特許第5995402号(P5995402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995402抗原を結合した抗体と抗原を結合していない抗体の構造変化を識別する抗体とその取得法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995402
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】抗原を結合した抗体と抗原を結合していない抗体の構造変化を識別する抗体とその取得法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/42 20060101AFI20160908BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20160908BHJP
   C12N 15/02 20060101ALI20160908BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20160908BHJP
【FI】
   C07K16/42
   C12N5/10
   C12N15/00 C
   C12P21/08
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2010-513033(P2010-513033)
(86)(22)【出願日】2009年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2009059228
(87)【国際公開番号】WO2009142221
(87)【国際公開日】20091126
【審査請求日】2012年5月2日
【審判番号】不服2015-1853(P2015-1853/J1)
【審判請求日】2015年1月30日
(31)【優先権主張番号】61/054,633
(32)【優先日】2008年5月20日
(33)【優先権主張国】US
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-9167
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-9168
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東 隆親
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 壽男
【合議体】
【審判長】 内藤 伸一
【審判官】 渡邉 潤也
【審判官】 大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−506634(JP,A)
【文献】 Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1993年,Vol.90,p.1184−1189
【文献】 Journal of Immunological Methods,1995年,Vol.181,p.167−176
【文献】 Clinical Chemistry,1990年,Vol.36,No.11,p.1945−1950
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00-16/46
C12N 15/00-15/90
C12P 21/08
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一抗体を認識する抗体であって、
(1)遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の一方の抗体の軽鎖部分を特異的に認識し、
(2)特異的に認識されない抗体は抗体認識に無関係の抗原と同等のレベルで認識し、
(3)遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の一方を特異的に認識させる目的で使用され、
(4)遊離第一抗体と抗原結合第一抗体に対する結合性を比較し、いずれか一方の抗体を特異的に認識する抗体を選別して得られたものである、
抗体。
【請求項2】
第一抗体の軽鎖又はその断片を用いて宿主を免疫して得られたものである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記特異的認識抗体が、抗原結合第一抗体を特異的に認識し結合する請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
前記特異的認識抗体が、遊離第一抗体を特異的に認識し結合する、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項6】
ATCCの受託番号がPTA-9167またはPTA-9168であるイブリドーマ。
【請求項7】
抗体を抗原として免疫し、遊離第一抗体と抗原結合第一抗体に対する結合性を比較し、いずれか一方の抗体を特異的に認識する抗体を選別することを特徴とする請求項1に記載の抗体の取得方法。
【請求項8】
前記抗原が第抗体の軽鎖又はその断片である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ハプテン第抗体にハプテン又は抗原を捕捉させた後、ハプテン又は抗原を第抗体に化学的に固定または結合し、抗原が第抗体から解離しない抗原抗体複合物を作製した後、当該複合物を免疫し、遊離第一抗体と抗原結合第一抗体に対する結合性を比較し、抗原結合第一抗体を特異的に認識するドミノ抗体を選別することを特徴とする請求項1に記載の抗体の取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原を結合した抗体と抗原を結合していない抗体の構造変化を識別する抗体とその取得法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、抗原を認識する特異性と結合力で表現される。モノクローナル技術が開発されて、飛躍的に抗体の蛋白化学的な解析と応用技術が進歩した。
【0003】
今日、抗体と抗原の結合反応は、熱力学的な解析や測定は簡便に行えるようになっているが、抗原結合に伴う抗体の立体構造変化に関しては未だ詳細な情報がない。これは、広く蛋白質の立体構造の解析に用いられているX線結晶解析が抗体のような巨大蛋白質に適用することが難しいためで、多くの抗原・抗体複合体の構造解析は、酵素消化によって得られた抗体のFabフラグメントを用いてなされている(非特許文献1)。これらの解析では、抗原の結合により数オングストロームの構造変化が抗原結合部位のアミノ酸残基に生じることが示されているが、フラグメントの構造解析からは、この変化が結合部位から空間的に離れた定常ドメインに伝達されているかを判断できない。一方、抗原・抗体複合体は、遊離の抗体がもたない補体カスケードの活性化のようなエフェクター機能をもっている。このことは、抗原結合による抗体の構造変化が補体の結合する定常ドメインに誘導されていることを示唆しているが、補体カスケードは抗体の凝集体でも活性化されることから複合体のエフェクター機能は凝集によると解釈されてきた。一方、東らは、黄色ブドウ球菌由来のprotein Aと抗体の結合反応を詳細に解析した結果、抗原を結合した抗体と抗原を結合してない抗体がprotein Aに対する反応性が異なることを見出した(非特許文献2, 3)。しかしながら、protein Aが検出する遊離抗体と抗原・抗体複合体の構造の差は小さく、この差をELISA等で検出することは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Structural evidence for induced fit as a mechanism for antibody-antigen recognition. James M. Rini, Ursula Schulze-Gahmen, Ian A. Wilson. Science,255:959-965 (1992)
【非特許文献2】Evidence of allosteric conformational changes in the antibody constant region upon antigen binding. Masayuki Oda, Haruo Kozono, Hisayuki Mori, and Takachika Azuma. International Immunology, 15:417-426 (2003).
【非特許文献3】Conformational changes in the antibody constant domains upon hapten-binding. Takuma Sagawa, Masayuki Oda, Misayuki Morii, Hisao Takizawa, Haruo Kozono, and Takachika Azuma. Molecular Immunology, 42:9-18 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、従来の技術では遊離の抗体と抗原を結合している抗体とを判別する手段が無かったので、反応液中の遊離の抗体と複合体を前もって分離してから、抗体に対する抗体(抗抗体)で複合体を形成している抗体を検出しなければならなかった。更に、protein A等の抗体結合蛋白質は結合部位が限定されているために、抗体の定常ドメインに生ずる構造変化を検出するには限界があった。
【0006】
本発明は、抗体の定常ドメインに生ずる構造変化を容易にする抗体の提供と作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の抗体及びその製造法を提供するものである。
項1. 第一抗体を認識する抗体であって、遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の一方の抗体を特異的に認識する抗体。
項2. 前記特異的認識抗体が、抗原結合第一抗体を特異的に認識し結合する項1記載の抗体(ドミノ抗体)。
項3. 前記特異的認識抗体が、遊離第一抗体を特異的に認識し結合する、項1記載の抗体(開錠抗体)。
