【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度経済産業省「日米エネルギー環境技術研究・標準化協力事業/日米クリーン・エネルギー技術協力」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
JIS−B0601に準じて測定した前記リグノセルロース薄膜側の表面粗さが10nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサー。
タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物が吸着又は脱着することによる前記リグノセルロース薄膜の質量変化を検知する請求項11記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサー。
タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物によって膨潤又は分解することによる前記リグノセルロース薄膜の質量変化を検知する請求項11記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサー。
前記リグノセルロース薄膜全量に対する前記セルロースの含有割合が50〜100重量%であり、前記ヘミセルロースの含有割合が1〜50質量%であり、前記リグニンの含有割合が1〜50重量%である請求項1〜13のいずれか1項に記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサー。
前記機械的粉砕が、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ディスクミル、ミキサー、ホモジナイザーからなる群より選ばれる少なくとも1つの手段で施される請求項15記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法。
前記コーティング工程が、前記基板に対し、前記上清液をスピンコーティングすることにより行われる請求項15〜17のいずれか1項に記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法。
前記分離工程の前に、解繊促進物質の存在下、70〜80℃の条件で、10分以上処理することにより、リグニンを選択的に酸化する解繊促進工程を更に含む請求項15〜18のいずれか1項に記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、木質系や草本系のリグノセルロース原料を、酵素加水分解により糖に分解し、更に醗酵により糖をバイオエタノールに分解する技術が開発されている。
かかるリグノセルロース原料は、一般にセルロース、ヘミセルロース及びリグニンの3種類の化学的性質の異なる物質からなる。なお、これらの中で、酵素糖化の対象となる基質は、セルロースとヘミセルロースに限られている。
【0003】
リグノセルロース原料は、自然が作り出したナノ複合材料と言われているように、木材細胞壁のセルロース分子は単分子ではなく、規則的に凝集し、数十本集まった結晶性を有するミクロフィブリル(以下「セルロースナノ繊維」ともいう。)を形成している。これに加え、セルロース分子は、リグニン及びヘミセルロースと強固に結びついて三次元ネットワーク階層構造を作り出している。これらのことから、リグノセルロース原料の木材細胞壁は、酵素等の生化学的又は強酸処理等の化学的処理に対して非常に強い分解抵抗(recalcitrance)性を有している。
【0004】
これに対し、リグノセルロース原料を効率良く分解するために、様々な開発がなされている。
例えば、前処理としてバイオマスの細胞壁組織構造の脆弱化処理と湿式メカノケミカル処理を組み合わせた技術が知られている(例えば、非特許文献1参照)。これによれば、リグノセルロース原料をナノサイズまで微細繊維化することが可能となっている。
【0005】
ところで、前処理によってリグノセルロース原料の組織構造を変化させると、構成糖等の含有成分やリグニン構造の質的、量的な変化が生じる。このため、リグノセルロース原料を微細繊維化すると、酵素反応に大きな影響を及ぼすことになる。
このことから、リグノセルロース原料を用いた酵素反応の明確な解析は、未だ十分には行われていない。
【0006】
近年、酵素反応の解析について、分子間相互作用を視覚的に且つ定量的に評価できる原子間力顕微鏡(AFM)(例えば、非特許文献2参照)や、水晶振動子微量天秤を用いた研究成果(例えば、非特許文献3参照)が報告されている。
【0007】
ここで、水晶振動子微量天秤は、センサー上への分子の吸着や解離を質量変化として捉えることができることから、反応面への分子の吸着や解離等の分子間相互作用を質量変化として定量することが可能となっている。
【0008】
ちなみに、水晶振動子微量天秤によって得られる周波数変化量(△f(Hz))は、Sauerbrey式を用いることによって、質量変化量(△m(ng/cm
2))に変換することができる。
更に近年は、振動中のセンサーの電源を切った際に起こる急激な振動の減少に関わるエネルギー散逸量(D値)をモニタリングすることで、これまで正確に評価できなかった粘弾性を有する合成・天然高分子の質量変化についても測定できるようになっている。なお、D値の変化量(△D)は、粘弾性や膜厚の高さに依存するため、△fによる質量変化に加え、センサー表面上のサンプルの粘性、弾性及び膜厚といった構造変化を求めることも可能である。
【0009】
一方、セルロースに対する酵素の作用について、水晶振動子微量天秤を用いて解析した研究は、これまでいくつか報告されている。
例えば、Rojas教授のグループでは、高結晶性セルロースナノ繊維、再生セルロース膜センサーを用いたセルラーゼの吸着が調査され、ナノ繊維の酵素の吸着と反応速度が他の基質より遥かに速いことを見出している(例えば、非特許文献4参照)。
また、スウェーデンの研究グループでは、セルロースナノ繊維と3種類の特定精製セルラーゼとの相互作用が調査され、エンドグルカナーゼの興味深い作用を見出している(例えば、非特許文献5参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した非特許文献4及び5に記載の発明においては、いずれもヘミセルロース及びリグニンが十分に除去された純粋なセルロースが用いられており、純粋なセルロースを製造することは困難であり、経済的な負担も大きいという欠点がある。
【0012】
このため、セルロールに加え、ヘミセルロース及びリグニンを含むリグノセルロース原料を用いて、酵素との相互作用、処理工程中の含有成分の変化、及び酵素反応に与える影響等が明らかにされた水晶振動子微量天秤用バイオセンサーが求められている。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、所定のリグノセルロース微細繊維を付与することにより、リグノセルロースを分解する酵素の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価できる水晶振動子微量天秤用バイオセンサー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、単繊維の幅が3〜50nm、長さが100nm〜10μmであるリグノセルロース微細繊維を薄膜にして基板上に形成させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
