特許第5991522号(P5991522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991522
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】電動車いすの制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 5/04 20130101AFI20160901BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   A61G5/04 708
   B60L11/18 A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-184712(P2012-184712)
(22)【出願日】2012年8月24日
(65)【公開番号】特開2014-39772(P2014-39772A)
(43)【公開日】2014年3月6日
【審査請求日】2015年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】特許業務法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩本 研一
(72)【発明者】
【氏名】小竹 元基
【審査官】 山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−304541(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0210351(US,A1)
【文献】 特開平05−003965(JP,A)
【文献】 特開2002−085472(JP,A)
【文献】 特開2005−254975(JP,A)
【文献】 特開2003−118425(JP,A)
【文献】 特開2005−297855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/04
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪を操舵するためのハンドルを備えている電動車いすを制御する電動車いすの制御装置であって、
予め前記電動車いすの運転者の運転能力を評価して得点化した運転能力評価値を受け付ける受付部と、
前記受付部で受け付けた運転能力評価値を制御パラメータに変換する演算部と、
前記演算部で演算した制御パラメータを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている制御パラメータに基づいて前記電動車いすの走行を制御する制御部と、
を備えるとともに、
前記運転能力評価値は、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力のうち少なくとも一つの運転能力を評価することを特徴とする電動車いすの制御装置。
【請求項2】
前記受付部は、前記電動車いすを操作する操作部で入力された前記運転能力評価値を受け付ける、ことを特徴とする請求項1に記載の電動車いすの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車いすを制御する電動車いすの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の技術では、運転操作入力部による運転操作の入力に基づいて運転者に視認される風景を模した画像を画像出力部に出力する。そして、当該技術では、運転能力を判定するにあたり、前記画像出力部において、高齢者の事故率が他の年齢層より高い事象の画像を運転の難易度の順に出力させ、前記画像出力部に出力させた画像と前記運転操作入力部にて入力された運転操作とに基づいて運転能力を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007‐292908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動車いすにおいては、走行特性を様々に可変することが一般に行われている。例えば、屋外走行の際には屋外用のモードに設定することで、電動車いすの走行の際の加速度を大きく、最高速度を高く、レスポンスを早くするように設定することができる。また、屋内走行の際には屋内用のモードにすることで、電動車いすの走行の際の加速度を小さく、最高速度を低く、レスポンスを遅くするように設定することができる。
【0005】
このような電動車いすの走行特性を設定するに際しては、個人の好みや使い方により要求される性能が異なり、最適な走行特性について定量的な評価がなされることは少ない。
また、運転者の運転能力に合わせて電動車いすの走行特性を設定しようとすると、電動車いすの走行特性を変更した上で、実際に電動車いすで走行してみて、その結果を評価する、という作業を繰り返す必要がある。そのため、電動車いすの走行特性を運転者の運転能力に適合させる作業に時間と手間を要するという不具合がある。
【0006】
本発明の目的は、時間と手間を要することなく、電動車いすの走行特性を決定する制御パラメータを運転者の運転能力に適合させることができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一形態は、前輪を操舵するためのハンドルを備えている電動車いすを制御する電動車いすの制御装置であって、予め前記電動車いすの運転者の運転能力を評価して得点化した運転能力評価値を受け付ける受付部と、前記受付部で受け付けた運転能力評価値を制御パラメータに変換する演算部と、前記演算部で演算した制御パラメータを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶されている制御パラメータに基づいて前記電動車いすの走行を制御する制御部と、を備えるとともに、前記運転能力評価値は、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力のうち少なくとも一つの運転能力を評価することを特徴とする電動車いすの制御装置である。
