(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分の0.1〜20モル%または80〜100モル%含むCHDM系ポリエステルを含有する層を少なくとも1層有し、
固有粘度(IV)が0.6〜1.5dL/gであり、
180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率が40〜95%であり、
前記CHDM系ポリエステルに含まれるシクロヘキシルジメタノール由来の構造の70%以上が、トランス体のシクロヘキシルジメタノール由来の構造であり、
前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、ポリエステルの高結晶微粒子を添加して溶融押出しによって製膜されてなり、
前記ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度が、原料ペレットとして用いる前記CHDM系ポリエステルの結晶化度より3〜30%高いことを特徴とするポリエステルフィルム。
180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率が最大となる方向における該最大応力保持率が、最大となる方向に直交する方向における該最大応力保持率より5〜35%大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
前記180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率が最大となる方向が、製膜時にフィルム搬送方向に直交する方向であることを特徴とする請求項3に記載のポリエステルフィルム。
前記相溶化剤が、水素添加ジエン系共重合体(P)と、オレフィン系単量体単位及び/又は芳香族ビニル系単量単位(Q1)と、酸無水物基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、アミノ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、オキサゾリン基、アミド結合およびエステル結合からなる群の少なくとも1つを有する単量体から選ばれた少なくとも一種の単量体単位(Q2)からなる重合体(Q)からなることを特徴とする請求項5に記載のポリエステルフィルム。
前記相溶化剤が、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも一つ有し、かつアミノ基を含有するブロック共重合体の水添重合体を含有することを特徴とする請求項5または6に記載のポリエステルフィルム。
120℃、相対湿度100%で100時間加熱する前後での最大伸度保持率が、該最大伸度保持率が最大となる方向および最大となる方向に直交する方向において、50〜95%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
前記120℃、相対湿度100%で100時間加熱する前後での最大伸度保持率が最大となる方向が、製膜時にフィルム搬送方向に直交する方向であることを特徴とする請求項9に記載のポリエステルフィルム。
120℃、相対湿度100%で100時間加熱する前後での最大伸度保持率の面内分布が10〜50%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、前記ポリエステルの高結晶微粒子を前記CHDM系ポリエステルに対して10〜1000ppm添加して溶融押出しによって製膜されてなることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のポリエステルフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のポリエステルフィルム、太陽電池モジュール用バックシートおよび太陽電池モジュールについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムは、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分の0.1〜20モル%または80〜100モル%含むCHDM系ポリエステルを含有する層を少なくとも1層有し、固有粘度(IV)が0.6〜1.5dL/gであり、180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率が40〜95%であることを特徴とする。
このような構成とすることで、耐熱性に優れ、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにdryサーモ後の密着性が良好であるポリエステルフィルムを提供することができる。特に、本発明のポリエステルフィルムでは、特許文献3に記載の剥離(ピール強度)評価より過酷な条件であるサーモ後においても密着(剥離)を改良できる。いかなる理論に拘泥するものでもないが、これは本発明のポリエステルフィルムが高い最大応力保持率をdryサーモ後も達成しているためである。dryサーモ後の最大応力低下の抑制(最大応力保持率向上)が、dryサーモ後のポリエステルフィルムと封止材の密着性改善に寄与する重要な要素であることは、いかなる理論に拘泥するものではないが、以下の理由によると推定できる。上記剥離故障は高温でEVAが収縮することで発生する収縮応力に、ポリエステルフィルムが抗し得ず収縮する。このときポリエステルフィルム中で残留歪が発生、これが引き金となって剥離が発生する。このためドライサーモ後のポリエステルフィルムの最大応力(最大応力保持率)を大きくすることで、EVAの収縮応力に伴う変形量を小さくでき、残留歪を小さくできる。この結果、上記故障を抑制できる。
以下、本発明のポリエステルフィルムの特性と構成について説明する。
【0015】
<ポリエステルフィルムの特性>
(dryサーモ前後の最大応力保持率)
本発明のポリエステルフィルムは、180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率が40〜95%である。この値が上記範囲の下限値以上であると上記剥離故障が発生し難く、同様に上記範囲の上限値以下であると剥離故障が発生し難い。ポリエステルフィルムの最大応力保持率が上記範囲内であると、EVAがポリエステルフィルムの寸法変化に引きずられにくく、残留歪が発生し難くなり、EVA側からの剥離が抑制できるためと推定される。また、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が上記範囲内であると、ポリエステルフィルム自体も、サーモ後に寸法変化する封止材(EVA等)に引っ張られた際にその収縮応力で配向し、膜の強度が上昇し、最大応力を増加させることができ、ポリエステルフィルム側からの剥離が抑制できるためと推定される。
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルの非晶部の配向が高い構造であることにより、このような180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率を達成している。前記CHDM系ポリエステルは嵩高いシクロヘキシル基のため、強固な結晶を形成し難く、特開2011−202058号公報に記載のように結晶核剤(結晶性ポリエステル樹脂の結晶化促進作用を有する添加剤)を添加し、前記CHDM系ポリエステルの結晶化を促してもポリエステルフィルムのdryサーモ後の最大応力は増加し難い。本発明のポリエステルフィルムは、特開2011−202058号公報とは逆に、非晶を配向させ易くすることで上記条件での耐熱評価後の最大応力の低下を抑制したものである。すなわち、本来応力が低く最大応力低下の原因となる前記CHDM系ポリエステル非晶部の配向を促し最大応力を増加させることで、ポリエステルフィルムの最大応力保持率を上げたことが本発明の特徴である。
いかなる理論に拘泥するものでもないが、このような配向性の高い非晶部の構造を予め形成しておくことで、dryサーモ後でも最大応力が低下し難い。dryサーモで分子切断が発生し、最大応力が低下するが、このような配向性の高い非晶部の構造は、分子切断した後も配向を維持し最大応力が低下し難い。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率がより好ましくは45%以上90%以下、さらに好ましくは50%以上85%以下である。
【0017】
太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにdryサーモ後の密着性を改良するためには、ポリエステルフィルムの180℃、相対湿度0%で120時間加熱後の最大応力は、後述する最大応力の絶対値も重要であるが、最大応力保持率(即ちdryサーモでの変化率)がさらに重要である。ここで、EVAとポリエステルフィルムの厚みにより上記寸法変化に伴う力が変わるため(力=応力×フィルム、EVAの断面積のため)、初期最大応力に合わせて両者の収縮応力を算出し、本発明のポリエステルフィルムの厚みを設計することが好ましい。このためdryサーモでこの最大応力(最大応力)が変化すると、初期設計からずれて歪が大きくなり剥離故障が発生し易いためである。
なお、ポリエステルフィルムの最大応力保持率を増加させることで、dryサーモ後の最大応力を後述の好ましい範囲に制御することができる。
【0018】
本発明のポリエステルフィルムは、前記最大応力保持率が最大となる方向が、製膜時にフィルム搬送方向に直交する方向であることが好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは残留結晶構造のうちMD配向したものの量よりTD配向したものの量を多くする状態とすることにより、このようにTD方向とMD方向の最大応力保持率に差を持たせることができる。TDの最大応力保持率が強いほうが好ましい理由は以下に因る。通常ポリエステルはMD延伸後にTD延伸する。このためTD方向に非晶部の面配向が進行し易くポリエステル分子がスタックしやすい。この結果、同じ最大応力保持率でもTDはMDよりデラミ(へき開)剥離が発生し易い(最大応力はフィルム面に平行な方向の力の測定であり、へき開はフィルム面に対し法線方向の力であり、検出し難い)。このため、へき開による剥離を補うため、TDの最大応力保持率をMDより高くすることが有効である。
本発明では、最大応力保持率に分布やTD方向とMD方向の最大応力保持率の差を与えることが好ましい。即ちポリエステルフィルムの初期値(dryサーモ前:Fresh)の最大応力にはTD方向とMD方向の最大応力保持率の差や最大応力保持率の分布を付与せず、dryサーモ後に差や分布を発現させることが、EVAとポリエステルフィルムを貼り合せる際の貼り斑の発生を抑制する観点から好ましい。Freshなポリエステルフィルムに最大応力に差が存在すると、皺が発生しないよう、張力を加えて引張りながら貼り合せるため、最大応力が弱い所が伸び易く、貼り合せた後に張力を解除するとその箇所に弛みが発生する。その箇所は粘着力が弱くなり浮きが発生し易く剥離が発生し易くなる。
【0019】
本発明では、TD方向の最大応力保持率をMD方向の最大応力保持率より5%以上35%以下、より好ましくは10%以上30%以下、さらに好ましくは13%以上27%以下高くすることが好ましい。TD−MDの最大応力保持率の差が上記範囲の下限値以上であれば、上記効果が十分で剥離が発生し難い。一方、上記範囲の上限値以下であれば、MD方向の最大応力保持率が小さくなりすぎず、MD方向で剥離が発生し難くなる。
【0020】
(dryサーモ後の最大応力)
180℃、相対湿度0%で120時間加熱のdryサーモ後の最大応力は70MPa以上150MPa以下が好ましい。さらに好ましくは85MPa以上140MPa以下、さらに好ましくは100MPa以上130MPa以下である。この範囲の下限値以上であれば上記EVAの収縮応力に伴いポリエステル側に残留歪が発生しにくく、剥離を抑制し易い。
