【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明する。
【0047】
〔試験方法〕
<ポリリン酸の定量>
培養液0.2〜1.0mLを15,000rpmで10分間遠心分離し、菌体又は上清を回収した。これに350μLの4Mグアニジンイソチオシアン酸(GITC)(50mM Tris・HCl(pH7.4)溶液)を加えて懸濁した。懸濁液を90℃にて2分間加熱した後、3分間超音波処理することにより菌体を破壊した。50μLをタンパク質定量用に別のチューブに取り分けた後、再度90℃にて2分間加熱した。懸濁液に30μLの10%SDS、300μLの100%エタノールを加えボルテックスミキサーでよく混合し、90℃にて2分間加熱した。3μL のGlass milkを加え懸濁した後、5分間室温で静置し、ポリリン酸をGlass milkへ吸着させた。15,000rpmで10秒間遠心分離し、上清を除いた後、300μLのNEW WASH液にて2回Glass milkを洗浄した。Glass milkに吸着したDNA、RNAを除去するために、Glass milkに20μg/mLのDNase、RNaseを加え、37℃にて15分以上静置しDNA、RNAを分解した。その後、150μLのGITC及び150μLのエタノールを添加し、ボルテックスミキサーでよく混合した。15,000rpmで10秒間遠心分離し上清を除いた後、300μLのNEW WASH液にて2回Glass milkを洗浄した。回収したGlass milkに蒸留水100μLを加え、ボルテックスミキサーでよく混合した後、90℃にて2分間加熱した。その後、15,000rpmにて3分間遠心分離した後、上清のポリリン酸抽出液を回収した。得られた抽出液に含まれるポリリン酸をポリリン酸キナーゼによりADPと反応させることでATPへ変換し、生じたATPを化学発光により定量した。ポリリン酸キナーゼ反応の組成を下記表1及び表2に示す。
【0048】
【表1】
【表2】
【0049】
<リン酸イオン濃度の測定>
希釈したサンプル1mLに対して200μLのリン酸定量試薬(アスコルビン酸0.264g,蒸留水4.5mL,5N H
2SO
4 7.5mL,酒石酸アンチモニルカリウム溶液(2.74g/L)0.75mL,モリブデン酸アンモニウム溶液(40g/L)2.25mL)を添加し、室温で10分間以上静置した。880nmでの吸光度を測定し、リン酸標準液の測定にて得た検量線から、サンプルのリン酸イオン濃度を測定した。
【0050】
〔実施例1:各種乳酸菌によるポリリン酸産生試験〕
表3に示す各種乳酸菌株について、リン酸飢餓状態からのリン酸添加によるポリリン酸産生能を評価した。
【表3】
【0051】
表3に示す各種乳酸菌株を、表4に示すリン酸二水素カリウム非添加のSP培地に5×10
7CFU/mlとなるように播種し、37℃にて24時間予備培養し、リン酸飢餓状態に誘導した。次いで、リン酸イオン濃度が500mM増加するように、予備培養後の培地にリン酸二水素カリウム水溶液を添加した(0時間)。37℃で24時間本培養し、0時間、6時間及び24時間後に培養液を一部回収し、菌体中のポリリン酸濃度を測定した。結果を
図1及び2に示す。
【0052】
図1は、ポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))を示すグラフである。意外なことに、ラクトバチラス・パラカゼイに属する菌株(8207)及びラクトバチラス・プランタルムに属する乳酸菌(8259)でのみポリリン酸蓄積量の顕著な増加が認められた。特に、ラクトバチラス・パラカゼイに属する菌株(8207)は、ポリリン酸蓄積量の絶対値も大きかった(
図1)。
【0053】
図2は、6時間及び24時間でのポリリン酸蓄積量を、0時間でのポリリン酸蓄積量に対する比で表したグラフである。ラクトバチラス・パラカゼイに属する菌株(8207)及びラクトバチラス・プランタルムに属する乳酸菌(8259)でポリリン酸の蓄積が顕著に促進されていた。特に、ラクトバチラス・プランタルムに属する乳酸菌(8259)で、ポリリン酸産生促進効果が高かった(
図2)。
【0054】
〔実施例2:各種培地におけるポリリン酸産生試験〕
MRS培地、RB2P培地、及びSP培地を用い、SBC8207株のポリリン酸産生能を試験した。MRS培地、RB2P培地、及びSP培地の組成を下記表4に示す。なお、RB2P培地及びSP培地ではリン酸二水素カリウム非添加培地及び2g/L添加培地を調製した。それぞれの培地のリン酸含量(リン酸二水素カリウム添加前)はMRS培地15.7mM、RB2P培地26.3mM、及びSP培地1.2mMであった。
【表4】
【0055】
SBC8207株を上記各種培地で37℃にて12時間培養し、ポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))を測定した。結果を
図3に示す。
【0056】
培地のリン酸イオン濃度が低い方がポリリン酸蓄積量が高い傾向があった(
図3)。特に、リン酸非添加のSP培地において最もポリリン酸蓄積量が高く、MRS培地におけるポリリン酸蓄積量と比べて約2倍高かった(
図3)。
【0057】
〔実施例3:培地交換によるポリリン酸産生試験〕
