(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5992853
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】手術支援装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 34/10 20160101AFI20160901BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20160901BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
A61B34/10
A61B5/00 D
G06T1/00 290B
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-65441(P2013-65441)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-188127(P2014-188127A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】板井 善則
【審査官】
松浦 陽
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/020547(WO,A1)
【文献】
特開2012−165910(JP,A)
【文献】
特開2009−165718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 34/10
A61B 5/00
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状臓器と該管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出手段と、
前記3次元画像から血管領域を抽出する血管領域抽出手段と、
前記抽出された血管領域から前記血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出手段と、
前記管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出手段と、
前記抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、該部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と前記管状臓器領域との位置関係を用いて、前記管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定手段とを備え、
前記血管領域は、前記管状臓器領域とは重ならない領域であり、
前記被支配領域特定手段は、前記複数の末端点のそれぞれから最短距離になる前記管状臓器領域の表面上の位置の複数を取得して、前記複数の位置のうち前記管状臓器領域の中心線に沿った方向で見た最外の2つの位置を、該複数の位置が含まれる前記管状臓器領域の範囲から前記被支配領域を特定する際に利用すべき2つの位置として抽出し、該2つの位置に基づいて前記被支配領域を特定する手術支援装置。
【請求項2】
管状臓器と該管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出手段と、
前記3次元画像から血管領域を抽出する血管領域抽出手段と、
前記抽出された血管領域から前記血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出手段と、
前記管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出手段と、
前記抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、該部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と前記管状臓器領域との位置関係を用いて、前記管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定手段とを備え、
前記被支配領域特定手段が、前記複数の末端点と前記中心線との位置関係を用いて前記中心線上の前記各末端点の各々に対応する対応点を決定し、該決定された複数の対応点のうちの最外の2つの対応点または該各対応点の近傍にある点をそれぞれ通る前記中心線に直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた前記管状臓器領域の部分を前記被支配領域として特定する手術支援装置。
【請求項3】
前記管状臓器領域のうち前記特定された被支配領域とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表した画像を、前記3次元画像から生成する画像生成手段を備えた請求項1または2記載の手術支援装置。
【請求項4】
前記被支配領域特定手段が、前記分枝構造の末端の枝から1回以上上位の枝における任意の位置のユーザによる指定を受け付け、該指定された位置の枝に対応する部分血管について、該部分血管により支配される前記被支配領域を特定するものである請求項1から3のいずれか1項記載の手術支援装置。
【請求項5】
