(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993630
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】ブラシレスDCモータの駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/28 20160101AFI20160901BHJP
【FI】
H02P6/28
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-141801(P2012-141801)
(22)【出願日】2012年6月25日
(65)【公開番号】特開2014-7855(P2014-7855A)
(43)【公開日】2014年1月16日
【審査請求日】2015年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100087099
【弁理士】
【氏名又は名称】川村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100063174
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 功
(74)【代理人】
【識別番号】100124338
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 健
(72)【発明者】
【氏名】川上 剛司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅佳
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−196096(JP,A)
【文献】
実開平01−116598(JP,U)
【文献】
特開2010−267764(JP,A)
【文献】
特開2007−097363(JP,A)
【文献】
特開平07−312895(JP,A)
【文献】
特開2005−143225(JP,A)
【文献】
特開2004−282911(JP,A)
【文献】
米国特許第05995710(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第1501169(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、該保持テーブルが保持した被加工物を切削加工する切削ブレードをブラシレスDCモータによって回転させる切削手段と、該保持手段と該切削手段とを相対的に切削送りする切削送り手段とを少なくとも備えた切削装置を用いて、該保持手段によって保持される被加工物と回転する該切削ブレードを備えた切削手段とを該切削送り手段によって相対的に切削送りして切削する切削加工において、
該ブラシレスDCモータは、駆動磁界を発生させる複数相の固定子巻線により形成されたステータと、回転自在に支持され永久磁石からなり該ステータが発生する駆動磁界によって回転駆動されるロータと、を備え、
該ロータを回転させる駆動回路は、駆動磁界を発生させるための電力を該ステータに供給する電力供給部と、該電力供給部によって該ステータの該複数相の固定子巻線に供給される電力を切り替えるスイッチング部と、で構成され、
該スイッチング部における該電力の切替えは、制御部によって制御され、
該制御部は、該電力供給部が該ステータに供給した電力の電流量を検出する電流検出部と、回転する該切削ブレードを被加工物に切り込ませて切削し該電流検出部によって検出した電流の最大電流値と該ブラシレスDCモータの定格電流値とから該最大電流値÷該定格電流値×100=負荷率(%)の式で求められる負荷率を算出する算出部と、該ステータへの通電によって回転する該ロータの回転数を指令する回転指令部と、から構成され、
該算出部によって算出された負荷率と、該回転指令部によって指令された回転数とに応じ、該スイッチング部において、該複数相の固定子巻線に供給する電力の通電角を切り替えるブラシレスDCモータの駆動方法。
【請求項2】
前記算出部が算出する負荷率が30%を超えた時は、前記通電角を120°から150°に切り替える請求項1記載のブラシレスDCモータの駆動方法。
【請求項3】
前記算出部が算出する該負荷率が5%以上30%以下でかつ前記回転数指令部が指令する回転数が30000回転以上であるときは、前記通電角を120°から150°に切り替える請求項1記載のブラシレスDCモータの駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスDCモータの駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種加工装置には、モータによって駆動されて回転するスピンドルの先端に工具が装着され、回転する工具によって被加工物の加工が行われる構成のものがある。例えば、半導体ウェーハ等の被加工物を切削加工する切削装置は、モータによって回転駆動されるスピンドルの先端に切削ブレードが装着されており、高速回転する切削ブレードが被加工物に切り込むことにより被加工物が切削される。
