特許第5995298号(P5995298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995298光ファイバ製造方法及び光ファイバ製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5995298
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】光ファイバ製造方法及び光ファイバ製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/012 20060101AFI20160908BHJP
   C03B 37/027 20060101ALI20160908BHJP
   G02B 6/02 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C03B37/012 B
   C03B37/027 Z
   G02B6/02 356A
   G02B6/02 471
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-136746(P2015-136746)
(22)【出願日】2015年7月8日
【審査請求日】2015年7月8日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構、『革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発』委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】青笹 真一
(72)【発明者】
【氏名】辻川 恭三
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】山本 文彦
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−168597(JP,A)
【文献】 特開平9−86947(JP,A)
【文献】 特開平9−124332(JP,A)
【文献】 特開平6−80436(JP,A)
【文献】 特開平9−71431(JP,A)
【文献】 特開平5−170470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/075
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
少なくとも1つ以上の前記キャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上の前記ガラスロッドを前記ジャケット管に入れる挿入工程と、
前記挿入工程後、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を充填する造粒粉投入工程と、
前記造粒粉投入工程後、前記隙間を満たす前記造粒粉を前記ジャケット管の他端から加圧して固める造粒粉固化工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する光ファイバ製造方法。
【請求項2】
ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を型に充填するとともに加圧して固め、前記ジャケット管の内径を直径とする円板であり、前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドの外径を直径とする孔が前記円板の所定位置に少なくとも1つ以上形成された固定治具を形成する固定治具形成工程と、
前記固定治具形成工程で形成した前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管の一端もしくは前記ガラスロッドの一端を挿入し、前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を充填する造粒粉投入工程と、
前記造粒粉投入工程の後、前記キャピラリー管の他端もしくは前記ガラスロッドの他端に前記固定治具形成工程で形成した他の前記固定治具の前記孔を嵌め込む固定治具設置工程と、
前記固定治具設置工程後、前記他の固定治具を加圧し、前記隙間を満たす前記造粒粉を固める造粒粉固化工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する光ファイバ製造方法。
【請求項3】
前記造粒粉投入工程と前記固定治具設置工程を繰り返すことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項4】
ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を型に充填するとともに加圧して固め、前記ジャケット管の内径を直径とする円板であり、前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドの外径を直径とする孔が前記円板の所定位置に少なくとも1つ以上形成された固定治具を形成する固定治具形成工程と、
前記固定治具形成工程で形成した前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管の一端もしくは前記ガラスロッドの一端を挿入し、前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入し、前記キャピラリー管の他端もしくは前記ガラスロッドの他端に前記固定治具形成工程で形成した他の前記固定治具の前記孔を嵌め込み、複数の前記固定治具を積み上げる、あるいは、
