特許第5991618号(P5991618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991618
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20160901BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20160901BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20160901BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160901BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M10/0562
   H01M10/0565
   H01M10/052
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-243433(P2012-243433)
(22)【出願日】2012年11月5日
(65)【公開番号】特開2014-93210(P2014-93210A)
(43)【公開日】2014年5月19日
【審査請求日】2015年8月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】作田 敦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 友成
(72)【発明者】
【氏名】田口 昇
(72)【発明者】
【氏名】栄部 比夏里
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 国昭
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−236993(JP,A)
【文献】 特開平06−168721(JP,A)
【文献】 特開2012−150948(JP,A)
【文献】 特開2004−179160(JP,A)
【文献】 特開昭59−173957(JP,A)
【文献】 Akitoshi HAYASHI et al.,Amorphous Titanium Sulfide Electrode for All-solid-state Rechargeable Lithium Batteries with High Capacity,Chem. Lett.,2012年 9月 5日,Vol.41,No.9,pp.886-888
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質:
(1)組成式:TiS(式中、4≦n<10である)で表される平均組成を有する非晶質多硫化チタンの微粉末からなり、
(2)CuKα線によるX線回折図において、回折角2θが15.5±1°、34±1°、44±1°及び54±1°の位置の内で、34±1°を含む少なくとも2ヶ所にTiS結晶に基づく回折ピークを有し、
(3)2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3〜2.5°の範囲内である。
【請求項2】
原料として結晶性のTiSと硫黄を用い、メカニカルミリング法によって、混合、粉砕してTiSと硫黄とを反応させることを特徴とする、請求項1に記載されたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項4】
請求項3に記載されたリチウム二次電池用正極を構成要素として含むリチウム二次電池。
【請求項5】
非水電解質二次電池又は全固体型二次電池である請求項4に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及びリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子機器・ハイブリッド車等の高性能化により、二次電池(特にリチウム電池)は益々高容量化が求められている。現行のリチウム二次電池では負極に比べて正極の高容量化が不十分であり、比較的高容量と言われるニッケル酸リチウム系材料でもその容量は190〜220 mAh/g程度である。
【0003】
一方、硫黄は理論容量が約1670 mAh/gと高く、正極材料としての利用が期待されるが、電子伝導性が低く、更に充放電時に多硫化リチウムとして有機電解液に溶出するという問題もあり、有機電解液への溶出を抑制する技術が不可欠である。
【0004】
金属硫化物は電子伝導性があり、有機電解液への溶出も少ないが、硫黄に比べて理論容量が低く、更に、充放電時のLi挿入・脱離に伴う大きな構造変化が原因で可逆性が低いという問題がある。金属硫化物の高容量化の実現には、硫黄含量の増加が必要であるが、結晶性金属硫化物では、放電時にLiが挿入されるサイトが結晶の空間群により規定され、最大の容量がこれによって決定されため、この最大容量値を超えることは困難である。
【0005】
例えば、金属硫化物の内で硫化チタン化合物については、結晶性の硫化チタンとしては、二硫化チタン(TiS2)や三流化チタン(TiS3)が検討されており、それぞれ240、350 mAh/g程度の放電容量を示すことが報告されているが(下記非特許文献1参照)、更なる高容量化が望まれている。
【0006】
一方、非晶質の硫化チタン化合物としては、パルスレーザー堆積法(PLD法)を用いて、TiSx(0.7≦x≦9)薄膜を作製し、全固体セルにおいて充放電を行った報告例がある(下記非特許文献2参照)。また、rfスパッタにより形成した非晶質TiOySz (2.2≦(y+z)≦3.4, 0.4≦y≦1.6, 1.5≦z≦2.8) 薄膜を電極に用いて、有機電解液を用いたセルにおける充放電試験結果が報告されている。例えばTiO0.6S2.8チタンについては、0.5 Vまでの放電では、1147 mAh g-1の容量が得られることが報告されている(下記非特許文献1参照)。更に、TiS3の非晶質体を作製し、それを全固体セルにおいて電極として用いた際に、高容量(約400 mAh・g-1)が得られたという報告がなされている(下記非特許文献3参照)。
【0007】
この様に非晶質の硫化チタン化合物についての報告もなされているが、いずれも気相法で形成された薄膜状硫化チタン化合物であり、大型化が困難であり、用途が薄膜電池に限定される。
【0008】
また、電極材料として十分な充放電特性を示すためには、充放電容量に加えて、電極の導電性が重要であり、室温における導電率が10-4 S/cm程度以上を示すことが望まれる。しかしながら、硫化チタン化合物の高容量化を目的として硫黄含有量を増加させると、導電性が著しく低下するという問題がある。この場合、高速充放電特性に欠けるため、微粒化もしくは薄膜化が望ましいが、上記した通り、薄膜電極では大型化は困難であり、用途が限定されるという問題点がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M.H. Lindic et al, Solid State Ionics, 176 (2005) 1529-1537.
