さは、0.05〜10mmが好ましく、0.1〜5mmがより好ましい。
塗布組成物40の厚さを上記の範囲とすることにより、膜厚が薄く成り過ぎることを防止して、目的とする性能を発現する促進輸送膜18を安定して形成できる、膜厚が厚く成り過ぎることに起因する、気泡や異物の混入に起因する欠陥の発生さらには未乾燥状態が生じることを好適に抑制できる等の点で好ましい。
【0076】
本発明の製造方法においては、後述する塗布組成物40の乾燥によって形成する促進輸送膜18の膜厚は、親水性化合物やキャリア等の濃度、目的とする促進輸送膜18の組成等に応じて、目的とする性能を得られる膜厚を、適宜、設定すればよい。
具体的には、0.01〜3mmが好ましく、0.05〜2.5mmがより好ましく、0.1〜2mmが特に好ましい。促進輸送膜18の厚さを、上記範囲にすることにより、十分なガス透過性と分離選択性とを実現できる等の点で好ましい。
すなわち、塗布部28では、このような目的とする膜厚の促進輸送膜18を得られるように、塗布組成物40の塗布膜厚を設定する。
従って、本発明の製造方法においては、0.05〜10mmの塗布組成物40の塗布厚さで、膜厚0.01〜3mmの促進輸送膜18が得られるように、塗布組成物40を調製するのが好ましい。
【0077】
塗布部28において塗布組成物40を塗布された支持体12は、裏面(塗布組成物40の塗布面と逆面)に当接するパスローラ54に案内されて、乾燥部30に搬送される。
乾燥部30(乾燥工程)は、支持体12に塗布された塗布組成物40から水の少なくとも一部を除去して乾燥して、あるいはさらに親水性化合物を架橋することで、促進輸送膜18を形成して、酸性ガス分離膜14を作製する部位である。
本発明の製造方法においては、塗布組成物40を乾燥した後、必要に応じて、親水性化合物の架橋を行って、促進輸送膜18を形成してもよい。
【0078】
乾燥方法は、温風乾燥や支持体12の加熱による乾燥方法等、水の除去による乾燥を行う公知の方法が、各種、利用可能である。
温風乾燥を行う場合には、温風の風速は、塗布組成物40を迅速に乾燥できると共に、塗布組成物40の塗膜(ゲル膜)が崩れない速度を、適宜、設定すればよい。具体的には、0.5〜200m/分が好ましく、0.75〜200m/分がより好ましく、1〜200m/分が特に好ましい。
温風の温度は、支持体12の変形などが生じず、かつ、塗布組成物40を迅速に乾燥できる温度を、適宜、設定すればよい。具体的には、膜面温度で、1〜120℃が好ましく、2〜115℃がより好ましく、3〜110℃が特に好ましい。
【0079】
支持体12の加熱による乾燥を行う場合には、支持体12の変形などが生じず、かつ、塗布組成物40を迅速に乾燥できる温度を、適宜、設定すればよい。支持体12の加熱に、乾燥風の吹き付けを併用してもよい。
具体的には、支持体12の温度を60〜120℃として行うのが好ましく、60〜90℃として行うのがより好ましく、70〜80℃として行うのが特に好ましい。この際において、膜面温度は、15〜80℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。
【0080】
また、このように形成される促進輸送膜18の膜強度は、離型フィルム20の種類や厚さ、離型フィルム20の機械的強度(いわゆるコシの強さなど)、離型フィルム20との粘着力、酸性ガス分離膜14の用途、酸性ガス分離膜14の使用条件(圧力、温度、原料ガスの供給量、原料ガス組成、原料ガスの水蒸気分圧など)等に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、促進輸送膜18の膜強度は、0.005MPa以上であるのが好ましく、0.01MPa以上であるのがより好ましく、0.015MPa以上であるのが特に好ましい。なお、この膜強度とは、積層体24から離型フィルム20および支持体12を除いた、促進輸送膜18単体での膜強度である。
促進輸送膜18の膜強度を、この範囲にすることにより、促進輸送膜18の膜欠陥を生じることなく、離型フィルム20との貼り合わせや離型フィルム20の剥離を行うことができる等の点で好ましい。本発明においては、促進輸送膜18の膜強度に応じて、離型フィルム20を選択するのも好ましい。
【0081】
乾燥部30での塗布組成物40の乾燥による促進輸送膜18の形成で作製された酸性ガス分離膜14は、次いで、積層部32に搬送される。酸性ガス分離膜14は、積層部32において、促進輸送膜18の表面に離型フィルム20を積層、貼着されて、酸性ガス分離膜14と離型フィルム20とが積層された積層体24とされる。なお、本発明においては、乾燥部30の下流(搬送方向の下流)では、離型フィルム20の積層を行うまでは、促進輸送膜18には何も接触しないのが好ましい。
この積層部32における操作、すなわち離型フィルム20の積層、貼着を行う工程(積層工程)は、本発明の製造方法の特徴的な工程である。