【0008】
(2)別の本発明の一形態は、(1)の一形態において、前記受付部は、前記電動車いすを操作する操作部で入力された前記運転能力評価値を受け付ける。
【発明の効果】
【0009】
(1)の本発明の一形態によれば、時間と手間を要することなく、電動車いすの走行特性を決定する制御パラメータを運転者の運転能力に適合させることができる。
(2)の本発明の一形態によれば、運転能力評価値を入力するための専用の入力装置を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施の形態である電動車いすの斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態である電動車いすの斜視図である。
図3図3は、本発明の一実施の形態である電動車いすのハンドルの拡大正面図である。
図4図4は、本発明の一実施の形態である電動車いすの制御系の電気的な接続を示すブロック図である。
図5図5は、本発明の一実施の形態である電動車いすの操作部の拡大平面図である。
図6図6は、本発明の一実施の形態である電動車いすの操作部において4つのLEDの点灯、非点灯による数字の2進数表示、及び当該進数表示と1〜15の10進数の数字との対応関係を示す説明図である。
図7図7は、本発明の一実施の形態である電動車いすの操作部による運転能力評価値の入力について説明するフローチャートである。
図8図8は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいてステップS8で演算する制御パラメータの例を示す図である。
図9図9は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいてステップS8の演算に用いる重み付け表の説明図である。
図10図10は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて3名の運転者について有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目の運転能力評価値の検査結果の例について具体的に示す説明図である。
図11図11は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて前進最高速度の計算例を示す説明図である。
図12図12は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて後進最高速度の計算例を示す説明図である。
図13図13は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて旋回速度の計算例を示す説明図である。
図14図14は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて加速度の計算例を示す説明図である。
図15図15は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて減速度の計算例を示す説明図である。
図16図16は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて反応速度の計算例を示す説明図である。
図17図17は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて図11図16の結果をまとめた説明図である。
図18図18は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて各制御パラメータの初期設定値から減点分を引いた後の最終演算結果を示す説明図である。
図19図19は、本発明の一実施の形態である電動車いすにおいて前進最高速度、後進最高速度、旋回速度の3つの例について、1〜10の各段階と具体的な値との対応関係の例を示す説明図である。
図20図20は、本発明の一実施の形態である電動車いすの走行制御について説明するフローチャートである。
図21図21は、本発明の一実施の形態である電動車いすの走行制御について説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
図1図2は、本発明の一実施の形態である電動車いす1の斜視図である。この電動車いす1は、シート2、バックサポート3、アーム4等を備えた運転席5に運転者が座って運転する1人乗りの車両である。電動車いす1は、モータ22(後述)を駆動源として後輪6を駆動して走行する。また、電動車いす1は、運転者がハンドル7を操作することにより、前輪8を操舵することができる。
【0012】
図3は、ハンドル7の拡大正面図である。ハンドル7には、運転者が様々な操作を行うための操作部11、電動車いす1を始動等するためのキースイッチ(イグニッションスイッチ)12、ブレーキレバー13、アクセルレバー14、バックミラー15が設けられている。
図4は、本発明の一実施の形態である電動車いすの制御系の電気的な接続を示すブロック図である。メインコントローラ21は、マイクロコンピュータを中心に構成され、電動車いす1の各部を集中的に制御するための制御装置となるものである。モータ22は、前述のとおり、電動車いす1の駆動源となる。ホールセンサ23は、モータ22の回転の検出用のセンサであり、その検出信号はメインコントローラ21に入力する。バッテリ24は、モータ22を駆動するための電力を蓄える。充電器25は、商用電源からの電力によってバッテリ24を充電する。
【0013】
パーキングブレーキスイッチ26は、ブレーキレバー13のオン、オフ検出用のスイッチである。ブレーキレバー13により操作されるブレーキは、電動車いす1の走行中に停車し、あるいは坂道で停車状態を継続するためのブレーキと、駐車用ブレーキとを兼用している。
アクセルセンサ27は、アクセルレバー14の操作量を検出するセンサである。電動車いす1は、アクセルレバー14の操作量に応じて走行速度が変化する。
