特許第5995641号(P5995641)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5995641光半導体装置用リードフレーム、光半導体装置用リードフレームの製造方法、および光半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5995641
(24)【登録日】2016年9月2日
(45)【発行日】2016年9月21日
(54)【発明の名称】光半導体装置用リードフレーム、光半導体装置用リードフレームの製造方法、および光半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/62 20100101AFI20160908BHJP
   H01L 33/60 20100101ALI20160908BHJP
【FI】
   H01L33/62
   H01L33/60
【請求項の数】16
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-225528(P2012-225528)
(22)【出願日】2012年10月10日
(65)【公開番号】特開2014-78605(P2014-78605A)
(43)【公開日】2014年5月1日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 良聡
(72)【発明者】
【氏名】中津川 達也
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−028757(JP,A)
【文献】 特開2012−033919(JP,A)
【文献】 特開平08−330497(JP,A)
【文献】 特開2012−9542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00−33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体の最表面の、少なくとも片面もしくは両面に、一部もしくは全面に銀または銀合金からなる反射層を具備してなり、前記導電性基体と前記反射層との間に少なくとも1層の下地層を具備してなる光半導体装置用リードフレームであって、
前記下地層は前記導電性基体が部分的に露出している基体露出部を有し、前記基体露出部において前記反射層と前記導電性基体が接していて、導電性基体の露出している割合が10〜98%であることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム。
【請求項2】
前記導電性基体は、銅、銅合金、鉄、鉄合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする、請求項1に記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項3】
前記下地層は、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム、ロジウム合金、ルテニウム、ルテニウム合金、イリジウム、イリジウム合金、オスミウムおよびオスミウム合金からなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項4】
前記下地層の厚さが0.001〜3μmであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項5】
前記反射層は、銀、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−ロジウム合金、銀−ルテニウム合金、銀−金合金、銀−パラジウム合金、銀−ニッケル合金、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金、または銀−白金合金であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項6】
前記反射層の厚さが、0.05〜1μmであることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1項に光半導体装置用リードフレーム。
【請求項7】
前記反射層の表面における波長450nmにおける光の反射率が、硫酸バリウム標準試料を100%としたときに対して90%以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項8】
前記反射層において、加熱試験後の反射率の低下割合が10%以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設け、その表面に銀または銀合金からなる反射層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層および反射層を減面することによって、前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層を減面することによって前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成し、さらにその表面に銀または銀合金からなる反射層を設けることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層を減面することによって前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成し、さらにその表面に銀または銀合金からなる反射層を設けた後、さらに塑性加工を施して前記下地層および反射層を減面することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設けた段階で導電性基体の露出箇所を形成し、その表面に銀または銀合金からなる反射層を設けることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項13】
請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法において、下地層および反射層の内のいずれか一層を電気めっき法で形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項14】
請求項9〜請求項12のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法において、下地層および反射層を電気めっき法で形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項15】
請求項9〜請求項11、請求項13及び請求項14のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法において、塑性加工が、圧延加工又はプレス加工であることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【請求項16】
