【文献】
FETT Wissenschaft Technologie (Fat Science Technology),1988年,Vol.90, No.6,p.216-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
脱皮率50%以上の菜種を搾油及び精製して得られる菜種油(菜種胚芽分を38重量%以上含有する菜種胚芽を主成分とする原料から得られる菜種胚芽油を除く)を15〜85重量%含み、さらに、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂をその合計含有量で15〜85重量%含む油脂組成物であって、前記油脂組成物で食材を加熱調理して得られる食品の油臭さが未脱皮の菜種から得られる精製油をブレンドした対照油脂組成物と対比して低減される前記油脂組成物。
前記菜種油を30〜70重量%含み、さらに、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の前記油脂の合計含有量が、30〜70重量%である、請求項1に記載の油脂組成物。
脱皮した菜種から得られる精製油をブレンドした油脂組成物で食材を加熱調理して得られる食品の油臭さが未脱皮の菜種から得られる精製油をブレンドした対照油脂組成物と対比して低減される前記油脂組成物の製造方法であって、
脱皮率50%以上の菜種を搾油及び精製して菜種油(菜種胚芽分を38重量%以上含有する菜種胚芽を主成分とする原料から得られる菜種胚芽油を除く)を得る工程、及び
前記工程で得られた菜種油を油脂組成物に対して15〜85重量%と、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を油脂組成物に対して15〜85重量%とをブレンドする工程、
を含む、前記製造方法。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、食材を油脂組成物で加熱調理して得られる食品の油臭さを低減可能な油脂組成物、及びその油脂組成物で加熱調理された油臭さの低減された食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を鋭意検討した結果、以下の発明によれば課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、脱皮率50%以上の菜種を搾油及び精製して得られる菜種油を15〜80重量%含む、油脂組成物を提供する。本明細書において、「油臭さ」とは、加熱調理食品の油の臭いの強さを意味する。
【0008】
脱皮菜種に関連する技術として、特開2012−116877(植物油および植物粕の製造方法)は、菜種種子を菜種皮と脱皮菜種種子とに分離した後の該菜種皮を圧搾・抽出処理にかけて得られる脱脂菜種皮を、前記脱皮菜種種子と配合し、この混合物を圧搾・抽出にかけて得られる植物油を開示する。この発明は、菜種皮に含まれる食用油に適さない成分を除去した脱脂菜種皮を使用することで、圧搾・抽出油に溶け込む食用油に適さない成分の含有量が削減すること、その結果として、精製工程の簡素化とコストの削減を可能とする。前記特許文献の発明は、脱皮菜種を用いて植物油を得ているものの、特定の脱皮率を有する脱皮菜種の精製油を特定範囲の割合で他の食用油と配合することを特徴とする本発明の油脂組成物と相違する。そして、本発明の油脂組成物で食材を加熱調理して得られる食品の油臭さが低減することは、前記特許文献に記載の発明から全く予測できない。
【0009】
本発明の油脂組成物は、さらに、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂を含むことが好ましい。
【0010】
大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種の油脂の合計含有量は、好ましくは15〜85重量%、より好ましくは30〜70重量%である。
【0011】
