【文献】
Database GenBank [online], Accession No. CAA32030, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/930050?report=genbank&log$=prottop&blast_rank=10&RID=5BWS64W1016>, 05-AUG-1995, [retrieved on 15-SEP-2015], DEFINITION: alpha-1 type 2 collagen (714 AA), partial [Homo sapiens].
【文献】
Journal of Biomedical Materials Research Part A,2003年,Vol. 64A, No. 3,pp. 560-569
【文献】
Journal of Materials Science: Materials in Medicine,2010年,Vol. 21, No. 2,pp. 725-729
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるポリペプチドは、分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.30個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.15個以上であり、分子量10kDaあたりのGVMGFP配列の含有数が0.30個未満であるアミノ酸配列を有するポリペプチドである。
【0011】
本発明では、上記構成とすることにより、軟骨細胞が本発明に係るポリペプチドと接触したときに軟骨細胞による細胞外基質、特にグリコサミノグリカン(以下、GAGを称する場合がある。)の産生が促進される。
即ち、GAGの産生を、例えば天然II型コラーゲンよりも促進させるには、RGD配列及びGFPGER配列がそれぞれ上述した所定の含有数以上存在することが必要であり、その一方で、GVMGFP配列は、ポリペプチドの全体において分子量10kDaあたり0又は0.30個を超えないことが必要である。また、本発明では、RGD配列、GFPGER配列及びGVMGFP配列の含有数の上述した関係が満たされることにより、軟骨細胞によるGAG産生が促進される。また、本発明に係るポリペプチドと接触後の軟骨細胞の周辺にはGAGが豊富に存在することとなり、軟骨細胞の優れた増殖又は成長も得られると推測される。ただし、本発明は、これらの理論に拘束されない。
本発明に係るポリペプチドを、以下、「特定ポリペプチド」と称する場合がある。
以下、本発明について説明する。
【0012】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
さらに本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
本発明において、アミノ酸配列におけるアミノ酸残基を、当技術分野で周知の一文字表記(例えば、グリシン残基の場合は「G」)又は三文字表記(例えば、グリシン残基の場合は「Gly」)を用いて表現する場合がある。
本発明において、ポリペプチドのアミノ酸配列に関する「%」は、特に断らない限り、アミノ酸(又はイミノ酸)残基の個数を基準とする。
【0014】
本明細書において、アミノ酸配列の特定のアミノ酸残基について使用される「対応するアミノ酸残基」等の表現は、対比する2つ以上のアミノ酸配列を、当該技術分野で周知のやり方で、挿入、欠失、及び置換を考慮に入れたうえで、同一となるアミノ酸残基が最も多くなるように整列(アライメント)させたときに、基準となるアミノ酸配列における特定のアミノ酸残基の位置に一致する、他方のアミノ酸配列におけるアミノ酸残基を示すことを意味する。
【0015】
本発明において、対比される2種のポリペプチドのアミノ酸配列に関する「同一性」とは、以下の式で計算される値を指す。なお、複数のポリペプチドの対比(アライメント)は、同一となるアミノ酸残基の数が最も多くなるように常法に従って行うものとする。
なお、リコンビナントのポリペプチドについての同一性の判断としては、同一性が最も高くなるように、対比される2種類のポリペプチドを、10アミノ酸残基以上となる任意のフラグメントにそれぞれ分けて、一方のポリペプチドに由来するフラグメントと、対比される他方のポリペプチドに由来するフラグメントの間で対応付けを行い、対応付けされたフラグメント間でアミノ酸配列を比較し、総合して、同一性を求めるものとする。また、繰り返し配列(10アミノ酸残基以上の配列)を複数含むものは、2つ目以上の繰り返しの部分を除いて、対応する部分の同一性(%)を求めるものとする。
同一性(%)
=[(同一となるアミノ酸残基の数)/(アラインメント長)]×100
