【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、色素増感型太陽電池の色彩に着目した。色彩は物品のデザイン面で大きなウエイトを占める要素といえ、カラフルなDSCは壁材・窓材といった建材等の多様な用途への適用が期待できる。ここで、DSCの外観色は、酸化物層に担持された色素材料の色彩の影響を受ける。本発明者等は、鋭意検討の結果、これまでにない色彩を発するDSCであって、十分な発電効率を発揮し得るものを見出し本発明に想到した。
【0010】
即ち、本発明は、基板と、前記基板上に形成された少なくとも1層の酸化物層と、を備える電極を用いた色素増感型太陽電池において、前記酸化物層に2種以上の色素が担持されており、前記色素として、270nm以上550nm未満の波長域に最大光吸収可能領域を有し、その最大モル吸光係数が16000以上である発電用色素が少なくとも1種以上担持され、前記酸化物層のL
*a
*b
*表色系が、L
*=3以上20以下、a
*=0以下、b
*=0以下であることを特徴とする色素増感型太陽電池である。
【0011】
本発明は、特定の色素を発電のための主体的な色素として適用しつつ、複数の色素を担持させることで、特有の色彩を有する酸化物層を形成するものである。以下、本発明に係る色素増感型太陽電池についてより詳細に説明する。尚、本発明においては、各種色素のモル吸光係数はDMFを溶媒として測定したときの値である。
【0012】
本発明に係る色素増感型太陽電池は、酸化物層に複数の色素を担持させることを前提とする。そして、複数の色素の中でも発電を担う必須の色素として、270nm以上550nm未満の波長域に最大光吸収可能領域を有し、その最大モル吸光係数が16000以上である色素を少なくとも1種適用する。かかる光吸収特性を有する色素を使用するのは、DSCとして必要な発電効率を確保するためである。可視領域における太陽光スペクトルにおいては、短波長域のエネルギーが高いことから、この領域に最大吸収領域を有する色素を発電用色素として適用することが好ましい。また、その際の最大モル吸光係数を16000以上と規制することで実用的な発電効率を確保することとなる。この最大モル吸光係数については、25000以上がより好ましく、30000以上が更に好ましい。また、最大モル吸光係数は、当然に高ければ高いほど好ましいが、現実的側面から500000以下が上限として設定される。
【0013】
そして、本発明に係る色素増感型太陽電池は、酸化物層がL
*a
*b
*表色系で、L
*=3以上20以下、a
*=0以下、b
*=0以下となる。L
*a
*b
*表色系では、L
*は明度を示し、a
*及びb
*は色度を示す。本発明における酸化物層は、光源に透かしてみたときに青色及び緑色の要素を含む色彩を呈するものである。本発明者等によれば、実用的性能具備という観点のもと、青色や緑色を呈するDSCはこれまで無かった。本発明は、上記した発電用色素を使用しつつ、2種以上の色素が重畳的に担持されており新規の色彩を発揮する酸化物層を有するものである。a
*、b
*に関しては、本発明者等は、下限値としてa
*=−20、b
*=−20を想定している。尚、このL
*a
*b
*表色系における各数値は、基板背面に黒色の背景を設定し、酸化物層表面に対して測色計にて測定されるものである。
【0014】
ここで、複数の色素を担持することによる色調整の原理について、より詳細に説明する。色彩は、光源色と物体色に区分され、物体色は表面色と透過色とに分類される。本願における色彩とは、DSC酸化物層という物体の表面色の意義である。この表面色は、当該物体が光源から受けた光を反射することによって発せられる色であり、その反射光の波長により特徴づけられる。一方、DSCの発電反応は、担持された色素が特定の波長域の光を吸収することによって生じるものであり、吸収されない波長域の光が反射光としてその色素の色彩を特徴づける。
【0015】
従って、DSCの発電効率を確保する上では、エネルギーが高い波長域の光を吸収することが好ましい。この点から本発明では270nm以上550nm未満の波長域に最大光吸収可能領域を有する色素を発電用色素として採用する。ここで、550nm未満の可視領域の光は、色彩として青色・緑色に対応する波長である。そのため、この発電用色素は青色・緑色を吸収し、黄色・赤色を呈する色素である。よって、この発電用色素のみを担持させた場合、そのDSCは黄色・赤色を呈し、色彩については青色・緑色を捨てた状態にある。本発明では、ここに複数の色素を組み合わせて青色・緑色の発現を図ることとした。
【0016】
より具体的な例をもって説明する。
図1(a)は、本発明で発電用色素として適用可能な色素であるCYC−B11の光吸収特性を示すものである。
図1の通り、CYC−B11は、400nm付近に最大光吸収可能領域がある赤色の色素であり、このときのモル吸光係数の最大値は5×10
4である。一方、
