(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
支持基板および前記支持基板上に配置されたメタルシリサイド、窒化物、炭化物、および炭窒化物からなる群から選択される少なくとも1種を含有する無機層を備える無機層付き支持基板と、
前記無機層上に剥離可能に積層されたガラス基板と、を備えるガラス積層体。
前記メタルシリサイドが、W、Fe、Mn、Mg、Mo、Cr、Ru、Re、Co、Ni、Ta、Ti、Zr、およびBaからなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記窒化物が、Si、Hf、Zr、Ta、Ti、Nb、Na、Co、Al、Zn、Pb、Mg、Sn、In、B、Cr、MoおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含み、
前記炭化物および前記炭窒化物が、Ti、W、Si、Zr、およびNbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む、請求項1に記載のガラス積層体。
前記無機層が、タングステンシリサイド、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素、および炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載のガラス積層体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のガラス積層体および電子デバイスの製造方法の好適形態について図面を参照して説明するが、本発明は、以下の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、以下の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
【0013】
本発明のガラス積層体においては、支持基板とガラス基板との間にメタルシリサイド、窒化物、炭化物および炭窒化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む無機層を介在させることを特徴の一つとする。所定の成分の無機層を介在させることにより、高温条件下におけるガラス基板の支持基板への接着を抑制することができ、所定の処理後において容易にガラス基板を剥離することができる。特に、これらの無機層ではその表面上に水酸基などの量が少なく、加熱処理時においても無機層とその上に積層されるガラス基板との間で化学結合が形成されにくくなるため、結果として高温処理後においても両者を容易に剥離できるようになったと推測される。一方、特許文献1で具体的に記載される金属酸化物の層表面上には多くの水酸基が存在し、加熱処理時にガラス基板との間で数多くの化学結合が形成されてしまい、ガラス基板の剥離性が低下したものと推測される。
以下においては、まず、ガラス積層体の好適態様について詳述し、その後、このガラス積層体を使用した電子デバイスの製造方法の好適態様について詳述する。
【0014】
<ガラス積層体>
図1は、本発明に係るガラス積層体の一実施形態の模式的断面図である。
図1に示すように、ガラス積層体10は、支持基板12および無機層14からなる無機層付き支持基板16と、ガラス基板18とを有する。ガラス積層体10中において、無機層付き支持基板16の無機層14の第1主面14a(支持基板12側とは反対側の表面)と、ガラス基板18の第1主面18aとを積層面として、無機層付き支持基板16とガラス基板18とが剥離可能に積層している。つまり、無機層14は、その一方の面が支持基板12の層に固定されると共に、その他方の面がガラス基板18の第1主面18aに接し、無機層14とガラス基板18との界面は剥離可能に密着されている。言い換えると、無機層14は、ガラス基板18の第1主面18aに対して易剥離性を具備している。
【0015】
また、このガラス積層体10は、後述する部材形成工程まで使用される。即ち、このガラス積層体10は、そのガラス基板18の第2主面18b表面上に液晶表示装置などの電子デバイス用部材が形成されるまで使用される。その後、無機層付き支持基板16の層は、ガラス基板18の層との界面で剥離され、無機層付き支持基板16の層は電子デバイスを構成する部材とはならない。分離された無機層付き支持基板16は新たなガラス基板18と積層され、新たなガラス積層体10として再利用することができる。
【0016】
本発明において、上記固定と(剥離可能な)密着は剥離強度(すなわち、剥離に要する応力)に違いがあり、固定は密着に対し剥離強度が大きいことを意味する。具体的には、無機層14と支持基板12との界面の剥離強度が、ガラス積層体10中の無機層14とガラス基板18との界面の剥離強度よりも大きくなる。
また、剥離可能な密着とは、剥離可能であると同時に、固定されている面の剥離を生じさせることなく剥離可能であることも意味する。つまり、本発明のガラス積層体10において、ガラス基板18と支持基板12とを分離する操作を行った場合、密着された面(無機層14とガラス基板18との界面)で剥離し、固定された面では剥離しないことを意味する。したがって、ガラス積層体10をガラス基板18と支持基板12とに分離する操作を行うと、ガラス積層体10はガラス基板18と無機層付き支持基板16との2つに分離される。
【0017】
以下では、まず、ガラス積層体10を構成する無機層付き支持基板16およびガラス基板18について詳述し、その後ガラス積層体10の製造の手順について詳述する。
【0018】
[無機層付き支持基板]
無機層付き支持基板16は、支持基板12と、その表面上に配置(固定)される無機層14とを備える。無機層14は、後述するガラス基板18と剥離可能に密着するように、無機層付き支持基板16中の最外側に配置される。
以下に、支持基板12、および、無機層14の態様について詳述する。
【0019】
(支持基板)
