特許第5990872号(P5990872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許5990872リチウム二次電池負極材、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池
<>
  • 特許5990872-リチウム二次電池負極材、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5990872
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池負極材、リチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/587 20100101AFI20160901BHJP
【FI】
   H01M4/587
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2011-152374(P2011-152374)
(22)【出願日】2011年7月8日
(65)【公開番号】特開2013-20772(P2013-20772A)
(43)【公開日】2013年1月31日
【審査請求日】2014年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮内 隆行
(72)【発明者】
【氏名】須田 聡一郎
(72)【発明者】
【氏名】土屋 秀介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 崇
(72)【発明者】
【氏名】西田 達也
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2002/059040(WO,A1)
【文献】 特開2010−009951(JP,A)
【文献】 特開平11−192211(JP,A)
【文献】 特開2005−032571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有し、下記(1)調製条件に記載の配合及び調製方法に従って測定用ペーストを調製した場合に、下記(2)粘度測定条件に従って測定された前記測定用ペーストのペースト粘度が3.0Pa・s以上5.5Pa・s以下の範囲を示す黒鉛粒子を含むリチウムイオン二次電池負極材の製造方法であって、前記黒鉛粒子を黒鉛粉1kg当り50〜400kJの負荷を加えることで得る工程を含む、リチウムイオン二次電池負極材の製造方法。
(1)調製条件
前記測定用ペーストの配合:
増粘材:1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%水溶液の粘度:1500〜2500mPa・s、25℃)
(前記黒鉛粒子+前記増粘材)/(前記黒鉛粒子+前記増粘材+水)=0.45(質量比)
(前記黒鉛粒子):(前記増粘材)=99:1(質量比)
調製方法:
前記黒鉛粒子と前記増粘材を練りこみ、次いで、水を加えてペースト化する。
(2)粘度測定条件
使用測定器:
回転粘度計、スピンドル形状:同軸円筒
測定方法:
試験速度10rpmとして前記測定器を作動させ、1分後の測定温度25℃での粘度を測定する。
【請求項2】
前記黒鉛粒子の波長532nmのアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、R=I1350/I1580(I1350はラマンスペクトルにおいて1350〜1370cm−1の範囲のピーク強度、I1580は1580〜1620cm−1の範囲のピーク強度)で示されるRの値が0.1以上0.3以下である請求項1記載のリチウムイオン二次電池負極材の製造方法。
【請求項3】
前記黒鉛粒子の平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下である請求項1又は2記載のリチウムイオン二次電池負極材の製造方法。
【請求項4】
前記黒鉛粒子のBET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下ある請求項1〜請求項3のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池負極材の製造方法。
【請求項5】
前記黒鉛粒子のかさ密度が0.80g/cm以上1.00g/cm以下である請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のリチウムイオン二次電池負極材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池負極材(負極活物質)及びリチウム二次電池用負極並びにリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリチウムイオン二次電池の負極は、例えば天然黒鉛粒子、コークスを黒鉛化した人造黒鉛粒子、有機系高分子材料、ピッチ等を黒鉛化した人造黒鉛粒子、これらを粉砕した黒鉛粒子、メソフェーズカーボンを黒鉛化した球状黒鉛などがある。これらの黒鉛粒子はバインダ(有機結着剤ということもある)及び有機溶剤と混合して黒鉛ペーストとし、この黒鉛ペーストを銅箔の表面に塗布し、溶剤を乾燥して、リチウムイオン二次電池用負極として使用されている。例えば、負極に黒鉛を使用することでリチウムのデンドライトによる内容短絡の問題を解消し、サイクル特性の改良を図る試みがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、アスペクト比の大きい、いわゆる鱗状の粒子を用いた場合に、鱗状の粒子が集電体の面方向に配向し、サイクル特性の低下又は急速充放電特性の低下などが生じる傾向がある。
【0004】
これを改善するために、偏平状の粒子を複数配向面が非平行となるように集合又は結合させてなり、粒子内部に空隙を有する黒鉛粒子が提案されている(例えば、特許文献2参照)。このような黒鉛粒子は、急速放電特性、サイクル特性に優れ、リチウムイオン二次電池に好適に使用できるものである。
また、上記黒鉛粒子は、その大きな細孔容積のため電極塗工性、電極密着性等が低く、また、急速充電時の充電容量が小さく、第1サイクル目の充放電効率が低くなる等の傾向がある。これを改善するために、外部から力学的エネルギーを与えることなく、粒子表面の平滑化を行って、電極塗工性及び電極密着性を改善したものが提案されている(例えば、特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭62−23433号公報
