特許第5994758号(P5994758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5994758
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】ハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20160908BHJP
   H01B 7/282 20060101ALI20160908BHJP
   H01B 7/17 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01B7/00 301
   H01B7/28 E
   H01B7/18 D
   H01B7/00 306
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-194277(P2013-194277)
(22)【出願日】2013年9月19日
(65)【公開番号】特開2015-60747(P2015-60747A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡 史人
(72)【発明者】
【氏名】江島 弘高
(72)【発明者】
【氏名】山下 宣幸
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0133925(US,A1)
【文献】 特開2009−206043(JP,A)
【文献】 特開2007−227257(JP,A)
【文献】 特開2007−299819(JP,A)
【文献】 特開2010−257701(JP,A)
【文献】 特開2012−256564(JP,A)
【文献】 特開2012−221888(JP,A)
【文献】 特開2013−131481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線部と、この電線部を保護する保護部と、を有する電気ケーブルと、
前記電線部を挿入可能な筒部を有するケーブル固定金具と、
前記筒部よりも径が大きいリング状の金具と、
を備えるハーネスであって、
前記筒部の内側に前記電線部を挿入するとともに、前記筒部の外側に前記保護部を嵌め込んで、該嵌め込んだ前記保護部の外側に前記リング状の金具を装着し、この状態で前記リング状の金具をかしめることにより、前記電気ケーブルと前記ケーブル固定金具とが結合されている
ことを特徴とするハーネス。
【請求項2】
前記保護部は、筒状のシースと、該シースの内面を覆う編組層とを有し、
前記リング状の金具のかしめ部分において、前記シースが前記リング状の金具の内側の面に接触し、かつ、前記編組層が前記筒部の外側の面に接触している
ことを特徴とする請求項1に記載のハーネス。
【請求項3】
前記筒部の外側に嵌め込まれた前記保護部の端部が防水樹脂で覆われている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のハーネス。
【請求項4】
前記電線部は、導体と、前記導体の外周側に設けられたシールド編組層と、を備え、
前記シールド編組層は、前記筒部と接触している
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気ケーブルとケーブル固定金具とを用いて構成されるハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボットの普及や自動車の電装化などにともない、屈曲を繰り返し受ける環境にも電気ケーブルが使用されている。この種の電気ケーブルとしては、1本又は複数本の電線を用いて電線部を構成し、この電線部の周りをシースで保護した構造が知られている。
【0003】
また、電気ケーブルを固定する方法としては、ケーブル固定金具を用いた方法が知られている。具体的には、ケーブル固定金具に筒部を一体に形成し、この筒部に電気ケーブルを挿入した状態で筒部をかしめることにより、電気ケーブルを固定する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−299819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようにケーブル固定金具の筒部に電気ケーブルを挿入して筒部をかしめる場合は、かしめにともなう筒部の変形量が多いほど、筒部が電気ケーブルを把持する力(以下、単に「把持力」又は「ケーブル把持力」ともいう。)が強くなる。このため、例えば自動車用に電気ケーブルを使用する際の信頼性を向上させるなどの理由で、現状よりも強い把持力で電気ケーブルを固定したい場合は、かしめ荷重を大きくする必要がある。かしめ荷重とは、かしめ加工用の工具を用いて筒部をかしめるときに、筒部に加える荷重をいう。
