(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992244
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】高純度マグネシウムの製造方法及び高純度マグネシウム
(51)【国際特許分類】
C22B 26/22 20060101AFI20160901BHJP
C22B 9/02 20060101ALI20160901BHJP
C22B 9/22 20060101ALI20160901BHJP
C22C 23/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
C22B26/22
C22B9/02
C22B9/22
C22C23/00
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-171835(P2012-171835)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-31535(P2014-31535A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年2月9日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】高畑 雅博
【審査官】
田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−158753(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/062002(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 26/22
C22B 9/02
C22B 9/22
C22C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス成分を除く純度が4N以下であるマグネシウムの原料を、昇華容器のルツボに装入し、これを500°C〜650°Cに加熱して昇華させ、これを昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて第1回目の昇華精製を行い、次にこの第1回目で昇華精製したマグネシウムを回収した後、このマグネシウムを再度昇華容器のルツボに装入し、融点(656°C)以下の温度に加熱して第2回目の昇華精製を行い、同様に昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させてガス成分を除く純度5N以上のマグネシウムを回収することを特徴とする高純度マグネシウムの製造方法。
【請求項2】
マグネシウムの昇華速度を0.05g/cm2/h〜0.50g/cm2/hとすることを特徴とする請求項1記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【請求項3】
昇華精製する際の昇華容器内の真空度を1×10−4Pa以上の高真空とすることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【請求項4】
マグネシウム原料からの収率を50%以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【請求項5】
回収した高純度マグネシウムに含有する各遷移金属元素を5ppm未満、Pbを0.03ppm未満とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【請求項6】
昇華精製により回収したマグネシウムを、内壁にグラファイトスリーブを装着したスカル炉を使用して誘導溶解し、その後の冷却中に前記グラファイトで保温すると共に、底部を水冷して冷却速度を底部側温度>>上部側温度とし、高純度マグネシウムのインゴットを作製することを特徴とする高純度マグネシウムの製造方法。
【請求項7】
昇華精製により回収したマグネシウムを、内壁にグラファイトスリーブを装着したスカル炉を使用して誘導溶解し、その後の冷却中に前記グラファイトで保温すると共に、底部を水冷して冷却速度を底部側温度>>上部側温度とし、高純度マグネシウムのインゴットを作製することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華精製による高純度マグネシウム(Mg)の製造方法及び高純度マグネシウムに関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム(Mg)は、2族の元素で、アルカリ土類金属の1つに含められることがあり、原子番号12、原子量24.3である。代表的な鉱石としては、苦灰石、リョウ苦土鉱、エプソマイト、カーナル石、カンラン石、滑石、セン晶石などがある。単体金属としては、MgCl
2を750℃程度で融解電解還元するか、苦灰石からのMgO・CaOを1150℃、低圧下FeSiで還元することにより製造されている。宇宙に最も多く存在する金属元素と見られている。
精製したマグネシウムは、銀白色の金属結晶で、常温で六方最密構造をとる。融点649°C、高温で激しく燃えMgOとなる。沸点1105°C、密度1.738g/cm
