特許第5993736号(P5993736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5993736光触媒電極およびその製造方法、水素生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5993736
(24)【登録日】2016年8月26日
(45)【発行日】2016年9月14日
(54)【発明の名称】光触媒電極およびその製造方法、水素生成装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/06 20060101AFI20160901BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20160901BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20160901BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20160901BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20160901BHJP
【FI】
   C25B11/06 Z
   B01J23/58 M
   B01J35/02 J
   C23C26/00 C
   C25B9/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-273663(P2012-273663)
(22)【出願日】2012年12月14日
(65)【公開番号】特開2014-118594(P2014-118594A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】片山 知里
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−131170(JP,A)
【文献】 特開2010−214843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
B01J 21/00−38/74
C23C 18/00−20/08,
24/00−30/00
C09D 1/00− 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相法で製造された第一光触媒粒子と、固相法で製造された第二光触媒粒子とを含む光触媒層形成用組成物を、透明電極層付き基板の透明電極層上に塗布する工程と、
前記光触媒層形成用組成物が塗布された透明電極層付き基板に焼成処理を施す工程とを備え、
前記第一光触媒粒子のピーク粒径が20〜200nmであり、
前記第二光触媒粒子のピーク粒径が前記第一光触媒粒子のピーク粒径より400nm以上大きく、
前記第一光触媒粒子および第二光触媒粒子が、少なくとも2種の金属原子を含む酸化物である、光触媒電極の製造方法。
【請求項2】
前記液相法が、水熱合成法またはゾルゲル法である、請求項1に記載の光触媒電極の製造方法。
【請求項3】
前記第二光触媒粒子のピーク粒径が、0.42〜3.0μmである、請求項1または2に記載の光触媒電極の製造方法。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に配置された透明電極層と、
前記透明電極層上に配置された光触媒層とを有し、
前記光触媒層が、液相法を用いて得られた光触媒粒子Xと固相法を用いて得られた光触媒粒子Yとを含み、
前記光触媒粒子Xのピーク粒径が20〜200nmであり、
前記光触媒粒子Yのピーク粒径が前記光触媒粒子Xのピーク粒径より400nm以上大きく、
前記光触媒粒子Xおよび前記光触媒粒子Yが、少なくとも2種の金属原子を含む酸化物である、光触媒電極。
【請求項5】
前記光触媒粒子Yのピーク粒径が、0.42〜3.0μmである、請求項4に記載の光触媒電極。
【請求項6】
請求項4または5に記載の光触媒電極を備える水素生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒電極およびその製造方法に係り、特に、少なくとも2種の光触媒粒子より形成される光触媒層を有する光触媒電極およびその製造方法に関する。
また、本発明は、上記光触媒電極を備える水素生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸ガス排出削減、エネルギーのクリーン化の観点から、水素エネルギーシステムが注目されている。水素をエネルギー媒体に使うことにより、燃料電池で電気や熱、直接燃焼で熱や動力として使用できる。
