(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995145
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの表面処理方法、樹脂フィルムの成膜方法ならびに金属化樹脂フィルム基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/20 20060101AFI20160908BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20160908BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20160908BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20160908BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
C23C14/20 A
C23C14/14 G
C23C14/56 B
H05K1/03 670A
H05K3/00 R
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-94493(P2013-94493)
(22)【出願日】2013年4月26日
(65)【公開番号】特開2014-214365(P2014-214365A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】猪狩 敦
【審査官】
今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−086470(JP,A)
【文献】
特開平09−123343(JP,A)
【文献】
特開2001−243614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/20
C23C 14/14
C23C 14/56
H05K 1/03
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下にて、厚み10〜50μmの樹脂フィルムがロール状に巻回されている巻出ロールから前記樹脂フィルムを巻出してロールツーロールによる搬送中に前記樹脂フィルムの帯電電位を測定して、前記帯電電位が−7kV〜+7kVの範囲にある樹脂フィルムの少なくとも一方の面に表面処理を施し、巻取ロールに巻取ることを特徴とする樹脂フィルムの表面処理方法。
【請求項2】
ロール状に巻回されている前記樹脂フィルムが、少なくとも500m以上の長さを有することを特徴とする請求項1記載の樹脂フィルムの表面処理方法。
【請求項3】
前記表面処理が、スパッタリング法を用いた金属膜の成膜処理であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂フィルムの表面処理方法。
【請求項4】
樹脂フィルムの表面に接着剤を介することなく金属膜を備える金属化樹脂フィルム基板の製造方法であって、
前記樹脂フィルムの厚みが、10〜50μmであり、
減圧雰囲気下にて、樹脂フィルムがロール状に巻回されている巻出ロールから前記樹脂フィルムを巻出してロールツーロールによる搬送中に前記樹脂フィルムの帯電電位を測定して前記帯電電位が−7kV〜+7kVの範囲にある樹脂フィルムの少なくとも一方の面にスパッタリング法を用いた金属膜の成膜処理を施し、巻取ロールに巻取ることを特徴とする金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項5】
前記金属膜が、樹脂フィルム表面からNiまたはNi合金を含む下地金属膜、Cu膜と順に積層されていることを特徴とする請求項4記載の金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項6】
樹脂フィルムの表面に接着剤を介することなく金属膜を備える金属化樹脂フィルム基板の製造方法であって、
前記樹脂フィルムの厚みが10〜50μmであり、
減圧雰囲気下にて、樹脂フィルムがロール状に巻回されている巻出ロールから樹脂フィルムを巻出してロールツーロールによる搬送中に前記樹脂フィルムの帯電電位を測定し、前記帯電電位が−7kV〜+7kVの範囲にある樹脂フィルムの少なくとも一方の面にスパッタリング法を用いた金属膜の成膜処理を施し、巻取ロールに巻き取った後、湿式めっき法を用いて前記金属膜上にCu膜を積層することを特徴とする金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧雰囲気下で、ロール状に巻回された樹脂フィルムを巻出軸から巻き出してロールツーロールで搬送し、前記樹脂フィルムの少なくとも一方の面を表面処理し、前記樹脂フィルムを巻取軸に巻き取る樹脂フィルムの表面処理方法、樹脂フィルムの成膜方法ならびに金属化樹脂フィルム基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、樹脂フィルム上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線板が用いられている。このフレキシブル配線板は、樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属化樹脂フィルム基板にパターニング処理を施すことによって作製されるが、近年は配線パターンがますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属化樹脂フィルム基板にはキズ、シワ等のない平滑なものが求められている。