本発明は、(1)水晶振動子微量天秤に用いられ、平板状の水晶結晶体と、該水晶結晶体の両面に設けられた金属薄膜と、水晶結晶体の表面に設けられ、金属薄膜で縁取られた基板と、と、該基板の表面に設けられたリグノセルロース薄膜と、を備え、リグノセルロース薄膜が、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含むリグノセルロース微細繊維からなり、該リグノセルロース微細繊維の単繊維の幅が3〜50nmであり、長さが100nm〜10μmである水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0016】
本発明は、(2)基板と、リグノセルロース薄膜との間に、アンカー剤からなるアンカー層が形成されている上記(1)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0017】
本発明は、(3)アンカー剤が、イミン系化合物、アミン系化合物又はシラン系化合物である上記(2)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0018】
本発明は、(4)リグノセルロース薄膜の厚みが、10〜100nmである上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0019】
本発明は、(5)セルロースの結晶性が10〜100%である上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0020】
本発明は、(6)JIS−B0601に準じて測定したリグノセルロース薄膜側の表面粗さが10nm以下である上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0021】
本発明は、(7)基板が、金属、無機酸化物、高分子化合物、ガラス又はセラミックである上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0022】
本発明は、(8)無機酸化物が、酸化ケイ素、酸化鉄又は酸化マグネシウムである上記(7)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0023】
本発明は、(9)高分子化合物が、ポリスチレン、ナイロン又はポリエチレンテレフタレートである上記(7)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0024】
本発明は、(10)金属が、金、アルミニウム又はチタンである上記(7)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0025】
本発明は、(11)10MHz以上の範囲で発振させる上記(1)〜(10)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0026】
本発明は、(12)タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物が吸着又は脱着することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知する上記(11)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0027】
本発明は、(13)タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物によって膨潤又は分解することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知する上記(11)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0028】
本発明は、(14)リグノセルロース薄膜全量に対するセルロースの含有割合が50〜100重量%であり、ヘミセルロースの含有割合が1〜50質量%であり、リグニンの含有割合が1〜50重量%である上記(1)〜(13)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーに存する。
【0029】
本発明は、(15)上記(1)〜(14)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法であって、リグノセルロース原料に対し、溶媒存在下、機械的粉砕を施し、粉砕混合液とする粉砕工程と、粉砕混合液の上清液を取り出す分離工程と、水晶振動子微量天秤の基板にアンカー剤を付与し、次いで、上清液を基板の一方の面に付与することで、アンカー層を介してリグノセルロース微細繊維からなるリグノセルロース薄膜を形成するコーティング工程と、を備える水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【0030】
本発明は、(16)機械的粉砕が、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ディスクミル、ミキサー、ホモジナイザーからなる群より選ばれる少なくとも1つの手段で施される上記(15)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【0031】
本発明は、(17)分離工程が、遠心装置による遠心分離により行われる上記(15)又は(16)に記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【0032】
本発明は、(18)コーティング工程が、基板に対し、上清液をスピンコーティングすることにより行われる上記(15)〜(17)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【0033】
本発明は、(19)分離工程の前に、解繊促進物質の存在下、70〜80℃の条件で、10分以上処理することにより、リグニンを選択的に酸化する解繊促進工程を更に含む上記(15)〜(18)のいずれか1つに記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【0034】
本発明は、(20)解繊促進物質が亜塩素酸ナトリウム及び酢酸である上記(19)記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【0035】
