(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の着色組成物、及びこれを用いた本発明の捺染方法について詳細に説明する。
【0014】
<着色組成物>
本発明の着色組成物は、以下に示す一般式(I)で表される染料化合物と、水とを含有する。本発明の着色組成物は、必要に応じて、さらに他の成分を含有してもよい。
【0015】
従来から、捺染に使用される染料として、酸性染料が広く知られており、色合いなどの観点からフタロシアニン酸性染料が広く使用されている。しかしながら、フタロシアニン酸性染料は、他の色素母核を有する染料と比較して、ナイロン等のポリアミド材に対する染着性が悪いことが知られている。フタロシアニン酸性染料のポリアミド材に対する染着性を改善し得る技術は未だに確立されていない。特にフタロシアニン酸性染料は、ナイロンに対する捺染又は染色にあたり、染着部の色相及び耐光性が著しく低い。
本発明の着色組成物は、フタロシアニン骨格のα位に下記一般式(I)中(−A
101−CH
2−NR
101R
102)で表される置換基が少なくとも1つ置換された構造を有する染料化合物を含有することで、ナイロンを含む布帛に対する捺染や、ナイロンを含む板材(フィルム又はシート等)に対する染色において、染着部の色相及び耐光性が改善される。
【0016】
本発明の着色組成物は、ナイロンを含む板材への画像形成や染色の用途のほか、ナイロンを含む布帛の捺染用途に特に好適に用いられる。
【0017】
−染料化合物−
本発明の着色組成物は、着色成分として、下記一般式(I)で表される染料化合物の少なくとも一種を含有する。
本発明の一般式(I)で表される染料化合物は、一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、50モル%以上の染料化合物が、フタロシアニン骨格のα位に下記一般式(I)中(−A
101−CH
2−NR
101R
102)で表される置換基を少なくとも1つ有する染料化合物である。フタロシアニン骨格のα位に下記一般式(I)中(−A
101−CH
2−NR
101R
102)で表される置換基を少なくとも1つ有する染料化合物は、特に染着性の観点から、一般式(I)で表される染料化合物全量のうち60モル%以上が好ましく、65モル%以上がより好ましい。
【0018】
一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、フタロシアニン骨格のα位に下記一般式(I)中(−A
101−CH
2−NR
101R
102)で表される置換基を少なくとも1つ有する染料化合物が50モル%未満であると、ナイロンに対する捺染又は染色において、染着性及び耐光性に劣る。
さらにフタロシアニン骨格の任意の位置に下記一般式(I)中(−SO
3M
102)で表される置換基が置換されていることで、水系に調製されるインクへの溶解性を保持している。
なお、本発明において、フタロシアニン骨格のα位とは、下記一般式(II)で示したα位置換に結合する置換形式を意味し、β位とは、ベンゼン環のさらに一つ外側(β位置換)に結合した置換形式である。
【0021】
一般式(I)において、R
101及びR
102は、それぞれ独立に、炭素数が1〜20の1級アルキル基を表す。
1級アルキル基が置換基を有する場合、置換基は、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、アミノ基、シアノ基、メルカプト基、ニトロ基、及びハロゲン原子よりなる群から選ばれる1又は2以上の基であることが好ましい。
R
101及びR
102で表される1級アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ヘキシル基、イソブチル基、イソペンチル基、及び2−エチルへキシル基が挙げられる。
【0022】
中でも、R
101及びR
102表される炭素数が1〜20の1級アルキル基は、無置換でもよいし置換基を有していてもよいが、無置換であることが好ましい。
R
101及びR
102表される1級アルキル基は、炭素数が1〜10の1級アルキル基が好ましく、炭素数が1〜8の1級アルキル基がより好ましく、炭素数が1〜6の1級アルキル基が特に好ましい。
【0023】
R
101及びR
102は互いに結合し、環を形成してもよい。
R
101及びR
102は互いに結合し、環を形成した場合の炭素数は2〜40であり、好ましくは2〜30であり、より好ましくは、2〜20であり、特に好ましくは2〜10である。形成される環として、例えば、ピペラジン環、アジリジン環、モルホリン環、ピペリジン環、及びピロリジン環などが挙げられる。
【0024】
R
101、及びR
102は、後述するX
101で表される置換基で置換されていてもよい。
【0025】
一般式(I)において、A
101はスルホニル基及び/またはスルホンアミド基を有する連結基を表し、スルホニル基及びスルホンアミド基のほか、これらの両方を含む連結基でもよい。
【0026】
A
101は、スルホニル基及び/またはスルホンアミド基、並びにアルキレン基、−O−、−S−、−NR
201−、−CO−、−COO−、−CONR
201−、−SiR
2012−、アリーレン基、2価のヘテロ環基、及びこれらの少なくとも2つを組み合わせた2価の連結基であってもよい。
【0027】
A
101で表される連結基がアルキレン基を有する場合は、アルキレン基は、直鎖状、及び分岐状のいずれでもよく、環状であってもよい。A
101で表される連結基がアルキレン基を有する場合は、炭素数が1〜8のアルキレン基が好ましく、炭素数が2〜6のアルキレン基がより好ましくは、炭素数が2〜3のアルキレン基がさらに好ましい。アルキレン基の例として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ジメチルメチレン基、及び2価のシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0028】
A
101で表される連結基がアリーレン基を有する場合は、アリーレン基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。アリーレン基は、炭素数が6〜12のアリーレン基が好ましく、炭素数6のアリーレン基が特に好ましい。アリーレン基の例として、以下に示す基が挙げられる。
【0030】
A
101で表される連結基が2価のヘテロ環基を有する場合は、2価のヘテロ環基は、無置換でもよく、置換基を有していてもよい。2価のヘテロ環基は、炭素数が3〜10のヘテロ環基が好ましい。2価のヘテロ環基が有するヘテロ原子として、窒素原子、硫黄原子、及び酸素原子が挙げられる。2価のヘテロ環基の例として、以下に示す基が挙げられる。
【0032】
A
101は、後述するX
101で表される置換基で置換されていてもよい。
中でも、A
101は、スルホニル基及び/またはスルホンアミド基を有し、さらにアルキレン基を組み合わせた2価の連結基であることが好ましい。
【0033】
R
201は、水素原子、アルキル基、アリール基、及びヘテロ環基を表す。上述のA
101内に複数のR
201が存在する場合、R
201は互いに異なっていてもよい。
R
201で表されるアルキル基は、無置換でもよく、置換されていてもよい。R
201で表されるアルキル基は、直鎖状、分岐鎖、又は環状のいずれでもよい。R
201で表されるアルキル基は、炭素数が1〜48のアルキル基が好ましく、炭素数が1〜24のアルキル基がより好ましい。アルキル基の例として、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−ノルボルニル基、及び1−アダマンチル基等が挙げられる。
【0034】
R
201で表されるアリール基は、無置換でもよく、置換されていてもよい。R
201で表されるアリール基は、炭素数が6〜48のアリール基が好ましく、炭素数が6〜24のアリール基がより好ましい。アリール基の例として、フェニル基、及びナフチル基等が挙げられる。
【0035】
R
201で表されるヘテロ環基は、無置換でもよく、置換されていてもよい。R
201で表されるヘテロ環基は、炭素数が1〜32のヘテロ環基が好ましく、炭素数が1〜18のヘテロ環基がより好ましい。ヘテロ環基の例として、2−チエニル基、4−ピリジル基、2−フリル基、2−ピリミジニル基、1−ピリジル基、2−ベンゾチアゾリル基、1−イミダゾリル基、1−ピラゾリル基、及びベンゾトリアゾール−1−イル基等が挙げられる。
【0036】
一般式(I)において、A
101は、CH
2を介してNR
101R
102と結合している。また、A
101は、フタロシアニン骨格の6員環のα位及びβ位のいずれかの水素原子が外れてフタロシアニン骨格と結合している。ただし、本発明の着色組成物に含まれる一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、50モル%以上の染料化合物のA
101は、フタロシアニン骨格の6員環のα位の水素原子が外れてフタロシアニン骨格と結合している。
【0037】
一般式(I)において、M
101は銅原子、亜鉛原子、ニッケル原子、及びコバルト原子よりなる群から選ばれる1つを表す。M
101は、染着部の色相及び堅牢性の点で、銅原子又は亜鉛原子が好ましく、銅原子がより好ましい。
