(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0016】
図1は、一実施形態に係る光干渉システムの一例を示す構成図である。
図1に示すように、光干渉システム1は、光干渉を利用して測定対象物13A,13Bの厚さ又は温度を計測するシステムである。なお、測定対象物13A,13Bの厚さを計測する場合と、測定対象物13A,13Bの温度を計測する場合とは、ほぼ同様の動作で実現できるため、以下では、説明理解の容易性を考慮して光干渉システム1が測定対象物13A,13Bの温度を計測する場合を例に説明する。
【0017】
図1に示す光干渉システム1は、測定対象物13A,13Bの温度を計測するシステムである。光干渉システム1は、光干渉を利用して温度を計測する。光干渉システム1は、光源10、光サーキュレータ11、カップラ41、ミラー43、コリメータ12A,12B,コリメータ42(第2コリメータ)、分光器14及び演算装置(計測部)15を備えている。なお、光源10、光サーキュレータ11、カップラ41、コリメータ12A,12B,42及び分光器14のそれぞれの接続は、光ファイバーケーブルを用いて行われる。
【0018】
光源10は、測定対象物13A,13Bを透過する波長を有する測定光を発生する。光源10として、例えばSLD(Super Luminescent Diode)が用いられる。なお、測定対象物13Aは、例えば板状を呈し、第1主面13a及び第1主面13aに対向する第2主面13bを有している。また、測定対象物13Bは、第1主面13c及び第1主面13cに対向する第2主面13dを有しており、測定対象物13Aと厚さが異なる。以下では、必要に応じて、第1主面13a,13cを表面13a,13c、第2主面13b,13dを裏面13b,13dと称して説明する。計測対象とする測定対象物13A,13Bとしては、例えばSi(シリコン)の他にSiO
2(石英)又はAl
2O
3(サファイア)等が用いられる。Siの屈折率は、波長4μmにおいて3.4である。SiO
2の屈折率は、波長1μmにおいて1.5である。Al
2O
3の屈折率は、波長1μmにおいて1.8である。
【0019】
光サーキュレータ11は、光源10、カップラ41及び分光器14に接続されている。光サーキュレータ11は、光源10で発生した測定光をカップラ41へ出射する。カップラ41は、2つの入力端と2つの出力端を備えている。一方の入力端(第1入力端)は光サーキュレータ11に接続され、他方の入力端はコリメータ42に接続されている。また、2つの出力端はそれぞれコリメータ12A,12Bに接続されている。カップラ41は、光サーキュレータ11からの光を一方の入力端から入力するとともに2つの出力端(すなわちカップラ12A,12B)へ出力する。
【0020】
コリメータ12Aは、測定光を測定対象物13Aの表面13aへ出射する。コリメータ12Aは、平行光線として調整された測定光を測定対象物13Aへ出射する。そして、コリメータ12Aは、測定対象物13Aからの反射光を入射する。反射光には、表面13aの反射光だけでなく裏面13bの反射光が含まれる。コリメータ12Aは、反射光をカップラ41へ出射する。
【0021】
コリメータ12Bは、測定光を測定対象物13Bの表面13cへ出射する。コリメータ12Bは、平行光線として調整された測定光を測定対象物13Bへ出射する。そして、コリメータ12Bは、測定対象物13Bからの反射光を入射する。反射光には、表面13cの反射光だけでなく裏面13dの反射光が含まれる。コリメータ12Bは、反射光をカップラ41へ出射する。
【0022】
カップラ41は、コリメータ12A,12Bによって得られた反射光(戻り光)をカップラ41及び光サーキュレータ11へ出射する。コリメータ42は、カップラ41に対向して配置されたミラー43へ戻り光を出射するとともに、ミラー43からの反射光を入射し、カップラ41を介してコリメータ12A,12Bへ光を再度伝送する。すなわち、コリメータ42及びミラー43は、戻り光を測定対象物に向けて再度伝送して利用する伝送機構として機能する。この伝送機構は、第1入力端を除く入力端に配置される。
【0023】
光サーキュレータ11は、反射光を分光器14へ出射する。分光器14は、光サーキュレータ11から得られた反射光のスペクトル(干渉強度分布)を測定する。反射光スペクトルは、反射光の波長又は周波数に依存した強度分布を示す。
図2は、分光器14及び演算装置15の機能ブロック図である。
図2に示すように、分光器14は、例えば、光分散素子141及び受光部142を備える。光分散素子141は、例えば、回折格子等であり、光を波長ごとに所定の分散角で分散させる素子である。受光部142は、光分散素子141によって分散された光を取得する。受光部142としては、複数の受光素子が格子状に配列されたCCD(Charge Coupled Device)が用いられる。受光素子の数がサンプリング数となる。また、光分散素子141の分散角及び光分散素子141と受光素子との距離に基づいて、波長スパンが規定される。これにより、反射光は波長又は周波数ごとに分散され、波長又は周波数ごとに強度が取得される。分光器14は、反射光スペクトルを演算装置15へ出力する。
