特許第5993183号(P5993183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993183
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】クリームチーズおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/076 20060101AFI20160901BHJP
   A21D 13/08 20060101ALN20160901BHJP
【FI】
   A23C19/076
   !A21D13/08
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-85255(P2012-85255)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-212096(P2013-212096A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木裕輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤光太郎
(72)【発明者】
【氏名】小浜愛
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−024574(JP,A)
【文献】 岩附 慧二,クリームチーズ,ニューフードインダストリー ,Vol.50 No.1,48−60
【文献】 横田 潔 ,乳製品製造プロセスにおける膜分離技術 Process of Dairy Products Using Membrane Technology,月刊フードケミカル ,2003年,第19巻第4号 ,79−84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 19/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリームチーズ中のカゼインたん白質/ホエイたん白質質量比が1.77〜1.89であり 、10℃における硬度が8.3〜8.9Nであるクリームチーズ。
【請求項2】
クリームチーズの製造方法において、
乳および乳製品を原料としてその調整乳を殺菌する工程と、
前記殺菌した調整乳に乳酸菌もしくは酸を添加して凝固させる工程と、
前記凝固した調整乳を粉砕して加温する工程と、
前記加温した調整乳を分画分子量2000〜25000Daの限外ろ過膜にて分離し、カゼイン たん白質/ホエイたん白質の質量比が1.77〜1.89であるクリームチーズを得る工程と 、
前記分離したクリームチーズを均質化する工程と、
を有することを特徴とするクリームチーズの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクリームチーズおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、クリームチーズは、クリーム単独またはクリームと乳の混合物に乳酸菌を添加して発酵させ、生成した乳酸により乳を凝固させることによって得られる、非熟成タイプの柔らかいチーズである。クリームチーズは、乳酸菌由来の発酵風味とさわやかな酸味を有することから、甘さとの相性が良く、ケーキやパン、デザートなどの製造の際に製菓、製パン用加工原料として使用される。
【0003】
製菓、製パンにおいては、焼成直後は、組織の膨らみは最大となるが、冷却後、組織の沈みや縮みといったボリュームの低下が課題となる。ボリュームが低下すると、見た目が悪く、さらに組織が破壊されているため食感が悪くなるというような影響を及ぼす。
【0004】
製菓、製パンにおける焼成後の沈みを低減する方法は、これまでも検討されてきた。例えば、ホエイを加工して製パンに利用する技術としては、部分加熱変性させたホエイたん白質を有効成分とする製パン用品質改良剤が提案されている(特許文献1)。また、ホエイたん白濃縮物とミルクカルシウムからなるケービング防止剤を、パン原料として配合することにより、外観や食感が良好となるパンの製造方法が開示されている(特許文献2)。さらに、ホエイパウダーのような製パン適性に乏しい素材を、食品添加物として広く食品に利用されているカゼイネートとともに配合し、パンを製造する方法が知られている(特許文献3)。乳以外の素材を用いる方法としては、イモ類由来たん白質の添加で焼成後の沈み抑制に効果があると報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-256672号公報