図1(b)は、CYC−B11と全く異なる光吸収特性を有する他の色素であるインジゴカルミン(青色2号)の光吸収特性である。インジゴカルミンは、630nm付近に最大光吸収可能領域がある色素で、青色の色素である。本発明では、酸化物層にCYC−B11のような発電用色素を担持し、同時にインジゴカルミンのような他の色素を調色用色素として担持する。両色素が重畳させた色素の全体としての光吸収特性は、
図1(c)のように、CYC−B11で現れる400nm付近の吸収ピークが消えることとなる。これにより400nm付近の短波長域の光の反射が生じ、酸化物層が青色・緑色の色彩を呈することとなる。
【0017】
以上の通り、本発明における好適な色調整の具体的手段は、発電用色素に調色用色素を重畳的に担持させることである。ここで、調色用色素は、550nm以上800nm以下の波長域に最大光吸収可能領域を有する色素である。発電用色素の特性と重畳したとき、当該短波長領域における光吸収を抑制するためである。
【0018】
この調色用色素に対しては、必ずしも発電能力は要求されない。調色用色素は、酸化物層に担持後の光吸収特性を調整するためものであり、発電については発電用色素が担保するからである。但し、調色用色素に発電作用があることは好ましいことである。発電用色素と同等の発電能力がある調色用色素であれば、DSC全体の発電能力は高いものとなる。
【0019】
上記の通り、調色用色素は、550nm以上800nm以下の波長域に最大光吸収可能領域を有する色素であるが、その光吸収能力は発電能力だけでなく調色作用の強弱に関与する。調色用色素の最大モル吸光係数の上限としては、発電用色素と同様に500000以下のものが適用できる。但し、調色用色素については、発電用色素より光吸収能が低くとも差し支えないので、最大モル吸光係数が30000以下、25000以下、更には、16000以下であっても使用可能である。調色用色素の光吸収能力が低くとも、調色色素を担持量の調整又は複数種の調色用色素の担持により酸化物の色調整は可能である。もっとも、調色色素の担持量の増大により発電色素の担持量が減ると、DSC全体の発電能力の低下につながる。そのため、最大モル吸光係数は15000以上の調色色素の適用が好ましい。
【0020】
発電用色素及び調色用色素は、それぞれ1種類ずつ担持しても良く、それぞれについて複数種を同時に担持させても良い。ここで、発電用色素及び調色用色素の担持量については、調色用色素の担持量M2(単位:モル数)と発電用色素の担持量M1(単位:モル数)との比(M2/M1)と、調色用色素の最大光吸収可能領域における最大モル吸光係数の平均値ε2と発電用色素の最大光吸収可能領域における最大モル吸光係数の平均値ε1との比(ε2/ε1)との関係について、下記式を満足したものが好ましい。
【0021】
【数1】
【0022】
(ε2/ε1)×(M2/M1)が上記の範囲外となると、調色の効果がなくなり本願で規定する表色系の範囲外の酸化物層となる、或いは、発電色素が吸収する光が減り十分な発電効率が得られない。より好ましくは、(ε2/ε1)×(M2/M1)は1以上20以下とする。尚、ここでの最大モル吸光係数の平均値(ε1、ε2)は、各色素の担持量に応じて算出される加重平均である。
【0023】
そして、本発明で適用できる発電用色素の具体例としては、Z907、Z907Na、CYC−B1、CYC−B3、CYC−B5、CYC−B6S、CYC−B7、CYC−B11、C106、C101、K−19、SK−1、SK−2、などのRuを中心金属に持つ錯体色素である。
【0024】
また、調色用色素の具体例については、D149、DN477、DN496、SQ−2、亜鉛フタロシアニン錯体、インジゴカルミン等が適用できる。上記の通り、調色用色素には発電能力は要求されない。前記具体例の中で、亜鉛フタロシアニンやSQ−2などはヨウ素を電解質として用いた場合は、実質的に発電作用が期待できない色素である。本発明は、こうした色素を適用しつつ、好適な発電効率を発揮し得るものである。
【0025】
以上説明したように、本発明に係る色素増感型太陽電池は、酸化物層に担持する色素として、調色用というこれまで無かった目的の色素を追加的に担持させてなることを特徴とする。この特徴以外の構成については、基本的には従来のDSCと同様の構成となる。
【0026】
基板は、ガラスや有機プラスチック等が適用できる。有機プラスチックとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエチレンサルファイド)、PO(ポリオレフィン)、PI(ポリイミド)等が適用されることが多い。DSCにおいて、基板は酸化物層の支持体と共に受光面として機能することが多いため、光透過性を有するものが好ましいからである。また、有機プラスチックは可撓性を有することから、形状的にフレキシブルなDSCを製造することができる。これらの材料で構成される基板には、表面にITO、FTO等の透明電極膜を形成しても良い。尚、透明導電膜の厚さとしては、0.1〜2.0μmのものが適用されることが多い。
【0027】
酸化物層は、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化スズ、酸化タンタル、酸化タングステン等の酸化物で構成される。特に、好ましいのは酸化チタンである。上記の通り、酸化物層は、機能に応じて複数層で構成しても良い。