【0082】
図示例において、積層部32は、積層ローラ56と、バックアップローラ58と、回転軸60とを有する。
回転軸60には、長尺(ウェブ状)な離型フィルム20を巻回してなるフィルムロール20Rが装填される。回転軸60は、フィルムロール20Rを回転することで、フィルムロール20Rから離型フィルム20を送り出す。
積層ローラ56とバックアップローラ58とは、搬送ローラ対を形成する。
【0083】
促進輸送膜18を形成された酸性ガス分離膜14は、積層ローラ56とバックアップローラ58とによって挟持搬送される。
フィルムロール20Rから送り出された離型フィルム20も、酸性ガス分離膜14の促進輸送膜18に接触して、積層ローラ56とバックアップローラ58との間に供給(搬送)され、挟持搬送される。
従って、積層ローラ56とバックアップローラ58とによって、酸性ガス分離膜14および離型フィルムが挟持搬送されることにより、酸性ガス分離膜14の促進輸送膜18の上に、離型フィルム20が積層、貼着されて、酸性ガス分離膜14と離型フィルム20とを積層した積層体24が形成される。
【0084】
本発明の製造方法は、このような構成を有することにより、RtoRによる酸性ガス分離膜14の製造において、促進輸送膜18の剥離(膜剥がれ)を防止できる。
【0085】
前述のように、促進輸送膜18は、非常に吸湿性が高い。そのため、本発明者の検討によれば、促進輸送膜を有する酸性ガス分離膜14をRtoRによって製造すると、促進輸送膜18の組成や雰囲気等によっては、パスローラ等に促進輸送膜が付着して、酸性ガス分離膜から剥離してしまう場合が有る。また、促進輸送膜18を形成した後、ロール状に巻回するまで、促進輸送膜18に部材が触れないようにしても、酸性ガス分離膜の裏面に、促進輸送膜が付着して、剥離してしまう場合が有る。
その結果、酸性ガス分離膜に欠陥部分ができてしまう。さらに、パスローラや酸性ガス分離膜の裏面に付着した促進輸送膜が、その後に製造される酸性ガス分離膜等に付着して、汚染してしまう等の問題も生じる。
【0086】
これに対し、本発明の製造方法では、RtoRによる酸性ガス分離膜14の製造において、促進輸送膜18を形成した後、何らかの物が促進輸送膜18に接触する前に、促進輸送膜18の上に離型フィルム20を積層、貼着する。すなわち、促進輸送膜18の表面を離型フィルム20で覆う。
そのため、本発明によれば、促進輸送膜18を形成した後、促進輸送膜18に物(酸性ガス分離膜を含む)が、直接、接触することが無いので、促進輸送膜18の膜剥がれを防止できる。その結果、本発明によれば、促進輸送膜18の膜剥がれに起因する、製造装置や酸性ガス分離膜の汚染、酸性ガス分離膜の欠陥の発生等を防止して、欠陥や汚染等の無い高品質な酸性ガス分離膜を、RtoRによる高い生産性で安定して製造できる。
【0087】
本発明の製造方法において、離型フィルム20は、酸性ガス分離膜14(促進輸送膜18)との十分な密着力が得られ、かつ、後の工程において促進輸送膜18の膜剥がれを生じることなく酸性ガス分離膜14から剥離することが可能で、さらに、他の部材との接触による促進輸送膜18の膜剥がれを防止できるものであれば、各種のシート状物(フィルム状物)が利用可能である。
具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルペンテン(TPX)、ポリプロピレン(無延伸ポリプロピレン(CPP)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP))、ポリエチレン(PAC)等のプラスチック製のフィルムや、紙等が例示される。
【0088】
離型フィルム20は、単層構成でもよい。あるいは、離型フィルム20は、複数のシート状物の積層体や基板(基材)に各種の機能を発現する層(機能層)を1以上形成してなる構成などの、複数層構成であってもよい。
基板に機能層を形成してなる構成を有する離型フィルム20は、機能層を片面のみに有する構成でも、機能層を両面に有する構成でもよい。両面に機能層を有する離型フィルム20は、各面に形成される機能層は同じでも異なってもよい。
【0089】
一例として、PETフィルム等のプラスチックフィルムに、シリコン系の薄膜のような剥離性が良好な薄膜が形成された離型フィルム20が、例示される。
離型フィルム20は、促進輸送膜18に好適に密着し、かつ、剥離できることが要求される。他方、促進輸送膜18は、その吸湿性に起因して粘着性を有する場合もある。この際には、剥離性の良好な離型フィルムを用いることが考えられる。しかしながら、剥離性の良好な離型フィルムは、滑性が高い場合が多く、巻取りが上手く行かず、また、上手く巻き取れても、ハンドリングの際に巻回物が崩れてしまう場合が有る。