前記被支配領域特定手段が、前記各末端点から最短距離にある前記中心線上の点をその末端点に対応する対応点として決定するものである請求項2記載の手術支援装置。
【請求項6】
前記被支配領域特定手段が、前記各末端点から最短距離にある前記管状臓器領域の表面上の点を求め、該求められた点から最短距離にある前記中心線上の点をその末端点に対応する対応点として決定するものである請求項2記載の手術支援装置。
【請求項7】
前記被支配領域特定手段が、前記部分血管の太さの代表値が大きいほど前記被支配領域が広くなるように、前記中心線に直交する断面の前記中心線方向における位置を決定するものである請求項2記載の手術支援装置。
【請求項8】
前記被支配領域特定手段が、前記分枝構造の末端の枝から1回以上上位の枝における任意の位置のユーザによる指定を受け付け、該指定された位置の枝に対応する部分血管について、該部分血管により支配される前記被支配領域を特定するものであり、
前記血管領域のうち前記指定された位置からその全ての最終分枝先の末端までの区間に対応する部分血管とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表し、かつ、前記管状臓器領域のうち前記特定された被支配領域とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表した画像を、前記3次元画像から生成する画像生成手段を備えた請求項1または2記載の手術支援装置。
【請求項9】
一台または複数台のコンピュータに、
管状臓器と該管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出処理と、
前記3次元画像から血管領域を抽出する血管領域抽出処理と、
前記抽出された血管領域から前記血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出処理と、
前記管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出処理と、
前記抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、該部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と前記管状臓器領域との位置関係を用いて、前記管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定処理とを実行させる手術支援方法であって、
前記血管領域は、前記管状臓器領域とは重ならない領域であり、
前記被支配領域特定処理は、前記複数の末端点のそれぞれから最短距離になる前記管状臓器領域の表面上の位置の複数を取得して、前記複数の位置のうち前記管状臓器領域の中心線に沿った方向で見た最外の2つの位置を、該複数の位置が含まれる前記管状臓器領域の範囲から前記被支配領域を特定する際に利用すべき2つの位置として抽出し、該2つの位置に基づいて前記被支配領域を特定する手術支援方法。
【請求項10】
一台または複数台のコンピュータに、
管状臓器と該管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出処理と、
前記3次元画像から血管領域を抽出する血管領域抽出処理と、
前記抽出された血管領域から前記血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出処理と、
前記管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出処理と、
前記抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、該部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と前記管状臓器領域との位置関係を用いて、前記管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定処理とを実行させる手術支援方法であって、
前記被支配領域特定処理が、前記複数の末端点と前記中心線との位置関係を用いて前記中心線上の前記各末端点の各々に対応する対応点を決定し、該決定された複数の対応点のうちの最外の2つの対応点または該各対応点の近傍にある点をそれぞれ通る前記中心線に直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた前記管状臓器領域の部分を前記被支配領域として特定する手術支援方法。
【請求項11】
一台または複数台のコンピュータを、
管状臓器と該管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出手段と、
前記3次元画像から血管領域を抽出する血管領域抽出手段と、
前記抽出された血管領域から前記血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出手段と、
前記管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出手段と、
前記抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、該部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と前記管状臓器領域との位置関係を用いて、前記管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定手段として機能させる手術支援プログラムであって、
