(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
固体燃料電池セルの発電性能は、上述した電解質層自体のイオン伝導特性のみならず、電解質層を空気電極(アノード層)及び燃料電極(カソード層)で挟み込んだ膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の触媒反応性に左右される。例えば、電解質層と電極との界面の接合状態が膜電極接合体の触媒反応性すなわち固体燃料電池セルの発電性能へ影響を与える。このため、当技術分野においては、膜電極接合体の触媒反応性を向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面に係る膜電極接合体の製造方法は、真空排気された処理容器内で膜電極接合体を成膜する方法である。この製造方法は、大気に晒すことなく真空一貫で膜電極接合体を成膜する成膜工程を含む。膜電極接合体は、基板上にカソード層、電解質層及びアノード層、又は、アノード層、電解質層及びカソード層の順に成膜されて形成される。
【0006】
この製造方法によれば、電解質層のみならず、カソード層及びアノード層を含む膜電極接合体を真空排気された処理容器内で真空一貫で形成するため、電解質層とカソード層及びアノード層との界面を大気暴露に伴う酸化又は汚染から保護することができる。このため、膜電極接合体全体の抵抗損失を低減させることが可能となる。さらに、従来の製造方法である湿式法に比べて、例えば深さ方向への膜質の変更を容易にすることができるため、膜質の制御が容易でかつ薄膜化も可能となる。よって、膜電極接合体の触媒反応性を向上させることができる。
【0007】
ここで、成膜工程では、カソード層、電解質層及びアノード層から選択される少なくとも一つの層をプラズマCVDにより成膜してもよい。このように製造することで、カソード層、電解質層及びアノード層から選択される少なくとも一つの膜の膜厚制御及び組成制御を容易とすることができるため、例えば高性能な層を形成することができる。
【0008】
一実施形態においては、成膜工程では、処理容器、載置台、マイクロ波発生器、アンテナ、誘電体窓及び材料ガス供給部を備える成膜装置を用いてもよい。処理容器は、処理空間を画成する。載置台は、基板を載置する。アンテナはマイクロ波発生器によって発生されたマイクロ波を放射する。誘電体窓は処理空間とアンテナとの間に設けられている。材料ガス供給部は、カソード層、電解質層及びアノード層から選択される少なくとも一つの層を形成するための材料ガスを供給する。成膜工程では、基板を載置台に載置させ、ガス供給部からプラズマ励起用のガスを供給させ、アンテナからマイクロ波を放射させてプラズマを励起させ、材料ガス供給部から材料ガスを供給させて、材料ガスをプラズマにより反応させてカソード層、電解質層及びアノード層から選択される少なくとも一つの層を生成してもよい。このように製造することで、マイクロ波を用いて励起させた高密度・低電子温度のプラズマにより低ダメージでカソード層、電解質層及びアノード層から選択される少なくとも一つの層を成膜することができるので、膜質を向上させることが可能となる。
【0009】
一実施形態においては、電解質層を形成するための材料ガスは、CF
xを含むガス及びドープ材としてのSO
xを含むガスであってもよい。このように構成することで、マイクロ波を用いて励起させた高密度・低電子温度のプラズマにより、低抵抗界面および極薄膜の膜電極接合体を形成することができる。
【0010】
一実施形態においては、成膜工程では、成膜装置として、載置台にバイアス用の高周波電力を印加する高周波電源と、SO
xを含むドープガスを供給するドープガス供給部と、をさらに備えてもよい。そして、成膜工程では、カソード層、電解質層及びアノード層の何れかの層を積層した後に、高周波電源により載置台に高周波電力を印加するとともに、ガス供給部からプラズマ励起用のガスを供給させ、アンテナからマイクロ波を放射させてプラズマを励起させ、ドープガス供給部からドープガスを供給させ、ドープガス中の元素を高周波電力により載置台へ引き込むことにより最も表面に位置する層にドーピングを行ってもよい。