前記固定治具形成工程で形成した複数の前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを貫通させ、複数の前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入する挿入工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する光ファイバ製造方法。
【請求項5】
前記母材を長手方向に第1温度と第2温度で順に加熱し、第1温度での加熱で前記シリカ粉末に添加された前記有機系樹脂を脱脂し、第2温度での加熱で前記シリカ粉末の焼結及び所望の外径までの延伸で細径化を行うファイバ線引工程をさらに行うことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光ファイバ製造方法。
【請求項6】
前記ファイバ線引き工程は、第2温度が第1温度より高温であることを特徴とする請求項5に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項7】
前記ファイバ線引き工程は、真空中もしくは大気圧から減圧した状態で行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の光ファイバ製造方法。
【請求項8】
ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管に、光ファイバの空孔となる少なくとも1つ以上のキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となる少なくとも1つ以上のガラスロッドを挿入し、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加した造粒粉を、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に充填して形成した柱状の母材を、
長手方向に第1温度と第2温度で順に加熱し、第1温度での加熱で前記シリカ粉末に添加された前記有機系樹脂を脱脂し、第2温度での加熱で前記シリカ粉末の焼結及び所望の外径までの延伸で細径化を行う加熱炉を備える光ファイバ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、長距離用光ファイバ母材の製造方法は、気相法によるものが主流であり、ファイバの完成までの工程は大きく分けて、多孔質母材の製造、母材の焼結(透明化)、ファイバ線引の3工程から成る。
【0003】
気相法による代表的な母材作製法として、以下の4つがある。
{1}OVD法(Outside Vapor Deposition Method)
{2}MCVD法(Modified Chemical Vapor Deposition Method)
{3}PCVD法(Plasma Chemical Vapor Deposition Method)
{4}VAD法(Vapor−phase Axial Deposition Method)
【0004】
この中でも現在の主流である{4}のVAD法を例にとって、光ファイバ母材の製造方法を説明する(図1)。原料供給系から供給される原料気体(SiCl,GeCl)は、酸水素バーナの炎の中に導かれ、燃焼で生成された水によってバーナ燃焼部で
SiCl+2HO −> SiO+4HCl
GeCl+2HO −> GeO+4HCl
などの火炎加水分解を受ける。この火炎加水分解を受けると、石英系ガラスの微粒子(スート)が形成される。この微粒子を出発材の先端に堆積させる。ガラス微粒子は軸方向に堆積するので、この成長速度に合わせて出発材を回転させながら上方に引き上げて行き、多孔質母材が形成される。次に多孔質母材を加熱炉に入れ高温にすると、焼結が進み、体積が収縮し、母材中の空隙は連結して、母材の外に達する。さらに温度が高くなると完全な透明ガラス体(母材)となる。さらに、この透明ガラス体を光ファイバ線引装置に挿入し、線引が実施される(非特許文献1)。
【0005】
一般的な光ファイバの線引装置は非特許文献2に示すように、加熱炉、ファイバ外径測定器、ダイス(被覆(樹脂)塗布)、被覆(樹脂)硬化器(加熱炉、UV照射器等)、キャプスタン、巻き取り装置、線引母材を保持し線引量に応じて母材を加熱炉へ送り出す母材送り装置等から構成される(図2)。透明ガラス母材は約2000℃の電気炉内にて加熱され、局所的に軟化したガラスは、所望のファイバ外径(一般的には125μm)まで細径化される。加熱炉の下端口から引き出された光ファイバは、外径測定器を通過し、樹脂塗布器で樹脂がファイバ表面をコーティングし、樹脂硬化器(UV光源)で樹脂が硬化される。さらに光ファイバはキャップスタンで引き出され、巻き取り装置でボビンに巻きつけられる。外径測定器の測定結果を基にファイバ外径が一定となるようにキャップスタンの速度が調整される。
【0006】
