(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995175
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】超音速気流によるアルミナ、マグネシアの還元方法
(51)【国際特許分類】
C22B 21/00 20060101AFI20160908BHJP
C22B 9/22 20060101ALI20160908BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
C22B21/00
C22B9/22
C22B26/22
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-531515(P2014-531515)
(86)(22)【出願日】2013年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2013056417
(87)【国際公開番号】WO2014030369
(87)【国際公開日】20140227
【審査請求日】2015年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-183356(P2012-183356)
(32)【優先日】2012年8月22日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 i)国立大学法人東京大学発行の刊行物である修士論文に掲載され、平成24年 7月13日に同大学工学部図書館にて閲覧可能な状態に置かれた。 ii)2012年(平成24年)3月9日、プラズマ応用科学会発行の刊行物である「Plasma Application and Hybrid Functionally Material予稿集Vol.21」に発表した。
(73)【特許権者】
【識別番号】591040018
【氏名又は名称】日本エクス・クロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】公立大学法人首都大学東京
(74)【代理人】
【識別番号】100111224
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 攻治
(72)【発明者】
【氏名】荒川 義博
(72)【発明者】
【氏名】中野 正勝
(72)【発明者】
【氏名】松井 信
(72)【発明者】
【氏名】後藤 徹也
【審査官】
池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−047502(JP,A)
【文献】
特開昭52−074515(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/081834(WO,A1)
【文献】
荒川義博他,アルミニウムを用いたエネルギー循環システムの技術開発,プラズマ応用科学,日本,プラズマ応用科学会,2012年,vol.20,No.1,p3-8,ISSN:13403214
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段を用いてアルミナ粉末又はマグネシア粉末を加熱しプラズマ状態としてアルミニウム又はマグネシウムと酸素に熱解離するステップと、
プラズマ状態となったガスをノズルから超音速で噴出して凍結流とすることによりアルミニウム又はマグネシウムを単離するステップと、
を含むことを特徴とするアルミナ又はマグネシアの還元方法。
【請求項2】
還元装置に設けられるスロート部の上流側にアルミナ粉末又はマグネシア粉末をキャリアガスと共に導入し、同じくスロート部の上流側に導入された作動ガスによってこれをスロート部に圧送し、加熱手段によりスロート部を加熱してアルミナ又はマグネシアを熱解離した後これをスロート部下流のノズルから超音速気流として噴出する、請求項1に記載のアルミナ又はマグネシアの還元方法。
【請求項3】
前記作動ガス中に水素を加え、水素の作用によりアルミナ又はマグネシアの還元を促進する、請求項2に記載のアルミナ又はマグネシアの還元方法。
【請求項4】
スロート部の上流側に導入されるアルミナ粉末又はマグネシアの量を制御するステップをさらに含む、請求項2に記載のアルミナ又はマグネシアの還元方法。
【請求項5】
単離したアルミニウム又はマグネシウムを冷却管の中に導き、該冷却管の内部に堆積させてアルミニウム又はマグネシウムを回収するステップ、もしくは単離したアルミニウム又はマグネシウムをフィルタ装置を用いて回収するステップのいずれかをさらに含む、請求項2に記載のアルミナ又はマグネシアの還元方法。
【請求項6】