【0024】
演算装置15は、反射光スペクトルに基づいて測定対象物13A,13Bの温度を計測する。演算装置15は、光路長算出部16、温度算出部20及び温度校正データ21を備えている。光路長算出部16は、フーリエ変換部17、データ補間部18及び重心計算部19を備えている。フーリエ変換部17は、反射光スペクトルを高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)によりフーリエ変換する。例えば、時間領域におけるフーリエ変換であれば、周波数(単位時間あたりの振動数)に依存した強度分布を示す反射光スペクトルを、時間に依存した強度分布を示す反射光スペクトルへ変換する。また、例えば、空間領域におけるフーリエ変換であれば、空間周波数(単位長さあたりの振動数)に依存した強度分布を示す反射光スペクトルを、位置に依存した強度分布を示す反射光スペクトルへ変換する。データ補間部18は、フーリエ変換後の反射光スペクトルの所定のピーク値を含む範囲において、データ点を補間する。重心計算部19は、フーリエ変換後の反射光スペクトルの所定のピーク値の重心位置を計算する。光路長算出部16は、重心位置に基づいて光路長を算出する。
【0025】
温度算出部20は、光路長に基づいて、測定対象物13A,13Bの温度を算出する。温度算出部20は、温度校正データ21を参照して測定対象物13A,13Bの温度を算出する。温度校正データ21は、予め測定されたデータであり、温度と光路長との関係を示すものである。
【0026】
上記構成を有する光干渉システムによって、測定対象物13A,13Bの表面13a,13cと裏面13b,13dとの光干渉を利用して温度を測定する(FFT周波数領域法)。以下、光干渉の原理について説明する。なお、測定対象物13A,13Bの測定原理は同一であるため、以下では測定対象物13Aを例に説明する。
【0027】
図3は、入射光スペクトル及び反射光スペクトルを説明する概要図である。
図3に示すように、光源10からの測定光を入射光とする。入射光スペクトルの強度S(k)は、空間周波数1/λ(単位長さあたりの振動数)に依存する。光源10の波長をλとすると波数kは2π/λである。測定対象物13Aの厚さをd、屈折率をn、反射率をRとする。反射光Eは、複数の反射成分を重ねたものになる。例えば、E
1は、表面13aにおける反射成分である。E
2は、裏面13bにおける反射成分である。E
3は、表面13aで一回、裏面13bで2回反射された反射成分である。なお、E
4以降の反射成分は省略している。複数の成分が重なり、反射光スペクトルの強度I(k)が得られる。例えば、成分E
1,E
2のみを考慮すると、反射スペクトルの強度Iは以下の式で表すことができる。
【数1】
ここで、反射スペクトルの強度Iにおける第3項及び第4項が表裏面干渉の項である。このように、表裏面干渉は表面13a及び裏面13bの積となるため、表面13a及び裏面13bからの何れか一方の反射が小さい場合には干渉を観測することが困難となる。なお、多重反射を考慮した場合、反射光スペクトルの強度I(k)は、入射光スペクトルの強度S(k)と以下の数式で示す関係となる。
【数2】
上記の式(1)において、第2項は表裏面干渉の項である。第3項は表裏面多重干渉の項である。式(1)をフーリエ変換すると、位置に依存した反射光スペクトルを得ることができる。
【0028】
図4は、反射光スペクトルI(k)のフーリエ変換を説明する概要図である。
図4に示すように、空間領域フーリエ変換により、空間周波数1/λを位置xに変換している。位置xに変換された反射光スペクトルの強度I(x)は、式(1)をフーリエ変換することにより、以下の通りとなる。
【数3】
上記の式(2)に示すように、2・n・dごとにピーク値が出現する。2・n・dは表裏面の光路差である。すなわちn・dは、表裏面間の光路長である。予め計測された光路長n・dと温度との関係から、光路長n・dを特定することで温度を算出することができる。なお、上記説明では空間領域フーリエ変換を用いたが、時間領域フーリエ変換を用いてもよい。周波数をvとすると位置xとは以下の関係を満たす。
【数4】
【0029】
ここで、FFT周波数領域法を用いて、測定対象物の厚さを測定する場合と、測定対象物の温度を測定する場合との違いを説明する。一般的には、FFT周波数領域法により測定される測定対象物の厚さは、数百μmのオーダーの精度で測定可能である。しかしながら、温度を1℃単位で測定する場合には、数百Åのオーダーの精度が必要となる。すなわち、単純に厚さ測定システムを光干渉システムとすることは困難であり、光源や分光器等、条件を満たす機器を用いて計測する必要がある。以下では各構成機器の条件について説明する。
