【文献】
Shibazaki, M., et al.,Suppression by p38 MAP kinase inhibitors (pyridinyl imidazole compounds) of Ah receptor target gene activation by 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin and the possible mechanism,The Journal of Biological Chemistry,2004年,Vol.279, No.5,pp.3869-3876
【文献】
Taylor, R.T., et al.,Roles of Coactivator proteins in dioxin induction of CYP1A1 and CYP1B1in human breast cancer cells,Toxicological Sciences,2009年,Vol.107, No.1,pp.1-8
【文献】
Devipriya, B., et al.,Exploring the binding affinities of p300 enzyme activators CTPB and CTB using docking method,Indian Journal of Biochemistry & Biophysics,2010年,Vol.47,pp.364-369
【文献】
Beedanagari, S.R., et al.,Role of epigenetic mechanisms in differential regulation of the dioxin-inducible human CYP1A1 and CYP1B1 genes,Molecular Pharmacology,2010年,Vol.78, No.4,pp.608-616
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
活性が誘導される薬物代謝酵素が、CYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、及びCYP3A4からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
生体内に取り込まれた食品、医薬品、及び環境汚染物質などの化学物質は、酸化、還元、加水分解、及び抱合反応など一連の代謝反応により水溶性の高い物質へ変換され、最終的に生体外へと排出される。化学物質の中には、代謝過程で不安定な反応中間体となり、細胞毒性、遺伝毒性、及び発がん性などを発現する物質があることが知られている(代謝活性化)。化学物質の代謝反応には、シトクロムP450をはじめとして種々の薬物代謝酵素が関わっており、特に薬物代謝酵素が多く存在する肝臓は、薬物代謝において中心的な役割を担う臓器である。
【0003】
エームス試験などの化学物質の安全性検査においては、そのままでは毒性がないが体内での代謝により毒性物質に変化(代謝活性化)する化学物質をも評価する必要がある。そこで、生体内における化学物質の代謝活性化をin vitroで再現する方法が汎用されている。このような方法の例として、ラット肝臓ホモジネートの9,000×g遠心後上清画分(S9)を用いて化学物質を処理し、処理後の化学物質について安全性検査を行う方法が挙げられる。しかしながら、薬物代謝の経路や、薬物代謝酵素の誘導には種差があるため、ラットS9を用いて得られた結果がそのままヒトへ外挿できるとは限らないという問題があった。
【0004】
ヒトでの薬物代謝反応をより正確に反映するためには、ヒト由来の薬物代謝酵素を用いた代謝活性化法が望まれる。近年、主に献体に由来するヒト肝臓から製造したヒトS9が市販されている。しかしながら、個人間の薬物代謝酵素活性にばらつきが大きいことや、供給量が有限であるとの問題があり、安定した試験系に組み込むことが困難である。
【0005】
また、比較的高い薬物代謝酵素活性を保持するヒト由来試料として、肝臓から分取した初代肝細胞の有用性も検討されているが、初代肝細胞は無限に増殖させることが不可能であること、ヒトS9と同様に薬物代謝酵素活性の個人差の問題、培養によって薬物代謝酵素活性が失われてしまう等の問題が存在する。一方、ヒト肝臓組織より樹立された株化細胞は無限増殖能を有しており、安定供給可能なヒト由来試料源と考えられるが、薬物代謝酵素活性が著しく失われている。
【0006】
斯かる状況の下、ヒト肝臓由来の株化細胞において薬物代謝酵素活性を増加させる研究が進められている。例えば、特定のシトクロムP450分子種を発現する形質転換細胞についての報告があるが、遺伝子導入されたシトクロム分子種しか合成されないとの問題がある(特許文献1)。また、シトクロムP450を誘導できる化合物(誘導剤)を用いる方法も知られている。しかしながら、ヒト株化細胞においては、既存のシトクロムP450誘導剤でもシトクロムP450活性はわずかしか誘導されないこと、及び既存のシトクロムP450誘導剤では限られたシトクロムP450分子種しか誘導されないことなどの問題があった(特許文献2、3)。
【0007】
