特許第5993308号(P5993308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993308
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】感覚改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/00 20060101AFI20160901BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20160901BHJP
   A23K 10/00 20160101ALI20160901BHJP
【FI】
   A61K37/02
   A61P25/02 101
   A61K37/18
   A23K10/00
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-554720(P2012-554720)
(86)(22)【出願日】2012年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2012050617
(87)【国際公開番号】WO2012102100
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2014年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2011-14441(P2011-14441)
(32)【優先日】2011年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健
(72)【発明者】
【氏名】上田 典子
(72)【発明者】
【氏名】上野 宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中畑 則道
(72)【発明者】
【氏名】守屋 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 大策
【審査官】 山中 隆幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−151331(JP,A)
【文献】 特開2007−246413(JP,A)
【文献】 特表平07−507799(JP,A)
【文献】 特表平07−501340(JP,A)
【文献】 特開2003−204785(JP,A)
【文献】 特表2004−502788(JP,A)
【文献】 特開平02−288897(JP,A)
【文献】 特表2009−514804(JP,A)
【文献】 特表2010−538020(JP,A)
【文献】 特開平05−032557(JP,A)
【文献】 特開2008−214265(JP,A)
【文献】 梅垣修三,基礎と臨床,1983年,Vol.17, No.1,p.334-338
【文献】 Pouliot Y, et al.,International Dairy Journal,2006年,Vol.16,p.1415-1420
【文献】 寺田 雅彦等,現代医療,1998年,Vol.30(増III),p.63(2477)-72(2486)
【文献】 MANNI, L. et al.,British Journal of Pharmacology,2000年,Vol.129,p.744-750
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 37/00
A61P 25/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とし、
前記乳由来塩基性タンパク質画分が、そのアミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を15重量%以上含有している画分である末梢感覚改善剤。
【請求項2】
前記乳由来塩基性タンパク質画分は、
前記乳由来塩基性タンパク質画分の全重量基準で、95重量%以上のタンパク質と、脂肪と、灰分とを含み、
前記タンパク質が、ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)換算分子量が3,000〜80,000範囲の数種のタンパク質よりなり、主としてラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼを含み、
前記タンパク質のアミノ酸組成が、塩基性アミノ酸を、前記タンパク質の全重量基準で15重量%以上含有することを特徴とする請求項1記載の末梢感覚改善剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の乳由来塩基性タンパク質画分にタンパク質分解酵素を作用させて得られる乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする末梢感覚改善剤。
【請求項4】
前記タンパク質分解酵素がペプシン、トリプシン、キモトリプシン及びパンクレアチンよりなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解酵素である請求項3記載の末梢感覚改善剤。