【0003】
スピンドルを回転駆動するモータとして、例えばDCブラシレスモータが利用されている。DCブラシレスモータは、永久磁石からなる回転可能なロータと、電力の供給を受けて磁界を発生させることによりロータを回転させるステータとを備えており、スイッチング回路によってステータに供給する電力の通電角を120°ごとに切り替えることにより、モータを回転させている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−196096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、工具が被加工物に接触することにより回転負荷が高くなると、回転数を維持するために駆動電流値が高くなるため、モータが発熱し、その発熱がスピンドルに伝熱してスピンドルが膨張することがある。こうしてスピンドルが膨張すると、工具の位置が変化し、加工精度が低下するという問題が生じる。モータの冷却を行っても、スピンドルの膨張を完全に防ぐことはできない。
【0006】
本発明は、このような問題にかんがみなされたもので、DCブラシレスモータを駆動するモータの発熱を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
被加工物を保持する保持手段と、保持テーブルが保持した被加工物を切削加工する切削ブレードをブラシレスDCモータによって回転させる切削手段と、保持手段と切削手段とを相対的に切削送りする切削送り手段とを少なくとも備えた切削装置を用いて、保持手段によって保持される被加工物と回転する切削ブレードを備えた切削手段とを切削送り手段によって相対的に切削送りして切削する切削加工において、ブラシレスDCモータは、駆動磁界を発生させる複数相の固定子巻線により形成されたステータと、回転自在に支持され永久磁石からなり該ステータが発生する駆動磁界によって回転駆動されるロータと、を備え
、ロータを回転させる駆動回路は、駆動磁界を発生させるための電力をステータに供給する電力供給部と、電力供給部によってステータの複数相の固定子巻線に供給される電力を切り替えるスイッチング部とで構成され、スイッチング部における電力の切替えは制御部によって制御され、制御部は、電力供給部がステータに供給した電力の電流量を検出する電流検出部と、
回転する切削ブレードを被加工物に切り込ませて切削し電流検出部によって検出した電流の最大電流値とブラシレスDCモータの定格電流値とから最大電流値÷定格電流値×100=負荷率(%)の式で求められる負荷率を算出する算出部と、ステータへの通電によって回転する該ロータの回転数を指令する回転指令部と、から構成され、算出部によって算出された負荷率と、回転指令部によって指令された回転数とに応じ、スイッチング部において、複数相の固定子巻線に供給する電力の通電角を切り替える。
【0008】
算出部が算出する負荷率が30%を超えた時は、通電角を120°から150°に切り替えることが望ましい。また、算出部が算出する負荷率が5%以上30%以下でかつ回転数指令部が指令する回転数が30000回転以上であるときは、通電角を120°から150°に切り替えることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ステータに供給した電力の最大電流値を電流検出部が検出し、その最大電流値をモータの定格電流値で割ることによって求まる負荷率の値に基づき、ステータに供給する電力の通電角を切り替えることとしたため、モータの効率が高まり、モータからの発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】モータ、モータを駆動する駆動回路及び駆動回路のスイッチングを制御する制御部を示す回路図である。
【
図3】通電角の切替え方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】通電角を120°とする場合の各相の波形図である。
【
図5】通電角を150°とする場合の各相の波形図である。
【
図6】負荷率と総合効率との関係を示すグラフである。
【
図7】負荷率とモータからの排気の温度の上昇との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に示す切削装置1は、被加工物Wを保持する保持手段2と、保持手段2に保持された被加工物を切削加工する切削手段3とを備えている。