【0016】
[特定ポリペプチド]
本発明に係る特定ポリペプチドは、分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.30個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.15個以上であり、分子量10kDaあたりのGVMGFP配列の含有数が0.30個未満であるアミノ酸配列を有する。
特定ポリペプチドは、RGD配列、GFPGER配列及びGVBMGFP配列がそれぞれ所定の含有数となるアミノ酸配列を有するので、軟骨細胞による基質の産生を促進させる良好な足場として作用することができる。
【0017】
RGD配列は、インテグリンの結合部位又は細胞接着機能を有する配列(モチーフ)として既知の配列である。特定ポリペプチドにおけるRGD配列の含有数は、特定ポリペプチドの分子量10kDaあたり0.30個以上であり、0.30個未満では、軟骨細胞の基質産生の促進が充分ではない。特定ポリペプチド中のRGD配列の含有数は、0.35個以上としてもよく、0.40個以上としてもよい。また、特定ポリペプチドにおけるRGD配列の含有数の上限は、特定ポリペプチドの全長によって異なるが、例えば、10kDaあたり2.0個以下とすることが好ましく、1.0個以下とすることがより好ましく、0.5以下とすることが更に好ましい。
【0018】
特定ポリペプチド中にRGD配列を複数有する場合には、特定ポリペプチドの全体の長さによっても異なるが、RGD間のアミノ酸残基数が0〜100であることが好ましく、25〜60であることが更に好ましい。また、RGD配列は、このようなアミノ酸残基数の範囲内で、特定ポリペプチド中に不均一に配置されていることが好ましい。
【0019】
GFPGER配列は、インテグリンのα2β1の結合部位又は細胞接着機能を有する配列として既知の配列である。特定ポリペプチドにおけるGFPGER配列の含有数は、特定ポリペプチドの分子量10kDaあたり0.15個以上であり、0.15個未満では、軟骨細胞の基質産生の促進が充分ではない。特定ポリペプチド中のGFPGER配列の含有数は、0.20個以上としてもよく、0.30個以上としてもよい。また、特定ポリペプチドにおけるGFPGER配列の含有数の上限は、特定ポリペプチドの全長によって異なるが、例えば、10kDaあたり1.0個以下とすることが好ましく、0.5個以下とすることがより好ましい。
GFPGER配列における「P」(プロリン残基)は、オキシプロリン残基であってもよい。
【0020】
GVMGFP配列は、繊維性コラーゲンに共通して見いだされる配列であり、DDR−2(Discoidin domain receptor-2)の認識部位として既知の配列である。また、GVMGFP配列は細胞の増殖に関与していることも知られている。特定ポリペプチドにおけるGVMGFP配列の含有数は、特定ポリペプチドの分子量10kDaあたり0.30個未満であり、0.30個以上では、軟骨細胞の基質産生の促進が充分ではない。特定ポリペプチド中のGVMGFP配列の含有数は、存在する場合、当該ポリペプチドの分子量10kDaあたり、0.28個以下としてもよく、0.25個以下としてもよい。また特定ポリペプチド中、GVMGFP配列の含有数の下限値は、当該ポリペプチドの分子量10kDaあたり、例えば、0.2個以上であってもよく、0個であってもよい。
【0021】
また、基質産生促進の点で、GFPGER配列及びGVMGFP配列の含有数の合計に対するRGD配列の含有数の比、即ち、[RGD配列の含有数/(GFPGER配列及びGVMGFP配列の含有数の合計)]が、0.8〜1.2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
【0022】
RGD配列、GFPGER配列、及びGVMGFP配列は、それぞれの前述した所定の割合でポリペプチド中に存在していれば、ポリペプチド全体中での互いの配置関係について特に制限はない。例えば、GVMGFP配列は、GFPGER配列よりもN末端側に配置されていてもよく、C末端側に配置されていてもよい。RGD配列は、複数存在する場合に、GVMGFP配列とポリペプチドのC末端との間にすべてのRGD配列が配置されていてもよく、GFPGER配列が複数存在する場合に、最もN末端側のGFPGER配列と最もC末端側のGFPGER配列との間にすべてのRGD配列が配置されていてもよく、最もN末端側のGFPGER配列よりもN末端側又は最もC末端側のGFPGER配列よりもC末端側に少なくとも1つのRGD配列が配置されていてもよい。
【0023】
特定ポリペプチドは、RGD配列、GFPGER配列及びGVMGFP配列に加えて、他の既知の配列(モチーフ)を含むことができる。
