(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992247
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】核酸医薬経口製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/48 20060101AFI20160901BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20160901BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20160901BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20160901BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/42 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/44 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20160901BHJP
A61K 47/34 20060101ALI20160901BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20160901BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20160901BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20160901BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20160901BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20160901BHJP
【FI】
A61K9/48
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/711
A61K31/713
A61K47/24
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/10
A61K47/44
A61K47/26
A61K47/14
A61K47/34
A61P1/04
A61K48/00
!C12N15/00 AZNA
!C12N15/00 H
!C12N15/00 G
【請求項の数】16
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-179201(P2012-179201)
(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公開番号】特開2014-37358(P2014-37358A)
(43)【公開日】2014年2月27日
【審査請求日】2015年7月27日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、補正予算事業地域イノベーション創出研究開発事業「核酸含有PLGAナノ粒子技術を用いた経口DDS製剤の研究開発」再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000191755
【氏名又は名称】森下仁丹株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000113355
【氏名又は名称】ホソカワミクロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500409323
【氏名又は名称】アンジェスMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088546
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英次郎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 隆
(72)【発明者】
【氏名】牧野 寛史
(72)【発明者】
【氏名】森下 竜一
(72)【発明者】
【氏名】吉門 正智
(72)【発明者】
【氏名】中野 修身
(72)【発明者】
【氏名】板東 容平
(72)【発明者】
【氏名】辻本 広行
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 元
【審査官】
深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−313861(JP,A)
【文献】
特開2008−056611(JP,A)
【文献】
特開2005−306877(JP,A)
【文献】
特表2010−523555(JP,A)
【文献】
特表2002−538196(JP,A)
【文献】
特表2010−523595(JP,A)
【文献】
特表2003−503308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/48