その中で、光触媒を用いた水素生成に注目が集まっている。このシステムは、水と太陽光とから直接水素を製造するシステムであり、太陽光エネルギーを有効に水素エネルギーに変換できる。
例えば、特許文献1においては、光触媒性を持つTiO2を含む化合物を、水を電気分解する際の電極として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−096276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、より効率よく水素を製造することが求められており、光触媒電極の集電性のより一層の向上が求められている。
一方、特許文献1に記載される従来の光触媒電極では、光触媒層と基板との密着性が十分でなく、剥離が生じやすいという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みて、光触媒層の密着性に優れると共に、集電性にも優れる光触媒電極およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記光触媒電極を有する水素生成装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討を行ったところ、液相法で合成されたことを特徴とする少なくとも1種類の粒子を含む、少なくとも2種の光触媒粒子を用いて光触媒層を製造することにより、上記課題を解決できることを見出した。
つまり、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0007】
(1) 液相法で製造された第一光触媒粒子と、固相法で製造された第二光触媒粒子とを含む光触媒層形成用組成物を、透明電極層付き基板の透明電極層上に塗布する工程と、光触媒層形成用組成物が塗布された透明電極層付き基板に焼成処理を施す工程とを備え、第一光触媒粒子のピーク粒径が20〜200nmであり、第二光触媒粒子のピーク粒径が第一光触媒粒子のピーク粒径より400nm以上大きく、第一光触媒粒子および第二光触媒粒子が、それぞれ独立に、少なくとも2種の金属原子を含む酸化物、少なくとも1種の金属原子を含む窒化物、少なくとも1種の金属原子を含む硫化物、少なくとも1種の金属原子を含む酸窒化物、および、少なくとも1種の金属原子を含む酸硫化物からなる群から選択される一種である、光触媒電極の製造方法。
【0008】
(2) 液相法が、水熱合成法またはゾルゲル法である、(1)に記載の光触媒電極の製造方法。
【0009】
(3) 第二光触媒粒子のピーク粒径が、0.42〜3.0μmである、(1)または(2)に記載の光触媒電極の製造方法。
【0010】
(4) 基板と、基板上に配置された透明電極層と、透明電極層上に配置された光触媒層とを有し、光触媒層が、光触媒粒子Xと光触媒粒子Yとを含み、光触媒粒子Xのピーク粒径が20〜200nmであり、光触媒粒子Yのピーク粒径が光触媒粒子Xのピーク粒径より400nm以上大きく、光触媒粒子Xおよび光触媒粒子Yが、それぞれ独立に、少なくとも2種の金属原子を含む酸化物、少なくとも1種の金属原子を含む窒化物、少なくとも1種の金属原子を含む硫化物、少なくとも1種の金属原子を含む酸窒化物、および、少なくとも1種の金属原子を含む酸硫化物からなる群から選択される一種である、光触媒電極。
【0011】
(5) 光触媒粒子Yのピーク粒径が、0.42〜3.0μmである、(4)に記載の光触媒電極。
【0012】
(6) (4)または(5)に記載の光触媒電極を備える水素生成装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光触媒層の密着性に優れると共に、集電性にも優れる光触媒電極およびその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記光触媒電極を有する水素生成装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の水素生成装置の一実施形態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の光触媒電極およびその製造方法の好適態様について説明する。
まず、本発明の従来技術と比較した特徴点について詳述する。
本発明の特徴点の一つは、液相法で製造された光触媒粒子(以後、第一光触媒粒子とも称する)と、固相法で製造された光触媒粒子(以後、第二光触媒粒子とも称する)とを使用する点が挙げられる。第一光触媒粒子の表面上に水酸基が多量に残存しており、この水酸基は他の材料・部材との結合手となりえる。一方、固相法では、通常、高温での焼結処理が施されるため、第二光触媒粒子の表面には水酸基はあまり残存しないが、優れた光触媒機能を示す。本発明では、第一光触媒粒子と第二光触媒粒子とのピーク粒径に所定差を設け、第二光触媒粒子間の空隙に第一光触媒粒子を配置させて焼成処理を施すことにより、第一光触媒粒子表面上にある水酸基を介して第一光触媒粒子と第二光触媒粒子とが強固に結合される。つまり、第一光触媒粒子がいわゆる接着成分(接着粒子)として機能する。