支持基板12は、第1主面と第2主面とを有し、第1主面上に配置された無機層14と協働して、ガラス基板18を支持して補強し、後述する部材形成工程(電子デバイス用部材を製造する工程)において電子デバイス用部材の製造の際にガラス基板18の変形、傷付き、破損などを防止する基板である。
支持基板12としては、例えば、ガラス板、プラスチック板、SUS板などの金属板などが用いられる。支持基板12は、部材形成工程が熱処理を伴う場合、ガラス基板18との線膨張係数の差の小さい材料で形成されることが好ましく、ガラス基板18と同一材料で形成されることがより好ましく、支持基板12はガラス板であることが好ましい。特に、支持基板12は、ガラス基板18と同じガラス材料からなるガラス板であることが好ましい。
【0020】
支持基板12の厚さは、後述するガラス基板18よりも厚くてもよいし、薄くてもよい。好ましくは、ガラス基板18の厚さ、無機層14の厚さ、および後述するガラス積層体10の厚さに基づいて、支持基板12の厚さが選択される。例えば、現行の部材形成工程が厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、ガラス基板18の厚さおよび無機層14の厚さの和が0.1mmの場合、支持基板12の厚さを0.4mmとする。支持基板12の厚さは、通常の場合、0.2〜5.0mmであることが好ましい。
【0021】
支持基板12がガラス板の場合、ガラス板の厚さは、扱いやすく、割れにくいなどの理由から、0.08mm以上であることが好ましい。また、ガラス板の厚さは、電子デバイス用部材形成後に剥離する際に、割れずに適度に撓むような剛性が望まれる理由から、1.0mm以下であることが好ましい。
【0022】
支持基板12とガラス基板18との25〜300℃における平均線膨張係数(以下、単に「平均線膨張係数」という)の差は、好ましくは500×10
-7/℃以下であり、より好ましくは300×10
-7/℃以下であり、さらに好ましくは200×10
-7/℃以下である。差が大き過ぎると、部材形成工程における加熱冷却時に、ガラス積層体10が激しく反るおそれがある。ガラス基板18の材料と支持基板12の材料が同じ場合、このような問題が生じるのを抑制することができる。
【0023】
(無機層)
無機層14は、支持基板12の主面上に配置(固定)され、ガラス基板18の第1主面18aと接触する層である。無機層14を支持基板12上に設けることにより、高温条件下の長時間処理後においても、ガラス基板18の接着を抑制することができる。
【0024】
無機層14は、メタルシリサイド、窒化物、炭化物、および炭窒化物からなる群から選択される少なくとも1種を含有する。なかでも、ガラス基板18の無機層14に対する剥離性がより優れる点で、タングステンシリサイド、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ケイ素、および炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なかでも、窒化ケイ素および/または炭化ケイ素を含むことがより好ましい。上記の成分が好ましい理由としては、メタルシリサイド、窒化物、炭化物、および炭窒化物中に含まれる、Si、NまたはCと、それら元素と組み合わされる元素との間の電気陰性度の差の大きさが起因していると推測される。電気陰性度の差が小さいと、分極が小さく、水との反応で水酸基を生成し難いため、ガラス基板の無機層14に対する剥離性がより良好となる。より具体的には、SiNにおいてはSi元素とN元素との電気陰性度の差が1.14で、AlNにおいてはAl元素とN元素との電気陰性度の差が1.43であり、TiNにおいてはTi元素とN元素との電気陰性度の差が1.50である。3つを比較すると、SiNが電気陰性度の差が最も小さく、ガラス基板18の無機層14に対する剥離性もより優れる。
なお、無機層14には、上記成分が2種以上含まれていてもよい。
【0025】
メタルシリサイドの組成は特に制限されないが、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、W、Fe、Mn、Mg、Mo、Cr、Ru、Re、Co、Ni、Ta、Ti、Zr、およびBaからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。さらに、上記金属/シリコン元素比を変化させることによって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。
また、窒化物の組成は特に制限されないが、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、Si、Hf、Zr、Ta、Ti、Nb、Na、Co、Al、Zn、Pb、Mg、Sn、In、B、Cr、MoおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。さらに、上記金属/窒素元素比を変化させることによって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。
また、炭化物および炭窒化物の組成は特に制限されないが、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、Ti、W、Si、Zr、およびNbからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。さらに、上記金属/炭素元素比を変化させることによって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。
【0026】
また、無機層14は、その一部が酸化されていてもよい。つまり、無機層14には、酸素原子(酸素元素)(O)が含まれていてもよい。
なお、上記メタルシリサイド、窒化物、炭化物および炭窒化物においては、酸素原子の添加量によって、無機層14表面のOH基数や表面平坦度を調整し、無機層14とガラス基板18との間の密着力の制御もできる。
【0027】
より具体的には、メタルシリサイドとしては、例えば、WSi、FeSi、MnSi、MgSi、MoSi、CrSi、RuSi、ReSi、CoSi、NiSi、TaSi、TiSi、ZrSi、BaSiなどが挙げられる。