【非特許文献2】T. Matsuyama et al, J. Mater. Sci. 47 (2012) 6601-6606.
【非特許文献3】A. Hayashi et al, Chem. Lett., 41 (9) (2012) 886-888.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、金属リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池等のリチウム二次電池用の正極活物質として有用な高い充放電容量を有し、且つ導電性が高く、優れた充放電性能を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、結晶性を有する二硫化チタン(TiS2)と硫黄を原料として用い、これらをメカニカルミリング法によって混合粉砕することによって、二硫化チタンが非晶質化されて、硫黄の含有比率が高い非晶質状態の多硫化チタン化合物が得られることを見出した。そして、この方法で得られる生成物について、完全な非晶質化を進行させることなく、二硫化チタン(TiS2)の微細な結晶が少量残存する状態までメカニカルミリング処理を行うことによって、得られる生成物は、非晶質状態の多硫化チタン中に二硫化チタンの微結晶が存在する状態となり、これが電子伝導性、イオン伝導性などの向上に寄与して、リチウム二次電池の正極活物質として用いた場合に、優れた充放電性能を発揮することを見出した。本発明は、この様な知見に基づいて更に研究を重ねた結果、完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、以下のリチウム二次電池用活物質、その製造方法及びリチウム二次電池を提供するものである。
項1. 下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とする、リチウム二次電池用正極活物質:
(1)組成式:TiS(式中、2<n<10である)で表される平均組成を有する非晶質多硫化チタンの微粉末からなり、
(2)CuKα線によるX線回折図において、回折角2θが15.5±1°、34±1°、44±1°及び54±1°の位置の内で、34±1°を含む少なくとも2ヶ所に回折ピークを有し、
(3)2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3〜2.5°の範囲内である。
項2. 原料として結晶性のTiSと硫黄を用い、メカニカルミリング法によって、混合、粉砕してTiSと硫黄とを反応させることを特徴とする、上記項1に記載されたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
項3. 上記項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
項4. 上記項3に記載のリチウム二次電池用正極を構成要素として含むリチウム二次電池。
項5. 非水電解質二次電池又は全固体型二次電池である上記項4に記載のリチウム二次電池二次電池。
【0013】
以下、まず、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の有効成分である多硫化チタンについて具体的に説明する。
【0014】
多硫化チタン
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、組成式:TiS(式中、2<n<10である)で表される平均組成を有する非晶質状態の多硫化チタンの微粉末からなり、CuKα線によるX線回折図における回折角2θ=10°〜60°の範囲内において、TiS結晶に基づく回折ピークが認められるものである。具体的には、TiS結晶の(001)面に基づく回折角2θ=15.5±1°の回折ピーク、(011)面に基づく2θ=34±1°の回折ピーク、(102)面に基づく2θ=44±1°の回折ピーク、(110)面に基づく2θ=54±1°の回折ピークの内で、2θ=34±1°の回折ピークを含む少なくとも2ヶ所に回折ピークが認められ、2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3°〜2.5°の範囲内であることを特徴とするものである。
【0015】
通常の結晶性のよいTiSの2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.2°程度であることと比較すると、本発明の正極活物質の有効成分である多硫化チタンにおける2θ=34±1°の回折ピークは、半値幅が非常に広いブロードなピークである。これは、本発明の正極活物質に含まれるTiSが非常に微細化された結晶性の低いものであることを示すものである。
