特許第5993327号(P5993327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5993327セルロースアセテートブチレートフィルム、偏光板および液晶表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993327
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】セルロースアセテートブチレートフィルム、偏光板および液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160901BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20160901BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02F1/1335 510
   C08J5/18CEP
【請求項の数】4
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2013-52808(P2013-52808)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-178518(P2014-178518A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 功
(72)【発明者】
【氏名】遠山 浩史
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−177018(JP,A)
【文献】 特開2010−215878(JP,A)
【文献】 特開2006−044143(JP,A)
【文献】 特開2012−067272(JP,A)
【文献】 特開2012−027103(JP,A)
【文献】 特開2006−117714(JP,A)
【文献】 特開2012−181536(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114884(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1335− 1/13363
C08J 5/00 − 5/22
B32B 1/00 − 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(II)を満たすセルロースアセテートブチレートと、該セルロースアセテートブチレートに対し、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも1種の重縮合エステルを10〜50質量%の割合で含み、前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対するテレフタル酸残基比率が50mol%以上70mol%以下であるセルロースアセテートブチレートフィルムを延伸時の残留溶媒量が10質量%以下のときに、50℃〜90℃で延伸する、厚さ20〜60μmのセルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法;
式(II) 0.4≦B≦2.0
式(II)中、Bはブチル基の置換度を表す。
【請求項2】
前記延伸後のセルロースアセテートブチレートフィルムを60〜100℃で乾燥することを含む、請求項1に記載のセルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記セルロースアセテートブチレートフィルムが下記要件(3)〜(5)を満たす、請求項1または2に記載のセルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法;
(3)フィルムを水接触試験前後のRth(550)変化量の絶対値が5nm以下である;
(4)フィルムを40℃の純水に16時間浸漬する前後のフィルムの25℃80%相対湿度におけるカールフィッシャー法による平衡含水率変化が0.8質量%以下;
(5)フィルムのRth(550)のばらつきが2nm以下;
但し、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーション(nm)を表す。
【請求項4】
動的粘弾性測定におけるtanδ値が最も大きいピークの半値幅が90℃以内である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースアセテートブチレートフィルム、これを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。特に、偏光板保護フィルムや位相差フィルムなどの光学フィルムとして好ましく用いることができるセルロースアセテートブチレートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、偏光板の保護フィルム等の用途で、セルロースエステルフィルムが用いられている。ここで、特許文献1には、セルロースエステルフィルムに所定の芳香族基含有重縮合エステルを配合することによって、耐透湿性等に優れたフィルムを提供できることを開示している。
また、特許文献2には、セルロースエステルに芳香族カルボン酸と所定の脂肪族ジオールとから得られる重縮合エステルを配合することによって、所定のレターデーションを発現でき、かつ、耐久性にも優れたフィルムを提供できることを開示している。
【0003】
ところで、近年、液晶表示装置では薄膜化の要求が増々高くなっている。従って、液晶表示装置の構成部品である偏光板を薄くすることができれば有益である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−30962号公報
【特許文献2】特開2009−235377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、偏光板を薄膜化する方法として、偏光板の保護フィルムとして用いるセルロースエステルフィルムを薄くすることが考えられる。しかしながら、フィルムを薄膜化すると所定の光学特性が得られにくくなる。
また、近年液晶表示装置のコストダウンのために、液晶セルを組み立てた後、輸送を行い別の場所でセルをパネルに組み込むことが行われている。この時、輸送中や保存中に結露を生じるケースがあり、セルをパネル組み込んだ後に点灯すると、結露した箇所に対応した部分に表示ムラを生じてしまうことが分かった。この点をより詳細に説明する。通常、セルロースアシレートフィルムを含む偏光板が貼合された液晶セルは静電気防止袋に封入して輸送や保存がなされる。図1は静電気防止袋1に、液晶セルを入れた際の偏光板2の状態を示す断面概略図である。
偏光板2は、通常、偏光子3と両側に設けられた偏光板保護フィルムを有する。偏光板保護フィルムとしては、その一方は、例えば、セルロースエステルフィルム4であり、他方は、例えば、位相差フィルムや他の保護フィルム5とすることができる。ここで、上記輸送や保存中に、静電気防止袋1と偏光板2の間に結露水6が溜まってしまう場合がある。結露水は、通常、部分的に溜まるため、偏光板2の表面に、結露水が溜まった部分と溜まっていない部分とが生じる。結露水が溜まった部分では平衡含水率が増加し、パネル点灯後結露水が溜まった部分と溜まっていない部分の間で平衡含水率差に由来する歪み7・7が偏光板2に生じてしまう。そして、本願発明者が検討したところ、この歪みが光学特性に影響を与えることが分かった。また、結露水がたまった部分では厚さ方向の位相差も変化することが分かった。これらの影響により正面および斜め方向からの表示ムラを生じる。
本願発明は、かかる問題点を解決することを目的としたものであって、厚さが薄いセルロースエステルフィルムであって、液晶表示装置に組み込んだ時に、結露による正面および斜め方向からの表示ムラの生じにくいフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本願発明者が鋭意検討を行った結果、平衡含水率変化を下げるために、セルロースエステルフィルムの主成分としてセルロースアセテートブチレートを用いることを検討した。さらに、薄いフィルムにおいて、所定の光学特性を達成するために、セルロースアセテートブチレートとの相溶性が高く、疎水的な重縮合エステルを配合することによって、厚さが薄いセルロースエステルフィルムであって、結露ムラの生じにくいフィルムを提供することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
具体的には、下記手段<1>により、好ましくは<2>〜<10>より上記課題は解決された。
<1>下記要件(1)〜(5)を満たす、セルロースアセテートブチレートフィルム;
(1)セルロースアセテートブチレート100質量部に対し、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも1種の重縮合エステルを10〜50質量部の割合で含む;
(2)フィルムの膜厚が20〜60μmである;
(3)フィルムを水接触試験前後のRth(550)変化量の絶対値が5nm以下である;
(4)フィルムを40℃の純水に16時間浸漬する前後のフィルムの25℃80%相対湿度におけるカールフィッシャー法による平衡含水率変化が0.8質量%以下;
(5)フィルムのRth(550)のばらつきが2nm以下;
但し、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーション(nm)を表す;
<2>前記重縮合エステル中の全てのジカルボン酸残基に対するテレフタル酸残基比率が40mol%以上である、<1>のセルロースアセテートブチレートフィルム。
<3>動的粘弾性測定におけるtanδ値が最も大きいピークの半値幅が90℃以内である、<1>または<2>のセルロースアセテートブチレートフィルム。
<4>前記セルロースアセテートブチレートは、式(II)の関係を満たす、<1>〜<3>のいずれかのセルロースアセテートブチレートフィルム。
(II):0.4≦B≦2.0
(式(II)中、Bはブチル基の置換度を表す。)
<5>偏光子と、<1>〜<4>のいずれかのセルロースアセテートブチレートフィルムを有する偏光板。
<6>さらに、40℃90%相対湿度24時間の透湿度が100g/m2以下である保護フィルムを有する、<5>の偏光板。
<7><5>または<6>の偏光板を有する液晶表示装置。
<8>セルロースアセテートブチレートと、該セルロースアセテートブチレートに対し、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも1種の重縮合エステルを10〜50質量%の割合で含むフィルムを、50℃〜90℃で延伸することを含む、厚さ20〜60μmのセルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法。