光半導体素子と、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームとを具備してなる光半導体装置であって、前記光半導体装置用リードフレームの反射層が、基体の最表面であって少なくとも前記光半導体素子から発生する光を反射する領域に設けられたことを特徴とする光半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体装置用リードフレームとその製造方法、および光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体装置用リードフレームは、例えばLED(Light Emitting Diode)素子等の光半導体素子である発光素子を光源に利用した各種表示用・照明用光源の構成部材として広く利用されている。その光半導体装置は、例えば基板にリードフレームを配し、そのリードフレーム上に発光素子を搭載した後、熱、湿気、酸化等の外部要因による発光素子やその周辺部位の劣化を防止するため、発光素子とその周囲を樹脂で封止している。
【0003】
ところで、LED素子を照明用光源として用いる場合、リードフレームの反射材には可視光波長(例えば400〜800nm)の全領域において反射率が高い(例えば硫酸バリウムや酸化アルミニウムなどの基準物質に対する反射率が80%以上)ことが求められる。
【0004】
このような要求に応じて、LED素子が実装されるリードフレーム上には、特に可視光域の光反射率(以下、反射率という)の向上を目的として、銀(Ag)または銀合金からなる層(皮膜)が形成されているものが多い。銀の皮膜は、特に可視光域における反射率が高いことが知られており、具体的には、銀めっき層を反射面に形成すること(特許文献1)や、銀または銀合金皮膜形成後に200℃以上で30秒以上の熱処理を施し、当該皮膜の結晶粒径を0.5μm〜30μmとすること(特許文献2)等が知られている。
【0005】
一方、近年のLEDは高出力化に伴って投入する電流量が大きくなっており、LEDチップによる発熱により基体成分の拡散が問題となっている。このため、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)からなる中間層を形成することで、基体成分の拡散を抑制する下地層を形成することが知られており(例えば特許文献3)、Ni下地めっきを形成したLED用リードフレームが多く出現してきている。
【0006】
また、出願人は、基体上の最表面に銀または銀合金からなる反射層が電気めっき法等で形成された光半導体装置用リードフレームにおいて、前記反射層として、めっき層形成後に圧延加工等の塑性加工を施すことでめっき組織を潰して塑性変形された金属組織とすることによって、波長345nm〜355nm近傍の不要な吸収ピークを消滅させるかもしくは著しく抑制することができ、波長340〜400nmの近紫外域、および400〜800nmの可視光域における光の反射率に優れた半導体装置用リードフレームが得られることを見出した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61−148883号公報
【特許文献2】特許第4367457号公報
【特許文献3】特許第2915623号公報
【特許文献4】特開2012−028757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のような公知の技術にて、銀またはその合金皮膜を単純に形成しただけの場合、波長400nm〜800nmで75%以上、特に450nmの反射率は85%程度(後述の従来例1では85%であった)と高水準である。しかしながら、近年の光半導体装置、特にLEDのリードフレームに求められる反射率は、チップの発光効率がいまだ数10%程度であることから、これを極力効率的に活用すべく、より一層高い反射率レベル(例えば波長450nm以上で90%以上)のものが求められてきている。
【0009】
そこで、特許文献2のように、銀または銀合金の皮膜の結晶粒径を0.5μm〜30μmとすることで、可視光域の反射率を90%以上に高められた技術が開示されており、めっき厚の規定や粗度の規定、および結晶粒径を規定範囲に収めるために熱処理を施す等の手法が取られている。しかし、この手法を用いた場合、材料に熱処理が施されるため、銀表面の酸化が進行することで反射率の低下が懸念されていた。また、熱処理によって下地が銀表面にまで拡散して反射率の低下やワイヤボンディング性を劣化させる場合があった。さらに、Niを下地材料として導入したケースでは、熱処理を長期間実施した時にNi表面で剥離が生じるケースがあることが分かった。
【0010】
同様に、特許文献2および3を検討したところ、下地にニッケルやコバルト又はその合金の層を形成したリードフレームを使用すると、基体成分の拡散は抑制できるが、加熱後に銀又は銀合金のめっき皮膜層と下地層との間でめっき剥離が生じるケースがあることが分かった。その現象について鋭意調査した結果、銀又は銀合金のめっき皮膜中を酸素が透過して下地層の表面に酸化膜を形成し、その酸化膜により銀又は銀合金のめっき皮膜とニッケル層の密着性が低下し、剥離が生じてしまうことが明らかとなった。
【0011】
これに対し出願人は、特許文献4の段落0028〜0029記載のように、反射層と基体との間に中間層を用いて、圧延等の塑性加工を施すことも有効であることを開示している。しかし、この特許文献4に記載の技術に関してさらに詳細を追求した結果、中間層導入厚によっては中間層と反射層の界面で剥離が生じてしまう可能性があることが分かった。
【0012】
また、近年の貴金属相場の高騰により銀の価格変動も大きいため、LED用リードフレームに使用する銀使用量(被覆厚)を低減したいというニーズもある。しかしながら、銀厚を薄くすると基体成分が拡散により容易に表面に到達し、変色して輝度の維持(長期信頼性)が難しいという問題点がある。そこで、銀厚を薄くしても従来品と同等以上の長期信頼性を得る技術開発が望まれている。
【0013】
その一方、耐熱性を付与するために基体と反射層の間に中間層を導入するだけでは、中間層と反射層の界面で剥離が生じるため、単に中間層を形成するだけでは不十分である。また、曲げ半径Rが板厚tの1倍以下(R/t≦1)の曲げ加工を行うと、下地層に亀裂が進展し、その結果、反射層に割れが生じて基体が表面に露出してしまうことによって耐食性が劣化する等の問題が生じやすい。
【0014】
そこで、本発明は、LED・フォトカプラ・フォトインタラプタなどに使用される光半導体装置用リードフレームにおいて、近紫外域(波長340〜400nm)から可視光域(波長400〜800nm)において反射層厚が従来よりも薄い皮膜でも反射率が高く、特に長期信頼性(耐熱性)および反射層と下地層の密着性に優れ、さらには光半導体装置加工時に要求される曲げ加工性、特にR/t≦1でも反射層に割れの発生しにくい光半導体装置用リードフレームおよびその製造方法、さらにはこのリードフレームを用いた光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記問題に鑑み誠意検討を進めた結果、導電性基体上の最表面に銀または銀合金からなる反射層が形成された光半導体装置用リードフレームにおいて、導電性基体と該反射層との間に下地層が少なくとも1層以上形成されており、かつその下地層が導電性基体が部分的に露出している箇所を有することで、熱が加わっても基体成分の拡散を十分に防止できる結果、反射層厚を従来以上に薄く形成でき、また反射層は実質的に導電性基体と結合することで密着性に優れ、さらにあらかじめ基体露出部があることで、その露出部が曲げ加工時の起点となるため、健全に被覆されている場合よりも割れが発生しにくいため、曲げ加工性にも優れた光半導体装置用リードフレームが提供できることを見出し、この知見に基づき本発明を為すに至った。