本発明は、(21)粉砕工程と、解繊促進工程とが同時に行われる上記(19)又は(20)に記載の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0036】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含むリグノセルロース微細繊維からなり、該リグノセルロース微細繊維の単繊維の幅が3〜50nmであり、長さが100nm〜10μmであるリグノセルロース薄膜を基板の表面に設けることにより、該リグノセルロース薄膜上で行ったリグノセルロースを分解する酵素の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価することが可能となる。すなわち、リグノセルロース薄膜に対するタンパク質や酵素、有機化合物、無機化合物等の作用機構を分子レベルで定量的に評価することにより、リグノセルロースを分解する酵素の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価することができる。
これにより、酵素反応機構の解明や酵素糖化反応効率を向上させることも可能となる。
【0037】
また、理由は定かではないが、リグノセルロース微細繊維は、単繊維の幅及び長さを上記範囲内とすることにより、加水分解した場合、加水分解が促進され、高収率で糖が得られることになる。なお、単繊維とは、リグノセルロース微細繊維を構成する繊維のうちの1本の繊維を意味する。
【0038】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、基板と、リグノセルロース薄膜との間に、アンカー剤からなるアンカー層が形成されているので、リグノセルロース薄膜を基板に確実に接着させることができる。これにより、空気の混入による定量時の誤差を極力小さくすることができる。このとき、アンカー剤は、イミン系化合物、アミン系化合物又はシラン系化合物であると、接着性がより向上する。
【0039】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、リグノセルロース薄膜が、10〜100nmという極めて薄い厚みであるので、極めて僅かな質量変化に対しても即時に定量することが可能となる。
【0040】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、セルロースの結晶性が10〜100%であると、リグノセルロース原料の種類に関わらず、リグノセルロース薄膜を形成し易くなるという利点がある。
【0041】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、JIS−B0601に準じて測定したリグノセルロース薄膜側の表面粗さが10nm以下であるので、リグノセルロース薄膜は、質量変化をより正確に伝達することができる。
【0042】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、基板が、金属、無機酸化物、高分子化合物、ガラス又はセラミックである場合、十分な厚さのリグノセルロース薄膜が得られる。
特に、金属が、金、アルミニウム又はチタンであり、無機酸化物が、酸化ケイ素、酸化鉄又は酸化マグネシウムであり、高分子化合物が、ポリスチレン、ナイロン又はポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。なお、高分子化合物が、ポリスチレン、ナイロン又はポリエチレンテレフタレートである場合、アンカー剤無しでもリグノセルロース薄膜を形成することが可能となる。
【0043】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーは、10MHz以上の範囲で発振させることが好ましい。この場合、高精度で質量変化を検知することができる。
このとき、水晶振動子微量天秤用バイオセンサーは、タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物が吸着又は脱着することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知するものであると、センサー上のリグノセルロースとタンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物との間に存在する親和性や相互作用などを評価することができるという利点がある。
また、水晶振動子微量天秤用バイオセンサーは、タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物によって膨潤又は分解することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知するものであると、センサー上のリグノセルロースに対するタンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物がもたらす作用を評価することができるという利点がある。
【0044】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーにおいては、リグノセルロース薄膜全量に対するセルロースの含有割合が50〜100重量%であり、ヘミセルロースの含有割合が1〜50質量%であり、リグニンの含有割合が1〜50重量%である場合、リグノセルロースの組成に応じて変化するタンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物の作用を評価することが可能となる。
【0045】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法は、リグノセルロース原料に対し、溶媒存在下、機械的粉砕を施し、粉砕混合液とする粉砕工程と、粉砕混合液の上清液を取り出す分離工程と、水晶振動子微量天秤の基板にアンカー剤を付与し、次いで、上清液を基板の一方の面に付与することで、アンカー層を介してリグノセルロース微細繊維からなるリグノセルロース薄膜を形成するコーティング工程と、を備えることにより、上述したリグノセルロース微細繊維の単繊維の幅が3〜50nmであり、長さが100nm〜10μmである水晶振動子微量天秤用バイオセンサーが得られる。
したがって、該水晶振動子微量天秤用バイオセンサーによれば、リグノセルロースを分解する酵素や化合物の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価することができる。
【0046】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法においては、機械的粉砕が、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ディスクミル、ミキサー、ホモジナイザーからなる群より選ばれる少なくとも1つの手段で施される場合、比較的容易にリグノセルロース原料を微細化できる。また、得られるリグノセルロース微細繊維のサイズのばらつきが小さくなる。
【0047】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法においては、分離工程が、遠心装置による遠心分離により行われるので、比較的簡単な操作で、効率良くリグノセルロース微細繊維を得ることができる。
【0048】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法においては、コーティング工程が、基板に対し、上清液をスピンコーティングすることにより行われるので、より均一な薄膜を簡単に形成することができる。