【特許文献2】特開2002-119196号公報
【特許文献3】特開2005-73547号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】乳技協資料、第36巻、第3号、1986年、P.3-4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これまでに検討されてきた焼成後の沈みを低減させる技術において、ホエイを利用する場合にはホエイの加工が必要であることや、ホエイのみを使用すると製パン適性は必ずしも良好でないため、他の原材料との併用が不可欠である、などの課題があった。さらに、このような報告は製パン時に利用する技術であり、チーズケーキの焼成適性についてはこれまでに報告されていなかった。また、乳以外の素材を用いる方法では、イモ類の特有の風味により、完成した製菓、製パン類の風味を損なうといった問題点があった。
【0008】
本発明は、焼成適性を有する新規クリームチーズの提供を課題とする。
なお、本発明において、「焼成適性」とは、対象となるクリームチーズを用いてチーズケーキを作製する際に、焼成前と焼成して冷却した後を比較して、チーズケーキの高さが変化しない性質をいう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、クリームチーズ中のホエイたん白質に対するカゼインたん白質の質量比およびクリームチーズの硬度と、クリームチーズを用いて焼成した菓子やパン類の物性の変化に着目して鋭意研究を行い、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を含むものである。
(1)クリームチーズ中のカゼインたん白質/ホエイたん白質質量比が1.77〜1.89で あり、10℃における硬度が8.3〜8.9Nであるクリームチーズ。
(2)クリームチーズの製造方法において、
乳および乳製品を原料としてその調整乳を殺菌する工程と、
前記殺菌した調整乳に乳酸菌もしくは酸を添加して凝固させる工程と、
前記凝固した調整乳を粉砕して加温する工程と、
前記加温した調整乳を分画分子量2000〜25000Daの限外ろ過膜にて分離し、カゼイン たん白質/ホエイたん白質の質量比が1.77〜1.89であるクリームチーズを得る工程と 、
前記分離したクリームチーズを均質化する工程と
を有することを特徴とするクリームチーズの製造方法。

【発明の効果】
【0011】
本発明のクリームチーズは焼成適性を有しており、チーズケーキを作製する際に用いてもケーキのボリュームが低下しないという特徴を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明において、「クリームチーズ」とは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年12月27日厚生省令第52号)、および公正競争規約で定めるナチュラルチーズの規格のうちいずれかに該当するものであって、一般的にクリームチーズと呼ばれるものをすべて包含するものとする。
【0014】
本発明のクリームチーズの製造方法を以下に述べる。
原料としては牛乳、山羊乳、羊乳等の哺乳類から得られた生乳、脱脂乳、クリームを用いることができる。これらの生乳、または、脱脂乳にクリームを加えて、脂肪の含量を7〜12重量%としたものをクリームチーズの調整乳とする。得られるクリームチーズの風味、食感が特に優れている脂肪の含量としては、好ましくは8〜12重量%、さらに好ましくは9〜12重量%である。脂肪が高い程、得られるクリームチーズの濃厚感が強くなり、食感は滑らかとなる。
【0015】
殺菌方法としては63℃で30分間、72℃〜74℃で15秒以上、82℃〜88℃で300秒〜360秒、95℃で300秒などがあるが、これらの記載に限られるわけではなく、一般的なチーズ製造における調整乳の殺菌方法を、目的のクリームチーズの品質、風味によって選択すればよい。また、必要に応じて、殺菌前に0〜25MPaの均質圧力で均質処理を行なうことができる。
【0016】