A61K 31/7088
A61K 31/7105
A61K 31/711
A61K 31/713
A61K 47/10
A61K 47/14
A61K 47/24
A61K 47/26
A61K 47/34
A61K 47/36
A61K 47/42
A61K 47/44
A61K 48/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の3層により構成されたシームレスカプセルからなる核酸医薬製剤。
(1) 常温で非流動性の疎水性物質に懸濁された核酸医薬含有生分解性ポリマーを主成分とする内層
(2) 常温で非流動性の疎水性物質とレシチンとの混合物を主成分とする中間層
(3) ゼラチン、ペクチンおよびソルビトールの混合物を主成分とする外層
【請求項2】
常温で非流動性の疎水性物質が、食用硬化油、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルから選ばれた少なくとも1種である、請求項1記載の核酸医薬製剤。
【請求項3】
食用硬化油が、ヤシ硬化油、大豆硬化油、綿実硬化油、ナタネ硬化油及びパーム硬化油から選ばれた少なくとも1種である、請求項2記載の核酸医薬製剤。
【請求項4】
生分解性ポリマーが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及び乳酸・グリコール酸共重合体から選ばれた少なくとも1種である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の核酸医薬製剤。
【請求項5】
核酸医薬が、デコイ、アンチセンス、siRNA、miRNA、リボザイム、アプタマー及びプラスミドDNAから選ばれた少なくとも1種以上である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の核酸医薬製剤。
【請求項6】
核酸医薬含有生分解性ポリマーの表面がカチオン性高分子で被覆されている、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の核酸医薬製剤。
【請求項7】
カチオン性高分子が、キトサンまたはキトサン誘導体である請求項6記載の核酸医薬製剤。
【請求項8】
カプセル直径が1〜7mmである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の記載の核酸医薬製剤。
【請求項9】
腸溶性である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の核酸医薬製剤。
【請求項10】
炎症性腸疾患治療剤である請求項1ないし9記載の核酸医薬製剤。
【請求項11】
炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎またはクローン病である、請求項10記載の核酸医薬製剤。
【請求項12】
ヤシ硬化油に懸濁された、キトサン被覆デコイ含有乳酸・グリコール酸共重合体を主成分とする内層、ヤシ硬化油およびレシチンの混合物を主成分とする中間層、ゼラチン、ペクチンおよびソルビトールの混合物を主成分とする外層により構成されたシームレスカプセルである、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の核酸医薬製剤。
【請求項13】
デコイがNF-κBデコイである、請求項12記載の核酸医薬製剤。
【請求項14】
NF-κBデコイが配列ggrhtyyhを含むオリゴヌクレオチドである、請求項13記載の核酸医薬製剤。
(式中、rはAまたはGを、hはA、CまたはTを、yはCまたはTを、それぞれ意味する。)
【請求項15】
配列ggrhtyyh が、ggatttcc又はggactttcである、請求項14記載の核酸医薬製剤。
【請求項16】
NF-κBデコイが配列番号1、配列番号2または配列番号3のいずれかからなるオリゴヌクレオチドである、請求項14または15記載の核酸医薬製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デコイ等の核酸医薬を効果的に経口投与することができる、核酸医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
DNAデコイ等のオリゴヌクレオチドからなる核酸医薬は、酸あるいは酵素(ヌクレアーゼ等)に不安定であるため、従来は局所投与に限定され、それ以外は安定化誘導体の静脈内投与が一部検討されているに過ぎなかった。
【0003】
しかしながら慢性疾患など継続/反復投与が必要とされる疾患に対し、経皮剤を除く局所投与は現実的ではなく、また静脈内投与も病院でしか実施できず在宅治療には利用できないことから、核酸医薬の優れた薬理作用を生かすには、経口投与製剤の開発が広く求められていた。
【0004】