前記血管領域は、前記管状臓器領域とは重ならない領域であり、
前記被支配領域特定手段は、前記複数の末端点のそれぞれから最短距離になる前記管状臓器領域の表面上の位置の複数を取得して、前記複数の位置のうち前記管状臓器領域の中心線に沿った方向で見た最外の2つの位置を、該複数の位置が含まれる前記管状臓器領域の範囲から前記被支配領域を特定する際に利用すべき2つの位置として抽出し、該2つの位置に基づいて前記被支配領域を特定する手術支援プログラム。
【請求項12】
一台または複数台のコンピュータを、
管状臓器と該管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出手段と、
前記3次元画像から血管領域を抽出する血管領域抽出手段と、
前記抽出された血管領域から前記血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出手段と、
前記管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出手段と、
前記抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、該部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と前記管状臓器領域との位置関係を用いて、前記管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定手段として機能させる手術支援プログラムであって、
前記被支配領域特定手段が、前記複数の末端点と前記中心線との位置関係を用いて前記中心線上の前記各末端点の各々に対応する対応点を決定し、該決定された複数の対応点のうちの最外の2つの対応点または該各対応点の近傍にある点をそれぞれ通る前記中心線に直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた前記管状臓器領域の部分を前記被支配領域として特定する手術支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸や気管支などの管状臓器に対する切除手術を行う際、切除すべき部分の決定について医師を支援するための手術支援装置、方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、外科手術で腫瘍などの患部を切除する場合、手術前に画像診断によってその切除する部分を適切に決めておくことが行われている。たとえば特許文献1や特許文献2には、肝臓の3次元X線CT(Computed Tomography)画像において、肝臓実質を構成する画素と肝臓内を走行する血管を構成する画素との三次元的距離に基づいて各肝臓実質画素を支配する血管画素を特定することにより、患部に栄養を供給する血管枝を特定し、その血管枝により支配される肝臓実質画素の集合を切除すべき部分として決定するコンピュータによる支援技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−283191号公報
【特許文献2】特開2003−339644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に提案されている手法は、その臓器を支配する血管、すなわちその臓器に対し酸素や栄養分を供給する血管(以下、「栄養血管」ともいう)がその臓器内に入り込んでいるという肝臓の構造的特性を利用して切除領域を決定するというものであるため、大腸や気管支のような栄養血管がその臓器の外部を走行しているものには適用することができない。しかし、このような大腸や気管支などの臓器に対する切除すべき領域の決定についてもコンピュータによる支援技術の実現が期待されている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、大腸や気管支などの管状臓器に対する切除手術を行う際、切除すべき部分の決定について医師を支援することができる手術支援装置、方法およびプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明による手術支援装置は、管状臓器とその管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出する臓器領域抽出手段と、3次元画像から管状臓器を支配する血管領域を抽出する血管領域抽出手段と、抽出された血管領域から血管の分枝構造を抽出する分枝構造抽出手段と、抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、その部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と管状臓器領域との位置関係を用いて、管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定する被支配領域特定手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