【請求項5】
前記末梢感覚改善剤が、温度感覚および痛覚の少なくともいずれか一方の改善効果を備える請求項1乃至4のいずれかに記載の末梢感覚改善剤。
【請求項6】
乳または乳由来の原料を陽イオン交換樹脂に接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、
前記樹脂に吸着した画分を塩濃度0.1M〜1.0Mの溶出液で溶出して得られる乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とする末梢感覚改善剤の製造方法。
【請求項7】
乳または乳由来の原料を陽イオン交換樹脂に接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、
前記樹脂に吸着した画分を塩濃度0.1M〜1.0Mの溶出液で溶出して得られる乳由来塩基性タンパク質画分を得て、
前記乳由来塩基性タンパク質画分にタンパク質分解酵素を作用させて得られる乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする末梢感覚改善剤の製造方法。
【請求項8】
前記タンパク質分解酵素がペプシン、トリプシン、キモトリプシン及びパンクレアチンよりなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解酵素である請求項7記載の末梢感覚改善剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質画分または乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合した末梢感覚改善用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性タンパク質画分または塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする、末梢神経の鈍化を改善する効果を有する感覚改善剤、及びこの感覚改善剤を配合した感覚改善用飲食品又は飼料、化粧品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化にともない、骨粗しょう症や認知症等、加齢による疾患の増加が社会的問題となっている。そのため、このような加齢にともなう疾患を予防または改善するために、様々な医薬品が開発されている。しかしながら、医薬品は常に副作用を考慮に入れる必要があることから、近年では、食生活の見直しや、特定の食品成分の摂取によって、加齢にともなう疾患を予防または改善しようとする試みがなされている。例えば、骨粗しょう症に対しては、牛乳に含まれる塩基性タンパク質の摂取により、当該疾患を予防または改善することが知られている(特許文献1)。また、牛乳中に比較的多く含まれるリン脂質であるスフィンゴミエリンを有効成分とするアルツハイマー型記憶障害を予防あるいは改善する記憶障害予防治療剤が知られている(特許文献2)。
【0003】
加齢に伴う症状の一つとして、末梢での感覚の鈍化が挙げられるが、この末梢での感覚の鈍化は、加齢だけでなく、糖尿病等の疾患によっても生じる。末梢での感覚の鈍化は、例えば、熱いものに触れたときに、正しく熱いと感じることができず、火傷等の危険性が高まることや、痛覚の鈍化により怪我の発見が遅れるといった問題を生じさせる。近年、こういった危険性を回避するため、加齢や疾患による末梢での感覚の鈍化を改善させる研究が進められている。例えば、外因性のセラミドや内因性のセラミドの生合成を増加させる効果のある酵素であるスフィンゴミエリナーゼやホスファチジルコリン特異的ホスホリパーゼCは、株化繊維芽細胞3T3細胞を介した神経モデル細胞であるP−12細胞の分化を促進することが報告されている(非特許文献1)。しかし、上述のセラミドや酵素は食品成分ではないことから、その使用に際しては安全性を検討する必要がある。このような状況の下、より安全で、日常的な摂取あるいは皮膚への塗布によって、末梢での感覚の鈍化を改善する効果のある剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8-151331号公報
【特許文献2】特開2003−146883号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】コスメトロジー研究報告 (2002) 第10号;中畑則道、大久保聡子:皮膚保護作用を有するセラミドの生理作用発現機構に関する研究