SBC8207株を、表4に示すリン酸二水素カリウム非添加のSP培地で37℃にて予備培養し、培地中のリン酸イオン濃度がほぼ0mMに到達した後(約5時間)、遠心分離により菌体と予備培養後の培地を分離し、菌体を表4に示すMRS培地(予備培養培地と等量)に再懸濁した(0時間)。次いで、37℃にて本培養した。定期的に菌体を回収し、ポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))を測定した。また、同じサンプルについて、培地中のリン酸イオン濃度(P
i conc.(mM))及び乳酸菌数(OD
600値)を測定した。結果を
図4に示す。
【0058】
実施例2の結果に示したようにリン酸非添加SP培地でのポリリン酸産生量は元々高いが、リン酸飢餓状態にあるSBC8207株を高リン酸培地に培地交換することにより(
図4中、点線で示した時点)、ポリリン酸蓄積量の増加(オーバー・プラス効果)が認められた(
図4)。
【0059】
〔実施例4:リン酸又はその塩の添加によるポリリン酸産生試験〕
実施例3と同様にしてSBC8207株を予備培養し、リン酸飢餓状態に誘導した。次いで、培地中のリン酸イオン濃度が0mM、20mM、100mM及び500mM増加するように、予備培養後の培地にリン酸二水素カリウム水溶液を添加し、37℃にて本培養した。実施例3と同様に、ポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))、培地中のリン酸イオン濃度、及び乳酸菌数を測定した。結果を
図5に示す。
【0060】
リン酸飢餓状態にあるSBC8207株にリン酸又はその塩を添加することにより(
図5中、点線で示した時点)、培地交換した場合と同様、ポリリン酸蓄積量の増加(オーバー・プラス効果)が認められた(
図5)。特に、リン酸イオン濃度が100mM又は500mM増加するように添加した場合に、極めて顕著にポリリン酸蓄積量が増加した(
図5)。
【0061】
〔実施例5:各種培地におけるリン酸又はその塩の添加によるポリリン酸産生試験〕
SBC8207株を、表4に示すMRS培地、又は表4に示すリン酸二水素カリウム非添加のSP培地で37℃にて予備培養した。SP培地のリン酸イオン濃度がほぼ0mMに到達した時点で、それぞれの培養液にリン酸イオン濃度が0mM、50mM及び500mM増加するように、リン酸二水素カリウム水溶液を添加し、37℃にて本培養した。実施例3と同様に、ポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))、培地中のリン酸イオン濃度、及び乳酸菌数を測定した。結果を
図6に示す。
【0062】
SP培地で予備培養したSBC8207株は、リン酸二水素カリウム水溶液の添加により(
図6中、点線で示した時点)、ポリリン酸蓄積量の増加(オーバー・プラス効果)が認められた(
図6)。一方、MRS培地で予備培養したSBC8207株は、リン酸二水素カリウム水溶液の添加によるポリリン酸蓄積量の増加(オーバー・プラス効果)は認められなかった(
図6)。18時間の時点で、SP培地で予備培養した場合のポリリン酸蓄積量は、MRS培地で予備培養した場合の約3.4倍にも達した。MRS培地で予備培養したSBC8207株は、リン酸二水素カリウム水溶液を添加する時点で培地中のリン酸イオン濃度が高く、リン酸飢餓状態に到っていなかったためであると考えられる。
【0063】
〔実施例6:各種リン酸イオン濃度におけるポリリン酸産生試験〕
培地中のリン酸イオン濃度が0mM、5mM、50mM、100mM、250mM及び500mM増加するように、予備培養後の培地にリン酸二水素カリウム水溶液を添加したこと以外は、実施例4と同様にして、ポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))、培地中のリン酸イオン濃度、及び乳酸菌数を測定した。結果を
図7に示す。
【0064】
5mMではほとんどオーバー・プラス効果は認められなかったものの、50mMを超えるとオーバー・プラス効果が認められた(
図7)。特に、250mMで顕著なポリリン酸蓄積量の増加が認められた(
図7)。
【0065】
〔実施例7:産生されたポリリン酸の分布解析〕
8207株、8841株及び8803株を、Difco Lactobacilli MRS Broth(商品名:Becton, Dickinson and Company社製)で37℃にて、24時間培養した。培養開始から12時間後及び24時間後に培養液を回収して、培養上清中のポリリン酸蓄積量(nM)、及び菌体中のポリリン酸蓄積量(nmol/mg)(菌体粉砕物に含まれる総タンパク質1mgあたりのポリリン酸含有量(nmol/mg−タンパク質))を測定した。結果を
図8に示す。
【0066】
菌体内及び菌体外(培養上清)のポリリン酸蓄積量には、乳酸菌の種類によらず、連動性が認められた(
図8(A)及び(B))。
図8(C)は、菌体内外のポリリン酸総量に対する菌体外ポリリン酸比を計算した結果である。ポリリン酸総量のうち約数%〜20%弱程度のポリリン酸が菌体外に分泌されていた(
図8(C))。すなわち、ポリリン酸総量のうち約80%以上のポリリン酸が菌体内に蓄積されており、ポリリン酸蓄積乳酸菌それ自体をポリリン酸源として使用することができる。