【0003】
このような金属化樹脂フィルム基板の製造方法は、従来、金属箔を接着剤により樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)が用いられ、さらに、樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が使用され、このメタライジング法に用いる真空成膜法には、減圧雰囲気下で行う真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
このメタライジング法について、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングして導体層を形成する方法が記載されている。
また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングによる第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングによる第二の金属薄膜とがポリイミドフィルム上に成膜されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。
これらスパッタリング法による成膜は、一般に密着力に優れる反面、他の真空蒸着法に比べて基材としての樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。
【0005】
そこで、上記ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムに対して真空成膜法により成膜を行って金属化樹脂フィルム基板を作製する工程では、キャンロールを備えたスパッタリングウェブコータが一般的に使用されている。
この装置は、内部に冷媒を循環させたキャンロールにロールツーロールで搬送される樹脂フィルムを巻き付けながらスパッタリングを行うもので、表面側の成膜により樹脂フィルムに生じる熱を裏面側から直ぐに冷却することができるため、成膜の際の熱負荷の悪影響を抑えることができ、よってシワの発生を効果的に防いでいる。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。
この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されている。更に、クーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側にサブロールが設けられており、これにより樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
ところで、スパッタリングウェブコータを用いた真空成膜法では、減圧雰囲気下の成膜装置内で、帯電した樹脂フィルムをロールツーロールで搬送する場合に、樹脂フィルムと成膜装置の金属製の部品との間で意図しない放電(以降異常放電と呼ぶ)が発生することがある。
この異常放電は樹脂フィルムの表面や成膜後の膜を傷つけ、製品の品質を害したり、場合によっては連続した成膜を維持できなくなることもある。また異常放電が発生すると、連続した成膜を維持できない場合だけでなく、樹脂フィルムの表面や成膜後の膜を傷つけた場合でも製品としては不適であるため、いずれにしても装置を停止させなければならず、生産性も大きく損なわれる。
【0008】
このような成膜中の樹脂フィルムの帯電は、ロールツーロールで搬送中に成膜装置内で発生する場合と、巻出軸に取り付けられる成膜前の樹脂フィルムが既に帯電している場合の2種類の状態があることが知られている。
前者に対して、例えば特許文献4には、スパッタリングにて帯電するのを防止するために、成膜装置において成膜部と巻取部の間に除電装置を配置することが開示されている。この技術は、成膜中の帯電には有効であるが、後者のように成膜前のロール状に巻回されている樹脂フィルム(以降単に樹脂フィルムロールと呼ぶ)が既に帯電している場合にはその効果が低減され、成膜装置内での放電を回避できない場合もある。
【0009】
一般に樹脂フィルムロールは、その製造過程で帯電している場合があり、さらにこの帯電は長尺になる程顕著になる傾向を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特開平6−97616号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】特開2004−256885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明の課題とするところは、減圧雰囲気下で樹脂フィルムを搬送する際の異常放電を防ぎ、長尺の樹脂フィルムであっても、樹脂フィルムや成膜された膜を害さない樹脂フィルムの表面処理方法、樹脂フィルムの成膜方法ならびに金属化樹脂フィルム基板の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する本発明の第1の発明は、減圧雰囲気下にて、