【0049】
本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法においては、分離工程の前に、解繊促進物質の存在下、70〜80℃の条件で、10分以上処理することにより、リグニンを選択的に酸化する解繊促進工程を更に含むことにより、リグニン、セルロース及びヘミセルロースの交絡を十分に解くことが可能となる。その結果、高収率でリグノセルロース微細繊維を得ることができる。
このとき、解繊促進物質が亜塩素酸ナトリウム及び酢酸であると、より高収率でリグノセルロース微細繊維を得ることができる。
また、粉砕工程と、解繊促進工程とが同時に行われる場合、加工時間を短縮でき、且つ高収率でリグノセルロース微細繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0052】
図1の(a)は、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの概略を示す上面図であり、(b)は、その下面図であり、(c)は、(a)のA−A線で切断した模式断面図である。なお、
図1の(a)における引き出し線と符合は、アンカー層4及びリグノセルロース層5の存在を無視して記載したものである。
図1の(a)、(b)及び(c)に示すように、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、平板状の水晶結晶体1と、該水晶結晶体1の両面(表面及び裏面)に設けられた金属薄膜2と、水晶結晶体1の表面に設けられ、金属薄膜2で縁取られた基板3と、該基板3の表面にアンカー層4を介して設けられたリグノセルロース薄膜5とを備える。すなわち、水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100においては、基板3とリグノセルロース薄膜5との間にアンカー剤からなるアンカー層4が形成されている。
【0053】
本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサーは、水晶振動子微量天秤に用いられる。
ここで、水晶振動子微量天秤(QCM)は、基板表面におけるナノグラムオーダーの質量変化を周波数変化として検出することが可能な高感度検出デバイスである。具体的には、基板上にナノグラム程度の物質が吸着した状態で、金属薄膜に交流電場を印加すると、物質の質量に比例して共振周波数が減少するため、水晶振動子微量天秤は微量天秤として利用することができる。
【0054】
水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、リグノセルロース薄膜5の上での酵素、タンパク質、有機化合物又は無機化合物との相互作用によるリグノセルロース薄膜5の質量変化に応じて変化する共振周波数を、水晶振動子微量天秤により検出することで、該酵素反応における相互作用をリアルタイムで評価することが可能となる。
【0055】
なお、水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、酵素、タンパク質、有機化合物又は無機化合物が吸着又は脱着することによるリグノセルロース薄膜の質量変化や、酵素、タンパク質、有機化合物又は無機化合物によって膨潤又は分解することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知することができる。
このとき、水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物が吸着又は脱着することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知するものであると、これら物質とリグノセルロース薄膜との親和性の評価ができ、タンパク質、酵素、有機化合物又は無機化合物によって膨潤又は分解することによるリグノセルロース薄膜の質量変化を検知するものであると、これら物質がリグノセルロース微細繊維に及ぼす膨潤や分解という機能を評価することができる。
【0056】
水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、精度の観点から、10MHz以上の範囲で発振させることが好ましく、10MHz〜100MHzの範囲で発振させることがより好ましい。発振させる周波数が、10MHz未満であると、周波数が上記範囲内にある場合と比較して、精度が低くなる欠点がある。
【0057】
水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、JIS−B0601に準じて測定したリグノセルロース薄膜5側の表面粗さが10nm以下であることが好ましく、3〜5nmであることがより好ましい。
表面粗さが、10nmを超えると、表面粗さが上記範囲内にある場合と比較して、質量変化に対する定量の精度が劣る傾向にある。
【0058】
水晶結晶体1は、上面視が円形の平板状となっており、水晶結晶体1自体が圧電体であるので、電圧を加えると(電界を印加する)と、変形が生ずるようになっている。なお、水晶結晶体1としては、公知のものが適宜用いられる。
【0059】
金属薄膜2は、水晶結晶体1の両面(表面及び裏面)に、それぞれ設けられる。この両面の金属薄膜2に電圧を加えることにより、水晶結晶体1が変形することなる。
ここで、金属薄膜2の材質としては、導電性のものであれば特に限定されない。
【0060】
基板3は、表側の水晶結晶体1の表面に、金属薄膜2に縁取られるように設けられる。
ここで、基板3の材質としては、特に限定されないが、金属、無機酸化物、高分子化合物、ガラス又はセラミックであることが好ましい。この場合、十分な厚さのリグノセルロース薄膜が得られる。
【0061】
ここで、金属は、特に限定されないが、金、アルミニウム又はチタンであることが好ましく、無機酸化物は、酸化ケイ素、酸化鉄又は酸化マグネシウムであることが好ましく、高分子化合物は、ポリスチレン、ナイロン又はポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。なお、高分子化合物が、ポリスチレン、ナイロン又はポリエチレンテレフタレートである場合、アンカー剤無しでもリグノセルロース薄膜を形成することが可能となる。
【0062】
アンカー層4は、アンカー剤からなり、基板3の表面に設けられる。このため、後述するリグノセルロース薄膜5を基板3に確実に接着させることができる。これにより、空気の混入による定量時の誤差を極力小さくすることができる。
【0063】
アンカー層4を構成するアンカー剤としては、特に限定されないが、イミン系化合物、アミン系化合物又はシラン系化合物であると、接着性がより向上する。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
イミン系化合物としては、側鎖又は主鎖にイミノ基をもつ高分子(カチオン性ポリマー)が挙げられ、具体的には、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