【0006】
しかしながら、ケーブル固定金具の筒部をかしめるときのかしめ荷重を大きくすると、電気ケーブルの電線部に加わる機械的な負荷が大きくなってしまう。その理由は、次のとおりである。一般に、電気ケーブルは、電線部の外側をシース(外被)で保護した構造になっている。また、シースはゴム材料で形成されている。このため、ケーブル固定金具の筒部に電気ケーブルを挿入して筒部をかしめると、かしめによる締め付け力がシースを介して電線部に伝わる。したがって、かしめ荷重を大きくすると、その分だけ電線部に加わる負荷が大きくなってしまう。
【0007】
本発明の主な目的は、ケーブル固定金具に電気ケーブルをかしめにより固定する場合に、電気ケーブルの電線部に加わる負荷を大きくすることなく、ケーブル把持力を向上させることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様は、
電線部と、この電線部を保護する保護部と、を有する電気ケーブルと、
前記電線部を挿入可能な筒部を有するケーブル固定金具と、
前記筒部よりも径が大きいリング状の金具と、
を備えるハーネスであって、
前記筒部の内側に前記電線部を挿入するとともに、前記筒部の外側に前記保護部を嵌め込んで、該嵌め込んだ前記保護部の外側に前記リング状の金具を装着し、この状態で前記リング状の金具をかしめることにより、前記電気ケーブルと前記ケーブル固定金具とが結合されている
ことを特徴とするハーネスである。
【0009】
本発明の第2の態様は、
前記保護部は、筒状のシースと、該シースの内面を覆う編組層とを有し、
前記リング状の金具のかしめ部分において、前記シースが前記リング状の金具の内側の面に接触し、かつ、前記編組層が前記筒部の外側の面に接触している
ことを特徴とする上記第1の態様に記載のハーネスである。
【0010】
本発明の第3の態様は、
前記筒部の外側に嵌め込まれた前記保護部の端部が防水樹脂で覆われている
ことを特徴とする上記第1又は第2の態様に記載のハーネスである。
【0011】
本発明の第4の態様は、
前記電線部は、導体と、前記導体の外周側に設けられたシールド編組層と、を備え、
前記シールド編組層は、前記筒部と接触している
ことを特徴とする上記第1〜第3の態様のいずれか一つに記載のハーネスである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ケーブル固定金具に電気ケーブルをかしめにより固定する場合に、電気ケーブルの電線部に加わる負荷を大きくすることなく、ケーブル把持力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係るハーネスの主要部の構成例を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係るハーネスの主要部の構成例を示す斜視図である。
図3】電気ケーブルの構成例を示す断面図である。
図4】本発明の実施の形態に係るハーネスの他の構成例を示す断面図である。
図5】電気ケーブルの他の構成例を示す断面図(その1)である。
図6】電気ケーブルの他の構成例を示す断面図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.ハーネスの概要
2.電気ケーブルの構成
3.補強編組層を設ける技術的な意義
4.ケーブル固定金具の構成
5.リング状の金具の構成
6.ハーネスの構成
7.ハーネスの取り付け
8.実施の形態の作用及び効果
9.変形例等
【0015】
<1.ハーネスの概要>
図1は本発明の実施の形態に係るハーネスの主要部の構成例を示す断面図であり、図2は同斜視図である。
図示したハーネス100は、電気ケーブル1と、ケーブル固定金具50と、リング状の金具70と、を備えた構成となっている。以下、各々の部品(1、50、70)の構成について順に説明し、その後で、これらを組み合わせたハーネス100の構成について説明する。
【0016】
<2.電気ケーブルの構成>
まず、電気ケーブルの構成について図3を参照しつつ説明する。
図示した電気ケーブル1は、適度な可撓性を有するものであって、大きくは、電線部2と、この電線部2を保護する保護部3と、を備えた構成となっている。なお、本明細書においては、電気ケーブル1の長さ方向を「ケーブル長さ方向」といい、電気ケーブル1の直径方向を「ケーブル径方向」という。
【0017】
(電線部)
電線部2は、保護部3の内側に配置されている。電線部2は、1本の電線5によって構成されている。電線5は、導体6と、この導体6の外周を覆う絶縁体7と、この絶縁体7の外周を覆うシールド編組層8と、を有している。
【0018】
(導体)
