(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
イミノジ酢酸を官能基とし、スカンジウム、アルミニウム及びクロムが吸着されたキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、前記キレート樹脂からアルミニウムを除去した後、前記キレート樹脂に1N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得る、スカンジウムの回収方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
図1は、本発明に係るスカンジウムの回収方法を説明するための図である。本発明は、スカンジウム、アルミニウム及びクロムを含有するニッケル酸化鉱を硫酸とともに加圧容器に装入し、高温高圧下で浸出液と浸出残渣とに固液分離する浸出工程S1と、上記浸出液に中和剤を加え、中和澱物と中和後液とを得る中和工程S2と、中和後液に硫化剤を添加し、ニッケル硫化物と硫化後液とに分離する硫化工程S3と、硫化後液を、イミノジ酢酸を官能基とするキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる吸着工程S4と、この吸着工程S4でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、吸着工程S4でキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程S5と、このアルミニウム除去工程S5を経たキレート樹脂に1N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程S6と、このスカンジウム溶離工程S6を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、吸着工程S4でキレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程S7とを含む。
【0018】
本発明では、吸着工程S4でキレート樹脂に吸着したスカンジウム及び不純物を効率的に分離するにあたり、まずは比較的小さい規定度の硫酸でアルミニウムを分離し、続いて、より高い規定度の硫酸でスカンジウムを分離し、その後、さらに高い規定度の硫酸でクロムを分離する。このように、本発明は、キレート樹脂に吸着した金属イオンの分離を3段階に分けたことを特徴としており、これにより、従来公知の方法に比べ、高品位のスカンジウムを効率よく回収できる。
【0019】
<浸出工程S1>
浸出工程S1では、スカンジウム、アルミニウム及びクロムを含有するニッケル酸化鉱を硫酸とともに加圧容器に装入し、高温高圧下で浸出液と浸出残渣とに固液分離する。
【0020】
浸出工程S1は、従来知られているHPALプロセスにしたがって行えばよく、例えば、特許文献1に記載されている。
【0021】
<中和工程S2>
中和工程S2では、浸出工程S1で得られた浸出液に中和剤を加え、中和澱物と中和後液とを得る。スカンジウムやニッケル等の有価金属は中和後液に含まれ、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分は中和澱物に含まれる。
【0022】
中和剤は従来公知のものであれば足り、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0023】
中和工程では、pHを1〜4の範囲に調整することが好ましい。pHが1未満であると、中和が不十分であり、中和澱物と中和後液とに分離できない可能性があるため、好ましくない。pHが4を超えると、アルミニウムをはじめとした不純物のみならず、スカンジウムやニッケル等の有価金属も中和澱物に含まれるため、好ましくない。
【0024】
<硫化工程S3>
硫化工程S3では、中和後液に硫化剤を添加し、硫化物と硫化後液とに分離する。ニッケル、コバルト及び亜鉛等は硫化物に含まれ、スカンジウム等は硫化後液に含まれる。
【0025】
