(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の多層配線板では、第一の伝送線路と、第一の誘電体と、スロットを有する第一の地導体と、第二の誘電体と、該スロットに対応する位置に別のスロットを有する第二の地導体と、第3の誘電体と、第二の伝送線路とがこの順に積層されて形成されている。第一の地導体及び第二の地導体のそれぞれは、スロットの周囲に周期的に形成したビアホール群により電気的に接続される。このようにビアホール群を介して第一の地導体と第二の地導体とが電気的に接続されることにより、第一の伝送線路と第二の伝送線路とが電磁界的に接続される。なお、第一の地導体のスロット及び第二の地導体のスロットは、第一の地導体と第二の地導体との間に配置された第二の誘電体には貫通していない。
【0005】
ここで、特許文献1に記載のビアホール群は、第一の地導体及び第二の地導体のそれぞれのスロットの周囲の比較的広い範囲に設けられる。よって、スロットの周囲にビアホール群を配置するスペースが必要となり、そのスペース分だけ例えば別のスロットを用いた電磁結合構造を設けることができなかった。このように、従来の多層配線板では、電磁結合構造を高密度に集積できる技術が求められていた。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、高密度に集積できる電磁結合構造、多層伝送線路板及びそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明のマイクロ波帯の周波数帯域で使用される電磁結合構造では、複数のグランド層となる内側導体層の間に内側誘電体層が挟まれて積層された積層体と、積層体を間に挟んで対向する一対の外側誘電体層と、一対の外側誘電体層を間に挟んで対向する一対の外側導体層と、を備える。積層体には、内側誘電体層及び複数のグランド層となる内側導体層を貫通する孔が設けられている。孔の内壁に形成された管状の金属膜を介して、複数のグランド層となる内側導体層が電気的に接続されることにより、一対の外側導体層が電磁結合されることを特徴とする。
【0008】
この電磁結合構造では、複数のグランド層となる内側導体層間に内側誘電体層が挟まれた構造をなす積層体において、内側誘電体層及び複数のグランド層となる内側導体層を貫通する孔が設けられている。この孔の内壁には複数のグランド層となる内側導体層同士を電気的に接続する管状の金属膜が設けられている。これ故、積層体の外側に配置された一対の外側誘電体層を介して、一対の外側導体層間が電磁結合されることとなる。この電磁結合構造によれば、孔の周りには例えば特許文献1に記載のビアホール群などを設ける必要はない。よって、管状の金属膜を内壁に有する孔の周囲に、例えば、ビアホール群を設けることなく別の管状の金属膜を内壁に有する孔などの電磁結合構造を配置することができる。従って、高密度に集積できる電磁結合構造を提供できる。
【0009】
また、本発明のマイクロ波帯の周波数帯域で使用される電磁結合構造では、第一導体層、第一誘電体層、第二導体層、第二誘電体層、第三導体層、第三誘電体層、及び第四導体層をこの順に備えている。第二導体層、第二誘電体層、及び第三導体層を貫通する孔が設けられており、孔の内壁に形成された管状の金属膜を介して、第二導体層と第三導体層とが電気的に接続されることにより、第一導体層が第四導体層と電磁結合されることを特徴とする。
【0010】
この電磁結合構造では、第二導体層、第二誘電体層、及び第三導体層を貫通する孔が設けられている。この孔の内壁には、第二導体層と第三導体層との間を電気的に接続する管状の金属膜が設けられている。これ故、第一誘電体層と、孔の内壁に形成された管状の金属膜と、第三誘電体層とを介して、第一導体層が第四導体層と電磁結合されることとなる。この構造によれば、孔の周りには例えば特許文献1に記載のビアホール群などを設ける必要はない。よって、管状の金属膜を内壁に有する孔の周囲に、例えば、ビアホール群を設けることなく別の管状の金属膜を内壁に有する孔などの電磁結合構造を配置することができる。従って、高密度に集積できる電磁結合構造を提供できる。
【0011】
また、本発明のマイクロ波帯の周波数帯域で使用される多層伝送線路板は、複数のグランド層となる内側導体層の間に内側誘電体層が挟まれて積層された積層体と、積層体を間に挟んで対向する一対の外側誘電体層と、一対の外側誘電体層を間に挟んで対向し、伝送線路をなす一対の外側導体層と、を備える。積層体には、内側誘電体層及び複数のグランド層となる内側導体層を貫通する孔が設けられており、孔の内壁に形成された管状の金属膜を介して、複数のグランド層となる内側導体層が電気的に接続されることにより、一対の外側導体層が電磁結合されることを特徴とする。
【0012】
この多層伝送線路板では、複数のグランド層となる内側導体層間に内側誘電体層が挟まれた構造をなす積層体において、内側誘電体層及び複数のグランド層となる内側導体層を貫通する孔が設けられている。この孔の内壁には複数のグランド層となる内側導体層同士を電気的に接続する管状の金属膜が設けられている。これ故、積層体の外側に配置された一対の外側誘電体層を介して、一対の外側導体層間が電磁結合されることとなる。この多層伝送線路板の構造によれば、孔の周りには例えば特許文献1に記載のビアホール群などを設ける必要はない。よって、管状の金属膜を内壁に有する孔の周囲に、例えば、ビアホール群を設けることなく別の管状の金属膜を内壁に有する孔などの電磁結合構造を配置することができる。従って、電磁結合構造を高密度に集積できる多層伝送線路板を提供できる。
【0013】
また、本発明のマイクロ波帯の周波数帯域で使用される多層伝送線路板では、第一伝送線路をなす第一導体層、第一誘電体層、第二導体層、第二誘電体層、第三導体層、第三誘電体層、及び第二伝送線路をなす第四導体層をこの順に備える。第二導体層、第二誘電体層、及び第三導体層を貫通する孔が設けられており、孔の内壁に形成された管状の金属膜を介して、第二導体層と第三導体層とが電気的に接続されることにより、第一導体層が第四導体層と電磁結合されることを特徴とする。
【0014】
この多層伝送線路板では、第二導体層、第二誘電体層、及び第三導体層を貫通する孔が設けられている。この孔の内壁には第二導体層と第三導体層との間を電気的に接続する管状の金属膜が設けられている。これ故、第一誘電体層と、孔の内壁に形成された管状の金属膜と、第三誘電体層とを介して、第一伝送線路が第二伝送線路と電磁結合されることとなる。この構造によれば、孔の周りには例えば特許文献1に記載のビアホール群などを設ける必要はない。よって、管状の金属膜を内壁に有する孔の周囲に、例えば、ビアホール群を設けることなく別の管状の金属膜を内壁に有する孔などの電磁結合構造を配置することができる。したがって、電磁結合構造を高密度に集積できる多層伝送線路板を提供できる。
【0015】
また、上述の電磁結合構造において、外側導体層は一対の外側誘電体層の面内方向に延在し、外側導体層の延在方向と直交する方向における孔の幅は、使用される周波数に対応する実効波長以下に設定されていることが好ましい。
【0016】
また、上述の電磁結合構造において、第一導体層は第一誘電体層の面内方向に延在し、第四導体層は第三誘電体層の面内方向に延在し、第四導体層の延在方向と直交する方向における孔の幅は、使用される周波数に対応する実効波長以下に設定されていることが好ましい。
【0017】
また、上述の多層伝送線路板において、伝送線路をなす外側導体層は一対の外側誘電体層の面内方向に延在し、伝送線路をなす外側導体層の延在方向と直交する方向における孔の幅は、使用される周波数に対応する実効波長以下に設定されていることが好ましい。
【0018】
また、上述の多層伝送線路板において、第一伝送線路をなす第一導体層は第一誘電体層の面内方向に延在し、第二伝送線路をなす第四導体層は第三誘電体層の面内方向に延在し、第四導体層の延在方向と直交する方向における孔の幅は、使用される周波数に対応する実効波長以下に設定されていることが好ましい。なお、第四導体層の延在方向における孔の幅は、第一導体層及び第四導体層の延在方向と直交する方向における孔の幅よりも短い。
【0019】
このように孔の幅を設定することにより、伝送損失を抑制しながら電磁結合構造の高密度集積化を達成できる。また、上述の電磁結合構造あるいは多層伝送線路板において、管状の金属膜はめっき膜であることが、生産効率の観点から好ましい。
【0020】
また、上述の電磁結合構造あるいは多層伝送線路板において、管状の金属膜が形成された孔内に、10GHzにおける誘電正接が0〜0.0300及び10GHzにおける比誘電率が2〜30の少なくとも一方を満たす誘電体が充填されていることが好ましい。
