(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、軸上の1次の色収差ならびに3次幾何収差を補正する収差補正器を搭載する荷電粒子線装置において、イメージシフトおよび色収差の補正量に応じ、収差補正器上下に配置した偏向器により試料への電子線の照射位置と角度に自由度を持たせつつ荷電粒子線の収差補正器への入射位置を制御する。
【0018】
また前記イメージシフトにおいて、イメージシフトの大きさによらず、傾斜無しあるいは傾斜角一定に保つといった任意の傾斜角で分解能劣化を抑えた観察が可能になる。これにより、ユーザーの利便性がさらに向上する。
【0019】
なお、使用装置としては照射光学系に収差補正器を備えたSEM、STEMならびにTEMをはじめとする荷電粒子線装置全般に適用可能である。
【実施例1】
【0020】
本実施例では、収差補正器を用いたイメージシフトの偏向色収差補正例を
図1〜
図2を用いて説明する。ここでは、軸上の色収差が補正済の状態でのイメージシフトを想定する。
【0021】
図1は電子線装置の電子光学系と構成要素の模式図である。電子銃61から放出された1次電子線62は、コンデンサレンズ6で収束作用をうけて、収差補正器10を通過し、イメージシフトコイル12で偏向作用を受けて、対物レンズ17で試料18上に収束される。イメージシフトコイル12は一次電子線62の試料18上での照射位置を変えることができ、この動作をイメージシフトと呼ぶ。イメージシフトにおいては、一次電子線62の照射位置を保ったまま角度を変えることができるが、同じ位置を観察する場合、照射角が変わると見え方が変化してしまうため、イメージシフトにおける傾斜角はゼロもしくはイメージシフト量によらず一定に制御されることが望ましい。
【0022】
収差補正器10とコンデンサレンズ6の間に偏向器7が設けられており、偏向器7により電子線62は光軸60に対する角度を保ったまま収差補正器10への入射位置を変えることができる。さらに収差補正器10と対物レンズ17の間に偏向器8が設けられており、偏向器8により収差補正器10から出た一次電子線62の光軸60に対する距離と角度を制御することができる。
【0023】
収差補正器10は、4段の12極子を用いて1次の色収差と3次の球面収差を補正するものを例示している。なお、4極以上の多極子によって軸上の1次の色収差が補正できるものであれば構成によらず本実施例の方法は適用可能である。また、効果に違いがないため、
図1では1方向についてのみ電子線62の軌道を例示しているが、電子線62の収差補正器10内部での軌道は方向や補正器の種類によって異なる。
【0024】
そして、イメージシフトにより一次電子線62の試料18上での照射位置を光軸60からの距離に比例して偏向色収差が発生し、同時に照射角に比例して軸外色収差が発生する。これらの色収差は加速電圧に応じて試料18の表面上(光軸60と垂直面上)に照射位置が変わるため、以降は両者またはいずれか1つの収差をまとめて色分散と呼ぶこととする。また色分散には、試料18に電界をかけるリターディングと呼ばれる手法が用いられる場合、軸外色収差と同様の色収差が発生するため、リターディングで発生する収差分も色分散の1つとしてさらに含むこともある。
【0025】
上記色分散の抑制について、特に傾斜角をゼロもしくは一定に保つイメージシフトを行う場合について説明する。動作は色分散制御のための軸ずらしと、軸ずらしの振り戻しの2つのパートに分けられ、この2つが協調して動作することで色分散抑制がなされる。
【0026】
1つめの色分散の制御は、
図2Aで示すように偏向器7によって一次電子線62の収差補正器10への入射位置を点線の軌道62aから実線の軌道62bのように変えることで行う。また、2つめの振り戻しは、
図2Bで示すように偏向器8の制御によって偏向器7が与えるイメージシフトの位置ズレと角度ズレの影響をなくすよう軌道62aから軌道62bのように動作させる。
【0027】
この動作は、