ここで、「管状臓器」は、管状、袋状の形態を有する臓器を意味し、胃,大腸.直腸,気管支,膀胱などが含まれる。ただし、血管は含まない。また、「臓器を支配する」とは、その臓器に対し酸素や栄養分を供給することにより臓器の機能を正常に保つことを意味し、「3次元画像を記憶する」とは、3次元画像を表す画像データを記憶することを意味する。
【0008】
また、「末端点」は、末端または実質的に末端とみなせる範囲内にある点を意味する。たとえば末端から30mmの範囲内の点を末端点とみなすことができる。また、末端点の「管状臓器領域との位置関係」には、管状臓器領域(空間領域)そのものとの位置関係、管状臓器領域の表面(曲面状領域)との位置関係、管状臓器領域の中心線(線状領域)との位置関係などが含まれる。
【0009】
本発明の手術支援装置は、管状臓器領域の中心線を抽出する中心線抽出手段を備え、被支配領域特定手段が、前記複数の末端点と中心線との位置関係を用いて中心線上の各末端点の各々に対応する対応点を決定し、決定された複数の対応点のうちの最外の2つの対応点またはその各対応点の近傍にある点をそれぞれ通る中心線に直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた管状臓器領域の部分を被支配領域として特定するものであってもよい。
【0010】
ここで、「対応点の近傍にある点」は、対応点から中心線方向に30mmの範囲内の点を意味する。
【0011】
本発明の手術支援装置は、管状臓器領域のうち前記特定された被支配領域とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表した画像を、3次元画像から生成する画像生成手段を備えたものであってもよい。
【0012】
本発明の手術支援装置において、被支配領域特定手段は、分枝構造の末端の枝から1回以上上位の枝における任意の位置のユーザによる指定を受け付け、その指定された位置の枝に対応する部分血管について、その部分血管により支配される被支配領域を特定するものであってもよい。
【0013】
本発明の手術支援装置において、被支配領域特定手段は、前記各末端点から最短距離にある中心線上の点をその末端点に対応する対応点として決定するものであってもよいし、前記各末端点から最短距離にある管状臓器領域の表面上の点を求め、その求められた点から最短距離にある中心線上の点をその末端点に対応する対応点として決定するものであってもよい。
【0014】
また、被支配領域特定手段は、部分血管の太さの代表値が大きいほど被支配領域が広くなるように、中心線に直交する断面の中心線方向における位置を決定するものであってもよい。
【0015】
ここで、「部分血管の太さの代表値」は、部分血管の最上位枝の太さの最大値、最小値、またはその枝上の複数個所における太さの平均値であってもよいし、部分血管上にユーザにより位置が指定されている場合にはその指定された地点での太さであってもよいし、2以上の最下位枝の太さの平均値であってもよい。
【0016】
また、本発明の手術支援装置において、被支配領域特定手段は、分枝構造の末端の枝から1回以上上位の枝における任意の位置のユーザによる指定を受け付け、その指定された位置の枝に対応する部分血管について、その部分血管により支配される被支配領域を特定するものであり、血管領域のうち前記指定された位置からその全ての最終分枝先の末端までの区間に対応する部分血管とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表し、かつ、管状臓器領域のうち前記特定された被支配領域とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表した画像を、3次元画像から生成する画像生成手段を備えたものであってもよい。
【0017】
本発明による手術支援方法は、一台または複数台のコンピュータに、上記本発明の手術支援装置の各手段が行う処理を実行させる方法である。
【0018】
本発明による手術支援プログラムは、一台または複数台のコンピュータを、上記本発明の手術支援装置の各手段として機能させるプログラムである。このプログラムは、CD−ROM,DVDなどの記録メディアに記録され、またはサーバコンピュータに付属するストレージやネットワークストレージにダウンロード可能な状態で記録されて、ユーザに提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の手術支援装置、方法およびプログラムは、管状臓器とその管状臓器を支配する血管が撮影された3次元画像から管状臓器領域を抽出し、3次元画像から管状臓器を支配する血管領域を抽出し、抽出された血管領域から血管の分枝構造を抽出し、抽出された分枝構造の末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、その部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と管状臓器領域との位置関係を用いて、管状臓器領域内の前記部分血管により支配される被支配領域を特定するものである。この特定される領域は、その部分血管をクリッピング等して切除手術を行う場合における切除処置の対象領域として必要十分な範囲を表すものとなるから、医師は、この特定された被支配領域をもとに切除手術において切除すべき部分を的確かつ容易に決定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の手術支援装置が導入された画像診断支援システムの概略構成図
