(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の鉛蓄電池は、総括的には、正極と負極との間に配置された疎水性樹脂部材の表面に親水性被覆層を設けた構成を特徴とする。
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について説明する。
【0019】
前記鉛蓄電池は、正極と、負極と、電解液とを電池容器に封入した構造を有し、正極と負極との間には、電解液に含まれるイオンを透過する孔又は空隙を有するシート状部材が配置され、シート状部材は、基材である疎水性樹脂と、疎水性樹脂の表面に設けた多孔質の親水性被覆層とで構成されていることを特徴とする。ここで、孔又は空隙は、イオン又は電解液を透過する機能を有する必要があり、孔又は空隙の大きさ(直径)は特に限定されるものではない。また、シート状部材は、板状の正極又は負極の場合、その正極又は負極の平面部に、棒状の正極又は負極の場合、その正極又は負極の長手方向に平行に配置されることが望ましい。電解液中の硫酸の拡散を促進する機能が必要だからである。
【0020】
前記鉛蓄電池において、疎水性樹脂は、孔を有する連続体、又は繊維で構成された織布若しくは不織布であることが望ましい。
【0021】
前記鉛蓄電池において、シート状部材は、正極と負極との間に配置されたセパレータ又は布状部材を構成していることが望ましい。
【0022】
前記鉛蓄電池において、セパレータ又は布状部材は、負極の片面又は両面を覆っていることが望ましい。
【0023】
前記鉛蓄電池において、セパレータ又は布状部材は、負極の両面及び少なくとも1つの端部を覆っていることが望ましい。言い換えると、セパレータ又は布状部材は、二つ折りにして負極の両面を覆うように配置することが望ましい。
【0024】
前記鉛蓄電池において、布状部材は、負極とセパレータとの間に配置されていることが望ましい。
【0025】
前記鉛蓄電池において、疎水性樹脂は、ポリオレフィン又は含フッ素樹脂であることが望ましい。
【0026】
前記鉛蓄電池において、親水性被覆層は、二酸化ケイ素、二酸化ジルコニウム又は二酸化チタンで形成されていることが望ましい。
【0027】
前記鉛蓄電池において、親水性被覆層は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム又は二酸化チタンの粒子を含むことが望ましい。
【0028】
前記鉛蓄電池において、不織布の体積空隙率は、90〜98%であることが望ましい。
【0029】
前記鉛蓄電池において、親水性被覆層の厚さは、5〜300nmであることが望ましい。
【0030】
前記鉛蓄電池において、親水性被覆層は、塗布された膜(塗布層)であることが望ましい。更に詳しくは、親水性被覆層は、疎水性樹脂の表面に塗布し、硬化することにより形成された膜である。
【0031】
よって、親水性被覆層は、ガラス繊維等の親水性材料を疎水性樹脂に混合し、成形して得られた複合材料の表面に点在する親水性の部分とは異なる。当該複合部材は、当該親水性の部分が所望の面積となるように疎水性樹脂の内部に多量の親水性材料を混合する必要があるため、裁断の際、カッターの刃を摩耗しやすい。これに対して、親水性被覆層は、上記のとおり、厚さが非常に小さく、かつ、疎水性樹脂の内部に混合されていないため、裁断に用いるカッターの刃に対する影響が小さい。
【0033】
(A)原理
始めに、本発明の原理について説明する。
【0034】
電池の成層化は、電極から発生する硫酸が電池の下部に沈むために起こる現象であり、電池の上部と下部とで生じる硫酸の濃度差が原因である。
【0035】
鉛蓄電池は、正極と、負極と、これらの間に配置されたセパレータと、電解液とを電池容器に封入した構成を有し、セパレータの基材は、ポリオレフィン、含フッ素樹脂等の疎水性樹脂で構成されている。疎水性樹脂は、硫酸に侵されにくいことが望ましい。
【0036】
セパレータの基材の表面に親水性を有する多孔質の二酸化ケイ素層に代表される親水性被覆層を形成すると、この二酸化ケイ素層は、その表面にナノサイズの隙間を有するため、毛細管現象が生じ、硫酸が浸透する。浸透した硫酸は、多孔質の二酸化ケイ素層の内部で拡散し、その硫酸の一部は、電解液中の硫酸濃度の低い領域に拡散によって放出される。最終的には、浸透、内部拡散及び放出は平衡に達する。
【0037】
平衡状態では、電池の上部及び下部で硫酸の濃度を均一化するように、硫酸の浸透及び放出が起きるようになると考えられる。つまり、セパレータの基材は、疎水性であるが、その表面に親水性の二酸化ケイ素層を有するため、あたかも木綿の繊維のように硫酸の浸透、内部拡散及び放出が起き、成層化を抑制すると考えられる。
【0038】
セパレータの表面処理をする方法以外の方法としては、負極とセパレータとの間に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布等の布状部材を設けても同様の効果を得ることができる。
【0039】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
【0040】
セパレータ及び不織布の上に形成した二酸化ケイ素層は、断面の観察が困難であるため、同様の方法でガラス基板に形成したものを観察した。
【0041】
図1及び2は、その結果を示したものである。
【0042】
図1は、二酸化ケイ素層に二酸化ケイ素の粒子を添加した場合である。一方、
図2は、粒子が無い場合である。これらの図は、多孔質の二酸化ケイ素層の断面を示したものである。
【0043】