一方、上記範囲の上限値以下であればポリエステルフィルムがEVAを強く引っ張り過ぎないため、EVA内で残留歪が発生せず、剥離が発生し難い。
本発明では太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにdryサーモ後の密着性の改善には上記のようにdryサーモ後の最大応力が重要であり、サーモ前の最大応力はさほど問題ではない。剥離故障の一因が、最大応力以外にdryサーモでPETが変性し、親水性が増加し、界面に水が浸入し易くなることにあるが、サーモ初期には変性が発生しておらず、最大応力が低くても剥離し難い。
なお、本発明では、dryサーモ条件として180℃、相対湿度0%、120時間を用いる。これは屋根の上に20年間曝された際のポリエステルフィルムの熱劣化に相当するためである。
【0021】
(dryサーモ前後の最大応力保持率の面内分布)
本発明のポリエステルフィルムは、180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率の面内分布が10〜50%であることが好ましい。この範囲の下限値以上であれば下記の緩衝効果が十分に発現でき剥離故障を抑制でき、一方この範囲の上限値以下であれば最大応力保持率の低いところに応力集中が発生し難く、そこを起点として剥離故障が発生し難い。いかなる理論に拘泥するものでもないが、ポリエステルフィルム中に最大応力保持率が低い箇所が存在することで、その箇所のサーモ後の最大応力が低くなり、そこが緩衝層となることで、EVAと積層した際に発生する残留歪を逃がす役割を果たし、上記dryサーモ後の太陽電池上でのバックシートとして用いたときの剥離を防ぐことができる。
本発明のポリエステルフィルムは、180℃、相対湿度0%で120時間加熱する前後での最大応力保持率の面内分布がより好ましくは13%以上45%以下、さらに好ましくは16%以上40%以下である。
【0022】
(wetサーモ前後の最大伸度保持率)
本発明のポリエステルフィルムは、120℃、相対湿度100%で100時間加熱する前後での最大伸度保持率が、該最大伸度保持率が最大となる方向および最大となる方向に直交する方向において、50〜95%であることが好ましい。前記最大伸度保持率が最大となる方向が、製膜時にフィルム搬送方向に直交する方向であることが好ましい。
長期使用する際に発生するポリエステルの加水分解も、本発明のポリエステルフィルムを太陽電池モジュール用バックシートとして湿熱環境下で用いたときの封止剤との間の剥離故障を促す。これは加水分解によりポリエステルの分子切断が発生するためである。ポリエステルの分子量の低下により、分子間の絡み合いが低下し分子間の摩擦が低下し、EVAとの貼り合せで発生する収縮応力で切断したポリエステル分子が容易に引き抜かれ剥離が発生する。このように加水分解では分子量低下による分子の引き抜きで剥離故障が発生するため、破断伸度は分子量低下に伴い低下するため、これを反映する破断伸度保持率を低くすることが好ましい。なお、wetサーモ後の剥離故障は、dryサーモ後の剥離故障と同じ剥離故障ながら、最大応力(破断応力)保持率が指標となるdryサーモと機構が異なる。
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルの非晶部の配向が高い構造(残留結晶構造による配向非晶構造)であることにより、耐加水分解性も向上させることができる。前記CHDM系ポリエステルの結晶部は弱いため、非晶部に配向構造を形成することで分子の自由度を減少させ動き難くすることができ(非晶部の構造を強化)、水分子との反応性が低下し加水分解を抑制できる。
【0023】
好ましいwetサーモ前後の最大伸度(破断伸度)保持率は50%以上95%以下、より好ましくは55%以上90%以下、さらに好ましくは60%以上85%以下である。最大伸度保持率が上記の範囲の下限値以上であれば適宜加水分解することで分子量が低下し、ポリエステルフィルムが変形し易くなり、剥離応力を逃がす働きをするため、剥離故障が発生し難い。一方、最大伸度保持率が上記の範囲の上限値以下であれば、フィルム強度が強すぎず、変形により収縮応力を逃がすことができ、剥離し難くなり、剥離故障が発生し難い。
【0024】
(wetサーモ前後の最大伸度保持率の面内分布)
本発明のポリエステルフィルムは、120℃、相対湿度100%で100時間加熱する前後での最大伸度保持率の面内分布が10〜50%であることが好ましい。最大伸度保持率の弱い箇所は分子量が低下しており、分子間の絡み合いが少ないため変形し易い。ここにEVAの収縮応力を吸収させ剥離を発生し難くする。
好ましい最大伸度保持率の分布は10%以上50%以下が好ましく、より好ましくは15%以上45%以下、さらに好ましくは20%以上40%以下である。最大伸度保持率の面内分布が上記の下限値以上であれば、上記効果が十分に得られ、剥離が発生し難い。一方最大伸度保持率の面内分布がこの範囲の上限値以下であれば、極度に破断伸度保持率の小さい箇所が発生し難く、そこを起点として剥離が発生し難くなるため好ましい。
なお、最大伸度保持率の分布も、残留結晶構造に分布を付与することで達成でき、上記最大応力保持率の分布と同様にして付与できる。
【0025】
(固有粘度IV)
本発明のポリエステルフィルムは、固有粘度(IV)が0.6〜1.5dL/gである。上記範囲の下限値以上であれば、dryサーモ後の前記CHDM系ポリエステルの分子量が低下し難く、非晶鎖が上記構造を形成したときに分子間の絡み合いが十分に生じるために最大応力保持率が低下し難くなり、剥離故障を抑制し易い。一方、上記範囲の上限値以下であれば、前記CHDM系ポリエステル分子が長大になり過ぎず、分子の運動性が低下せず、上記非晶構造を形成でき(上記非晶構造をとるには、分子が相互に配向し並ぶことが必要であり、ある程度分子の運動性が高いと構造形成し易い)、最大応力保持率が低下し難く、剥離故障を抑制し易い。
本発明ではポリエステルフィルムのIVは0.7dL/g以上1.4dL/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.75dL/g以上1.3dL/g以下である。このようにIVを高くすることで、dryサーモで分子切断しても最大応力の低下を抑制できる。
【0026】
(末端カルボン酸濃度AV)
本発明のポリエステルフィルムは、耐加水分解性を向上させるために末端カルボン酸量(AV)が5〜20eq/トンであることが好ましく、より好ましくは6eq/トン以上17eq/トン以下、さらに好ましくは7eq/トン以上15eq/トン以下である。AVがこの範囲の上限値以下であれば、末端カルボン酸のプロトンが加水分解の触媒作用をする作用を抑制できることから、wetサーモ中の加水分解が進行し難くでき、破断伸度保持率が低下し難くなり、wetサーモでの剥離故障が発生し難い。さらにAVがこの範囲の上限値以下であれば、嵩高いカルボン酸基が上記非晶構造の形成を抑制し難くなり、dryサーモでの最大応力保持率を低下し難くなり、dryサーモでの剥離も抑制できる。一方、AVが上記範囲の下限値以上であれば、カルボン酸濃度が低下しすぎず、極性の高いEVAとの密着が十分となり、剥離故障が発生し難い。
【0027】
<ポリエステルフィルムの構成>
1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分の0.1〜20モル%または80〜100モル%含むCHDM系ポリエステルを含有する層を少なくとも1層有する。
まず、CHDM系ポリエステルを含有する層について説明する。
【0028】
(CHDM系ポリエステルを含有する層の組成)
(1)CHDM系ポリエステル
前記CHDM系ポリエステルは、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分(全ジオール中)の0.1〜20モル%または80〜100モル%含む。前記CHDM系ポリエステルを含むことにより、ポリエステルフィルムの耐熱性を改善することができる。1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分の20モル%を超え80モル%未満では、ジオール中の他のジオール(エチレングリコール(EG)など)とCHDMが入り乱れ規則性が低下し非晶部に配向構造を形成し難く、その結果ポリエステルフィルムのdryサーモ後の最大応力保持率が低下し易い。一方CHDMが0.1モル%以上であればCHDMによる上記非晶部の構造を形成でき、dryサーモ後の最大応力保持率が低下し難い。
1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分の0.5モル%以上16モル%以下あるいは83モル%以上98モル%以下含むことがより好ましく、1モル%以上12モル%以下あるいは86モル%以上96モル%以下含むことが特に好ましい。
一方、後述するように本発明のポリエステルフィルムが前記CHDM系ポリエステルを含有する以外のその他の層と積層される場合、前記CHDM系ポリエステルを含有する層は、シクロヘキシルジメタノール構造をジオール成分のより好ましくは80モル%以上100モル%以下含むことが好ましく、83モル%以上98モル%以下含むことがより好ましく、86モル%以上96モル%以下含むことが特に好ましい。シクロヘキシルジメタノール構造を高濃度で含むほうが、結晶構造が発達し難く、その他の層(後述のP1層)と積層した際に界面混合し易く、層間剥離が生じにくいためである。
【0029】
CHDMのシクロヘキシル環は舟型構造、椅子型構造を取りうるが、椅子型構造の方が配向し易いために非晶部の配向を高めることができ、本発明のポリエステルフィルムの高い最大応力保持率を達成できる。
dryサーモで前記CHDM系ポリエステル分子内では分子切断が発生し、ポリエステルフィルムの最大応力が低下するが、このような椅子型構造は配向し易く、分子切断した後も配向を維持し最大応力が低下し難い。いかなる理論に拘泥するものでもないが、椅子型構造の比率の高いCHDM系ポリエステルは、分子切断で一旦配向は乱れるが、分子量が低下したことで運動性が向上し再配列し易くなる。分子切断されても椅子型構造は残るため、この構造にそって分子が再配列し、堅固な非晶構造を形成でき、高い最大応力を発現できる)。
【0030】
前記CHDM系ポリエステルに含まれるシクロヘキシルジメタノール由来の構造の70%以上が、トランス体のシクロヘキシルジメタノール由来の構造であることが好ましく、さらに好ましくは80モル%以上100モル%以下、さらに好ましくは90モル%以上100モル%以下である。
このようにシクロヘキシルジメタノール由来の構造のトランス体を多くすることにより分子配向を促し(CHDM系ポリエステルに含まれるシクロヘキシルジメタノール由来の構造の椅子型構造を増やすのと同様の効果)、ポリエステルフィルムの最大応力保持率を増加させる効果を有する。
トランス体を増加させることによって非晶部の配向構造を増加させ、ポリエステルフィルムの最大応力保持率を向上させることができることは、従来知られていなかった。なお、トランス体が結晶性を上昇させることは、飽和ポリエステルハンドブック、湯木和男編、日刊工業新聞社、1989年刊に記載があるが、この非特許文献には非晶構造を改善する効果は記載されていない。
前記CHDM系ポリエステルに含まれるシクロヘキシルジメタノール由来の構造のトランス体を増やす方法として、例えば以下の手法を応用できる。
イ)特開平2−131442号公報に記載の方法(アルカリ存在下で加熱して蒸留)
ロ)特開平5−58929号公報に記載の方法(水溶液から4水和物として結晶化)
ハ)Journal of Chemical Society 1953 404−407に記載の方法(安息香酸エステルとした後、晶析により分離した後、加水分解)