【
図2】本実施形態における手術支援装置の機能ブロック図
【
図3】大腸領域とその中心線および血管領域を模式的に表した図
【
図4】血管の分枝構造を用いて末端点を求める処理を説明するための図
【
図5】中心線上の各末端点に対応する対応点を決定する処理を説明するための図
【
図6】表示画像生成部における表示画像の生成の例を示す図
【
図7】表示画像生成部における表示画像の生成の他の例を示す図
【
図8】画像診断支援システムにおいて行われる処理の流れを表すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態となる手術支援装置が導入された画像診断支援システムについて説明する。
図1は、この画像診断支援システムの概要を示すハードウェア構成図である。図に示すように、このシステムでは、モダリティ1と、画像保管サーバ2と、手術支援装置3とが、ネットワーク9を経由して通信可能な状態で接続されている。
【0022】
モダリティ1は、被検体の検査対象部位を撮影することにより、その部位を表す3次元画像の画像データを生成し、その画像データにDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)などの規格で規定された付帯情報を付加して、画像情報として出力する装置であり、その具体例として、CT(Computed Tomography)装置やMRI(Magnetic Resonance Imaging)装置などが挙げられる。
【0023】
画像保管サーバ2は、モダリティ1で取得された画像データや手術支援装置3での画像処理によって生成された画像データを画像データベースに保存・管理するコンピュータであり、大容量外部記憶装置やデータベース管理用ソフトウェア(たとえば、ORDB(Object Relational Database)管理ソフトウェア)を備えている。
【0024】
手術支援装置3は、中央処理装置(CPU)および半導体メモリや、本実施形態の手術支援プログラムがインストールされたハードディスクやSSD(Solid State Drive)等のストレージを備えたコンピュータであり、手術支援プログラムは、コンピュータのCPUに実行させる処理として、臓器領域抽出処理、中心線抽出処理、血管領域抽出処理、分枝構造抽出処理、被支配領域特定処理および画像生成処理を規定している。また、手術支援装置3は、マウス、キーボードなどの入力装置と、ディスプレイなどの表示装置とが接続されている。
【0025】
図2は、手術支援装置3を機能レベルで分割したブロック図である。
図2に示すように、手術支援装置3は、臓器領域抽出部33、中心線抽出部34、血管領域抽出部35、分枝構造抽出部36、被支配領域特定部37、画像生成部38、入力部31および出力部32を備えている。破線枠内の各処理部の機能は、CPUが手術支援プログラムを実行することによって実現され、入力部31は入力装置によって実現され、出力部32は出力装置によって実現される。
【0026】
臓器領域抽出部33は、対象の管状臓器とその管状臓器を支配する血管とが撮影された3次元画像Dを入力として被検体の管状臓器領域を抽出するものである。管状臓器としては、たとえば胃,大腸.直腸,気管支,膀胱などが挙げられる。本実施形態においては大腸領域Cを抽出するものとする。3次元画像から大腸領域を抽出する方法としては、具体的には、まず、3次元画像に基づいて体軸に垂直な断面(軸位断;axial)の軸位断画像を複数生成し、その各軸位断画像に対して、公知の手法により、体表を基準に体外と体内領域を分離する処理を行う。たとえば、入力された軸位断画像に対して二値化処理を施し、輪郭抽出処理により輪郭を抽出し、その抽出した輪郭内部を体内(人体)領域として抽出する。次に、体内領域の軸位断画像に対して閾値による二値化処理を行い、各軸位断画像における大腸の領域の候補を抽出する。具体的には、大腸の管内には空気が入っているため、空気のCT値に対応する閾値(たとえば、−600以下)を設定して二値化処理を行い、各軸位断画像の体内の空気領域を大腸領域候補として抽出する。最後に、各軸位断画像データ間で、抽出された体内の大腸領域候補がつながる部分のみを抽出することによって大腸領域を取得する。なお、大腸領域を抽出する方法としては、上記の方法に限らず、Region Growing法やLevel Set法などの他の種々の画像処理方法を用いるようにしてもよい。
【0027】
中心線抽出部34は、臓器領域抽出部33によって抽出された管状臓器領域を入力として、その管状臓器領域の中心線を抽出するものである。本実施形態においては上記のようにして抽出された大腸領域Cを細線化して大腸の中心線を抽出するものとする。なお、細線化処理については、公知な方法を採用することができ、たとえば“安江正宏,森 健策,齋藤豊文,他:3次元濃淡画像の細線化法と医用画像への応用における能力の比較評価.電子情報通信学会論文誌J79‐D‐
II(10):1664-1674,1996”や、“齋藤豊文,番正聡志,鳥脇純一郎:ユークリッド距離に基づくスケルトンを用いた3次元細線化手法の改善一ひげの発生を制御できる一手法.電子情報通信学会論文誌
J84‐D‐II(8):1628-1635,2001”などに記載の方法を用いることができる。
【0028】