図1において、ガラス基板20の表面に形成された二酸化ケイ素層1は、二酸化ケイ素の粒子21を含んでいる。粒子21の粒径は、10〜20nm程度である。二酸化ケイ素層1の厚さは、約100nmである。
【0044】
一方、
図2においては、二酸化ケイ素層1は、二酸化ケイ素の粒子を含んでいない。
【0045】
粒子を含まない場合も、粒子を含む場合も、成層化を抑制する効果が得られるが、どちらかといえば、粒子を含む場合の方が好結果であった。
【0046】
図3は、二酸化ケイ素層の上面を示すSEM画像である。
【0047】
本図から、二酸化ケイ素層1の表面の所々に隙間2が存在することがわかる。この隙間2から硫酸が浸透しやすいと考えられる。本図においては、隙間2の寸法は、幅が10〜50nm程度、長さが100〜400nm程度である。更に数nm程度の微細な幅の孔も存在する。
【0048】
図4Aは、鉛蓄電池の不織布の繊維のSEM画像である。
【0049】
本図において、繊維3は、直径約15μmのポリプロピレン製であり、これが複雑に絡み合って不織布を構成している。二酸化ケイ素層は形成されていない。
【0050】
図4Bは、
図4Aの繊維3の表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成したものを示すSEM画像である。
【0051】
本図において、繊維3の表面を覆う白色の膜が二酸化ケイ素層4である。二酸化ケイ素層4を形成する際に繊維3同士が重なっていると、その部分は二酸化ケイ素層4が形成されないため、露出部5となる。
【0052】
以下、本発明の鉛蓄電池に用いる各部材について説明する。
【0053】
(B)シート状部材(セパレータ又は布状部材)
シート状部材は、疎水性の材料(疎水性樹脂)で形成された基材と、その表面に形成された多孔質の二酸化ケイ素層その他の親水性被覆層とで構成されている。本発明においては、このシート状部材をセパレータとして、又はセパレータに平行に配置する布状部材として用いる。
【0054】
当該基材としては、多数の微細な空隙(孔)を有する連続体であるシート状若しくは板状の疎水性樹脂、又は疎水性樹脂の繊維で構成された織布若しくは不織布が好適に用いられる。当該基材は、変形しやすい、柔軟性を有する樹脂であってもよいし、変形しにくい、硬質の樹脂であってもよい。
【0055】
シート状部材の主な機能は、正極と負極との短絡を防止すること、成層化を抑制すること、イオンの移動を妨げないこと等である。
【0056】
従来、セパレータとしては、多数の微細な空隙(孔)を有するシート状の疎水性樹脂が用いられている。疎水性樹脂は、ポリオレフィンが一般的である。本発明のシート状部材は、従来のセパレータの表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成したものであってもよい。すなわち、本発明のシート状部材は、基材の空隙の内部(内壁)を含む表面に二酸化ケイ素層を形成したものである。
【0057】
また、布状部材も、基材である繊維の表面に多孔質の二酸化ケイ素層が形成されている。布状部材の基材は、疎水性樹脂の繊維で構成された不織布又は織布である。すなわち、不織布は、糸をよって綿状の布のようにしてとしたものであり、織布は、糸を紡いで布のように編んだものである。布状部材は、セパレータとして用いることもできる。
【0059】
(1)セパレータの基材
セパレータの基材は、疎水性の材料(疎水性樹脂)が望ましく、一般にポリオレフィンが用いられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等又は環状炭化水素系樹脂が好適である。
【0060】
セパレータの基材は、その表面に多数の空隙を有し、この空隙の中を硫酸イオン等が移動可能となっている。これにより、電池として機能する。当該基材に直接空隙をあける方法で製造してもよく、繊維をより合わせた織布構造、又は繊維がランダムに集合した形の不織布構造でもかまわない。
【0061】
(2)布状部材の基材
布状部材の基材は、セパレータ部材と同様に、疎水性の材料(疎水性樹脂)が望ましく、一般にポリオレフィンが用いられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等又は環状炭化水素系樹脂が好適である。
【0062】
上記原理で記したように、成層化を抑制するためには、セパレータの表面の二酸化ケイ素層が硫酸を吸収する必要がある。硫酸の吸収割合を増やすには、二酸化ケイ素層の表面積を増やす必要があり、そのためにはセパレータのポリオレフィン製繊維の面積を大きくする必要がある。具体的には、ポリオレフィン繊維の直径を細くする方法、ポリオレフィン繊維で形成される布(布状部材)の密度を高める方法等が挙げられる。
【0063】
ポリオレフィン製繊維の直径は、おおよそ10μm〜20μm程度である。表面積を大きくするには、繊維を細くする必要があるが、量産を考えると、せいぜい10μm程度が下限であり、これ以上細くすると、布化する際の加工において切れやすくなったり、延びたりして、布の品質がばらつく傾向がある。そのため、ポリオレフィン繊維の太さは概ね10μm〜20μm程度となる。そのため、表面積を大きくするには、布の密度を高める必要がある。
【0064】
ここでは、布の密度を体積空隙率で表す。
【0065】
体積空隙率(%)は、次の計算式で求めることができる。
【0066】
(布の体積空隙率)={(布の見かけの体積)−(布の繊維の占有体積)}/(布の見かけの体積)×100
ここで、布の見かけの体積とは、布に圧力をかけない状態(加圧なしの状態)で測定した体積をいう。
【0067】