導体6は、電線5の芯線として電線5の中心軸上に位置している。導体6は、例えば、スズめっき軟銅からなる線導体(一例として、導体断面積(SQ)=3mm)を用いて形成することができる。導体6は、1本の線導体、又は複数本の線導体を撚り合わせてなる撚線によって構成することができる。また、導体6は、軟銅線、銀めっき軟銅線、スズめっき銅合金線等の金属線を用いて形成することもできる。
【0019】
(絶縁体)
絶縁体7は、導体6の外周の全面を覆うように、この導体6と同心円状に形成されている。絶縁体7は、一定の厚み寸法(例えば、0.7mm厚)で形成されている。絶縁体7は、例えば、架橋ポリエチレン(Cross−linked polyethylene:XLPE)によって形成することができる。また、絶縁体7は、ポリエチレン、発泡ポリエチレン、架橋発泡ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂等の樹脂材料によって形成することもできる。
【0020】
(シールド編組層)
シールド編組層8は、電気的なシールド機能を有するもので、導体6の外周側に絶縁体7の外周の全面を覆うように形成されている。シールド編組層8は、導体6を芯として絶縁体7と同心円状に形成されている。シールド編組層8は、繊維又は糸からなる芯の周囲に銅箔が設けられた銅箔糸を用いて形成することができる。シールド編組層8は、複数の銅箔糸を交差させて編み込む、いわゆる編み組によって形成されている。
なお、本実施の形態において、繊維とは、微細な糸状を有した形態をいう。また、糸とは、繊維が線状に連続した形態をいう。
【0021】
シールド編組層8の形成に用いる銅箔糸の芯は、高分子樹脂材料からなる繊維又は糸によって構成することができる。具体的には、銅箔糸は、例えば、直径0.11mmのポリエチレンテレフタレート(Polyethylene terephthalate:PET)の芯糸を用いて構成することができる。芯糸は、1本の繊維又は糸から形成することができる。また、芯糸は、複数本の繊維又は糸を編み合わせて形成することもできる。銅箔は、例えば、12μmの厚さで形成することができる。そして、銅箔糸は、芯糸の外周に銅箔をらせん状に巻き付けて形成することができる。
【0022】
また、銅箔糸は、その表面にめっき膜を施して形成することもできる。銅箔糸の表面にめっき膜を施すことにより、銅箔の表面の酸化を防止することができる。めっき膜は、例えば、スズめっきにより形成することができる。めっき膜によって銅箔の表面の酸化を防止すれば、シールド編組層8の電気抵抗が上昇する等の弊害を抑制することができる。
【0023】
(保護部)
保護部3は、電線部2の外側に同心円状に配置されている。保護部3は、筒状のシース11だけで構成してもよいが、本実施の形態では、より好ましい形態として、シース11と、このシース11の内面を覆う補強編組層12と、を有している。このうち、補強編組層12は、編組層の一例として設けられたものである。
【0024】
(シース)
シース11は、電気ケーブル1の外被部を構成するものである。シース11は、断面円形に形成されている。このため、保護部3は、全体的に円筒状に形成されている。シース11は、ケーブル径方向において最も外側に位置している。このため、シース11の外周面は、電気ケーブル1の外周面を構成している。シース11は、絶縁材料によって形成されている。具体的には、シース11は、例えば、エチレンプロピレンジエンゴム等のゴム材料を用いて、0.5mm程度の厚さで形成されている。シース11を形成するゴム材料は、耐熱性、耐候性、及び耐油性に優れた特性を発揮するゴム材料を用いることが好ましい。一例として、ブレーキホース用のゴム材料を用いることができる。
【0025】
ブレーキホース用のゴム材料としては、末端にビニル基を含有するノルボルネン化合物であるポリエンを含んで形成されるエチレン・α−オレフィン・ポリエン共重合体を用いることができる。また、ゴム材料は、末端にビニル基を含有するノルボルネン化合物であるポリエンを含んで形成されるエチレン・α−オレフィン・ポリエン共重合体と、SiH基を1分子中に複数含むSiH基含有化合物とを含むゴム材料(以下、「混合ゴム材」という)を用いることができる。なお、混合ゴム材は、シース11の機能を発揮する限り、補強材、充填剤、可塑剤、軟化剤、加工助剤、活性剤、スコーチ防止剤、及び老化防止剤等の配合剤を適宜含んで形成することもできる。また、混合ゴム材は、複数の高分子材料をブレンドして形成することもできる。
【0026】
また、ゴム材料は、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、又はクロロプレンゴムを用いることもできる。本実施の形態において、ゴム材料は、無加圧下で加硫できる混合ゴム材を用いることが好ましい。なお、混合ゴム材を構成するエチレン・α−オレフィン・ポリエン共重合体は、エチレンと、α−オレフィンと、ポリエンとの3元以上の共重合体であり、一例として、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(Ethylene−Propylene−Diene Rubber:EPDM)を用いることができる。
