特許第5991049号(P5991049)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5991049リンドープ型酸化スズナノシートの製造方法及びリンドープ型酸化スズナノ粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991049
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】リンドープ型酸化スズナノシートの製造方法及びリンドープ型酸化スズナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 19/02 20060101AFI20160901BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160901BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   C01G19/02 B
   H01B13/00 501Z
   H01B5/00 H
   H01B5/00 F
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-148434(P2012-148434)
(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公開番号】特開2014-9141(P2014-9141A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】諸 培新
(72)【発明者】
【氏名】金 仁華
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−030886(JP,A)
【文献】 特開2012−051762(JP,A)
【文献】 特開2008−150258(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/096172(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0153830(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00−23/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンドープ型酸化スズナノシートを製造する方法であって、
ポリアミンの水溶液(A)と、
スズイオン化合物とリン酸イオンとを含む水溶液(B)を混合し、その混合液からポリアミン、2価のスズイオン、これの対イオン及びリン酸イオンを含む不溶性の複合体(C)を得る工程、
前記工程で得られた複合体(C)を空気雰囲気下で加熱焼成することにより、リンドープ型酸化スズのナノ粒子が2次元方向で結合してなるナノシートとする工程、
を有することを特徴とする、リンドープ型酸化スズナノシートの製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミンが水溶性であり、かつ数平均分子量が1000〜100万の範囲のポリアミンである請求項1記載のリンドープ型酸化スズナノシートの製造方法。
【請求項3】
前記スズイオン化合物が、硝酸スズ又は硫酸スズである請求項1又は2記載のリンドープ型酸化スズナノシートの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の製造方法で得られるリンドープ型酸化スズナノシートを、液媒体と混合してから粉砕することを特徴とするリンドープ型酸化スズナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性と導電性とを有するリンドープ型酸化スズに関するものであり、詳しくは、工業的生産においても再現性を有し、簡便な方法でリンドープ型酸化スズのシート状または粒子状のナノ構造体を得ることができる製法と当該製法で得られるリンドープ型酸化スズナノ構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
透明電極材料に用いるITOはインジウムを主成分とする材料であるがゆえに、インジウム資源枯渇に伴う産業上のリスクが大きく、それの代替品の開発は大きな課題となっている。酸化スズは比較的安く、資源上での供給リスクもなく、導電材料として有効な候補である。特に、酸化スズに不純物として、フッ素、アンチモン、リンなどの元素をドープすることにより、酸化スズの導電性は飛躍的に向上する。