二)Journal of Organic Chemistry 1981 46 3754−3756に記載の方法(CHDMをp−トルエンスルホネート化した後、シス体を溶媒抽出)
【0031】
前記CHDM系ポリエステルの1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造以外のユニットを形成するための材料としては、ジオール成分として、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等の脂肪族ジオール類、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール類、ビスフェノールA、1,3―ベンゼンジメタノール,1,4−ベンセンジメタノール、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、などの芳香族ジオール類等のジオールなどが代表例としてあげられるが、これらに限定されるものではない。その中でも、エチレングリコールを用いることが好ましい。
【0032】
前記CHDM系ポリエステルの1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造以外のユニットを形成するための材料としては、ジカルボン酸成分として、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、イソソルビド、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、などの脂環族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’−ビス(4−カルボキシフェニル)フルオレン酸等芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体などが代表例としてあげられるが、これらに限定されるものではない。
前記CHDM系ポリエステルのジカルボン成分として、少なくともテレフタル酸由来の構造を含むことが好ましい。
本発明では前記CHDM系ポリエステルのジカルボン酸成分にテレフタル酸以外にイソフタル酸(IPA)を加えてもよい。イソフタル酸を加えることでポリエステルが屈曲し易くなり(運動性が増加し移動し易くなり)、上記非晶部の配向構造を形成し易くなるためである。好ましいIPA量は全ジカルボン酸中0モル%以上15モル%以下が好ましく、より好ましくは0モル%以上12モル%以下、さらに好ましくは0モル%以上9モル%以下である。この範囲の上限値以下であると、屈曲性が高くなりすぎず、配向構造を乱し難く、dryサーモ後の最大応力保持率が低下し難い。
【0033】
(2)ポリエステルの高結晶微粒子
前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、ポリエステルの高結晶微粒子を前記CHDM系ポリエステルに対して10〜1000ppm添加して溶融押出しによって製膜されてなることが、前記非晶部の配向構造を形成する上で好ましい。高結晶微粒子は押出し機内で溶融する際、完全に溶融しきらず結晶の構造を残した残留結晶構造を取る。この残留結晶構造を芯にして、この周囲の前記CHDM系ポリエステルの非晶部が配向構造を取る。
ポリエステルの高結晶微粒子は、前記CHDM系ポリエステルに対して20ppm以上500ppm以下添加されることがより好ましく、30ppm以上200ppm以下添加されることが特に好ましい。
高結晶性微粒子添加量が上記範囲の下限値以上であれば、上記非晶部の配向効果が十分に発現し、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が増加し、剥離故障の発生を抑制し易い。一方、高結晶性微粒子添加量が上記範囲の上限値以下であれば、配向効果が強くなり過ぎず、ポリエステル分子間に積層(スタック構造)が発現せず、これに伴いポリエステルフィルムの最大応力保持率が本発明の上限値以下に制御できると同時に、この積層層間ではがれ難くなり(デラミ)剥離が発生し難くなる。
【0034】
前記ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度が、原料ペレットとして用いる前記CHDM系ポリエステルの結晶化度より3〜30%高いことが好ましく、5%以上25%以下高いことがより好ましく、7%以上20%以下高いことがさらに好ましい。
前記ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度と原料ペレットとして用いる前記CHDM系ポリエステルの結晶化度の差が上記範囲の下限値以上であれば、上記非晶部の配向効果が十分に発現し、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が増加し、剥離故障の発生を抑制し易い。一方、前記ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度と原料ペレットとして用いる前記CHDM系ポリエステルの結晶化度の差が上記範囲の上限値以下であれば、配向効果が強くなり過ぎず、ポリエステル分子間に積層(スタック構造)が発現せず、これに伴いポリエステルフィルムの最大応力保持率が本発明の上限値以下に制御できると同時に、この積層層間ではがれ難くなり(デラミ)剥離が発生し難くなる。
なお、上述のように前記ポリエステルの高結晶微粒子と前記CHDM系ポリエステルペレットの融解性の差を利用して、両者の結晶化度に「差」を付与することが好ましい。
【0035】
前記ポリエステルの高結晶微粒子の組成としては特に制限はなく、公知のポリエステルを用いることができるが、その中でもCHDM系ポリエステルの高結晶微粒子を用いることが、より前記CHDM系ポリエステルに含まれるシクロヘキシルジメタノール由来の構造の椅子型構造比率およびトランス体比率を高められる観点から好ましい。
【0036】
前記ポリエステルの高結晶微粒子は、ポリエステル(好ましくはCHDM系ポリエステル)ペレットを破砕し、180℃〜230℃で12時間から50時間、より好ましくは185℃〜225℃で18時間から45時間、さらに好ましくは190℃〜220℃で24時間から40時間熱処理することで製造することができる。微粒子にすることで表面積を増加させ、内部に存在する不純物(オリゴマー、未反応モノマー)を揮散させ、結晶化を促すことができるためである(特に前記CHDM系ポリエステルではオリゴマー、未反応モノマーともにPETなどの通常のポリエステルの不純物(オリゴマー、未反応モノマー)より分子量が大きく揮散し難いため、微粒子化が顕著に有効である)。
【0037】
前記ポリエステルの高結晶微粒子の大きさは10μm以上1000μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以上500μm以下、さらに好ましくは50μm以上300μ以下である。
【0038】
(3)相溶化剤
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルに対して、相溶化剤を1質量%以上50質量%以下、より好ましくは1.5質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上20質量%以下含むことが好ましい。この範囲の下限値以上であれば以下の効果を十分発現できる。一方上記範囲の上限値以下であれば、相溶化剤とCHDM系ポリエステルとの相溶性が向上し、両者の相互作用が向上し、下記の効果を十分発現できる。
本発明でいう相溶化剤とは、下記特徴を有する化合物を指す。
本発明でいう相溶化剤とは、相溶化剤添加前に結晶融解熱のピークが2つ以上出現した場合、その最大吸熱ピークの吸熱量で、その次の吸熱ピークの吸熱量を割った値の比(A)と、前記相溶化剤添加後の最大吸熱ピークの吸熱量で、その次の吸熱ピークの吸熱量を割った値の比(B)との比(A/B)が1.05以上であることを特徴とする。
なお、相溶化剤を添加することにより、前記CHDM系ポリエステルを含む本発明のポリエステルフィルムの平行光線透過率を向上させることができる。本発明のポリエステルフィルムの平行光線透過率フィルム厚み100μmあたり50%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。平行光線透過率の測定は、例えば“TM式SMカラーコンピューター−SM−T”{スガ試験機(株)製}を用いJIS K−7105に従って測定することができる。
なお、平行光線透過率の100μmあたりの換算は本明細書中では以下の方法で算出する。
サンプルの平行光線透過率=X(%)、厚み=T(μm)とすると
α={log(X/100)}/(T/100)
100μmあたりの平行光線透過率=Y(%)は
Y=100×10α
【0039】
A/Bはより好ましくは1.1以上、さらに好ましくは1.15以上である。
A/Bを上記の範囲とすることで前記CHDM系ポリエステルとその他のポリエステルの相溶性向上の効果を発現できる。即ちA/Bが相溶化の指標となり、これが大きいほど相溶化能が大きいことを示す。これは以下の理由による。
相溶化能が小さい場合、物性(極性等)の異なるポリマーが複数存在すると、これらのポリマーは物性の似たもの同志が集まり、相分離し易い。このように相分離したポリエステル樹脂は、各相ごとに結晶融解熱が測定される。例えば相−イと相−ロの2相に分離した場合、相−イの融解熱と相−ロの融解熱が現れる。この時、相溶化剤未添加の場合の相−イの融解熱(X)が、相溶化剤未添加の場合の相−ロの融解熱(Y)より大きい場合、Y/XがA(相溶化剤未添加の場合の吸熱量比)となる。
相溶化剤を添加すると各相間の相溶性が増加し、小さな相の成分が大きな相に取り込まれる。その結果、相溶化剤添加後の相−イの融解熱(X’)が増加し、相溶化剤添加後の相−ロの融解熱(Y’)が減少し、X’>X、Y’<Yとなるため、Y’/X’=B(相溶化剤を添加した場合の吸熱量比)はAより小さな値となる。この結果、A/Bは1より大きくなり、この値が大きいほど、相溶化が進んでいることを示す。最も相溶が進み融解熱の小さなものが消失し(Y’=0)、結晶融解ピークが1本となるとY’/X’=B=0となり、A/Bは∞となる。
従って、末端封止剤でも後述「(3−2)反応性基を分子内に有する共重合体」に近い構造を有するものも存在するが(例えばポリエステルの末端カルボン酸と反応するカルボジイミド系化合物等)、相溶化能は有しておらず上記のような結晶融解熱に変化を与えない。これは、末端封止剤は反応性基のみからなり、ポリエステルと親和するための基(例えば、疎水性基や親水性基)を有していないことに因る(「(3−2)反応性基を分子内に有する共重合体」の場合、「共重合体」部分がポリエステルと親和性を有する)。
【0040】
このような結晶融解熱は走査型示差熱量計(DSC)を用い以下の方法で測定される。
・サンプルフィルムを5〜10mg精秤し測定パンに入れる。これを10℃/分で300℃まで昇温後(1st−run)、室温まで急冷し、再度10℃/分で300℃まで昇温する(2nd−run)。
・2nd−runにおいて220℃以上300℃以下においてピークが出現する吸熱ピークを結晶融解ピークとし、ベースラインと吸熱ピークの囲む面積から結晶融解熱を求める。なお、複数のピークが重なっている場合は、各ピークの間の谷の間にベースラインを結び、それとピークの間の面積から算出する。具体的には、例えばDSCを用いて測定した場合に
図1に記載のフィルムの低温側の結晶融解熱Xと、高温側の結晶融解熱Yを示すピーク2つが観察されたとき、XがYより大きい場合は、Xが最大吸熱ピークの吸熱量となり、Yがその次の吸熱ピークの吸熱量となる。