硫化剤は従来公知のものであれば足り、例えば、硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等が挙げられる。
【0026】
<吸着工程S4>
吸着工程S4では、硫化後液を、イミノジ酢酸を官能基とするキレート樹脂に接触させてスカンジウムをキレート樹脂に吸着させる。
【0027】
ところで、pH範囲が低いほど、ニッケル酸化鉱に含まれる不純物の吸着量は少なくなる。そのため、できるだけ低いpH領域の液をキレート樹脂に通液することで、不純物のキレート樹脂への吸着を抑制できる。しかしながら、pHが2未満であると、不純物の吸着量だけでなく、スカンジウムの吸着量も少なくなる。そのため、極端に低いpH領域の液を樹脂に通液して吸着させるのは好ましくない。
【0028】
<アルミニウム除去工程S5>
アルミニウム除去工程S5では、吸着工程S4でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、吸着工程S4でキレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去する。
【0029】
アルミニウムを除去する際、pHを1〜2.5の範囲に維持することが好ましく、1.5〜2.0の範囲に維持することがより好ましい。pHが1未満であると、アルミニウムだけでなく、スカンジウムもキレート樹脂から除去されるため、好ましくない。pHが2.5を超えると、アルミニウムが適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0030】
<スカンジウム溶離工程S6>
スカンジウム溶離工程S6では、アルミニウム除去工程S5を経たキレート樹脂に1N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得る。
【0031】
スカンジウム溶離液を得る際、溶離液に用いる硫酸の規定度を0.3N以上3N未満の範囲に維持することが好ましく、0.5N以上2N未満の範囲に維持することがより好ましい。規定度が3N以上であると、スカンジウムだけでなく、クロムもスカンジウム溶離液に含まれてしまうため、好ましくない。規定度が0.3N未満であると、スカンジウムが適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0032】
<クロム除去工程S7>
クロム除去工程S7では、スカンジウム溶離工程S6を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、吸着工程S4でキレート樹脂に吸着したクロムを除去する。
【0033】
クロムを除去する際、溶離液に用いる硫酸の規定度が3Nを下回ると、クロムが適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0034】
<鉄除去工程>
また、図示していないが、ニッケル酸化鉱に、不純物として鉄が含まれている場合がある。この場合、アルミニウム除去工程S5に先立ち、吸着工程S4でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に、アルミニウム除去工程S5で使用する硫酸の規定度よりも小さい規定度の硫酸を接触させ、吸着工程S4でキレート樹脂に吸着した鉄を除去することが好ましい。
【0035】
鉄を除去する際、pHを1〜3の範囲に維持することが好ましい。pHが1未満であると、鉄だけでなく、スカンジウムもキレート樹脂から除去されるため、好ましくない。pHが3を超えると、鉄が適切にキレート樹脂から除去されないため、好ましくない。
【0036】
<スカンジウム溶離液のキレート樹脂への再吸着>
また、必須の態様ではないが、スカンジウム溶離工程S6で得たスカンジウム溶離液に中和剤を添加してpHを2以上4以下の範囲、好ましくはpH3を中心とした2.7〜3.3の範囲に調整し(工程S11)、次いで還元剤を添加し(工程S12)、次いで硫酸を添加してpHを1以上2.5以下の範囲、好ましくはpH2を中心とした1.7〜2.3の範囲に調整する(工程S13)ことでスカンジウム溶離液のpH調整後液を得、このpH調整後液を用いて上記吸着工程S4、上記アルミニウム除去工程S5及び上記スカンジウム溶離工程S6を再び行うことが好ましい。これらの工程を経ることで、回収されるスカンジウムの品位をいっそう高めることができる。また、スカンジウム溶離液からスカンジウムを分離する際の薬剤コストや設備規模を縮減できる。