窒化物としては、例えば、SiN、TiN、WN、CrN、BN、MoN、AlN、ZrNなどが挙げられる。
炭化物としては、例えば、TiC、WC、SiC、NbC、ZrCなどが挙げられる。
炭窒化物としては、例えば、TiCN、WCN、SiCN、NbCN、ZrCNなどが挙げられる。
【0028】
無機層14の平均線膨張係数は特に制限されないが、支持基板12としてガラス板を使用する場合は、その平均線膨張係数は10×10
-7〜200×10
-7/℃が好ましい。該範囲であれば、ガラス板(SiO
2)との平均線膨張係数の差が小さくなり、高温環境下におけるガラス基板18と無機層付き支持基板16との位置ずれをより抑制することができる。
【0029】
無機層14は、上記メタルシリサイド、窒化物、炭化物、および炭窒化物からなる群から選択される少なくとも1種が主成分として含まれていることが好ましい。ここで、主成分とは、これらの総含有量が、無機層14全量に対して、90質量%以上であることを意味し、98質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
【0030】
無機層14の厚みは特に制限されないが、耐擦傷性を維持する点では、5〜5000nmが好ましく、10〜500nmがより好ましい。
無機層14は、
図1において単層として記載されているが、2層以上の積層であってもよい。2層以上の積層の場合、各層ごとが異なる組成であってもよい。
【0031】
無機層14は、通常、
図1に示すように支持基板12の一方の主面全体に設けられるが、本発明の効果を損なわない範囲で、支持基板12表面上の一部に設けられていてもよい。例えば、無機層14が、支持基板12表面上に、島状や、ストライプ状に設けられていてもよい。
【0032】
さらに、無機層14のガラス基板18に接した面(すなわち、無機層14の第1主面14a)の表面粗さ(Ra)は2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましい。下限値は特に制限されないが、0が最も好ましい。上記範囲であれば、ガラス基板18との密着性がより良好となり、ガラス基板18の位置ずれなどをより抑制することができると共に、ガラス基板18の剥離性にも優れる。
RaはJIS B 0601(2001年改正)に従って測定される。
【0033】
無機層14は、優れた耐熱性を示す。そのため、ガラス積層体10を高温条件に曝しても層自体の化学変化が起きにくく、後述するガラス基板18との間でも化学結合を生じにくく、重剥離化によるガラス基板18の無機層14への付着が生じにくい。
上記重剥離化とは、無機層14とガラス基板18との界面の剥離強度が、支持基板12と無機層14との界面の剥離強度、および、無機層14の材料自体の強度(バルク強度)のいずれかよりも大きくなることをいう。無機層14とガラス基板18との界面で重剥離化が起こると、ガラス基板18表面に無機層14の成分が付着しやすく、その表面の清浄化が困難となりやすい。ガラス基板18表面への無機層14の付着とは、無機層14全体がガラス基板18表面に付着すること、および、無機層14表面が損傷し無機層14表面の成分の一部がガラス基板18表面に付着すること、などを意味する。
【0034】
(無機層付き支持基板の製造方法)
無機層付き支持基板16の製造方法は特に制限されず、公知の方法を採用することができる。例えば、蒸着法、スパッタリング法、または、CVD法により、支持基板12上に所定の成分からなる無機層14を設ける方法が挙げられる。
製造条件は、使用される材料に応じて、適宜最適な条件が選択される。
なお、必要に応じて、支持基板12上に形成された無機層14の表面性状(例えば、表面粗さRa)を制御するために、無機層14の表面を削る処理を施してもよい。該処理としては、例えば、イオンスパッタリング法などが挙げられる。
【0035】
[ガラス基板]
ガラス基板18は、第1主面18aが無機層14と密着し、無機層14側とは反対側の第2主面18bに後述する電子デバイス用部材が設けられる。
ガラス基板18の種類は、一般的なものであってよく、例えば、LCD、OLEDといった表示装置用のガラス基板などが挙げられる。ガラス基板18は耐薬品性、耐透湿性に優れ、且つ、熱収縮率が低い。熱収縮率の指標としては、JIS R 3102(1995年改正)に規定されている線膨張係数が用いられる。
【0036】
ガラス基板18は、ガラス原料を溶融し、溶融ガラスを板状に成形して得られる。このような成形方法は、一般的なものであってよく、例えば、フロート法、フュージョン法、スロットダウンドロー法、フルコール法、ラバース法などが用いられる。また、特に厚さが薄いガラス基板は、いったん板状に成形したガラスを成形可能温度に加熱し、延伸などの手段で引き伸ばして薄くする方法(リドロー法)で成形して得られる。
【0037】
ガラス基板18のガラスは、特に限定されないが、無アルカリホウケイ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、高シリカガラス、その他の酸化ケイ素を主な成分とする酸化物系ガラスが好ましい。酸化物系ガラスとしては、酸化物換算による酸化ケイ素の含有量が40〜90質量%のガラスが好ましい。
【0038】
ガラス基板18のガラスとしては、デバイスの種類やその製造工程に適したガラスが採用される。例えば、液晶パネル用のガラス基板は、アルカリ金属成分の溶出が液晶に影響を与えやすいことから、アルカリ金属成分を実質的に含まないガラス(無アルカリガラス)からなる(ただし、通常アルカリ土類金属成分は含まれる)。このように、ガラス基板18のガラスは、適用されるデバイスの種類およびその製造工程に基づいて適宜選択される。
【0039】