例えば、特定ポリペプチドは、Gly−X−Yで示される配列の繰り返しを有していてもよい。Gly−X−Yが複数個存在する場合、複数個のGly−X−Yは、それぞれ同一であってもよく、異なってもよい。Gly−X−YにおいてGlyはグリシン残基、X及びYは、グリシン残基以外の任意のアミノ酸残基を表す。X及びYとしては、イミノ酸残基、即ちプロリン残基又はオキシプロリン残基が多く含まれることが好ましい。このようなイミノ酸残基の含有率は、特定ポリペプチド全体の10%〜45%を占めることが好ましい。特定ポリペプチド中のGly−X−Yの含有率としては、全体の80%以上であることが好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
【0024】
特定ポリペプチドは、生体親和性の点で、他の細胞接着シグナルを含んでいてもよい。このような細胞接着シグナルとしては、例えば、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、及びHAV配列の各配列を挙げることができ、好ましくは、YIGSR配列、PDSGR配列、LGTIPG配列、IKVAV配列及びHAV配列を挙げることができる。他の細胞接着シグナルは1種単独又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
特定ポリペプチドは、上述した3種の配列を所定の割合で含むものであれば、その全長のアミノ酸残基数には制限はない。特定ポリペプチドの全長のアミノ酸残基数としては、300〜1400であることが好ましく、400〜1000であることがより好ましく、500〜800であることが更に好ましい。アミノ酸残基数が300以上であれば軟骨細胞による基質産生促進効果がより確実に発揮される傾向があり、1400以下であれば、ポリペプチドの水への溶解性を大きく損なうことがなく、取り扱いに優れる傾向がある。
【0026】
特定ポリペプチドの分子量は、30kDa〜80kDaであることが好ましく、40kDa〜70kDaであることがより好ましい。分子量を30kD以上とすることにより、軟骨細胞による基質産生促進効果がより確実に発揮される傾向があり、80kDa以下とすることにより、ポリペプチドの水溶性を大きく損なうことがなく、取り扱いにより優れる傾向がある。なお、本発明において、特定ポリペプチドの分子量は、常法に従って、エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)(Waters製Q−TOF Premier機)によって測定した値とする。
【0027】
特定ポリペプチドは、RGD配列、GFPGER配列及びGVMGFP配列の含有数がそれぞれ所定の含有数となるアミノ酸配列を有するものであれば、その他の部分のアミノ酸配列については特に制限はない。軟骨細胞の増殖促進等の観点から、天然コラーゲンのアミノ酸配列に対する同一性が、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、98%以上であることが更により好ましい。
【0028】
なお、同一性の基準となる天然コラーゲンとしては、I型、II型、III型、IV型及びV型が挙げられる。軟骨基質産生促進の観点から、好ましくは、天然ヒトII型コラーゲンのアミノ酸配列に対する同一性が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、98%以上であることが更により好ましいとすることができる。
また、ここでの同一性の基準となる天然コラーゲンの由来としては、好ましくは、ヒト、ウマ、ブタ、マウス、ラット等を挙げることができ、ヒトであることがより好ましい。
同一性の基準となる天然コラーゲンとしては、天然ヒトII型コラーゲンであることが更に好ましい。例えば、天然ヒトII型コラーゲンの配列は、以下の配列番号4に示すアミノ酸配列を有するものとして既知である。天然ヒトII型コラーゲンのアミノ酸配列を表1に示す。表1においてRGD配列、GFPGER配列及びGVMGFP配列については太字で示す
【0030】
特定ポリペプチドの等電点(pI)については、特に制限はなく、例えば10.0以下とすることができ、軟骨細胞の増殖促進の観点から、9.2以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましく、6.0以下であることが更に好ましい。等電点の下限値は、例えば、5.0以上とすることができる。ポリペプチドのpIの調整方法は、常法によって行うことができ、例えば、ポリペプチドのアミノ酸配列におけるアミノ酸残基として、中性アミノ酸残基(例えば、グリシン残基、アラニン残基等)又は酸性アミノ酸残基(グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基)の含有率を上げる、あるいは、塩基性アミノ酸残基(リジン残基、アルギニン残基、ヒスチジン残基)の含有率を下げることにより、pIを下げることができる。なお、本発明において、特定ポリペプチドのpIは、常法に従って、等電点電気泳動法によって測定した値とする。