<9>延伸時の残留溶媒量が15質量%以下である、<8>のセルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法。
<10>前記セルロースアセテートブチレートフィルムが、<1>〜<4>のいずれかのセルロースアセテートブチレートフィルムである、<8>または<9>の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、液晶表示装置に組み込んだ時に、結露による正面および斜め方向からの表示ムラの生じにくいセルロースアセテートブチレートフィルムを提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】液晶表示装置を輸送・保存する際に偏光板に結露が発生する状態を示す断面概略図である。
図2】本発明の液晶表示装置の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
尚、本発明のフィルムにおいて、「MD」および「TD」が特定困難な場合もあるが、その場合は矩形状のフィルムの長辺・短辺の一方をMDおよび他方をTDとして任意に決定するものとする。
【0011】
本発明のセルロースアセテートブチレートフィルムは、下記要件(1)〜(5)を満たすことを特徴とする。
(1)セルロースアセテートブチレート100質量部に対し、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも1種の重縮合エステルを10〜50質量部の割合で含む;
(2)フィルムの膜厚が20〜60μmである;
(3)フィルムを水接触試験前後のRth(550)変化量の絶対値が5nm以下である;
(4)フィルムを40℃の純水に16時間浸漬する前後のフィルムの25℃80%相対湿度におけるカールフィッシャー法による平衡含水率変化が0.8質量%以下;
(5)フィルムのRth(550)のばらつきが2nm以下;
但し、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーション(nm)を表す;
【0012】
ここで、セルロースアセテートブチレートフィルムとは、セルロースアセテートブチレートを主成分とするフィルムをいい、通常は、フィルムの90質量%以上がセルロースアセテートブチレートである。本発明では、セルロースアセテートブチレートを用いることにより、フィルムの含水率を下げることができる。
本発明では、上記(1)のとおり、セルロースアセテートブチレート100質量部に対し、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも1種の重縮合エステルを10〜50質量部の割合で含むことにより、フィルムを薄膜化しても所定の光学特性を達成できる。さらに、かかる重縮合エステルは、セルロースアセテートブチレートとの相溶性が高く、疎水的であるので、結露ムラをより効果的に抑制することが可能になる。
【0013】
本発明のフィルムは、上記(3)のとおり、フィルムを水接触試験前後のRth(550)変化量の絶対値が5nm以下である。フィルムが水に接触した後のRth(550)が水に接触する前に比べて大きく変化すると、斜め方向から見た場合の光学的特性(液晶表示装置に組み込んだ時の、斜め方向からの表示性能)にムラが生じるが本発明ではこの点を抑制できる。フィルムの水接触試験前後のRth(550)変化量の絶対値は、さらには、4nm以下とすることができる。このように水接触試験前後のRth(550)変化量の絶対値を小さくする手段としては、上記セルロースアセテートブチレートおよび重縮合エステルを用いること、および、延伸温度を調節すること等が挙げられる。
本発明における水接触試験とは、外側の保護フィルムと偏光子を透過してきた水により、セル側の保護フィルムの厚さ方向の位相差の変化量を見積もる試験である。実験の概要は下記のように行う。
加工したフィルムをガラスに粘着剤を用いて貼合し、25℃60%相対湿度環境で調湿した後、初期状態のフィルムのReとRthを計測する。次に、偏光子の片側のみに保護フィルムを備えた偏光板を作成し、フィルム上に重ねる。偏光板上に水を含んだセルロース製不織布やガーゼなどを置き、フィルム付きガラス・偏光板・ガーゼ全体を防湿フィルムで密閉した後、一定温度で経時させる。所定時間経時させた後、フィルム付きガラスを取り出し、再度25℃60%相対湿度環境下で2h調湿した後フィルムのReとRthを計測する。この測定値と初期状態の測定値の差から位相差変化量を見積もることが出来る。
【0014】
本発明のフィルムは、上記(4)のとおり、フィルムを40℃の純水に16時間浸漬する前後のフィルムの25℃80%相対湿度におけるカールフィッシャー法による平衡含水率変化が0.8質量%以下である。フィルムの平衡含水率変化が大きい場合、結露水が接触した領域が、結露水が接触しなかった領域に対し、パネル点灯時に収縮しやすくなる。この結果、結露水に接触した領域と接触しなかった領域の間に、応力が生じる。この応力が正面から見た場合の光学特性(液晶表示装置に組み込んだ時の、正面方向からの表示性能)にムラを生じさせる。該フィルムの平衡含水率変化は、さらには、0.7質量%以下とでき、よりさらには、0.55質量%以下とできる。このようにフィルムの平衡含水率変化を小さくする手段としては、上記セルロースアセテートブチレートおよび重縮合エステルを用いること、および、延伸温度を調節すること等が挙げられる。
【0015】
本発明のフィルムは、上記(5)のとおり、フィルムのRth(550)のばらつきが2nm以下である。ここで、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向のレターデーション(nm)を表す。本発明のフィルムにおいて、Rth(550)のばらつきを2nm以下とすることによって、セルロースアセテートブチレートの膜内における不均一性を抑制している。すなわち、セルロースアセテートブチレートは、製造工程において、膜内において軟化してしまう場合があるが、これを抑制することによって、Rth(550)のばらつきを2nm以下となる。従って、Rth(550)のばらつきを2nm以下とする手段としては、公知の手段を採用でき、例えば、製造工程における延伸温度等を調整することによって達成できる。
Rth(550)のばらつきとは、フィルムの幅方向及び長手方向の標準偏差を意味しており、光学性能の均一性を表している。
【0016】
以下、本発明の詳細について、説明する。
【0017】
<セルロースアセテートブチレート>
まず、本発明において用いられる特定のセルロースアセテートブチレートについて詳細に記載する。本発明においては異なる2種類以上のセルロースアセテートブチレートを混合して用いても良い。本発明で用いるセルロースアセテートブチレートは、セルロースの水酸基をアセチル基および炭素原子数が4のブチル基で置換して得られたセルロースの混合脂肪酸エステルであって、セルロースの水酸基への置換度が下記数式(I)及び(II)を満たすセルロースアセテートブチレートであることが好ましい。
数式(I):2.5≦A+B≦3.0
数式(II):0.4≦B≦2.0
ここで、式中、A及びBはセルロースの水酸基に置換されているアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bはブチル基の置換度である。
【0018】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアセテートブチレートは、これらの水酸基の一部または全部をアセチル基またはブチル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化されている割合を意味し、2位、3位および6位のそれぞれにおいて、水酸基が100%エステル化されている場合は置換度1であり、2位、3位および6位の全ての水酸基が100%エステル化されている場合は置換度3となる。すなわち置換度の総和(A+B)は、3となる。
本発明では、水酸基のAとBとの置換度の総和(A+B)は、上記式(I)に示すように、2.5〜3.0であり、好ましくは2.6〜2.9であり、特に好ましくは2.60〜2.80である。また、Bの置換度は上記式(II)に示すように、0.4〜2.0であり、好ましくは0.5〜1.9であり、より好ましくは0.6〜1.8である。
A+Bを2.5以上とすることにより、疎水性がより強くなり平衡含水率および含水率変化をより小さくできる。
Bが0.4以上とすることにより、より疎水性になり、平衡含水率および含水率変化が小さくなる。Bを2.0以下とすることにより、フィルムに成型した際の弾性率を向上させることができ、製膜中に縦伸びや巻取りしやすくなり、生産性が向上する。
【0019】
本発明で好ましく用いられるセルロースアセテートブチレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であることが好ましく、セルロースアセテートブチレートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400が更に好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度が該上限値以下であれば、セルロースアセテートブチレートのドープ溶液の粘度が高くなりすぎることがなく流延によるフィルム作製が容易にできるので好ましい。重合度が該下限値以上であれば、作製したフィルムの強度が低下するなどの不都合が生じないので好ましい。粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法{宇田和夫、斉藤秀夫、「繊維学会誌」、第18巻第1号、105〜120頁(1962年)}により測定できる。この方法は特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0020】
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアセテートブチレートの分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜4.0であることがさらに好ましく、2.3〜3.4であることが最も好ましい。
【0021】
<重縮合エステル>
本発明のセルロースアセテートブチレートフィルムは、セルロースアセテートブチレート100質量部に対し、芳香族ジカルボン酸残基および脂肪族ジオール残基を含む少なくとも1種の重縮合エステルを10〜50質量部の割合で含む。
【0022】