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、安全で、日常的に摂取あるいは皮膚への塗布により、末梢での感覚の鈍化を改善する効果を示す感覚改善剤を提供することを課題とする。また、本発明は、経口摂取や皮膚への塗布により末梢での感覚の鈍化を改善する効果を示す感覚改善用飲食品又は飼料、化粧品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、これらの問題点を鑑み、安全で、感覚の鈍化に対して優れた改善効果を示す成分について鋭意探索を進めたところ、乳由来の塩基性タンパク質画分(以下、「乳由来塩基性タンパク質画分」という。)あるいは乳由来塩基性タンパク質画分をタンパク質分解酵素で分解して得られる塩基性タンパク質画分分解物(以下、「乳由来塩基性タンパク質画分分解物」という)を経口摂取、あるいは皮膚に直接塗布することにより、感覚、特に末梢での感覚の鈍化を改善できることを見出した。そこで、この乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分として使用することによって感覚改善剤を完成させるに至った。また、この感覚改善剤を飲食品や飼料等に配合して感覚改善用飲食品又は飼料、化粧品とすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
(1)乳由来塩基性タンパク質画分を有効成分とする感覚改善剤。
(2)前記乳由来塩基性タンパク質画分が、そのアミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を15重量%以上含有している画分である(1)の感覚改善剤。
(3)前記乳由来塩基性タンパク質画分が、乳または乳由来の原料を陽イオン交換樹脂に接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、この樹脂に吸着した画分を塩濃度0.1M〜1.0Mの溶出液で溶出して得られる画分である(1)乃至(2)記載の感覚改善剤。
(4)(1)及至(3)のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質画分にタンパク質分解酵素を作用させて得られる乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする感覚改善剤。
(5)前記タンパク質分解酵素がペプシン、トリプシン、キモトリプシン及びパンクレアチンよりなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解酵素である(4)記載の感覚改善剤。
(6)(1)及至(5)のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質画分または乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合した感覚改善用飲食品又は飼料、化粧品。
(7)乳由来塩基性タンパク質画分を含有する組成物を経口投与または皮膚への塗布により哺乳動物の感覚を改善する方法。
(8)前記乳由来塩基性タンパク質画分が、そのアミノ酸組成中に塩基性アミノ酸を15重量%以上含有している画分である(7)の方法。
(9)前記乳由来塩基性タンパク質画分が、乳または乳由来の原料を陽イオン交換樹脂に接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、この樹脂に吸着した画分を塩濃度0.1M〜1.0Mの溶出液で溶出して得られる画分である(7)又は(8)記載の方法。
(10)(7)及至(9)のいずれかに記載の乳由来塩基性タンパク質画分にタンパク質分解酵素を作用させて得られる乳由来塩基性タンパク質画分分解物を含有する組成物を経口投与または皮膚への塗布により哺乳動物の感覚を改善する方法。
(11)前記タンパク質分解酵素がペプシン、トリプシン、キモトリプシン及びパンクレアチンよりなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質分解酵素である(10)記載の感覚改善剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とする感覚改善剤や、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合した感覚改善用飲食品又は飼料、化粧品を提供することができる。本発明の感覚改善剤は、末梢での感覚の鈍化を改善する効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴は、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を有効成分とすることにある。この乳由来塩基性タンパク質画分は、牛乳、人乳、山羊乳、羊乳など哺乳類の乳から得られるものであり、また、この乳由来塩基性タンパク質画分分解物は、乳由来塩基性タンパク質画分にタンパク質分解酵素を作用させて得ることができるものである。この乳由来塩基性タンパク質画分は、後述するように次の性質を有している。
1) ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によると分子量 3,000〜80,000範囲の数種のタンパク質よりなる。
2) 95重量%以上がタンパク質であって、その他少量の脂肪、灰分を含む。
3) タンパク質は主としてラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼよりなる。
4) タンパク質のアミノ酸組成は、リジン、ヒスチジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸を15重量%以上含有する。