【0011】
一実施形態においては、成膜工程では、電解質層にSO
3−又はSO
2−をドーピングしてもよい。このように製造することで、水素イオンをより良好に伝導させる電解質層を形成することができる。
【0012】
一実施形態においては、アノード層又はカソード層を形成するための材料ガスは、C
xH
yを含むガスであってもよい。あるいは、一実施形態においては、アノード層又はカソード層を形成するための材料ガスとして、カーボンナノチューブを溶液に分散させた原料を用いてもよい。また、一実施形態においては、アモルファスカーボン膜にPt又はPtを含む有機原料もしくは無機原料をCVD法にて成膜することによってアノード層又はカソード層を形成してもよい。このように構成することで、マイクロ波を用いて励起させた高密度・低電子温度のプラズマにより、低抵抗界面および極薄膜の膜電極接合体水素イオンを形成することができる。
【0013】
さらに、一実施形態においては、アモルファスカーボン膜にPt又はPtを含む有機原料もしくは無機原料をPVD法にて成膜することによってアノード層又はカソード層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明の種々の側面及び実施形態によれば、膜電極接合体の触媒反応性を向上させることができる膜電極接合体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0017】
(第1実施形態)
図1は、一実施形態に係る製造方法で製造される膜電極接合体を含む燃料電池セル1の斜視図である。
図2は、
図1に示す燃料電池セル1のII−II線に沿った断面図である。燃料電池セル1は、水素イオン(プロトン)を伝搬させて発電を行うものである。
図1及び
図2に示す燃料電池セルは、例えば固体高分子型燃料電池として採用されるものであり、下部セパレータ2、下部電極層3a、下部触媒層3b、電解質層4、上部触媒層5b、上部電極層5a及び上部セパレータ6を備えている。
【0018】
下部セパレータ2は、略板状を呈し、第1主面及び第1主面に対向する第2主面を備えている。第1主面及び第2主面には、流体の流路となる溝が形成されている。第1主面に形成された溝は、第2主面に形成された溝が延びる方向と直交する方向に延びるように形成されている。
図1,2に示すように、下部セパレータ2は、その上面側に、酸素(空気)を流通させる溝2aが位置するように配置される。なお、溝2bは、燃料電池セル1の下方にセパレータ2を介して他の燃料電池セルを連結させる際に、他の燃料電池に供給される水素(燃料ガス)を流通させる流路として機能する。
【0019】
下部電極層3aは、下部セパレータ2上に形成されている。下部電極層3aは、電気伝導性を有する電極部材であり、アモルファス又は多孔質として形成されている。下部電極層3aは、下部触媒層3bに含まれる触媒の担体としても機能する。下部電極層3aとして、例えばアモルファスカーボンが用いられる。下部電極層3aは、例えば、厚さ約100nmである。
【0020】
下部触媒層3bは、下部電極層3a上に形成され、下部電極層3aと同様に形成される。なお、下部電極層3a及び下部触媒層3bがカソード層3として構成されてもよい。電解質層4は、カソード層3上に形成されている。電解質層4は、いわゆるイオン交換膜であり、ここでは水素イオンを後述するアノード層5側からカソード層3側へ伝導させる機能を有している。
【0021】