【0016】
すなわち、上記課題は以下の手段により解決される。
(1)導電性基体の最表面の、少なくとも片面もしくは両面に、一部もしくは全面に銀または銀合金からなる反射層を具備してなり、前記導電性基体と前記反射層との間に少なくとも1層の下地層を具備してなる光半導体装置用リードフレームであって、
前記下地層は前記導電性基体が部分的に露出している基体露出部を有し、前記基体露出部において前記反射層と前記導電性基体が接していて、導電性基体の露出している割合が10〜98%であることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム。
(2)前記導電性基体は、銅、銅合金、鉄、鉄合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなることを特徴とする、(1)項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(3)前記下地層は、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム、ロジウム合金、ルテニウム、ルテニウム合金、イリジウム、イリジウム合金、オスミウムおよびオスミウム合金からなる群から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする、(1)または(2)項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(4)前記下地層の厚さが0.001〜3μmであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(5)前記反射層は、銀、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−ロジウム合金、銀−ルテニウム合金、銀−金合金、銀−パラジウム合金、銀−ニッケル合金、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金、または銀−白金合金であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(6)前記反射層の厚さが、0.05〜1μmであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に光半導体装置用リードフレーム。
(7)前記反射層の表面における波長450nmにおける光の反射率が、硫酸バリウム標準試料を100%としたときに対して90%以上であることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(8)前記反射層において、加熱試験後の反射率の低下割合が10%以下であることを特徴とする、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(9)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設け、その表面に銀または銀合金からなる反射層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層および反射層を減面することによって、前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(10)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層を減面することによって前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成し、さらにその表面に銀または銀合金からなる反射層を設けることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(11)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層を減面することによって前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成し、さらにその表面に銀または銀合金からなる反射層を設けた後、さらに塑性加工を施して前記下地層および反射層を減面することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(12)前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、導電性基体上に下地層を設けた段階で導電性基体の露出箇所を形成し、その表面に銀または銀合金からなる反射層を設けることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(13)前記(9)〜(12)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法において、下地層および反射層の内のいずれか一層を電気めっき法で形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(14)前記(9)〜(12)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法において、下地層および反射層を電気めっき法で形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(15)前記(9)〜(11)、(13)及び(14)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームの製造方法において、塑性加工が、圧延加工又はプレス加工であることを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(16)光半導体素子と、前記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームとを具備してなる光半導体装置であって、前記光半導体装置用リードフレームの反射層が、基体の最表面であって少なくとも前記光半導体素子から発生する光を反射する領域に設けられたことを特徴とする光半導体装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光半導体装置用リードフレームによれば、最表面に銀または銀合金からなる反射層が形成された光半導体装置用リードフレームにおいて、導電性基体と該反射層との間に下地層が少なくとも1層以上形成されており、かつその下地層には導電性基体が部分的に露出している箇所を有しているために、熱が加わっても下地層によって基体成分の表層への拡散が防止されるので、反射層厚を従来以上に薄く形成することが可能となる。このため、低コストで環境にも優しい光半導体装置用リードフレームを提供することができる。また反射層は、実質的に基体露出部と部分的に結合している箇所が形成されるため、下地層と反射層との界面剥離を生じにくくさせることができ、密着性に優れ、さらには、予め下地層に基体露出部があることで、その露出部が曲げ加工変形を容易にする起点となるため、健全に被覆されている場合よりも割れが発生しにくく、曲げ加工性にも優れた光半導体装置用リードフレームを提供することができる。