本発明に係る重縮合エステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとから、例えば混合して得られる。
ジカルボン酸残基は、芳香族ジカルボン酸残基及び平均炭素数4.0〜5.0の脂肪族ジカルボン酸残基を含むことが好ましい。また、下記に表される芳香族ジカルボン酸残基比率が40mol%〜95mol%であることが好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率(mol%)=〔芳香族ジカルボン酸残基(mol)/(芳香族ジカルボン酸残基(mol)+脂肪族ジカルボン酸残基(mol))〕×100
【0023】
脂肪族ジオール残基の平均炭素数は、脂肪族ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から成る場合は平均炭素数2.5となる。
【0024】
重縮合エステルの数平均分子量は600〜2500であることが好ましく、700〜1800がより好ましく、700〜1250が更に好ましい。重縮合エステルの数平均分子量は600以上であれば揮発性が低くなり、本発明のフィルムの延伸時の高温条件下における揮散によるフィルム故障や工程汚染を生じにくくなる。また、2500以下であればセルロースアセテートブチレートとの相溶性が高くなり、製膜時及び加熱延伸時のブリードアウトが生じにくくなる。
重縮合エステルの数平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて通常の方法で測定することができる。
例えば、カラム(東ソー(株)製 TSKgel Super HZM-H、TSKgel Super HZ4000及びTSKgel Super HZ2000)の温度を40℃として、溶離液としてTHFを用い、流速を0.35ml/minとし、検出をRI、注入量を10μl、試料濃度を1g/lとし、また標準試料としてポリスチレンを用いて行ったものである。
【0025】
本発明のセルロースアセテートブチレートフィルムにおける重縮合エステルの含有量は、セルロースアセテートブチレート100質量部に対し、10〜50質量部であり、15〜40質量部であることが好ましく、15〜30質量部であることが更に好ましい。
【0026】
(芳香族ジカルボン酸残基)
芳香族ジカルボン酸残基は、ジオールと芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−である。
本発明に用いる重縮合エステルの芳香族ジカルボン酸残基比率は40mol%〜95mol%であることが好ましく、45mol%〜70mol%であることがより好ましく、50mol%〜70mol%であることがさらに好ましい。
芳香族ジカルボン酸残基比率を40mol%以上とすることで、より十分な光学異方性を示すセルロースアセテートブチレートフィルムが得られる。また、95mol%以下であればセルロースアセテートブチレートとの相溶性により優れ、セルロースアセテートブチレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトをより生じにくくすることができる。
【0027】
本発明に用いる芳香族ジカルボン酸は、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等を挙げることができる。
重縮合エステルには混合に用いた芳香族ジカルボン酸により芳香族ジカルボン酸残基が形成される。
芳香族ジカルボン酸残基は、平均炭素数が8.0〜12.0であることが好ましく、8.0〜10.0であることがより好ましく、8.0であることが更に好ましい。この範囲であれば、セルロースエステルとの相溶性に優れ、セルロースアセテートブチレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。また、光学用途として光学補償フィルムに用いるに適した異方性を十分に発現し得るセルロースアセテートブチレートフィルムとすることができるため好ましい。
具体的には、芳香族ジカルボン酸残基は、フタル酸残基、テレフタル酸残基、イソフタル酸残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、より好ましくはフタル酸残基、テレフタル酸残基の少なくとも1種を含み、更に好ましくはテレフタル酸残基を含む。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸を用いることで、よりセルロースアセテートブチレートとの相溶性に優れ、セルロースアセテートブチレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいセルロースアセテートブチレートフィルムとすることができる。また、芳香族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよい。2種用いる場合は、フタル酸とテレフタル酸を用いることが好ましい。
フタル酸とテレフタル酸の2種の芳香族ジカルボン酸を併用することにより、常温での重縮合エステルを軟化することができ、ハンドリングが容易になる点で好ましい。
重縮合エステルのジカルボン酸残基中のテレフタル酸残基の含有量は40mol%以上であることが好ましく、40mol%〜70mol%であることがより好ましく、45mol%〜60mol%であることが更に好ましい。
テレフタル酸残基比率を40mol%以上とすることで、十分な光学異方性を示すセルロースアセテートブチレートフィルムが得られる。また、95mol%以下であればセルロースアセテートブチレートとの相溶性に優れ、セルロースアセテートブチレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくくすることができる。
【0028】
(脂肪族ジカルボン酸残基)
重縮合エステルは、芳香族ジカルボン酸残基とともに脂肪族ジカルボン酸残基を有していてもよい。
脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数は、脂肪族ジカルボン酸残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。
また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数は、脂肪族ジオール残基の組成比(モル分率)を構成炭素数に乗じて算出した値とする。例えばエチレングリコール残基50モル%と1,2−プロパンジオール残基50モル%から成る場合は平均炭素数2.5となる。
脂肪族ジカルボン酸残基は、ジオールと脂肪族ジカルボン酸を含むジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジカルボン酸HOOC−R−COOHより形成されるジカルボン酸残基は−OC−R−CO−である。
本発明で好ましく用いられる脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸又は1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
重縮合エステルには混合に用いた脂肪族ジカルボン酸より脂肪族ジカルボン酸残基が形成される。
脂肪族ジカルボン酸残基は、平均炭素数が4.0〜5.0であることが好ましく、4.0〜4.9であることがより好ましく、4.0〜4.8であることが更に好ましい。この範囲であれば、セルロースアセテートブチレートとの相溶性に優れ、セルロースアセテートブチレートフィルムの製膜時及び加熱延伸時においてもブリードアウトを生じにくいため好ましい。
具体的には、コハク酸残基を含むことが好ましく、2種用いる場合は、コハク酸残基とアジピン酸残基を含むことが好ましい。
すなわち、重縮合エステルの形成における混合に、脂肪族ジカルボン酸は1種でも、2種以上を用いてもよく、2種用いる場合は、コハク酸とアジピン酸を用いることが好ましい。
コハク酸とアジピン酸の2種の脂肪族ジカルボン酸を用いることにより、ジオール残基の平均炭素数を少なくすることができ、セルロースアセテートブチレートとの相溶性の点で好ましい。
また、脂肪族ジカルボン酸残基の平均炭素数が4.0未満では合成が困難となるため、使用できない。
【0029】
(脂肪族ジオール)
脂肪族ジオール残基は、脂肪族ジオールと芳香族ジカルボン酸とから得られた重縮合エステルに含まれる。
本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばジオールHO−R−OHより形成されるジカルボン酸残基は−O−R−O−である。
重縮合エステルには、平均炭素数が2.0以上3.0以下の脂肪族ジオール残基を含むことが好ましく、より好ましくは平均炭素数が2.0以上2.8以下であり、さらに好ましくは平均炭素数が2.0以上2.5以下の脂肪族ジオール残基である。脂肪族ジオール残基の平均炭素数を3.0以下とすることにより、セルロースアセテートブチレートとの相溶性を向上させることができ、ブリードアウトがより生じにくくなり、また、化合物の加熱減量が低下し、セルロースアセテートブチレートウェブの乾燥時の工程汚染が原因と考えられる面状故障が発生しにくくなる。また、脂肪族ジオール残基の平均炭素数を2.0以上とすると、合成が容易となる。
本発明に用いられる脂肪族ジオールとしては、アルキルジオール又は脂環式ジオール類を挙げることができ、例えばエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、ジエチレングリコール等があり、これらはエチレングリコールとともに1種又は2種以上の混合物として使用されることが好ましい。
【0030】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、及び1,3−プロパンジオールの少なくとも1種であり、特に好ましくはエチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールの少なくとも1種である。2種用いる場合は、エチレングリコール、及び1,2−プロパンジオールを用いることが好ましい。
重縮合エステルには混合に用いたジオールによりジオール残基が形成される。
ジオール残基はエチレングリコール残基、1,2−プロパンジオール残基、及び1,3−プロパンジオール残基の少なくとも1種を含むことが好ましく、エチレングリコール残基又は1,2−プロパンジオール残基であることがより好ましい。
脂肪族ジオール残基のうち、エチレングリコール残基が20mol%〜100mol%であることが好ましく、50mol%〜100mol%であることがより好ましい。
【0031】
(封止)
重縮合エステルの両末端は封止、未封止を問わない。