【0014】
E‐ストップスイッチ28は、電動車いす1の緊急停止用のスイッチである。E‐ストップスイッチ28は、アクセルレバー14を強く握ったときにオンになる。
ステアリングセンサ29は、ハンドル7の操舵量の検出用センサである。ステアリングセンサ29は、ハンドル7の操舵量に応じて前輪8の切れ角が変動する。
パーキングブレーキスイッチ26、アクセルセンサ27、E‐ストップスイッチ28、ステアリングセンサ29の出力信号は、それぞれメインコントローラ21に入力する。
【0015】
図5は、操作部11の拡大平面図である。操作部11には、運転者が電動車いす1を運転操作するための各種操作ボタン等が設けられている。特に、操作部11には、右ウインカ31を点滅させるための右ウインカスイッチ32と、左ウインカ33を点滅させるための左ウインカスイッチ34と、警笛を鳴らすためのホーンスイッチ35とが設けられている。また、4つのLED36〜39で構成されるバッテリ残量計40も設けられている。バッテリ残量計40は、その点灯、非点灯によりバッテリ24の蓄電量の残量を示す。
【0016】
次に、以上の構成の電動車いす1でメインコントローラ21が実行する制御の内容について説明する。図4に示すように、メインコントローラ21のマイクロコンピュータは、受付部41、演算部42、記憶部43、制御部44の各機能を実現している。受付部41は、操作部11で入力された運転能力評価値を受け付ける。この運転能力評価値は、後述のとおり電動車いす1の運転者の運転能力を評価した値である。演算部42は、受付部41で受け付けた運転能力評価値に基づいて電動車いす1の走行を制御するための制御パラメータを演算する。記憶部43は、演算部42で演算した制御パラメータをメインコントローラ21の不揮発性メモリ(図示せず)に記憶する。制御部44は、記憶部43で記憶されている制御パラメータに基づいて電動車いす1の走行を制御する。すなわち、電動車いす1の走行特性は、記憶部43に記憶されている制御パラメータに左右される。
【0017】
以上の処理の内容をより詳細に説明する。まず、操作部11を操作することにより、メインテナンスモードというモードに移行する。具体的には、例えば、ホーンスイッチ35を押し続けたままキースイッチ12をオンし、次に右ウインカスイッチ32を押し、次にホーンスイッチ35を押す、という通常行わない操作を行うことでメインテナンスモードに移行することができる。そして、メインテナンスモード中に予め定められた操作、例えば、右ウインカスイッチ32を3回操作することで、運転能力評価値を入力するメニューとなる。
【0018】
運転能力評価値は、電動車いす1の運転者の運転能力を様々な視点から評価し、得点化した値である。この例では、運転能力評価値として、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目について運転者をそれぞれ評価した得点を入力する。これらの得点は、予め運転者を検査して得られたものである。ここで、分割的注意能力とは、運転者が複数の対象に同時に注意する能力である。抑制能力とは、運転者が不必要な注意を抑制する能力である。リスク知覚能力とは、運転者がハザードの将来の状態を予測してリスクを見積もる能力である。この例では、これら有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目についてそれぞれ運転者を1〜5の5段階で評価した結果(数字が大きいほど評価が高い)について入力する。
【0019】
具体的には、例えば、5項目のそれぞれに番号が割り当てられていて、右ウインカスイッチ32、左ウインカスイッチ34の操作で1番から順の数字を選択することによって各項目を選択する。すなわち、右ウインカスイッチ32の操作で数字が増加し、左ウインカスイッチ34の操作で数字が減少するので、これにより目的の番号を選択すると目的の項目を選択したことになる。図6に示すように、右ウインカスイッチ32、左ウインカスイッチ34の操作で選ばれた数字は、バッテリ残量計40の4つのLED36〜39の点灯、非点灯により表示される。すなわち、図6は、4つのLED36〜39の点灯、非点灯により数字を2進数表示して示している(黒四角が点灯で2進数の1を示し、白四角が消灯で2進数の0を示す)。図6においては、また、この2進数表示と1〜15の10進数の数字との対応関係も示している。選ばれた番号を決定する操作は前述のようにホーンスイッチ35で行う。決定した各項目で、運転者が1〜5の5段階のいずれであるか入力する場合も、右ウインカスイッチ32、左ウインカスイッチ34の操作で数字を選び、ホーンスイッチ35で決定する。
【0020】
図7は、運転能力評価値の入力について説明するフローチャートである。この処理では、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目について運転者を評価した得点を入力する。ここでの各項目の選択と決定のための具体的な操作は前述のとおりである。有効視野(ステップS1のY)、分割的注意能力(ステップS2のY)、抑制能力(ステップS3のY)、リスク知覚能力(ステップS4のY)、深視力(ステップS5のY)の各項目について得点を順次決定する。この決定がなされると、これら5つの項目の入力した得点はバッテリ残量計40に順次表示される(ステップS6)。その表示内容で問題がない場合は、ホーンスイッチ35を操作して当該表示内容に決定する(ステップS7のY)。これによって、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目について運転者を評価した得点の入力は確定し、操作部11から受付部41に受け付けられる。
【0021】
次に、受付部41で受け付けた有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目の各得点を、演算部42において各制御パラメータに変換する演算を行う(ステップS8)。そして、この演算後の各制御パラメータを記憶部43が不揮発性メモリに記憶する(ステップS9)。