【0011】
このような塩基性タンパク質画分は、例えば、脱脂乳や乳清などの乳原料を陽イオン交換樹脂と接触させて塩基性タンパク質を吸着させ、この樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を0.1M〜1Mの塩濃度の溶出液で溶出し、この溶出画分を回収して、逆浸透(RO)膜や電気透析(ED)法などにより脱塩及び濃縮し、必要に応じて乾燥することにより得ることができる。
また、本発明の乳由来塩基性タンパク質画分を得る方法としては、乳または乳由来の原料を陽イオン交換体に接触させて塩基性タンパク質を吸着させた後、この陽イオン交換体に吸着した塩基性タンパク質画分を、pH5を越え、イオン強度0.5を越える溶出液で溶出して得る方法(特開平5−202098号公報)、アルギン酸ゲルを用いて得る方法(特開昭61−246198号公報)、無機の多孔性粒子を用いて乳清から得る方法(特開平 1−86839号公報)、硫酸化エステル化合物を用いて乳から得る方法(特開昭63−255300号公報)などが知られており、本発明では、このような方法で得られた塩基性タンパク質画分を用いることができる。また、乳由来塩基性タンパク質画分分解物は、乳由来塩基性タンパク質画分と同様のアミノ酸組成を有しており、例えば、上記の方法で得られた乳由来塩基性タンパク質画分にペプシン、トリプシン、キモトリプシンなどのタンパク質分解酵素を作用させ、さらに必要に応じ、パンクレアチンなどのタンパク質分解酵素を作用させることにより、平均分子量 4,000以下のペプチド組成物として得ることができる。
【0012】
本発明の感覚改善剤は、上記の乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物をそのまま感覚改善剤として用いることも可能であるが、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物の他に、糖類や脂質、タンパク質、ビタミン類、ミネラル類、フレーバー等、他の医薬品、飲食品や飼料に通常使用する原材料等を混合することや、さらに常法に従い粉末剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤などに製剤化することも可能である。また、塗布剤としては、乳液、クリーム、ローション、パックなど通常の塗布形態で用いることができる。これらの塗布剤は常法により製造し、本発明の有効成分である乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物をその製造過程で適宜配合すればよく、化粧品としての使用も可能である。また、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物に加えて、他の感覚改善効果を示す成分、例えばセラミドやスフィンゴミエリナーゼ、スフィンゴミエリン等を共に使用することも可能である。本発明の感覚改善剤の有効量としては、後述するマウスでの試験において、体重1kgあたり乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg以上、好ましくは20mg以上経口摂取させることにより、末梢での感覚が改善することから、通常、成人一人一日あたり、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg以上、好ましくは20mg以上摂取することにより感覚、特に、末梢での感覚の鈍化の改善が期待できるので、この必要量を確保できるようにすればよい。また、皮膚へ塗布する場合、皮膚塗布剤の総量を基準として、0.001〜40重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。
【0013】
本発明の感覚改善用飲食品としては、通常の飲食品、例えばヨーグルト、乳飲料、ウエハース、デザート等に乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合すればよい。これらの感覚改善用飲食品については、成人一人一日あたり、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg以上摂取させるために、飲食品の形態にもよるが飲食品100gあたり乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を0.5〜2000mg配合することが好ましい。また、本発明の感覚改善用飼料は、通常の飼料、例えば家畜用飼料やペットフード等に乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合すればよい。たとえばこれらの飼料について、一日あたり、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合する場合、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg以上摂取させるために飼料100gあたり乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を0.5〜2000mg配合することが好ましい。