このような場合には、PETフィルムにシリコン系薄膜を形成した離型フィルム20を用い、シリコン系薄膜を促進輸送膜18側にして積層、貼着するのが好ましい。これにより、シリコン系薄膜によって促進輸送膜18に対する剥離性を確保でき、さらに、PETフィルムによって摩擦力を確保して、積層体24の巻回を確実に行えると共に、巻回物が崩れることも防止できる。
本発明において、PETフィルムにシリコン系薄膜を形成した離型フィルム20は、前述のように、シリコン系薄膜が片面のみに形成されたフィルムも両面に形成されたフィルムも好適に利用可能である。しかしながら、上記の点を考慮すると、片面のみにシリコン系薄膜を形成したPETフィルムが、より好適に利用される。
【0090】
本発明においては、このようなシリコン系薄膜が形成(シリコンコーティング)されたPETフィルム以外にも、シリコン系薄膜が形成されたPACフィルム、CCPフィルム、OPPフィルム等も、好適に利用可能である。中でも、シリコン系薄膜が形成されたPETフィルムやPACフィルムは、より好適に利用される。
これらのフィルムにおいて、シリコン系薄膜は、先と同様に、両面に形成されても片面のみに形成されても良いが、片面のみに形成されているのが、より好ましい。
シリコン系薄膜としては、具体的にはシリコーンからなる薄膜が好適に例示される。離型フィルム20がシリコン系薄膜等を有する場合には、ハンドリング等の観点から、離型フィルム20は、シリコン系薄膜等を含めた合計の厚さが、200μm以下であるのが好ましい。
【0091】
離型フィルム20は、少なくとも一方の面が疎水性であり、この疎水性の面を促進輸送膜18に向けて、酸性ガス分離膜14に積層するのが好ましい。
離型フィルム20の疎水性面を促進輸送膜18に向けて積層することにより、後の工程において離型フィルム20を積層体24から剥離する際に、促進輸送膜18の膜剥がれ等を防止して適正な剥離ができる等の点で好ましい。
【0092】
離型フィルム20の厚さは、酸性ガス分離膜14の厚さ、促進輸送膜18の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
具体的には、0.005〜0.1mmが好ましく、0.01〜0.1mmがより好ましい。
離型フィルム20の厚さを、この範囲とすることにより、促進輸送膜18の積層および貼着を確実に行える、離型フィルム20の剥離を防止できる、後の工程における離型フィルム20の剥離を容易に行える、離型フィルム20のハンドリング性も良好になる等の点で好ましい。
【0093】
積層体24は、酸性ガス分離膜14と離型フィルム20とが十分に密着し、かつ、促進輸送膜18の膜剥がれ等を生じることなく容易に剥離可能であることが要求される。
この点を考慮すると、離型フィルム20の剥離力は、0.07〜10N/mmであるのが好ましく、0.07〜1N/mmであるのがより好ましい。
この離型フィルム20の剥離力は、日東電工社製のNo.31Bテープを貼り付け、速度が300mm/分、角度が180°の条件で剥離した際の剥離力の平均値である。
【0094】
なお、先程も述べたが、促進輸送膜18が粘着性(接着性/貼着性)を有し、十分な密着力が得られる場合には、酸性ガス分離膜14(促進輸送膜18)への離型フィルム20の貼着は、促進輸送膜18が有する粘着性を利用して行えばよい。すなわち、この場合には、離型フィルム20の剥離力は弱くてもよく、離型フィルム20自身は粘着性を有さないものであってもよい。
逆に、促進輸送膜18が粘着性を有さない場合は、離型フィルム20が、適度な粘着性を有する、ある程度の剥離性を有するものであるのが好ましい。
さらに、貼着および剥離を適正に行えれば、促進輸送膜18および離型フィルム20の両方が粘着性を有していてもよい。
すなわち、本発明においては、促進輸送膜18が有する粘着力に応じて、促進輸送膜18(酸性ガス分離膜14)と離型フィルム20との密着力(貼着力/接着力)が適正な範囲となるように、適度な剥離力を有する離型フィルム20を選択や、離型フィルム20の剥離力の調整等を行うのが好ましい。
促進輸送膜18の粘着力は、一例として、含有する親水性化合物(バインダ)の種類や組成、促進輸送膜18が含有するキャリアの量等によって、変動する。
【0095】
本発明の製造方法において、このような離型フィルム20は、酸性ガス分離膜14にシワが生じたり、促進輸送膜18の膜剥がれや欠陥を生じたりすることなく、酸性ガス分離膜14(促進輸送膜18)に積層して貼着でき、かつ、酸性ガス分離膜14から剥離できるものを、適宜、選択すればよい。
具体的には、酸性ガス分離膜14の機械的強度や厚さ、支持体12の種類(形成材料や層構成など)や厚さ、促進輸送膜18の種類(親水性化合物の種類や含有量、キャリアの種類や含有量、その他の成分およびその含有量など)や厚さ等を考慮して、好適な離型フィルム20を、適宜、選択すればよい。