【0038】
M
102は水素原子、アンモニウム(NH
4)、又はアルカリ金属原子を表し、好ましくはアルカリ金属原子であり、より好ましくは、リチウム、ナトリウム、又はカリウムであり、さらに好ましくは、リチウム又はナトリウムである。
【0039】
n
101は2以上の整数を表し、染料化合物の水溶性の点で、2〜6が好ましく、2〜4がより好ましい。
【0040】
一般式(I)中の、フタロシアニン骨格、−A
101−、及び−(NR
101R
102)の構造部分は、下記一般式(Ia)に示すように、さらにn
102個の置換基X
101で置換された構造であってもよい。
X
101の置換数を表すn
102は0以上の整数を表し、好ましくは0〜4であり、より好ましくは0〜2であり、さらに好ましくは0〜1である。
下記一般式(Ia)において、X
101は、フタロシアニン骨格の6員環のα位及びβ位のいずれかの水素原子が外れてフタロシアニン骨格と結合している。
【0042】
置換基X
101として、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、及び臭素等。好ましくは塩素、又は臭素、より好ましくは塩素)、アルキル基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24の、直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキル基で、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−ノルボルニル基、及び1−アダマンチル基等)、アルケニル基(好ましくは炭素数が2〜48、より好ましくは炭素数が2〜18のアルケニル基で、例えば、ビニル基、アリル基、及び3−ブテン−1−イル基等)、アリール基(好ましくは炭素数が6〜48、より好ましくは炭素数が6〜24のアリール基で、例えば、フェニル基、及びナフチル基等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜18のヘテロ環基で、例えば、2−チエニル基、4−ピリジル基、2−フリル基、2−ピリミジニル基、1−ピリジル基、2−ベンゾチアゾリル基、1−イミダゾリル基、1−ピラゾリル基、及びベンゾトリアゾール−1−イル基等)、シリル基(好ましくは炭素数が3〜38、より好ましくは炭素数が3〜18のシリル基で、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリブチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、及びt−ヘキシルジメチルシリル基等)、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のアルコキシ基で、例えば、メトキシ基、エトキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソプロポキシ基、t−ブトキシ基、ドデシルオキシ基、及びシクロアルキルオキシ基(例えば、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基)等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数が6〜48、より好ましくは炭素数が6〜24のアリールオキシ基で、例えば、フェノキシ基、及び1−ナフトキシ基等)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜18のヘテロ環オキシ基で、例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、及び2−テトラヒドロピラニルオキシ基等)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜18のシリルオキシ基で、例えば、トリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基、及びジフェニルメチルシリルオキシ基等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数が2〜48、より好ましくは炭素数が2〜24のアシルオキシ基で、例えば、アセトキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、及びドデカノイルオキシ基等)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数が2〜48、より好ましくは炭素数が2〜24のアルコキシカルボニルオキシ基で、例えば、エトキシカルボニルオキシ基、t−ブトキシカルボニルオキシ基、及びシクロアルキルオキシカルボニルオキシ基(例えば、シクロヘキシルオキシカルボニルオキシ基)等)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは炭素数が7〜32、より好ましくは炭素数が7〜24のアリールオキシカルボニルオキシ基で、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基等)、カルバモイルオキシ基(好ましくは炭素数が1〜48、よりこの好ましくは炭素数が1〜24のカルバモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N−ブチルカルバモイルオキシ基、N−フェニルカルバモイルオキシ基、及びN−エチル−N−フェニルカルバモイルオキシ基等)、スルファモイルオキシ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜24のスルファモイルオキシ基で、例えば、N,N−ジエチルスルファモイルオキシ基、及びN−プロピルスルファモイルオキシ基等)、アルキルスルホニルオキシ基(好ましくは炭素数が1〜38、より好ましくは炭素数が1〜24のアルキルスルホニルオキシ基で、例えば、メチルスルホニルオキシ基、ヘキサデシルスルホニルオキシ基、及びシクロヘキシルスルホニルオキシ基等)、
【0043】
アリールスルホニルオキシ基(好ましくは炭素数が6〜32、より好ましくは炭素数が6〜24のアリールスルホニルオキシ基で、例えば、フェニルスルホニルオキシ基等)、アシル基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のアシル基で、例えば、ホルミル基、アセチル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、テトラデカノイル基、及びシクロヘキサノイル基等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数が2〜48、より好ましくは炭素数が2〜24のアルコキシカルボニル基で、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、オクタデシルオキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基、及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルシクロヘキシルオキシカルボニル基等)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数が7〜32、より好ましくは炭素数が7〜24のアリールオキシカルボニル基で、例えば、フェノキシカルボニル基等)、カルバモイル基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のカルバモイル基で、例えば、カルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、Nーエチル−N−オクチルカルバモイル基、N,N−ジブチルカルバモイル基、N−プロピルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基、N−メチルN−フェニルカルバモイル基、及びN,N−ジシクロへキシルカルバモイル基等)、アミノ基(好ましくは炭素数が32以下、より好ましくは炭素数が24以下のアミノ基で、例えば、アミノ、メチルアミノ基、N,N−ジブチルアミノ基、テトラデシルアミ基、2−エチルへキシルアミノ基、及びシクロヘキシルアミノ基等)、アニリノ基(好ましくは炭素数が6〜32、より好ましくは炭素数が6〜24のアニリノ基で、例えば、アニリノ基、及びN−メチルアニリノ基等)、ヘテロ環アミノ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜18のヘテロ環アミノ基で、例えば、4−ピリジルアミノ基等)、カルボンアミド基(好ましくは炭素数が2〜48、より好ましくは炭素数が2〜24のカルボンアミド基で、例えば、アセトアミド基、ベンズアミド基、テトラデカンアミド基、ピバロイルアミド基、及びシクロヘキサンアミド基等)、ウレイド基類(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜24のウレイド基で、例えば、ウレイド基、N,N−ジメチルウレイド基、及びN−フェニルウレイド基