【0016】
以下では、まず、光触媒電極の製造方法について詳述する。
光触媒電極の製造方法は、所定の光触媒層形成用組成物を透明電極層付き基板上に塗布する塗布工程と、塗布工程で得られた光触媒層形成用組成物が塗布された透明電極層付き基板に焼成処理を施す焼成工程とを備える。
まず、塗布工程について詳述する。
【0017】
[塗布工程]
塗布工程は、粒径の異なる第一光触媒粒子と第二光触媒粒子とを含む光触媒層形成用組成物を、透明電極層付き基板の透明電極層上に塗布する工程である。本工程により、後述する焼成処理が施される、光触媒層形成用組成物の層を有する透明電極層付き基板が得られる。
以下では、まず、本工程で使用される材料・部材について詳述し、その後本工程の手順について詳述する。
【0018】
(第一光触媒粒子および第二光触媒粒子)
第一光触媒粒子は、その表面上に水酸基が多く存在しており、他の材料と相互作用しやすい。そのため、後述する光触媒層を形成する際には、第一光触媒粒子は、第二光触媒粒子間および第二光触媒粒子と透明電極層との間との接着力を高める接着粒子として機能する。
第一光触媒粒子は、液相法で製造された粒子である。液相法で製造された第一光触媒粒子の表面上には、水酸基が多く存在しており、この水酸基が他の材料との結合に寄与している。
液相法の種類は特に制限されず、光触媒粒子を製造できる方法であればいずれの方法も使用できる。例えば、水熱合成法、ゾルゲル法、マイクロエマルジョン法、ホットソープ法、超臨界流体法、共沈法、均一沈殿法、などが挙げられる。なかでも、接着粒子としての機能がより優れる点で、水熱合成法、ゾルゲル法が好ましい。これらの方法の手順は、公知の手順に従って実施される。
なお、水熱合成法は公知の手順に沿って実施できるが、例えば、所定の金属原子を有する出発原料を水中で混合し、得られた水溶液のpHを調整し、その後オートクレーブ中で所定の加熱条件(加熱温度は200〜400℃が好ましい。加熱時間は1〜4時間が好ましい)にて加熱する手順が挙げられる。
水熱合成法で使用される出発原料としては、例えば、後述する金属原子を含む、金属ハロゲン化物、金属アルコキシド、金属塩(例えば、炭酸塩、硝酸塩)などが挙げられる。
また、ゾルゲル法は公知の手順に沿って実施できるが、例えば、金属アルコキシドまたは金属塩化物を出発原料として、常圧下にて80度以上で加熱処理を施しながら、反応を進行させる方法が好ましく挙げられる。
【0019】
第一光触媒粒子は、液相法で製造されており、焼成処理は施されない。いわゆる、未焼成の粒子である。焼成処理が施されると、表面上の水酸基が無くなってしまい、接着粒子としての機能が低下する。なお、ここで焼成処理とは、600℃以上の温度で処理することを意図する。
【0020】
第一光触媒粒子のピーク粒径は20〜200nmであり、なかでも、後述する第二光触媒粒子間に侵入しやすい点で、40〜150nmが好ましく、50〜125nmがより好ましい。
なお、第一触媒粒子の粒度分布は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、ピーク粒径から±50nm以内が好ましく、±25nm以内がより好ましい。
ピーク粒径が20nm未満の場合、量子サイズ効果が生じ、集電性が劣る。ピーク粒径が200nm超の場合、光触媒層の密着性が劣り、さらに電極としての性能低下が生じる。
なお、ここでピーク粒径とは、横軸に粒径(直径)、縦軸に頻度(粒子個数)をとった粒度分布曲線において、頻度が最大になるときの粒径である。第一光触媒粒子のピーク粒径を求める際には、少なくとも500個以上の第一光触媒粒子の粒径を測定する。第一光触媒粒子の粒径は、動的光散乱法により求めることができる。より具体的には、第一光触媒粒子を溶媒中に分散させ、Malvern製 ゼータサイザーナノZSを用いて測定し、数換算ピーク値より、ピーク粒子径を求める。
【0021】
第二光触媒粒子は、上述した第一光触媒粒子よりも大きく、表面積も大きく、さらに光触媒機能にも優れる。そのため、第二光触媒粒子は、光触媒層の光触媒機能の向上に大きく寄与する。
第二光触媒粒子は、固相法で製造された粒子である。固相法で得られた粒子は、一般的に、液相法で得られた粒子と比較して、光触媒機能に優れる。