【0037】
還元剤の添加は、酸化還元電位(ORP)が銀塩化銀電極を参照電極とする値で200mVを越えて300mV以下となる範囲に維持するように行うことが好ましい。還元剤として硫化剤を使用した場合、酸化還元電位が200mV以下であると、添加された硫化剤に由来する硫黄分が微細な固体として析出し、硫化後の濾過工程で濾布を目詰まりさせて固液分離を悪化させ生産性の低下原因となったり、キレート樹脂に再通液する際に、樹脂塔内で目詰まりや液流れの偏りを生じ均一な通液が行えない等の原因となり得る。一方、全ての還元剤において酸化還元電位が300mVを超えると、残留する鉄イオン等が樹脂に吸着しスカンジウムの吸着を阻害する等の問題を生じ得る。
【0038】
中和剤は従来公知のものであれば足り、例えば、炭酸カルシウム等が挙げられる。また、還元剤は従来公知のものであれば足り、例えば、硫化水素ガス、硫化ナトリウム等の硫化剤や二酸化硫黄ガス、ヒドラジン、金属鉄等が挙げられる。
【0039】
スカンジウム溶離液のキレート樹脂への再吸着を行うにあたり、キレート樹脂は、すでに使用したものを再使用してもよいし、新たなキレート樹脂を使用してもよいが、不純物のコンタミを防止する観点から、クロム除去工程S7を経たキレート樹脂を再使用するか、新たなキレート樹脂を使用することが好ましい。特に、クロム除去工程S7を経たキレート樹脂を再使用することで、不純物のコンタミを防止できるだけでなく、キレート樹脂の使用量を抑えられる。
【0040】
<スカンジウム溶離液の精製>
スカンジウム溶離工程S6によって得られたスカンジウム溶離液に対して再びスカンジウム溶離工程S6を行うことで、スカンジウム溶離液の濃度を高めることができる。
【0041】
スカンジウム溶離工程S6を数多く繰り返すほど、回収されるスカンジウムの濃度が高まるが、多く繰り返し過ぎても、回収されるスカンジウムの濃度の上昇の程度が小さくなるため、工業的には、スカンジウム溶離工程S6を繰り返す回数は8回以下であることが好ましい。
【0042】
<スカンジウムの回収>
スカンジウムは、スカンジウム溶離液にアルカリ又はシュウ酸を添加して沈澱物と沈澱後液とに分離し(工程S21)、次いで上記沈澱物を水で洗浄し、乾燥し、焙焼することで、酸化スカンジウムとして回収できる(工程S22)。
【0043】
[アルカリ又はシュウ酸の添加(工程S21)]
スカンジウム溶離液にアルカリを加える場合、アルカリは従来公知のものであれば足り、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等が挙げられるが、スカンジウム溶離液が硫酸溶液である場合、アルカリがカルシウム塩であると、中和によって石膏が生成されるため、アルカリは水酸化ナトリウムであることが好ましい。
【0044】
スカンジウム溶離液にアルカリを加える場合、工程S21では、pHを8以上9以下の範囲に調整することが好ましい。pHが8未満であると、中和が不十分であり、スカンジウムを充分に回収できない可能性があるため、好ましくない。pHが9を超えると、中和剤の使用量が増え、コストアップにつながるため、好ましくない。
【0045】
スカンジウム溶離液にシュウ酸を加えることで、アルカリを加える場合よりもいっそう高品位なスカンジウムを回収できる。シュウ酸の添加量は特に限定されるものでないが、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウム量に対して計算量で1.05倍以上1.2倍以下であることが好ましい。1.05倍未満であると、スカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムの全量を回収できない可能性があるため、好ましくない。1.2倍を超えると、コストアップにつながる可能性のほか、過剰なシュウ酸の分解に必要な酸化剤、例えば次亜塩素ソーダの使用量が増えるため、好ましくない。
