【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、結晶性を有する二硫化チタン(TiS
2)と硫黄を原料として用い、これらをメカニカルミリング法によって混合粉砕することによって、二硫化チタンが非晶質化されて、硫黄の含有比率が高い非晶質状態の多硫化チタン化合物が得られることを見出した。そして、この方法で得られる生成物について、完全な非晶質化を進行させることなく、二硫化チタン(TiS
2)の微細な結晶が少量残存する状態までメカニカルミリング処理を行うことによって、得られる生成物は、非晶質状態の多硫化チタン中に二硫化チタンの微結晶が存在する状態となり、これが電子伝導性、イオン伝導性などの向上に寄与して、リチウム二次電池の正極活物質として用いた場合に、優れた充放電性能を発揮することを見出した。本発明は、この様な知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、以下のリチウム二次電池用活物質、その製造方法及びリチウム二次電池を提供するものである。
項1. 下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質:
(1)組成式:TiS
n(式中、2<n<10である)で表される平均組成を有する非晶質多硫化チタンの微粉末からなり、
(2)CuKα線によるX線回折図において、回折角2θが15.5±1°、34±1°、44±1°及び54±1°の位置の内で、34±1°を含む少なくとも2ヶ所に回折ピークを有し、
(3)2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3〜2.5°の範囲内である。
項2. 原料として結晶性のTiS
2と硫黄を用い、メカニカルミリング法によって、混合、粉砕してTiS
2と硫黄とを反応させることを特徴とする、上記項1に記載されたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
項3. 上記項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
項4. 上記項3に記載のリチウム二次電池用正極を構成要素として含むリチウム二次電池。
項5. 非水電解質二次電池又は全固体型二次電池である上記項4に記載のリチウム二次電池二次電池。
【0013】
以下、まず、本発明のリチウム二次電
池用正極活物質の有効成分である多硫化チタンについて具体的に説明する。
【0014】
多硫化チタン
本発明のリチウム二次電
池用正極活物質は、組成式:TiS
n(式中、2<n<10である)で表される平均組成を有する非晶質状態の多硫化チタンの微粉末からなり、CuKα線によるX線回折図における回折角2θ=10°〜60°の範囲内において、TiS
2結晶に基づく回折ピークが認められるものである。具体的には、TiS
2結晶の(001)面に基づく回折角2θ=15.5±1°の回折ピーク、(011)面に基づく2θ=34±1°の回折ピーク、(102)面に基づく2θ=44±1°の回折ピーク、(110)面に基づく2θ=54±1°の回折ピークの内で、2θ=34±1°の回折ピークを含む少なくとも2ヶ所に回折ピークが認められ、2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3°〜2.5°の範囲内であることを特徴とするものである。
【0015】
通常の結晶性のよいTiS
2の2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.2°程度であることと比較すると、本発明の正極活物質の有効成分である多硫化チタンにおける2θ=34±1°の回折ピークは、半値幅が非常に広いブロードなピークである。これは、本発明の正極活物質に含まれるTiS
2が非常に微細化された結晶性の低いものであることを示すものである。
【0016】
尚、本発明において、X線回折ピークの半値幅は、粉末X線回折測定法によって求められるものであり、測定条件の一例は、以下の通りである。
X線源:CuKα 5kV−300mA
測定条件:2θ=10〜60°、0.02°ステップ、走査速度10°/分
更に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の有効成分である多硫化チタンは、非晶質状態であり、上記したTiS
2に基づくX線回折ピークの以外には、他の硫化チタンに基づく回折ピークは認められない。
【0017】
尚、後述するメカニカルミリング法によって多硫化チタンを製造する際に、原料として用いた硫黄は、TiS