項4. 前記特異的認識抗体が、第一抗体の軽鎖部分或いは軽鎖部分の部分ペプチドおよびFd(重鎖可変領域+CH1領域)およびその部分ペプチドからなる群から選ばれるいずれかを認識するものである項1〜3のいずれかに記載の抗体。
項5. 項1〜4のいずれかに記載の抗体を産生するハイブリドーマ。
項6. ATCCの受託番号がPTA-9167またはPTA-9168である、項5に記載のハイブリドーマ。
項7. ガンマグロブリンを抗原として免疫し、得られたハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体から、ドミノ抗体もしくは開錠抗体を選別することを特徴とするドミノ抗体もしくは開錠抗体の取得方法。
項8. 前記抗原がガンマグロブリンの軽鎖又はその断片である項7に記載の方法。
項9. ハプテン抗体にハプテン又は抗原を捕捉させた後、ハプテン又は抗原を抗体に化学的に固定または結合し、抗原が抗体から解離しない抗原抗体複合物を作成した後、当該複合物を免疫しドミノ抗体を得る方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遊離の抗体と抗原を結合している抗体とを判別することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1-L1】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図1-L2】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図2-L3】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図2-L4】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図3-L5】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図3-L6】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図4-L7】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図4-L8】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図5-L9】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図5-L10】Lシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図6-F1】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図6-F2】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図7-F3】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図7-F4】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図8-F5】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図8-F6】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図9-F7】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図9-F8】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図10-F9】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図10-F10】Fシリーズの抗体のAssay方法により得られた結果を示す。
図11】抗-NP抗体(E11) + NP-CGGについての免疫スケジュールを示す100μg of E11 with NP14-CGG (Ab:Ag=3:1 /Mol ratio) in 100ul / mouse / injection。図11において、CFA: Complete Freund's adjuvantCGG: Chicken gamma globulinNP: 4-hydroxy-3-nitrophenyl acetyl
図12】酵母細胞表面ディスプレイによるmAb#0806-12のエピトープマッピング。Cλ1がエピトープである。
図13】NP-Agの存在下もしくは非存在下の抗-NP mAbと抗λ1 mAb #0806-12の結合特性(検体:9T13mAb 、9T13mAb+NP-Capもしくは9T13mAb+DNP-Cap)。図13において:9T13: Anti-NP antibody / IgG1.lSensor chip: CM5Flow rate: 10ml/minRunning buffer: PBS (0.005% Tween20)Ligand: anti-E11mAb (#0806-12), 2000 RUAnalyte conc. : 9T13 mAb (200nM) 9T13 mAb (200nM) + NP-Cap (1mM) 9T13 mAb (200nM) + DNP-Cap (1mM)Injection time : 3 minRegeneration: 10mM Gly-HCl (pH 1.6) 10ml x 4 times
図14】ドミノ抗体を示す。
図15】解錠抗体を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、“第一抗体”とは、本発明の遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の一方の抗体を特異的に認識する抗体(特異的認識抗体)によって認識される抗体を意味する。第一抗体は抗原を認識するが、この抗原は抗体であっても非抗体であってもよい。“第一抗体”は、遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の両方を包含する。
【0011】
本明細書において、” 遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の一方の抗体を特異的に認識する“とは、抗原に結合していない第一抗体(遊離第一抗体)と抗原に結合した第一抗体(抗原結合第一抗体)のいずれか一方を特異的に認識して結合し、他方は全く結合しないか、実質的に結合しないことを意味する。例えば、本発明の特異的認識抗体により認識されない他方の遊離第一抗体または抗原結合第一抗体との結合は、第一抗体により認識される抗原などの抗体認識に無関係の抗原と同等レベル(バックグラウンドのレベル)を示す。
【0012】
“遊離第一抗体”は、抗原と結合していない第一抗体を意味し、“抗原結合第一抗体”は、抗原と結合した第一抗体を意味する。
【0013】
本発明の特異的認識抗体(遊離第一抗体と抗原結合第一抗体の一方の抗体を特異的に認識する抗体)は、ドミノ抗体(Domino antibody)と解錠抗体(Antibody Unlocking Antibody: AUA)の両方を包含する。
【0014】
本明細書において、”ドミノ抗体”とは、抗原と結合した第一抗体を特異的に認識する抗体を意味する。ドミノ抗体は、一次抗体、二次抗体などの抗体を認識する抗体であり、ドミノ抗体により認識される抗体は、抗体との複合体(例えば、二次抗体、三次抗体など)であっても、抗体以外の抗原と結合した抗体(例えば、一次抗体)のいずれであってもよい。第一のドミノ抗体(Domino I antibody)に対する第二のドミノ抗体(Domino II antibody)、第二のドミノ抗体に対する第三のドミノ抗体(Domino III antibody)を組み合わせて使用すると、抗原結合第一抗体に対して第二のドミノ抗体、第三のドミノ抗体が次々に結合することになるので、本明細書ではこのような抗体をドミノ抗体と命名した(図14)。
【0015】
“解錠抗体(Antibody Unlocking Antibody: AUA)”は、抗原と結合していない遊離の第一抗体を特異的に認識する抗体を意味する。解錠抗体は、高度な親和性を有する場合抗原を結合した抗体から、抗原または抗体を引き抜く(解錠する)ことができるので、このように命名された。本発明の好ましい開錠抗体は、抗原を結合した抗体から、抗原または抗体を引き抜く(解錠する)ことができる抗体である。
【0016】
「抗体」という用語は最も広義に使用され、モノクローナル抗体(完全長又は無傷のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びそれらが所望の生物活性を示す限り抗体断片も含む。
【0017】
特に断らない限りは、本明細書全体を通して「多価抗体」という表現は3又はそれ以上の抗原結合部位を含む抗体を指すために使用される。多価抗体は好ましくは3又はそれ以上の抗原結合部位を持つように遺伝子操作されたもので、一般には天然配列IgM又はIgA抗体ではない。
【0018】
「抗体断片」は、抗原に結合する能力を保持している抗体の一部を含む。本定義に包含される抗体断片の例には、(i)VL、CL、VH及びCH1ドメインを持つFab断片;(ii)CH1ドメインのC末端に一又は複数のシステイン残基を持つFab断片であるFab'断片;(iii)VH及びCH1ドメインを持つFd断片;(iv)CH1ドメインのC末端に一又は複数のシステイン残基とVH及びCH1ドメインを持つFd'断片;(v)抗体の単一アームのVL及びVHドメインを持つFv断片;(vi)VHドメインからなるdAb断片(Ward等, Nature 341, 544-546 (1989));(vii)単離されたCDR領域;(viii)F(ab')断片;(ix)単鎖抗体分子(例えば単鎖Fv;scFv)(Bird等, Science 242:423-426 (1988);及びHuston等, PNAS (USA) 85:5879-5883 (1988));(x)同一のポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(VL)に結合した重鎖可変ドメイン(VH)を含む、2つの抗原結合部位を持つ「ダイアボディー(diabodies)」(例えば、欧州特許公報第404097号;国際公開第93/11161号;及びHollinger等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)を参照);(xi)相補的軽鎖ポリペプチドと共に一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む「線形抗体」(Zapata等, Protein Eng. 8(10):1057-1062(1995);及び米国特許第5641870号)が含まれる。