例えば、布が比重0.9のポリプロピレン製の場合、空隙が全く無ければ厚さ1mmで100mm角の布の重量は9gである。体積空隙率が90%の場合は90%が空気であり、10%がポリプロピレンである。よって、厚さ1mmで100mm角の布の重量は0.9gである。
【0068】
いくつかの体積空隙率の布(不織布)で実験を行ったところ、体積空隙率が90%以上の場合は、電池性能が低下せず、かつ、成層化の抑制が可能であった。しかし、体積空隙率が88%及び86%の布を使った場合、若干の出力低下が見られた。体積空隙率が80%の布を用いた場合、出力低下は顕著なものとなった。
【0069】
これらのことから、体積空隙率は90%以上が望ましい。体積空隙率が小さい場合は、不織布の隙間が小さくなる、或いは隙間の数が少なくなるため、イオンの移動が阻害され、出力低下につながったものと考えられる。
【0070】
ところで、体積空隙率が96%、98%、99%の布を使って実験を行ったところ、96%及び98%の布の場合は、90%の布を使った場合とほぼ同様の成層化抑制効果が確認された。しかし、99%の布を使ったところ、成層化は十分抑制できず、結局、放電の際にサルフェーションが生じた。よって、不織布の体積空隙率は、90〜98%が好適であることが判った。
【0071】
つぎに、基材の表面に形成する親水性被覆層について二酸化ケイ素層を例として説明する。
【0072】
(3)二酸化ケイ素層の構成
本発明においては、コート剤を塗布し、その後、熱硬化により二酸化ケイ素層を形成する。以下、塗布するコート剤の説明を記す。
【0073】
(a)シリカゾル
最も単純な構成は、二酸化ケイ素そのもので層を形成する場合である。この場合は、加水分解性のケイ素化合物を用いる。具体的には、シリカゾルと呼ばれるものである。これはアルコキシシラン誘導体が一部加水分解し、平均分子量が数千〜数万の重合体になったものである。シリカゾルは、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールに可溶である。
【0074】
そこで、シリカゾルは、アルコール溶液としてポリオレフィン製のセパレータ繊維に塗布する。その後、約60℃前後で1時間程度加熱することにより、表面に二酸化ケイ素層を有するセパレータを得ることができる。これ以上の温度で加熱すれば、製膜時間の短縮を図ることもできるが、支持体(基材)であるポリオレフィン製の繊維の耐熱性が70〜80℃程度であるため、加熱温度は60℃程度で行うことが望ましい。
【0075】
これにより、シリカゾル中のアルコキシ基からアルコールが外れて揮発し、ケイ素と酸素との結合が生じ、二酸化ケイ素層となる。シリカゾルが二酸化ケイ素に変化する際には、体積収縮が生じるため、二酸化ケイ素層の表面には数nmの幅の細かな隙間(孔)を生じる。この隙間に毛細管現象で硫酸が浸透し、上記の如く成層化が抑制される。
【0076】
後述の二酸化ケイ素粒子を含有する二酸化ケイ素層を形成する場合も、シリカゾルは、二酸化ケイ素粒子同士を結合し、また、支持体(基材)であるポリオレフィン繊維への結合を行うためのバインダとして機能する。
【0077】
二酸化ケイ素層の厚さは、5〜300nmであることが望ましい。
【0078】
(b)二酸化ケイ素粒子
二酸化ケイ素粒子を含有する場合の写真は、
図1に示す(粒子21)。
【0079】
上記のシリカゾルをバインダとなって粒子21同士を結着するため、
図1に示すような構造の二酸化ケイ素層が形成される。
【0080】
二酸化ケイ素粒子を添加することにより、粒子間にも隙間ができ、ここにも毛細管現象により電極から放出された硫酸が流入しやすくなる。その後、二酸化ケイ素層内を拡散し、硫酸の一部は、セパレータ又は布状部材の外部に放出される。そのため、二酸化ケイ素粒子を添加することにより、硫酸を二酸化ケイ素層の内部に取り込みやすくなり、電池の成層化を抑制する効果が向上する。
【0081】
ここでは、二酸化ケイ素粒子の粒子サイズは10〜20nm程度である。粒子サイズが小さいほど隙間が小さくなり、且つ、単位面積あたりの隙間の数が多くなる。その結果、硫酸の吸収効率が高まるので好ましい。ただし、粒子サイズが小さくなりすぎると粉塵として空気中に漂いやすくなる。また、帯電しやすくなるため、冬場は製造現場の壁などに付着しやすくなる。そのため、取り扱い易さの点から、粒子サイズは5nmが下限となる。また、粒子サイズが大きくなるほど扱いやすくなるが、粒子間の隙間の間隔が広くなり、隙間の数も少なくなるので、成層化の抑制効果が低下する。
【0082】
ところで、二酸化ケイ素層は、硬い二酸化ケイ素からなる膜であるため、柔軟性が低い。このため、セパレータの繊維に対して層厚300nmより大きくなると、層がもろくなり、ちょっとした衝撃で繊維から剥がれてくる。そのため、層厚は300nm以下が好ましい。したがって、粒子の大きさも最大でも300nm以下にすることが好ましい。
【0083】
以上をまとめると、二酸化ケイ素粒子の平均粒子径は5〜300nmが好ましい。
【0084】
(c)シリカゾル以外のバインダ
シリカゾル以外では、加水分解性のジルコニア化合物又はチタン化合物がシリカゾル同様の効果を示した。具体的には、加水分解性のジルコニア化合物として分子内にジルコニアとアルコキシシラン基とを有するジルコニアゾル、及び加水分解性のチタン化合物として分子内にチタンとアルコキシシラン基とを有するチタニアゾルである。これらはそれぞれ、加水分解して二酸化ジルコニウム、二酸化チタンに変化する。溶媒としては、炭素数の大きいアルコールが好適である。これは、炭素数の小さいアルコールであるメタノール又はエタノールに接触するとすぐに加水分解反応を起こすためである。そこで、ブタノール、ヘキサノールといった比較的炭素数の多いアルコールを用いることにより、加水分解しにくくなり、コート液としての寿命が延びるメリットがある。