【特許文献2】特開平10−158005号公報
【特許文献3】特開2005−32571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述のような各黒鉛粒子を使用したリチウムイオン二次電池負極は、高い電極密度で使用すると、電極表面近傍を中心に黒鉛粒子が潰れるため、電極に塗布された電極表面付近の黒鉛粒子間に空隙が極端に少なくなる。そのため、電極に電解液が浸透するのに時間がかかるか、もしくは、浸透しない部分が発生して、充放電に関与する黒鉛粒子の周りに電解液が不足・欠乏してしまう傾向がある。この傾向の解消に上述した技術が提案されているが、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、黒鉛粒子を用いたリチウムイオン二次電池負極を高い電極密度で使用した場合でも電解質が浸透しやすいリチウムイオン二次電池に好適な負極材、高容量リチウムイオン二次電池に好適なリチウム二次電池用負極、及びこのようなリチウム二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1] 複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有し、下記(1)調製条件に記載の配合及び調製方法に従って測定用ペーストを調製した場合に、下記(2)粘度測定条件に従って測定された前記測定用ペーストのペースト粘度が3.0Pa・s以上5.5Pa・s以下の範囲を示す黒鉛粒子を含むリチウムイオン二次電池負極材。
(1)調製条件
前記測定用ペーストの配合:
増粘材:1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%水溶液の粘度:1500〜2500mPa・s、25℃)
(前記黒鉛粒子+前記増粘材)/(前記黒鉛粒子+前記増粘材+水)=0.45(質量比)
(前記黒鉛粒子):(前記増粘材)=99:1(質量比)
調製方法:
前記黒鉛粒子と前記増粘材を練りこみ、次いで、水を加えてペースト化する。
(2)粘度測定条件
使用測定器:
回転粘度計、スピンドル形状:同軸円筒
測定方法:
試験速度10rpmとして前記測定器を作動させ、1分後の測定温度25℃での粘度を測定する。
[2] 前記黒鉛粒子の波長532nmのアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、R=I1350/I1580(I1350はラマンスペクトルにおいて1350〜1370cm−1の範囲のピーク強度、I1580は1580〜1620cm−1の範囲のピーク強度)で示されるR値が0.1以上0.3以下である[1]記載のリチウムイオン二次電池負極材。
[3] 前記黒鉛粒子の体積平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下である前記[1]又は[2]記載のリチウムイオン二次電池負極材。
[4] 前記黒鉛粒子のBET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下である[1]〜[3]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
[5] 前記黒鉛粒子のかさ密度が0.80g/cm以上1.00g/cm以下である[1]〜[4]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材。
[6] [1]〜[5]のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極材とバインダ樹脂を含むリチウムイオン二次電池負極。
[7] 電極密度が1.7g/cm以上である[6]記載のリチウム二次電池負極。
[8] [6]又は[7]記載のリチウム二次電池負極とリチウム化合物を含む正極と電解質を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、黒鉛粒子を用いたリチウムイオン二次電池負極を高い電極密度で使用した場合でも電解質が浸透しやすいリチウムイオン二次電池に好適な負極材、高容量リチウムイオン二次電池に好適なリチウム二次電池用負極、及びこのようなリチウム二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明にかかる円筒型リチウム二次電池の断面正面図を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明にかかるリチウムイオン二次電池負極材(以下、単に「負極材」ということがある)は、複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有し、下記(1)調製条件に記載の配合及び調製方法に従って測定用ペーストを調製した場合に、下記(2)粘度測定条件に従って測定された前記測定用ペーストのペースト粘度が3.0Pa・s以上5.5Pa・s以下の範囲を示す黒鉛粒子を含むリチウムイオン二次電池負極材である。
(1)調製条件
前記測定用ペーストの配合:
増粘材:1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%水溶液の粘度:1500〜2500mPa・s、25℃)
(前記黒鉛粒子+前記増粘材)/(前記黒鉛粒子+前記増粘材+水)=0.45(質量比)
(前記黒鉛粒子):(前記増粘材)=99:1(質量比)
調製方法:
前記黒鉛粒子と前記増粘材を練りこみ、次いで、水を加えてペースト化する。
(2)粘度測定条件
使用測定器:
回転粘度計、スピンドル形状:同軸円筒
測定方法:
試験速度10rpmとして前記測定器を作動させ、1分後の測定温度25℃での粘度を測定する。
【0012】
本発明にかかるリチウムイオン二次電池負極材では、複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有し、所定の測定用ペーストのペースト粘度で示す黒鉛粒子を含むので、リチウムイオン二次電池とした場合に良好な電池特性と共に、電解質の浸透に対して良好な黒鉛粒子を含む負極材とすることができる。この結果、高い電極密度で当該負極材を使用した場合でも電解質が浸透しやすく、黒鉛粒子の周りに電解質を十分量満たすことができ、高い負極密度で良好な電池特性を有するリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0013】