【0019】
ここで使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量で存在しうる自然に生じる可能な突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。更に、異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を典型的には含むポリクローナル抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原の単一の決定基に対するものである。「モノクローナル」との修飾語句は、抗体が何か特定の方法で生産しなければならないことを意味するものではない。例えば、本発明において使用されるモノクローナル抗体は、最初にKohler等, Nature, 256:495 (1975)に記載されたハイブリドーマ法によって作ることができ、あるいは組換えDNA法によって作ることができる(例えば米国特許第4816567号を参照のこと)。また「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)又はMarks等, J. Mol. Biol. 222: 581-597 (1991)に記載された技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0020】
ここに記載のモノクローナル抗体は、特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種から由来するか、特定の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である一方、鎖の残りが、他の種から由来するか、他の抗体クラス又はサブクラスに属する抗体の対応する配列と同一か相同である「キメラ」抗体、並びにそれらが所望の生物活性を示す限りはそのような抗体の断片を含む(米国特許第4816567号;及びMorrison等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。
【0021】
非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」型は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ抗体である。大部分において、ヒト化抗体は、レシピエントの高頻度可変領域からの残基が、マウス、ラット、ウサギ又は所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト霊長類のような非ヒト種の高頻度可変領域からの残基(ドナー抗体)によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。ある場合には、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、もしくはドナー抗体にも見出されない残基を含んでいてもよい。これらの修飾は抗体の特性を更に洗練するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てあるいは実質的に全ての高頻度可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てあるいは実質的に全てのFRsがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体は、場合によっては免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部を含む。更なる詳細については、Jones等, Nature 321:522-525 (1986); Riechmann等, Nature 332:323-329 (1988);及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。
【0022】
「ヒト抗体」は、ヒトによって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するもの、及び/又はここで開示されたヒト抗体を製造するための何れかの技術を使用して製造されたものである。ヒト抗体は、当該分野で知られている様々な技術を使用することによって生産することが可能である。一実施態様では、ヒト抗体はファージライブラリーから選択され、ここでファージライブラリーがヒト抗体を発現する(Vaughan等, Nature Biotechnology 14:309-314 (1996):Sheets等, PNAS, (USA)95:6157-6162(1998);Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581 (1991))。また、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンをトランスジェニック動物、例えば内在性免疫グロブリン遺伝子が部分的又は完全に不活性化されたマウス中に導入することにより産生することができる。暴露時に、遺伝子再構成、アセンブリ及び抗体レパートリーを含む、あらゆる点でヒトに見られるものと密接に類似しているヒト抗体の産生が観察される。このアプローチ法は、例えば米国特許第5545807号;第5545806号;第5569825号;第5625126号;第5633425号;第5661016号、及び次の科学文献:Marks等, Bio/Technology 10:779-783 (1992);Lonberg等, Nature 368: 856-859 (1994);Morrison等, Nature 368: 812-13 (1994);Fishwild等, Nature Biotechnology 14: 845-51 (1996);Neuberger, Nature Biotechnology 14:826 (1996); Lonberg及びHuszar, Intern. Rev. Immunol. 13:65-93 (1995)に記載されている。あるいは、ヒト抗体は、標的抗原に対して抗体を生産するヒトBリンパ球の不死化によって調製されてもよい(そのようなBリンパ球は、個体から回収されてもよいし、インビトロで免疫化されていてもよい)。例えば、Cole等, Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss. p.77(1985);Boerner等, J. Immunol., 147(1):86-95(1991);及び米国特許第5750373号を参照のこと。
【0023】
「疾患」は抗体で治療することで恩恵を得るあらゆる症状のことである。これには、問題の疾患に哺乳動物を罹患させる素因になる病理状態を含む、慢性及び急性の疾患又は病気が含まれる。ここで、本発明の抗体により治療される疾患の非限定的な例には、良性及び悪性の腫瘍;白血病及びリンパ悪性腫瘍;ニューロン、神経膠、星状細胞、視床下部及び他の腺、マクロファージ、上皮、ストロマ及び割腔の疾患;及び炎症、血管形成及び免疫性疾患が含まれる。
【0024】
「治療的有効量」という用語は、哺乳動物の疾病又は疾患を治療するのに効果的な薬剤の量を意味する。
【0025】
「治療」は治療的処置及び予防的又は保護的手段の両方を指す。治療が必要なものには、既に疾患に罹っているもの並びに疾患が予防されるべきものが含まれる。
【0026】
「ラベル」という語は、ここで用いられる場合、ポリペプチド(例えば抗原または抗体)に直接的又は間接的に結合する検出可能な化合物又は組成物を意味する。ラベルはそれ自身が検出可能でもよく(例えば、放射性同位体ラベル又は蛍光ラベル)、あるいは、酵素ラベルの場合には、検出可能な基質化合物又は組成物の化学的変換を触媒してもよい。
【0027】
ここで使用される場合、「細胞」、「細胞株」及び「細胞培養」という表現は相互に交換可能に用いられ、その全ての用語は子孫を含む。従って、「形質転換体」及び「形質転換細胞」という語句は、最初の対象細胞及び何度培養が継代されたかに関わらず最初のものから誘導されたものを含む。
【0028】
モノクローナル抗体調製
抗体を調製し特徴付ける手段は当該分野でよく知られている。本発明において使用される抗体の生産のための例示的な技術について次に説明する。抗体の産生に使用される抗原は抗体又はその一部であり得、好ましくは抗体の軽鎖又はその断片が挙げられる。
【0029】
本発明の抗体の調製は、軽鎖を用いることを特徴とする。抗体の複合体のみ認識し、遊離の抗体を認識しないドミノ抗体は、抗原抗体複合体を宿主に投与して作製できるように思われるが、本発明者が実際にこのような方法を用いた場合、遊離抗体と複合化抗体の両方を認識する抗体しか得られなかった。一方、軽鎖を用いて抗体を産生させることで、抗原抗体複合体を特異的に認識するドミノ抗体、あるいは遊離抗体を特異的に認識する解錠抗体を得ることができた。
【0030】
あるいは、ハプテン抗体にハプテン又は抗原を捕捉させた後、ハプテン又は抗原を抗体に化学的に固定または結合し、抗原が抗体から解離しない抗原抗体複合物を作成した後、当該複合物を免疫しドミノ抗体を得ることができる。ハプテンとしては、例えばテストステロン、エストラジオール、エストリオール、コルチゾール等のステロイドホルモンや、モノニトロフェニル基、ジニトロフェニル基、トリニトロフェニル基、フルオレセイン基などを有する化合物(例えば2,4−ジニトロフェノール(DNP))、ジゴキシン、低分子薬物に代表される低分子物質であって、マウス等の哺乳動物に投与することによってそれに対する抗体を誘導し得る物質が挙げられる。ハプテン抗体は、これらハプテンを特異的に認識する抗体である。ハプテンまたは抗原と抗体の化学的固定または結合は、架橋剤、例えばグルタルアルデヒド、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのジアルデヒド類やトリレン−2,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート類を用いて行うことができる。