また、この光半導体装置用リードフレームを用いることにより、高輝度の光半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の光半導体装置用リードフレームの第1の実施形態を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の光半導体装置用リードフレームの第2の実施形態を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の光半導体装置用リードフレームの第3の実施形態を模式的に示す断面図である。
図4】後掲の発明例7における反射層剥離後の観察結果を示す。(a)は反射層剥離後の導電性基体が一部露出した下地層のSEM写真、(b)は(a)におけるNiめっき(下地層)のマッピング像、(c)は(a)における導電性基体であるCu−Sn系合金での銅のマッピング像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(基体露出割合)
本発明のリードフレームは、反射層となる銀または銀合金の層と導電性基体との間に下地層が形成されており、その下地層には、導電性基体を露出した箇所が所定の割合で部分的に存在している。この露出箇所を介して、反射層と導電性基体とが直接接することにより反射層と下地層の密着不良を改善し、下地層と反射層の界面における剥離を防止することが出来る。なお、導電性基体が露出している箇所の観察は、反射層の銀または銀合金を、例えばアグリップ940(商品名、メルテックス社製)等を使用して化学的に溶解した後、下地層の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察倍率例えば2000倍における定性分析により、下地層における導電性基体の露出割合を面積比で算出することで判断できる。導電性基体の露出している割合は、通常10〜98%であれば本発明の効果が認められ、好ましくは25〜95%、さらに好ましくは40〜80%である。
【0020】
(導電性基体)
また、本発明の光半導体装置用リードフレームは、導電性基体を銅、銅合金、鉄、鉄合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金とすることで、反射率特性がよくかつ皮膜を形成するのが容易であり、コストダウンにも寄与できる光半導体装置用リードフレームが提供できる。また、これらの金属または合金を基体とする光半導体装置用リードフレームは放熱特性に優れており、発光体が発光する際に発生する熱エネルギーを、光半導体装置用リードフレームを介してスムーズに外部に放出することができ、発光素子の長寿命化及び長期にわたる反射率特性の安定化が見込まれる。これは、導電性基体の導電率に依存するものであり、少なくともIACS(International Annealed Copper Standard)で10%IACS以上あるものが好ましく、50%IACS以上であるものがさらに好ましい。
【0021】
(下地層)
また、本発明の光半導体装置用リードフレームには、導電性基体と銀または銀合金からなる反射層との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウム、ロジウム合金、ルテニウム、ルテニウム合金、イリジウム、イリジウム合金、オスミウムおよびオスミウム合金からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる中間層を下地層として設ける。この下地層は、例えばめっきにより好適に形成される。この下地層は、特に耐熱性に優れ、被覆厚が薄くても導電性基体成分の拡散を十分に防止できる。なお、下地層の厚さの測定は、基体露出箇所があると厳密な測定は出来ないので、蛍光X線膜厚測定装置(例えば、SFT9400(商品名)、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)等を使用し、コリメータ径φ0.5mmで任意の10点測定した平均被覆厚を採用するものとする。下地層の被覆厚には特に制限はないが、導電性基体の露出容易性や製造コスト、さらにはプレス性・曲げ加工性などを考慮して、通常0.001〜3μm、好ましくは0.01〜1μm、さらに好ましくは0.02〜0.5μmの層厚で下地層を形成すればよい。
【0022】
(反射層)
また、本発明の光半導体装置用リードフレームにおける反射層を形成する銀または銀合金は、銀、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−ロジウム合金、銀−ルテニウム合金、銀−金合金、銀−パラジウム合金、銀−ニッケル合金、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金、及び銀−白金合金からなる群から選ばれた材料を用いることにより、反射率が良好で生産性の良い光半導体装置用リードフレームが得られる。特に銀、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−パラジウム合金、銀−セレン合金、または銀−アンチモン合金が反射率向上の観点から、反射層の材料としてより好ましい。この反射層は、例えばめっきにより好適に形成される。
【0023】
本発明において、耐熱性に優れた下地層を導入した効果として、従来被覆されていた反射層厚よりも薄い反射層で被覆しても、導電性基体の成分が表層まで拡散してくるのが遅いため、長期信頼性に優れる。その結果、反射層厚が0.05〜1μmという従来の1/3〜1/5の被覆厚でもよく、低コストで環境にやさしい光半導体装置用リードフレームを得ることが出来る。上記範囲で形成すれば耐熱性に関しては十分であるが、より長期信頼性を向上させるには反射層厚は0.2〜1μmがさらに好ましい。
【0024】
また、反射層は光の反射率に優れた層であり、前記成分からなる反射層を形成されていればよいが、反射率が波長450nmにおいて硫酸バリウム試験片を100%とした際に90%以上であることが好ましく、さらに好ましくは95%以上である。その結果、光半導体装置に組み込んだ際の光の取り出し効率が良くなり、光半導体装置の輝度が高められる。また、反射率の低下率が高温加速試験(例えば200℃で120時間保持)後で10%以内であることが好ましく、かつ、この保持後であっても下地層と反射層の界面で剥離が生じないと、長期信頼性に優れた光半導体装置用リードフレームとして有効であり、大変好ましい。