厚み10〜50μmの樹脂フィルムがロール状に巻回されている巻出ロールから樹脂フィルムを巻出してロールツーロールによる搬送中に前記樹脂フィルムの帯電電位を測定して、その帯電電位が−7kV〜+7kVの範囲にある樹脂フィルムの少なくとも一方の面に表面処理を施し、巻取ロールに巻取ることを特徴とする樹脂フィルムの表面処理方法である。
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明におけるロール状に巻回された樹脂フィルムが、少なくとも500m以上の長さを有することを特徴とする樹脂フィルムの表面処理方法である。
【0014】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における表面処理が、スパッタリング法を用いた金属膜の成膜処理であることを特徴とする樹脂フィルムの表面処理方法である。
【0015】
本発明の第4の発明は、樹脂フィルムの表面に接着剤を介することなく金属膜を備える金属化樹脂フィルム基板の製造方法であって、
その樹脂フィルムの厚みが、10〜50μmであり、減圧雰囲気下にて、樹脂フィルムがロール状に巻回されている巻出ロールから樹脂フィルムを巻出してロールツーロールによる搬送中に、その樹脂フィルムの帯電電位を測定して、その帯電電位が−7kV〜+7kVの範囲にある樹脂フィルムの少なくとも一方の面にスパッタリング法を用いた金属膜の成膜処理を施し、巻取ロールに巻取ることを特徴とする金属化樹脂フィルム基板の製造方法である。
【0016】
本発明の第5の発明は、第4の発明における金属膜が、樹脂フィルム表面からNiまたはNi合金を含む下地金属膜、Cu膜と順に積層されていることを特徴とする金属化樹脂フィルム基板の製造方法である。
【0017】
本発明の第6の発明は、樹脂フィルムの表面に接着剤を介することなく金属膜を備える金属化樹脂フィルム基板の製造方法であって、
その樹脂フィルムの厚みが、10〜50μmであり、減圧雰囲気下にて、樹脂フィルムがロール状に巻回されている巻出ロールから樹脂フィルムを巻出してロールツーロールによる搬送中に、その樹脂フィルムの帯電電位を測定して、その帯電電位が−7kV〜+7kVの範囲にある樹脂フィルムの少なくとも一方の面にスパッタリング法を用いた金属膜の成膜処理を施し、巻取ロールに巻き取った後、湿式めっき法を用いて金属膜上にCu膜を積層することを特徴とする金属化樹脂フィルム基板の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、減圧雰囲気下の表面処理装置内で樹脂フィルムからの放電が発生しないので、樹脂フィルムや表面処理により成膜された膜を傷つけることがなく、製品の品質が向上する。
また放電による装置停止もなく、樹脂フィルムの長尺化が可能となるため、生産性の向上にも寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ロールツーロール方式による樹脂フィルムの表面に成膜する装置の一具体例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の樹脂フィルムの表面処理方法の実施形態の一例として、
図1に示すような、減圧容器内においてロールツーロール方式で連続的に搬送される樹脂フィルムにスパッタリングにより成膜を行う真空成膜装置を取り上げて具体的に説明する。
図1において、この成膜装置(スパッタリングウェブコータ)1は、真空チャンバー10内で、樹脂フィルムが巻回された樹脂フィルムロールの巻出ロール2から巻き出された樹脂フィルムFを、キャンロール3に巻き付けて冷却しながら所定の成膜処理を施した後、巻取ロール4で巻き取るようになっている。
【0021】
真空チャンバー10内は、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されており、これら装置により到達圧力10
−4Pa程度まで減圧された後、スパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度に圧力調整する。
このスパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用される。
真空チャンバー10の形状や材質については、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0022】
巻出ロール2からキャンロール3までの搬送経路には、キャンロール3の外周面に密着させて樹脂フィルムFを搬送させるように、樹脂フィルムFを案内するフリーロール11、張力の測定を行う張力センサロール12、キャンロール3の周速に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール13等を適宜配置することにより樹脂フィルムを搬送する。