図2Bで示すように偏向器8が設置された場所以降の一次電子線62軌道はもとに戻るようになっており、電子線62の試料18への照射についてだけでなく、対物レンズ17への入射位置と角度についても偏向器7による軸ずらしの影響を与えない。なお、偏向器7による軸ずらしは偏向器8で振り戻しを前提としているため、偏向器8での振り戻しがないと色分散抑制条件を満たさない。
【0028】
次に上記色分散の抑制を、数式を用いて説明する。説明のため、ここでは光軸方向(光軸60に平行方向)と離軸方向(光軸60の動径方向)の2次元モデルを仮定し、磁界対物レンズの回転成分を無視する。なお、回転成分を含んだ方位角方向についても下記説明の方法と同様に調整できる。傾斜角を一定(ゼロを含む)に保つ光学系において、色分散は偏向色収差のみに応じて変化する。イメージシフト量(光軸60からの照射位置までの距離)r
dは、I
d偏向コイル電流、k
cは偏向感度係数(イメージシフトコイル12の巻き数や形状に依存)、加速に対する偏向感度係数t(電場t=1、磁場t=1/2)、加速電圧Vaccを用いて(数1)のように表すことができる。また、電子銃61の加速電圧のばらつきΔVに対して、偏向色収差Δr
dは(数2)で表される。
【0029】
【数1】
【0030】
【数2】
【0031】
偏向器7によって一次電子線62の収差補正器10への入射位置を変えるとき、入射位置は光軸60から距離(軸ずらし量)をRとし、k
cは軸ずらし量Rを試料面での値に換算する係数、収差補正器10で発生させる色収差係数をC
Ccorr(像面換算)、対物レンズ17の色収差係数をC
Cobj、倍率色収差係数C
CM、試料面の一次電子線62の傾斜角(照射角)w’とおくと、収差補正器10および対物レンズ17による偏向色収差と軸外色収差の和は(数3)で表すことができる。
【0032】
【数3】
【0033】
なお、収差補正器10では色収差補正をしているため通常C
Ccorr=−C
Cobjとなり、イメージシフト量がゼロの場合(r
d=0の場合)傾斜による色分散打消し条件はk
cR=w’である。イメージシフトの色分散は、(数2)(数3)の和がゼロとなるとき、つまり(数4)の関係が成り立つとき打ち消される。
【0034】
【数4】
【0035】
(数4)より試料への照射角w’が決まるとイメージシフト量r
dに応じて色分散を打ち消す軸ずらし量Rは(数5)の関係で決定される。
【0036】
【数5】
【0037】
偏向器7によって(数5)の関係を満たす軸ずらしを与えることで色分散が抑制される。また、(数5)から収差補正器10の色収差係数C
Ccorrを変えることでも、軸ずらし量Rが変わることを示している(後述する高次収差等対策に利用)。
【0038】
以上で数式による説明を終わる。ここでは、単純化したモデルで説明したが、実際には、w’、Rは動径方向を含んだ複素数であり、対物レンズにも回転成分に由来する動径方向が含まれる。対物レンズの回転成分については偏向器8を制御することで取り除かれ、w’、Rの複素数においても(数5)は成立する。
【0039】
上記例ではイメージシフト中の傾斜角を一定としたが、イメージシフト中に傾斜角を変更する場合にも適用可能である。本実施例では偏向器8を設けたが、偏向器7に対する偏向器8の振り戻しに相当する信号をイメージシフト信号と別にイメージシフトコイル12に重畳することで偏向器8がない構成も可能である。
【実施例2】
【0040】
本実施例では、イメージシフトの偏向色収差を主とした色分散を抑制するための調整方法の例を示す。本実施例の装置構成および光学系は
図1に準じ、同一符号、同一機能について説明を省略する。
【0041】
イメージシフト座標(x、y)=(r
dcosθ、 r
dsinθ)について加速電圧V
acc-ΔV/2、 V
acc+ΔV/2間のビームの照射位置ズレを (Δx、Δy)とすると、単位加速電圧に対する移動ベクトルは(Δx/ΔV、Δy/ΔV)となる。元となる照射位置ズレは、一次電子線62を試料18にスキャンして得られる2次電子の画像(SEM画像)についての相関、あるいは試料18にMCPや蛍光板などに直接一次電子線62の照射位置の差を測定することで得られる。
【0042】
【数6】