【0025】
(光半導体装置用リードフレームの製造方法の第一の実施形態:前記(9)項に対応)
本発明における一つの実施形態として、導電性基体に電気めっき法、無電解めっき法またはスパッタ法等で下地層を形成し、その表面に銀または銀合金からなる反射層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層および反射層を減面加工することによって、前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成させ、かつ反射層と露出した導電性基体とを密着させる方法が挙げられる。これは、導電性基体と下地層、さらには反射層が減面加工によって潰される工程において、導電性基体の変形量に下地層が完全に追従しないように制御し、あえて下地層に亀裂を導入して導電性基体の露出箇所を形成せしめるものである。同時に、反射層は、圧延加工等の塑性加工により塑性変形した金属組織をその最表面に有し、一方、導電性基体の一部が下地層を通して反射層に露出していて、当該導電性基体の一部は反射層に直接接している。ここで、塑性変形した金属組織は、本件技術分野で冶金学的に明らかである通り、鋳造組織とは相違し、また、めっきによって形成された変形前のめっき組織とも相違する。具体的には、通常めっき後には表面に微細な結晶が見られ、針状組織や球状粒子の析出状態等が見られる一方、例えばめっき後に圧延加工やプレス加工を施した後の表面状態は、圧延ロールのロール目やプレス金型表面に形成されている加工模様がリードフレーム側に転写されたような表面性状を呈しているため、例えば汎用的なSEMで観察倍率2000〜10000倍で表面観察を行うことで、明確に区別が可能である。
【0026】
さらに本発明におけるこの実施態様の前記リードフレームの製造方法によれば、近紫外光域の波長340〜400nmだけでなく、可視光域である波長400〜800nmにおいても、銀の反射率の物理的理論値に限りなく到達することが出来る。これは、反射率は例えばシリコンなどの鏡面基板にスパッタ法で純銀を形成された時の反射率が波長450nmで98%程度であるが、単純にめっきのみではどんなに光沢剤を使用しても容易に達成できない数値である。本発明者らは、めっき後に圧延加工等の塑性加工を施すことでめっき組織に塑性変形を生じさせ、めっき組織を潰すことで微細な凹凸を低減し、かつ結晶粒界を低減・消滅させたことにより、光の吸収現象を極限にまで低減せしめることができた結果、可視光域においても反射率を理論値に極限まで近づけられることを明らかにした。この結果、本発明によるリードフレームを使用することにより、従来の可視光域における光半導体装置でも優れた輝度が得られ、波長域400〜800nm、特に発光波長450nm付近の青色の発光素子を搭載する光半導体装置に好適に使用される。
【0027】
(光半導体装置用リードフレームの製造方法の第二の実施形態:前記(10)項に対応)
本発明のさらに別の実施形態として、導電性基体上に前記方法と同様に下地層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層を減面することによって前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成し、さらにその表面に銀または銀合金からなる反射層を設ける方法でもよい。この手法の場合は、反射層形成後に減面加工は施さないため、反射層は光沢度の高い、具体的には光沢度2.0以上の鏡面光沢めっきを所要の被覆厚で施すことで、耐熱性に優れ、反射率に優れた光半導体装置用リードフレームを得ることが出来る。本手法の場合は、反射層被覆後に減面加工を施す前記の場合よりも反射率は高くはならないが、下地層形成後の減面加工を平滑に行うことで、ほぼ同等レベルの反射率を達成することが出来る。特に、光沢銀めっきが好ましく、酸化セレンやセレノシアン酸カリウムを含有した高光沢を示す銀めっき液を使用し、被覆厚1μm以下で形成するのが好ましい。例えばこれら成分を含有し、かつ優れた高光沢を示す銀めっき液としては、常法の濃度で調合した無光沢銀めっき浴に、Ag−20(商品名、メタローテクノロジーズジャパン社製)や、アルグナET−P(商品名、ユミコアジャパン社製)などを添加して使用すればよい。
【0028】
(光半導体装置用リードフレームの製造方法の第三の実施形態:前記(11)項に対応)
なお、より一層の反射率向上を求める場合の本発明のまた別の実施形態として、導電性基体上に下地層を設けた後、塑性加工を施して前記下地層を減面することによって前記下地層に導電性基体の露出箇所を形成し、さらにその表面に銀または銀合金からなる反射層を設けた後、さらに塑性加工を施して前記下地層および反射層を減面して塑性変形された金属組織を形成されても良い。この方法であれば、反射層を形成する際に使用する銀めっき液に制限はなく、無光沢銀めっき液の使用も可能である。
【0029】
(光半導体装置用リードフレームの製造方法の第四の実施形態:前記(12)項に対応)
本発明のなお別の実施形態としては、減面加工を行わずに下地層に基体露出箇所を形成させてももちろん良い。例えば、下地層を湿式めっき法で形成する場合は、電流密度や攪拌条件、めっき液濃度等を調整し、不均一な下地めっき皮膜を形成し、この段階で導電性基体の露出箇所を形成しておいて、さらに最表層に光沢のある反射層を形成することで、容易に達成できる。例えば、めっき条件をいわゆる「ヤケめっき」と呼ばれる高電流密度条件にて形成することで、達成することができる。但し、工業的に容易に行うためには反射層の被覆厚が薄い領域で行うことが好ましい。
【0030】
また、ポーラスめっきを施して下地層を形成することでも達成でき、例えばトップポーラスニッケルRSN(商品名、奥野製薬工業社製)等を使用して下地層を形成し、この段階で導電性基体の露出箇所を形成しておいて、その上層に前記光沢銀めっきを施す方法であってもよい。これらのいずれにおいても、反射率と長期信頼性に優れた光半導体装置用リードフレームを提供することができる。
あるいは、下地層を薄いめっき被覆厚で設けたり、あるいは、高電流密度条件にて下地層を形成させたりすることによって、意図的にピンホールを形成して、導電性基体の露出箇所を形成させてもよい。
【0031】
(塑性加工或いは減面加工)
下地層形成後や反射層形成後に減面加工を行う場合は、圧延加工やプレス加工等の塑性加工で行うことが好ましい。(ここで、圧延加工とプレス加工を併せて圧延加工等と略記する。)この場合、圧延加工やプレス加工等の塑性加工時の加工率(または減面率)が、反射層として利用される箇所における部分において1%以上、好ましくは30%以上であることが好ましい。加工率が高いほど優れた反射特性が得られ、より高輝度なLED用リードフレームとなるが、一方、基体露出割合も増加する。なお、反射層形成後の圧延加工等の塑性加工時の加工率は、80%を超えると反射特性向上の効果が飽和するだけでなく、曲げ加工時の割れやクラックが生じやすくなることや、エネルギー負荷(圧延やプレスに必要な電力など)も増加するため、80%以下、好ましくは75%以下、さらに好ましくは55%以下であることが好ましい。