【0046】
[洗浄・乾燥・焙焼(工程S22)]
スカンジウム溶離液を沈澱物と沈澱後液とに分離した後、該沈殿物を水で洗浄し、乾燥し、焙焼する。この工程を経ることで、極めて高品位な酸化スカンジウムを得ることができる。
【0047】
焙焼の条件は特に限定されるものでないが、例えば、管状炉に入れて約900℃で2時間程度加熱すればよい。
【0048】
本実施形態に記載の発明は、以下の発明も包含する。
【0049】
(1)スカンジウム、アルミニウム及びクロムを含有するニッケル酸化鉱を硫酸とともに加圧容器に装入し、高温高圧下で浸出液と浸出残渣とに固液分離する浸出工程と、前記浸出液に中和剤を加え、中和澱物と中和後液とを得る中和工程と、前記中和後液に硫化剤を添加し、ニッケル硫化物と硫化後液とに分離する硫化工程と、前記硫化後液を、イミノジ酢酸を官能基とするキレート樹脂に接触させて前記スカンジウムを前記キレート樹脂に吸着させる吸着工程と、前記吸着工程でスカンジウムを吸着したキレート樹脂に0.1N以下の硫酸を接触させ、前記吸着工程で前記キレート樹脂に吸着したアルミニウムを除去するアルミニウム除去工程と、前記アルミニウム除去工程を経たキレート樹脂に1N以上3N未満の硫酸を接触させ、スカンジウム溶離液を得るスカンジウム溶離工程と、前記スカンジウム溶離工程を経たキレート樹脂に3N以上の硫酸を接触させ、前記吸着工程で前記キレート樹脂に吸着したクロムを除去するクロム除去工程とを含む、スカンジウムの回収方法。
【0050】
(2)前記スカンジウム溶離液に中和剤を添加してpHを2以上4以下の範囲に調整し、次いで還元剤を添加し、次いで硫酸を添加してpHを1以上2.5以下の範囲に調整することでスカンジウム溶離液のpH調整後液を得、このpH調整後液を用いて前記吸着工程、前記アルミニウム除去工程及び前記スカンジウム溶離工程を再び行う、(1)に記載のスカンジウムの回収方法。
【0051】
(3)前記スカンジウム溶離液のpH調整後液を得、このpH調整後液を用いて前記吸着工程、前記アルミニウム除去工程及び前記スカンジウム溶離工程を行うサイクルを繰り返す、(2)に記載のスカンジウムの回収方法。
【0052】
(4)前記スカンジウム溶離液にアルカリを添加して沈澱物と沈澱後液とに分離し、次いで前記沈澱物を乾燥し、焙焼することで、酸化スカンジウムを得る、(1)から(3)のいずれかに記載のスカンジウムの回収方法。
【0053】
(5)前記スカンジウム溶離液にシュウ酸を添加して沈澱物と沈澱後液とに分離し、次いで前記沈澱物を乾燥し、焙焼することで、酸化スカンジウムを得る、(1)から(3)のいずれかに記載のスカンジウムの回収方法。
【0054】
(6)前記クロム除去工程を経たキレート樹脂を前記吸着工程で再び用いる、(1)から(5)のいずれかに記載のスカンジウムの回収方法。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0056】
<予備試験> 硫酸のpHと金属のキレート樹脂への吸着量との関係
【表1】
【0057】
硫酸のpHと金属のキレート樹脂への吸着量との関係を調べるため、表1に記載の金属の特級試薬を0.1〜3Nの硫酸に溶かし、その溶液を、イミノジ酢酸を官能基とするキレート樹脂(製品名:ダイヤイオン CR11,三菱化学(株)製)を充填したカラムに通液した。樹脂量は4mlとし、通液はSVが8となるように、毎分0.53mlの流量とし、240ml(Bed Volume:BV=60)まで通液した。金属は、スカンジウム(Sc),アルミニウム(Al),クロム(Cr),鉄(Fe)の4種類とし、溶液中の金属の濃度はそれぞれ0.3mmol/L、0.1mol/L、0.01mol/L、0.03mol/Lとした。また、濃硫酸に溶かした後の溶液は、消石灰を添加してpHを0.5,1.0,1.5,2.0,3.0,4.0の6種類に調整した上で上記カラムに通液した。また、液温は60℃とした。
【0058】
このときのキレート樹脂への付着量を、溶離液量と、溶離液に含まれる金属の濃度とを測定することによって算出した。結果を
