特許第5991882号(P5991882)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5991882
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】酸性ゼリー飲食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/281 20160101AFI20160901BHJP
   A23L 21/00 20160101ALI20160901BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20160901BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   A23L29/281
   A23L21/00
   A23L2/00 E
   A23L2/38 N
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-180508(P2012-180508)
(22)【出願日】2012年8月16日
(65)【公開番号】特開2014-36614(P2014-36614A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】丸田 聡
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−254051(JP,A)
【文献】 特開2006−197857(JP,A)
【文献】 特開2013−135666(JP,A)
【文献】 特開2010−268709(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/010796(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/281
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FROSTI/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドとカルシウム反応性ゲル化剤とを含有する酸性ゼリー飲食品であって、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上と、リン酸カルシウムとを含有することを特徴とする酸性ゼリー飲食品。
【請求項2】
前記リン酸カルシウムがリン酸二水素カルシウムである請求項1記載の酸性ゼリー飲食品。
【請求項3】
前記コラーゲンペプチドを2〜10質量%含有する請求項1又は2記載の酸性ゼリー飲食品。
【請求項4】
前記コラーゲンペプチドが平均分子量4000以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸性ゼリー飲食品。
【請求項5】
pH4.6未満である請求項1〜4のいずれか1つに記載の酸性ゼリー飲食品。
【請求項6】
pH4.0未満である請求項5記載の酸性ゼリー飲食品。
【請求項7】
コラーゲンペプチドと、カルシウム反応性ゲル化剤と、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上と、リン酸カルシウムとを含む原料溶液であって、該リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上でpH4.6未満に調整したものを、殺菌工程及び容器充填工程に付すことを特徴とする酸性ゼリー飲食品の製造方法。
【請求項8】
前記殺菌工程を、殺菌温度(T)を85〜130℃として、下記(I)式より求められる殺菌時間(t)で行う請求項7記載の酸性ゼリー飲食品の製造方法。
【数1】

(式中、Tは殺菌温度(℃)、tは殺菌時間(秒)を表す。)
【請求項9】
前記原料溶液であって、該リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上でpH4.0未満に調整したものを、殺菌工程及び容器充填工程に付す請求項7記載の酸性ゼリー飲食品の製造方法。
【請求項10】
前記殺菌工程を、殺菌温度(T)を65〜120℃として、下記(II)式より求められる殺菌時間(t)で行う請求項9記載の酸性ゼリー飲食品の製造方法。
【数2】

(式中、Tは殺菌温度(℃)、tは殺菌時間(秒)を表す。)
【請求項11】