【0032】
なお「加工率」(または減面率)とは、「(加工前の板厚−加工後の板厚)×100/(加工前の板厚)」で示される割合(%)のことを示すものである。また、「反射層として利用される箇所」とは、光半導体モジュールを形成する際に発光部以外のところを樹脂モールドして光半導体モジュールを得ているが、その光半導体チップが光を発した際にリードフレームが露出している箇所であって光の反射現象が起こる部分を意味する。
【0033】
また減面加工を施す場合は、例えば圧延加工の場合、圧延工程を何回経ても構わないが、圧延回数が増えると生産性が悪くなるため、圧延回数は少ない方が好ましい。なお圧延機に関しては、例えば冷間圧延機によって行う。圧延加工機は、2段ロール、4段ロール、6段ロール、12段ロール、20段ロール等があるが、いずれの圧延加工機でも使用することができる。
圧延加工に用いる圧延ロールは、ロール目の転写によって形成されるリードフレーム側の反射率を向上させることを考慮すると、表面粗度の算術平均(Ra)で0.1μm未満であることが好ましい。
ここでは、塑性加工の代表例として、冷間圧延加工について説明したが、プレス加工(例えば、コイニング)の場合には、冷間圧延加工の場合と同様にして、塑性加工を施すことができる。プレス加工法の場合は、プレス圧力を0.1N/mm以上で圧力調整によって加工率を調整して塑性変形させることで達成できる。
【0034】
また、本発明の光半導体装置用リードフレームは、銀または銀合金からなる反射層の厚さを0.05μm以上と、従来の被覆厚以下でも反射率を安定して高めることができ、また、耐熱性に優れ、かつ基体露出部のある下地層が導入されているので、後工程であるワイヤーボンドや樹脂またはガラスでの封止などでの加熱による劣化を抑えることができる。なお、反射層の厚さの上限は、貴金属である銀の削減やめっき加工費などの点から、好ましくは2μm以下、さらに好ましくは1μm以下とするのがよい。下限よりも薄い場合(例えば、0.01μm)には、多少は耐熱性に優れるが、特に基体露出部において加熱による変色が発生する。このため、加熱による変色をより安定して防止するには、圧延加工等の塑性加工後の反射層の厚さは0.2μm以上がより好ましい。
【0035】
更に、要求される機械特性を制御するため、圧延加工等の塑性加工の後にバッチ型あるいは走間型などの手法によって熱処理(調質又は低温焼鈍ともいう)を施すことで、調質するとともに、結晶粒界で結晶粒同士の結合力を強化して粒界間隔をより狭くすることができるが、反射率を低下させない程度の熱処理に留める必要がある。
このような圧延加工等の塑性加工の後に施される熱処理の条件としては、特に制限されるものではないが、例えば、温度50〜150℃で、0.08〜3時間の熱処理を行うことが好ましい。この熱処理の温度が高すぎたり時間が長すぎたりすると熱履歴が過剰となり、反射率が低下してしまう。
【0036】
(部分被覆)
また、本発明における銀または銀合金からなる反射層は、少なくとも光の反射に寄与する部分(つまり、少なくとも光半導体素子が発する光を反射する領域)の最表面に形成されていればよい。他の部分においては、反射層を設ける必要はなく、また反射層以外の層が形成されていても、反射率の点からは特に問題はない。
【0037】
さらには、銀または銀合金からなる反射層は部分的に形成されていてもよく、片面めっきや、ストライプめっき、スポットめっきなどの部分めっきで形成し、その後圧延加工等の塑性加工により形成してもよい。反射層が部分的に形成されるリードフレームを製造することは、反射層が不要となる部分の金属使用量を削減できるので、環境負荷が少ないリードフレームを得ることができ、その結果環境負荷が少ない光半導体装置を得ることができる。
【0038】
以下、本発明の光半導体装置用リードフレームの実施の形態を、図面を用いて説明する。各図において、リードフレームに光半導体素子が搭載されている状態を示している。なお、各実施形態はあくまでも一例であり、本発明の範囲は各実施形態に限定されるものではない。また、図示した形態は説明に必要な限度で省略して示しており、寸法や具体的なリードフレームないしは素子の構造が図示したものに限定して解釈されるものではない。
【0039】
図1は、本発明に係る光半導体装置用リードフレームの第1の実施形態の概略断面図である。本実施形態のリードフレームは、導電性基体1上に銀または銀合金からなる反射層2が形成され、さらに、導電性基体1と反射層2との間に、下地層4が形成されている。反射層2の一部の表面上に光半導体素子3が搭載されている。さらにボンディングワイヤ5によって、破断部6(図中折れ線形状の領域として省略的に示している。)にて絶縁された他方のリードフレームと、光半導体素子3とが、電気的に接続されて回路が形成されている。本発明において、本実施形態のリードフレームは、下地層4は、導電性基体1が部分的に露出している箇所、基体露出部7を有している。このことにより、反射層2は、実質的に基体露出部7を通じて導電性基体1と部分的に結合している箇所が形成されるため、下地層4と反射層2との界面剥離を生じにくくさせることができ、密着性に優れる。更に、予め下地層4に基体露出部7があることで、その露出部が曲げ加工変形を容易にする起点となるため、健全に被覆されている場合よりも割れが発生しにくく、曲げ加工性にも優れた光半導体装置用リードフレームとなる。
【0040】
なお、導電性基体の露出している割合は、10〜98%であれば上記本発明の効果が認められ、好ましくは25〜95%、さらに好ましくは40〜80%である。模式図上はほぼ等間隔に導電性基体が露出しているようになっているが、不規則的に露出している箇所が形成されていても構わない。また、下地層への亀裂(基体露出部)の導入方法が塑性加工により導入される場合は、下地層4が全厚さないしは部分的な厚さで導電性基体1側に埋没する場合もある。この場合は、下地めっきでの凹凸が比較的平滑となるため、反射層2を光沢銀めっき等で形成する際はさらに有利となる。
【0041】
図2は、本発明に係る光半導体装置用リードフレームの第2の実施形態の概略断面図である。この実施形態では、光半導体素子3が搭載される側の片面のみに下地層4が形成されており、さらに光半導体素子3が搭載されない面の反射層厚は搭載面よりも薄く形成されている。このように、耐熱性が必要な搭載面のみ基体露出部7を持った下地層4が形成されていれば良く、また不要な非搭載面では銀または銀合金を薄化することで、低コストで環境に優しい光半導体装置用リードフレームが提供できる。さらに、より一層低コスト化のために、光半導体装置の反射領域として利用される箇所にのみ所望の被覆厚で反射層が形成されていれば良く、またその箇所にのみ基体露出部が形成された下地層が形成されていれば良いので、例えばストライプ状やスポット状にすることで、最も低コストで環境にやさしい光半導体装置用リードフレームが提供できる。
【0042】