【0043】
ここで、一次電子線62の収差補正器10への入射位置(RcosΦ、RsinΦ)の位置を変えていくと、(Δx/ΔV、Δy/ΔV)が変化するため、(RcosΦ、RsinΦ)を変えながら、(Δx/ΔV、Δy/ΔV)の大きさ(数6)をモニタし、(数6)がゼロまたは最小となる位置に(RcosΦ、RsinΦ)を調整すると、偏向色収差抑制条件が成立する軸ずらし条件が得られる。加速電圧は二種類以上あればV
accとV
acc+ΔVなど組み合わせは自由で、ΔVはV
accの数%が目安である。
【0044】
上記例では色収差補正条件は一定を仮定しているが、実施例1に述べたように収差補正器10の色収差係数C
Ccorrを変えることが可能である。この場合(RcosΦ、RsinΦ)はC
Ccorrに応じて変化する。一方、一次電子線62は収差補正器10内の中心から離れた軌道を通り、対物レンズ17に対しても軸から離れた軌道を通っているためコマ収差やデフォーカス、非点などの幾何収差が発生し分解能が悪化する場合がある。これに対して、収差補正器10への入射条件(RcosΦ、RsinΦ)をずらすと、収差補正器10と対物レンズ17の幾何収差とがキャンセルできる条件が存在する。
【0045】
しかし、この条件は、偏向色収差が最小条件とは通常一致しない。そこで、収差補正器10の色収差係数C
Ccorrを変更すると、幾何収差が最小となる入射条件(RcosΦ、RsinΦ)と偏向色収差が最小となる条件が一致させられることができ、分解能悪化を抑制することが可能になる。
【0046】
色分散抑制の調整に関して、さらに高度な応用例として高次の色収差を考慮する場合について想定する。この場合は偏向色収差の最小化ではなく高次色収差を含んだ色分散の最小化を行う必要がある。高次の色収差は具体例としてエネルギーの1次と開き角の3次に比例する色球面収差があり、それ以外のエネルギーと開き角の両方に比例する性質をもつ収差も含む。高次の色収差を考慮する場合は、(数3)に対して高次項が付加され、色分散の最小条件は(数5)からずれた値となる。しかしながら、この調整自体は、(数6)がゼロもしくは最小となる値に調整すればよいため、高次の色収差を考慮しない場合と同じ調整手順を利用できる。ただし、このときの課題として、入射条件(RcosΦ、RsinΦ)が偏向色収差単体の調整位置とは異なる位置となるため、収差補正器10において別の幾何収差が発生する。
【0047】
そこで、高次の色収差を考慮した色分散最小化を行う場合は、収差補正器10内の多極子もしくは外部に別の多極子を用意して、入射条件(RcosΦ、RsinΦ)に連動して4極子による非点やデフォーカス調整、6極子によるコマ収差調整を行うようにする。この調整では、対象とする高次色収差の次数に応じた強度比の変更を行う。具体的には、色球面収差においては入射条件(RcosΦ、RsinΦ)のRの3乗に比例して調整量を大きくする。
【実施例3】
【0048】
本実施例では、イメージシフトの偏向色収差を主とした色分散を抑制するための調整方法の別の例を示す。本実施例の装置構成および光学系は実施例1および実施例2に準じ、同一符号、同一機能について説明を省略する。また、実施例2と同じく、偏向器8は偏向器7がイメージシフトの位置と角度を変えないよう動作しているものとする。ここでは
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
まず、ステップ(S10)〜ステップ(S14)にてイメージシフト点での単位加速電圧に対する移動ベクトル(v
x、v
y)を求める。ここでは、イメージシフトの座標(x、y)、イメージシフトを行う最大可動領域を(-X≦x≦X、−Y≦y≦Y)とし、イメージシフト位置を走査して測定する。
【0050】
測定を行うイメージシフト点は等間隔のメッシュ状にとり、領域の分割数をN
x、N
yとすると、測定するイメージシフト座標(x、y)=(n
xX/N
x、n
yY/N
y)と表される。
【0051】
ただし、カウンタn
x=−N
x、−N
x+1、…、−1、0、1、…、N
x−1、N
x、カウンタn