【0003】
従来の導電性ドープ型酸化スズの作製では、粗大サイズ(μm〜mmサイズ)の粉末状態で得られるものが多い。例えば、リンドープ型酸化スズについては、塩化第二スズと三塩化リンを水酸化ナトリウムで処理し、そのケーキ状ものを1000℃近くの温度で焼成する方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。当然ながら、特許文献1で提供された方法では、導電性を示すリンドープ型酸化スズを得ることができるが、バルク状の粉体であり、これを微粉砕したとしても制御されたナノ構造体にはならず、粉体の大きさやその分布についての再現性も不足する。
【0004】
また、リンドープ型酸化スズの粒子化方法として、四塩化スズ、アンモニア、リン酸など混合物を処理し、得られた水和物を乾燥処理後、流体エネルギーミルで粉砕し、その粉末を700℃で焼成した後、その焼成物を再び流体エネルギーミル法で粉砕する方法が提供されている(例えば、特許文献2参照)。この方法は、粉砕でサイズダウンすることで微粒子化するものであるが、流体エネルギーミルでの粉砕を複数回行う必要がある点で生産性が悪く、また、ナノ次元の構造体としてその大きさや単分散性を制御できることには至ってない。
【0005】
リンドープとは直接関係ないが、2価のスズイオン化合物である塩化第一スズを塩酸と水酸化ナトリウムによる処理を経て、板状酸化第一スズを得てから、それを900℃下焼成し、導電性を有する板状の酸化スズを得られることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法で得る板状の酸化スズは基本的にナノ次元の厚みになることがなく、分厚い数mmの厚みのシートである。
【0006】
導電性を有するドープ型酸化スズを得るには、高温焼成は避けては通らない工程である。しかしながら、高温焼成では、酸化スズは焼結の塊になり、ナノサイズに制御することができない。ドープ型酸化スズを導電材料として用いる場合、もっとも重要なのは、如何に小さくできるかである。即ち、ドープ型酸化スズを電極またはフィラーとして用いる場合、透明性を付与させることが実用上避けては通らない。そのためにはドープ型酸化スズを数十nm以下のナノ構造体にすること、更には単分散性に近づけることが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−092636号公報
【特許文献2】特開2006−172916号公報
【特許文献3】特開2010−030886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記実情を鑑み、本発明が解決しようとする課題は、焼成過程で成長するドープ型酸化スズそのものをナノメートルレベルに制御することで、簡便に再現性良く、導電性と透明性とに優れるリンドープ型酸化スズを得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、水溶液中、スズイオン性化合物とポリアミンとの混合により、ポリアミンの窒素がプロトン化されながら、スズイオンの対イオンであるアニオンとの静電気的相互作用により、物理的な架橋による不溶性のヒドロゲルを形成し、そのヒドロゲル中にスズイオンも完全に取り込まれた複合体になること、その複合体を乾燥させると固体の塊になること、その塊を加熱焼成すると、塊は発泡状態に膨らみながらシートになること、そのシート中でスズイオンが酸化されながら酸化スズのナノ粒子に成長し、そのナノ粒子がランダム的に凝集焼結されることなく、2次元の方向で「手に手」をつなぐ形でナノシートの構造体になることを見出した。更にこのコンセプトから、ヒドロゲル形成時にリン酸化合物を加えることで、そのリン酸イオンもポリアミンと物理架橋に貢献し、ゲル状の複合体に含まれ、焼成過程で、リン酸イオン中のリン原子が酸化スズに効果的にドープされ、リンドープ型酸化スズになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、リンドープ型酸化スズナノシートを製造する方法であって、
ポリアミンの水溶液(A)と、
スズイオン化合物とリン酸イオンとを含む水溶液(B)を混合し、その混合液からポリアミン、2価のスズイオン、これの対イオン及びリン酸イオンを含む不溶性の複合体(C)を得る工程、
