(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
入射したX線又はガンマ線から付与されたエネルギによって光を発生するシンチレーターと、前記シンチレーターにおけるX線又はガンマ線の入射端からの距離が互いに異なる位置で、当該シンチレーターより発生した光を検出する複数の光検出器とを備えたX線又はガンマ線検出器であって、前記シンチレーターの少なくとも一部のd×Zeff4(ただし、dはシンチレーターの密度(g/cm3)を表わし、Zeffはシンチレーターの有効原子番号を表わす)が30×106以下であることを特徴とするX線又はガンマ線検出器。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の放射線検出器を詳細に説明する。なお、以下の説明では、ヨウ素造影剤を用いて透過X線画像を得る場合を対象として具体的に説明するが、本発明の放射線検出器はかかる用途に限らず、γ線等を用いた種々の放射線検査装置にも同様に適用できる。
【0018】
図1は、本発明の放射線検出器を用いたX線検査装置の概略構成図であり、
図2〜4は本発明の放射線検出器の概略図である。また、
図5はフィルタX線のヨウ素透過後のX線エネルギスペクトルを示すグラフである。
【0019】
図1に示すように、第1実施形態のX線検査装置1は、X線管2や、X線検出器(放射線検出器)3を縦横に配置してなるX線検出器アレイ4、前置増幅器5、主増幅器6、2種の積分器7,8、造影剤厚さ演算装置9、画像化装置10等から構成されている。
【0020】
<放射線検出器>
以下、本発明の放射線検出器について詳細に説明する。以下の説明では、
図2を参照して、複数のシンチレーターを用い、これら複数のシンチレーターに各々対応する複数個の光検出器を用いる態様について説明するが、
図3に示すように単一のシンチレーター(SC)を用いても良く、或いは
図4に示すように単一のシンチレーターであって各光検出器に対応する部位を隔てるように切込みを設けたシンチレーター(SC)を用いても良い。
【0021】
また、光検出器の数は複数であれば特に制限されないが、かかる光検出器の数は多いほどエネルギ情報を精度よく得ることができるため、3個以上とすることが好ましい。一方、光検出器の数が過剰に多いと放射線検出器の製作にかかるコストが高くなるため、6個以下とすることが好ましい。
【0022】
なお、本発明において、光検出器は特に制限されず、従来公知のフォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、或いは光電子増倍管等を適宜用いることができる。
【0023】
図2に示すように、本発明の放射線検出器3は、検出媒体である第1シンチレーターSC1〜第4シンチレーターSC4と、当該シンチレーターより発せられた光を検出するための第1光検出器11〜第4光検出器14とを備えている。第1シンチレーターSC1〜第4シンチレーターSC4は、X線の入射方向に沿って順に並ぶかたちで設置されており、各々のシンチレーターは反射材15で覆われている。また、第1光検出器11〜第4光検出器14は、シンチレーターの端面にX線の入射方向に沿って順に並ぶかたちで設置されており、それぞれから出力された電流I
1〜I
4がそれぞれ前述した前置増幅器5に送られる。
【0024】
前記
図1のX線検査装置1において、X線管2から被検体SにX線が照射されると、被検体Sを透過したX線がX線検出器アレイ4内のX線検出器3に入射する。なお、X線管2から照射されるX線は、特に限定されないが、例えば50kVに加速した電子をタングステンターゲットに衝突させ、放出された白色X線からLaフィルタによって高エネルギ部分(38.9keV以上)を除去して得られるフィルタX線等が好適に用いられる。
【0025】