一方、現時点で炎症性腸疾患に対し承認されているのはメサラジン(Mesalazine, 5-アミノ-2-ヒドロキシ安息香酸)のみであるが、メサラジンはアスピリン誘導体であり、薬理学的にはシクロオキシゲナーゼ阻害作用に基づく抗炎症剤である。従って抗炎症剤としての対症療法しか期待できず、継続投与するとシクロオキシゲナーゼのインダクション(酵素誘導)が起こりリバンド(再発)する問題点も指摘されていた。一方でNF-κBデコイは酵素阻害剤ではないため、リバンドが起こる可能性はない。さらにメサラジンの投与量は、1,500〜2,250mg/日(潰瘍性大腸炎)、1,500〜3,000 mg/日(クローン病)と大量であり、毎日この量を継続服用するのは非常に困難であり、コンプライアンス(服薬遵守)面での問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4602298号公報
【特許文献2】特開昭51-008176号公報
【特許文献3】再表2007-072909号公報
【特許文献4】特開2010-090103号公報
【特許文献5】特開2010-130900号公報
【特許文献6】特開2011-050381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、経口投与された核酸医薬の生体内での高い安定性を達成することができ、それによって、経口投与された核酸医薬の薬理効果を生体内において有効に発揮させることが可能な核酸医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、特定の物質で内層、中間層及び外層を構成した3層のシームレスカプセルとし、内層に核酸医薬を含有させることで、経口投与された核酸医薬の生体内での高い安定性を達成することができ、それによって、経口投与された核酸医薬の薬理効果を生体内において有効に発揮させることが可能なことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の3層により構成されたシームレスカプセルからなる核酸医薬製剤を提供する。
(1) 常温で非流動性の疎水性物質に懸濁された核酸医薬含有生分解性ポリマーを主成分とする内層
(2) 常温で非流動性の疎水性物質とレシチンとの混合物を主成分とする中間層
(3) ゼラチン、ペクチンおよびソルビトールの混合物を主成分とする外層
【発明の効果】
【0009】
本発明により、経口投与された核酸医薬の生体内での高い安定性を達成することができる核酸医薬製剤が初めて提供された。本発明の核酸医薬製剤を経口投与すると、核酸医薬の生体内での分解が防止され、核酸医薬の薬理効果が生体内において効果的に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】下記実施例において得られた、TNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)誘発慢性腸炎マウスに本発明の経口製剤を投与した場合の体重変化率の経時変化を示す図である。横軸はTNBS投与後の日数、縦軸は体重変化率(%)を示す。NTは非処置群(TNBS投与せず)、IBDは、腸炎誘発群(投薬なし)、nonDLは低用量(2.26mg/kg体重)ダミー製剤(核酸医薬を含まないシームレスカプセル)投与群、nonDHは高用量(11.32mg/kg体重)ダミー製剤(核酸医薬を含まないシームレスカプセル)投与群、DLは低用量(2.26mg/kg体重)NF-κBデコイ製剤投与群、DHは高用量(11.32mg/kg体重)NF-κBデコイ製剤投与群を示す(符号の意味は、
図2〜
図4も同じ)。
【
図2】下記実施例において得られた、TNBS誘発慢性腸炎マウスに本発明の経口製剤を投与した場合のDisease activity index (DAI)の経時変化を示す図である。横軸は、TNBS投与後の日数、縦軸は、DAIを示す。
【
図3】下記実施例において得られた、TNBS誘発慢性腸炎マウスに本発明の経口製剤を投与した場合の、TNBS投与28日後の大腸長(cm)を示す。
【
図4】下記実施例において得られた、TNBS誘発慢性腸炎マウスに本発明の経口製剤を投与した場合の生存率の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記の通り、本発明の製剤は、内層、中間層及び外層から構成される3層のシームレスカプセルの形態にある。シームレスカプセルは、薬効成分を含むカプセルの構成材料を良溶媒に溶解した溶液を、該材料の貧溶媒中に滴下することにより調製することができる継ぎ目のないカプセルであり、シームレスカプセル自体は周知であり、常用されているものである。3層のシームレスカプセルも公知であり、各層を構成する成分の良溶媒溶液を、同心3重ノズルから同時に貧溶媒中に滴下することにより調製することができる(特許文献2)。
【0012】
シームレスカプセルの内層は、常温で非流動性の疎水性物質に懸濁された核酸医薬含有生分解性ポリマーを主成分とするものである。
【0013】
ここで、「常温で非流動性の疎水性物質」の好ましい例としては、食用硬化油、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルから選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。ここで、「食用硬化油」の好ましい例としては、ヤシ硬化油、大豆硬化油、綿実硬化油、ナタネ硬化油及びパーム硬化油から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。また、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪部分は、飽和でも不飽和でもよく、飽和又は不飽和アルキル部分の炭素数は、10〜20程度が好ましい。