殺菌処理後に乳酸菌スターターを添加する方法や、乳酸やクエン酸を添加する方法で調整乳を凝固させる。添加する乳酸菌スターターは、発酵至適温度が約40℃の高温菌(thermophilic starters)や、約25℃の中温菌(mesophilic starters)を使用する。具体的には、Lactococcus lactis subsp.lactis, Leuconostoc pseudomesenteroides,Lactococcus lactis subsp.cremoris, Lactococcus lactis subsp.lactis biovar diacetylactis,Leuconostoc mesenteroides subsp.cremorisなどがあるが、これらに限られたわけではなく、求めるクリームチーズの風味、品質に応じて選択し、使用すればよい。また、乳酸やクエン酸を使用する場合は、食品添加物用に該当するものから、クリームチーズの風味、品質に応じて、使用すればよい。また、調整乳の凝固時のpHは4.5〜5.0の範囲内で、目的の風味、品質にあわせて、適宜選択すればよい。
【0017】
凝固した調整乳は粉砕した後、50℃まで加温し限外ろ過膜(以降、UF膜という)でホエイ分離を行なう。UF膜はスパイラル型有機膜、モノリス型セラミックス膜、チューブラー型有機膜、中空糸型有機膜、平膜型有機膜などから、一種または二種を選択して用いることが可能であり、その際の分画分子量は2000Da〜25000Daの範囲内である。本発明は膜分離工程を採用することにより、クリームチーズのカゼインたん白質/ホエイたん白質の質量比を目的の1.77〜1.89とすることができる。
ホエイ分離により得られたクリームチーズの脂肪含量は20〜40重量%、たん白質含量は5〜15重量%であり、その風味が特に優れている組成としては脂肪含量が、好ましくは25〜40重量%、さらに好ましくは30〜40重量%であり、たん白質含量が好ましくは7〜13重量%、さらに好ましくは8〜12重量%である。これらの組成では、濃厚感が強く、滑らかな食感のクリームチーズを得ることができる。
【0018】
UF膜のホエイ分離により得られたクリームチーズには、均質処理を行う。均質化工程では、ホモゲナイザーなどの均質機のほか、マイクロフルイダイザー、コロイドミルなどを用いることもできるが、均質化効率及び処理能力の点から判断すると、ホモゲナイザーを用いることが好ましい。均質化圧力は、均質機の種類、クリームチーズの処理流量やホモバブルの形状、均質化温度などの製造条件の違いにより、適宜変更すればよい。
また、必要に応じて均質化工程の前に、クリームチーズに殺菌工程を行なうこともできる。殺菌工程では、プレート式熱交換機、チューブラー熱交換機、表面かきとり型熱交換機等を用いることができる。殺菌工程を経ることで保存性を高めることも可能である。
本発明では、10℃での硬度が8.3〜8.9Nとなるように均質化を行なうことで、優れた焼成適性を有するクリームチーズを提供することができる。
【0019】
クリームチーズのカゼインたん白質/ホエイたん白質質量比の測定は、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという)を用いる方法や、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS-PAGE法)、キャピラリー電気泳動などで行なうことができる。この方法により、αS1-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンそれぞれの質量を算出し、αS1-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼインの合計値をカゼインたん白質量、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリンの合計値をホエイたん白質とし、その比からカゼイン/ホエイたん白質質量比を算出すればよい。
【0020】
クリームチーズの硬度は、テクスチャーアナライザーや、レオメーター、ペネトロメーターなどを適宜選択し測定すればよい。
【0021】
以下、本発明に関して実施例を挙げて、説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
未殺菌の生乳とクリームを混合し、脂肪率を9.5重量%に調整した後、95℃にて5分間殺菌し調整乳を得た。この調整乳を22℃へ冷却してから、乳酸菌スターター0.005重量%を加えて攪拌した。pHが4.6となり、凝固したことを確認した後、攪拌、粉砕しながら50℃まで加温し、この粉砕した調整乳を分画分子量25000DaのUF膜(Alfa Laval製GR60pp)を用いてホエイ分離し、100kgf/cm2で均質化工程を行い、固形率44.7重量%、脂肪率33.0重量%、たん白質9.2重量%、カゼインたん白質/ホエイたん白質1.89、硬度8.6Nのクリームチーズを得た(実施例品1)。