2との反応によって、非晶質の多硫化物を形成しており、硫黄に基づくX線回折ピークは認められないか、或いは、硫黄に基づくX線回折ピークが存在する場合には、原料として用いた硫黄が最大強度を示す回折角(2θ)における回折強度が、原料とした硫黄の回折強度の1/5以下、好ましくは1/10以下となっている。
【0018】
このため、本発明の正極活物質は、その平均組成として、硫黄の比率が高い多硫化チタンであるにも拘わらず、硫黄は単独では殆ど存在せず、チタンと結合して非晶質状態の多硫化物を形成している。
【0019】
上記した特徴を有する本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、組成式:TiS
nにおいて、nが2<n<10の範囲内となる平均組成を有するものであるが、TiS
2の微結晶に基づくブロードな回折ピークを有するだけであり、その他の硫化チタンに基づく回折ピークは認められず、また、上記した通り、硫黄に基づく回折ピークも殆ど認められない。このため、本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、非晶質多硫化チタンの微粒子を主成分として、微細化されたTiS
2結晶が少量存在する状態と考えられる。尚、上記した組成式:TiS
nにおいて、nの値は、好ましくは2.5≦n≦8であり、より好ましくは3≦n≦6であり、更に好ましくは3≦n≦5である。
【0020】
尚、本願明細書において、多硫化チタンの平均組成とは、多硫化チタンの全体を構成するチタンと硫黄の元素比を示すものである。
【0021】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、上記した条件を満足する多硫化チタンを有効成分とするものであるが、該多硫化チタンの性能を阻害しない範囲であれば、その他の不純物が含まれていてもよい。この様な不純物としては、原料に混入する可能性のある遷移金属、典型金属等の金属類や、原料及び製造時に混入する可能性のある酸素などを例示できる。これらの不純物の量については、上記した多硫化チタン化合物の性能を阻害しない範囲であればよく、通常、上記した条件を満足する多硫化チタンにおけるチタン及び硫黄の合計量100重量部に対して、10重量部程度以下であることが好ましく、5重量部程度以下であることがより好ましく、3重量部以下であることが更に好ましい。
【0022】
多硫化チタンの製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の有効成分である多硫化チタンは、原料として、結晶性のTiS
2と硫黄を用い、メカニカルミリング法によって、混合、粉砕してTiS
2と硫黄とを反応させることによって得ることができる。
【0023】
メカニカルミリング法は、機械的エネルギーを付与しながら原料を摩砕混合する方法であり、この方法によれば、原料に機械的な衝撃や摩擦を与えて摩砕混合することによって、TiS
2と硫黄が激しく接触して微細化され、原料の反応が生じる。このため、高温に熱することなく、原料を反応させることが可能であり、結晶化することなく、非晶質状態の多硫化チタンを得ることができる。
【0024】
メカニカルミリング法としては、具体的には、例えば、ボールミル、ロッドミル、振動ミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル、VISミルなどの機械的粉砕装置を用いて混合粉砕を行えばよい。
【0025】
原料として用いるTiS
2については特に限定はなく、市販されている任意のTiS
2を用いることができる。特に、高純度のものを用いることが好ましい。また、TiS
2をメカニカルミリング法によって混合粉砕するので、使用するTiS
2の粒径についても限定はなく、通常は、市販されている粉末状のTiS
2を用いればよい。
【0026】
原料として用いる硫黄についても特に限定はなく、常温、常圧において固体であれば、任意の結晶系の硫黄を用いることができる。
【0027】
TiS
2と硫黄の比率については、目的とする多硫化チタンにおけるチタンと硫黄の元素比と同一の比率となるようにすればよい。
【0028】
メカニカルミリングを行う際の温度については、高すぎると硫黄の揮発が生じ易く、しかも生成物の結晶化が進行して、目的とする硫黄の含有比率が高い多硫化物を形成することが困難となる。このため、200℃程度以下の温度でメカニカルミリングを行うことが好ましい。
【0029】
メカニカルミリングの時間については、特に限定はなく、X線回折において、上記した条件、即ち、2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3〜2.5°の範囲内となり、硫黄に基づく回折ピークが殆ど認められない状態となるまでメカニカルミリング処理を行えばよい。