【0096】
本発明の製造方法において、酸性ガス分離膜14(促進輸送膜18)に離型フィルム20を積層して貼着する際における、酸性ガス分離膜14および離型フィルム20の温度は、酸性ガス分離膜14の種類や厚さ、離型フィルム20の種類や厚さ等に応じて、適宜、設定すればよい。具体的には、10〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましい。
酸性ガス分離膜14と離型フィルム20との積層および貼着を、上記温度で行うことにより、両者にシワ等を生じることなく適正な積層および貼着が可能である等の点で好ましい。
なお、酸性ガス分離膜14に離型フィルム20を積層して貼着する際には、酸性ガス分離膜14および離型フィルム20の少なくとも一方が、上記温度になっていればよい。
【0097】
積層部32および乾燥部30と、積層部32との間の雰囲気は、基本的に、低湿度であるのが好ましい。
これらの部位を低湿度にすることにより、促進輸送膜18が余分な水分を吸収することを防止できる等の点で好ましい。
【0098】
酸性ガス分離膜14および/または離型フィルム20の温度調節は、公知の方法で行えばよい。また、積層部32および乾燥部30と積層部32との間の雰囲気湿度の制御も、公知の方法で行えばよい。
【0099】
乾燥部30と積層部32との距離は、短い程、好ましい。
この距離を短くすることにより、促進輸送膜18の表面に異物等が付着するのを防止できる、促進輸送膜18の吸湿を防止できる等の点で好ましい。
【0100】
積層部32の上下流において、搬送されるシート状物に掛かるテンションは、同じであっても良いが、下流側のテンションの方を高くするのが好ましい。
これにより、酸性ガス分離膜14と離型フィルム20とにシワ等を生じることなく適正な積層および貼着が可能である等の点で好ましい。
なお、搬送されるシート状物に掛かるテンションの制御も、公知の方法で行えばよい。
【0101】
本発明の製造方法において、離型フィルム20の積層方法は、このような積層ローラ56(積層のためのローラ対)を用いる方法以外にも、公知のシート状物の積層方法が、各種、利用可能である。
【0102】
積層部32で離型フィルム20を積層された酸性ガス分離膜14すなわち積層体24は、次いで、巻取部34に搬送される。
巻取部34は、巻取り軸62に積層体24を巻回して(巻き取って)、積層体ロール24Rとする部位である。この積層体ロール24Rが、本発明の酸性ガス分離膜巻回物である。
【0103】
巻取部34は、前述の巻取り軸62と、4本のパスローラ64a〜64dを有する。
積層体24は、パスローラ64a〜64dによって所定の搬送駅路を案内されて、巻取り軸62(積層体ロール24R)によって巻き取られ、積層体ロール24Rとされる。
4本のパスローラ64a〜64dは、積層部32と巻取り軸62との間のテンションカッタとしても作用しており、積層体24を蛇行するように、案内する。
【0104】
以下、製造装置10の作用の一例を説明する。
まず、支持体ロール12Rを供給部26の回転軸38に装着し、回転軸38を回転して支持体ロール12Rから支持体12を送り出す。次いで、支持体ロール12Rから送り出した支持体12を、塗布部28(バックアップローラ50)、パスローラ54、乾燥部30、積層部32(バックアップローラ58および積層ローラ56)、および、パスローラ64a〜64dを経て、巻取り軸62に至る所定の搬送経路に通し(挿通/通紙)、支持体12の先端を巻取り軸62に巻き付ける。
次いで、回転軸60にフィルムロール20Rを装着して、離型フィルム20を送り出し、積層部32に搬送して、支持体12の促進輸送膜18の形成面に当接させて、バックアップローラ58と積層ローラ56とに挟持させる。
一方で、充填槽42に必要な量の塗布組成物40を充填する。
【0105】
所定の搬送経路に支持体12を通し、離型フィルム20をバックアップローラ58と積層ローラ56とに挟持させ、さらに、充填槽42に塗布組成物40を充填したら、回転軸38、巻取り軸62、および、バックアップローラ58等を同期して駆動し、支持体12および離型フィルム20の搬送を開始する。
【0106】
支持体ロール12Rから送り出された支持体12は、長手方向に搬送されつつ、まず、塗布部28において、バックアップローラ50によって所定の塗布位置に支持されつつ搬送されて、塗布ローラ46によって所定の塗布厚(塗布量)の塗布組成物を塗布される。
支持体12は、次いで、パスローラ54に案内されて乾燥部30に至り、乾燥部30において塗布組成物40が乾燥されることにより、促進輸送膜18が形成され、酸性ガス分離膜14が作製される。
【0107】
酸性ガス分離膜14は、次いで、積層部32において、バックアップローラ58と積層ローラ56とで挟持搬送されつつ、離型フィルム20を積層、貼着されて、積層体24とされる。