【0030】
最初に、光干渉システム1の測定可能な最大の厚さ(最大計測厚さ)と反射光スペクトルのフーリエ変換後のデータ間隔について説明する。
図5は、反射光について説明する概要図である。
図5に示すように、厚さd、屈折率nの測定対象物13Aにおいて、表面の位置を0、裏面の位置をxとしている。このとき、FFTにおける時間Δτと角周波数Δωとの関係は、以下のように表される。
【数5】
ここで、角周波数ω,Δωを、光源スペクトルの波長λ、半値半幅Δλで表現すると、以下のようになる。
【数6】
周波数は正の値であるから、
【数7】
従って、
【数8】
である。
【0031】
屈折率n(平均屈折率n
ave)の測定対象物13A中を光が時間Δτで移動する距離をΔx’とすると、距離Δx’は、上記式(3)及び式(5)を用いて、以下のように表現される。
【数9】
表面を透過し裏面で反射するため、往復距離を考慮してΔx’=2Δxとする。以上より、FFT後の反射スペクトルのデータ間隔Δxは以下の通りとなる。
【数10】
周波数領域法では、実際のスペクトル強度I(k)は、波長軸方向のサンプリング数N
Sの離散的な値となる。従って、FFT後のデータは、Δx間隔のN
S/2個の離散的なデータとなる。従って、最大計測光学厚さx
maxは、以下の式で表すことができる。
【数11】
【0032】
これは実空間の座標に変換したときの値であり、FFT後の分光スペクトルのデータはこの値の2n
ave倍となる。従って、FFT後の空間における最大計測光学厚さX
max、及びデータ間隔ΔXは、以下の式で表すことができる。
【数12】
【数13】
【0033】
これらは媒質の屈折率によらない一般式であり、測定系の条件のみで決定される。実際の測定系においては、ΔλはFFTの最小周期と考えることができるため、ここでは、Δλは分光器の測定波長範囲、または波長スキャンレンジと考えることができる。波長スパンをΔw、分光器の中心波長をλ
0とすると、式(10),(11)は以下の式で表される。
【数14】
【数15】
従って、分光器の波長範囲Δwを広くすれば、FFT後のデータ間隔ΔXを小さくすることができる。またサンプリング数N
Sを大きくすれば、より厚い媒質を計測することができる。これにより、データ間隔を小さくすることと、計測可能厚さを厚くすることとは、両立しないことがわかる。以上は、屈折率によらない一般式である。よって、屈折率n
aveの媒質中においての実スケールに変換する場合は、それぞれ2n
aveで除すればよい。
【0034】
ここで、最小空間分解能について考察する。
図6は、最小空間分解能を説明する概要図である。
図6の(b)は、ガウス関数で近似できる光源の波数kに依存した強度分布を示すスペクトルである。
図6の(b)に示すスペクトルの強度S(k)は、ピーク値の波数をk
0、ピーク値の強度を1/Δk・(π)
1/2、半値半幅をΔkすると、以下の式で表すことができる。
【数16】
なお、
【数17】
である。また、
【数18】
との関係が成立する。式(15),(16)を用いて半値半幅Δkは以下のように表現できる。
【数19】
【0035】
一方、
図6の(b)に示すスペクトルをFFT変換すると
図6の(a)に示すスペクトルとなる。
図6の(a)は、位置xに依存した強度分布を示すガウス関数のスペクトルである。
図6の(a)に示すスペクトルの強度S(x)は、ピーク値の位置を0、ピークの強度を1とすると、以下の式で表すことができる。
【数20】
なお、波長領域スペクトルの半値半幅Δkと、空間領域スペクトルのS(x)の半値半幅Δx
gは以下の関係を満たす。
【数21】
半値半幅をl
cとすると、式(19)に基づいて、S(x)の半値半幅Δx
gは以下の式で表現できる。
【数22】
強度S(x)のスペクトルの半値半幅l
cがコヒーレンス長となる。空間の最小分解能は、l
cであり、光源10のスペクトルの中心波長と半値幅で決定される。
【0036】
次に、上述した最大計測光学厚さx
maxに基づいて、分光器14に必要なサンプリング数N
Sの条件を導出する。光源10の中心波長をλ
0、光源スペクトルの半値半幅をΔλ、分光器14の波長スパンをΔw、測定対象物13Aの屈折率をnとすると、式(9)に基づいて、最大計測光学厚さx
maxは以下の式で表される。
【数23】
ここで、最大計測厚さdと最大計測光学厚さx
maxとは、以下の条件を満たす必要がある。
【数24】
すなわち、以下の関係を満たすサンプリング数N
Sが必要となる。
【数25】
例えば、最大計測厚さd=0.775mm、光源10の中心波長λ
0=1550nm、測定対象物13Aの屈折率n=3.7であれば、以下のようになる。
【数26】