3(20°C)である。用途としては、Alなどとの合金として航空機、自動車工業で利用されている(化学辞典参照)。
【0003】
近年、半導体素子の製造において、高純度材料の需要が高くなっているが、青色レーザーダイオード等の半導体素子に、超高純度のマグネシウム金属が求められている。この場合のマグネシウムの純度は、5〜6Nレベルと言われている。
従来のマグネシウム金属を精製するには、通常ゾーンメルティング法、電気精錬法、熱還元法、蒸留法などがある。特に、真空蒸留法を用いることにより、純度の高いマグネシウムを製造することが可能である。
【0004】
従来技術を見ると、下記特許文献1に、純度99.3%の金属マグネシウムを原料るつぼ5に入れ、回収鋳型6中央部に設置した吸収台9の上に固定して電気炉1内に装入する工程、原料るつぼ5と回収鋳型6は石英製外筒と内筒4で二重に封体されており、真空排気装置2によって内筒内を真空度1×10
−2Torrとし、炉温を600℃にすると原料中のマグネシウムは蒸発した後、内筒の内面に凝縮し、粒状になって回収鋳型に落下させる工程、これを回収して6N以上のマグネシウムを得る方法が開示されている。マグネシウムより蒸気圧の低いものは原料るつぼ内に残留するが、蒸気圧の高いものはガス状のまま排気され、冷却トラップ8内に吸引され、冷却フランジ7により冷却されて固化するというものである。
しかし、この場合は、半導体素子において、特に問題となるPbやガス成分に関する記述はなく、材料としては不十分である。
【0005】
下記特許文献2には、超高純度材料の生成方法であって、高真空圧レベルに維持されたチャンバにおいて、るつぼに、初期純度を有する固体の高温で蒸発する材料を充填する工程と、上記るつぼを上記材料の沸点より高い温度に加熱して、上記材料を蒸発させる工程と、上記るつぼから垂直方向の上方に延在する凝縮器を用いて、上記材料の蒸気を上記るつぼからの上方へ流れるように方向づける工程と、上記凝縮器の下部における上記材料の沸点より高い上昇された温度から、上記凝縮器の上部における上記材料の沸点より低い上昇された温度への、凝縮器に亘る温度勾配を維持する工程と、上記凝縮器を介した材料の蒸気の上方への流れを、凝縮器に沿って垂直に間隔を有する複数の流れ制限点にて制限する工程と、上記材料の蒸気を、上記流れ制限点のうち中間の1 制限点にて、上記初期純度より2 〜 3 桁高い純度を有する固体材料に凝固する工程とを有することを特徴とする超高純度材料の生成方法を中心とする技術が記載されている。
しかし、この場合は、6Nのマグネシウムの装置が記載されているが、具体的な成分の分析値がなく、半導体素子において、特に問題となるPbやガス成分に関する記述はなく、材料としては具体性に欠けるものである。
【0006】
下記特許文献3には、原料るつぼ1を備えた原料加熱部、複数枚の凝縮用通気路板5を備えた凝縮部、固化用るつぼ2を備えた固化部、複数枚の捕集固化用通気路板7を備えた捕集固化部が縦方向に連接された精製装置を用い、好ましくは3N以上の原料金属を原料るつぼ1内に装入して好ましくは圧力が13Pa(10
−1torr)以下の高真空雰囲気中で原料るつぼ1と凝縮用通気路板5をそれぞれ加熱して温度制御し、原料加熱部で金属蒸気を発生させ、次いで凝縮部でこの金属蒸気の一部を凝縮させて得られた凝縮溶体を原料るつぼ1内に繰り返しながら、固化部において高純度金属を固化させ精製を行う。固化金属としてCl、FおよびSの各合計含有量が0.1ppm以下であり、不純物総含有量が1ppm以下の6N以上の高純度金属を得る。
この場合も、6Nのマグネシウムなどを精製する装置が記載されているが、Cl、FおよびS以外については、分析値がなく、半導体素子において、特に問題となるPbやガス成分に関する記述はなく、高純度マグネシウム材料としては不十分である。
【0007】
下記特許文献4には、純マグネシウムやマグネシウム合金からなるマグネシウム材20aを、金属マグネシウムの蒸気圧よりも低い蒸気圧を示す被覆金属30aによって被覆し、マグネシウム材20a及び被覆金属30aを真空雰囲気下で加熱して、該加熱によってマグネシウム材20aから発生する蒸気を凝縮器2で凝縮させて金属マグネシウム211を回収する。溶解時にマグネシウム材をアルミニウム濃度の高い表面にすることができ、マグネシウム切粉、純マグネシウム地金などについて、真空蒸留精製の回収率、純化率が向上する。
この技術は、リサイクルを念頭においた技術であり、半導体素子において、特に問題となるPbやガス成分に関する記述はなく、前記文献1〜3と同様に、高純度マグネシウム材料としては不十分である。
【0008】
上記の通り、従来技術では半導体素子において特に問題となる、Pbやガス成分を低減したマグネシウムを製造するための、総合的な高純度化を達成できる有効な技術の開示がないと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−158753号公報
【特許文献2】特表平11−502565号公報
【特許文献3】特開2003−213344号公報