【0027】
α−オレフィンは、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン等を用いることができる。更に、ジエン類に代表されるポリエンは、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、3−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、7−メチル−1,6−オクタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン等を用いることができる。
【0028】
混合ゴム材を構成するSiH基含有化合物は、混合ゴム材の架橋剤として用いられる。本実施の形態においては、1分子中にSiH基を2個以上、架橋度を向上させることを目的として好ましくは3個以上有するSiH基含有化合物を用いることが好ましい。なお、混合ゴム材に、触媒、反応抑制剤を含有させることもできる。触媒は、エチレン・α−オレフィン・ポリエン共重合体とSiH基含有化合物とのヒドロシリル化反応を促進する触媒を用いる。例えば、触媒は、白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒等の触媒を用いることができる。
【0029】
また、反応抑制剤は、過剰なヒドロシリル化反応を抑制することを目的として、適宜、混合ゴム材に添加される。例えば、反応抑制剤は、ベンゾトリアゾール、ハイドロパーオキサイド、エチニルシクロヘキサノール、テトラメチルエチレンジアミン、トリアリルシアヌレート、アクリロニトリル、アクリルマレエート等を用いることができる。
【0030】
(補強編組層)
補強編組層12は、シース11の内周面の全面を覆うように形成されている。補強編組層12は、シース11の内周面に密着(接着)した状態で、シース11と同心円状に形成されている。補強編組層12とシールド編組層8とは、ケーブル径方向で隣接している。また、補強編組層12は、複数本の繊維又は糸を交差させて編み込む、いわゆる編み組によって形成されている。繊維又は糸は、例えば、ポリビニルアルコールなどの合成樹脂を用いて、直径0.1mmの太さに形成されている。また、繊維又は糸は、耐疲労性及び耐摩耗性に優れた材料から形成することが好ましい。例えば、繊維又は糸は、ポリビニルアルコールの他に、ポリエチレンテレフタレート、又はポリエチレン−2,6−ナフタレートから少なくとも1つ選択される材料から形成することができる。補強編組層12を形成する繊維又は糸は、好ましくはポリビニルアルコールを用いて形成するとよい。
【0031】
<3.補強編組層を設ける技術的な意義>
本実施の形態においては、シース11の内周に補強編組層12を設けている。電気ケーブル1に補強編組層12を設けることの技術的な意義は主に2つある。
第1の技術的な意義は、電気ケーブル1をリング状の金具70のかしめによって固定するときの把持力を高めることである。すなわち、電気ケーブル1の外側にリング状の金具70を嵌め入れてかしめる場合に、シース11の内周に補強編組層12が設けられていると、補強編組層12の表面の細かな凹凸が、かしめによる締め付け力を受けてシース11の内周面に食い込んだ状態になる。このため、シース11と補強編組層12との接触界面に、いわゆるアンカー効果が生じる。したがって、リング状の金具70のかしめによるシース11の締め付け力をそれほど大きくしなくても、そのかしめ部分に十分な把持力が得られる。
【0032】
第2の技術的な意義は、電気ケーブル1の引張強度を高めることである。すなわち、シース11の内周に、ポリエチレンテレフタレートの繊維等を編み込んだ補強編組層12が設けられていると、何らかの理由で電気ケーブル1にケーブル長さ方向の引張力が加わった場合に、ケーブル全体の伸びが補強編組層12によって抑制される。このため、電気ケーブル1に引張力が加わったときに電線部2が受けるダメージが軽減する。したがって、電気ケーブル1の引張強度を向上させることができる。
【0033】
<4.ケーブル固定金具の構成>
次に、ケーブル固定金具の構成について説明する。
ケーブル固定金具50は、上述した電気ケーブル1を固定するためのものであって、特に、電気ケーブル1の端末を固定する際に用いて好適なものである。ケーブル固定金具50は、非磁性で電気伝導率の高い金属、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金(ジュラルミンなど)を用いて形成されている。ケーブル固定金具50は、大きくは、筒部51と、フランジ部52と、を一体に有している。