両末端が封止されている場合、モノカルボン酸と反応させて封止することが好ましい。このとき、該重縮合エステルの両末端はモノカルボン酸残基となっている。本明細書中では、残基とは、重縮合エステルの部分構造で、重縮合エステルを形成している単量体の特徴を有する部分構造を表す。例えばモノカルボン酸R−COOHより形成されるモノカルボン酸残基はR−CO−である。好ましくは脂肪族モノカルボン酸残基であり、モノカルボン酸残基が炭素数2〜22の脂肪族モノカルボン酸残基であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸残基であることが更に好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
重縮合エステルの両末端のモノカルボン酸残基の炭素数が3以下であると、揮発性が低下し、重縮合エステルの加熱による減量が大きくならず、工程汚染の発生や面状故障の発生を低減することが可能である。
即ち封止に用いるモノカルボン酸類としては脂肪族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸が炭素数2から22の脂肪族モノカルボン酸であることがより好ましく、炭素数2〜3の脂肪族モノカルボン酸であることが更に好ましく、炭素数2の脂肪族モノカルボン酸残基であることが特に好ましい。
例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、安息香酸及びその誘導体等が好ましく、酢酸又はプロピオン酸がより好ましく、酢酸が最も好ましい。
封止に用いるモノカルボン酸は2種以上を混合してもよい。
重縮合エステルの両末端は酢酸又はプロピオン酸による封止が好ましく、酢酸封止により両末端がアセチルエステル残基(アセチル残基と称する場合がある)となることが最も好ましい。
両末端を封止した場合は常温での状態が固体形状となりにくく、ハンドリングが良好となり、また湿度安定性、偏光板耐久性に優れたセルロースアセテートブチレートフィルムを得ることができる。
【0032】
以下の表1に本発明にかかる重縮合エステルの具体例を記すが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【表1】
表中、TPAはテレフタル酸、PAはフタル酸、IPAはイソフタル酸、2,6-NDAは2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,8-NDAは2,8−ナフタレンジカルボン酸、1,4-NDAは1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5-NDAは1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,6-NDAは1,6−ナフタレンジカルボン酸、SAはコハク酸、AAはアジピン酸、PGは1,2−プロピレングリコール、EGはエチレングリコール、Acはアセチル基、Phはフェニル基、を表す。
【0034】
重縮合エステルの合成は、常法によりジオールとジカルボン酸とのポリエステル化反応又はエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。
また、本発明に係る重縮合エステルについては、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0035】
重縮合エステルが含有する原料の脂肪族ジオール、ジカルボン酸エステル、又はジオールエステルのセルロースエステルフィルム中の含有量は、1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましい。ジカルボン酸エステルとしては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジ(ヒドロキシエチル)、アジピン酸ジ(ヒドロキシエチル)、コハク酸ジ(ヒドロキシエチル)等が挙げられる。ジオールエステルとしては、エチレンジアセテート、プロピレンジアセテート等が挙げられる。
本発明で使用される重縮合エステルに含まれるジカルボン酸残基、ジオール残基、モノカルボン酸残基の各残基の種類及び比率はH−NMRを用いて通常の方法で測定することができる。通常、重クロロホルムを溶媒として用いることができる。
重縮合エステルの水酸基価の測定は、日本工業規格 JIS K3342(廃止)に記載の無水酢酸法当を適用できる。重縮合エステルがポリエステルポリオールである場合は、水酸基価が55以上220以下であることが好ましく、100以上140以下であることが更に好ましい。
【0036】
<レターデーション調整剤>
本発明のセルロースアシレートフィルムには、さらにレターデーション調整剤を含んでいてもよい。
レターデーション調整剤としては、特に制限はなく、例えば、特開2003−344655号公報の段落0022〜0057に記載のトリアジン化合物、特開2002−363343号公報の段落0011〜0032に記載の棒状化合物、特開2005−134884の段落0056〜0093及び特開2007−119737号公報の段落0031〜0080に記載の液晶性化合物、特開2010−215879号公報の段落0256、特開2011−69857号公報の段落0026〜0036、特開2012−208173号公報の段落0024〜0078、特開2012−189664号公報の段落0022〜0042、特開2012−123292号公報の段落0023〜0061、特開2011−002633号公報の段落0025〜0055、特開2011−076031号公報の段落0023〜0037等に記載の化合物が挙げられる。
レターデーション調整剤は2種以上を併用して用いることもできる。
【0037】
レターデーション調整剤の添加量はセルロースエステルに対して質量比で0.1%以上30%以下が好ましく、0.5%以上20%以下がより好ましく、1%以上10%以下が更に好ましく、3%以上7%以下が特に好ましい。
【0038】
<その他の添加剤>
本発明のセルロースアセテートブチレートフィルムには、上記の他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で他の添加剤を配合してもよい。具体的には、マット剤、剥離促進剤、特開2006−282979号公報に記載の紫外線吸収剤、特開平3−199201号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載の劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、特開2012−108349に記載の糖誘導体等が例示される。
【0039】
<セルロースアセテートブチレートフィルムの製造方法>
本発明のフィルムは、ソルベントキャスト法により製造することができる。ソルベントキャスト法では、セルロースアセテートブチレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造する。
次に、本発明のセルロースアセテートブチレートが溶解される前記有機溶媒について記述する。
本発明においては、有機溶媒として、塩素系有機溶媒を主溶媒とする塩素系溶媒と塩素系有機溶媒を含まない非塩素系溶媒とのいずれをも用いることができる。2種類以上の有機溶媒を混合して用いても良い。
【0040】
本発明のセルロースアセテートブチレートの溶液を作製するに際しては、主溶媒として塩素系有機溶媒が好ましく用いられる。本発明においては、セルロースアセテートブチレートが溶解し流延、製膜できる範囲において、その目的が達成できる限りはその塩素系有機溶媒の種類は特に限定されない。これらの塩素系有機溶媒は、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは有機溶媒全体量中少なくとも50質量%使用することが必要である。本発明で塩素系有機溶媒と併用される他の有機溶媒について以下に記す。すなわち、好ましい他の有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン、エーテル及びアルコールは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトン及びエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を同時に有していてもよい。二種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0041】
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート及びペンチルアセテート等が挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン及びメチルシクロヘキサノン等が挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール及びフェネトール等が挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール及び2−ブトキシエタノール等が挙げられる。
【0042】
また、塩素系有機溶媒と併用されるアルコールとしては、好ましくは直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール及びシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。更に炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン及びキシレンが含まれる。
その他の溶媒としては、例えば特開2007−140497号公報に記載の溶媒を用いることができる。
【0043】
40℃以上の温度(常温又は高温)で処理することからなる一般的な方法で、セルロースアセテートブチレート溶液を調製することができる。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法及び装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にジクロロメタン)とアルコール(特にメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール及びシクロヘキサノール)を用いることが好ましい。
セルロースアセテートブチレートの量は、得られる溶液中に10乃至40質量%含まれるように調整する。セルロースエステルの量は、10乃至30質量%であることが更に好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0乃至40℃)でセルロースエステルと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧及び加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースエステルと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。また常温で攪拌後に加圧および加熱、または常温で攪拌後に加圧および加熱条件下で攪拌を行うこともできる。