【0031】
本発明のドミノ抗体及び解錠抗体は、軽鎖又はその断片を用い、Kohler等, Nature, 256:495 (1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて作製でき、又は組換えDNA法(米国特許第4816567号)によって作製することができる。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、ドミノ抗体または解錠抗体により認識される抗体の軽鎖を取得し、この軽鎖を免疫源として宿主(マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、マカクザルなど)に投与するハイブリドーマ法により作製することができる。例えば宿主を上記したようにして免疫し、免疫化に用いられる軽鎖又はその断片と特異的に結合する抗体を生産するか又は生産することのできるリンパ球を導き出す。別法として、リンパ球をインビトロで免疫することもできる。次に、リンパ球を、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いてミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice,59-103頁(Academic Press, 1986))。
【0033】
また、本モノクローナル抗体取得に関して、抗原として軽鎖を用いることを特徴として述べてきたが、抗原がH鎖およびH鎖の可変領域とC1H領域を含むH鎖断片の場合にも同様に目的の抗体産生ハイブリドーマを取得することが可能である。
【0034】
つまり、抗体は二価のFab部分で抗原を捕捉するが、Fabは軽鎖(VL+CL)と重鎖のFd(重鎖可変領域VH+CH1領域)から構成されている。Fabにおける軽鎖(VL+CL)とFd(VH+CH1)は機能的に対称な一対の蛋白質であり、この一対の蛋白質のVLの中に分断された3つの領域(超可変領域)、VHでも同様にVLと対する位置に分断された3つの領域(超可変領域)が存在しその部分で抗原を捕捉している。
【0035】
ドミノ抗体や開錠抗体がL鎖を免疫して得られるということは、抗体が抗原を捕捉すれば抗体のFab部分のL鎖に構造変化が生ずることを示している。したがって、表現を変えればL鎖の構造変化を見分られる抗体がドミノ抗体や開錠抗体ということになる。このように、抗体の抗原結合反応を通じてL鎖に構造変化が引き起こされ、更に該構造変化部分を認識できる抗体が取得できることは誰も信じていなかったことであり、本発明は当該知見を元に完成されたものである。
【0036】
上述したように、抗体のFabに着目した場合L鎖とH鎖は機能的に対称な一対の蛋白質である。抗原を捕捉する部分もほぼ同じ位置同じ長さの領域で各三箇所ずつ存在する。今回、ドミノ抗体、開錠抗体取得を通じてL鎖に構造変化が推定できたことは、対象をなすもう一対の蛋白質、重鎖のFdでも抗原補足により同様の構造変化が起こるものと思われる。即ち、重鎖のFd部分若しくはその断片を免疫し、同様のScreening方法を実施すればドミノ抗体及び開錠抗体を得ることができるものと思われる。
【0037】
但し、軽鎖の免疫は以下の点で優れている、即ち:
(i)Fdは、先ずFab, F(ab’)2を経て精製を行うことになる。この点、軽鎖の方が精製が簡単であり、収量の点で有利である;
(ii)軽鎖の方が物性の点で扱いやすい。H鎖は疎水性蛋白質であり精製の際沈殿しやすい。
【0038】
但し、上記H鎖の欠点は例えば1)化学合成したFdの部分ペプチドで免疫する、2)大腸菌や酵母でFdのみの組み換え蛋白を得る。3)特定のFd部分を欠いたKOマウスを用いて免疫する、等で回避できる。
【0039】
このようにして調製されたハイブリドーマ細胞を、融合していない親のミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する一又は複数の物質を好ましくは含む適当な培地に蒔き、増殖させる。例えば、親のミエローマ細胞が酵素ヒポキサンチングアニジンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠失するならば、ハイブリドーマのための培地は、典型的には、HGPRT欠失細胞の増殖を妨げる物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含有するであろう(HAT培地)。
【0040】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定な高レベルの生産を支援し、HAT培地のような培地に対して感受性である細胞である。これらの中でも、好ましいミエローマ細胞株は、マウスミエローマ株、例えば、ソーク・インスティテュート・セル・ディストリビューション・センター、サンディエゴ、カリフォルニア、USAから入手し得るMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、及びアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、ロックヴィル、メリーランド、USAから入手し得るSP-2又はX63-Ag8-653細胞から誘導されたものである。ヒトミエローマ及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株もまたヒトモノクローナル抗体の産生のために開示されている(Kozbor, J.Immunol., 133:3001 (1984);Brodeur等, Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,51-63頁(Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0041】
ハイブリドーマ細胞が生育している培地を、抗原(遊離抗体又は抗原を結合した抗体)に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体(ドミノ抗体及び解錠抗体)の結合特異性は、免疫沈降又はインビトロ結合検定、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)又は酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によって測定する。
【0042】
ドミノ抗体または解錠抗体として所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後、該クローンを限界希釈法によりサブクローニングし、標準的な方法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, 59-103頁(Academic Press, 1986))。この目的に対して好適な培地には、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が包含される。加えて、ハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてインビボで増殖させることができる。
【0043】
サブクローンにより分泌されたモノクローナル抗体は、例えばプロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又はアフィニティークロマトグラフィーのような慣用の免疫グロブリン精製法により、培地、腹水、又は血清から適切に分離される。
【0044】
モノクローナル抗体をコードしているDNAは、常法により(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードしている遺伝子に特異的に結合できるオリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)直ぐに単離され配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの好ましい供給源となる。ひとたび単離されたならば、DNAを発現ベクター中に入れ、ついでこれを、そうしないと免疫グロブリンタンパク質を産生しない大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又はミエローマ細胞のような宿主細胞中にトランスフェクトし、組換え宿主細胞中でモノクローナル抗体の合成を達成することができる。抗体の組換え生産は以下に更に詳細に記載する。
【0045】
更なる実施態様では、抗体又は抗体断片は、McCafferty等, Nature, 348:552-554 (1990)に記載された技術を使用して産生される抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson等, Nature, 352:624-628 (1991)及び Marks等, J.Mol.Biol., 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを使用したマウス及びヒト抗体の単離を記述している。別の文献は、鎖シャッフリングによる高親和性(nM範囲)のヒト抗体の生産(Marks等, Bio/Technology, 10:779-783(1992))、並びに非常に大きなファージライブラリーを構築するための方策としてコンビナトリアル感染とインビボ組換え(Waterhouse等, Nuc.Acids.Res., 21:2265-2266(1993))を記述している。従って、これらの技術はモノクローナル抗体の分離に対する伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法に対する実行可能な代替法である。
【0046】
DNAはまた、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインのコード化配列を、相同的マウス配列に代えて置換することにより(米国特許第4816567号;Morrison等, Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81:6851(1984))、又は免疫グロブリンコード配列に非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を共有結合させることで修飾できる。