【0021】
伝送損失は材料の誘電正接に比例して大きくなるので、このように誘電正接が低い誘電体を孔内に充填することにより、伝送損失が抑制される。また、比誘電率が高い誘電体を孔内に充填することにより、孔内部を通る信号の波長が短縮されるため、これに合わせて孔の幅も狭くなり、電磁結合構造の高密度化が可能になると共に孔開けコストの低減にもつながる。このとき、伝送損失は孔内に充填される誘電体の比誘電率が大きくなると増加するが、誘電正接が低い誘電体を孔内に充填することによって高密度化と伝送損失の抑制を両立できる。
【0022】
また、管状の金属膜が形成された孔内に空気を充填させてもよい。この場合も、誘電体を孔内に充填した場合と同様に、伝送損失が抑制される。また、誘電体を充填する工程を省くことができ、工程の簡単化が図られる。
【0023】
また、本発明のマイクロ波帯の周波数帯域で使用される電磁結合構造の製造方法は、複数のグランド層となる内側導体層の間に内側誘電体層が配置される積層体を形成する工程と、積層体における内側誘電体層及び複数のグランド層となる内側導体層を貫通する孔を設ける工程と、孔の内壁に管状の金属膜を設ける工程と、積層体を間に挟んで対向する一対の外側誘電体層を形成する工程と、一対の外側誘電体層を間に挟んで対向する一対の外側導体層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。この製造方法によれば、上述の電磁結合構造を効率よく生産することができる。
【0024】
また、本発明のマイクロ波帯の周波数帯域で使用される伝送線路板の製造方法は、複数のグランド層となる内側導体層の間に内側誘電体層が配置される積層体を形成する工程と、積層体における内側誘電体層及び複数のグランド層となる内側導体層を貫通する孔を設ける工程と、孔の内壁に管状の金属膜を設ける工程と、積層体を間に挟んで対向する一対の外側誘電体層を形成する工程と、一対の外側誘電体層を間に挟んで対向する一対の外側導体層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。この製造方法によれば、上述の伝送線路板を効率よく生産することができる。
【0025】
また、上述の電磁結合構造あるいは多層伝送線路板の製造方法において、管状の金属膜をめっきによって形成することが、さらなる生産効率向上の観点から好ましい。
【0026】
また、上述の電磁結合構造の製造方法あるいは多層伝送線路板の製造方法において、管状の金属膜が形成された前記孔内に、10GHzにおける誘電正接が0〜0.0300及び10GHzにおける比誘電率が2〜30の少なくとも一方を満たす誘電体が充填する工程を更に備えることが好ましい。
【0027】
伝送損失は材料の誘電正接に比例して大きくなるので、このように誘電正接が低い誘電体を孔内に充填することにより、伝送損失が抑制される。また、比誘電率が高い誘電体を孔内に充填することにより、孔内部を通る信号の波長が短縮されるため、これに合わせて孔の幅も狭くなり、電磁結合構造の高密度化が可能になると共に孔開けコストの低減にもつながる。このとき、伝送損失は孔内に充填される誘電体の比誘電率が大きくなると増加するが、誘電正接が低い誘電体を孔内に充填することによって高密度化と伝送損失の抑制を両立できる。
【0028】
また、管状の金属膜が形成された前記孔内に空気を充填する工程を備えることも好ましい。この場合も、誘電体を孔内に充填した場合と同様に、伝送損失が抑制される。また、誘電体を充填する工程をより簡略化できるので好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高密度に集積できる電磁結合構造、多層伝送線路板、電磁結合構造の製造方法、及び多層伝送線路板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る電磁結合構造を有する多層伝送線路板の好適な実施形態について詳細に説明する。図中には、XYZ直交座標軸系Cが適宜示されている。
【0032】
本発明に係る電磁結合構造を有する多層伝送線路板は、マイクロ波帯の高周波数帯域で使用されるものである。ここでいうマイクロ波帯の周波数帯域とは、具体的に10GHz〜100GHzの周波数帯域である。
【0033】
図1は、本実施形態に係る電磁結合構造を有する多層伝送線路板の一実施形態を示す分解斜視図である。
図1に示すように、多層伝送線路板1は、第一導体層11、第一誘電体層21、第二導体層12、第二誘電体層23、第三導体層15、第三誘電体層25、及び第四導体層16がこの順に積層されている。ここで、第二誘電体層23が内側誘電体層に相当し、第二導体層12及び第三導体層15が複数のグランド層となる内側導体層に相当し、第一誘電体層21及び第三誘電体層25が一対の外側誘電体層に相当し、第一導体層11及び第四導体層16が一対の外側導体層に相当する。
【0034】
図2に、多層伝送線路板1における第一導体層11及び第四導体層16の延在方向に平行な方向であるII−II線に沿った断面構成を示す。第一導体層11は第一伝送線路をなす部分である。また、第四導体層16は第二伝送線路をなす部分である。これら第一伝送線路と第二伝送線路は、電磁界的に接続されるべき高周波伝送線路である。
【0035】
第一伝送線路をなす第一導体層11は第一誘電体層21の面内方向に延在している。第二伝送線路をなす第四導体層16は第三誘電体層25の面内方向に延在している。
図1や
図2に示す例では、第一導体層11及び第四導体層16は、Y方向を長軸として延在している。なお、この第一導体層11及び第四導体層16の延在方向(
図1や
図2に示すY方向)は、第一導体層11、第一誘電体層21、第二導体層12、第二誘電体層23、第三導体層15、第三誘電体層25、及び第四導体層16の積層方向(
図1や
図2に示すZ方向)と直交している。
【0036】
第二導体層12及び第三導体層15は、グランド層をなす地導体である。
【0037】
第一誘電体層21、第二誘電体層23、及び第三誘電体層25は、第一導体層11、第二導体層12、第三導体層15、及び第四導体層16を互いに電気的に絶縁するための部分である。第一誘電体層21及び第三誘電体層25は、低誘電損失の材料が好ましく、例えばセラミック、テフロン(登録商標)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンエーテルの変性物、液晶ポリマなどの絶縁材料である。なお、第一誘電体層21及び第三誘電体層25として、ガラス繊維を含んでいてもよい。第二誘電体層23は、低損失材料を用いると伝送線路板全体として低損失になるので好ましいが、電磁結合構造の損失には影響しないので、コストを考慮してFR−4レベルの通常のエポキシ基板等を用いてもよい。なお、第二誘電体層23として、ガラス繊維を含んでいてもよい。
【0038】
多層伝送線路板1には、第二導体層12、第二誘電体層23、及び第三導体層15を貫通する孔Sが設けられている。貫通穴である孔Sは、第一伝送線路をなす第一導体層11と、第二伝送線路をなす第四導体層16とが対向する領域に設けられている。孔Sの内壁には、めっき(例えば無電解めっき)によって管状の金属膜3が形成されている。よって、第二導体層12及び第三導体層15が、管状の金属膜3を介して電気的に接続されるので、第一伝送線路をなす第一導体層11と第二伝送線路をなす第四導体層16とが電磁結合されることとなる。なお、管状の金属膜3は、孔Sの内壁の全面に亘って形成されていることが好ましいが、当該管状の金属膜3には、使用される周波数に対応する実効波長λの1/4未満の大きさの穴があってもよい。
【0039】
管状の金属膜3が形成された孔S内には、誘電正接の低い誘電体4又は比誘電率の高い誘電体4が充填されていることが好ましい。本実施形態では、10GHzにおける誘電正接が0〜0.0300である誘電体4、又は10GHzにおける比誘電率が2〜30である誘電体4を用いることが好ましい。誘電体4は、上記誘電正接及び比誘電率のいずれも満たすものであってもよい。伝送損失は材料の誘電正接に比例して大きくなるので、孔S内が低誘電正接の材料で充填されていることにより伝送損失を抑制できる。また、比誘電率が高い誘電体4を孔内に充填することにより、孔S内部を通る信号の波長が短縮されるため、これに合わせて孔Sの幅も狭くなり、電磁結合構造の高密度化が可能になると共に孔開けコストの低減にもつながる。このとき、伝送損失は孔S内に充填される誘電体4の比誘電率が大きくなると増加するが、誘電正接が低い誘電体4を孔S内に充填することによって高密度化と伝送損失の抑制を両立できる。
【0040】
また、