【実施例2】
【0023】
未殺菌の生乳とクリームを混合し、脂肪率を9.5重量%に調整した後、95℃にて5分間殺菌し調整乳を得た。この調整乳を22℃へ冷却してから、乳酸菌スターター0.005重量%を加えて攪拌した。pHが4.6となり、凝固したことを確認した後、攪拌、粉砕しながら50℃まで加温し、この粉砕した調整乳を分画分子量10000DaのUF膜(Alfa Laval製GR81pp)を用いてホエイ分離し、100kgf/cm2で均質化工程を行い、固形率45.0重量%、脂肪率33.5重量%、たん白質9.4重量%、カゼインたん白質/ホエイたん白質1.77、硬度8.9Nのクリームチーズを得た(実施例品2)。
【実施例3】
【0024】
未殺菌の生乳とクリームを混合し、脂肪率を9.5重量%に調整した後、95℃にて5分間殺菌し調整乳を得た。この調整乳を22℃へ冷却してから、乳酸菌スターター0.005重量%を加えて攪拌した。pHが4.6となり、凝固したことを確認した後、攪拌、粉砕しながら50℃まで加温し、この粉砕した調整乳を分画分子量2000DaのUF膜(Alfa Laval製GR95pp)を用いてホエイ分離し、100kgf/cm2で均質化工程を行い、固形率44.5重量%、脂肪率32.8重量%、たん白質8.9重量%、カゼインたん白質/ホエイたん白質1.81、硬度8.3Nのクリームチーズを得た(実施例品3)。
【0025】
[比較例1]
未殺菌の生乳とクリームを混合し、脂肪率を9.5重量%に調整した後、95℃にて5分間殺菌し調整乳を得た。この調整乳を22℃へ冷却してから、乳酸菌スターター0.005重量%を加えて攪拌した。pHが4.6となり、凝固したことを確認した後、攪拌、粉砕しながら50℃まで加温し、この粉砕した調整乳を分画分子量50000DaのUF膜(Alfa Laval製GR51pp)を用いてホエイ分離し、固形率45.3重量%、脂肪率33.1重量%、たん白質9.2重量%、カゼインたん白質/ホエイたん白質比2.21、硬度6.8Nのクリームチーズを得た(比較例品1)。
【0026】
[比較例2]
未殺菌の生乳とクリームを混合し、脂肪率を9.5重量%に調整した後、72℃にて15秒間殺菌し調整乳を得た。この調整乳を22℃へ冷却してから、乳酸菌スターター0.005重量%を加えて攪拌したpHが4.6となり、凝固したことを確認した後、攪拌、粉砕しながら80℃まで加温を行なった。この粉砕した調整乳をクリームチーズセパレーターでクリームチーズとホエイに分離し、固形率44.3重量%、脂肪率31.3重量%、たん白質9.0重量%、カゼインたん白質/ホエイたん白質比2.30、硬度6.4Nのクリームチーズ得た(比較例品2)。
【0027】
[比較例3]
未殺菌の生乳とクリームを混合し、脂肪率を9.5重量%に調整した後、殺菌温度72℃にて15秒間殺菌した。この調整乳を22℃へ冷却してから、乳酸菌スターター0.005重量%を加えて攪拌した。調整乳が発酵しpHが4.6となり、凝固したことを確認した後、攪拌、粉砕しながら80℃まで加温し、この粉砕した調整乳をクリームチーズセパレーターでクリームチーズとホエイに分離し、得られたクリームチーズに100kgf/cm2で均質化工程を行ない、固形率44.3重量%、脂肪率31.3重量%、たん白質9.0重量%、カゼインたん白質/ホエイたん白2.30、硬度7.7Nのクリームチーズを得た(比較例品3)。
【0028】
[試験例1]
実施例1〜3および比較例1〜3で得られたクリームチーズについて、以下に示す方法で1)カゼインたん白質/ホエイたん白質質量比の測定、2)クリームチーズの硬度の測定および3)チーズケーキの沈み率の評価を行った。
1)カゼインたん白質/ホエイたん白質質量比の測定
カゼインたん白質/ホエイたん白質の質量比は、HPLC法を用いて測定した。