カルシウム反応性ゲル化剤を水に分散溶解した溶液を、他の原料を水に分散溶解した溶液と混合することにより、前記原料溶液を調製する請求項7〜10のいずれか1項に記載の酸性ゼリー飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンペプチドを含有する酸性ゼリー飲食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食形態の変化によって、食事代替機能を持ったゼリー飲食品のようなゲル状食品が消費者の支持を受けており、栄養素として、炭水化物、たんぱく質、ビタミン、ミネラル等を含有させ、多種多様な香りや味、風味を付与したゼリー飲食品が市販されている。このようなゼリー飲食品は、酸味料の添加により酸性に調整されていることが多く、これにより風味として酸味が付与されるだけでなく、加熱殺菌条件を緩やかにできるので、製造エネルギーの効率化が図れ、また、過度な加熱殺菌によって風味が劣化したり、食感が悪くなってしまったりするのを防げるという利点がある。
【0003】
一方、コラーゲンは、細胞と細胞、組織と組織をつなぐ結合組織の構成成分であり、人間や動物の体の中に含まれるもっとも豊富なタンパク質である。皮膚組織にもコラーゲンが含まれ、表皮、真皮、皮下脂肪の三層構造のうち肌のハリや弾力の源である真皮の部分に多く含まれている。加齢とともに新陳代謝が弱まり、肌の中のコラーゲンが再生されにくい状態となったり、コラーゲン同士を結びつける架橋が増え、質が劣化して、正常なコラーゲンが減少したりすると、肌の弾力の欠如や、シワやたるみなどとしてあらわれる。コラーゲンは、また、関節を保護してなめらかに動かすための軟骨や、骨と筋肉のスムーズな動きを支える腱や、加齢とともに脆弱となる骨や、血圧安定のために柔軟である必要がある血管など、身体のさまざまな組織の構成成分でもある。そこで、栄養としてコラーゲン成分を補って、身体の若々しさや健康を維持することが期待できる。
【0004】
コラーゲンは、牛や豚等の家畜や魚の骨、腱、皮等から抽出して調製することができるが、そのままでは体内への吸収性が悪いので、加水分解により低分子化して体内への吸収性を高めたものがコラーゲンペプチドである。コラーゲンペプチドは、ゼラチンのようなゲル化力に乏しく、冷却してもゼリーとならないので、飲食物に配合するのに取り扱いやすい。また、高濃度に調製することができるので、少ない量でコラーゲン成分を十分に摂取することができる。
【0005】
コラーゲンペプチドを含有する酸性ゼリー飲食品としては、例えば、下記特許文献1には、コラーゲンをいつでもどこでも手軽に摂取できるようにした、コラーゲン、好ましくは平均分子量2000〜10000のコラーゲンペプチドを含有する、ゼリー様飲食品の発明が開示されている。
【0006】
しかしながらコラーゲンには、特有の獣臭や異臭味(以下、コラーゲン臭という。)の問題がある。また、コラーゲンペプチドの形態に低分子化されると、コラーゲン臭が一層強まる。更に、本発明者らの知見によれば、クエン酸等の酸味料で酸性に調整された酸性ゼリー飲食品では、このコラーゲン臭が更に一層感じられるようになり、酸味と相まって消費者に忌み嫌われる酸廃臭のような呈味を生じる。
【0007】
コラーゲン臭の問題を解決する方法としては、原料の段階としては、従来、活性炭、樹脂、吸着性素材などで処理することが行われている。例えば、下記特許文献2には、ゼラチンおよび/又はコラーゲンの分解物を含有した溶液をヒドロキシアパタイトに接触させて、その分解物に含まれるペプチドをヒドロキシアパタイトに吸着させ、つぎにペプチド脱着液でペプチドを溶出させことによって、臭いを低減することが記載されている。下記特許文献3には、コラーゲンペプチド含有溶液を合成吸着樹脂とバッチ方式又はカラム方式にて接触処理して、獣臭や苦味などの異味、異臭を低減することが記載されている。
【0008】
また、マスキング剤を添加して、コラーゲン臭を低減することも行われている。例えば、下記特許文献4には、スクラロースをコラーゲン臭のマスキング剤として用いることが記載されている。また、下記特許文献5には、ジンジャー抽出物をコラーゲン臭のマスキング剤として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−75726号公報
【特許文献2】特開平11−318390号公報
【特許文献3】特開2003−40900号公報
【特許文献4】特開2000−152757号公報
【特許文献5】特開2007−185109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、活性炭、樹脂、吸着性素材などで処理する方法では、その操作が煩雑であった。また、マスキング剤を添加する方法では、マスキング剤そのものの風味が付与されてしまう。
【0011】