すなわち、ヒト由来の薬物代謝酵素を大量かつ安定して供給するために、ヒト株化細胞においてシトクロムP450活性を顕著に誘導でき、かつ、誘導されるシトクロムP450分子種が複数である技術が求められているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ヒト由来の培養細胞において、薬物代謝酵素の活性を効率よく誘導する方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑み鋭意研究を重ねた結果、ヒト由来の培養細胞を特定の化合物の存在下で培養する工程を含む方法により、薬物代謝酵素の活性を効率よく誘導できることを見出した。本発明は、斯かる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
すなわち、本発明は下記の発明を包含する:
項1、ヒト由来の培養細胞において、薬物代謝酵素の活性を誘導する方法であって、
ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の機能を亢進する化合物の存在下で培養する工程を含む方法。
【0012】
項2、ヒト由来の培養細胞において、薬物代謝酵素の活性を誘導する方法であって、
ヒト培養細胞を下記一般式(1)で示される化合物の存在下で培養する工程を含む方法。
式(1)
【0013】
【化1】
【0014】
[Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
項3、前記ヒト由来の培養細胞が、ヒト肝臓由来の培養細胞である、項1又は2に記載の方法。
【0015】
項4、前記化合物が、N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)である、項2又は3に記載の方法。
【0016】
項5、活性が誘導される薬物代謝酵素が、シトクロムP450である、項2〜4のいずれかに記載の方法。
【0017】
項6、活性が誘導される薬物代謝酵素が、CYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、及びCYP3A4からなる群から選択される少なくとも1種である、項5に記載の方法。
【0018】
項7、項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られる、薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞。
【0019】
項8、活性が誘導された薬物代謝酵素が、シトクロムP450である、項7に記載のヒト培養細胞。
【0020】
項9、少なくともCYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、及びCYP3A4の活性が誘導された、項8に記載のヒト培養細胞。
【0021】
項10、前記化合物の存在下で培養されていないヒト培養細胞と比べて、薬物代謝酵素の活性が少なくとも5倍誘導された、項7〜9のいずれか1項に記載のヒト培養細胞。
【0022】
項11、項7〜10のいずれか1項に記載のヒト培養細胞から得られるS9画分。
【0023】
項12、項7〜10のいずれか1項に記載のヒト培養細胞から得られるミクロソーム画分。
【0024】
項13、項11に記載のS9画分、又は、項12に記載のミクロソーム画分と被験物質とを接触させる工程を含む、被験物質の毒性試験方法。
【0025】
項14、下記の工程を含む、被験物質の毒性試験方法:
(i)ヒト由来の培養細胞をヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の機能を亢進する化合物の存在下で培養する工程、
(ii)得られた細胞を用いて、S9画分又はミクロソーム画分を得る工程、
(iii)得られたS9画分又はミクロソーム画分と被験物質とを接触させる工程、及び
(iv)S9画分又はミクロソーム画分と接触させた被験物質又はその反応産物の毒性を評価する工程。
【0026】
項15、下記の工程を含む、被験物質の毒性試験方法:
(i)ヒト由来の培養細胞を下記一般式(1)で示される化合物の存在下で培養する工程、
式(1)
【0027】
【化2】
【0028】
[Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
(ii)得られた細胞を用いて、S9画分又はミクロソーム画分を得る工程、
(iii)得られたS9画分又はミクロソーム画分と被験物質とを接触させる工程、及び
(iv)S9画分又はミクロソーム画分と接触させた被験物質又はその反応産物の毒性を評価する工程。
【0029】
項16、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の機能を亢進する化合物を含む、薬物代謝酵素の活性誘導剤。
【0030】
項17、下記一般式(1)で示される化合物を含む、薬物代謝酵素の活性誘導剤。
式(1)
【0031】
【化3】
【0032】
[Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ヒト培養細胞において、薬物代謝酵素の活性を効率よく誘導できる。従って、本発明の方法により、ヒト由来の薬物代謝酵素を大量かつ安定して供給することが可能となる。
【0034】
さらにいえば、本発明により得られるS9画分及びミクロソーム画分は、顕著に高い薬物代謝酵素活性を有し、また、ヒト培養細胞に由来するため、ラット肝臓由来のS9で懸念される種差の問題を克服することが可能である。
【0035】