アミン系化合物としては、側鎖又は主鎖にアミノ基をもつ高分子(カチオン性ポリマー)が挙げられ、具体的には、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン等が挙げられる。
シラン化合物としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられ、具体的には、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0064】
リグノセルロース薄膜5は、アンカー層4を介して、基板3の一方の面側に設けられる。 リグノセルロース薄膜5は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含むリグノセルロース微細繊維からなる。
【0065】
ここで、リグノセルロース微細繊維の単繊維の幅は、3〜50nmであり、5〜50nmであることが好ましい。幅を3nm未満とすることは困難であり、幅が50nmを超えると、薄膜の均一性が低下するので、センサーの検出精度が低下する恐れがある。
【0066】
また、リグノセルロース微細繊維の単繊維の長さは、100nm〜10μmである。長さが100nm未満であると、幅との差が小さくなるので、原料としたリグノセルロース本来の特徴を評価できないセンサーとなる恐れがあり、長さが10μmを超えると、薄膜の均一性が低下するので、センサーの検出精度が低下する恐れがある。
【0067】
リグノセルロース薄膜全量に対するセルロースの含有割合は、50〜100重量%であり、ヘミセルロースの含有割合は、1〜50質量%であり、リグニンの含有割合は、1〜50重量%であることが好ましい。この場合、検出精度の高いリグノセルロース薄膜5を形成可能なリグノセルロース微細繊維を調製することができる。
【0068】
リグノセルロース薄膜において、セルロースの結晶性は、10〜100%であることが好ましい。この場合、リグノセルロース原料の種類に関わらず、リグノセルロース薄膜を形成し易くなるという利点がある。
セルロースの結晶性が10%未満であると、結晶性が上記範囲内にある場合と比較して、薄膜の均一性が低下するので、センサーの検出精度が低下する恐れがある。
【0069】
リグノセルロース薄膜5は、厚みが、10〜100nmであることが好ましい。このように、リグノセルロース薄膜5が、10〜100nmという極めて薄い厚みであると、極めて僅かな質量変化に対しても即時に定量することが可能となる。
【0070】
図2は、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの使用方法を説明するための説明図である。
図2に示すように、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、解析装置10に取り付けて測定される。すなわち、水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100と、解析装置10とからなる水晶振動子微量天秤キットにより、リグノセルロースを分解する酵素や化合物の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価することが可能となる。
【0071】
直方体状の解析装置10は、中空となっており(図示しない)、側面に設けられた流入口11aから反応液が中空の部分に流入し、該中空の部分の反応液が流出口11bから流出するようになっている。
また、解析装置10の上面には、横方向に延びる溝が設けられており、該溝に水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100を載置するための台座13が設けられている。
そして、台座13には、中空の部分に通じる貫通孔12が設けられており、反応液がにじみ出るようになっている。
【0072】
水晶振動子微量天秤キットにおいては、まず、解析装置10の台座13に、水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の表面(リグノセルロース薄膜5側)が下になるように取り付ける。
そして、流入口11aから、例えば、タンパク質、有機化合物、無機化合物等の原料、媒体及び酵素からなる反応液を流入させると、中空の部分にて、反応液が、貫通孔12を介して、台座13に滲み出る。そうすると、水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100に対する各種物質の相互作用をリアルタイムで評価することが可能となる。なお、反応液を、連続して流入口11aから流入させ、流出口11bから流出させることができるので、経時的な原料と酵素との酵素反応における相互作用を評価することも可能となる。
【0073】
次に、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの製造方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の製造方法は、リグノセルロース原料に対して機械的粉砕を施し、粉砕混合液とする粉砕工程S1と、解繊促進物質の存在下、粉砕混合液を処理することにより、リグニンを選択的に酸化する解繊促進工程S2と、粉砕混合液の上清液を取り出す分離工程S3と、上清液を基板に付与することにより、該基板に、リグノセルロース微細繊維からなるリグノセルロース薄膜を形成するコーティング工程S4と、を備える。
【0074】
粉砕工程S1は、リグノセルロース原料に対し、溶媒存在下、機械的粉砕を施し、粗リグノセルロース微細繊維を含む粉砕混合液とする工程である。
【0075】
リグノセルロース原料は、木材、草木、農産物、綿花等の植物等から得られる植物由来の有機高分子である。
また、リグノセルロース原料は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含み、セルロースミクロフィブリルがヘミセルロース及びリグニンを介して木材繊維を形成している。
なお、植物由来のリグノセルロース原料は、生合成直後に、自己集合してセルロースのミクロフィブリルを形成するので、微細粒子状にするのではなく、ミクロフィブリルに解繊することにより、セルロース分子鎖の配向を維持したまま、極めて大きな表面積を有することになる。
【0076】
機械的粉砕の方法は、特に限定されず、水等の溶媒を共存させてせん断力をリグノセルロース原料に印可できる方法が好ましい。例えば、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ディスクミル、ハンマーミル、インペラーミル、(高速)ミキサー、ディスクミル、(高圧)ホモジナイザー、機械式ホモジナイザー又は超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、ボールミル、ロッドミル、ビーズミル、ディスクミル、ミキサー、ホモジナイザーからなる群より選ばれる少なくとも1つの手段で施されることが好ましい。この場合、比較的容易にリグノセルロース原料を微細化できる。また、得られる粗リグノセルロース微細繊維のサイズのばらつきが小さくなる。
【0078】
これらの中でも、ボールミルで行われることが好ましい。