一方、近年急速に研究開発が進んでいるマルチコア光ファイバ(MCF)の製造方法においても光ファイバの線引工程については、上記に記載した従来のファイバと基本的には同様である。しかしながら、複数のコアを形成する必要があるため、母材の製造工程については、上記記載の従来方法よりも複雑な工程が必要になる。これらの母材の製造方法の例として、スタックアンドドロー法やロッドインチューブ法等がある。スタックアンドドロー法では気相法などで作製した複数のコア用ガラスロッドおよびクラッド用ガラスロッドをジャケット管に挿入して一体化させて母材を作製する。一方、ロッドインチューブ法は、ドリル等で穴あけ加工した太径のクラッド用ガラスロッドにコア用ガラスロッドを挿入し一体化させて母材を作製する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】川上彰二郎、白石和男、大橋正治著、「光ファイバとファイバ形デバイス」1996年7月10日発行、p.11−13
【非特許文献2】三木哲也、須藤昭一編、「光通信技術ハンドブック」、オプトロニクス社、平成14年1月30日発行、p.244
【非特許文献3】T. Yajima et al., “OH−Free, Low loss single−mode fiber fabricated by slurry casting/ Rod−in−tube method”, ECOC2014, Th.2.4.4, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、一般的な母材作製法である気相法では、クラッドの中に多数のコアを有する複雑な構造のMCFの母材作製を、一連の工程で行うことは原理的に困難である。これを実現した場合も、工程数が多くなり、複雑な断面構造を有するMCF母材を高精度に作製することが難しく、経済性の観点からも難点がある。これらの困難を回避する方法として、前記のスタックアンドドロー法やロッドインチューブ法が用いられる。しかし、スタックアンドドロー法では多数のロッドを組み合わせることが必要で、コアの配置がロッドを細密にすきまなく充填できる構造にほぼ限られる点等が課題である。またロッドインチューブ法では穴あけ加工が必要である点等により、工程数の増加や穴あけ加工できる母材の長さに制限が生じる点、穴あけ時の母材の破壊や位置精度の悪化等が発生する可能性がある点が課題である。
【0009】
これらの方法以外にも、クラッド材料として粉末材料を用いて母材の大型化を実現している検討例(非特許文献3)があるが、単一コアの母材検討に留まっており、MCFに適用した例は知られていない。また、文献に示されているように母材の作製に限定しても7段階に及ぶ非常に細分化された複雑な処理工程が必要となり、その後さらに光ファイバの線引工程が加わる。また、MCFに適用する際は母材の中心以外にも複数のコアが配置され、母材の脱脂(結合剤である有機薬品の除去)時や焼結時の収縮に伴い。想定したコア位置からの位置精度の劣化も懸念される。また、MCFにおいてもクラッド内に空孔を配置することで、曲げ損失や複数コア間の信号のクロストークを抑制することが可能である。しかしながら、上記いずれの作製方法においてもコアの配置に関する課題と同じ課題が存在する。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造方法及び光ファイバ製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る光ファイバ製造方法は、クラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加して造粒粉を形成し、底部を閉じたジャケット管に1以上のキャピラリー管もしくはガラスロッドを入れ、ジャケット管内の隙間に造粒粉を満たし加圧して母材を形成し、該母材を上下に独立した2つの加熱源を有する加熱炉内へ徐々に導入し、上側の加熱源によって母材中のシリカ粉末に添加された有機系樹脂を脱脂し、下側の加熱源によって母材を焼結すると同時に所望の外径まで延伸することとした。
【0012】
具体的には、本発明に係る第1の光ファイバ製造方法は、ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
少なくとも1つ以上の前記キャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上の前記ガラスロッドを前記ジャケット管に入れる挿入工程と、
前記挿入工程後、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を充填する造粒粉投入工程と、
前記造粒粉投入工程後、前記隙間を満たす前記造粒粉を前記ジャケット管の他端から加圧して固める造粒粉固化工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する。
【0013】
ジャケット管内の正確な位置にキャピラリ管又はガラスロッドを配置し、これらの隙間を造粒粉で充填して押し固めることで、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成することができる。そして、この母材を用いて線引きを行えば、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造することができる。
【0014】
従って、本発明は、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造方法を提供することができる。
【0015】