【0016】
尚、本発明において、X線回折ピークの半値幅は、粉末X線回折測定法によって求められるものであり、測定条件の一例は、以下の通りである。
X線源:CuKα 5kV−300mA
測定条件:2θ=10〜60°、0.02°ステップ、走査速度10°/分
更に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質の有効成分である多硫化チタンは、非晶質状態であり、上記したTiSに基づくX線回折ピークの以外には、他の硫化チタンに基づく回折ピークは認められない。
【0017】
尚、後述するメカニカルミリング法によって多硫化チタンを製造する際に、原料として用いた硫黄は、TiSとの反応によって、非晶質の多硫化物を形成しており、硫黄に基づくX線回折ピークは認められないか、或いは、硫黄に基づくX線回折ピークが存在する場合には、原料として用いた硫黄が最大強度を示す回折角(2θ)における回折強度が、原料とした硫黄の回折強度の1/5以下、好ましくは1/10以下となっている。
【0018】
このため、本発明の正極活物質は、その平均組成として、硫黄の比率が高い多硫化チタンであるにも拘わらず、硫黄は単独では殆ど存在せず、チタンと結合して非晶質状態の多硫化物を形成している。
【0019】
上記した特徴を有する本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、組成式:TiSにおいて、nが2<n<10の範囲内となる平均組成を有するものであるが、TiSの微結晶に基づくブロードな回折ピークを有するだけであり、その他の硫化チタンに基づく回折ピークは認められず、また、上記した通り、硫黄に基づく回折ピークも殆ど認められない。このため、本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、非晶質多硫化チタンの微粒子を主成分として、微細化されたTiS結晶が少量存在する状態と考えられる。尚、上記した組成式:TiSにおいて、nの値は、好ましくは2.5≦n≦8であり、より好ましくは3≦n≦6であり、更に好ましくは3≦n≦5である。
【0020】
尚、本願明細書において、多硫化チタンの平均組成とは、多硫化チタンの全体を構成するチタンと硫黄の元素比を示すものである。
【0021】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、上記した条件を満足する多硫化チタンを有効成分とするものであるが、該多硫化チタンの性能を阻害しない範囲であれば、その他の不純物が含まれていてもよい。この様な不純物としては、原料に混入する可能性のある遷移金属、典型金属等の金属類や、原料及び製造時に混入する可能性のある酸素などを例示できる。これらの不純物の量については、上記した多硫化チタン化合物の性能を阻害しない範囲であればよく、通常、上記した条件を満足する多硫化チタンにおけるチタン及び硫黄の合計量100重量部に対して、10重量部程度以下であることが好ましく、5重量部程度以下であることがより好ましく、3重量部以下であることが更に好ましい。
【0022】
多硫化チタンの製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の有効成分である多硫化チタンは、原料として、結晶性のTiSと硫黄を用い、メカニカルミリング法によって、混合、粉砕してTiSと硫黄とを反応させることによって得ることができる。
【0023】
メカニカルミリング法は、機械的エネルギーを付与しながら原料を摩砕混合する方法であり、この方法によれば、原料に機械的な衝撃や摩擦を与えて摩砕混合することによって、TiSと硫黄が激しく接触して微細化され、原料の反応が生じる。このため、高温に熱することなく、原料を反応させることが可能であり、結晶化することなく、非晶質状態の多硫化チタンを得ることができる。
【0024】
メカニカルミリング法としては、具体的には、例えば、ボールミル、ロッドミル、振動ミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル、VISミルなどの機械的粉砕装置を用いて混合粉砕を行えばよい。
【0025】