前記工程で得られた複合体(C)を空気雰囲気下で加熱焼成することにより、リンドープ型酸化スズのナノ粒子が2次元方向で結合してなるナノシートとする工程、
を有することを特徴とする、リンドープ型酸化スズナノシートの製造方法、及び当該ナノシートを媒体中で粉砕するリンドープ型酸化スズナノ粒子の製造方法提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリンドープ型酸化スズナノ構造体の製造方法は、工業的に安価で、入手が容易な硫酸スズ化合物等のスズイオン化合物を出発原料として、簡便なプロセスで、厚みが40nm以下のシート状のリンドープ型酸化スズ、及び平均粒子径20nm以下の粒子状のリンドープ型酸化スズを得るものである。これらのリンドープ型酸化スズのナノ構造体は、ナノサイズでの均一性に長けているので、透明電極膜、透明導電フィラー、透明センサー、導電ゴムのフィラー、帯電防止フィラー、導電インキ、導電塗料など幅広い範囲での応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1の700℃焼成から得たサンプルSN−P1BのTEM写真である(左、低分解率;右、高分解率)。
図2】実施例1の700℃焼成から得たサンプルSN−P3BのTEM写真である(左、低分解率;右、高分解率)。
図3】実施例1の800℃焼成から得たサンプルSN−P1CのTEM写真である(左、低分解率;右、高分解率)。
図4】実施例1の800℃焼成から得たサンプルSN−P3CのTEM写真である(左、低分解率;右、高分解率)。
図5】実施例1の800℃焼成から得たサンプルSN−P1C〜SN−P7CのXRD回折パターンである。
図6】実施例2の800℃焼成から得たサンプルSN−P1EのTEM写真である。
図7】実施例2の800℃焼成から得たサンプルSN−P3EのTEM写真である。
図8】実施例2の800℃焼成から得たサンプルSN−P6EのTEM写真である。
図9】実施例2の800℃焼成から得たサンプルSN−P1E〜SN−P6EのXRD回折パターンである。下から上の順にSN−P1E〜SN−P6Eである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明での高温焼成過程を有しながらもバルク状の塊や粉末にならずに、ナノメートルオーダーの構造体を維持できる理由は、複合体中にスズイオンが均一に分布されていること、加熱焼成過程でこの複合体は可塑性(伸びる性質)を示すこと、それと同時にポリアミンの熱分解によるガス発生が可塑性を有する複合体を効果的に発泡化し、シート状に伸ばせることにあると考えられる。このような過程で、スズイオンが酸化物に変換される時、伸びたシート中で局在化し、ナノサイズの結晶粒子に留まり、それらのナノ粒子同士が一定隙を持ちながらネットワークを構築し、それが自己支持膜状態のシートを維持させ、ナノ粒子間での無規則な堆積などを完全に防ぐことができる。その結果、固相高温焼成であっても、無規則・無定形の酸化スズの塊は形成せず、ナノメートルオーダーの構造体を得ることができる。
【0014】
[ポリアミン]
本発明で欠かせないのが、まずはポリアミンである。そのポリアミンが焼成過程において発泡性を示し、シート状になりやすくなることが、本発明での重要な点である。
【0015】
本発明でいうポリアミンは、アミン官能基を有するポリマーであれば良く、そのアミン官能基は、1級、2級、3級アミンのいずれでも、それら官能基の混合状態でも良い。
【0016】
ポリアミンは、一般的に産業上広く利用されていることから入手が容易な、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリリジン、キトサン、ポリジアリルアミン、ポリ(N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート)、ポリ(4−ビニルピリジン)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリ[4−(N,N−ジメチルアミノメチルスチレン)]などを好適に用いることができる。中でも、ポリエチレンイミンは工業的に入手しやすく、化学的安定性も優れ、金属イオンとの配位性も強いので、特に好ましく用いることができる。これらのポリアミンの数平均分子量としても特に限定されるものではなく、水溶性やアミン官能基の含有率にもよるが、後述する複合体として不溶化が容易である点から、通常1000〜100万の範囲であり、より好ましくは、2000〜10万の範囲である。