血管領域抽出部35は、上記3次元画像Dを入力として対象の管状臓器を支配する血管領域Vを抽出するものである。たとえば、ユーザによって設定された血管領域上の任意のシード点に基づくRegion Growing法を用いて対象の3次元画像から血管領域を抽出することができる。なお、血管領域を抽出する方法としては、上記の方法に限らず、閾値法、Level Set法などの他の種々の画像処理方法を用いるようにしてもよい。
【0029】
以上の臓器領域抽出部33、中心線抽出部34および血管領域抽出部35による各抽出処理により、
図3に模式的に示すように、大腸領域C、その中心線Lおよび血管領域Vがそれぞれ抽出された状態となる。
【0030】
分枝構造抽出部36は、血管領域抽出部35によって抽出された血管領域Vを入力として、その血管領域Vから血管の分枝構造Sを抽出するものである。たとえば、抽出された血管領域に対して細線化処理を行い、得られた細線の連結関係に基づいて細線上の各画素を端点・エッジ・分岐点に分類することによって、
図4に示すような血管の分枝構造S(たとえば、木構造)を抽出する。さらに、必要に応じて、細線上の各画素における血管径や各エッジ(血管枝)の長さ等の特徴量も分枝構造データとして格納することができる。
【0031】
被支配領域特定部37は、分枝構造抽出部36によって抽出された分枝構造Sの末端を含む枝から1回以上上位の枝に対応する任意の部分血管について、その部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点と大腸領域Cとの位置関係を用いて、大腸領域C内のその部分血管により支配される被支配領域を特定するものである。
【0032】
たとえば、まず、入力部31による、分枝構造の末端の枝から1回以上上位の枝における任意の位置Pのユーザによる指定を受け付け、
図4に示すような分枝構造Sをその指定された位置Pから下流側に辿って、位置Pの枝からの最終分枝先にある複数の末端点p1、p2、…pN(Nは2以上の自然数)を特定する。そして、それらの複数の末端点p1、p2、…pNと中心線Lとの位置関係を用いて中心線L上の各末端点p1、p2、…pNの各々に対応する対応点l1、l2、…lM(MはN以下の自然数)を決定する。
【0033】
このとき、複数の末端点p1、p2、…pNのうち大腸領域Cの表面から予め定められた距離以上(たとえば50mm以上)離れた位置にある端末点が存在する場合、その端末点は対応点を決定する対象から除外しておくことが好ましい。また、複数の末端点p1、p2、…pNのうちその末端点から上流側最初の分枝点までの長さが予め定められた距離以上(たとえば100mm以上)端末点が存在する場合、その端末点も対応点を決定する対象から除外しておくことが好ましい。
【0034】
ここで、対応点は、対象の末端点から最短距離にある大腸領域Cの表面上の点を求め、該各求められた点から最短距離にある中心線上の点をその末端点に対応する対応点として決定する。たとえば、
図5に示すように、末端点p1〜p4のうち大腸領域Cの表面から予め定められた距離の範囲内にある末端点p1〜p3のそれぞれから最短距離にある大腸領域Cの表面上の点c1〜c3を求め、点c1〜c3のそれぞれから最短距離にある中心線上の点l1〜l3を求め、末端点p1〜p3に対応する対応点として決定する。
【0035】
次に、決定された複数の対応点l1、l2、…lMのうち中心線Lにおいて最外の2つの対応点をそれぞれ通る中心線Lに直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた大腸領域Cの部分を被支配領域FCとして特定する。
図5に示す例においては、最外の2つの対応点l1とl3をそれぞれ通る中心線Lに直交する断面に挟まれた大腸領域が被支配領域FCとして特定される。
【0036】
画像生成部38は、3次元画像Dから、被支配領域特定部37によって特定された被支配領域FCとその被支配領域FCを支配する血管領域およびその周辺の領域とを少なくとも含む領域を表す画像に、大腸領域Cのうち被支配領域FCとその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表した表示画像Iを生成する。具体的には、被支配領域FCとその他の領域の各々を表すマスクデータと、各々の色や不透明度を定義したテンプレートを予め用意し、このマスクデータとテンプレートを用いて3次元画像Dに対する公知のボリュームレンダリング処理を行うことによって、上記各マスクデータによってマスクされた領域に対して、各々のマスク対象の構造物に対して割り当てられた色や透明度でレイキャスティング処理を行い、上記表示画像Iを生成する。このとき、表示画像Iには、血管領域Vのうち被支配領域FCを支配する血管領域とその他の領域とが視覚的に区別可能な態様で表されるようにしてもよい。
【0037】
また、表示画像生成部38は、被支配領域特定部37における被支配領域特定処理において位置Pのユーザによる指定を受け付けている場合に、血管領域Vのうち位置Pからその全ての最終分枝先の末端までの区間に対応する部分血管とその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表し、かつ、大腸領域Cのうち被支配領域FCとその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表す表示画像Iを生成するものであってもよい。もちろん、大腸領域Cについてのみ、被支配領域FCとその他の領域とが視覚的に区別可能な態様で表されるようにしてもよい。たとえば、