キャンロール3から巻取ロール4までの搬送経路にも、上記と同様に、モータ駆動のフィードロール13、張力センサロール12、フリーロール11を適宜配置する。
【0023】
キャンロール3の外周面に対向する位置には、樹脂フィルムFの搬送経路に沿って板状のマグネトロンスパッタリングカソード6、7、8、9が設けられ、これにより樹脂フィルムFの表面上に金属膜のスパッタリング成膜が施された金属化樹脂フィルムS(場合によっては金属化樹脂フィルム基板)が形成される。
【0024】
なお、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、これが問題になる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用してもよい。また、成膜装置1で施される熱負荷のかかる処理がスパッタリング処理以外の例えばCVD(化学蒸着)や真空蒸着などの真空成膜処理である場合は、マグネトロンスパッタリングカソード6、7、8、9に代えて他の真空成膜手段が設けられる。
【0025】
上記ロールツーロールの表面処理装置で使用される樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような樹脂フィルムや、ポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムが挙げられる。
特に、金属化樹脂フィルム基板に用いる樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が挙げられる。
【0026】
これらの樹脂フィルムは、柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から、フレキシブル配線板を製造するのに用いられる金属化樹脂フィルム基板として適している。またその厚みも用途に応じて適宜選択されるが、主として10〜50μmのものが使われる。
【0027】
成膜装置1(スパッタリングウェブコータ)を用いて樹脂フィルムに金属膜をスパッタリング成膜することによって、高品質の金属化樹脂フィルムが得られる。例えば、樹脂フィルムの表面に下地金属膜と呼ばれるNiもしくはNi合金等からなる膜と、さらに下地金属膜の表面にCu膜とが積層された高品質な金属化樹脂フィルムを作製することができる。
【0028】
ここで下地金属膜は、Ni金属またはNi−Cr合金、インコネル、コンズタンタンやモネル等の各種公知のNi合金を用いることができるが、その組成は金属化樹脂フィルム基板の電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて選択される。
Cu膜はシード層と呼ばれ、スパッタリング成膜で得られる金属膜を更に厚くするために、湿式めっき法を用いてCuの金属膜を更に積層してもよい。
【0029】
下地金属膜及びCu膜の膜厚は、それぞれ下地金属膜が3〜50nm、Cu膜が0.01〜1μmが好ましい。なお、湿式めっき法を用いるときは、電気めっき処理のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとしての無電解めっき処理及び二次めっきとしての電解めっき処理等のように湿式めっき法を組み合わせて行う場合とがある。
湿式めっき法を用いて積層されるCuの金属膜の膜厚は、後述するフレキシブル配線板のパターンニング方法に応じて適宜選択されるが、スパッタリング成膜で得られるCu膜と合わせて0.5〜12μmが好ましい。かかる湿式めっき処理には、一般的な湿式めっき法の諸条件を採用することができる。
【0030】
このようにして得られた金属化樹脂フィルム基板に対して、サブトラクティブ法またはセミアディティブ法等を用いてパターンニングすることによって、液晶テレビ、携帯電話等に使用されるフレキシブル配線板が得られる。
ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(上記Ni合金等からなる膜とCu膜)をエッチングにより除去してパターンニングを行い、フレキシブル配線板を製造する方法である。一方セミアディティブ法とは、レジストで覆われていないCu膜に湿式めっき法でCu膜を積層してパターンニングを行い、レジストを除去後、Cu膜を積層した以外の上記金属層をエッチングにより除去して、フレキシブル配線板を製造する方法である。
【0031】
以上、成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を例に挙げて、樹脂フィルムにNi合金等やCu等の金属膜を積層する場合について説明したが、本発明に係わる成膜装置は、かかる金属化樹脂フィルムの作製の用途に限定されるものでなく、金属膜以外に酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜にも好適に用いることができる。
【0032】