上部触媒層5b、上部電極層5a及び上部セパレータ6は、下部触媒層3b、下部電極層3a及び下部セパレータ2と同様に構成される。すなわち、上部触媒層5bは、燃料ガスをイオン化する触媒金属を含む。アノード層5は、上部触媒層5bを含んで構成される。アノード層5はさらに上部電極層5aを含んで構成されてもよい。上部セパレータ6の流路6bは、水素ガスを流通させる。上述したカソード層3、電解質層4及びアノード層5を備えて膜電極接合体7が構成される。膜電極接合体7は、後述の通り、大気に晒すことなく真空一貫で形成される。なお、燃料電池セル1は複数連結して構成してもよい。この場合、下部セパレータ2が上部セパレータ6を兼用する。
【0022】
上記構成を有する燃料電池セル1へ水素ガス及び空気が供給される。流路6bに供給された水素は、アノード層5でイオン化され、電解質層4を伝導してカソード層3へ到達する。このとき電子がアノード層5から取り出されて発電される。一方、流路2aに供給された空気中の酸素は、カソード層3において、電解質層4を伝導した水素イオンと化学反応して水が生成される。
【0023】
次に、燃料電池セル1の製造方法について説明する。
図3は、燃料電池セル1を製造するための成膜システムである。
図3に示すように、処理システム107は、搬入出部108、ロードロック室109、トランスファーチャンバ100、処理装置101〜106を備えている。処理システム107では、搬入出部108から、2つのロードロック室109を介して、基板をトランスファーチャンバ100に搬入出させ、トランスファーチャンバ100によって、各処理装置101〜106に対して基板を搬入出させるようになっている。処理システムに設ける処理装置の台数、配置は任意である。
【0024】
処理装置101〜106は、例えば、成膜装置として構成される。なお、処理装置101〜106には、成膜装置だけでなく、ドーピング装置又はエッチング装置が含まれてもよい。そして、処理装置101〜106は、アノード層を成膜するチャンバー、電解質層を成膜するチャンバー、カソード層を成膜するチャンバー、前処理チャンバー及び後処理チャンバーで構成されていてもよい。いずれのチャンバーも真空ポンプに接続された真空容器である。これらのチャンバーは真空搬送され、大気に暴露されることはない。また、どのチャンバーにもガス供給機能、圧力制御機能、成膜温度制御機能、基板吸着機能、プラズマ発生機構の何れかあるいは全てを搭載することが可能である。成膜装置は、例えばCVD装置が用いられる。すなわち、カソード層、電解質層及びアノード層から選択されるすくなくとも一つの層はプラズマCVDによって形成されてもよい。なお、場合によっては何れかのチャンバーを、スパッタ機能を持った成膜装置(PVD法による成膜装置)に変更することも可能である。
【0025】
以下では、CVD装置の詳細について説明する。
図4は、
図3の処理システムに含まれるCVD装置の一例である。ここでは、CVD装置としてラジアルラインスロットアンテナ(RLSA:Radial Line Slot Antenna)方式の平面アンテナ部材を用いた場合を一例として説明する。すなわち、表面波プラズマ(SWP:Surface Wave Plasma)を用いる場合である。
【0026】
図4に示すCVD装置10は、処理容器12、ステージ(載置台)14、マイクロ波発生器16、アンテナ18、及び誘電体窓20を備えている。
【0027】
処理容器12は、被処理基体Wにプラズマ処理を行うための処理空間Sを画成している。処理容器12は、側壁12a、及び、底部12bを含み得る。側壁12aは、軸線X方向(即ち、軸線Xの延在方向)に延在する略筒形状を有している。底部12bは、側壁12aの下端側に設けられている。底部12bには、排気用の排気孔12hが設けられている。側壁12aの上端部は開口している。
【0028】
側壁12aの上端部開口は、誘電体窓20によって閉じられている。この誘電体窓20と側壁12aの上端部との間にはOリング21が介在していてもよい。このOリング21により、処理容器12の密閉がより確実なものとなる。
【0029】
マイクロ波発生器16は、例えば、2.45GHzのマイクロ波を発生する。一実施形態においては、CVD装置10は、チューナ22、導波管24、モード変換器26、及び同軸導波管28を更に備えている。
【0030】