【0031】
特定ポリペプチドの抗原性の観点から、セリン残基又はスレオニン残基を他のアミノ残基に置換することが好ましい。セリン残基又はスレオニン残基と置換される他のアミノ酸残基としては、リジン残基を用いることができる。リジン残基をセリン残基又はスレオニン残基に代えて用いることにより、例えば、特定ポリペプチドにアミノ基が導入されて、架橋点を増やすことができる。これにより、ポリペプチドの安定性が向上して分解しにくくなり、製剤適正が高くなる傾向がある。
【0032】
特定ポリペプチドは、抗原性の低減、大量製造、安全性などの観点から、リコンビナントペプチドであることが好ましい。本明細書において、「リコンビナントペプチド」とは、大腸菌、酵母、培養細胞などを宿主として、遺伝子組換え技術を用いて人工的に作製したポリペプチドを意味する。
【0033】
特定ポリペプチドは、製剤適性の観点から、水への溶解性が2質量%以上であることが好ましい。本発明における水への溶解性は、常圧下かつ25℃の水に対する溶解性を意味する。
【0034】
特定ポリペプチドは、軟骨細胞における基質産生促進能の観点から、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1) 分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.30個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.15個以上であり、分子量10kDaあたりのGVMGFP配列の含有数が0.30個未満であるアミノ酸配列を有し、分子量が30kDa〜80kDaであり、pIが5.0〜10.0であるポリペプチド:
(2)分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.30個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.15個以上であり、分子量10kDaあたりのGVMGFP配列の含有数が0.30個未満であり、300〜1400のアミノ酸残基数からなるアミノ酸配列を有し、pIが5.0〜10.0であるポリペプチド:
(3)分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.30個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.15個以上であり、GVMGFP配列を含まないアミノ酸配列を有し、分子量が30kDa〜80kDaであり、pIが5.0〜10.0であるポリペプチド:
(4) 分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.35個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.20個以上であり、分子量10kDaあたりのGVMGFP配列の含有数が0.30個未満であるアミノ酸配列を有し、分子量が40kDa〜70kDaであり、pIが5.0〜10.0であるポリペプチド。
(5) 分子量10kDaあたりのRGD配列の含有数が0.35個以上であり、分子量10kDaあたりのGFPGER配列の含有数が0.20個以上であり、分子量10kDaあたりのGVMGFP配列の含有数が0.30個未満であり、300〜1400のアミノ酸残基数からなるアミノ酸配列を有し、pIが5.0〜10.0であるポリペプチド。
【0035】
本発明における特定ポリペプチドは、GAGの産生促進能の高さから、下記配列番号1〜3に示すポリペプチドであることが好ましい。各配列においてRGD配列、GFPGER配列及びGVMGFP配列はそれぞれ太字で示す。なお、配列番号1〜3では、天然ヒトII型コラーゲンのアミノ酸配列と対比した場合にすべてのセリン残基又はスレオニン残基に対応する塩基は、グリシン残基、アラニン残基又はリジン残基等に置換されている。
【0037】
なお、本発明のポリペプチドは、好ましくは、(A)配列番号1〜3に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド、(B)配列番号1〜3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有し、かつGAG産生促進能を有するポリペプチド、又は、(C)配列番号1〜3に示すアミノ酸配列との配列同一性が80%以上のアミノ酸配列を有し、かつGAG産生促進能を有するポリペプチドである。(C)のポリペプチドは、より好ましくは、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列との配列同一性が90%以上のアミノ酸配列を有し、かつGAG産生促進能を有するポリペプチドであり、更に好ましくは、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列との配列同一性が95%以上のアミノ酸配列を有し、かつGAG産生促進能を有するポリペプチドである。