【0047】
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常ドメインに置換され、又は抗体の一抗原結合部位の可変ドメインに置換されて、抗原に対する特異性を有する一つの抗原結合部位と異なる抗原に対する特異性を有するもう一つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を作り出す。
【0048】
ヒト化及びヒト抗体
ヒト化抗体には非ヒトである由来の一又は複数のアミノ酸残基が導入されている。これら非ヒトアミノ酸残基は、しばしば、典型的には「移入」可変ドメインから得られる「移入」残基と呼ばれる。ヒト化は、本質的にはヒト抗体の対応する配列に齧歯類CDRs又はCDR配列を置換することによりウィンターと共同研究者の方法(Jones等, Nature, 321:522-525 (1986)、Riechmann等, Nature, 332:323-327 (1988)、Verhoeyen等, Science, 239:1534-1536(1988))を使用して実施することができる。よって、このような「ヒト化」抗体は、無傷のヒト可変ドメインより実質的に少ない分が非ヒト種由来の対応する配列で置換されたキメラ抗体(米国特許第4816567号)である。実際には、ヒト化抗体は、典型的には幾らかの高頻度可変領域残基及び場合によっては幾らかのFR残基が齧歯類抗体の類似部位からの残基によって置換されているヒト化抗体である。
【0049】
抗原性を低減するには、ヒト化抗体を作製する際に使用するヒトの軽重両方の可変ドメインの選択が非常に重要である。いわゆる「ベストフィット法」では、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に齧歯動物のものに最も近いヒト配列をヒト化抗体のヒトフレームワーク領域(FR)として受け入れる(Sims等, J. Immunol., 151:2296 (1993);Chothia等, J. Mol. Biol., 196:901(1987))。他の方法では、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループのヒト抗体全てのコンセンサス配列から誘導される特定のフレームワーク領域を使用する。同じフレームワークを幾つかの異なるヒト化抗体に使用できる(Carter等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta等, J. Immunol., 151:2623(1993))。
【0050】
更に、抗体を、抗原に対する高親和性や他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化することが重要である。この目標を達成するべく、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを使用して、親配列及び様々な概念的ヒト化産物の分析工程を経てヒト化抗体を調製する。三次元免疫グロブリンモデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の推測三次元立体配座構造を図解し、表示するコンピュータプログラムが購入可能である。これら表示を調べることで、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の可能な役割の分析、すなわち候補免疫グログリンの抗原との結合能力に影響を及ぼす残基の分析が可能になる。このようにして、例えば標的抗原に対する親和性が高まるといった、望ましい抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的に、CDR残基は、直接的かつ最も実質的に抗原結合性に影響を及ぼしている。
【0051】
別法として、内因性の免疫グロブリン産生がなくともヒト抗体の全レパートリーを免疫化することで産生することのできるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作ることが可能である。例えば、キメラ及び生殖系列突然変異体マウスにおける抗体重鎖結合領域(J)遺伝子の同型接合除去が内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。このような生殖系列突然変異体マウスにおけるヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子列の転移は、抗原投与時にヒト抗体の産生をもたらす。例えばJakobovits等, Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 90:2551 (1993);Jakobovits等, Nature 362:255-258 (1993); Bruggerman等, Year in Immuno., 7:33 (1993);及びDuchosal等 Nature 355:258 (1992)を参照されたい。ヒト抗体はまたファージ-ディスプレイライブラリーから誘導することもできる (Hoogenboom等, J. Mol. Biol., 227:381 (1991);Marks等, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991);Vaughan等 Nature Biotech 14:309 (1996))。
【0052】
抗体断片
抗体断片を生産するために様々な技術が開発されている。伝統的には、これらの断片は、無傷の抗体のタンパク分解性消化を介して誘導されていた(例えば、Morimoto等, Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennan等, Science, 229:81(1985)を参照)。しかし、これらの断片は今は組換え宿主細胞により直接生産することができる。例えば、抗体断片は上において検討した抗体ファージライブラリーから分離することができる。別法として、Fab'-SH断片は大腸菌から直接回収し、化学的に結合させてF(ab')断片を形成することができる(Carter等, Bio/Technology 10:163-167(1992))。他のアプローチ法では、F(ab')断片を組換え宿主細胞培養から直接分離することができる。抗体断片の生産のための他の方法は当業者には明らかであろう。他の実施態様では、選択抗体は単鎖Fv断片(scFV)である。国際公開第93/16185号を参照。
【0053】
本発明の抗体をエフェクター機能について改変し、抗体の効果を亢進させることは望ましい。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それにより、この領域に鎖間ジスルフィド結合を形成するようにしてもよい。そのようにして生成されたホモ二量体抗体は、向上したインターナリゼーション能力及び/又は増加した補体媒介細胞殺傷及び抗体-依存細胞性細胞障害性(ADCC)を有する可能性がある。Caron等, J. Exp. Med. 176: 1191-1195 (1992)及びShopes, B. J. Immunol. 148: 2918-2922 (1992)参照。また、向上した抗腫瘍活性を持つホモ二量体抗体は、Wolff等, Cancer Research 53: 2560-2565 (1993)に記載されているヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製することができる。あるいは、抗体は、2つのFc領域を有するように加工して、それにより補体溶解及びADCC能力を向上させることもできる。Stevenson等, Anti-Cancer Drug Design 3: 219-230 (1989)参照。
【0054】
また、ここで開示されている抗体は、免疫リポソームとして処方することもできる。抗体を含むリポソームは、例えばEpstein等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688(1985);Hwang等, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030(1980);及び米国特許第4485045号及び同4544545号に記載されているような、当該分野において既知の方法により調製される。循環時間が増したリポソームは米国特許第5013556号に開示されている。
【0055】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含有する脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは孔径が定められたフィルターを通して押し出され、所望の直径を有するリポソームが得られる。本発明の抗体のFab'断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martin等, J. Biol. Chem. 257:286-288(1982)に記載されているようにしてリポソームにコンジュゲートすることができる。場合によっては、化学療法剤(ドキソルビシンなど)はリポソーム内に包含される。Gabizon等, J. National Cancer Inst. 81(19)1484(1989)を参照のこと。
【0056】
抗体の共有結合的修飾は本発明の範囲内にある。それらは、適当であれば、化学合成により、又は抗体の酵素的又は化学的切断によりなされ得る。抗体の共有結合的修飾の他のタイプは、選択される側鎖又はN又はC末端残基と反応できる有機誘導体化剤と抗体の標的とするアミノ酸領域を反応させることにより分子中に導入される。
【0057】