【0014】
上記「生分解性ポリマー」の好ましい例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)及び乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)から選ばれた少なくとも1種を挙げることができる。生分解性ポリマーの平均分子量は、特に限定されないが、通常、5,000〜30,000程度が好ましい。また、乳酸・グリコール酸共重合体中の乳酸とグリコール酸の組成比(モル比)は、特に限定されないが50:50ないし75:25程度が好ましい。これらの平均分子量や組成比は、市販の乳酸・グリコール酸共重合体やポリ乳酸が有しているものであり、従って、本発明では、市販の乳酸・グリコール酸共重合体またはポリ乳酸を好適に利用することができる。
【0015】
生分解性ポリマーに含まれる核酸医薬は、DNA若しくはRNAである核酸、又はPNA等の人工核酸であれば特に限定されず、好ましい例としてデコイ、アンチセンス、siRNA、miRNA、リボザイム、アプタマー及びプラスミドDNA等を挙げることができる。これらの核酸医薬は、ホスホロチオエート化(リン酸エステル部分の、リンと二重結合している酸素原子をイオウ原子に変えること)や、PEG化(ポリエチレングリコール鎖を一端に連結すること)等の自体周知の方法により生体内での安定性を高めたものであってもよい。核酸医薬としては、二本鎖DNAデコイが好ましく、特に後述するNF-κBデコイが好ましいが、これに限定されるものではない。生分解性ポリマーに含まれる核酸医薬の量は、特に限定されないが、通常、生分解性ポリマー100重量部に対して0.1〜50重量部程度、好ましくは1.0〜30重量部程度である。
【0016】
核酸医薬含有生分解性ポリマーの表面がカチオン性高分子で被覆されていることが好ましい。ここで、「カチオン性高分子」の好ましい例としては、キトサン及びキトサン誘導体、セルロースに複数のカチオン基を結合させたカチオン化セルロース、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等のポリアミノ化合物、ポリオルニチン、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルピリジニウムクロリド、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物(DAM)、アルキルアミノメタクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物(DAA)、細胞膜(生体膜)の構成成分であるリン脂質極性基(ホスホリルコリン基)と重合性に優れたメタクリロイル基とを併せ持つ2−メタクリロイルオキシエチルホスホルコリン(MPC)を構成単位とする高分子に第4級アンモニウム塩等のカチオン基を結合させたカチオン性高分子(例えばMPCと2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドとのコポリマー)等が挙げられるが、特にキトサン又はその誘導体が好適に用いられる。ここで、キトサン誘導体の例としてはヒドロキシプロピルキトサン(カチオン化キトサン)を挙げることができる。なお、キトサン又はその誘導体で表面を被覆した核酸医薬含有生分解性ポリマー自体は公知であり、特許文献1に記載されている。カチオン性高分子の被覆量は限定されないが、核酸医薬含有生分解性ポリマー100重量部に対して、通常、1〜50重量部程度、好ましくは、10〜30重量部程度である。
【0017】
内層を構成する、前記疎水性物質と前記核酸医薬含有生分解性ポリマーの混合比率は、特に限定されないが、疎水性物質100重量部に対して、核酸医薬含有生分解性ポリマーが通常、1〜25重量部程度、好ましくは、1〜10重量部程度である。
【0018】
また、本明細書及び特許請求の範囲において、「主成分とする」(後述する他の層も同様)とは、この主成分が、重量基準で、全体の50重量%超、好ましくは、90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上、最も好ましくは100重量%であることを意味する。主成分以外の成分でも、本発明の効果に悪影響を与えないものであれば、任意成分として含まれていてもよい。内層におけるこのような任意成分の例としては、食用硬化油脂、グリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができるが、これらの任意成分は含まれていなくても問題はない。
【0019】