ガラス基板18の厚さは、特に限定されないが、ガラス基板18の薄型化および/または軽量化の観点から、通常0.8mm以下であり、好ましくは0.3mm以下であり、さらに好ましくは0.15mm以下である。0.8mm超の場合、ガラス基板18の薄型化および/または軽量化の要求を満たせない。0.3mm以下の場合、ガラス基板18に良好なフレキシブル性を与えることが可能である。0.15mm以下の場合、ガラス基板18をロール状に巻き取ることが可能である。また、ガラス基板18の厚さは、ガラス基板18の製造が容易であること、ガラス基板18の取り扱いが容易であることなどの理由から、0.03mm以上であることが好ましい。
【0040】
なお、ガラス基板18は2層以上からなっていてもよく、この場合、各々の層を形成する材料は同種材料であってもよいし、異種材料であってもよい。また、この場合、「ガラス基板の厚さ」は全ての層の合計の厚さを意味するものとする。
【0041】
ガラス基板18の第1主面18a上には、さらに無機薄膜層が積層されていてもよい。
無機薄膜層がガラス基板18上に配置(固定)される場合、ガラス積層体中においては、無機層付き支持基板16の無機層14と無機薄膜層とが接触する。無機薄膜層をガラス基板18上に設けることにより、高温条件下の長時間処理後においても、ガラス基板18と無機層付き支持基板16との接着をより抑制することができる。
無機薄膜層の態様は特に限定されないが、好ましくは、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属炭化物、金属炭窒化物、金属珪化物および金属弗化物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む。なかでも、ガラス基板18の剥離性がより優れる点で、金属酸化物を含むことが好ましい。なかでも、酸化インジウムスズがより好ましい。
【0042】
金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物としては、例えば、Si、Hf、Zr、Ta、Ti、Y、Nb、Na、Co、Al、Zn、Pb、Mg、Bi、La、Ce、Pr、Sm、Eu、Gd、Dy、Er、Sr、Sn、InおよびBaから選ばれる1種類以上の元素の酸化物、窒化物、酸窒化物が挙げられる。より具体的には、酸化チタン(TiO
2)、酸化インジウム(In
2O
3)、酸化スズ(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、酸化亜鉛スズ(ZTO)、ガリウム添加酸化亜鉛(GZO)などが挙げられる。
【0043】
金属炭化物、金属炭窒化物としては、例えば、Ti、W、Si、Zr、Nbから選ばれる1種以上の元素の炭化物、炭窒化物が挙げられる。金属珪化物としては、例えば、Mo、W、Crから選ばれる1種以上の元素の珪化物が挙げられる。金属弗化物としては、例えば、Mg、Y、La、Baから選ばれる1種以上の元素の弗化物が挙げられる。
【0044】
<ガラス積層体およびその製造方法>
本発明のガラス積層体10は、上述した無機層付き支持基板16において無機層14の第1主面14aとガラス基板18の第1主面18aとを積層面として、無機層付き支持基板16とガラス基板18とを剥離可能に積層してなる積層体である。言い換えると、支持基板12とガラス基板18との間に、無機層14が介在する積層体である。
本発明のガラス積層体10の製造方法は特に制限されないが、具体的には、常圧環境下で無機層付き支持基板16とガラス基板18とを重ねた後、ロールやプレスを用いて圧着させる方法が挙げられる。ロールやプレスで圧着することにより無機層付き支持基板16とガラス基板18とがより密着するので好ましい。また、ロールまたはプレスによる圧着により、無機層付き支持基板16とガラス基板18との間に混入している気泡が比較的容易に除去されるので好ましい。
【0045】
真空ラミネート法や真空プレス法により圧着すると、気泡の混入の抑制や良好な密着の確保が好ましく行われるのでより好ましい。真空下で圧着することにより、微小な気泡が残存した場合でも、加熱により気泡が成長することがなく、ゆがみ欠陥につながりにくいという利点もある。
【0046】
無機層付き支持基板16とガラス基板18とを剥離可能に密着させる際には、無機層14およびガラス基板18の互いに接触する側の面を十分に洗浄し、クリーン度の高い環境で積層することが好ましい。クリーン度が高いほどその平坦性は良好となるので好ましい。
洗浄の方法は特に制限されないが、例えば、無機層14またはガラス基板18の表面をアルカリ水溶液で洗浄した後、さらに水を用いて洗浄する方法が挙げられる。
【0047】
本発明のガラス積層体10は、種々の用途に使用することができ、例えば、後述する表示装置用パネル、PV、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品を製造する用途などが挙げられる。なお、該用途では、ガラス積層体10が高温条件(例えば、350℃以上)で曝される(例えば、1時間以上)場合が多い。
ここで、表示装置用パネルとは、LCD、OLED、電子ペーパー、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル、量子ドットLEDパネル、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)シャッターパネル等が含まれる。
【0048】
<電子デバイスおよびその製造方法>
次に、電子デバイスおよびその製造方法の好適実施態様について詳述する。
図2は、本発明の電子デバイスの製造方法の好適実施態様における各製造工程を順に示す模式的断面図である。本発明の電子デバイスの好適実施態様は、部材形成工程および分離工程を備える。
以下に、
図2を参照しながら、各工程で使用される材料およびその手順について詳述する。まず、部材形成工程について詳述する。
【0049】
[部材形成工程]
部材形成工程は、ガラス積層体中のガラス基板上に電子デバイス用部材を形成する工程である。
より具体的には、
図2(A)に示すように、本工程において、ガラス基板18の第2主面18b上に電子デバイス用部材20が形成され、電子デバイス用部材付き積層体22が製造される。
まず、本工程で使用される電子デバイス用部材20について詳述し、その後工程の手順について詳述する。