【0085】
ただし、ジルコニアゾルが酸化ジルコニウムに変化する際、或いはチタニアゾルが二酸化チタンに変化する際の体積収縮は、シリカゾルが二酸化ケイ素に変化するよりもはるかに大きいため、二酸化ケイ素層に比べて隙間が広く、また、物理的衝撃に対してももろく、セパレータ又は布状部材の表面から剥離しやすい傾向がある。ただし、層厚を100nm以下にすれば、物理的衝撃に対して実用上は問題ないレベルの耐性を持つようになるので、諸般の事情によりシリカゾルが使えない場合等はこれらを使うことも可能である。
【0086】
(d)二酸化ケイ素粒子以外の粒子
二酸化ケイ素以外の粒子でも上記の粒子間の隙間を形成することができれば成層化抑制が可能となる。我々が検討したところ、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム及び二酸化チタンに同様の効果のあることが確認された。平均粒子径も二酸化ケイ素と同様5〜300nmが好ましく、このことから、二酸化ケイ素と同様、粒子間の隙間が成層化抑制に効果があることが推定される。
【0087】
ただし、後述するコート液を作製し、ポリオレフィン繊維にコートし、加熱して作製する際、コート液に分散された二酸化チタン及び酸化ジルコニウムは、長時間放置すると沈降してしまう。これは、コート液の溶剤である比重0.8〜0.9のアルコールに比べ、比重が二酸化チタンで約4.0、酸化ジルコニウムが6.1と大きいためである。これに対して、比重が2.5と小さい二酸化ケイ素、或いは比重が約2.7と小さい酸化アルミニウム粒子が取り扱い易さにおいて好ましい。
【0088】
(e)二酸化ケイ素層の厚さ
前述したように、二酸化ケイ素層の厚さの上限は300nmであり、これ以上の場合は層がもろくなり、ちょっとした衝撃で繊維から剥がれてくる。一方、二酸化ケイ素層の厚さの下限は、使える二酸化ケイ素粒子のサイズとなる。その平均粒子径から、厚さ5nmが下限となる。
【0089】
(f)二酸化ケイ素層形成のためのコート液
本発明においては、二酸化ケイ素層の形成のために、まず、コート液を調製した。
【0090】
これは、バインダとしてシリカゾルを、また、粒子として二酸化ケイ素粒子を用いる。これらを溶解し、或いは分散するための溶剤としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−ブタノールなどが挙げられる。このうち、毒性が最も少ない点でエタノールが好適である。なお、メタノールは、揮発しやすいので、コート液の濃度が変化しやすく、生産に用いることは難しい。また、炭素数が4個以上になると揮発しにくいので、二酸化ケイ素層の形成の際の溶剤の除去に時間がかかることになる。よって、炭素数が2個のエタノールが好適である。
【0091】
なお、エタノールを主成分とし、1−プロパノール、2−プロパノール等を一部混合した工業用エタノールは、安価な点で更に好適である。
【0092】
(C)二酸化ケイ素層の形成方法
セパレータや不織布のように細かな空隙を有する部材において、その内部にまで二酸化ケイ素層を形成する場合は、蒸着、スパッタ等の真空プロセスは不向きである。
【0093】
そこで、二酸化ケイ素層を形成するためのコート液を試作した。具体的には、二酸化ケイ素粒子、シリカゾル、及び溶剤からなる。二酸化ケイ素粒子、シリカゾル及び溶剤は前述したものが好適である。
【0094】
このコート液を使ってディップ法で塗布するのが好適である。これは、スプレー法その他の塗布方法に比べて、布の内部の繊維表面までコートされるからである。具体的には、セパレータ又は不織布をコート液に浸漬し、引き上げた後、余分なコート液をローラー等で加圧して除き、その後、熱硬化する。或いは、厚手の紙等に余分のコート液を吸収させる方法もある。しかし、量産を考えると、余分なコート液をすぐに除去できるローラー法が好適である。
【0095】
(D)電池の構成
本発明のセパレータを用いた鉛蓄電池について説明する。鉛蓄電池の構成は、不織布の有無により異なる。
図5A、
図5B、
図6A及び
図6Bを用いて説明する。
【0096】
図5Aは、実施例の鉛蓄電池を示す概略横断面図であり、
図5Bは、その鉛蓄電池の概略縦断面図である。
【0097】
また、
図6Aは、他の実施例の鉛蓄電池を示す概略横断面図であり、
図6Bは、その鉛蓄電池の概略縦断面図である。
【0098】
図5A及び
図5Bは、不織布を用いない場合の構成を示したものである。
【0099】
図5A及び
図5Bにおいて、鉛蓄電池は、純鉛又は鉛合金で形成された集電体に活物質を充填した一対の電極(正極6及び負極7)と、これらの電極間に配置されたセパレータ8と、電解液とを電池容器に封入したものである。
【0100】
正極6の活物質は二酸化鉛であり、負極7の活物質は多孔質の鉛である。また、図示しないが、電解液は希硫酸である。希硫酸の濃度は、30〜40重量%である。負極7を両面から包むように多孔質の二酸化ケイ素層を有するセパレータ8が設けられている。この片側の面の近傍に正極6が配置されている。正極6が負極7と短絡しないように、セパレータ8の表面にリブ9(突起部)を設ける場合もある。
図5A及び
図5Bにおいては、鉛直方向に細長い複数本のリブ9が、正極6に平行になるように配置してある。
【0101】
なお、