本発明は、また、上記油脂組成物を用いて食材を加熱調理することを含む、食材を油脂組成物で加熱調理して得られる食品の油臭さを低減する方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、上記油脂組成物を使用して加熱調理された食品を提供する。
【発明の効果】
【0013】
脱皮率50%以上の菜種を搾油及び精製して得られる菜種油(以下、「脱皮菜種精製油」ともいう)を他の食用油と配合することを特徴とする本発明の油脂組成物によれば、香料やフレーバーオイルが不在でも、加熱調理品の油臭さを低減することができる。後述の比較例1〜3に示すように、脱皮菜種精製油からなる油脂や脱皮菜種精製油の配合率の低い油脂組成物では、油臭さはあまり改善されない。本発明のように脱皮菜種精製油を特定の配合率で他の食用油と配合すると効果が得られることは、全く意外なことである。
【0014】
本発明の油脂組成物を用いて食材を加熱調理すると、調理時の油特有の匂いたちも減少させることができる。
【0015】
本発明の油脂組成物で食材を油脂組成物で加熱調理して得られる食品は、油臭さが低減され、食味が向上する。本発明の油脂組成物の特徴を利用して、さまざまな食材への使用が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の油脂組成物の一実施の形態を説明する。本発明の油脂組成物は、脱皮率50%以上の菜種を搾油及び精製して得られる菜種油(以下、成分(A)という)を含む。
【0017】
成分(A)の原料となる菜種は、特に制限されない。菜種の例には、Brassica campestris(和種)、Brassica napus(西洋種)の他に、キャノーラ品種、キラリボシ、ななしきぶ等のエルカ酸及びグルコシノレート含量の低い品種が含まれる。
【0018】
前記脱皮率は、式(1)により得られる。
【数1】
【0019】
上記菜種の脱皮率の下限は、50%以上であり、好ましくは70%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。脱皮率が50%未満であると、本発明の効果が得られない。脱皮率の上限は、特にないが、通常100%以下であり、好ましくは99%以下である。
【0020】
菜種は、粒径1〜2mm程度の球体である。菜種の約10〜20重量%を種皮が占めている。菜種を脱皮する方法は、特に制限されない。例えばフレーキングローラー(圧扁機)、エントレーター型粉砕機、ハンマーミル、ボールミル、ピンミル、ローターミル、カッティングミル、遠心粉砕機等を用いて、菜種を実と皮とに剥皮する。後で実と皮との分離が困難にならないように、微細に粉砕しすぎないことが好ましい。
【0021】
剥離した菜種は、実と皮との混合物である。実と皮との分離は、風選、比重分離、篩分け等の方法で行なうことができる。
【0022】
脱皮方法の一例を具体的に示す。
(工程1)
菜種の前処理として、菜種を風力選別機にかけて、菜種原料から、茎や鞘部分や小石等の異物を除去する。
【0023】
(工程2)
茎と鞘を除いた菜種をフレーキングローラーで圧扁して、種子と皮とを剥離させる。フレーキングローラーのクリアランスは、通常、0.3〜1.1mmでよい。さらに衝撃破砕機で菜種を粉砕して、実と皮との分離を促進する。
【0024】
(工程3)
粉砕された菜種原料を、篩(例えば0.6mm正方網)による篩い分けにより篩上画分と篩下画分を得る。
【0025】
篩上画分は、工程2の原料に戻す。こうして得られる篩下画分を脱皮菜種とし、脱皮率は、通常、90%程度となる。
【0026】
90%よりも緩和された脱皮率を有する脱皮菜種を得るためには、篩の目開きを調整する、上記範囲の脱皮菜種と未脱皮菜種を適当な脱皮率になるように配合する等の方法を採用すればよい。
【0027】
上記脱皮菜種を圧搾抽出及び/又は溶剤抽出することにより粗油を得、その粗油を精製することにより、脱皮菜種精製油を製造することができる。