【0017】
これらのポリアミンは水溶液として用いる為、調整する濃度において水溶性であることが好ましい。不溶性のゲル状の複合体が容易に得られることから、濃度としては5〜30wt%の範囲であることが好ましい。即ち、ポリアミンとしての水溶性はこの濃度範囲で確保できるものであれば好適であり、完全な水溶性が保ちにくい場合は、加温状態で水溶性であってもよい。特に、取り扱い上の安全性と簡便性の観点からは、10〜18wt%の範囲であることがより好ましい。
【0018】
[スズイオン化合物]
本発明で用いるスズイオン化合物は、水溶性を示す2価のスズイオンの電解質であればよく、例えば、硫酸スズ、硝酸スズ、リン酸スズ、塩酸スズなどを用いることができる。これらの中でも、水溶性が高く、ポリアミンと複合化してゲル状の不溶物を形成しやすい点から、硝酸スズ、硫酸スズを用いることが好ましく、特に硫酸スズを用いることが好ましい。
【0019】
スズイオン化合物は水溶液として用いるが、水溶液の濃度としては通常2〜30wt%の範囲であり、作業性の観点からは5〜15wt%で用いることが好ましい。
【0020】
[リン酸イオン]
本発明で製造する酸化スズにはリン元素がドープされているが、これはリン酸イオン中のリン原子に由来する。リン酸イオンのソースとしては、リン酸スズ、リン酸アンモニウム、リン酸などを用いることができる。また、亜リン酸、または亜リン酸塩類を用いることもできる。さらには、ポリリン酸を用いることもできる。いずれの場合も、これらのアニオンがポリアミンと物理架橋し、ゲル状の不溶性の複合体形成を促進する。
【0021】
これらのリン酸イオンソースの化合物は、スズイオン化合物の電解質の水溶液と混合して用いることができる。それを混合する際、リン対スズのモル比は1/50〜2/1.5の範囲で調整することができる。得られる酸化スズ中のリン原子のドープ量を増やす場合は、このモル比を大きくすることで容易に調整可能である。
【0022】
[ポリアミンとスズイオンを含むゲル状の不溶性複合体(C)を得る工程]
前記ポリアミンの水溶液(A)とスズイオンとリン酸イオンとを含む水溶液(B)を室温〜80℃の加温下で、攪拌しながら混合することにより、溶液中からガム状の複合体(C)を析出させることができる。この析出物は水中で加熱されても再溶解することができず、その他の有機溶剤中でも溶解しない。
【0023】
不溶性の複合体(C)は、ポリアミン、スズイオン(カチオン)、これの対イオンであるアニオン及びリン酸イオンで構成され、スズイオンとアニオンはポリアミンのアミノ基と相互作用し、架橋構造を形成し、不溶性になる。具体的に言えば、本発明でのスズイオン化合物を含む水溶液(B)は酸性を示し、プロトンを供給できる状態である。一方、ポリアミンの水溶液(A)のpHは塩基性寄りで、水酸基を供給できる状態である。この2つの水溶液を混合すると、スズイオンの対イオンであるアニオンの酸性由来のプロトンがポリアミンに結合され、ポリアミンはポリカチオンとして振る舞う。この時、リン酸イオン、及び対イオンが多価のアニオンである場合は、ポリカチオンとの静電的相互作用により架橋構造が形成される。一方、スズイオンは水酸基に結合され、水酸化スズになった状態でポリアミンとの配位作用等を経て、物理架橋に貢献する。このような多種の相互作用の結果、ゲル状の複合体(C)中には、水溶液(A)と水溶液(B)との混合の際に用いたスズイオン(カチオン)とリン酸イオンと、対イオンのアニオンとが均一に、且つ使用した原料の全量が含まれることになり、不溶化する。
【0024】
本発明での複合体(C)を得る工程において、ポリアミン中のアミノ官能基とスズイオンとのモル比としては、4:1〜1:4の範囲に設定することができるが、安定したゲル状の複合体(C)を収率よく得るためには、そのモル比を0.5〜1.5の範囲に設定することが望ましい。
【0025】
析出したゲル状の複合体(C)は、水中では一つの塊になりやすく、上澄みをデカンテーション法で除去し、蒸留水またはエタノール、アセトンなどの溶剤を加えて洗浄することができる。
【0026】
洗浄後のゲル複合体は室温〜60℃の温度範囲で加温し、乾燥して粉末状態にすることができる。
【0027】
[複合体(C)の加熱焼成によるリンドープ型酸化スズナノシートの製造]
本発明では、上記で得られる乾燥状態の複合体(C)を加熱焼成することで、リンドープ型酸化スズナノシートを得るものである。加熱焼成の方法としては特に限定されるものではなく、通常行われる方法、すなわち、当該複合体(C)をルツボに入れ、それを電気炉内にセットしてから、炉内温度を設定したプログラムにそって上昇させる方法でよい。