X線検出器3にX線が入射すると、第1シンチレーターSC1〜第4シンチレーターSC4は入射したX線から付与されたエネルギによって光を発生し、第1光検出器11〜第4光検出器14からそれぞれ電流I
1〜I
4が出力される。電流I
1〜I
4は、前置増幅器5と主増幅器6とにより増幅された後、積分器7,8でエネルギ領域ごとに積算されて造影剤厚さ演算装置に出力される。造影剤厚さ演算装置9では両積分器7,8の積算結果に基づき被検体S内のヨウ素造影剤の厚みが演算され、その演算結果に基づき画像化装置10が透過X線画像を生成する。
【0026】
癌等の病巣や血管にヨウ素造影剤を注入した被検体SにX線を照射すると、
図5に示すように、ヨウ素のK殻吸収端のエネルギ準位(33.2keV)付近が不連続となったX線エネルギスペクトルが得られる。なお、
図5は、人体を模した厚さ20cmの水にヨウ素造影剤を模したヨウ素を含ませたものにフィルタX線を照射して得たX線エネルギスペクトルのグラフである。スペクトルをX線エネルギにより4つに分け、それぞれのエネルギ範囲をe
1〜e
4で表している。Y
1〜Y
4はエネルギ範囲e
1〜e
4に含まれるX線の個数を表す。なお、本出願人は、先に挙げた特許文献2において、
図5中のエネルギ範囲e
2,e
3に含まれるX線の個数Y
2,Y
3の比に基づいて、ヨウ素造影剤の厚さを判定できることを開示した。
【0027】
さて、前記放射線検出器3においては、単一の光検出器から出力される電流によって入射したX線のエネルギを正しく測定することはできない。すなわち、
図2において、第1光検出器11から出力される電流I
1には全エネルギ範囲e
1〜e
4のX線が寄与しているため、第1光検出器11だけで電流を測定した場合には、どのエネルギ範囲のX線がどの程度の個数存在するのかを測定することは当然にできない(式1)。
【0028】
【数1】
式1において、wはシンチレーターにおいて一つの光子を生成するために必要なエネルギであり、Tは測定時間であるが、以降の説明においては、説明が煩雑になることを防ぐため、wおよびTはともに1とする(考慮しない)。また、E
j(j=1〜4)は各エネルギ範囲の平均エネルギであり、C
ij(i=1〜4,j=1〜4)は平均エネルギE
jのX線がシンチレーターの第i光検出器(11〜14)に対応する部位で吸収される相対確率を示す。
【0029】
式2に、第1光検出器11〜第4光検出器14から出力される電流I
1〜I
4を示す。
【0030】
【数2】
式2から判るように、電流I
1〜I
4は、シンチレーターの第i光検出器(11〜14)に対応する部位で吸収されるX線の数に依存している。ここで、E
j(j=1〜4)は既知の値であるが、Y
i(i=1〜4)およびC
ij(i=1〜4,j=1〜4)は未知数であり、式が4つで未知数が合計20個となるため、そのままでは式2の連立方程式を解くことができない。
【0031】
ところで、X線は、物質中を通過する際にその強度が指数関数的に減少する(式3)。
【0032】
【数3】
ここで、μ(E
j)は放射線のエネルギに依存する減衰係数である。また、X
1−2は放射線がシンチレーター中を第1光検出器11に対応する位置から第2光検出器12に対応する位置まで通過した距離、X
2−3は放射線がシンチレーター中を第2光検出器12に対応する位置から第3光検出器13に対応する位置まで通過した距離、X
3−4は放射線がシンチレーター中を第3光検出器13に対応する位置から第4光検出器14に対応する位置まで通過した距離である。
【0033】
したがって、放射線と物質との相互作用のシミュレーションコードからエネルギE
jの放射線が入射した際のシンチレーターにおける吸収確率を予め求めておけば、C
ijを得ることができる。その結果、式2の連立方程式は、含まれる未知数がY
1〜Y
4の4個となり、解くことが可能となる(式4)。なお、前記シミュレーションコードは、例えばSANDII等の当分野で公知のものを適宜用いることができる。
【0034】
【数4】