なお、波長スパンΔw[m]をΔw’[nm]へ変換して表現すると、以下のようになる。
【数27】
光干渉システム1は、式(25)に示す関係を満たす波長スパンΔw’[nm]とサンプリング数N
Sの分光器14を備える。例えば、波長スパンΔw’[nm]が40nmである場合には、サンプリング数N
Sが200より大きい値を有する。すなわち、波長スパンΔw’[nm]が40nmである場合には、200よりも大きな数の受光素子を配列させた受光部142が必要となる。
【0037】
次に、本実施形態に係るフォトカプラの強度増強の原理について説明する。
図7は、入力端が2つ、出力端が2つのカップラのモデル図である。
図7の(a)は、従来の光干渉システムのモデル図、
図7の(b)は一実施形態に係る光干渉システムのモデル図である。
【0038】
まず、従来の光干渉システムの入力端に戻る反射光の強度(光量)を説明する。
図7の(a)に示すように、従来の光干渉システムでは、反射防止処理等が施されたキャップ44によってカップラの一つの入力端(戻り端)が終端化されている。ここで、入力端から入力する光量を1、測定対象物13Aの屈折率をn、反射率をR
sとすると、それぞれの入力端に戻る光量は、以下の数式で表現される。
【数28】
例えば、測定対象物13AがSiであり、Siの屈折率nを3.7とすると、反射率R
sは、0.33であり、上記式26より光量Iは0.165となる。
【0039】
次に、一実施形態の光干渉システムの入力端に戻る反射光の光量を説明する。
図7の(b)に示すように、一実施形態の光干渉システムでは、カップラの一つの入力端(戻り端)にミラー43が配置されている。なお、図中ではコリメータ等は省略している。ここで、入力端から入力する光量を1、測定対象物13Aの反射率をR
s、ミラー43の反射率をR
mとすると、それぞれの入力端に戻る光量は、以下の数式で表現される。
【数29】
式27を解くと、
【数30】
となる。例えば、ミラーの反射率を0.9、測定対象物13AがSiであり反射率R
sが0.33であるとすると、上記式28より光量Iは0.194となる。従って、戻り光を再利用することで、約17%の強度増強が見込まれる。
【0040】
上記と同様に、入力端がN個、出力端がN個のカップラについても説明する。出力端側には、N個の測定対象物を配置し、(N−1)個の入力端には、反射率R
mのミラー43を対向して配置しているものとする。また、測定対象物13Aの反射率をR
sとする。また、入射光の強度を1とする。この場合、それぞれの測定対象物の一次反射の光強度I
1は、以下の数式で表現される。
【数31】
式29より、一つのミラー43に入射する一次反射の光強度I
m1の合計は、以下の数式で表現される。
【数32】
式30にミラー43の反射率R
sを掛けた値が二次の光として測定対象物へ入射される。このため、それぞれの測定対象物の二次反射の光強度I
2は、以下の数式で表現される。
【数33】
上記と同様にn次反射の光強度I
nは、以下の数式で表現される。
【数34】
式32より、反射光の光強度の合計Iは、以下の数式で表現される。
【数35】
式35から理解できるように、Nが大きいほど反射光の光強度が改善する。
【0041】
次に、光干渉システム1の温度計測動作について説明する。
図8は、光干渉システム1の動作を示すフローチャートである。なお、測定対象物13Aとして300μmのSiウエハ、測定対象物13Bとして770μmのSiウエハを用いる場合を例に説明する。
【0042】
図8に示すように、反射光スペクトルの入力処理から開始する(S50)。光源10は、測定光を発生する。例えば、
図9の(a)に示すスペクトルの測定光となる。分光器14は、測定対象物13A,13Bの表面13a,13c及び裏面13b,13dで反射した反射光のスペクトルを取得する。例えば、
図9の(b)に示すスペクトルの反射光となる。光路長算出部16は、分光器14から反射光のスペクトルを入力する。S50の処理が終了すると、座標変換処理へ移行する(S52)。
【0043】
S52の処理では、光路長算出部16が、S50の処理で得られたスペクトルの座標軸を、波長λから空間周波数(1/λ)へ変換する。S52の処理が終了すると、第1データ補間処理へ移行する(S54)。
【0044】
S54の処理では、光路長算出部16が、S52の処理で得られたスペクトルのデータ補間を行う。例えば、光路長算出部16は、データ間を線形補間する。例えば、サンプリング数をN
Sとし、スペクトルのデータとして、空間周波数の配列を(x
0,x
1,x
2,…,x
N−1)とし、強度の配列を(y
0,y
1,y
2,…,y
N−1)とする。まず、光路長算出部16は、空間周波数の配列を等間隔に再配列する。例えば、再配列後の空間周波数の配列に含まれる空間周波数をX
iとすると、以下の式を用いて再配列を行う。
【数36】
次に、光路長算出部16は、再配列後の空間周波数X