【0014】
本発明では、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を配合する方法に特に制限はないが、例えば、溶液中で添加、配合するには、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を脱イオン水に懸濁あるいは溶解し、撹拌混合した後、医薬品、飲食品や飼料の形態に調製して使用する。撹拌混合の条件としては、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物が均一に混合されればよく、ウルトラディスパーサーやTKホモミクサー等を使用して撹拌混合することも可能である。また、当該組成物の溶液は、医薬品、飲食品や飼料に使用しやすいように、必要に応じて、RO膜等での濃縮や、凍結乾燥して使用することができる。本発明では、医薬品、飲食品や飼料の製造に通常使用される殺菌処理が可能であり、粉末状であっては乾熱殺菌も可能である。従って、本発明の乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を含有する液状、ゲル状、粉末状、顆粒状等様々な形態の医薬品、飲食品や飼料を製造することができる。
【0015】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
陽イオン交換樹脂のスルホン化キトパール(富士紡績株式会社製)400gを充填したカラム(直径5cm×高さ30cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに未殺菌脱脂乳40リットル(pH6.7)を流速25ml/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、0.98M塩化ナトリウムを含む0.02M炭酸緩衝液(pH7.0)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を逆浸透(RO)膜により脱塩して、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の乳由来塩基性タンパク質画分21gを得た(実施例品1)。得られた乳由来塩基性タンパク質画分について、ソジウムドデシルサルフェート−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により測定したところ、分子量は 3,000〜80,000の範囲に分布しており、成分組成は表1に示すとおりであった。また、6N塩酸で110℃、24時間加水分解した後、アミノ酸分析装置(L−8500型、日立製作所製) でそのアミノ酸組成を分析した結果を表2に示した。また、ELISA法により、そのタンパク質組成を分析したところ、表3に示すように、40%以上のラクトフェリン及びラクトパーオキシダーゼが含まれていた。なお、得られた塩基性タンパク質画分は、そのまま本願発明の感覚改善剤として使用可能である。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【実施例2】
【0020】
陽イオン交換樹脂のSPトーヨーパール(東ソー株式会社製)30kgを充填したカラム(直径100cm×高さ10cm)を脱イオン水で十分洗浄した後、このカラムに121℃で30秒間加熱殺菌したチーズホエー3t(pH6.2)を流速10リットル/minで通液した。通液後、このカラムを脱イオン水で十分洗浄し、0.9M塩化ナトリウムを含む0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.7)で樹脂に吸着した塩基性タンパク質画分を溶出した。そして、この溶出液を電気透析(ED)法により脱塩し、濃縮した後、凍結乾燥して粉末状の乳由来塩基性タンパク質画分183gを得た(実施例品2)。得られた乳由来塩基性タンパク質画分はそのまま本願発明の感覚改善剤として使用可能である。
【実施例3】
【0021】
実施例1で得られた乳由来塩基性タンパク質画分50gを蒸留水10リットルに溶解した後、1%パンクレアチン(シグマ社製)を添加し、37℃で2時間反応させた。反応後、80℃で10分間加熱処理して酵素を失活させた後、乳由来塩基性タンパク質画分分解物48.3gを得た(実施例品3)。得られた乳由来塩基性タンパク質画分分解物はそのまま本願発明の感覚改善剤として使用可能である。
【0022】
[試験例1]
(細胞分化促進活性の確認)
皮膚に存在することが知られている繊維芽細胞の細胞株である3T3細胞を、実施例品1および実施例品3を0.03から1%の濃度で添加した状態で、2日間培養した(実施例品1:A群、実施例品3:B群)。また、対照として、3T3細胞を、実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分および実施例品3の乳由来塩基性ペプチド質画分を添加しないで2日間培養した(C群)。それら培養上清を用いて神経のモデル細胞であるPC−12細胞を培養し、PC−12細胞の形態的な分化を観察した。
【0023】