かかる計算によって得られた各エネルギ範囲における放射線の個数(Y
1〜Y
4)を用いて、エネルギ差分法を適用することにより、入射放射線のエネルギや被検体の厚さに関わらず、着目する成分を強調した画像を得ることができる。すなわち、例えばヨウ素造影剤を用いたX線CTスキャンによる医療診断において、ヨウ素のK殻吸収端のエネルギ準位(33.2keV)を挟むようにe
2とe
3を設定し、かかるエネルギ準位を挟んで高エネルギ側のX線の個数(Y
3)を低エネルギ側のX線の個数(Y
2)で除した値(Y
3/Y
2)を用いて画像化することにより、被検体の厚さ(被検者の脂肪量)に影響されることなく、病巣に蓄積したヨウ素造影剤を強調した画像を得ることができる。
【0035】
ここで、前記放射線のエネルギに依存する減衰係数 μ(E
j)があまりに大きい場合、放射線の入射端から遠い位置に設置された光検出器からの信号がきわめて微弱となり、前記エネルギ情報を得るための計算の精度が著しく悪化する。より具体的に説明すれば、例えば、前記説明において放射線の入射端から最も遠い位置に設置された第4光検出器からの信号I
4が微弱となり、前記式2中の第4式が実質的に意味をなさなくなり、解(Y
1〜Y
4)を精度良く求めることが困難となる。前記減衰係数 μ(E
j)は、シンチレーターのd×Z
eff4に依存しており、d×Z
eff4が小さいほどμ(E
j)は小さくなる。したがって、本発明においては、エネルギ情報を精度よく得るため、シンチレーターの少なくとも一部のd×Z
eff4が30×10
6以下であることが必須である。例えば、複数のシンチレーターを用い、これら複数のシンチレーターに各々対応する複数個の光検出器を用いる態様においては、複数のシンチレーターのうち少なくとも1つのシンチレーターのd×Z
eff4が30×10
6以下であることが必須である。これにより、放射線の入射端から遠い位置に設置された光検出器からも、十分な強度の信号を得ることができ、放射線のエネルギ情報を高精度に検出することが可能となる。
【0036】
なお、X線検出器3(
図1参照)に含まれる全てのシンチレーターのd×Z
eff4が30×10
6以下である必要はないが、放射線の入射端側に位置するシンチレーター(
図2におけるSC4以外のシンチレーター)のいずれか又は全部のd×Z
eff4が、30×10
6以下であることが好ましい。
【0037】
また、前記第i光検出器に対応するC
i1〜C
i4の変数の組と、第i’光検出器に対応するC
i’1〜C
i’4の変数の組とは、互いに独立であることが好ましい。すなわち、前記変数の組同士が互いに独立でない場合には、式2に挙げた4つの式は実質的に3つとなり、解(Y
1〜Y
4)を一意に求めることができなくなるため、例えば、予めY
iが既知の校正されたX線源を用いてI
iを求めておき、当該既知のI
i及びY
iの組合せを用いるなどして多くの計算処理を行わなければ、解(Y
1〜Y
4)を精度良く求めることができない。一方で、前記変数の組同士が互いに独立であって、顕著に乖離した傾向を示す場合には、簡便な計算によって解(Y
1〜Y
4)を精度よく求めることができる。かかる点に鑑みて、本発明の放射線検出器は、放射線の入射端からの距離が互いに異なる位置で、シンチレーターのd×Z
eff4が異なることが好ましい。第i光検出器に対応する部位と第i’光検出器に対応する部位とでシンチレーターのd×Z
eff4が異なることによって、C
i1〜C
i4の変数の組とC
i’1〜C
i’4の変数の組とが、互いに顕著に乖離した傾向を示す。また、エネルギ差分法に用いるX線検出器3の場合、放射線の入射端から遠い位置に設置された光検出器からも十分な強度の信号を得るために、放射線の入射端から近い側のシンチレーターのd×Z
eff4を、放射線の入射端から遠い側のシンチレーターのd×Z
eff4より小さい値とした実施形態は、後述の実施例2で採用されているように、好ましい態様である。