また、本発明法によれば、高い薬物代謝酵素活性を有するS9画分を安定的、かつ実質的に無限に提供することが可能であり、市販のヒト肝臓から製造したヒトS9画分で問題となる薬物代謝酵素活性の個人間差、及び供給量の有限性を克服することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
1.薬物代謝酵素の活性を誘導する方法
本発明の薬物代謝酵素の活性を誘導する方法は、ヒト培養細胞を特定化合物の存在下で培養する工程を含む方法である。本発明の方法は、当該工程を含む、薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞の調製方法をも提供する。
【0039】
ヒト培養細胞
上記ヒト培養細胞は、ヒト由来である限り特に限定されない。ヒト培養細胞は、株化細胞、初代培養細胞などあってもよいが、操作の容易性や再現性を考慮すると、継代可能な株化細胞であることが好ましい。
【0040】
薬物代謝酵素は、肝臓、肺、小腸、皮膚、腎臓、副腎などで多く発現するとの観点から、これらの臓器由来の培養細胞を用いることが好ましいが、これに限定されるものではない。人体の薬物代謝酵素の大半が発現する肝臓由来の培養細胞を用いることが、特に好ましい。
【0041】
肝臓由来の培養細胞としては、例えばヒトの摘出肝臓から公知の方法により採取された初代培養細胞や、ヒト肝臓がんより樹立された株化細胞を使用することができる。なお、ヒトの摘出肝臓は、倫理上の観点から、献体から摘出したものを用いる。操作の容易性や再現性を考慮すると、継代可能なヒト肝がん由来の株化細胞が好ましく、例えばHuH-7、HepG2、HuH-6 clone5などの株化細胞が挙げられる。なお、上記の培養細胞は、公知の手段により維持、継代されたものが好適に用いられる。
【0042】
無論、肝臓由来以外の培養細胞を用いることもできる。このような細胞は、初代培養細胞であっても、樹立された株化細胞であってもよい。細胞株の具体例として、乳がん由来のMCF-7、肺がん由来のA549、結腸がん由来のHCT116、胎児腎臓由来のHEK293、皮膚線維芽細胞由来のNB1RGBなどが挙げられる。
【0043】
化合物
本発明の方法は、ヒト培養細胞を特定の化合物の存在下で培養する工程を含む。
【0044】
本発明のある態様では、上記化合物は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(ヒストンアセチル基転移酵素)(Histone acetyl transferase、HAT)の機能を亢進する化合物である。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは、コアヒストン(ヒストンH2A、ヒストンH2B、ヒストンH3、ヒストンH4)のN末端側に存在するリジン残基をアセチル化する活性を有する酵素である。アセチル化されたコアヒストンが存在する染色体領域では、当該領域に存在する遺伝子の発現が活性化されていることが知られている。主要なヒストンアセチルトランスフェラーゼとしては、CREB-binding protein(CBP)、E1A binding protein(p300)などが知られている。
【0045】
本発明の別の態様では、上記化合物は、下記一般式(1)で示される化合物である。
式(1)
【0047】
[Xは、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
上記式(1)において、Xは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を示す。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。
【0048】
上記化合物の好ましい具体例として、上記Xが水素原子である場合、すなわち下記化学式(2)で示される、N−(4−クロロ−3−トリフルオロメチル-フェニル)−2−エトキシ−ベンズアミド(CTB)が挙げられる。
式(2)
【0050】
なお、上記化学式(2)で示されるCTBは、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)の機能を亢進する化合物であり、特にp300の機能を亢進することが知られている。
【0051】
培養
上記化合物の存在下で培養を行う手段は、本発明の効果を損なうものでない限り、特に限定されるものではない。本発明の培養は、上記化合物の存在下での培養であれば特に限定されるものではないが、上記化合物の濃度が0.01〜10重量%程度、より好ましくは0.05〜5重量%程度、特に好ましくは0.1〜1重量%程度となるようにすることが好ましい。
【0052】
操作の簡便性から、培養を行う具体的手段として、上記化合物を添加した培地で培養を行う手段が例示される。培地は、上記ヒト培養細胞をできる培地であればよく、例えばダルベッコ変法イーグル培地(D−MEM)が例示されるが、これに限定されるものではない。上記培地は、5〜20%程度の牛胎児血清(FBS)等の添加剤を必要に応じて含有させることができる。
【0053】