等)、イミド基(好ましくは炭素数が36以下、より好ましくは炭素数が24以下のイミド基で、例えば、N−スクシンイミド基、及びN−フタルイミド基等)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数が2〜48、より好ましくは炭素数が2〜24のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、t−ブトキシカルボニルアミノ基、オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、及びシクロヘキシルオキシカルボニルアミノ基等)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数が7〜32、より好ましくは炭素数が7〜24のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のスルホンアミド基で、例えば、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基、ベンゼンスルホンアミド基、ヘキサデカンスルホンアミド基、及びシクロヘキサンスルホンアミド基等)、スルファモイルアミノ基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のスルファモイルアミノ基で、例えば、N、N−ジプロピルスルファモイルアミノ基、及びN−エチル−N−ドデシルスルファモイルアミノ基等)、アゾ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜24のアゾ基で、例えば、フェニルアゾ基、及び3−ピラゾリルアゾ基等)、
【0044】
アルキルチオ基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のアルキルチオ基で、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、オクチルチオ基、及びシクロヘキシルチオ基等)、アリールチオ基(好ましくは炭素数が6〜48、より好ましくは炭素数が6〜24のアリールチオ基で、例えば、フェニルチオ基等)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜18のヘテロ環チオ基で、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、2−ピリジルチオ基、及び1−フェニルテトラゾリルチオ基等)、アルキルスルフィニル基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜24のアルキルスルフィニル基で、例えば、ドデカンスルフィニル基等)、アリールスルフィニル基(好ましくは炭素数が6〜32、より好ましくは炭素数が6〜24のアリールスルフィニル基で、例えば、フェニルスルフィニル基等)、アルキルスルホニル基(好ましくは炭素数が1〜48、より好ましくは炭素数が1〜24のアルキルスルホニル基で、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ヘキサデシルスルホニル基、オクチルスルホニル基、及びシクロヘキシルスルホニル基等)、アリールスルホニル基(好ましくは炭素数が6〜48、より好ましくは炭素数が6〜24のアリールスルホニル基で、例えば、フェニルスルホニル基、及び1−ナフチルスルホニル等)、スルファモイル基類(好ましくは炭素数が32以下、より好ましくは炭素数が24以下のスルファモイル基で、例えば、スルファモイル基、N,N−ジプロピルスルファモイル基、N−エチル−N−ドデシルスルファモイル基、N−エチル−N−フェニルスルファモイル、N−シクロヘキシルスルファモイル基、及びN−(2−エチルヘキシル)スルファモイル基等)、ホスホニル基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜24のホスホニル基で、例えば、フェノキシホスホニル基、オクチルオキシホスホニル基、及びフェニルホスホニル基等)、ホスフィノイルアミノ基(好ましくは炭素数が1〜32、より好ましくは炭素数が1〜24のホスフィノイルアミノ基で、例えば、ジエトキシホスフィノイルアミノ基、及びジオクチルオキシホスフィノイルアミノ基等)を表す。
【0045】
上記のうち、好ましい置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基であり、より好ましくは、ハロゲン原子、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、及びスルファモイル基であり、特に好ましくは、スルファモイル基である。
また、上記の置換基がさらに置換可能な基である場合には、上記で説明した置換基もしくはスルホ基(SO
3M)が置換されていてもよい。
【0046】
以下、一般式(I)で表される染料化合物の具体例を示す。但し、本発明においては、これら具体例に制限されるものではない。下記具体例中の「α」は、置換基がフタロシアニン骨格のα位に結合していることを示す。
【0050】
次に、一般式(I)で表される染料化合物の合成方法を説明する。
一般式(I)で表される染料化合物の合成方法として、(A)フタル酸誘導体から合成する合成法、及び(B)フタロシアニンから合成する合成法などが挙げられる。
【0051】
(A)フタル酸誘導体からの合成
一般式(I)で表される染料化合物の合成方法の一例として、フタル酸誘導体から合成する方法があり、例えば、「フタロシアニン−化学と機能−」(白井−小林共著、p.1〜p.62、(株)アイピーシー発行)、”Phthalocyanines - Properties and Applications”(C. C.Leznoff-A. B. P. Lever共著、p.1〜54、VCH発行)等の記載を参照して行なうことができる。
具体的には、(1)フタロニトリルと金属塩との反応(フタロニトリル法)、(2)無水フタル酸もしくはフタル酸もしくはフタルイミドと尿素との反応(ワイラー法)が挙げられ、置換基導入のしやすさの観点から(1)フタロニトリル法が好ましい。
フタロニトリル法によって種々の置換基が置換されたフタロシアニン化合物を得る方法として、下記のように、種々の置換基が置換されたフタロニトリルを所望の比率で混合したものをフタロシアニン環化する方法が挙げられる。
ここで、アザフタロシアニン誘導体については、原料を対応するアザフタロニトリルとフタロニトリルとを混合しフタロシアニン環化することで得ることができる。
【0053】
環化反応の具体的条件としては、特開2009−19209号公報に記載されるように、溶媒中(ニトロベンゼン等のニトロ系溶媒、ベンゾニトリル等のトリルニトリル系溶媒、エチレングリコール、及びジエチレングリコール等のポリグリコール系溶媒等)、フタロニトリル、金属塩(塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、及びトリフルオロメタンスルホン酸塩等)、及び場合により塩基(例えばジアザビシクロウンデセン(DBU)等)を加熱することで、目的とする化合物が得られる。
【0054】
(B)フタロシアニンからの合成
フタロシアニンに、スルファモイル基又はスルホ基を導入する際に限った方法であるが、例えば下記スキームのように、フタロシアニンをクロロスルホニル化又はスルホ化し、アミド化又は加水分解することで側鎖を導入することができる。具体的な方法については、例えば、国際出願第00/17275号パンフレット、国際出願第00/08103号パンフレット、国際出願第00/08101号パンフレット、国際出願第98/41853号パンフレット、特開平10−36471号公報、特表2002−522561号公報、米国特許第6332918号明細書などの記載を参照することができる。
【0056】
一般式(I)で表される染料化合物が合成されたことの確認は、マススペクトル(MS)測定により行なうことができる。また、染料化合物が磁性を持たない場合には、NMR測定も併せて用いることができる。
一般式(I)で表される染料化合物のα位及びβ位における置換基の比率は、フタロシアニン染料を化学的に分解する手段により求めた(特開2004−43757号公報)。フタロシアニンオゾン分解については、William E. HillおよびR.D. Andersonにより報告されており(Int.Conf. Exhib., AATCC,390(1995))、分解生成物の生成量を求め、モル数に対する比率を求められる。
具体的には、オゾン分解の際、分光光度計で分光吸収をモニターしながら約90%〜99%オゾン分解させたサンプル(フタル酸誘導体)を定量に使用する。この方法を利用すると、分解生成物であるフタル酸誘導体のさらなる分解がないので好ましい。オゾン分解に用いたフタロシアニン染料は中心金属の定量から求めたオゾン分解前のサンプル(フタロシアニン染料)量からオゾン分解反応後の残存量を減じることで容易に求めることができる。分解生成物中のフタル酸誘導体の定量は、液体クロマトグラフィーを用いる。
以上の操作により、フタル酸誘導体の生成量を求め、分解に使用したフタロシアニン染料のモル数の4倍に対する比率を求められる。
【0057】