【0038】
<シンチレーター>
以下、本発明のシンチレーターについて詳細に説明する。
【0039】
本発明のシンチレーターは、アルカリ土類金属のハロゲン化物からなり、Sm、Gd、Tb、Dy及びHoから選ばれる少なくとも1種の希土類元素を含有し、且つd×Z
eff4(ただし、dはシンチレーターの密度(g/cm
3)を表わし、
Zeffはシンチレーターの有効原子番号を表わす)が30×10
6以下であることを特徴とする。
【0040】
かかるシンチレーターは放射線の入射によって、発光強度が高い上、放射線に対して適度な透過性を有するため、前記本発明の放射線検出器において、好適に使用することができる。
【0041】
前記アルカリ土類金属のハロゲン化物を具体的に例示すれば、Mg、Ca、Sr及びBaのフッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物、並びにこれらの固溶体が挙げられる。かかるアルカリ土類金属のハロゲン化物の中でも、フッ化物が潮解し難く化学的安定性に優れるため、好ましい。
【0042】
さらに、前記フッ化物の中でも、CaF
2、(Ca
xSr
1−x)F
2(ただし、0<x<1である。)、SrF
2及び(Sr
xBa
1−x)F
2(ただし、0.3≦x<1である。)で示されるフッ化物が特に好ましい。かかるフッ化物は良好な化学的安定性を有しており、通常の使用においては短期間での性能の劣化は認められない。更に、機械的強度及び加工性も良好であり、所望の形状に加工して用いることが容易である。加工に際しては、公知のブレードソー、ワイヤーソー等の切断機、研削機、或いは研磨盤を何ら制限無く用いることができる。
【0043】
前記シンチレーターの放射線に対する透過性は、d×Z
eff4(ただし、dはシンチレーターの密度(g/cm
3)を表わし、
Zeffはシンチレーターの有効原子番号を表わす)で表わされ、所期の放射線に対する透過性を有するシンチレーターを適宜選択して用いることができる。なお、本発明において、有効原子番号は下式で定義される指標である。
【0044】
有効原子番号=(ΣW
iZ
i4)
1/4
式中、W
i及びZ
iは、それぞれシンチレーターを構成する元素のうちのi番目の元素の質量分率及び原子番号である。
【0045】
本発明のシンチレーターは、前記d×Z
eff4が30×10
6以下である。該d×Z
eff4が30×10
6を超える場合には、前記本発明の放射線検出器に適用した際に入射端から遠い位置のシンチレーターに入射する放射線がきわめて微弱となり、エネルギ情報の精度が低下するという問題が生じるが、放射線検出器の少なくとも一部に、d×Z
eff4が30×10
6以下である本発明のシンチレーターを採用することにより、このような問題を低減することができる。なお、d×Z
eff4の下限は特に制限されないが、1×10
6以上とすることが好ましい。d×Z
eff4を1×10
6以上とすることによって、シンチレーターが放射線を充分に吸収することができるため、シンチレーターの発光強度が高まり、結果として光検出器から出力される信号の強度を高めることができる。
【0046】
本発明のシンチレーターは、前記Sm、Gd、Tb、Dy及びHoから選ばれる少なくとも1種の希土類元素の作用によって、放射線が入射した際に発光を呈する。当該希土類元素の中でも、Tbが特に高い発光強度を有し、また、発光波長が約450〜700nmであって、光検出器として一般に用いられるフォトダイオードによって、感度良く検出できるため、好ましい。
【0047】
前記アルカリ土類金属のハロゲン化物に希土類元素を含有せしめる際の含有量は、特に制限されないが、0.1〜10wt%の範囲とすることが好ましく、1〜5wt%の範囲とすることが特に好ましい。発光中心元素の含有量を0.1wt%以上、より好ましくは1wt%以上とすることによって、希土類元素を介する発光の確率が高まり、高い発光強度を得ることができる。また、発光中心元素の含有量を10wt%以下、より好ましくは5wt%以下とすることによって、濃度消光による発光の減退を避けることができる。