培地への上記化合物の添加は、直接添加または上記化合物を含む溶液の添加のいずれによってもよい。溶液を用いる場合、溶媒は、上記化合物を溶解できるものである限り特に限定されず、蒸留水、細胞に影響を与えない緩衝液(例えば、PBS緩衝液)、有機溶媒(例えば、ジメチルスルフォキシド(DMSO))などを用いることができる。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒の存在が薬物代謝酵素の活性誘導に悪影響を及ぼす場合があるため、有機溶媒の終濃度が0.3重量%以下となるようにすることが好ましく、0.1重量%以下となるようにすることがより好ましい。
【0054】
本発明の培養を行うにあたり、予め上記化合物の非存在下で培養したヒト培養細胞を用いることが好ましい。当該ヒト培養細胞は、通常の手段により維持、継代されたものであれば特に限定されるものではないが、上記化合物の非存在下で培養され、対数増殖期にある細胞が特に好ましい。通常、1×10
5〜5×10
5個/mL程度の細胞を播種した後、1日〜1週間、好ましくは3日間程度培養した細胞であるが、これに限定されない。この場合、常法に従い培地交換を行い、上記化合物を含む培地へと交換することで、本発明の培養を行うことができる。
【0055】
上記化合物の存在下での培養は、特に限定されるものではないが、薬物代謝酵素の活性誘導の効率が顕著に高いとの観点から、12〜72時間(hr)程度、好ましくは24時間(hr)程度とすることができる。その他の培養条件は、用いるヒト培養細胞に応じて適宜選択することができる。例えば、培養温度は、36〜38℃程度、特に37℃程度とすることができる。培養時の二酸化炭素濃度は、約5 %程度とすることができる。このような培養条件は、市販のCO
2インキュベータを用いて容易に実現することができる。
【0056】
薬物代謝酵素
本発明の方法により、ヒト培養細胞において、薬物代謝酵素の活性が誘導される。
【0057】
生体において薬物代謝に関わる酵素には、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、モノアミンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、エポキシドヒドラーゼ、エステラーゼ、アミダーゼ、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、シトクロムP450などがあり、中でもシトクロムP450は多くの薬物の酸化を触媒することから、生体の薬物代謝において最も重要な役割を果たしている。
【0058】
シトクロムP450は、アミノ酸一次構造の相同性に基づき分類され、相同性が40%以上のものを同じ群、55%以上のものを同じ亜群に属するものとして分類される。シトクロムP450の各分子種は、接頭語としてCYPを付け、続けて群番号を数字、亜群番号をアルファベット、最後に固有番号を数字で記載する。薬物代謝に重要な役割を果たすシトクロムP450は、CYP1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2A13、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP2J2、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7などがあり、中でもCYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4などが特に重要であることが知られている。
【0059】
本発明の方法により、活性が誘導される薬物代謝酵素として、薬物代謝酵素の中でもシトクロムP450、特にCYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4が挙げられる。中でも、CYP1A1、CYP1A2、CYP3A4は、活性が特に効率よく誘導される薬物代謝酵素として挙げられる。
【0060】
ここで、「薬物代謝酵素の活性」とは、上記の薬物代謝酵素が固有に有する特定の反応を触媒する活性を指す。具体的な反応としては、加水分解、酸化反応、還元反応、抱合反応などが挙げられる。各薬物代謝酵素が触媒する反応は、当業者に公知である。上記シトクロムP450は、主に酸化反応を触媒する。シトクロムP450の各分子種は、異なる基質特異性を有する。
【0061】
「薬物代謝酵素の活性の誘導」とは、対照(例えば、未処理のヒト培養細胞)と比べて、薬物代謝酵素の活性が亢進することを指す。薬物代謝酵素の活性が誘導される具体的態様は、薬物代謝酵素のタンパク質の発現量亢進、薬物代謝酵素の生理活性の亢進、またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0062】
ヒト培養細胞における薬物代謝酵素の活性誘導は、公知の手段により検証することができる。例えば、薬物代謝酵素の活性を定量する手段、薬物代謝酵素をコードするmRNA(転写産物)や薬物代謝酵素タンパク質の発現量を定量する手段が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0063】
薬物代謝酵素の活性を定量する手段としては、例えば、
(1)薬物代謝酵素の基質を細胞培地中に添加し、一定期間培養後、培養液中の添加した基質の代謝産物を定量する手段、
(2)薬物代謝酵素の活性により、不活性化型の基質を活性化型へと変換し、活性化型の基質を検出する手段、
などが挙げられる。上記(2)の手段を簡便に実現するための市販品として、シトクロムP450活性によりルシフェリン前駆基質がルシフェリンに変換され、これをルシフェラーゼ反応の基質として検出するP450-Glo