従って、本発明の目的は、簡便、且つ、風味や食感に影響を与えない方法で、コラーゲン臭の改善された、コラーゲンペプチド含有酸性ゼリー飲食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の1つは、コラーゲンペプチドとカルシウム反応性ゲル化剤とを含有する酸性ゼリー飲食品であって、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上と、リン酸カルシウムとを含有することを特徴とする酸性ゼリー飲食品を提供するものである。
【0013】
本発明の酸性ゼリー飲食品によれば、カルシウム反応性ゲル化剤のゲル化作用に必要なカルシウムイオン源として、リン酸カルシウムを含有するので、pHの上昇を招くことなくゲル化させることができる。また、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上により酸性とされているので、pHを下げても酸味を感じにくくすることができ、それによってコラーゲン臭がよく抑えられた、コラーゲンペプチド含有酸性ゼリー飲食品を得ることができる。
【0014】
上記発明においては、前記リン酸カルシウムがリン酸二水素カルシウムであることが好ましい。リン酸二水素カルシウムは、それ自体が酸性を示すので、酸味料の使用量を低減して、酸味を抑制し、コラーゲン臭を感じにくくすることができる。
【0015】
また、前記コラーゲンペプチドを2〜10質量%含有することが好ましい。これによれば、コラーゲンの生理活性効果を充分に得ることができると共に、コラーゲン臭が強くなるのを抑制することができる。
【0016】
また、前記コラーゲンペプチドが平均分子量4000以下であることが好ましい。これによれば、カルシウム反応性ゲル化剤がゲル化しやすくなる。
【0017】
また、前記酸性ゼリー飲食品がpH4.6未満であることが好ましく、pH4.0未満であることがより好ましい。これによれば、殺菌条件を緩やかにして、風味、ゲル強度等の劣化を防ぐことができると共に、製造に必要なエネルギーを低減できる。
【0018】
本発明のもう1つは、コラーゲンペプチドと、カルシウム反応性ゲル化剤と、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上と、リン酸カルシウムとを含む原料溶液であって、該リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上でpH4.6未満に調整したものを、殺菌工程及び容器充填工程に付すことを特徴とする酸性ゼリー飲食品の製造方法を提供するものである。
【0019】
本発明の酸性ゼリー飲食品の製造方法によれば、カルシウム反応性ゲル化剤のゲル化作用に必要なカルシウムイオン源として、リン酸カルシウムを用い、且つ、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上によりpH4.6未満に調整するので、前述したように、コラーゲン臭がよく抑えられた、コラーゲンペプチド含有酸性ゼリー飲食品を得ることができる。また、pHを4.6未満に調整することで比較的低温で必要十分な殺菌処理を行うことができ、加熱殺菌条件を緩やかにして、風味、ゲル強度等の劣化を防止できると共に、製造に必要なエネルギーを低減できる。
【0020】
上記発明においては、前記殺菌工程を、殺菌温度(T)を85〜130℃として、下記(I)式より求められる殺菌時間(t)で行うことが好ましい。これによれば、ゼリー飲食品のpHが4.6未満の条件下にて、必要充分な殺菌を行うことができる。
【0021】
【数1】
(式中、Tは殺菌温度(℃)、tは殺菌時間(秒)を表す。)
【0022】
上記発明においては、また、前記原料溶液であって、該リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上でpH4.0未満に調整したものを、殺菌工程及び容器充填工程に付すことが好ましい。これによれば殺菌条件をより緩やかにして、風味、ゲル強度等の劣化を防止し、製造に必要なエネルギーを低減できる。
【0023】
また、前記殺菌工程を、殺菌温度(T)を65〜120℃として、下記(II)式より求められる殺菌時間(t)で行うことが好ましい。これによれば、ゼリー飲食品のpHが4.0未満の条件下にて、必要充分な殺菌を行うことができる。
【0024】
【数2】
(式中、Tは殺菌温度(℃)、tは殺菌時間(秒)を表す。)
【0025】