【0030】
上記したメカニカルミリング処理により、目的とする多硫化チタンを微粉末として得ることができる。得られる多硫化チタンは、平均粒径が1〜10μm程度、好ましくは3〜5μm程度の微粉末となる。
【0031】
尚、本願明細書では、平均粒径は、乾式レーザー回折・散乱法によって求めたメジアン径(d
50)である。
【0032】
多硫化チタンの用途
上記した方法で得られる多硫化チタンは、平均組成としてはTiに対するSの元素比が2を上回る非晶質状態の多硫化物であることによって、高い充放電容量を有するものとなる。また、X線回折によれば、TiS
2のブロードな回折ピークのみが認められるため、微細化された状態でTiS
2の微結晶が存在すると判断できる。このTiS
2微結晶は、リチウムイオンを挿入・脱離でき、正極活物質として作用すると共に、良好な電子伝導性とイオン伝導性を有するために、多硫化チタンの電子伝導性及びイオン伝導性を改善することができる。しかも、TiS
2微結晶は、メカニカルミリング法によって微細化される際に、非晶質状態の多硫化チタンの一次粒子又は二次粒子中に取り込まれた状態で存在すると考えられ、多硫化チタンの内部まで電子伝導性及びイオン伝導性を付与することができ、該多硫化チタンの内部を有効に利用して、高い充放電容量を有するものとなる。
【0033】
この様な特徴を有する多硫化チタンは、金属リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池等のリチウム二次電池の正極活物質として有用である。本発明の正極活物質を有効に使用できるリチウム二次電池は、電解液として非水溶媒系電解液を用いる非水電解質リチウム二次電池であってもよく、或いは、リチウムイオン伝導性の固体電解質を用いる全固体型リチウム二次電池であっても良い。
【0034】
非水電解質リチウム二次電池、及び全固体型リチウム二次電池の構造は、本発明の正極活物質を用いること以外は、公知のリチウム二次電池と同様とすることができる。
【0035】
例えば、非水電解質リチウム二次電池としては、上記した多硫化チタンを正極活物質として使用する他は、基本的な構造は、公知の非水電解質リチウム二次電池と同様でよい。
【0036】
正極については、上記した多硫化チタンを正極活物質として用い、更に、導電剤、バインダーなどを含む正極合剤をAl、Ni、ステンレスなどの正極集電体に担持させればよい。導電剤としては、例えば、黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0037】
負極としては、例えば、金属リチウム二次電池ではリチウム金属、リチウム合金等を用いることができ、リチウムイオン二次電池では、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料などを活物質として用いることができる。これらの負極活物質についても、必要に応じて、導電剤、バインダーなどを用いて、Al、Cu、Ni、ステンレスなどからなる負極集電体に担持させればよい。
【0038】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ナイロン、芳香族アラミドなどの材質からなり、多孔質膜、不織布、織布などの形態の材料を用いることができる。
【0039】
非水電解質の溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、ニトリル類、含硫黄化合物等の非水溶媒系二次電池の溶媒として公知の溶媒を用いることができる。
【0040】
また、全固体型リチウム二次電池についても、本発明の正極活物質を用いる以外は、公知の全固体型リチウム二次電池と同様の構造とすればよい。
【0041】
この場合、電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物等のポリマー系固体電解質の他、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などを用いることができる。
【0042】
全固体型リチウム二次電池の正極については、例えば、上記した多硫化チタンを正極活物質として用い、更に、導電剤、バインダーに加えて固体電解質を含む正極合剤をAl、Ni、ステンレスなどの正極集電体に担持させればよい。導電剤については、非水溶媒系二次電池と同様に、例えば、黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0043】
非水電解質リチウム二次電池、及び全固体型リチウム二次電池の形状についても特に限定はなく、円筒型、角型などのいずれであってもよい。