図3は、本発明に係る光半導体装置用リードフレームの第3の実施形態の概略断面図である。図3は、封止樹脂8およびモールド樹脂9によって光半導体モジュールが形成されている様子を便宜的に示しており、光半導体素子3が搭載される部分と、その近傍である反射現象を起こす箇所と、モールド樹脂9の内部とにのみ反射層2が形成されている。本実施形態において、下地層4は基体1の全面に形成されているが、基体1と反射層2との間に介在する形態であれば、部分的に形成されていてもよい。また、モールド樹脂9の下部の途中まで反射層2が形成されているが、反射現象に寄与する部分である領域が覆われていれば良く、モールド樹脂9の外側まであるいはモールド樹脂内部のみが覆われている状態でもよい。
本発明においては、このように、光反射に寄与する部分にのみに銀または銀合金からなる反射層2を形成することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
厚さ0.5mm、幅180mmの表1に示す導電性基体に以下に示す前処理を行った後、表1に示す下地層と反射層をいずれも下記のめっきを施すことによって設けた。その後、下地層に基体露出部を形成させる手段として、下地層と反射層とを設けた基体に加工率50%の圧延加工(日立製作所製6段圧延機使用、ワークロールの算術平均粗さRa≒0.03μm)を施すことにより、本発明例および比較例の各光半導体装置用リードフレームを作製した。
また、従来例1と従来例2のめっき上がり品については、板厚0.25mm、幅180mmの表1に示す導電性基体に以下に示す前処理を行った後、表1に示す電気めっき処理を施すことで、リードフレームを作製した。また従来例3では、作製しためっき上がり品に残留酸素濃度500ppm以下の窒素雰囲気にて、300℃で5分間の熱処理を行って、結晶粒径を0.5〜30μmに調整したリードフレームを準備した。
なお、各被覆厚は蛍光X線膜厚測定装置(SFT−9400(商品名)、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)を使用し、コリメータ径0.5mmを使用して任意の箇所10点を測定し、その平均値を算出することで被覆厚とした。さらに基体露出割合は、アグリップ940(商品名、メルテックス社製)を使用して銀または銀合金を溶解し、それを走査電子顕微鏡(S−3000(商品名)、日立ハイテク社製)で観察倍率2000倍にて観察、さらに面分析(7021H(商品名)、堀場製作所社製)を実施し、基体成分(銅合金の場合は銅)をマッピング観察してその面積率を算出した。
導電性基体として用いた材料の内、「C14410(EFTEC−3、Cu−Sn系合金材料:Cu−0.15Sn)」、「C18045(EFTEC−64T、Cu−Cr−Sn−Zn系合金材料:Cu−0.3Cr−0.25Sn−0.5Zn)」、「C52100(リン青銅:Cu−8Sn−0.15P)」は銅合金の基体を表し、Cの後の数値はCDA(Copper Development Association)規格による種類を示す。なお、C14410合金のEFTEC−3(商品名)およびC18045合金のEFTEC−64T(商品名)は、それぞれ古河電気工業株式会社製の銅合金である。
なお、各基体に対しては電解脱脂・酸洗の工程による前処理を行った。また、それぞれ銀めっきを行う前に、銀ストライクめっきを行った。
【0045】
(前処理条件)
[カソード電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/リットル
脱脂条件:2.5A/dm、温度60℃、脱脂時間60秒
[酸洗]
酸洗液:10%硫酸
酸洗条件:30秒間浸漬、室温
[Agストライクめっき]
めっき液:KAg(CN) 4.45g/リットル、KCN 60g/リットル
めっき条件:電流密度 5A/dm、温度 25℃
【0046】
(下地めっき条件)
[Niめっき]
めっき液:Ni(SONH・4HO 500g/リットル、NiCl 30g/リットル、HBO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 5 A/dm、温度 50℃
[Coめっき]
めっき液:Co(SONH・4HO 500g/リットル、CoCl 30g/リットル、HBO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 5A/dm、温度 50℃
[Pdめっき]
めっき液:Pd(NHCl 45g/リットル、NHOH 90ミリリットル/リットル、(NHSO 50g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[Rhめっき]
めっき液:RHODEX(商品名、日本エレクトロプレイティングエンジニヤース(株)製)
めっき条件:1.3A/dm、温度 50℃
【0047】
(銀めっき条件)
[無光沢Agめっき]
めっき液:AgCN 50g/リットル、KCN 100g/リットル、KCO 30g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm、温度 30℃
[光沢Agめっき]
めっき液:AgCN 75g/リットル、KCN 120g/リットル、KCO 15g/リットル、添加剤(AG−20(商品名)、メタローテクノロジーズジャパン社製)20ミリリットル/リットル
めっき条件:電流密度 6A/dm、温度 30℃
【0048】
(1A)反射率測定:
分光光度計(V660(商品名、日本分光(株)製))において、硫酸バリウム標準試料として、皮膜形成後の全反射率を300nm〜800nmにかけて連続測定を実施した。この内、375nm、450nmおよび600nmにおける全反射率(%)を表1に示す。それぞれ波長375nmでの全反射率を85%以上、波長450nmでの全反射率を95%以上、波長600nmでの全反射率を97%以上であることを要求特性とした。
(1B)耐熱性:
200℃の温度で大気中にて熱処理を行った後、上記反射率測定を実施した。その結果について、波長450nmの全反射率を表1に示す。24時間後の全反射率を90%以上、48時間後の全反射率を85%以上、120時間後の全反射率を80%以上であることで、耐熱性に優れるレベルとした。
(1C)加熱後密着性:
300℃にて大気加熱を15分実施後に室温まで冷却し、2mm角にてNTカッターを用いてクロスカット後、テープ(#631S(商品名)、寺岡製作所社製)を使用して剥離試験(JISH8504:1999準拠)を行った。その際にめっきの剥離がないかどうかについて目視観察によって確認し、剥離が認められなかったものを「良」として「○」で、剥離が生じたものを「不良」として「×」で、それぞれ表1に示した。
(1D)曲げ加工性:
各試料について、曲げ加工半径R=0.25mm(R/t=1)にてV曲げ試験を圧延方向に対して直角方向に実施後、その頂上部をマイクロスコープ(VHX200(商品名)、キーエンス社製)にて観察倍率200倍で観察を行い、割れが認められなかったものを「優」として「○」で、軽微な割れが生じているものを「可」として「△」で、比較的大きな割れが生じたものを「不可」として「×」で、それぞれ表1に示した。前記の評価結果が「○」又は「△」だったものを合格とした。
【0049】
【表1】
【0050】