【0048】
本発明のシンチレーターは、多結晶あるいは単結晶のいずれの形態を用いても良いが、単結晶を用いることにより、粒界における光の散逸や非輻射遷移による損失を抑制することができ、高い発光強度を得ることができるため、好ましい。
【0049】
本発明において、シンチレーターの形状は特に限定されないが、一般には角柱状の形状で使用される。なお、シンチレーターは、放射線検出器における光検出器に対向する光出射面(以下、単に光出射面ともいう)を有し、該光出射面は光学研磨が施されていることが好ましい。かかる光出射面を有することによって、シンチレーターで生じた光を効率よく後段の光検出器に入射できる。
【0050】
当該光出射面の形状は限定されないが、光検出器の受光面の形状と同等の形状とし、
図2に示すように光検出器と接合することが好ましい。
【0051】
なお、シンチレーターの光検出器に対向しない面に、アルミニウム、硫酸バリウム或いはテフロン(登録商標)等からなる光反射膜を施すことは、シンチレーターで生じた光の散逸を防止することができるため、好ましい態様である。
【0052】
本発明において、シンチレーターの製造方法は特に制限されないが、一般にはアルカリ土類金属のハロゲン化物及び希土類元素のハロゲン化物の粉末等を混合して原料混合物を調製し、この原料混合物を加熱して溶融せしめた後、冷却して凝固せしめる方法を採用することができる。また、シンチレーターを単結晶として製造する場合には、従来公知の単結晶の製造方法であるブリッジマン法、温度勾配固化(Gradient Freeze)法、チョクラルスキー法、或いはマイクロ引下げ法等を適宜適用することができる。
【0053】
以下、本発明において、シンチレーターの単結晶の製造方法について、ブリッジマン法を例にとって詳細に説明する。
【0054】
まず、アルカリ土類金属のハロゲン化物及び希土類元素のハロゲン化物の各原料の粉末等を混合して原料混合物を調製する。次いで、前記原料混合物を坩堝に充填し、加熱ヒーター、断熱材、及び真空排気装置を備えたチャンバー内にセットする。真空排気装置を用いて、チャンバーの内部を1.0×10
−3Pa以下まで真空排気した後、高純度アルゴン等の不活性ガスをチャンバー内に導入してガス置換操作を行う。ガス置換操作後のチャンバー内の圧力は特に限定されないが、大気圧が一般的である。かかるガス置換操作によって、原料或いはチャンバー内に付着した水分を除去することができ、かかる水分に由来するシンチレーターの発光強度の減退等の問題を回避することができる。
【0055】
上記ガス置換操作によっても除去できない水分による悪影響を避けるため、水分との反応性の高いスカベンジャーを用いて、水分を除去することが好ましい。かかるスカベンジャーとしては、四フッ化メタン等の気体スカベンジャーを好適に用いることができる。なお、気体スカベンジャーを用いる場合には上記不活性ガスに混合してチャンバー内に導入する方法が好適である。
【0056】
ガス置換操作を行った後、加熱ヒーターによって原料混合物を加熱して溶融せしめる。なお、加熱ヒーターの加熱方式は特に限定されず、例えば高周波誘導加熱方式、あるいは抵抗加熱方式等を適宜用いることができる。
【0057】
次いで、溶融した原料混合物の融液を坩堝とともに降下せしめる。加熱ヒーター及び断熱材は、上方が高温、下方が低温となるように配置されており、融液は降下するにつれて下方より凝固する。さらに融液を連続的に降下せしめることによって、融液は下方より上方へ一方向に凝固し、坩堝の底部で生じた結晶が上方に成長することによって、シンチレーターの単結晶を製造することができる。
【0058】