一般式(I)で表される染料化合物は、青色〜シアン色を呈する化合物である。
また、一般式(I)で表される染料化合物において、「−A
101−CH
2−NR
101R
102」で表される置換基は、フタロシアニン骨格の6員環のα位、及びβ位のいずれに置換されてもよいが、布帛への染色性の観点から、一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、50モル%以上の染料化合物が、フタロシアニン骨格のα位に「−A
101−CH
2−NR
101R
102」で表される置換基を有する。
従来の(B)フタロシアニンから合成する方法、すなわち、スルホ化したフタロシアニンから置換基を導入する方法では、α位置換の割合を制御することは難しく、β位置換が混在しやすい。一方、本発明では(A)フタル酸誘導体からの合成、すなわち、予め三位に置換されたスルホンアミドを利用して置換基を導入することで、α位置換の割合をある程度制御することができ、「一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、50モル%以上の染料化合物を、フタロシアニン骨格のα位に一般式(I)中「−A
101−CH
2−NR
101R
102」で表される置換基を少なくとも1つ有する染料化合物」として合成することができる。この際、下記に示すようにスルホン酸を有するフタロニトリルを0.75当量に対して、スルホンアミドを有するフタロニトリルを0.25当量用いることで、目的の割合以上を有する上記染料化合物を合成できる。
【0059】
(A)フタル酸誘導体からの合成では、上記の方法で同様に合成可能である。しかし、(B)フタロシアニンからの合成では、α位置換の染料化合物の割合は20モル%〜40モル%程度の含有率にとどまる。含有率についてはセファデックスによるゲルろ過クロマトグラフィーにより分離及び定量しモル%を算出した。(B)フタロシアニンからの合成では、セファデックス処理により下記に示す混合物として分離されるが、この混合物に前述したオゾン分解処理を行うことで、得られたフタル酸誘導体を分離及び定量しモル%を算出した。
【0061】
本発明の着色組成物は、一般式(I)で表される染料化合物以外の他の着色剤(染料や顔料等)をさらに含んでもよい。着色組成物が他の着色剤を含む場合、一般式(I)で表される染料化合物の含有量は、一般式(I)で表される染料化合物を含めた着色剤の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、さらには100質量%、すなわち一般式(I)で表される染料化合物のみを含有することが好ましい。
染料(一般式(I)で表される染料化合物、及びこの染料以外の着色剤を含む)の着色組成物中の含有量としては、良好な染色濃度が得られ、着色組成物の保存安定性を考慮すると、着色組成物の全質量に対して、1質量%〜20質量%が好ましく、4質量%〜15質量%がより好ましく、5質量%〜15質量%がさらに好ましい。
【0062】
<水>
本発明の着色組成物は、上記の一般式(I)で表される染料化合物のほか、水を含有する。
水は、特に制限されず、イオン交換水でも水道水でもよい。
水の含有量は、着色組成物が水以外に既述の一般式(I)で表される染料化合物のみを含む場合、着色組成物の全質量から一般式(I)で表される染料化合物の含有量を差し引いた残部である。着色組成物がさらに後述の成分を含む場合、一般式(I)で表される染料化合物と他の成分との全含有量を差し引いた残部が水の含有量である。
【0063】
本発明の着色組成物は、既述の一般式(I)で表される染料化合物及び水のほか、必要に応じて、有機溶媒、界面活性剤、及び各種添加剤等の成分を含有していてもよい。
【0064】
<有機溶媒>
本発明の着色組成物が含有し得る有機溶媒は、水性有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒の例として、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、グリセリン、2−エチル−2−(ヒドロキシメチル)−1,3−プロパンジオール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、及び2−メチル−1,3−プロパンジオール等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、及び2−(ジメチルアミノ)エタノール等)、一価アルコール類(例えばメタノール、エタノール、及びブタノール等)、多価アルコールのアルキルエーテル類(例えば、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル等)、2,2′−チオジエタノール、アミド類(例えばN,N−ジメチルホルムアミド等)、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、複素環類(2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及びN−エチルモルホリン等)、及びアセトニトリル等が挙げられる。
また、上記の乾燥防止剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明の着色組成物中の有機溶媒の含有量は、着色組成物の全質量に対して、1質量%〜60質量%であることが好ましく、2質量%〜50質量%であることがより好ましい。
【0065】
<界面活性剤>
本発明の着色組成物は、保存安定性、吐出安定性、及び吐出精度等を高める観点から、各種界面活性剤を用いることができる。界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、両性、及び非イオン性のいずれの界面活性剤も用いることができる。
【0066】
陽イオン性界面活性剤として、例えば、脂肪族アミン塩、脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、及びイミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0067】
陰イオン性界面活性剤として、例えば、脂肪酸石鹸、N−アシルグルタミン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル塩、及びアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0068】
両性界面活性剤として、例えば、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、アミノカルボン酸塩、及びイミダゾリニウムベタイン等が挙げられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型も好適な例として挙げられる。
非イオン性界面活性剤として、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、及びアセチレングリコール等が挙げられる。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好適な例として挙げられる。
その他、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)において界面活性剤として挙げられているものも用いることができる。
【0069】
これらの各界面活性剤を使用する場合、界面活性剤は1種を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
本発明の着色組成物中の界面活性剤の含有量は、着色組成物の全質量に対して、0.001質量%〜5.0質量%の範囲であることが好ましく、かかる範囲で着色組成物の表面張力を任意に調整することが好ましい。
【0070】
<各種添加剤>
本発明の着色組成物は、その他に従来公知の各種添加剤を含有していてもよい。添加剤として、例えば、酸塩基や緩衝液等のpH調整剤、蛍光増白剤、表面張力調整剤、消泡剤、乾燥防止剤、潤滑剤、増粘剤、紫外線吸収剤、退色防止剤、帯電防止剤、マット剤、酸化防止剤、比抵抗調整剤、防錆剤、無機顔料、還元防止剤、防腐剤、防黴剤、及びキレート剤等が挙げられる。
【0071】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤として、特開昭58−185677号公報、特開昭61−190537号公報、特開平2−782号公報、特開平5−197075号公報、特開平9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、特公昭56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、特開平8−53427号公報、特開平8−239368号公報、特開平10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチ・ディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。着色組成物が、紫外線吸収剤を含有することで、画像の保存性を向上させることができる。
【0072】
(退色防止剤)