【0038】
また、本発明のポリペプチドは、好ましくは、(A1)配列番号1〜3に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド、(B1)配列番号1〜3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつGAG産生促進能を有するポリペプチド、(C1)配列番号1〜3に示すアミノ酸配列との配列同一性が80%以上のアミノ酸配列からなり、かつGAG産生促進能を有するポリペプチドである。(C1)のポリペプチドは、より好ましくは、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列との配列同一性が90%以上のアミノ酸配列からなり、かつGAG産生促進能を有するポリペプチドであり、更に好ましくは、配列番号1〜3に示すアミノ酸配列との配列同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、かつGAG産生促進能を有するポリペプチドである。
ここで、(B)のポリペプチドおよび(B1)のポリペプチドのアミノ酸配列において、欠失、置換若しくは付加されるアミノ酸残基数としては、1個又は数個であればよく、特定ポリペプチドの総アミノ酸残基数によって異なるが、例えば、2個〜15個、好ましくは2個〜5個とすることができる。
【0039】
特定ポリペプチドは、当業者に公知の遺伝子組換え技術によって製造することができ、例えば、EP0926543A1、EP1014176A2、US6992172、WO01/34646、WO2004/85473、WO2008/103041等記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、目的とするポリペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子を取得し、これを発現ベクターに組み込んで、組み換え発現ベクターを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換体を作製する。得られた形質転換体を適当な培地で培養することにより、目的とするポリペプチドが産生されるので、培養物から産生されたポリペプチドを回収することにより、本発明にかかる特定ポリペプチドを得ることができる。
【0040】
GAGの産生促進能の評価は、軟骨細胞にポリペプチドを接触させて所定時間後にGAGの産生を測定することにより評価することができる。
具体的な評価方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
【0041】
対象となるポリペプチドを、所定量、例えば、0μg/ml、0.2μg/ml、及び20μg/mlとなるように、注射用水(ポリペプチド溶解用)に溶解させて試料液を調製する。得られた各試料液を、24ウェルプレート(24 well non-treated plate, BD社)の各ウェルに625μlずつ添加し、25℃で風乾させてウェル内に固定し、試験用プレートを準備する。
試験用プレートに、日本白色家兎軟骨細胞を、20000cell/wellとなるように播種し、37℃、5%(v/v)CO
2という条件で培養を行い、2時間、1日、2日、3日及び7日に培養上清を回収し、培養上清中のGAGの定量を行う。
【0042】
GAGの定量は、「硫酸化グリコサミノグリカン定量キット」(生化学バイオビジネス株式会社)を用いて行う。
定量は、試験用プレートのウェル内の培地を捨て、1ウェルあたり1mlのリン酸緩衝食塩水(PBS)で1回洗浄を行う。洗浄後のウェルに対して、キットに付属のプロテアーゼ液150μlを添加し、プレートシェーカーにて攪拌し、その後、50℃、2時間処理し、さらに100℃、10分処理を行う。各試料50μlに対して、キットに付属されている反応緩衝液IIを50μl添加、混合し、さらに、150μlのDMMB(ジメチルメチレンブルー)色素液を添加する。GAG標準液についても同様の操作を行う。5分間の反応後に、プレートリーダーにて、波長530nmでの吸光度を測定し、GAGの定量を行う。同様の操作を天然II型コラーゲンについても行う。対象となるポリペプチドを用いた場合のGAGの量と、天然II型コラーゲンを用いた場合のGAGの量とを比較し、天然II型コラーゲンを用いた場合のGAGの量よりも多い場合に、GAG産生促進能があると評価する。なお、GAGの定量には、上記の定量キットと同等品を使用することができ、例えば、Blyscan Glycosaminoglycan Assay Kit (120 assays)(Biocolor社、B1000)を同等品として挙げることができる。