図1に示す例では、XY平面に平行となるように切った孔Sの断面は、X方向に延びる帯状部分の両端のそれぞれにおいて、この帯状部分の外側に向かって半円部分が突出するようにして設けられた形状をなしている。第一導体層11及び第四導体層16の延在方向(
図1に示すY方向)と直交する方向(X方向)における孔Sの幅Wは、多層伝送線路板1で使用される周波数に対応する実効波長λ以下となるように設定されている。このように孔Sの幅Wを設定することにより、伝送損失を抑制しながら電磁結合構造の高密度集積化を達成できる。
【0041】
また
図2に示すように、第一伝送線路をなす第一導体層11は一端部に開放端11Pを有し、第二伝送線路をなす第四導体層16は一端部に開放端16Pを有する。孔Sの中心(第一伝送線路をなす第一導体層11の延在方向(Y軸方向)における孔Sの長さの真ん中部分)から開放端11Pあるいは開放端16Pまでの距離L1は、およそ上記実効波長λの1/4程度となるように設定されている。このような構成により、伝送損失を抑制できる。なお、念のため付言するが、第一伝送線路をなす第一導体層11及び第二伝送線路をなす第四導体層16は、同じ方向から孔Sに向かって延在する構成であってもよい。
【0042】
以下に、多層伝送線路板1の製造方法の一例を示す。まず、
図3(a)に示すように、誘電体層23aの両面に銅箔などの導体層12a、15aが形成された積層体を準備する。次いで、
図3(b)に示すように、この積層体にドリルなどで穴開けをすることにより、孔Sを有し、導体層12a、15aを両面に備える誘電体層23を形成する。続いて、孔Sの内壁に管状の金属膜3をめっきにより形成する。例えば
図3(c)に示すように、孔Sが形成された積層体に無電解めっき処理を行うことにより、孔Sの内壁に管状の金属膜3が形成されるとともに、
図3(b)に示す導体層12a、15aよりも厚い導体層12、15が誘電体層23の両面に形成される。これにより、
図3(c)に示すように、誘電体層23を間に挟んで対向する導体層12、15を貫通する孔Sの内壁に管状の金属膜3が形成された積層体30が得られる。なお、管状の金属膜3の厚みは5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上50μm以下であることがより好ましい。管状の金属膜3の厚みが5μm未満であると、管状の金属膜を均一に形成できなくなる恐れがある。管状の金属膜3は、めっき以外に蒸着やスパッタリングによって形成することも可能であるが、上記厚みを効率よく均一に得るためにはめっきによって形成することが好ましい。
【0043】
めっき処理の後、管状の金属膜3が形成された孔S内に誘電体4を充填する。
図4(a)に示すように、誘電体4の表面を研磨して平坦化する。次いで、
図4(b)に示すように、一対の誘電体層21、25を、積層体30を間に挟んで対向させ、さらに導体層11a、16aを、誘電体層21、25を間に挟んで対向させた上で、これらを加熱圧着させる。これにより、導体層11a、誘電体層21、導体層12、誘電体層23、導体層15、誘電体層25、及び導体層16aがこの順に積層された構造体とすることができる。最後に、導体層11a、16aを例えばエッチングでパターニングすることにより、
図4(c)に示すように、孔Sを間に挟んで対向するような位置に、伝送線路をなす導体層11、16を形成する。以上のようにして、
図1及び
図2に示した電磁結合構造を有する多層伝送線路板1が得られる。
【0044】
以上のような電磁結合構造を有する多層伝送線路板1では、第二導体層12、第二誘電体層23、及び第三導体層15を貫通する孔Sの内壁に、第二導体層12と第三導体層15との間を電気的に接続する管状の金属膜3が設けられている。このため、第一伝送線路をなす第一導体層11と第二伝送線路をなす第四導体層16とが第一誘電体層21と前記孔Sの内壁に形成された管状の金属膜と第三誘電体層25を介して電磁結合されることとなる。よって、孔Sに隣接する回路又は配線との距離を従来よりも短くすることができ、電磁結合構造をより高密度に集積できる多層伝送線路板1を提供できる。
【0045】
また、このような多層伝送線路板1では伝送損失が小さい。なぜならば、
図2に示すように、多層伝送線路板1では、伝送線路をなす第一導体層11及び第四導体層16の上の電磁界モードが、グランド層をなす第二導体層12及び第三導体層15と、これら第二導体層12及び第三導体層15を電気的に接続する管状の金属膜3との積層体を間に挟んで、「鏡像」の関係にある。つまり、この積層体は、伝送線路の鏡像現象の中心位置である多層伝送線路板1の積層方向の中央に配置されている。この構成により、電磁界が安定し、強いモード結合を得られるので、伝送損失が抑制される。
【0046】
以上、本実施形態における電磁結合構造を有する多層伝送線路板1を説明したが、本発明はこれらに限定されない。上記では、複数のグランド層となる内側導体層の間に内側誘電体層が挟まれて積層された積層体の例を示したが、積層体の形態はこれに限定されない。例えば、このような積層体中において、内側誘電体層以外にグランド層とならない導体層があってもよい。この場合には、例えば、グランド層となる内側導体層の間において、グランド層とならない導体層及び内側誘電体層が挟まれる構造となる。また、例えば、管状の金属膜3が形成された孔S内は、誘電体として、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂の他に例えば空気層とすることができる。空気は、誘電率、誘電正接ともに低いので、多層伝送線路板1の伝送損失が抑制される。また、孔Sの断面形状は、上述したような帯状部分と半円部分とからなる形状をなしていることが好ましいが、この形状に限られず、例えば円形、矩形などでもよい。
【0047】
また、上記電磁結合構造を実現するための具体的な構造としては、第二誘電体層23の厚みは0.02mm以上4mm以下であることが好ましく、0.02mm以上2mm以下であることがより好ましい。第二導体層12の第一誘電体層21側の表面及び第三導体層15の第三誘電体層25側の表面は、表皮効果を考慮して表面粗さが小さい方が好ましく、表面粗さ(十点平均粗さ;Rz)が0.1μm以上9μm以下であることが好ましく、0.1μm以上6μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上3μm未満であることがさらに好ましい。
【0048】
また、第二導体層12及び第三導体層15の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、12μm以上50μm以下であることがより好ましい。このような構造を得るための材料としては、一般的な多層配線板材料であれば特に問題はなく、セラミック系や有機系の配線板材料を用いることができる。安価な多層伝送線路板1を得るために、高周波信号を流さない配線層には、汎用的な多層配線板材料を用いることができる。よって、第二導体層12、第二誘電体層23、及び第三導体層15として、例えば、両面銅張り積層板であるMCL−E−679(日立化成工業株式会社製、商品名)等を適用できる。
【0049】
また、高周波信号を流す伝送線路の伝送損失を抑制するためには、低誘電率かつ低誘電正接の配線板材料が好ましい。例えば、第一誘電体層21や第三誘電体層25として、低誘電正接高耐熱多層材料である両面銅張り積層板MCL−FX−2(日立化成工業株式会社製、商品名)やプリプレグGFA−2(日立化成工業株式会社製、商品名)が適用できる。第一誘電体層21や第三誘電体層25の厚みは、0.02mm以上0.8mm以下であることが好ましく、0.07mm以上0.2mm以下であることがより好ましい。
【0050】
また、第一伝送線路をなす導体層11や第二伝送線路をなす導体層16を作製する際に用いられる銅箔に関しては、第一導体層11の第一誘電体層21側の表面及び第四導体層16の第三誘電体層25側の表面は、表皮効果を考慮して表面粗さが小さい方が好ましく、表面粗さ(Rz)が0.1μm以上9μm以下であることが好ましく、0.1μm以上6μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上3μm未満であることがさらに好ましい。第一伝送線路をなす導体層11及び第二伝送線路をなす導体層16の厚みは、5μm以上50μm以下であることが好ましく、12μm以上50μm以下であることがより好ましい。このような材料として、例えば3EC−VLP−12(三井金属鉱業株式会社製、商品名)などがある。
【0051】
また、上記では導体層が第一導体層11、第二導体層12、第三導体層15、第四導体層16の計4層である例を示したが、導体層は4層以上とすることができる。例えば
図5に示すように、導体層を6層とすることができる。
図5に示す多層伝送線路板2が