上記測定を相溶化剤未添加のフィルム、添加したフィルムについて測定し、上記A、Bの吸熱量比を求める。すなわち、上記具体例では、Y/XがA(相溶化剤未添加の場合の吸熱量比)またはB(相溶化剤を添加した場合の吸熱量比)となる。
【0041】
本発明のポリエステルフィルムに用いられる相溶化剤として、具体的には下記のようなものが挙げられる。
(3−1)極性部と非極性部を一分子内に共存する共重合体
スチレンとエチレンブロック共重合体ポリエステルとポリオレフィンの共重合体(例えば、特開2009−214941号公報に記載のもの)、ポリエステルとポリオレフィンの共重合体(例えば、特開2009−214941号公報に記載のもの)、エチレンとメタアクリル酸の共重合体(例えば、特開2009−214941号公報に記載のもの)、ポリエステルとポリオレフィンのブロック共重合体(例えば、特開2004−1888号公報に記載のもの)、エチレンとメタクリル酸の共重合体(例えば、特開2004−1888号公報に記載のもの)、スチレンとエチレンとブタジエンの共重合体(例えば、特開2004−1888号公報に記載のもの)、エチレンと酢酸ビニル(例えば、特開2000−256517号公報に記載のもの)、スチレンとブタジエンのブロック共重合体(例えば、特開2000−256517号公報に記載のもの)、スチレンとエチレンとブタジエンのブロック共重合体(例えば、特開平8−239561号公報に記載のもの)、アイオノマー共重合体(例えば、特開2004−1888号公報、WO2005/066245号、特開2004−346251号公報に記載のもの)が挙げられる。
このような(3−1)の相溶化剤(極性部と非極性部を一分子内に共存する共重合体)を添加することでドライサーモでの最大応力保持率、ウエットサーモでの最大伸度保持率を向上させる効果を有する。これは以下の理由に因る。
ドライサーモに於いても、ウエットサーモにおいてもCHDM系ポリエステルが分解し、水酸基、カルボン酸基等が増加する。
これらの水酸基、カルボン酸基に対し、上記(3−1)の相溶化剤は極性部と非極性部が存在し、極性の増加した上記分解ポリエステルと、極性の小さい非分解ポリエステルの相溶性を促す効果を有する。
分子量の低下した分解ポリエステルと非分解ポリエステルが非相溶だと、分子量の小さい分解性ポリエステルが集まり易く、破断強度、伸度が低下し易い。これに対し、相溶化剤が存在すると分子量の小さい分解ポリエステルが、分子量の大きな非相溶ポリエステル中に混在し、非分解性ポリエステルが力学強度を担うため、破断伸度、強度が低下し難い。
CHDM構造はエチレングリコール(EG)に対し屈曲性が小さく相溶性が小さく、本発明のようなCHDM系ポリエステルを用いるときにおいて特に有効である。
【0042】
(3−2)反応性基を分子内に有する共重合体
反応性基とは、グリシジル基、オキサゾリン基、カルボキシル基、水酸基、二重結合、酸無水物、アミノ基、ニトリル基、アミド基、エステ基等を挙げることができる。具体的にはグリシジル基とメタクリレートとエチレンから成る化合物(例えば、特開2011−7892号公報に記載のもの)、ポリエチとグリシジルメタクリレートから成る化合物(例えば特開2010−188613号公報に記載のもの)、オキサゾリン化合物(例えば、特開2004−346251号公報に記載のもの)、エチレンとグリシジルメタクリレート共重合体(例えば、特開2004−346086号公報に記載のもの、特開2004−1888号公報に記載のもの)、ポリエチと酸あるいは無水物の共重合体(例えば、特開2000−256517号公報に記載のもの)、ポリエチとグリシジルエステルの共重合体(例えば、特開2000−256517号公報に記載のもの)、ポリエチとポリスチレンとグリシジルエステルの共重合体(例えば、特開2000−256517号公報に記載のもの)、エポキシ末端を有するエチレン系共重合体(例えば、WO2005/066245号公報に記載のもの)を挙げることができる。
【0043】
このような(3−2)の相溶化剤(反応性基を分子内に有する共重合体)を添加することでドライサーモでの最大応力保持率、ウエットサーモでの最大伸度保持率を向上させる効果を有する。これは以下の理由に因る。
ドライサーモに於いても、ウエットサーモにおいてもポリエステルが分解し、水酸基、カルボン酸基等が増加する。
このような水酸基、カルボン酸基は、上記相溶化剤(3−2)の反応性基と結合、相互作用する。この結果、分解により分子量が低下したポリエステルも、分子量が見かけ上増加し、破断伸度、破断強度の低下を抑制できる。
このような効果はCHDM系ポリエステルで特に有効である。CHDM基がEG基に対し運動性が低く、破断し易いため、このような効果が有効に働く。
【0044】
なかでも好ましいのが、水素添加ジエン系共重合体(P)と、オレフィン系単量体単位及び/又は芳香族ビニル系単量単位(Q1)と、酸無水物基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、アミノ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、オキサゾリン基、アミド結合およびエステル結合からなる群の少なくとも1つを有する単量体から選ばれた少なくとも一種の単量体単位(Q2)からなる重合体(Q)からなることを特徴とする相溶化剤−A、および、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも一つと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックを少なくとも一つ有し、かつアミノ基を含有するブロック共重合体の水添重合体を含有することを特徴とする相溶化剤−Bである。相溶化剤−Aおよび相溶化剤Bはいずれも反応性基を有する上記(3−2)の相溶化剤に属する。
【0045】
(3−2−1)相溶化剤−A
相溶化剤−Aは特開2002−317076号公報に従い調製できる。
【0046】
A−イ)水素添加ジエン系共重合体(P)
前記水素添加ジエン系共重合体(化合物P)として、特開2002−317076号公報の段落番号0039〜0049のものを使用できる。
この化合物Pはジエン(C=C−C=C)を出発物質としており基本構造が炭素4つ分の繰返し単位を有する。この長さが、CHDM系ポリエステルのCHDM基の長さとマッチングし相互作用し易い。この結果、CHDM系ポリエステルと相溶性が高く、分解したCHDM系ポリエステルと非分解CHDM系ポリエステルの相溶性を促し、破断伸度、破断強度の低下を抑制する効果がある。
化合物Pの二重結合は水添されていることが好ましい。水添前(C−C=C−C)は二重結合の箇所でC−C間の回転が抑制され(柔軟性に欠け)、上記マッチング効果が得難い。一方、水添されることにより(C−C−C−C)となり自由回転し易くなり、屈曲性が上昇しCHDM基になじみ易くなり相溶性が向上する。
【0047】
A−ロ)オレフィン系単量体単位及び/又は芳香族ビニル系単量体単位(Q1)と反応性を有する単量体単位(Q2)からなる重合体(化合物Q)
前記オレフィン系単量体単位及び/又は芳香族ビニル系単量単位Q1は特開2002−317076号公報の段落番号0052のものを使用できる。
上記単量体単位Q1のうち、オレフィン系単量体単位とすることで、屈曲性を付与することができる。嵩高いCHDM基を有するCHDM系ポリエステルに対しても、このオレフィン系単量体単位Q1を有する化合物Qは柔軟に追従し、CHDM系ポリエステルとの近接を促すことができ、Q2との反応効率を上げることができる。
また上記単量体単位Q1のうち、芳香族ビニル系単量体単位を用いることで、側鎖に存在する芳香族基と本発明のCHDM系ポリエステルとが相互作用し易くすることができる。即ち嵩高い(主鎖から張り出した)CHDM基に対し、側鎖の芳香族基が相互作用し、この芳香族ビニル系単量体単位Q1を有する化合物QとCHDM系ポリエステルの近接を促し、その結果反応性基(Q2)の反応を促すためである。
前記反応性を有する単量体単位Q2は特開2002−317076号公報の段落番号0051のものを使用できる。前記酸無水物基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、アミノ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、オキサゾリン基、アミド結合およびエステル結合からなる群の中でも、より好ましくは酸無水物基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、アミノ基、ニトリル基、ヒドロキシル基、オキサゾリン基、アミド結合およびエステル結合を使用できる。
上記Q2を有することで、本発明に用いるCHDM系ポリエステルがドライサーモ、ウエットサーモ分解し生じた水酸基、カルボキシル基等と効率的な相互作用、反応ができ、相溶性を促す効果を有する。
前記単量体単位Q1と、前記単量体単位Q2を含む化合物Qとして、特開2002−317076号公報の段落番号0053のものを使用できる。
【0048】
(3−2−2)相溶化剤−B
相溶化剤−Bは特開2004−59817号公報の段落0017〜0039に記載の方法で調製できる
【0049】
B−イ)芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック
本発明に用いるポリエステルはCHDM基が嵩高く主鎖からはみ出している。これに対し、芳香族ビニルは芳香族環が主鎖から直交方向にはみだしており、これらが相互作用し易い。この結果、下記アミノ基を含有するブロック共重合体の水添重合体と、CHDM系ポリステルのドライ、ウエットサーモで生じた水酸基、カルボン酸基が相互作用し易く、相溶性を促す効果を有する。この結果、分解したCHDM系ポリエステルの破断強度、破断伸度低下を、非分解CHDM系ポリエステルが補う効果を有する。
【0050】
B−ロ)共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック
この共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックはジエン(C=C−C=C)を出発物質としており、基本構造が炭素4つ分の繰返し単位を有する。この長さが、CHDM系ポリエステルのCHDM基の長さとマッチングし相互作用し易い。この結果、CHDM系ポリエステルと相溶性が高く、分解したCHDM系ポリエステルと非分解CHDM系ポリエステルの相溶性を促し、破断伸度、破断強度の低下を抑制する効果がある。
さらに、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの二重結合は水添されていることが好ましい。水添前(C−C=C−C)は二重結合の箇所でC−C間の回転が抑制され(柔軟性に欠け)、上記マッチング効果が得難い。一方、水添されることにより(C−C−C−C)となり自由回転し易くなり、屈曲性が上昇しCHDM基になじみ易くなり相溶性が向上する。
【0051】
B−ハ)アミノ基を含有するブロック共重合体の水添重合体
アミノ基を含有するブロック共重合体の水添重合体は、CHDM系ポリステルのドライ、ウエットサーモで生じた水酸基、カルボン酸基と相互作用し易く、非分解、分解CHDMポリエステル間の相溶性を促す効果を有する。
【0052】
これらの相溶化剤は上記効果以外にも、本発明のポリエステルフィルムのドライサーモでの最大応力保持率の面内分布、本発明のドライサーモでの最大伸度保持率の面内分布を付与する効果も有する。これは以下の理由によると推定する。
CHDM系ポリエステルが分解する前は極性の高い箇所が存在せず、このような中では相溶化剤の極性高い箇所は自分たちでまとまり、非相溶な構造を取る。すなわち、ドライ、ウエットサーモ前はCHDM系ポリエステルと相溶化剤は分離して存在する。