【0043】
[足場組成物]
本発明に係る足場組成物は、上述した特定ポリペプチドを含むものである。上述したように足場組成物に含まれる特定ポリペプチドは、軟骨細胞と接触することにより軟骨細胞による基質産生を促進することができるので、足場組成物は、軟骨細胞による基質産生を促進することができる。
足場組成物は、特定ポリペプチドに加えて、基質産生を促進することが既知の他の因子等を含んでもよい。このような他の因子としては、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、副甲状腺ホルモン、トランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)、インスリン様増殖因子I(IGF−I)、インスリン様増殖因子II(IGF−II)等を挙げることができる。他の因子は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
[GAG産生促進用組成物]
本発明に係るGAG産生促進用組成物は、上述した特定ポリペプチドを含むものである。上述したように、特定ポリペプチドは、細胞と接触することにより細胞によるGAGの産生を促進することができるため、GAGの産生促進が求められる用途にGAG産生促進用組成物として好適に用いることができる。
本発明に係るGAG産生促進用組成物によりGAGの産生が促進されうる細胞としては、軟骨細胞、血管内皮細胞、角膜内皮細胞等を挙げることができる。なかでも、軟骨細胞に対してGAG産生促進用組成物を用いることが好ましい。
【0045】
GAG産生促進用組成物は、特定ポリペプチドに加えて、基質産生を促進することが既知の他の因子等を含んでもよい。このような他の因子としては、bFGF、副甲状腺ホルモン、TGFβ、IGF−I、IGF−II等を挙げることができる。他の因子は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
[軟骨組織修復用組成物及び軟骨細胞培養用組成物]
本発明に係る特定ポリペプチド、足場組成物及びGAG産生促進用組成物は、上述したように、特定の細胞と接触させることにより当該細胞による所定の基質の産生を促進させるため、種々の用途への適用が可能である。このような用途としては、例えば、組織、例えば軟骨の損傷の修復又は再生が挙げられる。
【0047】
即ち、本発明では、特定ポリペプチドを含む軟骨組織修復用組成物及び軟骨細胞培養用組成物も包含する。この場合の軟骨としては、関節軟骨(膝、肩、又は股)、脊椎軟骨、耳介軟骨、鼻中隔軟骨等を挙げることができる。なかでも、特定ポリペプチドを含む軟骨組織修復用組成物及び軟骨細胞培養用組成物は、関節における軟骨の損傷修復又は再生用の組成物として用いられることが特に好ましい。これにより、軟骨細胞を増殖させ、又は軟骨組織を良好に修復することが可能となる。また、本発明は、軟骨組織修復用組成物を、軟骨の損傷部位に投与することを含む軟骨の損傷の修復又は再生方法も包含する。
【0048】
[その他用途]
更には、本発明は、特定基質産生ポリペプチドの、足場組成物、軟骨組織修復用組成物、軟骨細胞培養用組成物、又は、グリコサミノグリカン産生促進用組成物の各製造における使用も包含する。
また、GAG産生能を有する細胞、例えば軟骨細胞の機能、性状を解析するため、又はこれらの細胞の機能又は性状を利用した試験研究を行うために、GAG産生促進ポリペプチド、足場組成物及びGAG産生促進用組成物を使用することもできる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
【0050】
[実施例1〜3]
配列番号1〜配列番号3に示すアミノ酸配列を有するGAG産生促進ポリペプチドRCP#4〜RCP#6を製造するために、配列番号1〜配列番号3のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するポリヌクレオチド(配列番号5〜配列番号7)を、常法によって合成した。得られた各ポリヌクレオチドをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、得られた増幅産物を、In−fusion HD Cloning Kit(Clontech社)を用いて、タンパク質を分泌するためのα−factorシグナルと選別用のゼオシン耐性遺伝子を含むプラスミドpPICZαA(Invitrogen社)にそれぞれ導入した。