図2に示した多層伝送線路板1と異なるのは、グランド層となる第二導体層12と第三導体層15との間に、更に信号線となる第五導体層13と第六導体層14を備え、これら第二導体層12、第五導体層13、第六導体層14、及び第三導体層15の間を絶縁するための誘電体層31、32、33が設けられている点である。
【0052】
ここで、第五導体層13と第六導体層14は、内層の信号線をなす部分である。
図5に示すように、第五導体層13と第六導体層14は、孔Sの内壁に形成された管状の金属膜3とは誘電体層31、32、33によって絶縁されている。このように、多層伝送線路板2は、複数の内側誘電体層31、32、33及び複数の導体層12、13、14、15が交互に積層された積層体(ここでは、第二導体層12及び第三導体層15がグランド層となる内側導体層に相当する)と、当該積層体を間に挟んで対向する一対の外側誘電体層21、25と、この一対の外側誘電体層21、25を間に挟んで対向する一対の外側導体層11、16と、を備えている。当該積層体における複数の内側誘電体層31、32、33及び複数の導体層12、13、14、15の全ての層を貫通する孔Sの内壁には、管状の金属膜3が形成されている。故に、多層伝送線路板2は、第一誘電体層21、管状の金属膜3、及び第三誘電体層25を介して、伝送線路をなす一対の外側導体層11、16間が電磁結合される電磁結合構造を有することとなる。従って、上記実施形態と同様に、孔Sに隣接する回路又は配線との距離を従来よりも短くすることができ、より高密度な多層伝送線路板を提供できる。
【0053】
図5に示した例では、グランド層となる内側の第二導体層12及び第三導体層15の間に信号線となる導体層を複数設けた例について説明したが、信号線となる層間にさらにグランド層となる内側導体層を設けることができる。例えば
図6に示すように、内側導体層及び外側導体層を合わせて計8層とすることができる。
図6に示す多層伝送線路板5が
図5に示した多層伝送線路板2と異なるのは、第五導体層13と第六導体層14との間に、グランド層となる内側導体層として第七導体層17及び第八導体層18を更に備え、これら第五導体層13、第六導体層14、第七導体層17、及び第八導体層18の間を絶縁するための内側誘電体層34、23、35が設けられている点である。
図6に示すように、グランド層となる第七導体層17及び第八導体層18は、孔Sの内壁に形成された管状の金属膜3と電気的に接続されている。このような構造にすると、
図1に示した構造よりも、より多くの信号線を通すことができる。また、
図5に示した構造に比べ、第五導体層13と第六導体層14の間にグランド層となる第七導体層17及び第八導体層18が設けられていることにより、上層又は下層にある信号線とのクロストークの影響やインピーダンス変動の影響がないので、好ましい。
【0054】
このように、多層伝送線路板5は、複数の内側誘電体層31、34、23、35、33及び複数の導体層12、13、17、18、14、15が交互に積層された積層体(このうち、導体層12、17、18及び15がグランド層となる内側導体層に相当する)と、当該積層体を間に挟んで対向する一対の外側誘電体層21、25と、この一対の外側誘電体層21、25を間に挟んで対向する一対の外側導体層11、16と、を備えている。当該積層体における複数の内側誘電体層31、34、23、35、33及び複数の導体層12、13、17、18、14、15の全ての層を貫通する孔Sの内壁には、管状の金属膜3が形成されている。故に、多層伝送線路板5は、第一誘電体層21、管状の金属膜3、及び第三誘電体層25を介して、伝送線路をなす一対の外側導体層11、16間が電磁結合される電磁結合構造を有することとなる。従って、上記実施形態と同様に、孔Sに隣接する回路又は配線との距離を従来よりも短くすることができ、より高密度な多層伝送線路板を提供できる。
【0055】
上述の多層伝送線路板5は、例えば以下の方法によって製造することができる。まず、第七導体層17、第二誘電体層23、第八導体層18として両面銅張り積層板aを用意する。次いで、当該積層板aの両側に第二導体層12、第四誘電体層31、及び第五導体層13として両面銅張り積層板bを用意するとともに、第三導体層15、第五誘電体層33、及び第六導体層14として両面銅張り積層板cを用意する。両面銅張り積層板bの第五導体層13及び両面銅張り積層板cの第六導体層14では、エッチング等によって各導体の一部を孔Sよりも大きく除去することにより、信号線を予め形成する。次いで、両面銅張り積層板aの外側に、第六誘電体層34及び第七誘電体層35としてプリプレグをそれぞれ載置する。さらに、両面銅張り積層板bの第五導体層13側及び両面銅張り積層板cの第六導体層14側が両面銅張り積層板a側を向くように載置する。その後、加熱加圧により積層体を形成した後、ドリル等で孔Sを設ける。その後、例えば無電解銅めっきによって孔Sの内壁をめっきすることにより、内側導体層(すなわち第二導体層12、第七導体層17、第八導体層18、及び第三導体層15)を電気的に接続する。
【0056】
さらに、積層体の外側に一対の外側誘電体層(すなわち第一誘電体層21及び第三誘電体層25)としてプリプレグをそれぞれ載置する。さらにその外側に一対の外側導体層(すなわち第一導体層11及び第四導体層16)として銅箔をそれぞれ載置する。その後、加熱加圧した後、第一導体層11及び第四導体層16の一部をエッチング等で除去することにより、伝送線路層を形成する。
【0057】
なお、
図5及び
図6では、積層体の最外層が導体層である場合を示したが、必ずしも導体層を最外層に設ける必要はなく、最外層が誘電体層であってもよい。また、誘電体層と導体層を必ずしも交互に積層する必要はなく、複数の誘電体層を重ねて設けるか又は複数の導体層を重ねて設けてもよい。
【0058】
以下、実施例1〜4及び比較例1〜2について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例1〜4及び比較例1〜2では、周波数帯が60〜80GHzである場合における電磁結合構造の伝送損失の測定を行った。ここで、上記で説明した電磁結合構造は多層伝送線路板の表面と裏面に配線(すなわち第一導体層11と第四導体層16)が分かれているために、そのままではウェハプローバ等を使って高周波測定をすることが困難である。そのため、以下の実施例1〜4では、
図7(a)や
図8(a)に示すように、1つの第四導体層16の代わり2つの第四導体層161、162を用い、1つの孔Sの代わりに2つの孔Sを用いた多層伝送線路板1Aを準備した。このように2個のスロット結合を直列に接続することにより、プロービングによる測定を可能にした。なお、高周波測定時にプローブを向かい合わせて測定するために、一方の第四導体層161の形状を長辺16A及び短辺16CからなるL字形状とするとともに、他方の第四導体層162の形状を長辺16B及び短辺16DからなるL字形状とした。これら短辺16C及び短辺16Dは、プロービング測定の際の端子接続部として用いた。また、第一導体層11の代わりとして、一端11A、他端11B、及びこれら一端11Aと他端11Bとを連結する連結部11Cからなるコの字形状の第一導体層110を用いた。
(実施例1)
【0059】
図7(a)は多層伝送線路板1Aを第四導体層161、162側から見た上面透視図である。
図7(b)は
図7(a)のVIIb−VIIb線に沿った断面図である。実施例1では、伝送線路(第一導体層110)、第一誘電体層21、第二導体層12、第二誘電体層23、第三導体層15、第三誘電体層25、及び2つの伝送線路(第四導体層161及び第四導体層162)がこの順に積層された多層伝送線路板1Aを作製した。
図7(b)に示すように、内層の回路板に形成された一方の孔Sに対応する位置に、外側導体層に相当する伝送線路として第一導体層110及び第四導体層161を対向配置するとともに、他方の孔Sに対応する位置に、外側導体層に相当する伝送線路として第一導体層110及び第四導体層162を対向配置した。なお、ここでの「対向配置」とは、孔Sの中心(第二伝送線路をなす第四導体層16の延在方向(Y軸方向)における孔Sの長さの真ん中部分)と、第一導体層110又は第四導体層161、162の開放端11P或いは開放端16Pからおよそ実効波長λの1/4程度内側の導体層上の点とを合わせるように配置することを意味する。
【0060】
この際、多層伝送線路板1Aの中心付近において、第四導体層161の長辺16Aが第四導体層162の長辺16Bと所定の間隔を置いて向き合うように、第四導体層161及び第四導体層162を配置した。また、第四導体層161の長辺16A及び第一導体層110の一端11Aの延在方向(