本発明において、前記シンチレーターの単結晶の製造に際して、ハロゲン原子の欠損あるいは熱歪等に起因する結晶欠陥を除去する目的で、単結晶の製造後にアニール操作を行っても良い。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0060】
実施例1
〈シンチレーターの製造〉
まず、CaF
2 11g及びTbF
3 0.6gを混合して、原料混合物を調製した。すなわち、本実施例では、希土類元素としてTbを4wt%含有するCaF
2単結晶を製造した。なお、上記各原料の純度は99.99%以上の原料を用いた。
次いで、前記原料混合物をカーボン製の坩堝に充填し、抵抗加熱方式の加熱ヒーター、断熱材、及び真空排気装置を備えたチャンバー内にセットした。真空排気装置を用いて、チャンバーの内部を2.0×10
−4Pa以下まで真空排気した後、5vol%の四フッ化メタンを混合した高純度アルゴンガスをチャンバー内に導入してガス置換操作を行った。ガス置換操作後のチャンバー内の圧力は大気圧とした。
【0061】
ガス置換操作を行った後、加熱ヒーターによって原料混合物を加熱して溶融せしめた。次いで、溶融した原料混合物の融液を坩堝とともに連続的に降下せしめ、融液を下方より上方へ一方向に凝固せしめた。なお、本実施例において、融液を降下せしめる速度は1mm/hrとした。かかる操作により、融液を全て凝固せしめた後、徐々に冷却して本発明のシンチレーターの単結晶を得た。
【0062】
当該単結晶の密度は、3.2g/cm
3であった。また、当該単結晶の化学組成より計算される有効原子番号は30である。したがって本実施例のCaF
2(Tb)からなるシンチレーターのd×Z
eff4は2.5×10
6であった。
【0063】
得られた単結晶を、ダイヤモンドワイヤーを備えたワイヤーソーによって切断し、切断面に光学研磨を施すことにより、1.1mm×5.9mm×5mmのサイズの直方体状のシンチレーターに加工した。前記光学研磨された面の内、1.1mm×5.9mmのサイズの一面を光出射面とし、当該光出射面以外の面にテフロン(登録商標)からなる光反射膜を施した。
【0064】
〈放射線検出器の製作と特性評価〉
前記製造したCaF
2(Tb)からなるシンチレーターを用いて放射線検出器を製作し、該放射線検出器の特性を評価した。
【0065】
当該放射線検出器は、
図2に示すようにシンチレーターを4個用い、該シンチレーター(SC1〜SC4)の各々に光検出器(11〜14)を組み合わせて製作した。なお、光検出器はシリコン受光素子であるフォトダイオード(浜松ホトニクス社製、S1337−16BR)を使用し、該フォトダイオードの受光面に、前記シンチレーターの光出射面を透明シリコングリースによって接合した。なお、該フォトダイオードの受光面のサイズは1.1mm×5.9mmであり、シンチレーターの光出射面のサイズと同一である。
【0066】
当該放射線検出器の特性を以下の方法によって評価した。まず、
図6に示すようにX線源、被検体及び放射線検出器を設置してX線を照射し、被検体内部を透過したX線が放射線検出器に入射することによって第1光検出器11〜第4光検出器14から生じた電流I
1〜I
4を測定した。なお、前記被検体は、直径30mmのアクリル樹脂製の円筒であって、該円筒の中央部に設けられた直径5mmの穴に、ヨウ素溶液が充填されたものである。当該ヨウ素溶液は、溶液の厚さ1mmあたりのヨウ素厚さが3μmとなるようにヨウ素濃度が調整されている。したがって、前記ヨウ素溶液が充填された穴の直径5mmにおいては、ヨウ素厚さは15μmに相当する。
被検体を
図6に点線で示した方向に0.4mm毎に移動し、各位置での電流I
1〜I
4を測定した。次いで得られた電流I
1〜I
4を式4に代入し、各エネルギ範囲におけるX線の個数(Y
1〜Y
4)を求めた。なお、エネルギ範囲は、15〜33.2、33.2〜40、40〜80及び80〜120keVとし、該エネルギ範囲の平均エネルギであるE
1〜E
4はそれぞれ、24、37、60及び100keVとした。