【特許文献4】特開2005−126802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、半導体素子の製造において、高純度材料の需要が高くなっているが、特に青色レーザーダイオード等の半導体素子に、超高純度のマグネシウム金属が求められている。この場合のマグネシウムの純度は、6Nレベルと言われているが、半導体素子等の製造に有効である品質を高めた高純度化したマグネシウムを安定して提供できる技術を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題から、本願は次の発明を提供する。
1)ガス成分を除く純度が4N以下であるマグネシウムの原料を、昇華容器のルツボに装入し、これを500°C〜650°Cに加熱して昇華させ、これを昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて第1回目の昇華精製を行い、次にこの第1回目で昇華精製したマグネシウムを回収した後、このマグネシウムを再度昇華容器のルツボに装入し、融点(656°C)以下の温度に加熱して第2回目の昇華精製を行い、同様に昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させてガス成分を除く純度が5N以上のマグネシウムを回収することを特徴とする高純度マグネシウムの製造方法。
【0012】
上記においては、第1回目と第2回目の昇華精製を用いているが、必要に応じて、これらの一方又は双方を繰り返すことができる。また、回収するマグネシウムの純度を6N以上とすることもできる。
【0013】
2)マグネシウムの昇華速度を0.05g/cm
2/h〜0.50g/cm
2/hとすることを特徴とする上記1)記載の高純度マグネシウムの製造方法。この昇華速度は、好ましい条件を示すものであり、必要に応じてこの範囲外の昇華速度とすることもできる。
【0014】
3)昇華精製する際の昇華容器内の真空度を1×10
−4Pa以上の高真空とすることを特徴とする上記1)〜2)のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。この真空度は、好ましい条件を示すものであり、必要に応じて、この範囲外の真空度とすることもできる。
【0015】
4)マグネシウム原料からの収率を50%以上とすることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。該製造方法において、さらにマグネシウム原料からの収率を60%以上とすることもできる。
【0016】
5)回収した高純度マグネシウムに含有する各遷移金属元素を5ppm未満、Pbを0.01ppm未満とすることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【0017】
6)昇華精製により回収したマグネシウムを、内壁にグラファイトスリーブを装着したスカル炉を使用して誘導溶解し、その後の冷却中に前記グラファイトで保温すると共に、底部を水冷して冷却速度を底部側温度>>上部側温度とし、高純度マグネシウムのインゴットを作製することを特徴とする高純度マグネシウムの製造方法。
【0018】
7)昇華精製により回収したマグネシウムを、内壁にグラファイトスリーブを装着したスカル炉を使用して誘導溶解し、その後の冷却中に前記グラファイトで保温すると共に、底部を水冷して冷却速度を底部側温度>>上部側温度とし、高純度マグネシウムのインゴットを作製することを特徴とする上記1)〜5)のいずれか一項に記載の高純度マグネシウムの製造方法。
【0019】
8)ガス成分を除く純度が5N以上のマグネシウムであって、Pbの含有量が0.01ppm未満であることを特徴とする高純度マグネシウム。さらに、純度6N以上の高純度マグネシウムを提供することもできる。
【0020】
9)ガス成分であるC:100ppm以下、O:20ppm以下、N:20ppm以下、H:10ppm以下、S:20ppm以下であることを特徴とする上記8)記載の高純度マグネシウム。
【0021】
10)α線量が0.001cph/cm
2以下であることを特徴とする上記8)又は9)記載の高純度マグネシウム。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、複数回の昇華精製により、純度5N以上のマグネシウムを回収するものであり、高純度化したマグネシウムを安定して提供できるという優れた効果を有する。半導体素子の製造において、高純度材料の需要が高くなり、特に青色レーザーダイオード等の半導体素子に、超高純度のマグネシウム金属が求められているが、これに適合できる品質の高純度化したマグネシウムを安定して提供できる優れた効果を有する。このような超高純度マグネシウム金属は、半導体素子の製造だけでなく、高純度化が求められる製品に、同様に使用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】引け巣の無い均一な一定の大きさのインゴットを作製する際に使用するスカル炉(左図)とマグネシウムインゴット(右図)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の高純度マグネシウムの製造方法は、まずガス成分を除く純度が4N以下であるマグネシウムの原料を、