図7(a)の例ではY軸方向)を一方の孔Sの長軸方向と直交する向きに配置した。同様に、第四導体層162の長辺16B及び第一導体層110の他端11Bの延在方向(
図7(a)の例ではY軸方向)を他方の孔Sの長軸方向と直交する向きに配置した。2個の孔Sの各々において内壁に形成された管状の金属膜3を介して、第二導体層12と第三導体層15とを電気的に接続させた。これ故、第一誘電体層21、管状の金属膜3、及び第三誘電体層25を介して、伝送線路である第一導体層110が第四導体層161と電磁結合されるとともに、伝送線路である第一導体層110が第四導体層162と電磁結合される電磁結合構造100を形成した。
【0061】
以下、多層伝送線路板1Aの具体的な製造方法について説明する。まず、(第二誘電体層23となる)誘電体層の両面に(第二導体層12及び第三導体層15となる)銅箔が形成された積層板(日立化成工業株式会社製、商品名MCL−E−679)を準備した。この積層板の厚さは0.5mmであり、各銅箔の厚さは12μm、誘電体層側の表面粗さRz:6.0μmであった。次いで、この積層体に直径0.25mmのドリルを用いて直径0.25mm、幅W1.45mmの穴開けをして2つの孔Sを形成した。この2つの孔Sの内壁及び銅箔表面に銅めっきを10μm施した後、各孔S内に誘電体4に相当する穴埋め樹脂(太陽インキ製造株式会社製、商品名DX−1、10GHzにおける誘電正接0.03、比誘電率3.5)を印刷し、表面を研磨して内層回路板を作製した。なお、
図7(b)において、第二導体層12となる銅箔及び第三導体層15となる銅箔の表面上の銅めっき膜の図示は省略してある。
【0062】
次に、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、上記内層回路板、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)の順にこれらを重ねて、温度180℃、圧力3MPa、時間80分の条件で積層一体化した多層伝送線路板を作製した。
【0063】
最後に、この多層伝送線路板に対し、上下の銅箔をエッチングでパターニングした。上側の銅箔をパターニングすることにより、2つのL字形状の第四導体層161、162を得た。また、下側の銅箔をパターニングすることにより、コの字形状の第一導体層110を得た。この際、内層回路板で形成した一方の孔Sに対応する位置に、幅220μmの伝送線路として第四導体層161の長辺16A及び第一導体層110の一端11Aを対向配置させるとともに、もう一方の孔Sに対応する位置に、幅220μmの伝送線路として第四導体層162の長辺16B及び第一導体層110の他端11Bを対向配置させた。
【0064】
これらの伝送線路(すなわち第四導体層161、第四導体層162、及び第一導体層110)は、特性インピーダンス50Ωとしたマイクロストリップラインである。以上のようにして、
図7(a)、(b)に示すような2個の孔Sを有する電磁結合構造100を有する多層伝送線路板1Aを作製した。ここで、伝送線路である一方の第四導体層161の長辺16Aの内側から他方の第四導体層162の長辺16Bの内側までの最短距離L2は、1.63mmであった。
(実施例2)
【0065】
実施例1では、各孔S内の誘電体4として樹脂を穴埋め印刷したが、実施例2では、各孔S内に10GHzにおける比誘電率が2.8、誘電正接が0.003の誘電体4を穴埋め印刷し、その他の条件は実施例1と同様にして、
図7(a)、(b)に示すような2個の孔Sを有する電磁結合構造101を有する多層伝送線路板を作製した。ここで、伝送線路である一方の第四導体層161の長辺16Aの内側から他方の第四導体層162の長辺16Bの内側までの最短距離L2は、1.63mmであった。
(実施例3)
【0066】
まず、誘電体層の両面に銅箔が形成された積層板(日立化成工業株式会社製、商品名MCL−E−679)を準備した。この積層板の厚さは0.5mmであり、銅箔の厚さは12μm、誘電体層側の表面粗さRz:6.0μmであった。次いで、この積層体に直径0.25mmのドリルを用いて直径0.25mm、幅W1.00mmの穴開けをして2つの孔Sを形成した。この2つの孔Sの内壁及び銅箔表面に銅めっきを10μm施した後、各孔S内に10GHzにおける比誘電率が15、誘電正接が0.03の誘電体4を印刷し、表面を研磨して内層回路板を作製した。なお、
図7(b)において、銅箔12及び15表面上の銅めっき膜は省略してある。
【0067】
次に、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、上記内層回路板、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)の順にこれらを重ねて、温度180℃、圧力3MPa、時間80分の条件で積層一体化した多層伝送線路板を作製した。
【0068】
最後に、この多層伝送線路板に対し、上下の銅箔をエッチングでパターニングすることにより、内層回路板で形成した一方の孔Sに対応する位置に、幅220μmの伝送線路16A及び伝送線路11Aを対向して16A及び11Aの延在方向が孔Sの長軸方向と直交する向きになるよう配置するとともに、もう一方の孔Sに対応する位置に、幅220μmの伝送線路16B及び伝送線路11Bを対向して16B及び11Bの延在方向が孔Sの長軸方向と直交する向きになるよう配置した。
【0069】
これらの伝送線路16A、16B、110は、特性インピーダンス50Ωとしたマイクロストリップラインである。以上のようにして、
図7(a)、(b)に示すような2個の孔Sを有する電磁結合構造102を有する多層伝送線路板1Aを作製した。補足すると、多層伝送線路板1Aは、伝送線路110、第一誘電体層21、第二導体層12、第二誘電体層23、第三導体層15、第三誘電体層25、及び2つの伝送線路16A、16Bがこの順に積層され、2個の孔Sの各々において内壁に形成された管状の金属膜3を介して、第二導体層12と第三導体層15とが電気的に接続されることにより、第一誘電体層21、2個の孔Sの各々において内壁に形成された管状の金属膜3及び第三誘電体層25を介して、伝送線路11Aと伝送線路16Aとが電磁結合されるとともに、伝送線路11Bと伝送線路16Bとが電磁結合される電磁結合構造102を有する。なお、伝送線路16A、16B、110は、特性インピーダンスを50Ωとしたマイクロストリップラインである。以上のようにして、
図7(a)、(b)に示すような2個の孔Sを有する電磁結合構造102を有する多層伝送線路板1Aを作製した。ここで、伝送線路である一方の第四導体層161の長辺16Aの内側から他方の第四導体層162の長辺16Bの内側までの最短距離L2は、1.18mmであった。
(実施例4)
【0070】
実施例4では、実施例1で示した伝送線路板における積層体の導体層間に、信号線層となる導体層とグランド層となる導体層をそれぞれ2層ずつ形成するとともに、各導体層の間に誘電体層を介した電磁結合構造103を採用した。
【0071】
図8(a)及び
図8(b)に、実施例4で作製した2個の孔Sを含む電磁結合構造103を有する多層伝送線路板1Bを示す。
図8(a)は多層伝送線路板1Bを第四導体層161、162側から見た上面透視図である。
図8(b)は
図8(a)のVIIIb−VIIIb線に沿った断面図である。多層伝送線路板1Bでは、第一導体層110、第一誘電体層21、第二導体層12、第四誘電体層31、第五導体層13、第六誘電体層34、第七導体層17、第二誘電体層23、第八導体層18、第七誘電体層35、第六導体層14、第五誘電体層33、第三導体層15、第三誘電体層25、及び2つの第四導体層161、162がこの順に積層された構造とした。
【0072】
図8(b)に示すように、2つの孔Sを第三導体層15から第二導体層12まで貫通させた。各孔Sの内壁には管状の金属膜3を形成した。内壁に管状の金属膜3を形成した各孔S内には、誘電体4を充填させた。金属膜3により、グランド層となる第二導体層12、第七導体層17、第八導体層18及び第三導体層15が電気的に接続される。また、信号線層となる第五導体層13及び第六導体層14は、孔Sに形成された金属膜3との電気的な接続がなされていない。
【0073】
また、
図8(a)に示すように、内層の回路板に形成された一方の孔Sに対応する位置に、外側導体層に相当する伝送線路として第一導体層110及び第四導体層161を対向配置するとともに、他方の孔Sに対応する位置に、外側導体層に相当する伝送線路として第一導体層110及び第四導体層162を対向配置した。この際、多層伝送線路板1Bの中心付近において、第四導体層161の長辺16Aが第四導体層162の長辺16Bと所定の間隔を置いて向き合うように、第四導体層161及び第四導体層162を配置した。また、第四導体層161の長辺16A及び第一導体層110の一端11Aの延在方向(