具体的には、本発明に係る第2の光ファイバ製造方法は、ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を型に充填するとともに加圧して固め、前記ジャケット管の内径を直径とする円板であり、前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドの外径を直径とする孔が前記円板の所定位置に少なくとも1つ以上形成された固定治具を形成する固定治具形成工程と、
前記固定治具形成工程で形成した前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管の一端もしくは前記ガラスロッドの一端を挿入し、前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を充填する造粒粉投入工程と、
前記造粒粉投入工程の後、前記キャピラリー管の他端もしくは前記ガラスロッドの他端に前記固定治具形成工程で形成した他の前記固定治具の前記孔を嵌め込む固定治具設置工程と、
前記固定治具設置工程後、前記他の固定治具を加圧し、前記隙間を満たす前記造粒粉を固める造粒粉固化工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する。
【0016】
予め造粒粉で作成した固定治具を用いてキャピラリ管又はガラスロッドを固定しておけば、その後の工程でキャピラリ管又はガラスロッドの位置ずれを大幅に減らすことができる。そして、この母材を用いて線引きを行えば、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造することができる。
【0017】
従って、本発明は、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造方法を提供することができる。
【0018】
本発明に係る第2の光ファイバ製造方法は、前記造粒粉投入工程と前記固定治具設置工程を繰り返すことを特徴とする。これらの工程を繰り返すことで、長さの長い母材の作成でもキャピラリ管又はガラスロッドの位置ずれを大幅に減らすことができる。
【0019】
具体的には、本発明に係る第3の光ファイバ製造方法は、ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を型に充填するとともに加圧して固め、前記ジャケット管の内径を直径とする円板であり、前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドの外径を直径とする孔が前記円板の所定位置に少なくとも1つ以上形成された固定治具を形成する固定治具形成工程と、
前記固定治具形成工程で形成した前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管の一端もしくは前記ガラスロッドの一端を挿入し、前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入し、前記キャピラリー管の他端もしくは前記ガラスロッドの他端に前記固定治具形成工程で形成した他の前記固定治具の前記孔を嵌め込み、複数の前記固定治具を積み上げる、あるいは、
前記固定治具形成工程で形成した複数の前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを貫通させ、複数の前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入する挿入工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する。
【0020】
予め造粒粉で作成した複数の固定治具を連続してキャピラリ管又はガラスロッドにはめ込むことで、その後の工程でキャピラリ管又はガラスロッドの位置ずれを大幅に減らすことができる。そして、この母材を用いて線引きを行えば、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造することができる。
【0021】
従って、本発明は、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造方法を提供することができる。
【0022】
本発明に係る第1から第3の光ファイバ製造方法は、前記母材を長手方向に第1温度と第2温度で順に加熱し、第1温度での加熱で前記シリカ粉末に添加された前記有機系樹脂を脱脂し、第2温度での加熱で前記シリカ粉末の焼結及び所望の外径までの延伸で細径化を行うファイバ線引工程をさらに行うことを特徴とする。
【0023】
本光ファイバ製造方法は、母材中のシリカ粉末に添加された有機系樹脂を脱脂し、母材を焼結すると同時に所望の外径まで延伸する線引きまでを一工程で行うことができる。
【0024】
このとき、前記ファイバ線引き工程は、第2温度が第1温度より高温であることが好ましい。
【0025】
また、前記ファイバ線引き工程は、真空中もしくは大気圧から減圧した状態で行うことが好ましい。
【0026】
上記の光ファイバ製造方法を実現できる光ファイバ製造装置は、
ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管に、光ファイバの空孔となる少なくとも1つ以上のキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となる少なくとも1つ以上のガラスロッドを挿入し、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加した造粒粉を、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に充填して形成した柱状の母材を、