図1に示すような昇華容器のルツボに装入する。次に、この原料を500°C〜650°Cに加熱して昇華させ、昇華したマグネシウムを昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて第1回目の昇華精製を行う。そして、この第1回目で昇華精製したマグネシウムを冷却して回収する。
【0025】
次に、この回収したマグネシウムを再度昇華容器のルツボに装入する。昇華容器は別に用意しても良いし、また同一の昇華容器を使用することもできる。そして、再度融点(656°C)以下に加熱して第2回目の昇華精製を行い、同様に昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させる。これによって純度5N以上のマグネシウムを回収することができる。
【0026】
前記第1回目の昇華させる温度500°C〜650°C、さらに第2回目の昇華させる温度は、融点(656°C)よりもやや低い温度で、マグネシウムの昇華速度を調節して温度設定を行う。500°C未満では、昇華精製の効率が悪くなり、また656°Cを超える温度では、溶解時に不純物の混入があるので、上記の範囲の温度に調節する。この結果、マグネシウムの昇華速度を0.05g/cm
2/h〜0.50g/cm
2/hとすることができる。これはマグネシウムの昇華精製に適度な速度である。
【0027】
昇華容器は、通常耐熱性のステンレスを使用する。そして、この昇華容器に昇華精製したマグネシウムを付着(蒸着)させて回収する。
昇華精製する際の昇華容器内の真空度は、1×10
−4Pa以上の高真空とし、昇華を促進させ、かつ気化し易いマグネシウム内の不純物を除去する。
【0028】
本発明の工程により、マグネシウム原料からの収率50%以上、さらには収率60%以上を達成することができる。また、回収した高純度マグネシウムに含有する各遷移金属元素を1ppm未満とすること、さらに0.5ppm未満とすることができる。また、Pbの含有量を0.01ppm未満とすることができる。
【0029】
以上によって、マグネシウムのガス成分を除く純度が5N以上である高純度マグネシウムを得ることができる。また、この高純度マグネシウムに含有する各遷移金属元素を1ppm未満、さらに、0.5ppm未満とすることができる。また、Pbの含有量を0.01ppm未満とすることができる。
【0030】
なお、昇華精製により回収したマグネシウムは、さらに内壁にグラファイトスリーブを装着したスカル炉を使用して誘導溶解し、その後の冷却中に前記グラファイトで保温すると共に、底部を水冷して冷却速度を底部側温度>>上部側温度とし、高純度マグネシウムのインゴットを作製することが良い。
【0031】
これによって引け巣の無い又は少ない高純度マグネシウムを製造することができる。このための炉としては、他の炉を使用することもできるが、スカル炉を使用するのが、実用上確実に製造できるので、より好ましいと言える。
【0032】
本発明では、放射性元素は特に規定していないが、同様に低減可能である。放射性元素の代表的なものとしては、ウラン(U)、アクチニウム(Ac)、トリウム(Th)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)が代表的なものであるが、メモリーセルの蓄積電荷が反転するというソフトエラーが発生する。したがって、これらの量を少なくすると共に、これらの元素から発生するα線量を制限する必要がある。総量としては、100wtppbまでの混入までは許容できるが、できるだけ少ない方が良い。
【0033】
上記の通り、それぞれの元素は個々に分析及び管理することができ、これらの元素については、それぞれ100wtppb以下、さらにはそれぞれ50wtppb以下とすることが望ましい。特に、影響の大きいU、Thを低減する必要がある。
本願発明のターゲットのα線量をガスフロー型比例計数管方式の測定装置を用いて測定した結果、α線量は0.001cph/cm
2以下であった。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれるものである。
【0035】
(実施例1)
純度99.9%(3N)のマグネシウム原料2.5kgを、
図1に示す縦型の昇華容器の底部のルツボに装入した。昇華容器内の真空度は1×10
−4Pa台とした。この真空処理はロータリーポンプによる粗引き及びクライオポンプによる本引きを行った。ルツボの加熱は下記の範囲で調節した。
【0036】
加熱温度は、恒常状態で500〜650°Cの範囲とし、昇華速度を考慮して適宜制御した。昇華速度は、恒常状態で0.20g/cm
2/hとし、通常0.05g/cm
2/h〜0.50g/cm
2/hの範囲で制御した。これ以下では昇華速度のばらつきが大きくなって効率が悪くなり、これを超えると純度が悪化する傾向があった。
【0037】
上記の通り、マグネシウム原料は2.5kgとして、
図1に示す縦型の昇華容器の底部のルツボに装入した。この第1回目の昇華によって昇華容器内の側壁に2.0kgの付着(蒸着)物を得た。この分析値を同様に表1に示す。
【0038】