本発明では、複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有する負極材を単に用いただけでは足りず、上記のペースト粘度を3.0Pa・s以上5.5Pa・s以下とすることにより、電解質の良好な浸透性を得ることができる。これは、以下のように推測することができるが、本発明はこの推測に拘束されない。
即ち、複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有する負極材を単に用いただけでは、黒鉛粒子の表面の平滑さが十分でないため、本発明におけるペースト粘度の範囲を示すことができないと考えられる。一方、前記ペースト粘度の範囲を示す前記塊状構造の黒鉛粒子の表面は十分に平滑化されていると推測され、これにより、このような黒鉛粒子を用いたリチウムイオン二次電池負極材を用いた負極において、電解質を注入した際に良好な浸透性を実現することができる。前記塊状構造を有する黒鉛粒子であっても、平滑化されていない黒鉛粒子では、これを用いた同様の測定用ペーストの粘度は一般に7Ps・s以上になり、これでは本発明の優れた効果が得られない。
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0015】
<負極材>
前記負極材に含まれる黒鉛粒子は、複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造を有する黒鉛粒子である。このような黒鉛粒子とすることにより、集電体上に配置させたときに黒鉛結晶が配向しにくく、負極黒鉛にリチウムを吸蔵又は放出しやすくなる。この結果、前記負極材を用いてリチウムイオン二次電池を得た場合には、リチウムイオン二次電池の急速充放電特性及びサイクル特性を向上させることができる。
【0016】
複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造は、例えば、特公昭62−23433号公報に記載されるような人造黒鉛によるものでもよいし、天然黒鉛を加工して前記のような塊状構造にしたものを用いてもよい。前記塊状構造は、充放電特性がより優れていることから人造黒鉛であることが好ましく、特に特公昭62−23433号公報に記載されるような方法で得られるものが好ましい。
【0017】
ここで、本発明において「扁平状の粒子」とは、長軸と短軸を有する形状の粒子のことであり、完全な球状でないものをいい、例えば鱗状、鱗片状、一部の塊状等の形状のものがこれに含まれる。また、本発明において「粒子が互いに非平行」とは、それぞれの粒子の扁平した面、換言すれば最も平らに近い面を配向面として、複数の扁平状の粒子がそれぞれの配向面を一定の方向に向けることのない状態をいう。また、本発明において「結合した構造」とは、互いの粒子が、タール、ピッチ等のバインダを炭素化した炭素質を介して化学的に結合している状態をいい、本発明において「集合した構造」とは、互いの粒子が化学的に結合してはないが、その形状等に起因して、その集合体としての形状を保っている状態をいう。
【0018】
個々の扁平状の微粒子の大きさとしては、粒径で1μm〜100μmであることが好ましく、1μm〜20μmであることがより好ましく、これらが集合又は結合した黒鉛粒子の平均粒径の2/3以下であることが好ましい。このような微粒子間には一般に空隙が形成されている。このような粒子の内部構造や粒子の大きさは走査型電子顕微鏡(SEM)により観察することができる。
【0019】
更に前記黒鉛粒子は、所定の測定用ペーストを調製した場合の当該測定用ペーストのペースト粘度が3.0Pa・s以上5.5Pa・s以下の範囲を示す。当該黒鉛粒子は、このようなペースト粘度を示すことにより、高い電極密度とした場合でも電解質の浸透性を良好なものにすることができる。
前記黒鉛粒子が示す前記ペースト粘度は、下記(1)の調製条件に従って調製された測定用ペーストについて下記(2)の測定条件に従って測定された粘度として定義される。
【0020】
(1)調製条件
前記測定用ペーストの配合:
増粘材:1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%水溶液の粘度:1500〜2500mPa・s、25℃)
(前記黒鉛粒子+前記増粘材)/(前記黒鉛粒子+前記増粘材+水)=0.45(質量比)
(前記黒鉛粒子):(前記増粘材)=99:1(質量比)
調製方法:
前記黒鉛粒子と前記増粘材を練りこみ、次いで、水を加えてペースト化する。
【0021】
配合に用いられる前記増粘材は、1質量%水溶液の粘度が1500〜2500mPa・s)である1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液である。このような増粘材としては、例えば、ダイセル化学工業株式会社製CMCダイセル(品番:2200)を用いることができる。
【0022】
またここで、前記黒鉛粒子と前記増粘材との練り込みは、上記の配合比となるようにそれぞれを組み合わせることによって行うことができる。
例えば、50.0gの黒鉛粒子を用いた場合、25℃の条件でプラネタリミキサーを使用して、黒鉛粒子と増粘材34.0gを回転数10rpmで30分間練りこみを行うことができる。ここでプラネタリミキサーは、黒鉛粒子と増粘材が回転する羽根と十分接触できていればよく、例えば、T.K.ハイビスミックスf model−03(プライミクス株式会社製)を用いることができる。ペースト化は、前記黒鉛粒子及び前記増粘材等を含む混合液に水28.0gを少しずつ添加して均一化すればよい。
【0023】
また測定用ペーストの他の調製方法として、全工程25℃の条件下で、前記黒鉛粒子3.00gと前記増粘材2.04gを、スパチュラを用いて5分間練りこみ、そこへ水1.7gを少しずつ加えスパチュラを用いて5分攪拌して調製することができる。
練り込みに用いられる装置又は器具は、ペーストの種類及び量に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
(2)粘度測定条件
使用測定器:
回転粘度計、スピンドル形状:同軸円筒
測定方法:
試験速度10rpmとして前記測定器を作動させ、1分後の測定温度25℃での粘度を測定する。
【0025】
前記測定器は、同軸円筒のスピンドルを備えた又は装備可能な回転粘度計であれば特に制限はなく、例えば、ブルックフィールド社製DV−IIIや東京硝子器機社製VT7Rplus(中高粘度用)を使用することができる。
【0026】
試験速度は10rpmとし、測定温度は25℃とする。測定開始に伴って測定器を作動させ、測定開始から1分後の粘度の値を、測定用ペーストのペースト粘度とする。