CHDMポリエステルをドライ、ウエットサーモに掛けると、分解により極性の高い箇所が発生する。相溶化剤は上述のように両親媒性であり、極性の大きな箇所と小さな箇所が、それぞれCHDMの分解箇所と非分解箇所に相互作用する。このようにミクロに見れば相溶化剤とCHDMポリエステルは相溶している。
しかし、ドライ、ウエットサーモ前はCHDMポリエステルと相溶化剤は分離しており、サーモ後も一部この構造が残っている。この結果、マクロに見れば不均一性が発現し、本発明のポリエステルフィルムに好ましい最大応力保持率の面内分布、最大伸度保持率の面内分布の発現を促す効果がある。
【0053】
(4)末端封止剤
前記CHDM系ポリエステルを含有する層が末端封止剤を含むことが、非晶構造をより強化でき、バックシートでの剥離故障を低減できる観点から好ましい。一般にポリエステル分子末端はOH基あるいはカルボキシル基のため極性が高く、集まり易いため、前記CHDM系ポリエステル分子が配列して形成される非晶構造の形成が抑制される。これに対し、前記CHDM系ポリエステルの末端を封止することで非晶構造を形成し易くし、剥離故障を軽減することができる。
また、末端封止剤を含むことにより、本発明のポリエステルフィルムのAVを好ましい範囲に制御することができる。
【0054】
末端カルボン酸と反応するカルボジイミド、オキサゾリン、エポキシ等の末端封止剤を使用することも好ましい。例えば、特許4849189号公報、特開2011−258641号公報、特開2011−222580号公報、WO09/123357号公報、特開2010−31171号公報等に記載の末端封止剤を使用することが好ましい。その中でもより好ましい末端封止剤はカルボジイミド構造をもつもので、特に好ましくは分子量が5000以上のポリカルボジイミドまたは環状カルボジイミドである。
【0055】
末端封止剤の添加量は、前記CHDM系ポリエステルに対し0.1%以上5%以下が好ましく、より好ましくは0.2%以上3%以下、さらに好ましくは0.3%以上2%以下である。この範囲の下限値以上であれば上記剥離故障を低減する効果が十分に発現する。この範囲の上限値以下であれば、ポリエステルフィルム中で異物となって非晶の配向構造形成を阻害することを抑制でき、剥離故障が抑制できる。
【0056】
(5)その他の添加剤
ポリエステルフィルムの中には、公知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子などが添加されていてもよい。特に、無機粒子や有機粒子は、フィルム表面に易滑性を与え、フィルムの取り扱い性を高めるために有効である。
また、前記CHDM系ポリエステルを含有する層には、後述するその他の層と同様に非相溶性樹脂や無機微粒子を添加し、白色化しても構わない。
【0057】
(その他の層との積層)
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルを含有する層を少なくとも1層有していればよく、単層であっても、2以上の層を有していてもよい。すなわち、前記CHDM系ポリエステルを含有する層以外のその他の層と積層されていてもよい。
【0058】
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルを含有する層(P1層と称する)と、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを含有する層(P2層と称する)とが積層された態様も好ましい。
【0059】
P2層は、ジカルボン酸ユニット中テレフタル酸ユニットを95%以上有し、かつジオールユニット中エチレングリコールユニットを95モル%以上含むものをさす。
またP2層のIVは0.7以上0.9以下が好ましく、より好ましくは0.72以上0.85以下、さらに好ましくは0.74以上0.82以下である。このようにIVを高めにすることでwet、dryサーモでの分解(分子量低下)を抑制し、ポリエステルフィルムの最大応力保持率や最大伸度保持率を高くすることができる。
【0060】
本発明のポリエステルフィルムは、P1層とP2層の層数の和は、2層以上が好ましく、より好ましくは2層以上5層以下、さらに好ましくは2層以上4層以下である。中でも好ましいのが、P2層の両側をP1層で挟んだ3層構造である。
外層のP1層が上記の剥離故障低減の効果を有する。さらに内層のP2層はP1層に対し結晶構造が強固であるため、高温下での強度低下が少なく、この積層フィルムをEVAと貼り合せた際にEVAの収縮応力に引っ張られ変形することによる残留歪を抑制し、剥離故障を低減する効果がある。
【0061】
本発明のポリエステルフィルムが2層以上の場合、厚みはP1層の総和が全厚みの5%以上40%以上が好ましく、より好ましくは7%以上38%以上、さらに好ましくは10%以上35%以下である。この範囲の下限値以上であれば上記剥離故障を低減する効果が十分に発現する。P1の厚みが厚くなりP2の厚みに近づいた場合も、上記範囲の上限値以下であれば、dryまたはwetサーモ中のP1層とP2層の伸縮に伴う収縮力が拮抗しても、残留応力が発生し難くなり(P1層が薄いと、P2層の応力で引き延ばされ、変形することで残留応力が生じにくい)、密着評価においてポリエステルフィルム内でのP1、P2層間の剥離を引き起こし難くなる。なお、P1層厚みの総和の増加に伴い、dryまたはwetサーモ耐性が増加し、ポリエステルフィルムの最大応力保持率および最大伸度保持率は増加し、P1層の厚みが40%を超えてもポリエステルフィルムの最大応力保持率および最大伸度保持率が低下することは無い。
ポリエステルフィルムの各層の厚みは、フィルムの断面を、SIMSを用い測定し、P1層の特徴フラグメント、P2層の特徴フラグメントでイメージングすることで求めることができる。
なお、本発明のポリエステルフィルムが単層の場合ではP1層のみとなるが、上記メカニズムによるポリエステルフィルム内での剥離は発生しない。
【0062】
(厚み)
本発明のポリエステルフィルムの厚みは50μm以上300μm以下が好ましく、より好ましくは60μm以上280μm以下、さらに好ましくは70μm以上270μm以下である。この範囲の下限値以上であればポリエステルフィルムとEVAとの貼り付け時に皺が発生し難く、そこが応力集中点となり難く、剥離故障を発生し難い。一方、この範囲の上限値以下であればフィルムの曲げ弾性が強くなりすぎず、EVAと貼り合せた際に反りが発生し難く、好ましい。
【0063】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
本発明のポリエステルフィルムの製造方法としては特に制限はなく、公知の方法によって製造することができる。前記ポリエステルフィルムの製造方法は、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造をジオール成分の0.1〜20モル%または80〜100モル%含むCHDM系ポリエステルを含有する組成物を、フィルム状に成形する工程を含む。フィルム状に成形する工程の中でも、前記CHDM系ポリエステルを含有する組成物を溶融混練し、溶融製膜することが好ましい。
さらに、前記フィルムを2方向に延伸する工程を含むことが好ましい。また、延伸後に熱固定する工程を含むことも好ましい。
【0064】
(ポリエステルの合成)
前記CHDM系ポリエステルは合成および重合により入手しても、商業的に入手してもよい。また、従来公知の製造方法によって製造することができる。すなわちジカルボン酸とジオールを直接反応させて水を留去しエステル化した後、減圧下に重縮合を行う直接エステル化法、またはジカルボン酸ジメチルエステルとジオールを反応させてメチルアルコールを留去しエステル交換させた後、減圧下に重縮合を行うエステル交換法により製造される。更に極限粘度数を増大させるために固相重合を行うことができる。
【0065】
上記のエステル交換反応またはエステル化反応および重縮合反応時には、触媒および安定剤を使用することが好ましい。
エステル交換触媒としてはMg化合物、Mn化合物、Ca化合物、Zn化合物などが使用され、例えばこれらの酢酸塩、モノカルボン酸塩、アルコラート、および酸化物などが挙げられる。またエステル化反応は触媒を添加せずに、ジカルボン酸およびジオールのみで実施することが可能であるが、後述の重縮合触媒の存在下に実施することもできる。
またエステル化反応時には、ジエチレングリコール副生を抑制するためにトリエチルアミンなどの第3級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウムなどの水酸化第4級アンモニウム、および炭酸ナトリウムなどの塩基性化合物を添加することもできる。
【0066】
重縮合触媒としては、Ge化合物、Ti化合物、Sb化合物などが使用可能であり、例えば二酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、ゲルマニウムアルコラート、チタンテトラブトキサイド、チタンテトライソプロポキサイド、および蓚酸チタンなどが挙げられる。
安定剤としてリン化合物を用いることが好ましい。好ましいリン化合物としては、リン酸およびそのエステル、亜リン酸およびそのエステル、次亜リン酸およびそのエステル、並びに次亜リン酸およびそのエステルなどが挙げられる。
また得られたCHDM系ポリエステルには、各種の安定剤および改質剤を配合することができる。
【0067】
前記CHDM系ポリエステルを固相重合することにより、CHDM系ポリエステルの分子量を増加させ末端数を低減させることが、本発明のポリエステルフィルムのIVおよびAVを制御する観点から好ましい。
固相重合における好ましい温度は170℃以上240℃以下、より好ましくは180℃以上230℃以下、さらに好ましくは190℃以上220℃以下。好ましい固相重合時間は5時間以上50時間以下、より好ましくは10時間以上40時間以下、さらに好ましくは15時間以上30時間以下である。このような固相重合は酸素を遮断して行うのが好ましく、不活性ガス中、真空下で実施するのが好ましい。
【0068】
(溶融・混練)
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、前記CHDM系ポリエステルを含有する組成物を溶融押出しして製膜されてなることが好ましい。
前記CHDM系ポリエステルを含有する組成物には、前記ポリエステルの高結晶微粒子、末端封止剤、その他の添加剤を添加し、押出し機中で溶融混練することが好ましい。
【0069】
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、ポリエステルの高結晶微粒子を前記CHDM系ポリエステルに対して10〜1000ppm添加した組成物を溶融押出しすることによって製膜されてなることが好ましい。ポリエステルの高結晶微粒子の好ましい添加方法としては特に制限はないが、前記CHDM系ポリエステルペレットと、別途調製したポリエステルの高結晶微粒子とを押出し機に添加する前に乾燥することが好ましい。
また、前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、ポリエステルの高結晶微粒子に加えて前記相溶化剤も添加した組成物を溶融押出しすることによって製膜されてなることが好ましい。相溶化剤の好ましい添加方法としては特に制限はない。
また、前記CHDM系ポリエステルを含有する層が、ポリエステルの高結晶微粒子に加えて前記末端封止剤も添加した組成物を溶融押出しすることによって製膜されてなることが好ましい。末端封止剤の好ましい添加方法としては特に制限はない。
前記CHDM系ポリエステルペレットと、別途調製したポリエステルの高結晶微粒子とを、押出し機に添加する前に乾燥することが好ましい。
また、前記CHDM系ポリエステルのペレット、ポリエステルの結晶性微粒子、相溶化剤、末端封止剤などを含む組成物は、押出し機内部で溶融されてメルト化し、混練してから、押出すことが好ましい。
【0070】