上記発明においては、また、カルシウム反応性ゲル化剤を水に分散溶解した溶液を、他の原料を水に分散溶解した溶液と混合することにより、前記原料溶液を調製することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の酸性ゼリー飲食品によれば、コラーゲンペプチドを含有する酸性ゼリー飲食品において、ゲル化剤としてカルシウム反応性ゲル化剤が用いられ、そのゲル化作用に必要なカルシウムイオン源としてリン酸カルシウムが用いられ、且つ、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上により酸性とされているので、コラーゲン臭がよく抑えられた、コラーゲンペプチド含有酸性ゼリー飲食品を得ることができる。
【0027】
また、本発明の酸性ゼリー飲食品の製造方法によれば、コラーゲンペプチドを含有する酸性ゼリー飲食品の製造方法において、ゲル化剤としてカルシウム反応性ゲル化剤を用い、そのゲル化作用に必要なカルシウムイオン源としてリン酸カルシウムを用い、且つ、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上によりpH4.6未満に調整するので、コラーゲン臭がよく抑えられた、コラーゲンペプチド含有酸性ゼリー飲食品を得ることができる。また、pHを4.6未満に調整することで比較的低温で必要十分な殺菌処理を行うことができ、加熱殺菌条件を緩やかにして、風味、ゲル強度等の劣化を防止できると共に、製造に必要なエネルギーを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】酸性ゼリー飲食品がpH4.6未満に調整されたときの殺菌温度と殺菌時間との関係における好ましい殺菌条件の範囲(図中、ハッチング部分が好ましい殺菌条件の範囲)を示した図表である。
図2】酸性ゼリー飲食品がpH4.0未満に調整されたときの殺菌温度と殺菌時間との関係における好ましい殺菌条件の範囲(図中、ハッチング部分が好ましい殺菌条件の範囲)を示した図表である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明に用いられるコラーゲンペプチドは、コラーゲンやゼラチンを、酵素、酸、アルカリ処理等により部分分解して低分子化することにより得られる。例えばコラーゲンやゼラチンを酵素分解した場合には、その後、酵素失活処理し、ろ過し、濃縮し、噴霧乾燥するといった工程により得ることができる。
【0030】
コラーゲンは、分子量約10万のポリペプチド鎖が3本集まりラセン構造をとった分子量約30万の高分子蛋白質であって、例えば、牛骨、牛皮を石灰漬けし、水洗し、pH6〜8に調整した後、50〜100℃で熱水抽出したり、あるいは、豚皮を酸漬けし、水洗した後、pH4〜5に調整し、50〜100℃で熱水抽出することにより製造される。また、上記抽出物を精製することにより、ゼラチンが得られる。
【0031】
コラーゲンペプチドの平均分子量には特に制限はないが、重量平均分子量が好ましくは400〜15000であり、より好ましくは500〜10000であり、最も好ましくは500〜4000である。コラーゲンペプチドの重量平均分子量が400未満であるとペプチドによる苦味、えぐみが強くなる傾向があり、15000を超えると粘度が高くなり、製造ハンドリングが困難となる傾向がある。なお、本発明において、コラーゲンペプチドの重量平均分子量はパギイ法(写真用ゼラチン試験法 第10版 写真用ゼラチン試験法合同審議会)で測定した値を意味する。
【0032】
このような分子量のコラーゲンペプチドは、市販のものを容易に入手できる。例えば、動物性由来のものとしては、「ニッピペプタイドPBF」(ニッピ株式会社製)、「ニッピペプタイドPRA」(ニッピ株式会社製)、「SPC−5000」(新田ゼラチン株式会社製)、「SCP−3100」(新田ゼラチン株式会社製)、「イクオスHDL−30RD」(新田ゼラチン株式会社製)、「コラーゲンペプチドDS」(協和ハイフーズ株式会社製)、「ファルコニックスCTP」(一丸ファルコス株式会社製)、「PeptanF5000HD」(ルスロ社製)などが挙げられる。
【0033】
酸性ゼリー飲食品中のコラーゲンペプチドの含有量には特に制限はないが、2〜10質量%が好ましく、2〜8質量%がより好ましい。
【0034】
本発明に用いられるカルシウム反応性ゲル化剤は、カルシウムイオンの共存によりゲル化作用が発揮されるゲル化剤をいう。例えば、脱アシルジェランガム、LMペクチン、アルギン酸ナトリウムなどを好ましく例示できるが、これらに限定されるものではない。なかでも脱アシルジェランガムは、耐熱性、耐酸性が高く、これを用いた酸性ゼリー飲食品は口当たりやフレーバー立ちに優れ、均一な品質の製品とすることができるので、好ましい。カルシウム反応性ゲル化剤は、その2種以上を併用してもよい。
【0035】