また、本発明の成膜装置(スパッタリングウェブコータ)は、上述した成膜処理のほか、成膜の前処理としてプラズマ処理やイオンビーム処理を付加することもできる。これらプラズマ処理やイオンビーム処理は、成膜する膜と樹脂との密着性を向上させる目的で表面改質をしたり、特に金属膜の成膜では樹脂に含まれる水分を低減させて、金属膜の腐食を防止する目的で行われる。
【0033】
もちろん本発明の表面処理方法は、真空成膜処理に限定されることはなく、例えば成膜処理に付加できるとした上記プラズマ処理やイオンビーム処理を単独で行う装置など、樹脂フィルムに対して、減圧雰囲気下にてロールツーロール方式で搬送する種々の表面処理にも適用できることは言うまでもない。
【0034】
次に樹脂フィルムの帯電について説明する。
一般にプラスチックと呼ばれる樹脂フィルムは絶縁体であり、金属などの導電体と比較して帯電しやすい性質を持っている。
この静電気の発生メカニズムとしては異物質間の接触・摩擦・剥離などが有名であるが、同物質間であっても摩擦により電荷が発生する。発生した電荷が物質上に留まると帯電した状態となり、静電気が発生する。
ある樹脂フィルムの一方の表面に例えば正の電荷が存在する場合、樹脂フィルムは誘電体であるのでもう一方の表面は負の電荷が存在して分極した状態となる。この樹脂フィルムに別の樹脂フィルム表面と接触させると、別の樹脂フィルムでは接触面側で反対の電荷(この場合は負の電荷)が生じ、接触面と反対側の面では正の電荷に分極してフィルム同士の電荷は安定化すると考えられる。
【0035】
樹脂フィルムロールの製造、もしくはこの樹脂フィルムロールを用いた製造工程では、ロールツーロールによる搬送において、樹脂フィルムがローラーと接触しながら動くこと、樹脂フィルムとローラー、及び樹脂フィルム同士が接触して剥離することなどの摩擦が発生する場面にて、樹脂フィルムが帯電して静電気が発生する。
つまり、ロールツーロールによる搬送は、樹脂フィルムにとって帯電しやすい摩擦や剥離といった現象を絶え間なく発生させるものであり、前述したとおり、樹脂フィルム上には動きにくい電荷が存在していることから、特にローラーとの接触、剥離で帯電する場合には、ロールに巻き取る前にイオンブロアーなどの除電などの対策をとらなければ帯電電位の高い樹脂フィルムロールとなる。
【0036】
さらに樹脂フィルムロールの帯電電位が高いのは、積層コンデンサーに類似した形状のためと考えられる。
一般に、積層コンデンサーの静電容量を増加させるには、誘電体を何層も積層させて電極面積を大きくする。同様に樹脂フィルムは絶縁体であるから、樹脂フィルムを何重にも積み重ねれば、それだけフィルム同士が接触する面積は大きくなり、接触面積が大きくなるほどロールへの巻取り、ロールからの巻出しにより帯電量が蓄積していく。また、樹脂フィルムが長ければ長いほどロールを何重にも巻く必要があり、これも接触面積が大きくなって帯電電位が高くなる原因となる。
【0037】
樹脂フィルムロールから樹脂フィルムを巻出すと、ロールに蓄積した電荷は樹脂フィルム全長にわたって均等に帯電していることはなく、巻出し開始時の樹脂フィルムは帯電電位の絶対値は極めて小さく、巻出しが進むにつれて徐々に帯電電位の絶対値は増し、巻出し終了直前の樹脂フィルムの帯電電位の絶対値が最大となる傾向がある。
巻出す行為自体が新たに帯電量を蓄積させる要因であることもこのような傾向を示す一要因ではあるが、主要因は巻出す時に残されたロール側に電荷が移行して電気的安定性を維持するためではないかと考えられる。
【0038】
減圧雰囲気下においてロールツーロールで搬送する表面処理では、樹脂フィルムと成膜装置の金属製の部品との間で発生する異常放電は、装置の装着した巻出し側の樹脂フィルムが残り少なくなる時に発生し、かつ樹脂フィルムロールが長尺になる程異常放電が発生しやすくなるのは以上説明した理由によるものである。
この異常放電を防止するための手段として、表面処理前に除電部を介することが考えられるが、減圧雰囲気下であることから例えばイオンブロアー等の既存の除電装置は設置が不可能であったり、能力を制限しなければならないなど、様々な制約がある。
【0039】
従って異常放電を防止するためには、表面処理を施す樹脂フィルム自体の帯電電位に制限を加えることが有効である。
発明者は試験により、樹脂フィルムの帯電電位が全長にわたって−7kV〜+7kV(絶対値で7kV以内)の範囲であれば、確実に異常放電を防止できることを見出した。この帯電電位は、ロール状に巻回された樹脂フィルムロール表面の値ではなく、樹脂フィルムロールから巻出された樹脂フィルム表面の値であり、前述の通り巻出し終了直前の樹脂フィルムの帯電電位が異常放電を防止するうえで特に重要である。
【0040】
樹脂フィルムの帯電電位測定に際しては、巻出す時に発生する帯電の影響も加味する必要があるため、例えば
図1のセンサー5のように、樹脂フィルムが巻出ロールに巻回されている樹脂フィルムロールから巻出した後、キャンロール3までの搬送経路のある通過点で測定するのが望ましい。
また帯電電位の絶対値が低い樹脂フィルムロールを製造するためには、特定の製造方法を用いることはなく、公知の帯電を防止する手段、除電する手段を組み合わせればよい。