退色防止剤として、各種の有機系及び金属錯体系の退色防止剤を使用することができる。有機の退色防止剤として、例えば、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、及びヘテロ環類等が挙げられる。金属錯体として、例えば、ニッケル錯体、及び亜鉛錯体等が挙げられる。より具体的にはリサーチ・ディスクロージャーNo.17643の第VIIのI項及びJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁、及び米国特許第5356443号明細書に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。着色組成物が、退色防止剤を含有することで、画像の保存性を向上させることができる。
【0073】
(防腐剤、防黴剤)
本発明の着色組成物は、着色組成物の長期保存安定性を保つため、防腐剤及び防黴剤の少なくとも一方を含有していてもよい。着色組成物が、防腐剤や防黴剤を含有することで、長期での保存安定性を高めることができる。防腐剤及び防黴剤として、例えば、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK;ランクセス社製)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(例えば、PROXEL GXL;アーチケミカルズ社製)、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、及びその塩等が挙げられる。
防腐剤及び防黴剤は、一種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。着色組成物が防腐剤及び防黴剤を含有する場合、防腐剤及び防黴剤の含有量は、着色組成物の全質量に対して、0.02質量%〜1.00質量%が好ましい。
【0074】
(乾燥防止剤)
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤を好適に用いることができる。着色組成物に乾燥防止剤が含有されることで、インクジェット記録用途に使用する場合、着色組成物を吐出する吐出ヘッドのノズルの噴射口において、着色組成物が乾燥することによる目詰まりを防止することができる。
乾燥防止剤の具体的な例として、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、及びトリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又は、エチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又は、エチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又は、ブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、及びN−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、及び3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、及びジエタノールアミン等の多官能化合物、並びに尿素誘導体が挙げられる。これらのうち、グリセリン、及びジエチレングリコール等の多価アルコールがより好ましい。
また、乾燥防止剤は、一種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の着色組成物が乾燥防止剤を含有する場合、乾燥防止剤の含有量は、着色組成物の全質量の全質量に対して、10質量%〜50質量%が好ましい。
【0075】
(pH調整剤)
pH調整剤として、例えば、有機塩基、及び無機アルカリ等の中和剤を用いることができる。着色組成物をインクジェット記録に使用する場合、着色組成物にpH調整剤が含有されることで、着色組成物の保存安定性を向上させることができる。pH調整剤は、着色組成物のpHが5〜12になるように添加することが好ましく、pHが5〜9になるように添加することがより好ましい。
【0076】
(表面張力調整剤、消泡剤)
表面張力調整剤としては、例えば、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びアニオン系界面活性剤等の各種界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の好ましい例は、既述の界面活性剤の欄にて例示したものと同じである。
消泡剤としては、フッ素系、及びシリコーン系化合物が好ましい。
【0077】
本発明の着色組成物をインクジェット用として用いる場合には、着色組成物の表面張力を、20mN/m〜70mN/mに調整することが好ましく、25mN/m〜60mN/mに調整することがより好ましい。また、着色組成物をインクジェット用として用いる場合には、着色組成物の粘度を、40mPa・s以下に調整することが好ましく、30mPa・s以下に調整することがより好ましく、20mPa・s以下に調整することが特に好ましい。
表面張力及び粘度は、種々の添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、退色防止剤、防黴剤、防錆剤、分散剤、及び界面活性剤等を添加することによって、調整することができる。
【0078】
(キレート剤)
キレート剤は、着色組成物中における沈殿物等の析出物の発生を防止する目的、また、保存安定性や目詰まり回復性を改良する目的で好適に使用される。
着色組成物の着色剤として染料を用いると、着色組成物中に含まれる金属(Ca、Mg、Si、及びFe等)が析出物の発生や目詰まり回復性の低下の原因となり得るため、金属イオンを一定量以下に管理する必要があることが知られている。また、銅錯体染料を用いた場合には、金属イオンの量を管理しても、遊離の銅イオンの量も管理しなければ、析出物の発生や目詰まり回復性の低下が認められることが知られている(特開2000-355665号、及び特開2005−126725号公報等参照)。
本発明における一般式(I)で表される染料化合物は、特に銅錯体染料であることが好ましく、本発明の着色組成物が銅錯体染料である一般式(I)で表される染料化合物を含む場合には、着色組成物中の遊離の銅イオンは、10ppm以下であることが好ましく、より好ましくは0ppm〜5ppmである。
【0079】
キレート剤として、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸、ヒドロオキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、ウラミルジ酢酸、及びそれらの金属塩(例えば、ナトリウム塩)が挙げられる。
なお、金属イオンや遊離の銅イオン濃度を制御する方法として、キレート剤を使用する方法以外に、染料の精製度を上げる方法も挙げられる。
【0080】
本発明の着色組成物は、単色の画像形成のためのインクジェット用インクとして用いることができるだけでなく、イエロー色調インク、マゼンタ色調インク、及び必要に応じて、本発明の着色組成物とは異なる色調のシアン色調インク等の他の色調のインクと組み合わせて用いることにより、フルカラーの画像形成を行なうこともできる。また、色調を整えるために、さらにブラック色調インクを組み合わせて、フルカラーの画像形成を行なうこともできる。
【0081】
本発明の着色組成物は、布帛上への着色剤供給量に制約があるインクジェット記録用として好適に用いることができる。着色組成物中の一般式(I)で表される染料化合物及び水の含有量は、既述の本発明の着色組成物において示した含有量の範囲とすることができる。
【0082】
本発明の着色組成物をインクジェット記録用に使用する場合は、上記の一般式(I)で表される染料化合物を、親油性媒体や水性媒体中に溶解及び/又は分散させることによって作製することができる。好ましいインクジェット記録用着色組成物は、上記の一般式(I)で表される染料化合物を、水性媒体中に、溶解及び/又は分散させたものである。
【0083】
<布帛>
本発明の布帛は、既述の本発明の着色組成物により捺染されたものである。本発明の着色組成物は、布帛の捺染に好適である。
布帛の種類は、特に制限されず、例えば、レーヨン、綿、ポリエステル繊維、及びポリアミド繊維等、種々の繊維を含んで構成された布帛を用いることができる。中でも、本発明の効果がより奏される点で、ポリアミド繊維を含む布帛であることが好ましく、ナイロンを含む布帛であることがより好ましい。
本発明の着色組成物は、ナイロンの捺染に特に好適である。本発明の着色組成物によれば、従来の汎用フタロシアニン染料を用いた着色組成物によるナイロン捺染に比べ、染色部の耐光性が高い捺染ナイロンを得ることができる。
【0084】
なお、ナイロンとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12等種々のナイロンが挙げられ、いずれのナイロンを用いてもよい。
ポリアミド繊維は、織物、編物、及び不織布等のいずれの形態であってもよい。
【0085】