y=−N
y、−N
y+1、…、−1、0、1、…、N
y−1、N
yとする。また、収差補正器10への一次電子線62の入射位置を(s、t)(=(RcosΦ、RsinΦ)実施例2での表記)とする。
【0052】
ステップ(S10)
初期設定として、一次電子線62の収差補正器10への入射位置を光軸60上とし(s、t)=(0、0)、イメージシフトのカウンタ(n
x、n
y)=(―N
x、―N
y)に設定し、イメージシフト座標(x、y)=(―N
xX/N
x、―N
yY/N
y)に設定する。
【0053】
ステップ(S11)
イメージシフトの位置を座標(n
xX/N
x、n
yY/N
y)に移動する。
【0054】
ステップ(S12)
単位加速電圧に対する移動ベクトル(v
x(n
x、n
y)、v
y(n
x、n
y))を測定する。単位加速電圧に対する移動ベクトル(v
x、v
y)の測定法は実施例2に準じ、異なる2種類以上の加速電圧における一次電子線62の試料18への照射位置のズレ(ベクトル)から求められる。得られた単位加速電圧に対する移動ベクトルはイメージシフト座標もしくはカウンタと関連づけされて、ともにストレージ上に記録される。
【0055】
ステップ(S13)
カウンタn
xの判定を行う。n
x<N
xなら、ステップ(S13a)へ進み、カウンタn
xに1を足してステップ(S11)へ戻る。
n
x=N
xならステップ(S13b)へ進み、カウンタn
xを−N
xに設定する。
【0056】
ステップ(S14)
カウンタn
yの判定を行う。n
y<N
yなら、ステップ(S14a)へ進み、カウンタn
yに1を足してステップ(S11)へ戻る。n
y=N
yならステップ(S14b)へ進み、(n
x、n
y)=(0、0)つまりイメージシフト座標(x、y)=(0、0)(イメージシフトなし、試料18と軸60の交点)に設定する。
【0057】
次に、ステップ(S15)〜ステップ(S18)にて入射位置(s、t)についてそれぞれ単位加速電圧に対する移動ベクトル(v
x、v
y)を求める。ここでは、入射位置(s、t)の調査領域を(-S≦s≦S、−T≦t≦T)とし、入射位置を走査して測定する。なお、調査領域内でイメージシフトの偏向色収差の抑制が可能であると仮定する。測定を行う入射点をメッシュ状にとり、領域の分割数をM
s、M
tとすると、入射位置(s、t)=(m
sS/M
s、m
tT/M
t)と表される。ただしカウンタm
s=−M
s、−M
s+1、…、−1、0、1、…、M
s−1、M
s、カウンタm
t=−M
t、−M
t+1、…、−1、0、1、2、…、M
t−1、M
tとする。
【0058】
ステップ(S15)
一次電子線62の収差補正器10への入射位置(s、t)を座標(m
sS/M
s、m
tT/M
t)に移動する。このとき、前述の通り、偏向器8は偏向器7がイメージシフトの位置と角度を変えないよう動作している。
【0059】
ステップ(S16)
単位加速電圧に対する移動ベクトル(v
s(m
s、m
t)、v
t(m
s、m
t))を測定する。測定法はステップ(S12)と同じ。得られた(v
s(m
s、m
t)、v
t(m
s、m
t))は入射位置(s、t)=(m
sS/M
s、m
tT/M
t)もしくはカウンタ(m
s、m
t)と関連づけされて、ともにストレージ上に記録される。
【0060】
ステップ(S17)
カウンタm
sの判定を行う。m
s<M
sなら、ステップ(S17a)へ進み、カウンタm
sに1を足してステップ(S15)へ戻る。
m
s=M
sならステップ(S17b)へ進み、カウンタm
sを−M
sに設定する。
【0061】
ステップ(S18)
カウンタm
tの判定を行う。m
t<M
tなら、ステップ(S18a)へ進み、カウンタm
tに1を足してステップ(S15)へ戻る。
m
t=M
tならステップ(S19)へ進む。
【0062】
最後にステップ(S19)にて、イメージシフト可動領域の各点について、単位加速電圧に対する移動ベクトルを最小化する組み合わせを探索する。
【0063】
ステップ(S19)
(n
x、n
y)についてストレージ上に保存された(v