加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60乃至200℃であり、更に好ましくは80乃至120℃、特に好ましくは90乃至115℃である。
【0044】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
また異なる2つ以上の溶液を各々別の容器で調製し、その後に各溶液を混合させてドープを調製してもよい。各溶液ははじめに調製したドープにインライン添加することもできる。
【0045】
<<流延>>
調製したセルロースアセテートブチレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアセテートブチレートフィルムを製造する。ドープには前記の少なくとも2つの芳香環を有する化合物を添加することが好ましい。
ドープは、ドラム又はバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成することができる。流延前のドープは、固形分量が5乃至40%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラム又はバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ドープは、表面温度が30℃以下のドラム又はバンド上に流延することが好ましく、特には−10℃〜20℃の金属支持体温度であることが好ましい。更に特開2000−301555号、特開2000−301558号、特開平07−032391号、特開平03−193316号、特開平05−086212号、特開昭62−037113号、特開平02−276607号、特開昭55−014201号、特開平02−111511号、及び特開平02−208650号の各公報に記載の方法を本発明では用いることができる。
【0046】
<<乾燥>>
セルロースアセテートブチレートフィルムの製造に係わる金属支持体上におけるドープの乾燥は、一般的には金属支持体(ドラム或いはバンド)の表面側、つまり金属支持体上にあるウェブの表面から熱風を当てる方法、ドラム或いはバンドの裏面から熱風を当てる方法、温度コントロールした液体をバンドやドラムのドープ流延面の反対側である裏面から接触させて、伝熱によりドラム或いはバンドを加熱し表面温度をコントロールする液体伝熱方法などがあるが、裏面液体伝熱方式が好ましい。流延される前の金属支持体の表面温度はドープに用いられている溶媒の沸点以下であれば何度でもよい。しかし乾燥を促進するためには、また金属支持体上での流動性を失わせるためには、使用される溶媒の内の最も沸点の低い溶媒の沸点より1〜10℃低い温度に設定することが好ましい。なお、流延ドープを冷却して乾燥することなく剥ぎ取る場合はこの限りではない。
ドープ膜が流延された金属支持体上の温度、金属支持体上に流延されたドープ膜に当てる乾燥風の温度及び風量を調節することによっても、セルロースアセテートブチレートフィルムのRe値及びRth値を調整することができる。特にRth値は金属支持体上における乾燥条件の影響を大きく受ける。金属支持体の温度を高くする、又はドープ膜に当てる乾燥風の温度を高くする、乾燥風の風量を大きくする、つまりドープ膜に与える熱量を大きくすることによりRth値は低くなり、逆に熱量を小さくすることによりRthは高くなる。特に流延直後から剥ぎ取るまでの間の前半部の乾燥がRth値に対して大きく影響を与える。
【0047】
ソルベントキャスト法における乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。バンド又はドラム上での乾燥は空気、窒素などの不活性ガスを送風することにより行なうことができる。
【0048】
得られたフィルムをドラム又はバンドから剥ぎ取り、更に100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラム又はバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0049】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを用いてフィルム化することができる。
2種類以上のドープを用いる方法として、同時積層共流延又は逐次積層共流延を行うこともできる。更に両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フィルム全体の厚みの0.5%〜30%であることが好ましい。
同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましい。また、外層のドープの固形分濃度が、内層のドープの固形分濃度と比較して同等以下であることが好ましく、1質量% 以上低濃度であることがより好ましく、3質量% 以上低濃度であることが更に好ましい。また、外界と接するドープのアルコールの組成比が、内部のドープのアルコールの組成比と比較して同等以上であることが好ましい。外層のドープのアルコール添加量は、内層に対して1.0〜6.0倍であることが好ましく、1.0〜4.0倍であることが更に好ましく、1.0〜3.0倍であることが特に好ましい。
また、二個の流延口を用いて、第一の流延口により支持体に成形したフィルムを剥ぎ取り、支持体面に接していた側に第二の流延を行うことにより、フィルムを作製することもできる。例えば、特公昭44−20235号公報に記載の方法を挙げることができる。
【0050】
流延するセルロースアセテートブチレート溶液は同一の溶液を用いてもよいし、異なるセルロースアセテートブチレート溶液を用いてもよい。複数のセルロースアセテートブチレート層に機能をもたせるために、その機能に応じたセルロースアセテートブチレート溶液を、それぞれの流延口から押し出せばよい。更に本発明のセルロースアセテートブチレート溶液は、他の機能層(例えば、接着層、染料層、帯電防止層、アンチハレーション層、紫外線吸収層、偏光層など)と同時に流延することもできる。
【0051】
従来の単層液では、必要なフィルムの厚さにするためには高濃度で高粘度のセルロースアセテートブチレート溶液を押し出すことが必要である。その場合セルロースアセテートブチレート溶液の安定性が悪くて固形物が発生し、ブツ故障となったり、平面性が不良となったりして問題となることが多かった。この問題の解決方法として、複数のセルロースエステル溶液を複数の流延口から流延することにより、高粘度の溶液を同時に支持体上に押し出すことができ、平面性も良化し優れた面状のフィルムが作製できるばかりでなく、濃厚なセルロースアセテートブチレート溶液を用いることで乾燥負荷の低減化が達成でき、フィルムの生産スピードを高めることができる。
【0052】
<<延伸>>
本発明のフィルムは、延伸処理を行うことが好ましい。積極的に幅方向(搬送方向に対して垂直な方向)に延伸する方法は、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている。フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施することができる。延伸温度は、50〜90℃が好ましく、60〜90℃がより好ましい。本発明では、このような低い温度で延伸するため、レターデーション発現性を向上させることができる。延伸温度を50℃以上とすることで目的の面内レタデーションに到達するまでフィルムの破断無く延伸することが出来、という効果が得られ、延伸温度を90℃以内とすることでフィルムの均一性を保てるという効果が得られる。
【0053】
フィルムの延伸は、搬送方向あるいは幅方向だけの一軸延伸でもよく同時あるいは逐次2軸延伸でもよいが、幅方向により多く延伸することが好ましい。幅方向の延伸は1〜100%の延伸が好ましく、更に好ましくは10〜70%延伸で、特に好ましくは15%〜35%の延伸を行う。搬送方向の延伸は1〜10%の延伸が好ましく、特に好ましくは2〜5%延伸を行う。
本発明において、セルロースアセテートブチレートフィルムが延伸されて得られたものであり、該延伸倍率が、搬送方向に対して垂直な方向(幅方向)に1%以上100%以下であることが好ましい。
延伸処理は製膜工程の途中で行ってもよいし、製膜して巻き取った原反を延伸処理してもよい。
製膜工程の途中で延伸を行う場合には残留溶媒量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶媒量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が、溶媒15質量%以下が好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
製膜して巻き取った原反を延伸を行う場合には、残留溶媒量が5質量%の状態で幅方向に1〜100%延伸を行うことが好ましく、更に好ましくは10〜70%延伸で、特に好ましくは20%〜60%延伸である。
【0054】
延伸処理は製膜工程の途中で行った後、製膜して巻き取った原反を更に延伸処理しても良い。
製膜工程の途中で延伸処理されたフィルムを巻き取った後で更に延伸処理する場合には、製膜工程の途中での延伸は残留溶媒量を含んだ状態で延伸を行っても良く、残留溶剤量=(残存揮発分質量/加熱処理後フィルム質量)×100%が0.05〜50%で延伸することが好ましく、製膜して巻き取った原反の延伸は、残留溶媒量が0〜5%の状態で延伸することが好ましく、幅方向の延伸は未延伸の状態を基準として1〜100%延伸を行うことが好ましく、更に好ましくは10〜70%延伸で、特に好ましくは20%〜60%の延伸である。
【0055】
また本発明のセルロースエステルフィルムは、二軸延伸を行ってもよい。二軸延伸には、同時二軸延伸法と逐次二軸延伸法があるが、連続製造の観点から逐次二軸延伸方法が好ましく、ドープを流延した後、バンドもしくはドラムよりフィルムを剥ぎ取り、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸されるか、又は長手方法に延伸した後、幅方向に延伸される。
延伸での残留歪を緩和させ、寸度変化を低減させるため、また面内の遅相軸の幅方向に対するばらつきを小さくするために、横延伸後に緩和工程を設けることが好ましい。緩和工程では緩和前のフィルムの幅に対して緩和後のフィルムの幅を100〜70%の範囲(緩和率0〜30%)に調節することが好ましい。緩和工程における温度はフィルムの見かけ上のガラス転移温度Tg−50〜Tg+50℃であることが好ましい。通常の延伸ではこの最大拡幅率を経た後の緩和率ゾーンでは、テンターゾーンを通過させるまでの時間は1分より短い。