【0012】
保持手段2は、回転可能であるとともに、切削送り手段20によって駆動されてX軸方向に移動可能となっている。
【0013】
切削手段3は、スピンドル4と、筒状に形成されスピンドル4を非接触状態で回転可能に支持するハウジング5と、スピンドル4の一端に装着された切削ブレード6と、スピンドル4の他端側に連結され回転駆動するモータ7とを備えており、X軸方向に直交するY軸方向及びZ軸方向に移動可能となっている。
【0014】
スピンドル4のうち、切削ブレード6に近い側には、スピンドル4の水平方向(Y軸方向)の軸心に対して直交する方向に拡径したスラストプレート40が形成されている。これに対応し、ハウジング5には、スラストプレート40を収容する収容部50が形成されている。
【0015】
収容部50は、スラストプレート40に対して軸心方向に高圧エアを噴出することによりスピンドル4をスラスト方向に支持するスラストベアリング51を備えている。一方、ハウジング5の内周には、スピンドル4の側面に対して高圧エアを噴出することによりスピンドル4をラジアル方向に支持するラジアルベアリング52を備えている。
【0016】
モータ7は、スピンドル4に連結されたロータ70と、ロータ70の外周側に配設されたステータ71とから構成されている。ロータ70は、永久磁石によって構成され、回転可能に支持されている。一方、ステータ71は、ロータ70を駆動する駆動磁界を発生させる複数相の固定子巻線により形成されており、ステータ71に電流が流れて駆動磁界が発生することによってロータ70を回転駆動する構成となっている。
【0017】
ステータ71は、駆動回路8に接続されている。駆動回路8は、駆動磁界を発生させるための電力をステータ71に供給する電力供給部80と、電力供給部80がステータ71の複数相の固定子巻線に供給する電力を切り替えるスイッチング部81とで構成されている。
【0018】
スイッチング部81は、制御部9によって制御される。制御部9は、電力供給部80がステータ71に供給した電力の電流量を検出する電流検出部90と、電流検出部90によって検出した電流の最大電流値及びモータ7の定格電流値に基づき、
最大電流値÷定格電流値×100=負荷率(%)・・・(式1)
の式で求められる負荷率を算出する算出部91と、ステータ71への通電によって回転するロータ70の回転数を指令する回転指令部92とから構成される。
【0019】
切削ブレード6は、スピンドル4の先端のマウント41とフランジ60とによって挟持され、ナット61によって固定されており、切削手段3においては、モータ7によって駆動されてスピンドル4が回転することにより、切削ブレード6も回転する構成となっている。
【0020】
モータ7は、U相、V相、W相の直流信号によって駆動される3相ブラシレスDCモータであり、
図2に示すように、駆動回路8を構成するスイッチング部81は、各相のスイッチング素子の出力側がモータ7のそれぞれのステータ71に接続されて構成されている。
【0021】
トランジスタの出力とステータ71との間には、制御部9が接続されており、各相の信号出力を制御することができる。
【0022】
以下では、
図3に示すフローチャートに沿って、モータ7に供給する電力の通電角を制御する方法について説明する。
【0023】
図1に示した切削装置1においては、モータ7によって駆動されてスピンドル4が回転することにより切削ブレード6が回転するとともに切削手段3が降下し、切削送り手段20によって駆動されて保持手段2がX軸方向に移動することにより、保持手段2と切削手段3とが相対的に切削送りされ、回転する切削ブレード6が被加工物Wに切り込んで切削が行われる。モータ7は、制御部9の回転指令部92によって指令された回転数で回転する(ステップS1)。
【0024】
電力供給部80がスイッチング部81を介してステータ71に供給した出力の電流値は、電流検出部90によって測定される。一方、モータ7の定格電流値は、算出部91にあらかじめ記憶されており、算出部91では、電流検出部90が検出した最大電流値及びモータ7の定格電流値から、上記式(1)により負荷率を算出する。
【0025】
制御部9は、算出した負荷率と、回転指令部92によって指令された回転数とに応じ、スイッチング部81で各ステータ71の複数相の固定子巻線に供給する電力の通電角を切り替える。
【0026】
例えば、
図4に示すように、各相の電力の通電角は、120°を基本としており、最初は、通電角を120°として切削を開始する。なお、
図2及び
図4におけるU+は上アームのU相スイッチング素子を意味し、U−は下アームのU相スイッチング素子を意味している。V+、V−、W+、W−も同様である。
【0027】