図5Bに示すように、1枚のセパレータ8を折り返したもので負極7の両面を覆う構成としてあるが、セパレータ8の構成はこれに限定されるものではなく、2枚のセパレータ8で負極7を挟み込む構成であってもよい。ただし、1枚のセパレータ8を折り返したものの方が、製造しやすく、かつ、正極6及び負極7の端部に残存するバリが接触し、正極6と負極7との短絡の原因となることを防止する機能が高い。
【0102】
また、
図6A及び
図6Bは、不織布を用いた場合の構成を示したものである。
【0103】
図6A及び
図6Bにおいては、負極7の両面を覆う形で多孔質の二酸化ケイ素層を有する不織布10(布状部材)が設けてある。さらに、負極7及び不織布10を包むようにセパレータ8が設けてある。セパレータ8は、多孔質の二酸化ケイ素層を有している場合と有していない場合とがあり、有している場合の方が成層化抑制の効果が大きい。
図6A及び
図6Bにおいても、鉛直方向に細長い複数本のリブ9が、正極6に平行になるように配置してある。
【0104】
なお、
図6A及び
図6Bに示すように、1枚の不織布10を折り返したもので負極7の両面を覆う構成としてあるが、不織布10の構成はこれに限定されるものではなく、2枚の不織布10で負極7を挟み込む構成であってもよい。ただし、1枚の不織布10を折り返したものの方が、製造しやすく、かつ、負極7の端部に残存するバリがセパレータ8を損傷し、正極6と負極7との短絡の原因が生じることを防止する機能が高い。
【0105】
また、セパレータ8及び不織布10は、電池に適用する際の寸法に裁断してから二酸化ケイ素層の形成を行ってもよいが、量産性の観点からは、二酸化ケイ素層の形成を先に行い、その後、裁断することが望ましい。この場合に、裁断の際に用いるカッターの刃の摩耗が問題となるが、セパレータ8及び不織布10に形成された二酸化ケイ素層は、非常に薄いものであるため、カッターの刃に対する影響は、非常に少ないと考える。
【0106】
図5A及び
図5B又は
図6A及び
図6Bの鉛蓄電池は、一個のセルの構成を示したものであり、これで約2Vの電圧を生じる。このセルを複数個並べる構造とすることにより、車両、非常用電源等、鉛蓄電池を用いる製品に適した電圧を得ることが可能となる。
【実施例1】
【0108】
平均粒子径が10nmの二酸化ケイ素粒子(160重量部)と、ポリエチレングリコールの一方の末端をアセチル化した化合物(5重量部)とをエタノール(835重量部)に加え、オーバーヘッドスターラで10時間攪拌し、二酸化ケイ素粒子をエタノール中に分散した。このようにして二酸化ケイ素粒子の分散液を得た。
【0109】
これに加水分解後の固形分濃度が5重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)を加えた。こうして二酸化ケイ素層を形成するためのコート液(1)を調製した。
【0110】
ポリエチレン製の鉛蓄電池用セパレータをコート液(1)に浸漬した後、引き上げ、その直後、ローラーで絞り、余分なコート液を除去した。その後、60℃に調整した加熱炉の中で1時間加熱することにより、表面に二酸化ケイ素層を形成したセパレータを作製した。
【0111】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。この厚さの平均値は、二酸化ケイ素層の形成前後の質量変化から算出した。なお、SEMで観察した結果も、これを裏付けるものであった。
【0112】
これを電極の大きさに合わせて切断し、正負の電極とともにユニットにセットし、電解液を注入し、通電して電槽化成を行い、5時間率容量として36Ah相当の鉛蓄電池を製作した。この電池の構成は、不織布を用いない
図5に示すものである。
【0113】
この電池に25Aの定電流放電を4分間行い、次に14.8Vの定電圧充電を10分間行うプロセスを1サイクルとして、繰り返し充放電を480サイクル行った後、430A放電し、30秒後の電圧が7.2Vを下回ったときのサイクル数を、評価対象の鉛蓄電池の寿命と定めた。なお、サイクルは最大4800サイクル行った。
【0114】
上記評価の結果、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約8.4Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【実施例2】
【0115】
二酸化ケイ素層を形成するためのコート液として、加水分解後の固形分濃度が5重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)の代わりに、加水分解後の固形分濃度が3重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)を加えて二酸化ケイ素層を形成するためのコート液(これをコート液(2)とする。)を調製し使ったこと以外は実施例1と同様にして、多孔質の二酸化ケイ素層を形成したセパレータを得た。
【0116】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均50nmであった。また、その表面には、
図3と同様、隙間が確認された。
【0117】
このセパレータを用いて実施例1と同様に電池を製作し、製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約8.0Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【実施例3】
【0118】