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルを含むメルトの押出し〜ダイの滞留時間に10〜150%の差を与えて溶融製膜されてなることが好ましく、より好ましくは20%以上120%以下、さらに好ましくは30%以上90%である。前記CHDM系ポリエステルを含むメルトの滞留時間分布がこの範囲の上限値以下であれば最大応力保持率の分布が上記範囲を超え難く、一方、この範囲の下限値以上であれば最大応力保持率の分布が上記範囲を下回り難い。
メルトの滞留時間に分布を持たせるには、押出し機からダイの間に邪魔板を設け、メルトの滞留時間を変えることができる。前記邪魔板の形状としては特に制限はない。
【0071】
(押出し・製膜)
本発明のポリエステルフィルムは、例えば、まず、ポリエステルフィルムを構成する原反(未延伸)ポリエステルシートを製造する。原反ポリエステルシートを製造するには、例えば、上記で調製した前記CHDM系ポリエステルのペレット、ポリエステルの結晶性微粒子、末端封止剤などを含む組成物を、押出し機を用いて溶融し、口金(ダイ)から吐出した後、冷却固化してシート状に成形する。また、本発明のポリエステルフィルムは、溶融混練後、メルトを押出し機からダイを介して、任意の支持体(例えばキャスティングドラム)上に押出して製膜されることが好ましい。
【0072】
ダイから押出された前記CHDM系ポリエステルを含む融体(メルト)は、その下にあるキャストドラムに引っ張られ、流れ方向(MD)に残留結晶は配向し易い。
キャストドラム(CD)に達すると融体は急冷され収縮する。この時、幅方向の収縮を抑制することで収縮応力が発生、これによりTD方向に残留結晶を配向させることができる。具体的には、CD上で幅方向(TD)の収縮を抑制し収縮応力を増加するには、メルトの両端の厚みを厚くすることが有効である。これは、メルトの両端の厚みを厚くすることで冷却速度を遅くし、固化を遅らせることができ、その結果メルトの両端の粘性が増加し粘着力が発生することで、横方向の収縮を抑制するためである。
【0073】
本発明のポリエステルフィルムは、前記CHDM系ポリエステルを含むメルトの押出し時の両端部の厚みを、中央部の厚みよりも0.5〜10%厚くして溶融製膜されてなることが延伸前の残留結晶構造のTD配向を多くする観点から好ましく、より好ましくは1%以上8%以下、さらに好ましくは1.5%以上6%以下厚くすることが好ましい。なお、メルトの両端部とは、両端から全幅の片側5%の領域を指し、両端2箇所の平均厚みと全幅の平均厚みの差を全幅の平均厚みで割り百分率で示している。メルトの両端の厚みが上記の範囲の下限値以上であれば上記効果が十分に発現し、ポリエステルフィルムの最大応力保持率のTDが小さくなりすぎず、ポリエステルフィルムのTD方向の最大応力保持率とMD方向の最大応力保持率の差が上記好ましい範囲を以上にすることができる(TD配向し難くMD配向が優先されるため)。一方、メルトの両端の厚みが上記の範囲の上限値以下であれば、上記効果(CDへの粘着)が強くなりすぎず、ポリエステルフィルムの最大応力保持率のTD配向が強くなりすぎず、ポリエステルフィルムのTD方向の最大応力保持率とMD方向の最大応力保持率の差が上記好ましい範囲の上限値以下にし易い。
【0074】
残留結晶構造のMD配向量、TD配向量は延伸する前に付与することが有効である。これは、残留結晶構造が取っ掛かりとなり、延伸工程で非晶が配向するためである。
【0075】
本発明のポリエステルフィルムが積層構造を有する場合、積層構造はマルチマニホールドダイ、フィードブロックを用い押出すことで達成できる。
【0076】
(溶融物のフィルム状への成形)
このようにして押出し機から押出された溶融物(メルト)はキャスティング(冷却)ロール上で固化し原反(未延伸フィルム)を得る。好ましい冷却ロールの温度は10℃以上60℃以下が好ましく、より好ましくは15℃以上55℃以下、さらに好ましくは20℃以上50℃以下である。このとき、メルトと冷却ロールとの密着力を向上するため、静電印加法や、エアナイフ法等を好ましく用いることができる。
【0077】
(延伸)
続いて、上記のようにして得られたシート状物(原反)を、長手方向と幅方向の二軸に延伸した後、熱処理する。延伸形式としては、長手方向に延伸した後に幅方向に延伸を行うなどの逐次二軸延伸法、同時二軸テンター等を用いて長手方向と幅方向を同時に延伸する同時二軸延伸法、さらに、逐次二軸延伸法と同時二軸延伸法を組み合わせた方法などが包含される。
【0078】
ここでは、未延伸フィルムを、数本のロールの配置された縦延伸機を用いて、ロールの周速差を利用してフィルム搬送方向(以下、縦方向、長手方向とも言う)に延伸し(MD延伸、縦延伸)、続いてテンターによりフィルム搬送方向に直交する方向(以下、横方向、幅方向とも言う)に延伸を行う(TD延伸、横延伸)、二軸延伸方法について説明する。
【0079】
まず、未延伸フィルムをMD延伸することが好ましい。またMD延伸に先立って原反を十分に予熱するのが好ましい。好ましい予熱温度は40℃以上90℃以下であり、より好ましくは50℃以上85℃以下、さらに好ましくは60℃以上80℃以下である。このような予熱は原反を加熱(調温)ロール上に通して行うが、好ましい予熱時間は1秒以上120秒以下、より好ましくは5秒以上60秒以下、さらに好ましくは10秒以上40秒以下である。
MD延伸は1段でおこなってもよく、多段で行っても良い。1段で行う場合、ガラス転移温度Tg以上Tg+15℃以下(より好ましくはTg+10℃以下)の温度とし、好ましい延伸倍率は3.0〜5.0倍であり、より好ましくは3.3〜4.5倍であり、さらに好ましくは3.5〜4.2倍である。延伸後、20〜50℃の温度の冷却ロール群で冷却することが好ましい。この倍率の下限値以上であればこれに伴い発生する非晶部の配向が十分に形成でき、剥離故障を発生し難い。一方、この範囲の上限値以下であれば縦配向が強くなりすぎず、へき開が発生し難くなり、剥離故障が発生し難く、好ましい。
また多段で縦延伸を行う場合、最初の低温での延伸(MD延伸1)は(Tg−20)〜(Tg+10)℃の範囲、さらに好ましくは(Tg−10)〜(Tg+5)℃の範囲にある加熱ロール群で加熱し、長手方向に好ましくは1.1〜3.0倍、より好ましくは1.2〜2.5倍、さらに好ましくは1.5〜2.0倍に延伸し、次にMD延伸1温度より高温(Tg+10)〜(Tg+50)でMD延伸2を行う。より好ましい温度は(Tg+15)(〜Tg+30)である。MD延伸2の好ましい延伸倍率は1.2〜4.0倍であり、より好ましくは1.5〜3.0倍である。MD延伸1とMD延伸2の合わせたMD延伸倍率は、好ましくは2.0〜6.0倍であり、より好ましくは3.0〜5.5倍であり、さらに好ましくは3.5〜5.0倍である。第1段と第2段の延伸倍率の比(第2段/第1段=多段倍率比と称する)は1.1以上3以下が好ましく、より好ましくは1.15倍以上2倍以下、さらに好ましくは1.2倍以上1.8倍以下である。多段延伸比がこの範囲の下限値以上であれば、1段延伸の場合と同様に剥離故障が発生し難く、好ましい。
【0080】
次に、テンター(ステンターと称することもある)を用いて、幅方向の延伸を行うことが好ましい。その延伸倍率は、好ましくは3.0〜5.0倍であり、より好ましくは3.3〜4.5倍であり、さらに好ましくは3.5〜4.2倍である。また、温度は好ましくは(Tg)〜(Tg+50)℃の範囲であり、さらに好ましくは(Tg)〜(Tg+30)℃の範囲で行う。
【0081】
(熱固定)
前記2方向への延伸の後、フィルムの熱固定(熱処理)を行ってもよい。熱固定はテンターや、加熱オーブンの中や、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。
本発明のポリエステルフィルムの製造方法は、熱固定の温度が196℃以上215℃以下であることが好ましい。
熱固定温度を196℃以上215℃以下、より好ましくは198℃以上210℃以下、さらに好ましくは200℃以上208℃以下にすることで延伸による分子の緊張を適度に解除し熱収縮を低減できる(配向で生じた分子の緊張が解除することで熱収縮が発現する)。
この熱固定は一般にポリエステルの融点以下の温度で行われるが、本発明では、上述のような温度で熱固定することが好ましい。このとき、縦、横方向の少なくとも一方向に上述のように緩和させることも好ましい。
【0082】
(巻き取り)
前記ポリエステルフィルムの製造方法は、このようにして得られたフィルムを巻き取る工程を含むことが好ましい。
【0083】
[太陽電池モジュール用バックシート]
本発明の太陽電池モジュール用バックシートは、本発明のポリエステルフィルムを含むことを特徴とする。
本発明の太陽電池モジュール用バックシートは、既述の本発明のポリエステルフィルムを設けて構成し、被着物に対して易接着性の易接着性層、紫外線吸収層、光反射性のある白色層などの機能性層を設けて構成することができる。本発明の太陽電池モジュール用バックシートは、本発明のポリエステルフィルムを備えるので、高温下での長期使用時において安定した封止剤との密着性(耐久性能)を示す。
【0084】
前記太陽電池モジュール用バックシートは、例えば、一軸延伸後及び/又は二軸延伸後のポリエステルフィルムに機能性層を塗設してもよい。塗設には、ロールコート法、ナイフエッジコート法、グラビアコート法、カーテンコート法等の公知の塗布技術を用いることができる。
また、これらの塗設前に表面処理(火炎処理、コロナ処理、プラズマ処理、紫外線処理等)を実施してもよい。さらに、粘着剤を用いて貼り合わせることも好ましい。
【0085】
[太陽電池モジュール]
本発明の太陽電池モジュールは、本発明のポリエステルフィルムまたは本発明の太陽電池モジュール用バックシートを含むことを特徴とする。
本発明の太陽電池モジュールは、太陽光の光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池素子を、太陽光が入射する透明性の基板と既述の本発明のポリエステルフィルム(太陽電池モジュール用バックシート)との間に配置して構成されている。基板とポリエステルフィルムとの間は、例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体等の樹脂(いわゆる封止材)で封止して構成することができる。
【0086】
太陽電池モジュール、太陽電池セル、太陽電池モジュール用バックシート以外の部材については、例えば、「太陽光発電システム構成材料」(杉本栄一監修、(株)工業調査会、2008年発行)に詳細に記載されている。
【0087】
透明性の基板は、太陽光が透過し得る光透過性を有していればよく、光を透過する基材から適宜選択することができる。発電効率の観点からは、光の透過率が高いものほど好ましく、このような基板として、例えば、ガラス基板、アクリル樹脂などの透明樹脂などを好適に用いることができる。
【0088】
太陽電池素子としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンなどのシリコン系、銅−インジウム−ガリウム−セレン、銅−インジウム−セレン、カドミウム−テルル、ガリウム−砒素などのIII−V族やII−VI族化合物半導体系など、各種公知の太陽電池素子を適用することができる。
【実施例】
【0089】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0090】
[実施例1〜60、64〜75および比較例1〜7]
(1)トランス−CHDMの調製
Journal of Chemical Society,1953,404−407に記載の方法でトランス体の1,4−シクロヘキサンジメタノール(トランス−CHDM)を抽出した。
【0091】
(2)P1層用のポリエステルの調製