ボールミルを用いると、得られる粗リグノセルロース微細繊維の粒度分布のばらつきがより小さくなる傾向にある。また、ボールミルでは、粗リグノセルロース微細繊維中のセルロースの結晶性を低下させることができるので、後述するリグノセルロース微細繊維の加水分解性が高くなる利点がある。
【0079】
また、機械的粉砕は、バッチ式又は連続式エクストルーダーで行われることが好ましい。この場合、より短時間で効率よく粗リグノセルロース微細繊維を製造できる。
【0080】
これらの中でも、2軸エクストルーダーで行われることが好ましい。2軸エクストルーダーは、スクリュー間の物質にせん断力や圧力を印可しながら押し出し、連続的に処理することができる。このため、後述する解繊促進物質が少量であっても、リグノセルロース原料を十分に解繊できる。
また、2軸エクストルーダーは、加熱しながら処理できるので、溶融した熱可塑性ポリマー等を比較的容易に解繊促進物質として用いることができる。この場合、溶融後の粘性が高くなるので、リグノセルロース原料に強い圧力やせん断力を伝搬させて印可でき、リグノセルロース原料に対して少量の解繊促進物質でも解繊が可能となる。
【0081】
機械的粉砕は、20〜350℃の温度条件下で行われることが好ましい。
温度が20未満であると、温度が上記範囲内にある場合と比較して、リグノセルロース原料が十分に解繊されない傾向にあり、温度が350℃を超えると、温度が上記範囲内にある場合と比較して、リグノセルロース原料が粉砕され過ぎてしまい、繊維状のリグノセルロースが得られなくなる場合がある。
【0082】
なお、機械的粉砕を行う前に、無機アルカリ性水溶液にリグノセルロース原料を数時間から数日間浸漬させる浸漬工程を施すことが好ましい。この場合、リグノセルロース原料の解繊が速やかに進行する。
無機アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0083】
解繊促進工程S2は、解繊促進物質の存在下、70〜80℃の条件で、粉砕混合液を10分以上処理することにより、リグニンを選択的に酸化する工程である。
水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の製造方法においては、解繊促進工程を更に含むことにより、リグニンが酸化分解されるため、リグニン、セルロース及びヘミセルロースの交絡を十分に解くことが可能となる。その結果、高収率でリグノセルロース微細繊維を含む粉砕混合液を得ることができる。
【0084】
ここで、解繊促進物質は、セルロースミクロフィブリル同士を接着しているリグニンを部分的に分解することで解繊効率を向上させる作用がある。
かかる解繊促進物質としては、酸化剤及び/又は酸が好適に用いられる。
【0085】
酸化剤としては、硝酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、ハロゲン化物、過マンガン酸塩等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
酸としては、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸や酢酸、蟻酸等の有機酸が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0086】
これらの中でも、解繊促進物質は、酸化剤と酸との両方からなるものであることが好ましく、亜塩素酸ナトリウム及び酢酸からなるものであることがより好ましい。この場合、より高収率で粗リグノセルロース微細繊維を含む粉砕混合液をより簡便に得ることができる。
【0087】
リグノセルロース原料と解繊促進物質との混合割合は、リグノセルロース原料1質量部に対して、解繊促進物質が0.01〜100質量部であることが好ましい。
解繊促進物質の混合割合が0.01質量部未満であると、混合割合が上記範囲内にある場合と比較して、リグノセルロース原料の解繊を十分に促進できない場合があり、混合割合が100質量部を超えると、混合割合が上記範囲内にある場合と比較して、リグノセルロース原料が粉砕され過ぎてしまい、繊維状のリグノセルロースが得られなくなる場合がある。
【0088】
本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の製造方法において、解繊促進工程S2は、粉砕工程S1と同時に行ってもよい。この場合、加工時間を短縮でき、且つ高収率でリグノセルロース微細繊維を含む粉砕混合液を得ることができる。
【0089】
分離工程S3は、粉砕工程S1、解繊促進工程S2で得られた粉砕混合液の上清液を取り出す工程である。
分離工程S3により、粉砕混合液のうちのサイズの大きなリグノセルロース微細繊維が除かれ、所定のサイズのリグノセルロース微細繊維が得られることになる。
【0090】
ここで、分離工程S3は、公知の遠心装置による遠心分離により行われることが好ましい。この場合、比較的簡単な操作で、効率良く所定のサイズのリグノセルロース微細繊維を得ることができる。
【0091】
コーティング工程S4は、水晶振動子微量天秤の基板3の少なくとも表面にアンカー剤を付与し、次いで、上清液をその表面に付与することで、アンカー層4を介してリグノセルロース微細繊維からなるリグノセルロース薄膜5を形成する工程である。
【0092】
アンカー剤の付与方法としては、ドクターコーティング、スピンコーティング、スプレー、浸漬等が挙げられる。
これらの中でも、付与方法は、利便性の観点から、浸漬であることが好ましい。基板3の一面側にアンカー剤を浸漬させることにより、基板3の一面側にアンカー剤が付与されることになる。
一方、上清液の付与方法としては、ドクターコーティング、スピンコーティング、スプレー等が挙げられる。
これらの中でも、付与方法は、より均一に膜が形成できることから、スピンコーティングであることが好ましい。すなわち、基板3に対し、アンカー剤を浸漬させ、その後、上清液をスピンコーティングすることにより付与することが好ましい。この場合、より均一な薄膜を簡単に形成することができる。
【0093】
本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の製造方法によれば、リグノセルロースを分解する酵素や化合物の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価できる水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100が得られる。
【0094】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0095】
例えば、本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100においては、基板3とリグノセルロース薄膜5との間にアンカー剤からなるアンカー層4が形成されているが、アンカー層は必ずしも設ける必要はない。
【0096】
本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100は、
図2に示すように、解析装置10に取り付けて測定されているが、解析装置10の構造は、これに限定されない。