マイクロ波発生器16は、チューナ22を介して導波管24に接続されている。導波管24は、例えば、矩形導波管である。導波管24は、モード変換器26に接続されており、当該モード変換器26は、同軸導波管28の上端に接続されている。
【0031】
同軸導波管28は、軸線Xに沿って延びている。この同軸導波管28は、外側導体28a及び内側導体28bを含んでいる。外側導体28aは、軸線X方向に延びる略円筒形状を有している。内側導体28bは、外側導体28aの内部に設けられている。この内側導体28bは、軸線Xに沿って延びる略円筒形状を有している。
【0032】
マイクロ波発生器16によって発生されたマイクロ波は、チューナ22及び導波管24を介してモード変換器26に導波される。モード変換器26は、マイクロ波のモードを変換して、モード変換後のマイクロ波を同軸導波管28に供給する。同軸導波管28からのマイクロ波は、アンテナ18に供給される。
【0033】
アンテナ18は、マイクロ波発生器16によって発生されるマイクロ波に基づいて、プラズマ励起用のマイクロ波を放射する。アンテナ18は、スロット板30、誘電体板32、及び冷却ジャケット34を含み得る。
【0034】
スロット板30には、軸線Xを中心にして周方向に複数のスロットが配列されている。スロット板30は、ラジアルラインスロットアンテナを構成するスロット板であり得る。スロット板30は、導電性を有する金属製の円板から構成される。スロット板30には、複数のスロット対30aが形成されている。各スロット対30aは、互いに交差又は直交する方向に延びるスロット30bとスロット30cを含んでいる。複数のスロット対30aは、径方向に所定の間隔で配置されており、また、周方向に所定の間隔で配置されている。
【0035】
誘電体板32は、スロット板30と冷却ジャケット34の下側表面の間に設けられている。誘電体板32は、例えば石英製であり、略円板形状を有している。冷却ジャケット34の表面は、導電性を有し得る。冷却ジャケット34は、誘電体板32及びスロット板30を冷却する。そのために、冷却ジャケット34内には、冷媒用の流路が形成されている。この冷却ジャケット34の上部表面には、外側導体28aの下端が電気的に接続されている。また、内側導体28bの下端は、冷却ジャケット34及び誘電体板32の中央部分に形成された孔を通って、スロット板30に電気的に接続されている。
【0036】
同軸導波管28からのマイクロ波は、誘電体板32に伝播され、スロット板30のスロットから誘電体窓20を介して、処理空間S内に導入される。誘電体窓20は、略円板形状を有しており、例えば石英によって構成される。この誘電体窓20は、処理空間Sとアンテナ18との間に設けられており、一実施形態においては、軸線X方向においてアンテナ18の直下に設けられている。同軸導波管28の内側導体28bの内孔には、導管36が通っている。導管36は、軸線Xに沿って延在しており、ガス供給系40に接続され得る。
【0037】
ガス供給系40は、アルゴンガスを導管36に供給する。ガス供給系40は、ガス源40a、弁40b、及び流量制御器40cを含み得る。ガス源40aは、アルゴンガスのガス源である。弁40bは、ガス源40aからのアルゴンガスの供給及び供給停止を切り替える。流量制御器40cは、例えば、マスフローコントローラであり、ガス源40aからのアルゴンガスの流量を調整する。
【0038】
CVD装置10は、更に、インジェクタ41を更に備え得る。インジェクタ41は、導管36からのガスを誘電体窓20に形成された貫通孔20hに供給する。誘電体窓20の貫通孔20hに供給されたガスは、処理空間Sに供給される。以下の説明では、導管36、インジェクタ41、及び、貫通孔20hによって構成されるガス供給経路を、「中央ガス導入部」ということがある。
【0039】