第1工程:ジカルボン酸成分としてイソフタル酸とテレフタル酸、ジオール成分として上記にて調製したトランス−CHDM、シス体の1,4−シクロヘキサンジメタノール(シス−CHDM)およびエチレングリコール(EG)を用い、触媒として酢酸マグネシウム、三酸化アンチモンを150℃、窒素雰囲気下で溶融後、攪拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させ、エステル交換反応を終了した。
第2工程:エステル交換反応終了後、リン酸をエチレングリコールに溶解したエチレングリコール溶液を添加した。
第3工程:重合反応を最終到達温度285℃、真空度0.1Torrで行い、ポリエステルを得た。
第4工程:上記で得られたポリエステルペレットを160℃で6時間乾燥、結晶化した後、下記表1および3記載の温度と時間で固相重合した。
上記第4工程後に得られたポリエステルペレットを、P1層用のポリエステルとした。
【0092】
上記にて得られたP1層用のポリエステルについて、ジオール成分中のシクロヘキサンジメタノール含率およびジカルボン酸成分中のイソフタル酸含率を以下の方法で測定した。
P1層用のポリエステルペレットをHFIPに溶解した後、
1H−NMRにより定量した。標品(CHDM、テレフタル酸、EG、イソフタル酸)を予め測定し、これを用いシグナルを同定した。
得られたイソフタル酸量およびCHDM量を下記表1および3に記載した。なお、100モル%−イソフタル酸含率(モル%)がテレフタル酸含率(モル%)であり、100(モル%)−CHDM率(モル%)がEG含率(モル%)である。
また、上記にて得られたP1層用のポリエステルについて、CHDMのトランス含率の定量を以下の方法で行った。
P1層用のポリエステルペレットをアルカリ加水分解した後、Journal of Organic Chemistry,1981,46,3754−3756に記載の方法に従う。
P1層用のポリエステル中のCHDM由来の構造のトランス含率を下記表1および3に記載した。
【0093】
(3)ポリエステルの高結晶微粒子の調製
上記第4工程まで実施して得られた実施例1のポリエステルフィルムのP1層用(下記表1に記載の組成)のポリエステルを粉砕したあと、篩にかけ50μm〜300μmの微粒子にした。なお、後述のその他の実施例および比較例においても、ポリエステルの高結晶微粒子の原料として実施例1のポリエステルフィルムのP1層用のポリエステルを使用した。
これを各実施例および比較例において、下記表1および表3に記載の温度で、下記表1および表3に記載の時間、窒素気流中で熱処理した。このような熱処理後の微粒子を、ポリエステルの高結晶微粒子とした。
ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度と、P1層用のポリエステルペレットの結晶化度の差は以下のようにして測定した。
i)n−ヘキサンと四塩化炭素からなる密度勾配管を作成し、この中に比重の既知のフロートを入れ検量線を作成する。
ii)この中にサンプルを入れ密度を測定し、下記式から結晶化度を求める。
結晶化度(%)=100×(サンプルの密度−1.335)/0.166
iii)上記方法で高結晶微粒子10個について測定し平均値を「ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度」とし、一方P1層用のポリエステルペレットも10個について測定し平均値を「P1層用のポリエステルペレットの結晶化度」とする。
iv)ポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度からP1層用のポリエステルペレットの結晶化度を差し引いた値を「結晶化度の差」とした。
このようにして得られたポリエステルの高結晶微粒子の結晶化度と、P1層用のポリエステルペレットの結晶化度の差を下記表1および3に示した。
【0094】
(4)溶融製膜
(4−1)押出し
実施例1〜60および比較例1〜7では、上記P1層用のポリステルペレットと、上記ポリエステルの高結晶微粒子を160℃で6時間乾燥した後、下記表1または表3に記載の量添加した(上記P1層用のポリエステルに対する質量%)。
これらの混合物を2軸混練押出し機で真空下、280℃で混練した。
この後、メルト配管を経由し、ダイから15℃のキャストドラム上に押出した。
この時メルト配管に邪魔板を儲け、メルトの押出し〜ダイの滞留時間(配管内の通過時間)に分布を付与した。滞留時間分布は以下のように計測した。押出しの際に非溶融性の微粒子(カーボンブラック)を添加し混練した以外は各実施例および比較例と同じ組成の計測用のポリエステルフィルムを別途押出し、キャストドラムで固化した後、サンプリングし、これを全幅を10等分し、両端2点を除いた8点について非溶融性の微粒子が最初に現れた点を求め、滞留時間を求める。最初に観測した点と最後に観測した点の滞留時間差を、両者の平均滞留時間で割り、求めた値を百分率で下記表1または表3に示した。
ダイからメルトを押出す際、フィルム原反の両端部の厚みが中央部より下記表1または表3に記載のように厚くなるようにダイリップの幅を調整し押出し、延伸用のフィルム原反を得た。なお、両端部の厚化率とは下記方法で求める。フィルム原反の片端から、全幅の5%の長さを計測し最大厚みを求める。この計測を両端で測定し、その平均値を求め、両端部の厚みとする。一方、フィルム原反の中央部(中央から左右に、全幅の10%ずつの領域)の厚みを計測し、平均値を中央部の厚みとする。下記式で求めた値を下記表1または表3に記載した。
100×(両端部の厚み−中央部の厚み)/中央部の厚み(%)
【0095】
実施例64〜69では押出す際に下記表3に記載の種類の末端封止剤を添加した以外は実施例1と同様にして、押出しを行った。
末端封止剤#1:カルボジイミド:スタビライザー9000(ラシヒ社製) Mw=20000 末端封止剤#2:特開2011−153209号公報の[0174]および[0175]段落に記載の環状カルボジイミド化合物(2)) Mw=516
【0096】
実施例70〜75ではフィードブロックを用いて共押出しを行った以外は実施例1と同様にして、押出しを行った。
CHDM系ポリエステル(P1層用のポリエステル)は下記表3に記載のものを用い、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル(P2層用のポリエステル)はIV=0.76dL/g、AV=12eq/トンのポリエチレンテレフタレートを用いた。
【0097】
各実施例および比較例において溶融押出しされたフィルム原反の積層構造について、P1層およびP2層の厚み(全厚に占める割合)を下記表1または表3中に記載した。下記表1または表3中、P1層/P2層/P1層の順に積層構造を記載し、各層の厚みを記載した。なお、100/0/0はP1層のみの単層構造であることを示し、例えば20/80/0はP1層とP2層の2層構造であることを示し、20/60/20はP1層とP2層とP1層がこの順で積層した3層構造であることを示す。
【0098】
(4−2)延伸
上記にて得られた溶融押出しされたフィルム原反を90℃で縦方向(MD方向、フィルム搬送方向または長手方向とも言う)に3.4倍延伸したあと、40℃まで冷却した。この後、テンターを用い110℃で横方向(TD方向、フィルム搬送方向に直交する方向または幅方向とも言う)に3.9倍延伸し、引続き210℃で20秒熱固定した。この後、190℃で幅方向、長手方向にそれぞれ5%ずつ緩和したあと、テンターから取出し、両端をトリミング、ナーリング付与した後、巻き取った。
なお、製膜幅は2.4m、製膜長は2000m、延伸後の厚みは下記表2および表4に示した。得られた2軸延伸ポリエステルフィルムを、各実施例および比較例のポリエステルフィルムとした。
【0099】
(5)評価
(5−1)フレッシュ品(dryサーモ前およびwetサーモ前)の評価
<固有粘度(IV;単位:dL/g)>
2軸延伸後の各実施例および比較例のポリエステルフィルムを、1,1,2,2−テトラクロルエタン/フェノール(=2/3[質量比])混合溶媒に溶解し、該混合溶媒中の25℃での溶液粘度から求めた。
ηsp/C=[η]+K[η]
2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量であり(本測定では1g/100mlとする)、Kはハギンス定数(0.343とする)であり。また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。
上記方法に従い、IVを測定し、得られた結果を下記表2および表4に記載した。
【0100】
<末端COOH量(AV;単位:eq(当量)/トン)>
得られた2軸延伸PETフィルムをベンジルアルコール/クロロホルム(=2/3[体積比])の混合溶液に完全溶解させ、指示薬としてフェノールレッドを用い、基準液(0.025N KOH−メタノール混合溶液)で滴定し、その適定量から算出した。
上記方法に従い、AVを測定し、得られた結果を下記表2および表4に記載した。
【0101】
(5−2)dryサーモ品の評価
<最大応力保持率>
まず、フレッシュ品の2軸延伸後の各実施例および比較例のポリエステルフィルムから、任意に抽出した一辺30cmの正方形20枚のサンプルを用意し、この中からMD方向とTD方向に10枚ずつの最大応力保持率を測定した。チャック間:12.5cm、フィルム幅:2.5cm、引張り速度:1.25cm/分の測定条件で引っ張り、最大応力を求めた。この測定はMD方向とTD方向ごとに測定した。
次に、180℃、相対湿度0%の空気恒温槽に120時間サンプルフィルムを入れたdryサーモ品を調製した。その後、上記フレッシュ品と同様の方法で最大応力を測定した。
得られたフレッシュ品とdryサーモ品の最大応力から、下記式によりdryサーモ後のポリエステルフィルムの最大応力保持率を求めた。
最大応力保持率(%)
=100×(dryサーモ後の最大応力)/(dryサーモ前の最大応力)
MD方向とTD方向において、それぞれ10枚の平均値をMD方向の最大応力保持率とTD方向の最大応力保持率とした。さらに、MD方向の最大応力保持率とTD方向の最大応力保持率の平均値を求め、各実施例および比較例のポリエステルフィルムのdryサーモ後の最大応力保持率として採用した。なお、dryサーモは180℃、相対湿度0%で120時間のサーモを指す。
【0102】
<最大応力>
一方、最大応力保持率の測定時に測定したdryサーモ品のTD方向の最大応力と、dryサーモ品のMD方向の最大応力を比較し、大きい方をdryサーモ後のポリエステルフィルムの最大応力とした。
【0103】
<最大応力保持率の面内分布>
最大応力保持率の測定時にMDおよびTD方向ごとに10枚ずつ測定した20枚のサンプル中、このなかの最大測定値と最小測定値、およびMDならびにTDごとの10枚の平均値から、下記式を用い、各方向における最大応力保持率の面内分布を求めた。
最大応力保持率の面内分布(%)
=100×(最大応力保持率の最大値−最大応力保持率の最小値)/最大応力保持率の平均値
なお、この測定はMD、TDごとに測定し、MD方向の最大応力保持率の面内分布と、TD方向の最大応力保持率の面内分布の平均値を、dryサーモ後のポリエステルフィルムの最大応力保持率の面内分布とした。
【0104】
<最大応力保持率のTD−MD差>
dryサーモ後のポリエステルフィルムの最大応力保持率のTD−MD差を、最大応力保持率の測定時に用いた10点のサンプルから、以下の式にしたがって算出した。
dryサーモ後の最大応力保持率のTD−MD差(%)
={(dryサーモ品のTD方向の最大応力保持率)−(dryサーモ品のMD方向の最大応力保持率)}
【0105】
上記に従いdryサーモ後の最大応力保持率、最大応力、最大応力保持率の分布、最大応力保持率のMD−TD差を求めた結果を、下記表2および表4に記載した。
【0106】
(5−3)wetサーモ品の評価
<最大伸度保持率>