【0097】
本実施形態に係る水晶振動子微量天秤用バイオセンサー100の製造方法においては、解繊促進工程S2を施しているが、必ずしも必須の工程ではない。
【実施例】
【0098】
以下、本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーの実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0099】
(粉砕工程)
リグノセルロース原料として、針葉樹のヒノキ木粉(0.2mmサイズ)を用いた。
まず、1%(w/w)濃度でヒノキ木粉を蒸留水に一晩浸漬させた後、ディスクミルによる湿式での機械的粉砕を行った。ディスクミルのディスク間の間隔は、ディスク同士を接触させた状態をゼロとして、ディスク間隔200μmから処理を始め、処理回数毎にディスク間隔を段階的に狭めて行き、150μmまで間隔を狭めて処理を行うことにより粉砕混合液を得た。このときのディスクの回転速度は1800rpmとし、合計10回のディスクミル処理を施した(粉砕工程)。
【0100】
(解繊促進工程)
粉砕工程により得られた粉砕混合液100mlを1%(w/w)に調整し、亜塩素酸ナトリウム0.666g、酢酸0.1333mlを加え、75℃の湯浴中で、10分、4時間、7時間、又は試薬の使用量を2倍にして8時間処理を行った。なお、1時間毎に等量の亜塩素酸ナトリウム及び酢酸を追加して処理を継続した。
そして、処理後は、吸引濾過により粉砕混合液を濾紙上に回収し、蒸留水が色付かなくなるまで繰り返し蒸留水による洗浄を行い表1に示すサンプル1〜5を得た。
【0101】
(サンプル調製1)
解繊促進工程を経た粉砕混合液の化学組成を調査した。得られた結果を表1に示す。
処理時間を検討することで、表1に示すように、リグニン含量の異なるリグノセルロース原料を解繊することが可能となる。
【0102】
(表1)
【0103】
解繊促進工程を施すと、部分的にリグニンが酸化、除去されることにより、リグニンによるミクロフィブリル間の接着が緩和されることで解繊効率が改善され、水晶振動子微量天秤に適したリグノセルロース微細繊維が効果的に得られることがわかった。なお、表1に示す通り、10分間の短時間処理では化学組成に大きな影響はない。
【0104】
(サンプル調製2)
解繊促進工程で得たサンプル4について、水熱処理の効果を評価した。
上記サンプル4を1%(w/w)に調整して100mlとし、100℃、120℃又は140℃の温度で1時間オートクレーブ処理した。そして、得られたサンプルの化学組成を調査した。得られた結果を表2に示す。
水熱処理の効果を検討することで、水熱処理がリグノセルロースにもたらす変化を解析可能なセンサーを作製することができる。
【0105】
(表2)
【0106】
表2の結果より、処理温度の増加に伴いリグニン濃度に若干の減少傾向は見られるが、100℃又は120℃の処理ではヘミセルロースの構成糖組成に大きな変化は見られなかった。このことから、低温水熱処理ではリグノセルロースのヘミセルロース組成に影響しないということが確認できた。
【0107】
次に、上記サンプル1〜8(粉砕混合液)の均質化を行い、また解繊を進行させるため、高圧ホモジナイザーによる処理を行った。
上記サンプル1〜4それぞれを1%(w/w)に調整し、圧力が約200MPaになるように吐出速度を調節して高圧ホモジナイザーに計20回通液した。
【0108】
(分離工程)
高圧ホモジナイザーに通液したサンプル1〜8を、0.5%(w/w)に調整した後、1分間の超音波処理により溶液中の微細繊維を分散させた。
続いて10000rpmで30分間遠心分離を行い、得られた遠心分離上清をデカンテーションにより取り出し、リグノセルロース微細繊維が含まれる上清液を得た。
【0109】
(評価1)
得られた各上清液中のリグノセルロース微細繊維の濃度を同じにして定量を行った。
稀薄なリグノセルロース微細繊維の定量は、リグノセルロース中のリグニンが有する特異的な吸光波長を利用することで行った。
リグノセルロース微細繊維及び可溶性リグニンであるリグニンスルホン酸ナトリウムの190〜300nmの吸光スペクトルを
図4の(a)に示す。
図4の(a)において、202nm付近の吸光度は、炭素−炭素二重結合に起因するもので、リグノセルロース微細繊維は、リグニンスルホン酸ナトリウムと同等の吸光スペクトルを示した。
これ加え、リグノセルロース微細繊維が示す202nm付近の吸光度の強度と濃度とが比例関係にあることを
図4の(b)に示す。
この結果より、上清液中のリグノセルロース微細繊維の濃度と吸光度及び別途測定したリグニン濃度を利用してサンプル間の濃度を調整できることがわかった。
【0110】
(評価2)
後述するコーティング工程においては、水晶振動子微量天秤の金からなる基板へのリグノセルロース薄膜の形成が、予め、基板表面にアンカー剤(カチオン性)を付与した後、上清液(アニオン性)をスピンコーティングして行われるので、各サンプルの表面電荷がコーティング効率に関わる。したがって、濃度調整を行ったサンプル2〜8、及び、市販の純粋なセルロース微細繊維であるセリッシュ(サンプル0)のゼータ電位を調査し、サンプル毎のスピンコーティング効率を評価した。
なお、ゼータ電位は、濃度調整サンプルを未希釈の状態でゼータ電位の測定が可能なナノ粒子解析装置を用いて測定した。
また、ゼータ電位を左右するpHも未希釈の濃度調整サンプルを用いて測定した。
ゼータ電位と共にナノ粒子解析装置で測定した粒子径分布のピーク標準偏差、濃度調整サンプルのpH及びゼータ電位を表3に示す。
【0111】
(表3)
【0112】
表3の結果より、粒子径分布については、水熱処理サンプルでは処理温度による差は小さいが、亜塩素酸ナトリウム処理サンプルは処理時間が長いほど平均粒子径の大きな微細繊維が得られる傾向が見られた。
【0113】
なお、粒子径分布はレーザ回折・散乱法によって測定したが、サンプルは微細繊維状であって粒子ではない。また、解繊促進工程によって得られた繊維幅は、最大でも数十nm以下であることを確認している。よって、ここでの粒子径分布は微細繊維の繊維長又は繊維が1本、或いは複数本で形成した塊の径を示していると考えられ、このことは、サンプルの溶液中の繊維長に反映する結果であると考えられる。
また、市販の純粋なセルロース微細繊維であるセリッシュ(サンプル0)(ダイセル化学工業)を、本実施例と同一条件で粉砕工程及び解繊促進工程を施したところ、pH及びゼータ電位は、本実施例のサンプル2〜8とは大きな差は見られなかった。処理条件に関係なく、同程度のサンプル量でコーティングすることにより、同等の薄膜の形成が可能であることを示唆している。このことから、同等のセンサーが作製可能であり、サンプル間で水晶振動子微量天秤の結果が比較可能であることがわかった。
【0114】
(コーティング工程)
市販の平板状の水晶結晶体1表面に金からなる基板3を配置し、該基板3の周縁及び水晶結晶体1の両面に金属ペーストをコーティングにより金属薄膜2を形成したものを用いた。
まず、
図1に示す水晶振動子微量天秤の基板3表面に、カチオン性ポリマーであるポリエチレンイミン(PEI、アンカー剤)に15分間、基板3の一面を浸漬し、基板3表面にPEIを付与した。