TM CYP450 Assay System(プロメガ社製)が挙げられる。
【0064】
薬物代謝酵素の転写産物を定量する手段としては、例えば、リアルタイムPCR等の公知の手段が挙げられる。薬物代謝酵素タンパク質の発現量を定量する手段としては、ウェスタンブロッティング、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)等の公知の手段が挙げられる。
【0065】
かくして、本発明の方法により、薬物代謝酵素の活性が高度に誘導されたヒト由来の培養細胞が得られる。得られた細胞は、例えば後述の毒性試験において用いられる、S9画分又はミクロソーム画分を調製する細胞として、好適に用いることができる。
【0066】
2.薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞
上記「1.」欄に記載の方法により、薬物代謝酵素の活性が高度に誘導されたヒト培養細胞が得られる。従って、本発明は、薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト由来の培養細胞をも提供する。
【0067】
本発明の薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞は、上記「1.」欄に記載の方法により調製される。当該ヒト培養細胞においては、薬物代謝酵素の活性が高度に誘導されている。本発明のヒト培養細胞において、例えば、薬物代謝酵素のタンパク質の発現量亢進、薬物代謝酵素の生理活性の亢進等により、薬物代謝酵素の活性が誘導されている。
【0068】
活性が誘導された薬物代謝酵素として、上記「1.」欄に記載の薬物代謝酵素の中でも、シトクロムP450が挙げられる。シトクロムP450のうち、少なくともCYP1A1、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1及びCYP3A4;特に少なくともCYP1A1、CYP1A2及びCYP3A4の活性が、高度に誘導されている。
【0069】
ここで、「活性が高度に誘導」の一態様として、上記化合物の存在下で培養されていないヒト培養細胞と比べて、薬物代謝酵素の活性が、少なくとも5倍、より好ましくは10倍、特に好ましくは20倍誘導された態様が挙げられる。
【0070】
3.毒性試験方法
本発明により提供される薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞は、薬物代謝酵素の活性量が高いとの性質に基づき、被験物質の毒性試験方法に好適に用いることができる。ここで、「毒性試験」とは、被験物質の毒性を評価できる方法であれば、特に限定されるものではない。また、毒性試験は、主にin vitroでの試験を指すが、これに限定されるものではなく、in vivoの試験であってもよい。さらに、ヒト培養細胞を用いるため、ヒトに対する毒性の評価に好適に用いることができるが、ヒト以外の動物(例えば、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、ウシ、類人猿などの非ヒト哺乳類等)に対する毒性の評価にも使用することもできる。
【0071】
ここで、「毒性」とは、生物に対する悪影響を指すものであり、特に限定されるものではないが、細胞毒性、発がん性(発がんイニシエーター活性、発がんプロモーター活性)、遺伝毒性(変異原性)、催奇形性などが含まれる。
【0072】
このような毒性の具体的態様は、公知の手法により評価することができる。例えば、遺伝毒性は、公知のエームス(Ames)試験、マウスリンフォーマTK試験、染色体異常試験、小核試験、特許第4243716号に基づく試験方法などにより好適に行うことができるが、これに限定されるものではない。発がんプロモーター活性は、国際公開WO2009/001939号に記載の方法により好適に行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0073】
本発明の毒性試験においては、上記の薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞を用いる。より具体的には、上記の薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞から得られる、S9画分又はミクロソーム画分と、被験物質とを接触させる工程を含む方法であることが好ましい。該接触処理により、被験物質が代謝活性化される。
【0074】
S9画分及びミクロソーム画分は、公知の手法により取得することができる。
【0075】
本発明の場合、S9画分は、上記の薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞をホモジネート、超音波破砕等の手段(好ましくは、超音波破砕)により破壊し、得られた細胞破壊液を9,000×g程度の遠心力で所定時間(例えば、20分程度)遠心分離を行い、上清として得られる画分である。なお、遠心分離の操作は、遠心分離機が発する熱により薬物代謝酵素が破壊されることを防止するために、冷却条件下で行うことが好ましい。すなわち、S9画分とは上記の薬物代謝酵素の活性が誘導されたヒト培養細胞の、抽出物の上清画分と換言することができる。
【0076】
ミクロソーム画分は、得られたS9画分をさらに100,000×g程度の遠心力で所定時間(例えば、60分程度)遠心分離を行い、沈降画分として得られる画分である。