破断伸度の測定はASTM−D882−97(1999年版ANNUAL BOOK OF ASTM STANDARDSを参照した)に準じて、任意にサンプリングした20枚のサンプル(1cm×20cmの大きさ)を用意し、この中からMD方向とTD方向に10枚ずつの最大伸度保持率を測定した。チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの破断伸度(初期)を測定した。なお、測定はMD方向とTD方向に10枚ずつについて測定を実施し、その平均値でもって破断伸度(初期)A2とした。
次いで、サンプルを1cm×20cmの大きさに切り出し、(株)平山製作所製、高加速寿命試験装置(HAST装置)、PC−304R8Dを用いて、125℃、相対湿度100%の条件下100時間処理を行った後、処理後のサンプルの破断伸度をASTM−D882(1999)−97(1999年版ANNUAL BOOK OF ASTM STANDARDSを参照した)に準じて、チャック間5cm、引っ張り速度300mm/minにて引っ張ったときの破断伸度(処理後)を測定した。なお、測定はMD方向とTD方向に10枚ずつについて測定を実施し、その平均値でもって破断伸度(処理後)A3とした。
得られた破断伸度A2およびA3を用いて、下記式により最大伸度保持率を算出した。
最大伸度保持率(%)=A3/A2×100
MD方向とTD方向において、それぞれ10枚の平均値をMD方向の最大伸度保持率とTD方向の最大伸度保持率とした。さらに、MD方向の最大伸度保持率とTD方向の最大伸度保持率の平均値を求め、各実施例および比較例のポリエステルフィルムのwetサーモ後の最大伸度保持率として採用した。なお、wetサーモは180℃、相対湿度100%で100時間のサーモを指す。
【0107】
<最大伸度保持率の面内分布>
最大応力保持率の測定時にMDおよびTD方向ごとに10枚ずつ測定した20枚のサンプル中、このなかの最大測定値と最小測定値、およびMDならびにTDごとの10枚の平均値から、下記式を用い、各方向における最大応力保持率の面内分布を求めた。
最大伸度保持率分布(%)
=100×(最大伸度保持率の最大値−最大伸度保持率の最小値)/最大伸度保持率の平均値
なお、この測定はMD、TDごとに測定し、MD方向の最大伸度保持率の面内分布と、TD方向の最大伸度保持率の面内分布の平均値をwetサーモ後のポリエステルフィルムの最大伸度保持率の面内分布とした。
【0108】
上記に従い各実施例および比較例のポリエステルフィルムのwetサーモ後の最大応力保持率および最大応力保持率の面内分布を求めた結果を、下記表2および表4に記載した。
【0109】
(5−4)太陽電池モジュール用バックシートの評価
<耐熱性>
各実施例および比較例のポリエステルフィルムの片面にコロナ処理を行い、接着剤(東洋モートン(株)社製「AD−76P1」と「CAT−10L」の1:1混合物)をグラビアコート法により10g/m
2塗布した。
この上にEVAシート(三井化学ファブロ(株)製「ソーラーエバSC4」を重ね、150℃で15分真空圧着した。
下記手法で切れ込みを入れたサンプルを、180℃、相対湿度0%で120時間dryサーモした後、剥離箇所を目視で検出し、得られた結果を下記表2および4に記載した。
一辺30cmの正方形のサンプルに縦、横2.5cm間隔で11本ずつ碁盤目状に剃刀で切れ込みを入れる(この切れ込みを起点として剥離が発生し易い)。上記切れ込みで、たて、横10コマずつ、合計100コマの中で、dryサーモ処理を行った後に剥離の発生している箇所を計測し、発生箇所/全数(100)を求め、%で示した。
【0110】
<耐湿熱性>
上記同様に切れ込みを入れたサンプルを、120℃、相対湿度100%で100時間wetサーモした後、上記同様に剥離箇所を検出し、得られた結果を下記表2および4に記載した。
【0111】
[比較例8〜10および実施例61〜63]
比較例8では、特開2011−202058号公報の実施例1(高CHDM含率:100%、IPA含率:5モル%であり、結晶核剤として二酸化チタン粒子を添加したもの)に記載の方法に準じてポリエステルフィルムを製造した。また、実施例61では、比較例8においてポリエステルの高結晶微粒子を添加し、その他下記表3に記載のようにP1層の組成と製造条件を変更した。
比較例9では、特開2011−243761号公報の実施例4(低CHDM:1.65%)に記載の方法に準じてポリエステルフィルムを製造した。また、実施例62では、比較例9においてポリエステルの高結晶微粒子を添加し、その他下記表3に記載のようにP1層の組成と製造条件を変更した。
比較例10では、WO2009/125701号公報の実施例1(低CHDM:10%)に記載の方法に準じてポリエステルフィルムを製造した。また、実施例63では、比較例10においてポリエステルの高結晶微粒子を添加し、その他下記表3に記載のようにP1層の組成と製造条件を変更した。
これらの各実施例および比較例で得られたポリエステルフィルムの物性と、バックシート性能を、実施例1と同様にして評価した。得られた結果を下記表4に記載した。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
【表4】
【0116】
上記表1〜4より、本発明のポリエステルフィルムは耐熱性に優れ、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにdryサーモ後の密着性が良好であることがわかった。なお、本発明のポリエステルフィルムは耐湿熱性にも優れ、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにwetサーモ後の密着性も良好であった。
一方、比較例1〜3より、1,4−シクロヘキサンジメタノール由来の構造の含率が本発明の範囲外であるポリエステルを用い、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が本発明の下限値を下回る場合、耐熱性が悪く、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにサーモ後の密着性が悪いことがわかった。
比較例4および5より、固有粘度が本発明の範囲外であり、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が本発明の下限値を下回る場合、耐熱性が悪く、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにサーモ後の密着性が悪いことがわかった。
比較例6より、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が本発明の下限値を下回る場合、耐熱性が悪く、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにサーモ後の密着性が悪いことがわかった。
比較例7より、ポリエステルフィルムの最大応力保持率が本発明の上限値を上回る場合、耐熱性が悪く、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにサーモ後の密着性が悪いことがわかった。
比較例8〜10より、特開2011−202058号公報、特開2011−243761号公報およびWO2009/125701号公報のそれぞれの実施例に記載のポリエステルフィルムは、ポリエステルの最大応力保持率が本発明の下限値を下回るものであり、耐熱性が悪く、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにサーモ後の密着性が悪いことがわかった。
【0117】
(太陽電池モジュールの組立て、評価)
上記にて製造したポリエステルフィルムを用いた太陽電池モジュール用バックシートを特開2009−43842号公報に記載の太陽電池モジュールに組み込んだ。
【0118】
ドライサーモ:
上記モジュールを120℃相対湿度0%で2000時間ドライサーモした。この処理の前後の発電効率を測定し、下記式を用い「ドライサーモ発電効率維持率」を上記表2および4に示した(なお、このドライサーモ条件は180℃相対湿度0%120時間サーモに近い条件である:180℃では太陽電池セルが破壊するため、低温の120℃で長時間サーモした)。
ドライサーモ発電効率維持率(%)=100×ドライサーモ後の発電効率/ドライサーモ前の発電効率
【0119】
ウエットサーモ:
上記モジュールを120℃相対湿度100%で120時間ウエットサーモした。この処理の前後の発電効率を測定し、下記式を用い「ウエットサーモ発電効率維持率」を上記表2および4に示した。
ウエットサーモ発電効率維持率(%)=100×ウエットサーモ後の発電効率/ウエットサーモ前の発電効率
【0120】
本発明の太陽電池モジュールはドライサーモ後も、ウエットサーモ後も高い発電効率を示した。これはバックシートがサーモ後に剥離せず、太陽電池セルの破壊を防ぎ、高い発電効率を維持したためである。
【0121】
[実施例101〜129]
下記表5および6に記載のように材料および製膜条件を変更した以外は実施例64〜69と同様にして、実施例101〜117および127〜129のポリエステルフィルムを製造した。また、下記表5および6に記載のように材料および製膜条件を変更した以外は実施例70〜75と同様にして、実施例118〜126のポリエステルフィルムを製造した。
ここで、下記表5および表6中、相溶化剤R1〜R12は、それぞれ特開2002−317076号公報の[表3]に記載の相溶性組成物R1〜R12である。相溶化剤D−1〜D−8は、それぞれ特開2004−59817号公報の[表2]の(D)成分である。実施例127の相溶化剤aは、ビスオキサゾリンと無水マレイン酸変性PE(ユーメックス2000:三洋化成)の混合物(質量比1:9.6)である。実施例128の相溶化剤bは、エチレン(88質量%)とグリシジルメタクリレート(12質量%)の混合物である。実施例129の相溶化剤cは、エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー(ハイミラン1707Na:三井デュポンポリケミカル製)ならびに、エチレン(88質量%)およびグリシジルメタクリレート(12質量%)混合物の等量混合物である。
【0122】
(相溶化剤添加前後の吸熱量比の変化率)
これらの各実施例で得られたポリエステルフィルムについて、相溶化剤添加前の最大吸熱ピークの吸熱量で、その次の吸熱ピークの吸熱量を割った値の比(A)と、相溶化剤添加後の最大吸熱ピークの吸熱量で、その次の吸熱ピークの吸熱量を割った値の比(B)との比(A/B)を本明細書中に記載の方法で測定し、下記表6に記載した(表6中には「相溶化剤添加前後の吸熱量比の変化率(A/B)」と記載した。
【0123】
(平行光線透過率)
これらの各実施例で得られたポリエステルフィルムについて、100μmあたりの平行光線透過率を本明細書中に記載の方法で測定し、下記表6に記載した。
【0124】
各実施例で得られたポリエステルフィルムのその他の物性と、バックシート性能と、太陽電池モジュール性能を、実施例1と同様にして評価した。
得られた結果を下記表6に記載した。
【0125】
【表5】
【0126】
【表6】
【0127】
上記表5および表6より、本発明のポリエステルフィルムは耐熱性に優れ、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにdryサーモ後の密着性が良好であることがわかった。なお、本発明のポリエステルフィルムは耐湿熱性にも優れ、太陽電池モジュール用バックシートとして封止材と密着させたときにwetサーモ後の密着性も良好であった。また、本発明の太陽電池モジュールはドライサーモ後も、ウエットサーモ後も高い発電効率を示した。
また、実施例113および114より、相溶化剤と併用した実施例114は、A/Bが1.05未満である実施例113よりも物性および評価が良好となることがわかった。