x(n
x、n
y)、v
y(n
x、n
y))に対して、(v
s(m
s、m
t)、v
t(m
s、m
t))との和をとり、絶対値を算出し、絶対値が最小となる(m
s、m
t)を求める。得られた、(n
x、n
y)と(m
s、m
t)の組み合わせ、もしくは、イメージシフト座標(n
xX/N
x、n
yY/N
y)と入射座標(m
sS/M
s、m
tT/M
t)の組み合わせをテーブルデータとして保存する。
【0064】
次に、個別の動作について別のバリエーションを記す。本実施例のイメージシフト走査と入射の走査は、測定地点や順番・走査方向などは、使用する領域を網羅してあれば実施例(等間隔のメッシュ状の走査)以外の方法で行っても良い。例えば、中心から始めて渦巻き状に走査する方法が考えられる。
【0065】
また(s、t)における調査領域(-S≦s≦S、−T≦t≦T)と分割数M
s、M
tが妥当でない場合、つまりイメージシフト可動領域内で発生する色分散に対して補正ステップが粗い場合や不足する場合、最小化の組み合わせが十分に最適化されないことがある。
【0066】
その場合は、ステップ(S19)の後に、得られたテータを元に入射領域や分割数を再設定しステップ(S14b)に戻りデータの再取得を行う。ここで行う最小化の組み合わせが最適かどうかの判断は、(s、t)が調査領域(-S≦s≦S、−T≦t≦T)内で偏在せず、全体分布しているかどうかから行うことができる。
【0067】
最小化の組み合わせについて、さらに、実測した(s、t)の設定以外に、実測した点間について線形フィッティングをかけ最適なものを推測して設定してもよい。また、イメージシフト領域内で測定していない点についても、同様にイメージシフトと入射位置のそれぞれのデータに対して線形フィッティングすることで補完することもできる。
【実施例4】
【0068】
本実施例では、
図4を用いて本発明の電子線装置について実施例1と別の形態を説明する。
図4は構成要素の模式図である。基本部分は実施例1と同じで、特徴は第二コンデンサレンズ16を備え、一次電子線62が収束点63を持つことである。
【0069】
図4Aは収束点63を偏向器8と同じ位置に結ぶことで、収差補正器10を通過した一次電子線62の振り戻しを行う偏向器8を1段偏向器で構成することができる。これは、従来どおり2段偏向器で構成しておき、1段分の電流を流さないといった使用法でもよい。
【0070】
図4Bは偏向器8を第二コンデンサレンズ16の上に設置した例である。ここでは偏向器8は2段偏向器で構成される。偏向器8の第二コンデンサレンズ16の上下位置の違いは、第二コンデンサレンズ16の収差量の影響の大きさと制御のしやすさである。第二コンデンサレンズの収差量16の割合が無視できない場合は、第二コンデンサレンズ16の下に偏向器8を設置すると第二コンデンサレンズの収差の影響を抑えることができる。その代わり、収束点63の位置によって、偏向器7の軸ずらしに対する偏向器8に必要な振り戻し量が変わるため、偏向器8には収束点63を考慮した制御が必要となり複雑になる。
【実施例5】
【0071】
次に、走査電子顕微鏡を用いた場合の本発明の装置形態を、
図5を用いて説明する。本実施例の走査電子顕微鏡は、大まかに、電子線を試料上に照射ないし走査させるSEMカラム101、試料ステージが格納される試料室102、SEMカラム101や試料室102の各構成部品を制御するための制御ユニット103等により構成されている。制御コンピュータ30を備えた制御ユニット103には、更に、所定の情報を格納するためのデータストレージ76や取得画像を表示するモニタ77、電子顕微鏡とユーザーとのマン・マシンインタフェースとなる操作卓78が接続されている。操作卓78は、例えば、キーボードやマウスなどの情報入力手段により構成される。
【0072】