原料として用いるTiSについては特に限定はなく、市販されている任意のTiSを用いることができる。特に、高純度のものを用いることが好ましい。また、TiSをメカニカルミリング法によって混合粉砕するので、使用するTiSの粒径についても限定はなく、通常は、市販されている粉末状のTiSを用いればよい。
【0026】
原料として用いる硫黄についても特に限定はなく、常温、常圧において固体であれば、任意の結晶系の硫黄を用いることができる。
【0027】
TiSと硫黄の比率については、目的とする多硫化チタンにおけるチタンと硫黄の元素比と同一の比率となるようにすればよい。
【0028】
メカニカルミリングを行う際の温度については、高すぎると硫黄の揮発が生じ易く、しかも生成物の結晶化が進行して、目的とする硫黄の含有比率が高い多硫化物を形成することが困難となる。このため、200℃程度以下の温度でメカニカルミリングを行うことが好ましい。
【0029】
メカニカルミリングの時間については、特に限定はなく、X線回折において、上記した条件、即ち、2θ=34±1°の回折ピークの半値幅が0.3〜2.5°の範囲内となり、硫黄に基づく回折ピークが殆ど認められない状態となるまでメカニカルミリング処理を行えばよい。
【0030】
上記したメカニカルミリング処理により、目的とする多硫化チタンを微粉末として得ることができる。得られる多硫化チタンは、平均粒径が1〜10μm程度、好ましくは3〜5μm程度の微粉末となる。
【0031】
尚、本願明細書では、平均粒径は、乾式レーザー回折・散乱法によって求めたメジアン径(d50)である。
【0032】
多硫化チタンの用途
上記した方法で得られる多硫化チタンは、平均組成としてはTiに対するSの元素比が2を上回る非晶質状態の多硫化物であることによって、高い充放電容量を有するものとなる。また、X線回折によれば、TiSのブロードな回折ピークのみが認められるため、微細化された状態でTiSの微結晶が存在すると判断できる。このTiS微結晶は、リチウムイオンを挿入・脱離でき、正極活物質として作用すると共に、良好な電子伝導性とイオン伝導性を有するために、多硫化チタンの電子伝導性及びイオン伝導性を改善することができる。しかも、TiS微結晶は、メカニカルミリング法によって微細化される際に、非晶質状態の多硫化チタンの一次粒子又は二次粒子中に取り込まれた状態で存在すると考えられ、多硫化チタンの内部まで電子伝導性及びイオン伝導性を付与することができ、該多硫化チタンの内部を有効に利用して、高い充放電容量を有するものとなる。
【0033】
この様な特徴を有する多硫化チタンは、金属リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池等のリチウム二次電池の正極活物質として有用である。本発明の正極活物質を有効に使用できるリチウム二次電池は、電解液として非水溶媒系電解液を用いる非水電解質リチウム二次電池であってもよく、或いは、リチウムイオン伝導性の固体電解質を用いる全固体型リチウム二次電池であっても良い。
【0034】
非水電解質リチウム二次電池、及び全固体型リチウム二次電池の構造は、本発明の正極活物質を用いること以外は、公知のリチウム二次電池と同様とすることができる。
【0035】
例えば、非水電解質リチウム二次電池としては、上記した多硫化チタンを正極活物質として使用する他は、基本的な構造は、公知の非水電解質リチウム二次電池と同様でよい。
【0036】
正極については、上記した多硫化チタンを正極活物質として用い、更に、導電剤、バインダーなどを含む正極合剤をAl、Ni、ステンレスなどの正極集電体に担持させればよい。導電剤としては、例えば、黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0037】
負極としては、例えば、金属リチウム二次電池ではリチウム金属、リチウム合金等を用いることができ、リチウムイオン二次電池では、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料などを活物質として用いることができる。これらの負極活物質についても、必要に応じて、導電剤、バインダーなどを用いて、Al、Cu、Ni、ステンレスなどからなる負極集電体に担持させればよい。
【0038】
セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ナイロン、芳香族アラミドなどの材質からなり、多孔質膜、不織布、織布などの形態の材料を用いることができる。
【0039】
非水電解質の溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、ニトリル類、含硫黄化合物等の非水溶媒系二次電池の溶媒として公知の溶媒を用いることができる。