【0034】
(筒部)
筒部51は、円筒状に形成されている。筒部51は、上述した電気ケーブル1の電線部2(電線5)を挿入可能に形成されている。具体的には、筒部51の内径が電線部2の外径と同じか、それよりも若干大きく設定され、これによって筒部51の内側に電線部2を挿入できる構成になっている。つまり、筒部51が形成する孔は、電線部2を挿入するための孔となっている。また、筒部51は、フランジ部52の厚み方向の一方に突出する状態で形成されている。
【0035】
(フランジ部)
フランジ部52は、板状に形成されている。フランジ部52の厚み方向は、筒部51の中心軸方向と同じ方向になっている。フランジ部52は、筒部51の中心軸方向から見て略長方形に形成されている。フランジ部52には固定用孔53が形成されている。固定用孔53は、図示しない電子機器の筐体にケーブル固定金具50を固定するための孔である。固定用孔53は、筒部51よりも外側にフランジ部52を貫通する状態で形成されている。電子機器は、電気ケーブル1を用いて電子機器同士を電気的に接続する際の、一方の電子機器に相当するものである。
【0036】
<5.リング状の金具の構成>
リング状の金具70は、ケーブル固定金具50にかしめによって電気ケーブル1を固定するためのものである。リング状の金具70は、円形のリング形状に形成されている。リング状の金具70は、ケーブル固定金具50の筒部51よりも大きな径で形成されている。具体的には、リング状の金具70の内径は、筒部51の外側に保護部3を嵌め込んだ状態で、この保護部3の外側にリング状の金具70を装着できるように、筒部51の外径に保護部3の厚み寸法を加味した寸法に設定されている。リング状の金具70の中心軸方向の長さは、筒部51の中心軸方向の長さよりも短く設定されている。また、リング状の金具70は、例えば、ケーブル固定金具50と同じ金属材料を用いて形成されている。
ただし、本発明はこれに限らず、ケーブル固定金具50とリング状の金具70を互いに異なる金属材料で構成してもよい。また、金属材料の機械的な特性として、ケーブル固定金具50をリング状の金具70よりも剛性の高い金属材料で構成してもよい。
【0037】
<6.ハーネスの構成>
次に、ハーネス100の構成について説明する。
ハーネス100は、上記構成の電気ケーブル1とケーブル固定金具50とリング状の金具70とを組み合わせることにより、固定金具付き電気ケーブルとして得られるものである。具体的には、次のようにして各部品を組み付ける。
すなわち、上記図1及び図2に示すように、ケーブル固定金具50の筒部51の内側(孔)に電気ケーブル1の電線部2(電線5)を挿入する。このとき、ケーブル固定金具50の筒部51に対しては、図1の左側から電線部2を挿入し、右側に電線部2を引き出す。電気ケーブル1における電線部2と保護部3の長さは事前に調整され、これによって電線部2は筒部51から所定寸法だけ引き出された状態となる。
【0038】
このように筒部51に電線部2(電線5)を挿入した状態では、筒部51の内径を電線部2の外径よりも若干大きく設定しておくことにより、両者の間に適度な隙間が確保されることが望ましい。その理由は主に2つある。一つは、筒部51に電線部2を挿入しやくなるためである。もう一つは、上述した隙間の介在により、筒部51の中心軸方向に電線部2が自由に移動(スライド)できるようになり、これによって電気ケーブル1が屈曲したときに電線部2に加わる負荷が軽減されるからである。
【0039】
電気ケーブル1の保護部3は、ケーブル固定金具50の筒部51の外側に嵌め込む。このとき、ケーブル径方向において、電線部2と保護部3との間に筒部51を差し込むようにする。これにより、電気ケーブル1の保護部3が外側に押し広げられながら筒部51の外側に嵌め込まれる。また、保護部3の補強編組層12が筒部51の外側の面(外周面)に接触した状態となる。
【0040】
次に、筒部51に嵌め込まれた保護部3の外側にリング状の金具70を装着する。リング状の金具70は、あらかじめ電気ケーブル1に通しておき、上述のように筒部51の外側に保護部3を嵌め込んだ後、電気ケーブル1側に移動させて装着する。これにより、リング状の金具70の内側の面(内周面)は、シース11の外周面に接触又は近接した状態となる。
【0041】
次に、リング状の金具70をかしめ加工用の工具で外側からかしめることにより、電気ケーブル1とケーブル固定金具50とを結合(一体化)する。リング状の金具70には、あらかじめかしめ加工の対象となる位置がおおよそ決められている。このため、その加工対象位置にかしめ加工用の工具を接触させてリング状の金具70に外側からかしめ荷重を加える。これにより、リング状の金具70の外周面は、かしめ加工用の工具によって加えられるかしめ荷重を受けて内側に凹形状に変形する。このとき、筒部51に嵌め込まれている保護部3は、その筒部51とリング状の金具70にサンドイッチ状に挟み込まれる。このため、リング状の金具70のかしめ部分(凹形状に変形した部分)で保護部3が把持され、この把持力をもって電気ケーブル1がケーブル固定金具50に固定される。