図8(a)の例ではY軸方向)を一方の孔Sの長軸方向と直交する向きに配置した。同様に、第四導体層162の長辺16B及び第一導体層110の他端11Bの延在方向(
図8(a)の例ではY軸方向)を他方の孔Sの長軸方向と直交する向きに配置した。以上のような電磁結合構造103では、2つの金属膜3を介して、第二導体層12と第三導体層15とが電気的に接続されることにより、第三誘電体層25、2つの金属膜3及び第一誘電体層21を介して、伝送線路である第一導体層110と伝送線路である第四導体層161、162とがそれぞれ電磁結合されることとなる。
【0074】
以下、多層伝送線路板1Bの具体的な製造方法について説明する。
【0075】
まず、誘電体層の両面に銅箔が形成された積層板(日立化成工業株式会社製、商品名MCL−E−679)(積層板1)を準備した。この積層板の厚さは0.1mmであり、銅箔の厚さは12μm、誘電体層側の表面粗さRz:6.0μmであった。次いで、板厚0.1mm及び銅箔厚さ12μmの両面銅張り積層板(日立化成工業株式会社製、商品名MCL−LX−67Y)(積層板2)を2枚用意した。用意した2枚の両面銅張り積層板の片側の銅箔の後に孔を設ける箇所を一回り(100μm)大きくエッチングで除去するとともに、所定の伝送線路をエッチングで形成した。
【0076】
積層板1の両面にプリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GXA−67Y、厚さ100μm)を載置し、さらにその外側に積層板2の伝送線路側を積層板1側に向けて重ねて、温度230℃、圧力3MPa、時間80分の条件で積層一体化した積層体を作製した。
【0077】
この積層体に直径0.25mmのドリルを用いて直径0.25mm、幅W1.45mmの穴開けをして2つの孔Sを形成した。この2つの孔Sの内壁及び銅箔表面に銅めっきを10μm施して管状の金属膜3を形成した後、各孔S内に誘電体4である穴埋め樹脂(太陽インキ製造株式会社製、商品名DX−1、10GHzにおける誘電正接0.03、比誘電率3.5)を印刷し、表面を研磨して内層回路板を作製した。なお、
図8(b)において、銅箔12及び15表面上の銅めっき膜は省略してある。
【0078】
次に、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、上記内層回路板、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)の順にこれらを重ねて、温度180℃、圧力3MPa、時間80分の条件で積層一体化した多層伝送線路板1Bを作製した。
【0079】
最後に、この多層伝送線路板に対し、上下の銅箔をエッチングでパターニングした。上側の銅箔をパターニングすることにより、2つのL字形状の第四導体層161、162を得た。また、下側の銅箔をパターニングすることにより、コの字形状の第一導体層110を得た。この際、内層回路板で形成した一方の孔Sに対応する位置に、幅220μmの第四導体層161の長辺16A及び第一導体層110の一端11Aを対向配置するとともに、他方の孔Sに対応する位置に幅220μmの第四導体層162の長辺16B及び第一導体層110の他端11Bを対向配置させた。また、第四導体層161の長辺16A及び第一導体層110の一端11Aの延在方向(
図8(a)に示すY軸方向)が、一方の孔Sの長軸方向(X軸方向)と直交する向きになるよう配置するとともに、他方の第四導体層162の長辺16B及び第一導体層110の他端11Bの延在方向(Y軸方向)が、他方の孔Sの長軸方向(X軸方向)と直交する向きになるよう配置した。
【0080】
これらの伝送線路(第四導体層161、162及び第一導体層110)は、特性インピーダンス50Ωとしたマイクロストリップラインである。以上のようにして、
図8(a)及び
図8(b)に示すような2個のスロットSを有する電磁結合構造103を有する多層伝送線路板1Bを作製した。ここで、伝送線路である一方の第四導体層161の長辺16Aの内側から他方の第四導体層162の長辺16Bの内側までの最短距離L2は、1.63mmであった。
(比較例1)
【0081】
図9は、比較例1に係る多層伝送線路板10の分解斜視図を示す。
図10は、
図9のX−X線に沿った断面図を示す。比較例1では、
図9及び
図10に示すような、第二導体層12のみを貫通するスロットS1と、第三導体層15のみを貫通するスロットS2とを有する多層伝送線路板10の構成を採用した。ここでスロットとは、導体層のみに設けられた孔のことである。多層伝送線路板10では、第一導体層(伝送線路)11、第一誘電体層21、第二導体層12、第二誘電体層23、第三導体層15、第三誘電体層25、及び第四導体層(伝送線路)16がこの順に積層されている。第一導体層11の延在方向(Y軸方向)は、第四導体層16の延在方向(Y軸方向)と同じとした。スロットS1、S2の長軸方向(X軸方向)は、各伝送線路の延在方向(Y軸方向)と直交させた。第一導体層11の一端を開放端11Pとし、第四導体層16の一端を開放端16Pとした。第一導体層11の開放端11PからスロットS1の中心までの距離L1は、使用される実効波長λの1/4程度とした。同様に、第四導体層16の開放端16PからスロットS2の中心までの距離L1は、使用される実効波長λの1/4程度とした。
【0082】
図10に示すように比較例1の多層伝送線路板10では、第二誘電体層23には、第二誘電体層23を貫通するような孔は設けられていない。ただし、上述したように、多層伝送線路板10の表面と裏面に配線(すなわち第一導体層11、第四導体層16)が分かれているために、そのままではウェハプローバ等を使って高周波測定をすることが困難である。このため実際は、実施例1〜4と同様に、
図11(a)及び
図11(b)に示すような、表面に2つのL字形状の伝送線路(すなわち2つの第四導体層161、162)を有し、裏面に1つのコの字形状の伝送線路(すなわち第一導体層110)を有する構成を採用し、また4つのスロットS1、S2、S3、S4を有する多層伝送線路板10Aを作製した。
【0083】
以下に、多層伝送線路板10Aの具体的な製造方法を説明する。まず、板厚0.5mm及び銅箔厚さ12μmの両面銅張り積層板(日立化成工業株式会社製、商品名MCL−E−679)を準備した。銅箔の誘電体層側の表面粗さは、Rz:6.0μmであった。銅箔をエッチングによりパターニングすることにより、長径1.9mm×短径0.4mmの4つのスロットS1、S2、S3、S4を有する内層回路板を作製した。スロットS1及びスロットS3は、第二導体層12となる銅箔のみを貫通するように形成し、スロットS2及びスロットS4は、第三導体層15となる銅箔のみを貫通するように形成した。また、積層方向(Z軸方向)から見て、スロットS1とスロットS2とが重なるように対向配置させるとともに、スロットS3とスロットS4とが重なるように対向配置させた。
【0084】
次に、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、上記内層回路板、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、厚さ12μmの銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)の順にこれらを重ね、温度180℃、圧力3MPa、時間80分の条件で積層一体化した多層伝送線路板を作製した。
【0085】
最後に、上下の銅箔をエッチングでパターニングした。すなわち、上側の銅箔をパターニングすることにより、2つのL字形状の第四導体層161、162を得た。また、下側の銅箔をパターニングすることにより、コの字形状の第一導体層110を得た。この際、内層回路板で形成したスロットS1及びスロットS2に対応する位置に、幅220μmの第一導体層110の一端11A及び第四導体層161の長辺16Aを対向配置させるとともに、第一導体層110の一端11A及び第四導体層161の長辺16Aの延在方向(
図11(a)に示すY軸方向)をスロットS1又はS2の長軸方向(X軸方向)と直交する向きにした。同様に、スロットS3及びスロットS4に対応する位置に、幅220μmの第一導体層110の他端11B及び第四導体層162の長辺16Bを対向配置させるとともに、第一導体層110の他端11B及び第四導体層162の長辺16Bの延在方向(