積層体24は、巻取部34に搬送され、パスローラ64a〜64dによって所定の搬送経路を案内されて、巻取り軸62(積層体ロール24R)に巻き取られる。
ここで、本発明の製造方法を実施する製造装置10では、酸性ガス分離膜14に離型フィルム20が積層されているので、パスローラ64a〜64dに膜剥がれした促進輸送膜18が付着することはなく、また、巻回された酸性ガス分離膜14の裏面(促進輸送膜18と逆面)に、促進輸送膜18が付着することも無い。
【0108】
酸性ガス分離膜14では、促進輸送膜18を厚くしたい場合も多い。しかしながら、塗布装置や塗布組成物40の関係で、1回の塗布では、目的とする厚さの促進輸送膜18を形成できない場合も多い。
これに対して、本発明の製造方法では、さらに、積層体ロール24Rから積層体24を送り出し、離型フィルム20を剥離して、先に作成した促進輸送膜18の上に塗布組成物を塗布、乾燥して、2層(あるいは3層以上)構成の促進輸送膜18を形成してもよい。
【0109】
図3に、この操作を行う製造装置を概念的に示す。
なお、図3に示す製造装置70は、供給部26と塗布部28との間に剥離部72を有する以外は、前述の製造装置10と同様の構成を有するので、同じ部材には同じ符号を付し、以下の説明は、異なる部位を主に行う。
【0110】
前述のように、製造装置70は、供給部26と塗布部28との間に、剥離部72を有する。この剥離部72は、剥離ローラ対74と、巻取り軸76とを有する。
剥離ローラ対74は、公知の剥離ローラ対で、積層体24(酸性ガス分離膜14)から、離型フィルム20を剥離するものである。また、巻取り軸76は、剥離ローラ対74で剥離された使用済みの離型フィルム20aを巻き取って、使用済みの離型フィルム20aを巻回してなるフィルムロール20aRとするものである。
【0111】
図3に示す製造装置70によって、2層目(3層目以降)の促進輸送膜18を形成する際には、供給部26の回転軸38に積層体ロール24Rが装着される。
回転軸38に積層体ロール24Rが装着されると、積層体24を送り出し、剥離部72(剥離ローラ対74)を通って、以下、先と同様に、塗布部28、乾燥部30、積層部32を経て、巻取部34の巻取り軸62に至る所定の搬送経路に、積層体24を通す。
ここで、積層体24を剥離ローラ対74に通す際に、剥離ローラ対74の直下流で、積層体24から離型フィルム20を剥離して、使用済みの離型フィルム20aを、巻取り軸76に至る所定経路に通し、使用済みの離型フィルム20aの先端を巻取り軸76に巻き付ける。
【0112】
積層体ロール24Rから送り出された積層体24は、長手方向に搬送されつつ、まず、剥離部72の剥離ローラ対74によって離型フィルム20を剥離され、酸性ガス分離膜14単体とされて、塗布部28に搬送される。
また、積層体24から剥離された使用済みの離型フィルム20aは、巻取り軸76(フィルムロール20aR)に巻き取られる。
【0113】
塗布部28に搬送された酸性ガス分離膜14は、促進輸送膜18の上に、先と同様にして、塗布組成物40aを塗布される。
この塗布組成物40a(すなわち、この操作で形成する促進輸送膜)は、先に塗布した塗布組成物40と同じものであってもよい。あるいは、この塗布組成物40aは、先に塗布した塗布組成物40と、組成、含有する成分の種類や数、pH、含有する各成分の濃度、粘度等が異なるものであってもよい。
【0114】
塗布組成物40aを塗布された酸性ガス分離膜14は、これ以降は、先の製造装置10と同様に、乾燥部30で塗布組成物40aを乾燥されて2層目の促進輸送膜が形成された酸性ガス分離膜14aとされる。
次いで、好ましい態様として、積層部32において、離型フィルム20を積層、貼着されて積層体24aとされる。この離型フィルム20は、使用済みの離型フィルム20aであってもよい。すなわち、製造装置70において、フィルムロール20Rはフィルムロール20aRでもよい。
さらに、巻取部34に搬送され、パスローラ64a〜64dによって所定の搬送経路を案内されて、巻取り軸62に巻き取られ、積層体24aを巻回してなる積層体ロール24aR)とされる。
【0115】
図3に示す製造装置70は、剥離ローラ対74を用いて離型フィルム20を剥離しているが、この構成以外にも、各種の構成が利用可能である。例えば、剥離ローラ対74に変えて、1個の剥離ローラを塗布部28のバックアップローラ50に当接して設け、此処でで、積層体24の酸性ガス分離膜14から離型フィルム20を剥離してもよい。
また、本発明の製造方法においては、図3に示す製造装置70によって、支持体12に促進輸送膜18を形成して酸性ガス分離膜14を作製し、離型フィルム20を積層して積層体24を形成して、積層体ロール24Rを形成してもよい。この際には、剥離ローラ対74は、支持体12に接触しないように、ローラを離間しておいてもよい。