【0028】
圧搾抽出では、脱皮菜種からなる油糧原料を圧扁し、熱処理(クッキング)後、圧搾機(連続式エキスペラーや不連続式水圧機等)で高圧を加えて細胞中の油分を搾り取る。溶剤抽出では、脱皮菜種からなる油糧原料を圧扁もしくは圧搾抽出後の残渣に溶剤を接触させ、油分を溶剤溶液として抽出し、得られる溶液から溶剤を留去して油分を得る。溶剤にはn−ヘキサン等を使用する。
【0029】
精製手段としては、植物油の一般的な精製工程を適用することができる。すなわち、粗油→脱ガム油→脱酸油→脱色油→脱臭油(精製油)の順に不純物が除かれる。それぞれの間に、「脱ガム処理」、「脱酸処理」、「脱色処理」、及び「脱臭処理」の操作が行われる。
【0030】
脱ガム処理は、油分中に含まれるリン脂質を主成分とするガム質を水和除去する工程である。具体的には、ガム質を水和するのに必要量の水(例えば、0.5〜5重量%)の水を油に加え、50〜90℃の温度で攪拌して、ガム質を水和膨潤させる。常温へ冷却後、凝集したガム質成分を遠心分離機等で分離する。
【0031】
脱酸処理は、アルカリ水で処理することにより、油分中に含まれる遊離脂肪酸をセッケン分として除去する工程である。具体的には、脱ガム油を、通常、40〜110℃に加熱し、0.01〜2.0重量%の酸(リン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等)を添加して、撹拌する。その後、アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等)を添加し、油と油滓(アルカリフーツ)とに分離される。遠心分離により油滓を除去した後、温水による洗浄を行い油中のセッケン分を除去する。
【0032】
脱色処理は、油分中に含まれる色素を吸着剤(活性白土、酸性白土、活性炭等)に吸着させて除去する工程である。具体的には、脱酸油に吸着剤を添加後、常圧又は減圧下、通常、40〜100℃の温度で10〜90分間攪拌する。その後、脱色油をろ過手段(加圧、減圧又は吸引濾過等)でろ過する。
【0033】
脱臭処理は、減圧下で水蒸気蒸留することによって油分中に含まれる有臭成分を除去する工程である。具体的には、反応容器内の脱色油へ水蒸気を連続的に吹き込み、そこから発生する臭気成分を含んだ水蒸気を除去する。
【0034】
成分(A)は、脱皮率50%以上の菜種を搾油及び精製して得られる菜種油であるが、脱皮率の高い菜種から搾油及び精製して得られる菜種油と脱皮率の低いあるいは未脱皮の菜種から搾油及び精製して得られる菜種油を混合して、脱皮率50%以上となるようにしてもよい。
【0035】
本発明の組成物において、成分(A)の含有量は、15〜85重量%である必要がある。成分(A)の含有量が15重量%より低いと、油脂組成物で加熱調理して得られる食品の油臭さを低減するという効果が得られない。逆に、含有量が85重量%より高くても、本発明の効果は得られない。例えば、後述する比較例1に示すように、成分(A)のみからなる油脂を用いて加熱調理した食品の油臭さは、未脱皮菜種精製油を用いた対照と同程度となる。成分(A)の含有量は、好ましくは18〜75重量%であり、より好ましくは、20〜70重量%であり、さらに好ましくは28〜70重量%であり、最も好ましくは30〜70重量%である。
【0036】
本発明の組成物は、成分(A)のほかに、成分(A)以外の食用油脂(以下、成分(B)という)を含む。成分(B)は、食用油として用いられてい
る大豆油、コーン油、パーム油
、並びにこれらを分別、水素添加、エステル交換等の処理を施した加工油脂が挙げられる。この食用油脂は、一種単独でも、二種類以上のブレンドでもよい。なお、菜種油の加工油脂は、成分(B)に含まれる。成分(B)は、好ましくは、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む。ここでいうパーム系油脂とは、パーム油およびパーム油を分別、水素添加、エステル交換等の処理を施した加工油脂のことをいい、パーム油およびパームオレインが好ましい。