次に、サンプル0,2〜8から得られた各上清液を、PEIが付与された基板3の一方の面側に滴下し、3000rpm、1分間の条件でスピンコーティングを行った。
その後、80℃で10分間熱処理を施すことにより、リグノセルロース薄膜5を形成した。なお、アンカー剤として、ポリビニルアミン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等でも同様な操作を行ったが、1%(w/w)のPEIを用いた場合が、リグノセルロース薄膜と基板3との親和性という点で最も良好な結果を示した。
【0115】
(評価3)
形成したリグノセルロース薄膜の表面の状態を、原子間力顕微鏡(AFM)によって観察した。なお、AFM観察は、シリコンカンチレバーを用いて、ACタッピングモードで実施した。
まず、リグノセルロース薄膜が均一にコーティングされているかどうかを評価するため、リグノセルロース薄膜のAFM像をAFMの画像解析ソフトWinSPMによって解析し、センサー表面の平均粗さを算出した。
そして、リグノセルロース薄膜の厚みについても測定し、サンプル間でコーティング量に差がないかどうかの確認を行った。なお、薄膜の厚さは、リグノセルロース薄膜を針で傷付けることで部分的に基板3の表面を露出させ、その領域をAFM観察して得られるリグノセルロース薄膜表面から基板3表面までの高さをWinSPMによって解析することで求めた。
AFMを利用して調べた薄膜の厚み及び表面の平均粗さの結果を表4に示す。なお、これらの結果は少なくとも3領域以上で観察・解析した結果の平均値である。
【0116】
(表4)
【0117】
表4の結果より、サンプル0,2〜8は、概ね近い値であるが、亜塩素酸ナトリウムによる処理時間が長いほど、膜の厚みが若干薄くなり、表面が滑らかになる傾向があることがわかった。
一方、水熱処理サンプルは、膜の厚み、平均粗さ共にサンプル間での差は小さいといえる。
【0118】
(評価4)
形成したリグノセルロース薄膜の表面の状態をAFMで観察した。得られたAFM像を
図5の(a)〜(f)に示す。なお、サンプル2を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(a)に相当し、サンプル3を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(b)に相当し、サンプル4を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(c)に相当し、サンプル5を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(d)に相当し、サンプル0を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(e)に相当し、サンプル6を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(f)に相当し、サンプル7を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(g)に相当し、サンプル8を用いて得られたリグノセルロース薄膜の表面写真は、
図5の(h)に相当する。
【0119】
図5の(a)〜(d)は、亜塩素酸ナトリウム処理の時間を変えたサンプル2〜5のAFM像になるところ、これらを比較すると処理時間が短いサンプルほど繊維長が短くなる傾向が見られ、それに伴い平均粗さの値も少し高くなる傾向にあった。
また、平均粗さの結果だけを見ると、リグノセルロース薄膜が示す値は、いずれも純粋なセルロースが示す結果よりも小さく、より滑らかな表面であることがわかった。
一方、
図5の(f)〜(h)は、水熱処理サンプルの温度を変えたサンプル6〜8のAFM像になるところ、サンプル間の繊維長は近く、繊維幅が処理温度の増加に連れて細くなる傾向があった。
なお、
図5の(e)より、市販の純粋セルロースを用いても、基板3表面がセルロース薄膜で覆われることが確認できた。
【0120】
次に、酵素反応で利用する50mM酢酸緩衝液(pH5.0)にセンサーを予め一晩浸漬させ、センサー表面上のサンプル4を用いて形成したリグノセルロース薄膜を完全に膨潤させた。
そして、リグノセルロース薄膜を膨潤させたセンサーを、超純水で軽く水洗した後、窒素ガスで風乾させてから
図2に示す解析装置10に取り付けた。
解析装置10によるモニタリングで発振が安定することを確認した後、ペリスタリックポンプを用いて50mM酢酸緩衝液(pH5.0)を流速50μl/minで通液し、発振が安定化するまで通液を継続した。
発振が安定化したところで通液する溶液を、50mM酢酸緩衝液(pH5.0)に溶解させた0.05mg/ml濃度のAcremonium cellulolyticus由来のセルラーゼ粗酵素に切り替え、センサーを取り付けた容器内の緩衝液が酵素溶液に完全に置換されるまで通液した。
通液停止後も解析装置によるモニタリングは継続し、周波数変化及びエネルギー散逸量変化が見られなくなるまで解析を続けた。なお、サンプル0,2〜8間での比較のため、酵素溶液の通液時間、モニタリング時間は一定とした。また、容器内の温度は40℃に保ち、反応温度40℃における酵素反応を解析した。
反応終了後は酵素溶液から緩衝液に溶液を切り替え、流速50μl/minで容器内の酵素溶液を洗い流した。
【0121】
各センサーを用いてリグノセルロースに対する酵素の吸着又は脱離及び基質の分解を水晶振動子微量天秤によって解析した。その結果を
図6に示す。
図6に示すように、反応開始から6時間までの周波数変化とエネルギー散逸量変化は、いずれのセンサーを使った解析結果も反応の進行に伴う酵素の吸着又は脱離及びセンサー上の基質の分解を示す周波数変化及びエネルギー散逸量変化が追跡できており、純粋なセルロースを用いた際と遜色ない解析が可能であることが確認された。
【0122】
同じ解析結果について、反応初期の周波数変化とエネルギー散逸量変化に着目した解析結果を
図7に示す。
図7に示すように、純粋なセルロースのセルラーゼ粗酵素による分解を含む一般的な酵素反応では、反応初期に酵素の吸着を示す周波数変化とエネルギー散逸量変化が確認されるが、サンプル2〜8のリグノセルロース薄膜を用いたセンサーが示す反応初期の変化は、いくつかの要素が関わっていることが示唆される複雑な波形変化となっていた。
また、前処理条件によって波形変化に差が生じる結果となっており、これはサンプルの組成や構造の変化に応じて酵素の作用機構が変化したことが水晶振動子微量天秤によって解析できていることを示す結果と言える。特に化学組成にほとんど変化が見られなかった低温での水熱処理(サンプル6〜8)についても、処理温度に応じて徐々に周波数変化とエネルギー散逸量変化の波形が変わって行く様子が確認でき、前処理時の一連の条件設定が酵素反応に与える影響を比較することにも利用できることがわかった。
【0123】
以上より、本発明の水晶振動子微量天秤用バイオセンサーによれば、所定のリグノセルロース微細繊維を付与することにより、リグノセルロースを分解する酵素や化合物の作用機構や、リグノセルロースに対する有機化合物や無機化合物の吸脱着等の相互作用をリアルタイムで評価できることが確認された。