【0116】
以上、本発明の酸性ガス分離膜の製造方法および酸性ガス分離膜巻回物について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0117】
以下、本発明の具体的実施例を挙げ、本発明の酸性ガス分離膜の製造方法および酸性ガス分離膜巻回物について、より詳細に説明する。
【0118】
[実施例1]
「T.Sato,et al. (1993). Synthesis of poly(vinyl alcohol) having a thiol group at one end and new block copolymers containing poly(vinyl alcohol) as one cinsistent. Macromolecular Chemistry and Physics,194,175-185」に記載される方法を参考に、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体を合成した。なお、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体は、ポリビニルアルコールとポリアクリル酸とのモル比が3:7となるように原料を調節して、合成した。
このポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体を2.4質量%、架橋剤(和光純薬社製 25質量%グルタルアルデヒド水溶液)を0.01質量%、含む水溶液を調製した。この水溶液に、1M塩酸をpH1.7になるまで添加して、架橋させた。
架橋後、40%炭酸セシウム水溶液(稀産金属社製)を炭酸セシウム濃度が6.0重量%になるように添加した。すなわち、本例では、炭酸セシウムが促進輸送膜18のキャリアとなる。
さらに、界面活性剤(日油社製 1質量%ラピゾールA−90)を0.003質量%、添加して、塗布組成物40を調製した。
【0119】
一方で、幅が500mmで、厚さ200μmの長尺な(多孔質)支持体12をロール状に巻回してなる支持体ロール12Rを用意した。この支持体12は、PP不織布の表面に多孔質のPTFEを積層してなる積層体(GE社製)である。
さらに、幅が500mmで、厚さ38μmの長尺な離型フィルム20をロール状に巻回してなるフィルムロール20Rを用意した。この離型フィルム20は、一面にシリコン系薄膜を形成してなるPETフィルム(三井化学東セロ社製)である。さらに、この離型フィルム20は、剥離力(シリコン系薄膜側)が0.07N/mmのフィルムである(卓上剥離試験装置を用いて測定)。
【0120】
まず、多孔質PTFE側に塗布組成物40が塗布されるように、支持体ロール12Rを図1に示す製造装置10の供給部26の回転軸38に装着した。次いで、支持体ロール12Rから支持体12を送り出し、前述のように、塗布部28、乾燥部30および積層部32を経て、巻取部34に至る所定の搬送経路で通して、支持体12の先端を巻取り軸62に巻き付けた。
その後、フィルムロール20Rを、シリコン系薄膜が塗布組成物40の塗布面に対面するように、製造装置10の積層部32の回転軸60に装着した。次いで、フィルムロール20Rから離型フィルム20を送り出し、支持体12の促進輸送膜18の形成面(多孔質PTEF面)に接触するようにして、先端をバックアップローラ58と積層ローラ56とに挟持させた。
他方、調製した塗布組成物40を、必要量、塗布部28の充填槽42に充填した。
【0121】
以上の準備を終了した後に、支持体12の搬送を開始して、前述のように、塗布部28において支持体12の表面に塗布組成物40を塗布し、乾燥部30で塗布組成物40を乾燥して促進輸送膜18を形成して酸性ガス分離膜14とし、積層部32で離型フィルム20を積層、貼着して積層体24とし、さらに、作製した積層体24を巻取り軸62に巻き取って、積層体ロール24Rを作製した。
支持体12の搬送速度は、3m/分とした。
塗布組成物40の塗布は、支持体12上の塗布組成物40の厚さが0.6mmとなるように行った。この塗布組成物40の厚さは、乾燥によって形成される促進輸送膜18の厚さが0.03mmとなる厚さである。
乾燥部30における乾燥は、温風乾燥炉を用い、70℃、80℃、90℃、100℃、110℃および120℃の多段階の加熱温度で行った。
なお、本例においては、本発明の効果を、より顕著に示すために、積層部32からパスローラ64aまでの雰囲気の湿度を、通常よりも高い70%RHに制御した。
【0122】
積層体24を200m、作製した時点で、支持体12の搬送を停止し、バックアップローラ58とパスローラ64aとの間で積層体24を切断した。次いで、積層体24を最後まで巻き取って、積層体ロール24Rを巻取り軸62から取り外した。
パスローラ64a〜64dを確認したところ、膜剥がれした促進輸送膜18の付着は認められなかった。