【0050】
(電子デバイス用部材(機能性素子))
電子デバイス用部材20は、ガラス積層体10中のガラス基板18の第2主面18b上に形成され電子デバイスの少なくとも一部を構成する部材である。より具体的には、電子デバイス用部材20としては、表示装置用パネル、太陽電池、薄膜2次電池、表面に回路が形成された半導体ウェハ等の電子部品などに用いられる部材が挙げられる。表示装置用パネルとしては、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションパネル等が含まれる。
【0051】
例えば、太陽電池用部材としては、シリコン型では、正極の酸化スズなど透明電極、p層/i層/n層で表されるシリコン層、および負極の金属等が挙げられ、その他に、化合物型、色素増感型、量子ドット型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、薄膜2次電池用部材としては、リチウムイオン型では、正極および負極の金属または金属酸化物等の透明電極、電解質層のリチウム化合物、集電層の金属、封止層としての樹脂等が挙げられ、その他に、ニッケル水素型、ポリマー型、セラミックス電解質型などに対応する各種部材等を挙げることができる。
また、電子部品用部材としては、CCDやCMOSでは、導電部の金属、絶縁部の酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられ、その他に圧力センサ・加速度センサなど各種センサやリジッドプリント基板、フレキシブルプリント基板、リジッドフレキシブルプリント基板などに対応する各種部材等を挙げることができる。
【0052】
(工程の手順)
上述した電子デバイス用部材付き積層体22の製造方法は特に限定されず、電子デバイス用部材の構成部材の種類に応じて従来公知の方法にて、ガラス積層体10のガラス基板18の第2主面18bの表面上に、電子デバイス用部材20を形成する。
なお、電子デバイス用部材20は、ガラス基板18の第2主面18bに最終的に形成される部材の全部(以下、「全部材」という)ではなく、全部材の一部(以下、「部分部材」という)であってもよい。部分部材付きガラス基板を、その後の工程で全部材付きガラス基板(後述する電子デバイスに相当)とすることもできる。また、全部材付きガラス基板には、その剥離面(第1主面)に他の電子デバイス用部材が形成されてもよい。また、全部材付き積層体を組み立て、その後、全部材付き積層体から無機層付き支持基板16を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。さらに、全部材付き積層体を2枚用いて電子デバイスを組み立て、その後、全部材付き積層体から2枚の無機層付き支持基板16を剥離して、電子デバイスを製造することもできる。
【0053】
例えば、OLEDを製造する場合を例にとると、ガラス積層体10のガラス基板18の第2主面18bの表面上に有機EL構造体を形成するために、透明電極を形成する、さらに透明電極を形成した面上にホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する、裏面電極を形成する、封止板を用いて封止する、等の各種の層形成や処理が行われる。これらの層形成や処理として、具体的には、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。
【0054】
また、例えば、TFT−LCDの製造方法は、ガラス積層体10のガラス基板18の第2主面18b上に、レジスト液を用いて、CVD法およびスパッター法など、一般的な成膜法により形成される金属膜および金属酸化膜等にパターン形成して薄膜トランジスタ(TFT)を形成するTFT形成工程と、別のガラス積層体10のガラス基板18の第2主面18b上に、レジスト液をパターン形成に用いてカラーフィルタ(CF)を形成するCF形成工程と、TFT付きデバイス基板とCF付きデバイス基板とを積層する貼り合わせ工程等の各種工程を有する。
【0055】
TFT形成工程やCF形成工程では、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチング技術等を用いて、ガラス基板18の第2主面18bにTFTやCFを形成する。この際、パターン形成用のコーティング液としてレジスト液が用いられる。
なお、TFTやCFを形成する前に、必要に応じて、ガラス基板18の第2主面18bを洗浄してもよい。洗浄方法としては、周知のドライ洗浄やウェット洗浄を用いることができる。
【0056】
貼り合わせ工程では、TFT付き積層体と、CF付き積層体との間に液晶材を注入して積層する。液晶材を注入する方法としては、例えば、減圧注入法、滴下注入法がある。
【0057】
[分離工程]
分離工程は、上記部材形成工程で得られた電子デバイス用部材付き積層体22から無機層付き支持基板16を剥離して、電子デバイス用部材20およびガラス基板18を含む電子デバイス24(電子デバイス用部材付きガラス基板)を得る工程である。つまり、電子デバイス用部材付き積層体22を、無機層付き支持基板16と電子デバイス用部材付きガラス基板24とに分離する工程である。
剥離時のガラス基板18上の電子デバイス用部材20が必要な全構成部材の形成の一部である場合には、分離後、残りの構成部材をガラス基板18上に形成することもできる。
【0058】
無機層14の第1主面14aとガラス基板18の第1主面18aとを剥離(分離)する方法は、特に限定されない。例えば、無機層14とガラス基板18との界面に鋭利な刃物状のものを差し込み、剥離のきっかけを与えた上で、水と圧縮空気との混合流体を吹き付けたりして剥離することができる。好ましくは、電子デバイス用部材付き積層体22の支持基板12が上側、電子デバイス用部材20側が下側となるように定盤上に設置し、電子デバイス用部材20側を定盤上に真空吸着し(両面に支持基板が積層されている場合は順次行う)、この状態でまず刃物を無機層14−ガラス基板18界面に刃物を侵入させる。そして、その後に支持基板12側を複数の真空吸着パッドで吸着し、刃物を差し込んだ箇所付近から順に真空吸着パッドを上昇させる。そうすると無機層14とガラス基板18との界面へ空気層が形成され、その空気層が界面の全面に広がり、無機層付き支持基板16を容易に剥離することができる。