図2に示す。
図2の横軸は、通液した金属含有溶液のpHを示し、縦軸(左)は、キレート樹脂1リットルに対する金属の吸着量を示す(単位:mmol/L)。また、
図2の縦軸(右)は、不純物の吸着量に対するスカンジウムの吸着量の比を示す。例えば、Sc/Alは、アルミニウムの吸着量に対するスカンジウムの吸着量の比を示し、Sc/Crは、クロムの吸着量に対するスカンジウムの吸着量の比を示し、Sc/Feは、鉄の吸着量に対するスカンジウムの吸着量の比を示す。
【0059】
図2によると、金属の種類によって、キレート樹脂に吸着するための好適なpHが異なることが分かる。例えば、金属が鉄であれば、比較的高いpHでキレート樹脂に吸着し易く、金属がアルミニウムであれば、金属が鉄である場合に次いで高いpHでキレート樹脂に吸着し易く、金属がスカンジウムであれば、金属がアルミニウムである場合に次いで高いpHでキレート樹脂に吸着し易く、金属がクロムであれば、最も低いpHでキレート樹脂に吸着し易いことが分かる。
【0060】
このことから、吸着工程S4の後、キレート樹脂に対し、pHが異なる硫酸溶液を段階的に通液することで、キレート樹脂から不純物を適切に除去し、かつ、スカンジウムを効率よく回収できるものと推察される。
【0061】
<実施例1> キレート樹脂に吸着したクロムの除去
〔浸出工程S1〕
まず、ニッケル酸化鉱を濃硫酸とともにオートクレーブに装入し、245℃の条件下で1時間かけてスカンジウムやニッケル等の有価金属を含有するスラリーを生成させ、このスラリーから上記有価金属を含有する浸出液と、浸出残渣とに固液分離した。
【0062】
〔中和工程S2〕
そして、この浸出液に炭酸カルシウムを添加してpHを1〜4の範囲に調整し、中和澱物と中和後液とを得た。スカンジウムやニッケル等の有価金属は中和後液に含まれ、アルミニウムをはじめとした不純物の大部分は中和澱物に含まれる。
【0063】
〔硫化工程S3〕
続いて、中和後液に硫化水素ガスを吹き込み、ニッケルやコバルトや亜鉛を硫化物として硫化後液と分離した。
【0064】
〔吸着工程S4〕
この硫化後液に中和剤として消石灰を添加してpHを1.6に調整した。この吸着液の組成は、Ni:0.036g/l,Mg:6.5g/l,Mn:2.8g/l,Fe:1g/l,Al:2.3g/l,Cr:0.037g/l,Sc:0.014g/lであった。次いで、この吸着液を、上記キレート樹脂CR11型を充填したカラムに通液した。樹脂量は4mlとし、通液はSVが8となるように、毎分0.53mlの流量とし、240ml(Bed Volume:BV=60)まで通液した。なお、液温は60℃とした。
【0065】
〔アルミニウム除去工程S5〕
次に、このキレート樹脂に、濃度0.1Nの硫酸溶液80mlを(SVが40となる)毎分2.7mlの流量で通液した。カラムから排出された残留したアルミの多い洗浄液は、アルミ洗浄液として貯液し、一部をサンプリングしてICPで分析した。
分析値は、Ni:7mg/l、Mg:1mg/l、Mn:4mg/l、Fe:1mg/l、Al:84mg/l、Sc:3mg/lであった。Cr、Caは下限以下であった。
【0066】
〔スカンジウム溶離工程S6〕
その後、キレート樹脂に、濃度1Nの硫酸溶液40mlを(SVが40となる)毎分8mlの流量で通液した。カラムから排出された溶離液は、スカンジウム溶離液として貯液しサンプリングして分析した。
分析値は、Ni:5mg/l、Fe:126mg/l、Al:4mg/l、Cr:10mg/l、Sc:43mg/lであった。Mn、Caは下限以下だった。単純計算したスカンジウム品位は、67%となる。
【0067】
〔クロム除去工程S7〕
最後に、キレート樹脂に、濃度3Nの硫酸溶液80mlを(SVが40となる)毎分2.6mlの流量で通液した。カラムから排出された洗浄液は、クロム洗浄液として貯液しサンプリングして分析した。
分析値は、Fe:2mg/l、Cr:30mg/lであった。Ni、Mg、Mn、Al、Ca、Scは下限以下であった。
【0068】
〔クロム除去工程S7を経たキレート樹脂の再利用〕