【0022】
図8は、ステップS8で演算する制御パラメータの例を示す図である。制御パラメータは、メインコントローラ21が電動車いす1の走行を制御する際のパラメータとなる値である。この例では電動車いす1の前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度が制御パラメータとなる。ここで、反応速度とは、電動車いす1のアクセル、ブレーキの操作がなされてからアクセル、ブレーキの応答が発生するまでに要する時間である。各制御パラメータは、1〜10の10段階の値をとり得る。また、その初期設定値は、前進最高速度が10であり、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、及び反応速度がそれぞれ5である。なお、制御パラメータとしては、これらに限定されるものではなく、例えば、電動車いす1の制動距離を含めてもよい。さらに、加速度のような具体的な物理量ではなく、例えば、走行モードという制御パラメータを用いてもよい。すなわち、走行モードの中で標準、ソフト、クイックという項目から選択させるようにする場合などである。この場合は、加速度の値を具体的に設定するような木目細かな制御パラメータの選択ではなく、大雑把な制御パラメータの選択となる。以下の説明では、電動車いす1の前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の6つの例により具体的に説明する。
【0023】
次に、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目の各得点を、演算部42において各制御パラメータに変換する演算(ステップS8)の一例について詳細に説明する。
図9は、ステップS8の演算に用いる重み付け表の説明図である。この重み付け表は、運転者の運転能力の評価項目である有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目と、運転能力評価値である前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の6項目との各対応関係において、それぞれ重み付けの値を設定したものであり、予めメインコントローラ21に用意されている。例えば、前進最高速度を例にとれば、有効視野は0.4という比較的重い重み付けを与えられているが、反応速度は0という低い重み付けを与えられている。
【0024】
この重み付け表と前述の運転能力評価値とを用いて演算を行うが、図10は、3名の運転者について、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の5項目の運転能力評価値の検査結果の例について具体的に示している。例えば、この例では、A3の運転者は有効視野が3、分割的注意能力が2、抑制能力が1、リスク知覚能力が2、深視力が4である。
【0025】
ここでの演算は、図9に例示されるような重み付け表と、図10に例示されるような運転能力評価値とを用いて行列演算により行う。ここでは便宜上、その行列演算を前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の6つの制御パラメータに分解して、図9図10の例に即して説明する。図11図16は、それぞれ前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の計算例を示している。
【0026】
具体的な演算は、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度のいずれについても手法は同じである。具体的には、[ある制御パラメータ(例えば、後進最高速度)のある運転者(例えば、A2)のある運転能力評価値(例えば、有効視野)]から、[当該運転能力評価値の満点(例えば、有効視野の満点である5点)]を減算し、その結果に[重み付け表の当該制御パラメータ(例えば、後進最高速度)の対応値]を乗算する、ということで求める。例えば、後進最高速度におけるA2の運転者の有効視野は、図12の例では−0.1となる。これは、図9図10の例で、“(4−5)×0.1=−0.1”として求めることができる。
【0027】
このような計算を前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の各制御パラメータについて、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の各運転能力評価値の各々について行う。そして、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の各運転能力評価値の計算結果を合計することにより、各制御パラメータにおける“減点”を求める。その場合に、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の各運転能力評価値の計算結果の合計値に小数点以下の値を含む場合は、当該小数点部分は切り捨てる。図11図16では、各運転者について有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の各運転能力評価値の計算結果を示し、さらにそれらの合計値である“計”と、その値から前述のとおり小数点部分を切り捨てた最終的な値となる“減点”を示している。
【0028】
図17は、図11図16の結果をまとめた説明図である。すなわち、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の各制御パラメータについて、前述の初期設定値と、最終的に求めた減点とを、運転者A1〜A3ごとにまとめて表示している。
図17にまとめて表示されている減点は、運転者の運転能力評価値に応じて前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の各初期設定値から減点すべき得点を示している。そして、図18は、この各制御パラメータについて、初期設定値から減点分を引いた後の値である“結果”と、初期設定値とを並べて表示している。