二酸化ケイ素層を形成するためのコート液として、加水分解後の固形分濃度が5重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)の代わりに、加水分解後の固形分濃度が0.5重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)を加えて二酸化ケイ素層を形成するためのコート液(これをコート液(3)とする。)を調製し使ったこと以外は実施例1と同様にして、多孔質の二酸化ケイ素層を形成したセパレータを得た。
【0119】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均7nmであった。また、その表面には、
図3と同様、隙間が確認された。
【0120】
このセパレータを用いて実施例1と同様に電池を製作し、製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約7.2Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては若干硫酸鉛の結晶成長が見られたが、放電後の電圧は目標値の7.2Vを維持した。
【0121】
(比較例1)
二酸化ケイ素層を形成するためのコート液として、加水分解後の固形分濃度が5重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)の代わりに、加水分解後の固形分濃度が0.4重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)を加えて二酸化ケイ素層を形成するためのコート液(これをコート液(4)とする。)を調製し使ったこと以外は実施例1と同様にして、多孔質の二酸化ケイ素層を形成したセパレータを得た。
【0122】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均5nmであった。また、その表面には、
図3と同様、隙間が確認された。
【0123】
このセパレータを用いて実施例1と同様に電池を製作し、製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4320サイクルであり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vから4800サイクル後、約7.0Vとなり、目標値の7.2Vを下回った。
【0124】
(比較例2)
体積空隙率が98%のポリプロピレン製不織布に二酸化ケイ素層を形成しないこと以外は実施例1と同様に電池を製作し、製作した電池の寿命を調べた。その結果、製作した電池の寿命は2400サイクルであり、2880サイクル後、放電後の電圧は約6.8Vとなり、目標値の7.2Vを下回った。
【0125】
比較例1及び2から、セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を設けない場合、或いは設けてもその平均厚さが5nm以下の場合は、成層化の抑制が不十分であることが判った。
【0126】
(二酸化ケイ素層の厚さの検討)
実施例1で用いたセパレータをコート液(1)に浸漬した後、引き上げ、その直後、ローラーで絞り、余分なコート液を除去し、60℃に調整した加熱炉の中で1時間加熱する実施例1の二酸化ケイ素層を形成する操作(1)を3回又は4回繰り返した。すなわち、コーティングの操作を3回又は4回繰り返した。これにより、表面に厚い二酸化ケイ素層を形成したセパレータを作製した。
【0127】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは、操作(1)を3回行った場合は平均300nm、操作(1)を4回行った場合は平均400nmであった。
【0128】
これらのセパレータを用いて実施例1と同様に電池を製作し、製作した電池の寿命を調べた。その結果、製作した電池の寿命はどちらも4800サイクル以上であり、放電後の電圧は、二酸化ケイ素層の厚さが300nmの場合は4800サイクル後に約8.4V、二酸化ケイ素層の厚さが400nmの場合は4800サイクル後に約8.6Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、どちらの場合も負極は多孔質の鉛の状態を維持していた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【0129】
これらの電池を自動車に搭載し、平均段差20mmの凹凸路面を時速10km/hrで約1時間走行後電池を自動車から取り外し、セパレータの状況を観察したところ、平均層厚400nmの方は多孔質の二酸化ケイ素層が一部剥離していることが、確認された。しかし、平均層厚300nmの方は二酸化ケイ素層の剥離は観測されなかった。
【0130】
多孔質の二酸化ケイ素層は、元々高硬度であるが、もろいため、厚くなると、振動等を受けた場合に剥離しやすくなる。そのため、平均層厚400nmの方が剥離したものと考えられる。
【0131】
以上より、多孔質の二酸化ケイ素層の厚さは300nm以下が望ましい。
【実施例4】
【0132】
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布をコート液(1)に浸漬した後、引き上げ、その直後、ローラーで絞り、余分なコート液を除去した。その後、60℃に調整した加熱炉の中で1時間加熱することにより、表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0133】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0134】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いたこと以外は実施例1と同様に電池を製作した。