【0040】
また、全固体型リチウム二次電池についても、本発明の正極活物質を用いる以外は、公知の全固体型リチウム二次電池と同様の構造とすればよい。
【0041】
この場合、電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物等のポリマー系固体電解質の他、硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などを用いることができる。
【0042】
全固体型リチウム二次電池の正極については、例えば、上記した多硫化チタンを正極活物質として用い、更に、導電剤、バインダーに加えて固体電解質を含む正極合剤をAl、Ni、ステンレスなどの正極集電体に担持させればよい。導電剤については、非水溶媒系二次電池と同様に、例えば、黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0043】
非水電解質リチウム二次電池、及び全固体型リチウム二次電池の形状についても特に限定はなく、円筒型、角型などのいずれであってもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、Tiに対するSの元素比が2を上回る多硫化チタンからなるものであり、硫黄の元素比の高い多硫化物であることによって、高い充放電容量を有するものとなる。また、良好な電子伝導性とイオン伝導性を有するTiSの微結晶が、非晶質状態の多硫化チタンの一次粒子又は二次粒子中に取り込まれた状態で存在するために、多硫化チタンの内部まで有効に利用でき、高い充放電容量やエネルギー密度を有するものとなる
【0045】
このため、本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、金属リチウム二次電池、リチウムイオン二次電池等のリチウム二次電池の正極活物質として有用であり、非水溶媒系電解質を用いる非水電解質リチウム二次電池、固体電解質を用いる全固体型リチウム二次電池等の正極活物質として有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1参考例、実施例及び比較例1,2で得られた微粉末のX線回折パターンを示す図面である
図2参考例で得られた微粒子を正極活物質とする全固体型リチウム二次電池の充放電曲線を表す図面である。
図3】比較例1で得られた微粒子を正極活物質とする全固体型リチウム二次電池の充放電曲線を表す図面である。
図4】実施例2で得られた微粒子を正極活物質とする全固体型リチウム二次電池の充放電曲線を表す図面である。
図5】比較例2で得られた微粒子を正極活物質とする全固体型リチウム二次電池の充放電曲線を表す図面である
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0048】
参考例
市販の二硫化チタン(TiS2)粉末と市販の硫黄(S8)粉末を、元素比でTi:S=1:3となるように秤量・混合し、その後、直径4mmのジルコニアボール約400個を入れた45 mLの容器を用いて、ボールミル装置(フリッチ P7)で360 rpm、1時間のメカニカルミリング処理を行った。
【0049】
得られた微粉末について、CuKα線を用いたXRD測定で得られたX線回折図を図1に示す。図1に示すX線回折図では、2θが約15.5、34.2、44、及び54°の各位置にTiS2ナノ結晶の存在を示す、強度が小さく半値幅の大きい回折ピークが確認された。2θ=34.2°に観測されるX線回折ピークの半値幅は0.40であった。乾式レーザー回折・散乱法によって得られた平均粒径d50は3.0μm、最大粒子径は約20μmであった。
【0050】
図1には、更に、原料として用いた二硫化チタン及び硫黄の単独のX線回折図と、二硫化チタンと硫黄の混合物のX線回折図を示す。図1から明らかなように、原料として用いたTiS2は、2θが15.6°、34.2°、44.2°、53.8°及び57.7°の各位置に、強くて鋭い回折パターンが認められ、34.2°における半値幅は、0.22°であり、メカニカルミリング法で得られた微粉末と比較して、TiS2結晶が高い結晶性(大きな結晶子サイズ)を有することが分かった。
【0051】
また、原料の硫黄のX線回折図では、2θ=23°付近に強い回折ピークが存在したが、メカニカルミリング法で得られた微粉末では、硫黄に基づく回折ピークは消失していた。
【0052】