前記加熱手段がレーザ光である、請求項1から請求項5のいずれか一に記載のアルミナ又はマグネシアの還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音速気流を利用してアルミナ(酸化アルミニウム)、又はマグネシア(酸化マグネシウム)を還元し、アルミニウム、又はマグネシウムを単離するためのアルミナ、マグネシアの還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムは、軽量で加工性も良く、また酸化被膜が表面を覆うことによって内部が保護され耐食性に優れた材料でもあることから、建築材料を初め工業製品にも広く使用されている金属である。加工面では圧延、押し出し、鋳造などの各種方法の適用が可能であり、また合金としてはジュラルミンなどがよく知られている。加えて、熱伝導性、電気伝導性に優れた長所を生かす技術分野での使用もされるほか、燃焼する際に高熱量を発生し、体積当たりのエネルギ密度では石炭や石油にも匹敵するほど(41.9kJ/cm
3)であることから、将来的にはエネルギ源として活用されるポテンシャルをも備えた金属でもある。
【0003】
歴史的には、19世紀初頭のアルミナの発見に始まり、アルミナからアルミニウムを単離する技術が確立するまでは貴重な金属として扱われたが、19世紀末のホール・エルー法が見出されたことによってアルミニウムの入手性が高まった。ホール・エルー法はアルミニウム精錬方法として広く実施されているのでその詳細は省略するが、アルミナを多く含む鉱石であるボーキサイトを水酸化ナトリウムで溶融してアルミナを抽出し(バイヤー法)、これを氷晶石(Ga3AlF6)を用いた電解浴(1300K)で溶融、炭素電極を用いた電気分解でアルミニウムに精錬するものである。陽極側となる炭素電極が還元剤として作用し、これがアルミナ中の酸素と結合して二酸化炭素、一酸化炭素(1100K以上)を発生させる。
Al
2O
3+3C→2Al+3CO
Al
2O
3+3/2C→2Al+3/2CO
2【0004】
このホール・エルー法は現在でもアルミナ精錬の主要な方法として利用されているが、アルミニウムを分離するために多量な電力を消費すること(アルミニウム1トン生産するための消費電力:13,000〜14,000kWh)、その際、上述のようにCO、CO
2などの温室効果ガスを多量に発生することが問題となる。特に後者の問題は、地球温暖化に直接つながる要因でもあり、グローバルな規模で代替方法が開発されるべき重要な課題であるといえる。
【0005】
ホール・エルー法自身に関しては、そのエネルギ効率の改善に向けての技術開発が見られ(例えば、「特許文献1」参照。)、またホール・エルー法に代わる還元方法の提案もされているが(例えば、「特許文献2」、「特許文献3」参照。)、いずれも上記課題を根本的に解決するものではなく、アルミナ還元方法に関しては未だ抜本的な改善の余地が残されていると言える。
【0006】
一方、マグネシウムは、アルミニウムよりもさらに軽量であり、加工性にも優れ、自動車、航空機、機械装置などを始めとした工業材料や、各種材料の機械的性質を改善するための添加剤などとして広く使用される金属である。加工面ではダイキャスト、押し出し、プレス成型、鍛造などに適用可能であり、応用範囲が広い。化学活性が比較的高いために腐食性はあるものの、表面処理により安定化が可能である。さらに、燃焼して高熱量(601.7kj/mol)を発生することでも知られている。
【0007】
歴史的にはアルミニウムとほぼ同時期の19世紀後半に商業生産が始まっているが、精錬の困難性からその普及はやや遅れた。現在のマグネシウム精錬方法としては、熱還元方法と電解法が知られている。主力である前者の場合は、ドロマイト鉱石を焼成して得られるマグネシアに還元剤を添加して減圧化で高温加熱することにより行われる(ピジョン法)。
2MgO+Si→SiO
2+2Mg
また、後者の場合は、主に海水から得られる塩化マグネシウムを電解してマグネシウムを得ている(電解精錬法)。
MgCl
2→Mg+Cl
2
しかしながら、これらいずれの方法も多量のエネルギ消費を必要とする点では変わりはなく、このためマグネシウムに関しても低エネルギ消費による精錬方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−2082527号公報
【特許文献2】米国特許第6440193号明細書
【特許文献3】特開2006−519921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上より、本発明は、アルミニウムに関してはホール・エルー法の上述した課題を解消し、マグネシウムに関しては現在の主要精錬方法であるピジョン法の上述した課題を解消し、温室効果ガスや人体に有害な物質を排出することなく、またエネルギ効率を改善することもできるアルミナ、マグネシアの還元方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はレーザ光などの加熱手段を利用してアルミナ、マグネシアをプラズマ状態にしてアルミニウム、マグネシウムと酸素を熱解離し、このプラズマ状態のガスを超音速気流としてアルミニウム、マグネシウムと酸素の再結合を阻止することによって上記課題を解決するもので、具体的には以下の態様を含む。