上記(式1)によって求めた負荷率が所定の値、例えば30%を超えるか否かを制御部9が判断し(ステップS3)、負荷率が30%を超えた場合は、
図5に示すように、通電角を150°に切り替える(ステップS4)。
【0028】
一方、負荷率が30%を越えない場合は、制御部9は、負荷率が5%を超えているか否かを判断する(ステップS5)。そして、負荷率が5%を超えている場合は、次に、スピンドルの回転数が30000rpm以上かどうかを判断し(ステップS6)、スピンドルの回転数が30000rpm以上である場合は、通電角を150°に切り替える(ステップS4)。一方、スピンドルの回転数が30000rpmに満たない場合は、通電角を120°とする(ステップS7)。
【0029】
被加工物を複数回切削する場合は、例えば、1回目の切削時に、電流検出部90によって電流値を計測し、そのときの負荷率を算出する。モータ7の負荷が高くなると、負荷電流が大きくなってモータ7が発熱するが、負荷率とモータ7の回転数とに基づき通電角を切り替えることにより、現実の負荷に対応してモータ7の発熱を抑制することができる。
【0030】
なお、1回目の切削時に通電角を変更した場合は、切り込み量や回転数等の切削条件が変更されるまでは、負荷率の算出は行わない。また、切削加工をしていないアイドリング中や、加工終了後に被加工物を交換している間は、通電角を120°とする。
【実施例1】
【0031】
図1及び
図2に示した切削装置1において実際に被加工物Wの切削を行い、
図6(a)、(b)に示すように、そのときの負荷率と総合効率との関係を求めた。ここで、
総合効率[%]=(モータ7の実際の出力)÷(電力供給部80の出力)×100
である。また、スピンドル4の回転数を30000rpmと60000rpmとし、そのそれぞれの回転数において、通電角を120°と150°に設定してそれぞれの場合の総合効率を算出した。
【0032】
図6(a)に示すように、スピンドル4の回転数が30000rpmである場合は、負荷率が30[%]を超えると、通電角を150°とした場合の方が、通電角を120°とした場合よりも総合効率が高くなることが確認された。一方、スピンドル4の回転数が30000rpmである場合において、負荷率が30%以下では、通電角を120°とした場合の方が、通電角を150°とした場合よりも総合効率が高いことが確認された。
【0033】
図6(b)に示すように、スピンドル4の回転数が60000rpmである場合においては、負荷率に関係なく、通電角を150°とした場合の方が、通電角を120°とした場合よりも総合効率が高いことが確認された。
【0034】
したがって、スピンドル4の回転数がいずれの場合も、少なくとも負荷率が30%を超えた時は、通電角を120°から150に切り替えると、総合効率が高まり、モータ4の発熱を抑制することができる。
【0035】
また、スピンドル4の回転数を30000rpmと60000rpmとにそれぞれ設定した場合において、それぞれの回転数において、通電角を120°と150°に設定してそれぞれの場合におけるモータ7からの排気の温度上昇をそれぞれ求めた。その結果は、
図7に示すとおりである。なお、モータ7からの排気の温度は、
図1におけるロータ70とステータ71との間の隙間72から排出されるモータ冷却用のエアの温度である。
【0036】
図7(a)に示すように、スピンドル4の回転数が30000rpmの場合は、負荷率が30[%]を超えると、通電角を150°とした方が、通電角を120°とした場合よりも温度上昇を抑制できることが確認された。一方、負荷率が30[%]以下の場合は、通電角を120°とした方が、通電角を150°とした場合よりも、モータ7からの排気の温度上昇を抑制できることが確認された。また、
図7(b)に示すように、スピンドル4の回転数が60000rpmの場合は、負荷率が5%以上であると、通電角を120°とした場合よりも通電角を150°とする場合の方が温度上昇を抑制できることが確認された。
【0037】
したがって、スピンドル4の回転数が30000rpm以上である場合は、少なくとも負荷率が5%以上30%以下であると、通電角を150°とした方が、通電角を120°とした場合よりも温度上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0038】
1:切削装置
2:保持手段 20:切削送り手段 3:切削手段
4:スピンドル 40:スラストプレート 41:マウント
5:ハウジング 50:収容部 51:スラストベアリング 52:ラジアルベアリング
6:切削ブレード 60:フランジ 61:ナット
7:モータ 70:ロータ 71:ステータ 72:隙間
8:駆動回路 80:電力供給部 81:スイッチング部
9:制御部 90:電流検出部 91:算出部 92:回転指令部