なお、測定開始から1分後の測定時の25℃のときの測定値をペースト粘度とするが、温度条件が大きく変動しない限り、測定開始時の25℃を測定時の温度としてもよい。
【0027】
測定用ペーストのペースト粘度は、3.0Pa・s以上5.5Pa・s以下であることが必要である。前記ペースト粘度が5.5Pa・sを超えると、電解質の浸透の改善効果が得られない。一方、前記ペースト粘度が3.0Pa・s未満では、黒鉛粒子に過剰な機械的処理が施されているため、黒鉛粒子の表面積が大きくなり、不可逆容量が大きくなる。電解質の浸透改善効果及び黒鉛粒子の表面積の増大抑制の観点から、ペースト粘度は3.0Pa・s以上4.0Pa・s以下であることが好ましく、3.5Pa・s以上3.9Pa・s以下であることが最も好ましい。
【0028】
このような機械的な負荷としては、原料黒鉛粒子同士が互いに、又は装置の内部の構造物と接触して、衝撃、摩砕力、せん断、圧縮などの力学的エネルギーによる負荷がある。これらの負荷による処理によって、黒鉛粒子が破壊されない範囲の力学的エネルギーで機械的に処理されることが必要であり、このような力学的エネルギーで機械的処理を黒鉛粒子に行える装置として、例えば、ホソカワミクロン(株)社製ノビルタ、MIXsrl社製高速パドルミキサー、ホソカワミクロン(株)社製サイクロミックスなどが挙げられる。
前記黒鉛粒子に加えられる力学的エネルギーは、黒鉛粉1kg当り50〜400kJ程度の負荷を加えることで得ることができる。一方、スクリューの自転によって混合されるような機械的な負荷は、例えば、ナウター型のミキサーが一般的に使用されている条件においては、黒鉛粉1kg当り0.1〜1kJの負荷を黒鉛粒子の表面に与えるに過ぎず、表面改質には足りない。
【0029】
前記黒鉛粒子の各種物性は以下のとおりである。
前記黒鉛粒子の波長532nmのアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、R=I1350/I1580(I1350はラマンスペクトルにおいて1350〜1370cm−1の範囲のピーク強度、I1580は1580〜1620cm−1の範囲のピーク強度)で示されるR値が0.1以上0.3以下であることが好ましい。R値が0.1以上であれば、機械的処理の不足を抑制できる傾向があり、電解質浸透の効果を確実に得ることができる。またR値は、リチウムイオン二次電池の負極材として用いた場合、R値の増加は不可逆容量増加の点で、0.3以下であることが好ましい。0.3以下であれば、リチウムイオン二次電池の寿命低下を確実に抑制できる傾向がある。
ここで、1360cm−1付近のピークとは、通常、炭素の非晶質構造に対応すると同定されるピークであり、例えば1300cm−1〜1400cm−1に観測されるピークを意味する。また1580cm−1付近のピークとは、通常、黒鉛結晶構造に対応すると同定されるピークであり、例えば1530cm−1〜1630cm−1に観測されるピークを意味する。
尚、R値はラマンスペクトル測定装置(例えば、日本分光(株)製NSR−1000型、励起波長532nm)を用いて求めることが出来る。またベースラインは、ベースラインの両端を900cm−1から1000cm−1と1800cm−1から1900cm−1の範囲でそれぞれ1点ずつ選択し、かつ、その2点を結んだ直線に傾きが無いことを確認して求めた。
【0030】
前記黒鉛粒子の体積平均粒径(50%D)は10μm以上50μm以下の範囲が好ましく、15μm以上25μm以下がより好ましく、20μm以上25μm以下が特に好ましい。体積平均粒径が10μm以上であれば、比表面積を適度な範囲に抑えることができ好ましい。また、体積平均粒径が50μm以下であれば、粒子表面に凹凸が発生し難くなり短絡の発生を抑制できる傾向があり、好ましい。ここで、上記体積平均粒径は、粒子径分布において、小径側から体積累積分布曲線を描いた場合に、累積50%となる粒子径として与えられる。なお、体積平均粒子径(D50)は、界面活性剤を含んだ精製水に試料を分散させ、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(例えば、(株)島津製作所製 SALD−3000J)を用いて測定することができる。
【0031】
BET法で測定される比表面積は、2.0m/g以上6.0m/g以下が好ましく、2.5m/g以上4.5m/g以下であることがより好ましい。比表面積が6.0m/g以下の負極材を使用したリチウムイオン二次電池では、第一サイクル目の充放電時に不可逆容量の増大を抑制できる傾向があり、エネルギー密度が大きく、さらに負極を作製する際のバインダの量が過剰とならないように抑制できる傾向がある。
【0032】
かさ密度は、容量150mLのメスシリンダーを斜めにし、これに試料粉末150mLをさじを用いて徐々に投入し、メスシリンダーに栓をした後、メスシリンダーを5cmの高さから落下(タップ)させて粒子容積が変化しなくなるまでタップを繰り返した後の試料粉末の質量及び容積から算出することができる飽和タップ密度である。
本発明の負極材は、かさ密度が0.80g/cm以上1.00g/cm以下であることが好ましく、0.88g/cm以上1.00g/cm以下であることがより好ましく、0.90g/cm以上0.95g/cm以下であることがさらに好ましい。かさ密度が0.80g/cm以上であれば、電極密度を高くすることができ、また負極材を含むリチウムイオン二次電池としたときのサイクル特性が向上する等の傾向がある。
【0033】
このような黒鉛粒子による作用を好適に発揮させるためには、前記負極材に少なくとも50質量%以上含まれていればよく、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含まれていればよく、極めて好ましくはほぼ100質量%が前記黒鉛粒子である。
前記負極材には、前記黒鉛粒子の他に、必要に応じて他の成分を含んでいてもよく、このような他の成分の例としては、前記形状以外の各種の形状の炭素粒子、好ましくは黒鉛粒子を挙げることができる。
【0034】
<リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法>
本発明の前記リチウムイオン二次電池用負極材の製造方法は、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダとに黒鉛化触媒を添加して混合し、焼成して、黒鉛化すること(以下、「原料黒鉛粒子調製工程」という)と、前記黒鉛化することにより得られた黒鉛粒子に機械的な負荷を付与して、前記ペースト粘度を示す前記黒鉛粒子を調製すること(以下、「改質工程」という)を含む。これにより、所定の塊状構造を有し、前記所定のペースト粘度を示す黒鉛粒子を得ることができる。