ポリアミド繊維を含む布帛は、ポリアミド繊維のみを含むものが好適であるが、ポリアミド繊維以外の繊維を含んでいてもよい。布帛がポリアミド繊維以外の繊維を含む場合、ポリアミド繊維の混紡率は、30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。ポリアミド繊維以外の繊維としては、例えば、レーヨン、綿、アセテ−ト、ポリウレタン、及びアクリル繊維等が挙げられる。布帛がポリアミド繊維以外の繊維を含む場合、ポリアミド繊維とポリアミド繊維以外の繊維との混紡織布又は混紡不織布等であっても、本発明における捺染用布帛として使用することができる。
【0086】
布帛を構成するポリアミド繊維及びポリアミド繊維から構成される糸の物理特性には好適な範囲があり、例えば、ナイロンの場合、ナイロン繊維の平均太さが、好ましくは1d〜10d(デニール)、さらに好ましくは2d〜6dに制御され、ナイロン繊維から構成されるナイロン糸の平均太さが、好ましくは20d〜100d、より好ましくは25d〜80d、さらに好ましくは30d〜70dに制御され、公知の方法により布帛としたものが用いられる。また、絹の場合は、繊維自体の特性として、絹繊維の平均太さが、好ましくは2.5d〜3.5d、さらに好ましくは2.7d〜3.3dに制御され、絹繊維から構成される絹糸の平均太さが、好ましくは14d〜147d、さらに好ましくは14d〜105dに制御され、公知の方法により布帛としたものが好ましく用いられる。
【0087】
本発明の着色組成物を染色した布帛の染色部分の色相は、色相角(hab)が200°〜300°であることが好ましく、210°〜300°であることがさらに好ましい。この範囲の色相を示すと、シアン〜青色の色相領域の染色濃度(OD−Cyan)が低下しにくくなる。
色相角は、国際照明委員会(CIE)が1976年に推奨した知覚的にほぼ均等な色差を持つ色空間であるL
*a
*b
*色空間の色座標a
*、b
*を用いて次式により算出される、色相を表すパラメータである。
色相角(hab)=tan
-1(b
*/a
*)
【0088】
捺染後の布帛の染色部分の色相は、布帛の種類や処理方法によっても左右されるが、色相角を200°〜300°に調整する方法としては、染料自体を変更する、又は他色と混合する等、いくつかの方法が挙げられる。例えば、一般式(I)で表される染料化合物において、フタロシアニン骨格における置換基−SO
3M
101の数を4未満にすることで色相を調整する方法、フタロシアニン骨格におけるその他置換基の種類や数を変更することで色相を調整する方法、フタロシアニン骨格の中心金属を銅にする方法、別の染料を混合することで色相を調整する方法、及び他の着色組成物をさらに重ねて染色することで色相を調整する方法、等が挙げられる。
【0089】
<捺染方法>
本発明の着色組成物の布帛への付与は、塗布法によっても、インクジェット法によってもよい。ここでは、インクジェット法により着色組成物を付与する捺染方法(インクジェット捺染方法)を例に説明する。
インクジェット捺染方法は、既述の本発明の着色組成物を、インクジェット法により、ポリアミド繊維を含む布帛に付与することにより、布帛を染着するものである。布帛は、既述の種々の布帛を用いることができ、中でもポリアミド繊維を含む布帛が好ましく、ポリアミド繊維としてはナイロンが好ましい。
【0090】
本発明におけるインクジェット法とは、インクジェット記録ヘッドからインクを吐出して布帛にインクを付与し、画像を形成する方法である。
また、本発明の捺染方法では、インクを布帛に付与するにあたっては、着色剤の布帛への固定化がより高まるように、前処理を施してもよい。
【0091】
〔前処理工程〕
本発明の捺染方法は、前処理剤を布帛に付与する前処理工程を有して構成されていてもよい。
前処理工程は、既述の捺染工程における一般式(I)で表される染料化合物の布帛への固定化が高まるように、捺染の前に、予め布帛に対して、ヒドロトロピー剤、水性(水溶性)金属塩、pH調整剤、pH緩衝剤、及び高分子成分等を含有する前処理剤を付与する工程である。
前処理工程においては、絞り率を5%〜150%、好ましくは10%〜130%の範囲として前処理剤をパッティングすることが好ましい。前処理剤は、さらに、撥水剤、及び界面活性剤等を含有しても付与してもよい。
【0092】
(前処理剤)
−ヒドロトロピー剤−
本発明において、ヒドロトロピー剤は、一般に、着色組成物が付与された布帛が蒸気下で加熱される際に、画像の染色濃度を高める役割を果たす。ヒドロトロピー剤としては、例えば、通常、尿素、アルキル尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、チオ尿素、グアニジン酸塩、及びハロゲン化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。
【0093】
−水性金属塩−
水性(水溶性)金属塩として、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のハロゲン化物のように、典型的なイオン結晶を形成するものであって、pH4〜pH10である化合物が挙げられる。
かかる化合物の代表的な例として、アルカリ金属のハロゲン化物では、NaCl、Na
2SO
4、KCl、及びCH
3COONa等が挙げられ、アルカリ土類金属のハロゲン化物として、CaCl
2、及びMgCl
2等が挙げられる。中でも、水性金属塩は、Na、K、及びCaの塩類が好ましい。
【0094】
−pH調整剤−
pH調整剤としては、アルカリ(塩基)、酸、又は、アルカリと酸との組み合わせが挙げられる。pH調整剤とは、布帛に付与される着色組成物の液性(pH)を調整する化合物及び組成物を意味し、着色組成物の液性を変化させる成分を意味する。着色組成物がpH調整剤を含有することで、着色剤の布帛への固定化反応を高めることができる。
前処理剤中のpH調整剤の含有量は、前処理剤の全質量に対して1質量%未満であるが、0質量%であることが好ましい。
【0095】
−pH緩衝剤−
pH緩衝剤として、例えば、硫酸アンモニウム、及び酒石酸アンモニウム等に代表される酸アンモニウム塩が挙げられる。pH緩衝剤とは、着色組成物の液性変化を抑制する成分を意味する。pH緩衝剤は、pH調整剤と同様に、着色剤の布帛への固定化反応を高めることができる。
【0096】
−高分子成分−
高分子成分は、天然高分子であってもよいし、合成高分子であってもよい。また、水性(水溶性)高分子であっても、非水性高分子であってもよいが、本発明の捺染方法に用いる着色組成物が、水性着色組成物であることから、水性高分子であることが好ましい。着色組成物が高分子成分を含有することで、着色剤を布帛に粘着させる糊剤としての役割を着色組成物に付与できる。
水性高分子として、例えば、トウモロコシ、及び小麦等のデンプン物質、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、及びタマリンド種子等の多糖類、ゼラチン、及びカゼイン等のタンパク質物質、タンニン系物質、並びにリグニン系物質等の公知の天然水性高分子が挙げられる。
また、合成水性高分子として、例えば、公知のポリビニルアルコール系化合物、ポリエチレンオキサイド系化合物、アクリル酸系水性高分子、及び無水マレイン酸系水性高分子等が挙げられる。これらの中でも多糖類系高分子及びセルロース系高分子が好ましい。
【0097】
−撥水剤−
撥水剤として、例えば、パラフィン系、フッ素系化合物、ピリジニウム塩類、N−メチロールアルキルアミド、アルキルエチレン尿素、オキザリン誘導体、シリコーン系化合物、トリアジン系化合物、ジルコニウム系化合物、及びこれらの混合物が挙げられる。撥水剤は特に限定されるものではない。これらの撥水剤の中でも、パラフィン系及びフッ素系撥水剤は、滲み防止、濃度の点において特に好ましい。
撥水剤の布帛に対する付与量は、特に制限されないが、布帛の全質量に対して0.05質量%〜40質量%の範囲で付与することが好ましい。これは、0.05質量%未満ではインクの過度の浸透を防止する効果が少なく、40質量%を超えて含有させても性能的に大きな変化がないからである。
撥水剤の布帛の全質量に対する使用量は、0.5質量%〜10質量%の範囲であることがより好ましい。
【0098】
−界面活性剤−
前処理剤として使用できる界面活性剤として、陰イオン性、非イオン性、及び両性界面活性剤等が挙げられる。特に、HLBが12.5以上の非イオン系界面活性剤を用いることが好ましく、HLBが14以上の非イオン系界面活性剤を用いることがより好ましい。
両性界面活性剤としては、ベタイン型等を使用することができる。
界面活性剤の布帛に対する付与量は、特に制限されないが、布帛の全質量に対して0.01質量%〜30質量%付与することが好ましい。
【0099】
−他の成分−
前処理剤は、さらに、使用する染料の特性等に応じて還元防止剤、酸化防止剤、均染剤、濃染剤、キャリヤー、還元剤、及び酸化剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0100】
前処理剤は、既述のヒドロトロピー剤、撥水剤、及び界面活性剤等の各種成分を混合した混合物として布帛に付与してもよいし、各種成分を混合せずに、例えば、ヒドロトロピー剤のみを含有する第1の前処理剤、撥水剤のみを含有する第2の前処理剤等をそれぞれ用意し、それぞれの前処理剤を布帛に順次付与するものであってもよい。