長手方向に第1温度と第2温度で順に加熱し、第1温度での加熱で前記シリカ粉末に添加された前記有機系樹脂を脱脂し、第2温度での加熱で前記シリカ粉末の焼結及び所望の外径までの延伸で細径化を行う加熱炉を備える。
【0027】
従って、本発明は、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造方法及び光ファイバ製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】母材作製に関する説明図である。
図2】本発明に係る光ファイバ製造装置の構成図である。
図3】本発明に係る第1の光ファイバ製造方法に関する説明図である。
図4】本発明に係る光ファイバ製造方法のファイバ線引工程に関する説明図である。
図5】本発明に係る第2及び第3の光ファイバ製造方法に関する説明図である。
図6】本発明に係る光ファイバ製造方法のファイバ線引工程に関する説明図である。
図7】本発明に係る光ファイバ製造方法のファイバ線引工程に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0031】
(実施形態の概要)
以下の実施形態で説明する光ファイバ製造方法は、ガラス母材のクラッド部の原料となるシリカ粉末を形成する工程と、
前記シリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する工程と、
クラッド部の最も外側の部分となる底部を閉じたジャケット管にキャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上のコア部となるガラスロッドを入れ、その後にジャケット管内の隙間に前記造粒粉を満たし、さらに加圧して母材を形成する工程と、
前記母材を、上下に2つの独立の加熱源を有し、これらの加熱源ごとに異なる温度制御が可能な加熱炉内へ徐々に導入しながら、上側の加熱源の近傍を通過時にシリカ粉末に添加された有機系樹脂を脱脂し、下側の加熱源の近傍を通過時に焼結すると同時に所望の外径まで延伸することによって細径化し、ファイバの線引までを一括で行う工程と、
から構成されることを特徴とする。
【0032】
造粒粉は一度に大量にクラッドへ導入することが可能なため、気相法と比較し生産性を大幅に向上させることができる。造粒粉の採用で脱脂の工程が必要になるが、脱脂・焼結・線引工程を一括化することでそのデメリットも無くなる上に、さらに焼結工程も組み入れるので実質的には工程数が従来よりも減少する。
【0033】
本光ファイバ製造方法において、加熱炉内の上側の加熱源よりも下側の加熱源の方が高温であることを特徴とする。これは上側の加熱源で脱脂工程を、下側の加熱源で焼結・線引工程を行うことを意味する。
【0034】
本光ファイバ製造方法において、線引中に母材の上部より減圧もしくは真空脱気する装置が母材の上端に設置されていることを特徴とする。これにより脱脂で発生した有機系ガスを効率的に排出することが可能となる。
【0035】
また、本光ファイバ製造方法は、底部を閉じたジャケット管にキャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上のコア部となるガラスロッドを入れる工程、もしくはその後にクラッド部となる造粒粉を入れる工程において、ガラスロッドもしくはキャピラリー管の位置がずれないように、あらかじめ造粒粉を固めた固定冶具を用いてコアロッド(ガラスロッド)もしくはキャピラリー管を固定した状態で、ジャケット管にガラスロッドもしくはキャピラリー管、さらにクラッド部となる造粒粉を入れることを特徴とする。
【0036】
(実施形態1)
図3は、本実施形態の光ファイバ製造方法の基本フローを説明する図である。図3では、簡略化のためにコアが一つの単一コアファイバの場合について示している。また、比較のため、非特許文献3に記載される光ファイバ製造方法のフローも合わせて示している。
【0037】
本光ファイバ製造方法は、ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
少なくとも1つ以上の前記キャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上の前記ガラスロッドを前記ジャケット管に入れる挿入工程と、
前記挿入工程後、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を充填する造粒粉投入工程と、
前記造粒粉投入工程後、前記隙間を満たす前記造粒粉を前記ジャケット管の他端から加圧して固める造粒粉固化工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する。
【0038】
図3のステップS11は造粒粉形成工程である。造粒粉形成工程では、数〜数十μm径オーダーのシリカ粉にバインダー(結合剤)等の有機系樹脂を入れ、数百μmオーダーの造粒粉を作製する。シリカ粉だけではなく、結合剤を入れて造粒粉を作製する理由は、粒径を大きくすることでジャケット管内への導入性を高めるためであり、空隙等が発生することなく均一に造粒粉を導入することが可能となる。
【0039】