【0011】
すなわち、本発明に係る1つの態様は、レーザ光などの加熱手段を用いてアルミナ粉末、マグネシア粉末を加熱しプラズマ状態としてアルミナ、マグネシアをアルミニウム、マグネシウムと酸素に熱解離するステップと、プラズマ状態となったガスをノズルから超音速で噴出して凍結流とすることによりアルミニウム、マグネシウムを単離するステップと、を含むことを特徴とするアルミナ、マグネシアの還元方法に関する。
【0012】
前記アルミニウム、マグネシウムを単離するに際し、還元装置に設けられるスロート部の上流側にアルミナ粉末、マグネシア粉末をキャリアガスと共に導入し、同じくスロート部の上流側に導入された作動ガスによってこれをスロート部に圧送し、レーザ光などの加熱手段によりスロート部領域を加熱してアルミナ、マグネシアを熱解離した後これをスロート部下流のノズルから超音速気流として噴出するよう構成することができる。
【0013】
前記作動ガス中に水素をさらに加え、水素の作用によりアルミナ、マグネシアの還元を促進させてもよい。これにより、還元効率をさらに高めることができる。
【0014】
アルミナ粉末、マグネシア粉末の導入に際し、スロート部の上流側に導入されるアルミナ粉末、マグネシア粉末の量を制御するステップをさらに含んでもよい。また、単離した後のアルミニウム、マグネシウムを冷却管の中に導き、該冷却管の内部に堆積させてアルミニウム、マグネシウムを回収するステップをさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施により、温室効果ガス、その他の有害なガスを発生することなく、またホール・エルー法やピジョン法と比較して電力消費量の低減も可能にするアルミナ、マグネシアの還元を実施できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアルミナ(マグネシアであっても良い。以下、同。)還元方法のステップの概要を示す説明図である。
【
図2】
図1に示すアルミナ還元方法に使用されるアルミナ粉末(又はマグネシア粉末)供給装置の構成図である。
【
図3】本発明の各実施の形態に係るアルミナ還元方法と従来技術のホール・エルー法との還元効率を比較したグラフである。
【
図4】本発明の実施例にて観測された、超音速気流中にアルミニウム原子が存在することを示す発光スペクトルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の第1の実施の形態に係るレーザを使用したアルミナ還元方法、マグネシア還元方法について、図面を参照して説明する。なお、図面の表示および以下の説明では代表としてアルミナ還元方法の例を示しているが、材料がアルミナ粉末とマグネシア粉末とで相違するものの使用される装置並びにプロセスに関してはマグネシア還元についても基本的に同様に適用することが可能である。
図1は、本実施の形態に係るアルミナ還元方法の概要を示しており、レーザ推進の技術と、それから派生したレーザプラズマ風洞の技術を応用している。
図1において、アルミナ還元方法は、破線で区分されている内の図の左側にあるA領域に示すアルミナを熱解離するステップ、中央のB領域に示すアルミニウムと酸素を分離してアルミニウムを単離するステップ、そして右側のC領域に示す単離したアルミニウムを回収するステップから主に構成されている。各ステップの流れは左側から右側へと移行する。
【0018】
まず図の左側A領域に示すアルミナを熱解離するステップにおいて、本実施の形態で使用される還元装置100の内部には流れを絞るスロート部111が設けられ、その上流側(図の左側)にアルミナ導入口112が、さらにその上流側に作動ガス導入口113が設けられている。アルミナ導入口112からはアルゴンなどのキャリアガスと共にアルミナ粉末が装置内部に導入され、作動ガス導入口113からは酸素とアルゴンガス等の不活性ガスからなる加圧された作動ガスが導入される。アルミナ導入口112から導入されるアルミナとキャリアガスの混合物では、全体に占めるアルミナの含有量が、例えば約0.1〜0.6g/l(l:リットル)の範囲で適切に制御される。また、作動ガス導入口113から導入される作動ガスの圧力は、好ましくは10気圧ほどである。アルミナとキャリアガスの混合物は、作動ガスにより図の左から右にスロート部111に向けて圧送される。
【0019】