CVD装置10は、ガス供給部42を更に備え得る。ガス供給部42は、ステージ14と誘電体窓20との間において、軸線Xの周囲からガスを処理空間Sに供給する。以下の説明では、ガス供給部42のことを、「周辺ガス導入部」ということがある。ガス供給部42は、導管42aを含み得る。導管42aは、誘電体窓20とステージ14との間において軸線Xを中心に環状に延在している。導管42aには、複数のガス供給孔42bが形成されている。複数のガス供給孔42bは、環状に配列されており、軸線Xに向けて開口しており、導管42aに供給されたガスを、軸線Xに向けて供給する。このガス供給部42は、導管46を介して、ガス供給系45に接続されている。
【0040】
材料ガス供給系(材料ガス供給部)44は、材料ガスをガス供給部42に供給する。材料ガス供給系44は、ガス源44a、弁44b、及び流量制御器44cを含み得る。ガス源44aは、材料ガスのガス源である。弁44bは、ガス源44aからのガスの供給及び供給停止を切り替える。流量制御器44cは、例えば、マスフローコントローラであり、ガス源44aからのガスの流量を調整する。材料ガスとしては、CFxガスが用いられる。あるいは、CF
x中の一部にSO
x結合をもつ原料を用いてもよい。すなわち、材料ガスは、CF
xを含むガス及びドープ材としてのSO
xを含むガスであってもよい。あるいは、材料ガスとしてカーボンナノチューブを溶液に分散させた原料を用いてもよい。
【0041】
ドープガス供給系(ドープガス供給部)45は、ドープガスをガス供給部42に供給する。ドープガス供給系45は、ガス源45a、弁45b、及び流量制御器45cを含み得る。ガス源45aは、ドープガスのガス源である。弁45bは、ガス源45aからのドープガスの供給及び供給停止を切り替える。流量制御器45cは、例えば、マスフローコントローラであり、ガス源45aからのドープガスの流量を調整する。例えば、電解質層用のドープガスとして、SO
xを含むガスが用いられる。あるいは、電解質層用のドープガスとして、H
2SO
4等を用いてもよい。
【0042】
ステージ14は、軸線X方向において誘電体窓20と対面するように設けられている。このステージ14は、誘電体窓20と当該ステージ14との間に処理空間Sを挟むように設けられている。ステージ14上には、被処理基体が載置される。一実施形態においては、ステージ14は、台14a、フォーカスリング14b、及び、静電チャック14cを含み得る。
【0043】
台14aは、筒状支持部48によって支持されている。筒状支持部48は、絶縁性の材料で構成されており、底部12bから垂直上方に延びている。また、筒状支持部48の外周には、導電性の筒状支持部50が設けられている。筒状支持部50は、筒状支持部48の外周に沿って処理容器12の底部12bから垂直上方に延びている。この筒状支持部50と側壁12aとの間には、環状の排気路51が形成されている。
【0044】
排気路51の上部には、複数の貫通孔が設けられた環状のバッフル板52が取り付けられている。排気孔12hの下部には排気管54を介して排気装置56が接続されている。排気装置56は、ターボ分子ポンプなどの真空ポンプを有している。排気装置56により、処理容器12内の処理空間Sを所望の真空度まで減圧することができる。
【0045】
台14aは、高周波電極を兼ねている。台14aには、マッチングユニット60及び給電棒62を介して、RFバイアス用の高周波電源58が電気的に接続されている。高周波電源58は、被処理基体Wに引き込むイオンのエネルギーを制御するのに適した一定の周波数、例えば、13.65MHzの高周波電力を所定のパワーで出力する。マッチングユニット60は、高周波電源58側のインピーダンスと、主に電極、プラズマ、処理容器12といった負荷側のインピーダンスとの間で整合をとるための整合器を収容している。この整合器の中に自己バイアス生成用のブロッキングコンデンサが含まれている。
【0046】