【0041】
樹脂フィルムの長さに関係なく帯電電位が、上記範囲外であれば異常放電を起こすことがあるのは言うまでもないが、生産性を考えれば樹脂フィルムの長さは少なくとも500m以上であることが望ましい。もちろんさらに長尺になればなるほど生産性は向上するが、長尺になる程樹脂フィルムロールの径、重量が増し取扱いに注意を要すること、樹脂フィルム製造時の巻取り張力による巻締まりにより巻出し安定性が低下する等を考慮すると自ずと限界があり、概ね5000m程度が上限となる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
長尺の樹脂フィルムFには、除電処理を行った市販のポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製ユーピレックス(登録商標)35SGA)で長さ2000m、幅500mm、厚さ35μmのものを用意した。
この樹脂フィルムの処理装置には、
図1に示すようなロールツーロール方式の成膜装置1を使用した。
【0044】
用意したポリイミドフィルムは巻出ロール2に配置し、マグネトロンスパッタリングカソード6にはニッケル−クロムからなる合金ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)を下地金属膜用として配置し、マグネトロンスパッタリングカソード7、8、9には銅ターゲット(住友金属鉱山株式会社製)をCu膜用として配置した。
【0045】
始めに、図示しないドライポンプを用いて5Paまで排気し、次にターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて1×10
−4Paまで排気し、各スパッタリングカソード近傍にアルゴンガスをそれぞれ200sccm導入した。ポリイミドフィルムを2m/min.で搬送させながらスパッタリング法により成膜を行い、厚み15nmの下地金属膜と厚み100nmのCu膜とを得て、異常放電の発生なく用意した2000mのポリイミドフィルム全量の成膜を終えた。
【0046】
また成膜しながら、巻出しロール2とキャンロール3の経路中に配置されているフリーロール11と張力センサロール12間に設置したセンサー5にて帯電電位を測定した。
成膜処理終了直前の電位は−6.8kVであった。
処理長に対する電位測定結果を
図2に示す。
【実施例2】
【0047】
長さ1500mの除電処理を行った市販のポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製ユーピレックス(登録商標)35SGA)を用意した以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行い、異常放電の発生なく全量の成膜を終えた。
センサー5で測定した成膜処理終了直前の電位は−3.4kVであった。
【0048】
(比較例1)
長さ2000mの除電処理を行っていない市販のポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製「ユーピレックス(登録商標)35SGA」)を用意した以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
比較例1では処理開始より1750mを超えた時点で異常放電が発生し、装置の稼働を停止させた。
【0049】
成膜装置1内で搬送中のポリイミドフィルムの表面を検査すると、放電痕による傷が見出された。
センサー5で測定した異常放電が発生する直前の電位は、−8.8kVであった。
異常放電が発生するまでの処理長に対する電位測定結果を
図3に示す。
【0050】
(比較例2)
長さ1500mの除電処理を行っていない市販のポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製「ユーピレックス(登録商標)35SGA」)を用意した以外は、実施例1と同じ条件で成膜を行った。
比較例2では処理開始より1150mを超えた時点で異常放電が発生し、装置の稼働を停止させた。
【0051】
成膜装置1内で搬送中のポリイミドフィルムの表面を検査すると、放電痕による傷が見出された。
センサー5で測定した異常放電が発生する直前の電位は−7.8kVであった。
【0052】
以上より、
図2及び
図3も参照すれば、異常放電が発生していない実施例1及び実施例2は、センサー5で測定された帯電電位が、ポリイミドフィルム全長にわたって−7kV〜+7kVの範囲内であるのに対し、異常放電を起こした比較例1及び比較例2では、異常放電を起こす直前に電位が−7kV〜+7kVの範囲を超えていることが分かる。
さらに異常放電は、ポリイミドフィルムの長さには依存していないことも分かる。
【符号の説明】
【0053】
1 成膜装置(スパッタリングウェブコータ)
2 巻出ロール
3 キャンロール
4 巻取ロール
5 センサー
6、7、8、9 マグネトロンスパッタリングカソード
10 真空チャンバー
11 フリーロール
12 張力センサロール
13 モータ駆動のフィードロール
F 樹脂フィルム
S 金属化樹脂フィルム