クリームチーズ25gにヘキサン15gを加えて混合後、1000rpm、25℃、5分間遠心分離をし、上層のヘキサンとともに脂質を除去し、試料とした。得られた試料0.75gに蒸留水を2.25g加え希釈した。希釈した試料3.0gを精秤し、5.37mMクエン酸Naおよび6Mグアニジン塩酸塩を含有する0.1MBisTris緩衝液(pH6.8)5000μLと1MDTT300μLを加え混合し、試料を可溶化した。1N−NaOHでpHを8.2に調整後、蒸留水を加え10mLに定容した。このうち1mLを1.5mLマイクロチューブに採取し沸騰水中で3分間加熱した後、室温まで放冷した。このうち300μLを希釈液900μLと混合し、HPLCに供した。希釈液組成は以下に記載の移動相Aにグアニジン塩酸塩を終濃度4.5Mになるように溶解して用いた。HPLC装置はELITE Lachrom(L2000、日立ハイテクノロジーズ社製)にPDAディテクター(L7490、日立ハイテクノロジーズ社製)を接続して用いた。カラムはODS-3カラム(直径4.6mm×長さ250mm、ジーエルサイエンス社製)を用いた。試料注入量は40μL、カラム温度は25℃、流速は1.2mL/min、検出は220nmで行った。移動相は0.1%TFAを含むアセトニトリル/水=1/9(移動相A)、0.1%TFAを含むアセトニトリル/水=9/1(移動相B)を用い、移動相Bの割合を開始27%から4分後32%、12分後34%、17分後36.5%、35分後39%、50分後43.5%、52分後80%まで濃度勾配をかけてカラムに通液し溶出させた。実施例品1〜3、比較例品1〜2に含まれるたん白質は、α−ラクトアルブミン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリンの標準品(Sigma-Aldrich社)の溶出位置と比較し、それぞれ同定した。α−ラクトアルブミン(0、0.03、0.06、0.12mg/mL)、κ−カゼイン(0、0.25、0.5、1.0mg/mL)、β−ラクトグロブリン(0、0.27、0.54、1.08mg/mL)の濃度の標準品を上記と同様にHPLCに供し、得られたクロマトグラムの各成分ピークとベースラインからピーク面積を算出し、それぞれの検量線を作成し、この検量線から実施例品および比較例品のα−ラクトアルブミン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリンの質量を算出した。αS1−カゼイン、β−カゼインについては、HPLCに供した試料の全たん白質量から、前述のα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、κ−カゼインの質量を引いた値をαS1−カゼイン、β−カゼインの総質量とした。得られたα−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンの質量の合計と、αS1−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼインの質量の合計の比から、ホエイたん白質に対するカゼインたん白質の質量比(表中ではカゼイン/ホエイ質量比と示す)を算出した。
2)クリームチーズの硬度の測定方法
クリームチーズの硬度はテクスチャーアナライザーを用いて測定した。
具体的な測定方法としては、クリームチーズを、10mm角に切り出し、10℃に温度調整したものを、平面四角プレートに載せ、テクスチャーアナライザー(英弘精機株式会社)を用いて、チーズの上面から、チーズ上面全体に均等に応力がかかるように、直径75mmの平面丸型プレートを0.5mm/sの速度で降下させて下方向に応力をかけ、チーズの高さが8mmまで圧縮した際の圧縮荷重を測定した。この測定値を10℃におけるクリームチーズの硬度とした。
3)チーズケーキの沈み率の評価方法
クリームチーズの焼成適性の評価は、以下のように行った。
クリームチーズと卵、グラニュー糖、薄力粉、バター、生クリーム、レモンジュースなどの材料を混ぜ合わせ、150℃〜180℃のオーブンで40〜60分間焼成して作製したチーズケーキの焼成前の高さを100%とし、焼成後の高さと比較してその変化を沈み率(%)とした。沈み率が小さいほど、チーズケーキの沈みは少なく、沈み率が20%以下の場合に焼成適性を有しているとした。
本試験では、クリームチーズ325gと全卵55g、グラニュー糖45g、薄力粉25g、生クリーム100g、レモンジュース2gを混ぜ合わせ、チーズケーキ用の成型器に充填し、この時の高さを測定した(焼成前)。その後、約165℃のオーブンで55〜60分間焼成した後、粗熱をとり10℃にて一晩冷却した後の高さを測定し(焼成後)、沈み率を算出した。
以上の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
上記表1の結果より、カゼインたん白質/ホエイたん白質比が1.77から1.89かつ硬度が8.3Nから8.9Nである実施例品1から3のクリームチーズを用いたチーズケーキでは、比較例品を用いたチーズケーキに比べて、沈み率が小さく、焼成適性を有していることが確認された。