【0029】
前述のとおり、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の設定値は1〜10の10段階であるが、それぞれ1〜10の各段階には、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の具体的な値が対応している。図19は、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度の3つの例について、1〜10の各段階と具体的な値との対応関係の例を示している。図18の例のように最終的に決定された前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の各設定値について、夫々その前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の具体的な値が設定されていることになる。
【0030】
図18の最終的な演算結果の例について説明する。A1の運転者は、図10に示すように、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力の各運転能力評価値がいずれも最高得点であった。そのため、図18の最終結果も前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度のすべてについて減点はなく、最終演算結果は初期設定値のままである。一方、A2の運転者は、図10に示すように、有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力について最高得点よりも点数が低かったため、図18の最終演算結果において、前進最高速度、及び旋回速度を下げて、減速度を上げるようにしている。A3の運転者は、図10に示すように、抑制能力の得点が特に低く、図18に示すように、人混みでの運転操作の際に影響の大きい前進最高速度、旋回速度、加速度、減速度の得点を特に低くしている。
【0031】
以上のような演算により、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度の具体的な制御パラメータが定まる。そして、この制御パラメータに基づいてメインコントローラ21は、電動車いす1の走行を制御する。
図20図21は、メインコントローラ21が行う電動車いす1の走行制御について説明するフローチャートである。前述のとおり、メインコントローラ21には、パーキングブレーキスイッチ26、アクセルセンサ27、E‐ストップスイッチ28、ステアリングセンサ29、ホールセンサ23の出力信号が入力する。これらの信号から前進最高速度、後進最高速度を変動する操作がなされ、あるいは、旋回、加速、減速等の操作が発生したことを検出した場合に図20図21の制御が行われる。
【0032】
まず、運転者により電動車いす1の前進速度を変動する操作がなされたときは(ステップS11のY)、その運転者の操作に応じた前進速度が記憶部43により記憶されている前進最高速度を上回るか否かを判断する(ステップS12)。上回る場合は(ステップS12のY)、記憶部43により記憶されている前進最高速度に前進速度を限定する(ステップS13)。上回らない場合は(ステップS12のN)、運転者の操作に応じた前進速度にする(ステップS14)。
【0033】
また、運転者により電動車いす1の後進速度を変動する操作がなされたときは(ステップS15のY)、その運転者の操作に応じた後進速度が記憶部43により記憶されている後進最高速度を上回るか否かを判断する(ステップS16)。上回る場合は(ステップS16のY)、記憶部43により記憶されている後進最高速度に後進速度を限定する(ステップS17)。上回らない場合は(ステップS16のN)、運転者の操作に応じた後進速度にする(ステップS18)。
【0034】
一方、運転者により電動車いす1を旋回する操作がされたときは(ステップS19のY)、記憶部43により記憶されている旋回速度で旋回を行う(ステップS20)。また、運転者により電動車いす1を加速する操作がされたときは(ステップS21のY)、記憶部43により記憶されている加速度で加速を行う(ステップS22)。さらに、運転者により電動車いす1を減速する操作がされたときは(ステップS23のY)、記憶部43により記憶されている減速度で減速を行う(ステップS24)。また、運転者によりアクセル、ブレーキ等の操作があったときは(ステップS25のY)、記憶部43により記憶されている反応速度で当該操作に対して応答する(ステップS26)。
【0035】
以上説明した本実施形態の電動車いす1によれば、操作部11で有効視野、分割的注意能力、抑制能力、リスク知覚能力、深視力などの運転能力評価値を入力すれば、演算部42で当該入力された運転能力評価値から、前進最高速度、後進最高速度、旋回速度、加速度、減速度、反応速度などの具体的な制御パラメータが求められる。そして、この求めた各制御パラメータは記憶部43により記憶され、運転者が電動車いす1を運転操作する際には、当該制御パラメータに基づいた制御を制御部44が行う。よって、運転能力評価値を操作部11で入力するだけで、最適な制御パラメータがメインコントローラ21に設定されるので、時間と手間を要することなく、電動車いす1の走行特性を決定する制御パラメータを運転者の運転能力に適合させることができる。
また、電動車いす1を運転操作するための操作部11を操作することにより、運転能力評価値の入力も行うことができるので、運転能力評価値の入力用の専用の入力装置を不要にすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 電動車いす
11 操作部
41 受付部
42 演算部
43 記憶部
44 制御部
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