中間層は、常温で非流動性の疎水性物質とレシチンとの混合物を主成分とする。常温で非流動性の疎水性物質の好ましい例は、内層を構成する常温で非流動性の疎水性物質の好ましい例と同様である。疎水性物質とレシチンとの混合比率は、特に限定されないが、疎水性物質100重量部に対してレシチンが、通常、5〜100重量部程度、好ましくは10〜50重量部程度である。中間層に含むことができる任意成分の例としては、食用硬化油脂、ショ糖脂肪酸エステル(SAIB)、グリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができるが、これらの任意成分は含まれていなくても問題はない。
【0020】
外層は、ゼラチン、ペクチンおよびソルビトールの混合物を主成分とする。これらの混合比率は、特に限定されないが、ゼラチン100重量部に対して、ペクチンが通常5〜45重量部程度、好ましくは5〜25重量部程度、ソルビトールが通常5〜120重量部程度、好ましくは20〜100重量部程度である。外層に含むことができる任意成分の例としては、ゼラチン、寒天、カラギーナン、アラビアガム、ジェランガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸、ソルビトール、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができるが、これらの任意成分は含まれていなくても問題はない。
【0021】
カプセルのサイズは、特に限定されないが、好ましくは、直径が1〜7mm程度である。また、内層、中間層、外層の重量比率は、特に限定されないが、内層100重量部に対して中間層が通常10〜100重量部程度、好ましくは30〜75重量部程度、外層が通常20〜160重量部程度、好ましくは30〜130重量部程度である。
【0022】
本発明の核酸医薬製剤は、腸溶性であることが好ましく、上記した各構成成分として上記した好ましい成分を採用すれば、カプセルは腸溶性になる。この場合、核酸医薬として、潰瘍性大腸炎やクローン病のような炎症性腸疾患に対する治療効果を有するもの、好ましくは、後述する、NF-κBデコイを用いることにより、上記の通り対症療法薬しかない炎症性腸疾患の治療薬を提供することができる。なお、NF-κBデコイを含む本発明の製剤を炎症性腸疾患治療薬として経口投与する場合、その投与量は、患者の症状やNF-κBデコイの種類等により適宜選択されるが、通常、成人患者1日当たり、本発明の製剤の投与量は、100mg〜20000mg程度、好ましくは100mg〜1000mg程度である。
【0023】
本発明の特に好ましい態様によれば、ヤシ硬化油に懸濁された、キトサン被覆デコイ含有乳酸・グリコール酸共重合体を主成分とする内層、ヤシ硬化油およびレシチンの混合物を主成分とする中間層、ゼラチン、ペクチンおよびソルビトールの混合物を主成分とする外層により構成されたシームレスカプセルが提供される。
【0024】
ここで、デコイは、NF-κBデコイが好ましく、二本鎖DNAのものが好ましい。NF-κBデコイは、種々のものが公知であり、例えば、特許文献3〜6等に記載されているものを挙げることができる。特許文献5に記載されているような環状のデコイも好ましく用いることができる。NF-κBデコイは、コンセンサス配列としてggrhtyyh、特に、ggatttcc又はggactttcを含むものが好ましく、下記実施例では、配列番号1に示す20merのNF-κB二本鎖DNAデコイを用いているが限定されず、それ以外にも例えば配列番号2、配列番号3で示されるNF-κBデコイなどを挙げることもできる。NF-κBデコイは、上記した炎症性腸疾患を包含する炎症性疾患の他、虚血性疾患、アレルギー性疾患、自己免疫疾患および腫瘍をはじめとするあらゆるNF-κBに起因する疾患の、予防、改善および/または治療剤として使用することができる。NF-κBの活性を低減させることにより、これらの疾患の治癒、および/または進行の遅延が得られることは、種々の文献により、当業者には既に公知である。
【0025】
本発明のシームレスカプセルは、例えば、次のようにして製造することができる。まず、生分解性ポリマーを、アセトン/エタノール混合液のような良溶媒(なお、良溶媒に溶解した溶液を便宜的に良溶媒と呼ぶこともある。貧溶媒も同様)に溶解した溶液に、核酸医薬水溶液を添加して核酸医薬含有生分解性ポリマーを調製する。キトサンのようなカチオン性高分子で生分解性ポリマーの表面を被覆する場合には、カチオン性高分子の水溶液を貧溶媒として、良溶媒を貧溶媒に滴下することにより、カチオン性高分子で表面が被覆された核酸医薬含有生分解性ポリマー粒子を得ることができる。
【0026】
上記した、常温で非流動性の疎水性物質を融点以上の温度に加熱して溶融させ、これに上記核酸医薬含有生分解性ポリマー粒子を添加して懸濁し、この懸濁液を同心3重ノズルの最も内側のノズルに充填する。一方、常温で非流動性の疎水性物質を融点以上の温度に加熱して溶融させ、これにレシチンを添加、混合した溶液を同心3重ノズルの2番目のノズルに充填する。さらに、ゼラチン、ペクチンおよびソルビトールの混合物の溶液を同心3重ノズルの最も外側のノズルに充填する。そして、これらのノズルから、冷却され流動している油(貧溶媒として機能)に、同時に各液を滴下することにより、本発明の核酸医薬製剤であるシームレスカプセルを得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。なお、全ての%は、特に断りがない限り重量%を意味する。