ここで、延伸工程におけるフィルムの見かけ上のTgは、残留溶媒を含んだフィルムをアルミパンに封入し、示差走査熱量計(DSC)で25℃から200℃まで20℃/分で昇温し、吸熱曲線をもとめることによりTgを求めた。
【0056】
<<延伸後乾燥>>
製膜工程の途中で延伸処理を行った場合、フィルムの乾燥は搬送したまま行うことができる。乾燥温度は50℃〜150℃であることが好ましく、より好ましくは50℃〜120℃であり、更に好ましくは60℃〜100℃である。乾燥時間は特に制限はないが、好ましくは10分から40分である。最適な延伸後乾燥温度を選択することにより、製造されるセルロースアセテートブチレートフィルムの残留応力が緩和されて、高温下及び高温高湿下における寸法変化、光学特性変化、遅相軸方位の変化を小さくすることができる。
【0057】
<<加熱処理>>
製膜して巻き取った原反を延伸処理した場合、延伸処理されたフィルムはその後、更に加熱処理される工程を経て製造されても良い。加熱処理する工程を経ることにより、製造されるセルロースアセテートブチレートフィルムの残留応力が緩和されて、高温下及び高温高湿下における寸法変化、光学特性変化、遅相軸方位の変化が小さくなるので好ましい。加熱時の温度は特に制限はないが、50℃〜120℃が好ましい。
【0058】
<<加熱水蒸気処理>>
また、延伸処理されたフィルムは、その後、100℃以上に加熱された水蒸気を吹き付けられる工程を経て製造されても良い。この水蒸気の吹付け工程を経ることにより、製造されるセルロースアセテートブチレートフィルムの残留応力が緩和されて、高温下及び高温高湿下における寸度変化、光学特性変化、遅相軸方位の変化が小さくなるので好ましい。水蒸気の温度は100℃以上であれば特に制限はないが、フィルムの耐熱性などを考慮すると、水蒸気の温度は、140℃以下となる。
【0059】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。本発明のセルロースアセテートブチレートフィルムの製造に用いる巻き取り機は一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0060】
<セルロースアセテートブチレートフィルムの諸性能>
本発明のフィルムは単層フィルムであっても、2層以上の積層構造を有していてもよいが、単層フィルムであることが好ましい。
【0061】
<<膜厚>>
本発明のフィルムは、膜厚が20〜60μmである。このように薄いフィルムとすることにより、薄い偏光板および薄い液晶表示装置が得られる。本発明のフィルムの膜厚は、30〜50μmであることが好ましい。
【0062】
<<フィルム幅>>
本発明のフィルムは、フィルム幅が1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、1800mm以上であることが特に好ましい。
【0063】
<<動的粘弾性測定におけるtanδ値が最も大きいピークの半値幅>>
本発明のフィルムは、動的粘弾性測定におけるtanδ値が最も大きいピークの半値幅が90℃以内であることが好ましく、70℃以内であることがより好ましく、60℃以内であることがさらに好ましい。
動的粘弾性測定におけるtanδ値が最も大きいピークの半値幅は、セルロースアシレートと他の添加剤の相溶性を示す指標であって、この値が80℃以内であることにより相溶性に優れ、結果としてフィルムのヘイズを小さくできる。
【0064】
<<内部ヘイズ>>
本発明のフィルムは、内部ヘイズが2%以下であるのが好ましく、1%以下であるのがより好ましく、0.01〜0.5%以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
<<光弾性係数>>
本発明のフィルムの光弾性係数は、50×10-13cm2/dyne以下であるのが液晶表示装置の経時による色味変化を少なくする上で好ましい。
具体的な測定方法としては、フィルム試料10mm×100mmの長軸方向に対して引っ張り応力をかけ、その際のレターデーションをエリプソメーター(M150、日本分光(株))で測定し、応力に対するレターデーションの変化量から光弾性係数を算出する。
【0066】
<<Re、Rth>>
本発明のフィルムのRe(550)としては、30〜100nmが好ましく、40〜80nmがより好ましく、40〜60nmがさらに好ましい。
また、本発明のフィルムのRth(550)としては、90〜180nmが好ましく、100〜160nmがより好ましく、110〜140nmがさらに好ましい。
Re、Rthは、KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて測定可能である。
【0067】
<レターデーション>
本明細書におけるRe(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、550nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(A)及び式(B)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0068】
【数1】
【0069】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表し、nx、ny、nzは、屈折率楕円体の各主軸方位の屈折率を表し、dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d 式(B)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0070】
<偏光板>
本発明のフィルムは位相差フィルムとして機能するものであるが、好ましくは、偏光板の保護フィルムとして組み込むことが好ましい。
すなわち、本発明の偏光板は、偏光子と、該偏光子の少なくとも片側に本発明のフィルムを少なくとも1枚含む。以下、本発明の偏光板について説明する。
【0071】
本発明のフィルムと同様、本発明の偏光板の態様は、液晶表示装置にそのまま組み込むことが可能な大きさに切断されたフィルム片の態様の偏光板のみならず、連続生産により、長尺状に作製され、ロール状に巻き上げられた態様(例えば、ロール長2500m以上や3900m以上の態様)の偏光板も含まれる。大画面液晶表示装置用とするためには、上記した通り、偏光板の幅は1470mm以上とすることが好ましい。
本発明の偏光板では、偏光子の膜厚が3〜20μmであることが好ましく、5〜20μmであることがより好ましい。
【0072】
本発明の偏光板では、偏光板保護フィルムの少なくとも片側は本発明のフィルムを含むが、他方の偏光板保護フィルムとしては、公知のセルロースアシレートフィルムを用いることができる。該他方の偏光板保護フィルムの厚さは、10〜40μmであることが好ましく、20〜40μmであることがさらに好ましい。
本発明では、偏光板の保護フィルムの一方について、40℃90%相対湿度24時間の透湿度100g/m2以下の保護フィルムを用いることも好ましい。このようなフィルムを用いることにより、水の進入を遅らせることができ、本発明の課題であるムラの発生を低減することができる。かかる低透湿度の保護フィルムは、40℃90%相対湿度24時間の透湿度80g/m2以下であることがより好ましい。このような低透湿度の保護フィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込む場合、視認側にかかる低透湿度の保護フィルムが来るように設けることが好ましい。
【0073】
低透湿度の保護フィルムとしては、種々の合成ポリマーフィルムや低透湿層を有するフィルムを用いることが出来、合成ポリマーフィルムとしては、熱可塑性樹脂が好適に使用可能である。
【0074】
最適な熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、グルタル酸無水物系樹脂、グルタルイミド系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂及びこれら複数種の樹脂の混合樹脂から選ぶことができる(ただし、前記(メタ)アクリル系樹脂は、ラクトン環含有重合体を含む。)。これらの樹脂を使用しフィルムとしたポリエステルフィルム、シクロオレフィンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリオレフィンフィルムが低透湿度の保護フィルムとしてあげられる。
【0075】
なお、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル系樹脂とアクリル系樹脂の両方を含む概念である。また、(メタ)アクリル系樹脂には、アクリレート/メタクリレートの誘導体、特にアクリレートエステル/メタクリレートエステルの(共)重合体も含まれる。
【0076】
<(メタ)アクリル系樹脂>
前記(メタ)アクリル酸系樹脂の繰り返し構造単位は、特に限定されない。前記(メタ)アクリル酸系樹脂は、繰り返し構造単位として(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し構造単位を有することが好ましい。
【0077】
前記単量体成分は重合した後にラクトン環を形成していてもよい。その場合、単量体成分を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得ることが好ましい。
前記単量体成分を重合して分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るための重合反応の形態としては、溶剤を用いた重合形態であることが好ましく、溶液重合が特に好ましい。
たとえば、下記の公報に記載の環状構造を導入したものも好ましい、特開2007−316366号公報、特開2005−189623号公報、WO2007/032304号公報、WO2006/025445号公報に記載のラクトン環構造である。
【0078】
本発明に用いることができるアクリル樹脂及び(メタ)アクリル酸の誘導体、他の共重合可能な単量体としては特開2009−122664号、特開2009−139661号、特開2009−139754号、特開2009−294262号、国際公開2009/054376号等の各公報に記載のものも使用することができる。なお、これらは本発明を限定するものではなく、これらは単独で又は2種類以上組み合わせて使用できる。
2種類以上のアクリル樹脂を用いる場合は、少なくとも1種類は上記の構造を有するものを用いることが好ましい。