また、積層体ロール24Rから150mの積層体24を引き出したところ、膜剥がれして積層体24に付着した促進輸送膜18は認められなかった。
【0123】
[実施例2]
40%炭酸セシウム水溶液を炭酸セシウム濃度が3.0重量%になるように添加した以外は、実施例1と同様にして塗布組成物40を調製した。
この塗布組成物を用い、かつ、離型フィルム20として、剥離力が0.15N/mmの、一面にシリコン系薄膜を形成してなる離型フィルム(三井化学東セロ社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体ロール24Rを作製した。
実施例1と同様に確認したところ、パスローラ64a〜64dおよび積層体24、共に、膜剥がれした促進輸送膜18の付着は認められなかった。
【0124】
[実施例3]
ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体に代えて、ポリビニルアルコール(クラレ社製 PVA117)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗布組成物40を調製した。
この塗布組成物40を用い、かつ、離型フィルム20として、剥離力が1N/mmのPACフィルム(サンエー化研社製)を用いた以外は、実施例1と同様にして積層体ロール24Rを作製した。
実施例1と同様に確認したところ、パスローラ64a〜64dおよび積層体24、共に、膜剥がれした促進輸送膜18の付着は認められなかった。
【0125】
[実施例4]
実施例1と同様にして、230mの積層体24を巻回してなる積層体ロール24Rを作製した。
この積層体ロール24Rを、促進輸送膜18側に塗布組成物40aが塗布されるように、図3に示す製造装置70の供給部26の回転軸38に装着した。次いで、実施例1と同様に、積層体ロール24Rから積層体24を引き出して、巻取部34まで通して先端を巻取り軸62に巻き付けた。この通紙の際に、剥離ローラ対74の直下流で離型フィルム20を剥離して、剥離部72の所定経路を通し、先端を巻取り軸76に巻き付けた。
また、実施例1と同じ離型フィルム20を巻回してなるフィルムロール20Rを、実施例1と同様に回転軸60に装着し、離型フィルム20の先端をバックアップローラ58と積層ローラ56とに挟持させた。前述のように、この離型フィルム20は、シリコン系薄膜付きのPETフィルムであり、剥離力は0.07N/mmである。
充填槽42には、塗布組成物40aとして、実施例1と同じ塗布組成物を充填した。
【0126】
以上の準備を終了した後に、実施例1と同様にして、酸性ガス分離膜14(促進輸送膜18)の表面に塗布組成物40a(塗布組成物40と同)を塗布、乾燥して、2層目の促進輸送膜18を形成し、その上に離型フィルム20を積層、貼着して、積層体24aを作製し、巻取り軸62に巻き取って、200mの積層体24aを巻回してなる積層体ロール24aRを作製した。
実施例1と同様に確認したところ、パスローラ64a〜64dおよび積層体24、共に、膜剥がれした促進輸送膜18の付着は認められなかった。
【0127】
[実施例5]
合成したポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体に代えて、市販のポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体(クラレ社製 クラストマーAP20)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗布組成物40を調製した。
この塗布組成物40を用い、かつ、離型フィルム20として、実施例3と同じものを用いた以外は、実施例1と同様にして、長さ230mの積層体ロール24Rを作製した。前述のように、この離型フィルム20は、PACフィルムであり、剥離力は1N/mmである。
【0128】
この積層体ロール24Rを用い、かつ、離型フィルム20として、実施例2と同じもの(シリコン系薄膜付きの離型フィルム 剥離力0.15N/mm)を用いた以外には、実施例4と同様にして(すなわち塗布組成物40aは実施例1と同じ)、200mの積層体24aを巻回してなる積層体ロール24aRを作製した。
実施例1と同様に確認したところ、パスローラ64a〜64dおよび積層体24、共に、膜剥がれした促進輸送膜18の付着は認められなかった。
【0129】
[実施例6]
促進輸送膜18の形成に先立ち、支持体12の表面に中間層を形成した以外には、実施例1と同様にして、実施例1と同様にして積層体ロール24Rを作製した。
中間層を形成するための塗布組成物として、エポキシ変性ポリジメチルシロキサン(信越化学社製 KF−102)に、硬化剤として、東京化成工業社製の4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートをシリコーン樹脂に対して0.5重量%添加した塗布組成物を調製した。