【0035】
前記黒鉛化可能な骨材としては、フルードコークス、ニードルコークス等の各種コークス類が使用可能である。また、天然黒鉛や人造黒鉛などの既に黒鉛化されている骨材を使用してもよい。
黒鉛化可能なバインダとしては、石炭系、石油系、人造等の各種ピッチ、タールの他、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が使用可能である。黒鉛化触媒としては、鉄、ニッケル、チタン、ホウ素等、これらの炭化物、酸化物、窒化物等が使用可能である。
またバインダの配合量は、扁平状の黒鉛化可能な骨材又は黒鉛に対し、5質量%〜80質量%添加することが好ましく、10質量%〜80質量%添加することがより好ましく、15質量%〜80質量%添加することがさらに好ましい。バインダの添加量を適切な量とすることで、製造される第一の粒子のアスペクト比や比表面積が大きくなりすぎることを抑制できる。
黒鉛化可能な骨材又は黒鉛とバインダの混合方法は、特に制限はなく、ニーダー等を用いて行われるが、バインダの軟化点以上の温度で混合することが好ましい。具体的にはバインダがピッチ、タール等の際には、50〜300℃が好ましく、熱硬化性樹脂の場合には、20〜100℃が好ましい。
【0036】
黒鉛化触媒は、黒鉛化可能な骨材又は黒鉛と黒鉛化可能なバインダの合計量100質量部に対して1〜50質量部添加することが好ましい。1質量部以上であれば粒子の結晶の発達が良好になる傾向があり、充放電容量の低下を抑制できる傾向がある。一方、50質量部以下であれば、均一に混合しやすい傾向があり、作業性の低下を抑制できる傾向がある。
【0037】
次に上記の混合物を焼成し、黒鉛化処理を行う。なお、この処理の前に上記混合物を所定形状に成形してもよい。さらに、成形後、黒鉛化前に粉砕し、粒径を調整した後、黒鉛化を行ってもよい。
また、焼成は、前記混合物が酸化し難い雰囲気で行うことが好ましく、そのような雰囲気としては、例えば、窒素雰囲気中、アルゴンガス中、真空中で焼成する方法が挙げられる。黒鉛化の温度は2000℃以上が好ましく、2500℃以上であることがより好ましく、2800℃以上であることがさらに好ましく、一方、3200℃以下とすることが好ましい。黒鉛化の温度が2000℃以上とすることにより黒鉛の結晶の発達が良好となり、作製した粒子に残存する黒鉛化触媒の量が少なくなる傾向がある(灰分量の増加抑制)、いずれの場合も充放電容量や電池のサイクル特性が低下する傾向がある。一方、黒鉛化の温度が3200℃以下であれば、黒鉛の昇華を抑制できる傾向がある。
【0038】
黒鉛化処理前に、粒径を調整していない場合、得られた黒鉛化物を粉砕処理して、所望の平均粒子径とすることが好ましい。黒鉛化物の粉砕方法は、特に制限はないが、例えばジェットミル、振動ミル、ピンミル、ハンマーミル等の既知の方法をとることができる。粉砕後の平均粒子径(メディアン径)は100μm以下が好ましく、10〜50μmがさらに好ましい。
上記に示す製造方法を経ることにより、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合させた原料黒鉛粒子を得ることができる。さらに上記製造方法の詳細は、例えば、特許第3285520号公報や、特許第3325021号公報等を参照することもできる。
【0039】
前記改質工程は、前記原料黒鉛粒子に対して、前記測定用ペーストのペースト粘度を示す黒鉛粒子を得るために必要な機械的な負荷を付与することを含む。
【0040】
このような機械的な負荷は、原料黒鉛粒子同士が互いに、又は装置の内部の構造物と接触して、衝撃、摩砕力、せん断、圧縮などの力学的エネルギーを外部から加え、かつ前記塊状構造を破壊しない装置を用いることにより得ることができる。
【0041】
前記装置の好ましい構造の例としては、回転軸の周囲に多数の攪拌羽根が混合機内部に設置された構造が挙げられる。この装置の内部に原料黒鉛粒子を入れ、前記攪拌羽根を回転させて機械的に原料黒鉛粒子に負荷を加え、前記ペースト粘度になるように調製できる。装置の大きさや回転速度、攪拌羽根の形状、処理時間等については特に制限はされず、前記測定用ペーストのペースト粘度を実現可能な条件は当業者であれば選択することは難しくない。
【0042】
例えば、回転速度を上げると、黒鉛粒子に負荷がより加えられるためペースト粘度は低くなる傾向がある。また回転軸の周囲に多数の攪拌羽根が混合機内部に設置された構造の装置の例としては、ホソカワミクロン(株)社製ノビルタ、MIXsrl社製高速パドルミキサー、ホソカワミクロン(株)社製サイクロミックスなどが挙げられる。
【0043】
このような条件を適宜組み合わせて適切なペースト粘度を示す黒鉛粒子を得ることで、得られる負極用の黒鉛粒子は、負極を高い電極密度で使用した場合でも電解質が浸透しやすい黒鉛粒子とすることができる。なお、このとき、前記原料黒鉛粒子は、前記塊状構造を保ったまま、表面が滑らかな平滑上に改質されているものと推測される。
【0044】
<リチウムイオン二次電池用負極>
本発明のリチウムイオン二次電池用負極は、上述したリチウムイオン二次電池用負極材及びバインダ樹脂を含む。これにより、高い電解質浸透性を有し、良好な電池特性を有するリチウムイオン二次電池を構成することが可能になる。前記リチウムイオン二次電池用負極材は、前記リチウムイオン二次電池用負極材及びバインダ樹脂の他、必要に応じてその他の構成要素を含んでもよい。
前記リチウムイオン二次電池用負極は、例えば、既述の本発明のリチウムイオン二次電池用負極材及びバインダ樹脂(有機結着材)を溶剤とともに撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダ等の分散装置により混練して、負極材スラリーを調製し、これを集電体に塗布して負極層を形成する、又は、ペースト状の負極材スラリー(「負極合材」ということがある)をシート状、ペレット状等の形状に成形し、これを集電体と一体化することで得ることができる。成形は通常集電体上に行われる。
【0045】
前記バインダとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、ブチルゴム;エチレン性不飽和カルボン酸エステル(例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、及びヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)、及びエチレン性不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等)からなる(メタ)アクリル共重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミドなどの高分子化合物が挙げられる。