図11(a)に示すY軸方向)をスロットS3又はS4の長軸方向(X軸方向)と直交する向きにした。補足すると、多層伝送線路板10Aは、(伝送線路である)第一導体層110、第一誘電体層21、第二導体層12、第二誘電体層23、第三導体層15、第三誘電体層25、及び(2つの伝送線路である)第四導体層161、162がこの順に積層され、スロットS1及びスロットS2を介して、伝送線路である第一導体層110が第四導体層161と電磁結合されるとともに、スロットS3及びスロットS4を介して、伝送線路である第一導体層110が第四導体層162と電磁結合される電磁結合構造1000を有する。なお、伝送線路である第一導体層110、第四導体層161、162は、特性インピーダンスを50Ωとしたマイクロストリップラインである。以上のようにして、
図11(b)に示すような4個のスロットS1、S2、S3、S4を有する電磁結合構造1000を有する多層伝送線路板10Aを作製した。ここで、伝送線路である一方の第四導体層161の長辺16Aの内側から他方の第四導体層162の長辺16Bの内側までの最短距離L2は、2.08mmであった。
(比較例2)
【0086】
比較例2では、特許文献1の実施例1に相当する構造を採用した。具体的な構造を
図12、
図13(a)、及び
図13(b)に示す。
図12は、比較例2で高周波測定に用いた多層伝送線路板20Aの分解斜視図を示す。
図13(a)は、
図12の多層伝送線路板を上方の外側導体層側から見た上面透視図である。
図13(b)は、
図13(a)のXIIIb−XIIIb線に沿った断面図である。なお、高周波測定時にプローブを向かい合わせて測定するために、実施例1〜4と同様に、第四導体層を2つとし、これら第四導体層161及び第四導体層162をそれぞれL字形状とした。第三誘電体層25上において、第四導体層161の長辺16Aを第四導体層162の長辺16Bと平行に配置した。また、第四導体層161の短辺16C及び第四導体層162の短辺16Dをプロービング用の端子接続部として用いた。
図12に示すように、伝送線路である第四導体層161、162の下方には、誘電体層25を隔てて設けられた第三導体層15のみを貫通するスロットS12、S14を形成した。
図12又は
図13(a)に示すように、スロットS12、S14の長軸方向(X軸方向)は、第四導体層161の長辺16A及び第四導体層162の長辺16Bの延在方向(Y軸方向)に直交させた。また、第二導体層12のみを貫通させた孔としてスロットS11、S13を形成した。このスロットS11、S13は、第二誘電体層23を介してスロットS12、S14に対向する位置に形成した。ここでスロットS11〜14は導体層のみを貫通させて形成し、第二誘電体層23まで貫通させなかった。また、スロットS11、S12の周囲に一定間隔で複数のビアホール41を設けた。同様に、スロットS13、14の周囲に一定間隔で複数のビアホール41を設けた。各ビアホール41は、第三導体層15から第二誘電体層23を介して第二導体層12まで貫通させた。ビアホール41の内壁には無電解めっき41aがなされ、第二導体層12と第三導体層15をビアホール41の内壁を介して電気的に接続させた。このとき第二導体層12と第三導体層15の表面にも無電解めっきがなされたが、
図13(b)では第二導体層12及び第三導体層15表面のめっき膜の図示については、便宜上省略してある。
【0087】
第二導体層12の下部には、さらに第一誘電体層21を隔てて伝送線路である第一導体層110を設けた。第一導体層110は、
図12及び
図13(a)に示すようにコの字形状とした。第一導体層110の一端11Aの延在方向は、第四導体層161の長辺16Aの延在方向(
図13(a)に示すY軸方向)に平行とした。また、第一導体層110の他端11Bの延在方向は、第四導体層162の長辺16Bの延在方向(
図13(a)に示すY軸方向)に平行とした。この際、積層方向(Z軸方向)から見て、第一導体層110の一端11Aが、一方の孔S及び一方の第四導体層161の長辺16Aと重なるように配置するとともに、第一導体層110の他端11Bが、他方の孔S及び他方の第四導体層162の長辺16Bと重なるように配置した。
【0088】
以下、多層伝送線路板20Aの具体的な製造方法について説明する。まず、板厚0.5mm及び銅箔厚さ12μmの銅張り積層板(日立化成工業株式会社製、商品名MCL−E−679)に、後にエッチングにより形成する各スロットの周囲に複数のビアホール41(穴径0.15mmφ、隣接する穴同士の壁間距離0.4mm、穴壁とスロット間の距離0.1mm)の穴あけをし、ビアホールの内壁に無電解めっき41aを施した。そして前記銅張り積層板のビアホール41に囲まれた領域内に0.4mm×1.9mmのスロットS11〜S14を形成した。この際、スロットS11とスロットS12が対向配置されるとともに、スロットS13とスロットS14が対応配置されるように、エッチングによりパターニングして内層回路板を作製した(ステップS1)。なお、スロットS11、S12の延在方向とスロットS13、S14の延在方向を同一直線上とした。
【0089】
次に、12μm銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、ステップS1で得られた内層回路板、プリプレグ(日立化成工業株式会社製、商品名GFA−2、厚さ100μm)、12μm銅箔(三井金属鉱業株式会社製、商品名3EC−VLP−12、誘電体層側の表面粗さRz:3.0μm)の順にそれらを重ね、温度180℃、圧力3MPa、時間60分の条件で積層一体化した多層板を作製した(ステップS2)。
【0090】
最後に、ステップS2で得られた多層板において、上下の銅箔をエッチングでパターニングした。すなわち、上側の銅箔をパターニングすることにより、2つのL字形状の第四導体層161、162を得た。また、下側の銅箔をパターニングすることにより、コの字形状の第一導体層110を得た。この際、内層回路板に形成したスロットS11、S12と対応する位置に、幅0.22mmの伝送線路となる第四導体層161の長辺16Aを、スロットS11、S12の長軸方向(X軸方向)と直交する向きに延在させた。同様に、内層回路板に形成したスロットS13、S14と対応する位置に、幅0.22mmの伝送線路となる第四導体層162の長辺16Bを、スロットS13、S14の長軸方向(X軸方向)と直交する向きに延在させた。以上のようにして、スロット結合型層間接続構造1001を作製した。ここで、伝送線路である一方の第四導体層161の長辺16Aの内側から他方の第四導体層162の長辺16Bの内側までの最短距離L3は、2.58mmであった。
(測定結果)
【0091】
以上のように実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、及び比較例2で作製した電磁結合構造100、電磁結合構造101、電磁結合構造102、電磁結合構造103、電磁結合構造1000、及び電磁結合構造1001に対して、高周波測定用の端子部(すなわち16Cや16D)に、高周波プローブ(カスケードマイクロテック社製、商品名ACP−L−GSG150)を接触させ、同軸ケーブル(アジレントテクノロジーズ社製、商品名E7342)を介して接続されたネットワークアナライザ(アジレントテクノロジーズ社製、商品名HP8510C)から電力を供給すると共に、高周波測定用の端子部の端面に電力が通過する際の伝送損失を測定した。
【0092】
伝送損失を測定した結果を
図14〜
図17に示す。これらのグラフに示す特性は全て孔又はスロットを介した電磁結合が2個分の特性である。従って、孔又はスロットを介した電磁結合が1個分の伝送損失は、これらのグラフの伝送損失の概ね半分の特性となる。なお、測定結果のグラフには、測定したマイクロストリップラインの伝送損失も併せて示した。これにより、孔又はスロットを介した電磁結合部の伝送損失が算出できるようにした。以下、その算出方法とともに具体的に説明する。
【0093】
図14は、実施例1及び比較例1の高周波特性の測定結果を示すグラフである。
図14において、G1はマイクロストリップラインの伝送損失を示す。G2は、実施例1におけるマイクロストリップラインの2つの孔Sを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造100の伝送損失を示す。G3は、比較例1におけるマイクロストリップラインの4つのスロットS1、S2、S3、S4を介した電磁結合が2個分の電磁結合構造1000の伝送損失を示す。
【0094】
図15は、実施例1〜3の高周波特性の測定結果を示すグラフである。