【0059】
上記工程によって得られた電子デバイス24は、携帯電話やPDAのようなモバイル端末に使用される小型の表示装置の製造に好適である。表示装置は主としてLCDまたはOLEDであり、LCDとしては、TN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型、IPS型、VA型等を含む。基本的にパッシブ駆動型、アクティブ駆動型のいずれの表示装置の場合でも適用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
以下の実施例および比較例では、ガラス基板として、無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦720mm、横600mm、板厚0.3mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。また、支持基板としては、同じく無アルカリホウケイ酸ガラスからなるガラス板(縦720mm、横600mm、板厚0.4mm、線膨張係数38×10
-7/℃、旭硝子社製商品名「AN100」)を使用した。
【0061】
<実施例1>
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(加熱温度300℃、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ20nmのTiN(窒化チタン)層(無機層に該当)を形成し、無機層付き支持基板を得た。
【0062】
次に、ガラス基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。無機層付き支持基板の無機層の露出表面とガラス基板の清浄化した表面とに、アルカリ水溶液による洗浄および水による洗浄を施した後、清浄化された両面を室温下で真空プレスにより貼り合わせ、ガラス積層体A1を得た。
得られたガラス積層体A1においては、無機層付き支持基板とガラス基板は、気泡を発生することなく密着しており、歪み状欠点もなく、平滑性も良好であった。
【0063】
ガラス積層体A1に対して、大気雰囲気にて、350℃で1時間加熱処理を施した。
次に、剥離試験を行った。具体的には、まず、ガラス積層体A1におけるガラス基板の第2主面を固定台上に固定し、支持基板の第2主面を吸着パッドで吸着した。次に、ガラス積層体A1が有する4つの角部のうちの1つであって無機層とガラス基板との界面に、厚さ0.4mmのナイフを挿入して、ガラス基板を僅かに剥離し、剥離のきっかけを与えた。次に、吸着パッドを固定台から離れる方向へ移動させて、無機層付き支持基板とガラス基板とを剥離した。剥離されたガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
なお、該結果より、無機層と支持基板の層との界面の剥離強度が、無機層とガラス基板との界面の剥離強度よりも大きいことが確認された。
【0064】
<実施例2>
TiN層を形成する代わりに、以下の手順に従ってAlN(窒化アルミニウム)層を作製した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体A2を製造した。
【0065】
(AlN層の作製手順)
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(加熱温度300℃、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ20nmのAlN層(無機層に該当)を形成し、無機層付き支持基板を得た。
【0066】
ガラス積層体A1の代わりに、ガラス積層体A2を使用して、実施例1と同様の手順でガラス基板の剥離を実施したところ、無機層付き支持基板とガラス基板とに剥離(分離)できた。剥離されたガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
【0067】
<実施例3>
TiN層を形成する代わりに、以下の手順に従ってWSi(タングステンシリサイド)層を作製した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体A3を製造した。
【0068】
(WSi層の作製手順)
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(室温、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ20nmのWSi層(無機層に該当)を形成し、無機層付き支持基板を得た。
【0069】
ガラス積層体A1の代わりに、ガラス積層体A3を使用して、実施例1と同様の手順でガラス基板の剥離を実施したところ、無機層付き支持基板とガラス基板とに剥離(分離)できた。剥離されたガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
【0070】
<実施例4>
ガラス基板の代わりに、後述する無機薄膜層付きガラス基板を使用した以外は、実施例3と同様の手順に従って、ガラス積層体A4を製造した。なお、ガラス積層体A4においては、無機層と無機薄膜層とが接触している。
【0071】
(無機薄膜層付きガラス基板)
ガラス基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(加熱温度300℃、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ150nmのITO層(無機薄膜層に該当)を形成し、無機薄膜層付きガラス基板を得た。ITO層の表面粗さRaは、0.85nmであった。
【0072】