iにおける強度を、線形補間で計算する。このときの強度をY
iとすると、以下の式を用いて算出する。
【数37】
ただし、jはX
i>x
jとなる最大の整数である。S54の処理が終了すると、FFT処理へ移行する(S56)。
【0045】
S56の処理では、フーリエ変換部17が、S54の処理で補間されたスペクトルをフーリエ変換する。これにより、例えば、
図9の(c)に示すように、縦軸が振幅、横軸が位相のスペクトルとなる。S56の処理が終了すると、フィルタリング処理へ移行する(S58)。
【0046】
S58の処理では、光路長算出部16が、S56の処理で得られたスペクトルからX=0のピーク値をフィルタリングする。例えば、X=0からX=Z(所定値)までの範囲の強度データYに0を代入する。S58の処理が終了すると、抽出処理へ移行する(S60)。
【0047】
S60の処理では、光路長算出部16が、S58の処理で得られたスペクトルからX=2・n・dのピーク値を抽出する。例えば、ピークの最大値をY
iとした場合、Y
i−10からデータ点を20点抽出する。これは、ピークの中心から裾までのデータを抽出するためである。例えば、ピークの最大値を1としたときに、最大値から0.5までの範囲が含まれるように抽出する。なお、測定点が複数ある場合には、予め測定対象物の厚さの目処をつけておき、どの付近にピークが出現するかを求めておくとよい。例えば、測定対象物13Aは300μm、測定対象物13Bは770μmであるので、それらのピーク出現位置をおおよその範囲で確定することができる。これによって、複数の測定点がある場合であってもピークを適切に抽出することができる。また、ミラー43を配置することによってサブピークが出現することとなるが、上述のとおり、必要な情報を持ったピーク信号のおおよその位置は既知とすることができるため、ミラー43を配置した場合であってもサブピークの影響を受けることなく計測することができる。S60の処理が終了すると、第2データ補間処理へ移行する(S62)。
【0048】
S62の処理では、データ補間部18が、S60の処理で得られた2・n・dピークのデータを補間する(データ補間工程)。データ補間部18は、例えばデータ点間を補間数N
Aで等間隔に線形補間する。補間数N
Aは、例えば必要な温度精度に基づいて予め設定される。
【0049】
ここで、補間数N
Aについて概説する。例えば、測定対象物13Aが半径300mmのSi基板である場合には、FFT後のピーク間隔Δ2・n・ddが0.4μm/℃となる。したがって、1℃の精度が必要な場合には、データ間隔が0.4μmとなるように補間数N
Aを設定する。システムが有するノイズレベルを考慮して補間数N
Aを決定してもよい。ここで、分光器14が、波長スパンΔw=42nm、サンプリング数N
S=640であるとする。また、光源10が、中心波長λ
0=1560nmであるとする。この場合、FFT後のデータ間隔は、式8を用いてΔx=56nmとなる。よって、0.4μmのデータ間隔となるように、各点の間隔を140点補間する必要がある(補間数N
A=140)。また、ノイズレベルが0.1℃程度の場合には、0.1℃以下の分解能は不要である。なお、Δx=56nmのまま計算すると、分解能が140℃となることからもデータ補間の重要性が理解できる。例えば、以下の数式を用いてデータ補間を行う。
【数38】
ここで、jは強度の配列に用いた指標である。データ補間部18は、上記式32をi=0〜N−1の範囲で実行する。すなわち、S20の処理で得られた20点の間隔全てを対象にして算出する。このように、フーリエ変換後のデータ間隔を、必要な分割数(補間数N)で分割し、分割数に応じたデータ数を線形補間する。S62の処理が終了すると、抽出処理へ移行する(S64)。
【0050】
S64の処理では、重心計算部19が、S62の処理で補間されたデータから重心の計算に利用するデータ範囲のみを抽出する。例えば、重心計算部19は、重心計算に使用する閾値をA%とし、ピークの最大強度Y
MAX×A以下の強度データYに0を代入する。S64の処理が終了すると、重心計算処理へ移行する(S66)。
【0051】
S66の処理では、重心計算部19が、S64の処理で補間されたデータから重み付け重心を計算する。例えば、以下の式を用いる。
【数39】
なお、Nは重心範囲抽出後のデータ点数である。これにより、光路長n・dを算出することができる。S66の処理が終了すると、温度計算処理へ移行する(S68)。
【0052】
S68の処理では、温度算出部20が、S66の処理で得られた光路長n・dを用いて温度を算出する。温度算出部20は、例えば
図10に示す温度校正データ21を用いて温度を算出する。
図10は、横軸が光路長n・dであり、縦軸が温度である。温度校正データ21は予め測定対象物13A,13Bごとに取得される。以下では、温度校正データ21の事前作成例について説明する。例えば、温度制御に黒体炉を使用して実測する。温度Tと、温度Tにおける光路長nd