【0135】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約8.4Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態を維持していた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【実施例5】
【0136】
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布の代わりに、体積空隙率が98%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布を用いたこと以外は、実施例4と同様にして表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0137】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0138】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0139】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vから4800サイクル後も約7.3Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【実施例6】
【0140】
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布の代わりに、体積空隙率が90%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布を用いたこと以外は、実施例4と同様にして表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0141】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0142】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いる以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0143】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vから4800サイクル後も約8.6Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【0144】
(比較例3)
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布の代わりに、体積空隙率が99%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布を用いたこと以外は、実施例4と同様にして表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0145】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0146】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0147】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は2880サイクルであり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vから3360サイクル後、約6.8Vとなり、目標値の7.2Vを下回った。
【0148】
(比較例4)
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布の代わりに、体積空隙率が88%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布を用いたこと以外は、実施例4と同様にして表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0149】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0150】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0151】
製作した電池の寿命を調べたところ、サイクル試験前の電圧が約9Vと低くなった。
【0152】
実施例4〜6及び比較例4〜5より、不織布の体積空隙率は90〜98%が好適であることが判った。
【実施例7】
【0153】
平均粒子径が10nmの酸化アルミニウム粒子(160重量部)と、ポリエチレングリコールの片末端(一方の末端)をアセチル化した化合物(5重量部)とをエタノール(835重量部)に加え、オーバーヘッドスターラで10時間攪拌し、酸化アルミニウム粒子をエタノール中に分散した。このようにして酸化アルミニウム粒子の分散液を得た。
【0154】
これに加水分解後の固形分濃度が5重量%となるように調製したシリカゾル溶液(800重量部)を加えた。こうして酸化アルミニウムを含有する二酸化ケイ素層を形成するためのコート液(5)を調製する。
【0155】
次に、コート液(5)を使ったこと以外は、実施例1と同様にして、酸化アルミニウム粒子含有の多孔質二酸化ケイ素層を形成したセパレータを得た。