固相法は公知の手順に沿って実施できるが、通常、焼成処理を伴う。より具体的には、固相法は、金属原子を含む出発原料同士を混合し、600℃以上(900〜1200℃が好ましい)の高温で焼成し、必要に応じて粉砕をして所定の粒径の粒子を得る。なお、使用される出発原料としては、後述する金属原子を含む酸化物、または、後述する金属原子を含む炭酸塩、硝酸塩などの金属塩が挙げられる。
なお、第二光触媒粒子は、固相法で製造されており、焼成処理が施されている。
【0022】
第二光触媒粒子のピーク粒径は、第一光触媒粒子とのピーク粒径との差が400nm以上である。上記範囲であれば、第二光触媒粒子間の空隙に第一光触媒粒子が侵入しやすくなり、第二光触媒粒子同士の密着性が高まり、結果として光触媒層の密着性が向上すると共に、集電性も向上する。なかでも、第一光触媒粒子と第二光触媒粒子とのピーク粒径の差は、450nm以上が好ましく、800nm以上がより好ましい。なお、上限は特に制限されないが、光触媒機能がより優れる点で、2.8μm以下が好ましく、950nm以下がより好ましい。
第二光触媒粒子のピーク粒径は第一光触媒粒子との上記関係を満たしてれば特に制限されないが、光触媒層の密着性がより優れる点で、0.42〜3.0μmが好ましく、0.5〜2.0μmがより好ましく、0.5〜1.5μmがさらに好ましい。
なお、第二触媒粒子の粒度分布は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、ピーク粒径から±300nm以内が好ましく、±150nm以内がより好ましい。
なお、ここでピーク粒径とは、横軸に粒径(直径)、縦軸に頻度(粒子個数)をとった粒度分布曲線において、頻度が最大になるときの粒径である。第二光触媒粒子のピーク粒径を求める際には、少なくとも200個以上の第二光触媒粒子の粒径を測定する。第二光触媒粒子の粒径は、SEM観察像を2値化し、画像処理ソフト(WinRoof)を使用して、球形近似して求める。SEM測定は株式会社日立ハイテクノロジーズS−5500型SEMを用い、加速電圧は5kV、倍率5000倍、1195×896ピクセルの画像を用いる。
【0023】
第一光触媒粒子および第二光触媒粒子は、それぞれ独立に、少なくとも2種の金属原子を含む酸化物、少なくとも1種の金属原子を含む窒化物、少なくとも1種の金属原子を含む硫化物、少なくとも1種の金属原子を含む酸窒化物、および、少なくとも1種の金属原子を含む酸硫化物からなる群から選択される一種である。
金属原子の種類は特に制限されず、非金属原子以外のものを指す。なお、金属原子とは、長周期型元素周期表でホウ素とアスタチンを結ぶ線より左側の元素(なお、水素原子を除く)を意図し、いわゆるアルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属などを含む。
【0024】
少なくとも2種の金属原子を含む酸化物には、光触媒能がより優れる点で、Ba、La、Na、K、Cu、In、Cs、Sr、BiおよびAgからなる群から選択される少なくとも1種の第一金属原子と、d10電子状態またはd0電子状態の金属イオンとなり得る第二金属原子(例えば、La、Ti、Zr、Nb、Ta、Mo、W、Zn、Ga、Ge、In、SnおよびSbからなる群から選択される少なくとも1種の第二金属原子)とが含まれることが好ましい。
なお、第一金属原子と第二金属原子とは、異なる種類の原子が選択される。
【0025】
なお、上記酸化物の場合には、吸収波長の長波長化が達成される点で、遷移金属原子が含まれることがある。遷移金属原子としては、例えば、Cr、Sb、La、Ru、IrおよびRhなどが挙げられる。
また、第二光触媒粒子としては、拡散反射スペクトルを測定した場合に吸収の長波長端が500nm以上を示す光触媒粒子であることが好ましい。
【0026】
なお、第一光触媒粒子および第二光触媒粒子の具体例としては、Cr,La,Ir,SbまたはRhでドープもしくは共ドープしたNaTaO3,SrTiO3またはTiO2などが挙げられる。
【0027】
(光触媒層形成用組成物)
光触媒層形成用組成物には、上述した第一光触媒粒子および第二光触媒粒子が含まれる。
第一光触媒粒子と第二光触媒粒子との含有比は特に制限されないが、光触媒層の密着性および電極の集電性がより優れる点で、含有比(第一光触媒粒子の質量/第二光触媒粒子の質量)は、0.05〜0.3が好ましく、0.1〜0.2がより好ましい。
【0028】
光触媒層形成用組成物には、必要に応じて、溶媒が含まれていてもよい。溶媒が含まれることにより、光触媒層の厚みの調整がしやすくなる。