【0046】
これらのバインダは、それぞれの物性によって、水に分散、あるいは溶解したもの、また、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶剤に溶解したものがある。これらの中でも、密着性に優れることから、主骨格がポリアクリロニトリル、ポリイミド、又はポリアミドイミドであるバインダが好ましく、主骨格がポリアクリロニトリルであるバインダが後述するように熱処理温度が低く、電極の柔軟性が優れることから更に好ましい。ポリアクリロニトリルを主骨格とするバインダとしては、例えば、ポリアクリロニトリル骨格に、接着性を付与するアクリル酸、柔軟性を付与する直鎖エーテル基を付加した製品(日立化成工業株式会社製、LSR7)が使用できる。
【0047】
負極材とバインダとの混合比率は、負極材100質量部に対して、バインダを0.5〜20質量部用いることが好ましい。
リチウムイオン二次電池負極の負極層中のバインダの含有比率は、1質量%〜30質量%であることが好ましく、1質量%〜20質量%であることがより好ましく、1質量%〜15質量%であることがさらに好ましい。
バインダの含有比率が1質量%以上であることで密着性が良好で、充放電時の膨張・収縮によって負極が破壊されることが抑制される。一方、30質量%以下であることで、電極抵抗が大きくなることを抑制できる。
【0048】
溶剤としては、特に制限はなく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、イソプロパノール、水等が挙げられる。溶剤として水を使用するバインダの場合は、増粘剤を併用することが好ましい。溶剤の量も特に制限はない。
【0049】
また、上記負極材スラリーには、必要に応じて、導電補助材を混合してもよい。導電補助材としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック、あるいは導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電補助材の使用量は、本発明のリチウムイオン二次電池負極材に対して0.1質量%〜20質量%程度とすればよい。
【0050】
また前記集電体の材質及び形状については特に限定されず、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼等を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状の金属集電体を用いればよい。また、多孔性材料、たとえばポーラスメタル(発泡メタル)やカーボンペーパーなども使用可能である。
【0051】
上記負極材スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法など公知の方法が挙げられる。塗布後は、必要に応じて平板プレス、カレンダーロール等による圧延処理を行うことが好ましい。
また、シート状、ペレット状等の形状に成形された負極材スラリーと集電体との一体化は、例えば、ロール、プレス、もしくはこれらの組み合わせ等、公知の方法により行うことができる。この一体化する際の圧力は1MPa〜200MPa程度が好ましい。
【0052】
前記集電体上に形成された負極層及び集電体と一体化した負極層は、用いたバインダに応じて熱処理することが好ましい。
【0053】
本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、特に高密度のリチウムイオン二次電池用負極用の材料として適している。
一般的にリチウムイオン二次電池の負極材の密度は1.5g/cm〜1.6g/cm程度の低密度で使用される。また、負極材の密度はリチウムイオン二次電池の容量増加と共に高くなる。本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、負極密度が1.7g/cm以上の高密度のリチウムイオン二次電池用負極で好適に使用される。本発明におけるリチウムイオン二次電池用負極材は、特定構造を有し、所定のペースト粘度を示す黒鉛粒子を含むので、一般に電解質の注入性が低下する傾向にあるこのような高密度の負極に適用しても、良好な注液性を示すことができる。
【0054】
<リチウムイオン二次電池>
本発明のリチウムイオン二次電池は、既述の本発明のリチウムイオン二次電池用負極と、リチウム化合物を含む正極と、電解質とを含む。例えば、上記本発明のリチウムイオン二次電池用負極と正極とを、必要に応じてセパレータを介して対向させて配置し、電解質を注入することにより構成することができる。
【0055】
前記正極は、前記負極と同様にして、集電体表面上に正極層を形成することで得ることができる。この場合の集電体はアルミニウム、チタン、ステンレス鋼等の金属や合金を、箔状、穴開け箔状、メッシュ状等にした帯状のものを用いることができる。
【0056】
前記正極層に用いる正極材料としては、特に制限はなく、例えば、リチウムイオンをドーピング又はインターカレーション可能な金属化合物、金属酸化物、金属硫化物、又は導電性高分子材料を用いればよく、特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)、及びこれらの複酸化物(LiCoNiMn、x+y+z=1、0<x、0<y;LiNi2−xMn、0<x≦2)、リチウムバナジウム化合物、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV、TiS、V、VS、MoS、MoS、Cr、Cr、オリビン型LiMPO(M:Co、Ni、Mn、Fe)、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセン等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを単独或いは混合して使用することができる。中でも、ニッケル酸リチウム(LiNiO)及びその複酸化物(LiCoNiMn、x+y+z=1、0<x、0<y;LiNi2−xMn、0<x≦2))は、容量が高いため本発明の正極材に好適である。
【0057】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0058】