ガラス積層体A1の代わりにガラス積層体A4を使用し、加熱温度を350℃から450℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順でガラス基板の剥離を実施したところ、無機層付き支持基板と無機薄膜層付きガラス基板とに剥離(分離)できた。剥離された無機薄膜層付きガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
【0073】
<実施例5>
WSi層を形成する代わりに、以下の手順に従ってSiC(炭化ケイ素)層を作製した以外は、実施例4と同様の手順に従って、ガラス積層体A5を製造した。
【0074】
(SiC層の作製手順)
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(室温、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ20nmのSiC層(無機層に該当)を形成し、無機層付き支持基板を得た。
【0075】
ガラス積層体A1の代わりに、ガラス積層体A5を使用し、加熱温度を350℃から600℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順でガラス基板の剥離を実施したところ、無機層付き支持基板と無機薄膜層付きガラス基板とに剥離(分離)できた。剥離された無機薄膜層付きガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
【0076】
<実施例6>
TiN層を形成する代わりに、以下の手順に従ってSiN(窒化ケイ素)層を作製した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体A6を製造した。
【0077】
(SiN層の作製手順)
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(加熱温度300℃、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ20nmのSiN層(無機層に該当)を形成し、無機層付き支持基板を得た。
【0078】
ガラス積層体A1の代わりにガラス積層体A6を使用し、加熱温度を350℃から600℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順でガラス基板の剥離を実施したところ、無機層付き支持基板とガラス基板とに剥離(分離)できた。剥離されたガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
【0079】
<実施例7>
TiN層を形成する代わりに、以下の手順に従ってSiC(炭化ケイ素)層を作製した以外は、実施例1と同様の手順に従って、ガラス積層体A7を製造した。
【0080】
(SiC層の作製手順)
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(室温、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ20nmのSiC層(無機層に該当)を形成し、無機層付き支持基板を得た。
【0081】
ガラス積層体A1の代わりにガラス積層体A7を使用し、加熱温度を350℃から600℃に変更した以外は、実施例1と同様の手順でガラス基板の剥離を実施したところ、無機層付き支持基板とガラス基板とに剥離(分離)できた。剥離されたガラス基板の面上には、無機層の残渣はなかった。
【0082】
<比較例1>
支持基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。さらに、清浄化した面に、マグネトロンスパッタリング法(加熱温度300℃、成膜圧力5mTorr、パワー密度4.9W/cm
2)により、厚さ150nmのITO層(酸化インジウムスズ層)を形成し、ITO層付き支持基板を得た。ITO層の表面粗さRaは、0.85nmであった。
【0083】
次に、ガラス基板の一方の主面を純水洗浄し、その後UV洗浄して清浄化した。ガラス基板の清浄化した面とITO層付き支持基板のITO層の露出表面とをアルカリ水溶液による洗浄および水による洗浄を施した後、清浄化された両面を室温下で真空プレスにより張り合わせ、ガラス積層体B1を得た。
得られたガラス積層体B1においては、ITO層付き支持基板とガラス基板は、気泡を発生することなく密着しており、歪み状欠点もなく、平滑性も良好であった。
【0084】
ガラス積層体B1に対して、大気雰囲気にて、350℃で1時間加熱処理を施した。
次に、実施例1と同様の手順に従って、ITO層付き支持基板の無機層とガラス基板との界面に、ナイフを挿入してガラス基板の剥離を試みたが、ガラス基板を剥離することはできなかった。
【0085】
上記実施例1〜7および比較例1の結果を以下の表1にまとめて示す。
なお、実施例2〜7においては、実施例1と同様に、上記ガラス基板の剥離の結果より、無機層と支持基板の層との界面の剥離強度が、無機層とガラス基板との界面の剥離強度よりも大きいことが確認された。
また、表1中、「無機層」欄は、支持基板上に配置(固定)された無機層の種類を示す。「無機薄膜層」欄は、ガラス基板上に配置(固定)された無機薄膜層の種類を示す。「加熱温度(℃)」欄は、ガラス積層体を加熱した際の温度を示す。「剥離性評価」欄は、加熱処理後にガラス基板と支持基板との剥離ができた場合を「A」、剥離ができなかった場合を「B」として示す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1に示すように、実施例1〜7で得られたガラス積層体は、高温条件下の処理の後であっても、ガラス基板を容易に剥離することができた。
なかでも、実施例3と4との比較より、ガラス基板の表面上に無機薄膜層を設けた場合、より高温(450℃)においてもガラス基板の剥離ができることが確認された。
また、実施例1〜2と実施例6〜7との比較より、無機層としてSiNまたはSiCを使用した場合、より高温(600℃)においてもガラス基板の剥離ができることが確認された。