Tを同時に計測する。温度Tは、熱電対等の温度計を用いて測定する。また、光路長nd
Tは、上述したFFTを利用した手法で測定する。そして、温度計の測定値が40℃の時の光路長nd
40を1000として光路長nd
Tを規格化する。そして、温度と規格化された光路長nd
Tを100℃ごとに区分して、3次式で近似することで、近似曲線の係数を導出する。
図10の左上に示す数式が3次式の数式である。なお、温度Tに依存した規格化された光路長nd
Tの関数を以下式で表す。
【数40】
また、f(T)の逆関数を以下のように示す。
【数41】
光路長nd
40は、イニシャル温度T0とその時の光路長nd
T0に基づいて以下の数式により算出される。
【数42】
式35に基づいて得られた光路長nd
40及び光路長nd
Tに基づいて、温度Tを上述した式34の数式を用いて導出する。S68の処理が終了すると、
図8に示す制御処理を終了する。
【0053】
以上で
図8に示す制御処理を終了する。
図8に示す制御処理を実行することで、少ないデータ点であっても高精度に温度を測定することができる。また、温度精度に合わせてデータ点を補間することができるので、精度よく安定な温度計測をすることができる。
【0054】
上述したように、一実施形態に係る光干渉システム1によれば、光源10及び分光器14に接続される第1入力端を除いた複数の入力端へ複数の出力端から光が戻ってきた場合、伝送機構であるコリメータ42及びミラー43によって戻り光が複数の出力端へ再度伝送される。ところで、従来の光干渉システムにあっては、カップラを用いた場合、戻り光の強度が1/Nに減少し、(1−N)/Nの光強度が損失している。これに対して、一実施形態に係る光干渉システム1によれば、測定時に利用していない入力端を反射防止処理等によって終端とするのではなく、戻り光を測定対象物に向けて再度伝送して利用することで、第1入力端への戻り光の光量を増大させることができる。よって、計測精度を向上させることができる。
【0055】
なお、上述した実施形態は光干渉システムの一例を示すものであり、実施形態に係る装置及び方法を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0056】
例えば、上述した実施形態では、入力端が2つ、出力端が2つのカップラ41を中心に説明したが、入力端がN個、出力端がN個のカップラであってもよい。例えば、
図11に示すように、入力端が4つ、出力端が4つのカップラ41Aの光干渉システム1であってもよい。この場合、測定対象物13A〜13Dに対してコリメータ12A〜12Dから測定光が照射される。ここで、カップラ41Aの3つの入力端に伝送機構(コリメータ42A〜42C、ミラー43A〜43C)が設けられている。このため、
図1に示す光干渉システム1と同様に、計測精度を向上させることができる。なお、計測点の数は、FFT後のピークが重ならない範囲で増加させることができ、光源波長Δλと半値半幅l
cで決定することができる。
【0057】
また、伝送機構は、
図1,
図11に示すようにコリメータ及びミラーで構成するものに限られず、例えば
図12に示すように、内部がミラーコーティングされたキャップ43A〜43Cを光ファイバに直接取り付けてもよいし、光ファイバの先端を直接ミラーコーティングしてもよい。又は、
図13に示すように、接続部45A,45Bにより、入力端同士を光ファイバで接続してもよい。この場合、反射ロスを考慮する必要がなくなるため、光強度をより増大させることができる。さらに、
図13に示すように、構成の異なる伝送機構を混在させてもよい。
【0058】
また、基板処理装置に一実施形態で説明した光干渉システム1を搭載させてもよい。
図14は、一実施形態に係る基板処理装置100の要部縦断面構成を模式的に示す図である。ここでは、プラズマエッチング装置などの基板処理装置における測定対象物13A,13Bの例として、ウエハ、フォーカスリング又は対向電極(上部電極)の温度測定に適用する場合を例に挙げて説明する。
【0059】
図14に示すように、基板処理装置100は、基板としての半導体ウエハWを収容してプラズマにより処理するための真空チャンバ200を具備している。
【0060】
真空チャンバ200は、その内部に処理室202を画成する。処理室202は、真空排気可能に構成されている。処理室202には、半導体ウエハWを載置するための載置台39が設けられている。この載置台39は、導電性材料から構成され、高周波電力が印加されるRFプレート38と、このRFプレート38上に設けられ、半導体ウエハWを吸着するための静電チャック機構50とを具備しており、RFプレート38の中央部には、高周波電源(不図示)と電気的に接続された給電棒60が接続されている。
【0061】