【0028】
加熱焼成の温度としては、複合体(C)中の非金属の成分、具体的には、ポリアミン及びアニオン由来の非金属部分を分解し、これを除去できる温度であれば特に制限することはないが、生産性(加熱焼成時間)との兼ね合いで500℃以上であることが好ましく、また、エネルギーコストの関係からは1500℃以下の温度であることが好ましい。温度の上昇についても、前述のように非金属部分の分解と除去が可能であれば良いので、特に限定されず、段階的な過程を経て目的温度まで上昇することができるし、また単位時間上昇速度を一定にして一直線的に目的温度まで到達させることもできる。いずれの温度上昇でも、ナノメートルオーダーの厚みを有するシート状の構造体(リンドープ型酸化スズ)に変換することができる。
【0029】
焼成時間は、温度にも関係するが、概ね1時間〜5時間に設定することができる。
【0030】
この焼成工程を得ることにより、得られるリンドープ型酸化スズナノシートは、厚みが5〜50nmの範囲、特には5〜40nmの範囲であることを特徴とし、これと直行する方向の長さ(シートの幅)としては、数mmの範囲にまで成長することもあるが、通常5〜200μmの範囲である。
【0031】
また、上記工程を経て得るリンドープ型酸化スズのナノシートは、2次元のシート構造中にナノサイズの空洞を多く有する多孔性を示す。このような多孔性ナノシートは、リンドープ型酸化スズのナノメートルオーダーの粒子状の構造体が密に焼結されてなるものである。この時のリンドープ型酸化スズナノ粒子の粒子径は数nmから30nmの範囲であり、平均粒子径としては5〜20nmの範囲である。当該ナノシートに含まれるリン原子とスズ原子との存在比は、原料として用いたスズイオン化合物とリン酸イオンのソース化合物との使用割合で調整することが可能であり、具体的には、リン/スズであらわされるモル比として0.005〜0.2の範囲であることが、導電性等の材料としての特性から好ましいものである。
【0032】
[リンドープ型酸化スズナノ粒子]
本発明で得られるリンドープ型酸化スズナノシートは、前述のようにナノメートルオーダーの粒子が2次元方向で結合してなる構造であるので、それを容易に粉砕することで、ナノ粒子にすることができる。
【0033】
粉砕する方法としては、特に限定されるものではなく、従来使用されている粉砕法がいずれも適用できるが、工業的に容易であることから、当該ナノシートを液媒体(水、有機溶剤あるいはこれらの混合溶媒)中に分散して行う湿式法で行うことが好ましい。具体的分散法としては、例えば、超音波ホモジナイザー法、高速回転のフィルミックス法、ジェットミル法、ビーズミル(ペトコン)法、研磨法などを利用することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を表す。
【0035】
[X線回折法による分析]
単離乾燥した試料を測定試料用ホルダーにのせ、それを株式会社リガク製広角X線回折装置「RINT−ULTMA」にセットし、CU/KΑ線、40KV/30MA、スキャンスピード1.0°/分、走査範囲10〜70°の条件で測定を行った。
【0036】
[透過型電子顕微鏡による微細構造分析]
エタノールで分散された試料をサンプル支持膜に載せ、それを日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡装置(JEM−2000FS)にて観察した。
【0037】
[酸化スズ中のリン含有量の測定]
サンプルの粉末をプレスし、そのプレートを日本理学製蛍光X線測定装置(ZSX100E)にて元素測定を行った。
【0038】
[塗膜の表面抵抗]
粉末状のサンプルをエタノール中分散し、その分散液をガラス板上に成膜した後、三菱化学製表面抵抗測定装置(MCP−T610)にて抵抗値を測った。
【0039】
[膜の可視光透過率]
リンドープ型酸化スズの分散液をガラス板上に塗装後、日立製UV/VIS分光測定装置(3500)を用いて膜の可視光(波長範囲400NM〜750NM)透過率を測定した。
【0040】
実施例1[リン酸をリンのソースとするリンドープ型酸化スズナノシートの合成]
室温(25℃)下、表1に示したように各濃度、体積の硫酸第一スズ(II)(和光純薬製)水溶液、分岐状ポリエチレンイミン(エポミンSP200、日本触媒株式会社製)水溶液、及びリン酸水溶液をガラス製反応容器中攪拌条件下混合し、60分間反応させた。これにより、水中不溶なゲル状の沈殿物を得た。得られた沈殿物を蒸留水で3回洗浄後、90℃にて8時間減圧乾燥した。収量は表1に示した通りである。