得られたプラスミドをエレクトロポレーション法により、Pichia Pastoris細胞に形質転換し、抗生物質ゼオシンに対する耐性により、形質転換した酵母株を選択した。
【0051】
導入したポリヌクレオチドに基づくポリペプチドの製造は、EP−A−0926543、EP−A−1014176及びWO01/34646に開示された方法に準拠して行った。
具体的には、上記で得られた酵母株を、YNB(Yeast Nitrogen Base w/o amino acids)培地(BD社)を用いて増殖させた後、3Lのジャーファーメンター(丸菱バイオエンジ社)で培養を行った。具体的には、はじめに炭素源としてグリセロールを含む培地で酵母株を増殖させ、グリセロールの添加の終了1時間前から、炭素源のメタノールを加えて培養する。96時間培養後に、培養上清を回収し、回収後の培養上清を用いてSDS−PAGEを行うことで、目的とするポリペプチドの発現を確認した。
【0052】
目的とするポリペプチドの発現が確認された培養上清から、Capto−S;陽イオン交換クロマトグラフィー(GEヘルスケア)とCapto−Q;陰イオン交換クロマトグラフィー(GEヘルスケア)を使用し、AKTA explorer(GEヘルスケア)により精製を行い、目的とするポリペプチドRCP#4〜RCP#6を得た。
【0053】
各ポリペプチドの性状を表4に示す。なお、等電点(pI)は、計算値である。分子量は、ESI−MS(Waters製Q-TOF Premier機)により測定した。また各ポリペプチドの水への溶解性は、常圧下かつ25℃において2質量%以上であった。
表4中、リジン量に関する「normal」とは、天然ヒ
トII型コラーゲンのアミノ酸配列と対比したときに対応するセリン残基又はスレオニン残基をグリシン残基又はアラニン残基と置換していることを意味し、「high」とは、天然ヒトII型コラーゲンのアミノ酸配列と対比したときに対応するセリン残基又はスレオニン残基をリジン残基に置換していることを意味する。
同一性は、天然ヒトII型コラーゲンのアミノ酸配列に対する同一性を示す。また表4中「*」は、繰り返し配列を含むものは、繰り返しの部分を除いた残りの配列について、対応する部分の同一性(%)を求めたものであることを意味する。
【0054】
[比較例1〜4]
比較用のポリペプチドとして、ポリペプチドRCP#7、RCP#2、R−IIコラーゲン及び天然ヒトII型コラーゲンを準備した(比較例1〜4)。
表3及び表4に示すように、ポリペプチドRCP#7(配列番号8)は、GVMGFP配列が10kDaあたり0.3個以上となるアミノ酸配列を有する。また表3及び表4に示すように、ポリペプチドRCP#2(配列番号9)は、GFPGER配列を含まないアミノ酸配列を有する。R−IIコラーゲン及び天然ヒトII型コラーゲン(配列番号4)は、GFPGER配列が10kDaあたり0.15個以下となるアミノ酸配列を有する。
【0055】
ポリペプチドRCP#7及びRCP#2は、それぞれ、対応するポリヌクレオチド(配列番号10及び11)を用いた以外は、実施例1〜3と同様にして得た。
R−IIコラーゲンは、配列番号4に示すアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するポリヌクレオチドを準備し、実施例1〜3と同様にして得た。ただし、セリン残基とスレオニン残基は他のアミノ酸残基に変更しておらず、天然のヒトII型コラーゲンとの同一性は100%である。
【0056】
各ポリペプチドの性状を表3及び表4に示す。表4中「R−II」はR−IIコラーゲンを意味する。また表4中「*」は、繰り返し配列を含むものは、繰り返しの部分を除いた残りの配列について、対応する部分の同一性(%)を求めたものであることを意味する。表4中「天然II型コラーゲン」は、天然ヒトII型コラーゲンであることを意味する。
【0057】
【表3】
【0058】
<評価>
上記で得られた各ポリペプチドの軟骨細胞増殖能及び細胞外基質産生能について以下のように評価した。また、評価に先立ち、試験用のプレートを以下のようにして作製した。
【0059】
(1) GAG産生促進ポリペプチドコーティングプレートの作製
本発明の実施例に相当するRCP#4〜#6と、本発明の比較例に相当するRCP#7、RCP#2、R−IIコラーゲン及び天然ヒトII型コラーゲンの各ポリペプチドを、0.2μg/ml、2μg/ml、及び20μg/mlとなるように、RCP#4〜#7、#2、R−IIコラーゲン溶解用液(注射用水)又は、天然ヒトII型コラーゲン溶解用液(蒸留水を1MのHClを用いてpH3に調整した酸性液)にそれぞれ溶解させて試料液を調製した。得られた各試料液を、24ウェルプレート(24 well non-treated plate, BD社)の各ウェルに625μlずつ添加し、25℃で風乾させてウェル内に固定し、試験用プレートを作製した。