使用される溶媒の種類は特に制限されず、水または有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、)、ケトン系溶媒(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン)、芳香族炭化水素溶媒(例えば、トルエン、キシレン)、アミド系溶媒(例えば、ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン)、ニトリル系溶媒(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル)、エステル系溶媒(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル)、カーボネート系溶媒(例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒を、2種以上混合して使用してもよい。
【0029】
(透明電極層付き基板)
透明電極層付き基板は、基板と、基板上に配置された透明電極層(透明導電層)とを備える。
以下に、基板および透明電極層について詳述する。
【0030】
使用される基材の種類は特に制限されず、公知の基材を使用できる。例えば、樹脂基板、ガラス基板、金属基板などが挙げられる。
【0031】
透明電極層を構成する材料は、導電性および光透過性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウム亜鉛酸化物(AZO)、フッ素含有スズ酸化物(FTO)、酸化スズ、酸化亜鉛などの導電性無機酸化物が挙げられる。
透明電極層の厚みは特に制限されないが、電極の集電性がより優れる点で、50〜400nmが好ましく、150〜250nmがより好ましい。
透明電極層は、単層であってもよく、異なる材料が積層された多層であってもよい。
また、透明電極層は、基板上に一面に形成されていてもよく、パターン状に形成されていてもよい。透明電極層の形成方法としては、一般的な電極の形成方法を用いることができる。
【0032】
(工程の手順)
光触媒層形成用組成物を透明電極層付き基板の透明電極層上に付与する方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、スクリーン印刷法、ディップコーティング法、スプレー塗布法、スピンコーティング法、インクジェット法などの塗布法が挙げられる。
塗布の形状は特に制限されず、基材全面を覆う面状であっても、パターン状(例えば、配線状、ドット状)であってもよい。
透明電極層上への光触媒層形成用組成物の塗布量としては、所望する導電膜の膜厚に応じて適宜調整すればよいが、通常、塗膜の膜厚は0.32〜20μmが好ましく、0.5〜5μmがより好ましい。
【0033】
なお、光触媒形成用組成物中に溶媒が含まれる場合、室温で乾燥処理を施すことが好ましい。この場合、溶媒として低沸点溶媒(好ましくは、沸点150℃以下の溶媒)を用いることが好ましい。なお、必要に応じて、光触媒形成用組成物中には、レベリング剤または分散剤として寄与する溶媒を少量添加してもよい。
【0034】
[焼成工程]
塗布工程は、上記塗布工程で得られた光触媒層形成用組成物が塗布された透明電極層付き基板(光触媒層形成用組成物の層を有する透明電極層付き基板)に焼成処理を施す工程である。本工程を実施することにより、第一光触媒粒子および第二光触媒粒子間での結合が進行し、密着性に優れる光触媒層が得られると共に、光触媒電極の集電性も向上する。
焼成処理の条件は特に制限されず、使用される光触媒粒子の種類に応じて、最適な条件が選択される。なかでも、200〜550℃(より好ましくは300〜500℃)で1〜5時間(より好ましくは2〜3時間)の加熱処理を実施するのが好ましい。
【0035】
[光触媒電極]
上記工程を経ることにより、本発明の光触媒電極が製造される。
光触媒電極は、基板と、基板上に配置された透明電極層と、透明電極上に配置された光触媒層とを有する。光触媒層には、光触媒粒子Xと光触媒粒子Yとが含有され、光触媒粒子Xのピーク粒径は20〜200nmであり、光触媒粒子Yのピーク粒径は光触媒粒子Xのピーク粒径より400nm以上大きい。
光触媒粒子Xおよび光触媒粒子Yは、それぞれ、光触媒電極の作製時に、上述した第一光触媒粒子および第二光触媒粒子に対して焼成処理が施されて得られた粒子である。
光触媒粒子Xのピーク粒径の範囲は上述した第一光触媒粒子のピーク粒径の範囲と同義であり、光触媒粒子Yのピーク粒径の範囲は上述した第二光触媒粒子のピーク粒径の範囲と同義である。
また、光触媒層中における光触媒粒子Xおよび光触媒粒子Yの含有比の好適範囲は上述した光触媒層形成用組成物中における第一光触媒粒子と第二光触媒粒子との含有比の好適範囲と同義である。
【0036】
光触媒層の厚みは特に制限されないが、光触媒層の密着性および集電性に優れる点で、0.32〜20μmが好ましく、0.50〜5μmがより好ましい。