RtoRを利用する一般的な公知の装置を用いて、支持体12を長手方向に搬送しつつ、この塗布組成物を支持体12に塗布し、次いで、硬化装置によって紫外線を照射して塗布組成物を硬化して、支持体12にシリコーン樹脂からなる中間層を形成した。中間層の厚さは、10μmとした。ここで、中間層の厚さは、支持体12に染み込んだシリコーン樹脂の厚さと、支持体12上に形成されたシリコーン樹脂の厚さとの和とした。なお、支持体12に染み込んだシリコーン樹脂の厚さは、EDX(エネルギー分散型X線吸光法)によるSi元素分布によって測定した。
【0130】
[比較例1]
離型フィルム20を用いない以外は、実施例1と同様にして酸性ガス分離膜14を作製して、この酸性ガス分離膜14を巻回してなるロールを作製した。積層ローラ56は、作製した促進輸送膜18に接触しないように、上方に移動しておいた。
実施例1と同様に確認したところ、積層部32からパスローラ64aまでの雰囲気の湿度が70%RHと高いこともあり、パスローラ64bおよび64dに、膜剥がれした促進輸送膜18の付着が確認された。また、同様の理由で、ロールから引き出した酸性ガス分離膜14には、所々に促進輸送膜18の膜剥がれが認められ、さらに、支持体12の裏面への膜剥がれした促進輸送膜18の付着が認められた。
【0131】
[性能評価]
<促進輸送膜18の外観評価>
作製した分離膜ロールから積層体24(24a)を引出し、離型フィルム20を剥離して、酸性ガス分離膜14(14a)とした。
酸性ガス分離膜14の長手方向の任意の箇所で、短手方向の中心部において、酸性ガス分離膜14を1cm四方に切り出し、欠陥評価用のサンプルを5つ作製した。
各サンプルに対して、目視により平滑性を確認し、さらに、塗布表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで欠陥の有無を確認して、以下のように評価した。ここで、『欠陥』とは、促進輸送膜18が無くなっていることが、SEMによる観察で確認できる箇所を指す。
A: 全てのサンプルにおいて、促進輸送膜18の表面が平滑で、かつ、欠陥が無い。
B: 1以上のサンプルで促進輸送膜18の表面に凹凸が認められるが、全てのサンプルで欠陥が無い。
C: 1以上のサンプルで欠陥が認められる。
【0132】
<ガス透過性試験>
前記膜の外観評価で得た酸性ガス分離膜14を切り抜いて、直径47mmの円形の酸性ガス分離膜14を作製した。なお、円形の酸性ガス分離膜14は、幅方向の500mmに対して、100mm間隔で4箇所、サンプリングした。
PTFEメンブレンフィルター(孔径0.10μm、ADVANTEC社製)を2枚用いて、切り抜いた円形の酸性ガス分離膜14を膜両面から挟んで透過試験サンプル(有効面積2.40cm2)を作製した。
テストガスとしてCO2/H2:10/90(容積比)の混合ガスを用いた。この混合ガスを、相対湿度70%、流量100ml/分、温度130℃、全圧3atmの条件で、作製した各透過試験サンプルに供給した。なお、透過側にはArガス(流量90ml/分)をフローさせた。
透過してきたガスをガスクロマトグラフで分析し、H2透過速度とCO2透過速度との比から分離係数αを算出し、以下の様に評価した。
A: 4箇所全てでα≧80。
B: 1箇所でも10<α<80が含まれる。
C: 1箇所でもα≦10が含まれる。
以上の結果を下記の表に示す。
【0133】
【表1】

上記表に示されるように、本発明によれば、積層部32からパスローラ64aまでの雰囲気の湿度が70%RHという高湿度下であっても、他の部材との接触等に起因する促進輸送膜18の膜剥がれを抑制して、外観およびガス透過性が共に良好な酸性ガス分離膜を作製できる。
これに対して、離型フィルム20を用いない比較例1では、積層部32からパスローラ64aまでの雰囲気の湿度が70%RHという高湿度下であることもあり、パスローラ64a等に付着して促進輸送膜18の膜剥がれが生じてしまい、また、膜剥がれが多くて、ガス透過性の評価ができなかった。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【符号の説明】
【0134】
10,70 製造装置
12 (多孔質)支持体
14,14a 酸性ガス分離膜
18 促進輸送膜
20 離型フィルム
24,24a 積層体
26 供給部
28 塗布部
30 乾燥部
32 積層部
34 巻取り部
38,60 回転軸
40 塗布組成物
42 充填槽
46 塗布ローラ
48 メータリングローラ
50,58 バックアップローラ
54,64a〜64d パスローラ
56 積層ローラ
62,76 巻取り軸
72 剥離部
74 剥離ローラ対
図1
図2
図3