【0028】
(1) キトサン被覆デコイ含有乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)の製造
1) 晶析工程
乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)6.25gをアセトン(645mL)/エタノール(250mL)混液に分散し、さらに0.166重量% の配列番号1のNF-κBデコイ水溶液を75mL添加し、良溶媒とした。1%キトサン水溶液を凍結乾燥処理により粉末とした。キトサン粉末2gとクエン酸水和物0.03gを精製水100mLに溶かし、2%キトサン水溶液とした(なお、クエン酸水和物は、キトサンの溶解性向上のために添加)。ポリビニルアルコール(PVA)8.33gならびに2%キトサン水溶液83.7gを精製水900mLに混合し貧溶媒とした(なお、PVAはナノ粒子の安定化剤として添加)。この貧溶媒中に前記良溶媒を40℃、400rpmで攪拌下、一定速度(4mL/分)で滴下し、良溶媒の貧溶媒中への拡散によってPLGAナノ粒子の懸濁液を得た。
【0029】
2) 留去工程
減圧下にてPLGAナノ粒子の懸濁液からアセトン/エタノールを留去した後、得られたNF-κBデコイ含有粒子1.8gを以下の工程に供した。
【0030】
3) 凍結乾燥工程
続いて、マンニトール25gを添加した後、凍結乾燥によってPLGAナノ粒子粉末を得た(なお、マンニトールは、凍結保護剤として粒子同士の凝集防止、生体内でのナノサイズへの再分散性の向上、カプセル化する際の粉末のハンドリング改善のために添加)。PLGAナノ粒子粉末は、目開き106μmの篩で篩過処理したのち、カプセル剤製造に用いた。
【0031】
4) 粒子物性
得られたPLGAナノ粒子の平均粒子径を動的光散乱法(測定装置:MICROTRAC UPA、日機装社製)により測定したところ、235nmであった。また、粒子表面のゼータ電位をゼータ電位計(ZETASIZER Nano-Z,Malvern Instruments社製)を用いて測定したところ、+15mVであった。さらに、ナノ粒子中のNF-κBデコイ含有量を紫外可視吸光度法で定量したところ、4.4%であった。
【0032】
(2) 3層シームレスソフトカプセルの製造
得られたデコイ配合PLGAナノ粒子複合体5gを融点約34℃および融点約43℃のグリセリン脂肪酸エステル準拠食用油脂(ヤシ硬化油)95gを融解した中に分散し計100gとし、これを同心三重ノズルの内側ノズルから、さらにその外側の中間ノズルから融点約43℃のグリセリン脂肪酸エステル準拠食用油脂40gおよびレシチンを10g融解した液50gを、また最外側ノズルから皮膜となるゼラチン35g、ペクチン5g、D-ソルビトール10g、水150gの水溶液200gを冷却され流動している油中に同時に滴下させることにより直径約1.2mmの3層構造のシームレスカプセルを作製し、このカプセルを通気乾燥させた。
【0033】
(3) マウス炎症性腸炎モデルにおける3層シームレスソフトカプセル製剤の効果
1) 方法
動物実験は臨床に近いモデルとしてTNBS(2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸)誘発慢性腸炎マウスを使用した。7週齢のオスC57BL/6Jマウス(約22g)の大腸に炎症を誘発するため25%エタノール50μLにTNBS 4mgを溶解し全量を200μLに調整したTNBS溶液を注腸で大腸内に注入した。その後1週毎に同量のTNBS溶液を大腸内に注入して(7、14、21日目)慢性化の病態を維持した。
【0034】
慢性炎症の完成した7日目から前記3層シームレスソフトカプセルの大腸内投与(経肛門)を開始した。投与回数は週2回(9、13、16、20、23、27日目)で、28日目(4週目)に組織の摘出を行い、有効性の評価は生存率、体重変化、Disease activity index (DAI)、大腸長の変化で行った。なお、DAIはClin Exp Immunol. 2000 Apr;120(1):51-8.に従い、以下の項目の点数を合計しスコアを算出した(体重減少率スコア+便性状スコア+血便スコア、最低0〜最大12)。
【0035】
【表1】
【0036】
慢性腸炎を誘発したマウスは、下記6群に無作為に振り分けた。
1. シャム群(食液の注入により大腸炎の誘発なし)
2. コントロール群(慢性腸炎誘発マウス)
3. 低用量治療群(慢性腸炎誘発後にNF-κBデコイ製剤2.26mg/kg投与)
4. 低用量ダミー群(慢性腸炎誘発後に低用量群と同じ量のダミー製剤を投与)
5. 高用量治療群(慢性腸炎誘発後にNF-κBデコイ製剤11.32mg/kg投与)
6. 高用量ダミー群(慢性腸炎誘発後に高用量群と同じ量のダミー製剤を投与)
【0037】
2) 結果
高用量治療群はコントロール群に比べ、体重減少(
図1)、DAI(
図2)そして大腸長の短縮は軽度であった(
図3)。その結果、デコイ治療群は用量依存的に有意な生存率の改善を認め(
図4)、本製剤の有効性が確認された。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]