前処理剤が、既述の各種成分の混合物である場合、混合物である前処理剤の全質量に対する各種成分の含有量は、前処理剤を布帛に付与したときに、布帛の全質量に対する各種成分の付与量が、既述の範囲となるように、目的に応じて適宜調整すればよい。
【0101】
前処理において、上記の各前処理剤を布帛に含有させる方法は、特に制限されないが、通常行なわれる浸漬法、パッド法、コーティング法、スプレー法、及びインクジェット法等を挙げることができる。
【0102】
本発明の捺染方法においては、布帛にインクを付与して印字した後、印字された布帛を巻き取り、布帛を加熱して発色させ、布帛を洗浄し、乾燥することが望ましい。
インクジェット法による捺染において、上記の手順を踏むことで、インクを布帛に印字し、そのまま放置しておく場合に比べ、一般式(I)で表される染料化合物の染着が充分に行なわれ、染着部の染色濃度が高く、また耐水性に優れる。特に、長尺の布帛をローラー等で搬送しながら長時間印字し続ける場合などは、印字された布帛が延々と搬送されて出てくるため、床等に印字した布帛が重なってしまうことがあり、場所をとるばかりか、安全性を損ない、また予期せず汚れてしまう場合がある。そのため、印字後、印字された布帛を巻き取る操作を行なうことが好ましい。この巻き取り操作時に、布帛と布帛の間に紙や布、ビニール等の印字に関わらない媒体を挟んでもよい。但し、印字された布帛を途中で切断する場合や、印字された布帛が短い場合は必ずしも巻き取る必要はない。
【0103】
本発明の着色組成物を用いたインクをインクジェット記録ヘッドにより付与することで捺染された布帛は、後処理工程に付されることが好ましい。
【0104】
〔後処理工程〕
後処理工程とは、一般式(I)で表される染料化合物の繊維への固定化を促進させた後、定着しなかった着色剤、その他の成分、及び前処理剤を十分除去する工程である。
後処理工程はいくつかの工程に分かれる。
後処理工程は、例えば、予備乾燥工程、スチーム工程、洗浄工程、及び乾燥工程を、この順に行なうことによって構成することができる。
【0105】
−予備乾燥工程−
まず、捺染工程の後、一般式(I)で表される染料化合物を含有する着色組成物(例えばインクジェット用インク)が付与された布帛を、常温(例えば25℃)〜150℃で0.5分〜30分間放置し、インクを予備乾燥することが好ましい。この予備乾燥により印捺濃度を向上させ、かつ滲みを有効に防止できる。なお、この予備乾燥とは、インクが布帛中に浸透することも含む。
【0106】
本発明の捺染方法によれば、予備乾燥を連続工程で加熱乾燥することも可能である。予備乾燥工程では、布帛をロール状にしてインクジェット印捺機に供給して印捺(印字して捺染)した後、印捺後の布帛を巻き取る以前に、乾燥機を用いて予備乾燥する。乾燥機は、印捺機に直結したものでも分離したものであってもよい。乾燥機における布帛の予備乾燥は、常温(例えば25℃)〜150℃で0.5分〜30分間行なわれることが好ましい。また、好ましい予備乾燥方法としては、空気対流方式、加熱ロール直付け方式、照射方式等が挙げられる。
【0107】
−スチーム工程−
スチーム工程は、インクが付与された布帛を、飽和蒸気中に曝すことで、一般式(I)で表される染料化合物の布帛への固定化を促進する工程である。
本発明の捺染方法によれば、後処理工程のうちスチーム工程は、布帛の種類によってその条件、特に、その時間を変化させることが好ましい。
例えば、布帛が羊毛である場合、スチーム工程の時間は1分〜60分が好ましく、より好ましくは3分〜30分程度である。また、布帛が絹である場合、スチーム工程の時間は1分〜40分が好ましく、より好ましくは3分〜30分程度である。さらに、布帛がナイロンである場合、スチーム工程の時間は1分〜240分程度が好ましく、より好ましくは3分〜120分程度である。
このスチーム工程の時間の違いは、ナイロンは羊毛や絹に比べ染着座席(染着の際にイオン結合を形成するNH
2基やCOOH基)が大幅に少ないことに起因すると考えられる。
【0108】
−洗浄工程−
このようにして、布帛にインクジェット法により付与されたインクのうち、大部分は布帛に固定化されるが、インクの一部の着色剤は繊維に染着しないものがある。この染着していない着色剤は、洗い流しておくことが好ましい。繊維に染着していない着色剤の除去には、従来公知の洗浄方法を採用することができる。洗浄方法として、例えば、常温(例えば25℃)〜100℃の範囲の水又は温水を使用したり、アニオン系、又はノニオン系のソーピング剤を使用したりすることが好ましい。繊維に染着していない着色剤が完全に除去されていないと、耐水性、例えば、洗濯堅牢性、及び耐汗堅牢性等において良好な結果が得られない場合がある。
【0109】
−乾燥工程(洗浄後の乾燥)−
布帛を洗浄した後は、乾燥させる工程を施すことが好ましい。乾燥は、洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したり、又は乾燥機、ヒートロール、若しくはアイロン等を使用して乾燥させる等の方法で行なうことができる。
【0110】
本発明の捺染方法は、上記の一般式(I)で表される染料化合物と水とを含有する着色組成物を、インクジェット法により、ポリアミド繊維を含む布帛に付与する方法である。
一般式(I)で表される染料化合物を含む本発明の着色組成物を、ポリアミド繊維を含む布帛に付与することで、染着部の耐光性に優れた布帛が得られる。
また、一般式(I)で表される染料化合物を含む本発明の着色組成物を、ポリアミド材を含む板材に付与することで、染着部の耐光性に優れたポリアミド材を含む板材(例えば、フィルムやシート)が得られる。
【0111】
本発明の捺染方法により捺染された布帛(本発明の布帛)は、一般式(I)で表される染料化合物を含有する着色組成物を用いて捺染されているため、捺染により得られた染着部は、色相に優れるとともに耐光性に優れる。特に、ナイロンを含む布帛に捺染した場合、従来の汎用フタロシアニン染料を用いた場合に比べ、色相がより良好で、かつより高い耐光性を有する染着部を得ることができる。
【0112】
また、本発明の着色組成物で染色されたポリアミド材を含む板材は、一般式(I)で表される染料化合物を含有する着色組成物を用いて染色されているため、染色部は色相及び耐光性に優れている。特にナイロンを含む板材を染色した場合、板材に対して、従来の汎用フタロシアニン染料を用いた場合に比べ、色相がより良好で、かつより高い耐光性を有する染着部を得ることができる。
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0114】
<フタロシアニン染料の合成>
(化合物004の合成)
米国公開特許第2012−238752明細書に記載の手法にて、中間体004Aを合成した。
文献(Negrimovsky,V.等、Phosphorus, Sulfur and Silicon and the Related Elements,1995,vol.104,p.161- 168)記載の手法にて、中間体004Bのプロトン化体(SO
3H体)を得た。得られたプロトン化体を、プロトン化体に対して質量基準で20倍のイソプロピルアルコール中で、1.1当量の酢酸カリウムを添加し加熱攪拌した後に常温まで冷却し、析出した結晶を濾取することで、中間体004Bを得た。
中間体004Bを12.0gと、中間体004Aを5.0gと、ジエチレングリコールを76.5mLと、安息香酸アンモニウムを18.2gと、無水塩化銅(II)を2.2gと、を混合し、100℃で12時間加熱攪拌した。ここへ濃塩酸12mLを滴下して、さらに30分間攪拌した後、イソプロピルアルコール2.9Lを添加し、さらに30分間攪拌した。析出した結晶を濾取した。得られた結晶を469mLの水に溶解させた。得られた溶液を陽イオン交換樹脂(Naフォーム)が充填されたカラムに通過させ、エバポレーターで濃縮することで、一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、65モル%の実施化合物004を含有する結晶を10.8g得た。
【0115】
得られた結晶のエレクトロスプレーイオン(ESI)−マススペクトル測定し、1026.0のピーク(実施化合物004の−SO
3Hフォーム)を確認した。また、イオンクロマトグラフィーより、スルホン酸の陽イオンはNaであることを確認した。可視吸収スペクトルのλmaxは、673nm(ジメチルホルムアミド溶液)であった。
【0116】
【化14】
【0117】
(化合物005の合成)
米国公開特許第2012−238752明細書に記載の手法にて、中間体005Aを合成した。
文献(Negrimovsky,V.等、Phosphorus, Sulfur and Silicon and the Related Elements,1995,vol.104,p.161- 168)記載の手法にて、中間体005Bのプロトン化体(SO
3H体)を得た。得られたプロトン化体を、プロトン化体に対して質量基準で20倍のイソプロピルアルコール中で、1.1当量の酢酸カリウムを添加し加熱攪拌した後に常温まで冷却し、析出した結晶を濾取することで、中間体005Bを得た。