【0037】
本発明の組成物おいて、成分(B)の含有量は、通常、15〜85重量%であり、
好ましくは25〜82重量%であり、より好ましくは30〜80重量%であり、さらに好ましくは30〜72重量%であり、最も好ましくは30〜70重量%である。
【0038】
特に好ましくは、成分(B)は、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる。よって、大豆油、コーン油、及びパーム系油脂からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる油脂の合計含有量は、組成物全体に対して、通常、15〜85重量%であり、好ましくは25〜82重量%であり、より好ましくは30〜80重量%であり、さらに好ましくは30〜72重量%であり、最も好ましくは30〜70重量%である。特に、コーン油を30〜70重量%含むことが好ましい。
【0039】
本発明の油脂組成物は、成分(A)及び成分(B)のほかに、公知の食用油脂用添加剤を、本発明の効果を妨げない範囲で添加してよい。そのような添加剤の例には、トコフェロール、L−アスコルビン酸又はその誘導体(例えばアスコルビン酸ステアレートのようなエステルやエリソルビン酸のような立体異性体)、BHT(ジエチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、NDGA(ノルジヒドログアヤレチック酸)、没食子酸、没食子酸プロピル、カテキン等の抗酸化剤;シリコーン樹脂等の消泡剤;クエン酸、リンゴ酸等の風味安定剤;香料;着色剤;固化防止剤;脂肪結晶調整剤;金属キレート剤;ショ糖脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン脂質等の乳化剤等が挙げられる。
【0040】
本発明の油脂組成物の形状は、液状、ペースト状、固形状のいずれでもよい。形状は、食用油脂をはじめとする必須成分、およびその他の成分を適宜選択することにより容易に調整可能である。
【0041】
本発明は、また、上記油脂組成物を用いて食材を加熱調理することを含む、油脂を用いて加熱調理した食品の油臭さを低減する方法を提供する。本明細書において、「加熱調理」の用語は、揚げる、炒める、ソテーする、食材の表面にコーティングしてオーブン等で輻射ないし対流加熱する等の態様を含む。加熱調理の温度は、通常、100〜200℃であり、好ましくは130〜190℃である。特に、揚げ物用の調理が好ましい。
【0042】
上記加熱調理した食品の例には、例えば、コロッケ、とんかつ、唐揚げ、フリッター、天ぷら、魚フライ、フライドポテト、ドーナッツ等のフライ食品;さつまあげ等の魚肉練加工物の揚げ物;揚げ麺、油揚げ即席麺、薄揚げ(油揚げ)、厚揚げ、がんもどき、揚げ豆腐;ハンバーグ、ポークソテー、お好み焼き、たこ焼き、パスタ;焼飯;揚げ米菓、ポテトチップス等の揚げ菓子類;等がある。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示すことにより、本発明をさらに詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0044】
〔調製例1〕(脱皮菜種精製油の調製)
(脱皮)
菜種(品種:カナダ産キャノーラ)30kgを風力選別機(製品名:風力選別機MODEL3300 安西製作所製)にかけて、茎と鞘を除去した。得られた菜種原料を、フレーキングローラー(クリアランス0.7mm)を通過させた後、衝撃破砕機を用いて1200rpmで破砕した。破砕した菜種原料を篩(0.6mm正方網)で篩って、篩上及び篩下画分を得た。上記篩上画分は、上記フレーキングローラーへ戻した。篩下画分を脱皮菜種とした。この脱皮菜種の脱皮率は90%であった。この脱皮菜種を、「脱皮率90%菜種」という。
【0045】