その結果、A群およびB群の培養上清は、どちらもPC−12細胞を強く分化させた。また、この実験を数回繰り返し、分化の割合を光学顕微鏡下で観察した結果、A群、B群ともに95%以上の細胞に分化が認められた。一方、C群の培養上清は、PC−12細胞を分化させず、数回の繰り返し実験における光学顕微鏡下の観察において、まったく分化は認められなかった。このことから、実施例1の乳由来塩基性タンパク質画分および実施例3の乳由来塩基性タンパク質画分分解物が、神経のモデル細胞であるPC−12細胞の分化を促進することがわかった。
【0024】
[試験例2]
(動物実験による感覚改善効果の確認)
Woolfe, MacDonaldらが開発した熱刺激に対する行動学的研究法であるホットプレート試験にて熱刺激による感覚改善効果を評価した。24週齢のヘアレスマウス(Hos:HR−1)を10匹ずつ3群に分けた。実施例品2の乳由来塩基性タンパク質画分をマウス体重1kgあたりそれぞれ0mg、10mg、20mgになるよう1日1回ゾンデで経口投与して4週間飼育した。投与終了時に54℃のホットプレートにマウスを置き、マウスがホットプレートから足を離す、立ち上がる、ジャンプするなどの逃避行動までの時間を測定した。その際、熱刺激から逃避行動に移るまでの時間(逃避行動陽性反応時間)の最長時間を30秒に設定し、逃避行動陽性反応時間が30秒以上の場合、当該時間は30秒とした。その結果を表4に示す。
【0025】
【表4】
【0026】
表4に示したように、実施例品2の乳由来塩基性タンパク質画分を10mg摂取することにより、逃避行動陽性反応時間が短縮する傾向が認められ、20mgでは明らかに短縮した。このことから、実施例品2の乳由来塩基性タンパク質画分を摂取することにより感覚、特に、末梢での感覚の鈍化を予防・改善できることがわかった。
【0027】
[試験例3]
(経口摂取による感覚改善効果の確認)
手の感覚の鈍化を感じている健康な高齢者(平均年齢75±3歳)を10名ずつ、5群に分けた。それぞれを、乳由来塩基性タンパク質画分および乳由来塩基性タンパク質画分を摂取しない群(A群)、実施例1の乳由来塩基性タンパク質画分を10mg摂取する群(B群)、20mg摂取する群(C群)、実施例3の乳由来塩基ペプチド画分を10mg摂取する群(D群)、20mg摂取する群(E群)とし、6週間摂取してもらった。摂取前と6週間の摂取終了後に表在知覚計アルゲジオメーター(インタークロス社製)を用い、上腕内側の痛覚を基準として手掌と足底土踏まずの痛覚を使用方法に基づき正常、低下I〜IIIの計4段階で測定した。また、6週間の摂取終了後に、それぞれの高齢者に、手の感覚の改善についてアンケート調査を実施した。その結果を表5、6、7、8に示す。
【0028】
(測定方法)
・5種類の太さの違うピンと5つの支点位置で痛覚を評価した。まず、最も細い1pinを上腕内側に転がし、正常な痛覚の度合いを被験者に確認した。
・次に、手掌と足底に1pinにてホルダを持つ支点の位置を順に変えて転がし、最初に感じた痛覚と同程度の痛みを感じる支点の位置を探した。
(評価方法)
アルゲジオメーターは上腕内側で1pin(支点50g)を転がした場合と、手掌での2pin(50g)で同じ痛みを生じる様に設計されており、使用方法に基づき、以下のように評価した。また、痛みの評価に点数をつけ、平均値を算出した。
2pin(50g)で同じ痛みであれば、正常(0点)
1pin(50g)で同じ痛みであれば、低下I(1点)
1pin(60g)で同じ痛みであれば、低下II(2点)
1pin(70g)で同じ痛みであれば、低下III(3点)
【0029】
【表5】
【0030】
【表6】
【0031】
【表7】
【0032】
【表8】
【0033】
表5乃至8示したように、実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分および実施例品3の乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg摂取することにより、手、足底の感覚が改善する傾向が認められ、20mgでは明らかに改善した。通常、成人一人一日あたり、乳由来塩基性タンパク質画分あるいは乳由来塩基性タンパク質画分分解物を10mg以上、好ましくは20mg以上摂取することにより感覚、特に、末梢での感覚の鈍化を改善の期待できる。
【実施例4】
【0034】
(感覚改善用化粧品(クリーム)の調製)
実施例3で得られた乳由来塩基性タンパク質画分分解物(実施例品3)を使用し、表9に記載される割合で原料を混合し、感覚改善用化粧品(クリーム)を製造した。
【0035】
【表9】
【0036】
[試験例4]
(皮膚への塗布による感覚改善効果試験)
手の感覚の鈍化を感じている健康な高齢者(平均年齢75±3歳)を15名ずつ、A群、B群の2群に分けた。A群では実施例品4と同様の方法で製造した、感覚改善剤を含まない化粧品(クリーム)を、B群では、実施例品4の感覚改善用化粧品(クリーム)を1日1回手と足の全体へ塗布した。塗布期間は6週間とし、塗布前と6週間の塗布終了後に表在知覚計アルゲジオメーター(インタークロス(株)社製)を用い、上腕内側の痛覚を基準として手掌と足底土踏まずの痛覚を使用方法に基づき正常、低下I〜IIIの計4段階で測定した。また、6週間の塗布終了後に、被験者それぞれに、手の感覚の改善についてアンケート調査を実施した。その結果を表10、11、12、13に示す。なお、測定方法については試験例3と同様に行った。