【0042】
以上のように電気ケーブル1とケーブル固定金具50とリング状の金具70を組み付けることにより、これらを一体的に結合させた状態のハーネス100が得られる。
【0043】
<7.ハーネスの取り付け>
上述した電子機器の筐体にハーネス100を取り付ける場合は、電子機器の筐体の側面にフランジ部52の片面を接触させる。次に、フランジ部52の固定用孔53にボルト(不図示)を通し、そのボルトの雄ネジ部分を、電子機器の筐体側に設けられた雌ネジ部分にねじこんで締め付ける。これにより、電子機器の筐体にハーネス100が取り付けられる。
【0044】
ちなみに、本実施の形態に係るハーネス100を自動車に実装する場合は、車体側に配置される電子機器(電源、インバータ、制御装置など)と、バネ下のホイール部分に配置される電子機器(インホイールモータ、電動ブレーキ、各種センサなど)とを電気ケーブル1で電気的に接続するとともに、各々の電子機器の筐体に上記のボルトを用いてケーブル固定金具50を取り付けることになる。
【0045】
<8.実施の形態の作用及び効果>
本発明の実施の形態においては、ケーブル固定金具50の筒部51の内側に電線部2を挿入する一方、筒部51の外側に保護部3を嵌め込み、この保護部3の外側に装着したリング状の金具70を外側からかしめることにより、電気ケーブル1とケーブル固定金具50とを結合した構成を採用している。このような構成にすると、リング状の金具70をかしめた場合に、かしめによる締め付け力(かしめ荷重)を、保護部3を介して筒部51で受けることになる。このため、かしめによる締め付け力が電線部2に伝わりにくくなる。したがって、リング状の金具70をかしめたときに電線部2に加わる負荷を大幅に低減することができる。
【0046】
また、筒部51の外側に嵌め込んだ保護部3にリング状の金具70を装着してかしめると、かしめによる締め付け力によって保護部3が筒部51とリング状の金具70との間にサンドイッチ状に挟み込まれる。このため、かしめによる締め付け力は、保護部3を挟み込む把持力となって、保護部3に集中的に作用する。したがって、かしめ加工の際にリング状の金具70をそれほど大きく変形させなくても、リング状の金具70のかしめ部分に十分な把持力が得られる。
【0047】
特に、保護部3の構成として、シース11の内周に補強編組層12を設けた場合は、リング状の金具70のかしめ部分において、シース11がリング状の金具70の内周面に接触し、補強編組層12が筒部51の外周面に接触した状態となる。この状態では、かしめによる締め付け力を受けたときに、補強編組層12が筒部51からの反力によりシース11に強く押し付けられる。このため、補強編組層12の表面の微小な凹凸をシース11の内周面に強固に食い込ませることができる。したがって、ケーブル固定金具50による電気ケーブル1の把持力を飛躍的に向上させることができる。
【0048】
また、電気ケーブル1の把持力が向上すると、電気ケーブル1にケーブル長さ方向の引張力が加わった場合に、この引っ張りにともなう電気ケーブル1の伸びが、補強編組層12付きのシース11によって確実に抑制される。このため、電線部2に引張力が加わりにくくなる。したがって、電気ケーブル1の引っ張りにともなう電線部2の機械的な負荷を軽減することができる。また、引っ張りにともなう電気ケーブル1の抜けも確実に防止することができる。
【0049】
また、ケーブル固定金具50を用いて固定した電気ケーブル1が何らかの理由で屈曲した場合、ケーブル固定金具50の近傍では、電気ケーブル1の電線部2と保護部3がケーブル径方向で分離した状態に保持される。このため、電線部2のシールド編組層8と保護部3の補強編組層12とが擦れ合うことがない。したがって、編組層同士の擦れによる摩耗を回避することができる。
【0050】
<9.変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0051】
例えば、上記実施の形態においては、保護部3の外側に装着したリング状の金具70をかしめることにより、リング状の金具70の内周面が保護部3の外周面に押し付けられ、かつ、保護部3の内周面が筒部51の外周面に押し付けられる。このため、リング状の金具70をかしめた部分では、各部が相互に密着することにより、ある程度の防水効果が得られる。ただし、リング状の金具70の円周方向においては、所定の角度間隔で複数の方向からかしめ加工用の工具がリング状の金具70に押し当てられる。このため、かしめ加工用の工具が直接、接触しない部分では、かしめ荷重が相対的に弱くなり、十分な防水効果が得られないおそれがある。そのような場合は、図4に示すように、筒部51の外側に嵌め込まれた保護部3の端部を防水樹脂54で覆った構成を採用することが望ましい。防水樹脂54は、ディスペンサ等で塗布して形成してもよいし、熱収縮チューブを用いて形成してもよい。この構成を採用すれば、保護部3の端部から、筒部51と保護部3の界面を伝って電気ケーブル1内に水分が侵入することを確実に防止することができる。