上記90%脱皮菜種と通常の未脱皮菜種とを重量比で1:0.2の比率で混合することにより、脱皮率75%の脱皮菜種を調製した。この脱皮菜種を、「脱皮率75%菜種」という。同じく、90%脱皮菜種と通常の未脱皮菜種とを重量比で1:0.8の比率で混合することにより、脱皮率50%の脱皮菜種を調製した。この脱皮菜種を、「脱皮率50%菜種」という。
【0046】
(圧搾)
脱皮率0、50、75又は90%の菜種を、それぞれ、エキスペラーで圧搾し、圧搾油と圧搾粕を得た。得られた圧搾粕を、ヘキサン抽出により油分を抽出した。得られた抽出油を前記圧搾油と合一して、粗油を得た。
【0047】
(精製)
上記粗油を、常法に基づいて脱ガム、脱酸、脱色及び脱臭工程にかけることにより、精製油を得た。脱皮率90%菜種の精製油、脱皮率75%菜種の精製油、及び、脱皮率50%菜種の精製油、未脱皮菜種の精製油(従来の精製菜種油)を、それぞれ、「脱皮率90%菜種精製油」、「脱皮率75%菜種精製油」、「脱皮率50%菜種精製油」、及び「未脱皮菜種精製油」という。
【0048】
未脱皮菜種精製油、及び脱皮率90%菜種精製油の物性を表1に示す。
【表1】
※色調:ロビボンド比色計(5.25インチセル使用)のR/Y値を示す。
【0049】
〔実施例1〜5〕(脱皮率の変更試験)
1.油脂組成物の調製
脱皮率を変更した菜種から得られる精製油と大豆油とのブレンドした油脂組成物を調製し、その評価を行なった。具体的には、以下に示す成分(A)及び(B)を表2に示す割合で配合し、油脂組成物を得た。
成分(A):
前記脱皮率90%菜種精製油、
前記脱皮率75%菜種精製油、
前記脱皮率50%菜種精製油、
成分(B):
大豆油(株式会社J−オイルミルズ製)、
コーン油(株式会社J−オイルミルズ製)、
パームオレイン(ヨウ素価67、株式会社J−オイルミルズ製)
【0050】
2.油脂組成物の評価
油脂組成物を使用して冷凍食材を加熱調理して得られる食品の官能評価を行なうことによって、油脂組成物を評価した。具体的には、上記油脂組成物500gを、片手鍋に入れ、180℃まで加熱した。昇温後、冷凍食材(製品名シューストリングフライポテト、味の素冷凍食品株式会社製)75gを3分間、揚げることにより、フライドポテトを作製し、官能評価をおこなった。さらに、調理後の油が180℃に復帰したら、同様に75gの冷凍食材を揚げ、フライドポテトを作製し、官能評価を行い、計6回の官能評価を繰り返した。
【0051】
官能評価は、フライドポテトをホットサーバーで80℃に保温しながら、1回分で3名、計18名のパネラーにて「フライドポテトの油の臭いの強さ(油臭さ)」の評価を行った。以下、「油脂組成物を用いて加熱調理した食品の油臭さ」を、単に「油脂組成物の油臭さ」という。
【0052】
脱皮菜種精製油の油脂組成物の油臭さを、以下に示す基準で、官能評価した。対照は、各脱皮菜種精製油に換えて同量の未脱皮菜種精製油を配合した油脂組成物である。
スコア : 指標
1 : 油臭さが対照よりもかなり弱い
2 : 油臭さが対照よりやや弱い
3 : 油臭さが対照と同程度
4 : 油臭さが対照よりやや強い
5 : 油臭さが対照よりもかなり強い
【0053】
計18名のパネラーの評価の平均値をスコアとした。このスコアが3以下であると、菜種を脱皮したことで油脂組成物の油臭さに関する性質が改善されている。逆に、スコアが3を超えると、前記性質が悪化している。
【0054】
油臭さスコアの平均値(n数18)を、表2に示す。
【表2】
【0055】
表2に示すとおり、脱皮した菜種から得られる精製油を大豆油とブレンドして得られる油脂組成物の油臭さスコアは、未脱皮の菜種から得られる精製油をブレンドした対照の油脂組成物よりも、改善する。スコアの改善に必要な脱皮率は、50%以上であり、好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0056】
〔実施例6〕(脱皮菜種精製油の含有量の変更試験)
1.組成物の調製
脱皮率90%菜種精製油の含有量を変更した油脂組成物を調製し、その評価を行なった。具体的には、表3に示す成分(A)及び(B)を変更して、油脂組成物を得た。