図3のステップS12は挿入工程と造粒粉投入工程である。挿入工程でジャケット管にガラスロッドを入れ、造粒粉投入工程でガラスロッドとジャケット管の隙間を造粒粉で満たす。充填性を向上させるため、超音波や遠心力を使うことも可能である。また造粒粉による方法はクラッド材料を一度に所望のクラッド形状になるように充填可能であるため、気相堆積法と比較して大幅に生産効率を向上でき、特に大型母材でその効果は大きくなるものと思われる。
【0040】
図3のステップS13は造粒粉固化工程である。造粒粉固化工程では、加圧冶具をジャケット管の上部にはめ込み、加圧装置(静水圧加圧装置等)を使用して、数十〜数百MPaの圧力を造粒粉に掛ける。その結果、多孔質母材が形成される。
【0041】
完成した多孔質母材を図2で示した線引装置に設置して種々の工程を行う。本実施形態では、前記母材を長手方向に第1温度と第2温度で順に加熱し、第1温度での加熱で前記シリカ粉末に添加された前記有機系樹脂を脱脂し、第2温度での加熱で前記シリカ粉末の焼結及び所望の外径までの延伸で細径化を行うファイバ線引工程をさらに行うことを特徴とする。図3のステップS14はファイバ線引き工程である。
【0042】
図2は、本実施形態の光ファイバ製造方法を実現する光ファイバ製造装置でもある。本光ファイバ製造装置は、
ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管に、光ファイバの空孔となる少なくとも1つ以上のキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となる少なくとも1つ以上のガラスロッドを挿入し、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加した造粒粉を、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に充填して形成した柱状の母材を、
長手方向に第1温度と第2温度で順に加熱し、第1温度での加熱で前記シリカ粉末に添加された前記有機系樹脂を脱脂し、第2温度での加熱で前記シリカ粉末の焼結及び所望の外径までの延伸で細径化を行う加熱炉を備える。
【0043】
図4は、ファイバ線引き工程を行う加熱炉101の構造を説明する図である。加熱炉101は、上下2つの加熱源を有し、其々加熱温度を調整可能である。ファイバ線引き工程では、Arガスを加熱炉内にパージし、比較的低温(第1温度:500−1000℃)に設定された上側のガスバーナーで脱脂を行い、さらに脱脂が完了した多孔質母材は下側のガスバーナーへ導入され、約2000℃(第2温度)で加熱され、焼結と同時に線引が実施される。一連の過程は多孔質母材を一定速度で加熱炉に導入しながら連続的に行われるため、脱脂・焼結・線引を一括の工程で行うことができ、大幅な工程の簡略化が可能となる。
【0044】
図3に併記した非特許文献3の製造工程と比較すれば、本実施形態の光ファイバ製造方法は非特許文献3のステップS04〜S06の短縮が可能となる。またファイバ外径は、母材のサイズ、および母材の加熱炉への送り速度とファイバの巻取り速度、の比で決定される。実施形態の光ファイバ製造方法で作製したファイバの伝搬損失は0.19dB/km(λ=1550nm)と市販のファイバと同等であった。
【0045】
前記ファイバ線引き工程は、真空中もしくは大気圧から減圧した状態で行うこととしてもよい。図4に示すように母材上端に真空(減圧)脱気する冶具を設置した場合には、脱脂の速度が上昇するため母材速度を高くすることが可能となり、設置しない場合と比較し3倍程度、線引速度を上げることに成功した。
【0046】
(実施形態2)
図5は、本実施形態の光ファイバ製造方法を説明する図である。本実施形態では、2つのプロセス(Aプロセス及びBプロセス)がある。本実施形態では、複数のガラスロッドを使用する場合の方法を説明する。複数のガラスロッドを使用する場合、各コアの位置関係を精密に合わせることが難しく、その位置関係がわずかでもずれた状態で造粒粉の加圧を実施すると、位置関係のずれがさらに大きくなってしまうことが懸念される。そこで本実施形態では、図5のように各ガラスロッドを固定するための造粒粉を固めた冶具を作製し、その冶具に各ガラスロッドを入れ固定することで加圧時のずれを回避する。
【0047】
まずAプロセスについて説明する。Aプロセスは、ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を型に充填するとともに加圧して固め、前記ジャケット管の内径を直径とする円板であり、前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドの外径を直径とする孔が前記円板の所定位置に少なくとも1つ以上形成された固定治具を形成する固定治具形成工程と、
前記固定治具形成工程で形成した前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管の一端もしくは前記ガラスロッドの一端を挿入し、前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後、前記キャピラリー管同士もしくは前記ガラスロッド同士の隙間、及び前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドと前記ジャケット管との間の隙間に前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を充填する造粒粉投入工程と、