【0037】
[水素生成装置]
本発明の水素生成装置は、上述した光触媒電極を備える。図1に、水素生成装置の一実施形態を示す。図1に示す水素生成装置10は、水Wが貯留されたセル12と、セル12内の水Wに浸漬されるように配置された光触媒電極14と対極16と、光触媒電極14と対極16とに接続し、光触媒電極14を陰極、対極16を陽極として電圧を印加する電圧印加手段18とが設けられている。
【0038】
水素生成装置10においては、光触媒電極14と対極16との間に電圧を印加しながら、光触媒電極14に光を照射することによって、光触媒電極14が還元電極として作用して水が還元されてその表面上に水素が生成されると共に、対極16が酸化電極として作用して水が酸化されてその表面上に酸素が生成され、これにより水の分解が行われる。
光触媒電極14に照射される光としては、紫外光、可視光、太陽光などが挙げられ、なかでも、省エネルギーの観点から、可視光、太陽光が好ましい。可視光としては、例えば、光源としてキセノンランプを用いて波長420nm以下の波長範囲の光をカットした光などが挙げられる。
分解する水の種類は特に制限されないが、水の酸化還元反応以外の反応を起こさず、物理的、化学的に安定で、pHが中性付近であって、溶液の電気伝導性が良くなるために、K2SO4などを0.05〜0.2モル/Lとなるよう溶解させた水溶液であってもよい。
【0039】
対極16を構成する材料は特に制限されないが、例えば、白金が挙げられる。
また、必要に応じて、光触媒電極14と対極16との間に、イオン交換膜を配置して、セル12内部をカソード室およびアノード室に区画してもよい。なお、使用されるイオン交換膜としては、例えば「Nafion(登録商標)R117」(DuPont社製)などを用いることができる。
また、電圧印加手段18としては、例えば、ポテンショスタット「HZ−5000」(北斗電工社製)などを用いることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(合成例1:第一光触媒粒子の合成)
第一光触媒粒子は、水熱合成法により合成した。
より具体的には、まず、Sr(NO3)2とTiCl4とRhCl3とを含む水溶液を作製した。なお、水溶液中、金属モル比がSr:Ti:Rh=1.07:0.93:0.07となるように、上記成分を混合した。次に、水酸化カリウムを用いて水溶液のpHを13に調整して、得られた水溶液をオートクレーブに入れて、300℃で3時間加熱反応させた。反応終了後、デカンテーションを行って上澄み液を回収した。その後、上澄み液をろ過し、1晩乾燥させて、第一光触媒粒子を得た(ピーク粒径:100nm)。
【0042】
(合成例2:第二光触媒粒子の合成)
第二光触媒粒子は、固相法により合成した。
より具体的には、まず、SrCO3とTiO2とRh23とを、金属モル比がSr:Ti:Rh=1.07:0.93:0.07となる比率で均一に混合した。次に、得られた混合物を大気下1000℃で1時間仮焼成後、1000℃で10時間本焼成した。得られた第二光触粒子のピーク粒径は、600nmであった。
【0043】
<実施例1>
合成例1および2で得られた第一光触媒粒子および第二光触媒粒子を粉砕して、アセチルアセトン(10μl)およびエタノール(50μl)の混合液中に、第一光触媒粒子(8mg)および第二光触媒粒子(40mg)を加えて分散させ、光触媒層形成用組成物を調製した。
次に、得られた光触媒層形成用組成物(20μl)をITO透明電極層付き基板上に塗布して、光触媒層形成用組成物層を得た。
その後、得られた光触媒層形成用組成物層を備えたITO透明電極層付き基板を、大気下において、500℃で2時間焼成して、光触媒電極を得た。
【0044】
(特性評価)
光触媒特性は、ポテンショスタット(北斗電工:HZ−5000)を用いて、作用極と対極とがNafion117で仕切られているHタイプセルを用いて、測定した。対極には白金、参照電極には飽和Ag/AgCl電極、電解質溶液はK2SO4水溶液を用いた。測定前にはN2でバブリングを行なった。光源は300W Xeランプ(Perking Elmer; Cermax-PE300BF)を用い、L42カットオフフィルター、赤外吸収フィルタ(CCF-50S-500C)、球面平凸レンズ(SLSQ-60(Φ)-150P)を通した光が、光触媒電極に照射されるように設置した。
結果として、光触媒層は剥離することなく、印加電圧−0.5V vs Ag/AgClで光電流値50μA/cm2となった。
上記結果より、光触媒層の密着性が優れると共に、光触媒電極の集電性にも優れることが確認された。
【符号の説明】
【0045】
10 水素生成装置
12 セル
14 光触媒電極
16 対極
18 電圧印加手段
図1