【0057】
2.油脂組成物の総揮発性成分量の測定
加熱脱着システムTDU(ゲステル社製)及びGC/MSシステム5975B(アジレント社製)を用い、フライドポテト官能評価後の油を用いて油中から揮発する成分の量を測定した。測定条件は、以下のとおりである。
(TDU条件)
サンプル採取量:10mg
初期温度、保持時間: 30℃、1分
昇温速度: 12℃/秒
最終温度、保持時間: 250℃、10分
(冷却インジェクションCIS条件)
初期温度、保持時間: −50℃、30秒
昇温速度: 12℃/秒
最終温度、保持時間: 250℃、3分
(ガスクロマトグラフ条件)
カラム: ZB−WAX Plus 60m × 250um × 0.25um
オーブン温度: 40分(10℃)→2℃/分昇温→100℃→5℃/分昇温→210℃(10分)
キャリアガス:He、1.6ml/分
(マススペクトロメトリー条件)
イオン源温度: 230℃
四重極温度: 150℃
スキャンモード: m/z 41〜400
【0058】
スキャンモードで検出された全成分の面積値を合計し、総揮発性成分量とした。ここで、総揮発性成分量100%とは、未脱皮菜種精製油又は未脱皮菜種精製油を配合した油の総揮発性成分量を100としたとき、脱皮菜種精製油または未脱皮菜種精製油を配合した油の相対値が100であること、を意味する。100%よりも小さい場合は揮発性成分量が相対的に低く、100%よりも大きい場合は揮発性成分量が相対的に高いことを示す。
【0059】
結果を表3に示す。脱皮菜種精製油を70重量%含む実施例1の油脂組成物は、脱皮菜種精製油からなる比較例1や脱皮菜種精製油を90重量%含む比較例2と比べて、揮発性成分が少ないことが判明した。これら揮発性成分の抑制(度)によって油から発する臭いが低減し、調理品への油臭さの付加が抑制される。
【0060】
3.油脂組成物の評価
上記油脂組成物の評価を、実施例1と同様にして行なった。スコアを統計処理(Wilcoxonの符号順位検定)の結果とともに表3に示す。
【0061】
表3から、脱皮菜種から得られる精製油を他の油とブレンドする際に、脱皮菜種精製油の含有量が比較例3のように低いと、油脂組成物の油臭さはあまり改善されない。意外なことに、脱皮菜種精製油の含有量が比較例1及び2のように高過ぎても、油脂組成物の油臭さはあまり改善されない。したがって、脱皮菜種精製油の含有量は、15〜85重量%である必要があり、好ましくは20〜70重量%であり、より好ましくは、30〜70重量%である。一方、成分(B)の含有量は、好ましくは15〜85重量%であり、より好ましくは30〜80重量%であり、特に好ましくは30〜70重量%である。
【0062】
【表3】
【0063】
〔実施例7〕(成分(B)の変更試験)
脱皮率90%菜種精製油とブレンドする油脂を変更した油脂組成物を調製し、その評価を行なった。具体的には、実施例1及び4の大豆油をコーン油又はパームオレインに変更した油脂組成物を調製した(実施例7、8、10、11)。また、実施例1の脱皮率90%菜種精製油の一部をコーン油に変更した油脂組成物を調製した(実施例9)。各例の対照として、脱皮菜種精製油を未脱皮菜種精製油に変更した油脂組成物もまた調製した。
【0064】
脱皮菜種精製油と上記各種油脂とをブレンドした油脂組成物の評価を、実施例1と同様に行なった。その結果を表4に示す。
【表4】
【0065】
脱皮菜種精製油とブレンドする油脂は、大豆油以外に、コーン油やパームオレインでも有効である。また、これらのブレンドでも有効である。油脂組成物のスコアは、脱皮菜種精製油とブレンドする油脂がコーン油である場合に効果が高く、次いで、大豆油、パームオレインに続く。したがって、本発明の油脂組成物は、脱皮菜種精製油を好ましくは大豆油、コーン油及びパームオレインからなる群から選ばれる少なくとも一種からなる油脂、より好ましくは、大豆油及び/又はコーン油とブレンドすることにより調製される。