共有結合的修飾は抗体に対してグリコシドを化学的又は酵素的にカップリングさせることを含む。これらの手順は、それらがN-又はO-結合グリコシル化のためのグリコシル化能を有する宿主細胞中での抗体の生産を必要としない点で有利である。用いられるカップリング態様に応じて、糖(類)は、(a)アルギニンとヒスチジンに、(b)遊離のカルボキシル基に、(c)遊離のスルフヒドリル基、例えばシステインのものに、(d)セリン、スレオニン又はヒドロキシプロリンのもののような遊離のヒドロキシル基に、(e)フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファンのような芳香族残基、又は(f)グルタミンのアミド基に結合させることができる。これらの方法は1987年9月11日公開の国際公開第87/05330号並びにAplin及びWriston, CRC Crit. Rev. Biochem., 259-306頁 (1981)に記載されている。
【0058】
抗体に存在するあらゆる炭水化物部分の除去は、化学的又は酵素的になすことができる。化学的脱グリコシル化には、抗体を化合物トリフルオロメタンスルホン酸、又は等価化合物に暴露することを必要とする。この処理により、抗体を無傷なままにしながら、結合糖(N-アセチルグルコサミン又はN-アセチルガラクトサミン)を除く殆どの又は全ての糖の切断が生じる。化学的脱グリコシル化は、Hakimuddin等, Arch. Biochem. Biophys., 259:52 (1987)により、及びEdge等, Anal. Biochem., 118: 131 (1981)により記載されている。抗体上の炭水化物部分の酵素的切断は、Thotakura等, Meth. Enzymol. 138:350 (1987)に記載されているように、種々のエンド及びエキソグリコシダーゼを用いることにより達成できる。
【0059】
抗体の共有結合的修飾の他のタイプは、抗体を、種々の非タンパク質様ポリマーの一つ、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリオキシアルキレンへ、米国特許第4640835号;第4496689号;第4301144号;第4670417号;第4791192号又は第4179337号に記載された方法で結合させることを含む。
【0060】
本発明の抗体は組換え的に製造することができる。
【0061】
抗体の組換え生産のために、それをコードする核酸が単離され、更なるクローニング(DNAの増幅)又は発現のために、複製可能なベクター内に挿入される。モノクローナル抗体をコードするDNAは直ぐに単離され、通常の手法(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用して)を用いて配列決定される。多くのベクターが入手可能である。ベクター成分としては、一般に、これらに制限されるものではないが、次のものの一又は複数が含まれる:シグナル配列、複製開始点、一又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列である。
【0062】
本発明において使用される抗体の治療製剤は、任意成分の薬学的に許容可能な担体、賦形剤又は安定剤と所望の純度を有する抗体を混合することによって(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16版, Osol,A編 [1980])、凍結乾燥製剤又は水溶液の形態で保存用に調製される。典型的には、適当量の製薬的に許容可能な塩が製剤を等張にするために担体中に使用される。許容できる担体、賦形剤又は安定剤は、用いる投与量及び濃度では細胞に対して無毒性であり、リン酸、クエン酸及び他の有機酸等の緩衝液;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;アルキルパラベン類、例えばメチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(残基数10個未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性重合体;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、又はリシン等のアミノ酸;グルコース、マンノース又はデキストリン等の単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース又はソルビトール等の糖類、ナトリウム等の塩形成対イオン;金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体);及び/又はTWEENTM、PLURONICSTM又はポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤を含む。好適な凍結乾燥抗体製剤は、参照によりここに取り込まれる国際公開第97/04801号に記載されている。
【0063】
また、製剤は、治療される特定の効能に必要な一以上の活性化合物、好ましくは互いに悪影響を及ぼさない相補的活性を有するものを含有し得る。また活性成分は、例えばコアセルベーション法又は界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えばそれぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルに、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフィア、マイクロエマルション、ナノ粒子及びナノカプセル)又はマクロエマルションに捕捉することができる。このような技術はRemington's Pharmaceutical Sciences, 16版, Oslo,A.編(1980)に開示されている。
【0064】
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されていなくてはならない。これは、滅菌濾過膜を通す濾過により容易に達成される。
【0065】
徐放性調製物を調製してもよい。徐放性調製物の適切な例には、抗体を含む固体疎水性重合体の半透性マトリックスが含まれ、このマトリックスはフィルム又はマイクロカプセル等の成形品の形態である。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ヒドロゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、又はポリ(ビニルアルコール))、ポリラクチド(米国特許第3773919号)、L-グルタミン酸とγ-エチル-L-グルタメートのコポリマー、非分解性エチレン-酢酸ビニル、分解性の乳酸-グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOTTM(乳酸-グリコール酸コポリマー及び酢酸ロイプロリドからなる注入可能なミクロスフィア)、及びポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が含まれる。エチレン-酢酸ビニルや乳酸-グリコール酸等のポリマーは100日以上分子を放出できるが、特定のヒドロゲルはより短い時間タンパク質を放出する。
【0066】
封入された抗体は体内に長い間残る場合、37℃での水分に暴露される結果、変性し又は凝集して、生物活性を消失させ、免疫原性を変化させる可能性がある。関与する機構に応じて安定化のための合理的な方策を案出することができる。例えば、関連するメカニズムに応じて安定性を得るための合理的な処置が案出できる。例えば、凝集機構がチオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合の形成であることが分かったら、スルフヒドリル残基を改変し、酸性溶液から凍結乾燥し、水分量を調整し、適当な添加物を使用し、特定の重合体マトリックス組成物を開発することで、安定化を達成することができる。
【0067】
用量と投与
本発明の抗体は、公知の方法、例えばボーラスとしてもしくは一定時間にわたる連続注入による静脈内投与、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液包内、くも膜下腔内、経口、局所的、又は吸入経路によりヒト患者に投与される。抗体の静脈内又は皮下投与が好ましい。
【0068】
疾患のタイプと重篤さに応じて、約1μg/kgから50mg/kg(例えば、0.1−20mg/kg)の抗体が、例えば一又は複数の別々の投与であろうと、あるいは連続注入によるものであろうと、患者への初期候補投与量である。典型的な1日の用量は、上記の要因に依存し、約1μg/kgから約100mg/kg又はそれ以上の範囲である。数日間又はそれ以上にわたる繰り返し投与の場合は、状況に応じて、疾患徴候の望ましい抑制が起こるまで治療を続ける。しかし、他の用量計画も有用でありうる。好適な態様では、本発明の抗体は約5mg/kgから約15mg/kgの範囲の用量で2ないし3週毎に投与される。本発明の治療法の進行は、慣用の技術及びアッセイで容易に監視される。
【0069】
本発明の抗体は、単独の抗体として投与してもよいが、他の抗体医薬と組み合わせて投与することができる。
【0070】
本発明の抗体は、遊離第一抗体と抗原結合第一抗体を区別して認識するため、ELISAなどの免疫学的測定法において有用である。
【0071】
材料の寄託
次の3つのハイブリドーマ細胞株を合衆国バージニア州マナッサスのアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)にブタペスト条約の規定に従って寄託した:
(1) Identification Reference by Depositor:Hybridoma Cell Line F-1A
ATCC Patent Deposit Designation:PTA-9167
Date of Receipt of Cultures by the ATCC: April 23, 2008;
(2) Identification Reference by Depositor:Hybridoma Cell Line L-6A
ATCC Patent Deposit Designation:PTA-9168
Date of Receipt of Cultures by the ATCC: April 23, 2008;
(3) Identification Reference by Depositor:Hybridoma Cell Line 0806-12
ATCC Patent Deposit Designation: PTA-9967