【0077】
本発明の毒性試験の一態様として、下記の工程を含む方法が例示される:
(i)上記「1.薬物代謝酵素の活性を誘導する方法」欄に記載の方法により、ヒト由来の培養細胞において、薬物代謝酵素の活性を誘導する工程、
(ii)得られた細胞を用いて、S9画分又はミクロソーム画分を得る工程、
(iii)得られたS9画分又はミクロソーム画分と被験物質とを接触させる工程、及び
(iv)S9画分又はミクロソーム画分と接触させた被験物質又はその反応産物の毒性を評価する工程。
【0078】
4.薬物代謝酵素の活性誘導剤
上記の通り、ヒト培養細胞を特定化合物の存在下で培養する工程を含む方法により、薬物代謝酵素の活性を誘導することができる。従って、本発明は、当該特定化合物を含む、薬物代謝酵素の活性誘導剤をも提供する。また、当該特定化合物の薬物代謝酵素の活性誘導剤としての使用も提供される。
【0079】
本発明の活性誘導剤は、上記「1.」欄に記載の化合物を含む。活性誘導剤は、例えば上記「1.」欄に記載の方法において使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はそれに限定されるものではない。
【0081】
[実施例1] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト肝がん細胞でのCYP1A1活性の誘導
<方法>
2×10
5個/mLに調製したヒト肝がん由来の細胞株HepG2(財団法人ヒューマンサイエンス振興財団より購入)を、200μL/穴(4×10
4個/穴)ずつ細胞培養用96穴プレート(コーニング社製)に播種し、終濃度10%の牛胎児血清(FBS)を含むD-MEM培地(インビトロジェン社製)を用いて、37℃で3日間培養した。
【0082】
3日間培養後、培地を取り除き、新たに終濃度10%の牛胎児血清(FBS)を含むD-MEM培地(インビトロジェン製)を添加した。次いで N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)をDMSOに溶解した溶液(300μg/ml)を、CTBの最終濃度が0.3μg/mlになるよう添加し、さらに24hr培養した。
【0083】
次いで、培地を除去し、細胞をPBS(−)で洗浄した後、P450-Glo
TMCYP1A1 Assay(プロメガ製、Cat.#V8752)に付属の発光基質を含むHEPES buffer(50mM、pH7.2)を50μL/穴ずつ添加し、37℃で1時間インキュベートした。反応終了後、反応液25μLを発光測定用の96穴プレート(コーニング製)に移し、等量のルシフェリン検出試薬(luciferindetection reagent)を加え、室温で20分間静置した。このプレートを、マルチモードマイクロプレートリーダーTriStarLB941T(ベルトールド製)にセットし、CYP1A1活性を測定した。
【0084】
[比較例1]
3日間培養後、培地を交換し、DMSOのみ(最終濃度0.1重量%)を添加すること以外、実施例1と同様の操作を行い、CYP1A1活性を測定した。
【0085】
<結果>
結果を
図1に、CYP1A1活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例1は、対照の比較例1と比べて、顕著に高いCYP1A1活性が確認された。
【0086】
[実施例2] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト肝がん細胞でのCYP1A1活性の誘導
<方法>
HepG2に替えて、ヒト肝がん由来の細胞株HuH-7(財団法人ヒューマンサイエンス振興財団より購入)を用いること、及びCTBを最終濃度1.0μg/mlになるよう培地へ添加すること以外は実施例1及び比較例1と同様の操作を行い、CYP1A1活性を測定した(実施例2及び比較例2)。
【0087】
<結果>
結果を
図2に、CYP1A1活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例2は、対照の比較例2比べて、顕著に高いCYP1A1活性が確認された。
【0088】
[実施例3] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト乳がん細胞でのCYP1A1活性の誘導
<方法>
HuH-7に替えて、ヒト乳癌由来の細胞株MCF-7(ATCC:American Type Culture Collectionより購入)を用いること以外は実施例2及び比較例2と同様の操作を行い、CYP1A1活性を測定した(実施例3及び比較例3)。
【0089】
<結果>
結果を
図3に、CYP1A1活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例3は、対照の比較例3比べて、顕著に高いCYP1A1活性が確認された。
【0090】
[実施例4] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト肝がん細胞のCYP1A2活性の誘導
<方法>
P450-Glo
TM CYP1A1 Assayに替えて、P450-Glo
TMCYP1A2 Induction/Inhibition Assay(プロメガ製、Cat.# V8422)を用いること以外、上記実施例1及び比較例1と同様の操作を行い、CYP1A2活性を測定した(実施例4及び比較例4)。