載置台39の周囲には、載置台39の周囲を囲むように、環状に形成されたバッフル板70が設けられており、バッフル板70の下部には、載置台39の周囲から均一に排気を行うための環状の排気空間80が形成されている。また、真空チャンバ200の底部には、ベースプレート90が設けられており、RFプレート38とベースプレート90との間には、空隙101が形成されている。この空隙101は、RFプレート38とベースプレート90を絶縁するための十分な広さとなっている。また、搬送アームから半導体ウエハWを受け取り載置台39に載置又は半導体ウエハWを載置台39より持ち上げて搬送アームに受け渡すプッシャーピンの駆動機構(不図示)が、この空隙101内に設けられている。また、この空隙101は、真空雰囲気ではなく大気雰囲気となっている。
【0062】
載置台39の上方には、載置台39と間隔を設けて対向するように対向電極110が設けられている。この対向電極110は、所謂シャワーヘッドによって構成されており、載置台39上に載置された半導体ウエハWに対して、シャワー状に所定の処理ガスを供給できるように構成されている。この対向電極110は、接地電位とされるか或いは高周波電力が印加されるようになっている。また、載置台39上の半導体ウエハWの周囲には、フォーカスリング290が設けられている。このフォーカスリング290は、半導体ウエハWのプラズマ処理の面内均一性を向上させるためのものである。
【0063】
上記真空チャンバ200は、載置台39の上部の空間である処理室202が真空雰囲気となり、載置台39の下部の空隙101が常圧雰囲気となるように構成されている。したがって、載置台39が真空雰囲気と常圧雰囲気とを仕切る仕切り壁の一部を構成するようになっている。そして、載置台39には、複数の温度測定用窓120,130,140、150及び151が形成されている。温度測定用窓120,130,140及び150は、載置台39の上面と下面とを測定光が透過可能なように光学的に連通し、かつ、気密封止された構造となっている。温度測定用窓151は、真空チャンバ200の上方から下方に向けて形成されており、光学的に連通し、かつ、気密封止された構造となっている。
【0064】
なお、一実施形態では、温度測定用窓120,130,140、150及び151のうち、載置台39の最も外周側の位置に設けられた温度測定用窓150は、フォーカスリング290の温度を測定するためのものであり、他の温度測定用窓120,130、140及び151は、半導体ウエハWの温度、又は、対向電極110の温度を測定するためのものである。
【0065】
上記温度測定用窓120,130,140及び150に対応して、ベースプレート90には、貫通孔160,170,180及び190が設けられており、これらの貫通孔には、夫々温度測定手段からの測定光を導くための光ファイバ201,210,220及び230の出口部分に設けられたコリメータ240,250,260及び270が固定されている。また、ベースプレート90と載置台39(RFプレート38)との間の空隙101には、ベースプレート90と載置台39(RFプレート38)とを連結する連結部材300が配置されている。また、温度測定用窓151に対応して貫通孔が設けられており、該貫通孔には、温度測定手段からの測定光を導くための光ファイバ231の出口部分に設けられたコリメータ271が固定されている。なお、
図14には、連結部材300を1つのみ図示してあるが、この連結部材300は、周方向に沿って複数(例えば4個以上)配置されている。これらの連結部材300は、載置台39の変形や振動を抑制するためのものである。
【0066】
上記光ファイバ201,210,220、230及び231は、
図1に示す光干渉システム1に接続されている。すなわち、コリメータ240,250,260、270及び271が
図1に示すコリメータ12A,12Bに対応する。
【0067】
光源としては、測定光と参照光との干渉が測定できれば、任意の光を使用することが可能である。半導体ウエハWの温度測定を行う場合には、少なくとも半導体ウエハWの表面と裏面との間の距離(通常は800〜1500μm程度)からの反射光が干渉を生じない程度の光が好ましい。具体的には例えば低コヒーレンス光を用いることが好ましい。低コヒーレンス光とは、コヒーレンス長の短い光をいう。低コヒーレンス光の中心波長は例えば0.3〜20μmが好ましく、更に0.5〜5μmがより好ましい。また、コヒーレンス長としては、例えば0.1〜100μmが好ましく、更に3μm以下がより好ましい。このような低コヒーレンス光を光源として使用することにより、余計な干渉による障害を回避でき、半導体ウエハWの表面又は内部層からの反射光に基づく参照光との干渉を容易に測定することができる。
【0068】