【0052】
さらに、同図に示すように、ケーブル固定金具50の構成として、フランジ部52を間に挟んで筒部51と反対側に筒部55を形成し、この筒部55の外周面に形成した溝にリング状のパッキン56を装着した構成を採用してもよい。筒部55は、筒部51と反対側にこれと同軸に突出する状態でケーブル固定金具50に一体に形成されている。筒部55は、電子機器の筐体にケーブル固定金具50を取り付ける場合に、筐体側に設けられた係合孔に嵌め込まれる。その際、パッキン56は、係合孔の内周面に接触(密着)することにより防水効果を発揮する。このため、電子機器の筐体にハーネス100を取り付けた場合に、筐体内への水分の侵入をパッキン56によって有効に防止することができる。また、シールド編組層8の端部を図中破線矢印で示すように筒部55の外側に折り返し、その折り返し部分で筒部55の外周面をシールド編組層8で覆うようにしてもよい。これにより、シールド編組層8が筒部55に接触した状態となるため、電子機器の筐体にケーブル固定金具50を取り付けた場合に、シールド編組層8をケーブル固定金具50や電子機器の筐体に電気的に接続(接地)させることができる。
【0053】
また、上記実施の形態においては、電線部2を1本の電線5によって構成したが、本発明はこれに限らず、複数本の電線によって電線部を構成してもよい。具体例を挙げると、図5に示すように、3本の電線5によって電線部2を構成してもよい。この場合、3本の電線5は、それぞれケーブル長さ方向に沿う真っ直ぐな線であってもよいし、互いに撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0054】
また、電気ケーブル1の構成としては、図6に示すように、保護部3の内径を電線部2の外径よりも大きく設定することにより、保護部3の筒内に電線部2の動きを許容する中空部14を設けた構成としてもよい。この構成を採用した場合は、筒部51の外側に保護部3を嵌め込みやすくなる。また、筒部51の外側に保護部3を嵌め込む場合に、保護部3に無理な力が加わらなくなる。このため、電気ケーブル1が屈曲した際に、保護部3に加わる機械的な負荷が小さくなる。保護部3の筒内に電線部2の動きを許容する中空部14を設ける構成は、複数本の電線によって電線部を構成する場合(例えば、上記図5に示す構成)にも適用することが可能である。
【0055】
また、上記実施の形態においては、電線部2を構成する電線5の外周にシールド編組層8を設ける一方、保護部3の内周に補強編組層12を設けるようにしたが、本発明はこれに限らない。例えば、上記実施の形態において、シールド編組層8を設ける位置と補強編組層12を設ける位置を入れ替えた構成としてもよい。また、補強編組層12を電線部2の構成要素に含むように、電線5の外周にシールド編組層8と補強編組層12を重ねて設けた構成や、シールド編組層8を保護部3の構成要素に含むように、保護部3の内周にシールド編組層8と補強編組層12を重ねて設け、これを筒部51の外側に嵌め込んだ構成を採用してもよい。
【0056】
また、フランジ部52の厚み方向の一方に突出する筒部51の端面形状を、例えば、筒部51の突出端に向かって徐々に外径が小さくなる、いわゆる先細形状のテーパー面としてもよい。この構成を採用した場合は、筒部51のテーパー面をガイド面に利用して保護部3を筒部51の外側に嵌め込むことができる。また、筒部51の突出端側に上記のテーパー面が形成されていると、電気ケーブル1が屈曲した際に、保護部3に対する筒部51の突出端部分の食い込みが弱まる。このため、電気ケーブル1の屈曲にともなって保護部3に加わる機械的なダメージを軽減することができる。
【0057】
また、本発明に係るケーブル固定金具は、電気ケーブル1の端末部分を固定する場合だけでなく、電気ケーブル1の途中部分を固定する場合にも適用することが可能である。その場合は、フランジ部52の厚み方向の両方に突出するように筒部51を設け、各々の筒部51の外側にそれぞれ保護部3を嵌め込む。また、各々の保護部3の外側にリング状の金具70を装着し、これを外側からかしめることにより保護部3を把持する。
【符号の説明】
【0058】
1…電気ケーブル
2…電線部
3…保護部
5…電線
8…シールド編組層
11…シース
12…補強編組層
50…ケーブル固定金具
51…筒部
52…フランジ部
54…防水樹脂
70…リング状の金具
図1
図2
図3
図4
図5
図6