前記造粒粉投入工程の後、前記キャピラリー管の他端もしくは前記ガラスロッドの他端に前記固定治具形成工程で形成した他の前記固定治具の前記孔を嵌め込む固定治具設置工程と、
前記固定治具設置工程後、前記他の固定治具を加圧し、前記隙間を満たす前記造粒粉を固める造粒粉固化工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する。
また、前記造粒粉投入工程と前記固定治具設置工程を繰り返してもよい。
【0048】
造粒粉形成工程は、実施形態1での説明と同じである。図5のステップS21とステップS22は固定治具形成工程である。固定治具形成工程では、固定冶具の形状をかたどった型(コア挿入部に孔を形成)に造粒粉を入れ(ステップS21)、これを数十〜数百MPaで加圧する(ステップS22)。挿入工程では、作製した固定冶具に各ガラスロッドを差し込んで固定し、ジャケット管に入れる(ステップS23、S24A)。造粒粉投入工程で造粒粉を入れ、2枚目の固定冶具を入れる(ステップS24A)。再度造粒粉を入れ、工程治具設置工程で3枚目の固定冶具を入れ、造粒粉固化工程で数十〜数百MPaで加圧する(実施形態1のステップS13と同様)。
【0049】
固定治具はジャケット管の底と上端に1枚ずつでもよいが、図5のように母材の中間位置に固定冶具を設置することでガラスロッドの固定精度を高めることができる。固定治具をさらに枚数を増やしてさらに固定精度を向上させることも可能である。
【0050】
続いてBプロセスについて説明する。Bプロセスは、ガラス管の一端を閉じた、光ファイバのクラッド部の最外周となるジャケット管、及び光ファイバの空孔となるキャピラリー管もしくは光ファイバのコア部となるガラスロッドを用いて光ファイバを製造する光ファイバ製造方法であって、
光ファイバのクラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する造粒粉形成工程と、
前記造粒粉形成工程で形成した前記造粒粉を型に充填するとともに加圧して固め、前記ジャケット管の内径を直径とする円板であり、前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドの外径を直径とする孔が前記円板の所定位置に少なくとも1つ以上形成された固定治具を形成する固定治具形成工程と、
前記固定治具形成工程で形成した前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管の一端もしくは前記ガラスロッドの一端を挿入し、前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入し、前記キャピラリー管の他端もしくは前記ガラスロッドの他端に前記固定治具形成工程で形成した他の前記固定治具の前記孔を嵌め込み、複数の前記固定治具を積み上げる、あるいは、
前記固定治具形成工程で形成した複数の前記固定治具の前記孔に前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを貫通させ、複数の前記固定治具で固定された前記キャピラリー管もしくは前記ガラスロッドを前記ジャケット管に挿入する挿入工程と、
を行い形成した柱状の母材から光ファイバを製造する。
【0051】
Bプロセスは、造粒粉を固めた固定冶具のみで母材を組み上げた場合の例である。Bプロセスは、固定治具形成工程(ステップS22)まではAプロセスと同じである。挿入工程において複数の固定治具を重ね、ガラスロッドで串刺しにする(ステップS24B)。固定治具を串刺しにした後にジャケット管に挿入してもよいし、Aプロセスのように1つの固定治具にガラスロッドを挿入し、これをジャケット管に配置した後に固定治具を連続して嵌め込んでいってもよい。Aプロセスのように造粒粉をジャケット管に入れた後に造粒粉固化工程を実施するよりも、少量ずつ造粒粉の加圧形成を行った方が形成精度が高くなる可能性がある。さらに固定冶具と母材組立を同時並行で行うことができるため、作業の効率化が可能となる。
【0052】
図6は、本実施形態の加熱炉102を説明する図である。加熱炉102は、図5のAプロセスないしBプロセスで作製したマルチコアの母材を用いてファイバ線引き工程を行う。加熱炉102は、カーボンヒーターを具備した電気炉を使用し、実施形態1と同様に2ゾーンの加熱源を具備する。また本実施形態では単一モードの6コアタイプのマルチコアの母材を作製し線引を行った。その結果、6コアの平均の光伝搬損失が0.20dB/km(λ=1550nm)であった。
【0053】
(実施形態3)
実施形態1及び2の光ファイバ製造方法では、コアとなるガラスロッドで光ファイバを製造する方法を説明した。本実施形態の光ファイバ製造方法は、ガラスロッドの代替として複数のキャピラリー管を使用する場合の方法である。キャピラリー管を用いて母材を作成し、ファイバ線引き工程を行えば、フォトニック結晶光ファイバ(PCF)を製造することができる。
【0054】
まず、実施形態2で説明したようにAプロセスないしBプロセスで複数のキャピラリを工程治具に挿入し、母材を形成する。キャピラリーを使用し造粒粉の加圧をする際にキャピラリー内に異物が混入する可能性があるため、キャピラリーを封止した状態で加圧を実施した。
【0055】