この結果、すべての本発明例が、要求特性である初期反射率、耐熱性(加熱後の反射率)、加熱後密着性、曲げ加工性のすべての特性に関して要求レベルを満足した。このことから、本発明によれば、反射率が高いため輝度が高く、耐熱性を備えるため長期信頼性に優れ、密着性も良好で曲げ加工性に優れた光半導体装置用リードフレームが提供できることが分かる。
【0051】
一方、従来例1は、下地層が設けられておらず、光沢銀めっきが3μm厚で被覆されているが、初期の反射率は優れているものの、耐熱性に劣るため、長期信頼瀬に関して不十分であることが分かる。
【0052】
また、下地層としてNiめっきを1μm形成後、光沢銀めっきを1μm被覆した従来例2のケースでは、下地層により基体が完全に覆われており、基体露出部が形成されていない。この場合は、初期反射率や耐熱性は優れているものの、加熱後密着性及び曲げ加工性に劣ることがわかる。同じNi被覆厚を構成する本発明例9および16では、密着性に優れ、曲げ加工性は軽微な割れでとどまっており、導電性基体を一部露出させたことによる密着性及び曲げ加工性の予想外の改善効果が得られたことがわかる。
【0053】
さらに、無光沢銀めっきを形成後に加熱処理で結晶粒径を大きくし、反射率を向上させる手法を金属リードフレームに適用した従来例3は、初期反射率が十分には高められておらず、加熱による酸化の影響が認められた。また、密着性および曲げ加工性は、従来例2と同様の結果を示しており、本発明例の方が優れた結果となっていることが分かる。
【0054】
さらに、下地層を設けなかった以外は同様にして得た比較例1〜3は、Ag被覆厚0.5〜3μmそれぞれで初期反射率は十分高いものの、耐熱性に関して劣っており、特に反射層厚3μmでも従来例1程ではないものの加熱後の反射率の低下が大きく、本発明例の方が優れる結果となっていることが分かる。
【0055】
なお、発明例7における反射層剥離後の観察結果を図4に示す。図4(a)は反射層剥離後の導電性基体が一部露出した下地層のSEM写真である。図4(b)は図4(a)におけるNiめっき(下地層)についての、EDX分析結果のマッピング像であり、Niの部分が着色されている。図4(c)は図4(a)における導電性基体であるCu−Sn系合金での銅についての、EDX分析結果のマッピング像であり、Cuの部分が着色されている。図4(b)および図4(c)に示したように、反射層を剥離した後にEDX分析を行うことで、導電性基体の露出状態を確認することができ、本例(発明例7)ではおよそ40%が下地層に露出した基体露出部である。
【0056】
(実施例2)
下記の表2に示す本発明例の各光半導体装置用リードフレームを作製した。
発明例101〜107の、塑性加工法として圧延を行うことによって下地層に亀裂、つまり基体露出部を設けた例では、幅180mmのEFTEC−3(前記商品名、古河電気工業株式会社製銅合金)の導電性基体において、最終仕上の厚さが0.25mmであって、この内、下地層についてはNiめっきを0.05μm、反射層についてはAgめっき1μmを被覆した光半導体装置用リードフレームを作製した。なお、圧延前の下地層および反射層の初期被覆厚は、圧延加工率を考慮して調整した。発明例101〜107においては、各めっき液や前処理条件、圧延機及び圧延ロールは、実施例1記載のものを用いた。
別に、発明例108〜110では、塑性加工を用いることなく基体露出部を形成する手法として、幅50mmのEFTEC−3(前記商品名、古河電気工業株式会社製銅合金)の導電性基体において、板厚0.25mm、下地層0.05μm、反射層は光沢銀めっきを1μm形成したものを準備した。なお、製造方法として、表2に簡便に記載した手順に従って光半導体装置用リードフレームを作製した。発明例108〜110においては、以下に挙げためっき液以外のめっき液や前処理条件は、実施例1記載のものを用いた。
【0057】
発明例108における下地ポーラスめっきとは、めっき液組成がNi(SONH・4HO 500g/リットル、NiCl 30g/リットル、HBO 30g/リットル、トップポーラスニッケルRSN(商品名、奥野製薬工業(株)製) 10ミリリットル/リットル、めっき条件が0.5A/dm、温度 50℃で作成した下地層である。
発明例109における下地ピンホール形成めっきとは、先述のニッケルめっき浴組成において、めっき電流密度を50A/dmにて作成した下地層である。
発明例110における下地層マスキング部分めっきとは、0.5mm間隔で碁盤目状にマスキングを施した後、先述のニッケルめっき条件にて作成した下地層である。
【0058】
なお、圧延加工率とは、初期板厚と最終板厚の差分を初期板厚で割った時の比率をパーセントで示したものである。さらに発明例107の板厚は、1回目の圧延後板厚が0.4mm、2回目(最終)の圧延後の板厚が0.25mmとなるように2段階で圧延加工した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示した結果から次のことがわかる。
発明例101〜103により、圧延加工率を高くするほど導電性基体の露出割合を高くすることが可能であることが分かる。これは、加工率が高いと導電性基体の塑性変形により移動する距離が大きくなるため、下地層がその距離に追従できずに基体露出部が増大するためである。一方、導電性基体の露出割合が大きくなると、加熱後の反射率の低下が徐々に大きくなっていることが分かる。このため、導電性基体の露出割合は、25〜95%が好ましく、40〜80%がさらに好ましい範囲である。
【0061】
さらに、発明例104〜106により、下地層を形成後に圧延加工にて基体露出部を形成後、反射層として光沢銀めっき層を形成することでも、初期反射率および耐熱性に優れた光半導体装置用リードフレームを提供することが可能であることが分かる。なお、圧延加工の回数は、1回でも構わないが、発明例107のように、複数回に分け、下地層形成後の圧延にて基体露出部を少量形成し、さらに無光沢銀めっきによる反射層の形成後に反射率を高めるための圧延を行って、高反射化を達成するとともに、より密着性を向上させるような工程を経ても構わない。
【0062】
一方、塑性加工を伴わずに基体露出部を形成する方法として、下地めっき自体がポーラスな発明例108、下地にピンホールを大量に導入する手法である発明例109、マスキングを施して、微細な下地露出部を形成させる発明例110などの手法を行って下地層を形成後、反射層として光沢銀めっきを被覆することでも、初期反射率および耐熱性に優れた光半導体装置用リードフレームを提供することが可能であることが分かる。これらの方法によれば、塑性加工工程が不要なため、その分煩雑な製造工程が不要となる。
【0063】
また、これらの塑性加工を伴わない手法は、ここでは示していないが、圧延に代えてプレスによって基体露出部を形成した後の導電性基体や曲げ加工が施された導電性基体にも適用することができ、高反射率でかつ耐熱性に優れ、また基体露出部形成効果により密着性が向上した光半導体装置用リードフレームが提供できることを確認した。
【符号の説明】
【0064】
1 導電性基体
2 反射層
3 光半導体素子
4 下地層(中間層)
5 ボンディングワイヤ
6 リードフレーム破断部
7 基体露出部
8 封止樹脂
9 モールド樹脂
図1
図2
図3
図4