中間体005Bを2.6gと、中間体005Aを1.1gと、ジエチレングリコールを16.4mLと、安息香酸アンモニウムを3.9gと、無水塩化銅(II)を468mgと、を混合し、100℃で12時間加熱攪拌した。ここへ濃塩酸1.5mLを滴下して、さらに30分間攪拌した後、イソプロピルアルコール330mLを添加し、さらに30分間攪拌した。析出した結晶を濾取した。得られた結晶を100mLの水に溶解させた。得られた溶液を陽イオン交換樹脂(Naフォーム)が充填されたカラムに通過させ、エバポレーターで濃縮することで、一般式(I)で表される染料化合物全量のうち、65モル%の実施化合物005を含有する結晶を1.9g得た。
【0118】
得られた結晶のESI−マススペクトル測定し、994.0のピーク(実施化合物005の−SO
3Hフォーム)を確認した。また、イオンクロマトグラフィーより、陽イオンはNaであることを確認した。可視吸収スペクトルのλmaxは、675nm(ジメチルホルムアミド溶液)であった。
【0119】
【化15】
【0120】
(化合物006〜化合物008の合成)
上記(化合物005の合成)において、中間体005Aを下記中間体006A〜008Aに変更したほかは同様にして、下記化合物006〜化合物008を合成した。
得られた結晶のESI−マススペクトル測定し、1100.0のピーク(実施化合物006の−SO
3Hフォーム)、1022.1のピーク(実施化合物007の−SO
3Hフォーム)及び1128.1のピーク(実施化合物008の−SO
3Hフォーム)を確認した。また、イオンクロマトグラフィーより、陽イオンはNaであることを確認した。可視吸収スペクトルのλmaxは、実施化合物006が668nm(ジメチルホルムアミド溶液)、実施化合物007が675nm、及び実施化合物008が668nmであった。
【0121】
【化16】
【0122】
【化17】
【0123】
(実施例1〜実施例7及び比較例1〜比較例11)
≪ナイロン布帛の染色≫
<インク組成物の調製>
下記の組成に従い各成分を混合し、得られた混合液を孔径0.2μmのメンブランフィルターでろ過することにより、インクを調製した。
なお、混合液のpHは、下記成分を混合する際に、1Mの塩酸および1Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、(1)pH2以上pH5未満、(2)pH5以上pH9未満、(3)pH9以上pH12未満の三種類に調整した。
【0124】
−インク組成−
・表1に示す染料化合物(特定着色剤、または、比較用着色剤)
5質量%
・グリセリン〔和光純薬工業社製〕(水性有機溶媒)
10質量%
・ジエチレングリコール〔和光純薬工業社製〕(水性有機溶媒)
12質量%
・オルフィンE1010〔日信化学社製〕(アセチレングリコール系界面活性剤)
1質量%
・水並びに1Mの塩酸および1Mの水酸化ナトリウム水溶液
72質量%
【0125】
<捺染サンプルの調製>
−前処理剤の調製−
・グアーガム〔日晶株式会社製、MEYPRO GUM NP〕
2質量%
・尿素〔和光純薬工業社製〕 5質量%
・硫酸アンモニア〔和光純薬工業社製〕 4質量%
・水 89質量%
上記組成の成分を混合して、前処理剤を調製した。
【0126】
得られた前処理剤を用い、絞り率を90%として、絹製布帛をパッティングして、前処理剤で処理された布帛を得た。インクジェットプリンター(ディマティックス社製DMP−2381)に、得られた各インクをセットし、得られた前処理剤で処理された布帛にベタ画像をプリントした。
プリントした布帛を乾燥した後、スチーム工程にて飽和蒸気中、100℃で60分間スチームをかけ、着色剤を布帛の繊維に固着させた。その後、布帛を冷水で5分間洗浄し、さらに60℃の温水で5分間洗浄した後、乾燥することで、捺染サンプルを調製した。
【0127】
−評価−
作製した捺染サンプルの各々について、画像部(染着部)における色相及び耐光性の評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
【0128】
1.染色濃度(OD値)
各布帛に形成されたベタ画像について、X−rite分光測色計(X−rite938、X−rite社製)を使用してOD−Cyanを測定した。
【0129】
2.耐光性
各布帛に形成されたベタ画像について、キセノンフェードメータを用いて、ISO 105−B02に準拠した測定を行なうことで、耐光性を評価した。なお、耐光性の許容範囲は、3級以上である。
【0130】
3.インク吐出性
着色組成物の布帛への付与は、インクジェット法により行った。インクジェット法とは、インクジェット記録ヘッドからインクを吐出して布帛にインクを付与し、画像を印字する方法である。評価項目として、A、B、およびCの三段階で評価した。以下にその判断基準を記載した。
A →インクが詰まることなく、印字後の画像も良好である。
B →吐出はできるが、詰まり気味もしくは印字後の画像にスジムラが発生する。
C →インクがインクカートリッジに詰まり吐出できない。
【0131】
≪ナイロンフィルムの染色≫
<染料溶液の調製>
下記の組成中の各成分を混合し、染料溶液を調製した。
−染料溶液の組成−
・下記表1に示す染料化合物 ・・・ 0.5質量%
・水 ・・・ 97.5質量%
・酢酸 ・・・ 1質量%
・酢酸アンモニウム ・・・ 1質量%
【0132】
<染色サンプルの作製>
2cm×4cmのサイズにカットした2軸延伸6ナイロンフィルム(ユニチカ社製、EMBLEM(R)、ON−15、厚み15μm、内面コロナ処理)を、30mLの染料溶液に浸漬し、80℃に維持した染料溶液中に14時間保持した。その後、フィルムを取り出して十分に水洗し、乾燥した。このようにして、染色サンプルを作製した。
【0133】
−評価−
各染色サンプルについて、耐光性の評価を行なった。評価結果は、下記表1に示す。
[耐光性(残存率)]
キセノンフェードメータを用いて、ISO 105−B02に準じて6時間キセノン光を照射した。照射前後のフィルムの吸収スペクトルを測定し、下記式により色素の残存率を算出した。
残存率(%)=(照射後の600nmの吸光度)/(照射前の600nmの吸光度)×100
【0134】
【表1】
【0135】
表1で示される実施例及び比較例において、一般式(I)で表されるフタロシアニン(Pc)染料のうち、左記種類の化合物の含まれる割合については、化合物004〜化合物008の合成においてスルホン酸を有するフタロニトリル及びスルホンアミドを有するフタロニトリルの比率を適切に選択することで調製した。
【0136】
(化合物004Aの合成)
(a)CuPc(SO
2Cl)
4の製造
クロロスルホン酸(308mL)に、銅フタロシアニン(115g)を小分けして、温度を50℃以下に保ちつつ、攪拌しながら30分間かけて加え、銅フタロシアニンとクロロスルホン酸の反応液(反応液1)を得た。反応液1を30分間撹拌し、その後、徐々に140℃まで加熱し、その温度で3時間撹拌した。その後、反応液1を40℃まで冷却し、反応液1に三塩化リン(52.5g)を小分けして、30分間かけて加えて反応液2を得た。その間、反応液2の温度を50℃以下に保った。反応液2を常温で一晩撹拌し、次いで、反応液2を0℃まで冷却し、氷(700g)と、水(700g)とを、濃塩酸(40mL)及び塩化ナトリウム(100g)の混合液に注ぎ、反応液3を得た。反応液3を0℃で30分間撹拌した。その後、沈殿した生成物を減圧濾過により収集し、氷冷却塩酸溶液(0.5M、1.5L)で洗浄することで、CuPc(SO
2Cl)
4のスルホニルクロライドペーストを得た。
【0137】
(b)化合物:CuPc(SO
3H)
3(SO
2NHCH
2CH
2Cl)
1の合成
クロロエチルアンモニウムクロライド(34.7g)を水(1L)に溶解させた溶液を0℃まで冷却し、工程(a)で得られたスルホニルクロライドペーストを加え、反応液4を得た。反応液4のpHを希水酸化ナトリウム溶液で7〜8に調整した。反応液4を0℃で1時間撹拌し、その後反応液4を40℃まで加熱し、その温度でさらに1時間撹拌した。次いで、反応液4を常温まで冷却した。反応液4のpHを濃塩酸で1.5に調整し、1時間撹拌した。沈殿した生成物を減圧濾過により収集し、希塩酸溶液(0.5M、1.5L)で洗浄することで、上記クロロ化合物を得た。
【0138】
(c)化合物:CuPc(SO
3H)
3(SO
2NHCH
2CH
2N(CH
2CH
2OH)
2)
1の合成
工程(b)で得られたクロロ化合物(38g)とジエタノールアミン(42g)とを水(350mL)に溶解させた溶液を、70℃で4時間撹拌し反応液5を得た。反応液5に、塩化ナトリウム(25質量/体積%)を加え、さらに30分間撹拌を継続した。反応液5を冷却し、生じた沈殿物を減圧濾過により収集し、冷ブライン(75ml)で洗浄し、乾燥することで、上記化合物を得た。得られた一般式(I)で表されるPc染料のうち、化合物004Aの含まれる割合は35モル%であった。
【0139】
表1の耐光性の評価の欄において、「1−2級」は、耐光性が1級と2級の間にあったことを示し、「3−4級」は、耐光性が3級と4級の間にあったことを示す。
【0140】
【化18】
DB 87…C.I.Direct Blue 87の略。CAS.No.1330-39-8の化合物である。
【0141】
【化19】
【0142】
表1に示されるように、実施例のサンプルでは、ナイロン布帛及びナイロンフィルムに対して、比較染料同等の良好な色相の染着部が得られ、かつ比較染料である化合物001より優れた耐光性を示した。