図7は、本実施形態の加熱炉103を説明する図である。加熱炉103は、本実施形態のファイバ線引き工程を行う。加熱炉103は、カーボンヒーターを具備した電気炉を使用し、実施形態1と同様に2ゾーンの加熱源を具備する。また本例の使用母材の仕様は2LPモードのPCFである。線引した結果、光伝搬損失は、LP01モードが0.23dB/km(λ=1550nm)、LP11モードが0.5dB/km(λ=1550nm)であった。
【0056】
[付記]
以下は、本実施形態の光ファイバ製造方法及び光ファイバ製造装置を説明したものである。
【0057】
(目的)
クラッド部への粉末材料の充填によって、複数のコアを持つ複雑な構造のMCFの母材の作製を経済的に行うことを可能とする。また、母材の加熱源をプロセス方向に2台設定することで粉末材料の充填から脱脂、焼結、線引までを一連の工程にすると共に、製造工程を少なくし、かつ高精度なコアおよび空孔の位置精度の実現を目的とする。
【0058】
(1):
ガラス母材のクラッド部の原料となるシリカ粉末を形成する工程と、
前記シリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する工程と、
クラッド部の最も外側の部分となる底部を閉じたジャケット管にキャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上のコア部となるガラスロッドを入れ、その後にジャケット管内の隙間に前記造粒粉を満たし、さらに加圧して母材を形成する工程と
から構成される母材の製造方法。
【0059】
(2):
ガラス母材のクラッド部の原料となるシリカ粉末を形成する工程と、
前記シリカ粉末に有機系樹脂を添加し造粒粉を形成する工程と、
クラッド部の最も外側の部分となる底部を閉じたジャケット管にキャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上のコア部となるガラスロッドを入れ、その後にジャケット管内の隙間に前記造粒粉を満たし、さらに加圧して母材を形成する工程と、
前記母材を、上下に2つの独立の加熱源を有し、これらの加熱源ごとに異なる温度制御が可能な加熱炉内へ徐々に導入しながら、上側の加熱源の近傍を通過時にシリカ粉末に添加された有機系樹脂を脱脂し、下側の加熱源の近傍を通過時に焼結すると同時に所望の外径まで延伸することによって細径化し、ファイバの線引までを一括で行う工程と、
から構成される、光ファイバの製造方法。
【0060】
(3):
上側の加熱源よりも下部側の加熱源の方が高温であることを特徴とする上記(2)に記載の光ファイバの製造方法。
【0061】
(4):
線引中に上部より減圧もしくは真空脱気する装置が母材の上端側に設置されていることを特徴とする上記(2)に記載の光ファイバの製造方法。
【0062】
(5):
底部を閉じたジャケット管にキャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上のコア部となるガラスロッド(コアロッド)を入れる工程、もしくはその後にクラッド部となる造粒粉を入れる工程において、ガラスロッドもしくはキャピラリー管の位置がずれないように、あらかじめ造粒粉を固めた固定冶具を用いてコアロッドもしくはキャピラリー管を固定した状態で、ジャケット管にコアロッドもしくはキャピラリー管、さらにクラッド部となる造粒粉を入れることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の光ファイバの製造方法。
【0063】
(6):
クラッド部の最も外側の部分となる底部を閉じたジャケット管にキャピラリー管もしくは少なくとも1つ以上のコア部となるガラスロッドを入れ、ジャケット管内の隙間にシリカ粉末に有機系樹脂を添加した造粒粉を満たして形成された母材を、上下に2つの独立の加熱源を有し、これらの加熱源ごとに異なる温度制御が可能な加熱炉内へ徐々に導入しながら、上側の加熱源の近傍を通過時にシリカ粉末に添加された有機系樹脂を脱脂し、下側の加熱源の近傍を通過時に焼結すると同時に所望の外径まで延伸することによって細径化し、ファイバの線引までを一括で行うことを特徴とする光ファイバの製造装置。
【0064】
(効果)
本発明によれば、マルチコア光ファイバの作製方法において、クラッド部に粉末材料を用いると共に、母材形成から線引までを一括で行うことで、製造工程を少なくするとともに多様なコアおよび空孔の配置を持つ光ファイバを高精度に作製することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
101〜103:加熱炉
【要約】
【課題】複雑な構造の光ファイバの母材を高精度に形成するとともに、複雑な構造の光ファイバを従来より容易に製造できる光ファイバ製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る光ファイバ製造方法は、クラッド部の原料となるシリカ粉末に有機系樹脂を添加して造粒粉を形成し、底部を閉じたジャケット管に1以上のキャピラリー管もしくはガラスロッドを入れ、ジャケット管内の隙間に造粒粉を満たし加圧して母材を形成し、該母材を上下に独立した2つの加熱源を有する加熱炉内へ徐々に導入し、上側の加熱源によって母材中のシリカ粉末に添加された有機系樹脂を脱脂し、下側の加熱源によって母材を焼結すると同時に所望の外径まで延伸することとした。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7