【0037】
【表10】
【0038】
【表11】
【0039】
【表12】
【0040】
【表13】
【0041】
表10乃至13に示したように、実施例品4の感覚改善用化粧品(クリーム)を塗布することにより、手、足底の感覚が改善する傾向が認められた。このことから、本発明の感覚改善剤を含有するクリームを塗布することで、感覚、特に、末梢での感覚の鈍化を改善の期待できることがわかった。
【実施例5】
【0042】
(感覚改善用液状栄養組成物の調製)
実施例品1の乳由来塩基性タンパク質画分5gを4995gの脱イオン水に溶解し、TKホモミクサー(TK ROBO MICS;特殊機化工業社製)にて、6000rpmで30分間撹拌混合して塩基性タンパク質画分100mg/100gの塩基性タンパク質画分溶液を得た。この乳由来塩基性タンパク質画分溶液5.0kgに、カゼイン4.0kg、大豆タンパク質5.0kg、魚油1.0kg、シソ油3.0kg、デキストリン18.0kg、ミネラル混合物6.0kg、ビタミン混合物1.95kg、乳化剤2.0kg、安定剤4.0kg、香料0.05kgを配合し、200mlのレトルトパウチに充填し、レトルト殺菌機(第1種圧力容器、TYPE:RCS−4CRTGN、日阪製作所社製)で121℃、20分間殺菌して、本発明の感覚改善用液状栄養組成物50kgを製造した。このようにして得られた感覚改善用液状栄養組成物には、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この感覚改善用液状栄養組成物には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が10mg含まれていた。
【実施例6】
【0043】
(感覚改善用ゲル状食品の調製)
実施例品2の乳由来塩基性タンパク質画分2gを708gの脱イオン水に溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。この溶液に、ソルビトール40g、酸味料2g、香料2g、ペクチン5g、乳清タンパク質濃縮物5g、乳酸カルシウム1g、脱イオン水235gを添加して、撹拌混合した後、200mlのチアパックに充填し、85℃、20分間殺菌後、密栓し、本発明の感覚改善用ゲル状食品5袋(200g入り)を調製した。このようにして得られた感覚改善用ゲル状食品には、すべて沈殿等は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この感覚改善用ゲル状食品には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分が200mg含まれていた。
【実施例7】
【0044】
(感覚改善用飲料の調製)
酸味料2gを706gの脱イオン水に溶解した後、実施例品3の乳由来塩基性タンパク質画分分解物4gを溶解し、ウルトラディスパーサー(ULTRA−TURRAX T−25;IKAジャパン社製)にて、9500rpmで30分間撹拌混合した。マルチトール100g、還元水飴20g、香料2g、脱イオン水166gを添加した後、100mlのガラス瓶に充填し、95℃、15秒間殺菌後、密栓し、感覚改善用飲料10本(100ml入り)を調製した。このようにして得られた感覚改善用飲料には、すべて沈殿は認められず、風味に異常は感じられなかった。なお、この感覚改善用飲料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分分解物が400mg含まれていた。
【実施例8】
【0045】
(感覚改善用飼料の調製)
実施例品3の乳由来塩基性タンパク質画分分解物2kgを98kgの脱イオン水に溶解し、TKホモミクサー(MARKII 160型;特殊機化工業社製)にて、3600rpmで40分間撹拌混合して乳由来塩基性タンパク質画分分解物を2g/100g含有する乳由来塩基性タンパク質画分分解物溶液を得た。この乳由来塩基性タンパク質画分分解物溶液10kgに大豆粕12kg、脱脂粉乳14kg、大豆油4kg、コーン油2kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14kg、小麦粉9kg、ふすま2kg、ビタミン混合物5kg、セルロース2.8kg、ミネラル混合物2kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、本発明の感覚改善用イヌ飼育飼料100kgを製造した。なお、この感覚改善用イヌ飼育飼料には、100gあたり、乳由来塩基性タンパク質画分分解物が200mg含まれていた。
【実施例9】
【0046】
(感覚改善剤(錠剤)の調製)
表14に示す配合で原料を混合後、常法1gに成型、打錠して本発明の感覚改善剤を製造した。なお、この感覚改善剤1g中には、乳由来塩基性タンパク質画分が100mg含まれていた。
【0047】
【表14】
【実施例10】
【0048】
(感覚改善用化粧品(ローション)の調製)
表15に記載される割合で原料を混合し、感覚改善用化粧品(ローション)を製造した。
【0049】
【表15】