前記電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等のリチウム塩を、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、ブチルメチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチルエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル等の単体もしくは2成分以上の混合物の非水系溶剤に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。なかでも、フルオロエチレンカーボネートを含有する電解液は、本発明の負極材の表面に安定なSEI(固体電解質界面)が形成される傾向があり、サイクル特性が著しく向上するため好適である。前記電解質は、前記塊状構造を有し、所定のペースト粘度を示す黒鉛粒子に基づいて浸透性又は流動性を有する範囲であれば電解液に限定されず、ゲル状のいわゆるポリマー電解質を使用することもできる。
【0059】
また、前記電解液には、リチウムイオン二次電池の初回充電時に分解反応を示す添加剤を少量添加することが好ましい。添加剤としては例えば、ビニレンカーボネート、ビフェニール、プロパンスルトン等があげられ、添加量としては0.01〜5質量%が好ましい。
セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルム又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。なお、作製するリチウムイオン二次電池の正極と負極が直接接触しない構造にした場合は、セパレータを使用する必要はない。
【0060】
本発明のリチウムイオン二次電池の構造は、特に限定されないが、通常、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレータとを、扁平渦巻状に巻回して巻回式極板群としたり、これらを平板状として積層して積層式極板群としたりし、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。
本発明のリチウムイオン二次電池は、特に限定されないが、ペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などとして使用される。
上述した本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、ポータブル機器、電気自動車、電力貯蔵等に用いるのに好適な、高容量でかつ急速充放電特性及びサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用に好適であるが、リチウムイオン二次電池用に限定されず、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタなどにも適用することが可能である。
【0061】
図1に円筒型リチウムイオン二次電池の一例の一部断面正面の概略図を示す。図1に示す円筒型リチウムイオン二次電池は、薄板状に加工された正極1と、同様に加工された負極2がポリエチレン製微孔膜等のセパレータ3を介して重ねあわせたものを捲回し、これを金属製等の電池缶7に挿入し、密閉化されている。正極1は正極タブ4を介して正極蓋6に接合され、負極2は負極タブ5を介して電池底部へ接合されている。正極蓋6はガスケット8にて電池缶(正極缶)7へ固定されている。電池缶7の内部には、電解液(図示せず)が注入されている。
【実施例】
【0062】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0063】
[実施例1〜7]
(1)原料黒鉛粒子の作製
コークス粉末100質量部、タールピッチ40質量部、炭化珪素25質量部、及びコールタール20質量部を、250℃以上で加熱混合し、得られた混合物を粉砕し、次いでペレット状に加圧成形し、これを窒素中で900℃で焼成し、黒鉛化炉を用いて3000℃で黒鉛化し、ハンマーミルを用いて粉砕した後、篩分けし、原料黒鉛粒子を作製した。得られた原料黒鉛粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真によれば、この原料黒鉛粒子は、偏平状の粒子が、複数配向面が非平行となるように集合又は結合した塊状構造を有するものであった。
【0064】
(2)所定のペースト粘度を示す黒鉛粒子の調製
前記原料黒鉛粒子について、原料黒鉛粒子に外部から力学的エネルギーを付与する装置として、ホソカワミクロン(株)社製ノビルタ、MIXsrl社製高速パドルミキサー、ホソカワミクロン(株)社製サイクロミックスを下記の条件で用いた。
【0065】
ホソカワミクロン(株)社製ノビルタNOB−300を用いて、原料黒鉛粒子4kgを投入し、負荷10kWで表1に示す処理時間行い、原料黒鉛粒子に外部から力学的エネルギーを付与して機械的な負荷を与え、黒鉛粒子(実施例1〜4)を得た。
【0066】
ホソカワミクロン(株)社製サイクロミックスCLX−15Lを用いて、原料黒鉛粒子5kgを投入し、負荷10kWで表1に示す処理時間行い、原料黒鉛粒子に外部から力学的エネルギーを付与して機械的な負荷を与え、黒鉛粒子(実施例5、6)を得た。
【0067】
MIXsrl社製高速パドルミキサーを用いて、原料黒鉛粒子5kgを投入し、回転速度300rpmで3時間処理を行い、原料黒鉛粒子に外部から力学的エネルギーを付与して機械的な負荷を与え、黒鉛粒子(実施例7)を得た。
【0068】
(3)黒鉛粒子の各性状
上記で得られた黒鉛粒子について以下の測定を行った。
(3−1)レーザー回折式粒度分布計による体積平均粒径
(株)島津製作所製レーザー回折粒度分布測定装置SALD−3000Jを用い、50%Dでの粒子径を平均粒子径とした。測定は試料を界面活性剤(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を添加したイオン交換水に混合し、超音波を30秒照射して分散させた後、測定を行った。得られた粒度分布の小径側から累積50%粒径(50%D)を体積平均粒径とした。
(3−2)BET法による比表面積
micromeritics社 製品名ASAP 2010を用い、液体窒素温度での窒素吸着を多点法で測定し、BET法に従って算出した。
(3−3)かさ密度測定
容量150mLのメスシリンダーを斜めにし、これに試料粉末100mLを、さじを用いて徐々に投入し、メスシリンダーに栓をした後、メスシリンダーを5cmの高さから粒子容積が変化しなくなるまでタップを繰り返して測定した。