また、カルシウム反応性ゲル化剤以外のゲル化作用成分を併用してもよい。カルシウム反応性ゲル化剤以外のゲル化作用成分としては、カラギーナン、ローカストビーンガム、寒天、ゼラチン、HMペクチン、ネイティブジェランガム、グルコマンナン、キサンタンガムなどを好ましく用いることができるが、これらに限定されるものではない。なかでもカラギーナン、ローカストビーンガム、ネイティブジェランガムは、脱アシルジェランガムとの併用により、口当たりやフレーバー立ちにより優れた酸性ゼリー飲食品とすることができるので、好ましい。
【0036】
本発明に用いられるリン酸、フィチン酸、グルコン酸は、水性溶液中でpH低下作用を発揮する酸味料である。
【0037】
本発明に用いられるリン酸カルシウムは、上記カルシウム反応性ゲル化剤と共存してそのゲル化作用を発揮させるためのカルシウムイオン源であり、例えば、リン酸二水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸三カルシウムなどである。このうちリン酸二水素カルシウムは、リン酸一水素カルシウムやリン酸三カルシウムに比べて水に対する溶解性に優れており、それ自体が酸性を示すことから、酸味料の使用量を低減して、酸味を抑制し、コラーゲン臭を感じにくくすることができるので、好ましい。
【0038】
本発明においては、作用効果に影響を与えない範囲で、上記のほかに、酸性ゼリー飲食品に一般に用いられる原料を使用することができる。例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、果糖ブドウ糖液糖、アスパルテーム、ステビア、アセスルファムK、スクラロース等の甘味料、果汁、ビタミンC、ビタミンD、ミネラル、香料、着色料等を更に含有してもよい。
【0039】
本発明の酸性ゼリー飲食品は、コラーゲンペプチドと、カルシウム反応性ゲル化剤と、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上と、リン酸カルシウムと、その他適宜所望の原料とを混合溶解した後、そのゲル化を行なうことにより得られる。
【0040】
具体的に、脱アシルジェランガムを用いたときを例に挙げると、脱アシルジェランガムを水に分散させ、必要に応じて他のゲル化作用成分や所望原料を混合してゲル化剤分散液を調製し、そのゲル化温度以上に加熱してゲル化剤溶液を調製した後、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上を含むその他の原料を添加して混合液を形成する。得られる酸性ゼリー飲食品のpHは、このリン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上の添加によって、酸性、より好ましくはpH4.6未満、最も好ましくはpH4.0未満に調製される。なおこのとき、ゲル化剤溶液に添加する原料は、あらかじめ水等に分散、溶解した後に、更に望ましくはゲル化剤溶液のゲル化温度以上に加熱して、ジェランガム溶液に添加することが好ましい。これによれば、脱アシルジェランガム等のゲル化作用成分を、他の原料との相互作用による凝集等の影響を受けることなく、均一に分散溶解させることができ、また、ゲル化剤溶液がゲル化しないように加熱しながら混合した場合には、局所的で不連続なゲル化が起こることが防がれ、より安定した品質の酸性ゼリー飲食品を得ることができる。
【0041】
ゲル化は、上記の混合物を容器に充填後、冷却することにより行う。これによって、ゲル化剤の作用によるゲル化が進行し、本発明の酸性ゼリー飲食品が得られる。酸性ゲル状食品の固形分としては3〜30質量%であることが好ましい。また、ゲル強度としては、容器に充填して流動性が損なわれず、ゼリーを手軽に容易に喫食することができる程度、具体的には、レオメータを用いて、直径10mmの断面円状のプランジャー、移動速度60mm/分、進入距離20mmの測定条件で行ったゲル強度が10〜300gf程度であることが好ましく、20〜200gf程度であることがより好ましい。
【0042】
一方、本発明の酸性ゼリー飲食品の製造方法は、コラーゲンペプチドと、カルシウム反応性ゲル化剤と、リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上と、リン酸カルシウムとを含む原料溶液であって、該リン酸、フィチン酸、グルコン酸から選ばれる1種又は2種以上でpH4.6未満、好ましくはpH4.0未満に調整したものを、殺菌工程及び容器充填工程に付すことを特徴とする。
【0043】
殺菌方法は、特に限定されず、例えば容器に充填した後に行ってもよく、容器に充填する前に行って無菌充填してもよく、更には容器に充填する直前に加熱して高温状態で容器に充填することにより、その熱で容器も殺菌するというホットパックを用いてもよい。
【0044】