台14aの上面には、静電チャック14cが設けられている。静電チャック14cは、被処理基体Wを静電吸着力で保持する。静電チャック14cの径方向外側には、被処理基体Wの周囲を環状に囲むフォーカスリング14bが設けられている。静電チャック14cは、電極14d、絶縁膜14e、及び、絶縁膜14fを含んでいる。電極14dは、導電膜によって構成されており、絶縁膜14eと絶縁膜14fの間に設けられている。電極14dには、高圧の直流電源64がスイッチ66および被覆線68を介して電気的に接続されている。静電チャック14cは、直流電源64より印加される直流電圧により発生するクーロン力によって、被処理基体Wを吸着保持することができる。
【0047】
台14aの内部には、周方向に延びる環状の冷媒室14gが設けられている。この冷媒室14gには、チラーユニット(図示せず)より配管70,72を介して所定の温度の冷媒、例えば、冷却水が循環供給される。冷媒の温度によって静電チャック14cの伝熱ガス、例えば、Heガスがガス供給管74を介して静電チャック14cの上面と被処理基体Wの裏面との間に供給される。
【0048】
このように構成されたCVD装置10では、導管36及びインジェクタ41の貫通孔41hを介して、誘電体窓20の貫通孔20hから処理空間S内に軸線Xに沿ってガスが供給される。また、貫通孔20hよりも下方において、ガス供給部42から軸線Xに向けてガスが供給される。さらに、アンテナ18から誘電体窓20を介して処理空間S及び/又は貫通孔20h内にマイクロ波が導入される。これにより、処理空間S及び/又は貫通孔20hにおいてプラズマが発生する。このように、CVD装置10によれば、磁場を加えずに、プラズマを発生させることができる。
【0049】
以下、上述した処理システム107を用いた製造方法(成膜工程)の一実施形態について説明する。まず、アノード層を成膜するチャンバーにおいて、アノード層(アノード電極)を構成する。例えば、プラズマCVD法によって導電性の高いアモルファスカーボン膜を成膜し、その後、気化したPtを含む有機溶剤(有機原料)又は無機溶剤(無機原料)をアモルファスカーボン膜に付着させる。電極のアモルファスカーボンは、例えば、C
xH
y(CH
4、C
2H
4、C
2H
2、C
3H
6、C
3H
8又はC
4H
6等)の原料を選択して成膜してもよい。有機溶剤として、例えば、(CH
3)
3(CH
3C
5H
4)Pt、Pt(CF
3COCHCOCF
3)
2等が用いられる。このとき、有機溶剤に含まれるPtはプラズマCVD法で成膜してもよい。さらに有機溶剤中に含まれる有機物を取り除くために、例えば、H
2プラズマを照射し、不要な有機物を還元除去してもよい。あるいは、CVD法を使わずこれとは別のスパッタチャンバーでPtを成膜してもよい。これらの工程は、従来の湿式法と異なり、圧力や流量、時間などの制御パラメータを駆使し、膜の深さ方向に対して、いかようにも所望の膜厚や組成、構造を制御することができる。特に薄膜化が容易なため、従来大量に消費せざるを得なかった高価なPtの消費量を大幅に削減することができる安価な製造方法となる。なお、電極中におけるイオノマーとして、CF
x及びSO
xを含む膜をCVD法によってアノード電極カーボン膜に成膜、担持させる。イオノマーの成膜は、カーボン電極の成膜と同時に行ってもよいし、カーボン電極の成膜とイオノマーの成膜とを交互に行ってもよい。
【0050】
次にアノード層を成膜するチャンバーから電解質層を成膜するチャンバーへ移送し、電解質層を成膜する。チャンバー間を移送する経路も真空引き可能であるため、移送中であっても大気からの酸化や汚染が起きないことは言うまでもない。その結果、アノードと電解質間の抵抗は酸化等の劣化で増加することがなくなる。このチャンバーでは、例えば、プラズマCVD法にてアモルファスフロロカーボン膜を成膜する。電解質層のアモルファスフロロカーボンは、CF
4、C
2F
4、C
2F
6、C
3F
6、C
3F
8、C
4F
6、C
4F
8、C
5F
8、C
5F
10又はC
6F
6といったようなCとFを含むガスを用いて成膜してもよい。次にスルホン基(SO
3−)として機能するSO
2もしくはH
2SO