スロート部111には、ここに焦点を合わせて図の左側からレーザ光114が照射される。本実施の形態では、最大出力2kW、波長10.6μm、ビーム径34mmの炭酸ガスレーザが使用されているが、レーザ光114の仕様はアルミナをプラズマ状態にするに十分な熱量を与えるものであればよい。レーザ光の焦点近傍は局部的に12,000Kの高温に達し、その高熱によってアルミナは溶融し(アルミナの融点は2,300K、マグネシアの場合でも3,070K)、さらにプラズマ状態となってアルミニウムと酸素が熱解離する。ここでは逆制動輻射と呼ばれる電子が光を吸収して加速される現象が発生し、電子とイオンがクーロン衝突を繰り返すことによってプラズマが加熱される。
Al
2O
3=2Al+3/2O
2−838kJ
【0020】
次に
図1の中央にあるB領域に移動して、加熱されて膨張し、スロート部111で絞られたプラズマ状態のガスは、スロート部111の出口であるノズル116から噴流となって図の右側に向けて放出される。この際のガスの流速は1,000〜3,000m/sの超音速流となり、急激な膨張で気流は急冷される。ここで従来のホール・エルー法によれば、電気分解されたアルミナ成分の内、酸素は陽極に引かれて炭素と結合して一酸化炭素もしくは二酸化炭素となって分離され、残るアルミニウムのみが溶融炉内に沈殿して回収される。しかしながら、炭素電極などの還元剤がない状態では、一般にアルミナが熱解離して一旦アルミニウムと酸素とに分離されても、結合力の強いアルミニウムと酸素が冷却の過程で再び結合してアルミナに戻ってしまう傾向にある。本実施の形態に係る方法によれば、プラズマとなって分離されたアルミニウムと酸素が凍結された超音速気流で常温状態まで急冷される結果、この再結合がされることなくアルミニウムと酸素を分離状態のままで維持することができる。この事実は、この凍結流を発光分光測定し、アルミニウム特有の発光スペクトルのピークを観察することによって確認できる。
【0021】
あとは図の右側にあるC領域に移行し、単離したアルミニウムのみが回収される。図示の例では、冷却された銅管117を利用し、この中に流体を流すことによって分離されたガス体の酸素は放出され、アルミニウムを銅管117の管壁に堆積させて回収することができる。この回収方法は一例であって、例えば酸素は透過し、アルミニウム粉末は捉えるフィルタを用いるなどにより回収することが可能である。
【0022】
上述したように、導入されるアルミナ粒子とキャリアガスの混合物では、アルミナ粒子の含有率が適切に制御されることが好ましい。
図2は、アルミナ粒子の導入量を制御するアルミナ供給装置の一例を示している。
図2においてアルミナ供給装置10は、下からターンテーブル11と、ターンテーブル11の上に載置されたアルミナ容器12と、アルミナ容器12内にアルミナ粉末を供給する放出管13と、アルミナ容器12内からアルミナ粉末を取り出すアルミナ供給管14と、アルミナを取り出して搬送するキャリアガスを供給するキャリアガス供給管16とから構成されている。
【0023】
ターンテーブル11はモータ17によって回転駆動されるが、この回転数は図示しない制御装置によって制御可能である。アルミナ容器12には、放出管13からアルミナ粉末5が適宜放出される。放出管13の先端にセンサ(図示せず)を取り付け、アルミナ容器12内のアルミナ粉末5のレベルを検出してこれを一定のレベルに保つよう供給することが可能である。なお、放出管13に対しては逐次アルミナ粉末が補充可能である。本実施の形態では、アルミナ粉末は約0.03〜3μm径のものが使用可能であるが、アルミナ粉末の供給量を安定して制御するためには1回の処理に使用されるアルミナ粉末はほぼ同一粒度のものに選別して使用されることが望ましい。アルミナ供給管14とキャリアガス供給管16とは二重管構造となっており、外周にあるキャリアガス供給管16を通ってアルゴン、ヘリウムなどのキャリアガスが上方から下方に向けて供給可能である。二重管構造はアルミナ容器12内でアルミナ粉末5と接する高さにあり、キャリアガスの圧力によってアルミナ粉末5が混ざったキャリアガスが次にアルミナ供給管14の内部を下方から上方に向かって押し出され、さらに
図1に示すアルミナ導入口112に向けて供給される。
【0024】
以上のように構成されたアルミナ供給装置10の動作は、まずアルミナ放出管13からアルミナ容器12内にアルミナ粉末5が放出され、モータ17によってターンテーブル11が回転駆動される。次にキャリアガス供給管16の上方からキャリアガスが供給され、二重管の下端でキャリアガスにアルミナ粉末5が巻き込まれてアルミナ供給管14内に押し込まれ、その混合気が
図1に示すアルミナ還元装置100のアルミナ導入口112に供給されるものとなる。アルミナの供給量に関しては、ターンテーブル11の回転数を調整することによって制御が可能である。なお、アルミナの供給量の制御は、例えばターンテーブルを用いる代わりにテーブル全体を上下するなど、他の調整方法が利用されてもよい。また、二重管構造は一例であって、他のアルミナ粉末の導入方法が採用されてもよい。
【0025】