一方、特許文献1で具体的に使用されている金属酸化物であるITOを使用した比較例1においては、350℃の加熱条件においてもガラス基板の剥離ができないことが確認された。
【0088】
<実施例8>
本例では、実施例1で製造された、ガラス積層体を用いてOLEDを作製した。
より具体的には、ガラス積層体におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ゲート電極を設けたガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコン、真性アモルファスシリコン、n型アモルファスシリコンの順に成膜し、続いてスパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、ゲート絶縁膜、半導体素子部およびソース/ドレイン電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコンを成膜してパッシベーション層を形成した後に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜して、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、画素電極を形成した。
続いて、ガラス基板の第2主面側に、さらに蒸着法により正孔注入層として4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、正孔輸送層としてビス[(N−ナフチル)−N−フェニル]ベンジジン、発光層として8−キノリノールアルミニウム錯体(Alq
3)に2,6−ビス[4−[N−(4−メトキシフェニル)−N−フェニル]アミノスチリル]ナフタレン−1,5−ジカルボニトリル(BSN−BCN)を40体積%混合したもの、電子輸送層としてAlq
3をこの順に成膜した。次に、ガラス基板の第2主面側にスパッタリング法によりアルミニウムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより対向電極を形成した。次に、対向電極を形成したガラス基板の第2主面上に、紫外線硬化型の接着層を介してもう一枚のガラス基板を貼り合わせて封止した。上記手順によって得られた、ガラス基板上に有機EL構造体を有するガラス積層体は、電子デバイス用部材付き積層体に該当する。
続いて、得られたガラス積層体の封止体側を定盤に真空吸着させたうえで、ガラス積層体のコーナー部の無機層とガラス基板との界面に、厚さ0.1mmのステンレス製刃物を差し込み、ガラス積層体から無機層付き支持基板を分離して、OLEDパネル(電子デバイスに該当。以下パネルAという)を得た。作製したパネルAにICドライバを接続し、常温常圧下で駆動させたところ、駆動領域内において表示ムラは認められなかった。
【0089】
<実施例9>
本例では、実施例1で製造された、ガラス積層体を用いてLCDを作製した。
ガラス積層体を2枚用意し、まず、片方のガラス積層体におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングによりゲート電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ゲート電極を設けたガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコン、真性アモルファスシリコン、n型アモルファスシリコンの順に成膜し、続いてスパッタリング法によりモリブデンを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、ゲート絶縁膜、半導体素子部およびソース/ドレイン電極を形成した。次に、プラズマCVD法により、ガラス基板の第2主面側に、さらに窒化シリコンを成膜してパッシベーション層を形成した後に、スパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより、画素電極を形成した。次に、画素電極を形成したガラス基板の第2主面上に、ロールコート法によりポリイミド樹脂液を塗布し、熱硬化により配向層を形成し、ラビングを行った。得られたガラス積層体を、ガラス積層体X1と呼ぶ。
次に、もう片方のガラス積層体におけるガラス基板の第2主面上に、スパッタリング法によりクロムを成膜し、フォトリソグラフィ法を用いたエッチングにより遮光層を形成した。次に、遮光層を設けたガラス基板の第2主面側に、さらにダイコート法によりカラーレジストを塗布し、フォトリソグラフィ法および熱硬化によりカラーフィルタ層を形成した。次に、ガラス基板の第2主面側に、さらにスパッタリング法により酸化インジウム錫を成膜し、対向電極を形成した。次に、対向電極を設けたガラス基板の第2主面上に、ダイコート法により紫外線硬化樹脂液を塗布し、フォトリソグラフィ法および熱硬化により柱状スペーサを形成した。次に、柱状スペーサを形成したガラス基板の第2主面上に、ロールコート法によりポリイミド樹脂液を塗布し、熱硬化により配向層を形成し、ラビングを行った。次に、ガラス基板の第2主面側に、ディスペンサ法によりシール用樹脂液を枠状に描画し、枠内にディスペンサ法により液晶を滴下した後に、上述したガラス積層体X1を用いて、2枚のガラス積層体のガラス基板の第2主面側同士を貼り合わせ、紫外線硬化および熱硬化によりLCDパネルを有する積層体を得た。ここでのLCDパネルを有する積層体を以下、パネル付き積層体X2という。
次に、実施例1と同様にパネル付き積層体X2から両面の無機層付き支持基板を剥離し、TFTアレイを形成した基板およびカラーフィルタを形成した基板からなるLCDパネルB(電子デバイスに該当)を得た。
作製したLCDパネルBにICドライバを接続し、常温常圧下で駆動させたところ、駆動領域内において表示ムラは認められなかった。
【0090】
本出願は、2012年5月29日出願の日本特許出願2012−122492に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。