4などの原料をプラズマCVD法により、先に成膜したアモルファスフロロカーボン膜の終端部分に結合させる。この手法により、従来のNafion(登録商標)やFlemion(登録商標)に代表される高分子化成品と同等もしくはそれ以上の性能を持たせることができる。また、このプラズマCVD法はミクロン以上でしか作れないNafionやFlemionよりも数桁以上薄膜化することができるため、電界質の電気抵抗を大幅に下げることができる。
【0051】
次に電解質層を成膜するチャンバーからカソード層を成膜するチャンバーに移送し、カソードを成膜する。このチャンバーでは、アノード層を成膜するチャンバーとほぼ逆の工程を行う。まず、気化したPtを含む有機溶剤を先に成膜したアモルファスフロロカーボン膜上に付着させる。有機溶剤としては、上述したアノード層を成膜する際に用いられるものと同様のものが採用される。このとき、有機溶剤に含まれるPtはプラズマCVD法で成膜してもよいし、別のチャンバーに移送しスパッタ法で成膜してもよい。さらに有機溶剤に含まれる有機物を取り除くために、例えば、H
2プラズマを照射し、不要な有機物を還元除去する。その後、例えば、プラズマCVD法によって導電性の高いアモルファスカーボン膜を成膜する。なお、アノード電極と同様、カソード電極中にはイオノマーとして、CF
x及びSO
xを含む膜をCVD法によってカソード電極カーボン膜に成膜、担持させる。イオノマーの成膜は、カーボン電極の成膜と同時に行ってもよいし、カーボン電極の成膜とイオノマーの成膜とを交互に行ってもよい。
【0052】
このとき、アノード層およびカソード層の界面はPt表面を覆うようにスルホン基を含むアモルファスフロロカーボン膜が被覆される。これらの界面ではスルホン基を含むアモルファスフロロカーボン膜がイオノマーの役割を果たし、水素や酸素の透過を促し、Pt表面での触媒反応を促進させることができる。
【0053】
このようにして一度も大気に暴露されることのない真空一貫の工程で成膜することができ、従来の手法では得られなった低抵抗界面および極薄膜の膜電極接合体が構成される。
【0054】
以下では、上述した処理システム107を用いた製造方法(成膜工程)の詳細を説明する。
図5は、一実施形態に係る製造方法を示す流れ図である。
図5に示す製造方法では、まず、基板が搬入される。すなわち、基板が、搬入出部108、ロードロック室109、トランスファーチャンバ100を介して処理装置101へ搬入される(S10)。なお、基板は、下部セパレータ2であり、ここでは予め溝2a及び2bが形成されているものとする。
【0055】
次に、下部セパレータ2上に下部電極層3aを成膜する(S12)。例えば、処理装置101においてAr雰囲気中でプラズマ処理によって下部セパレータ2上にアモルファスカーボン膜を成膜する。例えば、電源のマイクロ波パワー2000W、C
4H
6ガスの流量200sccm、処理空間の圧力50mTorr(65Pa)、処理時間20秒で成膜する。
【0056】
次に、下部電極層3a上に下部触媒層3bを成膜する(S14)。例えば、処理装置101上で、Ptを含む有機もしくは無機材料をアモルファスカーボン膜に引き続き成膜する。例えば、マイクロ波パワー200W、Ptを含む原料の流量5sccm、処理空間の圧力100mTorr(130Pa)、処理時間20秒で成膜する。このとき、マイクロ波を使わず、単にガスを流すだけで吸着させてもよい。Pt材料を吸着させたのち、H
2プラズマを用いて、Pt有機物の還元除去を行う。このとき、例えば、マイクロ波パワー200W、Ptを含む原料の流量5sccm、処理空間の圧力100mTorr(130Pa)、処理時間20秒で処理する。また、Ptは上記手法でなくスパッタ法によって成膜してもよい。
【0057】
次に、下部触媒層3b上に電解質層4を成膜する(S16)。例えば、処理装置103が
図4に示すCVD装置であるとする。この場合、トランスファーチャンバ100を経由して、処理装置102から処理装置103へ処理体が搬送される。当該装置103においてRLSAによって励起されたプラズマを用いて、CF