Date of Receipt of Cultures by the ATCC: April 16, 2009。
【0072】
本発明は、抗体によってなされているが、本発明の対象は、抗体に代る核酸(アプタマー)若しくはペプチドであっても良い。即ち、抗原を認識した抗体を認識するアプタマー、及びペプチド或いは、抗原を認識したアプタマーを認識する抗体やアプタマー及びペプチドも同義である。なお、アプタマ−はSELEX法によりペプチドはファージライブラリーにより目的の分子を取得することが出来る。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0074】
ドミノ抗体及び解錠抗体(Antibody Unlocking Antibody: AUA) の産生
抗原となるラットモノクローナル抗体の作成
抗FITCラットモノクローナル抗体#55(IgG2aκ)を常法により樹立した。また、一方で独立して抗FITCラットモノクローナル抗体#7(IgG2aκ)を常法により樹立した。詳しくは、Chicken gamma globulin (CGG) (Rockland, Immunochemicals, Inc., PA, USA)と、Bovine serum albumin(BSA) (Sigma, Mo, USA) をFITC labeling kit(Dojindo, Kumamoto, Japan) にてFITCで標識した。FITC標識CGG(80μg/100μl in PBS)を同容量のアジュバントTiter Max Gold(CytRx Corp, GA, USA)でエマルジョンを作成し、Fischer Rat(♀)7週齢に二週間毎に3回腹腔内に免疫した。さらにその二週間後同量のFITC標識CGG(80μg/100μl in PBS)をアジュバント無しで腹腔内に免疫しその3日後、ラットより脾臓を摘出し脾細胞を分離し、常法に従い、マウスミエローマ細胞(P3U1)とポリエチレングリコールを用いて融合し、HAT培地を細胞選択培地として96Wellプレート10枚に撒き込んだ。14日後、各Wellの培養上清を採取し、FITC標識BSAをELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレートを用いて抗FITC抗体を産生するミエローマを選択した。上記融合を二回繰り返し、各々の融合からそれぞれ抗FITCラットモノクローナル抗体#55(IgG2aκ)、抗FITCラットモノクローナル抗体#7(IgG2aκ)産生ハイブリドーマを樹立した。それぞれのハイブリドーマを大量に培養し培養上清からHiTrap ProteinG HP(GE Healthcare, NJ, USA)カラムを用いてラットモノクローナル抗体を精製した。
【0075】
軽鎖の精製
上記操作により得られた抗FITCラットモノクローナル抗体#55より、軽鎖を精製した。軽鎖の分離精製法は、Azuma、Tら PNAS(1981) 78 pp569-573に準じて行った。即ち、精製#55抗体を最終濃度0.01M Dithiothreitol、0.2M Tris-HCl (pH8.2)に溶解する。溶液を37℃、30分間加温する。反応後室温に戻し(約10分静置)最終濃度0.3M Iodoacetoamideとなるように加え30分間静置し、アルキレーション反応を行った。重鎖と軽鎖の分離にはHPLCを用いた。アルキレーション反応後、5M Guanidine-HClの溶解したPBS(pH 7.2) で平衡化したカラムにアルキル化#55を供し、軽鎖分画を得た。重鎖が混入する分画は再度HPLCに供し軽鎖分画を得た。軽鎖分画をPBSに対し透析した後小分けして凍結保存した。
【0076】
軽鎖の免疫とHybridomaの作成
#55の軽鎖(30μg/100μl in PBS)を同容量のアジュバントTiter Max Gold(CytRx Corp, GA, USA)でエマルジョンを作成し、Balb/c mouse(♀)7週齢に二週間毎に3回腹腔内に免疫した。さらにその二週間後同量の#55の軽鎖を(80μg/100μl in PBS)をアジュバント無しで腹腔内に免疫しその3日後、マウスより脾臓を摘出し脾細胞を分離し、常法に従い、マウスミエローマ細胞(P3U1)とポリエチレングリコールを用い融合し、HAT培地を細胞選択培地として96Wellプレート10枚に撒き込んだ(Lシリーズ)。
【0077】
抗体のAssay方法
14日後、各Wellの培養上清を採取し、(i)FITC標識BSAをELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレート(ii)FITC標識BSAをELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレートに#7抗体(1μg/ml in PBS)を100μl/Well 添加し4℃で一晩反応させ洗浄したプレート(iii)#7抗体(1μg/ml in PBS)を100μl/Well 添加しELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレート、以上3種類のプレートを用いアッセイを行った。即ち、Hybridomaの培養上清を上記三種類のプレートに各々100μlのHybridomaの培養上清を供し2時間室温で静置する。プレートを洗浄後、HRP標識抗マウスIgG(ラットIgG非交差)(Jackson Laboratories)と1時間室温で反応後プレートを洗浄し、発色液TMB基質溶液(KPL社, MD, USA)を100μl添加し10分間反応後50μlの2N硫酸で発色を停止しプレートリーダーで450nmの波長を読み取る。
【0078】
結果の判定
(ii)と(iii)のプレートのODを比較し、いずれかに強く反応する抗体を産生するHybridomaを目的の抗体産生Hybridomaと判定した。適宜(i)のプレートを用いたAssayも行いBSAやBSA-FITCに反応しないことを確認した。
【0079】
別法
理論的には、抗体Aが抗原としてタンパク質Bを認識する場合、その抗原抗体複合物(A−B)−抗体Aの構造変化が生体内で長時間保たれるよう架橋化剤を用いて固定しても良い−をマウス等の動物に免疫して抗体Aが抗原Bを認識した際に生ずる抗体Aの構造変化を認識する抗体を取得できる。
【0080】
しかしながら、免疫動物の血清中に出現する多様な抗体は、抗体の構造変化に拘わり無く抗体Aに反応するもの、抗原Bに反応するもの、A−Bの結合体を認識するものなどが存在し目的とする抗体のようにA−Bの結合にともなう抗体Aの構造変化を認識する抗体は、出現頻度が極めて低いと推定される。
【0081】
そこで、免疫原と免疫方法をより単純化して効率的に当該抗体を得る方法を考案した。蛍光物質FITC(fluorescein isothiocyanate)は、弱アルカリ性の溶液下で荷電しているタンパク質のアミノ基に反応し、チオウレア結合を形成し容易にタンパク質を標識できる。また、FITCは高親和性の抗体を得られるハプテンとして知られている。本発明者らは、この性質を利用し先ず、高親和性の抗FITC抗体を二種類得た(上述#55(IgG2aκ)、#7(IgG2aκ))。
【0082】
FITC捕捉#55の作成
1)PBS (pH6.8) に可溶化した精製#55抗体に対し、DMSOに溶解したFITCをモル比で約1:5になるように加えた。直ちに、予めPBS (pH6.8)で平衡化した脱塩用PD-10カラム(GE Healthcare Bio-Science Corp, NJ, USA)に供し、高分子量分画を分取した。直ちに1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH8.3)を0.5容量加え溶液を弱アルカリ性とした。遮光し1時間室温で放置した。分光光度計で波長280nmと495nmを測定し抗体1分子に対するFITC分子の結合数を計算式から導き出し、ほぼ抗体分子:FITC=1:2であることを確認した。本過程により、FITCに対する抗親和性抗体#55に結合したFITCが抗体との結合近傍で荷電しているアミノ酸と共有結合を形成しFITCを安定に結合し続けると考えた。
【0083】
FITC捕捉#55の免疫とHybridomaの作成
FITC捕捉#55(30μg/100μl in PBS)を同容量のアジュバントTiter Max Gold(CytRx Corp, GA, USA)でエマルジョンを作成し、Balb/c mouse(♀)7週齢に二週間毎に3回腹腔内に免疫した。さらにその二週間後同量のFITC捕捉#55(80μg/100μl in PBS)をアジュバント無しで腹腔内に免疫しその3日後、マウスより脾臓を摘出し脾細胞を分離し、常法に従い、マウスミエローマ細胞(P3U1)とポリエチレングリコールを用い融合し、HAT培地を細胞選択培地として96Wellプレート10枚に撒き込んだ(Fシリーズ)。
【0084】
抗体のAssay方法
14日後、各Wellの培養上清を採取し、(i)FITC標識BSAをELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレート(ii)FITC標識BSAをELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレートに#7抗体(1μg/ml in PBS)を100μl/Well 添加し4℃で一晩反応させ洗浄したプレート(iii)#7抗体(1μg/ml in PBS)を100μl/Well 添加しELISAプレートにコートしBSAでBlockingしたプレート、以上3種類のプレートを用いアッセイを行った。即ち、Hybridomaの培養上清を上記三種類のプレートに各々100μlのHybridomaの培養上清を供し2時間室温で静置する。プレートを洗浄後、HRP標識抗マウスIgG(ラットIgG非交差)(Jackson Laboratories) と1時間室温で反応後プレートを洗浄し、発色液TMB基質溶液(KPL社, MD, USA)を100μl添加し10分間反応後50μlの2N硫酸で発色を停止しプレートリーダーで450nmの波長を読み取った。
【0085】
結果の判定
(ii)と(iii)のプレートのODを比較し、いずれかに強く反応する抗体を産生するHybridomaを目的の抗体産生Hybridomaと判定した。適宜(i)のプレートを用いたAssayも行いBSAやBSA-FITCに反応しないことを確認した。