この結果から、メカニカルミリング処理によって得られた微粉末は、平均組成:TiS3で表される非晶質状態の多硫化チタンであって、TiS2の微細な結晶が混在している状態であることが確認できた。
【0053】
比較例1
TiS2粉末とS8粉末を、元素比でTi:S=1:3となるように秤量・混合し、その後、参考例と同じボールミル装置で40 時間メカニカルミリング処理を行った。
【0054】
得られた微粉末のX線回折図を図1に示す。図1に示すX線回折図では、結晶のピークが確認されず、TiS2の結晶が存在しない非晶質TiS3であることが判った。
【0055】
充放電試験1
上記した参考例及び比較例1で得られた各微粉末を正極活物質として用いて、下記の方法で試験用の全固体型リチウム二次電池を作製し、電流密度14 mA/gにおいて、カットオフ1.3−2.4Vにおける定電流測定で充電開始により充放電試験を行った。
【0056】
試験用の全固体型リチウム二次電池の作製方法としては、まず、正極用材料として、参考例又は比較例1で得た微粉末(正極活物質)、カーボンブラック、及び硫化物系固体電解質(80Li2S・20P2S5)を、正極活物質:カーボンブラック:硫化物径固体電解質(重量比)=64:6:30となるように秤量し、乳鉢で5分間混練した後、得られた混練物10mgを直径10mmの成型器に均質に充填し、さらに80mgの硫化物系固体電解質(80Li2S・20P2S5)を積層した後、360 MPaで一軸成型した。その後、硫化物系固体電解質側に、負極として厚さ0.3 mmのインジウム箔と厚さ0.2mmのリチウム箔を張り付けたのちに120 MPaで一軸成型することによって、試験用の全固体型リチウム二次電池を得た。正極、負極ともに、ステンレススチールを集電体として用いた。
【0057】
参考例で得た微粉末を正極活物質とした場合の充放電曲線を図2に示し、比較例1で得た微粉末を正極活物質とした場合の充放電曲線を図3に示す。
【0058】
比較例1で得た微粉末を正極活物質とした場合には、初期放電容量は約341 mAh/g、初期充電容量は217 mAh/gであったのに対して、参考例で得た微粉末を正極活物質とした場合には、初期放電容量は約420 mAh/g、初期充電容量は350 mAh/gとなり、高い充放電容量を示した。
【0059】
実施例2
市販の二硫化チタン(TiS2)粉末と市販の硫黄(S8)粉末を、元素比でTi:S=1:4となるように秤量・混合し、その後、直径4mmのジルコニアボール約400個を入れた45 mLの容器を用いて、ボールミル装置(フリッチ P7)で360 rpm、1時間のメカニカルミリング処理を行った。
【0060】
得られた微粉末について、CuKα線を用いたXRD測定で得られたX線回折図を図1に示す。図1に示すX線回折図では、2θが約15.5、34.2、44、及び54°の角位置にTiS2ナノ結晶の存在を示す、強度が小さく半値幅の大きい回折ピークが確認された。S8の存在を示す回折ピークは消失していた。2θ=34.2°に観測されるX線回折ピークの半値幅は、2.0°であった。乾式レーザー回折・散乱法によって得られた平均粒径d50は4.9μm、最大粒子径は約30μmであった。
【0061】
この結果から、メカニカルミリング処理によって得られた微粉末は、平均組成:TiS4で表される非晶質状態の多硫化物であって、TiS2の微細な結晶が存在している状態であることが確認できた。
【0062】
比較例2
TiS2粉末とS8粉末を、元素比でTi:S=1:4となるように秤量・混合し、その後、ボールミル装置で40 hメカニカルミリング処理を行った。
【0063】
得られた微粉末のX線回折図を図1に示す。図1のX線回折図では、比較例2の試料について結晶のピークが確認されず、TiS2の結晶が存在しない非晶質TiS4であることが判った。
【0064】
充放電試験2
上記した実施例2及び比較例2で得た各微粉末を正極活物質として用いる他は、充放電試験1と同様にして、試験用の全固体型リチウム二次電池を作製して充放電試験を行った。
【0065】
実施例2で得た微粉末を正極活物質とした場合の充放電曲線を図4に示し、比較例1で得た微粉末を正極活物質とした場合の充放電曲線を図5に示す。
【0066】
比較例2で得た微粉末を正極活物質とした場合には、初期放電容量は約331 mAh/g、初期充電容量は154 mAh/gであるのに対して、実施例2で得た微粉末を正極活物質とした場合には、初期放電容量は約485 mAh/g、初期充電容量は350 mAh/gとなり、高い充放電容量を示した。
図1
図2
図3
図4
図5