殺菌条件は、必要とされる保存性が確保できる条件で行えばよく、特に限定されるものではないが、一般的には、上記原料溶液のpHが4.6未満の場合、殺菌温度(T)を85〜130℃として、下記(I)式より求められる殺菌時間(t)で行うのが好ましい。
【0045】
【数3】
(式中、Tは殺菌温度(℃)、tは殺菌時間(秒)を表す。)
【0046】
なお、上記(I)式で求められる殺菌条件は、図1で示されているハッチング領域の範囲である。
【0047】
また、上記原料溶液のpHが4.0未満の場合、殺菌温度(T)を65〜120℃として、下記(II)式より求められる殺菌時間(t)で行うのが好ましい。
【0048】
【数3】
(式中、Tは殺菌温度(℃)、tは殺菌時間(秒)を表す。)
【0049】
なお、上記(II)式で求められる殺菌条件は、図2で示されているハッチング領域の範囲である。
【0050】
容器としては、その種類に特に制限はなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ボトル缶容器、アルミニウム缶容器、スチール缶容器、プラカップなどを例示できる。また、プラスチックフィルムと金属箔とをラミネートしてなる可撓性のシートからなる袋状の容器にストロー状の口部とこの口部を封止するキャップとを設けた、口栓付きパウチなどであってもよい。この口栓付きパウチによれば、キャップを開けてストロー状の吸い口を通してゼリー飲食品を手軽に容易に喫食することができる。
【0051】
なお、上記口栓付きパウチへのゼリーの充填操作は、例えば本出願人による特許第3527019号公報や、特開平11−157502号公報などに記載された方法によって行うことができる。
【0052】
本発明の酸性ゼリー飲食品の製造方法においては、カルシウム反応性ゲル化剤を水に分散溶解した溶液を、他の原料を水に分散溶解した溶液と混合することにより、上記原料溶液を調製することが好ましい。このとき、カルシウム反応性ゲル化剤を水に分散溶解した溶液には、必要に応じて、カルシウム反応性ゲル化剤以外の他のゲル化作用成分を混合してもよい。これによれば、カルシウム反応性ゲル化剤やその他のゲル化作用成分を、他の原料との相互作用による凝集等の影響を受けることなく、均一に分散溶解させることができるので、より安定した品質の酸性ゼリー飲食品を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0054】
(試験例1)
表1に示す配合により各原料を加え、pH3.8のベースシラップを調製した。また、別途、表1に示す配合のゲル化剤分散液を調製した。ゲル化剤分散液を90〜95℃に昇温して溶解し、これにベースシラップを加えて85℃まで加熱後、チアパックへ充填した。85℃の熱水に漬け20分間殺菌した後、流水にて30分間冷却した。
【0055】
【表1】
【0056】
上記のように調製した酸性ゼリー飲食品の風味、特にコラーゲン臭について、表2に示す評価基準により、パネル5名による官能評価試験を行った。
【0057】
【表2】
【0058】
その結果を下記表3〜5に示す。
【0059】
【表3】
【0060】
表3に示すように、カルシウム源としてリン酸二水素カルシウムを用い、酸味料としてリン酸を用いた実施例1では、酸味が抑えられ、コラーゲン特有の臭いがあまり気にならないという評価であった。これに対して、カルシウム源として乳酸カルシウムを用い、酸味料としてクエン酸を用いた比較例1では、酸味がかなり強く、全体の風味のバランスが崩れ、コラーゲン臭が強く感じられるという評価であった。
【0061】
【表4】
【0062】
表4に示すように、上述の実施例1と同様に、カルシウム源としてリン酸二水素カルシウムを用い、酸味料としてリン酸を用いた実施例2では、上述の実施例1と同様に、酸味が抑えられ、コラーゲン特有の臭いがあまり気にならないという評価であった。これに対して、カルシウム源として乳酸カルシウムを用いた以外は実施例2と同様に調製した比較例2では、酸味がかなり強く、全体の風味のバランスが崩れ、コラーゲン特有の臭いが強く感じられるという評価であった。
【0063】
【表5】
【0064】
表5に示すように、酸味料としてフィチン酸を用いた以外は実施例2と同様に調製した実施例3でも、上述の実施例1,2と同様に、酸味が抑えられ、コラーゲン特有の臭いがあまり気にならないという評価であった。また、酸味料としてグルコン酸を用いた以外は実施例2と同様に調製した実施例4では、若干酸味が感じられるが、コラーゲン特有の臭いがそれほど気にならないという評価であった。
これに対して、酸味料としてクエン酸(無水)を用いた以外は実施例2と同様に調製した比較例3では、酸味がかなり強く、全体の風味のバランスが崩れ、コラーゲン特有の臭いが強く感じられるという評価であった。
図1
図2