クロム洗浄後のキレート樹脂を、水40mlを毎分2.6mlの流量で流して洗浄し、上記吸着処理S4に反復して使用することを複数回繰り返した。その結果、上記吸着処理S4に反復して使用しても、新たなキレート樹脂に交換する場合と同程度に高品位のスカンジウムを回収できることが確認された。
【0069】
<比較例>
クロム除去工程S7を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ条件で工程S1〜S6を行った。そして、実施例1と同じ条件でキレート樹脂を再利用した。しかしながら、クロムがキレート樹脂から充分に溶離されていないため、実施例1に比べ、キレート樹脂へのスカンジウムの吸着量が低下し、実施例1に比べ、回収されるスカンジウムの品位が低下した。
【0070】
<実施例2> スカンジウム溶離工程S6で得たスカンジウム溶離液の再吸着
実施例1で得たスカンジウム溶離液のpHを3に調整し、次いで酸化還元電位が銀塩化銀電極を参照電極とする値で−200mV以下になるように、還元剤を添加し、次いでpHが1〜2.5の範囲になるように硫酸で調整した。
【0071】
次いで、上記実施例1と同じ種類のキレート樹脂4mlに、実施例1と同じ通液条件でスカンジウム溶離液を通液し、次いで実施例1と同じ0.1N、1N、3Nの濃度の硫酸溶液でそれぞれ洗浄・溶離し、再吸着アルミ洗浄液、再吸着スカンジウム溶離液、再吸着クロム溶離液を得た。
【0072】
再吸着アルミ洗浄液の組成はAlが3mg/l、Scが0.24g/lで、それ以外の上述の元素はいずれも下限以下だった。
再吸着スカンジウム溶離液の組成は、Feが1mg/l、Scが0.4g/lでそれ以外は下限だった。スカンジウム品位として99.8%の品位が得られた。
再吸着クロム溶離液の組成は、FeとScが共に1mg/lで、それ以外の元素はいずれも下限以下だった。
再吸着させることでスカンジウムの品位が向上することが確認された。
【0073】
<実施例3> スカンジウム溶離液の精製
スカンジウム溶離工程S6を複数回繰り返し、スカンジウム溶離液を精製した。すなわち、スカンジウム溶離工程S6によって得られたスカンジウム溶離液に対して再びスカンジウム溶離工程S6を行い、スカンジウムの濃度を高めた上で再度スカンジウム溶離液の組成を測定した。
【0074】
このときの結果を
図3に示す。
図3の横軸は、スカンジウム溶離工程S6を繰り返した回数を示し、縦軸は、繰り返し後のスカンジウム溶離液に含まれるスカンジウムの濃度を示す。なお、
図3の点線は、最小自乗法による近似直線である。
図3によると、スカンジウム溶離工程S6を数多く繰り返すほど、回収されるスカンジウムの濃度が高まるが、多く繰り返し過ぎても、回収されるスカンジウムの濃度の上昇の程度が小さくなるため、工業的には、スカンジウム溶離工程S6を繰り返す回数は8回以下であることが好ましいことが分かる。
【0075】
<実施例4> スカンジウム溶離液にシュウ酸を添加
上記の実施例1と同じ方法で得たスカンジウム溶離液に水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを8〜9の範囲に維持して水酸化スカンジウムの沈澱を生成させた。純水で洗浄し、固液分離し、次いで、回収した水酸化スカンジウムの沈澱物に塩酸を添加してスラリーのpHを1.0以上1.5以下の範囲に維持しつつ攪拌して沈澱物を完全に溶解し再溶解液を得た。
【0076】
次いで再溶解液に対し、再溶解液に含まれるスカンジウム量に対して計算量で2倍となるシュウ酸・2水和物(三菱ガス(株)製)の結晶を溶解し、60分攪拌混合してシュウ酸スカンジウムの白色結晶性沈殿を生成させた。そして、生成した白色結晶性沈殿を吸引濾過し、純水を用いて洗浄し、105℃で8時間乾燥させ、管状炉に入れて850〜900℃に維持して焙焼させることで、酸化スカンジウムを得た。
【0077】
続いて、酸化スカンジウムを、実施例1と同じ方法で焙焼し発光分光分析法によって分析した。その結果、不純物品位はニッケルが10ppm、鉄が20ppm、アルミニウムが10ppm、クロムが10ppmであり、得られた酸化スカンジウムが極めて高品位であることが確認された。