【0028】
酸化物層は単層でも良く、複数層で構成されていても良い。近年のDSCでは、酸化物層も機能により複数層で構成されることがある。複数構成の酸化物層の例としては、色素を担持し発電するDSCの中心的な機能層となる透過層を基本として、透過層で補足し切れなかった光を乱反射・反射させる散乱層や反射層等の付加的な酸化物層を積層したものが挙げられる。これらの酸化物層は、材質は同一であっても、その粒径や粒度分布を調整して機能の特徴付けがなされている。(一例として、透過層は粒子径が20nm以下の酸化物からなる層であり、散乱層や反射層は粒子径が100nm以上の酸化物からなる層である)。酸化物層を複層化するのは発電効率向上を目的としたためであるが、このような複数構造の酸化物層を採用しても良い。
【0029】
酸化物層の厚さは、特に制限されることはないが、0.5μm以上30μm以下が好ましい。0.5μm未満では、色素の担持量が少なすぎてDSCの発電効率が低くなる。一方、30μmを越えると、色素担持の際、均一に十分な色素を担持し難くなる。尚、ここでの酸化物層の厚さは、合計厚さであり、複数層で構成されている場合は各層の合計となる。
【0030】
酸化物層には、色素に加えて添加剤が担持されていても良い。この添加剤としては、色素と共に酸化物層に吸着し色素分子の会合を抑制するための共吸着剤がある。共吸着剤は、DINHOP(ビス−(3,3−ジメチル−ブチル)−ホスフィン酸)の他、CDCA(ケノデオキシコール酸)、GBA(γ-グアニジノ酪酸)、DPA(デシルホスホン酸)等の有機物が使用される。但し、共吸着剤の使用は必須とはならない
【0031】
DSCの構成に関しては、以上説明した基板、酸化物層及び色素の他、対向電極及び酸化物層に含浸させる電解質等が挙げられるが、これらは従来のDSCと同様である。
【0032】
次に、本発明に係る色素増感型太陽電池の製造方法について説明する。本発明のDSCの製造工程は、基本的には従来のDSCの製造方法と同様であり、基板上に形成された酸化物層に色素溶液を接触させ色素を酸化物層に担持させる工程を主要な構成とする。
【0033】
基板へ酸化物層を形成する方法としては、酸化物粉末(粒子)を適宜の溶媒に分散又は溶解させた処理液を塗布及び乾燥して酸化物を堆積させる方法がある。このとき乾燥後、400〜600℃で焼成することが好ましく、これにより微小な細孔を有する多孔質の酸化物層が形成される。酸化物層を多層構造とする場合、処理液の塗布・焼成を複数回行うことで多層構造を得ることができる。
【0034】
そして、酸化物層に色素溶液を接触させて色素を担持する。色素溶液は色素を溶媒に溶解して調整する。ここで、本発明では、発電用色素と調色用色素とを、それぞれ少なくとも1種類酸化物層に担持させる。この複数の色素の担持に際しては、発電用色素と調色用色素との双方を含む混合色素溶液を調整して、この混合色素溶液を酸化物層に接触させても良い。また、発電用色素の色素溶液と調色用色素の色素溶液を別々に調整し、それらを順次酸化物層に接触させても良い。尚、混合色素溶液の調整は、1の溶媒に発電用色素と調色用色素を溶解しても良いし、別々に調整した色素溶液を混合しても良い。
【0035】
色素溶液の溶媒は、t−ブタノール等のアルコール、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、GBL(γ-ブチロラクトン)、DMSO(ジメチルホルムアミド)、DMAc(N,N−ジメチルアセトアミド)、DEF(N,N−ジエチルホルムアミド)、スルホラン、N−メチルピロリドン、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ジオキソラン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。色素溶液の色素濃度については、0.1〜1質量%の範囲内で調整するのが好ましい。また、酸化物層に共吸着剤等の添加剤を担持させる場合、色素溶液の調整の際、溶媒には色素と添加剤を添加するのが好ましい。
【0036】
基板上の酸化物層に対する色素溶液の接触の具体的方法としては、基板と共に酸化物層を色素溶液に浸漬する方法(ディッピング)や、色素溶液を酸化物層に塗布する方法(コーティング)等が挙げられる。コーティングについては、バーコート、ブレードコート、スクリーン印刷等に細分化されるがいずれも適用できる。また、吸着工程は常温大気圧下で行っても良いし、高温下或いは減圧下で行っても良い。この酸化物層への色素溶液の吸着工程は、細分された基板についてバッチ式で行っても良いが、長尺の基板を用いてRoll to Roll方式にて連続式で行うこともできる。
【0037】
色素溶液の吸着工程が完了した基板に対しては、適宜に洗浄、乾燥を行うことができる。また、その後の工程は、一般的なDSCの製造工程に準じ、酸化物層上に対向電極を形成し、対応電極と基板との間に電解質層を形成する。