【0060】
(2) 軟骨細胞増殖評価
軟骨細胞増殖評価には、株式会社プライマリーセルから購入した軟骨細胞培養キット(コード:CHC02)を使用した。
上記で作製した各試験用プレートに、キットに含まれる日本白色家兎軟骨細胞を、20000cell/ウェルとなるように播種し、37℃、5%(v/v)CO
2という条件で培養を行った。培養には、キット付属の培地「分化用メディウム」(RPMI1640、血清、アスコルビン酸、その他)を用いた。培養開始後2時間、1日、2日、3日、及び7日に、ウェル内の軟骨細胞を回収し、軟骨細胞数の定量を行った。
具体的には、各試験用プレートに入っている培地を捨て、1ウェルあたり1mlのPBSで1回洗浄した後、150μlのトリプシン−EDTAを添加し、1分間静置することにより、試験用プレートに接着した細胞をはがした。ウェル内に、上述した培地を150μl加え、細胞懸濁液を作製し、トリパンブルー液を加え、血球計算盤にて生細胞数をカウントした。得られた生細胞数に基づいて軟骨細胞増殖促進能を、以下のように評価した。結果を表4に示す。なお、表4中、軟骨細胞増殖評価欄の「−」は、未実施であることを意味する。
S:細胞数が、天然ヒトII型コラーゲンを添加して培養した場合の細胞数に対して125%を超える
A:細胞数が、天然ヒトII型コラーゲンを添加した培養した場合の細胞数に対して100%を超え125%以下
B:細胞数が、天然ヒトII型コラーゲンを添加した培養した場合の細胞数に対して75%を超え、100%以下
C:細胞数が、天然ヒトII型コラーゲンを添加した培養した場合の細胞数に対して75%以下
【0061】
(3)軟骨基質産生評価
上記(2)と同様に、上記(1)で作製した各試験用プレートにて日本白色家兎軟骨細胞と共に、各ポリペプチドを培養し、培養開始後、2時間、1日、2日、3日、及び7日に、基質であるGAGの定量を行った。GAGの定量は、「硫酸化グリコサミノグリカン定量キット」(生化学バイオビジネス株式会社)を用いて行った。
具体的には、試験用プレートのウェル内の培地を捨て、1ウェルあたり1mlのPBSで1回洗浄を行った後、キットに付属のプロテアーゼ液150μlを添加し、プレートシェーカーにて攪拌した。次いで、50℃、2時間反応させ、更に100℃、10分反応させた。各試料50μlに対して、キットに付属されている反応緩衝液IIを、50μl添加、混合し、更に、150μlのDMMB色素液を添加した。キットに付属のGAG標準液についても同様の操作を行った。それぞれ5分間の反応後に、プレートリーダー(Sunrise(商品名)サンライズ レインボーサーモRC[型番]、TECAN社製)を用いて、波長530nmでの吸光度を測定し、GAGの定量を行った。結果を
図1に示す。またGAG量に基づいて軟骨基質産生促進能を、以下のように評価した。結果を表4に示す。
S:GAG産生量が、天然ヒトII型コラーゲンを添加して培養した場合のGAG産生量の125%を超える
A:GAG産生量が、天然ヒトII型コラーゲンを添加して培養した場合のGAG産生量の100%を超え、125%以下
B:GAG産生量が、天然ヒトII型コラーゲンを添加して培養した場合のGAG産生量の75%を超え、100%以下
C:GAG産生量が、天然ヒトII型コラーゲンを添加して培養した場合のGAG産生量の75%以下
【0062】
【表4】
【0063】
表4及び
図1に示されるように、本発明の実施例であるRCP#4〜#6のポリペプチドはいずれも、天然のヒトII型コラーゲンよりも、有意にGAGの産生を促進させていることがわかった。また、本発明の実施例であるRCP#4〜#6のポリペプチドはいずれも、比較例1〜3となる各ポリペプチドと同等又はそれよりも、軟骨細胞を増殖させることができる。
このことから、RCP#4〜#6のポリペプチドは、軟骨基質の産生促進に優れ、軟骨細胞の増殖促進にも優れた足場組成物であることがわかった。
また、pIが6.0以下の場合には、細胞増殖能が更に向上することがわかった(RCP#4参照)。
更に、RCP#4〜#6のポリペプチドは、グリコサミノグリカンの産生に優れ、軟骨細胞を増殖させることから、軟骨組織修復用組成物、軟骨細胞培養用組成物及びグリコサミノグリカン産生促進用組成物として使用できることもわかった。
【0064】
従って、本発明によれば、軟骨細胞の細胞外基質産生促進に優れた足場組成物、軟骨組織修復用組成物、グリコサミノグリカン産生促進用組成物、軟骨細胞培養用組成物及びそのための材料を提供することができる。
【0065】
2012年9月26日に出願された日本国特許出願第2012−213110号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。