x膜が成膜される。例えば、マイクロ波のパワー2000W、マイクロ波の周波数2.45GHz、高周波電源58の出力RFパワー0W、アルゴンガスの流量200sccm、CFxガスの流量200sccm、流量比(中央ガス導入部のガス流量:周辺ガス導入部のガス流量)1:1.5、処理空間Sの圧力60mTorr、処理時間30秒、処理空間Sの温度 上部:100℃、側壁12a内面:80℃、ステージ14の温度 中央:200℃、周縁部:200℃、ステージ14の冷媒温度:80℃で成膜する。なお、CF
x膜を積層後、ドープガスを導入してスルホン基をドーピングする。高周波電源58によりステージ14に高周波電力を印加するとともに、ガス供給部42からプラズマ励起用のガスを供給させ、アンテナ18からマイクロ波を放射させてプラズマを励起させ、ガス供給部42からドープガスを供給させ、ドープガス中の元素を高周波電力によりステージ14へ引き込むことにより最も表面に位置する層にドーピングを行う。例えば、高周波電源58の出力RFパワー300W、アルゴンガスの流量200sccm、SO
2ガスの流量50sccmでドーピングする。これにより、電解質層にSO
3−又はSO
2−がドーピングされる。
【0058】
次に、電解質層4上に上部触媒層5bを成膜する(S18)。例えば、トランスファーチャンバ100を経由して、処理装置103から処理装置102へ処理体が搬送される。当該装置102においてPtを含む有機材料を成膜する。成膜条件はS14と同様である。
【0059】
次に、上部触媒層5b上に上部電極層5aを成膜する(S20)。例えば、トランスファーチャンバ100を経由して、処理装置102から処理装置101へ処理体が搬送される。当該装置101においてAr雰囲気中でプラズマ処理によって上部触媒層5b上にアモルファスカーボン膜を成膜する。成膜条件はS12と同様である。
【0060】
次に、この膜電極接合体を搬出する(S22)。処理装置101から、トランスファーチャンバ100、ロードロック室109、搬入出部108を介して搬出される。S22の処理が終了すると
図5に示す制御処理を終了する。
【0061】
図5に示す製造方法によれば、電解質層4のみならず、カソード層3及びアノード層5を含む膜電極接合体7を真空排気された処理容器内で、大気に晒すことなく真空一貫で形成するため、電解質層4とカソード層3及びアノード層5との界面を整合性よく形成することができる。すなわち、ラフネスを低減させた界面を実現することが可能となる。このため、膜電極接合体7全体の抵抗損失が低減することができる。よって、膜電極接合体7の触媒反応性を向上させることが可能となる。
【0062】
また、電解質層4をプラズマCVDにより成膜することで、電解質層4の膜厚制御及び組成制御を容易とすることができるので、膜厚及び組成が均一な電解質層4を形成することが可能となる。また、プラズマCVDを用いることで、従来のように数十μm〜数百μmの電解質層ではなく、1μm以下の厚さで電解質層4を形成することができる。
【0063】
以上、種々の実施形態について説明したが、これら実施形態に限定されることなく、種々の変形態様を構成することが可能である。例えば、上述した実施形態では、S10の処理で、予め溝2a及び2bが形成されている下部セパレータ2を搬入する例を説明したが、エッチング装置等で溝2a及び2bを形成してもよい。また、予めアモルファスカーボン膜が形成されている下部セパレータ2及び上部セパレータ6を用いてもよい。この場合、S12及びS20の処理は不要となる。また、上述した実施形態では、1セルの製造方法を説明したが、上部セパレータ6を次の燃料電池セルの下部セパレータ2としてもよい。これにより、複数周期の燃料電池セルを真空一貫で形成することができる。また、上述した実施形態では、基板である下部セパレータ2上に、カソード層3、電解質層4、及びアノード層5の順で形成する例を説明したが、アノード層5、電解質層4、及びカソード層3の順で形成してもよい。