【0086】
上記の抗体のAssay方法により得られた結果を図1図10に示す。
【0087】
また、図中目的の抗体産生ウエルには、A(ドミノ抗体)又はS(開錠抗体)の数字で示した。 Lシリーズからは、6種類のドミノ抗体(L-1A〜6A)と3種類の開錠抗体(L-1S〜3S)、Fシリーズからは、1種のドミノ抗体(F-1A)の反応性を示すクローンが得られた。
【0088】
目的の抗体を産生するハイブリドーマのクローン化を行い得られたドミノ抗体(F-1A, L-6A)産生ハイブリドーマを2008年4月23日にATCCに寄託し、以下のATCC番号が付与された。
(1) Identification Reference by Depositor:Hybridoma Cell Line F-1A
ATCC Patent Deposit Designation:PTA-9167
(2) Identification Reference by Depositor:Hybridoma Cell Line L-6A
ATCC Patent Deposit Designation:PTA-9168
【実施例2】
【0089】
抗λ1軽鎖モノクローナル抗体の作製と解析
抗原抗体反応を検出する分子の開発を目的として、抗体の構造変化を認識するモノクローナル抗体(mAb)の作製を試みた。戦略として、ハプテンであるNP((4-Hydroxy-3-Nitrophenyl)Acetyl)に対して特異性を有するmAbをモデル抗体として選択した。SJLマウスはλ1軽鎖定常領域に存在する1塩基の変異により、血清中にλ1軽鎖がほとんど検出できないことから、λ1軽鎖を有する抗NP mAbをSJLマウスに免疫することで、λ1軽鎖をエピトープとして結合し、かつ、抗原抗体反応を検出できるmAbクローンの単離が可能であると考え試みた。抗NP mAbとしてアフィニティーが高いE11(IgG2a/λ1)を用い、NP14-CGGと3:1のモル比で混合し、抗体抗原複合体を形成させた状態で免疫した。詳細な免疫スケジュールを図11に示す。2週間おき、4回の免疫後に脾臓を摘出し、ミエローマ細胞SP2/0株と細胞融合することでハイブリドーマを作製した。有用なmAbを分泌するハイブリドーマのスクリーニングは培養上製を用いたELISAにより E11への結合能を指標に行った。
【0090】
得られたクローンのうち、抗体産生量の多いクローン#0806-12を大量培養し、E11をアガロースビーズに共有結合したカラムを用いてアフィニティー精製した。mAb#0806-12のエピトープを確認するために、E11の各Igドメイン(VH, CH1, CH2, CH3, VL, CLドメイン)を表面に発現する酵母株を作製し、ビオチン化した#0806-12とストレプトアビジン-PEにより酵母表面を染色し、FACSで解析したところ、CLドメインを発現した酵母株にのみ結合した。このことから、Ab#0806-12はλ1軽鎖定常領域をエピトープとして結合していることがわかる(図12)。
【0091】
目的の抗体を産生するハイブリドーマのクローン化を行い得られた解錠抗体(0806-12)産生ハイブリドーマを2009年4月16日にATCCに寄託し、以下のATCC番号が付与された。
Identification Reference by Depositor:Hybridoma Cell Line 0806-12
ATCC Patent Deposit Designation: PTA-9967
【0092】
mAb#0806-12が抗原抗体反応を検出できるかを、Biacoreを用いて解析した。精製したmAb#0806-12をBiacore CM5センサーチップ上にアミンカップリング法で約2000RU固定化し、抗NP mAbである9T13(IgG1 /λ1)との結合を調べた(図13)。その際に、抗原であるNP-Cap(1uM)、また、抗原ではないがNP-Capと構造が類似したDNP-Cap(1uM, 2,4-dinitrophenyl)と予め混合したサンプルを解析したところ、抗原抗体反応を起こしているサンプル(9T13 + NP-Cap)でのみ、RU値の著しい減少が見られた(サンプル注入180秒後で約1/6のRU値に減少)。
【0093】
以上の結果から、今回得られた抗λ1軽鎖モノクローナル抗体#0806-12は、λ1軽鎖を有する抗NP mAbに特異的に結合し、その抗NP mAbがNP抗原と結合した際には親和力が著しく減少することから、抗原抗体反応を識別することができると言える。
【産業上の利用可能性】
【0094】
A.抗原を認識している抗体を認識する抗体の応用例
1)測定方法の手段として
(i)バイオセンサー:微量抗原の検出(超高感度実現)
例えば、抗原を結合したマウス抗体のみを認識するラットモノクローナル抗体(A)が存在する。また、ラット抗体が抗原を認識した時にのみ反応するハムスターモノクローナル抗体(B)、このような連鎖反応が生じるように抗体の認識部位(Fc部分、軽鎖)や抗体の種を変えることにより組み立てることができる。つまり、非常に小さなシグナルを大きく増幅できることが考えられ高感度なセンサーを提供できる。
【0095】
(ii)洗浄不要のELISAとして
例えば抗原を認識する一次抗体に蛍光タンパク質CFPでラベルをし、例えば当該抗体を別の種類の蛍光タンパク質YFPでラベルする。抗原の存在する溶液に一定量の一次抗体と、当該抗体を添加すると、その抗原量に応じて蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence resonance energy transfer: FRET)が観察される。
【0096】
本測定法は、抗原の精製が不要、抗原のラベルが不要であり、抗原に反応する一次抗体が存在すれば、どのような測定にも応用が可能である。
【0097】
2)医薬品として
(i)抗体医薬品のUniversalなEnhancer抗体
すでに医薬品として認可実用されている医薬品抗体が、体内で抗原に結合して懸かるADCC反応やCDCC反応を惹起する際に本抗体がその反応を増強できる。たとえば、癌抗原を認識する抗体医薬品が投与されて、投与された抗体の一部が病巣部位に到達する。そこで、当該抗体を投与すると、本抗体は、病巣部において抗原と結合している医薬品抗体に反応して結合する。
【0098】
当該抗体には、抗がん剤や放射活性をラベルすることもでき広く抗体医薬品の増強剤として使用が可能である。本抗体は、当該抗体が反応しうるヒト抗体であるならば、抗体医薬品の種類を問わず増強剤として使用できる。また、抗原と結合した医薬品抗体にのみ反応するため過剰量の投与が生じても安全である。
【0099】
(ii)感染症時、担癌時に獲得される自然抗体の増強剤
異物(ウイルス、最近)の侵入に際して、また腫瘍の発症、増殖に際して少なからず生体は応答し、異物の排除や腫瘍の増殖の阻害を働きかける。つまり、十分ではないかもしれないが上記応答に際し、異物や腫瘍に対して抗体が産生されていると考えられる。そこで、異物や腫瘍細胞を補足している抗体を増強するために当該抗体を投与して生体の反応を補助することが可能である。つまり、上記(i)では、投与された医薬品抗体の増強であるがこの場合には、生体内の自然免疫力の増強として応用する、より有効なグロブリン製剤とも言える。
【0100】
3)医療器具として
(i)抗原抗体複合体除去カラム
当該抗体をカラムに固定化して用いることができる。ある種の疾患では、多量の免疫複合体が病気の進展に寄与していることが知られている(例えば、慢性関節リウマチ、SLEなど)。本抗体カラムは、体外循環カラムとして患者中の血液を循環させ抗原を結合した免疫複合抗体を除去することができる。また、免疫複合体に関与してない抗体は本カラムに吸着することなく体内に戻ることになる。即ち、病態を悪化させている原因の免疫複合体のみを除去できるのが特徴である。
【0101】
(ii)微量毒物除去カラム
上記(i)と同様に誤って体内に入った毒物を除去するために用いることができる。この場合、毒物に結合する抗体を準備しておく。この抗体が結合した時に反応する当該抗体をカラムに結合させる。毒物を除去する目的で毒物の混入した体内に毒物に結合する一次抗体を静脈注射する。直ちに、体外循環を開始する毒物に結合した抗体のみをカラムが効率的に除去する。
【0102】
また、抗体は無味無臭、容易に水に溶解するため水道、飲料水などに混入した毒物を取り除くために、飲料水に毒物に結合する一次抗体を滴下その後本抗体を固定化したFilterに通せば無毒化が可能である。
【0103】
同様な応用は空気中の毒物を除去することにも応用できる。
【0104】
B.抗原を認識していない抗体を認識する抗体(解錠抗体)の応用例として高い親和性を有する当該抗体は、抗体を認識している抗体から抗原を解離させる機能を有すると推定される。
【0105】
1)医薬品として
(i)抗アレルギー医薬品として
IgEが抗原に結合していない状態で強く反応する当該抗体を使用すれば、IgEが抗原であるアレルゲンを結合していても当該抗体が結合することによりIgE抗体から抗原が解離し、アレルゲン(抗原)を結合したIgEがアレルギー性の反応を惹起することを抑制することを可能にする。
【0106】
(ii)抗体医薬品共通の緊急用ショック対処抗体として
上記と同様の観点より、抗体を投与することにより生ずるショックの対処として、抗体が結合したことを解除したい場合がある。例えば、アゴニスト性の抗体投与により生じたTegeneroが英国で行った臨床試験のように今後開発され、臨床試験される抗体でまれにそのような事件が起きないとは限らない。当該抗体は、投与された抗体の抗原への結合を解除し、ショック症状からの離脱に効果を示すと考えられる。
【0107】
(iii)特異抗体の出現で惹起される病態治療薬
本適応も基本的に上記二点と同じである。上記A.3)(i)で行っている体外循環で除いている抗原抗体複合体を、当該抗体を体内に注射し体内で抗原と抗体の解離を行うものが挙げられる。
【受託番号】
【0108】
PTA-9167
PTA-9168
PTA-9967
【0109】
図1-L1】
図1-L2】
図2-L3】
図2-L4】
図3-L5】
図3-L6】
図4-L7】
図4-L8】
図5-L9】
図5-L10】
図6-F1】
図6-F2】
図7-F3】
図7-F4】
図8-F5】
図8-F6】
図9-F7】
図9-F8】
図10-F9】
図10-F10】
図11
図12
図13
図14
図15