図15において、G4では、マイクロストリップラインの伝送損失を示す。G5では、実施例1におけるマイクロストリップラインの2つの孔Sを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造100の伝送損失を示す。このG5は、G2と同じものである。G6では、実施例2におけるマイクロストリップラインの2つの孔Sを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造101の伝送損失を示す。G7では、実施例3におけるマイクロストリップラインの2つの孔Sを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造102の伝送損失を示す。
【0095】
図16は、比較例2の高周波特性の測定結果を示すグラフである。
図16において、G4はマイクロストリップラインの伝送損失を示す。G9は、比較例2におけるマイクロストリップラインの複数のビアホール41で囲まれたスロットS11〜S14を介した電磁結合が2個分の電磁結合構造1001の伝送損失を示す。
【0096】
図17は、実施例4の高周波特性の測定結果を示すグラフである。
図17において、G4はマイクロストリップラインの伝送損失を示す。G8は、実施例4におけるマイクロストリップラインの2つの孔Sを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造103の伝送損失を示す。
【0097】
また、電磁結合構造100、電磁結合構造101、電磁結合構造102、電磁結合構造103、電磁結合構造1000、及び電磁結合構造1001の71GHz時の特性をまとめて下記表1に示す。
【表1】
【0098】
図14のG2、
図15のG5、あるいは表1に示すように、71GHz時において、実施例1の電磁結合構造100において測定した基板の伝送損失は−3.74dBであり、この値から
図14のG1、
図15のG4、あるいは表1に示すマイクロストリップラインの伝送損失−1.82dBを引くと、−1.92dBとなる。この−1.92dBという値は、マイクロストリップラインの孔を介した電磁結合が2個分の電磁結合構造100の伝送損失であるので、この半分の値である−0.96dBが孔を介した電磁結合1個分の伝送損失となる。
【0099】
また、
図15のG6あるいは表1に示すように、71GHz時において、実施例2の電磁結合構造101において測定した基板の伝送損失は−3.14dBであり、この値から
図15のG4あるいは表1に示すマイクロストリップラインの伝送損失−1.82dBを引くと、−1.32dBとなる。この−1.32dBという値は、マイクロストリップラインの孔を介した電磁結合が2個分の電磁結合構造101の伝送損失であるので、この半分の値である−0.66dBが孔を介した電磁結合1個分の伝送損失となる。
【0100】
図15のG7、あるいは表1に示すように、71GHz時において、実施例3の電磁結合構造102において測定した基板の伝送損失は−4.08dBであり、この値から
図9のG1、あるいは表1に示すマイクロストリップラインの伝送損失−1.82dBを引くと、−2.26dBとなる。この−2.26dBという値は、マイクロストリップラインの孔を介した電磁結合が2個分の電磁結合構造102の伝送損失であるので、この半分の値である−1.13dBが孔を介した電磁結合1個分の伝送損失となる。
【0101】
また、
図17のG8あるいは表1に示すように、71GHz時において、実施例4の電磁結合構造103において測定した基板の伝送損失は−4.11dBであり、この値から
図17のG4あるいは表1に示すマイクロストリップラインの伝送損失−1.82dBを引くと、−2.29dBとなる。この−2.29dBという値は、マイクロストリップラインのスロットを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造103の伝送損失であるので、この半分の値である−1.15dBがスロットを介した電磁結合1個分の伝送損失となる。
【0102】
また、
図14のG3あるいは表1に示すように、71GHz時において、比較例1の電磁結合構造1000において測定した基板の伝送損失は−11.70dBであり、この値から
図14のG1あるいは表1に示すマイクロストリップラインの伝送損失−1.82dBを引くと、−9.88dBとなる。この−9.88dBという値は、マイクロストリップラインのスロットを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造101の伝送損失であるので、この半分の値である−4.94dBがスロットを介した電磁結合1個分の伝送損失となる。
【0103】
また、
図16のG9あるいは表1に示すように、71GHz時において、比較例2の電磁結合構造1001において測定した基板の伝送損失は−5.08dBであり、この値から
図16のG4あるいは表1に示すマイクロストリップラインの伝送損失−1.82dBを引くと、−3.26dBとなる。この−3.26dBという値は、マイクロストリップラインのスロットを介した電磁結合が2個分の電磁結合構造1001の伝送損失であるので、この半分の値である−1.63dBがスロットを介した電磁結合1個分の伝送損失となる。
【0104】
従って、71GHz帯での伝送損失は、実施例1の電磁結合構造100の方が、比較例1の電磁結合構造1000よりもかなり小さい。また、
図14に示されるように、60〜80GHzの周波数帯域にわたって、実施例1の電磁結合構造100の方が、比較例1の電磁結合構造1000よりも伝送損失がかなり小さい。また、71GHz帯での伝送損失は、実施例2の電磁結合構造101の方が、実施例1の電磁結合構造100よりも小さい。
【0105】
このように、
図11に示される比較例1のような従来の多層伝送線路板10Aと比較して、
図7に示される実施例1や実施例2のような多層伝送線路板1Aでは伝送損失が小さくなる。これは、比較例の多層伝送線路板では、伝送線路間の電磁結合が弱いことに起因する。電磁結合が弱まる理由は2つある。第一は、伝送線路間の距離が伝送線路の間に存在する多層構造の厚み分だけ遠くなるためである。第二は、比較例の多層伝送線路板では「鏡像」関係を利用して電磁結合を強める設計手法が取れないためである。
【0106】
図7(b)に示される実施例1や実施例2のような多層伝送線路板1Aでは、伝送線路をなす第一導体層110及び第四導体層161、162の上の電磁界モードが、グランド層をなす第二導体層12及び第三導体層15と、これら第二導体層12及び第三導体層15を電気的に接続する管状の金属膜3との積層体を間に挟んで、「鏡像」の関係にある。つまり、この積層体は、伝送線路の鏡像現象の中心位置である多層伝送線路板1Aの積層方向の中央に、配置されている。この構成により、電磁界が安定して強いモード結合を得られるので、伝送損失が抑制される。
【0107】
これに対し、
図11(b)に示される比較例1のような従来の多層伝送線路板10Aでは、伝送線路間(すなわち第四導体層161、162と第一導体層110の間)の距離を小さくすることができるが、鏡像原理によってモード結合を強めることができないので、スロットS1、S2間又はスロットS3、S4間にある第二誘電体層23から電力がX方向又はY方向に漏れてしまう。また、
図12に示される比較例2のような従来の多層伝送線路板20Aでは、比較例1に比べると伝送損失を小さく抑えられるが、実施例1及び実施例2に比べると、伝送損失がなお大きい。
【0108】
また、比較例2の構造では、伝送線路間の最短距離L3が2.58mmであったのに対して、実施例1〜実施例4の構造では、伝送線路間の最短距離L2は、実施例1,2,4で1.63mm、実施例3で1.18mmとなり、比較例2の構造よりも伝送線路をより密に配置できた。実施例3では、10GHzにおける誘電正接が0.0300、比誘電率が15の誘電体を孔内に充填した結果、孔内を通過する実効波長が短くなるため、孔の幅を狭くでき、伝送線路をより高密に配置できた。
【0109】
また、実施例4の構造では、伝送線路板全体の厚みが実施例1の場合に比べて若干厚い分伝送損失がやや大きくなっているが、比較例1の場合に比べ、十分小さい。また、実施例4の構造では、伝送線路間の最短距離L2も小さく、比較例2の構造よりも伝送線路をより密に配置できた。
【0110】
即ち、実施例1〜4の電磁結合構造を採用すると、比較例1及び比較例2のような従来の構造よりも伝送線路をより密に配置できるとともに、伝送損失を低く抑えられるという利点がある。
【0111】
なお、
図7(a)、
図8(a)、
図11(a)、及び
図13(a)に示した第一導体層110のように、伝送損失測定を行うために便宜的に伝送線路をL字形状やコの字形状とした。つまり、第四導体層161の短辺16C、第四導体層162の短辺16D、及び第一導体層110の連結部11Cは、プローブ測定の為に便宜的に設けているに過ぎないので、これらの部材の延在方向は、上述の孔Sやスロットの延在方向を検討するときには特に考慮しないこととする。