上記低コヒーレンス光を使用した光源としては、例えばSLD(Super Luminescent Diode)、LED、高輝度ランプ(タングステンランプ、キセノンランプなど)、超広帯域波長光源等を使用することができる。これらの低コヒーレンス光源の中でも、輝度の高いSLD(波長、例えば1300nm)を光源として用いることが好ましい。
【0069】
上記光干渉システム1における参照光は、コリメータ240,250,260、270及び271から出力され、載置台39から測定対象物であるウエハW、フォーカスリング290及び対向電極110へ出力される。
【0070】
以上、基板処理装置100に光干渉システム1を搭載することで、ウエハW、フォーカスリング290及び対向電極110の厚さ及び温度を計測できる。なお、処理室内に収容されているフォーカスリング290又は対向電極110等のチャンバ内パーツを測定対象物とする場合には、測定光に対して透過性を有する材質でチャンバ内パーツを形成する。例えば、チャンバ内パーツの材質として、シリコン、石英又はサファイア等が用いられる。
【0071】
また、上述した実施形態では、測定対象物13A,13Bを測定する例を説明したが、測定対象物13A,13Bの温度を介して、最終的に測定したい測定物の温度を計測してもよい。例えば、
図15に示すように、最終的に測定したい測定物51上に測定対象物13Aを熱伝導性に優れた接着剤等で取り付け、測定対象物13Aに光を照射して温度計測することで、測定物51の温度を推定してもよい。
【0072】
また、上述した実施形態では、光サーキュレータ11を備える例を説明したが、2×1又は2×2のフォトカプラであってもよい。
【0073】
また、上述した実施形態では、基板処理装置が複数のコリメータを備える例を説明したが、コリメータは1つであってもよい。
【0074】
また、上述した実施形態では、光干渉システム1が測定対象物13A,13Bの温度を測定する場合を例に説明したが、光路長n・dから厚さを測定してもよい。
【実施例】
【0075】
以下、上記効果を説明すべく本発明者が実施した実施例及び比較例について述べる。
【0076】
(多点同時温度計測におけるピーク変化の確認)
複数の測定点をFFT周波数領域法にて同時に測定する場合には、干渉スペクトラムの1つのFFTピークの変化が他のFFTピークへ影響を与えないことが重要である。このため、測定対象物13Aとして300μmの厚さのウエハ、測定対象物13Bとして770μmの厚さのウエハを用意し、
図16の(A)に示すように、770μmの厚さのウエハのみ温度を上昇させ、その後300μmの厚さのウエハと同一の温度まで低下させた。光計測システム1で計測した結果を
図16の(B)に示す。
図16の(B)に示すように、300μmの厚さのウエハに起因するピーク(範囲P1)においては温度に違いがあっても差異が見られず、770μmの厚さのウエハに起因するピーク(範囲P2)においては温度の違いによってピークが変動していることが確認された。すなわち、それぞれのピークは独立しており、別個に温度測定が可能であることが示された。
【0077】
(強度増大効果の確認)
(実施例1)
図1に示す光干渉システム1にて反射スペクトラムを計測した。測定対象物13Aとして300μmの厚さのウエハ、測定対象物13Bとして770μmの厚さのウエハを用いた。
(比較例1)
図1に示す光干渉システム1のコリメータ42及びミラー43に替えて、反射防止膜が施されたキャップを取り付けたシステムを用いて、反射スペクトラムを計測した。測定対象物13Aとして300μmの厚さのウエハ、測定対象物13Bとして770μmの厚さのウエハを用いた。
(比較例2)
比較例1の測定結果の強度を1.17倍した。
【0078】
実施例1及び比較例1の測定結果及び比較例2の計算結果を
図17に示す。
図17に示すように、実施例1の光強度は、比較例1に比べて大きな光強度となることが確認された。さらに、実施例1の光強度と比較例2の光強度はほぼ同一であり、約17%増大するという理論を実証することができた。
【0079】
図18は、
図17の実施例1及び比較例1の計測結果の横軸を1/λ変換し、その後FFTを行うことで得られたスペクトルである。範囲P1におけるピークは、300μmの厚さのウエハの温度情報を求める時に使用するピークであり、範囲P2におけるピークは、770μmの厚さのウエハの温度情報を求める時に使用するピークである。
図18に示すように、実施例1は比較例1に比べてΔIの強度の増加が確認された。ΔIは約28%であった。また、範囲SP1,SP2におけるピークは、ミラー挿入によるサブピークであるが、温度情報を求める時に使用するピークには影響しないことが確認された。
【0080】
図19は、実施例1及び比較例1について、ピーク強度の安定性を評価した結果であり、横軸がピーク強度、縦軸が安定性3σ(℃)である。安定性は3σ法にて求めた。実施例1の安定性をX
A、比較例1の安定性をX
Bで示す。
図19に示すように、実施例1は比較例1に比べて安定性が約15%改善された。