【0067】
被検体の全幅を走査した後、被検体を30度回転させて、前記と同様に走査し、各位置でのY
1〜Y
4を求めた。かかる被検体の走査と回転を6回繰り返して行った。
【0068】
得られた各位置及び角回転角度におけるY
1〜Y
4を用いて、エネルギ差分法を適用した際の断面プロファイルを
図7に示す。
図7の横軸は、被検体の中心を0mmとしてX線を透過させた位置を示し、縦軸はヨウ素のK殻吸収端のエネルギ準位(33.2keV)を挟んで高エネルギ側のX線の個数(Y
3)を低エネルギ側のX線の個数(Y
2)で除した値(Y
3/Y
2)を示す。なお、当該縦軸には、空気中(被検体が無い場合)のY
3/Y
2が0となるように補正した値を示す。
図7から、本発明の放射線検出器を用いることにより、被検体であるアクリルの厚さに関わらず、ヨウ素の厚さを強調した結果が得られることが分かる。
【0069】
また、前記Y
3を用いて、被検体のCT値を求めた。当該CT値は、被検体のX線吸収係数を表わす値であって、ここでは前記40〜80keVのエネルギ範囲の平均値 E
3に対するX線吸収係数、すなわち前記式3中のμ(E
3)を表わす。得られたCT値の断面プロファイルを
図8に示す。なお、ヨウ素厚さ 15μmにおける該CT値は、0.7(
図8中の鎖線)である。
【0070】
比較例1
〈放射線検出器の製作と特性評価〉
市販のCsI(Tl)からなるシンチレーターを用いる以外は、実施例1と同様にして放射線検出器を製作した。
【0071】
当該放射線検出器の特性を実施例1と同様の方法によって評価した。得られたY
1〜Y
4を用いて、エネルギ差分法を適用した際の断面プロファイルを
図7に示す。本比較例では、CsI(Tl)のd×Z
eff4が38×10
6と高く、入射端から遠い位置のシンチレーターに入射する放射線がきわめて微弱となり、エネルギ情報の精度が低下するため、結果として得られるY
3/Y
2が大きくばらつくことが分かる。
【0072】
これに対して、本発明の実施例1は、CaF
2(Tb)のd×Z
eff4が2.5×10
6と低いため、入射端から遠い位置のシンチレーターにも充分な個数の放射線が入射するため、エネルギ情報の精度が向上し、結果として得られるY
3/Y
2のばらつきが少ないことが分かる。
【0073】
実施例2
〈シンチレーターの製造〉
SrF
2 0.8g、BaF
2 10g及びTbF
3 0.3gを混合して原料混合物を調製する以外は、実施例1と同様にしてTbを2wt%含有する(Sr
0.1Ba
0.9)F
2単結晶を製造した。
【0074】
また、BaF
2 11g及びTbF
3 0.3gを混合して原料混合物を調製する以外は、実施例1と同様にしてTbを2wt%含有するBaF
2単結晶を製造した。
【0075】
該(Sr
0.1Ba
0.9)F
2(Tb)、及びBaF
2(Tb)からなるシンチレーターのd×Z
eff4は、それぞれ36×10
6、及び38×10
6であった。
【0076】
〈放射線検出器の製作と特性評価〉
実施例1で製造したCaF
2(Tb)からなるシンチレーターをSC1及びSC2として用い、前記製造した(Sr
0.1Ba
0.9)F
2(Tb)をSC3として用い、また、前記製造したBaF
2(Tb)をSC4として用いる以外は、実施例1と同様にして放射線検出器を製作した。
【0077】
当該放射線検出器の特性を実施例1と同様の方法によって評価した。得られたCT値の断面プロファイルを
図8に示す。
図8より、本実施例のように、放射線の入射端からの距離が互いに異なる位置で、シンチレーターのd×Z
eff4が異なる態様とすることによって、ヨウ素厚さを正しく求められることが分かる。なお、実施例1においても、Y
3/Y
2からヨウ素厚さを求める際の計算の精度を高めることによって、実施例2と同等の結果を得ることができたが、かかる計算は極めて煩雑であり、莫大な回数の計算と時間を要した。