【0079】
本発明で用いるアクリル樹脂の質量平均分子量Mwは80000以上であることが好ましい。アクリル樹脂の質量平均分子量Mwが80000以上であれば、機械的強度が高く、フィルム製造時のハンドリング適性に優れる。この観点から、アクリル樹脂の質量平均分子量Mwは100000以上であること好ましい。また、セルロースエステルとの相溶性向上の観点からは、アクリル樹脂の質量平均分子量Mwは3000000以下であることが好ましく、2000000以下であることがより好ましい。
【0080】
本発明に用いられるアクリル樹脂としては、市販のものも使用することができる。例えば、デルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR80、BR85、BR88、BR102(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等が挙げられる。
アクリル樹脂は2種以上を併用することもできる。
【0081】
(ポリエステル系樹脂)
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートが好ましい。適宜剥離力や、靭性を制御するべく添加剤を入れて、用いることもできる。
【0082】
(ポリカーボネート系樹脂)
本発明に用いることができる熱可塑性樹脂は、ポリカーボネート系樹脂に、適宜剥離力や、靭性を制御するべく添加剤を入れて、用いることができる。ポリカーボネートフィルムとしては、市販品としてはピュアエース、ピュアエースWR(帝人化成(株)製)、エルメック((株)カネカ製)があげられる。
(ポリスチレン系樹脂)
本発明に用いることができる熱可塑性樹脂は、ポリスチレン系樹脂に、適宜剥離力や、靭性を制御するべく添加剤を入れて、用いることができる。
【0083】
(環状ポリオレフィン系樹脂)
本発明に用いることができる熱可塑性樹脂は、環状ポリオレフィン系樹脂を用いることができる。ここで、環状ポリオレフィン系樹脂とは、環状オレフィン構造を有する重合体樹脂を表す。
本発明に用いる環状オレフィン構造を有する重合体樹脂の例には、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィンの重合体、(3)環状共役ジエンの重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及び(1)〜(4)の水素化物などがある。
【0084】
<低透湿層を有するフィルム>
各フィルムの上に低透湿層を設けてさらに透湿度を下げたフィルムも用いることができる。低透湿層を有するフィルムは透湿度が100g/m2・24hr以下を満たすものであれば、低透湿層はいかなる材料によって形成されているものであっても構わないが、分子内に環状脂肪族炭化水素基と不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物から形成されてなる層、または、塩素含有ビニル単量体から誘導される繰り返し単位を含む樹脂を有する層であることが好ましく、分子内に環状脂肪族炭化水素基と不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物から形成されてなる層であることがより好ましい。
(低透湿層の組成)
本発明の光学フィルムに用いることができる低透湿層は、本発明の光学フィルムが前記式(1)を満たすものであればいかなる材料によって形成されているものであっても構わないが、分子内に環状脂肪族炭化水素基と不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物から形成されてなる層、または、塩素含有ビニル単量体から誘導される繰り返し単位を含む樹脂を有する層であることが好ましく、分子内に環状脂肪族炭化水素基と不飽和二重結合を有する化合物を含む組成物から形成されてなる層であることがより好ましい。
【0085】
(低透湿層の構成、製造方法)
前記低透湿層は、1層であってもよいし、複数層設けてもよい。前記低透湿層の積層方法は特に限定されないが、前記低透湿層を基材フィルムとの共流延として作成すること、または、前記低透湿層を前記基材フィルム上に塗布で積層して設けることが好ましく、前記低透湿層を前記基材フィルム上に塗布で積層して設けることがより好ましい。すなわち、本発明の光学フィルムは、前記低透湿層が、前記基材フィルム上に塗布により積層されてなることがより好ましい。
【0086】
(低透湿層の膜厚)
前記低透湿層の膜厚は、1〜20μmであることが好ましく、2〜18μmであることがより好ましく、3〜17μmであることが特に好ましい。
【0087】
本発明の光学フィルムの低透湿層は透湿度ハードコート層機能、反射防止機能、防汚機能などを併せて持たせることも好ましい。
【0088】
さらに、本発明の偏光板総厚みは、40〜100μmであることが好ましく、50〜100μmであることがさらに好ましく、65〜95μmであることが特に好ましい。ここでの総厚みとは、偏光子、該偏光子の両側に貼り合わされる偏光板保護フィルムに加え、該偏光板保護フィルムを貼りあわせる接着剤層を含む趣旨である。
本発明の偏光板の具体的な構成については、特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば、特開2008−262161号公報の図6に記載の構成を採用することができる。
【0089】
<液晶表示装置>
本発明の液晶表示装置は、本発明の偏光板を少なくとも1枚含む。本発明の液晶表示装置は、本発明のフィルムを含む本発明の偏光板を含むことで、正面方向のコントラストならびに視野角方向の色味変化が顕著に改善されている。
本発明の液晶表示装置では、液晶セルを構成するガラスの厚さが50〜500μmであることが好ましい。このようなガラスを用いることにより、液晶表示装置の厚さを薄くすることが可能になる。
本発明の液晶表示装置は液晶セルと該液晶セルの両側に配置された一対の偏光板を有する液晶表示装置であって、前記偏光板の少なくとも一方が本発明の偏光板であることを特徴とするVA、IPS、またはOCBモードの液晶表示装置であることが好ましく、VAモードの液晶表示装置であることがより好ましい。
本発明の液晶表示装置の具体的な構成としては特に制限はなく公知の構成を採用できるが、例えば図2に記載の構成とした例を採用することができる。また、特開2008−262161号公報の図2に記載の構成も好ましく採用することができる。
【実施例】
【0090】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0091】
<セルロースアセテートブチレートフィルムの製膜>
以下に示すセルロースアセテートブチレートドープを用い、溶液流延法によりフィルムを製膜し、各実施例および比較例に使用した。
【0092】
<<セルロースエステルドープA>>
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースエステル樹脂:下記表に記載の置換基、置換度のもの 100質量部
重縮合エステル:下記表に記載の量
レターデーション調整剤:下記表に記載の量(単位:セルロースエステル樹脂に対する質量%)
ジクロロメタン 406質量部
メタノール 61質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0093】
重縮合エステルは、特開平05−155809号公報の記載に従って合成した。すなわち、下記表に記載のジカルボン酸とジオールを用い、下記表に記載の基で末端を封止した。
使用した重縮合エステルの詳細は、下記表に示した。
【0094】
【表2】
表中、単位は質量%である。TPAはテレフタル酸、PAはフタル酸、AAはアジピン酸、SAはコハク酸、PGは1,2−プロピレングリコール、EGはエチレングリコール、Acはアセチル基、Phはフェニル基、p−TAはp−トリル基を表す。
【0095】
その他の添加剤として下記SE−1の糖エステル化合物も使用した。
【化1】
【0096】
レターデーション調整剤は、特開2010−215879号公報、特開2011−69857号公報、特開2012−208173号公報、特開2012−189664号公報、特開2012−123292号公報、特開2011−002633号公報、特開2011−076031号公報に記載の方法に従って合成した。
レターデーション調整剤A1〜A9、H1の構造を以下に記載する(A8、A9は東京化成工業(株)の市販品である。)。
【0097】
【化2】
【0098】
セルロースアセテートブチレートドープAにはセルロースアセテートブチレート100質量部に対して微粒子であるマット剤(AEROSIL R972、日本エアロジル(株)製、2次平均粒子サイズ1.0μm以下)0.13質量部となる様にマット剤分散液を混合、攪拌した。
【0099】
<<単層での溶液流延>>
上記の組成のドープをミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解した後、平均孔径34μmのろ紙及び平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過し、セルロースアセテートブチレートドープを調製した。ドープをバンド流延機にて流延した。なお、バンドはSUS製であった。
バンドから剥ぎ取ったフィルムをクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター装置を用いて、該テンター装置内で乾燥した。
上記乾燥後のフィルムについて延伸開始時の残留溶媒量が下記表に記載の値となるように乾燥時間を調整し、延伸ゾーンにおけるフィルムの膜面温度が表に記載の温度となるように熱風を当てつつ、下記表に記載の延伸倍率で横方向(搬送方向に垂直な方向)にテンターで延伸を行った。また、延伸時の残留溶媒量は下記表に示す量とした。その後、フィルムをテンター搬送からロール搬送に移行し、さらに70℃で乾燥し、巻き取った。このときのフィルム膜厚を下記表に記載した。各フィルムのReは50nm、Rthは120nmであった。
【0100】
<水接触試験によるRth量変化>
加工したセルロースアセテートブチレートフィルムを10cm角に切り出し25℃60%相対湿度の環境下で1時間調湿した後、5cm角のガラスに粘着剤を用いて貼合した。この状態でKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、初期状態のフィルムのReとRthを計測した。次に、片側に80μmのタックフィルム(TD80UL 富士フィルム社製)を備えた偏光板(を作成した。具体的には下記のように偏光板を作成した。延伸したポリビニルアルコールフィルム(膜厚30μm)にヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。TD60ULをケン化し、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.005mol/Lの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。TD60ULを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