【0069】
(3−4)粘度測定
下記のペースト調製条件の配合割合で粘度測定用のペーストを作製し、BROOKFIELD社製 DV−IIIを用い、スピンドル形状:同軸円筒、試験速度:10rpm、測定温度:25℃の条件で測定開始から1分間後の粘度を測定した。
ペースト調製条件
増粘材:1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%水溶液の粘度:1500〜2500mPa・s、25℃)。カルボキシメチルセルロールとしては、ダイセル化学工業株式会社製CMCダイセル(品番:2200)を用いた。
(前記黒鉛粒子+前記増粘材)/(前記負極材+前記増粘材+水)=0.45(質量比)
(前記黒鉛粒子):(前記増粘材)=99:1(質量比)
上記の配合比となるように、前記黒鉛粒子と前記増粘材をスパチュラを用いて5分間練りこみ、そこへ水を加えスパチュラを用いて5分攪拌し、さらに前記バインダを加えて1分攪拌して調製した。
【0070】
(3−5)ラマンスペクトル
日本分光社 製品名NRS−1000型レーザーラマン分光光度計(励起波長532nm)を使用して、試料黒鉛粒子のラマン分光測定を行った。測定結果のベースライン除去は、ベースラインの両端を900cm−1から1000cm−1と1800cm−1から1900cm−1の範囲でそれぞれ1点ずつ選択し、かつ、その2点を結んだ直線に傾きが無いことを確認して求めた。得られたピーク強度からピーク面積比(R値=I1350/I1580)を算出した。
(3−6)電解質注液性
実施例1〜7について以下の手順で電極を作製し、電解質の注液特性を測定した。
電極に用いるペーストは、以下に示す比率で各材料を混ぜて調製した。
ペースト調製条件
バインダ:スチレンブタジエンゴム
増粘材:1.5質量%カルボキシメチルセルロース水溶液(1質量%水溶液の粘度:1500〜2500mPa・s)。カルボキシメチルセルロールとしては、ダイセル化学工業株式会社製CMCダイセル(品番:2200)を用いた。
(黒鉛粒子+前記バインダ+前記増粘材)/(前記黒鉛粒子+前記バインダ+前記増粘材+水)=0.45(質量比)
(黒鉛粒子):(前記バインダ):(前記増粘材)=98:1:1(質量比)
【0071】
厚さが10μmの圧延銅箔に、塗布量10mg/cmとなるように、上記ペーストを塗布し、さらに、110℃で乾燥して水を除去した。その後、ロールプレスを用いて、電極上の負極合材の密度が1.75g/cmとなるよう圧縮して試料電極を得た。作製した試料電極に、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液をマイクロシリンジで1μL滴下し、試料電極に液が染み込み終わるまでの時間を計測した。検討に用いた電解質には1.0MのLiPFエチレンカーボネート/メチルエチルカーボネート(体積比3/7)を用いた。これらの評価結果を表1に示す。
【0072】
[比較例1]
前記原料黒鉛粒子と、この原料黒鉛粒子を用いた以外は実施例1と同様にして作製した試料電極とについて、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例2]
実施例1で得られた原料黒鉛粒子と同程度の平均粒径、かさ密度、粘度、ラマンスペクトルピーク比の物性値の球状黒鉛粒子を用いた以外は実施例1と同様にして試料電極を作製し、電解質注液性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0074】
[比較例3]
前記原料黒鉛粒子について、ホソカワミクロン社製ナウターミキサーDBY−10に前記原料黒鉛粒子3kgを使用して、自転30rpm、公転0.5rpm、3時間処理を行った。実施例1と同様にして試料電極を作製し、電解質注液性を評価した。評価結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
表1より、実施例1〜7では、機械的な負荷を与える処理を行うことにより、粘度の大幅な減少と、かさ密度の増加が認められた。このことから、原料黒鉛粒子の粒子表面に存在していた凹凸が減少し、粒子が平滑化されたことが示唆される。また、この処理によるラマンスペクトルピーク比の増加は、機械的な力によって粒子同士が擦れ合うことにより黒鉛粒子表面の凹凸が削られたことにより、粒子表面の結晶構造の乱れが生じたためと考えられる。
このような黒鉛粒子を用いた試料電極では、原料黒鉛粒子に対して機械的な負荷を与えなかった比較例1又は2の試料電極と比較して、注液時間は大幅に短縮されていることが示された。これは、黒鉛粒子表面が平滑化されたことにより、より高密度の負極電極が得られ、電極のプレス時に電極表面付近の粒子形状の過剰な変形を避けることが出来たためと推測される。
【0077】
一方、機械的な負荷を付与しなかった原料黒鉛粒子を用いた比較例1の試料電極では、注液時間が長いことが明らである。また、平均粒径、かさ密度、粘度、ラマンスペクトルピーク比といった物性値が同程度の球状黒鉛粒子を用いた比較例2の試料電極であっても、実施例1〜7と同等の注液時間が得られないことが分かる。
【0078】
また、ナウターミキサーを使用した比較例3の黒鉛粒子では、粘度が高く、注液時間も長い。このことから機械的な負荷を付与したとしても、負荷が小さい場合は表面改質の効果が見られないことが分かる。
【0079】
このように、実施例1〜7で用いられた黒鉛粒子は、所定の測定用ペーストとした場合に所定のペースト粘度を示すので、このような黒鉛粒子をリチウムイオン二次電池用負極材として有するリチウムイオン二次電池とした場合に、良好な電池特性が実現可能であると共に電解質の浸透性も良好であり、高性能及び高容量のリチウムイオン二次電池を得ることが可能となる。
また、複数の扁平状の粒子が互いに非平行に集合又は結合してなる塊状構造と、所定のペースト粘度を示す黒鉛粒子を含む負極材は、上述した機械的な負荷を付与することにより簡便に得られることがわかる。
【0080】
従って、本発明によれば、黒鉛粒子を用いたリチウムイオン二次電池負極を高い電極密度で使用した場合でも電解質が浸透しやすいリチウムイオン二次電池に好適なリチウム二次電池用負極材、高容量リチウムイオン二次電池に好適なリチウム二次電池用負極、及びこのようなリチウム二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 正極 2 負極
3 セパレータ 4 正極タブ
5 負極タブ 6 正極蓋
7 電池缶 8 ガスケット
図1