図6の左図に示すような表示画像I0が表示された画面において、マウスを使ったカーソル31a操作により血管領域上に位置Pのユーザによる指定があった場合、
図6の右図に示すような大腸領域についてのみ区別表示を行う表示画像I1または
図7に示すような大腸領域と血管領域の両方について区別表示を行う表示画像I2を生成し表示されるようにすることができる。
【0038】
次に、
図8のフローチャートを参照して、本実施形態の画像診断支援システムにおいて行われる処理の流れについて説明する。まず、3次元画像D(画像データ)が取得される(S1)。ここで、3次元画像Dは、依頼元の診療科の医師からの検査オーダーに基づいてモダリティ1で撮影され、画像保管サーバ2に保管されたものである。ユーザは、手術支援装置3に実装された公知のオーダリングシステムの操作端末インターフェースを操作し、処理対象の3次元画像Dの取得を要求する。この操作に応じて、手術支援装置3は画像保管サーバ2に対して3次元画像Dの検索要求を送信し、画像保管サーバ2は、データベース検索により、処理対象の3次元画像Dを取得し、手術支援装置3に送信する。そして、手術支援装置3は、画像保管サーバ2から送信されてきた3次元画像Dを取得する。
【0039】
手術支援装置3では、臓器領域抽出部33が3次元画像Dを入力として被検体の大腸領域Cを抽出し(S2)、中心線抽出部34がその抽出された大腸領域Cを細線化して大腸の中心線を抽出する(S3)。一方、血管領域抽出部35が3次元画像Dを入力として大腸を支配する血管領域Vを抽出し(S4)、分枝構造抽出部36がその抽出された血管領域Vから血管の分枝構造Sを抽出する(S5)。なお、このステップS2〜S3の処理と、ステップS4〜S5の処理とは必ずしもここで述べる順番で実行しなければならないわけではない。これらの処理は同時に実行してもよいし、ステップS4〜S5の処理を先に実行してステップS4〜S5の処理を後に実行してもよい。
【0040】
そして、分枝構造の末端の枝から1回以上上位の枝における任意の位置Pのユーザによる指定等に基づいて被支配領域特定処理の対象となる部分血管が設定されると(S6)、被支配領域特定部37が、その部分血管の枝からの最終分枝先にある複数の末端点p1、p2、…pNと大腸領域Cの中心線Lとの位置関係を用いて中心線L上の各末端点の各々に対応する対応点l1、l2、…lMを決定し、決定された複数の対応点l1、l2、…lMのうち中心線Lにおいて最外の2つの対応点をそれぞれ通る中心線Lに直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた大腸領域Cの部分を被支配領域FCとして特定する(S7)。
【0041】
そして、画像生成部38が、3次元画像Dから、大腸領域Cのうち被支配領域FCとその他の領域とを視覚的に区別可能な態様で表した表示画像Iを生成する(S8)。生成された表示画像Iは手術支援装置3のディスプレイに表示される(S9)。
【0042】
以上の述べた通り、本実施形態の手術支援装置3によれば、管状臓器を支配する血管全体のうち任意の部分血管について、その部分血管に支配される被支配領域FCが特定される。この領域は、その部分血管をクリッピング等して切除手術を行う場合における切除処置の対象領域として必要十分な範囲を表すものとなるから、医師は、この特定された被支配領域をもとに切除手術において切除すべき部分を的確かつ容易に決定することが可能になる。
【0043】
なお、上記実施形態では、血管Vの末端点に対応する中心線L上の対応点として、末端点から最短距離にある大腸領域Cの表面上の点を求め、その求められた点から最短距離にある中心線L上の点を求めるようにしているが、これに限らず、末端点から最短距離にある中心線L上の点をその末端点に対応する対応点として決定するようにしてもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、中心線L上に決定された複数の対応点のうち最外の2つの対応点をそれぞれ通る中心線Lに直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた大腸領域Cの部分を被支配領域FCとして特定するようにしているが、最外の2つの対応点そのものではなく、その各対応点の近傍にある点をそれぞれ通る中心線Lに直交する断面を求め、それらの断面に挟まれた大腸領域Cの部分を被支配領域FCとして特定するようにしてもよい。この対応点の近傍にある点としては、対応点から中心線方向に30mmの範囲内の点を用いることが好ましい。また、このとき、部分血管の太さの代表値が大きいほど被支配領域が広くなるように、対応点の近傍にある点の中心線方向における位置(中心線Lに直交する断面の位置に相当)を決定するようにしてもよい。なお、このように対応点の近傍にある点を用いて被支配領域を決定する場合には、対応点の近傍外側の点を用いることが好ましい。
【符号の説明】
【0045】
1 モダリティ
2 画像保管サーバ
3 手術支援装置
9 ネットワーク
31 入力部
32 出力部
33 臓器領域抽出部
34 中心線抽出部
35 血管領域抽出部
36 分枝構造抽出部
37 被支配領域特定部
38 画像生成部
C 大腸領域
D 3次元画像
FC 被支配領域
L 中心線
P ユーザ指定の位置
S 分枝構造
V 血管領域
p1〜pN 末端点
l1〜lM 対応点