次に、上記のように作成した偏光板のポリビニルアルコールフィルム側とセルロースアセテートブチレートフィルムを重ね、ガラスの上に静置した。偏光板表面中央部に4cm角のガーゼをのせ、マイクロピペットを用いて500μlの純水をガーゼ上に滴下し、速やかに10cm角に切り出したサランラップ(登録商標)(旭化成社製)で偏光板を覆い、周囲をカプトンテープ(日東電工社製)で貼り付け密閉した。このサンプルを35℃に温度調節された恒温槽内に16時間入れた後取り出し、サランラップ(登録商標)を取り外し、偏光板やセルロースアセテートブチレートフィルム表面についた余分な水をふき取った。その後、セルロースアセテートブチレートフィルムを25℃60%相対湿度環境下で2h調湿した後、水処理後のRe、Rthを計測した。水処理後と初期状態のRthの差の絶対値をRth変化量とした。
【0101】
<水接触試験による平衡含水率変化>
加工したセルロースアセテートブチレートフィルムを3cm角に切り出し、40℃の水に16時間浸漬した。浸漬後、フィルムを取り出し、表面についた水をふき取った後、25℃80%相対湿度の環境で3時間調湿を行った。その後フィルムを密閉容器に入れ、カールフィッシャー水分測定装置(平沼産業(株)社製、AQ−2100)にて含水量を測定した。初期状態のフィルムの含水率は、加工したフィルムを3cm角に切り出し、25℃80%相対湿度の環境で3時間調湿した後、同様の方法で計測した。水処理後の含水率と初期状態の含水率の差分の絶対値を含水率変化量とした。
【0102】
<フィルムのRth(550)ばらつき>
全幅1980mm幅に加工したセルロースアセテートブチレートフィルムの幅方向中央部分を0mmとし、幅方向±900mm(100mm間隔)および、長手方向±1000mm(100mm)間隔で切り出し、各点でのRe、RthをKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて測定した。全点データからRthの標準偏差を計算し、その値をRthばらつきとした。Rthばらつきの値を3段階にわけ、実用可能な程度をAとBとした。
A:Rthばらつき1nm以下
B:Rthばらつき1〜2nm
C:Rthばらつき2nmより大きい
【0103】
<動的粘弾性測定によるtanδ値の半値幅算出>
延伸前のフィルムを採取しサンプルを20mm(幅手方向)×5mm(搬送方向)に切り出し、アイティー計測制御株式会社製DVA-225を使用し、引張モードにて設定歪0.1%昇温速度5℃/分で25℃から200℃まで昇温し、tanδ値が最も大きくなるピーク(ポリマーの主鎖緩和に相当するピーク)温度(T1)を求めた。温度vstanδプロットを作成した後、Tanδピークの値の半分となる値(半値)を算出し、tanδピーク温度より低温側で半値となる温度(T2)を求めた。次式より半値幅を算出した。
(半値幅)=(T1−T2)×2
【0104】
<内部ヘイズ>
内部ヘイズの測定は、フィルム試料40mm×80mmの両面にグリセリン数滴を滴下し、厚さ1.3mmのガラス板(MICRO SLIDE GLASS品番S9213、MATSUNAMI製)2枚で両側から挟んだ状態で、25℃、相対湿度60%でヘイズメーター“HGM−2DP”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−6714に従って測定したヘイズ値から、ガラス2枚の間にグリセリンを数滴滴下した状態で測定したヘイズを引いた値(%)を、内部ヘイズとした。その結果を下記表に示した。
【0105】
【表3】
表中、CABはセルロースアセテートブチレート、DACは、ジアセチルセルロース、CAPはセルロースアセテートプロピオネートを表す。添加剤の添加量は、セルロースエステルに対しての質量%である。
【0106】
<偏光板の作製>
厚さ60μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させこれをヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g、水100gからなる45℃の水溶液に浸漬し一軸延伸(温度55℃、延伸倍率5倍)した。これを水洗、乾燥し偏光子を得た。
【0107】
次いで、下記工程1〜5に従って偏光子と前記セルロースアシレートフィルムと、TD60UL(富士フイルム株製)を貼り合せて偏光板を作製した。
【0108】
工程1:60℃の2モル/Lの水酸化ナトリウム溶液に90秒間浸漬し、次いで水洗し乾燥して、偏光子と貼合する側を鹸化したセルロースアセテートフィルムを得た。
工程2:前記偏光子を固形分2質量%のポリビニルアルコール接着剤槽中に1〜2秒浸漬した。
工程3:工程2で偏光子に付着した過剰の接着剤を軽く拭き除き、これを工程1で処理したセルロースエステルフィルムの上にのせて配置した。
工程4:工程3で積層したセルロースエステルフィルムと偏光子と裏面側セルロースエステルフィルムを圧力20〜30N/cm2、搬送スピードは約2m/分で貼合した。
工程5:70℃の乾燥機中に工程4で作製した偏光子とセルロースエステルフィルムとTD60ULとを貼り合わせた試料を2分間乾燥し、それぞれ、セルロースエステルフィルムに対応する偏光板を作製した。
【0109】
セルロースエステルフィルム以外のフィルムは、以下のようにして偏光子と貼り合わせた。
【0110】
フィルム上に、下記UV硬化接着剤を、マイクログラビアコーター(グラビアロール:#300、回転速度140%/ライン速)を用いて、厚さ5μmになるように塗工した接着剤付きフィルムとした。次いで、これを、上記ポリビニルアルコール接着剤に浸漬した偏光子に、セルロースエステルフィルムとともにロール機で貼り合わせた。
【0111】
貼り合わせたフィルムの両側から、電子線を照射して、偏光子の両側にフィルムを有する偏光板を得た。ライン速度は20m/min、加速電圧は250kV、照射線量は20kGyとした。
【0112】
〈UV硬化接着剤〉
2−ヒドロキシエチルアクリレート100質量部、およびジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(サートマージャパン(株)製、商品名SR355)11質量部を配合してUV硬化接着剤を調製した。
なお、実施例123〜126は、保護フィルムとして下記表に示す保護フィルムを用いた。
COP:シクロオレフィンフィルム 40μm
PET:ポリエチレンテレフタレートフィルム 40μm
PMMA:下記構造のラクトン環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂フィルム40μm
これらは公知の方法で作製した。
【0113】
<保護フィルムの透湿度>
保護フィルムの透湿度はJISZ0208 防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)に規定される方法(40℃90%RH)で測定することが出来る。
【0114】
<液晶表示装置の作製>
VAモードの液晶TV(UN46ES7000F、Samsung社製)の表裏の偏光板および位相差板を剥がして、液晶セルとして用いた。表5に記載の偏光板をVA液晶セルに粘着剤を用いて貼り合せ液晶表示装置を作製した。この際、上下の偏光板の吸収軸が直交するように貼り合わせた。暗室内で黒表示時に測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて正面方向の黒輝度を計測した。いずれの液晶表示装置も、正面方向の黒輝度は0.05cd/m2であった。
【0115】
<液晶表示装置の評価>
<<正面ムラ>>
作製した各偏光板を10cm×10cmに切り出しVAモード液晶表示装置に貼り合わせた。作製した液晶表示装置を横に寝かした状態で、視認側偏光板表面中央部に1cm×8cmのベンコット(旭化成社製)を偏光板の吸収軸に対し45°になるようにのせた。マイクロピペットを用いて200μlの純水をベンコット上に滴下し、速やかにサランラップ(登録商標)(旭化成ホームプロダクツ製)で偏光板を覆い、周囲をカプトンテープ(日東電工社製)で貼り付け密閉した。この状態でパネルを点灯し16時間静置した。その後、PETフィルムを取り外し、フィルム表面についた水をふき取り、24時間点灯したのちパネルを暗室内で黒表示時に正面方向から観察し、ムラの有無を観察した。
さらに、暗室内で黒表示時に測定機(EZ−Contrast XL88、ELDIM社製)を用いて、水接触部及びその周辺部の黒輝度を計測した。
A:水接触部とその周辺との光漏れの差が0.01cd/m2以下(全く視認されない)
B:水接触部とその周辺との光漏れの差が0.01〜0.05cd/m2以下(ほとんど視認されない)
C:水接触部とその周辺との光漏れの差が0.05〜0.1cd/m2(わずかに見えるが、視認されづらい)
D:水接触部とその周辺との光漏れの差が0.1cd/m2以上(明確に視認される)
以上の結果を元に、実用可能な程度はAとBとした。
【0116】
<<斜めムラ評価>>
作製した偏光板を実装した液晶パネルを横に寝かした状態で、視認側偏光板表面中央部に4cm×4cmのガーゼをのせた。マイクロピペットを用いて200μlの純水をガーゼ上に滴下し、速やかに10cm角に切り出したサランラップ(登録商標)(旭化成社製)で偏光板を覆い、周囲をカプトンテープ(日東電工社製)で貼り付け密閉した。この状態でパネルを点灯し16時間静置した。その後、サランラップ(登録商標)を取り外し、フィルム表面についた水をふき取り、24時間点灯したのちパネルをななめ方向から観察し、ムラの有無を観察した。実用可能な程度はAとBとした。
A:水接触部とその周辺との光漏れの差は見えない
B:水接触部とその周辺との光漏れの差はわずかにあるが、見えづらい。
C:水接触部とその周辺との光漏れの差が明確に分かる。
【0117】
【表4】
【0118】
表から、本発明のフィルムを使用した偏光板を液晶表示装置に使用することで正面ムラおよび斜めムラを改善できることがわかる。
【符号の説明】
【0119】
1 静電気防止袋
2 偏光板
3 偏光子
4 セルロースアセテートブチレートフィルム
5 位相差フィルム
6 結露水
7 歪み
22 保護フィルム
12 視認側偏光子
15 位相差フィルム
13 液晶層
14 位相差フィルム
11 バックライト側偏光子
21 保護フィルム
図1
図2