第1回目の昇華残渣は0.5kg(20%)であった。この第1回目の昇華残渣の分析値(上部、中部、下部)を表1に示す。これによれば、主な不純物として、Al:0.28wtppm、Si:0.9wtppm、Fe:0.18wtppm、Cu:1.1wtppm、Zn:1.1wtppm、Ta<10wtppm、Pb:1.9wtppmを挙げることができる。これ以上昇華させると、Pb、Mnの不純物が増加し好ましくないので、昇華作業を停止する。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、この第1回目の蒸着マグネシウムを用いて、蒸着物中央部1.6kgを第2回目の昇華原料とした。なお、第1回目と第2回目の昇華条件は同じとした。
第2回目の蒸着マグネシウムの不純物量を同様に表1に示す。Al<0.05wtppm、Si<0.05wtppm、Fe<0.01wtppm、Cu<0.01wtppm、Zn:0.07wtppm、Ta<10wtppm、Pb:0.03wtppmとなった。この表1に示す不純物量から明らかなように、高純度マグネシウムを得ることができた。
【0041】
表1に示すように、原料でのマグネシウム中に存在する不純物量のばらつきが大きいので、2回の昇華精製が必要であることが分かる。この結果、1.3kgのマグネシウムを回収した。遷移金属は、ほぼ検出下限まで低減できた。52%の収率を得た。なお、上部及び下部の蒸着物は、再利用するので、定常状態の収率は60〜70%程度となる。なお、蒸着物の再利用は分析値から判断して、1,2回の昇華精製に関係なく、可能なものを使用する。
【0042】
前記第1図に示す容器の外側で、蒸着部の温度は最大で60℃、最低で25℃に維持した。以上の分析結果から明らかなように、Znと、Pbが除去し難い元素であるが、2回の昇華作業により、検出下限近傍までの低減化が可能であった。また、α線量を0.0001cph/cm
2を達成することができた。なお、上記以外に、ガス成分である酸素、炭素、窒素、水素も同様に低減化が可能であり、それぞれ、O<10ppm、C:86ppm、N<10ppm、H:8ppm、S<10ppmとなった。
【0043】
(比較例1)
実施例1と同一のマグネシウム原料を用い、温度700°C、昇華速度0.50g/cm
2/hの1回の昇華によって昇華容器内の側壁に蒸着物を得た。他の条件は、実施例1と同一である。この結果、表2の分析結果に示すように、全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、特にFe等の遷移金属の不純物量が多く、またPbは3wtppmとなり、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0044】
【表2】
【0045】
(比較例2)
実施例1と同一のマグネシウム原料を用い、温度450°C、昇華速度(蒸発速度)0.07g/cm
2/hの1回の昇華によって昇華容器内の側壁に蒸着物を得た。他の条件は、実施例1と同一である。この結果、表2の分析結果に示すように、Fe等の遷移金属の不純物量は少ないが、Pb、Znの低減が不十分な結果となり、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0046】
(比較例3)
実施例1と同一のマグネシウム原料を用い、第1回目の加熱温度750°C、昇華速度(蒸発速度)1.0g/cm
2/hで、第2回目の加熱温度750°C、昇華速度(蒸発速度)1.0g/cm
2/hの2回の昇華によって昇華容器内の側壁に蒸着物を得た。
他の条件は、実施例1と同一である。この結果、表2の分析結果に示すように、全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、特にAl、Si、Fe、Cu、Pbの不純物量が多く、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0047】
(実施例2)
本願の昇華法により、高純度のマグネシウムを製造可能であるが、これをターゲットに加工する際には、引け巣の無い均一な一定の大きさのインゴットを作製する必要がある。
このためには、
図2の左図に示すようなスカル炉を使用し、グラファイトスリーブを装着して作製する。誘導溶解後の冷却中も炉の内壁はグラファイトで保温し、底部を水冷して冷却する。この結果、冷却速度が底部側温度>>上部側温度となり、引け巣が入り難くなる。
【0048】
図2の右図にインゴットの写真を示すが、超音波探傷試験では、引け巣は一切無かった。このスカル溶解炉にスリーブを装着して溶解する目的は、冷却速度を底部側>>上部側とするためである。このための炉としては、スカル炉を使用するのが好ましいが、これが実現できる炉であれば、他の炉を使用することができることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、2回の昇華精製により、純度4N5以上のマグネシウムを回収するものであり、高純度化したマグネシウムを安定して提供できるという優れた効果を有する。これによって、マグネシウム還元による高純度マグネシウムの製造に使用できるだけでなく、他の希土類等の還元剤、金属の脱硫剤又は脱酸剤、高真空ポンプ用ゲッターとして有効に使用できる。