【0091】
<結果>
結果を
図4に、CYP1A2活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例4は、対照の比較例4と比べて、顕著に高いCYP1A2活性が確認された。
【0092】
[実施例5] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト肝がん細胞のCYP1A2活性の誘導
<方法>
P450-Glo
TM CYP1A1 Assayに替えて、P450-Glo
TMCYP1A2 Induction/Inhibition Assay(プロメガ製)を用いること以外、上記実施例2及び比較例2と同様の操作を行い、CYP1A2活性を測定した(実施例5及び比較例5)。
【0093】
<結果>
結果を
図5に、CYP1A2活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例5は、対照の比較例5と比べて、顕著に高いCYP1A2活性が確認された。
【0094】
[実施例6] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト乳がん細胞のCYP1A2活性の誘導
<方法>
P450-Glo
TM CYP1A1 Assayに替えて、P450-Glo
TMCYP1A2 Induction/Inhibition Assay(プロメガ製)を用いること以外、上記実施例3及び比較例3と同様の操作を行い、CYP1A2活性を測定した(実施例6及び比較例6)。
【0095】
<結果>
結果を
図6に、CYP1A2活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例6は、対照の比較例6と比べて、顕著に高いCYP1A2活性が確認された。
【0096】
[実施例7] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト肝がん細胞のCYP3A4活性の誘導
<方法>
P450-Glo
TM CYP1A1 Assayに替えて、P450-Glo
TM CYP3A4 assay Luciferin-IPA(プロメガ製、Cat.# V9002)を用いること以外、上記実施例1及び比較例1と同様の操作を行い、CYP3A4活性を測定した(実施例7及び比較例7)。
【0097】
<結果>
結果を
図7に、CYP3A4活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例7は、対照の比較例7と比べて、顕著に高いCYP3A4活性が確認された。
【0098】
[実施例8] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト肝がん細胞のCYP3A4活性の誘導
<方法>
P450-Glo
TM CYP1A1 Assayに替えて、P450-Glo
TM CYP3A4 assay Luciferin-IPA(プロメガ製、Cat.# V9002)を用いること以外、上記実施例2及び比較例2と同様の操作を行い、CYP3A4活性を測定した(実施例8及び比較例8)。
【0099】
<結果>
結果を
図8に、CYP3A4活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例8は、対照の比較例8と比べて、顕著に高いCYP3A4活性が確認された。
【0100】
[実施例9] N-(4-クロロ-3-トリフルオロメチル-フェニル)-2-エトキシ-ベンズアミド(CTB)によるヒト乳がん細胞のCYP3A4活性の誘導
<方法>
P450-Glo
TM CYP1A1 Assayに替えて、P450-Glo
TM CYP3A4 assay Luciferin-IPA(プロメガ製)を用いること以外、上記実施例3及び比較例3と同様の操作を行い、CYP3A4活性を測定した(実施例9及び比較例9)。
【0101】
<結果>
結果を
図9に、CYP3A4活性を、化合物を添加しない条件に対する相対値により示す。CTBの存在下で培養を行った実施例9は、対照の比較例9と比べて、顕著に高いCYP3A4活性が確認された。
【0102】
<考察>
以上実施例1〜9の結果から明らかなように、ヒト由来の細胞をCTBの存在下で培養することで、薬物代謝酵素の活性を誘導することができる。活性が誘導されたことが実証された薬物代謝酵素について、CYP1A1及びCYP1A2と、CYP3A4とは、シトクロムP450の中でも、異なる群に属する。すなわち、本発明の方法により、異なる群に属するシトクロムP450の活性が誘導される。
【0103】
従来の薬物代謝酵素の活性誘導剤は、単一又は同一群に属するシトクロムP450等の薬物代謝酵素の活性を誘導できるに過ぎなかった。このような状況で、複数の薬物代謝酵素、特に異なる群に属するシトクロムP450の活性を、誘導できる化合物の発見は、驚くべきことであった。
【0104】
また、従来知られる活性誘導剤は、肝臓由来の初代培養細胞については効果が認められるものの、株化細胞における活性の誘導は不十分なものであった。このような状況で、肝臓由来(実施例1、2、4、5,7及び8)及び肝臓以外の臓器由来(実施例3、6及び9)の株化細胞において、薬物代謝酵素の活性を高度に誘導できる化合物の発見は、驚くべきことであった。