図3は、本実施の形態に係るレーザ光を利用したアルミナ還元方法におけるアルミニウム還元効率を表したもので、横軸は投下したエネルギの利用効率(%)、縦軸はアルミニウム還元効率(mg/kJ)を示している。本実施の形態における還元効率を●印付きの実線で示し、対比としてホール・エルー法における還元効率(約10mg/kJ)を破線で示している。この結果によれば、本実施の形態にかかるレーザ光を利用したアルミナ還元方法によれば、投下エネルギの約30%が還元に利用されればホール・エルー法の効率を上回ることになる。本願発明者らの試算によれば、レーザ光によるエネルギは、
図1のスロート部111における輻射による壁面熱損失(約40%)、化学損失(約15%)、透過損失(約10%)などによって一部失われるが、それでも少なくとも35%の効率が達成できるものとなり、したがって本実施の形態に係るアルミナ還元方法はホール・エルー法よりもアルミニウム還元効率を高くする可能性がある。加えて、ホール・エルー法に対する本発明の根本的に有利な点は、CO
2、COなどの温室効果ガス、有害ガスの発生が一切ないことである。排出されるのは、アルミナから分離された酸素と、キャリアガス、作動ガスとして使用されたアルゴンなどの不活性ガスのみである。
【0026】
次に、本発明の第2の実施の形態に係るアルミナ(マグネシアであっても良い。)の還元方法について説明する。本実施の形態に係るアルミナの還元方法は、基本的に
図1、
図2を参照して説明した先の実施の形態と同様であり、相違点として作動ガス導入口113から導入される作動ガスに水素を追加することである。水素の添加量は、作動ガスとの重量割合にて約0〜50%、好ましくは約1〜30%とすることができる。水素は、レーザ光により加熱されたアルミナが溶融し、さらにアルミニウムと酸素が分離した際に酸素と結合し、アルミナの還元作用を促進する。この際の化学式は以下のようである。
Al
2O
3+3H=2Al+3H
2O−112kJ
【0027】
すなわち、水素を還元剤して使用することにより、より少ないエネルギでアルミナの還元を行うことができる。先に示した
図3において、■印付き実線は水素を還元剤として用いた場合の還元効率を示している。これによれば、レーザ光として投入されたエネルギの約4%の利用効率でホール・エルー法による還元効率を凌駕することができ、エネルギの利用効率が試算通り35%であるとすれば、ホール・エルー法の10倍もしくはそれ以上の還元効率(mg/kJ)を達成することができる。また、この際に追加して排出されるのは水(H
2O)のみであり、有害ガス等の発生が全くないことは先の実施の形態と同様である。
【0028】
アルミナを従来技術による電気分解ではなく、熱解離によって還元する際の加熱手段として、上述した各実施の形態に示す例ではレーザ光を利用するものとしているが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の加熱手段が利用されても良い。例えば、アーク放電、誘導結合プラズマなどがその例として挙げられる。しかしながら、アーク放電を利用した場合には電極(タングステン、銅)が消耗し、特に酸素雰囲気下では作動が制限されるという問題があり、また誘導結合プラズマを利用した場合には、作動圧力が1気圧以下と制限されるほか、生成金属であるアルミニウムとの干渉の問題がある。本実施の形態に係るレーザプラズマ方式によれば、電極などの消耗部分がないので酸素雰囲気下での作動が可能であり、また作動圧力も高く維持できることから(約10気圧まで)、超音速の凍結流を得るにはより好適であると言える。
【実施例1】
【0029】
実施の形態1に示すアルミナ還元を以下の仕様で実施した。
−レーザ仕様:出力1KWの連続発振型炭酸ガスレーザを使用。波長:10.6μm、ビーム径:34mm、レンズ:f95。
−スロート仕様:スロート径:1mm、ノズル出口:10mm
−アルミナ粉末流量:キャリアガス(アルゴン)に対して10%質量比。
−アルミナ粉末径:3μm
その結果、
図4に示すように、凍結流(超音速気流)中にアルミニウム原子の存在を示す発光スペクトルのピーク(257nm、309nm、396nm)が観察され、アルミニウムの単離が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るアルミナ、マグネシアの還元方法は、アルミナを精錬してアルミニウムを製造する産業分野、マグネシアを精錬してマグネシウムを製造する産業分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
5:アルミナ粉末(マグネシア粉末であっても良い。以下、同。)、 10:アルミナ供給装置、 11:ターンテーブル、 12:アルミナ容器、 13:放出管、 14:アルミナ供給管、 16:キャリアガス供給管、 17:モータ、 100:還元装置、111:スロート部、112:アルミナ導入口、113:作動ガス導入口、114:レーザ光、 116:ノズル、 117:銅管、