【0156】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均50nmであった。また、その表面には、
図3と同様、隙間が確認された。
【0157】
このセパレータを用いて実施例1と同様に電池を製作した。
【0158】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧は、サイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約8.0Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【実施例8】
【0159】
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布をコート液(5)に浸漬した後、引き上げ、その直後、ローラーで絞り、余分なコート液を除去した。その後、60℃に調整した加熱炉の中で1時間加熱することにより、表面に酸化アルミニウム粒子含有の多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0160】
形成された二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0161】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記酸化アルミニウム粒子含有の多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0162】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約8.4Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【実施例9】
【0163】
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布の代わりに、体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリエチレン製不織布を用いたこと以外は、実施例4と同様にして表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製した。
【0164】
形成された多孔質二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0165】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いたこと以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0166】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vから4800サイクル後も約8.6Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【0167】
本実施例及び実施例4の結果より、不織布がポリエチレン製であっても、ポリプロピレン製と同等のサルフェーションを抑制できることが判った
。
【実施例10】
【0168】
(参考例)
体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布の代わりに、体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのガラス製不織布を用いたこと以外は、実施例4と同様にして表面に多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を作製する。
【0169】
形成された多孔質二酸化ケイ素層の厚さは平均100nmであった。
【0170】
セパレータに多孔質の二酸化ケイ素層を形成せずに用い、且つ、上記多孔質の二酸化ケイ素層を形成した不織布を用いる以外は、実施例1と同様に電池を製作した。
【0171】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vから4800サイクル後も約8.6Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【0172】
本
参考例、実施例4及び実施例9の結果より、不織布がガラス製であっても、ポリプロピレン又はポリエチレンといったポリオレフィン製と同等のサルフェーション抑制効果が得られることが判った。
【実施例11】
【0173】
実施例1と同様の方法でポリエチレン製の鉛蓄電池用セパレータ表面にコート液(1)を用いて多孔質の二酸化ケイ素層を形成したセパレータを作製した。
【0174】
また、実施例4と同様の方法で体積空隙率が95%、厚さ0.1mmのポリプロピレン製不織布にコート液(1)を用いて多孔質の二酸化ケイ素層を形成したセパレータを作製した。
【0175】
多孔質の二酸化ケイ素層を形成したセパレータ及び不織布を用いて、実施例4と同様に電池を製作した。
【0176】
製作した電池の寿命を調べたところ、製作した電池の寿命は4800サイクル以上であり、放電後の電圧はサイクル試験前の約10Vからあまり変化せず、4800サイクル後も約8.8Vを維持した。また、電極を目視で観察したところ、負極においては多孔質の鉛の状態が維持されていた。即ち、サルフェーションに伴う硫酸鉛の結晶の成長はほとんど見られなかった。
【0177】
本実施例、実施例1及び4の結果より、サルフェーションをなるべく抑制するには、セパレータ及び不織布の両方に多孔質の二酸化ケイ素層を形成したものを用いることが好ましいことが判った。