次に、SEMカラム101の内部の構成要素について説明する。荷電粒子線源としてのショットキー電子源1は、タングステンの単結晶に、酸素とジルコニウムなどを拡散させショットキー効果を利用する電子源であり、その近傍にサプレッサー電極2、引き出し電極3が設けられる。ショットキー電子源1を加熱し、引き出し電極3との間に+2kV程度の電圧を印加することにより、ショットキー電子を放出させる。サプレッサー電極2には負電圧が印加され、ショットキー電子源1の先端以外からの電子放出を抑制する。引き出し電極3の穴を出た電子ビームは、第1陽極4、第2陽極5で形成される静電レンズにより加速、収束され、さらに電子ビームは、光軸60に沿って後段の構成要素へ入射する。
【0073】
なお、ショットキー電子源1から第2陽極までをまとめて電子銃61として実施例1で示している。本実施例では電子銃61にショットキー電子銃を用いるが,電界放出電子銃(FE電子銃)や熱電子銃など全ての電子銃に適用可能である。電子ビームは、コンデンサレンズ6で収束され、可動絞り9にてビーム径を制限され、偏向器7を通り、収差補正器10に入射する。偏向器7は、通常、コンデンサレンズ6の軸と収差補正器10の軸が一致するように調節される。
【0074】
収差補正器10の各段で4極子、8極子を形成するがこれには12極の電極(磁極を兼ねてもよい)を用いると、4極子、8極子のほか、2極子、6極子、12極子も形成可能で電極、磁極の組み立て誤差、磁極材料の不均一性により生じる場の歪みを電気的に補正するためにそれらを使用する。収差補正器10に補正用の色収差、球面収差を与えられた電子ビームは、対物レンズ17にて試料18上に収束し、そのスポットは走査偏向器15にて試料上を走査される。
【0075】
試料上の走査位置は、イメージシフトコイル12によって変更される。偏向器8では偏向器7で軸ずらしを行ったときのイメージシフトの位置と角度ズレが修正される。イメージシフトコイル12に走査偏向器15の偏向信号および偏向器8の調整信号を重畳することも可能である。
【0076】
試料室102内部には、試料18を載置する試料載置面を備えた試料ステージ80が格納されている。電子線照射により発生する2次電子は、対物レンズ17を抜けて、反射板72に当たり電子を発生させる。発生した電子は、2次電子検出器73で検出されるが、ExB偏向器71により、反射板72に2次電子の当たる位置を調整することもできる。
【0077】
検出された2次電子信号は、走査と同期した輝度信号として制御コンピュータ30に取り込まれる。制御コンピュータ30は、取り込んだ輝度信号情報に対して適当な処理を行い、モニタ77上にSEM画像として表示される。
【0078】
制御ユニット103は、電子銃電源20、制御電圧源21、加速電圧源22、コンデンサレンズ電源24、偏向コイル電源25、収差補正器電源26、走査コイル電源27、対物レンズ電源28、リターディング電源29、絞り加熱電源31、偏向コイル電源32、イメージシフトコイル電源33、2次電子検出器電源74、ExB偏向器電源75、試料ステージ制御機構81等により構成され、それぞれSEMカラム内の対応する構成要素と、信号伝送路や電気配線等で接続されている。
【0079】
イメージシフトの色分散抑制においては、偏向器7によって電子ビームを収差補正器10の軸調整位置からからずらすことで行われる。その際、イメージシフトに対する偏向器7に入力する偏向信号と、偏向器8に入力される振り戻し用の偏向信号は、データストレージ76上に格納されているあらかじめ決まった組み合わせのデータテーブルが用いられる。
【0080】
テーブルデータはイメージシフトの位置と傾斜角の両方に応じた組み合わせが用いられる。装置調整者は、モニタ77によってデータテーブルを確認することができ、操作卓78を用いて更新することもできる。テーブルデータは各点毎に実際に与える値を記したデータでも良いし、イメージシフトの位置と角度を変数として、各入力値を算出する関数の係数データでもよい。
【0081】
また、装置調整者は、制御電圧源21に加速電圧の変調信号を加えたときのSEM像の移動を確認することで、色分散抑制効果を確認できる。さらに、コンピュータ30に、特定の期間、例えば数日間隔といった一定期間毎に実施例2や実施例3で示した手法を用いて前記テーブルデータを更新させ、常に装置を最適動作させることも可能である。