【0041】
【表1】
【0042】
乾燥後のそれぞれの複合体(C)を、空気雰囲気下(圧縮空気使用、流量は5L/min)、加熱し(温度上昇5℃/分)、それぞれの目的温度の700℃と800℃にて1時間保持した。
【0043】
焼成後の粉末の蛍光X線元素分析の結果(表2)から、700℃の焼成で得たリンドープ型酸化スズの場合、リン/スズの元素モル比は0.04から0.12範囲であった。また、800℃焼成後得た酸化スズの場合、リン/スズのモル比は0.04〜0.11範囲であった。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
これらの結果から、酸化スズへのリンドープ量は、複合体を調製する際、スズイオン化合物とリン酸ソースの化合物のモル比に比例する傾向であることを強く示唆した。即ち、リンドープ量を増大させるには、単純に反応物を仕込む際のリン化合物濃度を増大しておくこととで可能となる。
【0047】
それぞれ温度で焼成して得たサンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を図1図4に示した。700℃焼成からのサンプルのSN−P1BとSN−P3Bは、いずれもナノシートの構造であり、そのナノシートはナノ粒子の2次元方向での結合により形成していることが明らかとなった。また、リンのドープ量の増大に連れて、2次元ナノシート中のナノ粒子のサイズが増大し、シート中の隙は広くなる傾向であった。表3は800℃焼成で得たリンドープ型酸化スズ中リン/スズのモル比である。800℃焼成で得られたサンプルSN−P1CとSNP3Cでもナノシートであり、リンのドープ量増大により、2次元ナノシート中のナノ粒子のサイズが増大し、シート中の隙は広くなる傾向であった。
【0048】
図1〜4の高分解写真イメージから、ナノシート中ナノ粒子同士の粒界は明晰に観察され、それにより見積られる個々のナノ粒子サイズは20nm以下であった。
【0049】
図5には、800℃焼成で得たリンドープ型酸化スズSN−P1C〜SNP7CのXRD散乱ピークパターンを示した。リンのドープ量変化に関係せず、いずれも酸化スズ由来の結晶構造を有することが示唆された。
【0050】
実施例2[リン酸アンモニウムをリンのソースとするリンドープ型酸化スズナノシートの製造]
室温下、表4に示したように各濃度、体積の硫酸第一スズ(II)(和光純薬)水溶液、分岐状ポリエチレンイミン(エポミンSP200、日本触媒製)水溶液及びリン酸アンモニウム水溶液をガラス製反応容器中で攪拌・混合し、60分間反応させた。これにより、水中不溶なゲル状の複合体を得た。沈殿物を蒸留水で3回洗浄後、90℃にて8時間減圧乾燥した。収量は表4に示した通りである。
【0051】
【表4】
【0052】
乾燥後のそれぞれの複合体を、空気雰囲気下(圧縮空気使用、流量は5L/MIN)、加熱し(温度上昇5℃/分)、800℃にて1時間保持した。焼成後の粉末の蛍光X線元素分析結果(表5)、800℃焼成後得た酸化スズの場合、リン/スズのモル比は0.0067〜0.028範囲であった。
【0053】
【表5】
【0054】
図6図8には、サンプルSN−P1E,SN−P3E,SN−P6EのTEM観察写真を示した。低分解、高分解写真から、得られた800℃焼成で得た粉末は、すべてナノシートであり、そのナノシートはナノ粒子の2次元方向での結合により形成したことが明らかとなった。また、これらのナノ粒子はリン酸アンモニウムの仕込み量増大(即ち、リンのドープ量増大)により、低下する傾向を示し、いずれも20nm以下であった。リンのドープ量が低い場合、ナノシート中の隙は広くなることが示唆された。これらのサンプルの粉末XRD測定結果(図9)、いずれも酸化スズの結晶であった。
【0055】
実施例3[リンドープ型酸化スズナノ粒子の製造]
実施例2で得た粉末SN−P3Eを乳鉢で粉砕した後、エタノールと混合し、それにジルコニアビーズを加えた後、ペトコンで2時間ミリングを行った。これにより暗灰色の透明なゾル液を得た。このゾル液をスピンコーター(回転速度1000rpm)にて、ガラス板上に約1mmの厚みの膜を作製した。この膜の可視光(400〜750nm)透過率が92%であり、膜の表面抵抗値が9×10Ω/□以下であった。
図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8